特許第6872079号(P6872079)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6872079戦略的に取得されるグラジェントエコーイメージングのためのシステムおよび方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6872079
(24)【登録日】2021年4月20日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】戦略的に取得されるグラジェントエコーイメージングのためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20210510BHJP
【FI】
   A61B5/055 380
   A61B5/055 311
   A61B5/055ZDM
【請求項の数】20
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2020-527724(P2020-527724)
(86)(22)【出願日】2017年7月26日
(65)【公表番号】特表2020-530805(P2020-530805A)
(43)【公表日】2020年10月29日
(86)【国際出願番号】US2017043991
(87)【国際公開番号】WO2019022733
(87)【国際公開日】20190131
【審査請求日】2020年3月24日
(31)【優先権主張番号】15/659,353
(32)【優先日】2017年7月25日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520030132
【氏名又は名称】スピンテック インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【弁理士】
【氏名又は名称】那須 威夫
(72)【発明者】
【氏名】ハーケ イー マーク
【審査官】 後藤 順也
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0197105(US,A1)
【文献】 国際公開第2017/022136(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0247157(US,A1)
【文献】 Y De Deene et al.,Artefacts in multi-echo T2 imaging for high-precision gel dosimetry: II. Analysis of B1-field inhomogeneity,Phys Med Biol,2000年 7月,vol45, no.7,pp.1825-1839
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G01R 33/20−33/64
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気共鳴画像法(MRI)システムであって、
少なくとも一つのエコー時間を使用して解剖学的領域を撮像することにより第一のフリップ角に対応する第一の磁気共鳴(MR)データセットおよび第二のフリップ角に対応する第二のMRデータセットを取得するように構成されたMRIスキャナと、
少なくとも一つのプロセッサと、
メモリであって、そこに格納されたコンピュータコード命令を備え、前記少なくとも一つのプロセッサにより実行されると、前記コンピュータコード命令により前記少なくとも一つのプロセッサは、
前記第一のMRデータセット、前記第二のMRデータセット、および前記解剖学的領域内の送信無線周波数(RF)磁場に対する定数値を使用する前記解剖学的領域内の見かけ上の縦緩和時間(T1app)の空間分布を表すT1appマップを生成し、
前記解剖学的領域内の第一の組織タイプに関連付けられた縦緩和時間(T1)の第一の定数値に基づいて前記T1appマップをスケーリングすることにより第一の送信RF磁場マップを推定し、
前記解剖学的領域内の第二の組織タイプに関連付けられたT1の第二の定数値に基づいて前記T1appマップをスケーリングすることにより第二の送信RF磁場マップを推定し、
推定された第一の送信RF磁場マップおよび推定された第二の送信RF磁場マップを使用して前記解剖学的領域内の送信RF磁場の空間分布を表す第三の送信RF磁場マップを生成する、
メモリと、
を備える、MRIシステム。
【請求項2】
前記解剖学的領域が人間の脳であり、前記第一の組織タイプが白質であり、前記第二の組織タイプが灰白質である、請求項1に記載のMRIシステム。
【請求項3】
前記少なくとも一つのプロセッサにより実行されると、前記コンピュータコード命令により前記少なくとも一つのプロセッサがさらに、
前記解剖学的領域内の第三の組織タイプに関連付けられたT1の第三の定数値に基づいて前記T1appマップをスケーリングすることにより第四の送信RF磁場マップを推定し、
前記第三の送信RF磁場マップを生成することは、推定された第一の送信RF磁場マップ、前記された第二の送信RF磁場マップ、および推定された第四の送信RF磁場マップを使用することを含む、
請求項1に記載のMRIシステム。
【請求項4】
前記解剖学的領域が人間の脳であり、前記第一の組織タイプが白質であり、前記第二の組織タイプが灰白質であり、前記第三の組織タイプが脳脊髄液である、請求項3に記載のMRIシステム。
【請求項5】
前記少なくとも一つのプロセッサにより実行されると、前記コンピュータコード命令により前記少なくとも一つのプロセッサがさらに、
前記T1appマップを前記第三の送信RF磁場マップの二乗で除算することにより前記解剖学的領域内の前記T1の空間分布を表す第一の縦緩和時間(T1)マップを生成する、
請求項1に記載のMRIシステム。
【請求項6】
前記少なくとも一つのプロセッサにより実行されると、前記コンピュータコード命令により前記少なくとも一つのプロセッサがさらに、
前記第一のMRデータセット、前記第二のMRデータセット、および前記送信RF磁場に対する前記定数値を使用して前記解剖学的領域内の見かけ上のスピン密度(SDapp)の空間分布を表すSDappマップを生成し、
前記第三の送信RF磁場マップに基づいて前記SDappマップをスケーリングすることにより第一のスピン密度(SD)マップを生成し、
少なくとも前記第一の組織タイプに対応する前記解剖学的領域の第一の副領域と前記第二の組織タイプに対応する前記解剖学的領域の第二の副領域とが等強度であるように前記第三の送信RF磁場マップ、第一のT1マップ、および前記第一のSDマップを使用して第三のフリップ角に対応する第三のMRデータセットを合成し、
合成された第三のMRデータセットを使用して前記解剖学的領域内の受信RF磁場の空間分布を表す受信RF磁場マップを推定し、
推定された受信RF磁場マップに基づいて前記第一のSDマップをスケーリングすることにより第二のSDマップを生成する、
請求項1に記載のMRIシステム。
【請求項7】
前記少なくとも一つのプロセッサにより実行されると、前記コンピュータコード命令により前記少なくとも一つのプロセッサが、
複数の被験体に対する複数の送信RF磁場マップを推定し、
前記複数の被験体に対する推定された複数の送信RF磁場マップの平均化を使用して送信RF磁場テンプレートを生成する、
請求項1に記載のMRIシステム。
【請求項8】
前記少なくとも一つのプロセッサにより実行されると、前記コンピュータコード命令により前記少なくとも一つのプロセッサが、前記T1appマップおよび前記送信RF磁場テンプレートを使用して第二のT1マップを生成する、請求項7に記載のMRIシステム。
【請求項9】
前記少なくとも一つのプロセッサにより実行されると、前記コンピュータコード命令により前記少なくとも一つのプロセッサが、推定されたSDappマップ、前記送信RF磁場テンプレート、および推定された受信RF磁場マップを使用してスピン密度(SD)マップを生成する、請求項7に記載のMRIシステム。
【請求項10】
前記少なくとも一つのプロセッサにより実行されると、前記コンピュータコード命令により前記少なくとも一つのプロセッサが、
前記受信RF磁場マップに基づいて前記第一のMRデータセットをスケーリングし、
前記受信RF磁場マップに基づいて前記第二のMRデータセットをスケーリングし、
スケーリングされた第二のMRデータセットからのスケーリングされた第一のMRデータセットの加重減算を表す画像を生成する、
請求項6に記載のMRIシステム。
【請求項11】
前記少なくとも一つのプロセッサにより実行されると、前記コンピュータコード命令により前記少なくとも一つのプロセッサが、前記第二のMRデータセットからの前記第一のMRデータセットの加重減算を表す画像を生成する、請求項1に記載のMRIシステム。
【請求項12】
磁気共鳴画像法(MRI)のための方法であって、
少なくとも一つのプロセッサにより、第一のフリップ角に対応する第一の磁気共鳴(MR)データセットおよび第二のフリップ角に対応する第二のMRデータセットを受信することであって、前記第一のMRデータセットおよび前記第二のMRデータセットは少なくとも一つのエコー時間を使用して解剖学的領域を撮像することにより取得される、受信することと、
少なくとも一つのプロセッサにより、見かけ上の縦緩和時間(T1app)マップを
生成することであって、T1appマップは前記第一のMRデータセット、前記第二のMRデータセット、および前記解剖学的領域内の送信無線周波数(RF)磁場に対する定数値を使用して前記解剖学的領域内のT1appの空間分布を表す、生成することと、
前記少なくとも一つのプロセッサにより、縦緩和時間(T1)の第一の定数値に基づいて前記T1appマップをスケーリングすることにより第一の送信RF磁場マップを推定することであって、前記T1の第一の定数値は前記解剖学的領域内の第一の組織タイプに関連付けられる、推定することと、
前記少なくとも一つのプロセッサにより、T1の第二の定数値に基づいて前記T1appマップをスケーリングすることにより第二の送信RF磁場マップを推定することであって、前記T1の第二の定数値は前記解剖学的領域内の第二の組織タイプに関連付けられる、推定することと、
前記少なくとも一つのプロセッサにより、推定された第一の送信RF磁場マップおよび推定された第二の送信RF磁場マップを使用して第三の送信RF磁場マップを
生成することであって、前記第三の送信RF磁場マップは前記解剖学的領域内の前記送信RF磁場の空間分布を表す、生成することと、
を含む、方法。
【請求項13】
前記少なくとも一つのプロセッサにより、T1の第三の定数値に基づいて前記T1appマップをスケーリングすることにより第四の送信RF磁場マップを推定することであって、前記T1の第三の定数値は前記解剖学的領域内の第三の組織タイプに関連付けられる、推定すること、
をさらに含み、
前記第三の送信RF磁場マップを生成することは、推定された第一の送信RF磁場マップ、推定された第二の送信RF磁場マップ、および推定された第四の送信RF磁場マップを使用することを含む、
請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも一つのプロセッサにより、前記T1appマップを前記第三の送信RF磁場マップの二乗で除算することにより第一の縦緩和時間(T1)を生成することであって、第一のT1マップは前記解剖学的領域内のT1の空間分布を表す、生成すること、
をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも一つのプロセッサにより、前記第一のMRデータセット、前記第二のMRデータセット、および前記送信RF磁場に対する前記定数値を使用して見かけ上のスピン密度(SDapp)マップを生成することであって、前記SDappマップは前記解剖学的領域内のSDappの空間分布を表す、生成することと、
前記少なくとも一つのプロセッサにより、前記第三の送信RF磁場マップに基づいて前記SDappマップをスケーリングすることにより第一のスピン密度(SD)マップを生成することと、
前記少なくとも一つのプロセッサにより、少なくとも前記第一の組織タイプに対応する前記解剖学的領域の第一の副領域と前記第二の組織タイプに対応する前記解剖学的領域の第二の副領域とが等強度であるように、第三のRF磁場マップ、前記第一のT1マップ、および前記第一のSDマップを使用して第三のフリップ角に対応する第三のMRデータセットを合成することと、
前記少なくとも一つのプロセッサにより、合成された第三のMRデータセットを使用して受信RF磁場マップを推定することであって、前記受信RF磁場マップは前記解剖学的領域内の受信RF磁場の空間分布を表す、推定することと、
前記少なくとも一つのプロセッサにより、推定された受信RF磁場マップに基づいて前記第一のSDマップをスケーリングすることにより第二のSDマップを生成することと、
をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも一つのプロセッサにより、複数の被験体に対する複数の送信RF磁場マップを推定することと、
前記少なくとも一つのプロセッサにより、前記複数の被験体に対する推定された複数の送信RF磁場マップの平均化を使用して送信RF磁場テンプレートを生成することと、
をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記少なくとも一つのプロセッサにより、推定されたSDappマップ、前記送信RF磁場テンプレート、および推定された受信RF磁場マップを使用してスピン密度(SD)マップを生成すること、
をさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記少なくとも一つのプロセッサにより、前記T1appマップおよび前記送信RF磁場テンプレートを使用して第二のT1マップを生成すること、
をさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも一つのプロセッサにより、前記受信RF磁場マップに基づいて前記第一のMRデータセットをスケーリングすることと、
前記少なくとも一つのプロセッサにより、前記受信RF磁場マップに基づいて前記第二のMRデータセットをスケーリングすることと、
前記少なくとも一つのプロセッサにより、スケーリングされた第二のMRデータセットからのスケーリングされた第一のMRデータセットの加重減算を表す画像を生成することと、
をさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
非一時的なコンピュータ可読媒体であって、そこに格納されたコンピュータコード命令を備え、少なくとも一つのプロセッサにより実行されると、前記コンピュータコード命令により前記少なくとも一つのプロセッサは、
少なくとも一つのエコー時間を使用して解剖学的領域を撮像することにより取得される、第一のフリップ角に対応する第一の磁気共鳴(MR)データセットおよび第二のフリップ角に対応する第二のMRデータセットを受信し、
前記第一のMRデータセット、前記第二のMRデータセット、および前記解剖学的領域内の送信無線周波数(RF)磁場に対する定数値を使用する前記解剖学的領域内の見かけ上の縦緩和時間(T1app)の空間分布を表すT1appマップを生成し、
縦緩和時間(T1)の第一の定数値に基づいて前記T1appマップをスケーリングすることにより前記解剖学的領域内の第一の組織タイプに関連付けられた第一の送信RF磁場マップを推定し、
1の第二の定数値に基づいて前記T1appマップをスケーリングすることにより前記解剖学的領域内の第二の組織タイプに関連付けられた第二の送信RF磁場マップを推定し、
推定された第一の送信RF磁場マップおよび推定された第二の送信RF磁場マップを使用して前記解剖学的領域内の前記送信RF磁場の空間分布を表す第三の送信RF磁場マップを生成する、
非一時的なコンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は概して磁気共鳴画像法(MRI)の分野に関する。より具体的には、本開示は可変フリップ角(VFA)技術を使用した定量磁気共鳴画像法(qMRI)の方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴画像法(MRI)はスキャンされた関心対象の構造を再構成するために磁場を使用するイメージングモダリティである。MRIスキャナは0.10テスラ(T)から7Tの範囲の磁場のような強力な静磁場を生成するための磁石ならびにRF信号を送信および/または受信するための無線周波数(RF)トランシーバを含む。生成された静磁場に体が配置されると、体内の水素の陽子が磁場に沿って整列する。横磁場に残存するバルク磁化が存在するようにスピンを傾けるための振動B1磁場の存在下でRFパルスが印加される。RFパルスがオフにされると、縦成分が増加し、横成分が減少して水素の陽子は静磁場に沿った列に戻る。サンプリング時間、またはエコー時間、もしくはグラジェントエコー時間と呼ばれる選択された時点において、データが収集され、受信された信号がスキャンされた体またはその一部の画像を再構成するために使用される。本開示では、収集されたMRデータセットに基づいてMR画像を再構成するための様々なVFA技術が説明される。
【発明の概要】
【0003】
少なくとも一つの態様によると、磁気共鳴画像法(MRI)システムはMRIスキャナ、少なくとも一つのプロセッサ、およびそこに格納されたコンピュータコード命令を備えるメモリを含むことができる。MRIスキャナは少なくとも一つのエコー時間を使用して解剖学的領域を撮像することにより、第一のフリップ角に対応する第一の磁気共鳴(MR)データセットおよび第二のフリップ角に対応する第二のMRデータセットを取得するように構成することができる。コンピュータコード命令は少なくとも一つのプロセッサにより実行されると少なくとも一つのプロセッサに見かけ上の縦緩和時間(T1app)を生成させ、このT1appマップは第一のMRデータセットおよび第二のMRデータセットを使用する解剖学的領域内のT1appの空間分布を表している。少なくとも一つのプロセッサは縦緩和時間(T1)の第一の定数値に基づいてT1appマップをスケーリングする(scale)ことにより第一の送信RF磁場マップを推定することができる。T1の第一の定数値は解剖学的領域内の第一の組織タイプに関連付けることができる。少なくとも一つのプロセッサはT1の第二の定数値に基づいてT1appマップをスケーリングすることにより第二の送信RF磁場マップを推定することができる。T1の第二の定数値は解剖学的領域内の第二の組織タイプに関連付けることができる。プロセッサは推定された第一の送信RF磁場マップおよび推定された第二の送信RF磁場マップを使用して第三の送信RF磁場マップを生成することができる。第三の送信RF磁場マップは解剖学的領域内の送信RF磁場の空間分布を表すことができる。
【0004】
解剖学的領域は人間の脳とすることができ、第一の組織タイプは白質、第二の組織タイプは灰白質とすることができる。少なくとも一つのプロセッサはT1の第三の定数値に基づいてT1appマップをスケーリングすることにより第四の送信RF磁場マップを推定することができる。T1の第三の定数値は解剖学的領域内の第三の組織タイプに関連付けることができる。第三の送信RF磁場マップを生成することは、推定された第一の送信RF磁場マップ、推定された第二の送信RF磁場マップ、および推定された第四の送信RF磁場マップを使用することを含むことができる。解剖学的領域は人間の脳とすることができ、第一の組織タイプは白質、第二の組織タイプは灰白質、第三の組織タイプは脳脊髄液とすることができる。少なくとも一つのプロセッサはT1appマップを第三の送信RF磁場マップの二乗で除算することにより第一の縦緩和時間(T1)マップを生成することができる。第一のT1マップは解剖学的領域内のT1の空間分布を表すことができる。
【0005】
少なくとも一つのプロセッサは第一のMRデータセットおよび第二のMRデータセットを使用して見かけ上のスピン密度(SDapp)マップを生成することができる。SDappマップは解剖学的領域内のSDappの空間分布を表すことができる。少なくとも一つのプロセッサは第三の送信RF磁場マップに基づいてSDappマップをスケーリングすることにより第一のスピン密度(SD)マップを生成することができる。少なくとも一つのプロセッサは、少なくとも第一の組織タイプに対応する解剖学的領域の第一の副領域と第二の組織タイプに対応する解剖学的領域の第二の副領域とが等強度であるように、第三の送信RF磁場マップ、第一のT1マップ、および第一のSDマップを使用して第三のフリップ角に対応する第三のMRデータセットを合成することができる。少なくとも一つのプロセッサは合成された第三のMRデータセットを使用して受信RF磁場マップを推定することができる。受信RF磁場マップは解剖学的領域内の受信RF磁場の空間分布を表すことができる。少なくとも一つのプロセッサは推定された受信RF磁場マップに基づいて第一のSDマップをスケーリングすることにより第二のSDマップを生成することができる。
【0006】
少なくとも一つのプロセッサは受信RF磁場マップに基づいて第一のMRデータセットをスケーリングし、受信MRデータセットに基づいて第二のMRデータセットをスケーリングし、スケーリングされた第二のMRデータセットからのスケーリングされた第一のMRデータセットの加重減算を表す画像を生成することができる。少なくとも一つのプロセッサは第二のMRデータセットからの第一のMRデータセットの加重減算を表す画像を生成することができる。
【0007】
少なくとも一つのプロセッサは複数の被験体に対する複数の送信RF磁場マップを推定し、複数の被験体に対する推定された複数の送信RF磁場マップの平均化を使用して送信RF磁場テンプレートを生成することができる。少なくとも一つのプロセッサはT1appマップおよび送信RF磁場テンプレートを使用して第二のT1マップを生成することができる。少なくとも一つのプロセッサは推定されたSDappマップ、送信RF磁場テンプレート、および推定された受信RF磁場マップを使用してスピン密度(SD)マップを生成することができる。
【0008】
少なくとも一つの態様によると、磁気共鳴画像法(MRI)のための方法は第一のフリップ角に対応する第一の磁気共鳴(MR)データセットおよび第二のフリップ角に対応する第二のMRデータセットを受信する少なくとも一つのプロセッサを含むことができる。第一のMRデータセットおよび第二のMRデータセットは少なくとも一つのエコー時間を使用して解剖学的領域を撮像することにより取得することができる。本方法は見かけ上の縦緩和時間(T1app)マップを生成する少なくとも一つのプロセッサを含むことができ、T1appマップは解剖学的領域内の第一のMRデータセットおよび第二のMRデータセットを使用する解剖学的領域内のT1appの空間分布を表している。本方法は縦緩和時間(T1)の第一の定数値に基づいてT1appマップをスケーリングすることにより第一の送信RF磁場マップを推定する少なくとも一つのプロセッサを含むことができる。T1の第一の定数値は解剖学的領域内の第一の組織タイプに関連付けることができる。本方法はT1の第二の定数値に基づいてT1appマップをスケーリングすることにより第二の送信RF磁場マップを推定する少なくとも一つのプロセッサを含むことができる。T1の第二の定数値は解剖学的領域内の第二の組織タイプに関連付けることができる。本方法は推定された第一の送信RF磁場マップおよび推定された第二の送信RF磁場マップを使用して第三の送信RF磁場マップを生成する少なくとも一つのプロセッサを含むことができる。第三の送信RF磁場マップは解剖学的領域内の送信RF磁場の空間分布を表すことができる。
【0009】
本方法はT1の第三の定数値に基づいてT1appマップをスケーリングすることにより第四の送信RF磁場マップを推定する少なくとも一つのプロセッサをさらに含むことができる。T1の第三の定数値は解剖学的領域内の第三の組織タイプに関連付けることができる。第三の送信RF磁場マップを生成することは、推定された第一の送信RF磁場マップ、推定された第二の送信RF磁場マップ、および推定された第四の送信RF磁場マップを使用することを含むことができる。解剖学的領域は人間の脳とすることができ、第一の組織タイプは白質、第二の組織タイプは灰白質、第三の組織タイプは脳脊髄液とすることができる。本方法はT1appマップを第三の送信RF磁場マップの二乗で除算することにより第一の縦緩和時間(T1)マップを生成する少なくとも一つのプロセッサをさらに含むことができる。第一のT1マップは解剖学的領域内のT1の空間分布を表すことができる。
【0010】
本方法は第一のMRデータセットおよび第二のMRデータセットを使用して見かけ上のスピン密度(SDapp)マップを生成する少なくとも一つのプロセッサをさらに含むことができる。SDappマップは解剖学的領域内のSDappの空間分布を表すことができる。少なくとも一つのプロセッサは第三の送信RF磁場マップに基づいてSDappマップをスケーリングすることにより第一のスピン密度(SD)マップを生成することができる。少なくとも一つのプロセッサは、少なくとも第一の組織タイプに対応する解剖学的領域の第一の副領域と第二の組織タイプに対応する解剖学的領域の第二の副領域とが等強度であるように、第三の送信RF磁場マップ、第一のT1マップ、および第一のSDマップを使用して第三のフリップ角に対応する第三のMRデータセットを合成することができる。少なくとも一つのプロセッサは合成された第三のMRデータセットを使用して受信RF磁場マップを推定することができる。受信RF磁場マップは解剖学的領域内の受信RF磁場の空間分布を表すことができる。少なくとも一つのプロセッサは推定された受信RF磁場マップに基づいて第一のSDマップをスケーリングすることにより第二のSDマップを生成することができる。
【0011】
本方法は受信RF磁場マップに基づいて第一のMRデータセットをスケーリングし、受信MRデータセットに基づいて第二のMRデータセットをスケーリングし、スケーリングされた第二のMRデータセットからのスケーリングされた第一のMRデータセットの加重減算を表す画像を生成する少なくとも一つのプロセッサをさらに含むことができる。本方法は第二のMRデータセットからの第一のMRデータセットの加重減算を表す画像を生成する少なくとも一つのプロセッサをさらに含むことができる。
【0012】
本方法は複数の被験体に対する複数の送信RF磁場マップを推定し、複数の被験体に対する推定された複数の送信RF磁場マップの平均化を使用して送信RF磁場テンプレートを生成する少なくとも一つのプロセッサをさらに含むことができる。本方法はT1appマップおよび送信RF磁場テンプレートを使用して第二のT1マップを生成する少なくとも一つのプロセッサをさらに含むことができる。本方法は推定されたSDappマップ、送信RF磁場テンプレート、および推定された受信RF磁場マップを使用してスピン密度(SD)マップを生成する少なくとも一つのプロセッサをさらに含むことができる。
【0013】
少なくとも一つの態様によると、コンピュータ可読媒体はそれに格納されたコンピュータコード命令を含む。コンピュータコード命令は少なくとも一つのプロセッサにより実行されると磁気共鳴画像法(MRI)のための方法を実行させる。本方法は第一のフリップ角に対応する第一の磁気共鳴(MR)データセットおよび第二のフリップ角に対応する第二のMRデータセットを受信する少なくとも一つのプロセッサを含むことができる。第一のMRデータセットおよび第二のMRデータセットは少なくとも一つのエコー時間を使用して解剖学的領域を撮像することにより取得することができる。本方法は見かけ上の縦緩和時間(T1app)マップを生成する少なくとも一つのプロセッサを含むことができ、T1appマップは第一のMRデータセット、第二のMRデータセット、および解剖学的領域内の送信無線周波数(RF)磁場に対する定数値を使用する解剖学的領域内のT1appの空間分布を表す。本方法は縦緩和時間(T1)の第一の定数値に基づいてT1appマップをスケーリングすることにより第一の送信RF磁場マップを推定する少なくとも一つのプロセッサを含むことができる。T1の第一の定数値は解剖学的領域内の第一の組織タイプに関連付けることができる。本方法はT1の第二の定数値に基づいてT1appマップをスケーリングすることにより第二の送信RF磁場マップを推定する少なくとも一つのプロセッサを含むことができる。T1の第二の定数値は解剖学的領域内の第二の組織タイプに関連付けることができる。本方法は推定された第一の送信RF磁場マップおよび推定された第二の送信RF磁場マップを使用して第三の送信RF磁場マップを生成する少なくとも一つのプロセッサを含むことができる。第三の送信RF磁場マップは解剖学的領域内の送信RF磁場の空間分布を表すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の発明概念による、磁気共鳴画像法(MRI)システムを例示するブロック図である。
図2】本開示の発明概念による、磁気共鳴画像法(MRI)のための方法200を例示するフローチャートである。
図3A-3B】二つの異なるフリップ角に対応する脳の二つのMR画像を示す。
図4A-4B】図4Aは、見かけ上の縦緩和時間(T1app)マップの例を描写する画像を示し、図4Bは、図4Aに示されるT1appマップを使用して生成される送信RF磁場(B1t)マップの第一の推定の画像を示す。
図5A-5B】白質および灰白質に対するマスクを表す画像を示す。
図6A】解剖学的領域内の線におけるB1tの第一の推定およびB1tの第二の推定のプロットを示す。
図6B】ローカル二次フィッティングを用いた場合と用いない場合の統合されたB1tマップに関連付けられたプロットを示す。
図7A-7B】統合されたB1tマップの例および統合されたB1tマップにローカル二次フィッティングを適用した後に得られるB1tマップの例を例示する画像を示す。
図8A-8C】それぞれT1マップの推定、見かけ上のスピン密度(SDapp)マップの推定、およびスピン密度(SD)マップの推定の例を例示する画像を示す。
図9】FAの範囲にわたる異なる組織タイプに対応する信号の例を示す。
図10A-10C】それぞれ合成されたMRデータセットの例、受信RF磁場の例、およびスケーリングされたスピン密度マップの例を例示する画像を示す。
図11】B1tおよびB1rマップに対する脳テンプレートの例を示す。
図12A-12B】スケーリングされたMRデータセットおよび減算MR画像を例示する画像を示す。
図12C-12D】スケーリングされたMRデータセットおよび減算MR画像を例示する画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
定量磁気共鳴画像法(qMRI)は異なるタイプの組織間を区別するため、または異常な組織を識別するために信号強度または相対信号強度を測定および/または使用することを含む。組織特性を定量化することにより、正常および異常な組織タイプの区分および分類の両方をするための方法を開発することがより容易になる。定量スピン密度(SD)、縦緩和時間(T1)、横磁化減衰レート(T2*)、および定量磁化率マッピング(QSM)の使用は、今日、重要な臨床での用途を有する。例えば、定量T1イメージングは心臓血管イメージングにおけるアテローム性動脈硬化、腫瘍、脳卒中、および多発性硬化症の研究において潜在的な実用性を有する。また、定量SDマッピングは浮腫および治療後の組織水分量の変化を研究するために重要な役割を果たし、また使用されている。一般に、このタイプの組織定量化によってより厳密な方法での治療に対する組織の応答を追跡することが可能になる。
【0016】
定量T1イメージングおよび定量SDマッピングは可変フリップ角(VFA)技術を使用して達成することができる。VFA法を使用することは複数の異なるフリップ角に対するMRデータの取得を含む。具体的には、MRIスキャナは異なる名目上のフリップ角を有する複数の損なわれたグラジェントエコーデータセットを取得し、T1および/またはSDを適切に定量化するために取得されたデータセットを使用することができる。VFA技術がMRデータ収集の容易さにより特徴付けられる一方で、VFAベースの技術は位置の関数として無線周波数(RF)励起(または送信)磁場(B1t)またはフリップ角(FA)の正確な情報を要求する。実際には、VFAデータセットに基づいてT1マップを正確に計算するための能力は送信RF磁場(B1t)マップの空間分布の正確な情報に依存する。また、SDマップの再構成には受信RF磁場(B1r)マップの使用を含む。いくつかの実施形態では、MRIスキャナまたは各プロセッサは例えば他の二つのフリップ角(FA)と比較される相対的に大きなFAに関連付けられたデータセットを含む少なくとも三つの異なるフリップ角に対して取得されたデータセットを使用することにより送信RF磁場B1tを算出することができる。三未満のFAまたは相対的に小さなFAに対応するデータセットを使用することより不適切に送信RF磁場(B1t)を再構成する問題が生じる可能性があり、またその問題の不適切さを改善するために追加の制約が要求される可能性がある。不適切さに対処するためのこのような制約の例は胸部イメージングに対するB1t磁場分布を決定するために脂肪等の単一の組織を使用すること、または白質もしくは灰白質に対するT1とSDとの間の関係に制約を使用することを含むことができる。
【0017】
本開示では、改善された画像品質および定量データを用いる戦略的に取得されたグラジェントエコー(STAGE)イメージングのための方法およびシステムが開示される。STAGEイメージングにより二つのFAに対応する取得されたデータセットを使用した包括的で迅速なイメージングが可能になる。また、本明細書に記載のSTAGEイメージングのためのシステムおよび方法によりT1およびSDマップの信頼性が高く正確な再構成が可能になる。
【0018】
図1は本開示の発明概念による、磁気共鳴画像法(MRI)システム100を例示するブロック図である。概要では、MRIシステム100はMRIスキャナ102、プロセッサ104、メモリ106、およびディスプレイデバイス108を含むことができる。プロセッサ104はMRIスキャナ102、メモリ106およびディスプレイデバイス108と通信可能に結合することができる。
【0019】
MRIスキャナ102は0.1テスラ(T)から7Tの範囲の磁場のような強力な静磁場を生成するための磁石(図1に示されていない)、ならびにRF信号を送信および/または受信するための複数の無線周波数(RF)コイル(図1に示されていない)を含むことができる。RFコイルは送信RFコイルおよび受信RFコイルを含むことができる。RF送信コイルはMRIパルスシーケンスに従って患者の解剖学的領域等の被験体を励起するためのRFパルスを放出することができる。受信RFコイルはRFパルスの放出を追跡する被験体により生成されるMRI信号を記録することができる。RFコイルはRF信号を交互に送信および受信することのできるRFトランシーバを含み得る。RFコイルは損なわれたRFグラジェントデータ取得に従ってMRIデータを取得することができる。記録されたMRI信号は二つの異なるFAに関連付けることができる。
【0020】
イメージングシステム100は一または二以上のプロセッサ104を含むことができる。一または二以上のプロセッサ104はMRIスキャナ102内部に集積されたプロセッサ、MRIスキャナ102に通信可能に結合されたコンピューティングデバイスのプロセッサ、またはその組合せを含むことができる。メモリ106はMRIスキャナ102のメモリコンポーネント、MRIスキャナ102に通信可能に結合されたコンピューティングデバイスのメモリコンポーネント、またはその組合せを含むことができる。メモリ106はコンピュータ実行可能命令を含むことができ、この命令は一または二以上のプロセッサ104により実行されると一または二以上のプロセッサ104に本明細書に記載のSTAGEイメージングのための方法を実行させることができる。メモリ106はMRIスキャナ102により取得されるMRIデータを格納することができ、プロセッサ104はメモリ106からのこのようなデータにアクセスすることができる。メモリ106はスキャナ102により取得されるMRIデータに基づいてプロセッサ104により生成される画像を受信および格納することができる。
【0021】
ディスプレイデバイス108はカソードレイチューブ(CRT)ディスプレイ、発光ダイオード(LED)ディスプレイ、有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイ、プラズマディスプレイパネル(PDP)、液晶ディスプレイ(LCD)、または当該技術分野における当業者に知られている他のディスプレイを含むことができる。ディスプレイデバイス108はスタンドアロンデバイスまたはMRIスキャナ102に通信可能に結合されたコンピューティングデバイス(例えば、デスクトップ、ラップトップ、またはタブレット)のディスプレイであり得る。ディスプレイデバイス108はタッチスクリーンを含むことができる。ディスプレイデバイス108はプロセッサ104またはメモリ106から画像データを受信し、その受信した画像データを表示することができる。例えば、MRIスキャナ102により取得されるデータに基づいてMRI画像を再構成する際、プロセッサ104はディスプレイデバイス108で表示するための再構成された画像を提供することができる。フリップ角θの関数としての損なわれたRFグラジェントエコーデータ取得に対する信号強度は以下のように表すことができる。
【数1】
1は縦緩和時間、SDはスピン密度、TRは繰返し時間、TEはエコー時間、B1tは送信RF磁場、B1rは受信RF磁場(RFコイル感受性またはバイアス磁場とも呼ばれる)であり、E1=exp(−TR/T1)である。ここで、B1tの項は補正フリップ角が得られる時に1に対して正規化されると仮定されている。(1−E1cos(B1t・θ))/sin(B1t・θ)を式(1)の両側にかけると、式(1)は以下のように書き直すことができる。
【数2】
ここで、SDeff=SD・B1r・e-TE/T2*は有効スピン密度を表す。
【0022】
式(2)に従うと、S(θ)/sin(B1tθ)はS(θ)/tan(B1tθ)の線形関数とみなすことができる。具体的には、異なる名目上の励起フリップ角に対して収集されるデータに対し、変換されたデータをSDeff・(1−E1)において傾きE1および縦軸切片(またはx軸交差)を有する線にフィッティングすることができる。このように、(S(θ)/tan(B1tθ),S(θ)/sin(B1tθ))座標系における少なくとも二つのFAに対応する少なくとも二つのデータ点により定義される線の傾きを算出することによりE1の値を決定することができる。また、決定されたE1値およびx軸と少なくとも二つのデータ点により形成される線との間の交点を使用して、SDeffの値を決定することができる。しかしながら、B1t磁場の不均一性に起因して、測定されたフリップ角はスキャンを動作させるために選択された実際のフリップ角の値とは異なる可能性があり、これにより特に高磁場でのT1の推定において著しい誤差が導かれる可能性がある。したがって、T1の正確な推定では送信RF磁場B1tの正確な情報が要求される。
【0023】
FAが小さく、またTR<<T1である場合、式(1)は以下のように近似することができる。
【数3】
ここで角度θEはcosθE=exp(−TR/T1)と定義される。式(3)を使用すると、見かけ上のスピン密度(SDapp)および見かけ上の縦緩和時間(T1app)を以下のように導出することができる。
【数4】
【数5】
式(3)−(5)を考慮すると、見かけ上のスピン密度SDappはB1tに線形に比例し、見かけ上の縦緩和時間T1appはB1t2に線形に比例する。したがってB1tにおける10%の誤差(または実際のFAがθ’=B1tθである場合のFAにおける10%)がT1推定における20%の誤差およびSD推定における10%の誤差をもたらす可能性がある。そのため、T1および/またはSDマップの正確な再構成ではB1tマップの正確な推定が要求される。
【0024】
図2は磁気共鳴画像法(MRI)のための方法200を例示するフローチャートである。概要を述べると、方法200は第一のフリップ角に対応する第一の磁気共鳴(MR)データセットおよび第二のフリップ角に対応する第二のMRデータセットを得る(または受信する)こと(ステップ202)、ならびに第一のMRデータ、第二のMRデータ、および解剖学的領域内の送信無線周波数(RF)磁場に対する定数値を使用して見かけ上の縦緩和時間(T1app)マップを生成すること(ステップ204)を含むことができる。方法200は縦緩和時間(T1)の第一の定数値に基づいてT1appマップをスケーリングすることにより第一の送信RF磁場マップを推定すること(ステップ206)、T1の第二の定数値に基づいてT1appマップをスケーリングすることにより第二の送信RF磁場マップを推定すること(ステップ208)、ならびに推定された第一の送信RF磁場マップおよび推定された第二の送信RF磁場マップを使用して第三の送信RF磁場マップを生成すること(ステップ210)も含むことができる。
【0025】
方法200は第一のフリップ角に対応する第一の磁気共鳴(MR)データセットおよび第二のフリップ角に対応する第二のMRデータセットを得ることを含むことができる(ステップ202)。スキャナ102は少なくとも一つのエコー時間TEを使用して解剖学的領域を撮像することにより第一のMRデータセットおよび第二のMRデータセットを取得することができる。プロセッサ104はユーザがMRデータ取得に対する設定を選択することを可能にするために、例えば、ディスプレイデバイス108にユーザインタフェース(UI)を設けることができる。プロセッサ102はMRスキャナ102に選択された設定に従って解剖学的領域を撮像させることができる。選択された設定は二つの別々のFAを使用するMRデータの取得を表示することができる。選択された設定は(例えば一または二以上の損なわれたグラジェントエコーMRシーケンスを使用する)損なわれたグラジェントエコーMRデータ取得の表示であり得る。撮像される解剖学的領域は人間の脳もしくは他の臓器または患者の体の一部を含むことができる。
【0026】
プロセッサ104はMRスキャナ102(または各RFコイル)にRFを用いて解剖学的領域を励起すること、および選択された設定に従って解剖学的領域により生成されるMR信号を記録させることができる。具体的には、MRスキャナ102の受信RFコイルは第一のFAに関連付けられたMR信号の第一の組および第二のFAに関連付けられたMR信号の第二の組を記録することができる。記録されたMR信号と対応するFAとの間の関係は式(1)および/または式(2)を満たす。第一および第二のMRデータセットを得ることは、MRスキャナ102から記録された信号を受信し、各MRデータセット(またはMR信号の組)に対する各MR画像を生成するプロセッサ104を含むことができる。
【0027】
図3Aおよび図3Bを参照すると、二つの異なるFAに対応する脳の二つのMR画像が示されている。例えば、図3Aは6°に等しいFAを使用して取得されたMRデータの画像302を示しており、図3Bは24°に等しいFAを使用して取得されたMRデータの画像304を示している。図3Aおよび図3Bに例示されるMRデータの取得において使用される繰返し時間TRは25ミリ秒(ms)に等しい。図3Aおよび図3Bの画像に関連付けられたFAの値は例示の目的のために選択されたものであり、限定するものと解釈されるべきではない。例えば、他の角度の値(6°および/または24°以外)は(二つのFAの中で)小さい方のFAがエルンスト角未満であり大きい方のFAがエルンスト角よりも大きい場合にMRデータ取得のために使用することができる。プロセッサ104は対応するFAに関連付けられた記録された信号の逆フーリエ変換を行うことにより図3Aおよび図3Bに示される画像をそれぞれ再構成することができる。
【0028】
再び図2を参照すると、方法200は第一のMRデータセット、第二のMRデータセット、および解剖学的領域内の送信RF磁場B1tに対する定数値を使用して見かけ上の縦緩和時間(T1app)マップを生成することを含むことができる(ステップ204)。T1appマップは解剖学的領域内のT1appの空間分布を表す。一般に、また式(5)を考慮すると、T1appはB1tの空間不均一性に起因して単一の組織に関連付けられた領域の内部であっても空間的に変化する可能性がある。例えば、T1appの値は一つの組織を表す領域の内部で比較的大きな分散を有する可能性がある。全ての人に対して利用可能な標準B1tがあれば、次にそれを人によって異なるローカルT1値を発見するために使用することができる。しかしながら、B1tのこのような標準値(または標準マップ)が無いため、B1tマップを正確に推定するための方法または技術が要求される。T1appマップを生成すること(ステップ204)は、B1tマップを再構成するために使用されるT1appマップの第一の推定を決定することとみなすことができる。
【0029】
プロセッサ104は式(2)を使用して、また解剖学的領域内のB1tに対する正規化された定数値を例えば1に等しいと仮定して、画素単位でT1appを計算することができる。具体的には、プロセッサ104は異なるFAに関連付けられたデータ点に基づいて定義される線の式(2)における傾きとして各画素に対するE1を最初に決定することができる。具体的には、FAθ1およびθ2にそれぞれ対応するデータ点S(θ1)およびS(θ2)を考慮すると、E1は以下のように算出することができる。
【数6】
E1=exp(−TR/T1)であるため、プロセッサ104は算出されたE1および繰返し時間TRを使用してT1の推定を決定することができる。プロセッサ104は次にT1の推定された値およびB1tの定数値を使用する式(5)に従って各画素に対するT1appを算出することができ、したがってT1appマップが生成される。図4Aを参照すると、T1appマップの画像402が描写されている。図4Aに示されているT1appマップは図3Aおよび図3Bに示されるMRデータおよび1に等しいB1tの正規化された定数値を使用して、上記で説明したように画素毎に算出される。MRデータは25msに等しいTRの値を使用して取得される。
【0030】
方法200はT1の第一の定数値に基づいてT1appマップをスケーリングすることにより第一の送信RF磁場マップを推定し(ステップ206)、T1の第二の定数値に基づいてT1appマップをスケーリングすることにより第二の送信RF磁場マップを推定する(ステップ208)プロセッサ104を含むことができる。T1の第一の定数値は解剖学的領域内の第一の組織タイプに対応することができ、T1の第二の定数値は解剖学的領域内の第二の組織タイプに対応することができる。例えば、第一の組織タイプは白質、第二の組織タイプは灰白質とすることができる。一般に、人間の脳のT1測定値を確認するための三次元(3D)の信頼性が高く正確な標準は存在しない。また、T1は温度、化学交換およびかん流のような多くの要因から影響を受ける可能性がある。様々な研究者によって記録された白質および灰白質の両方に対するT1値の値は実質的なばらつきを示す。しかしながら、このようなばらつきにもかかわらず、白質に対するT1値で除算される灰白質に対するT1値の比率は異なる研究者による様々な測定値において極めて好適であるように見受けられる。具体的には、比率はおよそ1.7である。したがって、T1の第一の定数値は1000msに設定することができ、一方T1の第二の定数値は1700msに設定することができる。いくつかの実施形態では、白質および灰白質に対してT1の他の値を選択することができる。例えば、白質に対するT1値は800から1200msの範囲の任意の値に設定することができ、灰白質に対するT1値は白質に対するT1値の1.7倍に等しい値に設定することができる。また、他のタイプの組織(例えば、灰白質および/または白質以外)に対して、異なるT1値を使用することができる。
【0031】
プロセッサ104はT1の第一の定数値に基づいて各画素においてT1app値をスケーリングする(または除算する)ことによりB1tマップの第一の推定を生成することができる。図4Bを参照すると、図4Aに示されるT1appマップを使用して生成されるB1tマップの第一の推定の画像404。図4Bに示されるB1tマップの第一の推定は1000msに等しく、また白質に対応するT1の定数値を使用して算出される。プロセッサ104はT1の第二の定数値に基づいて各画素においてT1app値をスケーリングする(または除算する)ことによりB1tの第二の推定を生成することができる。プロセッサ104はB1tマップの第一の推定および第二の推定のうち少なくとも一つを使用して解剖学的領域内の第一の組織タイプおよび第一の組織タイプに対するマスクも生成することができる。例えば、プロセッサ104は白質のマスクおよび灰白質のマスクを生成するために白質に対応するT1の定数値を使用して決定されるB1tマップの第一の推定を使用することができる。B1tマップの推定は低空間周波数成分により特徴付けられ、解剖学的領域を異なる組織タイプに対応する様々な領域に区分するために適切である可能性がある。プロセッサ104は白質領域と灰白質領域との間を区別するためにB1tマップの第一の推定に対してハイパスフィルタを適用することができる。プロセッサ104は白質領域を決定するためにB1tマップの第一の推定に対してローパスフィルタを適用することができ、灰白質領域を決定するためにB1tマップの第一の推定に対してハイパスフィルタを適用することができる。プロセッサ104は異なる組織タイプに関連付けられた領域間の干渉または重複を回避するために各マスクに対してエロ―ジョンアルゴリズム(erosion algorithm)を適用することもできる。プロセッサ104により生成されるマスクの各々に対して、対応する組織タイプに関連付けられた画素は1に等しい値(またはゼロでない値)を有する可能性があり、一方他の画素はゼロに等しい値を有する可能性がある。
【0032】
図5Aおよび図5Bを参照すると、白質および灰白質に対するマスクを表す画像が示されている。画像502は白質のマスクを表しており、画像504は灰白質のマスクを表している。両方のマスクは図4Bに示されるB1tマップの第一の推定を使用して生成される。
【0033】
ステップ210において、プロセッサ104は推定された第一のB1tマップおよび推定された第二のB1tマップを使用して第三のB1tマップを生成することができる。図6Aを参照すると、解剖学的領域内の線におけるB1tの第一の推定およびB1tの第二の推定のプロットが示されている。プロット602は解剖学的領域内の線におけるB1tの第一の推定(または白質に対応するT1の定数値を使用するB1tの推定)を表している。プロット604は解剖学的領域内の線におけるB1tの第二の推定(または灰白質に対応するT1の定数値を使用するB1tの推定)を表している。二つのプロット602と604とを比較すると、B1tの第一の推定およびB1tの第二の推定が実質的に互いのシフトしたバージョンであることがわかる。第三のB1tマップを生成することはB1tの第一および第二の推定されたマップの両方が実質的に重複するまでB1tの第一および第二の推定されたマップのうち少なくとも一つをシフトさせるプロセッサ104を含むことができる。例えば、プロセッサ104はB1tのシフトされた第一の推定されたマップとB1tの第二の推定されたマップとの間の平均二乗誤差が最小化されるようにシフト値に基づいてB1tの第一の推定されたマップをシフトさせることができる。
【0034】
プロセッサ104はB1tのシフトされた第一の推定されたマップ、B1tの第二の推定されたマップ、ならびに第一および第二の組織タイプに対応するマスクを使用して第三のB1tマップを生成することができる。具体的には、プロセッサは(i)第一の組織タイプ(例えば、白質)に対応するマスクにB1tのシフトされた第一の推定されたマップを乗算(すなわち、画素単位で乗算)すること、(ii)第二の組織タイプ(例えば、灰白質)に対応するマスクにB1tの第二の推定されたマップを乗算(すなわち、画素単位で乗算)すること、および(iii)B1tの統合されたマップ(または第三のB1tマップ)を形成するためにこれらの乗算の結果を統合することができる。プロセッサ104は生成されたマスクのいずれにも属さない任意の画素を埋める(またはそれに値を割り当てる)ためにB1tの統合されたマップ(または第三のB1tマップ)にローカル二次フィッティング(local quadratic fitting)を適用し得る。
【0035】
図6Bを参照すると、ローカル二次フィッティングを用いた場合と用いない場合の統合されたB1tマップに関連付けられたプロットが描写されている。プロット606は解剖学的領域内の線における統合されたB1tの値を表している。プロット608はローカル二次フィッティングを適用した後の解剖学的領域内の線における統合されたB1tの同じ値を表している。ローカル二次フィッティングはサイズがm×mのローカル二次フィッティング行列を使用して達成することができ、ここでmは整数である。n×n画像の全体に滑らかでよりノイズの少ない結果を創造するために使用される。図6Bに例示されるように、ローカル二次フィッティング操作はB1tの滑らかでよりノイズの少ないマップを導く。
【0036】
図7Aを参照すると、統合されたB1tマップの例を例示する画像702が示されている。具体的には、画像702は白質に対応するマスク502とB1tのシフトされた第一の推定されたマップとの積と、灰白質に対応するマスク504とB1tの第二の推定されたマップとの積とを統合して得られる画像を表している。画像702における黒色領域はマスク502またはマスク504のいずれにも属さない画素または領域を表している。
【0037】
図7Bを参照すると、画像702にローカル二次フィッティングを適用した後に得られるB1tマップの画像704が示されている。図704に例示されるように、ローカル二次フィッティングにより図702に示される統合されたB1tにおける間隙を埋めることが可能になる。画像704に示されるB1tマップにより解剖学的領域内のB1tの信頼性の高い推定が提供され、またT1マップおよび/またはSDマップの正確な再構成が可能になる。
【0038】
上記において方法200は二つの組織タイプに関して説明されたが、解剖学的領域は二よりも多くの異なる組織タイプを含むことができる。例えば、解剖学的領域は三つの区別できる組織タイプを含むことができる。このような例では、プロセッサ104は解剖学的領域内の第三の組織タイプに関連付けられたT1の第三の定数値に基づいて(ステップ204において生成された)T1appマップをスケーリングすることによりB1tマップの別の推定をさらに決定することができる。プロセッサ104は解剖学的領域内の第三の組織タイプにより占有される領域を表す第三のマスクを生成することもできる。例えば、プロセッサ104は三つのマスクの各々を生成するために異なるフィルタ(例えば、ローパスフィルタ、バンドパスフィルタ、および/またはハイパスフィルタ)を使用することができる。プロセッサ104は(例えば、第三のマスクに従って)T1の第三の定数値に基づいて推定されるB1tのマップを使用して第三のB1tマップを更新することができる。あるいは、(例えば、三つの組織タイプに対応する三つのマスクに基づく)B1tマップの三つの推定を使用して第三のB1tマップを最初に生成することができる。例えば、第三の組織タイプは脳脊髄液とすることができ、プロセッサ104は(i)白質に対する一定のT1値に基づいて推定される第一のB1tマップに第一のマスクを乗算すること、(ii)灰白質に対する一定のT1値を使用して推定される第二のB1tマップに第二のマスクを乗算すること、(iii)第三のマスクにより脳脊髄液に対する一定のT1値を使用して推定されるB1tマップを推定すること、また(iv)他の組織に対しても同様に推定することができる。脳脊髄液に対する一定のT1値は4500msに等しい値とすることができる。プロセッサ104は次に単一のより正確なB1tマップ画像を創造するために(マスクを用いた乗算から)得られた画像を統合することができる。
【0039】
いくつかの実施形態では、プロセッサ104は窓における平均および標準偏差を計算し、平均を上回るかまたは下回る所与の閾値(例えば、ノイズの三つの標準偏差)を超えているこれらの点(または画素)を除去するために、例えばスライドする窓を使用することによりローカルノイズスパイクを除去し得る。プロセッサ104は滑らかでよりノイズの少ないB1tマップ画像を提供するために例えばサイズがm×mのローカル二次フィッティング行列を使用して統合されたB1tマップに図6Bに関して上記で説明されたようなローカル二次フィッティングを適用することができ、ここでmは整数である。いくつかの実施形態では、整数mは20に等しい値とすることができる。しかしながら、mに対して他の値を使用してもよい。人間の脳のケースでは組織タイプは白質、灰白質、および脳脊髄液を含むことができるが、本方法およびシステムは人間の脳またはこれらの組織タイプに限定されるものと解釈される。一般に、本明細書に記載の方法は固有の解剖学的領域または解剖学的領域内の固有の数の組織タイプに制限されるべきではない。
【0040】
方法200はT1マップの第一の推定を生成するためにステップ210において決定されたB1tマップを使用するプロセッサ104をさらに含むことができる。プロセッサ104は式(5)を使用すること、およびステップ204において決定されたT1appマップをステップ201において決定されたB1tマップの二乗で除算することができる。具体的には、解剖学的領域の各画素またはボクセルxに対して、プロセッサ104は対応するT1値をT1(x)=T1app(x)/B1t2(x)として算出することができる。そのため、このT1マップの第一の推定は解剖学的領域内のB1tの分布におけるばらつきを説明し、また補正されたT1マップと呼ばれ得る。
【0041】
プロセッサ104は第一のMRデータセットおよび第二のMRデータセットを使用して見かけ上のスピン密度(SDapp)マップをさらに生成することができる。SDappマップは解剖学的領域内のSDappの空間分布を表す。プロセッサ104は式(3)およびステップ204において仮定されたB1tの定数値を使用してSDappマップを決定することができる。例えば、プロセッサ104はFAθ1またはθ2に対応するデータセットからのデータ点およびステップ204において仮定されたB1tの定数値を使用して各画素においてSDappに対して式(3)を解くことができる。あるいは、式(2)に基づいて、また再びステップ204を参照すると、プロセッサ104はB1tの正規化された定数値(例えば、B1t=1.0)を仮定する時に(S(θ)/tan(B1tθ),S(θ)/sin(B1tθ))座標系におけるx軸を用いてデータ点(S(θ1)/tan(B1tθ1),S(θ1)/sin(B1tθ1))および(S(θ2)/tan(B1tθ2),S(θ2)/sin(B1tθ2))により定義される線の交点に基づいて各画素においてSDeff・(1−E1)を決定することができる。ステップ204においてE1が既に決定されているため、プロセッサ104は各画素においてx軸との交点に対応する値を1−E1で除算することによりSDeffのマップを生成すること、およびSDappマップを生成するためにSDeffマップにステップ204において仮定されたB1tの定数値を乗算することができる。
【0042】
プロセッサ104は決定されたSDappマップをステップ210において決定されたB1tマップで除算することによりSDマップの第一の推定を生成することができる。式(4)に従って、解剖学的領域内の各画素またはボクセルに対し、プロセッサ104は(ステップ210において生成されたB1tマップからの)同じ画素におけるB1t値に基づいてその画素におけるSDapp値をスケーリングする(または除算する)ことができる。SDeff=SD・B1r・e-TE/T2*であるため、SDマップの生成された第一の推定はSDeffマップの推定である。このSDマップの第一の推定によりB1tの分布におけるばらつき(ただしB1rの分布におけるばらつきではない)が説明される。B1rデータが得られると、補正されたSDマップはSDcor=SD・e-TE/T2*を介して得ることができ、また補正されたSDマップと呼ばれ得る。最後に、T2*を計算するために多重エコーを使用して、絶対SDを式SD=SDcor・eTE/T2*から得ることができる。
【0043】
図8A図8Cを参照すると、画像802、804および806はそれぞれT1マップの推定、SDappマップの推定、およびSDマップの推定の例を示している。画像802に示されるT1マップは画像704(図7B)に示されるB1tの二乗に基づいて画像402(図4Aに示されている)におけるT1appマップを(画素毎に)スケーリングすることにより生成される。画像804におけるSDappマップの推定は式(3)、画像302または304(図3Aおよび図3B)に例示されるデータセットのうちの一つを使用して生成される。画像806のSDマップ(またはSDeffマップ)の推定は画像704のSDappマップを画像704(図7B)のB1tマップで除算することにより生成される。
【0044】
プロセッサ104はB1rのマップを推定する(または生成する)ために(ステップ210において決定された)推定されたB1tマップ、補正されたT1マップおよび補正されたSDマップを使用することができる。具体的には、プロセッサ104は第一の組織タイプ(例えば、白質)に関連付けられた第一の領域および第二の組織タイプ(例えば、灰白質)に関連付けられた第二の領域を等強度にすることのできる固有のフリップ角に対応するMRデータセットを合成するために推定されたB1tマップだけでなく補正されたT1およびSDマップを用いることができる。プロセッサ104はMRIスキャナ102を介した追加のMRデータ取得を用いるのではなく、式(1)を使用することによりこのようなMRデータセットを合成することができる。プロセッサ104は三つの異なる組織タイプ(例えば、白質、灰白質、および脳脊髄液)に対応する三つの領域が等強度であるMRデータセットを創造するためにエコー時間TEをさらに変え得る。プロセッサ104は解剖学的領域内のB1rの空間ばらつきの影響を緩和するために推定されたB1rマップによりSDマップ推定(例えば、図8Cの画像806に示されるSDマップ)をスケーリングすること、およびSDマップの改善された推定を達成することができる。
【0045】
図9を参照すると、FAの範囲にわたる異なる組織タイプに対応する信号の例が示されている。信号902は白質(またはWM)に対応し、信号904は灰白質(またはGM)に対応し、信号906は脳脊髄液(またはCSF)に対応する。信号908は信号902と904との間の差を表し、信号910は信号904と906との間の差を表し、信号912は信号902と906との間の差を表している。信号902、904、および906は白質内の1000ms、灰白質内の1700ms、そして脳脊髄液内の4500msに等しい一定のT1値を使用して生成された。繰返し時間TRは30msに等しく、白質SDは0.68に等しく、灰白質のSDは0.82に等しい。また、44msおよび51msのT2*値がそれぞれ白質および灰白質に対して使用された。信号902および904はおよそ10°(またはそれをわずかに上回る)FAにおいて交差する。異なる組織を等強度にすることにより、プロセッサ104はローカルスピン密度を決定する必要性を回避することができる。全ての信号が等強度であるため、合成されたデータセットにおける増幅のばらつきはB1r磁場におけるばらつきを表している。したがって、プロセッサ104は合成されたデータセットに基づいてB1rマップを決定する(または生成する)ことができる。プロセッサ104はB1rマップの推定においてローカル二次フィッティングを用いることもできる。当初の画像を補正するために使用されるB1rマップは画像の中心におけるB1rの値に対して正規化される等強度画像からの信号と定義することができる。
【0046】
図10A図10Cを参照すると、合成されたMRデータセットの例、受信RF磁場の例、およびスケーリングされたスピン密度マップの例を例示する画像が示されている。画像1002は白質と灰白質とが等強度であるようにFAが選択される二重の等強度MRデータセットを表している。画像1004は画像1002の等強度MRデータセットに基づいて生成(または推定)されるB1rマップを表している。画像1002における等強度MRデータセットは間隙(黒色領域または画素)を含む。このような間隙はローカル二次フィッティングを使用することにより画像1004のB1rマップにおいて除去される。いくつかの実施形態では、プロセッサ104は推定されたSDマップ上の解剖学的領域内のB1rの空間ばらつきの影響を緩和するために合成されたデータセットに基づいて推定されたB1rマップによりSDマップ推定(例えば、図8Cの画像806に示されるSDマップ)をスケーリングし得る。画像1006は画像1004のB1rマップによる画像806におけるSDマップのスケーリング(画素毎のスケーリング)を表している。画像1006と806とを比較すると、画像1006におけるSDマップが画像806と比較される解剖学的領域内の様々な副領域の改善された表現を提供することが見てとれる。
【0047】
いくつかの実施形態では、プロセッサ104(または他のコンピューティングデバイス)は複数の被験体(例えば、患者またはボランティア)に対する複数のB1tマップを推定することができる。プロセッサ104は方法200に関して上記で説明されたような各被験体に対するB1tマップを推定することができる。各被験体に対して、プロセッサ104は各被験体に対する対応するB1tマップを解剖学的領域(例えば、脳)の各テンプレートに変換することができる。プロセッサ104は(例えば、Insight Segmentation, and Registration Toolkit(ITK)を使用する)テンプレート脳への第一のデータセットの強度画像(magnitude image)の第一の変換によりこれを達成することができる。プロセッサ104はB1t磁場をテンプレート空間にマッピングするために得られた変換を使用することができる。プロセッサ104は次に複数の被験体に関連付けられたテンプレートにおけるB1t値を平均化して共通のB1tテンプレートにすることができる。いくつかの実施形態では、この平均化は加重平均とすることができる。例えば、いくつかの被験体に関連付けられたいくつかのテンプレートは他のテンプレートよりも多く、または少なく重み付けされ得る。プロセッサ104は患者空間へ戻す逆変換を実行することにより様々な患者に対するB1tマップの推定として共通(または平均)B1tテンプレートを使用することができる。例えば、共通(または平均)B1tテンプレートはオフラインで算出され、様々な患者に対する(ステップ201において生成されたB1tマップに関して上記で説明されたような)T1マップまたはSDマップの再構成において使用することができる。共通(または平均)B1tテンプレートを使用することにより、プロセッサ104は各新しくスキャンされた被験体に対するB1tマップを生成することを回避し、代わりに予め算出された共通(または平均)B1tテンプレートを使用することができる。いくつかの実施形態では、プロセッサは解剖学的領域の別々の画像(例えば、T1マップの別々の画像)を生成するために予め算出された共通(または平均)Bltテンプレートおよび患者に固有のB1tマップの推定の両方を使用することができる。
【0048】
プロセッサ104(または他のコンピューティングデバイス)は共通(または平均)B1rテンプレートを生成することもできる。プロセッサ104は例えば上記で説明されたような別々の被験体に対して等強度領域を有する合成されたMRデータセットに基づいて、複数の被験体(例えば、患者またはボランティア)に対する複数のB1rマップを推定することができる。各被験体に対して、プロセッサ104は対応するB1rマップを解剖学的領域(例えば、脳)の各テンプレートに変換すること、および共通(または平均)B1rテンプレートを生成するために様々な被験体に対するテンプレートを平均化(例えば、重み付けされたかまたはされない平均化)することができる。共通(または平均)B1rテンプレートはオフラインで算出することができ、プロセッサ104は様々な患者に対するB1rマップの推定として共通(または平均)B1rテンプレートを使用することができる。予め算出された共通(または平均)B1rテンプレートが利用できるため、各新しくスキャンされた患者に対する各B1rマップの構成(または計算)を回避することが可能になる。いくつかの実施形態では、プロセッサは予め算出された共通(または平均)B1rテンプレートおよび解剖学的領域の別々の画像を生成するための患者に固有のB1rマップの推定の両方を使用することができる。
【0049】
図11を参照すると、B1tおよびB1rに対する脳テンプレートの例が示されている。画像の上列はB1tマップに対する共通(または平均)脳テンプレートの例を示している。この共通(または平均)テンプレートは様々な被験体に対して使用することのできるB1tマップの推定を表している。画像の下列はB1rマップに対する例の共通(または平均)脳テンプレートを例示している。この共通(または平均)テンプレートは様々な被験体に対して使用することのできるB1rマップの推定を表している。
【0050】
各スキャンされた被験体に対して、プロセッサ104はその固有の被験体に対する(例えば、ITKを使用する)平均B1rテンプレートおよび/または平均B1rテンプレートを逆変換することができる。例えば、プロセッサは固有の患者に対する解剖学的領域(例えば、脳)のサイズに一致させるために共通(もしくは平均)B1tテンプレートおよび/または共通(もしくは平均)B1rテンプレートを調整することができる。プロセッサ104はその固有の患者に対するT1マップを推定するために逆変換された共通(または平均)B1tテンプレートを使用し得る。具体的には、プロセッサ104はT1マップの推定を生成するために逆変換された共通(または平均)B1tテンプレートの二乗に基づいて患者に対するT1appマップをスケーリング(または画素単位もしくはボクセル単位で除算)することができる。このような推定は患者に固有の推定されたB1tマップに基づいて実質的に推定されるか、またはT1マップの追加の(もしくは第二の)推定とすることができる。プロセッサ104は患者に対するSD(またはSDeff)マップの推定の時に共通(または平均)B1tを使用することもできる。具体的には、プロセッサ104はSDマップの推定を生成するために逆変換された共通(または平均)B1tテンプレートに基づいて患者に対するSDappマップをスケーリング(または画素単位もしくはボクセル単位で除算)し得る。
【0051】
プロセッサ104は合成されたデータセットに基づいて推定されたB1rマップに基づいてステップ202において取得された(FAθ1およびθ2に対応する)当初のデータセットをスケーリングすること、およびスケーリングされたデータセットを減算することにより解剖学的領域のMR画像を生成することもできる。生成されたMR画像は各T1値に基づいて解剖学的領域内の様々な組織タイプを示すことができる。プロセッサ104は第一のFAに対応する第一のスケーリングされたMRデータセットを第二のFAに対応する他のスケーリングされたデータセットから減算する場合に加重減算を用いることができる。いくつかの実施形態では、プロセッサ104はオフラインで算出または再構成された共通(または平均)B1rテンプレート(またはその逆変換)に基づいてステップ202において取得された(FAθ1およびθ2に対応する)当初のデータセットをスケーリングすることができる。いくつかの実施形態では、プロセッサ104は推定されたSDマップ上の解剖学的領域内のB1rの空間ばらつきの影響を緩和するために共通(または平均)B1rテンプレートに基づいてSDマップ推定(例えば、図8Cの画像806に示されるSDマップ)をスケーリングし得る。
【0052】
いくつかの実施形態では、プロセッサ104は解剖学的領域の別の(または代わりの)MR画像を生成するためにステップ202において取得された(FAθ1およびθ2に対応する)当初のデータセットに対応する画像を(スケーリングすることなく)減算することができる。このようなME画像は各T1値に基づいて解剖学的領域内の様々な組織タイプを例示することができる。
【0053】
図12A図12Dを参照すると、スケーリングされたMRデータセットの画像および減算MR画像が例示されている。画像1202および1204はそれぞれ画像1202内のB1rにおけるマップによる画像302および304のスケーリングを表している。B1rマップによるスケーリングが解剖学的領域内のB1rの空間ばらつきの影響を緩和するため、画像1202および1204は対応する当初の画像302および304に対する改善を表している。しかしながら、画像1202および1204は依然として解剖学的領域内のB1tの空間ばらつきの影響を受けている。画像1206は二つのFAに対応する当初の取得されたデータセットに対応する画像302と304との間の減算(例えば、大きい方のFAに対応する画像から小さい方のFAに対応する画像の減算)を表している。画像1208はスケーリングされた画像1202と1204との間の減算(例えば、大きい方のFAに対応する画像から小さい方のFAに対応する画像の減算)を表している。画像1206および1208の両方が当初の取得されたデータに対応する画像302および304と比較される解剖学的領域内の様々な組織の改善された表現を提供する一方で、画像1208は解剖学的領域内のB1rの空間ばらつきの影響が元の画像1208に内で除去(または緩和)されるため、画像1206に対する改善を表現している。
【0054】
本明細書に記載の方法およびシステムは二つのフリップ角を使用してスキャンされる解剖学的領域の改善された画像を生成するための様々な技術を提供する。これらの方法およびシステムは人間の脳に限定されると解釈されるべきではなく、他の解剖学的領域に対して使用することができる。また、本開示は(例えば、推定されたT1マップ、推定されたSDマップ、スケーリングされたSDマップ、減算MR画像、スケーリングされた減算MR画像、推定されたB1tマップ、推定されたB1rマップ、共通B1tテンプレート、または共通B1rテンプレートの)様々なMR画像を生成するために説明される様々な技術を説明する一方で、本開示はこのような技術または対応するMR画像の様々な組合せを包含するものと解釈されるべきである。さらに、プロセス104は複数のエコー時間に対する本明細書に記載の様々なMR画像を生成するための技術を適用することができる。例えば、プロセッサ104は解剖学的領域の改善された画像を提供するために様々なエコー時間に関連付けられたデータセットに基づいて生成されるMR画像(例えば、B1tマップ、B1rマップ、T1appマップ、T1マップ、SDappマップ、SDマップ等)に平均化または加重平均を適用することができる。
【0055】
当業者においては本開示において説明されるプロセスはプロセッサにより実行可能なコンピュータコード命令を使用して実装されることができることを理解されるべきである。コンピュータコード命令はランダムアクセスメモリ(RAM)、読取り専用メモリ(ROM)、キャッシュメモリ、ディスクメモリ、任意の他のメモリ、または任意の他のコンピュータ可読媒体のような非一時的または有形のコンピュータ可読媒体に格納することができる。少なくとも一つのプロセッサにより実行される時のコード命令は本開示において説明されるプロセスまたは操作のうち少なくとも一つを実行することを引き起こすことができる。装置は、例えばMRIスキャナ、コンピュータデバイス、またはMRIスキャナに関連付けられた他の電子デバイスとすることができる。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図9
図10A
図10B
図10C
図11
図12A
図12B
図12C
図12D