特許第6872089号(P6872089)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6872089接点部材、コネクタ、組成物、接点部材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6872089
(24)【登録日】2021年4月20日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】接点部材、コネクタ、組成物、接点部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01R 13/03 20060101AFI20210510BHJP
   H01R 43/16 20060101ALI20210510BHJP
   C10M 105/50 20060101ALI20210510BHJP
   C23C 24/10 20060101ALI20210510BHJP
   C10M 125/04 20060101ALI20210510BHJP
   C10M 171/06 20060101ALI20210510BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20210510BHJP
   C10N 40/14 20060101ALN20210510BHJP
【FI】
   H01R13/03 Z
   H01R43/16
   C10M105/50
   C23C24/10 Z
   C10M125/04
   C10M171/06
   C10N30:06
   C10N40:14
【請求項の数】12
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2021-9589(P2021-9589)
(22)【出願日】2021年1月25日
【審査請求日】2021年2月17日
(31)【優先権主張番号】特願2020-57814(P2020-57814)
(32)【優先日】2020年3月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231073
【氏名又は名称】日本航空電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(72)【発明者】
【氏名】山田 一彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 晃子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 明伸
【審査官】 藤島 孝太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2018−90657(JP,A)
【文献】 特開2012−99398(JP,A)
【文献】 特開2006−206702(JP,A)
【文献】 特開平10−223290(JP,A)
【文献】 特開2005−19103(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00−177/00
C23C 24/00− 30/00
C25D 5/00− 7/12
H01R 13/00− 13/08
13/15− 13/35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材と、前記金属基材上の少なくとも一部に配置された被膜とを有する接点部材であって、前記被膜が、極性基を有するフッ素系オイル、および、極性基を有するフッ素系化合物で表面処理された金属粒子を含む、接点部材。
【請求項2】
前記金属基材の金属種と前記金属粒子の金属種とが同種である、請求項1に記載の接点部材。
【請求項3】
前記極性基が水酸基である、請求項1または2に記載の接点部材。
【請求項4】
前記金属粒子の含有量(質量%)に対する、前記フッ素系オイルの含有量(質量%)の比(フッ素系オイルの含有量(質量%)/金属粒子の含有量(質量%))が15〜25である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の接点部材。
【請求項5】
前記金属粒子の平均二次粒子径が1.7μm〜2.1μmである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の接点部材。
【請求項6】
前記被膜の法線方向から前記被膜を観察した際の前記被膜面積に対する前記金属粒子の面積の割合が3.6%〜15.0%である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の接点部材。
【請求項7】
前記金属基材のビッカース硬度が180Hv以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の接点部材。
【請求項8】
前記金属基材の表面粗さの最大高さRyが0.5μm〜1.7μmである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の接点部材。
【請求項9】
前記金属基材の表面粗さの最大高さRy(μm)に対する、金属粒子の平均二次粒子径(μm)の比(金属粒子の平均二次粒子径(μm)/金属基材の表面粗さの最大高さRy(μm))が1.0〜1.2である、請求項7または8に記載の接点部材。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の接点部材を有するコネクタ。
【請求項11】
金属基材と、前記金属基材上の少なくとも一部に配置される被膜とを有する接点部材の前記被膜の形成に用いられる組成物であって、極性基を有するフッ素系オイル、および、極性基を有するフッ素系化合物で表面処理された金属粒子を含む組成物。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の接点部材の製造方法であって、前記金属基材上に請求項11に記載の組成物を供給して前記被膜を形成する工程を有する、接点部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接点部材、コネクタ、組成物、および、接点部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車の充電プラグなど大電流を流す必要のある電気接続部品(コネクタ)においては、発熱や損失を抑制するために、低抵抗化が進められている。このため、電気抵抗率が低い銀、金、および、銅などが接点材料として主に用いられている。銅や銅合金材に金めっきや銀めっきを施して用いる場合もある。
【0003】
電気接点においては、挿抜を繰り返して2つの面がスライドする場合や、嵌合後の使用環境下での振動により、2つの面が繰り返し一定の圧力下で接触しながら摺動する状況が起こる。この摺動によって、接点で凝着摩耗が起こり、摩耗面の酸化等の変質によって電気抵抗が高くなり、凝着によって挿抜力が高くなる不具合が起こる。
【0004】
このような接点の摺動による摩耗を抑制するため、接点部に有機成分を含む被膜で潤滑効果を付与することが広く行われている。特許文献1では、コネクタ端子の電気接点部に銀めっき層を形成し、さらにチオールとベンゾトリアゾールを含む溶液に接触させて形成される膜からなる被覆層を形成し、摩擦抵抗を低減する技術が開示されている。また、特許文献2では、フッ素系樹脂微粒子とフッ素系油が混同した塗膜を電気接点部に形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−135191号公報
【特許文献2】特許第4348288号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方で、近年、大電流が流れる接点部材が求められており、具体的には、接点部材に対しては、摺動開始時および摺動時のいずれにおいても抵抗値が低いことが望まれている。なお、本明細書においては、上記のような摺動開始時および摺動時のいずれにおいても抵抗値が低いことを、低電気抵抗性を示すともいう。
本発明者らは特許文献1および2に記載される技術について検討を行ったところ、摺動開始時および摺動時の両方の電気抵抗値の調査については行われておらず、摺動開始時および摺動時のいずれにおいても抵抗値が低いことを実現できるかどうかは明らかではなかった。
【0007】
つまり、従来技術においては、低電気抵抗性、および、摺動耐久性を両立させた接点部材はなく、その開発が求められていた。
なお、本明細書において、摺動耐久性を示すとは、摺動時に摩擦係数が低く、かつ、摺動時に接点部材中の金属基材が露出するまでの摺動回数が多いことを意味する。
【0008】
本発明は、上記実情を鑑みて、低電気抵抗性および摺動耐久性を両立させた接点部材の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を解決できることを見出した。
【0010】
(1)金属基材と、上記金属基材上の少なくとも一部に配置された被膜とを有する接点部材であって、上記被膜が、極性基を有するフッ素系オイル、および、極性基を有するフッ素系化合物で表面処理された金属粒子を含む、接点部材。
(2)上記金属基材の金属種と上記金属粒子の金属種とが同種である、(1)に記載の接点部材。
(3)上記極性基が水酸基である、(1)または(2)に記載の接点部材。
(4)上記金属粒子の含有量(質量%)に対する、上記フッ素系オイルの含有量(質量%)の比(フッ素系オイルの含有量(質量%)/金属粒子の含有量(質量%))が15〜25である、(1)〜(3)のいずれかに記載の接点部材。
(5)上記金属粒子の平均二次粒子径が1.7μm〜2.1μmである、(1)〜(4)のいずれかに記載の接点部材。
(6)上記被膜の法線方向から上記被膜を観察した際の上記被膜面積に対する上記金属粒子の面積の割合が3.6%〜15.0%である、(1)〜(5)のいずれかに記載の接点部材。
(7)上記金属基材のビッカース硬度が180Hv以下である、(1)〜(6)のいずれかに記載の接点部材。
(8)上記金属基材の表面粗さの最大高さRyが0.5μm〜1.7μmである、(1)〜(7)のいずれかに記載の接点部材。
(9)上記金属基材の表面粗さの最大高さRy(μm)に対する、金属粒子の平均二次粒子径(μm)の比(金属粒子の平均二次粒子径(μm)/金属基材の表面粗さの最大高さRy(μm))が1.0〜1.2である、(7)または(8)に記載の接点部材。
(10)(1)〜(9)のいずれかに記載の接点部材を有するコネクタ。
(11)金属基材と、上記金属基材上の少なくとも一部に配置される被膜とを有する接点部材の上記被膜の形成に用いられる組成物であって、極性基を有するフッ素系オイル、および、極性基を有するフッ素系化合物で表面処理された金属粒子を含む組成物。
(12)(1)〜(9)のいずれかに記載の接点部材の製造方法であって、上記金属基材上に(11)に記載の組成物を供給して前記被膜を形成する工程を有する、接点部材の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低電気抵抗性および摺動耐久性を両立させた接点部材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の接点部材の推定メカニズムを説明するための模式図である。
図2】大電流用コネクタの斜視図である。
図3】大電流用コネクタの斜視図である。
図4】大電流用コネクタの斜視図である。
図5】比較例1の摺動試験の結果を示した図である。
図6】実施例1の摺動試験の結果を示した図である。
図7】実施例2の摺動試験の結果を示した図である。
図8】実施例10の偏光顕微鏡像である。
図9】実施例7の偏光顕微鏡像である。
図10】実施例6の偏光顕微鏡像である。
図11】実施例5の偏光顕微鏡像である。
図12】実施例27の摺動試験の結果を示した図である。
図13】実施例31の摺動試験の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値、および、上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
本発明の接点部材は、金属基材と、金属基材上の少なくとも一部に配置された被膜とを有する。被膜は、極性基を有するフッ素系オイル、および、極性基を有するフッ素系化合物で表面処理された金属粒子を含む。
以下、本発明の接点部材に含まれる各部材について詳述する。
【0015】
<金属基材>
本発明の接点部材において、金属基材は電気接点をなす。
金属基材の構成材料は特に制限されず、電気抵抗値が低いことが求められる。金属基材の構成材料としては、銀、金または銅が好ましい。
金属基材は、単層構造であってもよいし、積層構造であってもよい。
金属基材が積層構造である場合、金属基材は、母材(金属支持体)とその表面上に配置されためっき層とを有していてもよい。めっき層としては、特に電気抵抗値が低いものとして金めっき層、銀めっき層、銅めっき層が挙げられるが、他の金属めっき層、例えば錫めっき層、ニッケルめっき層、白金めっき層、ロジウムめっき層、および上記金属に異種の金属を添加し硬度や耐食性を調整した各種合金めっき層など、電気伝導性を有する金属めっきとして用いられるものであれば、めっき層の構成材料は特に限定されない。
【0016】
金属基材の表面には、各種処理が施されていてもよく、例えば、変色防止処理が施されていてもよい。変色防止処理としては、例えば、金属基材の表面(金属基材がめっき層を有する場合には、めっき層の表面)上に、アルカンチオールからなる膜を形成する処理が挙げられる。
【0017】
金属基材は、ビッカース硬度が180Hv以下であることが好ましく、120Hv以下であることがより好ましい。
金属基材のビッカース硬度の下限は特に限定されないが、3Hv以上であることが好ましい。
【0018】
金属基材の表面粗さの最大高さRy(金属基材の被膜側の表面の表面粗さの最大高さRy)は特に制限されず、0.1μm〜5.0μmの場合が多く、接点部材の摺動耐久性により優れる点で、0.5μm〜1.7μmが好ましい。
金属基材の表面粗さの最大高さRyは、公知の方法で制御することができ、例えば、めっき層を有さない金属基材の場合、切削加工の切り込み深さや送りピッチなどの加工条件や、切削加工後のブラスト処理や化学エッチングなどの表面処理で制御できる。めっき層を有する金属基材の場合、めっきの析出速度や温度などの条件によっても制御できる。
【0019】
<被膜>
被膜は、上記金属基材上の少なくとも一部に配置される層である。
被膜は、金属基材の全面に配置されていてもよいし、一部に配置されていてもよい。金属基材の一部に配置される場合、金属基材の対向する2つの主面の一方または両方の上に配置されていてもよい。
【0020】
(極性基を有するフッ素系オイル)
被膜は、極性基を有するフッ素系オイル(以下、単に「特定オイル」ともいう)を含む。
フッ素系オイルとは、分子中にフッ素原子を有するオイル状の化合物である。なお、オイル状とは、室温(23℃)において液体状であることを意味する。
フッ素系オイルは、せん断速度0.01〜1000s-1の範囲で、せん断粘度が0.7〜2.5Pa・sの場合が多く、せん断速度0.01〜1000s-1の範囲で、せん断粘度が0.1〜5.0Pa・sが好ましい。
【0021】
特定オイルの分子量は特に制限されず、低電気抵抗性および摺動耐久性の両立の点から、300〜2000が好ましく、300〜1000がより好ましい。
ここで、分子量は化学式量をいうものとする。ただし、ポリマーまたはオリゴマーであって、個々の分子により化学式量が異なるなどの理由から化学式量を一に特定できない化合物については、分子量として質量平均分子量を用いる。なお、質量平均分子量の測定方法は、特に限定されないが、好ましくはGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)によって測定された質量平均分子量である。GPCによる質量平均分子量の測定に用いる標準ポリマーおよび溶媒(移動相)は、質量平均分子量を測定する対象のフッ素系オイルによって適宜選択することができる。
【0022】
特定オイルが有する極性基は特に制限されず、例えば、水酸基(ヒドロキシル基)、チオール基、アミノ基、エポキシ基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、および、カルボキシ基が挙げられ、低電気抵抗性および摺動耐久性の両立の点から、水酸基、または、チオール基が好ましく、水酸基がより好ましい。
特定オイルが有する極性基の数は特に制限されず、1つであってもよいし、複数であってもよい。なかでも、低電気抵抗性および摺動耐久性の両立の点から、極性基の数は1〜4が好ましく、1がより好ましい。
特定オイル中における極性基の配置位置は特に制限されないが、低電気抵抗性および摺動耐久性の両立の点から、特定オイルの末端に極性基が配置されることが好ましい。
【0023】
特定オイルは、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。また、フッ素系オイルは、環状構造を有していてもよい。
【0024】
特定オイルは、極性基以外に、フルオロカーボン骨格、パーフルオロポリエーテル骨格、フッ素変性シリコーン骨格、および、フルオロエステル骨格などのフッ素原子を有する骨格を有する。
なお、パーフルオロエーテル骨格とは、式(A)で表される繰り返し単位から構成される骨格である。
式(A) −(OL1)−
1は、パーフルオロアルキレン基を表す。パーフルオロアルキレン基の炭素数は、1〜10が好ましく、2〜6がより好ましく、2〜3がさらに好ましい。
【0025】
特定オイルの好適態様としては、式(1)で表される化合物、および、式(2)で表される化合物が挙げられる。
式(1) (R−(OL1))n−L2−(R1m
式(2) (R2−L2−(R1))m
式(1)中、L1の定義は上記した通りである。
nは、2以上の整数を表す。なかでも、低電気抵抗性および摺動耐久性の両立の点から、3〜20が好ましく、3〜6がより好ましい。
式(1)中、L2は、m+1価の脂肪族炭化水素基を表す。例えば、mが1の場合、L2は2価の脂肪族炭化水素基を表し、mが2の場合、L2は3価の脂肪族炭化水素基を表す。脂肪族炭化水素基の炭素数は特に制限されず、1〜10が好ましく、1〜6がより好ましく、1〜3がさらに好ましい。
式(1)中、Rは、パーフルオロアルキル基を表す。パーフルオロアルキル基の炭素数は、1〜5が好ましく、2〜4がより好ましい。
式(1)中、R1は、極性基を表す。極性基の好適態様は上記した通りである。
式(1)中、mは、1以上の整数を表す。なかでも、低電気抵抗性および摺動耐久性の両立の点から、1〜4が好ましく、1〜2がより好ましい。
【0026】
式(2)中、R2は、パーフルオロアルキル基を表す。パーフルオロアルキル基の炭素数は特に制限されず、4〜20が好ましく、5〜15がより好ましく、6〜12がさらに好ましい。
式(2)中のL2、R1、および、mの定義は、式(1)中の各基の定義と同じである。
【0027】
特定オイルとしては、例えば、1H,1H−へプタデカフルオロ−1−ノナノール、1H,1H,10H,10H−ヘキサデカフルオロ−1,10−デカンジオール、1H,1H−パーフルオロ−3,6,9−トリオキサデカン−1−オール、1H,1H,11H,11H−ドデカフルオロ−3,6,9−トリオキサウンデカン−1,11−ジオール、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデカン−1−オール、3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン−1−オール、1H,1H−パーフルオロ(2,5,8,11,14−ペンタメチル−3,6,9,12,15−オキサオクタデカン)−1−オール、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデカンチオール、および、3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンチオールが挙げられる。
【0028】
また、特定オイルは、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、モレスコホスファロールA−20H(MORESCO社製)、デムナム(登録商標)S−65(ダイキン社製)、および、フォンブリン(登録商標)ZDOL(ソルベイ社製)が挙げられる。
【0029】
被膜中における特定オイルの含有量は特に制限されないが、低電気抵抗性および摺動耐久性の両立の点から、被膜全質量に対して、50.00質量%〜99.99質量%が好ましく、60.00〜97.00質量%がより好ましい。
特定オイルは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
(極性基を有するフッ素系化合物で表面処理された金属粒子)
被膜は、極性基を有するフッ素系化合物で表面処理された金属粒子(以下、単に「特定金属粒子」ともいう)を含む。
特定金属粒子は、被膜中で電気接点として機能する。
特定金属粒子中の金属種は特に制限されず、公知の金属が挙げられ、典型的には銀、金、銅、錫、および、ニッケルが挙げられる。なかでも、低電気抵抗性および摺動耐久性の両立の点から、上記した金属基材の金属種と、特定金属粒子の金属種とが同種であることが好ましい。
なお、金属基材がめっき層を有する場合、めっき層を構成する金属種と、特定金属粒子の金属種とが同種であることが好ましい。
【0031】
特定金属粒子は、極性基を有するフッ素系化合物(以下、単に「特定化合物」ともいう)を含む。特定化合物は、金属粒子の表面修飾剤として機能する。
特定化合物が有する極性基の種類は特に制限されず、上記した特定オイルが有する極性基で例示した基が挙げられる。
特定化合物としては、極性基を有し、かつ、フッ素原子を有していれば特に制限されない。なかでも、低電気抵抗性および摺動耐久性の両立の点から、上記した特定オイルが好ましい。
【0032】
特定金属粒子の平均一次粒子径は特に制限されず、低電気抵抗性および摺動耐久性の両立の点から、0.2μm〜10.0μmが好ましく、0.5μm〜2.0μmがより好ましい。
特定金属粒子の平均一次粒子径の測定方法としては、電子顕微鏡にて20個以上の特定金属粒子の直径(粒子径)を測定して、それらを算術平均した値である。なお、観察される特定金属粒子が真円状でない場合、長径を直径とする。
【0033】
被膜中における特定金属粒子の平均二次粒子径は特に制限されず、0.2μm〜10.0μmの場合が多く、低電気抵抗性および摺動耐久性の両立の点から、1.7μm〜2.1μmが好ましい。
被膜中における特定金属粒子の平均二次粒子径の測定方法としては、被膜の法線方向から偏光顕微鏡にて被膜を観察した際に、観察される20個の特定金属粒子の凝集物の直径(二次粒子径)を測定して、それらを算術平均した値である。なお、観察される特定金属粒子の凝集物が真円状でない場合、長径を直径とする。
なお、上記の方法では、20個の特定金属粒子の凝集物から平均二次粒子径を得ているが、同じ被膜中の特定金属粒子であれば、その平均二次粒子径に有意な差は生じない。
【0034】
被膜中における特定金属粒子の含有量は特に制限されないが、低電気抵抗性および摺動耐久性の両立の点から、被膜全質量に対して、0.01〜50.00質量%が好ましく、3.00〜40.00質量%がより好ましい。
特定金属粒子は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
特定金属粒子の含有量(質量%)に対する、特定オイルの含有量(質量%)の比(特定オイルの含有量(質量%)/特定金属粒子の含有量(質量%))は特に制限されず、1〜1000の場合が多く、低電気抵抗性および摺動耐久性の両立の点から、10〜30が好ましく、15〜25がより好ましい。
【0036】
上記した金属基材の表面粗さの最大高さRy(μm)に対する特定金属粒子の平均二次粒子径(μm)の比(特定金属粒子の平均二次粒子径(μm)/金属基材の表面粗さの最大高さRy(μm))は特に制限されず、0.1〜2.0の場合が多く、低電気抵抗性および摺動耐久性の両立の点から、1.0〜1.2が好ましい。
【0037】
被膜の法線方向から被膜を観察した際の被膜面積に対する特定金属粒子の面積の割合は特に制限されず、0.1%〜50.0%の場合が多く、低電気抵抗性および摺動耐久性の両立の点から、0.6%〜30.2%が好ましく、3.6%〜15.0%がより好ましい。
上記被膜面積に対する特定金属粒子の面積の割合とは、被膜の法線方向から偏光顕微鏡にて被膜を観察した際に、観察領域における被膜面積に対する特定金属粒子が占める面積の割合を意味する。偏光顕微鏡による観察領域は、0.11cm×0.07cmの範囲であり、上記被膜面積に対する特定金属粒子の面積の割合は、被膜の任意の5か所以上の位置で上記観察を行って得られた割合の平均値に該当する。なお、特定金属粒子が占める面積の部分において、特定金属粒子は凝集していてもよい。
なお、上記の方法では、被膜の任意の5か所以上の位置で観察を行って、被膜面積に対する特定金属粒子の面積の割合を得ているが、同じ被膜であれば、被膜面積に対する特定金属粒子の面積の割合に有意な差は生じない。
【0038】
特定金属粒子の製造方法は特に制限されず、公知の方法が挙げられる。
例えば、溶媒の存在下、特定化合物と金属粒子とを混合することにより、特定金属粒子を製造できる。
なお、上記により製造された溶液中に特定化合物が余剰に残るように特定化合物および金属粒子を混合した場合、得られた溶液は後述する接点部材を製造するために使用される組成物として用いることができる。
【0039】
<接点部材の製造方法>
接点部材の製造方法は特に制限されず、公知の方法が挙げられる。
なかでも、生産性に優れる点で、金属基材上に、特定オイル、および、特定金属粒子を含む組成物を供給して、被膜を形成する方法が挙げられる。
上記組成物は、被膜を形成するための組成物であり、上記した特定オイル、および、特定金属粒子を含む。
組成物中における特定オイルの含有量は特に制限されないが、低電気抵抗性および摺動耐久性の両立の点から、組成物全質量に対して、1.000〜3.000質量%が好ましく、1.500〜2.500質量%がより好ましい。
組成物中における特定金属粒子の含有量は特に制限されないが、低電気抵抗性および摺動耐久性の両立の点から、組成物全質量に対して、0.001〜1.000質量%が好ましく、0.100〜0.500質量%がより好ましい。
組成物中における特定金属粒子の含有量(質量%)に対する、特定オイルの含有量(質量%)の比(特定オイルの含有量(質量%)/特定金属粒子の含有量(質量%))は特に制限されず、上記した被膜中における上記比と同様の範囲が好ましい。
【0040】
組成物は、溶媒を含んでいてもよい。
溶媒は特に制限されず、例えば、アルコール系溶媒、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、脂環式または芳香族炭化水素系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒、および、フッ素系溶媒が挙げられる。
組成物中における溶媒の含有量は特に制限されないが、低電気抵抗性および摺動耐久性の両立の点から、組成物全質量に対して、50.000〜99.990質量%が好ましく、80.000〜99.000質量%がより好ましい。
溶媒は1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0041】
金属基材上に組成物を供給する方法は特に制限されず、組成物を金属基材上に塗布する方法、および、組成物中に金属基材を浸漬する方法が挙げられる。
金属基材上に組成物を供給した後、必要に応じて、溶媒を揮発させるための乾燥処理を実施してもよい。また、溶媒を揮発させるために、自然乾燥を行ってもよい。
【0042】
<推定メカニズム>
本発明の接点部材において所望の効果が得られるメカニズムは不明だが、図1を用いてその推定メカニズムを説明する。
図1(a),(b)は、本発明の接点部材の推定メカニズムを説明するための模式図である。なお、図1(a),(b)においては、金属基材11が所定の粗さを有する場合を示す。また、金属粒子14の表面処理に、特定オイル、すなわち、極性基を有するフッ素系オイルを用いた場合を示す。
本発明の接点部材10において、金属基材11表面に被膜12が形成されている。より具体的には、金属基材11表面に、極性基を有するフッ素系オイル15が結合して単分子層を形成している。さらに、該単分子層上に分子鎖のからまりによってゆるく固定化されたフッ素系オイル15の流動層が形成されている。この流動層中に、表面処理により、フッ素系オイル15が表面に結合した金属粒子14が分散している。つまり、被膜12は、上記単分子層および流動層を含む。
【0043】
フッ素系オイル15の流動層中に分散している金属粒子14は、端子100により金属基材11表面におしつけられて変形した際に、凝着が起こって電気的接続が確保される。これにより、低電気抵抗性を達成する。
【0044】
金属粒子14の周囲にはフッ素系オイル15が存在するため、凝着の単位は金属粒子14の程度以下に小さくなる。凝着部分が非常に小さく分散しているために、小さい応力でもすぐに剥がれるようになり、凝着自体は起こっても摩耗は進行しない状態となる。これにより、摺動耐久性を達成する。
【0045】
また、図1(b)に示すように、金属粒子14が、金属基材11中に埋め込まれるような状態となると、フッ素系オイル15が金属基材11内部に保持されることになり、端子100の摺動下で、再び金属基材11表面に現れて、流動層として機能する。このように、フッ素系オイル15が表面に結合した金属粒子14は、摺動が起こる場所での潤滑剤の枯渇を防ぎ、繰り返し利用可能な新しい供給機構として機能する。
【0046】
金属粒子14およびフッ素系オイル15が金属基材11内部に保持されるためには、さらには、フッ素系オイル15が表面に結合した金属粒子14が、繰り返し利用可能な潤滑剤の新しい供給機構として機能するためには、金属粒子14が、金属基材11中に埋め込まれるような状態を創り出すことが重要である。金属粒子14が、金属基材11中に埋め込まれるような状態を創り出すためには、応力に対して金属基材11が変形することが望ましい。これを達成するためには、応力に対する金属基材11の変形量の指標として、金属基材11の硬度を制御すればよい。具体的には、金属基材11のビッカース硬度を180Hv以下に制御するのが好ましい。
【0047】
一般的に金属の硬質化手段として、固溶強化、析出強化、加工硬化、結晶粒径微細化がよく利用される。例えば、析出強化型銅合金であるCu−Ni−Si系合金(いわゆるコルソン合金)や、銀めっき時に微量の金属(セレン、アンチモン、ビスマス等)を添加することにより、固溶強化させた「硬質銀めっき」など、各種の金属材料が接点材料として実用化されている。このような異種金属の添加は電気抵抗を増加させるために好ましくないので、無添加の銀めっきをめっき後にバレル研磨して加工硬化させている場合もある。
いずれにしても、これらの従来技術は、摺動耐久性向上のために接点材料を硬質化している。
【0048】
これに対し、本発明では、金属粒子14が、金属基材11中に埋め込まれるような状態を創り出すため、金属基材11のビッカース硬度を180Hv以下に制御するのが好ましい。
【0049】
<用途>
本発明の接点部材は、種々の用途に適用できる。
本発明の接点部材は、例えば、スイッチやリレーなどの電流をON−OFFするのに用いる電子部品や電気機器に適用できる。つまり、本発明は、接点部材を有するコネクタにも関する。
なお、本発明の接点部材を使用する場合、接点部材同士が互いの被膜を対向させた状態で摺動するように用いてもよい。
【0050】
本発明の接点部材は、大電流用コネクタへの適用に好適である。
図2は、大電流用コネクタの一例の斜視図である。図2の大電流用コネクタ200の詳細は特開2013−8511号公報に記載されている。図2の大電流用コネクタ200に本発明の接点部材を適用する場合、矢印Cで示すように、端子の摺動部である、プラグコネクタ210のプラグ部220の表面、レセプタクルコネクタ230のソケット部240の表面、およびコンタクトユニット250の全面に上記組成物を塗布または浸漬して、被膜を形成すればよい。
【0051】
図3(a),(b)は、大電流用コネクタの別の一例の斜視図である。図3の大電流用コネクタ300の詳細は特開2013−218837号公報に記載されている。図3(a)は、コネクタ300に接続対象物400を挿入する前の状態の斜視図であり、図3(b)は、コネクタ300に接続対象物400を挿入した状態の斜視図である。図3(c)は、コネクタ300に接続対象物400を挿入した状態の断面図である。矢印DIは接続対象物400の挿入方向を示している。コネクタ300は、導電性フォルダ320と、コンタクト340を備えている。図3の大電流用コネクタ300に本発明の接点部材を適用する場合、矢印Cで示すように、コンタクト340の表面と、接続対象物400の表面全体に上記組成物を塗布または浸漬して、被膜を形成すればよい。
【0052】
図4(a)〜(c)は、大電流用コネクタの別の一例の斜視図である。図4(a)に示す大電流用コネクタ500,600は、図4(b)に示すように、それぞれ、ソケットコンタクト510およびソケットハウジング520、ピンコンタクト610およびピンハウジング620で構成されている。図4(c)は、ソケットコンタクト510およびピンコンタクト610の斜視図である。図4の大電流用コネクタ500,600に本発明の接点部材を適用する場合、矢印Cで示すように、ソケットコンタクト510の表面と、ピンコンタクト610の表面に上記組成物を塗布または浸漬して、被膜を形成すればよい。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されない。
なお、実施例の説明において、金属の名称を元素記号、例えば銀はAg、銅はCuで示す場合もある。
【0054】
<組成物の調製>
(使用材料)
下記表に示す組成物の成分は以下である。
フッ素系溶剤
バートレルXF(商品名、三井・ケマーズフロロプロダクツ社製):下記式の化合物を成分とする。
【0055】
【化1】
【0056】
極性基を有するフッ素系オイル(特定オイル)
1H,1H−パーフルオロ(2,5,8,11,14−ペンタメチル−3,6,9,12,15−オキサオクタデカン−1−オール)(下記式)
【化2】
【0057】
1H,1H,2H,2H−パーフルオロデカンチオール(下記式)
【化3】
【0058】
金属粒子
銀粒子:シルベスト還元銀AGS−050(商品名)、粒径0.5μm(徳力本店製)
【0059】
(組成物の種類)
上記した成分を後述する表1および2に示す組成で混合して、組成物を調製した。なお、組成物中、特定オイルと金属粒子とが相互作用して上記した特定金属粒子が形成され、特定オイルの一部がそのまま組成物中に残存する。つまり、得られた組成物1〜2、11〜20には、特定オイルと、特定金属粒子とが含まれていた。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
<接点部材の製造>
評価試験(摺動試験)用サンプルの製造のために、以下のプローブおよびプレートを用意した。
・プローブ:ピンプローブ
接点形状:曲率半径が1mmの球形
母材:C1100(タフピッチ銅)
めっき種:軟質Agめっき
めっき厚:5μm
・プレート:テストピース
母材:C1100(タフピッチ銅)
めっき種:軟質Agめっき
めっき厚:5μm
プローブおよびプレートともに、Agめっき後に変色防止処理(アルカンチオール膜形成)を行ったサンプルと、変色防止処理を行わない(Agめっき面のまま)サンプルの2種類を用意した。
【0063】
次に、上記で製造した組成物を用いて、ディップ法でプローブおよびプレートにそれぞれ各種組成物を塗布した。塗布後に、常温にて1時間自然乾燥して、所定の被膜を有するプローブおよび所定の被膜を有するプレートを作製した。
上記作製されたプローブおよびプレートは、接点部材に該当する。
【0064】
<評価>
(評価手順)
後述する測定装置および測定条件にて、上記で作製した所定の被膜を有するプレートを、所定の被膜を有するプローブでこすりながら、摩擦係数と、接触抵抗とを測定した。接触抵抗に関しては、摺動開始時および摺動時の接触抵抗を測定した。また、摩擦係数に関しては、摺動時の摩擦係数を測定した。
CCDカメラによるリアルタイム観察を同時に行い、母材であるCu素地の露出が確認された時点で試験を終了した。
【0065】
・測定装置
接触電気抵抗同時計測型摩擦摩耗試験機FPR−2300(レスカ社)0024
・測定条件
摺動距離:10mm
摺動速度:10mm/s
接触荷重:6N
往復回数:Cu素地の露出確認後、試験終了
【0066】
(評価基準)
上記試験を行い、以下の(1)〜(4)の4つの項目を評価した。
(1)接触抵抗(摺動開始時)
(2)接触抵抗(摺動時)
(3)摩擦係数(摺動時)
(4)Cu素地が露出するまでの摺動回数
上記(1)〜(4)の項目に関しては、それぞれ、後述する表3に示す基準値を満たす場合に、所望の効果があると判断する。例えば、接触抵抗(摺動開始時)に関しては、2.00mΩ未満であれば、所望の効果があると判断する。
【0067】
【表3】
【0068】
なお、後述する表4〜9中の「効果」欄において、上記評価項目の基準値を全て満たす場合を「○」と表記し、その中でも特に特性が優れる例を「◎」とする。
上記評価項目のうち、いずれか1つでも満たさない場合には「×」と表記する。
【0069】
<実施例1〜2、比較例1>
組成物1,2を用いた結果を後述する表4に示す。表4中、接触抵抗(摺動開始時)は、摺動回数2回までの最大値を示す。接触抵抗(摺動時)および摩擦係数(摺動時)は、摺動回数3から、Cu素地が露出するまでの最大値を示す。これらの点については、後述する表5〜10も同様である。
なお、比較例1では、組成物によるプローブおよびプレートの処理を実施していない。つまり、比較例1において、プローブおよびプレートは所定の被膜を有さない。
また、図5(比較例1)、図6(実施例1)、および、図7(実施例2)に、具体的な実験結果を示す。
【0070】
【表4】
【0071】
比較例1と比べ、実施例1,2ではCu素地が露出されるまでの摺動回数が延びており摺動耐久性が向上した。実施例1がより好適であり、主鎖が類似した構造でも、極性基として水酸基を有する1H,1H−パーフルオロ(2,5,8,11,14−ペンタメチル−3,6,9,12,15−オキサオクタデカン−1−オール)の方がより好ましいことがわかった。
【0072】
<実施例3〜4、比較例2>
組成物16を用いた結果を後述する表5に示す。なお、比較例2では、組成物によるプローブおよびプレートの処理を実施していない。つまり、比較例2において、プローブおよびプレートは所定の被膜を有さない。
【0073】
【表5】
【0074】
比較例2は、Agめっき表面に硫化防止処理として、アルカンチオールの被膜を形成した態様に該当する。比較例2は、比較例1の場合と比べCu素地が露出されるまでの摺動回数は100回だが、摺動開始時の接触抵抗が2.08mΩと高くなっていた。
それと比較して、実施例3および4は、低電気抵抗性および摺動耐久性の両立がなされていた。アルカンチオール膜を形成した実施例3と、形成しなかった実施例4を比較した場合、アルカンチオール膜を形成しなかった実施例4の方がより好ましいことがわかった。
【0075】
<実施例5〜10、比較例3>
組成物10〜16を用いた結果を後述する表6に示す。また、実施例10、7、6、および、5の特定金属粒子の様子を観察した偏光顕微鏡像を、図8図9図10、および、図11に示す。なお、視認性の向上のため、画像認識ソフトで特定金属粒子を黒く塗りつぶしている。
表6中、「特定金属粒子の面積率(%)」欄は、上記した被膜の法線方向から被膜を観察した際の被膜面積に対する特定金属粒子の面積の割合(%)に該当し、測定方法は上記した通りである。
【0076】
【表6】
【0077】
組成物に銀粒子を投入しなかった比較例3ではCu素地が露出されるまでの摺動回数は600回を超えるが、摺動開始時の接触抵抗も高かった。また、摩擦係数が安定でも接触抵抗が急に上昇し5mΩ以上になったため×とした。
実施例5〜10では、低電気抵抗性および摺動耐久性の両立がなされていた。
実施例5〜10の比較より、特定金属粒子の平均二次粒子径が1.7μm〜2.1μmの場合、より優れた効果が得られた。また、特定金属粒子の面積率(%)が3.6%〜15.0%の場合、より優れた効果が得られた。
【0078】
<実施例11〜15、比較例1>
組成物13、17〜20を用いた結果を後述する表7に示す。
【0079】
【表7】
【0080】
実施例11〜15では、低電気抵抗性および摺動耐久性の両立がなされていた。
特に、組成物中の1H,1H−パーフルオロ(2,5,8,11,14−ペンタメチル−3,6,9,12,15−オキサオクタデカン−1−オール)の濃度が1.500質量%〜2.500質量%の実施例12〜14のとき、特に優れた摺動耐久性を示した。言い換えれば、特定金属粒子の含有量(質量%)に対する、特定オイルの含有量(質量%)の比(特定オイルの含有量(質量%)/特定金属粒子の含有量(質量%))が、15〜25においてより優れた効果が得られた。
【0081】
<実施例16〜20>
組成物13を用いた結果を後述する表8に示す。なお、実施例16〜20では、プレートの表面粗さの最大高さRyが異なる場合の比較を行った。
【0082】
【表8】
【0083】
プレートの表面粗さの最大高さRyが0.3μm〜3.9μmの実施例16〜20は、Cu素地が露出されるまでの摺動回数が多くなっている。特に、プレートの表面粗さの最大高さRyが0.5μm〜1.7μmの実施例17〜19が好ましいことがわかった。
【0084】
<実施例21〜26、比較例4>
組成物10〜16を用いた結果を後述する表9に示す。実施例21〜26では、プレートの表面粗さの最大高さRyに対する、特定金属粒子の平均二次粒子径の比が異なる場合の比較を行った。
【0085】
【表9】
【0086】
組成物に銀粒子を投入しなかった比較例4ではCu素地が露出されるまでの摺動回数は600回以上だが、摺動開始時の接触抵抗も高かった。また、摩擦係数が安定でも接触抵抗が急に上昇5mΩ以上になったため×とした。
実施例21〜26では、低電気抵抗性および摺動耐久性の両立がなされていた。
特に、プレートの表面粗さの最大高さRyに対する、特定金属粒子の平均二次粒子径の比(二次粒子径/最大高さRy)が1.0〜1.2の例23〜25が好ましいことがわかった。
【0087】
<実施例27〜31>
評価試験(摺動試験)用サンプルとして、ビッカース硬度Hvが異なるAgめっき(ビッカース硬度Hv:180、150、120、90、60)を使用したプローブおよびプレートをそれぞれ5種類準備した。なお、プローブおよびプレートはビッカース硬度が同一のものを組み合わせて使用した。プローブおよびプレートは組成物18で処理した。結果を後述する表10に示す。
また、図12(実施例27)および図13(実施例31)に、具体的な実験結果を示す。
【0088】
【表10】

プレートとプローブのビッカース硬度が180Hv以下の実施例27〜31では、低電気抵抗性および摺動耐久性の両立がなされていた。
特に、プレートとプローブのビッカース硬度が120Hv以下の実施例29〜31が好ましいことがわかった。
【符号の説明】
【0089】
100:端子
10:接点部材
11:金属基材
12:被膜
14:金属粒子
15:極性基を有するフッ素系化合物
200:大電流用コネクタ
210:プラグコネクタ
220:プラグ部
230:レセプタクルコネクタ
240:ソケット部
250:コンタクトユニット
300:大電流用コネクタ
320:導電性フォルダ
340:コンタクト
400:接続対象物
500,600:大電流用コネクタ
510:ソケットコンタクト
520:ソケットハウジング
610:ピンコンタクト
620:ピンハウジング
【要約】
【課題】低電気抵抗および摺動耐久性を両立させた接点部材の提供。
【解決手段】金属基材と、上記金属基材上の少なくとも一部に配置された被膜とを有する接点部材であって、上記被膜が、極性基を有するフッ素系オイル、および、極性基を有するフッ素系化合物で表面処理された金属粒子を含む、接点部材。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13