【文献】
宮代 知直,「亜臨界水反応を用いた廃棄物の多目的資源化と安全性評価」,筑波大学大学院 生命環境科学研究科 生命産業科学専攻 博士(学術)学位論文,2012年1月,p.34−50
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、図面を用いて本発明の重金属類を含む廃棄物の処理装置および重金属類を含む廃棄物の処理方法の例を説明する。
【0035】
図1は、後述するように本発明の実施形態に係る重金属類を含む廃棄物の処理装置の一例の断面説明図である。
【0036】
図1に示す開閉自在の排出口16を有するとともに閉鎖空間S1を有する密閉容器12内に重金属類を含む廃棄物および前記重金属類を5CaO・6SiO
2・5H
2O結晶(トバモライト)構造中に封じ込めるための5CaO・6SiO
2・5H
2O結晶(トバモライト)が形成されるのに十分な量のCa成分原料およびSiO
2成分原料(以下、重金属類を含む廃棄物および前記Ca成分原料およびSiO
2成分原料を含む廃棄物を、略して廃棄物と称すことがある)を供給して高温高圧の蒸気を噴出しながら処理(120〜250℃、1.1〜2.1MPaで1〜8時間)(以下、亜臨界水反応あるいは水熱反応と称すことがある)すると、飽和水蒸気圧下で処理中に、下記式(3)により廃棄物に予め含まれるCa成分や新たに添加したCa成分と廃棄物に予め含まれるSiO
2成分や新たに添加したSiO
2成分が水熱反応して、安定なケイ酸カルシウム(トバモライト:5CaO・6SiO
2・5H
2O)と称される鉱物の結晶が形成される。
【0037】
6SO
2+5CaO+5H
2O→5CaO・6SiO
2・5H
2O ・・・式(3)
【0038】
トバモライトの結晶は
図4に模式的に示すようにSi−O四面体層、Ca−O八面体層、Si−O四面体層が繰り返され、Si−O四面体層とSi−O四面体層の間にカルシウムイオンがインターカレートされた層状に成長する構造になっている。
そしてこの層状結晶構造形成過程で、重金属類は前記カルシウムイオンとイオン交換反応によりカルシウムイオンを置換して層状結晶構造中に取り込まれて封じ込められる。重金属類はトバモライトの層状結晶構造中に取り込まれて封じ込められ、そのために溶出が抑制される。
【0039】
前記亜臨界水反応条件(温度、圧力、時間)は重要である。廃棄物を処理してトバモライトの層状結晶構造が形成されるとともに、層状結晶構造形成過程で重金属類がカルシウムイオンとイオン交換反応によりカルシウムイオンを置換してトバモライトの層状結晶構造中に取り込まれて封じ込められるような亜臨界水反応条件を使用することが重要である。
【0040】
図5は、重金属類としてクロムおよび鉛を含む汚染土壌を、この汚染土壌に予め含まれるSiO
2成分を利用し、前記式(3)を満足するように新たにSiO
2成分および新たにCa成分としてCaOを添加して、前記のようにして高温高圧の蒸気を噴出しながら水熱反応処理を行うと、クロムおよび鉛がトバモライトの層状結晶構造中に取り込まれて封じ込められる状態を説明する説明図である。
【0041】
前記のようにして高温高圧の蒸気により処理(120〜250℃、1.1〜2.1MPaで1〜8時間)すると、クロムおよび鉛はクロムイオンおよび鉛イオンとなって、新たに添加したCaOはカルシウムイオンとなって、そして汚染土壌に予め含まれるSiO
2成分および新たに添加したSiO
2成分はシリカイオンとなって土粒子80の表面反応層81に移行して水熱反応が行われ、土粒子80の表面にトバモライト層状結晶層82が形成される。この層状結晶構造形成過程でクロムイオンおよび鉛イオンはカルシウムイオンとイオン交換反応によりカルシウムイオンを置換してトバモライトの層状結晶構造中に取り込まれて封じ込められる。
【0042】
このように土壌中のシリカ(SiO2)および新たに添加したSiO
2成分と添加剤中の石灰分(CaO)を比較的低温(120〜250℃)で化学反応(1.1〜2.1MPaで1〜8時間)させることにより、トバモライトを合成し、化学的に安定した強度の高い結晶に成長させ、重金属類をこの層状結晶中に閉じ込めることにより、溶出を抑えることができる。
【0043】
図5に示した場合は、汚染土壌に予め含まれるSiO
2成分を利用し、前記式(3)を満足するように新たにSiO
2成分およびCa成分として新たにCaOを添加して、水熱反応を行った例を示した。
【0044】
前記式(3)に従えば、Ca/Siのモル比(理論値)は約0.8である。
しかし前記水熱反応を行うとSiO
2成分の一部が水に溶解して珪酸イオンとなり、このSiO
2成分がトバモライト層状結晶形成に寄与しない場合が発生する。そこで、前記式(3)を満足するSiO
2成分に、その分だけ予め多く配合することが好ましい。
【0045】
しかしあまり多量に配合すると、珪酸イオン濃度が高くなって後述するように重金属類がトバモライト層状結晶中に閉じ込められなくなる。
【0046】
発明者は、Ca/Siのモル比が0.6〜0.8の範囲となるように、SiO
2成分を多くして、SiO
2成分およびCa成分を配合すると、トバモライト層状結晶中への重金属類の閉じ込め率を高く維持することができることを見出した。
【0047】
このように、強固なトバモライト結晶に重金属類を閉じ込めることができるため、従来は処理困難であったクロム、鉛、カドミウム、砒素、水銀、亜鉛、銅、ニッケルなどの重金属類の溶出抑制が可能となる。
【0048】
例えば、鉛および砒素汚染の土壌で比較した場合、従来法のセメント固化では処理土が高アルカリ性になるため、原料の土壌よりも鉛の溶出量が増えてしまうが、亜臨界水処理した場合には、鉛、砒素ともに効果的に溶出が抑制され、環境庁(旧)告示46号に規定される溶出基準をクリアすることができる。
【0049】
廃棄物を前記のようにして高温高圧の蒸気を噴出しながら処理すると、大部分の重金属類は前記のようにトバモライトの層状結晶構造中に取り込まれて封じ込められるが、例えば、前記廃棄物中に陰イオンとして塩素イオン、珪酸イオン、炭酸イオン、硫酸イオン、燐酸イオンなどが存在している場合には、水蒸気に溶け込んだり、水に溶解することがある。
【0050】
そのために本発明は、密閉容器12内で廃棄物を高温高圧の蒸気を噴出しながら処理を行った後に、密閉容器12を冷却手段70により冷却して、閉鎖空間S1内の水蒸気を液化し、前記重金属類の水溶性化合物を含む処理された液体とし、この液体と前記重金属類が封じ込められたトバモライトを含む処理された廃棄物とを分離回収する構成としている。
【0051】
密閉容器12を冷却するための冷却手段70は、
図1に示したように、密閉容器12の外部表面の大部分を一体的に覆って固定して設置した中空の金属製チャンバーであって、図示しない冷却媒体源から供給される、必要に応じて温度調節された水や油や、空気や窒素などの気体などの冷却媒体が金属製チャンバーの内部を流れて密閉容器12と熱交換して冷却するように構成されている。
【0052】
一体的に覆う金属製チャンバーの例を示したが、この例に限定されることはなく、密閉容器12の外部表面の大部分を複数の金属製チャンバーで覆って固定して設置した冷却装置や、密閉容器12の外部表面に固定して設置した中空の金属製パイプであって、図示しない冷却媒体源から供給される、必要に応じて温度調節された水や油や空気や窒素などの気体などの冷却媒体が金属製パイプの内部を流れて密閉容器12と熱交換して冷却するような冷却装置や、密閉容器12の内部表面に固定して設置した中空の金属製パイプであって、図示しない冷却媒体源から供給される、必要に応じて温度調節された水や油や空気や窒素などの気体などの冷却媒体が金属製パイプの内部を流れて密閉容器12と熱交換して冷却するような冷却装置などを挙げることができる。これらは2つ以上組み合わせて使用することもできる。
【0053】
本発明の重金属類を含む廃棄物の処理装置は、例えば、合成樹脂製の注射器、血液の付着したガーゼ、紙おむつ、手術した内臓等の医療関係機関等から廃棄された医療系廃棄物、生ごみ、プラスチック等の合成樹脂製容器等の一般家庭から廃棄された家庭系廃棄物、食品加工廃棄物、農水産廃棄物、各種工業製品廃棄物、下水汚泥等の産業廃棄物等に含まれる廃棄物を高温高圧の蒸気を介して処理する装置である。さらに、処理して得られた重金属類が封じ込められたトバモライトを含む廃棄物と前記のようにして液化した液体とを簡単な操作で有効に分離して、前記廃棄物と液体とを別々に回収できる装置である。
【0054】
図1,
図2には、本発明の重金属類を含む廃棄物の処理装置(以下、単に「処理装置」ともいう)の実施の形態を示している。
図1に示すように、本実施形態に係る処理装置10は、内部に廃棄物を収容する密閉容器12と、密閉容器12内に高温高圧の蒸気を噴出する蒸気噴出手段14と、密閉容器12の底側に設けられた排出口16と、処理された廃棄物と液体とを分離回収する分離回収手段18と、を備えている。
【0055】
図1に示すように、密閉容器12は、内部に処理する廃棄物を収容する閉鎖空間S1を有する閉鎖容器であって、前記閉鎖空間S1内において高温高圧下で廃棄物を処理する容器である。
【0056】
本実施形態では、密閉容器12は、支持脚13で地面からある程度の高さに配置されるように支持されている。密閉容器12は、その径が左右方向中央部から左右両端側の端壁12a側に向けて次第に縮径された横倒し樽型形状に形成されている。密閉容器12は、例えば、耐熱耐圧性を有するように金属板を加工して形成され、廃棄物を約2m
3収容できる程度の大きさで設けられている。密閉容器12には、中央部の上方に投入部20が、中央部の底側に排出部22がそれぞれ設けられており、それぞれ開閉機構24,26により開閉されるように設けられている。
【0057】
本実施形態では、密閉容器12の閉鎖空間S1内には、蒸気噴出手段14を構成している蒸気噴出管28と、廃棄物を撹拌する撹拌手段30と、が配置されている。なお、密閉容器12には、内部圧力が設定値よりも高くなると内部蒸気を開放させる、例えば設定圧を調整可能な安全弁32が設けられている。また、安全弁32に接続された排気用管の途中には、消音・消臭・重金属類回収装置34が設けられており、安全弁32を介して排気される蒸気は消音消臭され、重金属類や重金属類化合物が回収されて、外気側に排出される。
【0058】
本実施形態では、排出口16は、
図1,
図2に示すように、密閉容器12の左右中央部の底面側に開口されており、処理された廃棄物の排出方向を下方にして設けられている。本実施形態では、排出口16の径は、例えば、300mm程度に設けられている。
【0059】
本実施形態では、排出口16には、下方に突設された排出筒36が接続されて処理された廃棄物の排出経路R1を形成しているとともに、前記排出経路R1の途中に設けられて排出口16を開閉する開閉機構26が設けられている。
【0060】
すなわち、本実施形態では、排出部22は、排出口16と、排出筒36と、開閉機構26と、を含む構成となっている。本実施形態では、開閉機構26は、例えば、中心に排出経路R1に連通する貫通孔37が設けられたボール状の弁体38を排出経路に対して直交方向に設けられた回転軸40の回りに回転させることにより前記排出経路R1を開閉するボールバルブ等の開閉弁からなる。
【0061】
密閉容器12が横倒し樽型形状に形成されているから、重力により内部の廃棄物は排出口16が設けられている中央部に向けて集まりやすく、開閉機構26を開くだけで、簡便に処理された廃棄物を排出口16から排出させることができる。
投入部20は、本実施形態では、密閉容器12に上側に投入口42が開口されており、投入口42には上方へ突設された投入筒43が取り付けられ、投入筒43内を開閉するように例えばボールバルブ等の開閉機構24が設けられている。
【0062】
開閉機構24を介して、投入口を開いて重金属を含む廃棄物および前記Ca成分原料およびSiO
2成分原料を密閉容器12内に投入でき、処理時には閉鎖して密閉容器12内の閉鎖空間S1の閉鎖状態を維持する。
【0063】
本実施形態において、蒸気噴出手段14は、密閉容器12内に高温高圧の蒸気を噴出するとともに、前記密閉容器12内を高温高圧状態とし、廃棄物を蒸気を介して処理させる。
【0064】
本実施形態では、
図1に示すように、蒸気噴出手段14は、密閉容器12内に配置され周面側に多数の蒸気噴出孔44が形成された中空管からなる蒸気噴出管28と、ボイラー等の蒸気発生装置46と、蒸気発生装置46から蒸気噴出管28内に蒸気を供給する蒸気送管47と、を含む。
【0065】
蒸気噴出手段14から密閉容器12内に噴出される蒸気は、前記密閉容器12内での処理中に5CaO・6SiO
2・5H
2O結晶(トバモライト)を効率良く生成させ、しかもその結晶構造中に前記重金属類を封じ込めることができる程度の高温高圧に設定される。本実施形態では、例えば、蒸気噴出管28から噴出される蒸気は、温度が120〜250℃、圧力が1.1〜2.1MPaである。そして、密閉容器12内を、温度120〜250℃、圧力1.1〜2MPa程度にするようになっており、1〜8時間処理を行う。
【0066】
温度が下限値未満であると、トバモライト結晶が形成されない恐れがあり、上限値を越えると、トバモライト結晶ではない他の結晶になる恐れがある。
【0067】
圧力が下限値未満であると、トバモライト結晶が形成されない恐れがあり、上限値を越えると、トバモライト結晶ではない他の結晶になる恐れがある。
【0068】
処理時間が下限値未満であると、トバモライト結晶が形成されない恐れがあり、上限値はないが処理時間があまり長いと不経済となる。
【0069】
前記範囲内で処理すると、5CaO・6SiO
2・5H
2O結晶(トバモライト)を効率良く生成させ、しかもその結晶構造中に前記重金属類を封じ込めることができる。
【0070】
本実施形態では、蒸気噴出管28は、密閉容器12の上下方向略中央位置で横方向に長く配置され、密閉容器12の両端壁12aに設けられた軸受45を介して回転自在に軸支されている。すなわち、蒸気噴出管28は、横軸周りに回転しながら放射状に蒸気を噴出しつつ蒸気を廃棄物に直接に当てるようになっている。
【0071】
なお、蒸気噴出管28は、モータ等の回転駆動装置51からチェーン等を介して回転駆動力を得て回転するようになっている。さらに、本実施形態では、蒸気噴出管28には、撹拌羽根48が取り付けられており、蒸気噴出管28が撹拌手段の回転軸49を兼用している。すなわち、本実施形態では、蒸気噴出手段14は、撹拌手段30の回転軸49を中空管とし、前記中空管の周面に複数個の蒸気噴出孔44を形成して構成された回転軸兼蒸気噴出管28を含む。
【0072】
なお、蒸気噴出手段14は、本実施形態の構成に限らず、例えば、密閉容器12内に差し込んだ管の先端から蒸気を噴出する構成、複数の蒸気噴出管を配置させた構成等、その他任意の構成でもよい。
【0073】
撹拌手段30は、密閉容器12内で処理される廃棄物を撹拌する手段であり、廃棄物をむらなく、早期に処理できる。本実施形態では、撹拌手段30は、上記の蒸気噴出管28からなる回転軸49と、前記回転軸49に取り付けられ同回転軸の周方向に広がる部位を有する撹拌羽根48と、を含む。本実施形態では、撹拌羽根48は、回転軸49の軸方向略中央位置で互いに逆巻きに設けられた、右巻き螺旋羽根48aと、左巻き螺旋羽根48bと、で形成されている。
【0074】
撹拌羽根48は、回転軸49から羽根先端までの長さが左右中央部から両端側に向けて次第に縮径されるように設けられている。これにより密閉容器12の横倒し樽型形状に対応して廃棄物を確実に撹拌できる。さらに、羽根先端と密閉容器12の内壁との間にある程度の隙間Hを形成するように設けられている。
【0075】
本実施形態では、螺旋羽根48a、48bは、廃棄物を中央部から両端壁側に向けて搬送しつつ、固形状の廃棄物を破砕しながら廃棄物を撹拌する。なお、本実施形態では、撹拌手段30により、廃棄物は最終的に、例えば、0.3〜0.8mm程度に破砕されるように設けられている。
【0076】
撹拌羽根48により両端壁12a側に搬送された廃棄物は、前記端壁12a側で後から搬送されてくる廃棄物によって押送され、密閉容器12の内壁に沿いつつ隙間Hを介してから中央に戻るように搬送されるようになっている。
【0077】
なお、撹拌手段30は、本実施形態のものに限らず、例えば、回転軸49に取り付けられた複数の板状や翼状の撹拌羽根体やロッド体で撹拌する構成、蒸気等の圧力流体で撹拌する構成等その他任意の構成でもよい。また、破砕された廃棄物の大きさは、任意に設定してもよい。
【0078】
本実施形態では、上記のように密閉容器12内で高温高圧下で撹拌しながら、所要時間、例えば1〜8時間程度処理することにより、5CaO・6SiO
2・5H
2O結晶(トバモライト)を効率良く生成させ、しかもその結晶構造中に前記重金属類を封じ込めることができる。
【0079】
なお、上記のような処理では、例えば廃棄物中に含まれるPCBの分解も期待できる。例えば、トランス油が混じった廃棄物等を処理した場合、PCB濃度が処理前には80ppmあったものが処理後には0.005ppm程度に減少したことが確認されている。
【0080】
密閉容器12内で廃棄物を高温高圧の蒸気を噴出しながら処理を行った後に、密閉容器12を冷却手段70により冷却して、閉鎖空間S1内の水蒸気を液化すると、前記重金属類の水溶性化合物を含む処理された液体が溜まり、この液体と前記重金属類が封じ込められたトバモライトを含む処理された廃棄物とが混在した状態となる。
【0081】
次に、分離回収手段18について説明する。
分離回収手段18の1例は、前記のように、
図1および
図3(a)に示されている。
図3(a)は、
図1に示した分離回収手段の一部を説明する説明図である。
【0082】
排出口16付近で処理された前記廃棄物と前記液体の混合物は一旦回収容器50−1に回収する。回収容器50−1の底部を形成する前記廃棄物は通過させないが前記液体を通過させるステンレス製メッシュ56により、前記液体が分離されて回収容器50−1の下部に配置された他の回収容器50−3内に回収される。
【0083】
前記廃棄物は回収容器50−1のステンレス製メッシュ56上に前記液体が分離されて残留するので、取り出す際には回転軸52を中心として図示しない制御された駆動装置により駆動してステンレス製メッシュ56を矢印方向に回転させ、係止部53を開放して、重力により下方に落下させ、図示しない回収容器に前記廃棄物を回収する。シンプルな構成であるとともに、簡単操作、低コスト構造で、処理された廃棄物と液体とを良好に分離回収できる。
【0084】
図3(b)は、
図1に示した分離回収手段の他の例を説明する説明図である。
図3(b)に示すように、排出口16付近で処理された前記廃棄物と前記液体の混合物は一旦回収容器50−2に回収する。そして、回収容器50−2の側壁に設置した回転軸54を中心として図示しない制御された駆動装置により駆動して回収容器50−2を回転させて傾けて、前記液体を他の回収容器50−4に回収する。前記液体を分離された前記廃棄物は回収容器50−2内に残留している。
【0085】
図3(c)は、混合物をベルトコンベア装置に供給して移動中に廃棄物と液体を分離する分離回収手段の例を説明する説明図である。
図3(c)に示すように排出口16付近で処理された前記廃棄物と前記液体の混合物は、前記廃棄物は通過させないが前記液体を通過させるステンレス製メッシュ56により形成されたベルトを備えたベルトコンベア装置80−1のベルトの一端部上に供給される。するとステンレス製メッシュ56により、前記液体は分離されてベルトコンベア装置80−1の下部に配置された他の回収容器50−5内に回収される。
前記廃棄物はベルトコンベア装置80−1のベルトの進行方向の末端部において重力により分離されて下方に落下し、回収容器50−6に回収する。
【0086】
図3(d)は、
図3(c)に示した分離回収手段の他の例を説明する説明図である。
図3(d)に示すように排出口16付近で処理された前記廃棄物と前記液体の混合物は、水平方向に対して角度θだけ傾斜させて配置した合成ゴムなどで作成されたベルトを備えたベルトコンベア装置80−2のベルトの一端部上に供給される。
【0087】
すると、前記のように角度θだけ傾斜させてあるので前記混合物から前記液体が重力により分離されて、ベルト上を進行方向の末端に向かって矢印で示したように前記廃棄物より速く流下して回収容器50−7内に回収される。
【0088】
前記角度θは前記混合物、前記廃棄物、前記液体の物性や、ベルトの材質やベルトの移動速度などに依存するので、前記混合物から前記液体が重力により分離されて、ベルト上を進行方向の末端に向かって矢印で示したように前記廃棄物より速く流下するような角度θを予めテストして決めることが好ましい。
【0089】
55は掻き取り手段であり、ベルトとは前記液体が通過する図示しない間隙をおいてベルト上方に配置されている。そして、ベルト上の前記液体が分離された前記廃棄物が掻き取り手段55により矢印で示したように掻き取られて、回収容器50−8内に回収される。
【0090】
これにより、廃棄物と同時にこの廃棄物中に含まれる細菌や悪臭成分等を含んだ状態の液体は、高温高圧の蒸気で処理させることができる。そして、処理後に分離回収される液体は、重金属類の水溶性化合物を含むが、悪臭・有害成分は分解等された状態で回収することができるので、分離回収した液体を二次処理する必要がなくなり、労力がかからず、時間短縮を図ることができる。
しかし、重金属類の水溶性化合物を液体から分離する必要がある場合は二次処理する必要がある。
【0091】
次に、本実施形態に係る重金属類を含む廃棄物の処理装置の作用について、実施形態に係る液体回収方法とともに説明する。本実施形態では、処理対象の重金属類を含む廃棄物としては、例えば、病院、大学、その他の研究所等の医療関係機関から排出される血液、手術後の内臓、脱脂綿、紙おむつ、血液供給用チューブ、点滴容器、樹脂製注射器等の医療系廃棄物とする。
【0092】
なお、注射針等の金属類やガラス製のものは予め分別して取り除かれる。排出口16の開閉機構26を閉じた状態で、密閉容器12の投入口42の開閉機構24を開いて、例えば、2m
3程度の重金属を含む廃棄物および前記Ca成分原料およびSiO
2成分原料を投入する。投入口42の開閉機構24を閉じて密閉容器12を閉鎖した状態で、前記密閉容器内に蒸気噴出手段14の蒸気噴出管28から、例えば、250℃、25atm程度に設定された高温高圧の蒸気を噴出する。
【0093】
噴出された蒸気により、密閉容器12内は例えば、250℃、2.1MPa程度の高温高圧状態となる。
【0094】
密閉容器12内で高温高圧の条件下で、回転する撹拌羽根48により廃棄物を撹拌、破砕させながら廃棄物を処理する。
処理すると、廃棄物に予め含まれるCa成分や新たに添加したCa成分と廃棄物に予め含まれるSiO
2成分や新たに添加したSiO
2成分が水熱反応して、安定なケイ酸カルシウム(5CaO・6SO
2・5H
2Oトバモライト)と称される鉱物の層状構造を有する結晶が形成され、この層状結晶構造形成過程で、重金属類は層状結晶構造中に取り込まれて封じ込められる。
【0095】
大部分の重金属類は前記のようにトバモライトの層状結晶構造中に取り込まれて封じ込められるが、前記廃棄物中に陰イオンが存在している場合には、水蒸気に溶け込んだり、水に溶解する。
また、廃棄物に含まれる(あるいは付着している)病原体等は十分に滅菌されるとともに、悪臭成分等を分解しながら処理される。
また、処理中では、廃棄物と同時に廃棄物に含まれる水分も高温高圧の蒸気で処理される。このような処理を所要時間、例えば、約40分間行なうと、廃棄物中の有機物は、例えば、0.3〜0.8mm程度の粒状に破砕された炭状態に処理される。
【0096】
上記のように廃棄物を処理した後には、密閉容器12を冷却手段70により冷却して、閉鎖空間S1内の水蒸気を液化すると、前記重金属類の水溶性化合物を含む処理された液体が溜まり、この液体と前記重金属類が封じ込められたトバモライトを含む処理された廃棄物とが混在した状態となっているので、分離回収手段18により、たとえば
図1および
図3(a)に示したように、前記混合物を一旦回収容器50−1に回収すると、回収容器50−1の底部を形成する前記廃棄物は通過させないが前記液体を通過させるステンレス製メッシュ56により、前記液体が分離されて回収容器50−1の下部に配置された他の回収容器50−3内に回収される。前記廃棄物は回収容器50−1のステンレス製メッシュ56上に前記液体が分離されて残留するので、取り出す際には回転軸52を中心として図示しない制御された駆動装置により駆動してステンレス製メッシュ56を矢印方向に回転させ、係止部53を開放して、重力により下方に落下させ、図示しない回収容器に前記廃棄物を回収する。
【0097】
処理された廃棄物は、例えば、液体が分離されており、有機物は炭となっており、重金属類が封じ込められたトバモライトおよび処理された土粒子などとなっており、運搬、管理等の際にも扱いやすい状態で回収することができる。
【0098】
これにより、一台の装置だけで、廃棄物の処理とともに、廃棄物と液体とを分離して回収することができる。また、液体と混ざった状態の扱いにくい廃棄物を外部に出す必要がなく、処理に引き続き連続して、密閉容器から直接に簡単な操作で分離回収できる。また、分離回収の構成も簡単であり、低コストで製造できる。なお、各開閉機構は、手動操作で開閉する構成でもよく、或いは電気等を用いた機械的な操作で開閉させる構成でもよい。
【0099】
以上説明した亜臨界水反応は高圧水蒸気のみを反応の原動力として使うため、薬品等の人工資材を一切使わず最も安全な処理技術といえる。亜臨界水反応(温度100〜374℃前後、圧力0.1〜22.1Mpa)は水蒸気の温度と圧力条件により
図6に示したように様々な反応領域がある。
【0100】
例えば、下水汚泥の再資源化で利用する亜臨界水処理条件は、温度200℃前後、圧力1.2〜1.6Mpaの「加水分解反応」を主反応とする領域で、人を含む動物や発酵微生物等が行う分解反応と同じ反応原理の領域を活用する。下水汚泥は加水分解によって低分子化し繊維質をグルコースやオリゴ糖類に、蛋白質はアミノ酸やペプチドへ、脂質類は有機酸類にそれぞれ加水分解が進む。このため処理汚泥の直接的マテリアル利用やメタン発酵の効率化等、多目的な資源再生システムに導入することが可能となる。
また病原微生物やウィルス等の滅菌・破壊を行え、農薬等の有害化学物質の分解及び重金属類の固化による溶出抑制等ができるなど様々な環境安全性を確保できる特徴がある。
【0101】
下水汚泥に関しては、下記のように多様な再生資源としての利用ができる。
(1)農耕地土壌改良材:下水汚泥の亜臨界水処理は安定した加水分解処理が行え、顆粒化された状態で生成できるため、利便性の高い緑農地土壌改良材とすることができる。
(2)汚泥有機肥料:下水汚泥は乾燥化や発酵させ、肥効成分や重金属の農用基準等の安全性を確認できれば「普通肥料」の一種として利用できる。
【0102】
(3)メタン発酵の前処理機能
高分子の有機物が加水分解されているため微生物分解、すなわち一次発酵の速度が速くなると同時に、ガス収率が高くなる。たとえばメタン発酵の場合は約1.5〜2.8倍にメタンガス収率が増強され、マテリアルやエネルギー回収率の増強が可能となる。
また生活系生ごみや食品廃棄物等との混合処理も可能で、下水処理場で合同処理した場合、メタン発酵発電により電力と熱源自給システムも可能となる。
以上のように様々な利用性があるが、いずれにしても重金属類の安全性確保は重要な課題となる。
【0103】
重金属類を含む下水脱水汚泥の亜臨界水処理による重金属固化特性について試験した。
(1)試験装置:
図1に示した亜臨界水処理装置は実用タイプのものとし、反応容積2m
3のバッチ処理タイプである。ボイラー能力500kg/hのものを用いた。
(2)試験条件:有機物の加水分解が主反応となる亜臨界水領域は温度200°C前後、圧力は当該温度の飽和蒸気圧で1.2〜1.6MPaである。温度・圧力条件がこれより高いと過分解となり養分の損失が生じる領域となる。したがって温度は180〜200°Cの範囲とした。
(3)試験操作:Ca成分およびSiO
2成分が予め少ないことが判っている下水脱水汚泥(含水率約78質量%)を前記亜臨界水処理装置内での処理中に少なくとも下水脱水汚泥300Kgに含まれる重金属類をトバモライト結晶構造中に封じ込めるためのトバモライトが形成されるのに十分な量のCa成分原料[CaO)]10KgおよびSiO
2成分原料[シリカ(SiO
2)]13Kgを添加し、Ca成分原料およびSiO
2成分原料を下水脱水汚泥とよく混和して添加混合後の原料を投入後、亜臨界水反応条件になるまで蒸気を圧入し、この所定条件を保ちながら必要時間の亜臨界水処理を行った。この反応時間は30minから1時間の範囲である。反応終了後は常温まで冷却し、脱気し常圧に戻したあと液化した成分を含む液体10Kgを分離し、次いで前記重金属類が封じ込められたトバモライトを含む汚泥約300Kg強(飽和蒸気の水和反応が起こり重量がやや増加)、を分離し取り出した。
【0104】
計30検体についての原料下水脱水汚泥および液化した成分を含む液体および前記重金属類が封じ込められたトバモライトを含む汚泥について、下記の分析方法で、肥料成分を含む一般有機成分と重金属類および微量化学物質の理化学分析を行った。
【0105】
処理汚泥について、その結果を、まとめて、亜臨界水処理による固化率(原料下水脱水汚泥中の重金属濃度に対する処理汚泥の濃度減少分の比率)を算出し、その平均値及び標準偏差の範囲を
図7に示した。
【0106】
MPa分析方法:
昭和48年総理府令第5号に基づく重金属の溶出試験法に準拠した。
前記重金属類が封じ込められたトバモライトを含む汚泥の分析結果の内の2つの例を表1および表2に示す。
【0107】
【表1】
【0108】
【表2】
【0109】
一方、表3に、国土交通省土木研究所が行った調査結果(「土壌の汚染に係る環境基準」環境庁告示第46号、平成3年8月)に基づいて作成した日本の下水汚泥の重金属濃度を示す。
下水汚泥の全国調査結果から、表3中に記載の土壌環境基準の最大値を亜臨界水処理によってクリアできれば、下水汚泥重金属に関する安全化を全国的に安心して図れることになる。
【0110】
【表3】
【0111】
表3から、Crは最大値が約650mg・kg
−1であり、
図7に示したCrの固化率平均45%を適用すると、亜臨界水処理を行った後には約360mg・kg
−1となるので、表1〜表3に示した肥料基準を満足する。
表3から、Pbは最大値が約180mg・kg
−1であり、
図7に示したPbの固化率平均45%を適用すると、亜臨界水処理を行った後に約99mg・kg
−1となり、100mg・kg
−1を僅かであるが下回り表1〜表3に示した肥料基準値以下となる。
表3から、Cdは最大値が7.4mg・kg
−1であり、
図7に示したCdの固化率平均約58%を適用すると、亜臨界水処理を行った後に約3.1mg・kg
−1となり表1〜表3に示した肥料基準値を下回る。
表3から、Asは最大値が101mg・kg
−1であり、
図7に示したAsの固化率平均約57%とすると、亜臨界水処理を行った後に約44mg・kg
−1となるので、表1〜表3に示した肥料基準を満足する。
同様にして表3から、Hgは最大値が7.3mg・kg
−1であり、
図7に示したHgの固化率平均約78%とすると、亜臨界水処理を行った後に約1.6mg・kg
−1となるので、表1〜表3に示した肥料基準を満足する。
表3から、Znは最大値が3020mg・kg
−1であり、
図7に示したZnの固化率平均約75%をすると、亜臨界水処理を行った後に約755mg・kg
−1となるが、亜鉛、銅については肥料基準ではなく土壌濃度基準にしており、下水汚泥を肥料として施用後の土壌と混合した時に、120mg・kg
−1となることが求められている。注意深い施用によって、表1〜3に示した土壌環境基準を守ることが出来る。
表3から、Niは最大値が417mg・kg
−1であり、
図7に示したNiの固化率平均約60%とすると、亜臨界水処理を行った後に約167mg・kg
−1となるので、表1〜表3に示した肥料基準を満足する。
【0112】
以上から、亜臨界水処理によって、全国的に下水汚泥の重金属の固化による農用地基準値(肥料基準)を満足できる汚泥資源化製品を製造することが可能であると考えられる。
【0113】
なお、亜鉛については土壌汚染の未然防止を目的に、監視上有効な物質であることから農用地土壌の自然賦存量から亜鉛濃度120ppmの管理基準が定められている(「農用地における土壌中の重金属などの蓄積防止に係る管理基準について」、昭和59年11月環境庁水質保全局長通達)。これは亜鉛を指標にすることにより、カドミウムやヒ素など有害物質の蓄積を最小限に抑えることを目的として設定されている。この120ppmという値は、あくまで農地に散布した後の土壌に関する管理濃度であることに留意する必要がある。
【0114】
表3に記載した溶出基準(前記土壌環境基準)は重金属の地下水汚染防止を目的として設定されているものである。これは重金属を含む地下水を生涯飲み続けても安全である基準として設定されており、一定の溶出操作をして溶出液の濃度を測定して判定される。
前記のように、どの重金属類も亜臨界水処理後は溶出基準値以下であることが確認された。
【0115】
全ての試料について、亜臨界水処理をすることにより、土壌環境基準はもとより、農用基準を下回り重金属に対し安全な有機肥料(堆肥を含む)とすることができることが判った。
【0116】
「亜臨界水処理技術」を下水汚泥に適用することにより、重金属を無害化レベルまで固化し溶出抑制が可能であることを示した。すなわち、農用の重金属含有基準を既往の最大濃度の下水汚泥でも満足させることができ、また短時間で安全な汚泥肥料化が直接行えることを実証的に示した。
分離した前記液体についても、前記の分析方法で、肥料成分を含む一般有機成分と重金属類および微量化学物質の理化学分析を行った一例を次に示す。
前記液体中の92.7質量%はpH4.8の水であった。前記液体中の固形分中の有機炭素は3.6質量%であった。
【0117】
前記液体中の肥料分および重金属の含有量を次に示す。
全窒素 6.700mg/L
全燐酸(P
2O
5) 2.100mg/L
重金属:
Cr 0.3mg/L
Pb 0.01mg/L
Cd 0.01mg/L未満
As 0.27mg/L
Hg 0.0005mg/L未満
Zn 43.05mg/L未満
Cu 2.1mg/L
Ni 0.6mg/L
【0118】
分離した前記液体は、重金属に関する水の環境基準と排水基準に従って、また重金属以外の水質汚染物質も含まれているので、排水基準に従って、しかるべき水処理を行って、排水する。また下水処理場では水処理系統に返送して処理してから公共水域に排水する。
【0119】
次に、亜臨界水処理設備の経済性について記載する。
亜臨界水処理設備の構成は、
図1にも示したように、(1)高圧蒸気ボイラー、(2)圧力タンク(撹拌機付)、(3)温度圧力制御盤、(4)原料及び処理性製品の投入・移送・貯留設備の4つである。
主な投入資源はボイラー用燃料(A重油等)と駆動モーター及び水である。これらのエネルギー消費量は処理量当たり、水約20L/t、電力消費量は25kwh/t程度である。
【0120】
従来の炭化設備の場合と対比すると、エネルギー投入では1/3程度また建設費では1/3〜1/4程度となり経済性の高い方法である。
以上のように、亜臨界水処理により、下水汚泥を安全な有機質資源にできることを示した。我が国では農業経済の衰退傾向から農業従事者の減少とともに遊休農地が拡大している。農業生産は生活を支える基盤産業として重要であり、地域生産の向上策は重要である。このためには農耕地土壌を活性化させ再生生産能力のある土壌づくりは重要である。
【0121】
加えて、機能性の高い堆肥製造が可能なため農産品の品質向上と相まって農業経済の効率化が達成可能である。また我が国の耕作放棄地などの農耕地土壌の修復には有機質による改質改善が重要であり、亜臨界水処理による安全化された下水処理汚泥の積極的有効利用の促進が費用対効果の面から強く望まれるところである。
【0122】
以上説明した本発明の重金属を含む廃棄物の処理装置及び重金属類を含む廃棄物の処理方法は、上記した実施形態のみの構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の本質を逸脱しない範囲において、任意の改変を行ってもよい。