(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内燃機関における気筒の燃焼室内の燃焼圧力を検出可能とするように前記気筒にその外側から接触し、かつ前記燃焼圧力に応じて圧力信号を出力するように構成される座金型の圧力センサと、
前記内燃機関のクランクシャフトのクランク角を取得するように構成されるクランク角取得部と
を備え、
前記内燃機関を前記気筒内のノッキングの発生に応じて制御可能に構成される内燃機関の制御装置であって、
前記圧力信号を前記クランク角に関連付けた角度−圧力信号を算出するように構成される角度−圧力信号算出部と、
点火プラグによる点火後の前記角度−圧力信号を用いて、前記気筒内のノッキング強度の推定値を算出するように構成されるノッキング強度推定部と、
前記ノッキング強度の推定値に基づいて、前記気筒内でノッキングが発生したか否かを判定するように構成されるノッキング判定部と
を備え、
前記ノッキング強度推定部が、
前記角度−圧力信号に基づいて、前記燃焼室内の各燃焼サイクルにて、前記クランク角の一定区間にて変化する前記角度−圧力信号の強度の割合である複数の変化率を算出するように構成される変化率算出部と、
前記燃焼室内の各燃焼サイクルにおける前記複数の変化率のうち1つの選別変化率を選別するように構成される変化率選別部と、
前記選別変化率を用いて、前記ノッキング強度の推定値を算出するように構成される強度推定値算出部と
を有する、内燃機関の制御装置。
前記角度−圧力信号算出部が、前記内燃機関の吸気バルブ及び排気バルブの両方を閉じた状態の前記クランク角の範囲内で前記角度−圧力信号を算出するように構成されている、請求項1の内燃機関の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態に係る内燃機関の制御装置を含む制御システムについて以下に説明する。なお、好ましい一例として、本実施形態に係る制御装置により制御される内燃機関は、自動車に搭載される自然吸気方式のガソリン直噴エンジンとする。また、内燃機関は、火花点火方式のレシプロエンジンであればよく、例えば、かかるレシプロエンジンは、PFI(Port Fuel Injection、吸気ポート燃料噴射)方式のガソリンエンジン、NVO(Negative Valve Overlap)方式又はポート噴射方式のHCCIエンジン、ディーゼルエンジン、CNG(Compressed Natural Gas、圧縮天然ガス)エンジンであってもよい。
【0011】
なお、レシプロエンジンは、特に、4ストローク方式のものであると好ましい。しかしながら、レシプロエンジンは、2ストローク方式のものとすることもできる。レシプロエンジンは、特に、複数の気筒を有すると好ましい。しかしながら、レシプロエンジンは、単気筒のものとすることもできる。内燃機関は、自動車以外の車両に搭載されてもよく、例えば、内燃機関は、自動二輪車に搭載されてもよい。内燃機関はまた、発電用の内燃機関、各種作業機械等に搭載される汎用エンジン、船内機、船外機、船内外機等であってもよい。
【0012】
[制御システムの概略について]
最初に、制御システムの概略について説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る制御システムは、ガソリン直噴エンジン(以下、単に「エンジン」という)1と、自動車のアクセル操作部として構成されるアクセルペダル2と、エンジン1を制御可能に構成される制御装置3とを備える。エンジン1は複数の気筒11を有し、
図1においては、エンジン1における複数の気筒11のうち1つの断面が模式的に示されている。
【0013】
アクセル操作部は、アクセルペダル以外であってもよく、特に、自動二輪車の場合、アクセル操作部はアクセルグリップであるとよい。制御装置3は、エンジン1の制御に用いられる制御ユニットとして構成されるECU(Engine Control Unit)31と、各気筒11に取り付けられる座金型の圧力センサ(以下、「座金センサ」という)32とを有する。
【0014】
ECU31は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等の電子部品、かかる電子部品等を配置した電気回路等を含むように構成されると好ましい。また、座金センサ32は圧電素子(図示せず)を有し、特に
図2に断面を示すように、座金センサ32は略リング形状に形成されている。かかる座金センサ32が、各気筒11の燃焼室12内の燃焼圧力を検出可能とするように各気筒11にその外側から接触した状態で取り付けられている。なお、座金センサ32は、複数の気筒11のうち少なくとも1つに取り付けられていればよいが、特に、座金センサ32は複数の気筒11の全てに取り付けられると好ましい。
【0015】
このような制御システム及びその制御装置3は、ノッキングの判定精度及びノッキングに対する応答性を高めることができ、かつノッキングを確実に解消できるように、座金センサ32によって検出された燃焼圧力を用いて気筒11のノッキングの発生を検知する構成となっている。また、制御システム及びその制御装置3は、ノッキングを解消できるようにエンジン1を制御可能とする構成となっている。
【0016】
[エンジンの詳細について]
ここで、
図1を参照してエンジン1の詳細について説明する。エンジン1の複数の気筒11はシリンダブロック13によって画定されている。エンジン1は、各気筒11内をその軸線方向に往復運動可能に構成されるピストン14を備える。各気筒11の頂部側にはシリンダヘッド15が配置されている。燃焼室12は、気筒11とピストン14とシリンダヘッド15とによって囲まれている。
【0017】
シリンダブロック13に対して気筒11の底部側にはクランクケース16が配置され、クランクケース16内にはクランクシャフト17が配置されている。各気筒11内のピストン14は、コネクティングロッド18を介してクランクシャフト17に連結されている。ピストン14の往復運動はクランクシャフト17の回転運動に変換されるようになっている。
【0018】
シリンダヘッド15には、燃焼室12内で火花放電を可能とするように構成される点火プラグ19が取り付けられている。また、シリンダヘッド15には吸気ポート20及び排気ポート21が接続されている。吸気ポート20は、シリンダヘッド15との接続部にて燃焼室12に向けて開口する吸気開口部20aを有し、かつ排気ポート21は、シリンダヘッド15との接続部にて燃焼室12に向けて開口する排気開口部21aを有する。吸気ポート20は、空気を燃焼室12に送る経路を画定し、かつ排気ポート21は、燃焼室12内の燃焼後に発生する排気ガスを触媒(図示せず)に向けて送る経路を画定している。しかしながら、本発明はこれに限定されず、PFI方式のエンジンの場合には、吸気ポートが、燃料及び空気を含む予混合気を燃焼室に送る経路を画定するとよい。さらに、吸気開口部20aは吸気バルブ22によって開閉可能になっており、かつ排気開口部21aは排気バルブ23によって開閉可能になっている。
【0019】
吸気ポート20に対して空気流の上流側にはスロットルバルブ24が配置されており、スロットルバルブ24は、吸気ポート20から燃焼室12に送られる空気の流量を調節可能とするように構成されている。シリンダヘッド15にはまた、直噴用インジェクタ25が取り付けられており、直噴用インジェクタ25は、燃焼室12内に燃料を直接噴射するように構成されている。
【0020】
エンジン1においては、吸気ポート20から送られる空気と直噴用インジェクタ25から噴射される燃料とによって、燃焼室12内にて混合気を生成できるようになっている。また、エンジン1は、点火プラグ19を用いて燃焼室12内にて火花放電を発生させることによって燃焼のための火炎核を発生させるように構成されている。
【0021】
特に、4ストローク方式であるエンジン1の1回の燃焼サイクルにおいては、燃焼行程ST1、排気行程ST2、吸気行程ST3、及び圧縮行程ST4がかかる順番にて行われる。1回の燃焼サイクルにおいて、クランクシャフト17は2回転する。そのため、1回の燃焼サイクルにおいて、クランクシャフト17のクランク角は原則的には720°変化し、基本的には、燃焼行程ST1、排気行程ST2、吸気行程ST3、及び圧縮行程ST4のそれぞれにおいて、クランクシャフト17のクランク角は原則的には180°変化する。
【0022】
[制御装置の詳細について]
次に、制御装置3の詳細について説明する。特に
図2に示すように、座金センサ32は、シリンダヘッド15と点火プラグ19との間にて締め付けられている。そのため、燃焼室12内での燃焼に起因して振動が発生すると、かかる振動によって座金センサ32の締付荷重が圧縮方向又は弛緩方向に変化し、締付荷重の変化によって圧電素子の表面電位が変化する。座金センサ32は、圧電素子の表面電位の変化に応じた電荷信号(以下、「圧力信号」という)を出力する。しかしながら、本発明はこれに限定されず、座金センサは、気筒の燃焼室内の燃焼圧力を検出可能であれば、シリンダヘッドと点火プラグ以外の部材との間に締め付けられてもよい。かかる座金センサ32は、燃焼室12内の燃焼圧力に応じて圧力信号を生成することができる。
【0023】
図1に示すように、制御装置3はまた、クランクシャフト17のクランク角を検出可能なクランク角検出部として構成されるクランク角センサ33を有する。クランク角センサ33は、クランクシャフト17の回転速度、すなわち、エンジン1の回転速度を検出することもできる。クランク角センサ33は、特に、クランクシャフト17に取り付けられたタイミングロータ(図示せず)の回転角度及び回転速度を非接触式に検出可能に構成され、かつタイミングロータの周囲に配置されると好ましい。
【0024】
さらに、制御装置3は、スロットルバルブ24の開度を検出可能なスロットル開度検出部として構成されるスロットル開度センサ34と、アクセルペダル2の操作量を検出可能なアクセル操作量検出部として構成されるアクセルセンサ35とを有する。制御装置3はまた、吸気ポート20内の空気の圧力を検出可能な吸気圧検出部として構成される吸気圧センサ36と、燃焼室12から排気ポート21に送られた排気ガス中の酸素濃度及び未燃ガス濃度に基づいて燃焼室12内の混合気の空燃比を検出可能な空燃比検出部として構成されるLAFセンサ(Linear Air-Fuel ratio sensor)37とを有する。吸気圧センサ36は、吸気バルブ22とスロットルバルブ24との間の吸気ポート20上に配置されている。LAFセンサ37は排気ポート21上に配置されている。
【0025】
[ECUの詳細について]
図3を参照して制御装置3のECU31の詳細について説明する。座金センサ32から送られる圧力信号は微弱であるので、ECU31は、この圧力信号を受け取り、かつ圧力信号を増幅するように構成される圧力信号増幅部41を有する。圧力信号増幅部41は座金センサ32と電気的に接続されている。
【0026】
ECU31は、圧力信号増幅部41により増幅された圧力信号を取得可能に構成される圧力信号取得部42と、クランク角センサ33から送られるクランク角の検出値θを取得するように構成されるクランク角取得部43とを有する。ECU31はまた、圧力信号取得部42により取得された圧力信号をクランク角取得部43により取得されたクランク角の検出値θに関連付けた角度−圧力信号を算出するように構成される角度−圧力信号算出部44を有する。
【0027】
角度−圧力信号算出部44は、吸気バルブ22及び排気バルブ23の両方を閉じた状態に対応するクランク角の検出値θの範囲内で角度−圧力信号を算出すると好ましい。なお、典型的には、吸気下死点から排気下死点までの間に吸気バルブ22及び排気バルブ23の両方が閉じる。さらには、角度−圧力信号算出部44は、点火プラグ19の点火開始時期から起算したクランク角の検出値θの範囲で角度−圧力信号を算出すると好ましく、特に、角度−圧力信号算出部44は、点火開始時期から燃焼終了時期までの期間に対応するクランク角の検出値θの範囲で、角度−圧力信号を算出するとより好ましい。角度−圧力信号算出部44はまた、点火開始時期からそれ以降最初に現れる角度−圧力信号の最大ピークまでの期間で、角度−圧力信号を算出するとより好ましい。
【0028】
ここで、典型的な角度−圧力信号の概略を
図4に示す。なお、
図4において、横軸θはクランク角の検出値θ(°)を示し、縦軸Iは角度−圧力信号の強度I(V)を示し、かつ実線L1が角度−圧力信号を示す。気筒11内においては、クランク角の検出値θが原則的に0°〜180°の範囲にあるときに燃焼行程ST1が行われ、クランク角の検出値θが原則的に180°〜360°の範囲にあるときに排気行程ST2が行われ、クランク角の検出値θが原則的に360°〜540°の範囲にあるときに吸気行程ST3が行われ、かつクランク角の検出値θが原則的に540°〜720°の範囲にあるときに圧縮行程ST4が行われる。この場合、クランク角の検出値θが原則的に180°である状態が排気下死点に相当し、クランク角の検出値θが原則的に540°である状態が吸気下死点に相当する。このような角度−圧力信号は、圧縮行程ST4から燃焼行程ST1に渡る期間にて突出するパルス波形を有する。かかるパルス波形は燃焼行程ST1にて最大ピークに達する。
【0029】
再び
図3を参照すると、ECU31は、所定の遮断周波数よりも高い周波数の成分を逓減するフィルタ処理を、角度−圧力信号算出部44から送られる角度−圧力信号に施すように構成されるフィルタ部45を有すると好ましい。フィルタ部45は、ローパスフィルタ処理又はバンドパスフィルタ処理を実施するように構成されている。遮断周波数は、FFT解析(Fast Fourier Transform Analysis、高速フーリエ変換解析)等の手法を用いて、エンジンの駆動振動等に起因するノイズ信号の周波数帯域を確認した上で設定されるとよい。例えば、ノイズ信号の周波数帯域が約100Hz〜500Hzであることが確認された場合、遮断周波数は約100Hzに設定されるとよい。しかしながら、本発明はこれに限定されず、遮断周波数は、ノイズ信号を除去でき、かつ燃焼室内の燃焼に起因する角度−圧力信号を精度良く抽出できれば、その他の値になっていてもよい。
【0030】
ECU31は、角度−圧力信号算出部44からフィルタ部45を経由して送られる角度−圧力信号を用いて、気筒11内のノッキング強度(Knocking Intensity)の推定値Kを算出するように構成されるノッキング強度推定部46と、このノッキング強度推定部46により算出されたノッキング強度の推定値Kを用いて、気筒11内でノッキングが発生したか否かを判定するように構成されるノッキング判定部47とを有する。
【0031】
本実施形態では、ノッキング強度は、筒内圧力センサにより取得される角度−圧力信号(以下、「筒内角度−圧力信号」という)にハイパスフィルタ処理を施し、かつ絶対値化したものの最大振幅値として定義する。なお、筒内圧力センサは、燃焼室内で直接的に燃焼圧力を検出するように構成される圧力センサとする。かかるノッキング強度は、
図5(a)〜
図5(c)に示すようなプロセスを経て得ることができる。
図5(a)〜
図5(c)においては、横軸θはクランク角の検出値θ(°)を示し、かつ縦軸Pは筒内圧力センサにより得られた燃焼圧力(以下、「筒内圧力」という)の検出値P(bar)を示す。
【0032】
具体的には、
図5(a)の実線L2に示すような筒内角度−圧力信号に対してハイパスフィルタ処理を施し、これによって、
図5(b)の実線L3に示すように、フィルタ処理を施された角度−圧力信号を得る。フィルタ処理を施された筒内角度−圧力信号を絶対値化し、これによって、
図5(c)の実線L4に示すように、絶対値化された筒内角度−圧力信号を得る。さらに、
図5(c)に示すように、絶対値化された筒内角度−圧力信号に基づいて筒内圧力の検出値Pの最大値Pmからノッキング強度を得る。
【0033】
ECU31は、燃焼室内12における点火プラグ19による点火を調節可能に構成される点火調節部48を有する。さらに、
図1を参照して説明すると、ECU31は、クランク角センサ33から送られるエンジン1の回転速度の検出値、スロットル開度センサ34から送られるスロットル開度の検出値、アクセルセンサ35から送られるアクセル操作量の検出値に応じて定められる要求トルク、吸気圧センサ36から送られる空気の圧力の検出値、LAFセンサ37から送られる混合気の空燃比の検出値等のうち少なくとも1つに基づいて、空気の流量、混合気の空燃比等を調節するように構成されている。空気の流量は、吸気バルブ22の開閉時期、スロットルバルブ24の開度等の制御によって調節することができる。混合気の空燃比は、直噴用インジェクタ25からの燃料噴射量等の制御によって調節することができる。
【0034】
[ノッキング強度推定部の詳細について]
図3を参照してECU31のノッキング強度推定部46の詳細について説明する。ノッキング強度推定部46は、角度−圧力信号上で、燃焼室12内の各燃焼サイクルにおいてクランク角の検出値θの一定区間にて変化する角度−圧力信号の強度Iの割合である複数の変化率C(=dI/dθ)を算出するように構成される変化率算出部51を有する。かかる変化率算出部51は算出した変化率Cを記憶可能になっている。また、変化率Cを定めるクランク角の検出値θの一定区間は、デジタル化された角度−圧力信号の分解能に応じて定められるとよい。例えば、かかる一定区間は約1°とすることができる。しかしながら、本発明はこれに限定されず、クランク角の検出値θの一定区間は、約0.05°以上かつ約5°以下の範囲内にて定められてもよい。
【0035】
ノッキング強度推定部46は、燃焼室12内の各燃焼サイクルにおいて変化率算出部51により算出された複数の変化率Cのうち最大値(以下、「最大変化率」という)Mを選別するように構成される変化率選別部52を有する。具体的には、変化率選別部52は、1つの燃焼サイクルにおいて変化率算出部51により記憶された複数の変化率Cから最大変化率Mを選別する。しかしながら、本発明はこれに限定されず、変化率選別部は、最大変化率Mと実質的に等しい値が得られるのであれば、最大変化率M以外の変化率Cを選別してもよい。例えば、変化率選別部は、複数の変化率Cのうちn番目に大きなものを選別してもよい。なお、nは2以上の整数とし、特に、nは2又は3であると好ましい。また、変化率選別部52は、算出した最大変化率Mを記憶可能であると好ましい。
【0036】
ここで、クランク角の検出値θの一定区間にて変化する筒内圧力の検出値Pの割合である筒内変化率Dを算出し、かつ
図6に示すように、燃焼室12内の各燃焼サイクルにて算出される複数の筒内変化率Dの最大値(以下、「筒内最大変化率」という)Nを算出したと想定した場合、
図6及び
図7に示すように、最大変化率Mは筒内最大変化率Nに対して高い相関性を有する。さらに、上述のようにノッキング強度は筒内最大変化率Nに対して高い相関性を有するので、最大変化率Mはノッキング強度に対して高い相関性を有する。具体的には、最大変化率M及び筒内最大変化率Nは、
図6及び
図7に示すような約0°から30°までのクランク角の検出値θの範囲、特に、点火プラグ19の点火開始時期からそれ以降最初に現れる角度−圧力信号及び筒内角度−圧力信号の最大ピークまでの期間にて得ることができ、かかる期間にて得られる最大変化率M及び筒内最大変化率Nは互いに対して高い相関性を有する。
【0037】
なお、
図6においては、横軸θはクランク角の検出値θ(°)を示し、縦軸Pは筒内圧力の検出値P(bar)を示し、実線L5は筒内角度−圧力信号を示し、かつ筒内最大変化率Nは、Δθにより示されたクランク角の検出値θの一定区間にて筒内圧力の検出値Pの最大変化量ΔPが得られている筒内角度−圧力信号の領域にて算出される。
図7においては、横軸θはクランク角の検出値θ(°)を示し、縦軸Iは座金センサ32に基づく角度−圧力信号の強度I(V)を示し、実線L6は筒内角度−圧力信号を示し、かつ最大変化率Mは、Δθにより示されたクランク角の検出値θの一定区間にて角度−圧力信号の強度Iの最大変化量ΔIが得られている角度−圧力信号の領域にて算出される。
【0038】
ノッキング強度推定部46は、このような最大変化率Mとノッキング強度との高い相関性に基づいて、変化率選別部52により算出された最大変化率Mからノッキング強度の推定値Kを算出可能に構成される強度推定値算出部53を有する。強度推定値算出部53には、最大変化率Mとノッキング強度との関係を予め定義したノッキング強度マップが格納されており、強度推定値算出部53は、かかるノッキング強度マップに基づいて、最大変化率Mからノッキング強度の推定値Kを算出すると好ましい。最大変化率Mとノッキング強度との関係は、運転条件に応じた適合試験等の実験、数値シミュレーション等の結果に基づいて予め求められるとよい。
【0039】
しかしながら、本発明はこれに限定されず、強度推定値算出部は、最大変化率Mとノッキング強度との関係を予め定義した計算式に基づいて、最大変化率Mからノッキング強度の推定値Kを算出してもよい。また、強度推定値算出部は、最大変化率Mから筒内最大変化率Nを算出し、さらに、かかる筒内最大変化率Nからノッキング強度の推定値Kを算出してもよい。最大変化率Mと筒内最大変化率Nとの関係と、ノッキング強度との筒内最大変化率Nとの関係とは、運転条件に応じた適合試験等の実験、数値シミュレーション等の結果に基づいて予め求められるとよい。
【0040】
[ノッキング判定部の詳細について]
ECU31のノッキング判定部47の詳細について説明する。
図3に示すように、ノッキング判定部47は、ノッキング強度の推定値Kが第1のノッキング閾値T1よりも小さい場合に、ノッキングが発生していないと判定し、かつノッキング強度の推定値Kが第1のノッキング閾値T1以上である場合に、ノッキングが発生したと判定するように構成されるノッキング発生判定部61を有する。ノッキング判定部47はまた、強度推定値算出部53により算出されたノッキング強度の推定値Kを、複数の強度レベルのいずれに対応するかを識別するように構成されるノッキング強度識別部62を有する。複数の強度レベルは、人間の聴覚により予め設定されたものであるとよい。
【0041】
本実施形態においては、
図8に示すように、4つの強度レベル、すなわち、第1〜第4の強度レベルLv1〜Lv4が設定されている。なお、5つ以上の強度レベルが設定され場合には、後述するノッキング強度の判定精度をより高めることができる。
図8においては、横軸Kがノッキング強度の推定値K(bar)を示し、縦軸Lvは強度レベルを示し、かつ実線L7は、ノッキング強度の推定値Kと強度レベルとの相関性を表す線形関数を示す。
【0042】
かかる
図8に示すように、第1〜第4の強度レベルLv1〜Lv4はかかる順に大きくなっている。具体的には、第1の強度レベルLv1は、第1のノッキング閾値T1よりも小さいノッキング強度の推定値Kの範囲に対応しており、「ノッキングなし」として評価される。第2の強度レベルLv2は、第1のノッキング閾値T1以上かつ第2のノッキング閾値T2よりも小さいノッキング強度の推定値Kの範囲に対応しており、「トレースノッキング」として評価される。第3の強度レベルLv3は、第2のノッキング閾値T2以上かつ第3のノッキング閾値T3よりも小さいノッキング強度の推定値Kの範囲に対応しており、「ライトノッキング」として評価される。第4の強度レベルLv4は、第3のノッキング閾値T3以上であるノッキング強度の推定値Kの範囲に対応しており、「ヘビーノッキング」として評価される。
【0043】
また、複数の強度レベルは次のように予め設定することができる。すなわち、試験者が、筒内角度−圧力信号を用いてノッキング強度を算出すると同時に、シリンダブロック13の表面近傍に設置したマイクにより取得した音を聴く。さらに、試験者が、このように音を聴きながら、ノッキングに起因する振動音を聴き分け、かつかかる振動音の大きさを複数の強度レベルに分ける。さらに、ノッキング強度と複数の強度レベルとの対応関係を定める。なお、マイクにより取得した音は、イコライザ(音声信号の周波数特性等を変更する音響装置)等を用いて、ノッキングに起因する振動音の周波数帯域(一般的に、5kHz〜20kHz)にて強調させるように処理されるとよい。
【0044】
[点火調節部の詳細について]
図3を参照してECU31の点火調節部48の詳細について説明する。点火調節部48は、クランク角センサ33から送られるエンジン1の回転速度の検出値及びスロットル開度センサ34から送られるスロットル開度の検出値に基づいて、気筒11の燃焼室12内にて点火プラグ19による点火の時期を算出するように構成される目標点火時期算出部71と、この目標点火時期算出部71により算出された点火時期の目標値に応じて点火プラグ19の点火時期を制御するように構成される点火制御部72とを有する。
【0045】
目標点火時期算出部71は、クランク角センサ33及びスロットル開度センサ34と電気的に接続されている。目標点火時期算出部71には点火時期マップが格納されていると好ましく、さらに、目標点火時期算出部71は、点火時期マップに基づいて、エンジン1の回転速度及びスロットル開度の検出値から点火時期の目標値を算出すると好ましい。具体的には、点火時期の目標値は、点火時期マップ上でエンジン1の回転速度及びスロットル開度の検出値に対応する補正係数を用いて算出されると好ましい。しかしながら、本発明はこれに限定されず、目標点火時期算出部は、計算式に基づいてエンジンの回転速度及びスロットル開度の検出値から点火時期の目標値を算出してもよい。
【0046】
さらに、目標点火時期算出部71は、ノッキング発生判定部61が、ノッキングが発生したと判定した場合、ノッキング強度識別部62により識別された強度レベルに応じて予め設定されたリタード量(点火遅角量)に基づいて点火時期の目標値を遅らせるように補正する。この場合、目標点火時期算出部71は、点火時期マップの一部又は全体の領域における点火時期の目標値を遅らせるように点火時期マップを補正すると好ましい。特に、目標点火時期算出部71において、既定の点火時期マップが、点火時期の目標値を遅らせるように予め補正された点火時期マップに書き換えられると好ましい。
【0047】
[制御方法について]
図9を参照して、本実施形態に係るエンジン1の制御方法について以下に説明する。点火制御部72が、既定の点火時期の目標値に応じて気筒11の燃焼室12内で点火を行うように点火プラグ19を制御する(ステップS1)。圧力信号取得部42が圧力信号を取得し、かつクランク角取得部43がクランク角の検出値θを取得する(ステップS2)。角度−圧力信号算出部44が、圧力信号をクランク角の検出値θに関連付けた角度−圧力信号を算出する(ステップS3)。フィルタ部45が、角度−圧力信号に対して所定の遮断周波数よりも高い周波数の成分を逓減するフィルタ処理を施す(ステップS4)。
【0048】
変化率算出部51が、角度−圧力信号上で、燃焼室12内の各燃焼サイクルにおいて、クランク角の検出値θの一定区間にて変化する角度−圧力信号の強度Iの割合である複数の変化率Cを算出かつ記憶する(ステップS5)。変化率選別部52が、各燃焼サイクルにおいて複数の変化率Cの最大変化率Mを選別する(ステップS6)。強度推定値算出部53が、最大変化率Mに基づいてノッキング強度の推定値Kを算出する(ステップS7)。ノッキング発生判定部61が、ノッキング強度の推定値Kが第1のノッキング閾値T1よりも小さいか否かを判定する(ステップS8)。
【0049】
ノッキング発生判定部61が、ノッキング強度の推定値Kが第1のノッキング閾値T1以上であると判断した場合(NO)、ノッキングが発生したと判定する(ステップS9)。この場合、ノッキング強度識別部62が、ノッキング強度の推定値Kを第2〜第4の強度レベルLv2〜Lv4のいずれに対応するかを識別する(ステップS10)。点火時期算出部71が、識別された第2〜第4の強度レベルLv2〜Lv4の1つに応じて予め設定されたリタード量に基づいて、点火時期の目標値を遅らせるように補正する(ステップS11)。点火制御部72が、補正された点火時期の目標値に応じて気筒11の燃焼室12内で点火を行うように点火プラグ19を制御する(ステップS12)。その一方で、ノッキング発生判定部61が、ノッキング強度の推定値Kが第1のノッキング閾値T1よりも小さいと判断した場合(YES)、ノッキングが発生していないと判定する(ステップS13)。この場合、現状の点火時期を維持する(ステップ14)。
【0050】
しかしながら、本発明はこれに限定されず、本発明の制御方法においては、上記制御システムの変形例等に対応してそのステップが変更されてもよい。
【0051】
以上、本実施形態に係る制御装置3によれば、気筒11にその外側から接触するように取り付けられる座金センサ32から送られる燃焼圧力の圧力信号をクランクシャフト17のクランク角に関連付けた角度−圧力信号を用いるので、筒内角度−圧力信号のように、ノイズ除去のためにDFT、STFT等の処理を行う必要がなく、演算負荷を低減することができる。その結果、ノッキングの判定時間を短縮することができて、ノッキングを解消するための応答性を向上させることができる。さらに、上記
角度−圧力信号を用いて、気筒11内のノッキング強度の推定値Kを算出し、かかるノッキング強度の推定値Kを用いてノッキングが発生したか否かを判定するので、ノッキングの判定精度を高めることができる。ひいては、ノッキングを確実に解消することができる。付随的には、座金センサ32のコストは筒内圧力センサのコストと比較して低くすることができるので、製造コストを低減できる。また、座金センサ32が、座金型になっており、かつ気筒11にその外側から接触するように取り付けられるので、取付が容易になっている。特に、座金センサ32がシリンダヘッド15と点火プラグ19との間で締め付けられるので、取付がより容易になる。
【0052】
本実施形態に係る制御装置3によれば、吸気バルブ22及び排気バルブ23を閉じた状態で検出された燃焼圧力に対応する圧力信号は、吸気バルブ22及び排気バルブ23の着座時に生ずる振動の影響を受けないので、燃焼安定性の判定精度を高めることができる。付随的には、演算処理に用いられる圧力信号が限定されるので、演算負荷を低減することができる。
【0053】
本実施形態に係る制御装置3によれば、クランク角の検出値θの一定区間にて変化する角度−圧力信号の強度Iの割合である複数の変化率Cの最大変化率Mは、ノッキングの評価項目として一般的に用いられるノッキング強度に対して高い相関性を有しており、さらに、このような最大変化率Mから算出されるノッキング強度の推定値Kに基づいて、ノッキングが発生したか否かが判定されるので、ノッキングの判定精度を極めて高くすることができる。なお、最大変化率Mの代わりに、複数の変化率Cのうち最大変化率Mと実質的に等しいものを用いた場合にも、同様の効果を得ることができる。
【0054】
本実施形態に係る制御装置3によれば、上述のような高精度のノッキングの判定によって、ノッキングが発生したと判断された場合に点火時期を遅らせるので、ノッキングを確実に解消することができる。
【0055】
本実施形態に係る制御装置3によれば、ノッキング強度の推定値Kを予め設定された複数の強度レベルに分けて、これらの強度レベルのいずれかに応じてリタード量を変更するので、適切な点火時期の補正が可能になり、ノッキングを確実に解消することができる。また、リタード量は予め設定されるので、リタード量を算出するための演算負荷を低減することができる。その結果、ノッキングの判定時間を短縮することができて、ノッキングを解消するための応答性を向上させることができる。付随的には、ノッキングを確実に解消することによって、安定的な燃焼状態を得ることができる。
【0056】
ここまで本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明は、その技術的思想に基づいて変形及び変更可能である。
【実施例】
【0057】
[実施例1]
実施例1について説明する。実施例1では、座金センサ32に加えて、筒内圧力センサをシリンダヘッド15に取り付けた上記実施形態のエンジン1を用いた。特に、エンジン1は直列4気筒エンジンとした。エンジン1の運転条件については、ノッキングを意図的に発生させるべく、エンジン1の回転速度を2000rpmとし、エンジン1の負荷をスロットル全開(Wide Open Throttle)状態(全負荷状態)とし、点火時期のクランク角を、BTDC(Before Top Dead Center、圧縮上死点基準)に対して20.2°とした。フィルタ部45ではローパスフィルタ処理を実施し、かかるローパスフィルタ処理の遮断周波数は100Hzとした。
【0058】
このような運転条件の下、座金センサ32により角度−圧力信号を取得し、かかる圧力信号に基づく角度−圧力信号を算出し、さらに、角度−圧力信号から複数の変化率C間の最大変化率Mを算出した。なお、角度−圧力信号は、クランク角がBTDCに対して20°からATDC(After Top Dead Center、圧縮上死点基準)に対して30°までとする期間にて取得し、かつ最大変化率Mの算出に用いるクランク角の検出値θの一定区間は0.1°とした。
【0059】
[比較例1]
比較例1について説明する。比較例1では、実施例1と同様のエンジンを用いた。さらに、比較例1では、実施例1と同条件で、実施例1にて圧力信号を取得することと同時に筒内圧力センサから筒内圧力信号を取得し、かかる筒内圧力信号に基づいて筒内角度−圧力信号を算出し、さらに、筒内角度−圧力信号から筒内最大変化率N及びノッキング強度KIを算出した。なお、角度−圧力信号を取得する期間、及び筒内最大変化率Nの算出に用いるクランク角の検出値θの一定区間もまた、実施例1と同様とした。
【0060】
このような実施例1及び比較例1において、実施例1の最大変化率Mと比較例1の筒内最大変化率Nとの相関関係を確認し、さらに、比較例1におけるノッキング強度KIと筒内最大変化率Nとの相関関係を確認した。その結果、
図10に示すような最大変化率Mと筒内最大変化率Nとの相関図が得られ、かつ
図11に示すようなノッキング強度KIと筒内最大変化率Nとの相関図が得られた。なお、
図10においては、横軸Nが筒内最大変化率N(bar/°)を示し、かつ縦軸Mが最大変化率M(V/°)を示す。
図11においては、横軸Nが筒内最大変化率N(bar/°)を示し、かつ縦軸KIがノッキング強度KI(bar)を示す。また、
図10及び
図11の相関図のそれぞれには、本実施例により得られた複数回の燃焼サイクルのデータがプロットされている。
【0061】
図10に示すように、実施例1の最大変化率Mと比較例1の筒内最大変化率Nとの相関係数は0.724であり、相関係数Rは0.7以上であった。
図11に示すように、比較例1におけるノッキング強度KIと筒内最大変化率Nとの相関係数Rは0.848であり、相関係数Rは0.7以上であった。そのため、最大変化率Mと筒内最大変化率Nとの相関性が高いことが確認でき、かつノッキング強度KIと筒内最大変化率Nとの相関性が高いことが確認できた。これらの相関性に基づいて、最大変化率Mとノッキング強度KIとの相関性が高いこともまた確認できた。かかる相関性によれば、最大変化率Mから筒内最大変化率Nを推定し、さらに、筒内最大変化率Nからノッキング強度KIを推定できることが確認できた。なお、
図11に示すように第1のノッキング閾値T1を設定した場合には、ノッキング閾値T1よりも小さな範囲にプロットされたデータの燃焼サイクルでは、ノッキングが発生していないと判定され、かつノッキング閾値T1以上の範囲にプロットされたデータの燃焼サイクルでは、ノッキングが発生したと判定されることとなった。
【0062】
[実施例2]
本発明の実施例2について説明する。本実施例では、上記実施形態と同様の構成を有するエンジン1を用い、かかるエンジン1を、その回転速度を2000rpmとし、かつその負荷をスロットル全開状態とした条件で運転した。さらに、かかる条件にてトレースノッキングが発生した場合のリタード量を1°に設定し、同条件にてライトノッキングが発生した場合のリタード量を4°に設定し、かつ同条件にてヘビーノッキングが発生した場合のリタード量を8°に設定した。その結果、トレースノッキング、ライトノッキング、及びヘビーノッキングが発生した場合のそれぞれにおいて、ノッキングを解消することができた。