【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、革新的バイオ医薬品創出基盤技術開発事業「ヒトIgG特異的修飾技術による多様な機能性抗体医薬の創出」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記架橋剤が、DSG(ジスクシンイミジルグルタレート)、DSS(ジスクシンイミジルスベレート)、DMA(アジプイミド酸ジメチル二塩酸塩)、DMP(ピメルイミド酸ジメチル二塩酸塩)、DMS(スベルイミド酸ジメチル二塩酸塩)、DTBP(3,3'-ジチオビスプロピオンイミド酸ジメチル二塩酸塩)、及びDSP(ジチオビススクシンイミジルプロピオン酸)からなる群より選択される、請求項12に記載のペプチド。
請求項12〜14のいずれか一項に記載のペプチドとIgGとの複合体であって、架橋剤で修飾されているペプチドとIgGの架橋反応によって形成される、前記複合体。
請求項12〜14のいずれか一項に記載のペプチドとIgGを混合し、架橋剤で修飾されているペプチドとIgGを架橋反応させる工程を含む、ペプチドとIgGの複合体を生産する方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、特異的かつ簡便に抗体を修飾することができる方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らはこれまで、IgGに特異的又は選択的に結合するペプチド(以下、「IgG結合ペプチド」という)について報告してきた(WO2013/027796及びWO2008/054030参照)。上記課題を解決するために、本発明者は、IgG結合ペプチドとIgG Fcとの複合体のX線結晶構造解析に基づいて、結合状態におけるIgG結合ペプチドの各アミノ酸の位置とIgG Fcの各アミノ酸との位置関係を詳細に検討した。さらに、架橋剤と結合可能なアミノ酸をペプチドに導入し、該アミノ酸を架橋剤により修飾することで、架橋剤により部位特異的に修飾されたIgG結合ペプチドを調製し、これを用いて、IgGを修飾できることを見出し、本願発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下の態様を包含する。
(1)下記の式I:
(X
1-3)-C-(X
2)-H-(Xaa1)-G-(Xaa2)-L-V-W-C-(X
1-3) (I)
(式中、Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はリシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸であり、
Gはグリシン残基であり、
Xaa2はグルタミン酸残基又はアスパラギン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、かつ
Wはトリプトファン残基である。)
によって表される、13〜17アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含み、かつヒトIgG及び/又はウサギIgGと結合可能であることを特徴とするペプチド。
(2)下記の式II:
(X
1-3)-C-(Xaa3)-(Xaa4)-H-(Xaa1)-G-(Xaa2)-L-V-W-C-(X
1-3) (II)
(式中、Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はリシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸であり、
Gはグリシン残基であり、
Xaa2はグルタミン酸残基又はアスパラギン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、
Wはトリプトファン残基であり、
Xaa3はアラニン残基、セリン残基又はトレオニン残基であり、かつ
Xaa4はチロシン残基又はトリプトファン残基である。)
によって表される、13〜17アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含み、かつヒトIgG及び/又はウサギIgGと結合可能であることを特徴とする、上記(1)に記載のペプチド。
(3)下記の式III:
(X
1-3)-C-A-Y-H-(Xaa1)-G-E-L-V-W-C-(X
1-3) (III)
(式中、Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Aはアラニン残基であり、
Yはチロシン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はリシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸であり、
Gはグリシン残基であり、
Eはグルタミン酸残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、かつ
Wはトリプトファン残基である。)
によって表される、13〜17アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含み、かつヒトIgG及び/又はウサギIgGと結合可能であることを特徴とする、上記(1)又は(2)に記載のペプチド。
(4)17アミノ酸残基とした場合の、N末端から1〜3、15〜17番目の各アミノ酸残基が、
1番目のアミノ酸残基= S、G、F又は、なし
2番目のアミノ酸残基= D、G、A、S、P、ホモシステイン又は、なし
3番目のアミノ酸残基= S、D、T、N、E又はR、
15番目のアミノ酸残基= S、T又はD、
16番目のアミノ酸残基= H、G、Y、T、N、D、F、ホモシステイン又は、なし、
17番目のアミノ酸残基= Y、F、H、M又は、なし
である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のペプチド。
(5)以下の1)〜15)のいずれかのアミノ酸配列からなる、ただし、Xaa1はリシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸であり、Xaa2はホモシステインである、上記(4)に記載のペプチド。
1)DCAYH(Xaa1)GELVWCT(配列番号1)
2)GPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号2)
3)RCAYH(Xaa1)GELVWCS(配列番号3)
4)GPRCAYH(Xaa1)GELVWCSFH(配列番号4)
5)SPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号5)
6)GDDCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号6)
7)GPSCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号7)
8)GPDCAYH(Xaa1)GELVWCSFH(配列番号8)
9)GPDCAYH(Xaa1)GELVWCTHH(配列番号9)
10)GPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFY(配列番号10)
11)SPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFY(配列番号11)
12)SDDCAYH(Xaa1)GELVWCTFY(配列番号12)
13)RGNCAYH(Xaa1)GQLVWCTYH(配列番号13)
14)G(Xaa2)DCAYH(Xaa1)GELVWCT(Xaa2)H(配列番号36)
15)RRGPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号37)
(6)下記の式IV:
D-C-(Xaa3)-(Xaa4)-H-(Xaa1)-G-(Xaa2)-L-V-W-C-T (IV)
(式中、
Dはアスパラギン酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はリシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸であり、
Gはグリシン残基であり、
Xaa2はグルタミン酸残基又はアスパラギン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、
Wはトリプトファン残基であり、
Tはトレオニン残基であり、
Xaa3はアラニン残基又はトレオニン残基であり、かつ、
Xaa4はチロシン残基又はトリプトファン残基である。)によって表される、13アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含み、かつヒトIgG及び/又はウサギIgGと結合可能であることを特徴とする、上記(1)又は(2)に記載のペプチド。
(7)以下の1)〜4)のいずれかのアミノ酸配列からなる、ただし、Xaa1はリシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸である、上記(6)に記載のペプチド。
1)DCTYH(Xaa1)GNLVWCT(配列番号14)
2)DCAYH(Xaa1)GNLVWCT(配列番号15)
3)DCTYH(Xaa1)GELVWCT(配列番号16)
4)DCAWH(Xaa1)GELVWCT(配列番号17)
(8)下記の式V:
D-C-(Xaa2)-(Xaa3)-(Xaa4)-(Xaa1)-G-(Xaa5)-L-(Xaa6)-W-C-T (V)
(式中、
Dはアスパラギン酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Gはグリシン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Wはトリプトファン残基であり、
Tはトレオニン残基であり、
Xaa1はリシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸であり、
Xaa2はアラニン残基、セリン残基又はトレオニン残基であり、
Xaa3はトリプトファン残基又はチロシン残基であり、
Xaa4はヒスチジン残基、アルギニン残基、セリン残基又はトレオニン残基であり、
Xaa5はグルタミン酸残基、アスパラギン残基、アルギニン残基、又はアスパラギン酸残基であり、かつ
Xaa6はイソロイシン残基又はバリン残基である)によって表される、13アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含み、かつヒトIgG及び/又はウサギIgGと結合可能であることを特徴とするペプチド。
(9)ペプチドが外側の2つのシステイン(C)残基間でジスルフィド結合を形成しているか、又はペプチドの外側の2つのシステイン残基中のスルフィド基が、以下の式:
【化1】
で表されるリンカーにより連結されている、上記(1)〜(8)のいずれかに記載のペプチド。
(10)標識物質により標識されている、上記(1)〜(9)のいずれかに記載のペプチド。
(11)薬剤が結合している、上記(1)〜(10)のいずれかに記載のペプチド。
(12)Xaa1がリシン残基である、上記(1)〜(11)のいずれかに記載のペプチド。
(13)Xaa1が架橋剤で修飾されている、上記(1)〜(12)のいずれかに記載のペプチド。
(14)前記架橋剤が、DSG(ジスクシンイミジルグルタレート)、DSS(ジスクシンイミジルスベレート)、DMA(アジプイミド酸ジメチル二塩酸塩)、DMP(ピメルイミド酸ジメチル二塩酸塩)、DMS(スベルイミド酸ジメチル二塩酸塩)、DTBP(3,3'-ジチオビスプロピオンイミド酸ジメチル二塩酸塩)、及びDSP(ジチオビススクシンイミジルプロピオン酸)からなる群より選択される、上記(13)に記載のペプチド。
(15)前記架橋剤がDSG(ジスクシンイミジルグルタレート)又はDSS(ジスクシンイミジルスベレート)である、上記(14)に記載のペプチド。
(16)上記(13)〜(15)のいずれかに記載のペプチドとIgGとの複合体であって、架橋剤で修飾されているペプチドとIgGの架橋反応によって形成される、前記複合体。
(17)上記(13)〜(15)のいずれかに記載のペプチドとIgGを混合し、架橋剤で修飾されているペプチドとIgGを架橋反応させる工程を含む、ペプチドとIgGの複合体を生産する方法。
(18)上記(1)〜(15)のいずれかに記載のペプチド、又は上記(16)に記載の複合体を含む、医薬組成物。
(19)システイン残基を2つ以上含むペプチドと、以下の式:
【化2】
で表される化合物(式中、R
1及びR
2は、各々独立的に任意のハロゲン原子である)を混合し、2つ以上のシステイン残基中のスルフィド基が、以下の式:
【化3】
で表されるリンカーにより連結されたペプチドを得る工程を含む、2つ以上のシステイン残基がリンカーにより連結されたペプチドを生産する方法。
(20)前記化合物において、R
1及びR
2が同一であり、かつCl、Br、又はIである、上記(19)に記載の方法。
(21)前記ペプチドが、上記(1)〜(8)及び(10)〜(15)のいずれかに規定されるペプチドである、上記(19)又は(20)に記載の方法。
【0009】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2015-103153号の開示内容を包含する。
【0010】
本発明の架橋剤により修飾されたIgG結合ペプチドは、短時間で、しかもほとんど副反応なくIgGに付加することができるため、該IgG結合ペプチドに種々の化合物を結合させることで、種々の化合物によってIgGを特異的かつ簡便に修飾することができる。また、本発明の架橋剤により修飾されたIgG結合ペプチドは、野生型IgGなどにそのまま結合させることができ、抗体分子の配列を改変する必要が無いことから、抗体分子の遺伝子改変に伴う機能低下を招くことなく、より低コストで種々の化合物を抗体に結合させることができる。さらに、導入する化合物はIgG結合ペプチドに予め結合させておくことができ、当該IgG結合ペプチドと抗体との結合反応はマイルドな反応条件下で行うことができることから、導入する化合物とIgGとを直接反応させる工程で従来必要となっていた複雑な反応を必要とせず、また、当該反応による抗体の機能低下を防ぐことができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<IgG結合ペプチド>
本明細書中で使用する「IgG」は、哺乳動物、例えばヒト及びチンパンジーなどの霊長類、ラット、マウス、及びウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、及びヤギ等の家畜動物、並びにイヌ及びネコ等の愛玩動物のIgG、好ましくはヒトのIgG(IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4)を指すものとする。本明細書におけるIgGは、さらに好ましくは、ヒトIgG1、IgG2、若しくはIgG4、又はウサギIgGであり、特に好ましくはヒトIgG1、IgG2、又はIgG4である。
【0013】
一態様において、本発明は、下記の式I:
(X
1-3)-C-(X
2)-H-(Xaa1)-G-(Xaa2)-L-V-W-C-(X
1-3) (I)
(式中、Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はリシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸であり、
Gはグリシン残基であり、
Xaa2はグルタミン酸残基又はアスパラギン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、かつ
Wはトリプトファン残基である。)
によって表される、13〜17アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含み、かつヒトIgG及び/又はウサギIgGと結合可能であることを特徴とするペプチドに関する。
【0014】
上記式で、N末端又はC末端のX
1-3という表記は、システイン(C又はCys)以外の独立的に任意のアミノ酸残基Xが1〜3個連続していることを意味し、それを構成するアミノ酸残基は同じか又は異なる残基であるが、好ましくは3個すべてが同じ残基でない配列からなる。同様に、X
2もシステイン(C又はCys)以外の独立的に任意のアミノ酸残基Xが2個連続していることを意味し、それを構成するアミノ酸残基は同じか又は異なる残基であるが、好ましくは当該2個連続しているアミノ酸残基は同じ残基でない配列からなる。
【0015】
式Iの2つのシステイン残基はジスルフィド結合して環状ペプチドを形成することができる。通常、式Iのペプチドにおいて、外側の2つのシステイン残基はジスルフィド結合している。或いは、式Iのペプチドにおいて、外側の2つのシステイン残基中のスルフィド基は、以下の式:
【化4】
で表されるリンカーにより連結されていてもよい。上記式中の破線部分は、スルフィド基との結合部分を意味する。当該リンカーは、通常のジスルフィド結合よりも、還元反応等に対して安定である。このペプチドは、例えば以下の<システイン残基がリンカーにより連結されたペプチドを生産する方法>で記載される方法により、調製することができる。
【0016】
式Iのペプチドのアミノ酸配列においてアミノ酸残基Xをさらに特定した式I'及び式I''で表されるペプチドを以下に示す。
【0017】
すなわち、式I'で表されるペプチドは、
(X
1-3)-C-(X
1)-Y-H-(Xaa1)-G-N-L-V-W-C-(X
1-3) (I')
(式中、Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Yはチロシン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はリシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸であり、
Gはグリシン残基であり、
Nはアスパラギン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、かつ
Wはトリプトファン残基である。)
によって表される、13〜17アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含み、かつヒトIgG及び/又はウサギIgGと結合可能であることを特徴とする。
【0018】
式I''で表されるペプチドは、
(X
1-3)-C-A-(X
1)-H-(Xaa1)-G-E-L-V-W-C-(X
1-3) (I'')
(式中、Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Aはアラニン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はリシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸であり、
Gはグリシン残基であり、
Eはグルタミン酸残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、かつ
Wはトリプトファン残基である。)
によって表される、13〜17アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含み、かつヒトIgG及び/又はウサギIgGと結合可能であることを特徴とする。
【0019】
また、式Iのペプチドのアミノ酸配列においてアミノ酸残基Xをさらに特定した式IIで表されるペプチドを以下に示す。
【0020】
すなわち、式IIで表されるペプチドは、
(X
1-3)-C-(Xaa3)-(Xaa4)-H-(Xaa1)-G-(Xaa2)-L-V-W-C-(X
1-3) (II)
(式中、Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はリシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸であり、
Gはグリシン残基であり、
Xaa2はグルタミン酸残基又はアスパラギン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、
Wはトリプトファン残基であり、
Xaa3はアラニン残基、セリン残基又はトレオニン残基であり、かつ
Xaa4はチロシン残基又はトリプトファン残基である。)
によって表される、13〜17アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含み、かつヒトIgG及び/又はウサギIgGと結合可能であることを特徴とする。
【0021】
上記の式I'、式I''及び式IIのペプチドのアミノ酸配列において、17アミノ酸残基とした場合の、N末端から1番目及び2番目並びに16番目及び17番目のアミノ酸残基Xは欠失していてもよく、そのようなペプチドは13アミノ酸長からなる。
【0022】
本明細書で使用する「17アミノ酸残基とした場合の」とは、ペプチドのアミノ酸残基をアミノ酸番号で呼ぶときに、式Iのペプチド等について最長のアミノ酸長である17残基のN末端から順番に1番目から17番目まで番号づけするために便宜的に表現した用語である。
【0023】
また、式Iのペプチドのアミノ酸配列においてアミノ酸残基Xをさらに特定した式IIIで表されるペプチドを以下に示す。
【0024】
すなわち、式IIIで表されるペプチドは、
(X
1-3)-C-A-Y-H-(Xaa1)-G-E-L-V-W-C-(X
1-3) (III)
(式中、Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Aはアラニン残基であり、
Yはチロシン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はリシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸であり、
Gはグリシン残基であり、
Eはグルタミン酸残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、かつ
Wはトリプトファン残基である。)
によって表される、13〜17アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含み、かつヒトIgG及び/又はウサギIgGと結合可能であることを特徴とする。
【0025】
上記の式IIIのペプチドのアミノ酸配列において、17アミノ酸残基とした場合の、N末端から1番目及び2番目、並びに16番目及び17番目のアミノ酸残基Xは欠失していてもよく、そのようなペプチドは13アミノ酸長からなる。
【0026】
さらに、上記の各式のペプチドのアミノ酸配列のシステイン(C)以外のアミノ酸残基、すなわち、17アミノ酸残基とした場合のN末端から1〜3、5、6、15〜17番目の各アミノ酸残基は、以下のものから選択されることが好ましい。ここで、各大文字のアルファベットは、アミノ酸の一文字表記である:
1番目のアミノ酸残基= S、G、F又は、なし
2番目のアミノ酸残基= D、G、A、S、P、ホモシステイン又は、なし
3番目のアミノ酸残基= S、D、T、N、E又はR、
15番目のアミノ酸残基= S、T又はD、
16番目のアミノ酸残基= H、G、Y、T、N、D、F、ホモシステイン又は、なし、
17番目のアミノ酸残基= Y、F、H、M又は、なし。
5番目のアミノ酸残基= A又はT、
6番目のアミノ酸残基= Y又はW。
【0027】
また、式Iのペプチドのアミノ酸配列においてアミノ酸残基Xをさらに特定した式IVで表されるペプチドを以下に示す。
【0028】
すなわち、式IVで表されるペプチドは、
D-C-(Xaa3)-(Xaa4)-H-(Xaa1)-G-(Xaa2)-L-V-W-C-T (IV)
(式中、
Dはアスパラギン酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はリシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸であり、
Gはグリシン残基であり、
Xaa2はグルタミン酸残基又はアスパラギン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、
Wはトリプトファン残基であり、
Tはトレオニン残基であり、
Xaa3はアラニン残基又はトレオニン残基であり、かつ、
Xaa4はチロシン残基又はトリプトファン残基である。)によって表される、13アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含み、かつヒトIgG及び/又はウサギIgGと結合可能であることを特徴とする。
【0029】
式Iのペプチドの具体例のいくつかを以下の1)〜19)に列挙するが、これらに制限されないことはいうまでもない:
1)DCAYH(Xaa1)GELVWCT(配列番号1)、
2)GPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号2)、
3)RCAYH(Xaa1)GELVWCS(配列番号3)、
4)GPRCAYH(Xaa1)GELVWCSFH(配列番号4)、
5)SPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号5)、
6)GDDCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号6)、
7)GPSCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号7)、
8)GPDCAYH(Xaa1)GELVWCSFH(配列番号8)、
9)GPDCAYH(Xaa1)GELVWCTHH(配列番号9)、
10)GPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFY(配列番号10)、
11)SPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFY(配列番号11)、
12)SDDCAYH(Xaa1)GELVWCTFY(配列番号12)、
13)RGNCAYH(Xaa1)GQLVWCTYH(配列番号13)、
14)G(Xaa2)DCAYH(Xaa1)GELVWCT(Xaa2)H(配列番号36)、
15)RRGPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号37)、
16)DCTYH(Xaa1)GNLVWCT(配列番号14)、
17)DCAYH(Xaa1)GNLVWCT(配列番号15)、
18)DCTYH(Xaa1)GELVWCT(配列番号16)、及び
19)DCAWH(Xaa1)GELVWCT(配列番号17)、
(式中、Xaa1はリシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸であり、Xaa2はホモシステインであり、好ましくはホモシステイン同士は互いにジスルフィド結合を形成している)。
【0030】
式Iのペプチドの好ましい具体例として、
1)DCAYH(Xaa1)GELVWCT(配列番号1)、
2)GPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号2)、
13)RGNCAYH(Xaa1)GQLVWCTYH(配列番号13)、
14)G(Xaa2)DCAYH(Xaa1)GELVWCT(Xaa2)H(配列番号36)、及び
15)RRGPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号37)
(式中、Xaa1はリシン残基であり、Xaa2はホモシステインであり、好ましくはシステイン同士及び/又はホモシステイン同士は互いにジスルフィド結合を形成している)が挙げられる。
【0031】
また、本発明のペプチドは、広義の一次構造として、下記の式V:
D-C-(Xaa2)-(Xaa3)-(Xaa4)-(Xaa1)-G-(Xaa5)-L-(Xaa6)-W-C-T (V)
(式中、
Dはアスパラギン酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Gはグリシン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Wはトリプトファン残基であり、
Tはトレオニン残基であり、
Xaa1はリシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸であり、
Xaa2はアラニン残基、セリン残基又はトレオニン残基であり、
Xaa3はトリプトファン残基又はチロシン残基であり、
Xaa4はヒスチジン残基、アルギニン残基、セリン残基又はトレオニン残基であり、
Xaa5はグルタミン酸残基、アスパラギン残基、アルギニン残基、又はアスパラギン酸残基であり、かつ
Xaa6はイソロイシン残基又はバリン残基である)によって表される、13アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含み、かつヒトIgG及び/又はウサギIgGと結合可能であることを特徴とするペプチドである。
【0032】
式Vの2つのシステイン残基はジスルフィド結合して環状ペプチドを形成することができる。通常、式Vのペプチドの外側の2つのシステイン残基は、ジスルフィド結合している。或いは、式Vのペプチドにおいて、外側の2つのシステイン残基中のスルフィド基は、以下の式:
【0034】
で表されるリンカーにより連結されていてもよい。上記式中の破線部分は、スルフィド基との結合部分を意味する。当該リンカーは、通常のジスルフィド結合よりも、還元反応等に対して安定である。このペプチドは、例えば以下の<システイン残基がリンカーにより連結されたペプチドを生産する方法>で記載される方法により、調製することができる。
【0035】
式Vのペプチドの具体例のいくつかを以下の20)〜31)に列挙するが、これらに制限されないことはいうまでもない:
20)DCTYT(Xaa1)GNLVWCT(配列番号18)、
21)DCAYT(Xaa1)GNLVWCT(配列番号19)、
22)DCSYT(Xaa1)GNLVWCT(配列番号20)、
23)DCTWT(Xaa1)GNLVWCT(配列番号21)、
24)DCTYH(Xaa1)GNLVWCT(配列番号22)、
25)DCTYR(Xaa1)GNLVWCT(配列番号23)、
26)DCTYS(Xaa1)GNLVWCT(配列番号24)、
27)DCTYT(Xaa1)GNLVWCT(配列番号25)、
28)DCTYT(Xaa1)GELVWCT(配列番号26)、
29)DCTYT(Xaa1)GRLVWCT(配列番号27)、
30)DCTYT(Xaa1)GDLVWCT(配列番号28)、及び
31)DCTYT(Xaa1)GNLIWCT(配列番号29)、
(式中、Xaa1はリシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸である)。
【0036】
前述の通り、本発明に関わる上記式のペプチドは、各アミノ酸配列の中に離間した少なくとも2つのシステイン(C)残基を有し、該システイン残基間でジスルフィド結合を形成しうるようにシステイン残基が配置されていることを特徴としており、好ましいペプチドは、2つのシステイン残基がジスルフィド結合して環状ペプチドを形成し、各システイン残基のN末端側及びC末端側には1又は2個のシステイン以外の任意のアミノ酸残基を有していても良い。各システイン残基のN末端側及びC末端側には1又は2個のアミノ酸残基を有する場合において、17アミノ酸残基とした場合のN末端から1〜2、16〜17番目の各アミノ酸残基は、上記例示のものである。
【0037】
上記の通り、本発明のペプチドにおいて、Xaa1は、リシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、及びグルタミン酸残基等のタンパク質構成アミノ酸、並びにジアミノプロピオン酸及び2-アミノスベリン酸等の非タンパク質構成アミノ酸、好ましくはリシン残基である。Xaa1は、後述する架橋剤によって修飾可能であることが好ましい。本明細書において「非タンパク質構成アミノ酸」とは、生体においてタンパク質を構成するのに用いられないアミノ酸を指す。本発明のペプチドを架橋剤によって修飾する際の部位特異性を高めるため、本発明のペプチドは、その配列中にXaa1と同じ残基を、全く有さないか、ほとんど有さない(例えば、1個又は2個しか有さない)ことが好ましい。例えば、Xaa1がリシン残基である場合には、本発明のペプチドは、その配列中にXaa1以外の場所にリシン残基を全く有さないか、ほとんど有さないことが好ましい。
【0038】
本発明のペプチドは、ヒトIgGとの結合親和性が、他のヒト免疫グロブリン(IgA、IgE、IgM)と比較して約10倍以上、好ましくは約50倍以上、より好ましくは約200倍以上高い。本発明のペプチドとヒトIgGとの結合に関する解離定数(Kd)は、表面プラズモン共鳴スペクトル解析(例えばBIACOREシステム使用)により決定可能であり、例えば1×10
-1M〜1×10
-3M未満、好ましくは1×10
-4M未満、より好ましくは1×10
-5M未満である。
【0039】
本発明のIgG結合ペプチドは、IgGのFcドメインに結合する。本発明のIgG結合ペプチドは、後述する実施例において示す通り、上記Xaa1において、IgG Fcの特定の領域、すなわち、ヒトIgG FcにおけるEu numberingに従うLys248残基(以下、本明細書では単に「Lys248」とも表記し、ヒトIgG CH2(配列番号30)の18番目の残基に相当する)又はLys246残基(以下、本明細書では単に「Lys246」とも表記し、ヒトIgG CH2(配列番号30)の16番目の残基に相当する)、好ましくはLys248と近接する。
【0040】
本発明のペプチドは、慣用の液相合成法、固相合成法等のペプチド合成法、自動ペプチド合成機によるペプチド合成等(Kelley et al., Genetics Engineering Principles and Methods, Setlow, J.K. eds., Plenum Press NY. (1990) Vol.12, p.1-19;S tewart et al., Solid-Phase Peptide Synthesis (1989) W.H. Freeman Co.; Houghten, Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82: p.5132、「新生化学実験講座1 タンパク質IV」(1992)日本生化学会編,東京化学同人)によって製造することができる。あるいは、本発明のペプチドをコードする核酸を用いた遺伝子組換え法やファージディスプレイ法等によって、ペプチドを製造してもよい。例えば本発明のペプチドのアミノ酸配列をコードするDNAを発現ベクター中に組み込み、宿主細胞中に導入し培養することにより、目的のペプチドを製造することができる。製造されたペプチドは、常法により、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換カラムクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー、HPLC等のクロマトグラフィー、硫安分画、限外ろ過、及び免疫吸着法等により、回収又は精製することができる。
【0041】
ペプチド合成では、例えば、各アミノ酸(天然であるか非天然であるかを問わない)の、結合しようとするα−アミノ基とα−カルボキシル基以外の官能基を保護したアミノ酸類を用意し、それぞれのアミノ酸のα−アミノ基とα−カルボキシル基との間でペプチド結合形成反応を行う。通常、ペプチドのC末端に位置するアミノ酸残基のカルボキシル基を適当なスペーサー又はリンカーを介して固相に結合しておく。このようにして得られたジペプチドのアミノ末端の保護基を選択的に除去し、次のアミノ酸のα−カルボキシル基との間でペプチド結合を形成する。このような操作を連続して行い側基が保護されたペプチドを製造し、最後に、すべての保護基を除去し、固相から分離する。保護基の種類や保護方法、ペプチド結合法の詳細は、上記の文献に詳しく記載されている。
【0042】
遺伝子組換え法による製造は、例えば、本発明のペプチドをコードするDNAを適当な発現ベクター中に挿入し、適当な宿主細胞にベクターを導入し、細胞を培養し、細胞内から又は細胞外液から目的のペプチドを回収することを含む方法によりなされ得る。ベクターは、限定されないが、例えば、プラスミド、ファージ、コスミド、ファージミド、及びウイルス等のベクターである。
【0043】
プラスミドベクターとしては、限定するものではないが、大腸菌由来のプラスミド(例えばpET22b(+)、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、pBluescript等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5等)、及び酵母由来のプラスミド(例えばYEp13、YCp50等)等が挙げられる。
【0044】
ファージベクターとしては、限定するものではないが、T7ファージディスプレイベクター(T7Select10-3b、T7Select1-1b、T7Select1-2a、T7Select1-2b、T7Select1-2c等(Novagen))、及びλファージベクター(Charon4A、 Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP、λZAPII等)が挙げられる。ウイルスベクターとしては、限定するものではないが、例えばレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ワクシニアウイルス、及びセンダイウイルス等の動物ウイルス、並びにバキュロウイルス等の昆虫ウイルス等が挙げられる。コスミドベクターとしては、限定するものではないが、Lorist 6、Charomid9-20、及びCharomid9-42等が挙げられる。
【0045】
ファージミドベクターとしては、限定するものではないが、例えばpSKAN、pBluescript、pBK、及びpComb3H等が知られている。ベクターには、目的のDNAが発現可能なように調節配列や、目的DNAを含むベクターを選別するための選択マーカー、目的DNAを挿入するためのマルチクローニングサイト等が含まれ得る。そのような調節配列には、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、S-D配列又はリボソーム結合部位、複製開始点、及びポリAサイト等が含まれる。また、選択マーカーには、例えばアンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、及びジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、等が用いられ得る。ベクターを導入するための宿主細胞は、大腸菌や枯草菌等の細菌、酵母細胞、昆虫細胞、動物細胞(例えば、哺乳動物細胞)、及び植物細胞等であり、これらの細胞への形質転換又はトランスフェクションは、例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、パーテイクルガン法、及びPEG法等を含む。形質転換細胞の培養は、宿主生物の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。例えば、大腸菌や酵母細胞等の微生物の培養液は、宿主微生物が資化し得る炭素源、窒素源、及び無機塩類等を含有する。
【0046】
本発明のペプチドの回収を容易にするために、発現によって生成したペプチドを細胞外に分泌させることが好ましい。これは、その細胞からのペプチドの分泌を可能にするペプチド配列をコードするDNAを、目的ペプチドをコードするDNAの5'末端側に結合することにより行うことができる。細胞膜に移行した融合ペプチドがシグナルペプチダーゼによって切断されて、目的のペプチドが培地に分泌放出される。あるいは、細胞内に蓄積された目的ペプチドを回収することもできる。この場合、細胞を物理的又は化学的に破壊し、タンパク質精製技術を使用して目的ペプチドを回収する。
【0047】
それゆえに、本発明はさらに、本発明のペプチドをコードする核酸にも関する。ここで、核酸は、DNA又はRNA(例えばmRNA)を含む。
【0048】
本発明のIgG結合ペプチドと他のタンパク質を融合させる場合、IgG結合ペプチドと他のタンパク質を別々に調製した後に、必要に応じてリンカーを用いてIgG結合ペプチドとタンパク質を融合させても良いし、遺伝子組換え法によって、必要に応じて適当なリンカーを加えて融合タンパク質として作製してもよい。この場合、本発明のIgG結合ペプチドがIgGとの結合性を損なわないように融合タンパク質を作製することが好ましい。
【0049】
<架橋剤で修飾されたペプチド>
一態様において、本発明における上記IgG結合ペプチドは、架橋剤により修飾されていることが好ましい。
【0050】
上記の通り、本発明のIgG結合ペプチドは、後述する実施例において示す通り、上記Xaa1において、IgG Fcの特定の領域、すなわちヒトIgG FcにおけるEu numberingに従うLys248又はLys246、好ましくはLys248と近接する。したがって、本発明のIgG結合ペプチドのXaa1を架橋剤で修飾し、IgGと架橋反応させることによって、IgG結合ペプチドのXaa1とIgG FcのLys248又はLys246、好ましくはLys248の間で部位特異的に架橋構造を形成させることができる。上記の様に、本発明のIgG結合ペプチドのXaa1を架橋剤及び種々の化合物で修飾し、IgGと架橋反応させることによって、種々の化合物を、特異的かつ簡便にIgGに導入することができる。また、本発明によれば、IgG結合ペプチドを介して化合物を導入することができるため、様々な構造の化合物をIgGに導入することができる。さらに本発明の方法は、得られる産物の収率が高く、また、抗体そのもの改変を伴わないため、抗体の機能を低下させる可能性が低いという利点も有する。
【0051】
本発明のIgG結合ペプチドは、ヒト以外の動物、好ましくは哺乳動物のIgGに対して用いることもできる。この場合、本発明のIgG結合ペプチドが結合するIgG中の部位は、本明細書を読んだ当業者であれば、例えばヒトIgGの配列と他の動物のIgGの配列をアライメントすることにより、容易に特定することができる。
【0052】
本発明において、「架橋剤」とは、本発明のIgG結合ペプチドと、IgG Fcを、共有結合により連結させるための化学物質である。本発明の架橋剤は、当業者であれば適宜選択することが可能であり、所望のアミノ酸(例えば、リシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸、及びアルギニン等)と結合可能な部位を少なくとも2箇所有する化合物とすることができる。その例として、限定するものではないが、DSG(disuccinimidyl glutarate、ジスクシンイミジルグルタレート)、DSS(disuccinimidyl suberate、ジスクシンイミジルスベレート)等のスクシンイミジル基を好ましくは2以上含む架橋剤、DMA(dimethyl adipimidate・2 HCl、アジプイミド酸ジメチル二塩酸塩)、DMP(dimethyl pimelimidate・2 HCl、ピメルイミド酸ジメチル二塩酸塩)、及びDMS(dimethyl suberimidate・2 HCl、スベルイミド酸ジメチル二塩酸塩)等のイミド酸部分を好ましくは2以上含む架橋剤、並びにDTBP(dimethyl 3,3’-dithiobispropionimidate・2HCl、3,3'-ジチオビスプロピオンイミド酸ジメチル二塩酸塩)及びDSP(dithiobis(succinimidyl propionate)、ジチオビススクシンイミジルプロピオン酸)等のSS結合を有する架橋剤が挙げられる。
【0053】
本発明のIgG結合ペプチドは、他の機能性物質、例えば、IgA又はVHH等の抗体、標識物質及び/又は他の薬剤により修飾されていてもよい。IgG結合ペプチドと他の機能性物質の連結は、当業者に公知の方法、例えばアジド基とdibenzocyclooctyneとの反応、又はマレイミド基とスルフヒドリル基の反応等により行うことができる。標識物質により標識されている場合、本発明のIgG結合ペプチドがIgGと複合体を形成することで、該標識物質を介してIgGの検出又は定量を行うことが可能となる。標識物質は、限定されないが、例えば蛍光色素、化学発光色素、放射性同位元素(例えば、放射性ヨウ素又は放射性同位体金属イオンのキレート錯体、例えばDOTA又はデスフェリオキサミンのキレート錯体)、並びにビオチン及びGFP(緑色蛍光タンパク質)等の蛍光タンパク質、発光タンパク質、並びにペルオキシダーゼ等の酵素を含み、好ましい標識物質の例は、フルオレセイン及びFITC等のフルオレセイン誘導体、ローダミン及びテトラメチルローダミン等のローダミン誘導体、並びにテキサスレッド等の蛍光色素である。本発明のペプチドを他の薬剤によって修飾する場合、薬剤として、限定するものではないが、例えば、オーリスタチンE等のオーリスタチン、メイタンシン、エムタンシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、又はこれらの誘導体等の抗がん剤;並びに、血液脳関門上のレセプターに結合して中枢神経への移行を可能とする薬剤、又はがん細胞等に結合して抗体の細胞内への移行を可能にする薬剤等の標的化剤が挙げられる。薬剤を連結している場合、本発明のIgG結合ペプチドは、例えば医薬抗体として用いられるIgGと複合体を形成することで、疾患の治療効果を高めることができる。
【0054】
本発明の架橋剤により修飾されたIgG結合ペプチドは、例えば上記<IgG結合ペプチド>の項目で記載した方法に従って得られたIgG結合ペプチドを架橋剤と反応させることにより製造することができる。この場合、IgG結合ペプチド中の上記Xaa1のアミノ酸残基の側鎖を特異的に修飾することが必要であり、これは、例えば、Xaa1の種類と架橋剤の組み合わせを選択することによりなされ得る。例えば、DSS又はDSG等のスクシンイミジル基を含む架橋剤は、リシン残基の側鎖及びポリペプチドのN末端に存在する一級アミンと反応するため、IgG結合ペプチドのN末端をブロッキングした上でDSS又はDSGと反応させることで、リシン残基の側鎖のみをDSS又はDSGで特異的に修飾することができる。このようなアミノ酸残基と架橋剤の組み合わせは、当業者であれば適宜選択することができる。
【0055】
本発明の架橋剤により修飾されたIgG結合ペプチドは、例えば、架橋剤により修飾されたアミノ酸残基を用いてペプチド合成を行うことによって製造することもできる。同様に、IgG結合ペプチドを標識物質及び/又は他の薬剤で修飾する場合には、これらの修飾を加えたアミノ酸残基を用いてペプチド合成することにより標識物質及び/又は他の薬剤で修飾されたIgG結合ペプチドを調製してもよい。
【0056】
<架橋反応>
一態様において、本発明は、本発明の架橋剤で修飾されているIgG結合ペプチドとIgGを混合する工程を含む、IgG結合ペプチドとIgGの複合体を生産する方法に関する。本工程により、架橋剤で修飾されているIgG結合ペプチドとIgGの間で架橋反応が生じ得る。架橋反応は、特にIgG結合ペプチドの上記Xaa1のアミノ酸残基とIgG FcのLys248又はLys246、好ましくはLys248の間で部位特異的に生じ得る。
【0057】
該混合工程の条件は、本発明のIgG結合ペプチドとIgGの間で架橋反応が生じる条件で行うものであれば特に限定しない。例えば、本発明のIgG結合ペプチドとIgGを、適当なバッファー中において、室温(例えば約15℃〜30℃)で混合することにより反応を行うことができる。該混合工程は、必要に応じて架橋反応を促進する触媒を適量加えて行ってもよい。
【0058】
該混合工程における本発明のIgG結合ペプチドとIgGの混合比率は、特に限定しない。本発明のIgG結合ペプチドとIgGのモル比率は、例えば1:1〜20:1、好ましくは2:1〜20:1又は5:1〜10:1とすることができる。
【0059】
該混合工程における混合時間(反応時間)は、本発明のIgG結合ペプチドとIgGの間で架橋反応が生じる限り限定するものではないが、例えば、1分〜5時間、好ましくは10分〜2時間又は15分〜1時間とすることができる。
【0060】
本発明のIgG結合ペプチドとIgGの複合体を生産する方法は、必要に応じて、上記工程を行った後の混合物から、不純物、例えば、未反応のIgG結合ペプチド、IgG、及び試薬等を分離し、該複合体を精製する工程をさらに含んでよい。該工程は、本分野で公知の方法、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換カラムクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー、及びHPLC等のクロマトグラフィー等により行うことができる。
【0061】
<複合体>
一態様において、本発明は、本発明のIgG結合ペプチドとIgGとの複合体に関する。該複合体は、上記架橋反応によって形成され得る。よって、本発明は、好ましくは、IgG結合ペプチドの上記Xaa1のアミノ酸残基とIgG FcのLys248又はLys246、好ましくはLys248との間が部位特異的に架橋剤を介して結合したIgG結合ペプチドとIgGとの複合体に関する。
【0062】
本発明の複合体は、部位特異的な架橋反応によって形成されることから、該架橋反応が、IgGの活性に負の影響を与える可能性が少ない。また、修飾したIgG結合ペプチドをIgGに連結することによって、IgGに新たな機能性を付加することができる。例えば、標識物質により修飾したIgG結合ペプチドをIgGに結合させれば、該標識物質を介してIgGの検出又は定量を行うことが可能となる。標識物質の例は、上記の通りであるからここでは記載を省略する。また、例えば、薬剤により修飾したIgG結合ペプチドを、医薬抗体であるIgGに結合させれば、IgGの疾患の治療効果を高めることができる。薬剤の例は、上記の通りであるからここでは記載を省略する。
【0063】
<医薬組成物又は診断剤>
一態様において、本発明は上記IgG結合ペプチド、上記架橋剤で修飾されたIgG結合ペプチド、又は上記架橋剤で修飾されたIgG結合ペプチドとIgGの複合体を含む医薬組成物又は診断剤に関する。医薬組成物に含まれる場合、IgG結合ペプチドは、例えば上記の薬剤により修飾されていることが好ましく、診断剤に含まれる場合、IgG結合ペプチドは、例えば上記の標識物質により修飾されていることが好ましい。
【0064】
本発明の医薬組成物及び診断剤の対象となる疾患として、限定するものではないが、例えば、抗体により標的化可能な疾患又は障害、好ましくは、がん、炎症性疾患、感染症、及び神経変性疾患が挙げられる。
【0065】
本発明の医薬組成物は、経口投与又は非経口投与(例えば、静脈注射、筋肉注射、皮下投与、腹腔内投与、直腸投与、又は経粘膜投与等)で、投与することができる。また、本発明の医薬組成物は、投与経路に応じて適当な剤形とすることができる。具体的には顆粒剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤、静脈注射、動脈注射、若しくは筋肉注射用の注射剤、点滴剤、外用剤、又は坐剤等の各種製剤形態に調製することができる。投与方法及び剤型は、患者の性別、年齢、体重、症状等により、当業者であれば適宜選択することができる。
【0066】
本発明の医薬組成物は、常法に従って製剤化することができ(例えば、Remington's Pharmaceutical Science, latest edition, Mark Publishing Company, Easton,米国を参照されたい)、医薬的に許容される担体や添加物を共に含むものであってもよい。
【0067】
本発明の医薬組成物に含まれ得る担体及び医薬添加物の例としては、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン(HSA)、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、及び医薬添加物として許容される界面活性剤等が挙げられる。
【0068】
実際の添加物は、本発明の医薬組成物の剤型に応じて上記の中から単独で又は適宜組み合わせて選ばれるが、これらに限定するものではない。例えば、注射用製剤として使用する場合、本発明のIgG結合タンパク質又はIgG結合タンパク質とIgGの複合体を溶液、例えば生理食塩水、緩衝液、ブドウ糖溶液等に溶解し、これに容器吸着防止剤、例えばTween80、Tween 20、ゼラチン、ヒト血清アルブミン等を加えたものを使用することができる。あるいは、使用前に溶解して再構成する剤形とするために凍結乾燥したものであってもよく、凍結乾燥のため安定化剤としては、例えば、マンニトール、ブドウ糖等の糖アルコール及び/又は糖類を使用することができる。
【0069】
本発明の医薬組成物の有効投与量及び投与間隔は、患者の性別、年齢、体重、及び症状等に応じて適宜選択することができる。
【0070】
本発明の医薬組成物を投与する時期は、上記疾患の臨床症状が生ずる前後を問わず、予防的投与であっても治療的投与であってもよい。
<システイン残基がリンカーにより連結されたペプチドを生産する方法>
一態様において、本発明は、システイン残基がリンカーにより連結されたペプチドを生産する方法に関する。本方法は、システイン残基を2つ以上、好ましくは2つ含むペプチドと、以下の式:
【化6】
で表される化合物(式中、R
1及びR
2は、各々独立的に任意のハロゲン原子である)を混合し、2つ以上、好ましくは2つのシステイン残基中のスルフィド基が、以下の式:
【化7】
で表されるリンカーにより連結されたペプチドを得る工程を含む。上記式中の破線部分は、スルフィド基との結合部分を意味する。システイン残基が当該リンカーによって連結されたペプチドは、通常のジスルフィド結合で連結されたペプチドよりも、還元反応等に対して安定である。
【0071】
前記化合物において、R
1及びR
2は、好ましくはF、Cl、Br、及びI、さらに好ましくはCl、Br、及びIからなる群から選択される。R
1及びR
2は好ましくは同一であり、さらに好ましくは、R
1及びR
2はいずれもClである。
【0072】
本方法における混合工程の条件は、ペプチドのシステイン残基間で連結反応が生じる条件であれば特に限定しない。例えば、ペプチドと前記化合物を、適当なバッファー、例えば塩化グアニジウムを含む緩衝液中において、室温(例えば約15℃〜30℃)で混合することにより反応を行うことができる。該混合工程は、必要に応じて連結反応を促進する触媒を適量加えて行ってもよい。
【0073】
本方法の混合工程におけるペプチドと化合物の混合比率は、特に限定しない。ペプチドと化合物のモル比率は、例えば1:0.2〜1:10、好ましくは1:0.5〜1:5又は1:1〜1:2とすることができる。
【0074】
該混合工程における混合時間(反応時間)は、ペプチドのシステイン残基間で連結反応が生じる限り限定するものではないが、例えば、1分〜5時間、好ましくは10分〜2時間又は15分〜1時間とすることができる。
【0075】
本発方法は、必要に応じて、上記工程を行った後の混合物から、不純物、例えば、未反応のペプチド及び化合物等を分離し、システイン残基が連結されたペプチドを精製する工程をさらに含んでよい。該工程は、本分野で公知の方法、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換カラムクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー、及びHPLC等のクロマトグラフィー等により行うことができる。
【0076】
本方法において用いられるペプチドの種類は、システイン残基が前記化合物により連結可能なものである限り特に限定されないが、例えば本明細書に記載のIgG結合ペプチド又はWO2013/027796の明細書に記載のペプチドが挙げられる。WO2013/027796の明細書に記載のペプチドの例としては、本明細書に記載のIgG結合ペプチドのXaa1残基をアルギニン残基(R)に置換したペプチドが挙げられる。
【実施例】
【0077】
[実施例1:IgG結合ペプチドとIgGの複合体のX線結晶構造解析]
<方法>
(1)IgG結合ペプチド溶液の作製
G(HC)DCAYHRGELVWCT(HC)H-NH
2の配列(配列番号31、ただし、HCはホモシステインであり、4番目と14番目の2つのCys、2番目と16番目の2つのホモシステインは、それぞれ分子内でジスルフィド結合を形成する)を有する環状ホモシステインペプチドを、F-moc法によるペプチド固相合成法にて常法に従い調製した。調製したIgG結合ペプチド0.8mgの粉末を24μLの100%ジメチルスルホキシド(和光純薬)で溶かし、IgG結合ペプチド溶液を調製した。
【0078】
(2)FcとIgG結合ペプチドとの複合体の作製
ヒトIgG(中外製薬)のヒンジ部分を、10mM EDTAおよび1mM L-システインを含む20mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)中において37℃でパパイン(ロシュ社製)を用いて切断した。続いて、ヒトIgG Fcを、陽イオン交換カラム(TSKgel SP5-PW(東ソー))を用いて、流速1mL/min、20mM 酢酸ナトリウム緩衝液 (pH5.0)中、0-0.3 M NaClのグラジエント溶出にて精製した。16mg/mLのヒトIgG Fcを含む63μLの溶液(0.1M 塩化ナトリウム(和光純薬)、0.04M 2−モルホリノエタンスルホン酸(和光純薬)(pH6.0))を、上記(1)で作製したIgG結合ペプチド溶液2μLと混合し、FcとIgG結合ペプチドとの複合体溶液を調製した。
【0079】
(3)FcとIgG結合ペプチドとの複合体の結晶の作製
FcとIgG結合ペプチドとの複合体の結晶は、シッティングドロップ蒸気拡散法により得た。すなわち、上記(2)で作製したFcとIgG結合ペプチドとの複合体溶液0.3μLと結晶化剤(20% ポリエチレングリコール3350(シグマアルドリッチ)、0.2Mヨウ化カリウム(和光純薬)(pH6.9))0.3μLを、結晶化用ロボットであるHydoraII+(マトリックス社製)を用いて、インテリ結晶化プレート(ベリタス社製)のS1ウェル上で混合し、結晶化ドロップとした。リザーバー溶液としては、上記結晶化剤70μLを分注した。プレートをPowerSeal CRISTAL VIEW(グライナーバイオ−ワン社製)で密閉後、20℃の恒温槽内に約2週間静置し、結晶を得た。
【0080】
(4)FcとIgG結合ペプチドとの複合体の結晶のX線回折強度データの収集
上記(3)で得られた結晶を、安定化母液(22%ポリエチレングリコール3350、0.2M ヨウ化カリウム、0.1M 塩化ナトリウム、25%グリセロール(w/v)、0.04M 2−モルホリノエタンスルホン酸(pH6.0))に移し、−170℃の窒素ガス気流にて急速凍結し、X線回折データを振動法にて測定した。X線の波長は1オングストローム、振動角は1°/フレームで実施した。次に、回折強度データ処理プログラムHKL2000(HKL Research社製)を使用して、回折強度データを分解能3.0オングストロームで処理した。その結果、結晶の空間群がP21であり、格子定数がa=66.1オングストローム、b=60.5オングストローム、c=69.5オングストローム、α=γ=90°、β=101.3°であった。得られたデータのCompletenessは99.9%、Rmergeは13.8%であった。
【0081】
(5)FcとIgG結合ペプチドとの複合体の結晶構造の決定
DCAYHRGELVWCT(配列番号33)について、上記(4)で得られた回折強度データを、CCP4(Collaborative Computational Project Number 4)に含まれるプログラムPhaserを利用して分子置換法による位相決定を試みた。分子置換法のサーチモデルにはProtein Data Bank(PDB、URL:http://www.rcsb.org/pdb/)にPDB accession code:1DN2として登録されているFc部分のモデルを利用した。その結果、非対称単位中に1分子のモデルを見出すことができた。次にCCP4に含まれる構造精密化プログラムRefmac5を用いた構造精密化とモデル構築プログラムであるX−tal viewを用いたモデルの修正を繰り返し実施し、FcとIgG結合ペプチド(DCAYHRGELVWCT(配列番号33))との複合体の結晶構造を得た。Fcのペプチド結合部位にIgG結合ペプチドに相当する電子密度が観測された。決定した結晶構造の正確さの指標であるR因子は、0.216であった。さらに、精密化の段階で計算に入れなかった全反射の5%に相当する構造因子から計算されるRfree因子は0.317であった。
【0082】
(6)架橋構造モデルの作成
上記のX線結晶解析の構造を基に、計算科学ソフトウェアMOE(Molecular Operating Environment)上で架橋構造モデルを作成した。DCAYHRGELVWCT(配列番号33)の6番目のアミノ酸をLysに置換後、このLysのεアミノ基と抗体Fcの248番目Lysのεアミノ基の間をつなぐ形で、DSG又はDSSによる架橋構造をモデル化した。
【0083】
<結果>
図1Aに示した様に、IgG結合ペプチドは、プロテインAの結合部位と重なるCH2とCH3ドメインの境界領域に結合し、既に報告されているIgG結合ペプチドFc-III(DeLano, W. L. et al., Science, 2000, 287, pp. 1279-1283)と類似した形でIgGと結合していると考えられた。IgG結合ペプチドとFcとの特徴的な相互作用は、IgG結合ペプチドの8番目の残基Argの側鎖のグアニジノ基が、2.91オングストロームでFcのGlu380(EU numberingに基づく。以下同じ)の側鎖のカルボン酸と塩結合している点である。このGlu380の側鎖は、ヒトIgG Fcの中で、Lys248と塩結合して分子内での塩結合のネットワークを形成しており、IgG結合ペプチドのArg8とFcのLys248は、FcのGlu380との相互作用を介して近づいていた。そこで、IgG結合ペプチドの8番目の残基ArgをLysに換え、この塩結合のネットワーク構造に類似した形で、ペプチドのLys8と抗体のLys248の側鎖のアミノ基を架橋剤で架橋することを考案した。実際に、IgG結合ペプチドとヒトIgG Fcとの複合体構造をベースに、DSG(ジスクシンイミジルグルタレート)もしくはDSS(ジスクシンイミジルスベレート)による架橋構造のモデルを作成したところ、空間的にも抗体の主鎖構造のひずみを伴わずに架橋剤の導入が可能であると考えられた(
図1B)。
【0084】
[実施例2:標識用ペプチドの調製と特性]
<方法>
アミノ基をBiotinもしくは5/6TAMURA succinimidyl ester(AnaSpec, Inc.)(蛍光色素)で修飾したamino-PEG4化合成ペプチドGPDCAYHXGELVWCTFH(配列番号2)(ただし、C末端はアミド化)はFmoc固相合成法により常法に従って合成した。保護基を除去した後、pH8.5の水溶液中酸化条件下で分子内S-S結合を形成させ、逆相HPLCを用いて、流速1.0ml/min、0.1%のTFAを含む10%から60%のアセトニトリルのグラジエント溶出によって分子内S-S結合を有するペプチドを精製した。
【0085】
精製したIgG結合ペプチドを1mM含むDMF溶液100μLと100mMのDSS又はDSG(Thermo Fisher Scientific社)のアセトニトリル溶液100μLを混合後、室温で一晩反応させた。反応物を0.1% TFAで2.5倍に希釈後、Waters社製 μ Bondasphere 5C18 100オングストローム(直径3.9 mm x 150 mm)にインジェクトし、0.1% TFAを含む4%から60%までのアセトニトリルのグラジエントで溶出した。得られた生成物へ架橋剤の付加については、BEH300 C18 (1.7μm、直径2.1 mmx 50 mm)カラムを接続したLC-Mass spectrometry(Acquity SQD UPLC system, Waters Corp.)上にて、0.1%ギ酸を含む4%から60%へのアセトニトリルのグラジエントで溶出し、ピークの分子量の測定により確認した。
【0086】
得られたラベル化試薬ペプチドの親和性解析は、1M Tris-HCl (pH=7.0)を10分の1量加え15 min反応させることでNHS基を加水分解後、以下の方法で行った。BIAcoreT200(GE healthcare)にセットしたCM5センサーチップ上へ、0.4M EDC(1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)-carbodiimide、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)と0.1M sulfo-NHS(sulfo-N-hydroxysuccinimide、スルホ−N−ヒドロキシスクシンイミド)を等量混合後、10 μl/mlの流速で、センサーチップに7分間インジェクトすることによりセンサーチップを活性化し、pH4.0(10 mM 酢酸Na)の条件下で、固定化量がRU値で4000〜5000となるように、IgGを固定化した。HBS-EP緩衝液(0.01 M HEPES、0.15 M NaCl、0.005% Tween 20、3 mM EDTA、pH 7.0)を用いながら、流速50 μl/mlにて、10nMから2μMの濃度のペプチドを180 秒間インジェクトすることで結合反応をモニターし、その後、緩衝液により600 sec洗浄することで解離反応を測定した。結合パラメーターの解析は、BIAevalution T100ソフトウェアを用いて行った。
【0087】
<結果>
架橋構造の導入が、IgG結合ペプチドの特異性及び親和性に影響を与えるか検討するため、架橋構造を導入したIgG結合ペプチドのIgGへの結合力をSPR解析で測定した(表1)。8残基目のアルギニンをリジンに置換したIgG結合ペプチド(以下、Type I(R8K)とも称する)のヒトIgG に対する親和性は131 nM (Kd) であり、置換前のIgG結合ペプチド(以下、Type Iとも称する)と比べ10倍親和性が低下した。Type I(R8K)ペプチドに各架橋剤を結合させたものでは、ヒトIgG に対する親和性は、Type I(R8K)-DSG-OHで約330 nM (Kd)、Type I(R8K)-DSS-OHで約390 nM (Kd) であり、架橋剤が結合することによる親和性の大きな減少は見られなかった。いずれのペプチドにしても、Kd値でμM以下の親和性を有することから、十分特異的な標識化が可能であると考えられた。
【0088】
【表1】
【0089】
[実施例3:IgG結合ペプチドによるヒトIgG-Fcの特異的修飾]
<方法>
実施例2と同様の方法によってN末端にBiotin-PEG4を付加したIgG結合ペプチド(TypeI(R8K))をDSS又はDSGで修飾した標識化試薬ペプチドを調製し、これをヒトIgG Fcを反応させ、ヒトIgG Fcの標識化反応を検討した。即ち、実施例2と同様の方法によって過剰なDSS又はDSGと反応させたIgG結合ペプチド(R8K)(200 pmol/5μL in 0.1% TFA)を逆相カラムにて精製後、減圧下でアセトニトリルを除去した後、0.5M Na
2HPO
4を約1/8加えて中和し、ただちにタンパク質サンプル(hIgG(中外製薬)、hIgA(Athens Research&Technology)、HSA(シグマアルドリッチ)、又は血清(健常者から採血したもの))(各40 pmol/5μL、血清については、PBSにより10倍希釈したものを使用)に、モル比10倍量で加え、最終量をPBS で20μLにした後、室温で5分放置した。その後、1M Tris-HCl(pH=7.0)を1μl加え反応を停止した後、4xSDSサンプル溶液6.7μl及び2-メルカプトエタノール1.4μl(最終5%)を加え、95℃、10minで処理後、プレキャストゲルSuperSep
TMAce,5-20%(和光純薬)を用いてSDS-PAGEを行った。泳動後のゲルは、ホーファー・セミホールTE70(Hoefer Semiphor TE70)トランスブロットシステムを用いて35mA、60分で、PMDF膜に転写後、0.5%BSAでブロッキングを行った。ビオチン化ペプチドで標識されたタンパク質は、SAコンジュゲートHRP(1000倍希釈、Vector Laboratories)を用いて、化学発光試薬(イムノスター(登録商標)ベーシック、和光純薬)により検出した。
【0090】
<結果>
図2Bに示した様に、ウエスタンブロッティングにおいて、IgGと反応させた場合にのみ、複合体とみられるバンドが観察されたことから、DSG又はDSSと反応させたIgG結合ペプチドは、ともに、IgAやHAS、血清中のIgG以外のタンパク質とは結合せずに、IgGに選択的に結合していることがわかった。
【0091】
[実施例4:IgGに対するIgG結合ペプチドの反応条件の検討]
<方法>
(1)反応モル比の検討
96穴マイクロプレート(Nunc(登録商標)MaxiSorp)のウェルに、各タンパク質(IgG(中外製薬)、IgA(Athens Research & Technology)、又はBovine gelatin(和光純薬))(50 ng(0.33 pmol)/μl/well)を含む0.1 M NaHCO3溶液をプレートに加えて室温で一晩放置することによって、各タンパク質をプレートの表面に吸着させ、0.5 % BSAでブロッキングを行なった後、各ウェルに、実施例2と同様に調製したDSGで修飾したビオチン化IgG結合ペプチド(モル比で、0,1,2,5,10)を加え、1時間経過後、1M Tris-HCl (pH7.0)を3μL加え反応を停止した。0.5 % BSA で2000倍希釈したSA-HRP(Vector Laboratories)を50μL加え、室温で一時間反応後、0.1% PBSTで5回洗浄後、HRPの呈色にTMB溶液(Wako Chemicals)を用いて、5分の発色反応後、450nmの吸光度をELISAプレートリーダー(モデル 680 マイクロプレートリーダー(バイオラッド))にて測定した。
【0092】
(2)反応時間の検討
50ng/50μLの溶液により4℃で一晩固定化したhIgG(50 ng)に対しDSGで修飾したビオチン化IgG結合ペプチドをモル比2で加え、各反応時間(0〜60分)で、1M Tris-HCl (pH7.0)を3μL加え反応を停止した。結合の検出は(A)と同様に行った。
【0093】
<結果>
DSS標識化IgG結合ペプチドを用いて、抗体と反応させるモル数及び反応時間の違いによる反応効率をELISAにて検討した (
図3)。即ち、プラスティックプレートに固定化したIgG結合ペプチドのモル比を1から10まで変化させてhIgGと反応させたところ、ほぼモル比5のあたりで飽和がみられたことから、モル比5程度のペプチド試薬を加えれば、抗体の標識化には充分であると考えられた(
図3A)。DSSで修飾していないビオチン化IgG結合(R8K)ペプチド(NO DSS R8K)では極めて弱い結合がみられているが、これは、非共有結合で結合したペプチドによる結合活性と考えられる。さらに、標識化IgG結合ペプチド試薬を過剰に加えても、他のタンパク質(hIgA、Bovine gelatinあるいはブロッキング剤として用いているBSA)への結合は全く検出されなかった。
【0094】
次に、IgGとIgG結合ペプチドのモル比1:2で反応させた際の、反応時間の検討を行った。その結果、約15分で飽和が見られたことから、反応は15分でほぼ終了していると考えられた(
図3 B)。
【0095】
以上の結果より、架橋剤で修飾した本発明のIgG結合ペプチドは、短時間で、かつ特異的にIgGと結合することが示された。
【0096】
[実施例5:蛍光IgG結合ペプチドによるFcの標識化]
<方法>
IgG(中外製薬)、IgA(Athens Research & Technology)、又はBSA(シグマアルドリッチ)(15 μg:IgG換算で100 pmol)と実施例2に従って調製したDSG架橋ペプチド又はDSS架橋ペプチド(500 pmol)を200μL中で室温にて60 min反応させ、1M Tris-HCl (pH=7.0)を10μL加え反応を停止させた。その後、SuperdexTM200 10/30GL 直径1.0cm×30cm(GEヘルスケア);流速:0.3ml/min;ランニングバッファー:PBS pH 7.4、にてサイズ排除クロマトグラフィーを行い、蛍光検出器 RF-10A(島津製作所)(励起光:541 nm 蛍光: 565 nm)を用いて測定を行った。
【0097】
<結果>
DSS又はDSGを反応させた標識化IgG結合ペプチドを各タンパク質に対するモル比1:5でタンパク質と室温にて60 min反応させ、サイズ排除クロマトグラフィーにて分析した。いずれの標識化IgG結合ペプチド(DSS又はDSG)を用いても、IgGへの反応性の特異性は同程度であり、hIgAやBSA等の他のタンパク質への蛍光標識化は、全く検出されなかった(
図4)。以上のことから、作製したいずれのIgG結合ペプチドを用いても、高い特異性を持って、ヒトIgGを蛍光標識できることがわかった。
【0098】
[実施例6:IgG結合ペプチドによるFcの修飾物の解析(pH4.5)]
<方法>
ヒトIgG(中外製薬)のFc溶液(20μM、0.1M酢酸緩衝液pH4.5)200μLと、DMF中に溶解した、実施例2と同様の方法によってDSG修飾したIgG結合ペプチド(RGNCAYHXGQLVWCTYH(配列番号35)、Xはリジン)(4mM)を0.5、1.0、2.0、5.0μL(モル比で0.5、1.0、2.0、5.0)加え、素早く撹拌後、室温で15分反応し、1M Tris-HCl(pH7.0)を10μL加え、反応を停止させた。反応物50μLをShodex IEC SP-825カラムを接続したNGC Chromatography system(バイオラッド)にインジェクトし、25mM Acetate buffer(pH4.5)から1M NaClを含む25mM Acetate buffer(pH4.5)へのグラジエント溶出を行い、タンパク質の溶出を、215nmの吸光度でモニターした。得られた各ピークを分取し、LC/MSによる分子量測定に供した。
【0099】
Waters ACQUITY UPLC BEH C8 (1.7μm 2.1mm×100mm)カラムを接続したShimadzu LCMS-8030に、得られたピークのフラクションを20μLインジェクションした後、0.1% ギ酸を含む4%アセトニトリルから0.1% ギ酸を含む60%アセトニトリルまでのグラジエント溶出を行った。溶出されたピークのマススペクトル分析を行い、解析ソフトを用いた多価イオンピークからのデコンボリューションによって質量を計算した。
【0100】
<結果>
ヒトIgG1-FcとDSG修飾したIgG結合ペプチド(4mM、Biotin-PEG4-RGNCAYHXGQLVWCTYH-NH
2;分子量2760、XはDSG化したリジンで、2つのCysは分子内SS結合を形成)をモル比で0.5、1.0、2.0、又は5.0で反応させたところ、
図5Aに示した様に、元のヒトIgG1-Fcの溶出位置のピーク(ピーク2)と2つのピーク3、4が現れた(ピーク1は、DSG化したIgG結合ペプチドであると考えられる)。これらの分子種を同定するために、LCMS解析を行った。反応前のIgG1-Fcは、イオン交換クロマトグラムではピーク1のところに溶出され、LCMS解析では、55084という値が得られた。反応後の2、3、4のピークのLCMS解析を行ったところ、それぞれ、55087、57735(55087+2648)、60384(55087+5297)という値が得られた。このことから、反応後のピーク2は、未反応のFcであり、ピーク3と4は、Fcにそれぞれ1つ及び2つのペプチドが結合したものであることがわかった。
【0101】
図5Bは、各モル比で反応させた場合の、未反応(ピーク2)、1個のペプチドの付加物(ピーク3)、2個のペプチドの付加物(ピーク4)の生成量の変化をグラフ化したものである。例えば、モル比1:1で反応させた場合でも、未反応物は20%以下となり、モル比1:2では未反応物は10%以下と極めて収量が高いことがわかる。また過剰なモル比1:5の場合でも相対的に2個のペプチドの付加物の生成比率が増えたが、それ以上のペプチドが付加されたFcはイオン交換クロマトグラム上では検出されなかったことから、この標識反応は極めて特異的であることがわかった。
【0102】
[実施例7:IgG結合ペプチドによるFcの反応に対するpHと反応時間の影響]
<方法>
pH4.0(25mM酢酸緩衝液)、pH5.5(25mM酢酸緩衝液)、又はpH7.0(PBS)にて調製したヒトIgGのFc溶液200μLに対し、実施例5で調製した、DMF中に溶解したDSG修飾したIgG結合ペプチド(4 mM)を1.0μL(モル比で1.0)加え、素早く撹拌後、室温で反応した。反応後1、5、10、又は30分に、1M Tris-HCl(pH7.0)を10μL加え、反応を停止させ、反応物50μLをShodex IEC SP-825カラムを接続したNGC Chromatography system(バイオラッド)にインジェクトし、25mM Acetate buffer(pH4.5)から1M NaClを含む25mM Acetate buffer(pH4.5)へのグラジエント溶出を行い、タンパク質の溶出を、215nmの吸光度でモニターした。得られたクロマトグラムを基に各ピークの比率を計算した。
【0103】
<結果>
図6に示した様に、試験したpH 4.0、pH 5.5、及びpH 7.0のいずれにおいても標識化反応は早く、反応の90%以上が1分以内に終了していることがわかった。また、pH4.0では、未反応物の残量が40%を超えており反応収率が低く、特に、2つのペプチドの付加物(ピーク4)の収量が15%程度と他のpHの場合(35-40%)に比べ低かった。pH 5.5及び7.0では、未反応物の収量も10%台と低く、効率よく反応していることがわかった。pH5.5と7.0の差としては、若干、ピーク4の収量がpH 7.0で低くなる傾向が見られた。
【0104】
[実施例8:IgG結合ペプチドを用いた単鎖Fv-Fc抗体の蛍光標識によるFACS解析]
<方法>
Her2に対するscFv(4D5)とFc遺伝子を連結したscFv-Fcを保有するpcDNA3.1/Zeo(+)を、HEK293細胞へLipofectamine 2000を用いてトランスフェクションし、5日間培養後、培養液中に分泌されたscFv-FcをプロテインAカラムにより精製して、4D5-Fc抗体(HER2に対する特異性を持った単鎖Fvクローン4D5とFcの融合蛋白質)を調製した。続いて、調製した4D5-Fc抗体1.0μgを3%BSAを含むPBS 10μLに希釈したものを、実施例2と同様の方法によってDSG修飾したN末ビオチン化IgG結合ペプチド(Biotin-PEG4-RGNCAYHXGQLVWCTYH(配列番号35)、XはDSG化したリジンで、2つのCysは分子内SS結合を形成)0.16μg(20 p mol)と混合し10分間反応させた。この反応物を、10%FBSを含むPBS 100μLに分散した乳がん細胞株SK-BR3(ATCCから購入)(5.0×10
5細胞)に加え、30分間4℃で放置した。3%BSAを含むPBSで1回洗浄し、3%BSAを含むPBS 100 μLに懸濁した後、PE標識Streptavidin(Vector Laboratories)0.01μg(0.2 pmol)を加え、30分間4℃で放置した。再度、3%BSAを含むPBSで1回洗浄した後、3%BSAを含むPBS100μLに分散し、7-AAD Viability Dye(ベックマン・コールター)を10μL添加後、15分間放置した。PBS 400μLを加え分散し、35μmのメッシュ(Corning)を通した後、S3e
TM セルソーター(バイオラッド)上で分析した。
【0105】
<結果>
乳がん細胞株SK-BR3上のHER2抗原への4D5-Fc抗体の結合を、DSG修飾したビオチン化IgG結合ペプチドとPE標識Streptavidinにより検出した結果を
図7Aに示す。コントロールとして、DSG修飾したビオチン化IgG結合ペプチド(Biotin化IgG結合ペプチド)の代わりにビオチン化抗ヒトIgGマウス抗体(Anti hIgG mAb-biotin標識)(0.01μg)を使用した場合の、フローサイトメトリー解析の結果も併せて示した(いずれの場合も、7-AAD染色により染色される死細胞を除いた細胞画分のみを使用して分析した)。2つの系ではともに、蛍光強度にはほとんど違いがなかったことから、SG修飾したビオチン化IgG結合ペプチドは、ヒトFcを特異的に標識することにより、単鎖Fv-Fc等のFACS染色に利用できることが分かった。一方、ネガティブコントロールとして、4D5-Fcを加えない系も検討を行ったが(
図7B)、SG修飾ビオチン化IgG結合ペプチドを加えていない系(Anti hIgG mAb-biotin標識+SA-PE標識、及びAnti hIgG mAb-PE標識)と同様に、全く蛍光強度のシフトが見られなかったことから、DSG修飾したビオチン化IgG結合ペプチド単独では、細胞に対する非特異的な修飾は起こっていないことが分かった。
【0106】
[実施例9:IgG結合ペプチドによる、抗IgA受容体VHHとヒトIgG抗体のコンジュゲート形成]
<方法>
DSG修飾したN末アジ化IgG結合ペプチド(Azide-PEG4-GPDCAYHXGELVWCTFH(配列番号2)、XはDSG化したリジンで、2つのCysは分子内SS結合を形成、C末端はアミド化)は、実施例2と同様の方法によって調製した。このペプチドを10mMの濃度でDMSOに溶解し、この溶液20μLを25mM酢酸緩衝液(pH5.0)に溶解した16.6μMの抗HER2ヒトIgG抗体(中外製薬)溶液8mLに加え(ペプチドと抗体のモル比=1:1.5)、室温で5時間反応させた。反応後、CIMmultus
TM SO3-1(SHOWA DENKO)のカラム(1mL)上で、25mM酢酸緩衝液(pH5.0)の0から1MまでのNaClグラジエント溶出にてアジ化ペプチド抗HER2ヒトIgG抗体(1価アジ化ペプチド抗体、2価アジ化ペプチド抗体の混合物)を精製した。
【0107】
アルパカ由来の抗IgA受容体VHH抗体クローン2b1-L9(C末端にHISタグを付加)は、大腸菌HB2151にて分泌発現したものを、C末端に付加したHISタグを使いアフィニティ精製した。具体的には、大腸菌HB2151にVHH遺伝子を保有するファージミドベクターpKSTV03を導入後、2TYAGプレートで選択し、2TYA液体培地中で37℃で一晩培養した。この培養液10 mLを2TYA 500mLに加え37℃で1時間培養した後、1M IPTGを500μL添加し、16時間振盪培養した。遠心後の菌体をTES buffer(0.2M Tris-base、0.5mM EDTA、0.5M sucrose)10mLで懸濁し、氷上で2時間静置した。4倍希釈したTES bufferを20 mL加え再懸濁し氷上で1h静置後、遠心し、上清画分(ペリプラズム画分)を回収した。上清は、アフィニティーカラム(His trap excel、GE Healthcare)にて、Profinia(BioRad)の精製システムを用いてVHHを精製した(流速は結合・溶出 2 mL/min、洗浄 2mL/min、Bufferは、平衡化Buffer: 0.5M NaCl、20mMリン酸Na、洗浄Buffer:0.5M NaCl、20mMリン酸Na、溶出Buffer:500mMイミダゾール、0.5M NaCl、20mMリン酸Naを用いた。続いて、PBS(pH7.4)中にて、0.1mMのDTTの存在下で、1時間、室温にて還元処理後、IEC SP-825 (Shodex)カラム(8.0mm ×75mm)上で、10mM酢酸緩衝液(pH4.5)の0から1MまでのNaClグラジエント溶出にて精製した。還元処理したVHH溶液(41.2μM、pH4.5)200μLと10mM酢酸緩衝液(pH4.5)に溶解した870μM Dibenzocyclooctyne(DBCO)-maleimide(Click Chemistry Tools)42μLを混合(モル比で1:4.4)し、室温で1時間反応させた。このようにして調製したDibenzocyclooctyne-maleimide化VHH(22μM)290μLを、上記の通り調製したアジ化ペプチド抗体溶液(17μM、pH4.5)116μLと混合(モル比で3.3:1)し、4℃で14時間反応させた。反応物は、IEC SP-825(Shodex)カラム(8.0mm×75mm)上で、10mM酢酸緩衝液(pH4.5)中、0から1MまでのNaClのグラジエント溶出で精製された。精製された画分は、還元後、5-20%のグラジエントゲルSuper Sep Ace(WAKO)上で、SDS-PAGEにより分離後、CBBによりタンパク質染色した。
【0108】
<結果>
アジ化ペプチド抗体とDibenzocyclooctyne-maleimide化VHHとのクリック反応による連結後のイオン交換クロマトグラフィーの結果、3本(a、b、及びc)の主要なピークが得られた(
図8A)。それぞれを還元状態でSDS-PAGEで分析した結果を
図8Bに示す。a(レーン3)では元のIgG(レーン1)と同じH鎖由来の50 kDaとL鎖由来の25kDaのバンドが見られた。b(レーン4)では、L鎖のバンドに変化はなかったが、元のIgG抗体の重鎖(約50kDa)(レーン1)に加え、ほぼ等量の濃さの約80kDaの位置の新たなバンドが見られた。c(レーン5)では、L鎖のバンドに変化はなかったが、元の重鎖(約50kDa)のバンドが消失し、約80kDaのバンドのみが見られた。これらのことから、aはVHHが付加されていないIgG抗体、bは1個のVHHが連結されたIgG抗体(抗HER2ヒト抗体−1価VHH)、cは2個のVHHが連結されたIgG抗体(抗HER2ヒト抗体−2価VHH)であることが分かった。
【0109】
以上のことから、IgG抗体上にIgG結合ペプチド試薬を使って導入したアジド基と、VHH低分子抗体に導入したDibenzocyclooctyne基間のクリック反応によって、IgG抗体に低分子抗体(VHH等)を連結できることが分かった。
【0110】
[実施例10:抗IgA受容体VHHと抗HER2ヒトIgG抗体のIgG結合ペプチドを介したコンジュゲートのFACSによる抗原結合解析]
<方法>
HL60細胞(JCRBから入手)は、10%FBS並びに100units/mLペニシリンGと100μg/mLストレプトマイシン硫酸塩を含むRPMI1640培地(Life Technologies社)にて、1.3%DMSO添加によって6日間分化誘導を行った。SK-BR3細胞(ATCCから購入)については、10%FBS、100units/mLペニシリンG、及び100μg/mLストレプトマイシン硫酸塩を含むMcCoy's 5A (Life Technologies社)培地で、37℃にて5%CO
2インキュベーターで培養後、トリプシン−EDTA(Life Technologies社)にて細胞を剥離、回収した。各2×10
5の細胞を200μLの3%BSAを含むPBSに分散させ、最終濃度が200nMになるように1次抗体(抗HER2ヒトIgG抗体、実施例9で調製した抗IgA受容体VHH(C末HISタグ付加)、又は実施例9で調製した抗HER2ヒト抗体−1価VHH(C末HISタグ付加))を加え、4℃で30分放置した。1回洗浄後、3%BSAを含むPBSに分散した細胞液200μLに、2次抗体として、1)ビオチン化抗HISタグ抗体(MBLライフサイエンス)+PE標識したSA(最終濃度50nM)(Vector Laboratories)、又は2)PE標識した抗ヒトIgGポリクローナル抗体(Affimetrix eBioscience)(最終濃度13nM)を加え、4℃で30分放置した。1回洗浄後、3%BSAを含むPBSに分散した細胞液200μLに、7-AAD Viability Dye(ベックマン・コールター)10μLを加え15分放置後、800μLのPBSを加え、35μmのメッシュ(Corning)を通したのち、S3e
TM セルソーター(バイオラッド)上で分析した。
【0111】
<結果>
7-AAD染色により死細胞を除いた細胞画分を使って、HER2を高発現するSK-BR3細胞を、1次抗体として、抗HER2ヒトIgG抗体(
図9A)、抗IgA受容体VHH(C末HISタグ付加)(
図9B)、抗HER2ヒト抗体−1価VHH(C末HISタグ付加)(
図9C)を使用し、2次抗体として、最終濃度50 nMのビオチン化抗HIS抗体+PE標識したSAの混合物を用いてFACS解析を行った結果を
図9A〜Cに示す。
図9Cの場合において、大きな蛍光シフトが見られたことから、調製した抗HER2ヒト抗体−1価VHH中の抗HER2抗体は、SKBR-3細胞への結合活性を有していることが分かった。
【0112】
一方、DMSO1.3%による分化誘導でIgA受容体を高発現したHL60細胞への結合を、1次抗体として抗HER2ヒト抗体(
図9D)、抗IgA受容体VHH(C末HISタグ付加)(
図9E)、抗HER2ヒト抗体−1価VHH(
図9F)を用い、2次抗体として、PE標識抗ヒトIgGポリクローナル抗体を用いて検出した結果を、
図9D〜Fに示す。こちらにおいても、
図9Fの抗HER2ヒト抗体−1価VHHにおいてのみHL60への結合が見られることから、抗HER2ヒト抗体−1価VHH中のVHHは、IgA受容体に対する抗原結合活性を保持していることが分かった。なお、
図9Dにおける若干の蛍光シフトは、分化したHL60細胞上にHER2が少量発現していることを示しているが、この結合による蛍光強度に比べ、
図9Fでの蛍光強度ははるかに大きいため、HER2への結合の寄与は無視してよいと考えられる。
【0113】
[実施例11:IgG結合ペプチドによる抗体薬物複合体の細胞増殖抑制]
<方法>
N末のアミノ基をMaleimideacetoxyl succinimidyl esterで修飾したマレイミド-PEG4化合成ペプチドRRGPDCAYHXGELVWCTFH(配列番号37:配列番号2のペプチドのN末端に2つのArgを付加したもの、Xはリジンで、C末端はアミド化)はFmoc固相合成法により常法に従って合成した。保護基を除去した後、pH8.5の水溶液中酸化条件下で分子内S-S結合を形成させ、逆相HPLCを用いて、流速1.0ml/min、0.1%TFAを含む10%から60%のアセトニトリルのグラジエント溶出によって分子内S-S結合を有するペプチドを精製した。DMSOに溶解したペプチド(18.5mM)40μLに同じくDMSO に溶解したDM-1(emtansine(XDCExplorer社)、50mM)24μL(ペプチドとDM-1のモル比=1:1.6)を加え、さらにピリジン3.4μL(最終濃度5%)を加え、50℃で3時間反応させた。引き続き、アセトニトリルに溶解したDSG(500mM)80μL加え、50℃で3時間反応させ、IgG結合ペプチドのマレイミド基とDM-1のスルフヒドリル基の間で架橋構造を形成させた。全量を0.1%TFAを含む10%アセトニトリル10mlに希釈し、遠心後の上清を、Inertsustain C18 カラム(7.6mm 1×250mm, GL Science)にインジェクションし、0.1%TFAを含む10%から70%までのアセトニトリルのグラジエントで溶出した。溶出物の質量分析を行い、目的物を回収後、溶媒除去後、凍結乾燥した。
【0114】
DMSO中に溶解した12.0mMのDM-1を連結したDSG修飾マレイミド-PEG4化IgG結合ペプチド試薬0.56μLと、10mM酢酸緩衝液(pH5.5)に溶解した6.8μMの抗HER2ヒト抗体(中外製薬)1mLを混合し、室温で30分間反応(ペプチドと抗体のモル比=1:1)させた。このようにして調製したDM-1修飾ヒト抗体(抗体薬物複合体、ADC)は、陽イオンイオン交換カラムShodex SP825(8.0mm×75mm, Shodex)にて、10mM酢酸緩衝液(pH5.5)を含む0Mから1.0MまでのNaClのグラジエント溶出にて精製された。未反応の抗体以外の2本のピーク(ピークA、B)を分取後、Vivaspin(10000Daカットオフ、Sartorius)上で、3000gの遠心操作により脱塩濃縮を行った。得られたサンプルは、MALDI-TOF-MAS autoflex speed TOF/TOF-KG(Bruker Daltonics)で質量を測定し、ピークAが元の抗HER2ヒト抗体に比べ3553(理論値3535)、ピークBが元の抗HER2ヒト抗体に比べ7092(理論値7070)増えていることから、DM-1を連結したマレイミド-PEG4化IgG結合ペプチドが、それぞれ、1つ(抗HER2抗体−DM1*1)、及び2つ(抗HER2抗体−DM1*2)の導入されていることを確認した。
【0115】
96穴の細胞培養プレートの各ウェルに、10000 cell/100μLとなるように、10%FBSと100units/mLペニシリンGと100μg/mLストレプトマイシン硫酸塩を含むMcCoy's 5A (Life Technologies社)培地に、SK-BR3細胞(ATCCから購入)又はC6細胞(JCRBから入手)を播種した。37℃にて5%CO
2インキュベーターで24時間培養した後、各濃度の上記の通り調製した抗体薬物複合体(ADC)を含む培地100μLを加え、さらに、37℃のCO
2インキュベーターで72時間培養した。Cell Counting Kit-8(同人化学)を各wellに10μLずつ加え、37℃のCO
2インキュベーターで2時間保温後、プレートリーダーで、450nmの吸光度を測定した。
【0116】
<結果>
乳がん細胞株SK-BR3に対する調製したADCの細胞増殖抑制効果を評価するため、0-10 nMのADCの存在下でSK-BR3細胞を培養し、72時間後の細胞数を細胞測定キットにより評価した(
図10)。今回調製した抗HER2抗体−DM1*1、抗HER2抗体−DM1*2ともに、HER2を高発現するSK-BR3に対し、0.4nM以上の濃度で、顕著な細胞増殖抑制活性を示した。一方、HER2を発現していないC6細胞に関しては、使用した抗体薬物複合体の濃度範囲では、細胞増殖抑制は見られなかった。以上のことから、IgG結合ペプチドを介した共有結合による抗体薬物複合体は、がん細胞株に対して、有効な細胞増殖抑制活性を発現できることが分かった。
【0117】
[実施例12:ジクロロプロパノンによるSS架橋構造を持つIgG結合ペプチドによる抗体薬物複合体の細胞増殖抑制]
<方法>
N末アセチル化RRC(Acm保護)-PEG4化合成ペプチドGPDCAYHXGELVWCTFH(配列番号2、Xはリジンで、C末端はアミド化)は、ペプチド合成ビーズ(Rink-amide-Chemmatrix resin、Biotage)上にて、Fmoc固相合成法により常法に従って合成した。樹脂からのペプチドの切り出し、脱保護を行った後、ペプチド(
図11、a)を得た。得られたペプチド65mg(15.6μmol)を6 M Gn・HClを含むリン酸緩衝液 (pH =7.3)5 mLに溶解し、これにアセトニトリル120μLに溶解した1, 3-Dichloro-2-propanone (2.9 mg, 23.4 μmol, 1.5等量モル)を加えて、室温で攪拌した。1時間後、HPLC分析によって反応の終了を確認し、反応溶液を直接HPLCにて精製することによって、環化ペプチド(
図11、b、33 mg、7.8 μmol、収率50%)を得た。この環化ペプチドに対して、90%酢酸水溶液(8.8 mL)に懸濁した酢酸銀(30.8 mg, 184.5 μmol)を加えて、室温下、遮光で5時間攪拌した。ジチオスレイトール(DTT:352 mg, 2.3 mmol)を加え、生じた沈殿を遠心分離によって除去し、得られた上清をHPLCによって、精製することで、環化ペプチド(
図11、c、20.5 mg、5.2 μmol、収率67%)を得た。
【0118】
上記の通り調製した環化ペプチドをDMSOに溶解した溶液(60mM)6μLに、同じくDMSO に溶解した27mM のVcMMAE(Maleimidocaproyl-valine-citrulline-p-aminobenzoyloxycarbonyl-monomethyl auristatin E, MedChem Express)18μL(ペプチドとVcMMAEのモル比=1:1.4)を加え、さらにピリジン1.2μL(最終濃度5%)を加え、50℃で3時間反応させた。引き続き、アセトニトリルに溶解したDSG(500mM)25μL加え、50℃で3時間反応させた。全量を0.1%TFAを含む10%アセトニトリル10mlに希釈し、遠心後の上清を、Inertsustain C18カラム(7.6mm×250mm, GL Science)にインジェクションし、0.1%TFAを含む10%から80%までのアセトニトリルのグラジエントで溶出した。溶出物の質量分析を行い、目的物を回収後、溶媒除去後、凍結乾燥した。
【0119】
DMSO中に溶解した5.0mMのDSG修飾N末アセチル化RRC-PEG4化IgG結合ペプチド試薬(R8K)5.4μLと10mM酢酸緩衝液(pH5.5)に溶解した6.8μMの抗HER2ヒトIgG抗体(中外製薬)1mLを混合し、室温で15時間反応(ペプチドと抗体のモル比=1:4)させた。このようにして調製したVcMMAE修飾ヒトIgG抗体(抗体薬物複合体、ADC)は、陽イオンイオン交換カラムShodex SP825(8.0mm×75mm, Shodex)にて、10mM酢酸緩衝液(pH4.5)を含む0Mから1.0MまでのNaClのグラジエント溶出にて精製された。未反応の抗体以外の主要な1本のピークを分取後、Vivaspin(10000Daカットオフ、Sartorius)上で、3000gの遠心操作により脱塩濃縮を行った。得られたサンプルは、MALDI-TOF-MAS autoflex speed TOF/TOF-KG(Bruker Daltonics)で質量を測定し、元の抗HER2ヒト抗体に比べ3941(理論値4178)増えていることから、VcMMAEが付加されたN末アセチル-RRC-PEG4化IgG結合ペプチド(R8K)が1つ導入されていることを確認した。
【0120】
96穴の細胞培養プレートの各ウェルに、10000 cell/100 μLとなるように、10%FBSと100units/mLペニシリンGと100μg/mLストレプトマイシン硫酸塩を含むMcCoy's 5A (Life Technologies社)培地に、SK-BR3細胞(ATCCから購入)もしくはC6細胞(JCRBから入手)を播種した。37℃にて5%CO
2インキュベーターで24時間培養した後、各濃度の抗体薬物複合体(ADC)を含む培地100μLを加え、さらに、37℃のCO
2インキュベーターで72時間培養した。Cell Counting Kit-8(同人化学)を各wellに10μLずつ加え、37℃のCO
2インキュベーターで2時間保温後、プレートリーダーで、450nmの吸光度を測定した。
【0121】
<結果>
乳がん細胞株SK-BR3に対する調製したADCの細胞増殖抑制効果を評価するため、0-500 nM ADCの存在下でSK-BR3細胞を培養し、72時間後の細胞数を細胞測定キットにより評価した(
図12)。使用した抗癌剤VcMMAEそのものについては、250nM以上においてのみ増殖抑制が見られたが(
図12A)、今回調製したADCでは、HER2を高発現するSK-BR3に対し、0.4nM以上濃度で、顕著な細胞増殖抑制活性を示し(
図12B)、抗体とのコンジュゲートによって、500倍程度細胞増殖抑制活性が増強していた。一方、このような細胞増殖抑制は、元の抗HER2ヒト抗体のみでは見られなかった。以上のことから、IgG結合ペプチドを介した共有結合による抗体薬物複合体は、がん細胞株に対して、有効な細胞増殖抑制活性を発揮できることが分かった。
【0122】
[実施例13:各種IgGに対するIgG結合ペプチドによる標識評価]
<方法>
ヒト、マウス、ウサギ、及びラットの各種抗体溶液(14μM)1.25μL (抗体2.5μg相当)に、PBS 3.15μLを加え、実施例2と同様の方法によってDSG修飾したN末ビオチン化IgG結合ペプチドBiotin-PEG4-RGNCAYHXGQLVWCTYH(配列番号35、XはDSG化したリジンで、2つのCysは分子内SS結合を形成)のDMSO溶液(118μM)0.65μLを混合後、室温で30分間反応(抗体とペプチドのモル比=1:4)させた。この反応液(5.0μL)に、SDS-PAGEのサンプルバッファー(4×)5.0μL、2-mercaptoethanol 0.6 μL、超純水9.35μLを加え混合後、95℃で10分間加熱し、グラジエントゲル(Super Sep
TM Ace 5-20%, Wako Chemicals)上で、SDS-PAGEを行った。ゲルは、CBBでタンパク質染色を行い、またゲルからPBDF膜に転写したタンパク質は、Western Blotに供した。すなわち、転写後のPVDF膜を、0.5% BSAでブロッキングを行い、HRP標識ストレプトアビジン(Vector Laboratories)を室温で1時間反応させ、化学発光検出試薬Chemi-Lumi One (NACALAI TESQUE)を用いて、化学発光イメージャーChemDock(BioRad)で検出した。標識に使用した抗体は以下の通りである。ヒトIgG1(Clone ID: CB1)、ヒトIgG2(Clone ID: CB2)、ヒトIgG3(Clone ID: CB3)、ヒトIgG4(Clone ID: CB4)、 マウスIgG1(Clone ID: CB5)、マウスIgG2b(Clone ID: CB8)、及びマウスIgG3(Clone ID: CB9)は、Crown Bioscience Inc.から購入した。ラットIgG1(Clone #: 43414)とIgG2b(Clone #: 141945)はR&D社から、IgG2c(Clone Name: SB68b)はLifeSpan BioScience社から、ウサギIgGは、Thermo Scientific社から、購入した。
【0123】
<結果>
図13に示したように、Trastuzumab(抗HER2ヒト化IgG1抗体)と同程度に、ヒトモノクローナルIgG1、ヒトIgG2、及びヒトIgG4において、濃いバンドが認められた。また、使用した動物抗体のうち、ウサギポリクローナルIgG抗体が、特に強く染色された。以上のことから、本IgG結合ペプチドを使った標識では、ヒトIgG1、2、及び4並びにウサギIgG抗体を効率良く標識できることが分かった。