特許第6872192号(P6872192)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6872192
(24)【登録日】2021年4月21日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】落雷電荷量推定方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   G01W 1/16 20060101AFI20210510BHJP
【FI】
   G01W1/16 A
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-116070(P2017-116070)
(22)【出願日】2017年6月13日
(65)【公開番号】特開2019-2740(P2019-2740A)
(43)【公開日】2019年1月10日
【審査請求日】2020年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(73)【特許権者】
【識別番号】520242399
【氏名又は名称】九州電力送配電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】特許業務法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】道下 幸志
(72)【発明者】
【氏名】高野 浩二
(72)【発明者】
【氏名】栗原 聡史
【審査官】 佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−026587(JP,A)
【文献】 特開2007−315910(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第106771682(CN,A)
【文献】 国際公開第2014/077337(WO,A1)
【文献】 特開平07−151866(JP,A)
【文献】 特開平07−146377(JP,A)
【文献】 特開2006−300794(JP,A)
【文献】 特開平09−311122(JP,A)
【文献】 馬場吉弘,帰還雷撃の工学モデルと雷電磁界パルス計算への応用,電気学会論文誌 B,2008年,Vol. 128, No. 5,p. 785-794,インターネット<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/ieejpes/128/5/128_5_785/_article/-char/en>でダウンロード可能
【文献】 道下幸志 他,雷放電電荷量の電界測定に基づく推定,電気学会放電研究会資料,日本,2007年,Vol.ED-07, No.142-146.148.150-152.154-16,p.11-16
【文献】 宅間董,雷雲下の空間電荷密度,電気学会放電研究会資料,1994年,Vol.ED-94, No.112-121.123-125,p. 39-48
【文献】 北川信一郎,日本海沿岸の冬の雷雲の電荷分布と放電活動,電気学会放電研究会資料,日本,1990年,Vol.ED-90, No.134-144,1-10
【文献】 HUZITA A, OGAWA T,Charge distribution in the average thunderstorm cloud.,Journal of Meteorological Society of Japan,日本,1976年,Vol.54, No.5,p. 285-288,インターネット<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jmsj1965/54/5/54_285/_article/-char/en >からダウンロード可能
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R29/00 −29/26
G01W 1/00 − 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
落雷電荷量を算出するための均一分布電荷モデルによる落雷電荷量推定方法であって、
観測地域における気象条件毎及び最初の放電が生じた時点からの時間差の範囲毎に、推定電荷量と測定電荷量との差が小さくなる空気層の温度との対応関係を予め定めておき、
落雷位置から観測点までの水平距離D[m]及び前記観測点における落雷前後の電界値を計測し、
前記落雷前後の電界値に基づいて、帰還雷撃開始直前の電界値と前記帰還雷撃開始後所定時間経過後の電界値の差である電界変化量ΔE[V/m]を算出し、
前記落雷位置及び落雷発生時点に近い箇所及び時点における気象観測データから気温が−5℃〜−15℃である空気層の地上高の範囲を推定し、
前記落雷位置、落雷発生時点における気象条件、最初の放電が生じた時点からの時間差の範囲及び前記落雷位置を含む観測地域における予め定められた対応関係に基づいて推定電荷量と測定電荷量との差が小さくなる空気層の温度を決定し、
決定した前記空気層の温度及び推定した前記地上高の範囲に基づいて分布電荷の上限高さH[m]を決定し、
前記水平距離D、前記電界変化量ΔE及び前記上限高さHを用いて下記(式1)によって落雷電荷量ΔQ[C]を算出する
ことを特徴とする落雷電荷量推定方法。
(式1)ΔQ=2πε0HΔE/{1/D−1/(D2+H2)1/2}
(ただし、πは円周率、ε0は空気の誘電率を表す。)
【請求項2】
推定した前記地上高の範囲に基づいて分布電荷の下限高さh[m]を決定し、
前記水平距離D、前記電界変化量ΔE、前記上限高さH及び前記下限高さhを用いて前記(式1)に代え下記(式2)によって落雷電荷量ΔQを算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の落雷電荷量推定方法。
(式2)ΔQ=2πε0(H−h)ΔE/{1/(D2+h2)1/2−1/(D2+H2)1/2}
(ただし、πは円周率、ε0は空気の誘電率を表し、0≦h<Hである。)
【請求項3】
前記下限高さhを前記落雷位置と前記観測点の高さの差を算出して決定する
ことを特徴とする請求項2に記載の落雷電荷量推定方法。
【請求項4】
前記(式1)によって算出される落雷電荷量ΔQのエラー率Er[%]を推定し、
前記水平距離D、前記電界変化量ΔE、前記上限高さH及び前記エラー率Erを用いて前記(式1)に代え下記(式3)によって落雷電荷量ΔQを算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の落雷電荷量推定方法。
(式3)ΔQ=2πε0HΔE×100/(100+Er)/{1/D−1/(D2+H2)1/2}
(ただし、πは円周率、ε0は空気の誘電率を表す。)
【請求項5】
前記落雷前後の電界値に基づいて、前記落雷前後における電界波形の波尾長T[μs]を算出し、
算出された波尾長Tを用いて下記(式4)によって前記エラー率Erを推定する
ことを特徴とする請求項4に記載の落雷電荷量推定方法。
(式4)Er=αT+β
(ただし、α及びβは落雷電荷量の測定及び推定に基づいて予め決定される定数である。)
【請求項6】
落雷電荷量を算出するための落雷電荷量推定システムであって、
観測地域における気象条件毎及び最初の放電が生じた時点からの時間差の範囲毎に、推定電荷量と測定電荷量との差が小さくなる空気層の温度との予め定められた対応関係が記録されている対応関係記録手段と、
落雷位置から観測点までの水平距離D[m] を計測する落雷位置標定手段と、
前記観測点における落雷前後の電界値を計測する電界計測手段と、
前記落雷前後の電界値に基づいて、帰還雷撃開始直前の電界値と前記帰還雷撃開始後所定時間経過後の電界値の差である電界変化量ΔE[V/m]を算出する電界変化量演算手段と、
前記落雷位置及び落雷発生時点に近い箇所及び時点における気象観測データから気温が−5℃〜−15℃である空気層の地上高の範囲を推定する地上高範囲推定手段と、
前記落雷位置、落雷発生時点における気象条件、最初の放電が生じた時点からの時間差の範囲及び前記落雷位置を含む観測地域における予め定められた対応関係に基づいて推定電荷量と測定電荷量との差が小さくなる空気層の温度を決定する空気層温度決定手段と、
該空気層温度決定手段が決定した前記空気層の温度及び前記地上高範囲推定手段が推定した前記地上高の範囲に基づいて分布電荷の上限高さH[m]を決定する上限高さ決定手段と、
前記水平距離D、前記電界変化量ΔE及び前記上限高さHを用いて下記(式1)の演算を行い落雷電荷量ΔQ[C]を算出する電荷量計算手段とを備えている
ことを特徴とする落雷電荷量推定システム。
(式1)ΔQ=2πε0HΔE/{1/D−1/(D2+H2)1/2}
(ただし、πは円周率、ε0は空気の誘電率を表す。)
【請求項7】
前記地上高範囲推定手段が推定した前記地上高の範囲に基づいて分布電荷の下限高さh[m]を決定する下限高さ決定手段をさらに備え、
前記電荷量計算手段は、前記水平距離D、前記電界変化量ΔE、前記上限高さH及び前記下限高さhを用いて前記(式1)に代え下記(式2)の演算を行う
ことを特徴とする請求項6に記載の落雷電荷量推定システム。
(式2)ΔQ=2πε0(H−h)ΔE/{1/(D2+h2)1/2−1/(D2+H2)1/2}
(ただし、πは円周率、ε0は空気の誘電率を表し、0≦h<Hである。)
【請求項8】
前記下限高さ決定手段は、前記落雷位置と前記観測点の高さの差を算出する手段を有している
ことを特徴とする請求項7に記載の落雷電荷量推定システム。
【請求項9】
前記(式1)によって算出される落雷電荷量ΔQのエラー率Er[%]を推定するエラー率推定手段をさらに備え、
前記電荷量計算手段は、前記水平距離D、前記電界変化量ΔE、前記上限高さH及び前記エラー率Erを用いて前記(式1)に代え下記(式3)の演算を行う
ことを特徴とする請求項6に記載の落雷電荷量推定システム。
(式3)ΔQ=2πε0HΔE×100/(100+Er)/{1/D−1/(D2+H2)1/2}
(ただし、πは円周率、ε0は空気の誘電率を表す。)
【請求項10】
前記落雷前後の電界値に基づいて、前記落雷前後における電界波形の波尾長T[μs]を算出する波尾長演算手段をさらに備え、
前記エラー率推定手段は、算出された波尾長Tを用いて下記(式4)の演算を行う
ことを特徴とする請求項9に記載の落雷電荷量推定方法。
(式4)Er=αT+β
(ただし、α及びβは落雷電荷量の測定及び推定に基づいて予め決定される定数である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、落雷の電荷量を高い精度で推定可能とする落雷電荷量推定方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
電力会社等のインフラ設備を保有する企業や、広範囲に設備を分散配置し管理する事業者においては、落雷による設備被害をできるだけ早く把握することが求められる。
落雷が発生したときに、その落雷のエネルギー(電荷量)が分かれば、設備被害の想定を行う上で大変有効である。
【0003】
雷は雷雲等の空中の電荷が変化し地上の電荷と中和される過程で発生するため、特許文献1(特許第4217728号公報)に記載されるように、このときの空中での電荷の変化を図11に示すように点電荷の変化で模擬するとともに、落雷位置(電荷中心)から観測点までの水平距離D[m]、落雷前後における電界変化量ΔE[V/m]及び電荷中心の高度L[m]を測定することで、下記(式9)から落雷の電荷量を推定することが知られている。
(式9)ΔQ=2πε03ΔE{1+(L/D)2}3/2/L
(ただし、ΔQは落雷電荷量[C]、πは円周率、ε0は空気の誘電率である。)
特許文献1では、Dは落雷位置標定装置から標定された落雷位置と測定対象位置との距離から算出し、ΔEは電界変化の勾配の大きさで落雷と判定した場合、最初の電界変化の直前の電界値と最後の電界変化の直後の電界値の差により算出し、Lは電界センサで検知した落雷の発生時点と磁界センサから検知した落雷に先行するリーダの発生時点からリーダ進展時間を求め、その進展時間と一定のリーダ進展速度から算出している。
【0004】
また、近年では非特許文献1(電学論B、128巻5号、785頁〜794頁)に記載されるように、帰還雷撃モデルとしてTLモデル、MTLLモデル、MTLDモデル、TCSモデル、DUモデル、MTLD2モデル、MDUDモデル等様々な工学モデルを用いて帰還雷撃路上の電流波形が計算されるようになってきている。
ところで、空中での電荷の変化を点電荷の変化で模擬する点電荷モデルを仮定して推定する落雷の電荷量は1〜20ミリ秒(以下「ms」と記載する。)程度の比較的長時間に亘る電荷量(ストローク電荷)を対象としているので、電荷量の推定に際してはΔEの測定にスローアンテナを用いた電界観測によるものが多かった。
しかし、近年用いられるようになった帰還雷撃モデルを仮定しての電荷量推定においては、1msまで又は波尾において波高値が1kA以下となるまでといった比較的短時間における電荷量(インパルス電荷)の推定を要求される場合があるため、ファーストアンテナを用いた電界観測も行われるようになってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4217728号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】馬場吉弘著「帰還雷撃の工学モデルと雷電磁界パルス計算への応用」、電学論B、128巻5号、2008年、785頁〜794頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のとおり、落雷の電荷量(ストローク電荷やインパルス電荷)を推定するため、様々な方法が提案されているが、特許文献1に記載されている方法では、雷撃の種類によりリーダ進展速度が大きく変化するため、一定のリーダ進展速度を用いたのでは正しい電荷中心の高度の算出結果を得ることができない。
また、非特許文献1に記載されているDUモデル等においては、帰還雷撃電流は雷道上に分布した電荷がその源とされているため、一般に数10マイクロ秒(以下「μs」と記載する。)程度の規約波尾長を持つ帰還雷撃電流が0になると、その時の電界は雷道上で中和された電荷を反映することになる。
そのため、ファーストアンテナにより得られた電界値から電荷量(インパルス電荷)を推定するためにはリーダにより雷道上に蓄積された電荷分布を求める必要があるが、リーダ上の電荷分布は雷撃毎に異なるため、これを求めるには帰還雷撃モデルを仮定して電流推定を行う必要がある。
本発明の第1の課題は、帰還雷撃モデルとして大地に垂直な雷道に電荷が均一に分布していると仮定した均一分布電荷モデルを利用するとともに、リーダ進展速度を用いることなく均一分布電荷モデルにおける分布電荷の上限高さを求めて、簡便かつ精度良く落雷電荷量(インパルス電荷)を推定できるようにすることである。
そして、本発明の第2の課題は、均一分布電荷モデルにおける分布電荷の下限高さを加味することによって、より精度良く落雷電荷量(インパルス電荷)を推定できるようにすることである。
さらに、本発明の第3の課題は、均一分布電荷モデルによる推定値と真の落雷電荷量とのエラー率を推定することによって、より精度良く落雷電荷量(インパルス電荷)を推定できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、落雷電荷量を算出するための均一分布電荷モデルによる落雷電荷量推定方法であって、
観測地域における気象条件毎及び最初の放電が生じた時点からの時間差の範囲毎に、推定電荷量と測定電荷量との差が小さくなる空気層の温度との対応関係を予め定めておき、
落雷位置から観測点までの水平距離D[m]及び前記観測点における落雷前後の電界値を計測し、前記落雷前後の電界値に基づいて、帰還雷撃開始直前の電界値と前記帰還雷撃開始後所定時間経過後の電界値の差である電界変化量ΔE[V/m]を算出し、前記落雷位置及び落雷発生時点に近い箇所及び時点における気象観測データから気温が−5℃〜−15℃である空気層の地上高の範囲を推定し、前記落雷位置、落雷発生時点における気象条件、最初の放電が生じた時点からの時間差の範囲及び前記落雷位置を含む観測地域における予め定められた対応関係に基づいて推定電荷量と測定電荷量との差が小さくなる空気層の温度を決定し、
決定した前記空気層の温度及び推定した前記地上高の範囲に基づいて分布電荷の上限高さH[m]を決定し、
前記水平距離D、前記電界変化量ΔE及び前記上限高さHを用いて下記(式1)によって落雷電荷量ΔQ[C]を算出することを特徴とする。
(式1)ΔQ=2πε0HΔE/{1/D−1/(D2+H2)1/2}
(ただし、πは円周率、ε0は空気の誘電率を表す。)
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の落雷電荷量推定方法において、推定した前記地上高の範囲に基づいて分布電荷の下限高さh[m]を決定し、
前記水平距離D、前記電界変化量ΔE、前記上限高さH及び前記下限高さhを用いて前記(式1)に代え下記(式2)によって落雷電荷量ΔQを算出することを特徴とする。
(式2)ΔQ=2πε0(H−h)ΔE/{1/(D2+h2)1/2−1/(D2+H2)1/2}
(ただし、πは円周率、ε0は空気の誘電率を表し、0≦h<Hである。)
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の落雷電荷量推定方法において、前記下限高さhを前記落雷位置と前記観測点の高さの差を算出して決定することを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項1に記載の落雷電荷量推定方法において、前記(式1)によって算出される落雷電荷量ΔQのエラー率Er[%]を推定し、
前記水平距離D、前記電界変化量ΔE、前記上限高さH及び前記エラー率Erを用いて前記(式1)に代え下記(式3)によって落雷電荷量ΔQを算出することを特徴とする。
(式3)ΔQ=2πε0HΔE×100/(100+Er)/{1/D−1/(D2+H2)1/2}
(ただし、πは円周率、ε0は空気の誘電率を表す。)
【0012】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載の落雷電荷量推定方法において、前記落雷前後の電界値に基づいて、前記落雷前後における電界波形の波尾長T[μs]を算出し、
算出された波尾長Tを用いて下記(式4)によって前記エラー率Erを推定することを特徴とする。
(式4)Er=αT+β
(ただし、α及びβは落雷電荷量の測定及び推定に基づいて予め決定される定数である。)
【0013】
請求項6に係る発明は、落雷電荷量を算出するための落雷電荷量推定システムであって、
観測地域における気象条件毎及び最初の放電が生じた時点からの時間差の範囲毎に、推定電荷量と測定電荷量との差が小さくなる空気層の温度との予め定められた対応関係が記録されている対応関係記録手段と、
落雷位置から観測点までの水平距離D[m]を計測する落雷位置標定手段と、前記観測点における落雷前後の電界値を計測する電界計測手段と、前記落雷前後の電界値に基づいて、帰還雷撃開始直前の電界値と前記帰還雷撃開始後所定時間経過後の電界値の差である電界変化量ΔE[V/m]を算出する電界変化量演算手段と、前記落雷位置及び落雷発生時点に近い箇所及び時点における気象観測データから気温が−5℃〜−15℃である空気層の地上高の範囲を推定する地上高範囲推定手段と、前記落雷位置、落雷発生時点における気象条件、最初の放電が生じた時点からの時間差の範囲及び前記落雷位置を含む観測地域における予め定められた対応関係に基づいて推定電荷量と測定電荷量との差が小さくなる空気層の温度を決定する空気層温度決定手段と、
該空気層温度決定手段が決定した前記空気層の温度及び前記地上高範囲推定手段が推定した前記地上高の範囲に基づいて分布電荷の上限高さH[m]を決定する上限高さ決定手段と、
前記水平距離D、前記電界変化量ΔE及び前記上限高さHを用いて下記(式1)の演算を行い落雷電荷量ΔQ[C]を算出する電荷量計算手段とを備えていることを特徴とする。
(式1)ΔQ=2πε0HΔE/{1/D−1/(D2+H2)1/2}
(ただし、πは円周率、ε0は空気の誘電率を表す。)
【0014】
請求項7に係る発明は、請求項6に記載の落雷電荷量推定システムにおいて、前記地上高範囲推定手段が推定した前記地上高の範囲に基づいて分布電荷の下限高さh[m]を決定する下限高さ決定手段をさらに備え、
前記電荷量計算手段は、前記水平距離D、前記電界変化量ΔE、前記上限高さH及び前記下限高さhを用いて前記(式1)に代え下記(式2)の演算を行うことを特徴とする。
(式2)ΔQ=2πε0(H−h)ΔE/{1/(D2+h2)1/2−1/(D2+H2)1/2}
(ただし、πは円周率、ε0は空気の誘電率を表し、0≦h<Hである。)
【0015】
請求項8に係る発明は、請求項7に記載の落雷電荷量推定システムにおいて、前記下限高さ決定手段は、前記落雷位置と前記観測点の高さの差を算出する手段を有していることを特徴とする。
【0016】
請求項9に係る発明は、請求項6に記載の落雷電荷量推定システムにおいて、前記(式1)によって算出される落雷電荷量ΔQのエラー率Er[%]を推定するエラー率推定手段をさらに備え、
前記電荷量計算手段は、前記水平距離D、前記電界変化量ΔE、前記上限高さH及び前記エラー率Erを用いて前記(式1)に代え下記(式3)の演算を行うことを特徴とする。
(式3)ΔQ=2πε0HΔE×100/(100+Er)/{1/D−1/(D2+H2)1/2}
(ただし、πは円周率、ε0は空気の誘電率を表す。)
【0017】
請求項10に係る発明は、請求項9に記載の落雷電荷量推定システムにおいて、前記落雷前後の電界値に基づいて、前記落雷前後における電界波形の波尾長T[μs]を算出する波尾長演算手段をさらに備え、
前記エラー率推定手段は、算出された波尾長Tを用いて下記(式4)の演算を行うことを特徴とする。
(式4)Er=αT+β
(ただし、α及びβは落雷電荷量の測定及び推定に基づいて予め決定される定数である。)
【発明の効果】
【0018】
請求項1又は6に係る発明によれば、分布電荷の上限高さH[m]をリーダ進展時間及び所定のリーダ進展速度から算出せず、観測地域における気象条件毎及び最初の放電が生じた時点からの時間差の範囲毎に、推定電荷量と測定電荷量との差が小さくなる空気層の温度との対応関係を予め定めておき、落雷位置及び落雷発生時点に近い箇所及び時点における気象観測データから気温が−5℃〜−15℃である空気層の地上高の範囲を推定し、落雷位置、落雷発生時点における気象条件、最初の放電が生じた時点からの時間差の範囲及び落雷位置を含む観測地域における予め定められた対応関係に基づいて推定電荷量と測定電荷量との差が小さくなる空気層の温度を決定し、決定した空気層の温度及び推定した地上高の範囲に基づいて一つの上限高さH[m]を選択することにより決定しているので、磁界センサ及び雷撃の種類により大きく変化するリーダ進展速度を用いずにHを得ることができる。
そして、帰還雷撃モデルとして大地に垂直な雷道に電荷が均一に分布していると仮定した均一分布電荷モデルに基づく(式1)による演算を行うことで、電界計測手段であるファーストアンテナにより得られた帰還雷撃開始から所定時間(1msまで又は観測された雷電流の波高値が波尾において1kA以下となるまでの時間から選択した時間)経過後における電界値に基づいて低コストで精度良く落雷電荷量を推定することができる。
【0019】
請求項2又は7に係る発明では、請求項1又は6に係る発明による効果に加えて、推定した地上高の範囲に基づいて分布電荷の下限高さh[m]を決定し、
(式1)に代えて、帰還雷撃モデルとして大地に垂直な雷道に電荷が変化して分布していると仮定した均一分布電荷モデルに基づく(式2)によって落雷電荷量ΔQを算出するので、より精度良く落雷電荷量を推定することができる。
【0020】
請求項3又は8に係る発明では、請求項2又は7に係る発明による効果に加えて、落雷位置と観測点の高さの差を算出して下限高さhを決定するので、より精度良く落雷電荷量を推定することができる。
【0021】
請求項4又は9に係る発明によれば、(式1)によって算出される落雷電荷量ΔQのエラー率Er[%]を推定し、そのエラー率Erを用いて(式1)に代え(式3)によって落雷電荷量ΔQを算出するので、より精度良く落雷電荷量を推定することができるという効果が得られる。
【0022】
請求項5又は10に係る発明によれば、請求項4又は9に係る発明による効果に加えて、落雷前後における電界波形の波尾長T[μs]を算出し、算出された波尾長Tを用いて(式4)によってエラー率Erを推定するので、エラー率Erが落雷ごとに正確に推定され、さらに精度良く落雷電荷量を推定することができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】均一分布電荷モデルを示す図。
図2】実施例1の落雷電荷量推定システムの概念図。
図3】測定電荷量と式9による推定電荷量とを比較したグラフ。
図4】電界波形測定グラフの例。
図5】実施例3の落雷電荷量推定システムの概念図。
図6】高域遮断フィルタ処理後の電界波形測定グラフの例。
図7】波尾長とエラー率との関係を示すグラフ。
図8】実施例4の落雷電荷量推定システムの概念図。
図9】変化分布電荷モデルを示す図。
図10】本発明の落雷電荷量推定システムの一例を示す図。
図11】点電荷モデルを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、実施例によって本発明の実施形態を説明する。
【実施例1】
【0025】
本発明は、帰還雷撃モデルとして図1に示す大地に垂直な雷道に電荷が均一に分布していると仮定した均一分布電荷モデルを利用しているので、まずその均一分布電荷モデルによる電荷量の推定方法について説明する。
【0026】
図1において、均一に分布している雷道上の電荷密度が落雷を形成する放電における最初の電界変化が起きた時点(帰還雷撃開始)から所定時間(1msまで又は観測された雷電流の波高値が波尾において1kA以下となるまでの時間から選択した時間)経過後までに変化する量をΔρ[C/m]、雷道の上限高さをH[m]、雷道の下限高さをh[m]とすると、雷道上の電荷変化量である落雷電荷量ΔQ[C]は下記(式5)で表すことができる。
(式5)ΔQ=Δρ×(H−h)
また、雷道からD[m]だけ離れた点における電界E[V/m]は、雷道上の電荷密度をρ[C/m]、r=(D2+z2)1/2とすれば下記(式6)が導出される。
(式6)E=∫(ρ×D/4πε0r)dz<積分区間はhからHまで>
(ただし、πは円周率、ε0は空気の誘電率を表し、0≦h<Hである。)
この積分の計算を行うと下記(式7)となり、ρ[C/m]は下記(式8)で計算できる。
(式7)E=ρ×{1/(D2+h2)1/2−1/(D2+H2)1/2}/2πε0
(式8)ρ=2πε0E/{1/(D2+h2)1/2−1/(D2+H2)1/2}
したがって、雷道からD[m]だけ離れた点の電界変化量ΔE[V/m]を計測すれば、上記(式5)と(式8)の関係から落雷電荷量ΔQを下記(式2)によって計算できる。
(式2)ΔQ=2πε0(H−h)ΔE/{1/(D2+h2)1/2−1/(D2+H2)1/2}
【0027】
実施例1の落雷電荷量推定システムの概念図を図2に示す。
図2に示すように、実施例1の落雷電荷量推定システムは次の各手段を備えている。
(1)雷電流を直接観測するために風力発電設備の下部に設置されたロゴスキーコイルと風力発電設備に落雷があった際にロゴスキーコイルに誘導される電流を測定する装置を備え、精度約0.2μsのGPS時計によるトリガ時刻を記録するとともに、サンプル時間間隔0.1μsで測定された電流値を記録する雷電流観測手段1。
なお、全記録時間はトリガ時刻前約100ms及びトリガ時刻後300msの約400msである。
(2)落雷に伴う電界の変化を計測するファーストアンテナを備え、精度約0.2μsのGPS時計で上記(1)の雷電流観測手段1と時刻同期を取ってサンプル時間間隔0.1μsで計測された電界値を記録する電界計測手段2。
(3)上記(1)のロゴスキーコイルが設置されている風力発電設備に近い測候所で観測された高層気象観測データを取得するデータ取得手段3。
【0028】
(4)落雷のあった風力発電設備(落雷位置)と電界計測手段2(観測点)の水平距離D[m]を計測する落雷位置標定手段4。
なお、落雷位置標定手段4は、落雷による雷放電から放射される電磁波を複数の地点で受信し、それらの受信した電磁波を周知の手段(例えば、特許文献1に示された非特許文献である岸本保夫、「雷観測システムおよび雷保護規格の最新動向」、NTT建築総合研究所を参照。)を用いて解析することにより落雷位置を標定し、その落雷位置と電界計測手段2の水平距離D[m]を計測するものとしても良い。
(5)上記(2)の電界計測手段2に記録された電界値のデータからトリガ時刻の前後における電界値のデータを抽出し、帰還雷撃開始から所定時間(1msまで又は観測された雷電流の波高値が波尾において1kA以下となるまでの時間から選択した時間)経過後における電界値を電界変化量ΔE[V/m]として判定する電界変化量演算手段5。
(6)落雷のあった風力発電設備に最も近い測候所において、落雷時点に最も近い時点に観測された高層気象観測データを抽出し、落雷のあった風力発電設備上空における気温が−5℃〜−15℃である空気層の地上高の範囲を推定する地上高範囲推定手段6。
【0029】
(7)上記(6)の地上高範囲推定手段6が推定した地上高の範囲から一つの上限高さH[m]を選択して分布電荷の上限高さを決定する上限高さ決定手段7。
なお、一つの上限高さH[m]を選択する方法については後述する。
(8)落雷のあった風力発電設備(落雷位置)の標高と電界計測手段2(観測点)の標高との差を算出する下限高さ決定手段8。
(9)上記(4)の落雷位置標定手段4で計測された水平距離D[m]、上記(5)の電界変化量演算手段5で算出された電界変化量ΔE[V/m]、上記(7)の上限高さ決定手段7で決定された上限高さH[m] 及び上記(8)の下限高さ決定手段8で決定された下限高さh[m]を用いて上記(式2)による演算を行い、風力発電設備に落ちた雷の落雷電荷量ΔQ[C]を算出する電荷量計算手段9及び計算結果を表示する表示手段10。
(10)上記(1)の雷電流観測手段1より得られた電流値から変換した測定電荷量を表示する表示手段11。
【0030】
上限高さH[m]の決定方法を確立するにあたって、南九州地区で実施した雷に伴う電界のスローアンテナによる観測に基づき上記(式9)による演算を行って得られた推定電荷量(ストローク電荷)と測定によって得られた測定電荷量とを比較した。
なお、この比較実験における落雷電荷量ΔQ[C]の観測は、雷雲に負の電荷が蓄積される負極性落雷について行われたが、負極性落雷か否かは放電における最初の電界変化直前の電界値が高く、最後の電界変化直後の電界値が低くなっていることで判定できる。
【0031】
図3に示すグラフは、負極性落雷を形成する複数回の放電のうち、最初の電界変化が生じた時点から1ms未満に発生した放電における電界変化量等に基づく推定電荷量、同じく最初の電界変化が生じた時点から2ms未満に発生した放電における電界変化量等に基づく推定電荷量、同じく最初の電界変化が生じた時点から3ms未満に発生した放電における電界変化量等に基づく推定電荷量、同じく最初の電界変化が生じた時点から4ms未満に発生した放電における電界変化量等に基づく推定電荷量及び同じく最初の電界変化が生じた時点から5ms未満に発生した放電における電界変化量等に基づく推定電荷量と測定電荷量とを比較したものである。
そして、落雷電荷量ΔQ[C]の推定に用いる点電荷高さL[m]には、落雷のあった風力発電設備に最も近い測候所(鹿児島気象台)で落雷発生時点に最も近い時点において観測された高層気象観測データから推定された5000m(気温が−1.8℃である空気層の地上高)、6000m(気温が−6.8℃である空気層の地上高)、6500m(気温が−10.0℃である空気層の地上高)及び7000m(気温が−12.0℃である空気層の地上高)の4つを選択した。
【0032】
選択された4つの高さL[m]を用いて得られた点電荷モデルに基づく推定電荷量(ストローク電荷)と測定電荷量とを比較すると、最初の電界変化が生じた時点からの時間によらず高さL[m]を6500m(気温が−10.0℃である空気層の地上高)とした場合の推定電荷量と測定電荷量との差が比較的小さくなっていることが分かる。
そこで、本実施例の均一分布電荷モデルに基づく推定電荷量(インパルス電荷)の演算に際しては、落雷のあった風力発電設備に最も近い測候所(鹿児島気象台)で落雷発生時点に最も近い時点において観測された高層気象観測データから推定された気温が−10.0℃である空気層の地上高を上限高さH[m]として決定した。
【0033】
表1は、落雷のあった風力発電設備(雷撃点)から約18km離れた南九州・国分(観測点)においてファーストアンテナを用いて観測された電界値に基づいて電界変化量ΔEを算出し、(式2)による演算を行って得られた推定電荷量と測定によって得られた測定電荷量とを比較したものである。
なお、表1の例では雷撃点と観測点の標高差が小さかったためh=0とし、ΔEについては、帰還雷撃開始後0.2msまでの電荷量変化を対象としたため、図4のグラフに示すように0.175msから0.225msまでに観測された電界値の平均値とした(図4ではΔE=41V/m)。
表1は、電流波形が測定できた4つの雷撃に関して電流波形の時間積分から計算した電荷量変化(実測値)と、対象雷撃に伴って発生した電界波形から推定した電荷量変化(推定値)と、実測値に対する推定値の誤差率を示している。
【表1】
【0034】
表1におけるデータ1と2は、2013年8月4日の10時35分に下向きリーダにより発生した第一雷撃及び第二雷撃に伴って観測されたものであり、データ3と4は、同日の10時38分に同じく下向きリーダにより発生した第一雷撃及び第二雷撃に伴って観測されたものである。
表1に示すとおり、誤差率は−16.6%〜21.0%となったが、上記(式2)の導出にあたっては、(1)雷道が大地に垂直である(2)雷道上に電荷が一様分布する(3)帰還雷撃開始後0.2msで雷電流はゼロとなっている等、多くの仮定をすることで得られたものであることを考え合わせれば、この程度の誤差率は想定内であり、十分利用に耐えるものである。
また、上述した誤差率の範囲は、スローアンテナを用いて観測された電界値に基づく推定値の誤差率と同程度である。
【実施例2】
【0035】
実施例2は、実施例1の落雷電荷量推定システムから下限高さ決定手段8を省略し、下限高さhを用いずに上記(式2)による演算に代えて下記(式1)による演算を行い、風力発電設備に落ちた雷の落雷電荷量ΔQ[C]を算出する点のみで異なり、他の構成は実施例1と同じである。
(式1)ΔQ=2πε0HΔE/{1/D−1/(D2+H2)1/2}
したがって、実施例2の落雷電荷量推定システムの概念図は、図2から下限高さ決定手段8を省き、上限高さ決定手段7のみから電荷量計算手段9に上限高さHを入力するものとなる。
そして、実施例2の構成であっても実施例1で説明したように、雷撃点と観測点の標高差が小さければ下限高さhを0としても実測値に対する推定値の誤差率は想定内の範囲となることから、平野部において落雷電荷量を推定するに際しては十分に利用可能である。
【実施例3】
【0036】
実施例3は、実施例1又は2におけるインパルス電荷の落雷電荷量推定システムと、スローアンテナによる観測に基づき点電荷モデルに基づく上記(式9)による演算を行って得られるストローク電荷の落雷電荷量推定システムとを統合したシステムであり、図5のような構成となっている。
なお、図5は実施例1におけるインパルス電荷の落雷電荷量推定システムとストローク電荷の落雷電荷量推定システムとを統合したシステムの例である。
【0037】
すなわち、雷電流観測手段1、高層気象観測データを取得するデータ取得手段3、水平距離D[m]を計測する落雷位置標定手段4及び気温が−5℃〜−15℃である空気層の地上高の範囲を推定する地上高範囲推定手段6については、インパルス電荷の落雷電荷量推定システムのものを利用することができるので、次の手段を追加してストローク電荷の落雷電荷量推定システムを構成している。
(1)落雷に伴う電界の変化を計測するスローアンテナを備え、精度約0.2μsのGPS時計で雷電流観測手段1と時刻同期を取ってサンプル時間間隔0.1μsで計測された電界値を記録する第2電界計測手段12。
(2)落雷を形成する放電における最初の電界変化直前の電界値と最後の電界変化直後の電界値の差である電界変化量ΔE2[V/m]を算出する第2電界変化量演算手段13。
(3)地上高範囲推定手段6が推定した地上高の範囲から一つの高さL[m]を決定する高さ決定手段14。
なお、実施例3では実施例1及び2と同じく、気温が−10.0℃であると推定された空気層の地上高を電荷中心の高さL[m]とした。
(4)落雷位置標定手段4で計測された水平距離D[m]、上記(2)の第2電界変化量演算手段13で算出された第2電界変化量ΔE2[V/m]、上記()の高さ決定手段14で決定された高さL[m] を用いて式9による演算を行い、風力発電設備に落ちた雷の第2落雷電荷量ΔQ2[C]を算出する第2電荷量計算手段15及びその計算結果を表示する第2表示手段16。
【実施例4】
【0038】
実施例4は、実施例2の(式1)によって算出される落雷電荷量ΔQに対してエラー率Er[%]を推定し、下記(式3)による演算を行い、風力発電設備に落ちた雷の落雷電荷量ΔQ[C]を算出する点のみで異なり、他の構成は実施例2と同じである。
(式3)ΔQ=2πε0HΔE×100/(100+Er)/{1/D−1/(D2+H2)1/2}
ここで、エラー率Erは(式1)によって算出される落雷電荷量ΔQが真値より大きいときプラス、真値より小さいときマイナスであり、地形、気温、風速等に左右される。
そこで、事前に各地域において様々な条件下で、(式1)によって算出された落雷電荷量ΔQと測定電荷量とを比較し、各地域、各条件におけるエラー率Erを蓄積しておけば、対象となる落雷のあった地域と落雷時刻における条件に応じてエラー率Erを定めることができる。
また、新たな知見として、落雷時に計測された電界値を高域遮断フィルタ処理した後の波形における波尾長T[μs]とエラー率Erとの間に密接な関係あることが分かったので、以下では、その詳細について説明する。
【0039】
図6は、図4のグラフと同じ南九州・国分(観測点)で計測された落雷における高域遮断フィルタ処理後の電界波形測定グラフの例である。
図6に示すとおり、このグラフにおけるピーク(46.1685[V/m])が現れる前において電界値がピークの90%となる点(以下「90%点」という。)及びピークの10%となる点(以下「10%点」という。)を特定し、90%点と10%点を結ぶ直線が時間軸と交わる点(-0.7467[μs])を始点とする。
次にピークが現れた後において電界値がピークの50%となる点(以下「50%点」という。)を終点(53.1075[μs])とする。
そして、始点と終点の時間差(53.8542[μs])を波尾長と定義する。
【0040】
図7は、図4のグラフと同じ南九州・国分(観測点)で観測された複数回の落雷における、波尾長Tと(式1)によって算出された落雷電荷量ΔQのエラー率Erとの関係を示すグラフである。
このグラフからも見てとれるように、波尾長Tとエラー率Erには下記(式4)で表すことのできる直線的な相関関係があることが分かる。
(式4)Er=αT+β
そして、図7のグラフにおいては、α=-1.5743、β=75.919となり、波尾長Tとエラー率Erの関係式は、Er=-1.5743T+75.919となることが分かった。
また、この相関関係には地域差があることが分かっているが、予め各地域において関係式(α及びβの値)を定めておけば、落雷時刻におけるその他の条件を考慮することなく、エラー率Erをファーストアンテナ等によって計測された電界値の変化に基づいて特定される波尾長Tを用いて正確に推定することができる。
【0041】
図8は、実施例4において、波尾長Tを用いてエラー率Erを推定して落雷電荷量ΔQを算出する落雷電荷量推定システムの概念図である。
実施例4では、計測された電界値の変化に基づいて波尾長Tを特定し、波尾長Tを用いてエラー率Erを推定するので、実施例1における落雷電荷量推定システム(図2)に、電界計測手段から得たデータを基に波尾長Tを特定するための波尾長演算手段17と、波尾長Tを用いてエラー率Erを推定するためのエラー率推定手段18が追加されたものとなっている。
【0042】
図9は、大地に垂直な雷道に電荷が直線的に変化して分布していると仮定した変化分布電荷モデルを示す図である。
この変化分布電荷モデルにおいて、1m上昇につき増加する電荷量をa[C]とすると、途中の式は省略するが、落雷電荷量ΔQは下記(式10)で計算できることとなる。
(式10)ΔQ=(2πε0ΔE−aG)×H/{1/D−1/(D2+H2)1/2
(ただし、G=ln[{(D2+H2)1/2+H}/D]−H/2D−H/2(D2+H2)1/2である。)
【0043】
(式10)を定性的に捉えると、Gは通常プラスの値となるので、均一分布電荷モデルに基づく落雷電荷量ΔQが大きく推定された場合(Er>0の場合)には、aはプラス、すなわち、電荷が放電路の上部に偏っているということができ、ΔQが小さく推定された場合(Er<0の場合)には、aはマイナス、すなわち、電荷が放電路の下部に偏っているということができる。
【0044】
また、(式3)と(式10)によるΔQが同じ値になるものと仮定すれば、aとErの関係を下記(式11)で表すことができる。
(式11)a=2πε0ΔE×Er/(100+Er)×G
そして、(式11)に(式4)の関係を代入すると、aとTの関係を下記(式12)で表すことができる。
(式12)a=2πε0ΔE×(αT+β)/(100+αT+β)×G
【0045】
実施例1〜4の変形例を列記する。
(1)実施例1〜4においては、雷電流観測手段1として風力発電設備の下部にロゴスキーコイルを設置したが、風力発電設備に限らず高いビルや鉄塔の避雷針に設置しても良く、ロゴスキーコイルに代えてシャント抵抗を用いても良い。
また、すでに説明したように、雷電流観測手段1を用いずに他の手段によって落雷位置を標定することもできるが、そうした場合、例えば実施例1における落雷電荷量推定システムは図10に示すようなものとなる。
すなわち、図2の概念図から雷電流観測手段1及び表示手段11が省かれたものとなる。
(2)実施例1〜4においては、雷電流観測手段1及び電界計測手段2のサンプル時間間隔は0.1μsであったが、トリガ時刻、電界変化量及び時間差の特定に支障がなければ、サンプル時間間隔は0.1μsより大きくても小さくても良い。
【0046】
(3)実施例1〜4においては、上限高さH及び高さLを気温が−10.0℃であると推定された空気層の地上高としたが、誤差率の小さい上限高さH及び高さLは、地域、地表面の温度、風の強さや向きによって変化するので、各地域において予め様々な条件下で実施例1〜4と同様の観測を行い、観測された高層気象観測データから各落雷において上限高さH及び高さLを決定する方法を確立する必要がある。
したがって、各落雷において高層気象観測データから上限高さHを的確に決定するにはデータの積み上げが欠かせないところであるが、ストローク電荷を推定するために選択する高さLについては、通常は時間とともに上昇することが分かっているので、時間差が所定長さ(例えば2ms)未満である前期段階の放電における第2落雷電荷量ΔQ2[C]の算出に際しては、観測された高層気象観測データから推定された気温が−5℃〜−10℃である空気層の地上高のいずれかを選択し、時間差が所定長さ以上である後期段階の放電における第2落雷電荷量ΔQ2[C]の算出に際しては、観測された高層気象観測データから推定された気温が−10℃〜−15℃である空気層の地上高のいずれかを選択すれば良いといえる。
【0047】
(4)実施例1〜4においては、電界変化量ΔEを帰還雷撃開始後0.2msまでの電荷量変化を対象とし、0.175msから0.225msまでに観測された電界値の平均値としたが、帰還雷撃開始後1msまで又は観測された雷電流の波高値が波尾において1kA以下となるまでの時間から適宜選択できるようにしても良い。
また、電界変化量ΔEを帰還雷撃開始後0.2msにおいて観測された電界値の瞬時値としても良く、帰還雷撃開始後0.2msの前後0.1〜50μsにおいて観測された電界値の平均値としても良い。
【0048】
(5)実施例4においては、実施例2の(式1)によって算出される落雷電荷量ΔQに対してエラー率Er[%]を推定したが、実施例1の(式2)によって算出される落雷電荷量ΔQに対してエラー率Er[%]を推定しても良い。
【符号の説明】
【0049】
1 雷電流観測手段 2 電界計測手段 3 データ取得手段
4 落雷位置標定手段 5 電界変化量演算手段 6 地上高範囲推定手段
7 上限高さ決定手段 8 下限高さ決定手段 9 電荷量計算手段
10、11 表示手段 12 第2電界計測手段
13 第2電界変化量演算手段 14 高さ決定手段
15 第2電荷量計算手段 16 第2表示手段
17 波尾長演算手段 18 エラー率推定手段
D 水平距離 ΔE 電界変化量 H 上限高さ h 下限高さ
L 電荷中心の高さ ΔQ 落雷電荷量 ΔQ2 第2落雷電荷量
Er エラー率 T 波尾長 a 1m上昇につき増加する電荷量
α、β 落雷電荷量の測定及び推定に基づいて予め決定される定数
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11