(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記有機ELパネルを、前記有機EL基板および前記対向基板を湾曲させる力が破壊応力に達しない範囲で、強制的に湾曲させた状態で固定する固定手段をさらに備えた請求項2に記載の有機ELパネル。
【背景技術】
【0002】
有機ELパネルの基材として、リジッド型のガラス基板やフレキシブル型の樹脂フィルムが採用されてきた。一般に、ガラス基板は高いバリア性能を期待できる一方で、樹脂フィルムは高いフレキシブル性能が期待できる。
【0003】
ところが、近年、高いバリア性能と、高いフレキシブル性能とを併せ持つ、超薄ガラスを基材とする有機ELパネルが登場している。ただし、このような超薄ガラスは、製造プロセス中に破損しやすいため、ハンドリング(特に搬送)が困難になる、と言われている。結果として、超薄ガラスを基材とする有機ELパネルの普及はあまり進んでいなかった。
【0004】
そこで、従来技術の中には、超薄ガラスを基材とする有機ELパネルの製造プロセスに適用可能な超薄ガラスの破損が起こりにくい搬送装置が存在する。このような搬送装置では、薄膜ガラスと樹脂フィルムとを延在方向に交互に配列して搬送を行い、かつ、位置ズレの補正を樹脂フィルムの部分に対してのみ行うように構成されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
そして、このような技術を用いることによって、位置ズレ補正による応力が薄膜ガラスに影響しにくくなり、薄膜ガラスの破損を防止することができる、とされていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の従来技術においては、薄膜ガラスに対して有機EL層を形成する塗布装置内に、超薄ガラスを適正に搬送するために特化した機構(例えば、ロール・トゥ・ロール形式の搬送機構)を設ける必要がある。すなわち、既存の製造設備に対して新たな設備投資を行う必要が生じるため、製造コストが上昇するという不都合があった。
【0008】
この発明の目的は、コストを抑えつつ製造可能な超薄ガラスを基材とする有機ELパネルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る有機ELパネルは、有機EL積層部を有するガラス製の有機EL基板、およびこの有機EL基板に貼り合わされるように構成されたガラスまたは樹脂からなる対向基板を少なくとも備える。対向基板の一例としては、ガラスからなるとともに有機EL基板に貼り合わされることによって有機EL積層部を封止するように構成された封止基板が挙げられるが、これには限定されない。例えば、有機EL基板に対向するように配置されるCFガラスや、有機EL基板を樹脂の薄膜で封止する際の薄膜樹脂や、無機膜および有機膜を積層してなるバリア層等についても本願発明の対向基板の範囲に含まれる。
【0010】
この有機ELパネルは、有機EL基板および対向基板を貼り合せた状態におけるガラス部分の厚みの合計が0.2mm以下である。有機ELパネルのガラス部分の総厚が0.2mm以下にまで薄型化されると、通常はリジット型に分類されるガラスを基材とする有機ELパネルであっても、湾曲し易く、かつ、より小さな曲率半径であっても破損しなくなる。
【0011】
また、有機ELパネルにおいて、有機EL基板および対向基板のガラス部分における貼り合わせ箇所以外の面は、エッチング加工面によって構成されている。エッチング加工面とは、エッチングによってガラス表面に存在し得るキズ等が微小化または消滅した面を意味する。ここでは、4点曲げ強度試験による破壊応力が500Mpa以上の場合には、エッチング加工面が適性に形成されていると言える。
【0012】
上述の構成においては、ガラスを基材とする有機ELパネルが湾曲し易く、かつ、破壊しにくくなる。さらに、もともと厚みが0.2mm以下のガラスではなく、エッチングによって厚みが0.2mm以下になったガラスを採用しているため、超薄ガラスを適正に搬送するために特化した機構が不要になるため、製造コストの上昇が抑えられる。
【0013】
上述の構成において、封止基板は、貼り合わせ時に有機EL積層部に対応する箇所に凹部を有し、凹部の深さが0.02mm以下であることが好ましい。凹部の深さを0.02mm以下に抑えることによって、有機ELパネル全体の厚みを薄くし易くなる。
【0014】
また、上述の構成において、有機ELパネルを、有機EL基板および封止基板を湾曲させる力が破壊応力に達しない範囲で、強制的に湾曲させた状態で固定する固定手段をさらに備えることが好ましい。固定手段の代表例としては、湾曲した状態の有機ELパネルを保持するパネル固定具が挙げられる。または、有機ELパネルに直接曲げる力を加えるアクチュエータ等を採用することも可能である。
【0015】
以上のような構成を採用することによって、有機ELディスプレイを製造する際に、超薄のガラス基板を取り扱う必要がなくなる。このため、ガラス基板の破損を防止することができる。また、超薄のガラス基板を適正に取り扱うために特化した設備を導入する必要がなくなる。結果として、設備投資額を抑えつつ有機ELパネルの量産が可能になる。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、コストを抑えつつ超薄ガラスを基材とする有機ELパネルが製造可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1(A)および
図1(B)は、本発明の一実施形態に係る有機ELパネル10の概略を示している。有機ELパネル10は、それぞれガラスで構成された有機EL基板12および封止基板14を備える。この実施形態では、封止基板14が本発明の対向基板に対応するが、対向基板の例はこれには限定されない。
【0019】
有機EL基板12は、
図1(B)および
図2(B)に示すように、透明電極、有機EL層、および反射電極等からなる有機EL積層部122を備えている。また、有機EL基板12は、有機EL積層部122に電気的にそれぞれ接続された端子取出部124,125を備える。
【0020】
一方で、封止基板14は、
図1(B)に示すように、有機EL基板12に貼り合わされることによって、有機EL積層部122を封止するように構成される。封止基板14は、
図1(B)および
図2(A)に示すように、有機EL基板12に貼り合わせた時において有機EL積層部122に対応する箇所に凹部142を有している。凹部142は、その大きさが有機EL積層部122の大きさよりもやや大きくなるように構成される。
【0021】
また、
図2(C)に示すように、有機ELパネル10は、有機EL基板12および封止基板14を貼り合せた状態における厚みの合計(
図2(C)中の「D1」)が0.2mm以下になるように構成される。さらに、このとき、封止基板14の凹部142の深さ(
図2(C)中の「D2」)が0.02mm以下になるように構成されることが好ましい。「D1」の値が小さくなるほど、有機ELパネル10の湾曲時において、より小さな曲率半径が実現する。
【0022】
さらに、有機ELパネル10において、有機EL基板12および封止基板14における貼り合わせ箇所以外の面は、エッチング加工面によって構成されている。ここで、エッチング加工面とは、エッチング液との接触によって溶解されて表面のクラック等の微細キズが消滅した状態の面をいう。通常、有機ELパネル10の4点曲げ強度試験による破壊応力が500Mpa以上を示す場合には、エッチング加工面が適性に形成されていると言える。
【0023】
この実施形態では、後述するように、通常の厚み(例えば、0.7〜1.5mm程度)のガラス基板に有機EL素子や、湾曲に対応可能な封止を行った後に、ケミカルエッチングによって、パネルの厚みを0.2mm以下(好ましくは、0.15mm以下)まで薄くすることによって、エッチング加工面が形成されることになる。
【0024】
一般的に、ガラス基板は、薄くなるほど曲がり易くなり、より小さな曲率半径であっても破損しにくくなる。このような構成を採用することにより、有機ELパネル10の湾曲が円滑に行われるようになる。また、エッチングによってガラス基板に存在し得るキズ等が微小化または消滅するため、有機ELパネル10の湾曲時のガラス基板の破損リスクを著しく低減することが可能になる。
【0025】
続いて、
図3〜
図5を用いて、有機ELパネルの製造方法の一例を説明する。
図3(A)および
図3(B)に示すように、有機EL基板12は、これを多面取りするための第1のガラス母材120を用いて製造される。ここでは、便宜上、第1のガラス基板120から9枚の有機EL基板12を製造する例を示すが、第1のガラス母材120に配置する有機EL基板12の数は適宜増減することが可能である。
【0026】
第1のガラス母材120は、通常の厚み(例えば、0.7〜1.5mm程度)を有している。このため、第1のガラス母材120の上に有機EL積層部122、端子取出部124,125等を形成するためのプロセスは、超薄基板に対応した設備ではなく、既存の設備によって行うことが可能である。
【0027】
同様に、
図4(A)〜
図4(D)に示すように、封止基板14は、これを多面取りするための第2のガラス母材140を用いて製造される。
図4(A)に示すように、第2のガラス母材140の全面には、耐エッチング性を備えたマスキングフィルム145が貼り付けられる。
【0028】
続いて、
図4(B)に示すように、マスキングフィルム145における凹部142を形成する領域が取り除かれる。このマスキングフィルム145の除去手法の一例として、例えば、凹部142の輪郭に沿ってレーザを走査することによってマスキングフィルム145を切断する例が挙げられる。
【0029】
その後、
図4(C)に示すように、第2のガラス母材140をエッチング処理することによって、第2のガラス母材140の露出部分がエッチング液に接触し、凹部142が形成される。
【0030】
所望のサイズの凹部142が形成された後に、エッチング処理を終了し、
図4(D)に示すように、第2のガラス母材140からマスキングフィルム145をすべて取り除く。
【0031】
ここで、本実施形態におけるエッチング処理について、
図5(A)および
図5(B)を用いて簡単に説明する。上述の第2のガラス母材140や、後述する互いに貼り合わされた第1のガラス母材120および第2のガラス母材140は、エッチング装置50に導入されることによってエッチング処理が行われる。
【0032】
ここでは、例えば、フッ酸および塩酸等を含むエッチング液によるエッチング処理が施される。通常、フッ酸1〜10重量%、塩酸5〜20重量%程度を含むエッチング液が用いられ、必要に応じて適宜、界面活性剤等が併用される。
【0033】
エッチング装置50では、搬送ローラによって第1のガラス母材120および第2のガラス母材140を搬送しつつ、エッチングチャンバ内で第1のガラス母材120および第2のガラス母材140の主面にエッチング液を接触させることによって、第1のガラス母材120および第2のガラス母材140に対するエッチング処理が行われる。
【0034】
なお、エッチング装置50におけるエッチングチャンバの後段には、第1のガラス母材120および第2のガラス母材140に付着したエッチング液を洗い流すための洗浄チャンバが設けられている。このため、第1のガラス母材120および第2のガラス母材140はエッチング液が取り除かれた状態でエッチング装置50から排出される。
【0035】
第1のガラス母材120および第2のガラス母材140にエッチング液を接触させる手法として、枚葉式のスプレイエッチングを選択した理由は、第1のガラス母材120および第2のガラス母材140を極限まで薄型化するために適しているからである。第1のガラス母材120および第2のガラス母材140の薄型化に伴って撓みが発生する際には、搬送ローラの径を小さくしたり、搬送ローラの配置ピッチを短くしたり、スプレイ圧を小さくしたりすることによって対応することが可能である。
【0036】
続いて、
図6(A)に示すように、第1のガラス母材120および第2のガラス母材140が貼り合わされる。このとき、有機EL積層部122と凹部142とを位置合わせすることより、封止基板14となるべき部位が有機EL基板12となるべき位置を封止することになる。
【0037】
封止手段の一例として、ダムフィル方式の固体封止手段が挙げられる。例えば、乾燥材機能および緩衝機能を担うフィル材、およびエポキシ系UV硬化樹脂からなるダム材を用いて、第1のガラス母材120および第2のガラス母材140を貼り合わせ、UV硬化処理等を行うことによって封止すると良い
【0038】
続いて、
図6(B)に示すように、第1のガラス母材120および第2のガラス母材140をエッチング処理によって薄型化する。エッチング処理量が多い場合には、第1のガラス母材120および第2のガラス母材140の端面に耐エッチング性剤や耐エッチング性フィルムを適宜施すと良い。このようにすることによって、第1のガラス母材120および第2のガラス母材140の端面形状が意図せず変形することを防止できる。
【0039】
さらに、
図6(C)に示すように、レーザ加工処理を施すことによって、第1のガラス母材120および第2のガラス母材140における切断すべき箇所がエッチングされ易い性質に改質される。
【0040】
このレーザ加工処理によって、第1のガラス母材120および第2のガラス母材140に改質ラインが形成された後は、
図6(D)に示すように、エッチング処理によって改質ラインに沿って、第1のガラス母材120および第2のガラス母材140が切断される。これにより、第1のガラス母材120および第2のガラス母材140から複数の有機ELパネル10が得られるとともに、端子取出部124,125を閉塞している箇所のガラスが除去されることになる。
【0041】
端子取出部124,125を露出させるためのガラス除去処理については、必要に応じて、エッチング処理(レーザアシストエッチング処理)に代えて、または、これと併せてスクライブカッタを用いたスクライブブレークによって行うようにしても良い。
【0042】
以上のような方法であれば、有機ELパネル10を製造する際に、超薄のガラス基板を取り扱う必要がなくなる。このため、ガラス基板の破損を防止することができる。また、超薄のガラス基板を適正に取り扱うために特化した設備を導入する必要がなくなる。この結果、設備投資額を抑えつつ有機ELパネルの量産が可能になる。
【0043】
そして、有機ELパネル10は、総厚が0.2mm以下にまで薄型化されており、かつ、エッチング加工面が形成されているため、
図7(A)に示すように、湾曲させることが可能である。有機ELパネル10を湾曲させる力の大きさは、有機EL基板12および封止基板14の厚みや、ケミカルエッチング表面処理の有無に基づいて設定される。
【0044】
ケミカルエッチング表面処理が行われている場合には、機械加工のみの場合に比較して4点曲げ試験における破壊応力が4〜5倍程度にまで大きくなる。例えば、機械加工のみ場合、破壊応力が150Mpa〜200Mpaとなることが多いが、ケミカルエッチング表面処理が施されていれば破壊応力が800Mpa〜1000Mpa程度にまで増大する。
【0045】
また、有機ELパネル10の総厚が小さくなればなるほど、自重によって湾曲する曲率半径が小さくなる傾向がある。例えば、有機ELパネル10の総厚が0.2mm程度になれば、自重によって曲率半径200mm程度にまで湾曲する。
【0046】
この湾曲した有機ELパネル10に対して、さらに破壊応力に達しない程度の力を加えて湾曲させることにより所望の曲率半径まで湾曲させ易くなる。
【0047】
有機ELパネル10を、湾曲させた状態で保持するためには、有機ELパネル10を強制的に湾曲させた状態で固定するパネル固定具16を用いると良い。有機ELパネル10が嵌めり込む複数の溝を有している。この溝は、有機EL基板12および封止基板14を湾曲させる力が破壊応力に達しないように、その配置位置が設計されている。
【0048】
また、自重による撓みだけでは所望の曲率半径が得られない場合に、さらに強制的に力を加える手段として、
図8(A)および
図8(B)に示すようなアクチュエータユニット18を用いることも可能である。アクチュエータユニット18は、薄型枠状を呈しており、有機ELパネル10の縁部に取り付けられる。
【0049】
アクチュエータユニット18は、例えば、電気駆動式のアクチュエータを内蔵しており、印可する電圧を制御することにより所望の形状に変化するように構成されている。アクチュエータユニット18の湾曲度合は適宜調整することができるが、有機EL基板12および封止基板14を湾曲させる力が破壊応力に達しないように印加電圧のリミット値が設定されている。
【0050】
以上の実施形態では、対向基板としてキャップガラスとして機能する封止基板14を説明したが、対向基板はこれには限定されない。例えば、有機EL基板12に対向するように配置されるCFガラスや、有機EL基板12を樹脂の薄膜で封止する際の薄膜樹脂等も本願発明の対向基板に含まれる。さらに、無機膜および有機膜を積層してなるバリア層も本願発明の対向基板の範囲に含まれるものとする。
【0051】
上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。