特許第6872216号(P6872216)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6872216イミノ二酢酸を側鎖に有する親水性高分子及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6872216
(24)【登録日】2021年4月21日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】イミノ二酢酸を側鎖に有する親水性高分子及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/30 20060101AFI20210510BHJP
   C08F 293/00 20060101ALI20210510BHJP
   C08F 8/44 20060101ALI20210510BHJP
   C08F 8/14 20060101ALI20210510BHJP
   A61K 31/295 20060101ALI20210510BHJP
   A61K 31/785 20060101ALI20210510BHJP
   A61K 41/00 20200101ALI20210510BHJP
   A61K 31/69 20060101ALI20210510BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20210510BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20210510BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20210510BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   C08F8/30
   C08F293/00
   C08F8/44
   C08F8/14
   A61K31/295
   A61K31/785
   A61K41/00
   A61K31/69
   A61P35/00
   A61P43/00 121
   A61K9/51
   A61K47/32
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-122601(P2016-122601)
(22)【出願日】2016年6月21日
(65)【公開番号】特開2017-226735(P2017-226735A)
(43)【公開日】2017年12月28日
【審査請求日】2019年5月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】特許業務法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長崎 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】高 振宇
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−025779(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/052463(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/118993(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 293/00
C08F 8/30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(エチレングリコール)セグメントとポリ[ジ(カルボキシメチル)アミノメチルスチレン]セグメントを含んでなるブロック共重合体。
【請求項2】
請求項1に記載のブロック共重合体であって、該共重合体が次式Iで表されることを特徴とする前記ブロック共重合体
式I:
【化1】
式中、
Aは、非置換又は置換C1−C12アルキルを表し、置換されている場合の置換基は、ホルミル基又は式R12CH−基を表し、ここで、R1及びR2は独立してC1−C4アルコキシ又はR1とR2は一緒になって−OCH2CH2O−、−O(CH23O−若しくは−O(CH24O−を表し、
Lは、式
【化2】
で表される基から選ばれるか、或は又
結合、−(CH2cS−、−CO(CH2cS−、−(CH2cNH−、−(CH2cCO−、−CO−、−OCOO−、−CONH−からなる群より選ばれ、
式中のジ(カルボキシメチル)アミノ基はnの総数の中の少なくとも1個存在し、存在しない場合には、該アミノ基は、H、ハロゲン原子またはヒドロキシ基であることができ、YはH、SH又はS(C=S)−Phであり、Phは1又は2個のメチルまたはメトキシで置換されていてもよいフェニルを表し、
bは2〜6の整数であり、
cは1〜5の整数であり、
mは2〜10,000の整数を表し、
nは2〜500の整数を表す。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の共重合体と多価金属イオンとの錯体。
【請求項4】
多価金属イオンが、Ga(III)、Gd(III)、Cu(II)、Fe(II)、Mn(II)及びZn(II)イオンからなる群より選ばれる、1種又は2種以上のイオンである、請求項3に記載の錯体。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の共重合体の前記ジ(カルボキシメチル)基とフェニルボロン酸とのエステル形成複合体。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれかに記載の錯体又は複合体であって、水性媒体中で平均粒径がナノメートルサイズの粒子として存在する、錯体又は複合体。
【請求項7】
請求項4に記載の錯体であって、金属イオンがFe(II)である錯体を有効成分として含んでなる腫瘍増殖抑制用製剤。
【請求項8】
請求項5に記載の複合体を有効成分として含んでなる、中性子捕捉療法で使用するための腫瘍増殖抑制用製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キレート化能を有する親水性高分子並びにその使用、具体的には、多価金属イオンやホウ酸誘導体との錯体又は複合体、該錯体又は複合体の医療分野での使用、に関する。
【背景技術】
【0002】
金属イオンはMRIやPET、スペクトなどのイメージングで期待され、鉄やGdなどはすでにMRI用造影剤として利用されている。また白金はシスプラチンとして抗がん剤となる。最近では二価鉄や二価ルテニウムを利用したフェントン反応による抗がん剤の開発が行われている。さらにホウ素は腫瘍に集積させ、熱中性子による核反応でがんを死滅させる中性子捕捉療法(BNCT)として臨床試験が行われている段階にある。これらのホウ素や金属イオンはキレート分子によるキレート化などでそれらが本来有する毒性を低下せしめ、腫瘍への取り込み能が正常細胞のそれより高いことを利用して有意に取り込ませて効果を発揮している。
【0003】
しかしながらこの種の低分子物質は正常細胞にもある程度拡散するため、強い副作用が問題となる。そのため、ナノ粒子にフェロセンを封入し、治療効果を上げる試みもあるものの、物理トラップによるフェロセンの固定化では漏れ出しが起こるため、問題の解決にはほど遠い(非特許文献1参照)。ポリエチレングリコール−b−ポリグルタミン酸(PEG−b−PGlu)ブロック共重合体のカルボキシル基にシスプラチンを担持せしめ、ナノ粒子化することにより抗がん効果を上げているものもある(非特許文献2)。しかし、弱酸であるカルボン酸へのプラチナ金属の担持のため、必ずしも安定性が万全とはいえない。
【0004】
一方、ビニルフェニル脂肪族カルボン酸(N−(ar−ビニルベンジル)イミノ二酢酸等)がキレート化剤として提案されている(特許文献1)。また、イミノ二酢酸の有する多価金属イオンに対する安定な錯体形成能を利用して、イミノ二酢酸をセルロース繊維の表面に化学修飾した重金属吸着剤や分子中にイミノ二酢酸残基を組込んだキレート性高分子化合物も提案されている(例えば、WO 2010/122954 A1)。さらに、シリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材、重金属の吸着分離等に用いられることも知られている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】US 2,840,603
【特許文献2】WO 2010/122954 A1
【特許文献3】特開2014−25779
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Seong−Cheol Park,et.al.,Journal of Controlled Release 221,37−47(2016)
【非特許文献2】Nishiyama Nobuhiro,et.al.,Bioconjugate chemistry,14(2),449−57(2003)
【発明の概要】
【0007】
本発明者等は、重金属の吸着材としてではなく、むしろ、抗がん剤ナノメディシンやバイオセンシングに使用できるマテリアルを提供することを目的とし、多種多様な親水性高分子を設計してきた。特に、多価金属イオンやホウ酸誘導体との水性媒体中での反応で自己組織化することによりナノ粒子を形成し得る一定のキレート化能を有する親水性高分子として、ポリ(エチレングリコール)セグメントとポリ(スチレン誘導体)セグメントであって、イミノ二酢酸残基を側鎖に組み込んだセグメントを含む共重合体が、多価金属やホウ素化合物などを容易、かつ安定に担持させ、安定なナノ粒子を形成することを見出した。また、かような共重合体は本発明者の知る限り、従来技術文献未載の高分子化合物である。さらに、かような共重合体は、多価金属イオン又はホウ酸誘導体との錯体又は複合体は、生理学的環境下、例えば血清存在下で長期にわたり安定であること、しかも特定の治療やイメージングに適用し得ることも確認できた。
【0008】
したがって、本発明は、アミノ二酢酸基を側鎖に導入したポリマーセグメントとポリエチレングリコール)セグメント(単に、PEGという場合あり)を含んでなる、共重合体及びその使用を提供する。限定されるものでないが、主たる態様の発明としては、次の〔1〕〜〔8〕に記載のものが挙げられる。
〔1〕ポリ(エチレングリコール)セグメントとポリ[ジ(カルボキシメチル)アミノメチルスチレン]セグメントを含んでなるブロック共重合体。
〔2〕〔1〕に記載のブロック共重合体であって、該共重合体が次式Iで表される。
式I:
【0009】
【化1】
【0010】
式中、
Aは、非置換又は置換C1−C12アルキルを表し、置換されている場合の置換基は、ホルミル基又は式R12CH−基を表し、ここで、R1及びR2は独立してC1−C4アルコキシ又はR1とR2は一緒になって−OCH2CH2O−、−O(CH23O−若しくは−O(CH24O−を表し、
Lは、式
【0011】
【化2】
【0012】
で表される基から選ばれるか、或は又
結合、−(CH2cS−、−CO(CH2cS−、−(CH2cNH−、−(CH2cCO−、−CO−、−OCOO−、−CONH−からなる群より選ばれ、
式中のジ(カルボキシメチル)アミノ基はnの総数の中の少なくとも1個存在し、存在しない場合には、該アミノ基は、H、ハロゲン原子またはヒドロキシ基であることができ、
YはH、SH又はS(C=S)−Phであり、Phは1又は2個のメチルまたはメトキシで置換されていてもよいフェニルを表し、
bは2〜6の整数であり、
cは1〜5の整数であり、
mは2〜10,000の整数を表し、
nは2〜500の整数を表す。
なお、上記のLの定義において、方向性がある場合には、記載されている方向性を以って式I中に存在するものと、理解されている。以下、式I以外においても同じ。
〔3〕〔1〕又は〔2〕に記載の共重合体と多価金属イオンとの錯体。
〔4〕多価金属イオンが、Ga(III)、Gd(III)、Cu(II)、Fe(II)、Mn(II)及びZn(II)イオンからなる群より選ばれる、1種又は2種以上のイオンである、〔3〕に記載の錯体。
〔5〕〔1〕又は〔2〕に記載の共重合体の前記ジ(カルボキシメチル)基とフェニルボロン酸とのエステル形成複合体。
〔6〕〔3〕〜〔5〕のいずれかに記載の錯体又は複合体であって、水性媒体中で平均粒径がナノメートルサイズの粒子として存在する、錯体又は複合体。
〔7〕〔4〕に記載の錯体であって、金属イオンがFe(II)である錯体を有効成分として含んでなる腫瘍増殖抑制用製剤。
〔8〕〔5〕に記載の複合体を有効成分として含んでなる、中性子捕捉療法で使用するための腫瘍増殖抑制用製剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、ポリ(エチレングリコール)セグメントとポリ[ジ(カルボキシメチル)アミノメチルスチレン]セグメントを含んでなるブロック共重合体が、各種金属イオンやホウ酸誘導体と水性媒体中で安定な錯体又は複合体ミセル又は粒子を形成すること、さらにこのような錯体又は複合体が腫瘍増殖抑制効果を示すことが確認された。したがって、少なくとも医療分野で有用な新規なバイオマテリアルが提供できる。この錯体又は複合体(又はキレート型高分子化合物)は、具体的には、図1に概略図として示されるように、キレート能を有する材料をポリアニオンとして導入しており、様々な金属イオンをキレートにより導入することが可能であり、治療やイメージングに利用可能である。また、ボロフェニルアラニン(BPA)などの既存の薬剤以外のフェニルボロン酸やホウ酸などでもエステル結合を介して容易にかつ安定に封入可能であり、BNCT用薬として期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のブロック共重合体と多価金属イオン又はホウ素化合物との錯体又は複合体の概念図。
図2】PEG−b−PAAMSの1H−NMRスペクトル(酸性)
図3】PEG−b−PECAMSの1H−NMRスペクトル
図4】PEG−b−PAAMSの1H−NMRスペクトル(中性)
図5】Fe(II)含有PEG−b−PAAMSナノ粒子の動的光散乱の測定結果
図6】様々なイオンを封入したキレートナノ粒子を示す図に代わる写真
図7】様々なイオンを封入したキレートナノ粒子の10%血清存在の存否に関わる粒径および散乱強度測定結果
図8】Mn(II)、Zn(II)封入ナノ粒子の動的光散乱の測定結果
図9】フェニルボロン酸導入PEG−b−PAAMSの1H−NMRスペクトル
図10】PEG−b−PAAMSホウ素錯合体の動的光散乱の測定結果(Z−A(d.nm))
図11】PEG−b−PAAMSホウ素錯合体のHepG2に対する細胞毒性
図12】キレート高分子の担がんマウス投与による腫瘍増殖パタン
図13】キレート高分子の担がんマウス投与による体重変化パタン
図14】Fe(II)内包ナノ粒子(Fe(II)NP)投与群の腫瘍増殖抑制効果
図15】Fe(II)内包ナノ粒子(Fe(II)NP)投与群の体重変化パタン
図16】Fe(II)内包ナノ粒子(Fe(II)NP)投与群の生存率曲線
図17】キレートポリマーPEG−b−PAAMSおよびFe(II)内包ナノ粒子(Fe(II)NP)の細胞毒性
図18】過酸化水素およびFe(II)内包ナノ粒子(Fe(II)NP)共存または非共存下での細胞毒性
【発明の詳細な説明】
【0015】
〔1〕の態様の発明において、ポリ(エチレングリコール)セグメントとポリ[ジ(カルボキシメチル)アミノメチルスチレン]セグメントを含んでなるブロック共重合体は、本発明の目的上、水性媒体中で多価金属との錯体又はフェニルボロン酸とのエステルを形成し、自己組織化によりナノ粒子を形成することができるものが好ましい。本明細書において、水性媒体とは、水(濾過水、蒸留水、逆浸透水、イオン交換水、水道水等を包含する)、生理食塩水、緩衝化生理食塩水、等を言う。また、ナノ粒子は、理論に拘束されるものでないが、錯体にあっては、図1に示されるように多価金属イオンを介するキレート化によりブロック共重合体が架橋し、ポリ[ジ(カルボキシメチル)アミノメチルスチレン]セグメントに由来する水不溶性のコアを形成し、一方、PEGは水溶性又は親水性に富んだシェルを形成することにより、動的光散乱測定したとき、平均粒径が数ナノメートル〜数百ナノメートル、一般的には、5nm〜200nm,好ましくは、10〜100、より好ましくは、15〜60を示す、高分子ミセル様粒子を意味する。フェニルボロン酸とのエステルにあっては、親水性基ジ(カルボキシメチル)アミノ基が疎水性基に転化されるため、所謂、親水性−疎水性ブロック共重合体と同様に、高分子様ミセルを形成するものと理解されている。後者においても、平均粒径は、錯体の場合と実質的な差異はない。
【0016】
〔2〕の態様の発明において、式Iで表される共重合体も、上記〔1〕について述べたのと同様に、水性媒体中で多価金属との錯体又はフェニルボロン酸とのエステルを形成し、自己組織化によりナノ粒子を形成することができるものが好ましい。ナノ粒子、その他についての説明も、上記〔1〕で述べたのと同様である。
【0017】
式Iにおいて、変動し得る基、略号、等で、mは、一般的には2〜10,000の整数、好ましくは12〜5,000、より好ましくは14〜1,000の整数、さらにより好ましくは20〜400の整数であることができ、nは、一般的には2〜500の整数、好ましくは4〜100、より好ましくは6〜60の整数、さらにより好ましくは6〜30の整数であることができる。
【0018】
Yは、一般的には、水素、SH又はS(C=S)−Phであり、本発明の目的に沿う限り、さらには後者の2つの基から当該技術分野で周知の方法により変換される他の基若しくは部分であることもできる。
【0019】
式中のジ(カルボキシメチル)アミノ基はnの総数の中、少なくとも1、好ましくは4、より好ましくは6、さらにより好ましくは10個存在し、最も好ましくnの総数の全てが該アミノ基であり、存在しない場合には、該アミノ基は、H、ハロゲン原子またはヒドロキシ基であることができ、少なくとも1個上記各基もしくは各基の部分としてのアルキルは、直鎖もしくは分岐鎖であることができ、限定されるものでないが、メチル、エチル、プロピル、iso−プロピル、ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ぺンチル、ヘキシル、ヘプチル、ノニル、ウンデシル、等の中の該当するものを挙げることができる。
【0020】
式Iで表される共重合体は、如何なる方法により製造されたものであってもよい。しかし、限定されるものでないが、本発明者等の開示に基づく、WO 2009/133647 A1又はWO 2016/052463 A1に記載された、式:
【0021】
【化3】
【0022】
式中、A、L、Y、m及びnは、式Iについて定義したのと同義であり、Xはハロゲン原子、特に、塩素、臭素、ヨウ素である
で表されるブロック共重合体(特に、Xが塩素である場合、以下、PEG−PCMSと略記する)と式:
【0023】
【化4】
【0024】
で表されるイミノ二酢酸又はそのジ−C1-6アルキルエステルを、脱ハロゲン化水素剤、有機アミン化合物、エチルジイソプロピルアミン等の存在下の非反応性有機溶媒、例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジオキサン、ジメチルスルホン(DMSO)、等中、室温〜有機溶媒の沸点までの温度で、5〜24時間反応させることにより、後者にあっては、次いで、エステルを加水分解することにより製造できる。
【0025】
また、別法として、WO 2009/133647 A1又はWO 2016/052463 A1に記載される、例えばPEG−PCMSの製造方法において、出発原料のモノマーとして用いるクロロメチルスチレンに代え、ジ(カルボキシメチル)アミノメチルスチレンを用いることにより、式Iの共重合体を製造することもできる。
【0026】
〔3〕〜〔6〕の態様の発明について
〔3〕〜〔6〕に記載の錯体は、〔2〕について説明したように、図1に示されるようなキレート化を介して水性媒体中で平均粒径がナノメートルサイズの粒子として存在するものが好ましい。したがって、かようなキレート化を生じるような割合で、該共重合体と金属イオンが含まれておれば、その割合は限定されるものでないが、しかし、該共重合体中の総ジ(カルボキシメチル)アミノ基対金属イオンが、一般的には、4:1、好ましくは3:1、より好ましくは2:1となるように該共重合体と金属イオンを含む。一方、複合体は、ジ(カルボキシメチル)アミノ基対フェニルボロン酸が、それぞれ、1〜2:2〜1の割合で含まれ、少なくともハーフエステル結合を形成した状態にあることが望ましい。
【0027】
このような錯体は、水性媒体中で室温下、数分、例えば、5分から数時間、例えば2時間、対応する共重合体とイオン化し得る金属化合物を混合することにより製造することができる。こうして得られる反応混合物は、半透膜、例えば、Spectra/Por(登録商標) Dialysis Membrane(nominal flat width=45mm,diameter=29mm,vol/length=6.4mL/cm,MWCO=3,500)を用いて水に対して透析することにより、前述したような高分子ミセル用ナノ粒子を提供できる。このようなナノ粒子は、凍結乾燥してその後に使用のために調製しておいてもよい。一方、エステル形成複合体は、脱水又は乾燥有機溶媒(例えば、DMF)中で、共重合体とフェニルボロン酸のエステル形成反応を介して調製することができる。このような反応は、限定されるものでないが、室温から100℃までの温度で、6時間〜24時間実施すればよい。こうして得られる反応液は、前述のような半透膜を用いて水に対して透析することにより、前述したナノ粒子として目的のエステル複合体を提供することができる。この複合体もまた、凍結乾燥してその後に使用に備えることができる。
【0028】
〔7〕について、非特許文献1に記載されるように、フェントン反応と称し得るように、第一鉄(Fe(II))イオンは温和な酸化剤といえる過酸化水素(H22)を高反応性であり、高細胞毒性を示すヒドロキシルラジカルに転化することが知られている。本発明したがう、前述のような錯体であって、多価金属イオンがFe(II)であるものは、生理学的条件下でナノ粒子として安定に存在することができる、水性環境に適合し得るため、フェントン反応を介して、生体内で、通常、腫瘍近傍で高発現している過酸化水素を活性ヒドロキシルラジカル(・OHラジカル)等に転化し、殺腫瘍細胞又は腫瘍増殖抑制効果をもたらし得る。したがって、本発明によれば、〔4〕に記載の錯体であって、金属イオンがFe(II)である錯体を有効成分として含んでなる腫瘍増殖抑制用製剤が提供される。
【0029】
かような製剤は、本発明の目的に沿う限り、それ自体当該技術分野で常用されている、キャリヤーや賦形剤を含むことができる。このようなキャリヤーとしては、滅菌水、緩衝化滅菌水、等を挙げることができ、賦形剤としては、ポリソルベート、各種分子量のポリエチレングリコール、単糖類若しくは二糖類又はその還元物、マルチトール、キシリトール、等を挙げることができる。このような製剤に含められる、錯体は、高分子ミセル様ナノ粒子として、水に可溶化又は均質に分散し得るので、限定されるものでないが、都合よく、生体に非経口的、特に、静脈内に、筋肉内に、また、皮下に投与することができる。かような投与量は、当業者、特に、専門医であれば、実験動物の試験の結果等、を考慮し、適切に決定することができる。しかし、錯体は経口製剤に有効成分として含めることもできる。
【0030】
〔8〕における、〔5〕に記載の複合体を有効成分として含んでなる、中性子捕捉療法で使用するための腫瘍増殖抑制用製剤も、〔7〕の錯体を有効成分として含んでなる腫瘍増殖抑制用製剤と同様に調製及び生体に投与できる。また、生理学的水性環境下で、該複合体もナノ粒子として安定に存在し得るので、所謂、EPR効果を介して腫瘍組織内に滞留し得るので、中性子捕捉療法において、著効を奏するものと推認できる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を具体例に基づきより詳細に説明するが、これらの例に本発明を限定することを意図するものではない。なお、以下の実施例において、PEG−b−ポリクロロメチルスチレン(PEG−b−PCMS)は本発明らの開示に基づくWO 2016/052463 A1の実施例に記載の方法により取得したものを使用した。したがって、後述する共重合体の構造式は、PEGセグメントとポリ[ジ(カルボキシメチル)アミノメチ
ルスチレン](PAAMS)セグメントの連結基の記載は省略されているが、より適切には、それらのセグメント間にパラキシリレンが存在するものと理解されたい。
【0032】
<実施例1> ポリ(エチレングリコール)−b−ポリ[ジ(カルボキシメチル)アミノメチルスチレン](PEG−b−PAAMS)の合成法1
【0033】
【化5】
【0034】
50mLナス型フラスコにPEG−b−PCMS(MW:PEG:5KDa,CMS重合度18)の1g、イミノ二酢酸2g、エチルジイソプロピルアミン3g、DMF10mLを加え、100℃で1日反応させた。混合液をMWCO 3,500の透析バッグにいれ、pH3の水に対して24時間透析し、次いで、凍結乾燥して乾燥ポリマーを得た。図2に得られたポリマーのDMSO−d6溶液の1H−NMRスペクトルを示す。
【0035】
<実施例2> ポリ(エチレングリコール)−b−ポリ[ジ(エトキシカルボニルメチル)アミノメチルスチレン](PEG−b−PECAMS)の合成
【0036】
【化6】
【0037】
50mLナス型フラスコに実施例1で用いたのと同一のPEG−b−PCMSの2g、イミノ二酢酸ジエチル5g、DMF10mLを加え、50℃Cで1日反応させた。混合液を500mLの冷2−プロパノールに沈殿させ、ろ過後減圧乾燥を行い、ポリマーを得た。図3に得られたポリマーのDMSO−d6溶液の1H−NMRスペクトルを示す。
【0038】
<実施例3> ポリ(エチレングリコール)−b−ポリ[ジ(カルボキシメチル)アミノメチルスチレン](PEG−b−PAAMS)の合成法2
50mLナス型フラスコにPEG−b−PECAMSの700mgをDMF20mLに溶解させ、水酸化ナトリウム0.5g、水10mLを加えて室温で4日間反応させた。反応混合物を上記と同様に水に対して透析後、凍結乾燥によってポリマーを得た。図4に得られたポリマーのDMSO−d6溶液の1H−NMRスペクトルを示す。
【0039】
<実施例4> Fe(II)含有ナノ粒子の作製
実施例3で合成したPEG−b−PAAMSの50mgおよびFeCl2の12mgを10mLの水に溶解させ、10分間攪拌し、上記と同様に水に対して透析を行った。図5に動的光散乱測定結果を示す。粒径57nmの粒子が得られた。
【0040】
<実施例5> 種々イオンによるナノ粒子の作製
Ga(III)、In(III)、Gd(III)、Cu(II)、Fe(II)、F
e(III)に対するPEG−b−PAAMSの複合ナノ粒子化を行った(PEG−b−PAAMS:金属イオン塩化物20mM、金属イオン:キレート分子=2:1で混合後37℃で1時間攪拌し、上記と同様に水に対して透析を行った。)。図6に得られた溶液の写真を示す。
【0041】
サイズ、イオン封入量及び封入率は、次のとおりである。
【0042】
【表1】
【0043】
<実施例6> 金属イオン封入の安定性
実施例5で作製した金属イオン内封ナノ粒子(In(III)、Fe(III)を除く)の安定性を10%血清存在下で2日間攪拌し。動的光散乱測定を行ったところ、血清存在下でも粒径は殆ど変化せず、散乱強度の低下もみられなく、極めて安定であった(図7参照)。
【0044】
<実施例7> Mn(II)、Zn(II)の封入
実施例5で行ったと同様の方法で金属イオンをMn(II)、Zn(II)で行ったところ、粒径45−50nmの金属内包粒子が得られた(図8参照)。
【0045】
<実施例8> PEG−b−PAAMSホウ素錯合体(又は複合体)の作製
PEG−b−PAAMSの100mg、フェニルボロン酸100mg、活性化したモレキュラーシーブ100mg、脱水DMF10mLを30mLフラスコにとり、80℃、1日反応させた。反応後モレキュラーシーブをろ別し、ろ液をSpectra/Por(登録商標) Dialysis Membrane(nominal flat width=45mm,diameter=29mm,vol/length=6.4mL/cm,MWCO=3,500)の透析バッグにいれ、水に対して透析したのち凍結乾燥した。収量75mg。得られたポリマーの1H−NMRを図9に示す。2mg/mL水溶液を作製し、IPC−MSによりホウ素濃度を測定したところ500ppmであった。動的光散乱測定によりこのポリマーは水中で会合しており、37nmの粒径であった(図10参照)。
【0046】
<実施例9> PEG−b−PAAMSホウ素錯合体の細胞毒性
96穴プレートに1x104のHepG2細胞を播種し、0.5mg/mL及び1.0mg/mLとなるようPEG−b−PAAMSホウ素錯合体を添加し、24時間インキュベートした後EST溶液を添加、2時間後に450nmのUV吸収を測定しコントロールと比較したところいずれも80%以上の生存率を確認した(図11参照)。
【0047】
<実施例10> キレートポリマー(PEG−b−PAAMS)およびそのエステル体(PEG−b−PECAMS)の毒性、抗腫瘍特性

サンプル群(1群6匹):
1 PBS
2 実施例1で作製したポリマー(PEG−b−PAAMS)のPBS溶液(25mg
/mL)
3 実施例2で作製したポリマー(PEG−b−PECAMS)のDMSO溶液をPB
Sに対して透析した溶液(25mg/mL)
【0048】
Balb/Cマウス皮下に1x106個のColon−26細胞を投与し7日後に上記サンプルを100μL尾静注した(100mb/Kg−BW,0,3,6日と三回投与)。体重増加および腫瘍成長とも3つの投与群で有意な差が見られず、本キレート剤投与により強い毒性は見られなかったものの、抗腫瘍活性は見られなかった(図12,13参照)。
【0049】
<実施例11> Fe(II)含有ナノ粒子の抗腫瘍活性
Balb/Cマウス皮下に1x106個のColon−26細胞を投与し7日後に実施例4で作製したFe(II)含有ナノ粒子を尾静脈から投与した(7.75mg/mL,100μL,31mg/Kg−BW,0,3,6日三回投与)。Fe(II)を有する粒子は有意に腫瘍増殖抑制効果を示し、顕著な体重減少を示さなかった(図14,15参照)。また、コントロールに対して高い延命効果を示した(図16参照)。
【0050】
<実施例12> Fe(II)含有ナノ粒子の細胞毒性
96穴マイクロプレートに104/ウェルのHeLa細胞を播種し、24時間培養した後、培養液を除き、下記試料を加え、24時間培養した。その後WST測定により細胞生存率を求めた。図17に示すようにこの条件下ではポリマーおよびFe(II)含有ナノ粒子も全く細胞毒性を示さないことが確認された。

試料
1 PEG−b−PAAMS(10mg/mL、100mg/mL溶液を血清で10倍希
釈)
2 PEG−b−PAAMS(5mg/mL、100mg/mL溶液を血清で20倍希釈

3 実施例11で用いたFe(II)含有ナノ粒子(1.55mg/mL、上記動物実験
で使用した溶液を血清で5倍希釈)
【0051】
<実施例13> フェントン(Fenton)反応によるFe(II)含有ナノ粒子の細胞毒性
96穴マイクロプレートに104/ウェルのHeLa細胞を播種し、24時間培養した後、培養液を除き、下記試料を加え、24時間培養した。その後WST測定により細胞生存率を求めた。図18に示すようにH22単独では3x103mol/L下で全く細胞毒性を示さないのに対し、Fe(II)含有ナノ粒子共存下で著しい細胞毒性を示し、効果を示した。共存試験ではFe(II)含有ナノ粒子(1.55mg/mL、上記動物実験で使用した溶液を血清で5倍希釈)
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のブロック共重合体は、多価金属イオン又はホウ素化合物と生理的条件下で安定なナノ粒子として錯体又は複合体を提供でき、また、かようなナノ粒子は腫瘍増殖抑制効果を示す。したがって、本発明は医用分野で利用可能である。
図1
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図3
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図5
図6
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図16
図17
図18