特許第6872217号(P6872217)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6872217-浸透用乳化組成物、及び液体浸透型薬剤 図000006
  • 特許6872217-浸透用乳化組成物、及び液体浸透型薬剤 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6872217
(24)【登録日】2021年4月21日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】浸透用乳化組成物、及び液体浸透型薬剤
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/04 20060101AFI20210510BHJP
   A61L 9/012 20060101ALI20210510BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20210510BHJP
   A01N 25/04 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   A61L9/04
   A61L9/012
   A61L9/01 Q
   A01N25/04 101
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-168452(P2016-168452)
(22)【出願日】2016年8月30日
(65)【公開番号】特開2018-33615(P2018-33615A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2019年8月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 和夫
(72)【発明者】
【氏名】今井 洋子
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 佳那
【審査官】 小川 慶子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−59631(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/00−9/22
B01F 17/00−17/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油相と、水相と、前記油相および前記水相の界面に介在する自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体又は水酸基を有する重縮合ポリマーの粒子とを含有する、浸透用乳化組成物。
【請求項2】
自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体又は水酸基を有する重縮合ポリマーの粒子の含有量が、組成物全体の質量に対して0.0001〜10質量%である、請求項1に記載の浸透用乳化組成物。
【請求項3】
揮散させて用いられる、請求項1又は2に記載の浸透用乳化組成物。
【請求項4】
有機溶剤の含有量が、組成物全体の質量に対して5質量%以下(0を含む)である、請求項1から3のいずれかに記載の浸透用乳化組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の乳化組成物を備える、液体浸透型薬剤。
【請求項6】
消臭剤、殺虫剤、又は芳香剤として用いられる、請求項5に記載の液体浸透型薬剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸透用乳化組成物、及び液体浸透型薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
殺虫剤や芳香剤等は、ろ紙等の芯材に有効成分を含む液体を浸透させて用いられる液体浸透型薬剤として用いられている。
【0003】
液体浸透型薬剤に用いられる浸透用の液体としては、多量の界面活性剤によりミセルを形成し、ミセル内部に有効成分の油を可溶化させた液体が知られている。例えば、特許文献1には、殺虫剤の有効成分を含む水性薬剤中に、20.0〜70.0重量%の界面活性剤が含有されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−310907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、多量の界面活性剤を用いると、液体が浸透した芯材中に、界面活性剤が徐々に溜まり、有効成分を含む液体がその溜まった部分より先に浸透しないようになる。そのため、界面活性剤を溶かすため薬剤を振る作業が必要となったり、あるいは、特許文献1のように芯材の上部にたまった界面活性剤を加熱により揮散させる装置が必要となったりと手間がかかる。また、界面活性剤がを空気中に揮散させると、周囲が界面活性剤により汚れるという問題もある。
【0006】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、簡便に使用でき、浸透性を維持することができる浸透用乳化組成物、及び液体浸透型薬剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、予想外なことに、いわゆる三相乳化法により有効成分を乳化させた液状の組成物が、乳化状態のまま浸透性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0008】
(1) 油相と、水相と、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体又は水酸基を有する重縮合ポリマーの粒子とを含有する、浸透用乳化組成物。
【0009】
(2) 自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体又は水酸基を有する重縮合ポリマーの粒子の含有量が、組成物全体の質量に対して0.0001〜10質量%である、(1)に記載の浸透用乳化組成物。
【0010】
(3) 揮散させて用いられる、(1)又は(2)に記載の浸透用乳化組成物。
【0011】
(4) 有機溶剤の含有量が、組成物全体の質量に対して5質量%以下である、(1)から(3)のいずれかに記載の浸透用乳化組成物。
【0012】
(5) (1)から(4)のいずれかに記載の乳化組成物を備える、液体浸透型薬剤。
【0013】
(6) 消臭剤、殺虫剤、又は芳香剤として用いられる、(5)に記載の液体浸透型薬剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、簡便に使用でき、浸透性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1、2に係る乳化組成物についてろ紙を用いて浸透性を評価した結果を示す画像である。
図2】比較例1、2に係る乳化組成物についてろ紙を用いて浸透性を評価した結果を示す画像である。
図3】実施例1、2、比較例1、2、対照例1、2について、ろ紙に染みこませてからの経過時間(横軸)と乳化組成物(エマルション)(対照例1、2については水溶液)の上昇距離(縦軸)との関係を示すグラフである。
図4】実施例1、比較例1について、アルコールランプの芯を用いて浸透性を評価した結果を示す画像である。
図5】(a)実施例1、2、比較例1、2について、ろ紙又はアルコールランプの芯に染みこませてからの経過時間(横軸)と乳化組成物(エマルション)の上昇距離(縦軸)との関係を示すグラフである。(b)上記の(a)のグラフの拡大図である。
図6】実施例1に係る乳化組成物をシャーレにまいてから一定期間経過時(スタート時、24時間経過時、48時間経過時、72時間経過時)のシャーレの画像である。
図7】比較例1に係る乳化組成物をシャーレにまいてから一定期間経過時(スタート時、24時間経過時、48時間経過時、72時間経過時)のシャーレの画像である。
図8】比較例2に係る乳化組成物をシャーレにまいてから一定期間経過時(スタート時、24時間経過時、48時間経過時、72時間経過時)のシャーレの画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0017】
<浸透用乳化組成物>
本発明の浸透用乳化組成物は、油相と、水相と、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体又は水酸基を有する重縮合ポリマーの粒子とを含有する。
【0018】
従来、浸透用乳化組成物は、上述の界面活性剤により有効成分を可溶化させて用いられていた。他方、界面活性剤により油を乳化し、可溶状態でなくエマルションを形成して乳化組成物とした場合は、溶媒の水のみが芯材に浸透し、油を含む乳化組成物は芯材への浸透が途中までしか進まない。そのため、乳化状態は、浸透用の乳化組成物としての使用に適していないと考えられていたが、本発明者らは、いわゆる三相乳化による乳化組成物を浸透用として用いた場合、乳化状態のまま芯材への浸透できることを見出した。その理由は、以下のとおりであると推測される。
【0019】
界面活性剤は、単独で相を形成することができないため、熱力学的には独立相として存在できず、水や油に従属して存在する従属相である。そのため界面活性剤によるエマルションは、気相(泡)と接するとその状態を維持できない。このような性質のために、乳化組成物が芯材を浸透する際に、芯材の表面の気相と接する部分の界面活性剤による乳化が崩れ、浸透性も失われる。これに対し、三相乳化粒子は、界面張力を低下させるものでなく、ファンデルワールス力で油に付着するものであるために熱力学的に独立相として存在でき、その結果、三相乳化粒子によるエマルションが気相(泡)と接しても、その状態を維持できる。これにより、三相乳化粒子は、芯材の表面に露出しても乳化状態を維持でき、浸透性も維持できるものと推測される。実際、三相乳化エマルションのTEM写真による観察の結果、三相乳化エマルションが気相と接しても安定であることが確認された。
【0020】
本発明の浸透用乳化組成物は、界面活性剤を用いずとも簡便に浸透性を維持することができる。例えば、界面活性剤のように芯材に溜まることがないので、振って界面活性剤を液体中に溶かしたり、界面活性剤を揮散させるための加熱装置を設ける必要がない。また、浸透用乳化組成物を液体浸透型薬剤に用いた後に、液体の有効成分を含む乳化組成物の部分のみ交換又は補充するのみで、再度使用できる。このような点で、本発明の浸透用乳化組成物は、簡便に使用できる。また、従来の界面活性剤による油の可溶化は、有効成分の油に対して多量の界面活性剤を使用する必要があるため、油の絶対量が少くなってしまう傾向にあった。しかしながら、本発明は、三相乳化粒子による乳化組成物であり、少ない量の三相乳化粒子で油を乳化できるため、油の量を所望の量にコントロールしやすい。
【0021】
なお、三相乳化法は、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体又は水酸基を有する重縮合ポリマーの粒子が、油−水の界面に介在して、ファンデルワールス力により油相に付着することで乳化を可能とするものである。三相乳化は、親水基と疎水基により界面張力を下げる界面活性剤による乳化とは異なるものである。三相乳化可能な粒子か否かは、乳化に用いる親水性ナノ粒子分散液について、光散乱測定を行い、平均粒子径が、例えば、8〜400nmになっていることで判断できる。さらに調製したエマルションについて、原子間顕微鏡(AFM)観察を行い、乳化剤粒子が、油滴表面に付着していることを確認することで、判断することができる。
【0022】
本発明の乳化組成物の形態としては、O/W型のエマルション構造が好適である。
【0023】
(油相)
本発明における油相に含まれる油は、特に限定されず、例えば、植物油(オリーブ油、アボガド油、ツバキ油、マカデミアナッツ油、月見草油、ホホバ油、ナタネ油、卵黄油、ゴマ油、ヒマシ油、サフラワー油、綿実油、大豆油、茶実油、コメヌカ油、小麦胚芽油、胚芽油、落花生油、ヒマワリ油、アーモンド油、タートル油、トウモロコシ油、ミンク油、パーシック油、サザンカ油、アマニ油、エノ油、カヤ油等)、動物油(牛脂、豚脂、乳脂等)、中鎖脂肪酸トリグリセリド、炭化水素油(スクワレン、スクワラン、流動パラフィン等)、エステル油(メトキシケイヒ酸エチルヘキシル、エチルヘキサン酸セチル、リンゴ酸ジイソステアリル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸エチルヘキシル、パルミチン酸オクチル、イソパルミチン酸オクチル、イソノナン酸イソノニル、イソノナン酸イソトリデシル、ラウリル酸メチルヘプチル、ラウリン酸ヘキシル、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、トリエチルヘキサノイン、ジカプリン酸ネオペンチルリコール、オクタン酸セチル、ステアリン酸イソセチル、イソステアリン酸イソプロピル、オレイン酸イソデシル、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル、テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリスリット、コハク酸2−エチルヘキシル、セバシン酸ジエチル等)、シリコーン油(シクロペンタシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、メチルポリシロキサン、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン等)等が挙げられる。本発明における油相に含まれる油は、特に、揮発性を有しかつ揮散することで効果発揮する物質(例えば、芳香剤、揮発性殺虫剤等)、または、粘性を有し浸透により上昇した場に長く留まることで効果を発揮する物質(例えば、蛍光物質(それによって害虫、害鳥などが嫌がる物質)、粘着性物質(昔のハエ取り、ゴキブリ取りなど)等)が好適である。
【0024】
また、油相の油は、特に、消臭剤、殺虫剤、芳香剤等の薬剤の有効成分の油を用いるのが好ましい。消臭剤の有効成分の油としては、公知の有効成分の油を用いることができ、例えば、β−イオノン、ゲラニウムオイル、クマリン、チモール、シトラール、デカノール、オイゲノール、イソオイゲノール等が挙げられる。殺虫剤の有効成分としては、公知の有効成分の油を用いることができ、例えば、パラジクロロベンゼン、ナフタリン、ピレスロイド系化合物等が挙げられる。芳香剤の有効成分としては、公知の有効成分の油を用いることができ、例えば、従来使用されている天然香料(植物性香料、動物性香料等)、合成香料を用いることができる。動物性香料としては、じゃ香、竜延香等が挙げられる。植物性香料としては、アルモンド油、アンゲリカルート油、ページル油、ベルガモット油、パーチ油、ボアバローズ油、カヤブチ油、ガナンガ油、カプシカム油、キャラウエー油、カルダモン油、カシア油、セロリー油、シナモン油、シトロネラ油、コニャック油、コリアンダー油、キュペブ油、クミン油、樟脳油、ジル油、エストゴラン油、ユーカリ油、フェンネル油、ガーリック油、ジンジャー油、グレープフルーツ油、ホップ油、ジュニパーベリー油、ローレルリーフ油、レモン油、レモングラス油、ロページ油、メース油、ナツメグ油、マンダリン油、タンゼリン油、カラシ油、はつか油、燈花油、玉ねぎ油、こしょう油、オレンジ油、セイジ油、スターアニス油、テレピン油、ウォームウッド油等が挙げられる。合成香料としては、炭化水素類(リモネン等)、アルコール類(リナロール、ゲラニオール、シトロネロール、メントール、ボルネオール、ベンジルアルコール、アニスアルコール、β−フェニルエチルアルコール等)、フェノール類(アネトール、オイゲノール等)、アルデヒド類(n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、n−ノニルアルデヒド、ノナジエナール、シトラール、シトロネラール、ベンズアルデヒド、シンナミックアルデヒド、ヘリオトロピン、ワニリン等)、ケトン類(メチルアミルケトン、メチルノニルケトン、ジアセチル、アセチルプロピオニル、アセチルブチリル、カルボン、メントン、樟脳、アセトフェノン、p−メチルアセトフェノン、イオノン等)、エステル類(メチルフォーメート、イソプロピルフォーメート、リナリールフォーメート、エチルアセテート、オクチルアセテート、メンチルアセテート、ベンジルアセテート、シンナミルアセテート、プロピオン酸ブチル、酢酸イソアミル、イソ酪酸イソプロピル、イソ吉草酸グラニル、カプロン酸アリル、ヘプチル酸ブチル、カプリル酸オクチル、ヘプチンカルボン酸メチル、ペラハゴン酸エチル、オクチンカルボン酸メチル、カプリン酸イソアシル、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸エチル、安息香酸エチル、安息香酸ベンジル、フェニル酢酸メチル、フェニル酢酸ブチル、桂皮酸メチル、桂皮酸シンナミル、サルチル酸メチル等)等が挙げられる。
【0025】
本発明における乳化組成物全体の質量に対する油の含有量は、特に限定されず、乳化組成物の形態や油の種類、用途に応じて、適宜選択することができる。本発明における乳化組成物によると、油の量が多く入っていても、浸透性を維持することができ、例えば、1.0質量%以上(5.0質量%以上、10.0質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上等)であってもよい。また、本発明における乳化組成物全体の質量に対する油の含有量は、70質量%以下(60質量%以下、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、10質量%以下、5質量%以下等)等であってもよい。
【0026】
(水相)
本発明における閉鎖小胞体又は重縮合ポリマーの粒子によると、少量でも浸透性を維持できる。このため、乳化組成物における水の量を多く、20〜95質量%の範囲から幅広く選択することができ、乳化組成物の形態や油相の量に応じて適宜設定することができる。例えば、25〜90質量%であることが好ましく、30〜80質量%であることがより好ましく、50〜70質量%であることがさらに好ましい。
【0027】
(閉鎖小胞体又は重縮合ポリマー粒子)
本発明における閉鎖小胞体は、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成される。閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質としては、下記の一般式1で表されるポリオキシエチレン硬化ひまし油の誘導体もしくは一般式2で表されるようなジアルキルアンモニウム誘導体、トリアルキルアンモニウム誘導体、テトラアルキルアンモニウム誘導体、ジアルケニルアンモニウム誘導体、トリアルケニルアンモニウム誘導体、又はテトラアルケニルアンモニウム誘導体のハロゲン塩の誘導体を採用するとよい。
【0028】
一般式1
【化1】
【0029】
両親媒性物質としては、ポリオキシエチレン硬化ひまし油の誘導体(日光ケミカルズ株式会社社製の「HCO−10」、「HCO−20」、「HCO−30」、「HCO−40」、「HCO−50」、「HCO−100」等)が好ましい。
【0030】
一般式2
【化2】
【0031】
式中、R及びRは、各々独立して炭素数8〜22のアルキル基又はアルケニル基であり、R及びRは、各々独立して水素又は炭素数1〜4のアルキル基であり、XはF、Cl、Br、I又はCHCOOである。
【0032】
あるいは、リン脂質やリン脂質誘導体等を採用してもよい。リン脂質としては、下記の一般式3で示される構成のうち、炭素鎖長12のDLPC(1,2−Dilauroyl−sn−glycero−3−phospho−rac−1−choline)、炭素鎖長14のDMPC(1,2−Dimyristoyl−sn−glycero−3−phospho−rac−1−choline)、炭素鎖長16のDPPC(1,2−Dipalmitoyl−sn−glycero−3−phospho−rac−1−choline)が採用可能である。
【0033】
一般式3
【化3】
【0034】
また、下記の一般式4で示される構成のうち、炭素鎖長12のDLPG(1,2−Dilauroyl−sn−glycero−3−phospho−rac−1−glycerol)のNa塩又はNH塩、炭素鎖長14のDMPG(1,2−Dimyristoyl−sn−glycero−3−phospho−rac−1−glycerol)のNa塩又はNH塩、炭素鎖長16のDPPG(1,2−Dipalmitoyl−sn−glycero−3−phospho−rac−1−glycerol)のNa塩又はNH塩を採用してもよい。
【0035】
一般式4
【化4】
【0036】
また、リン脂質、リン脂質誘導体としては、レシチン(天然レシチン、水添レシチン等)を用いることができる。
【0037】
水酸基を有する重縮合ポリマーは、特に限定されず、天然高分子又は合成高分子のいずれであってもよく、用途に応じて適宜選択されてよい。ただし、安全性に優れ、一般的に安価である点で、天然高分子が好ましく、乳化機能に優れる点で以下に述べる糖ポリマーがより好ましい。なお、粒子とは、重縮合ポリマーが単粒子化したもの、又はその単粒子同士が連なったもののいずれも包含する一方、単粒子化される前の凝集体(網目構造を有する)は包含しない。例えば、単粒子化される前の多糖類」は粒子化されているものではなく、水素結合によるネットワーク構造を形成していることから、いわゆる三相乳化能を有する重縮合ポリマーの粒子」とは、明確に異なるものである。水酸基を有する重縮合ポリマーは、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
糖ポリマーは、セルロース、デンプン等のグルコシド構造を有するポリマーである。例えば、リボース、キシロース、ラムノース、フコース、グルコース、マンノース、グルクロン酸、グルコン酸等の単糖類の中からいくつかの糖を構成要素として微生物が産生するもの、キサンタンガム、アラビアゴム、グァーガム、カラヤガム、カラギーナン、ペクチン、フコイダン、クインシードガム、トラントガム、ローカストビーンガム、ガラクトマンナン、カードラン、ジェランガム、フコゲル、カゼイン、ゼラチン、デンプン、コラーゲン、シロキクラゲ多糖類等の天然高分子、メチルセルロース、エチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ステアロキシヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、セルロース結晶体、デンプン・アクリル酸ナトリウムグラフト重合体、疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の半合成高分子等が挙げられる。また、糖ポリマーの他に、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸塩、ポリエチレンオキシド等の合成高分子等を用いることができる。これらは、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
糖ポリマーは、ヒドロキシエチルセルロース、ステアロキシヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、グァーガム、又はこれらの塩を用いることが好ましく、特に、ヒドロキシエチルセルロースを用いることが好ましい。
【0040】
本発明における閉鎖小胞体又は重縮合ポリマー粒子は、例えば、平均粒径8nm〜2000nm程度であってもよいが、粒径が小さい方が、乳化性が向上する。このことから、平均粒径は8nm以上800nm以下であることが好ましく、8nm以上500nm以下であることがさらに好ましい。これらの調製方法は、特許第3855203号等に開示されるとおり、三相乳化能を有する粒子の調製方法として従来公知であるため、省略する。
【0041】
閉鎖小胞体又は重縮合ポリマー粒子の量は、油相の量に応じて適宜設定されてよく、特に限定されないが、合計で0.0001〜10質量%であってよい。特に、閉鎖小胞体の場合、従来の界面活性剤と異なり、閉鎖小胞体又は重縮合ポリマー粒子は浸透性を維持できるため、5質量%以下(具体的には、4質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、1.0質量%以下、0.75質量%以下)という少量でも、浸透性を維持することができる。また、閉鎖小胞体又は重縮合ポリマー粒子の量が少量であることは、特に重縮合ポリマー粒子の場合に、エマルションの粘度を低く抑えることができる点で、有用である。なお、上記量は、いずれも固形分含量である。また、閉鎖小胞体又は重縮合ポリマー粒子の量が、浸透性を維持しやすいことから、乳化組成物全体の質量に対して0.10質量%以上であることが好ましく、0.30質量%以上であることがより好ましく、0.50質量%以上であることがさらに好ましく、1.0質量%以上であることが特に好ましく、2.0質量%以上であることがより一層好ましい。
【0042】
本発明における乳化組成物の内相の平均粒径は、特に限定されず、例えば、0.1μm以上であってもよいが、本発明における乳化組成物は、三相乳化によるものであるため、界面活性剤を利用した従来の乳化と比較すると、平均粒径の大きさを幅広い範囲にすることが可能である。例えば、本発明における乳化組成物がO/W型エマルション構造を有する場合、内相である油相の平均粒径は、目的や用途に応じて適宜設定してもよいが、例えば、内相の平均粒径は、50μm以下であることが好ましく、25μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。なお、内相の平均粒径は、濃厚系対応粒径アナライザーFPAR−1000(大塚電子(株)製)により、測定する。
【0043】
本発明における乳化組成物は、上記以外の成分の他、香料、pH調整剤、防腐剤、着色剤、抗酸化剤、界面活性剤や他の乳化剤を併用して含んでもよく、含まなくてもよい。ただし、界面活性剤を含むと、薬剤の浸透性を阻害するので好ましくないため、乳化組成物中の界面活性剤の含有量は、少ない方が好ましく、例えば、乳化組成物全体の質量に対して10質量%以下(5質量%以下、1質量%以下、0.1質量%以下、0.05質量%以下、0.01質量%以下等)であることが好ましく、乳化組成物が界面活性剤を含まない方がより好ましい。
【0044】
従来、浸透用組成物は、有機溶剤に有効成分を溶かし、使用される場合もあるが、本発明によると乳化状態で浸透性を維持できるため、有機溶媒(アルコール、アセトン、イソパラフィン等)を使用する必要がない。この観点で、本発明の浸透用組成物は、有機溶剤の含有量が、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましく、20質量%以下であることがなお好ましく、10質量%以下であることがより一層好ましく、5質量%以下であることがさらに一層好ましく、1質量%以下であることがなお一層好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることがさらに好ましく、有機溶媒を含まないことが特に好ましい。
【0045】
本発明において「浸透用」とは、芯材(例えば、ろ紙、ひも、木材、繊維状物質、陶器、草、木材、ガラスフィルター等の水に対する濡れ性を有する材料)に浸透して用いられる用途のことを指し、例えば、芳香剤、消臭剤、殺虫剤等の薬剤であって、芯材(例えば、ろ紙、ひも、木材、繊維状物質、樹脂、陶器、草、木材、ガラスフィルター等の水に対する濡れ性を有する材料)に浸透して用いられるものであってもよく、あるいは、芯材を通じて浸透により乳化組成物を移動させる用途(例えば、芯材の一端側に植物を配置し、他端側から浸透を利用して乳化組成物を移動させることで、乳化組成物に含まれる有効成分を植物に一定の速度で供給する用途)であってもよい。また、本発明の浸透用乳化組成物は、揮散させて用いられるもの(芳香剤、消臭剤等)に好適である。
【0046】
乳化組成物は、閉鎖小胞体又は重縮合ポリマー粒子を含む分散液と、油性成分とを混合してエマルション(例えば、O/W型エマルション)の組成物を調製することができる。水溶性の任意成分は、乳化前に添加してもよく、混合前に添加してもよく、混合後に添加してもよい。
【0047】
<液体浸透型薬剤>
本発明は、上記の乳化組成物を備える、液体浸透型薬剤を包含する。
【0048】
「液体浸透型薬剤」とは、芯材に液体状の組成物を浸透させて用いられる薬剤のことを指す。芯材は、水に対する濡れ性を有するものであればよく、例えば、ろ紙、アルコールランプの芯、ひも、木材、繊維状物質、樹脂(例えば、ポリエチレン樹脂の繊維)、陶器、草、木材、ガラスフィルター等が挙げられる。
【0049】
上述のとおり、本発明の液体浸透型薬剤は界面活性剤を加熱により揮散させる必要がなく、加熱機構を備えなくてもよい。本発明の液体浸透型薬剤は、例えば、消臭剤、殺虫剤、芳香剤として用いるのに好適であるが、乳化組成物(油を含む)を浸透により芯材を通じて移動させるような用途であれば、特に限定されないが、有効成分を揮散させて用いられる用途が好適である。
【実施例】
【0050】
<浸透用乳化組成物の調製>
(比較例1)
油性成分としての中鎖脂肪酸トリグリセリドと2質量%のポリオキシエチレンラウリルエーテル(C12(EO)12)界面活性剤水溶液とを20:80の質量比になるように混合し、ホモミキサーにより10000rpmで10分間撹拌して、比較例1に係る界面活性剤による乳化組成物を調製した。なお、溶媒の移動と乳化物の移動を目視で容易に区別するため、中鎖脂肪酸には油溶性染料を添加して色をつけてから乳化に用いた。
【0051】
(比較例2)
比較例1の2質量%のポリオキシエチレンラウリルエーテル(C12(EO)12)水溶液を2質量%のラウリル硫酸ナトリウム(SDS)水溶液に変更した点以外は、比較例1と同様の手法で、比較例2に係る界面活性剤による乳化組成物を調製した。
【0052】
(実施例1)
三相乳化粒子としての2質量%のポリオキシエチレン硬化ひまし油の誘導体(HCO−20)の閉鎖小胞体の分散液を調製した。該分散液と油性成分としての中鎖脂肪酸トリグリセリドとを80:20の質量比になるように混合し、ホモミキサーにより10000rpmで10分間撹拌して、実施例1に係る乳化組成物を調製した。
【0053】
(実施例2)
実施例1において用いた2質量%のポリオキシエチレン硬化ひまし油の誘導体(HCO−20)の閉鎖小胞体の分散液と流動パラフィンとを80:20の質量比になるように混合し、ホモミキサーにより10000rpmで10分間撹拌して、実施例2に係る乳化組成物を調製した。
【0054】
<浸透性の評価1>
上述の実施例1、2、比較例1、2に係る乳化組成物を、ろ紙(ADVANTEC(登録商標) No.50(250μm))の下端1cmに液面が来るように染みこませてから、5時間経過後、24時間経過後、48時間経過後に観察し、乳化組成物が上端側にどの程度移動するかを確認して浸透性を評価した。なお、溶媒(水)が染みこんだところの先端は水性ペンで印をつけた。また、2質量%のポリオキシエチレンラウリルエーテル(C12(EO)12)水溶液を対照例1に係る組成物、2質量%のラウリル硫酸ナトリウム(SDS)水溶液を対照例2に係る組成物として準備し、これらについて上記と同様の評価を行った。実施例1、2についての結果(画像)を図1に示し、比較例1、2についての結果(画像)を図2に示す。また、実施例1、2、比較例1、2、対照例1、2について、ろ紙を染みこませてからの経過時間(横軸)と乳化組成物(エマルション)(又は水溶液)の上昇距離(縦軸)との関係を図3に示す。
【0055】
図1〜3に示すように、界面活性剤による乳化組成物(図1〜3中の乳化物)は、上側に上昇できないが、三相乳化粒子による乳化組成物は、浸透により上側に上昇できることが確認できた。
【0056】
<浸透性の評価2>
ろ紙(ADVANTEC(登録商標) No.50(250μm))の代わりにアルコールランプの芯(直径:1cm)を用い、上述の実施例1、比較例1に係る乳化組成物について上記の「浸透性の評価1」と同様の評価を行った。その結果の画像を、図4に示す。また、上述の「浸透性の評価1」における、実施例1、2、比較例1、2をろ紙に染みこませてからの経過時間(横軸)と乳化組成物(エマルション)の上昇距離(縦軸)との関係、及び実施例1、比較例1をアルコールランプの芯に染みこませてからの経過時間(横軸)と乳化組成物(エマルション)の上昇距離(縦軸)との関係を示すグラフを図5(a)に示す。図5(b)に、図5(a)のグラフを拡大したもの(経過時間5時間まで)を示す。
【0057】
図4、5に示すように、アルコールランプの芯において、比較例1の乳化組成物(界面活性剤乳化)は、途中で浸透が止まったが、実施例1の乳化組成物(三相乳化)は、比較例1より上昇距離が多く、また、浸透も持続したことがわかった。比較例、実施例ともに、体積の大きいアルコールランプ芯をエマルションに浸漬してすぐ大きく上昇しているのは、毛管上昇現象である。その後、実施例はろ紙と同じように経時につれて上昇したが、比較例は上昇が停止した。これは、ろ紙の場合と同じく、実施例は芯材に浸透するが、比較例は浸透しないためである。
【0058】
<エマルションの気相曝露実験>
上記のとおり、界面活性剤による乳化では、乳化組成物の浸透性を持続できなかったが、三相乳化では乳化組成物の浸透性を持続できたという結果になった。この結果は、両者が気相に曝露されたときに異なる挙動を示したことによるものと推測し、実施例1、比較例1、2の乳化組成物について気相曝露実験を行った。
【0059】
具体的には、各乳化組成物100gをシャーレにまき、一定時間静置させてどのような変化が起こるかを評価した。その結果を図6〜8に示す。図6は、実施例1に係る乳化組成物についての、スタート時、24時間経過時、48時間経過時、72時間経過時のシャーレの画像である。図7は、比較例1に係る乳化組成物についての、スタート時、24時間経過時、48時間経過時、72時間経過時のシャーレの画像である。図8は、比較例2に係る乳化組成物についての、スタート時、24時間経過時、48時間経過時、72時間経過時のシャーレの画像である。
【0060】
図7〜9に示すように、比較例1、2においては、エマルション液表面が空気に触れることにより不安定化して油滴が分離したのに対し(図のシャーレ中の黒い部分が油滴)、実施例1においては、油滴が分離しなかった。
【0061】
このような結果となったのは、界面活性剤は、単独で相を形成することができず、水や油に従属して存在する従属相であるのに対し、三相乳化粒子は、ファンデルワールス力で油に付着するものであるために熱力学的に独立相として存在でき、その結果、三相乳化粒子によるエマルションが気相(泡)と接しても、その状態を維持できることによるものと推測される。また、シャーレの観察から、界面活性剤エマルションは液の表面で気相に触れると油水分離するため、芯材との接触面が油に汚染されることがわかった。さらに、芯材に濡れてもエマルション滴液面を離れて気相に表出すると不安定化するので、芯材を上昇できないことを実験的に示した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8