(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の無段変速機10は、自動車やトラック、バス、オートバイ、自転車、鉄道等の陸上移動体、産業機械、工業機械等の変速機として用いることができる。以下、本発明の無段変速機10について、図面を参照しながら説明を行なう。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係る無段変速機10を具えた駆動機構60の一例を示している。駆動機構60は、駆動源61からの動力を無段変速機10で回転方向、回転数及び回転トルクを可変に出力し、負荷80に伝達する機構である。
【0021】
図1に示すように、駆動機構60は、その一例として、駆動源61と、エネルギー(回生エネルギーを含む)を蓄積する蓄積部70と、本発明の無段変速機10と、無段変速機10に連繋され被駆動部材となる負荷80を概略構成として具える構成とすることができる。蓄積部70は、必須構成ではなく、駆動源61と無段変速機10を直接連繋する構成としても構わない。駆動機構60は、中央制御装置(CPU90を主体として構成される)によって制御される。CPU90には、駆動機構60のすべての制御のためのプログラムや設定を記憶するROMやRAMなどの記憶手段(図示せず)が接続されており、人が操作する操作部91による指令に基づいて、その制御が実行される。なお、詳細は後述する。
【0022】
駆動源61は、モーターやエンジンを例示することができ、駆動軸62によりその動力を出力する。駆動軸62には、
図1に示すようにワンウェイベアリング63を具え、駆動源61の一方向の回転の伝達は許容するが、蓄積部70から駆動源61を逆方向に回転させる回転の伝達は阻止されている。
【0023】
蓄積部70は、駆動源61からのエネルギー又は負荷80からの回生エネルギーを蓄積、出力する機構である。たとえば、蓄積部70は、
図2に示すように、ゼンマイバネ71を具え、ゼンマイバネ71にエネルギーを蓄積する構成、コイルバネやゴム、エアー、定荷重バネ(定トルクバネ)などの弾性体であってもよい。
【0024】
図示の実施形態に係る蓄積部70は、鋼板を巻回してなるゼンマイバネ71を、筒状のケーシング72に収容すると共に、ゼンマイバネ71の内側の端部を駆動軸62に接続し、外側の端部をケーシング72に接続している。ケーシング72は先端が円錐状に縮径しており、その中心に入力軸24が接続されている。
【0025】
本発明の無段変速機10は、駆動源61又は蓄積部70の動力を変速して、トルク及び回転数を最適化して負荷80に出力する。
【0026】
図1の実施形態では、無段変速機10は、蓄積部70から延びる入力軸24と、負荷80へ向けて延びる出力軸44との間に設けられている。
【0027】
無段変速機10は、
図2乃至
図4に示すように、2枚の並設された第1ディスク20、フリーディスク30と、これらディスク20,30に対向して配置された第2ディスク40を具え、ディスク20,30と第2ディスク40との間に球状転動体50,52が配置された構成である。球状転動体50,52は、ホルダー54に回転自在に支持されており、一方の球状転動体50(第1球状転動体)が第1ディスク20またはフリーディスク30と当接しており、他方の球状転動体52(第2球状転動体)は第2ディスク40と当接している。また、第1球状転動体50と第2球状転動体52も互いに接触している。これら球状転動体50,52は、
図6等に示すホルダー54によって入力軸24と直交する方向に移動可能となっている。
【0028】
より詳細には、第1ディスク20は、入力軸24の先端に装着された円盤体であって、入力軸24とは逆側に第1ディスク対向面21を具える。
【0029】
フリーディスク30は、第1ディスク20に隣接して配備される。フリーディスク30は、第1ディスク対向面21と同一平面上に平行なフリーディスク対向面31を有し、軸受34等によりフリーディスク対向面31が第1ディスク対向面21と平行な面内で回転可能となるよう支持されている。フリーディスク30も円盤体であって、図示の実施形態では、第1ディスク20とフリーディスク30は同じ直径に構成している。
【0030】
第1ディスク20及びフリーディスク30は共に、鋼などの金属、硬質ゴム、硬質樹脂などから作製することができる。また、第1ディスク対向面21及びフリーディスク対向面31は、後述する第1球状転動体50と摩擦接触して、第1球状転動体50が滑ることなく回転するよう摩擦の高い表面を具備することが望ましい。
【0031】
第1ディスク20とフリーディスク30は、動力伝達可能に接続される。
図3では省略しているが、第1ディスク20及びフリーディスク30は、
図4及び
図5に示すように、第1ディスク対向面21とフリーディスク対向面31の裏面側に歯の刻設されたギア22,32を夫々配備し、ギア22,32どうしが噛合することで第1ディスク20の回転をフリーディスク30に伝達可能とすることができる。また、第1ディスク20とフリーディスク30の周面を粗に形成して当接させたり、これらディスク20,30の周面に歯を刻設して連繋しても構わない。さらには、ベルトなどによりディスク20,30どうしを動力伝達可能に連繋することもできる。
【0032】
すなわち、入力軸24からの回転力によって、第1ディスク20が回転し、これによってフリーディスク30が従動して回転する構成であれば、その動力伝達機構はとくに限定されるものではない。
【0033】
第1ディスク20とフリーディスク30のディスク対向面21,31と対向する位置には、第2ディスク40が配備されている。第2ディスク40は、第1ディスク対向面21及びフリーディスク対向面31と平行な第2ディスク対向面41を具える。第2ディスク40も円盤体とすることができ、第2ディスク対向面41の裏側には負荷80と連繋される出力軸44が接続されている。
【0034】
第2ディスク40の回転中心O2は、
図4に示すように第1ディスク20とフリーディスク30の接点Cに位置している。
【0035】
第2ディスク40も、鋼などの金属、硬質ゴム、硬質樹脂などから作製することができる。また、第2ディスク対向面41は、第2球状転動体52と摩擦接触して、第2球状転動体52が滑ることなく回転するよう摩擦の高い表面を具備することが望ましい。
【0036】
上記した第1ディスク対向面21とフリーディスク対向面31と、第2ディスク対向面41との間には、2個の球状転動体50,52が配置されている。球状転動体50,52は、第1ディスク20と第2ディスク40、又は、フリーディスク30と第2ディスク40を動力伝達可能に連繋する。球状転動体50,52は、本実施形態では球体であり、第1ディスク20又はフリーディスク30に当接する第1球状転動体50と、第2ディスク40に当接する第2球状転動体52である。
【0037】
球状転動体50,52は、夫々鋼などの金属、硬質ゴム、硬質樹脂などから作製することができ、互いに摩擦接触により滑ることなく動力伝達可能とし、また、第1球状転動体50は第1ディスク対向面21又はフリーディスク対向面31、第2球状転動体52は第2ディスク対向面41と摩擦接触して滑ることなく回転するように、夫々摩擦の高い表面を具備することが望ましい。
【0038】
球状転動体50,52は、
図6等に示すように、ホルダー54内に回転自在に保持されている。たとえばホルダー54は、第1球状転動体50と第2球状転動体52を挟んで対向し、間隔が一定に維持された板状の台座の内面に球状転動体50,52を回転自在に保持するスラストベアリングの如きベアリングを有する構成とすることができる。球状転動体50,52は、ホルダー54の端部から夫々臨出している。
【0039】
ホルダー54は、シリンダーの如きアクチュエーターからなる伸縮可能なホルダー移動手段55に接続されている。そして、ホルダー移動手段55の伸縮によって、球状転動体50,52は、ホルダー54と共に直線Lm(Ll)に沿って平行移動可能であり、第1球状転動体50とディスク20,30、第2球状転動体52と第2ディスク40との当接する位置を変えることができる。
【0040】
また、第1ディスク20又はフリーディスク30と、第2ディスク40には、夫々ディスクブレーキの如きブレーキ手段(図示せず)を具え、必要に応じてこれらディスク20,30,40をロック状態にすることができる。ブレーキ手段はCPU90によって、そのロック、アンロック状態が制御される。
【0041】
上記構成の無段変速機10は、下記要領で作動する。
【0042】
無段変速機10は、入力軸24からの回転力が入力されると、第1ディスク20が回転し、フリーディスク30が第1ディスク20とは逆向きに従動回転する。たとえば入力軸24の回転方向を
図3の矢印Am方向とすると、第1ディスク20は駆動軸62と同じ矢印A1で示す方向に回転し、フリーディスク30は第1ディスク20とは逆向きの矢印Afで示す逆方向に回転する。
【0043】
なお、以下では、入力軸24の図示の回転方向(矢印Am)を正方向と称し、ディスク20,30,40又は出力軸44がこれと同じ方向に回転する場合には正方向に回転、Amとは逆向きに回転する場合には逆方向に回転と記載する。
【0044】
第1球状転動体50は、第1ディスク対向面21又はフリーディスク対向面31と摩擦接触しているから、ディスク20,30の回転により直線Lmに対して垂直な面内で従動回転する。
図3の例では、第1球状転動体50は第1ディスク対向面21上にあるから、図中矢印B1で示す方向に回転する。
【0045】
なお、以下では、第1球状転動体50の回転方向(矢印B1)を縦・正方向と称し、B1とは逆の第2球状転動体52の回転方向は、縦・逆方向回転(矢印B2)と称する。
【0046】
第2球状転動体52は、第1球状転動体50と摩擦接触しているから、第1球状転動体50の回転により、第1球状転動体50と同じ直線Lm(Ll)に対して垂直な面内で第1球状転動体50とは逆向きに従動回転する。
図3の例では、第2球状転動体52は、第1球状転動体50の回転方向B1に対して逆向きの矢印B2で示す縦・逆方向に回転する。
【0047】
そして、第2球状転動体52と摩擦接触している第2ディスク40は、第2球状転動体52の回転により従動回転する。第2球状転動体52が、直線Llに対して垂直な面内で回転(矢印B2)している場合には、第2ディスク40は、
図3に示すように、矢印A2に示ように、第1ディスク20とは逆方向に回転する。第2ディスク40の回転によって、第2ディスク40に接続された出力軸44が、第2ディスク40と同じ矢印Alで示す逆方向に回転し、負荷80を駆動することができる。
【0048】
本発明では、球状転動体50,52は、ホルダー54の平行移動によって、
図5に示すように、第1球状転動体50が第1ディスク対向面21又はフリーディスク対向面31の何れと接するか、また、その接する位置を変えることができる。また、これに伴って、第2球状転動体52が第2ディスク対向面41と接する位置を変えることができる。これにより、入力軸24の回転は、その方向と変速比(回転数と回転トルク)を変えて出力軸44に伝達される。
【0049】
図6乃至
図10は、球状転動体50,52の位置を変えた状態の図である。より詳細には、
図6は、第1球状転動体50が第1ディスク20とフリーディスク30の接点C上にある状態(
図5の位置c)である。
図7及び
図8は、第1球状転動体50が第1ディスク20側にある状態であって、
図7は、第1球状転動体50が第1ディスク20の内周側に位置する状態(
図5の領域a)、
図8は、第1球状転動体50が第1ディスク20の外周側(
図5の領域b)、を示している。また、
図9及び
図10は、第1球状転動体50がフリーディスク30側にある状態であって、
図9は、第1球状転動体50がフリーディスク30の内周側(
図5のd)、
図10は、第1球状転動体50がフリーディスク30の外周側に位置する状態(
図5の領域e)を示している。
【0050】
ここで、第1ディスク20上に第1球状転動体50がある
図7及び
図8の状態において、第1ディスク20の回転中心O1から第1球状転動体50までの距離をS1、第2ディスク40の回転中心O2から第2球状転動体52までの距離をS2とする。また、フリーディスク30上に第1球状転動体50がある
図9及び
図10の状態において、フリーディスク30の回転中心Ofから第1球状転動体50までの距離をSf、第2ディスク40の回転中心O2から第2球状転動体52までの距離をS2とする。また、駆動軸62、すなわち第1ディスク20の回転数をRm、回転トルクをTmとする。
【0051】
すなわち、第1球状転動体50の位置が第1ディスク対向面21上にあって入力軸24の回転中心に近い領域にある領域aでは、
図7に示すようにS1<S2となり、入力軸24の回転中心から離れた領域にある領域bでは、
図8に示すようにS1>S2となる。また、第1球状転動体50の位置が第1ディスク20とフリーディスク30の接点C上にある位置cでは、
図6に示すようにS1=Sf、S2=0となる。さらに、第1球状転動体50の位置がフリーディスク対向面31上にあって入力軸24の回転中心から離れた領域にある領域dでは、
図9に示すようにSf>S2、入力軸34の回転中心から近い位置にある領域eでは、
図10に示すようにSf<S2となる。
【0052】
ホルダー54を平行移動させることにより、入力軸24の回転が、出力軸44にどのように伝達されるか、
図5乃至
図10を参照しながら説明する。
【0053】
図6に示すように、第1球状転動体50が第1ディスク20とフリーディスク30の接点C上(位置c)にあり、第2球状転動体52が第2ディスク40の回転中心O2にある場合には、第2球状転動体52は、
図6に示すように静止する。第2球状転動体52が静止することで、第1球状転動体50も静止し、第2ディスク40を回転させる方向の動力伝達はない。従って、第2ディスク40及び出力軸44は動力を受けない状態、すなわち停止したニュートラル状態になる。
【0054】
一方、
図7及び
図8に示すように、第1球状転動体50が第1ディスク20側にある場合には(
図5の領域a、領域b)、第1球状転動体50が第1ディスク対向面21と接している。この状態で、入力軸24を正方向Amに回転させて第1ディスク20が正方向(A1)に回転すると、第1球状転動体50は、縦・正方向(B1)に回転する。第2球状転動体52は、第1球状転動体50の回転を受けて、縦・逆方向(B2)に回転する。そして、第2ディスク40は、第2球状転動体52により、第1ディスク20とは逆向きの逆方向(A2)に回転し、出力軸44も同じAl方向に回転する。
【0055】
このとき、第2ディスク40(出力軸44も同じ)の回転数R2はRm×(S1/S2)となり、回転トルクT3は、Tm×(S2/S1)になる。
【0056】
図5に示す領域a(
図7)では、第1球状転動体50は第1ディスク20の内周側、第2球状転動体52は第2ディスク40の外周側に位置するから、S1<S2となるから、第2ディスク40の回転数R2は、第1ディスク20の回転数R1よりも小さく、トルクT3はTmよりも大きくなる。
【0057】
領域aと領域bの境界位置(S1=S2)では、第1ディスク20と第2ディスク40は、回転方向は逆向きではあるが、回転数、回転トルク共に同じ値になる。
【0058】
逆に、
図8に示す第1球状転動体50が第1ディスク対向面21の外周側、第2球状転動体52が第2ディスク40の内周側に移動する領域b(
図5)では、S1>S2であるから、第2ディスク40の回転数R2は、第1ディスク20の回転数R1よりも大きく、トルクT3はTmよりも小さくなる。
【0059】
図9及び
図10は、第1球状転動体50が接点Cを越えて、フリーディスク30のフリーディスク対向面31と接している状態を示している。この状態では、第1ディスク20の正方向回転(Am)に対し、フリーディスク30は逆方向に回転しているが(Af)、
図7及び
図8と同様に、第1球状転動体50に対するフリーディスク30の相対的な移動方向は同じであるから、第1球状転動体50は、縦・正方向(B1)に回転する。第2球状転動体52は、第1球状転動体50の回転を受けて、縦・逆方向(B2)に回転する。そして、第2ディスク40は、第2球状転動体52の縦・逆方向(B2)の回転を受けるが、第2球状転動体52は、第2ディスク40の回転中心O2を越えていることから、
図7及び
図8の場合とは異なり、フリーディスク30とは逆向き、すなわち第1ディスク20とは同じ向きの正方向(A2’)に回転する。また、出力軸44も第2ディスク40と同じ正方向(Al’)に回転する。
【0060】
このとき、第2ディスク40(出力軸44も同じ)の回転数R2はRm×(Sf/S2)となり、回転トルクT3は、Tm×(S2/Sf)になる。
【0061】
図5に示す領域d(
図9)では、第1球状転動体50がフリーディスク対向面31の外周側、第2球状転動体52が第2ディスク40の内周側に位置するから、Sf>S2となり、第2ディスク40の回転数R2は、フリーディスク30(第1ディスク20)の回転数R1よりも大きく、トルクT3はTmよりも小さくなる。
【0062】
領域dと領域eの境界位置(Sf=S2)では、第2ディスク40は、第1ディスク20と同じ向きの正方向に回転するが、その回転数、回転トルク共にフリーディスク30(第1ディスク20)と同じ値になる。
【0063】
逆に、
図10に示す第1球状転動体50がフリーディスク対向面31の内周側、第2球状転動体52が第2ディスク40の外周側となる領域e(
図5)では、Sf<S2であるから、第2ディスク40の回転数R2は、フリーディスク30(第1ディスク20)の回転数R1よりも小さく、トルクT3はTmよりも大きくなる。
【0064】
上記のように、本発明の無段変速機10によれば、球状転動体50,52とディスク20,30,40との接触位置を調整するだけで、入力軸24から出力軸44に伝達される動力の回転方向や変速比、回転トルクを自在に変化させることができる。
【0065】
また、無段変速機10は、ディスク20,30,40と球状転動体50,52、球状転動体50,52を保持するホルダー54及びホルダー移動手段55により構成することができるから、構成が簡便であり、また、メンテナンス性にもすぐれる。
【0066】
上記構成の無段変速機10を具えた駆動機構60は、
図1に示すように、中央制御装置(CPU90を主体として構成される)によって制御される。CPU90には、駆動機構60のすべての制御のためのプログラムや設定を記憶するROMやRAMなどの記憶手段(図示せず)が接続されている。
【0067】
CPU90は、操作部91に電気的に接続されており、操作部91からの操作に基づいて、駆動源61の出力及び回転数を制御すると共に、無段変速機10のホルダー移動手段55(アクチュエーター)の伸縮を制御して、無段変速機10の変速比及び動力伝達方向を制御する。また、無段変速機10の入力軸24には、回転数やトルクを検出する検出器92が配備されており、その検出値は、CPU90に送信される。
【0068】
また、蓄積部70には、蓄積部70に蓄積されているエネルギー(回生エネルギーを含む)を検出するセンサー93が配備されており、その検出値は、CPU90に送信される。
【0069】
そして、CPU90は、各軸の回転数、トルク、蓄積部70の蓄積エネルギー量を把握し、操作部91からの操作及びセンサー93から蓄積部70のエネルギー蓄積状況を比較部94にて比較し、ホルダー移動手段55及び駆動源61を制御する。
【0070】
上記構成の駆動機構60の基本的な動作は以下のとおりである。
【0071】
駆動源61を作動させることにより、駆動軸62が回転し、駆動軸62に接続されたゼンマイバネ71が内端側から巻き込み方向に巻回されて、蓄積部70にエネルギーが蓄積される。なお、蓄積部70に蓄えられたエネルギーが最大となったことがセンサー93によって検知されると、CPU90は、駆動源61を停止させるよう制御する。この制御は、以下の何れの場合であっても同様である。
【0072】
そして、蓄積部70に蓄積されたエネルギー(回生エネルギーを含む)は、無段変速機10を通じて負荷80を駆動させる。たとえば、負荷80を駆動させる場合には、操作部91が操作(アクセル操作)されることで、CPU90は、センサー93によって検知された蓄積部70に蓄積されたエネルギーと必要な動力を比較部94にて算出し、無段変速機10の回転数やトルクを検出器92で検出しつつ、負荷80に最適な駆動力供給ができるようにホルダー移動手段55を伸縮させる。これにより、蓄積部70から無段変速機10を介して負荷80に回転力が伝達され、負荷80が加速又は減速する。
【0073】
負荷80が駆動している状態で、駆動源61を作動させておくことにより、駆動軸62の回転数が、入力軸24の回転数よりも大きければ、蓄積部70に追加のエネルギーが蓄積される。また、駆動軸62と入力軸24の回転数が同じであれば、蓄積部70には追加のエネルギーが蓄積されることなく一定に保持される。さらに、駆動軸62の回転数が、入力軸24の回転数よりも小さい又は停止すれば、駆動源61の動力と蓄積部70のエネルギーが負荷80で消費されることになり、蓄積部70に蓄積されているエネルギーは減少することになる。
【0074】
一方、負荷80を減速させる場合には、操作部91が操作(ブレーキ操作)されることで、ホルダー移動手段55を操作して、負荷80の制動力を無段変速機10を介して蓄積部70に伝達することにより、ゼンマイバネ71が巻き込み方向に巻回されて、回生エネルギーが蓄積部70に蓄積される。このとき、CPU90は、無段変速機10の回転数やトルクを検出器92で検出し、また、センサー93にて蓄積部70に既に蓄積されているエネルギー量を参照して、最適に回生エネルギーを蓄積部70に蓄積できるよう制御する。
【0075】
具体的には、負荷80がタイヤである移動体の走行について考えると、以下のごとく制御される。
【0076】
(1)停止状態から前進加速する場合
停止状態は第1ディスク20がブレーキ手段によってロック状態の
図6の位置cにある状態である。この状態から、負荷80に与える必要トルクは、人的操作の程度に合わせた演算をCPU90が行ない、ホルダー移動手段55を通じて球状転動体50,52の位置を決める。この際、第1ディスク20のブレーキ手段を解除してロックを外し、位置cから領域a(
図5、
図7)、領域b(
図5、
図8)の方向に移動させる(
図11のα:前進駆動モード)。人的操作で加速度の程度に違いがあるが、急加速の操作があればCPU90の判断でトルクの強い領域a側に第1球状転動体50及び第2球状転動体52を移動させる。
【0077】
(2)加速から定速にする場合
自然減速分のエネルギーロスを駆動源61及び蓄積部70から負荷80に対して補充し続ける必要がある。即ち、走行中に負荷80にはエネルギーロス(消費分)に相当する動力を供給しなければならない.これは、微弱な加速モードになる。
【0078】
(3)定速から減速する場合
図5に示す領域b(
図8)から領域d(
図9)に球状転動体50,52を移動させることで、第1球状転動体50がフリーディスク30と当接し、負荷80の回転方向が逆方向のモーメントが働き、減速する(
図11のα→β:後進駆動モード)。
【0079】
減速量が人的操作による減速動作の程度によるが、蓄積部70に対して逆回転動作、すなわち、ゼンマイバネ71を締め付ける方向になる。ここで、負荷80側に蓄積部70のゼンマイバネ71の出力トルクに勝るトルクを蓄積部70に与える必要がある。無段変速機10による最適な変速値をCPU90が演算し調整指示を出す。
【0080】
(4)減速から停止する場合
通常の減速が領域dの位置から、緩やかな減速の場合にはCPU90の判断であるが、第1球状転動体50及び第2球状転動体52はC点(位置c)に向かう(
図11のβ→γ:前進減速、停止)。しかしながら、急減速の場合には
図5の領域d(
図9)のまま、第1球状転動体50がフリーディスク30の回転中心Ofに近づくことで負荷80は停止状態となる。
【0081】
ここで、停止直前に第1球状転動体50及び第2球状転動体52は
図6の位置cに戻り、蓄積部70から見て出力への動力伝達はないため、第1ディスク20又はフリーディスク30をブレーキ手段によってロックする必要がある。この一連の動作は全て演算結果によりCPU90が判断して実行する。
【0082】
(5)停止から後進加速する場合
ブレーキ手段によるすべてのロックを外して第1球状転動体50を
図6の位置cから徐々に
図5の領域d(
図9)に移動させる(
図11のε:後進駆動モード)。人的操作により、後進のアクセルの値に応じた制御は行なう。
【0083】
なお、高速の加速後進はないとすれば、
図5の領域e(
図10)まで移動させる必要はない。
【0084】
(6)後進加速から後進定速の場合
第1球状転動体50は
図5の領域d(
図9)に位置し、上記した(2)と同じ考え方でエネルギーロス分の供給をCPU90が判断して位置調整を行なう。
【0085】
(7)後進定速から後進減速する場合
図5の領域d(
図9)から領域b(
図8)に第1球状転動体50を移動させる。領域bは、上記した(2)のモードであるが、移動体の後進運動エネルギーを蓄積部70に逆流蓄積することで後進減速となる(
図11のε→δ:前進駆動モード)。
【0086】
(8)後進減速から停止する場合
上記(7)の前進モードで後進運動エネルギーが尽きることは、移動体の停止を意味し
図6の位置cで停止する(
図11のδ→ζ:後進減速、停止)。このとき、CPU90は第2ディスク40をブレーキ手段によってロックする必要がある。
【0087】
(9)前進の加速中の加速
(1)における加速中に、さらなる加速を行なうには、領域a又は領域bのから第1球状転動体50を第1ディスク20の回転中心O1により接近させればよい。但し、第1球状転動体50が回転中心O1と重なると、蓄積部70から見て無負荷状態になってしまうため、第1球状転動体50は回転中心O1までは移動させない。
【0088】
(10)前進中に急減速する場合
図5の領域a又は領域bから領域c又は領域dに第1球状転動体50を移動させる。これは、後進モードになることで、移動体の慣性運動エネルギーが蓄積部70に対して逆トルクとして作用し(ゼンマイバネ71の締め付け動作)、これにより、移動体の運動エネルギーを蓄積部70に回生エネルギーとして移すことができる。このとき、第1球状転動体50がフリーディスク30の回転中心Ofに近づくほど、急激な減速になり、大きな回生エネルギーが蓄積部70に蓄積される。この場合も、人的操作による急減速情報と移動体の速度からCPU90が演算を行ない、第1球状転動体50及び第2球状転動体52の適切な位置を調整すればよい。
【0089】
(11)前進急減速から停止に至る場合
第1球状転動体50を上記の領域d又は領域eからフリーディスク30の回転中心Of方向に移動させることで、移動体が停止する。第1球状転動体50及び第2球状転動体52を
図6の位置cに移動させることで、(4)と同様初期状態に戻る。
【0090】
上記のように、球状転動体50,52の位置を調整するだけで、負荷80の回転数や回転トルク、回転方向を自在に制御でき、移動体の前進、後進等を行なうことができる。また、蓄積部70にエネルギー(回生エネルギーを含む)を蓄積し、また、このエネルギーを放出することで、エネルギーを有効に活用できると共に、駆動源61の出力を補助できるから、駆動源61の小型化を図ることができるなど種々の利点がある。
【0091】
上記説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或いは範囲を限縮するように解すべきではない。また、本発明の各部構成は、上記実施例に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【0092】
たとえば、上記実施形態では、球状転動体は、第1球状転動体50と第2球状転動体52の2つであるが、3つ以上とすることもできる。この場合、球状転動体の数が偶数であれば、駆動軸62(入力軸24)と出力軸44の回転方向は上記説明どおりであるが、球状転動体の数が奇数であれば、駆動軸62(入力軸24)と出力軸44の回転方向は、上記とは逆になる。
【0093】
また、上記実施形態では、第1球状転動体50と第2球状転動体52の直径は同じであるが、これらの直径を変えても構わない。
【0094】
さらに、上記実施形態では、第1ディスク20及びフリーディスク30を駆動側、第2ディスク40を負荷側としているが、第1ディスク20及びフリーディスク30を負荷側、第2ディスク40を駆動側に配置しても構わない。