(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6872252
(24)【登録日】2021年4月21日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】ラウドスピーカ
(51)【国際特許分類】
H04R 1/24 20060101AFI20210510BHJP
【FI】
H04R1/24 Z
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2018-511538(P2018-511538)
(86)(22)【出願日】2016年5月12日
(65)【公表番号】特表2018-516032(P2018-516032A)
(43)【公表日】2018年6月14日
(86)【国際出願番号】IB2016052746
(87)【国際公開番号】WO2016181346
(87)【国際公開日】20161117
【審査請求日】2019年4月18日
(31)【優先権主張番号】2015118053
(32)【優先日】2015年5月14日
(33)【優先権主張国】RU
(73)【特許権者】
【識別番号】517396294
【氏名又は名称】ボグスラフスキー,エフゲニー
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヤーネビチェス,ローランデス
【審査官】
冨澤 直樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−070092(JP,A)
【文献】
特開2007−180980(JP,A)
【文献】
特開2011−018998(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0182440(US,A1)
【文献】
米国特許第06801631(US,B1)
【文献】
米国特許第06961438(US,B1)
【文献】
米国特許第04165797(US,A)
【文献】
実開昭47−019027(JP,U)
【文献】
米国特許第5781645(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0182449(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/00−1/02
H04R 1/20−1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1周波数範囲で音声を放出するようにデザインされている少なくとも3つの第1音声放出ヘッド(11)と、第2周波数範囲で音声を放出するようにデザインされている少なくとも1つの第2音声放出ヘッド(13)とを含んでいるラウドスピーカであって、
前記第1音声放出ヘッドは、仮想正多角形の頂角部にて互いに接近した状態で配置されており、それら頂角部の数は第1音声放出ヘッドの数と等しく、
前記第2音声放出ヘッドは、前記仮想正多角形の幾何中心に接近した位置に配置されており、
前記第1音声放出ヘッド(11)の各々は、膨出側が聴者の方向に配向された円錐形ディフューザ(14)を有しており、各第1音声放出ヘッドの音声放出軸は、前記仮想正多角形の中心を通過する垂線に対して角度(α)で傾斜しており、その角度(α)は5°から25°であり、
前記少なくとも3つの第1音声放出ヘッド(11)の音声放出軸は、当該ラウドスピーカの前方の空間内の単一の1点に収束するよう当該単一の1点に向けられている、ことを特徴とするラウドスピーカ。
【請求項2】
前記第1音声放出ヘッドの数は4である、請求項1に記載のラウドスピーカ。
【請求項3】
前記第1音声放出ヘッドは円形開口部を有している、請求項1に記載のラウドスピーカ。
【請求項4】
前記第1周波数範囲は1000Hzまでである、請求項1に記載のラウドスピーカ。
【請求項5】
前記第2周波数範囲は400Hz以上である、請求項1に記載のラウドスピーカ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は音声再生装置の分野に関し、特にはラウドスピーカ(拡声式又は大音量のスピーカ)に関する。
【背景技術】
【0002】
それぞれ特定の周波数範囲の音声を再生するようにデザインされている複数の音声放出ヘッド(スピーカヘッド)を含んだラウドスピーカ、例えば、1つが低周波用、1つが中周波用、そして1つが高周波用である3つの音声放出ヘッドを使用するレーディオテクニカ製のAC−35ラウドスピーカの使用は知られている。そのようなラウドスピーカの弱点は低感度、大きな位相歪み、および不均等な有角音響出力である。
【0003】
ドナルド・J・ノースによる特許文献1に記述されている装置が知られており、これは、正方形の角部に位置する4つの低周波音声放出ヘッドと、それらの間に位置するさらに高い周波数範囲の追加のヘッドを使用する。
【0004】
そのようなラウドスピーカの弱点はクロスオーバ(交差)周波数での不均等な有角音響出力である。
【0005】
本願の技術的解決策に最も近いのは、クラウス・ハワードによる特許文献2の明細書に開示されている装置である。この装置は、少なくとも1つの高周波音声放出ヘッドと、その高周波音声放出ヘッドに対して対称的に1平面内に位置する複数の低周波音声放出ヘッドとを含んでいる。
【0006】
そのようなラウドスピーカの弱点はクロスオーバ周波数での不均等な有角音響出力である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6801631号明細書
【特許文献2】米国特許第4885782号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的の一つはそのような有角音響出力の特性の不均等性を減少させ、ラウドスピーカの音響の質を高めることにある。
【0009】
本発明の他の目的は、ラウドスピーカのバンド数を減らし、位相歪みを減少させ、ラウドスピーカのハウジングの縦方向と横方向の共鳴を低減し、ラウドスピーカのボリュームディスプレースメント(押し退け量)を増加させ、ラウドスピーカの感度と音響出力を増加させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1周波数範囲で音声を放出するように設計されている少なくとも3つの音声放出ヘッドと、第2周波数範囲で音声を放出するように設計されている少なくとも1つの第2音声放出ヘッドとを含んだラウドスピーカによってそのような技術的結果は達成され、これら第1音声放出ヘッドは互いに接近して、第1音声放出ヘッドの数に等しい角部数を有した仮想正多角形(virtual regular polygon)の頂角部に存在しており、この第2音声放出ヘッドは、その仮想多角形の幾何的中心に接近して存在する。それら第1音声放出ヘッドは、それらの膨出側(convex side)またはテーパ端部が聴者側に配向されている円錐形ディフューザ(拡音声装置)を有しており、第1音声放出ヘッドの放出軸は上記多角形の中心を通過する垂線に対して角度(α)で傾斜しており、その角度(α)は5°から25°の範囲である。
【0011】
低周波音声放出ヘッドのそのような構成はまず、それぞれの音響中心部を互い方向に接近させている。それら音声放出ヘッドの音響中心部の相互接近は、クロスオーバ周波数を増加させ、有角音響出力の歪みを減らし、ディフューザ上の音響負荷を増加させることを可能にする。ディフューザへの音響負荷の増加は信号の高周波成分の抑制に導き、信号の周波数分割における一次フィルタの使用を可能にし、さらに、それらフィルタによって導入される位相歪みを低減させる。続いて、音声放出ヘッドのこの構成は音声放出点音源にラウドスピーカの音声放出を接近させ、全方向での特性の均質性に貢献する。
【0012】
第1音声放出ヘッドの数が3であること、あるいは、さらに好適には4であることが望ましい。そのような数の音声放出ヘッドでは、それらの音響中心部は互いに十分に接近しており、よって、ラウドスピーカの音声放出は音声放出点音源に接近しており、音声放出の空間特性の均質性が改善される。
【0013】
好適には、第1音声放出ヘッドの音声放出軸は1点に向かって方向付けられている。これで、音波の集中性が改善され、信号の歪みが減少する。
【0014】
第1音声放出ヘッドとして丸形開口部を備えたラウドスピーカヘッドを使用することが便利である。
【0015】
好適には、第1周波数範囲の上限は1000Hzを超えない。第2周波数範囲の下限は400Hz以上から選択される。そのような周波数範囲では、周波数範囲間のインターフェースは400Hzから800Hzであり、聴覚には最低限の影響を及ぼすだけである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明ラウドスピーカの一般的外観である。
【
図2】
図2は、本発明ラウドスピーカの側面図である。
【
図3】
図3は、本発明ラウドスピーカの正面図である。
【
図4】
図4は、従来型ラウドスピーカの概略図である。
【
図5】
図5は、本発明ラウドスピーカの概略図である。
【
図6】
図6は、従来型ラウドスピーカの周波数応答である。
【
図7】
図7は、本発明ラウドスピーカの周波数応答である。
【
図8】
図8は、本発明ラウドスピーカの別実施例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1から
図3に図示するラウドスピーカは、46cmの直径を有した4つの低周波音声放出ヘッド(11)を含んでいる。これら音声放出ヘッドは互いに接近した状態で、ラウドスピーカの中心部に対して12°傾斜して剛体フレーム(12)に取り付けられている。低周波音声放出ヘッド(11)間のスペースにはブロードバンド音声放出ヘッド(13)が設置されている。低周波音声放出ヘッド(11)は、膨出側が聴者の方向に配向された円錐形ディフューザ(14)を有する。従って、このラウドスピーカは音響方向性システムである。
【0018】
そのラウドスピーカは円錐形ディフューザを備えた低周波音声放出ヘッドを使用する。そのような音声放出ヘッドでは音響中心部(15)、すなわち音声放出中心部は、原則としてディフューザの円錐体内でその狭い部分近辺に、しばしばディフューザの開口部、すなわち、円錐体の広い端部から相当に離れて位置している。聴者に向かう開口部を備えた音声放出ヘッドの従来の構成では、音響中心部(15)はその開口部の後方に位置する。従って、音声放出ヘッドが傾斜して、それらの音声放出軸が聴者の方向に向けられたときに、それらの音響中心部(15)間の距離Aは増加する。しかしラウドスピーカのさらに良い性能のためには、隣接する音声放出ヘッドの音響中心部(15)間の距離は可能な限り小さいことが望ましい。従来型のラウドスピーカでは、この距離Dを音声放出ヘッドの直径より小さくすることはできない。本発明のラウドスピーカでは距離Aは直径より短い。なぜなら、その音声放出ヘッドがラウドスピーカの中心部に向かって傾斜していると、それらの音響中心部(15)は互い方向に接近するからである。
【0019】
40Hz未満の低周波数での圧力レベルもディフューザの直径に依拠する。このラウドスピーカでは、16cm以上の直径の音声放出ヘッドを使用することが推奨される。
【0020】
低周波数音声放出ヘッド(11)のそのような構成は、それらの音響中心部(15)を互いに接近させることを可能にする。音声放出ヘッド(11)の音響中心部の相互接近は、クロスオーバ周波数を増加させ、有角音響出力の歪みを低減し、ディフューザの音響負荷を増加させることができる。ディフューザへの音響負荷の増加は、信号の高周波成分の抑制に導き、クロスオーバにおいて一次フィルタの使用を可能にし、それらフィルタによって導入される位相歪みを減少させる。
【0021】
本発明のラウドスピーカは次のように機能する。再生された信号は500Hzの分離周波数で活性クロスオーバを通過し、続いて増幅され、それぞれの音声放出ヘッドにフィードされる。
【0022】
比較のため、2つのラウドスピーカが、46cmの直径の4つの同じ低周波数音声放出ヘッドから、高周波音声放出ヘッドを使用することなく製造された。一方は従来デザインのラウドスピーカであり、他方は本発明のラウドスピーカであった。
図5には高周波音声放出ヘッドのない本発明のラウドスピーカの概略図が図示されており、
図4には中央部に対する傾斜なく1平面に取り付けられた同じ4つの低周波音声放出ヘッドを含んだ従来構造のラウドスピーカが概略的に図示されている。この場合、音声放出ヘッドの音響中心部間の最少可能距離Aは音声放出ヘッドの直径と等しくなっている。
【0023】
図6と
図7には、ラウドスピーカの軸に対して35°にて測定された中心部から2mの距離におけるFRF(周波数共鳴関数)が示されている。グラフに示されているように、本発明のラウドスピーカの周波数応答はその範囲の最上部においてさらに均等である。周波数応答の均等性の増加はラウドスピーカバンドの数を減らし、音声放出ヘッドの周波数範囲のさらにスムーズなマッチングに貢献する。
【0024】
さらに均質な有角FRFの特性は、このデザインの大型音声放出ヘッドの使用を可能にし、ラウドスピーカ全体のボリュームディスプレースメント、感度および音響出力の増加を可能にする。
【0025】
音声放出ヘッドの本発明の構成はラウドスピーカの音声放出を点音源からの音声放出に接近させ、全方向での特性の均等性に貢献する。
【0026】
ハウジングおよび平行面が存在しないことで、ラウドスピーカのハウジングの寸法要素に関与する共鳴周波数の発生は最小限に抑えられる。
【0027】
図8に図示する3つの低周波音声放出ヘッドを備えたラウドスピーカの一実施例は、低周波音声放出ヘッドの数においてのみ
図1から
図3に図示するラウドスピーカとは異なっている。3つの音声放出ヘッドを備えたラウドスピーカでは、音声放出ヘッドの音響中心部は4つの音声放出ヘッドを備えたラウドスピーカよりも互いに接近しており、ラウドスピーカの空間特性を改善しているが、低周波数でのその音声放出出力は多少低下している。
【0028】
本発明は家庭での音声再生と音声スタジオでの音声再生の両方で使用が可能である。
【符号の説明】
【0029】
11 低周波数音声放出ヘッド(第1音声放出ヘッド)
12 剛体フレーム
13 ブロードバンド音声放出ヘッド(第2音声放出ヘッド)
14 円錐形ディフューザ
15 音響中心部
A (音響中心部15間の)距離(最少可能距離)