特許第6872316号(P6872316)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6872316
(24)【登録日】2021年4月21日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】プロペラシャフト用ダイナミックダンパ
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/10 20060101AFI20210510BHJP
   B60K 17/22 20060101ALI20210510BHJP
   F16F 15/22 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   F16F15/10 B
   B60K17/22 Z
   F16F15/22 A
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-54972(P2016-54972)
(22)【出願日】2016年3月18日
(65)【公開番号】特開2017-166661(P2017-166661A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2019年2月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(72)【発明者】
【氏名】龍 佳久
【審査官】 竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−079626(JP,A)
【文献】 特開2007−092934(JP,A)
【文献】 特開平09−164854(JP,A)
【文献】 特開2000−240725(JP,A)
【文献】 特開2001−280420(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/00−15/36
B60K 17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面にゴム弾性体からなる弾性層が設けられたスリーブと、このスリーブの内周に同心的に配置した円柱状の質量体との間を、円周方向複数箇所に配置したゴム弾性体からなる弾性支持部材によって弾性的に連結してなる構造を備え、前記スリーブに、前記弾性支持部材の外径側の端部と接続する複数の開口部が形成され、前記弾性支持部材と前記外周面において前記開口部より大きくひろがった前記弾性層が、前記開口部を通じて互いに連続しており、
前記開口部と前記質量体の外周側面とが前記質量体の径方向直上に重なるように、前記開口部の軸方向位置が設定され、
前記弾性支持部材は、前記開口部と前記質量体の前記外周側面との間を径方向にのびる支持部を含み、
前記支持部は、前記開口部の軸方向の径の大きさと同じ程度の軸方向厚さを持つように構築されたプロペラシャフト用ダイナミックダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のプロペラシャフトの内周に取り付けられて、このプロペラシャフトに発生する振動や騒音を抑制するダイナミックダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジンからトランスミッションを介して出力される駆動力を後輪に伝達するプロペラシャフトの曲げ振動(軸直角方向の振動)や騒音を低減するため手段として、従来から、例えば図4に示すように、外周面にゴム弾性体からなる弾性層104が形成された金属製のスリーブ101と、このスリーブ101の内周に同心的に配置した金属製の質量体102との間を、円周方向複数箇所に配置したゴム弾性体からなる弾性支持部材103によって弾性的に連結してなる構造を備え、外周の弾性層104をもって中空のプロペラシャフトの内周に圧入嵌着されるダイナミックダンパ100が知られている(例えば下記の先行技術文献参照)。
【0003】
すなわちこの種のダイナミックダンパ100は、プロペラシャフトに軸直角方向への振動が発生すると、その振幅が最も増大する周波数帯域で、弾性支持部材103をばねとし質量体102を質量とするばね−質量系が共振し、その振動波形の位相が入力振動と逆位相となる動的吸振作用によって、入力振動の振幅のピークを低減するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−164854号公報
【特許文献2】特開平9−11762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、この種のダイナミックダンパ100において、スリーブ101は、プロペラシャフトの内周面への固定力を確保するために必要な剛性を有するものであり、その外周にゴム弾性体で形成された弾性層104は、プロペラシャフトの内径寸法のばらつきを吸収して、ある程度の締め代をもってプロペラシャフトの内周面に圧接することによりダイナミックダンパ100をしっかり取り付けるための固定力を得るものである。しかしながら、例えば弾性支持部材103の耐久性を高めるために、弾性支持部材103の径方向長さLを長く設定する場合は、スリーブ101を大径にする必要があり、その分、弾性層104の径方向肉厚Tを減少させることになるため、プロペラシャフトの内径寸法のばらつきに対する追随性が悪化してしまう。
【0006】
すなわち、ダイナミックダンパ100をプロペラシャフトに圧入する際に、このプロペラシャフトの内周面とスリーブ101の外周面との間で弾性層104が径方向に挟圧されることから、プロペラシャフトの内径寸法のばらつきによっては、弾性層104の圧縮率が過大となってプロペラシャフトへの取り付けの作業性が悪化してしまい、あるいは逆に、弾性層104の圧縮率が過小となって固定力が不足してしまう可能性がある。
【0007】
また、弾性支持部材103は、成形後の体積収縮によって内部に引っ張り応力が生じているため、使用時に何らかの原因でわずかな損傷や亀裂を生じただけで、動的吸振作用によって弾性支持部材103が大きく変形した時などに破断してしまうおそれがある。弾性支持部材103の成形収縮による引っ張り応力を解消するには、例えばスリーブ101の絞り加工などによって弾性支持部材103に径方向の予圧縮を与えることが有効であるが、図4に示す例のように、スリーブ101の外周に弾性層104が形成されたものは、スリーブ101の絞り加工による予圧縮を与えることはできず、弾性支持部材103の耐久性を向上させることが困難であった。
【0008】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題は、プロペラシャフトの内周に組み込まれるダイナミックダンパにおいて、プロペラシャフトの内径寸法のばらつきに対する良好な追随性と、弾性支持部材の良好な耐久性を確保することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した技術的課題を解決するための手段として、本発明に係るプロペラシャフト用ダイナミックダンパは、外周面にゴム弾性体からなる弾性層が設けられたスリーブと、このスリーブの内周に同心的に配置した質量体との間を、円周方向複数箇所に配置したゴム弾性体からなる弾性支持部材によって弾性的に連結してなる構造を備え、前記スリーブに、前記弾性支持部材の外径側に位置する複数の開口部が形成され、前記弾性支持部材と前記外周面において前記開口部より大きくひろがった前記弾性層が、前記開口部を通じて互いに連続しており、
前記開口部と前記質量体の外周側面とが前記質量体の径方向直上に重なるように、前記開口部の軸方向位置が設定され、
前記弾性支持部材は、前記開口部と前記質量体の前記外周側面との間を径方向にのびる支持部を含み、
前記支持部は、前記開口部の軸方向の径の大きさと同じ程度の軸方向厚さを持つように構築されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るプロペラシャフト用ダイナミックダンパによれば、プロペラシャフトへの圧入によって圧縮される弾性層の一部がスリーブの開口部を通じて内径側へ変形することによって、弾性層の圧縮率が緩和されるため、内径寸法のばらつきに対する追随性が向上し、しかも弾性層の一部がスリーブの開口部を通じて内径側へ変形することでその内径側に位置する弾性支持部材が予圧縮されるため、弾性支持部材の成形収縮が解消されて耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係るプロペラシャフト用ダイナミックダンパの好ましい実施の形態を、軸心方向から見た正面図である。
図2図1におけるII−II線断面図である。
図3】本発明に係るプロペラシャフト用ダイナミックダンパの好ましい実施の形態において用いられるスリーブの斜視図である。
図4】従来のプロペラシャフト用ダイナミックダンパの一例を、軸心方向から見た正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るプロペラシャフト用ダイナミックダンパの好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1及び図2に示す実施の形態のダイナミックダンパ10は、外周面に弾性層14が設けられたスリーブ11と、このスリーブ11の内周に同心的に配置した金属製の質量体12との間を、円周方向等間隔で複数箇所(図示の例では5箇所)に配置した弾性支持部材13によって弾性的に連結してなる構造を備える。
【0014】
スリーブ11は、例えば金属からなるものであって、装着対象の不図示のプロペラシャフトの内径より適宜小径の円筒状をなしており、各弾性支持部材13と等位相上に位置して、複数箇所(図示の例では5箇所)に、図3に示すような円形の開口部11aが開設されている。また、質量体12は、例えば金属からなるものであって、円柱状に形成されている。
【0015】
弾性支持部材13は、ゴム弾性体(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)からなるものであって、それぞれ半径方向へ延びており、その外径端部はスリーブ11に一体的に加硫接着され、その内径端部は質量体12に一体的に加硫接着されている。また、弾性支持部材13の外径端部から延びる外周ゴム膜部13aが、スリーブ11の内周面を覆うように形成されており、弾性支持部材13の内径端部から延びる内周ゴム膜部13bが、質量体12の外周面を覆うように形成されている。
【0016】
弾性層14は弾性支持部材13と同じゴム弾性体からなるものであって、装着対象の不図示のプロペラシャフトの内周面に対して適度な締め代を有するように、プロペラシャフトの内径よりわずかに大径の円筒状をなしてスリーブ11の外周面に一体的に加硫接着されている。そして各弾性支持部材13と弾性層14は、スリーブ11の開口部11aを通じて互いに連続している。
【0017】
上記構成を備えるダイナミックダンパ10は、不図示の金型内に、スリーブ11及び質量体12を互いに同心的に位置決めしてセットし、型締めして、スリーブ11と質量体12の間及びスリーブ11の外周側に金型によって画成されたキャビティ内に、未加硫ゴム材料を充填して加熱・加圧することによって、弾性支持部材13及び弾性層14の加硫成形と同時にスリーブ11及び質量体12に加硫接着することによって製造される。
【0018】
詳しくは、スリーブ11は、金型内へセットする際に、各開口部11aが各弾性支持部材13を成形するキャビティと略同位相となるように円周方向へ位置決めされる。また、金型における未加硫ゴム材料の注入ゲートは、各弾性支持部材13を成形するキャビティに開口している。すなわち図示の例では、円周方向5か所に注入ゲートが存在する。なお、図1及び図2における参照符号13cは、注入ゲートの存在により形成された成形痕である。
【0019】
したがって、各注入ゲートから注入される未加硫ゴム材料は、各弾性支持部材13を成形するキャビティへ充填された後、スリーブ11の各開口部11aを通ってスリーブ11の外周側のキャビティへ流入して互いに合流しながら充填され、未加硫ゴム材料が円滑に賦形される。このため、スリーブ11の内周側と外周側の間の射出圧差が生じにくく、その結果、スリーブ11の変形が防止され、スリーブ11の外周側に成形される弾性層14の厚みのばらつきや真円度の誤差の発生も抑制されるので、寸法精度の高いダイナミックダンパ10が得られる。
【0020】
そしてこのダイナミックダンパ10は、不図示のプロペラシャフトの内周における所定の位置へ圧入嵌着することにより装着されるものであって、装着状態において、弾性支持部材13をばねとし、質量体12を質量とするばね−質量系の軸直角方向の共振周波数は、プロペラシャフトの曲げ振動(軸直角方向の振動)の振幅が最も増大する周波数帯域となるように同調されているので、プロペラシャフトに、回転に伴い軸直角方向への振動が発生すると、このような周波数帯域で弾性支持部材13と質量体12からなるばね−質量系が共振し、その振動波形が入力振動と逆位相となる動的吸振作用によって、入力振動の振幅のピークを低減し、プロペラシャフトの振動及び騒音を有効に低減することができる。
【0021】
プロペラシャフトの内周へダイナミックダンパ10を圧入する際には、弾性層14が、プロペラシャフトの内周面とスリーブ11の外周面との間で、締め代の分だけ径方向への圧縮を受けるが、この弾性層14を構成するゴム弾性体の一部に、スリーブ11の各開口部11aから各弾性支持部材13側への逃げを生じるため、弾性層14の圧縮率が緩和され、プロペラシャフトの内径寸法のばらつきに対する追随性が向上する。すなわちプロペラシャフトの内径寸法が、誤差によって設計値よりわずかに小さい場合に、弾性層14の圧縮率が過大となってプロペラシャフトへの圧入作業性が悪化するのを抑制し、あるいは逆に、プロペラシャフトの内径寸法が、誤差によって設計値よりわずかに大きい場合に、弾性層14の圧縮率が過小となって固定力が不足してしまうのを抑制することができる。
【0022】
また、プロペラシャフトの内周への圧入過程で、弾性層14のゴム弾性体の一部が、圧縮応力によってスリーブ11の開口部11aを通じて内径側へ変形することによって、開口部11aの内径側に位置する弾性支持部材13が予圧縮されるため、弾性支持部材13の成形後の収縮による引っ張り応力が解消される。したがって、動的吸振作用によって弾性支持部材13が大きく変形した時などに、わずかな損傷や亀裂に起因して破断してしまうのを有効に防止し、弾性支持部材13の耐久性を向上させることができる。
【0023】
また、上述のように、プロペラシャフトの内径寸法のばらつきに対する弾性層14の良好な追随性が確保されることから、スリーブ11を大径にすることによって弾性層14の径方向肉厚Tを減少させることができる。そしてその分、弾性支持部材13の径方向長さLを長く設定することができることから、これによっても、弾性支持部材13の耐久性を高めることができる。
【0024】
しかも上述のように、弾性支持部材13の予圧縮が、プロペラシャフトの内周へのダイナミックダンパ10の圧入によって行われるものであるため、ダイナミックダンパ10の製造過程で弾性支持部材13の予圧縮のための工程を必要とせず、したがって低コストで製造することができる。
【符号の説明】
【0025】
10 ダイナミックダンパ
11 スリーブ
11a 開口部
12 質量体
13 弾性支持部材
14 弾性層
図1
図2
図3
図4