(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6872334
(24)【登録日】2021年4月21日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】可動段部を備えたアーマチュアを有する電磁弁
(51)【国際特許分類】
F16K 31/06 20060101AFI20210510BHJP
H01F 7/16 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
F16K31/06 305J
H01F7/16 D
H01F7/16 R
【請求項の数】11
【外国語出願】
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-182763(P2016-182763)
(22)【出願日】2016年9月20日
(65)【公開番号】特開2017-96491(P2017-96491A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2019年9月3日
(31)【優先権主張番号】10 2015 218 293.2
(32)【優先日】2015年9月23日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(72)【発明者】
【氏名】ティモ,バルスケ
【審査官】
橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−108230(JP,A)
【文献】
実開昭51−163458(JP,U)
【文献】
実公昭49−007068(JP,Y1)
【文献】
実開昭52−093460(JP,U)
【文献】
実開昭58−169285(JP,U)
【文献】
実開昭57−155371(JP,U)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0204272(US,A1)
【文献】
独国特許出願公開第102006047923(DE,A1)
【文献】
実開昭56−160371(JP,U)
【文献】
実開昭56−084314(JP,U)
【文献】
実開昭52−158847(JP,U)
【文献】
特表2010−532850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12− 8/1769
8/32− 8/96
F16K 31/06−31/11
H01F 7/06− 7/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
極鉄心(2)が固定配置され、アーマチュア(3)が軸線方向に変位可能に配置されている弁スリーブ(5,6)を備えた電磁弁(1)であって、該電磁弁(1)を開弁および/または閉弁させるために、前記アーマチュア(3)を、マグネットアッセンブリ(11)によって誘導される磁力によってばね(4)の力に抗して前記極鉄心(2)のほうへ移動させるようにした前記電磁弁において、
前記アーマチュア(3)を少なくとも部分的に取り囲むアーマチュアスリーブ(12)が設けられ、該アーマチュアスリーブ(12)が前記アーマチュア(3)に対し且つ前記弁スリーブ(5)に対し相対的に軸線方向に変位可能に実施されており、
前記極鉄心(2)と前記アーマチュアスリーブ(12)との間に接触を形成可能であり、このようにして発生させた磁気短絡により前記磁力を減少させ、
前記アーマチュア(3)の閉鎖要素(9)が弁座(10)を閉鎖させる前記電磁弁(1)の第1の位置で、磁気短絡を形成不能であり、
前記弁座(10)が完全に開いて前記アーマチュア(3)が前記極鉄心(2)に当接している前記電磁弁(1)の第2の位置で、磁気短絡を形成可能であり、
前記弁座(10)が少なくとも部分的に開いて前記アーマチュア(3)が前記極鉄心(2)に当接していない前記電磁弁(1)の中間位置で、磁気短絡を形成可能である、
ことを特徴とする電磁弁(1)。
【請求項2】
前記アーマチュアスリーブ(12)が前記磁力により変位可能であることを特徴とする、請求項1に記載の電磁弁(1)。
【請求項3】
前記アーマチュア(3)が前記極鉄心(2)に接近する際、前記アーマチュア(3)が前記極鉄心(2)で係止される前に前記アーマチュアスリーブ(12)と前記極鉄心(2)との接触により前記磁気短絡を形成させることを特徴とする、請求項1に記載の電磁弁(3)。
【請求項4】
前記アーマチュア(3)と前記極鉄心(2)との所定の間隔で、前記アーマチュアスリーブ(12)と前記極鉄心(2)との接触により前記磁気短絡を形成させることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか一つに記載の電磁弁(1)。
【請求項5】
前記アーマチュアスリーブ(12)が前記アーマチュア(3)と前記弁スリーブ(5,6)との間に位置決めされていることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか一つに記載の電磁弁(1)。
【請求項6】
前記アーマチュア(3)が上部肩部(14)を有し、前記アーマチュアスリーブ(12)が、前記上部肩部(14)での係止を可能にするために段部(13)を有していることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一つに記載の電磁弁(1)。
【請求項7】
非通電静止状態での前記アーマチュア(3)の前記上部肩部(14)と前記アーマチュアスリーブ(12)の前記段部(13)との間の間隔が変位ギャップ(16)を決定し、通電時に、前記アーマチュアスリーブ(12)は、まず、前記アーマチュアスリーブ(12)の前記段部(13)が前記アーマチュア(3)の前記上部肩部(14)に当接するまで前記変位ギャップ(16)を変位させることを特徴とする、請求項6に記載の電磁弁(1)。
【請求項8】
前記アーマチュア(3)と前記弁スリーブ(5,6)との間に保持リング(15)が設けられ、該保持リングは、弁室(19)内への前記アーマチュアスリーブ(12)の通り抜けを阻止するように構成されていることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか一つに記載の電磁弁(1)。
【請求項9】
前記アーマチュアスリーブ(12)が間接的に前記アーマチュア(3)を介して前記ばね(4)と結合していることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか一つに記載の電磁弁(1)。
【請求項10】
前記アーマチュアスリーブ(12)と前記アーマチュア(3)との間に流体補償溝(18)が設けられていることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか一つに記載の電磁弁(1)。
【請求項11】
構成要素である前記アーマチュアスリーブ(12)、前記アーマチュア(3)、および前記アーマチュア(3)と前記弁スリーブ(5,6)との間に設けられる保持リング(15)が次のように構成され、且つ互いに整合しあっており、すなわち、
前記電磁弁(1)の位置Aで、前記アーマチュア(3)の閉鎖要素(9)が前記弁座(10)を閉鎖し、前記アーマチュアスリーブ(12)が前記保持リング(15)上に載置され、前記アーマチュア(3)の上部肩部(14)と前記アーマチュアスリーブ(12)の前記上部肩部(14)での係止を可能にするための段部(13)との間に当接がないように、および/または、
前記電磁弁(1)の位置Bで、前記アーマチュア(3)の前記閉鎖要素(9)が前記弁座(10)を閉鎖し、前記アーマチュア(3)の前記上部肩部(14)と前記アーマチュアスリーブ(12)の前記段部(13)との間に当接があるように、および/または、
前記電磁弁(1)の位置Cで、前記アーマチュア(3)の前記閉鎖要素(9)が前記弁座(10)を少なくとも部分的に解放し、前記アーマチュアスリーブ(12)が前記極鉄心(2)に当接し、前記アーマチュア(3)が前記極鉄心(2)に当接しないように、および/または、
前記電磁弁(1)の位置Dで、前記アーマチュア(3)の前記閉鎖要素(9)が前記弁座(10)を完全に解放し、前記アーマチュアスリーブ(12)が前記極鉄心(2)に当接し、前記アーマチュア(3)も前記極鉄心(2)に当接するように、
前記構成要素(12,3,15)が構成され、且つ互いに整合しあっていることを特徴とする、請求項1から10までのいずれか一つに記載の電磁弁(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極鉄心が固定配置され、アーマチュアが軸線方向に変位可能に配置されている弁スリーブを備えた電磁弁であって、該電磁弁を開弁および/または閉弁させるために、前記アーマチュアを、マグネットアッセンブリによって誘導される磁力によってばねの力に抗して前記極鉄心のほうへ移動させるようにした前記電磁弁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
冒頭で述べた種類の電磁弁は、技術水準から知られている。従来の電磁弁、特にたとえばアンチロックブレーキシステム(ABS)またはアンチスリップレギュレータシステム(ASRシステム)または電子安定性プログラム(ESPシステム)で使用される液圧装置用の電磁弁を
図1に図示した。電磁弁1はアクチュエータテクノロジーを有し、アクチュエータテクノロジーは、マグネットアッセンブリ11(通電可能な磁気コイル)と極鉄心2とを含み、弁スリーブ5,6内で軸線方向に変位可能なアーマチュア3に作用する。弁スリーブ5,6は、上部弁スリーブ5と下部弁スリーブ6とを備えた2部分から成る弁スリーブとして構成されていてよい。電磁弁1のバルブカートリッジは、流体アッセンブリブロック7の繰り抜き部内に位置決めされている。電磁弁1は、弁スリーブ5を介して、かしめフランジ8を用いて流体アッセンブリブロック7とかしめされている。アーマチュア3はさらに閉鎖要素9を有し、該閉鎖要素は、マグネットアクチュエータの無電流状態で弁座10に対し押し付けられる。このため、アーマチュア3は予め付勢されて弁スリーブ5,6内で保持されている。通常は、この予付勢力をもたらすために、極鉄心2とアーマチュア3との間で作用する、或いは、予め付勢された状態で保持されている圧縮ばね4、特にコイルばねが設けられる。圧縮ばね4は一端を固定配置された極鉄心2で支持され、他端を変位可能なアーマチュア3で支持されている。このため、アーマチュア3は繰り抜き部を有し、該繰り抜き部内でコイルばねが実質的に内包され、案内される。これとは択一的な実施態様では、極鉄心2も繰り抜き部を有することができ、該繰り抜き部内にコイルばねが実質的に内包され、案内される(しかし、この実施態様は
図1に図示していない)。圧縮ばね4の、繰り抜き部から突出している部分は、極鉄心2で支持され、アーマチュア3の極鉄心2側端面から極鉄心2のアーマチュア3側端面まで延在し、これら端面相互の間隔は互いに、無電流状態でいわゆるワーキングエアギャップを形成する。このワーキングエアギャップはアーマチュア3の最大に可能な変位距離を決定し、したがって電磁弁1の弁行程を決定している。電磁弁1を通電すると、アーマチュア3が上方へ移動して極鉄心2で係止されることで、極鉄心2とアーマチュア3との間のエアギャップは閉じられる。非通電状態にすると、アーマチュアは圧縮ばね4によって弁スリーブ5,6のほうへ下方に移動して、閉鎖要素9が弁座10に当接し、よって弁が閉じられる。通常は、通電すると磁力はワーキングエアギャップが小さくなるにつれて大きくなる。この大きくなる磁力推移は、電磁弁1の連続的な調整能を困難にさせる。調整能を改善させるため、漸進的ばね特性曲線を備えた圧縮ばね4を設けるか、或いは、漸進的なばね特性曲線を備えた付加的ないたばね(図示せず)を設けることが知られている。
【0003】
技術水準から、たとえば特許文献1が知られている。この文献は、マグネットアッセンブリを備えた電磁弁に関わるものであり、マグネットアッセンブリは、電磁弁を開弁および/または閉弁させるために、ガイドスリーブ内部で長手方向に可動なマグネットアーマチュアを復帰ばねの力に抗して極鉄心のほうへ移動させる。この発明によれば、長手方向に可動なマグネットアーマチュアと極鉄心とはそれぞれ少なくとも1つの段部を有し、これらの段部は互いに係合しあって押し込み段部を形成する。この場合、マグネットアーマチュア段部および/または極鉄心段部は幾何学的には次のように構成され、すなわち作動中に、マグネットアーマチュア段部と極鉄心段部との互いに補完しあっているエッジペアが常に互いに合同状態にあって、押し込み段部の係合時に、可動なマグネットアーマチュアを案内するように、構成されている。
【0004】
さらに、技術水準から特許文献2が知られている。この文献は、マグネットアッセンブリとバルブカートリッジとを備えた電磁弁に関する。この場合、磁力とばね力と流体力との推移は、アーマチュアと閉鎖要素との行程推移を介して次のように組み合わされており、すなわちアーマチュアと閉鎖要素との閉鎖位置と開口位置との間に、負の総合力勾配を持つ力平衡重心を表す少なくとも1つの他の安定な作業点を調整可能であるように、組み合わされている。
【0005】
押し込み段部は、基本的には、弁行程を介して磁力を制御する可能性を提供する。しかしながら、このことは製造精度および製造プロセスに対し高度な要求を課す。これによって比較的高いコストが生じるので、この種の弁はどの適用ケースに対しても適していない。
【0006】
さらに、アクティブな制御、すなわち弁楊程を介して通電を変化させることは、弁の運動を検知する付加的なセンサを使用してのみ可能である。これによって複雑性が増し、コストも高くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】独国特許出願公開第102006047923A1号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第102007031981A1号明細書
【発明の概要】
【0008】
これに対して、本発明による電磁弁は、該電磁弁の構成要素に作用する磁力を簡潔な構成手段によって制御することを可能にするので有利である。このアプローチは、極端な製造精度または付加的なセンサ装置を必要とすることなく、簡潔な付加的な構成要素により構造的置換することによって可能になる。
【0009】
これは、本発明によれば、請求項1に記載した構成により可能になる。本発明の更なる構成は、従属項の対象である。
【0010】
極鉄心が固定配置され、アーマチュアが軸線方向に変位可能に配置されている弁スリーブを備えた電磁弁であって、該電磁弁を開弁および/または閉弁させるために、前記アーマチュアを、マグネットアッセンブリによって誘導される磁力によってばねの力に抗して前記極鉄心のほうへ移動させるようにした本発明による電磁弁は、前記アーマチュアを少なくとも部分的に取り囲むアーマチュアスリーブが設けられ、該アーマチュアスリーブが前記アーマチュアに対し且つ前記弁スリーブに対し相対的に軸線方向に変位可能に実施されていることを特徴とする。
【0011】
従来の電磁弁はすでに背景技術の欄で説明した。本発明によれば、付加的なアーマチュアスリーブが設けられている。すなわち、弁スリーブとアーマチュアスリーブとが設けられている。アーマチュアスリーブは強磁性材料から実施され、磁場によって制御することができ、或いは、自身がこのような制御を行うことができる。アーマチュアスリーブは、たとえば完全に周回するように延在する筒状物体として実施されている。もちろん他の形状も可能であり(たとえば開口した巻回スリーブ)、および、不連続な側面も可能である。アーマチュアスリーブはアーマチュアを少なくとも部分的に取り囲んでいる。アーマチュアスリーブの内径とアーマチュアの外径とは互いに次のように整合しており、すなわちこれら両要素の間で相対的な独立した運動が軸線方向において可能になるように、整合している。このことは、アーマチュアもアーマチュアスリーブも弁スリーブ内部で可動であることを意味している。弁スリーブ内部での両構成要素の独立した鉛直運動も少なくとも制限的に可能になる。両構成要素の軸線方向への変位能は、もちろんこれら構成要素または他の構成要素の構造的形成およびこれから生じる制約によってある程度制限することができる。付加的な構成要素であるアーマチュアスリーブと、該アーマチュアスリーブの可能な軸線方向変位能とにより、アーマチュアに対する、または、弁スリーブに対するアーマチュアスリーブの独立した運動も可能にできるので有利である。これにより、発生して構成要素に作用する磁力の制御を得ることができる。
【0012】
好適な更なる構成では、電磁弁は、発生させた磁力によりアーマチュアスリーブが変位可能であることを特徴としている。
【0013】
すでに述べたように、アーマチュアスリーブは有利には強磁性材料から実施されており、それ故発生させた磁場を用いて応答させることができる。弁のマグネットアッセンブリを通電することにより、すなわちマグネットコイルを通電することにより、弁内に磁気回路が生じる。この磁気回路は、強磁性要素に磁力を発生させる。これにより、たとえば、アーマチュアを、作用しているばね力と流体力とに抗して閉弁位置から開弁位置へもたらすことができる。すなわち、弁座から極鉄心の方向へ移動させることができる。有利には、磁力はアーマチュアスリーブにも作用する。マグネットアッセンブリを所定どおりに通電すると、アーマチュアスリーブは、発生する磁場によって起動されて極鉄心方向へ移動する。その際、アーマチュアスリーブはばね力によるダイレクトな作用を受けない。さらに、少なくとも制限的に、アーマチュアスリーブとアーマチュアとの間で独立した軸線方向運動が可能である。それ故、出発位置では、アーマチュアに作用しているばね力もアーマチュアスリーブに作用しない。それ故アーマチュアスリーブの運動は、ばね力で付勢されているアーマチュアよりも小さな電流強さで行われる。すなわちアーマチュアスリーブの運動は、すでに、アーマチュアの運動よりも早期に行われる。アーマチュアの運動がスタートするときにはすでにアーマチュアスリーブは完全に偏位している。なお、誘導された磁力という記載と、発生させた磁力という記載とは同義である。
【0014】
好適な更なる構成では、電磁弁は、極鉄心とアーマチュアスリーブとの間に接触を形成可能であり、このようにして発生させた磁気短絡により、作用している磁力を減少させることを特徴としている。
【0015】
このことは、これら構成要素が極鉄心でのアーマチュアスリーブの係止が可能になるように形成され、且つ互いに整合していることと理解される。構成要素の形成または成形および構成要素の整合とは、たとえば幾何学的形状の設定およびディメンショニング並びに構成部材の寸法と理解しうる。強磁性のアーマチュアスリーブが極鉄心と接触することにより、磁気回路の一部が短絡される。磁気回路のこの種の短絡の結果、作用している磁力が減少する。これにより、運動部分の更なる加速を減少または回避させることができる。また、運動部分の最終速度を(磁気短絡のない通常の磁力の下での作用に比べて)、減少させることもできる。これにより、運動構成要素が極鉄心で係止されるときの衝撃が低減されるので有利である。これによって騒音放出が減少し、騒音特性が改善される。構成要素の定義とそれら相互の関係とは、有利には磁気短絡(たとえば短絡が発生する弁行程の高さに関連している)の時点であり、作用している磁力の減少の強さもアレンジすることができる。なお、誘導された磁力という記載と、作用している磁力という記載とは同義である。
【0016】
1つの可能な構成では、電磁弁は、アーマチュアが極鉄心に接近する際、アーマチュアが極鉄心で係止される前にアーマチュアスリーブと極鉄心との接触により磁気短絡を形成させることを特徴としている。
【0017】
このことは、極鉄心でのアーマチュアスリーブの係止(およびこれによって形成される部分的な磁気回路)は、すでにアーマチュアが偏位したときに行われると理解される。アーマチュアに対する磁力は、アーマチュアと極鉄心との間の間隔が小さくなるにつれて増大する。短絡により、作用している磁力は減少する。それ故短絡は、電磁弁の閉弁位置ではまだ形成されず、すなわちアーマチュアがプランジャーまたはシールボルトにより弁座を遮断するときにはまだ形成されない。これにより、当初小さな磁力をさらに弱めることができる。しかしながら、磁気短絡(およびこれから生じる磁力の減少)による極鉄心でのアーマチュアの係止の衝撃をポジティブに制御するには、極鉄心でアーマチュアが係止される前に短絡の形成を行う。この場合には、アーマチュアは電磁弁の閉弁位置と開弁位置との間の位置にある。
【0018】
好適な実施態様では、電磁弁は、アーマチュアと極鉄心との所定の間隔で、アーマチュアスリーブと極鉄心との接触により磁気短絡を形成させることを特徴としている。
【0019】
このことは、これら構成要素が次のように成形され、且つ互いに整合していると理解され、すなわちアーマチュアスリーブと極鉄心との最初の接触(したがって磁気短絡)が、アーマチュアと極鉄心との所定の間隔で行われるように成形され、且つ互いに整合していると理解される。これにより、磁力を存在する特定の必要条件に整合させることができ、最適化された騒音特性を得ることができるので有利である。特に有利には、短絡は、アーマチュアがすでに極鉄心に接近して間隔が縮小することによって、作用する磁力が増大したときに形成される。これにより、アーマチュアと極鉄心との間の間隔が大きいときの当初の小さな磁力が最適に利用され、しかしアーマチュアと極鉄心との間の間隔が小さくなって磁力が増大すると、磁力が最適に弱められることが達成できるので有利である。
【0020】
1つの可能な構成では、電磁弁は、
アーマチュアの閉鎖要素が弁座を閉鎖させる電磁弁の第1の位置で、磁気短絡を形成不能であり、
弁座が完全に開いてアーマチュアが極鉄心に当接している電磁弁の第2の位置で、磁気短絡を形成可能であり、
弁座が少なくとも部分的に開いてアーマチュアが極鉄心に当接していない電磁弁の中間位置で、磁気短絡を形成可能である、
ことを特徴としている。
【0021】
電磁弁の複数の位置としては、電磁弁の複数の状態(たとえば完全に開弁、閉弁している)が考えられる。これらの状態は、特に、それぞれの時点で存在する、電磁弁の構成要素相互の正確な位置決めによって定義されている。前述の当接とは、特に、2つの構成要素の半径方向延在領域が軸線方向において当接することに関わる。中間位置とは、アーマチュアが極鉄心に当接しないことを表している。これは、特に、両構成要素が接近する際にまだ間隔が存在していると理解される。
【0022】
好適な1実施態様では、電磁弁は、アーマチュアスリーブがアーマチュアと弁スリーブとの間に位置決めされていることを特徴としている。
【0023】
このことは、アーマチュアスリーブが有利には少なくとも部分的にアーマチュアを外側から取り囲み、特に弁スリーブ内部に完全に位置決めされていると理解される。アーマチュアスリーブの外径と弁スリーブの内径とは、相対的な独立した運動が可能になるように互いに整合されている。
【0024】
好適な更なる構成では、電磁弁は、アーマチュアが上部肩部を有し、アーマチュアスリーブが、上部肩部での係止を可能にするために段部を有していることを特徴としている。
【0025】
このことは、アーマチュアに対するアーマチュアスリーブの軸線方向での独立した運動を制限する上部ストッパーが形成されると理解される。このため、アーマチュアスリーブに段部が形成される。段部はたとえばアーマチュアスリーブの端面にあり、この端面は、極鉄心側にあって且つ弁室とは逆の側にある端面である。アーマチュアスリーブ段部は、有利にはアーマチュアスリーブの内面に形成されていてよい。すなわちアーマチュアスリーブの段部は、内側へ向けて形成されていてよい。その際、アーマチュアスリーブ段部の位置におけるアーマチュアスリーブの内径は、アーマチュアスリーブの正規内径よりも大きい。アーマチュアは、さらに上部肩部を有し、この上部肩部もアーマチュアの極鉄心側端面に形成されている。この肩部は半径方向外側へ延在し、正規のアーマチュア本体よりも大きな外径を有している。アーマチュアの上部肩部とアーマチュアスリーブのアーマチュアスリーブ段部とは、これらが補完的な要素を形成するように形成され、且つ互いに整合しあっている。それ故、肩部と段部とはその構造によって対応している。
【0026】
1つの好適な構成では、電磁弁は、非通電静止状態でのアーマチュアの上部肩部とアーマチュアスリーブの段部との間の間隔が変位ギャップを決定し、通電時に、アーマチュアスリーブは、まず、アーマチュアスリーブの段部がアーマチュアの上部肩部に当接するまで変位ギャップを変位させることを特徴としている。
【0027】
このことは、変位ギャップが電磁弁の構成要素間の運動自由空間の構造的ディメンションを介して決定されると理解される。変位ギャップは、電磁弁の非通電状態で、アーマチュアがばねにより弁座内へ押圧されてアーマチュアスリーブが静止位置にあるときに最大になっていてよい。この変位ギャップの大きさは、アーマチュアの上部肩部でのアーマチュアスリーブ段部の係止によりアーマチュアスリーブが更なる変位を阻止される前に、該アーマチュアスリーブが通電時に変位することのできる、アーマチュアに対する可能な相対変位距離を決定する。
【0028】
1つの可能な実施態様では、電磁弁は、アーマチュアと弁スリーブとの間に保持リングが設けられ、該保持リングは、弁室内へのアーマチュアスリーブの通り抜けを阻止するように構成されていることを特徴としている。
【0029】
このことは、保持リングが設けられていると理解される。保持リングは、たとえばアーマチュアの弁室側に位置決めされていてよい。この場合、保持リングは流体室の方向でのアーマチュアスリーブの変位の制限部を形成する。たとえば、保持リングはアーマチュアを完全に取り囲んでいてよい。好適な態様では、保持リングはアーマチュアに対し押圧されている。有利には、保持リングは磁束を半径方向外側へ、マグネットアッセンブリのほうへも誘導する。択一的な実施態様では、保持リングは弁スリーブとも結合されていてよい。この実施態様では、保持リングは有利には締め付けスリーブ構造として構成されている。保持リングを使用することにより、変位ギャップは、特にアーマチュア(特に該アーマチュアの上部肩部)、アーマチュアスリーブ(特にアーマチュアスリーブ段部)および保持リングといった構成要素の構造、ディメンションを介して、並びにこれらの相互位置決めを介して決定される。
【0030】
1つの可能な構成では、電磁弁は、アーマチュアスリーブが間接的にアーマチュアを介してばねと結合していることを特徴としている。
【0031】
このことは、アーマチュアスリーブが当初アーマチュアとは独立に移動できると理解される。変位ギャップを克服した後、或いは、変位距離の大きさの変化後にはじめて、アーマチュアスリーブはアーマチュアスリーブ段部と上部肩部との間の材料接触によりアーマチュアと結合されるに至る。アーマチュアはばねによりばね力で付勢され、これによって非通電状態で電磁弁の閉弁位置で保持される。変位ギャップの克服後に、ばね力は(アーマチュアを介して)アーマチュアスリーブに作用する。有利には、変位ギャップ内部でのアーマチュアスリーブの運動時には、ばねとアーマチュアスリーブとの間の作用結合は形成されていない。
【0032】
1つの更なる好適な実施態様では、電磁弁は、アーマチュアスリーブとアーマチュアとの間に流体補償溝が設けられていることを特徴としている。
【0033】
アーマチュアスリーブとアーマチュアとの間の相対運動の際、たとえばアーマチュア段部とアーマチュアの上部肩部との間の空間から、または、アーマチュアスリーブの下部端面と保持リングとの間の空間から、流体を排出させることが必要なことがある。このため、たとえばアーマチュアとアーマチュアスリーブとの間に1つまたは複数の流体補償溝が形成されていてよい。これにより流動抵抗の低減と流体の最適な流動とが可能になるので有利である。流動抵抗を意図的に調整することにより、構成要素の運動の容易性と、構成要素の運動の緩衝の向上とを調整することができる。
【0034】
1つの好適な構成では、電磁弁は、前記構成要素が次のように構成され、且つ互いに整合しあっており、すなわち、
電磁弁の位置Aで、アーマチュアの閉鎖要素が弁座を閉鎖し、アーマチュアスリーブが保持リング上に載置され、アーマチュアの上部肩部とアーマチュアスリーブの段部との間に当接がないように、および/または、
電磁弁の位置Bで、アーマチュアの閉鎖要素が弁座を閉鎖し、アーマチュアの上部肩部とアーマチュアスリーブの段部との間に当接があるように、および/または、
電磁弁の位置Cで、アーマチュアの閉鎖要素が弁座を少なくとも部分的に解放し、アーマチュアスリーブが極鉄心に当接し、アーマチュアが極鉄心に当接しないように、および/または、
電磁弁の位置Dで、アーマチュアの閉鎖要素が弁座を完全に解放し、アーマチュアスリーブが極鉄心に当接し、アーマチュアも極鉄心に当接するように、
前記構成要素が構成され、且つ互いに整合しあっていることを特徴としている。
【0035】
これは、以下で
図3において説明する実施態様であると理解される。これにより、アーマチュアの弁楊程を介して適用例に整合させた磁力の力推移が得られるので有利である。この場合、位置AないしDは1回の行程で電磁弁により時系列順で順次占められる。当接するとは、特に、2つの構成要素の半径方向領域が軸線方向において当接するものと理解される。位置Cは、アーマチュアが極鉄心に当接しないことを表している。これは、特に、2つの構成要素が接近する際にまだ間隔があると理解される。
【0036】
なお、本明細書で個別に説明している構成要件は、技術的に有意義な任意の態様で互いに組み合わせて、本発明の他の構成を明示することができる。
【0037】
本発明の他の構成および合目的な機能性は、添付の図面を用いた実施形態の説明から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図2】本発明による電磁弁の第1実施形態の断面図である。
【
図3a】本発明による電磁弁の第1実施形態の構成要素の運動系列を示す図である。
【
図3b】本発明による電磁弁の第1実施形態の構成要素の運動系列を示す図である。
【
図3c】本発明による電磁弁の第1実施形態の構成要素の運動系列を示す図である。
【
図3d】本発明による電磁弁の第1実施形態の構成要素の運動系列を示す図である。
【
図4】アーマチュアに作用する磁力の力・距離推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1は、車両用液圧アッセンブリ用の技術水準から公知の電磁弁の断面図である。この電磁弁の説明は、背景技術の欄の説明に見られる。
【0040】
図2は、本発明による電磁弁1の1実施形態の断面図の一部分を示している。電磁弁1は、非通電閉弁位置で示してある。ばね4は電磁弁1を閉じた状態に保持している。
図2は、さらに、本発明によるアーマチュアスリーブ12を示している。アーマチュアスリーブ12はアーマチュア3を取り囲んでいる。アーマチュアスリーブ12の内径はアーマチュア3の外径に次のように整合しており、すなわち軸線方向における両構成要素12と3の間の相対運動が可能になるように、整合している。この場合、アーマチュアスリーブ12は完全に周回するように延在している筒状物体として実施されている。アーマチュアスリーブ12は強磁性材料から実施されており、それ故発生した磁場を用いて応答させることができる。さらに、少なくとも構成要素である極鉄心2とアーマチュア3と保持リング15とは同様に強磁性に実施されている。これに対し、構成要素であるばね4と弁座10とは強磁性に実施されていない。
【0041】
さらに、アーマチュアスリーブ12がアーマチュアスリーブ段部13を有していることが見て取れる。アーマチュアスリーブ段部はアーマチュアスリーブ12の端面にある。この端面は、極鉄心2側にあって弁室19とは逆の側にある端面である。アーマチュアスリーブ段部13はアーマチュアスリーブ12の内面に形成されている。アーマチュア3はさらに上部肩部14を有し、この上部肩部も、アーマチュア3の極鉄心2側の端面に形成されている。アーマチュア3の上部肩部14とアーマチュアスリーブ12のアーマチュアスリーブ段部13とは互いに次のように整合しており、すなわちこれらが、アーマチュアスリーブ12とアーマチュア3との1方向における相対変位を制限する相補性要素を形成するように、整合している。保持リング15は、他の方向でのアーマチュアスリーブ12の変位の制限部を形成している。保持リング15は、アーマチュア3の弁室19側に位置決めされている。この場合、保持リング15はアーマチュア3を完全に取り囲んでこれと圧着されている。したがって、保持リング15はアーマチュアスリーブ12が(非通電状態で)下方へ落下するのを阻止している。さらに、保持リング15は磁束を半径方向外側においてマグネットアッセンブリ11へ誘導する。
【0042】
すでに背景技術の欄で述べたように、ワーキングエアギャップ17はアーマチュア3の最大に可能な変位距離を決定し、よって電磁弁1の弁行程を決定する。アーマチュアスリーブ12とアーマチュアとの間の相対変位可能距離は、変位ギャップ16によって決定される。変位ギャップは、アーマチュアスリーブ12が保持リング15に当接したときに最大である。さらに、本実施形態では、流体補償溝18を使用する。このような流体補償溝18は、アーマチュア3とアーマチュアスリーブ12との間に図示されている。
【0043】
図2は、本発明による電磁弁1の1実施形態の個々の構成要素を示したものであるが、電磁弁1は非通電閉弁状態にある。本発明による構成要素の作用を説明するため、特にアーマチュアスリーブ12の作用を説明するため、
図3a〜
図3dは、本発明による電磁弁1の第1実施形態の連続運動を複数の図示で示している。なお、
図3aはすでに述べた非通電状態をあらためて示したものである。
【0044】
引き続き、マグネットアッセンブリ11に電流を印加させ、磁束を発生させる。この磁束は強磁性要素に対し磁力も生じさせる。このとき、マグネットアッセンブリ11内の電流或いは磁束が増大すると、まずアーマチュアスリーブ12が極鉄心2の方向へ引っ張られる。アーマチュアスリーブ12の運動は、アーマチュアスリーブ12がアーマチュア3で係止されたときにはじめて停止する。正確には、
図3bに示したように、アーマチュアスリーブ段部13がアーマチュア3の上部肩部14に係止されたときに停止する。図示した実施形態では、変位ギャップ16を介して定義されるアーマチュアスリーブ12の変位距離は、エアギャップの略半分である。
【0045】
この時点で磁束(すなわち電流)がさらに増大すると、電磁弁1の可動部分(アーマチュア3と、アーマチュアスリーブ12と、場合によってはアーマチュア3の別個のシールボルトと、場合によっては保持リング15とから成る)のすべてが上方へ極鉄心2の方向に変位し始める。強磁性のアーマチュアスリーブ12が極鉄心2と接触すると(これを
図3cに図示した)、磁気回路の一部が短絡する。これによって磁力の低減が行われる。図示した実施形態では、これは略半分のエアギャップ17のときに達成され、すなわちアーマチュア3が弁の閉弁位置と開弁位置との間の距離の半分を克服したときに達成される。弁の開弁位置とは、弁が完全に開いてアーマチュア3が極鉄心2に並んだときと理解される。
【0046】
磁気短絡と磁力の低減とにより、移動要素(特にアーマチュア3)の更なる加速が減少し、移動要素が極鉄心2で係止される直前の最終速度も減少する。その結果、係止時の衝撃が減少し、これにより騒音放出も減少する。弁の開弁位置へ向けてアーマチュア3がさらに上昇運動しても、磁気短絡はそのまま存続する。
図3dには、電磁弁が開弁位置で示されている。通電を終了すると、構成要素は磁力(および場合によっては流動力および/または重力のような引き続き作用している力)により、再び
図3aに図示した非通電閉弁位置へもたらされる。
【0047】
図4には、アーマチュアに作用する磁力と極鉄心2に対するアーマチュア3の間隔との関係を示す力・距離推移が図示されている。この場合、実線は本発明による電磁弁の構成に対する図式的な推移を示している。構成要素であるアーマチュア3と極鉄心2との間の間隔が大きい場合(x軸の右部分)、通電時当初、作用する磁力が小さいことを示している。接近すると、すなわち前記間隔が短くなると、磁力が増大する。力・距離推移における屈曲部は、極鉄心2におけるアーマチュアスリーブ12の係止およびこれから生じる磁気短絡によって発生する作用を表している。これによって作用力が減少する。アーマチュア3が極鉄心2で係止されるまで磁気短絡を維持すると、作用力は減少し続ける。これにより、および、これによって生じる、係止時のアーマチュアの低速度により、騒音放出が減少し、これによって騒音特性が改善される。破線は、従来の弁における力・距離推移を延長して図示したものである。
【符号の説明】
【0048】
1 電磁弁
2 極鉄心
3 アーマチュア
4 ばね
5,6 弁スリーブ
9 閉鎖要素
10 弁座
11 マグネットアッセンブリ
12 アーマチュアスリーブ
13 段部
14 上部肩部
15 保持リング
16 変位ギャップ
18 流体補償溝
19 弁室