(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、水冷後の樹脂付着繊維ロービングの冷却および乾燥ができる、樹脂付着繊維束の製造に使用する気化冷却装置と、それを使用した樹脂付着繊維束の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、樹脂付着繊維ロービングが切断されてなる樹脂付着繊維束の製造に使用する気化冷却装置であって、
前記樹脂付着繊維ロービングを通過させるための通過ゾーン、前記通過ゾーンと接続された通気孔および排気孔を有している本体部と、
前記通過ゾーンと接続された前記通気孔から通気して、前記排気孔から排気させるための通気装置を備えている、樹脂付着繊維束の製造に使用する気化冷却装置を提供する。
【0007】
また、本発明は、樹脂付着繊維束の製造方法であって、
溶融樹脂の供給装置を備えたクロスヘッドダイに繊維ロービングを通して、溶融状態の樹脂が付着された繊維ロービングを得る工程、
前記溶融状態の樹脂が付着された繊維ロービングを水冷する工程、
前記水冷後の樹脂付着繊維ロービングを引き取り機で引き取る工程、
前記樹脂付着繊維ロービングを所望長さに切断する工程を有しており、
前記繊維ロービングを水冷する工程と樹脂付着繊維ロービングを引き取り機で引き取る工程の間に上記の気化冷却装置を配置して、水冷後の樹脂付着繊維ロービングを冷却および乾燥する工程を有している、樹脂付着繊維束の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の気化冷却装置を使用して樹脂付着繊維束を製造すると、十分な冷却ができると共に、樹脂付着繊維束の水分量も適正量に維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<樹脂付着繊維束の製造に使用する気化冷却装置>
本発明における樹脂付着繊維束は、樹脂付着繊維ロービングが所望長さに切断されたものであり、樹脂の付着状態によって、
繊維束の中心部まで樹脂が浸透され(含浸され)、繊維束を構成する中心部の繊維間にまで樹脂が入り込んだ状態のもの(樹脂含浸繊維束)、
繊維束の表面のみが樹脂で覆われた状態のもの(樹脂表面被覆繊維束)、
それらの中間のもの(繊維束の表面が樹脂で覆われ、表面近傍のみに樹脂が含浸され、中心部にまで樹脂が入り込んでいないもの)(樹脂一部含浸繊維束)を含むものである。
本発明における樹脂付着繊維束は、成形体の成形時における分散性および流動性が向上されることから、樹脂含浸繊維束が好ましい。
【0011】
本発明の樹脂付着繊維束の製造に使用する気化冷却装置100を
図1、
図2により説明する。
気化冷却装置100は、送気ブロワ121、気化冷却部110、排気ブロワ122が接続されてなるものであり、送気ブロワ121と気化冷却部110は送気ライン131で接続されており、気化冷却部110と排気ブロワ122は排気ライン132で接続されている。
送気ブロワ121と排気ブロワ122は、両方を組み合わせて使用することが好ましいが、いずれか一方のみを使用することもできる。
【0012】
送気ライン131の第1端部(気化冷却部110と接続されていない端部)131aは、大気中に開放されている。送気ライン131には、大気中の塵や埃などを取り除くためのフィルター105を配置することができる。
排気ライン132の第2端部(気化冷却部110と接続されていない端部)132bは、大気中に開放されている。
【0013】
気化冷却部110は、本体部111と、送気ライン131と接続された送気拡散部112と、排気ライン132と接続された排気回収部113を有している。気化冷却部110は金属製のものが好ましい。
本体部111は、内部に水冷処理後の樹脂付着繊維ロービング23が通過できる通過ゾーン(中空部)を有しており、本体部111の両側面側には、樹脂付着繊維ロービング23が通過できるスリットが形成されている。
本体部111内には、樹脂付着繊維ロービング23の通過位置と送気拡散部112との間に整流板115が配置されている。
【0014】
送気拡散部112は、送気ライン131の第2端部131bと接続された第1底面部112aと、第1底面部112aから本体部111に向かって外側に傾斜した第1環状傾斜面112bを有している。
送気拡散部112は、第1環状傾斜面112bの作用によって、送気ライン131から供給された空気を拡散させた状態で本体部111に供給するものである。
【0015】
整流板115は、多数の貫通孔116が均等間隔で分散配置された薄い金属板であり、本体部111の内部形状と同じ形状のものである。
整流板115は、送気拡散部112により拡散された空気を多数の貫通孔116を介して分配させることで、樹脂付着繊維ロービング23に対してできるだけ均等に送風するためのものである。
整流板115は、パンチングメタルなどの多孔板が好ましい。
整流板115は、例えば、本体部111の内壁面から内側に突き出された取り付け部(好ましくは4箇所)に対して、ボルトなどで固定して取り付けることができる。
整流板115の孔の開口度は特に制限されるものではないが、整流板115の面積(10cm
2)辺りの孔の開口面積を基準とすると、2〜6cm
2/10cm
2が好ましい。
【0016】
排気回収部113は、排気ライン32の開口端部132aと接続された第2底面部113aと、第2底面部113aから本体部111に向かって外側に傾斜した第2環状傾斜面113bを有している。
排気回収部113は、第2環状傾斜面
113bの作用によって、送風された空気を速やかに集めて排気するものである。
【0017】
<樹脂付着繊維束の製造方法>
本発明の樹脂付着繊維束の製造方法は、本発明の気化冷却装置を使用したことが特徴であり、他の製造工程およびそれに使用する各装置については公知のものと同じである。
以下、
図3に示す公知の製造フローにおいて、繊維ロービングを水冷する工程と樹脂付着繊維ロービングを引き取り機で引き取る工程の間に本発明の気化冷却装置100を配置した製造フローにより説明する。
図3に示す製造フロー中、気化冷却装置100を除いて特許第3908782号公報の
図1と同じものであるが、クロスヘッドダイ13を含む各装置は同等の機能を有する公知の他の装置に置換することができる。
【0018】
最初の工程にて、溶融樹脂の供給装置12を備えたクロスヘッドダイ13に繊維ロービング21を通して、溶融状態の樹脂が付着された繊維ロービング22を得る。なお、クロスヘッドダイ13の前段部には、開繊装置18を配置して開繊することができる。
【0019】
本発明で使用する樹脂としては、特許第3908782号公報に記載されたものと同じ公知の熱可塑性樹脂を挙げることができるが、本発明の製造方法においては、ポリアミド系樹脂を含むものを使用した場合、特に顕著な効果が得られるので好ましい。
ポリアミド系樹脂としては、脂肪族ポリアミド樹脂、半芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂を挙げることができるが、本発明では脂肪族ポリアミド樹脂が好ましい。
脂肪族ポリアミド樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド610、ポリアミド612などが好ましい。
本発明で使用する樹脂は、ポリアミド系樹脂のみからなるもの、ポリアミド系樹脂と他の熱可塑性樹脂とのアロイが好ましい。ポリアミド系樹脂と他の熱可塑性樹脂とのアロイを使用するときは、前記アロイ中のポリアミド系樹脂の含有割合が50質量%以上であることが好ましい。
【0020】
次の工程にて、溶融状態の樹脂が付着された繊維ロービング22を冷却装置30により水冷する。
冷却装置30による水冷方法は特に制限されるものではなく、例えば、シャワーにより散水して冷却する方法、水槽を通過させて冷却する方法、またはそれらを組み合わせて冷却する方法を適用できる。
冷却水の温度は、5〜20℃の範囲が好ましく、室温よりも低い温度が好ましい。
水槽を通過させて冷却する方法を実施するときは、特許第3908782号公報の発明に記載された冷却槽を使用して、冷却槽中に溶融状態の樹脂が付着された繊維ロービング22を直線状に通過させるとき、水を溢れさせながら冷却する方法が好ましい。
【0021】
次の工程にて、本発明の気化冷却装置100を使用して、水冷後の樹脂付着繊維ロービング23を乾燥および冷却する。
図1、
図2に示すとおり、気化冷却装置100を水冷後の樹脂付着繊維ロービング23を通過させるとき、送気ブロア121を駆動させて通気ライン131から通気しながら、排気ブロア122も駆動させて排気ライン132から排気する。
通気量は0.2〜2.0m
3/秒が好ましく、0.5〜1.0m
3/秒がより好ましく、排気量は通気量と同程度から排気量をやや多めに調整することが好ましい。通気量および排気量が前記範囲内であると、樹脂付着繊維ロービング23を損傷させることなく、冷却および乾燥できるので好ましい。
このような通気および排気過程において、水冷後の樹脂付着繊維ロービング23は整流板115を通過して均等に分配された空気流と接触することになり、水冷後の樹脂付着繊維ロービング23の表面および内部に付着している水分が飛散および気化して除去される。
その結果、空気流による乾燥および冷却効果と共に、水分が気化する際に奪われる蒸発潜熱による冷却効果が加わることで、水冷後の樹脂付着繊維ロービング23は乾燥され、十分に冷却される。
なお、水冷後の樹脂付着繊維ロービング23が冷却装置30から気化冷却装置100に移動する間は空気に触れた状態になり、空気冷却されることになる。このとき、必要に応じて緩やかに送風することもできる。
【0022】
次の工程にて、乾燥および冷却した樹脂付着繊維ロービング23を引き取り機16で引き取った後、ペレタイザー17により樹脂付着繊維ロービング23を所望長さに切断する。
上記したとおり、引き取り工程に移行したときの樹脂付着繊維ロービング23は、本発明の気化冷却装置100を使用することで十分に冷却されているため、引き取り機16のゴムベルトなとのゴム部品を熱劣化させることがなく、ペレタイザー17の回転刃が熱膨張して接触損傷が引き起こされることもない。
【実施例】
【0023】
実施例1〜4、比較例1〜5
実施例1〜4は、
図4に示す製造フローによって樹脂含浸繊維束を製造した。
比較例1〜5は、気化冷却装置100を使用しないほかは
図4に示す製造フローと同じ製造フローによって樹脂含浸繊維束を製造した。比較例1の水槽は、特許第3908782号発明の冷却槽を使用した。
繊維としてガラス繊維束(日東紡績(株) RS240QR-483AC)を使用した。
樹脂としてポリアミド樹脂(デュポン株式会社ZYTEL FE3218)を使用した。
最終的に得られた樹脂含浸繊維束は、ガラス繊維60質量%、ポリアミド樹脂40質量%であった。
冷却装置30における冷却方法および条件は、表1に示す方法および条件にした。
シャワーによる冷却は、複数のシャワーで同時に散水した。冷却水温度は10℃であった。
また、冷却装置30から気化冷却装置100に移行する間、表1に示す時間、空気冷却された(外気温:18℃,相対湿度:60%)。
気化冷却装置100を通過後の樹脂含浸繊維ロービング23の表面温度と水分率を測定した。結果を表1に示す
【0024】
(樹脂含浸繊維ロービング23の表面温度の測定方法)
株式会社カスタム社製 IR-304 放射温度計を用い樹脂含浸繊維ロービングの表面温度の測定を行った。
【0025】
(樹脂含浸繊維ロービング23の水分率の測定方法)
ダイヤイスツルメンツ社製 カールフィッシャー水分計を用い、JIS K0113に準じ、測定温度230℃で測定を行った。
【0026】
【表1】
【0027】
実施例1〜4と比較例2〜5の対比から明らかなとおり、本発明の気化冷却装置を使用することで、樹脂含浸繊維ロービング23の表面温度が低下され、水分率も低下されたことが確認できた。
比較例1のように水槽を使用することで樹脂含浸繊維ロービング23の表面温度を低下させることはできたが、水分率は高くなった。