【実施例】
【0031】
実施例1
(1)酸化工程
300mlの二口フラスコに、有効塩素濃度5%の次亜塩素酸ナトリウム75ml(0.4mol/L)とイオン交換水75mlを入れた。
その後、市販の広葉樹由来の漂白済みクラフトパルプ1.5g(乾燥機で乾燥したもの)を入れ、30分間撹拌し、混合溶液とした。
その後、濃度10vol%の希釈塩素ガス(塩素当量11.2mmol)を直接混合溶液にゆっくり導入して、35%塩酸とアンモニア水とを加えることにより、溶液のpHを7±0.1に調製しながら攪拌し反応させた。
反応後、孔径40μmのガラスフィルターでろ過し、フィルター上の反応物を5回水洗(合計500mlの水を使用)し、乾燥させることで酸化セルロース1.361gを得た。
【0032】
(2)解繊工程
前工程で得た酸化セルロース0.10gを蒸留水100mlに入れ、固形分濃度0.1質量%の分散液(酸化セルロースー蒸留水分散液)を得るために解繊を行った。
即ち、前記酸化セルロースを加えた蒸留水に対して、超音波ホモジナイザー(株式会社日本精機製作所製、超音波ホモジナイザーUS−300AT型、120W、26mm径チップ)を使用して、4分間処理して、ほぼ透明な分散液が得られた。
その分散液を凍結乾燥したものを少量採取し、走査型電子顕微鏡で観察したところ、ナノファイバーに変化していることを確認した。このときの走査型電子顕微鏡像を
図1に示す。
さらに、より詳細な繊維状態を確認するため、透過型電子顕微鏡で観察した。前記で得られた分散液をキャストし、酢酸ウラニルによって染色したものを、透過型電子顕微鏡で観察したところ、1本1本が完全に分離してナノファイバーに変化していることを確認した。このときの透過型電子顕微鏡像を、倍率を変えて
図2と
図3に示す。
このセルロースナノファイバーの繊維径は、3〜30nmであった。また、このセルロースナノファイバーの平均繊維径は、20nmであった。繊維径及び平均繊維径は、次の方法で求めた。
(繊維径及び平均繊維径)
セルロースナノファイバーの走査型電子顕微鏡により、得られた画像(×75,000倍)中の任意の30本の繊維について繊維径の値を読み取った。得られた繊維径のデータから、数平均繊維径を算出することにより計測した。
【0033】
実施例2
(1)酸化工程
300mlの2口フラスコに、有効塩素濃度5%の次亜塩素酸ナトリウム75ml(0.4mol/L)を入れた。
その後、pHを8.0(pH=8±0.1)になるように35%塩酸1ml(12mol/L)を滴下して、30分間ゆっくり攪拌した。このpH=8±0.1の混合溶液に、市販の広葉樹由来の漂白済みクラフトパルプ1.5g(乾燥機で乾燥したもの)を加え、3時間撹拌した。
その後、孔径40μmのガラスフィルターでろ過し、5回水洗することで酸化パルプを得た。
【0034】
(2)解繊工程
実施例1の解繊工程と同様に処理した結果、透明分散液を得た。その後、凍結乾燥によって乾燥したものを走査型電子顕微鏡で観察したところ、ナノファイバーに変化していることを確認した。この平均繊維径は、23nmであった。
【0035】
実施例3
(1)酸化工程
300mlの二口フラスコに市販の99.5%のアセトニトリル(100ml)とイオン交換水(10ml)を加えて攪拌した。
その後、高濃度塩素ガスを所定時間(1h〜3h)バブリングして反応させた。反応後、10mlを分取し、ヨウ化カリウムおよび0.1mol/Lチオ硫酸ナトリウム液で有効塩素量を滴定した。その結果、0.6mol/Lであった。
上記調製した次亜塩素酸80ml(0.6mol/L)溶液に、pH=7±0.1になるように有効塩素濃度の5%次亜塩素酸ナトリウム水溶液80ml(0.4mol/L)を滴下した。この混合溶液に、市販の広葉樹由来の漂白済みクラフトパルプ1.5g(乾燥機で乾燥したもの)を加え、3時間攪拌した。
その後、孔径40μmのガラスフィルターでろ過し、5回水洗することで酸化セルロースを得た。
(2)解繊工程
実施例1の解繊工程と同様に処理した結果、透明な分散液を得た。
その後、凍結乾燥によって乾燥したものを走査型電子顕微鏡で観察したところ、ナノファイバーに変化していることを確認した。この平均繊維径は19nmであった。
【0036】
比較例1
(1)酸化工程
市販の広葉樹由来の漂白済みクラフトパルプ(乾燥機で乾燥したもの)1gにイオン交換水99gを加えて十分に攪拌してスラリーを得た。
その後、該スラリーにTEMPO(0.1mmol)、臭化ナトリウム(1mmol)と次亜塩素酸ナトリウム(5mmol)を、それぞれこの順序で添加した。酸化反応が進むとセルロースミクロフィブリル表面にカルボキシル基が生成するために、pHが下がってきた。これを0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液で中和してpHを10.5に保持した。そして、酸化反応の終点を、水酸化ナトリウム水溶液の消費が止まった時点で確認したところ、酸化反応は1時間で終了した。
反応後、孔径40μmのガラスフィルターでろ過し、100mlの純水で5回水洗し、乾燥することで酸化セルロース1.321gを得た。
(2)解繊工程
実施例1の解繊工程と同様に処理して、透明の分散液を得た。その後、凍結乾燥によって乾燥したものを得た。
【0037】
試験例1
実施例1の凍結乾燥品からサンプリングしたサンプルA1、A2、実施例2の凍結乾燥品からサンプリングしたサンプルB1、B2、比較例1の凍結乾燥品からサンプリングしたサンプルC1、C2について、ナトリウムの含有量を測定した。結果を表1に示す。
ナトリウムの含有量は、エネルギー分散型X 線(EDX)分析装置により測定した。
【0038】
【表1】
【0039】
表1に示す結果から、実施例1、2で得たセルロースナノファイバーは、ナトリウムの含有量が0.6〜0.9質量%であった。
一方、比較例1で得たセルロースナノファイバーは、ナトリウム含有量が4.0〜4.1質量%であった。
比較例1と比べると、実施例1、2で得たセルロースナノファイバーのナトリウムの含有量が著しく少ない。ナトリウムは、セルロースナノファイバー中でカルボン酸ナトリウム(−COONa)として存在することから、実施例1、2の酸化セルロース中のカルボキシル基の量が極めて少ないことを示している。
【0040】
試験例2
実施例1〜3と比較例1のセルロースナノファイバーのFT-IRスペクトルを
図4に示す。
図4から明らかなように、実施例1〜3のセルロースナノファイバーは、いずれもFT-IRスペクトルのカルボキシル基の振動吸収ピーク(1611cm
-1)強度が、比較例1のセルロースナノファイバーより小さい。
【0041】
試験例3
実施例1のサンプルA1、A2と比較例1のサンプルC1,C2を使用して、カルボキシル基量を測定した。
<カルボキシル基量の測定>
まず、各サンプルの凍結乾燥物(セルロースナノファイバー)0.3gをそれぞれ精秤し、55mlの超純水を加えた。
次に、0.01M塩化ナトリウム水溶液5mLを加えて、0.05M水酸化ナトリウム水溶液でpHを9程度とした後、パルプが十分に分散するまで30分間撹拌した。
その後、0.1M塩酸を加えてpHを3.0としてから30分間程度静置した後、0.05水酸化ナトリウム水溶液を0.1ml/minの一定速度で注入し、30秒毎の電気電導度とpHの値を測定し、pHが10程度になるまで測定を行った。
弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量を求め、下式を用いてカルボキシル基の量を算出した。結果を表2に示す。
カルボキシル基量〔mmol/gセルロース〕
=水酸化ナトリウムの消費量〔ml〕×0.05/セルロースナノファイバー質量〔g〕
【0042】
【表2】
【0043】
表2に示す結果から、実施例1の場合には、導入されたカルボキシル基量が0.26〜0.34mmol/gであった。
一方、比較例1の場合には、導入されたカルボキシル基量が1.51〜1.73mmol/gであった。
比較例1に比べて、実施例1で得られた酸化セルロースのカルボキシル基量は著しく少なかった。この結果から、本発明の製造方法によれば、従来技術と比べてカルボキシル基の量が著しく小さいセルロースナノファイバーを得ることができることが確認できた。
【0044】
試験例4(熱安定性の評価)
実施例1(A1)、比較例1(C1)のセルロースナノファイバー、対照となる原料パルプを使用して、熱安定性を評価した。
それぞれのサンプルを、示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA)によりサンプルの各温度における質量変化の割合を測定した。表3に示す通り、質量減少率が小さいほど、熱安定性が高いことを示している。
【0045】
【表3】
【0046】
表3から明らかなように、実施例1で得られたセルロースナノファイバー(カルボキシル基量:0.34mmol/g)の質量減少率は、比較例1のセルロースナノファイバー(カルボキシル基量:1.73mmol/g)より小さかった。
【0047】
比較例2
実施例2において、pHが8.0(pH=8±0.1)の次亜塩素酸と次亜塩素酸ナトリウムの混合溶液の代わりに、実施例3により調製したpH=1(pH=1±0.1)の次亜塩素酸80ml(有効塩素濃度:0.6mol/L)に、市販の広葉樹由来の漂白済みクラフトパルプ1.5g(乾燥機で乾燥したもの)を加えた。
3時間攪拌した後、孔径40μmのガラスフィルターでろ過し、5回水洗することで生成物を得た。上記の生成物を蒸留水で分散させ、固形分濃度0.1%にした分散液を超音波ホモジナイザーで4分間処理したが、透明な分散液が得られなかった。
その乾燥したものを走査型電子顕微鏡で観察したところ、ナノファイバーに変化していなかった(繊維状にならなかった)。
【0048】
比較例3
実施例2において、pHが8.0(pH=8±0.1)の次亜塩素酸と次亜塩素酸ナトリウムの混合溶液の代わりに、pH=12(pH=12±0.1)の有効塩素濃度5%の次亜塩素酸ナトリウム80ml水溶液(0.4mol/L)に、市販の広葉樹由来の漂白済みクラフトパルプ1.5g(乾燥機で乾燥したもの)を加えた。
3時間攪拌した後、孔径40μmのガラスフィルターでろ過し、5回水洗することで生成物を得た。上記の生成物を蒸留水で分散させ、固形分濃度0.1%にした分散液を超音波ホモジナイザーで4分間処理したが、透明な分散液が得られなかった。
その乾燥したものを走査型電子顕微鏡で観察したところ、ナノファイバーに変化していなかった(繊維状にならなかった)。