特許第6872396号(P6872396)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6872396セルロースナノファイバーの分散液およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6872396
(24)【登録日】2021年4月21日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】セルロースナノファイバーの分散液およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 11/18 20060101AFI20210510BHJP
   D21H 11/20 20060101ALI20210510BHJP
   D21H 15/02 20060101ALI20210510BHJP
   C08J 3/02 20060101ALI20210510BHJP
   C08B 15/02 20060101ALI20210510BHJP
   C08B 15/04 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   D21H11/18
   D21H11/20
   D21H15/02
   C08J3/02 ACEP
   C08B15/02
   C08B15/04
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-62164(P2017-62164)
(22)【出願日】2017年3月28日
(65)【公開番号】特開2017-193814(P2017-193814A)
(43)【公開日】2017年10月26日
【審査請求日】2019年12月9日
(31)【優先権主張番号】特願2016-80537(P2016-80537)
(32)【優先日】2016年4月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000157119
【氏名又は名称】関東電化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】ユ エイエイ
(72)【発明者】
【氏名】植村 泰祐
(72)【発明者】
【氏名】茂木 亮
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−136859(JP,A)
【文献】 特開2013−245259(JP,A)
【文献】 特開2013−253200(JP,A)
【文献】 特開2013−107927(JP,A)
【文献】 特開2014−105233(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/069641(WO,A1)
【文献】 特開2013−067904(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B1/00−37/18
D01F1/00−6/96
9/00−9/04
D21B1/00−1/38
D21C1/00−11/14
D21D1/00−99/00
D21F1/00−13/12
D21G1/00−9/00
D21H11/00−27/42
D21J1/00−7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒中にセルロースナノファイバーを含むセルロースナノファイバー分散液の製造方法であって、
次亜塩素酸または次亜塩素酸塩を含む溶媒中、pH=5.0〜9.0でセルロースの酸化反応を行って酸化セルロースを得る酸化工程と、
前記酸化セルロースを溶媒中で解繊してセルロースナノファイバーの分散液を得る解繊工程を有しており、
前記セルロースナノファイバーが、カルボキシル基の含有量がセルロースナノファイバーの乾燥質量に対し0.20〜0.50mmol/gであり、平均繊維径が3〜100nmであり、N−オキシル化合物を含まないものである、
セルロースナノファイバー分散液の製造方法。
【請求項2】
前記セルロースナノファイバーは、前記カルボキシル基の含有量がセルロースナノファイバーの乾燥質量に対し0.25〜0.35mmol/gである、請求項1記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法
【請求項3】
前記溶媒が、水、または水とアセトニトリルの混合液である、請求項1または2記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法
【請求項4】
前記酸化工程におけるpHが7.5〜8.5である、請求項1〜3の何れかに記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバーの分散液およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セルロースナノファイバーを製造する方法として、木材パルプをリファイナーで処理して細胞壁を横方向に数回切断した後、二軸混練機で混練処理して強固な二次壁を解繊する方法が知られている。しかし、この方法では、繊維幅が均一なセルロースナノファイバーを得ることが困難である。
【0003】
また、セルロース系の原料を、触媒量の2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシラジカル(以下、TEMPO触媒という)と次亜塩素酸ナトリウムと臭化ナトリウムの3種共存下で処理して、セルロースの一級水酸基をカルボキシル基およびアルデヒド基へと酸化させ、得られた酸化セルロースを水中でミキサーなどの機械処理を行うことにより、高粘度で透明なセルロースナノファイバー水分散体を得る発明が開示されている。(特許文献1、2および非特許文献1)。
【0004】
上記方法(従来のTEMPO触媒による製造法を、以下「TEMPO触媒法」と記すことがある。)により得られたセルロースナノファイバーは、生分解性のある水分散型の新規素材であり、有機または無機系顔料と複合化することで品質の改変を図ることもできる。さらに、そのセルロースナノファイバーをシート化し、繊維化することも可能である。
そのため、セルロースナノファイバーのこのような特性を活かした用途としては、透明電子デバイス、高機能包装材料、高機能繊維、分離膜、および再生医療材料などが想定されている。将来、このようなセルロースナノファイバーの特徴を最大限活用することで、循環型の安全で安心な社会形成がなされるとともに、その社会形成に不可欠な新規高機能性の商品開発がなされることも期待されている。
【0005】
ところが、上記文献にて知られているTEMPO触媒法、即ち、TEMPOなどのN−オキシル化合物を触媒として製造されたセルロースナノファイバー(TEMPO酸化セルロースナノファイバー)は、カルボキシル基の量が多く、最大で約1.7mmol/gである。
さらに、高温(約180℃以上)ではカルボキシル基が脱炭酸を起こすため、TEMPO酸化セルロースナノファイバーの熱安定性は低い。
したがって、TEMPO酸化セルロースナノファイバーを使用するときに加熱処理を実施しようとしても、加熱工程を設定することは適さないという問題があった。
【0006】
また、上記のTEMPO酸化セルロースナノファイバーは、十分に水洗した後であっても、窒素分としてN−オキシル化合物が残留する。このN−オキシル化合物の1種であるTEMPOは環境や人体に対する有害性が報じられており、セルロースナノファイバーの分散液またはそのような分散液から調製されたフィルムを、化粧品の増粘剤や食品用包装などの目的で使用することも適さない。
それら用途を想定するならば、分散液中にN−オキシル化合物が残存しないように取り除くための処理が必要となる。
さらに、TEMPO酸化用の触媒が非常に高価であるため、製造コストが高いという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−308802号公報
【特許文献2】特開2013−256546号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Saito, T., et al., Cellulose Commun., 14 (2),62 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、カルボキシル基の含有量の少ないセルロースナノファイバーを含み、N−オキシル化合物を含まないセルロースナノファイバー分散液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明は、溶媒中にセルロースナノファイバーを含むセルロースナノファイバー分散液であって、前記セルロースナノファイバーが、カルボキシル基の含有量がセルロースナノファイバーの乾燥質量に対し0.20〜0.50mmol/gであり、平均繊維径が3〜100nmであり、N−オキシル化合物を含まないものである、セルロースナノファイバー分散液を提供する。
また本発明は、次亜塩素酸または次亜塩素酸塩を含む溶媒中、pH=5.0〜9.0でセルロースの酸化反応を行って酸化セルロースを得る酸化工程と、
前記酸化セルロースを溶媒中で解繊してセルロースナノファイバーの分散液を得る解繊工程を有している、セルロースナノファイバー分散液の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のセルロースナノファイバー分散液は、N−オキシル化合物を含まないことから安全性が高い。
また本発明のセルロースナノファイバー分散液に含まれているセルロースナノファイバーは、カルボキシ基の含有量が従来技術のものよりも少ないため、熱安定性も高い。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1で得られたセルロースナノファイバーの走査型電子顕微鏡写真。
図2】実施例1で得られたセルロースナノファイバーの透過型電子顕微鏡写真。
図3】実施例1で得られたセルロースナノファイバーの、図2とは異なる倍率の透過型電子顕微鏡写真。
図4】実施例1〜3と比較例1のセルロースナノファイバーのFT-IRスペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<セルロースナノファイバーを含む分散液>
本発明のセルロースナノファイバー分散液は、セルロースナノファイバーが溶媒に分散された状態で含有されているものである。
また本発明のセルロースナノファイバー分散液は、前記分散液からセルロースナノファイバーを含む固形分を分離し、必要に応じて水洗などをした後、溶媒に再分散させたものも含まれる。
【0014】
セルロースナノファイバーは、カルボキシル基の含有量がセルロースナノファイバーの乾燥質量に対し0.20〜0.50mmol/gであり、0.25〜0.35mmol/gが好ましい。前記カルボキシル基は、アルカリ金属などと塩を形成していてもよい。
なお、「乾燥質量」とは、人工乾燥によって含水率が25質量%を超える状態から25質量%に至った状態(25.0質量%+0.5質量%未満)をいう。
人工乾燥させる方法としては、加熱乾燥、凍結乾燥、真空乾燥などが使用できる。
【0015】
セルロースナノファイバーは、平均繊維径は3〜100nmであり、3〜20nmが好ましい。
平均繊維径と平均繊維長(幅)との関係は、平均繊維径が3〜100nmであるとき、平均繊維長は1〜10μmが好ましく、平均繊維径が3〜20nmであるとき、平均繊維長は2〜3μmが好ましい。
【0016】
本発明のセルロースナノファイバー分散液の溶媒としては、水、アセトニトリル、アセトン、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、メチル−tert−ブチルエーテル、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、エチルアセテート、メチルアセテートからなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒を挙げることができる。
溶媒は、セルロースナノファイバー分散液の用途に応じて選択することができるが、水が好ましく、水とアセトニトリルの混合溶媒であることがより好ましい。
【0017】
本発明のセルロースナノファイバー分散液中のセルロースナノファイバーの濃度は特に制限されるものではなく、例えば、0.01〜49.9質量%、または50.0〜80.0質量%の範囲にすることができる。
本発明のセルロースナノファイバー分散液は、N−オキシル化合物を含まないセルロースナノファイバーを溶媒中に含む分散液である。N−オキシル化合物は、TEMPOなどのN−オキシル化合物触媒に由来するものである。
【0018】
<セルロースナノファイバーを含む分散液の製造方法>
本発明の製造方法において出発原料となるセルロース材料は特に制限されるものではなく、木材や草本類などのほか、パルプ(漂白パルプやリグニンが残存する未漂白パルプ)などであってもよい。
また、原料のセルロースは、乾燥したものであってもよいし、未乾燥のものであってもよい。
【0019】
(酸化工程)
酸化工程は、次亜塩素酸または次亜塩素酸塩を含む溶媒中、pH=5.0〜9.0でセルロースの酸化反応を行って酸化セルロースを得る工程である。
【0020】
本発明の製造方法において用いられる次亜塩素酸塩としては、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸セシウム、次亜塩素酸リチウムなどが挙げられる。
【0021】
本発明の製造方法において用いられる溶媒としては、水、アセトニトリル、アセトン、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、メチル−tert−ブチルエーテル、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、エチルアセテート、メチルアセテートからなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒を挙げることができる。
溶媒は、セルロースナノファイバーを含む分散液の用途に応じて選択することができるが、水が好ましく、水とアセトニトリルの混合溶媒であることがより好ましい。
【0022】
pHは5.0〜9.0の範囲であるが、pH7.0〜pH9.0の範囲が好ましく、pH7.5〜pH8.5の範囲がより好ましい。
【0023】
酸化工程は、温和な反応条件下で行うことができる。
反応温度は、10〜50℃の範囲が好ましく、より好ましくは室温(20〜30℃)で行うことができる。
反応時間は、原料のセルロースの種類や反応条件によっても異なるが、0.5時間以上であり、1〜6時間が好ましく、3〜6時間がより好ましい。
また、反応を均一に行うため、スターラー、スクリュー型撹拌機、混練機などの撹拌装置を用いて攪拌しながら反応させることが好ましい。
【0024】
酸化工程の終了後は、使用した溶媒中に酸化セルロースが分散された状態になっている。
「酸化セルロース」は、セルロースの構成糖であるグルコピラノース環の少なくとも一部にカルボキシル基が導入された化合物である。
酸化工程は、上記したような温和な反応条件で実施することができるため、原料のセルロースで観察されるミクロフィブリル形態からの損傷が少なく、天然セルロースに比べて遜色ない、繊維形状、結晶化度ならびに結晶形を維持することができる。
【0025】
(解繊工程)
解繊工程は、前工程で得られた酸化セルロースを解繊してセルロースナノファイバーの分散液を得る工程である。
【0026】
解繊工程では、酸化セルロースが溶媒に分散された状態のものを使用して、そのまま解繊処理を実施することもできるが、繊維状固形分(酸化セルロース)を濾過などの操作によって回収し、水などの水系媒体で洗浄した後で、解繊処理をすることが好ましい。
【0027】
解繊処理は公知の手段を用いることができるが、水系媒体中で処理する湿式解繊処理を使用することが好ましい。
水系媒体としては水を使用することができる。熱水や冷水も用いることができるが、常温の水を用いることが好ましく、イオン交換水、蒸留水などを使用することもできる。
解繊方法としては、水系媒体中で撹拌装置などの機械的手段によって解繊処理する方法のほか、超音波処理、回転刃つきのミキサー、高圧ホモジナイザー、混練装置などを用いることができる。
解繊処理をするときの水系媒体中の固形分濃度は、0.01〜5.0質量%が好ましく、0.2〜3.0質量%がより好ましい。
解繊処理は、解繊処理後の分散液が目視で透明になった状態で終了することができる。
【0028】
本発明の製造方法により得られたセルロースナノファイバー分散液は、そのままの状態で使用することができる。
また本発明の製造方法により得られたセルロースナノファイバー分散液は、前記分散液からセルロースナノファイバーを含む固形分を濾過などの方法で分離し、好ましくは水洗した後、凍結乾燥などの方法を適用して乾燥して使用することもできる。
前記のように水洗することで、酸化工程で使用した次亜塩素酸または次亜塩素酸塩を除くことができる。
さらに本発明では、前記のような凍結乾燥品を、再度溶媒に分散させて、セルロースナノファイバーを含む分散液として使用することもできる。
【0029】
本発明のセルロースナノファイバー分散液は、そのセルロースナノファイバー自体が耐熱性に優れているため、電子機器材料、食品・化粧品などの包装材、有機もしくは無機複合体化による担持用材料などに利用でき、多くの用途に期待できる。
【0030】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
実施例1
(1)酸化工程
300mlの二口フラスコに、有効塩素濃度5%の次亜塩素酸ナトリウム75ml(0.4mol/L)とイオン交換水75mlを入れた。
その後、市販の広葉樹由来の漂白済みクラフトパルプ1.5g(乾燥機で乾燥したもの)を入れ、30分間撹拌し、混合溶液とした。
その後、濃度10vol%の希釈塩素ガス(塩素当量11.2mmol)を直接混合溶液にゆっくり導入して、35%塩酸とアンモニア水とを加えることにより、溶液のpHを7±0.1に調製しながら攪拌し反応させた。
反応後、孔径40μmのガラスフィルターでろ過し、フィルター上の反応物を5回水洗(合計500mlの水を使用)し、乾燥させることで酸化セルロース1.361gを得た。
【0032】
(2)解繊工程
前工程で得た酸化セルロース0.10gを蒸留水100mlに入れ、固形分濃度0.1質量%の分散液(酸化セルロースー蒸留水分散液)を得るために解繊を行った。
即ち、前記酸化セルロースを加えた蒸留水に対して、超音波ホモジナイザー(株式会社日本精機製作所製、超音波ホモジナイザーUS−300AT型、120W、26mm径チップ)を使用して、4分間処理して、ほぼ透明な分散液が得られた。
その分散液を凍結乾燥したものを少量採取し、走査型電子顕微鏡で観察したところ、ナノファイバーに変化していることを確認した。このときの走査型電子顕微鏡像を図1に示す。
さらに、より詳細な繊維状態を確認するため、透過型電子顕微鏡で観察した。前記で得られた分散液をキャストし、酢酸ウラニルによって染色したものを、透過型電子顕微鏡で観察したところ、1本1本が完全に分離してナノファイバーに変化していることを確認した。このときの透過型電子顕微鏡像を、倍率を変えて図2図3に示す。
このセルロースナノファイバーの繊維径は、3〜30nmであった。また、このセルロースナノファイバーの平均繊維径は、20nmであった。繊維径及び平均繊維径は、次の方法で求めた。
(繊維径及び平均繊維径)
セルロースナノファイバーの走査型電子顕微鏡により、得られた画像(×75,000倍)中の任意の30本の繊維について繊維径の値を読み取った。得られた繊維径のデータから、数平均繊維径を算出することにより計測した。
【0033】
実施例2
(1)酸化工程
300mlの2口フラスコに、有効塩素濃度5%の次亜塩素酸ナトリウム75ml(0.4mol/L)を入れた。
その後、pHを8.0(pH=8±0.1)になるように35%塩酸1ml(12mol/L)を滴下して、30分間ゆっくり攪拌した。このpH=8±0.1の混合溶液に、市販の広葉樹由来の漂白済みクラフトパルプ1.5g(乾燥機で乾燥したもの)を加え、3時間撹拌した。
その後、孔径40μmのガラスフィルターでろ過し、5回水洗することで酸化パルプを得た。
【0034】
(2)解繊工程
実施例1の解繊工程と同様に処理した結果、透明分散液を得た。その後、凍結乾燥によって乾燥したものを走査型電子顕微鏡で観察したところ、ナノファイバーに変化していることを確認した。この平均繊維径は、23nmであった。
【0035】
実施例3
(1)酸化工程
300mlの二口フラスコに市販の99.5%のアセトニトリル(100ml)とイオン交換水(10ml)を加えて攪拌した。
その後、高濃度塩素ガスを所定時間(1h〜3h)バブリングして反応させた。反応後、10mlを分取し、ヨウ化カリウムおよび0.1mol/Lチオ硫酸ナトリウム液で有効塩素量を滴定した。その結果、0.6mol/Lであった。
上記調製した次亜塩素酸80ml(0.6mol/L)溶液に、pH=7±0.1になるように有効塩素濃度の5%次亜塩素酸ナトリウム水溶液80ml(0.4mol/L)を滴下した。この混合溶液に、市販の広葉樹由来の漂白済みクラフトパルプ1.5g(乾燥機で乾燥したもの)を加え、3時間攪拌した。
その後、孔径40μmのガラスフィルターでろ過し、5回水洗することで酸化セルロースを得た。
(2)解繊工程
実施例1の解繊工程と同様に処理した結果、透明な分散液を得た。
その後、凍結乾燥によって乾燥したものを走査型電子顕微鏡で観察したところ、ナノファイバーに変化していることを確認した。この平均繊維径は19nmであった。
【0036】
比較例1
(1)酸化工程
市販の広葉樹由来の漂白済みクラフトパルプ(乾燥機で乾燥したもの)1gにイオン交換水99gを加えて十分に攪拌してスラリーを得た。
その後、該スラリーにTEMPO(0.1mmol)、臭化ナトリウム(1mmol)と次亜塩素酸ナトリウム(5mmol)を、それぞれこの順序で添加した。酸化反応が進むとセルロースミクロフィブリル表面にカルボキシル基が生成するために、pHが下がってきた。これを0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液で中和してpHを10.5に保持した。そして、酸化反応の終点を、水酸化ナトリウム水溶液の消費が止まった時点で確認したところ、酸化反応は1時間で終了した。
反応後、孔径40μmのガラスフィルターでろ過し、100mlの純水で5回水洗し、乾燥することで酸化セルロース1.321gを得た。
(2)解繊工程
実施例1の解繊工程と同様に処理して、透明の分散液を得た。その後、凍結乾燥によって乾燥したものを得た。
【0037】
試験例1
実施例1の凍結乾燥品からサンプリングしたサンプルA1、A2、実施例2の凍結乾燥品からサンプリングしたサンプルB1、B2、比較例1の凍結乾燥品からサンプリングしたサンプルC1、C2について、ナトリウムの含有量を測定した。結果を表1に示す。
ナトリウムの含有量は、エネルギー分散型X 線(EDX)分析装置により測定した。
【0038】
【表1】
【0039】
表1に示す結果から、実施例1、2で得たセルロースナノファイバーは、ナトリウムの含有量が0.6〜0.9質量%であった。
一方、比較例1で得たセルロースナノファイバーは、ナトリウム含有量が4.0〜4.1質量%であった。
比較例1と比べると、実施例1、2で得たセルロースナノファイバーのナトリウムの含有量が著しく少ない。ナトリウムは、セルロースナノファイバー中でカルボン酸ナトリウム(−COONa)として存在することから、実施例1、2の酸化セルロース中のカルボキシル基の量が極めて少ないことを示している。
【0040】
試験例2
実施例1〜3と比較例1のセルロースナノファイバーのFT-IRスペクトルを図4に示す。
図4から明らかなように、実施例1〜3のセルロースナノファイバーは、いずれもFT-IRスペクトルのカルボキシル基の振動吸収ピーク(1611cm-1)強度が、比較例1のセルロースナノファイバーより小さい。
【0041】
試験例3
実施例1のサンプルA1、A2と比較例1のサンプルC1,C2を使用して、カルボキシル基量を測定した。
<カルボキシル基量の測定>
まず、各サンプルの凍結乾燥物(セルロースナノファイバー)0.3gをそれぞれ精秤し、55mlの超純水を加えた。
次に、0.01M塩化ナトリウム水溶液5mLを加えて、0.05M水酸化ナトリウム水溶液でpHを9程度とした後、パルプが十分に分散するまで30分間撹拌した。
その後、0.1M塩酸を加えてpHを3.0としてから30分間程度静置した後、0.05水酸化ナトリウム水溶液を0.1ml/minの一定速度で注入し、30秒毎の電気電導度とpHの値を測定し、pHが10程度になるまで測定を行った。
弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量を求め、下式を用いてカルボキシル基の量を算出した。結果を表2に示す。
カルボキシル基量〔mmol/gセルロース〕
=水酸化ナトリウムの消費量〔ml〕×0.05/セルロースナノファイバー質量〔g〕
【0042】
【表2】
【0043】
表2に示す結果から、実施例1の場合には、導入されたカルボキシル基量が0.26〜0.34mmol/gであった。
一方、比較例1の場合には、導入されたカルボキシル基量が1.51〜1.73mmol/gであった。
比較例1に比べて、実施例1で得られた酸化セルロースのカルボキシル基量は著しく少なかった。この結果から、本発明の製造方法によれば、従来技術と比べてカルボキシル基の量が著しく小さいセルロースナノファイバーを得ることができることが確認できた。
【0044】
試験例4(熱安定性の評価)
実施例1(A1)、比較例1(C1)のセルロースナノファイバー、対照となる原料パルプを使用して、熱安定性を評価した。
それぞれのサンプルを、示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA)によりサンプルの各温度における質量変化の割合を測定した。表3に示す通り、質量減少率が小さいほど、熱安定性が高いことを示している。
【0045】
【表3】
【0046】
表3から明らかなように、実施例1で得られたセルロースナノファイバー(カルボキシル基量:0.34mmol/g)の質量減少率は、比較例1のセルロースナノファイバー(カルボキシル基量:1.73mmol/g)より小さかった。
【0047】
比較例2
実施例2において、pHが8.0(pH=8±0.1)の次亜塩素酸と次亜塩素酸ナトリウムの混合溶液の代わりに、実施例3により調製したpH=1(pH=1±0.1)の次亜塩素酸80ml(有効塩素濃度:0.6mol/L)に、市販の広葉樹由来の漂白済みクラフトパルプ1.5g(乾燥機で乾燥したもの)を加えた。
3時間攪拌した後、孔径40μmのガラスフィルターでろ過し、5回水洗することで生成物を得た。上記の生成物を蒸留水で分散させ、固形分濃度0.1%にした分散液を超音波ホモジナイザーで4分間処理したが、透明な分散液が得られなかった。
その乾燥したものを走査型電子顕微鏡で観察したところ、ナノファイバーに変化していなかった(繊維状にならなかった)。
【0048】
比較例3
実施例2において、pHが8.0(pH=8±0.1)の次亜塩素酸と次亜塩素酸ナトリウムの混合溶液の代わりに、pH=12(pH=12±0.1)の有効塩素濃度5%の次亜塩素酸ナトリウム80ml水溶液(0.4mol/L)に、市販の広葉樹由来の漂白済みクラフトパルプ1.5g(乾燥機で乾燥したもの)を加えた。
3時間攪拌した後、孔径40μmのガラスフィルターでろ過し、5回水洗することで生成物を得た。上記の生成物を蒸留水で分散させ、固形分濃度0.1%にした分散液を超音波ホモジナイザーで4分間処理したが、透明な分散液が得られなかった。
その乾燥したものを走査型電子顕微鏡で観察したところ、ナノファイバーに変化していなかった(繊維状にならなかった)。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のセルロースナノファイバー分散液は、そのまま、または前記分散液から分離したセルロースナノファイバーとして利用することができる。前記セルロースナノファイバーは、電子機器材料、食品・化粧品などの包装材、有機または無機複合体化による担持用材などに利用できる。
図1
図2
図3
図4