(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら、フランジ同士が締結された本実施形態の流体装置およびその製造方法について説明する。本実施形態では、かかる流体装置の一例として、遠心圧縮機について説明する。
【0018】
〔遠心圧縮機の構成〕
まず、
図1および
図2を参照し、本実施形態の遠心圧縮機1の構成を説明する。
遠心圧縮機1(以下、圧縮機1)は、複数のインペラ2を有し、多段式に構成されている。圧縮機1は、プラント設備等に組み込まれており、導入されるプロセスガスを圧縮して吐出する。
圧縮機1は、複数のインペラ2が備えられたロータ3と、ダイアフラム群4と、シール装置5と、上半車室20および下半車室30から構成される車室6とを備えている。
【0019】
ロータ3は、水平方向に沿って延びている回転軸3Aと、回転軸3Aの外周部に結合された複数のインペラ2とを有している。回転軸3Aの軸線をAで示し、軸線Aに沿った方向を軸線方向D1と称する。回転軸3Aの両端部は、図示しない軸受により車室6の外側で支持されている。
【0020】
回転軸3Aに接続されたモータ等の駆動源により回転軸3Aが回転するのに伴い、複数のインペラ2が回転駆動される。そうすると、各インペラ2は、プロセスガス(作動流体)を遠心力により圧縮する。
【0021】
ダイアフラム群4は、複数段のインペラ2のそれぞれに対応して軸線方向D1に沿って配列された複数のダイアフラム40から構成されている。ダイアフラム40は、リターンベーン40Rを介して連結された部材40A,40Bからなる。
ダイアフラム群4は、インペラ2を外周側から覆っている。
ダイアフラム40および車室6の内壁は、インペラ2の流路に連通してプロセスガスを通過させる流路を区画している。
【0022】
ロータ3の回転により吸込口11から車室6内に吸い込まれたプロセスガスは、吸込流路12を通じて最初の段のインペラ2に流入し、インペラ2の流路の出口からディフューザ流路13により径方向外側に向けて流れ、さらに、曲がり流路14、およびリターン流路15を通り次段のインペラ2の内周側に位置する流路の入口へと流入する。そして、インペラ2の流路、ディフューザ流路13、曲がり流路14、およびリターン流路15を経て次段のインペラ2へと流入するのを繰り返し、最終段のインペラ2からディフューザ流路13および吐出ボリュート16を経て、吐出口17を通り車室6の外へと吐出される。
【0023】
吐出ボリュート16は、車室6の周方向全体に亘り、環状に形成されている。この吐出ボリュート16は、最終段のインペラ2から流出した高圧ガスが流れるディフューザ流路13の延長上の位置に対して、軸線方向D1の内側(上流側)に向けて拡がるように形成されている。
本実施形態では、吐出ボリュート16の拡がる向きを軸線方向D1の内側に定めていることにより、車室6の後端部が軸線方向D1の下流側に向けて膨らむことを抑えている。
車室6の上半車室20の後端部は、フランジ61よりも背が高い台座24を有しており、下半車室30の後端部は、フランジ62よりも背が高い台座34を有している。
【0024】
シール装置5は、回転軸3Aの外周部と車室6との間を全周に亘り封止することにより、車室6の外部へとプロセスガスが漏れるのを防止する。シール装置5としては、ラビリンスシールが好適である。
シール装置5は、回転軸3Aの両端側にそれぞれ配置されており、シールハウジングホルダ51に保持される。シールハウジングホルダ51の外周部と車室6との間はシール部材52により封止される。
【0025】
車室6は、略円筒状に形成されており、ロータ3およびダイアフラム群4を内部に収容するとともに、シールハウジングホルダ51の外周部を包囲する。
車室6は、接触するプロセスガスに関する耐食性を備えた金属材料から形成することができる。本実施形態の車室6は、ステンレス鋼から形成されている。
【0026】
車室6は、軸線Aを含む水平面に沿って分割されている上半車室20(
図1、
図2)と、下半車室30(
図1)とを備えている。上半車室20と下半車室30とは、それぞれのフランジ61,62同士が締結されることで、一体化されている。
【0027】
上半車室20は、
図1および
図2に示すように、ロータ3およびダイアフラム群4を収容する収容部21と、シールハウジングホルダ51を包囲する包囲部22と、収容部21および包囲部22の下端から水平方向外側に突出したフランジ61とを備えている。
収容部21は、半円筒状の周壁210と、周壁210の前端を塞ぐ前側壁211と、周壁210の後端を塞ぐ後側壁212とを有している。
包囲部22は、収容部21よりも径が小さい半円筒状に形成され、収容部21よりも前側(上流側)と、収容部21よりも後側(下流側)とにそれぞれ配置されている。
【0028】
フランジ61は、収容部21および包囲部22の下端部の全体に亘り配置されている。フランジ61には、ボルトがそれぞれ挿通される多数の挿通孔610(
図2)が形成されている。挿通孔610は、フランジ61の全周に亘り分散して配置されている。これらの挿通孔610には、それぞれ、上半車室20と下半車室30との締結に用いられるボルト70(
図1)が挿通される。
【0029】
吐出口17が位置する車室6の後端部6B付近の挿通孔610のうち、軸線方向D1の最も内側(上流側)に位置し、かつ、車室6の径方向D2において最も回転軸3Aに近い位置にある挿通孔610X(
図2)には、最終段により圧縮されたガスの圧力に抵抗するため、通しボルト70A(
図1)を用いることが好ましい。通しボルト70Aは、植込みボルト70B(
図1)と比べて、締付力の強化と、軸周りのより広範な範囲への応力分散とを実現する。
その他の挿通孔610には、植込みボルト70Bを使用しても、通しボルト70Aを使用してもいずれでも良い。
【0030】
下半車室30(
図1)も、上半車室20と同様に、収容部31と、シールハウジングホルダ51を包囲する包囲部32と、収容部31および包囲部32の下端から水平方向外側に突出したフランジ62とを備えている。
下半車室30のフランジ62には、ボルトが挿通される貫通孔、あるいはボルトがねじ込まれる雌ねじが形成されている。これらの貫通孔および雌ねじの図示は省略する。
【0031】
下半車室30のフランジ62の上面と、上半車室20のフランジ61の下面とが互いに突き合わせられる。以下では、フランジ62の上面と、フランジ61の下面のことをフランジ61とフランジ62との合わせ面612(
図3)と称する。フランジ61の合わせ面612は水平方向に沿って平坦に形成されている。
【0032】
上述した通しボルト70Aは、頭部701および軸部(図示省略)を有する。フランジ61の下面とフランジ62の上面とが突き合わせられた状態で、通しボルト70Aの軸部は、上半車室20のフランジ61の挿通孔610と、下半車室30のフランジ62の図示しない貫通孔とに通される。フランジ62よりも下方に突出した通しボルト70Aの軸部はナット71にねじ込まれる。
【0033】
上述した植込みボルト70B(スタッドボルト)は、両端側にねじを有する。植込みボルト70Bは、フランジ61の挿通孔610と、下半車室30のフランジ62の雌ねじとに挿入される。植込みボルト70Bの上端部は、ボルトの頭部として機能するナット72にねじ込まれる。
【0034】
通しボルト70A、植え込みボルト70B、およびナット71,72は、フランジ61,62の降伏強度よりも大きい降伏強度を有するものとする。
【0035】
図3(a)に、フランジ61とフランジ62とがボルト70により締結されている状態を示す。ボルト70の一例として植込みボルト70Bを示している。ボルト70の軸力が十分に作用することで、フランジ61とフランジ62とが十分な締付力で確実に締結される。
【0036】
さて、圧縮機1の運転時に、車室6の内部のガスの圧力によりフランジ61の合わせ面612に開口(隙間)を生じ、その開口を通じて車室6の外部へとガスがリークするのを防ぐ必要がある。また、ガスの圧縮による昇温に伴い、車室6内の上流側と下流側とに生じる温度差や、特に、車室6内の後端部付近における高圧ガスの温度と、車室6の後端部の近くに位置する軸受(図示しない)との温度差に起因した、フランジ61,62の熱変形により、合わせ面612から内部のガスがリークするのを防ぐ必要がある。
【0037】
ところが、本実施形態の車室6のように、使用ガスに関する耐食性を備えた材料を選定したり、材料の入手性を優先させたりすると、運転時に、弾性域を超える過大な応力が与えられてフランジ61,62が塑性変形するリスクがある。
【0038】
図4は、本実施形態の車室6に使用されるステンレス鋼と、本実施形態のステンレス鋼よりも降伏強度の大きい機械用合金鋼とのそれぞれの応力−ひずみ曲線を示している。ここで、ステンレス鋼の弾性率と、機械用合金鋼の弾性率とは同等である。
【0039】
図4には、圧縮機1の運転時にフランジ61,62に発生する応力として、フランジ61,62の板厚が相対的に大きい場合の運転時応力σ1と、板厚レベルが中の場合の運転時応力σ2と、板厚が小さい場合の運転時応力σ3とを示している。
【0040】
図4に破線で示すように、機械用合金鋼から車室6が形成されていると、フランジ厚さが大、中、小のいずれの場合でも、運転時にフランジ61,62に発生する応力は弾性域にある。
しかし、
図4に実線で示すように、ステンレス鋼から車室6が形成されていると、フランジ厚さが大きい場合は、運転時にフランジ61,62に発生する応力σ1が弾性域にあるものの、フランジ厚さが中あるいは小の場合は、運転時にフランジ61,62に発生する応力σ2,σ3が弾性域を超えるため降伏に至り、フランジ61,62が塑性変形する。
ここで、圧縮機1の組立て後に、運転を含む調整作業を行った結果、圧縮機1の運転時の応力範囲に亘りフランジ61,62のひずみを弾性域に収めることが可能な厚さにフランジ61,62を設定する。本実施形態においては、
図6を参照して後述するように、相対的に中程度のフランジ板厚を選定することが好ましい。
【0041】
図3(b)を参照し、フランジ61,62の塑性変形のリスクについて説明する。
図3(b)に示す例では、高圧ガスの圧力やフランジ61,62の熱変形により、フランジ61の座面61Aにナット72が過大な力で押し付けられることで、フランジ61の降伏強度を超え、座面61Aが陥没するようにフランジ61が塑性変形している。陥没によりフランジ61に形成された窪み61Bの深さは、例えば、数十μm程度である。
ナット72と座面61Aとの間に配置される座金の図示は省略する。実際は、座金と同等の大きさの窪みがフランジ61に形成される。
上述したように、ボルト70およびナット72は、フランジ61,62の降伏強度よりも大きい降伏強度を有しており、運転時に作用する応力範囲に亘り降伏しない。
【0042】
座面61Aは、植込みボルト70Bのナット72や、通しボルト70Aの場合は頭部701を座金を介して受けるものであり、フランジ61においてボルト70の軸回りの領域に設定されている。
通しボルト70Aの場合は、フランジ62にも、ナット72を座金を介して受ける座面が軸周りの領域に設定されている。
【0043】
座面61Aに加え、合わせ面612の近傍でも、高圧ガスの圧力やフランジ61,62の熱変形により締付力が過大となることで、フランジ61,62の降伏強度を超え、塑性変形が生じている。座面61Aと比べて、合わせ面612ではボルト70の軸周りのより広い範囲に応力が分散する。
図3(b)に示す例では、植込みボルト70Bがフランジ62を引き上げるため、上側のフランジ61が陥没している。なお、フランジ61,62の塑性変形の態様はボルト70の種類によっても変わり、
図3(b)にはあくまで一例を示している。
【0044】
図3(b)に示すようにフランジ61,62の両方あるいはいずれか一方が塑性変形すると、ボルト70の軸力(締付力)が低下する。そうすると、リークを防ぐために合わせ面612に必要な面圧が不足してしまう。これが、フランジ61,62の塑性変形によるリスクに該当する。
【0045】
フランジ61,62の合わせ面612に必要な面圧を予め設定することは難しいため、出荷前の圧縮機1を試運転することで、合わせ面612からリークしないことを実証すればよい。リークが発生していたならば、締付力を増加させるための調整作業を行うことはできる。
しかしながら、リーク発生後、圧縮機1の運転を止めて行う調整作業において、運転時のフランジ61,62の弾性域における変形を考慮しつつ、座面61Aと合わせ面612とにおいて降伏強度を超えない限度で締付力を増加させることは困難である。
【0046】
そこで、本実施形態では、塑性変形をリスクと捉えず、むしろ、フランジ61,62の塑性変形を積極的に利用した製造プロセスを採用することにより、フランジ61,62間からのリーク防止に有効な圧縮機1の製造方法を提供する。
【0047】
〔圧縮機の製造方法〕
図5を参照し、圧縮機1を製造する手順を説明する。
まず、圧縮機1を適宜、組立てる(組立ステップS1)。
この組立ステップS1は、上半車室20のフランジ61と下半車室30のフランジ62とを複数のボルト70により締結する締結ステップを含む。
組立ステップS1では、ロータ3およびダイアフラム群4を組み付け、回転軸3Aにシール装置5およびシールハウジングホルダ51を組み付け、それら一式を下半車室30と上半車室20との間に収容したならば、フランジ61,62を突き合わせて複数のボルト70により締結する。こうして上半車室20と下半車室30とが一体化されることで車室6が構成される。
【0048】
フランジ61,62が締結されたならば、運転ステップS2(加工硬化ステップ)を行い、フランジ61,62をあえて塑性変形させる。
この運転ステップS2では、車室6にプロセスガスを導入し、圧縮機1を所定時間に亘り運転する。運転中は、圧縮されたプロセスガスの圧力がフランジ61,62に作用するため、運転前のボルト70の軸力よりも大きい軸力(締付力)がフランジ61,62に作用する。フランジ61,62には、ガスの圧力と、フランジ61,62およびその周辺における急激な温度勾配とにより、車室6の材料(ステンレス鋼)の弾性域に対応する応力範囲に対して過大な応力が発生する。フランジ61,62に加えられた応力が降伏強度を超えることで、座面61Aおよび合わせ面612を構成するフランジ61,62が塑性変形に至る(例えば、
図3(b))。
図4に示すように、フランジ厚さレベルが中の場合は、塑性変形により塑性ひずみε2を生じ、フランジ厚さが小さい場合は、塑性変形により塑性ひずみε3を生じる。塑性変形した部位は、硬さが増す(加工硬化)。
【0049】
運転ステップS2の後、圧縮機1の運転を停止すると、ガスの圧力や熱変形による応力が除荷され、
図6(a)に示すように、座面61Aや合わせ面612等の塑性変形した部位に塑性ひずみが残留する。フランジ厚さレベルが中の場合に残留する塑性ひずみをεp2で示し、フランジ厚さレベルが小の場合に残留する塑性ひずみをεp3で示す。
フランジ厚さが中および小の場合の残留応力は、本実施形態で用いるステンレス鋼の降伏強度σyの約2倍の2σyであるものとする。
【0050】
運転ステップS2を終えると、例えば
図3(b)に示すように、フランジ61の座面61Aの近傍と、フランジ61,62の合わせ面612の近傍とが塑性変形している。塑性変形していると、ボルト70による軸力が低下するため、合わせ面612からリークするおそれがある。
そこで、フランジ61,62によるガスのシール性を確保するため、塑性変形したフランジ61,62の少なくとも一方に修正を施す修正加工ステップS3(
図5)を行う。
【0051】
修正加工ステップS3では、フランジ61,62からボルト70を取り外して締結を解除し、座面61Aおよび合わせ面612のうち少なくとも合わせ面612を切削、研磨等により、塑性変形前の形状に倣って平坦に加工する。フランジ61の座面61Aも、外観向上等のため、平坦に加工することが好ましい。
なお、通しボルト70Aにより締結された箇所では、通しボルト70A(
図1)の頭部701を受けるフランジ61の座面と、通しボルト70Aの軸部の先端側にねじ込まれるナット71を受けるフランジ62の座面とがそれぞれ陥没するように塑性変形する。これらの座面も、塑性変形前と同様に平坦に加工することが好ましい。
【0052】
修正加工ステップS3では、降伏により陥没した部位の周りや、降伏により突出した凸部を除去することで、フランジ61,62の合わせ面612を平坦に形成すればよい。
図3(c)に示す例では、フランジ62の凸部623を二点鎖線に沿って研磨等により除去することで、フランジ62の上面を平坦に形成する。
修正加工のためフランジ61,62が除去されることを考慮し、必要に応じて、予め、剛性および強度の確保のために必要な厚さよりも少し厚い寸法にフランジ61,62を形成しておくことが好ましい。つまり、フランジ61,62のいずれか一方または両方に予め余肉を持たせておく。例えば、剛性および強度確保のために必要な厚みの約1%分だけ、フランジ61,62の厚みを増しておくことができる。
【0053】
修正加工ステップS3を終えたならば、上半車室20のフランジ61と下半車室30のフランジ62とを改めてボルト70で締結する再締結ステップS4(
図5)を行う。このとき、加工硬化前の締結時(ステップS1)と同等の締付トルクをボルト70に導入すればよい。
運転ステップS2においてフランジ61,62が降伏してもボルト70は降伏していないため、修正加工ステップS3時にフランジ61,62から抜き取ったボルト70をそのままフランジ61,62に戻すことができる。無論、再締結ステップS4において新しいボルト70に交換してもよい。
【0054】
再締結ステップS4を終えた圧縮機1を再び運転すると、車室6の材料に関して
図6(b)に示すような応力−ひずみ曲線が得られる。フランジ61,62に用いる材料の降伏強度は、
図6(a)に示した残留応力2σyに相応の降伏強度へと増大している。つまり、上述した運転ステップS2および修正加工ステップS3を経ることで、加工硬化に基づいて降伏強度が増加する。
ここでは、フランジ厚さが中の場合に、圧縮機1の運転時の応力範囲に亘りフランジ61,62のひずみを弾性域に維持できる、つまり、フランジ61,62の板厚を大きく確保しなくとも、運転時に作用する応力によりフランジ61,62が塑性変形するのを回避でき、そのため、ボルト70による軸力を維持できる。したがって、締付力を増加させなくとも、リーク防止に必要な面圧を合わせ面612に安定して確保できる。
以上で説明したステップS1〜S4を経て、圧縮機1の製造が完了する。
【0055】
その後に出荷された(ステップS5)圧縮機1によれば、運転時にフランジ61,62を塑性変形させることなくボルト70の軸力を維持することができる。そのため、合わせ面612に所定の面圧を与えながら、合わせ面612からのリークを抑止する効果を安定して得ることができる。
仮に、リークが発生したため、締付力の増加が必要となったとしても、降伏強度が増加しているため、フランジ61,62の弾性域においてボルト70を増し締め可能である。
【0056】
再締結ステップS4の後、出荷前に圧縮機1を運転し、リークしない、あるいはリークが十分に低減されていることを確認するようにしてもよい。
【0057】
本実施形態の製造方法によれば、出荷前に必要な試運転を兼ねた調整作業(ステップS2〜S4)において、運転時のガス圧力や急激な温度差によりフランジ61,62が塑性域にまで変形するため、加工硬化に基づいて降伏強度を増加させることができる。そのため、材料使用量の多い車室6に、入手性は良くても材料強度の低い材料を用いていながら、出荷後の運転時には、フランジ61,62に加えられた応力による塑性変形を回避できる。そのため、必要な面圧を合わせ面612に確保してリークを防止しながら、安定して運転することができる。本実施形態によれば、車室6の材料選択の自由度を向上させることができる。
【0058】
本実施形態の手法によれば、車室6の形状等を設計変更することなく、事後的に、圧縮機1を運転して塑性変形を生じさせる製造プロセスによりフランジ61,62の降伏強度を増加させることができる。そのため、既存機への適用も可能である。
つまり、新規に圧縮機1を製造する場合に限らず、既存の圧縮機1のフランジ61,62間のシール性を向上させる目的で、締結されているフランジ61,62に過大な応力が加わり塑性変形するように既存の圧縮機1を運転し(加工硬化ステップ)、塑性変形したフランジ61,62の少なくとも合わせ面612を平坦に加工してから(修正加工ステップ)、再度、フランジ61,62をボルト70で締結することもできる。本発明における「製造」は、このように既存機を改修することも含む。
【0059】
以下、本実施形態の車室6に備わるリーク防止のための構成を説明する。以下で述べる構成を備える圧縮機1を上述の製造方法(
図5)により製造することで、ガスの圧力が最大となる車室6の後端部からのフランジ61,62間を通じたリークをより十分に防止することができる。
【0060】
(1)吐出ボリュート16(
図1)を軸線方向D1の内側に向けて巻くように拡がる形状とするとともに、(2)インペラ2の最終段および回転軸3Aに最も近いボルト70のタイプを通しボルト70Aに定め、通しボルト70Aの座面を他のボルト70の座面の位置よりも高くしてある。
通しボルト70Aの座面は、上半車室20の後端部の台座24の上面および下半車室30の後端部の台座34の下面に相当する。通しボルト70Aの軸部がねじ込まれるナット71の座面が、台座34の下面に相当する。
これらの台座24,
34を設けていることにより、強度の観点より車室6の後端部に必要な肉厚を確保しながら、通しボルト70Aおよびそれを受ける部材が吐出ボリュート16の位置と干渉するのを避けることができる。
【0061】
上記の(1)、つまり、吐出ボリュート16の位置が軸線方向D1の内側にシフトされることで、吐出口17から、回転軸3Aの後端側の軸受までの温度勾配が緩和されるため、急峻な温度差に起因するフランジ61,62の熱変形を抑え、リーク防止を図ることができる。
また、上記の(1)により吐出ボリュート16を軸線方向D1の内側に向けて退避させているため、上記の(2)により車室6に必要な肉厚を確保しつつ、
図2の挿通孔610Xの位置のように、最終段および回転軸3Aに出来るだけ近い位置に通しボルト70Aを設けることができるし、回転軸3Aが長くなることも避けられる。回転軸3Aが短いことで、回転軸3Aの剛性を十分に確保することができ、剛性を確保しつつ回転軸3Aの径を小さくすることで車室6の小型化を図ることもできる。
挿通孔610Xは、軸線方向D1においても径方向D2においても、シールハウジングホルダ51の近傍に位置する。挿通孔610Xは、フランジ61の内周側の端縁に近いため、挿通孔610Xに通されるボルトにより、フランジ61の内周側の端縁まで面圧を確保できる。このため、フランジ61,62によるシール性を向上させることができる。
【0062】
〔本発明の変形例〕
ところで、圧縮機1の運転時において、フランジ61,62には、熱応力ラチェット変形による塑性ひずみが累積する(
図7)。熱応力ラチェット変形とは、時間的に変動しない定常応力の作用している部材に、塑性変形を伴う熱応力サイクルが重畳して負荷されるとき、熱応力の方向や大きさに依存して、ある特定の方向に塑性変形が生じ、かつそれが次第に成長することをいう。
このようなラチェット変形を考慮し、フランジ61,62に過大な応力を発生させて塑性変形させる加工硬化ステップ(
図5のS2)を複数回(例えば5回)、繰り返して行うことが好ましい。この加工硬化ステップでは、ボルト70の軸力によりフランジ61,62に板厚方向に定常応力が作用した状態で、熱応力サイクルが重畳負荷される。そうして起こるラチェット変形による塑性変形は、典型的にはフランジ61,62の板厚方向に生じる。
圧縮機1の停止を挟んで、加工硬化ステップを繰り返すことで、
図7に示すように、フランジ61,62の残留ひずみを十分に累積させることができる。こうして、ラチェット変形が与える塑性ひずみへの影響を排除することができるため、修正加工ステップ(
図5のS3)を終えた後の運転時に得られる軸力が安定し、フランジ61,62によるシール性をより安定して確保することができる。
【0063】
上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
本発明は、締結されるフランジを備え、内部の流体(気体または液体)の圧力がフランジに作用する限り、圧縮機1の車室6以外にも、過給機やポンプ等の種々の機械のケース、あるいは圧力容器や配管等の種々の構造を製造するために用いることができる。
上記より、本発明の「流体装置」は、車室やケースを備えた種々の機械、容器、および配管を包含する。
本発明における締結部材には、ボルトに限らず、ねじの切られていないものも含めてファスナ全般(リベットも含む)が該当する。