特許第6872446号(P6872446)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6872446-オレフィンの精製方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6872446
(24)【登録日】2021年4月21日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】オレフィンの精製方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 7/11 20060101AFI20210510BHJP
   C07C 11/06 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   C07C7/11
   C07C11/06
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-139250(P2017-139250)
(22)【出願日】2017年7月18日
(65)【公開番号】特開2019-19086(P2019-19086A)
(43)【公開日】2019年2月7日
【審査請求日】2020年5月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】栗下 泰孝
(72)【発明者】
【氏名】美河 正人
(72)【発明者】
【氏名】片山 雄治
(72)【発明者】
【氏名】松村 大輔
【審査官】 山本 昌広
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/110492(WO,A1)
【文献】 特表2004−509155(JP,A)
【文献】 特開昭56−75440(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第1676500(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 7/00−11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィンを含む原料ガスからオレフィンを精製する方法であって、
以下の工程:
温度10℃以上100℃以下、圧力0.1MPaG以上1.0MPaG以下の条件下、オレフィンを含む原料ガスを、一価又は二価のカチオンと、硝酸イオン、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、シアン化物イオン、チオシアン酸イオン、過塩素酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、及び硫酸イオンからなる群から選ばれる少なくとも一種のアニオンとからなる塩を含有する、オレフィン吸収液と接触させて、前記オレフィンを吸収した前記オレフィン吸収液である、オレフィン吸収後吸収液とする、第1工程;並びに、
前記第1工程に引き続いて、温度10℃以上100℃以下、圧力−0.09MPaG以上0.3MPaG以下の条件下で、前記オレフィン吸収後吸収液から前記オレフィンを放散させて、前記オレフィンを回収する第2工程;
を含
前記オレフィン吸収液中の一価又は二価のカチオンは、
銀イオン及び/又は一価の銅イオンと、
Na、K、Mg2+、又はCa2+
を含み、
前記オレフィン吸収液中の前記銀イオン及び/又は一価の銅イオンの濃度が、0.01mol/L以上である、
オレフィンの精製方法。
【請求項2】
前記オレフィン吸収液中の前記銀イオン及び/又は一価の銅イオンの濃度が、0.01mol/L以上1.00mol/L以下である、請求項1に記載のオレフィンの精製方法。
【請求項3】
前記オレフィン吸収液中のアニオンが、硝酸イオン、フッ化物イオン、ヨウ化物イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、及び硫酸イオンからなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項1又は2に記載のオレフィンの精製方法。
【請求項4】
前記オレフィン吸収液中の溶媒が、水、アルコール、イミダゾリウム系化合物、及びピリジニウム系化合物から選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載のオレフィンの精製方法。
【請求項5】
前記オレフィン吸収液中の溶媒が水を含む、請求項4に記載のオレフィンの精製方法。
【請求項6】
前記オレフィンの精製方法が、吸収塔及び放散塔を有する精製装置を用いて行われ、
前記吸収塔で前記第1工程が行われ、
前記放散塔で前記第2工程が行われる、
請求項1〜5のいずれか一項に記載のオレフィンの精製方法。
【請求項7】
前記原料ガスに含まれるオレフィンの濃度が、60%以上99.99%以下である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のオレフィンの精製方法。
【請求項8】
前記原料ガスに含まれるオレフィンの濃度が、80%以上99.99%以下である、請求項7に記載のオレフィンの精製方法。
【請求項9】
前記原料ガスに含まれるオレフィンの濃度が、90%以上99.99%以下である、請求項8に記載のオレフィンの精製方法。
【請求項10】
前記原料ガスに含まれるオレフィンの濃度が、95%以上99.99%以下である、請求項9に記載のオレフィンの精製方法。
【請求項11】
前記原料ガスに含まれるオレフィンの濃度が、99.5%以上99.99%以下である、請求項10に記載のオレフィンの精製方法。
【請求項12】
前記オレフィンが、ブテン、プロピレン及びエチレンからなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項1〜11のいずれか一項に記載のオレフィンの精製方法。
【請求項13】
前記オレフィン吸収液からオレフィンを放散させた後のオレフィン放散後吸収液を、オレフィン吸収液として再利用する工程を含む、請求項1〜12のいずれか一項に記載のオレフィンの精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィンを主成分とする原料からオレフィンを濃縮精製するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低級オレフィンの一例であるプロピレンは、ポリプロピレン等の合成樹脂製品、アクリロニトリル等の、合成ゴム製品の原料として知られているが、半導体の電子材料分野でも利用される場合がある。かかる用途については、プロピレンはより高純度であることが要求される。
プロピレン等のオレフィンを高純度化するための原料として用いられる、プロピレン等のオレフィンを主成分とする原料ガスには、不純物として例えばプロパン等のパラフィンが含まれている。この原料ガスからプロピレン等のオレフィンを精製する方法としては、例えば、蒸留、膜分離、吸着分離、あるいは化学吸収が知られている。
二重結合を有するオレフィンは銀イオン銅イオンと錯体を形成するが、パラフィンは銀イオン錯体を形成しないことが従来から知られている。この化学的性質により、一定条件の下では、銀イオンを含む吸収液(例えば硝酸銀水溶液)に対するオレフィンの溶解度が当該吸収液に対するパラフィンの溶解度よりも相当に大きいことも知られている。この性質を利用した化学吸収に関する文献が開示されている(特許文献1及び2)。
電子材料分野では、製造プロセスの歩留り向上を目的に、プロピレンの純度をさらに上げることが求められている。そのため、精製されたオレフィンガスの純度をさらに上げる目的で、吸収液中の硝酸銀等の濃度を上げることが検討されている。
【0003】
硝酸銀水溶液に対するプロピレンの溶解度は、非特許文献1に詳細が示されている。この文献によると、硝酸銀濃度を上げるほど、硝酸銀水溶液へのオレフィンの溶解度が高くなると推測される。そのため、精製オレフィンガスの純度を高めることが期される。しかしながら、硝酸銀濃度を上げると回収率が下がる。すなわち、精製オレフィンガスの純度と回収率の間にはトレードオフの関係があり、実益上の観点から限界があるとされている。また、硝酸銀濃度を上げると、原料ガス中に含まれるアセチレン類が、精製装置内で容易に析出。そのため、安全上の観点から、硝酸銀水溶液中の硝酸銀濃度を上げることには限界があると推測される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5546447号公報
【特許文献2】特許第1539267号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Solubility of Propylene in Aqueous Silver Nitrate,Cho,I.H.;Cho,D.L.;Yasuda,H.K.;Marrero,T.R.,J.Chem.Eng.Data 1995,40,102.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明における課題は、高純度のオレフィンガスを製造することである
【課題を解決するための手段】
【0007】
化学吸収によって高純度のオレフィンを得るためには、吸収液に吸収されないガス(非吸収ガス)の吸収液への溶解性を下げることが必要となる。水への溶質の溶解量を下げるために、例えば、水溶液のイオン強度を高めるという手法をとることができる。つまり、吸収液中のイオン強度を上げることによって、吸収液への非吸収ガスの溶解性を下げられる可能性がある。
本発明者は、上記の考察に基づいて、本発明を着想し、実現するに至った。すなわち、吸収液中の硝酸銀濃度ではなくイオン強度を上げることによって、実益に見合った回収率を保ちつつ、精製オレフィンガスの純度を高くできることを見出した。
すなわち本発明は、以下のとおりである。
[1]オレフィンを含む原料ガスからオレフィンを精製する方法であって、
以下の工程:
温度10℃以上100℃以下、圧力0.1MPaG以上1.0MPaG以下の条件下、オレフィンを含む原料ガスを、一価又は二価のカチオンと、硝酸イオン、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、チオシアン酸イオン、過塩素酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、及び硫酸イオンからなる群から選ばれる少なくとも一種のアニオンとからなるを含有する、オレフィン吸収液と接触させて、前記オレフィンを吸収した前記オレフィン吸収液である、オレフィン吸収後吸収液とする第1工程;
前記第1工程に引き続いて、温度10℃以上100℃以下、圧力−0.09MPaG以上0.3MPaG以下の条件下で、前記オレフィン吸収後吸収液から前記オレフィンを放散させて、前記オレフィンを回収する第2工程;
を含むオレフィンの精製方法。
[2]前記オレフィン吸収液中の前記塩の濃度が0.01mol/L以上10mol/L以下である、[1]に記載のオレフィンの精製方法。
[3]前記オレフィン吸収液中の前記塩の濃度が0.1mol/L以上10mol/L以下である、[2]に記載のオレフィンの精製方法。
[4]前記オレフィン吸収液中の前記塩の濃度が1mol/L以上10mol/L以下である、[3]に記載のオレフィンの精製方法。
[5]前記オレフィン吸収液中の前記塩の濃度が5mol/L以上10mol/L以下である、[4]に記載のオレフィンの精製方法。
[6]前記塩のカチオンが、銀イオン及び/又は一価の銅イオンを含む、[1]〜[5]のいずれかに記載のオレフィンの精製方法。
[7]前記原料ガスに含まれるオレフィンの濃度が60%以上99.99%以下である、[1]〜[6]のいずれかに記載のオレフィンの精製方法。
[8]前記原料ガスに含まれるオレフィンの濃度が80%以上99.99%以下である、[7]に記載のオレフィンの精製方法。
[9]前記原料ガスに含まれるオレフィンの濃度が90%以上99.99%以下である、[8]に記載のオレフィンの精製方法。
[10]前記原料ガスに含まれるオレフィンの濃度が95%以上99.99%以下である、[9]に記載のオレフィンの精製方法。
[11]前記原料ガスに含まれるオレフィンの濃度が99.5%以上99.99%以下である、[10]に記載のオレフィンの精製方法。
[12]前記オレフィンがブテン、プロピレン及びエチレンからなる群から選ばれた少なくとも一種である、[1]〜[11]のいずれかに記載のオレフィンの精製方法。
[13]前記オレフィン吸収液からオレフィンを放散させた後のオレフィン放散後吸収液を、オレフィン吸収液として再利用する工程を含む、[1]〜[12]のいずれかに記載のオレフィンの精製方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、精製されたオレフィンガスの純度と回収率とが両立された、オレフィンの精製方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施の形態に係る精製装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について、その好ましい形態(以下「本実施形態」ということがある。)を中心に、詳細を説明する。
図1は、本実施形態のオレフィンの精製方法に用いられる精製装置の概略構成を示す図である。
本実施形態の精製方法は、原料ガスが吸収塔1及び放散塔2を経ることによって、高純度な精製オレフィン提供されるものである。図1に示す吸収塔1では、原料ガス中のオレフィンを選択的にオレフィン吸収液に抽出する。吸収されなかった非吸収ガスは、非吸収ガス取出口15より系外へと排出される。吸収塔1において、オレフィンを吸収したオレフィン吸収後吸収液は、放散塔2へと供給される。図1に示す放散塔2は、オレフィン吸収後吸収液中のオレフィンを放散する。放散されたオレフィンガス、オレフィンガス取出口23から回収することにより、目的の精製オレフィンガスを得ることができる。オレフィン吸収液からオレフィンを放散した後のオレフィン放散後吸収液は、オレフィン放散後吸収液取出口24より吸収塔1に戻し、オレフィン吸収液として再使用しても構わない。
【0011】
[原料ガス]
本実施形態における原料ガスとは、オレフィンガスを含む、2種類以上のガス成分の混合ガスである。オレフィンガスとしては、分子内にC二重結合を少なくとも1つ有するガスであって、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、ブタジエン等が挙げられる。しかしながら、オレフィンの種類は多岐に渡るため、これだけに限定されるものではない。原料ガス中にはオレフィンガスを60%以上含むことが好ましく、より好ましくは80%以上、それより好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは99.95%以上含む。原料ガスがメタセシス反応由来のガスであると、原料ガス中のオレフィンガスの濃度を高くすることができるため、好ましい。原料ガス中のオレフィンガス濃度が高いと、オレフィン吸収液へのオレフィンガス以外の成分の溶解量ることが期待できる。
【0012】
[精製オレフィンガス]
本実施形態における精製オレフィンガスとは、分子内にC二重結合を少なくとも1つ有するガスであって、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、ブタジエン等が挙げられる。オレフィンの種類は多岐に渡るため、これだけに限定されるものではない。精製オレフィンガス中のオレフィンガスの濃度は、好ましくは99.5%以上、より好ましくは99.9%以上、さらに好ましくは99.99%以上、もっとも好ましくは99.999%以上である。精製オレフィンガス中のオレフィンガスの純度が高いと、CVD等の精製オレフィンガスを用いるプロセスの歩留りを上げられるため、好ましい。
【0013】
[非吸収ガス]
本実施形態における非吸収ガスとは、吸収塔オレフィン吸収液に吸収されなかったガスである。非吸収ガスには、オレフィンガスが含まれていても構わないが、オレフィンガスの濃度は、精製の歩留りを上げる観点から、低い方が好ましい。非吸収ガス中のオレフィンガスの濃度は、好ましくは60%以下、より好ましくは40%以下、さらに好ましくは20%以下である。
【0014】
オレフィン吸収液]
本実施形態におけるオレフィン吸収液とは、オレフィンガスと親和性を持つ塩を含有する液であり、その高いイオン強度により、当該オレフィン吸収液への非吸収ガスの溶解性を下げることが可能となる。
オレフィン吸収液に含有される塩は、カチオンとアニオンから構成される。オレフィン吸収液中のカチオンとしては、オレフィンとの親和性が高いことから、一価の銀イオン、若しくは一価の銅イオン、又はこれらの混合物であることが好ましい。オレフィン吸収液中のカチオンの濃度は、オレフィン吸収液へのオレフィンガスの溶解性を上げられるという観点から、高い方が好ましい。オレフィン吸収液中のカチオンの濃度は、0.01mol/L以上10mol/L以下が好ましく、0.1mol/L以上10mol/L以下がより好ましく、1mol/L以上10mol/L以下がさらに好ましく、5mol/L以上10mol/L以下が最も好ましい。オレフィン吸収液中のカチオンの濃度が0.01mol/L以上10mol/L以下であると、歩留りの観点から好ましく、また、実益上も優れる。
また、本実施形態においては、カチオンとして、上記の銀イオン及び一価の銅イオンの他に銀イオン及び一価の銅イオン以外の一価又は二価のカチオンを加えて、オレフィン吸収液中のカチオン濃度をさらに上げてもよい。このことにより、本発明の効果がより顕著になるので好ましい。銀イオン及び一価の銅イオン以外の一価又は二価のカチオン種として特に限定されないが、えばNa等を使用することができる。オレフィン吸収液が、銀イオン及び一価の銅イオン以外の一価又は二価のカチオンを含むと、高濃度下でも精製ガスの純度と回収率とのバランスが良好となるので好ましい。
【0015】
オレフィン吸収液中のアニオンとしては、一価の銀イオン及び一価の銅イオンとの相溶性の観点から、F(フッ化物イオン)、Cl(塩化物イオン)、Br(臭化物イオン)、I(ヨウ化物イオン)、CN(シアン化物イオン)、NO(硝酸イオン)、SCN(チオシアン酸イオン)、ClO(過塩素酸イオン)、CFSO(トリフルオロメタンスルホン酸イオン)、BF(テトラフルオロホウ酸イオン)若しくはPF(ヘキサフルオロリン酸イオン)又はこれらの混合物であることが好ましい。オレフィン吸収液中のアニオン濃度は、オレフィン吸収液へのオレフィンガス以外のガス成分の溶解性を下げる観点から、高い方が好ましい。オレフィン吸収液中のアニオンの濃度は、0.01mol/L以上10mol/L以下が好ましく、0.1mol/L以上10mol/L以下がより好ましく、1mol/L以上10mol/L以下がさらに好ましく、5mol/L以上10mol/L以下が最も好ましい。オレフィン吸収液中のアニオンの濃度が0.01mol/L以上10mol/L以下であると、歩留りの観点から好ましく、また、実益上も優れる。オレフィン吸収液中のアニオンの濃度を上げるために、銀イオン、銅イオン以外のカチオンと、F、Cl、Br、I、CN、NO、SCN、ClO、CFSO、BFびPFから選ばれるアニオンとを含む塩を、オレフィン吸収液に添加しても構わない。
オレフィン吸収液の溶媒としては、水ポリエチレングリコールのアルコールイミダゾリウム系化合物、ピリジニウム系化合物のイオン液体等が挙げられる。塩の溶解性の観点から、オレフィン吸収液の溶媒は、水を含むことが好ましい。
【0016】
[吸収塔]
吸収塔1は、吸収塔本体11、原料ガス導入口12、オレフィン吸収後吸収液取出口13、オレフィン吸収液導入口14、び非吸収ガス取出口15を有しており、原料ガスをオレフィン吸収液に接触させる。吸収塔本体11は密閉容器であり、その内部には所定量のオレフィン吸収液が受容されている。
原料ガス導入口12は、その端部が例えば吸収塔本体11の内部において、オレフィン吸収液中で開放されており、供給された原料ガスを吸収塔本体11内部に導入する。原料ガス導入口12の開放端部は、例えば単一の開口部を備えていてもよいし、あるいは散気するために複数の開口部を備えていてもよい。
オレフィン吸収後吸収液取出口13は、その端部が吸収塔本体11の内部において開放されており、吸収塔1内のオレフィン吸収後吸収液吸収外へ導出する。導出されオレフィン吸収後吸収液は、放散塔2に送液される。
オレフィン吸収液導入口14は、その端部が吸収塔本体11の内部において開放されており、吸収塔本体11の内部オレフィン吸収液を導入する。
非吸収ガス取出口15は、吸収塔本体11の上部に接続されており、オレフィン吸収液に吸収されなかったガス(非吸収ガス)を塔外へ導出する。
【0017】
[放散塔]
放散塔2は、放散塔本体21、オレフィン吸収後吸収液導入口22、オレフィン放散後吸収液取出口24、びオレフィンガス取出口23を有しており、放散内において、オレフィン吸収後吸収液に吸収されたガス成分を放散させる。放散塔本体21は密閉容器であり、その内部には所定量のオレフィン吸収後吸収液を受容可能である。
オレフィン吸収後吸収液導入口22は、その端部が放散塔本体21内において開放されており、吸収塔本体11から導出されたオレフィン吸収後吸収液を放散塔本体21に導入する。
オレフィン放散後吸収液取出口24は、その端部が放散塔本体21内において開放されており、オレフィン放散後吸収液を放散塔本体21から導出する。導出されオレフィン放散後吸収液は、吸収に戻しても構わない。
オレフィンガス取出口23は、放散塔本体21の上部に設置されており、オレフィン吸収後吸収液から取り出した精製オレフィンガスを塔外へと導出する。
【0018】
[分離メカニズム]
本実施形態におけるガス分離が効率よく実行される機構について説明する。
吸収塔1に導入された原料ガス及びオレフィン吸収液は、塔内で気液接触する。吸収塔の構造は、充填塔、スプレー塔、及びぬれ壁塔のいずれでも構わない。接触は、向流接触、並流接触のいずれでも構わない。吸収塔1が充填塔である場合、気液界面を高める目的で充填塔内に導入される充填物としては、ラシヒリング、レッシングリング、ディクソンパッキン、ポールリング、サドル、マクマホンパッキン、スルザーパッキンが挙げられ、いずれを用いても構わない。吸収塔本体11内の温度は、低温である方がオレフィンの吸収量が多くなるので有利であり、例えば0℃以上60℃以下であることが好ましく、0℃以上40℃以下がより好ましい。吸収塔本体11内の内部圧力は、一定範囲では高圧である方がオレフィンの吸収量が多くなるので好ましい。実用上の観点から吸収塔本体11内の内部圧力は、例えば0.1MPaG(ゲージ圧)以上1.0MPaG以下が好ましい。吸収塔本体11には、オレフィン吸収液を所望の温度に維持するための温度調整装置を取り付けることができる。
【0019】
吸収塔1では、連続的に供給される原料ガスが、オレフィン吸収液と接触することにより当該原料ガス中のオレフィンが優先的にオレフィン吸収液に吸収されて、オレフィン吸収後吸収液を得る、第1工程が行われ一方、非吸収ガスは、塔外へ排出される。オレフィンガスが吸収された後のオレフィン吸収液である、オレフィン吸収後吸収液はオレフィン吸収後吸収液取出口13から塔外へと導出され、放散塔2に送液される。
【0020】
放散塔2に導入されたオレフィンガスが溶解したオレフィン吸収後吸収液は放散内で液中のガス成分を放散する。このような機能を有する放散塔2としては、オレフィン吸収後吸収液液分散させられる構成のものが好適であり、例えば公知の充填塔、スプレー塔が挙げられ、いずれを用いても構わない。また、放散塔2には、放散塔本体21内のオレフィン吸収後吸収液を所望の温度に維持するための温度調整装置を取り付けることができる。
【0021】
オレフィン吸収後吸収液からオレフィンガス成分を効率よく放散させる観点から、放散塔内はオレフィンガスの沸点以上であるような環境にすることが好ましい。この観点から、放散塔本体21内の内部温度は吸収塔本体11に比べて高く設定されていることが好ましく、内部圧力は吸収塔本体11に比べて低く設定されていることが好ましい。放散塔本体21内のオレフィン吸収後吸収液の温度は、例えば10℃以上70℃以下が好ましく、20℃以上70℃以下がより好ましい。放散塔本体21内の内部圧力は、例えば−0.09MPaG以上0.3MPaG以下が好ましく、0MPaG以上0.3MPaG以下がより好ましい。
【0022】
放散塔2では、オレフィンガスが吸収されたオレフィン吸収後吸収液から高純度のオレフィンガスを放散させて取り出す、第2工程が行われる。一方で、オレフィンガスが取り出された後のオレフィン吸収後吸収液である、オレフィン放散後吸収液は、オレフィン放散後吸収液取出口24から塔外へと導出される。放散塔2から導出されたオレフィン放散後吸収液は、オレフィン吸収液として吸収塔1に送液されても構わない。
このようにして、本発明精製方法によって、原料ガスよりもオレフィン濃度が高い高純度のオレフィンガスを得ることができる。
【0023】
以上説明したように、本発明においては、オレフィン吸収液中の硝酸銀濃度ではなく、イオン強度を上げるすなわち、オレフィン吸収液に、特定種のアニオン及びカチオンから構成される塩を特定量含有する。このことにより、オレフィンガスの精製において、実益に見合った回収率を保ちつつ、かつ精製オレフィンガスの純度を高くすることができる。
【実施例】
【0024】
以下に、本発明について、実施例を用いてさらに具体的に説明する。しかしながら、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<実施例1>
本実施例においては、図1に示した装置を使用し、表1に記載の濃度のプロピレンガスを原料ガスとして、原料ガスからプロピレンを精製した。
本実施例では、吸収塔1の吸収塔本体11び放散塔2の放散塔本体21として、それぞれ、ステンレス製の円筒管(内径54.9mm×高さ500mm:容積1185cm)を用いた。オレフィン吸収液として、表1に記載の濃度の硝酸銀(塩1)及び硝酸ナトリウム(塩2)を含む混合水溶液を、吸収塔本体11内に受容させ、放散塔本体21内にも最初に同濃度の混合水溶液を受容させた。吸収塔本体11及び放散塔本体21の圧力及び温度は表1に記載のとお調整した。吸収塔本体11及び放散塔本体21に受容された硝酸銀及び硝酸ナトリウムの混合水溶液は、25cm/minの流量で吸収塔本体11と放散塔本体21との間を循環させた。原料ガスの供給量は、663cm/minの流量であった。
定常稼動時における放散塔2からの精製ガス中のオレフィン濃度及び回収率を表1にす。
【0025】
<実施例2〜27及び比較例1>
オレフィン吸収液の組成及び原料ガス中のプロピレンガス濃度、並びに運転条件を、それぞれ表1に記載のように変更した他は実施例1と同様にして、プロピレンガスの精製を行った。結果を表1にす。
これらの実施例によりオレフィン吸収液中のイオン強度を高めることによって、精製されたオレフィンガスの純度を高めつつ、実益に見合った回収率を達成し得ることが検証された。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0028】
本実施形態のオレフィンの精製方法によると、高純度のオレフィンガスを実益に見合った回収率で供給することができる。得られた高純度のオレフィンガスは、半導体分野の電子材料用途に好適に使用される。
【符号の説明】
【0029】
1 吸収
11 吸収塔本体
12 原料ガス導入口
13 オレフィン吸収後吸収液取出口
14 オレフィン吸収液導入口
15 非吸収ガス取出口
2 放散
21 放散塔本体
22 オレフィン吸収後吸収液導入口
23 オレフィンガス取出口
24 オレフィン放散後吸収液取出口
図1