【実施例】
【0034】
先ず、金型表面にAlが付着する挙動を解析した。次に、多くの試料に基づいて硬化樹脂層の有効性を評価した。以下、そのような具体例に基づいて、本発明をさらに詳しく説明する。
【0035】
[挙動解析]
(1)ダイカスト用金型として、表面処理をしていないSKD61からなるピン(φ10×50mm)を用意した。その表面(壁面)に離型剤をショット毎にスプレー(噴霧)塗布して、Al合金のダイカスト鋳造を行った。
【0036】
離型剤には、主成分である変性シリコーンオイルを界面活性剤により水溶化した原液(変性シリコーン10〜20%)を、さらに水で30倍に希釈(原液1に対して水29の体積割合)、混合したものを用いた。
【0037】
Al合金にはADC12(JIS)を用いた。ダイカスト鋳造は、500トンのダイカスト機を用いて、溶湯温度:650℃、鋳造圧力(射出圧力):60MPa、射出速度:2m/s として行った。なお、特に断らない限り、他のダイカスト鋳造も同条件で行った。
【0038】
(2)SiによるAl焼付き促進の影響を調べるため、Si基を有する酸化物層を表面に形成したピンを用意した。このピンを用いて、ショット毎に前述した離型剤を塗布しつつダイカスト鋳造を行った。15ショット後、45ショット後および90ショット後の各ピンの外観を
図1に示した。
【0039】
図1から明らかなように、15ショットまでは、ピン表面に殆どAlの付着は見られない。しかし、それ以降、ショット数が増加すると、Al付着量が急増することがわかった。これはSi基を有する酸化物層が溶湯中のAlやMgと反応しやすいため、Al付着量が増えたと考えられる。
【0040】
[第1実施例]
(1)金型
表1に示す各鋼種(基材)からなる複数のピンを用意した。各ピンの表面にレゾール型フェノール樹脂(熱硬化性樹脂)を刷毛塗りした。刷毛塗りはフェノール樹脂をエタノール等の溶剤で10重量%に希釈した溶液を用いて刷毛塗りした。なお、溶剤を用いた希釈濃度の調整により膜厚制御を行った。
【0041】
噴霧したフェノール樹脂の乾燥後、大気雰囲気中で200℃×30分間加熱した。こうして各ピンの表面(基材面)に硬化樹脂層を形成した複数の試料を製作した。特に断らない限り、硬化樹脂層の厚さはいずれも1μmとした(以下同様)。
【0042】
また、鋼材(SKD61)の表面にDLC−Si(下地層)を形成した後、その表面(改質面)に硬化樹脂層を同様に形成した試料も製作した。なお、DLC−Siは、プラズマCVD法により形成し、含有Si量は15.6原子%であった。
【0043】
さらに、金型の表面処理として従来から利用されている市販のタフトライド処理を、鋼材(SKD61)の表面に施したピンも用意した。このピンには硬化樹脂層を形成しなかった。
【0044】
(2)測定
各ピンの表面硬さをビーカス硬度計(荷重:20Kg)により測定し、その結果を表1に併せて示した。
【0045】
各ピンを用いて前述したダイカスト鋳造を繰り返し行った。90ショット後と180ショット後のAl付着量(Al焼付き量)を測定した。Al付着量は、ピンの初期重量に対するダイカスト鋳造後の重量増加として測定した。その結果を表1に併せて示した。また、90ショット後の各ピンの外観を観察し、Alの焼付き状態を判定した。その結果も表1に併せて示した。
【0046】
(3)評価
表1から明らかなように、表面硬さが500Hv以上さらには600Hv以上の下地上に硬化樹脂層を設けた試料は、90ショット後でもAl付着が少なく、良好な外観を維持していることがわかった。なお、下地の表面硬さが450Hvである試料A2の場合、Alの付着は多くないが、全体に薄い焼付きがみられた。さらに、下地の表面硬さがかなり低い試料A1の場合、硬化樹脂層の効果が殆どなく、タフトライド処理した試料C1と同等にAlの付着が多かった。
【0047】
また、試料B1と試料C1の比較から明らかなように、硬質面上に硬化樹脂層を設けることにより、Alの付着を大幅に低減できた。具体的にいうと、90ショット後であれば、試料B1のAl付着量は試料C1の1/10以下となった。180ショット後でも、試料B1のAl付着量は、90ショット後の試料C1のAl付着量よりもさらに少なかった。なお、90ショット後の試料B1のAl付着量は、Si基を有する酸化物層を設けたピンを用いた場合の約1/5でもあった(
図1参照)。
【0048】
さらに、硬質面上に硬化樹脂層を設けた試料(例えば試料B1)の場合、180ショット後でも、表面に付着していたAlは容易に剥離した。つまり、一見、硬化樹脂層の表面に焼付きついているようにみえるAlは、付着している程度で、凝着には至っていないこともわかった。これは、Siを含まない硬化樹脂層が溶湯中のAlと反応(化学結合等)していないためと考えられる。
【0049】
従って、表面硬さが十分な硬質面上に形成した硬化樹脂層を金型表面に設けることにより、高い耐焼付性を長期的に確保できることが明らかとなった。また、その硬化樹脂層上にAlが付着しても容易に剥離でき、その表面を清浄な状態に回復し易いことも明らかとなった。なお、劣化した硬化樹脂層は、硬質面上に形成されているため、金型表面を損傷することなく除去できる。また、その除去した硬質面上に熱硬化性樹脂を噴霧、塗布することにより、新たな硬化樹脂層の再生も容易に行える。
【0050】
[第2実施例]
(1)金型
DLC−Si上に熱硬化性樹脂のみからなる硬化樹脂層を形成した試料D1(既述した試料B1と同様)と、その硬化樹脂層を熱硬化性樹脂と無機粒子からなる複合層に変更した試料D2〜D7を用意した。
【0051】
複合層は、表2に示す各無機粒子をフェノール樹脂に混合した混合樹脂を用いて、既述した試料の硬化樹脂層と同様に、各ピンのDLC−Si上に形成した。複合層の厚さも1μmとした。
【0052】
無機粒子として、2種類のセラミックス粒子(アルミナ粒子とチタニア粒子)を用意した。それらの最大粒径はそれぞれ0.05μm、0.01μmであった。フェノール樹脂と各無機粒子の混合は、アルミナ粒子の水分散液、チタニア粒子のブタノール分散液を用いて直接混合し、超音波処理を10分行った。表2に示した無機粒子の添加量は、複合層全体に対する質量割合である。
【0053】
(2)溶湯浸漬試験
各試料に係るピンを、上述したAl合金の溶湯(600℃)中に、1分間浸漬した。いずれのピンにもAlの付着(焼付き)は見られなかった。試料D4に係るピンの試験前後の外観を
図2に、試料D5に係るピンの試験前後の外観を
図3にそれぞれ示した。
【0054】
なお、無機粒子の添加量を30質量%とした試料D7に係るピンのみ、試験後に複合層の一部が剥離した。無機粒子が過多になると、硬化樹脂層が脆くなり易いと考えられる。
【0055】
(3)熱重量測定
試料D1に係る硬化樹脂層と試料D4、D5に係る複合層とについて、それぞれ熱重量測定(TG)を行った。具体的にいうと、窒素雰囲気中で500℃まで昇温後に、500℃×30分間保持した後、各重量(残存重量)を測定した。試験前の重量に対する残存重量の割合を表2に併せて示した。
【0056】
表2から明らかなように、無機粒子を混在さた複合層は、熱硬化性樹脂のみからなる硬化樹脂層よりも残存重量が大きく(熱重量変化が小さく)、耐熱性に優れることがわかった。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】