(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6872455
(24)【登録日】2021年4月21日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】タッピングねじを用いた固定方法
(51)【国際特許分類】
F16B 25/02 20060101AFI20210510BHJP
F16B 35/00 20060101ALI20210510BHJP
E04F 13/08 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
F16B25/02
F16B35/00 J
E04F13/08 101B
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-152673(P2017-152673)
(22)【出願日】2017年8月7日
(65)【公開番号】特開2019-32015(P2019-32015A)
(43)【公開日】2019年2月28日
【審査請求日】2020年4月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】598164511
【氏名又は名称】不二窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080182
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 三彦
(74)【代理人】
【識別番号】100142572
【弁理士】
【氏名又は名称】水内 龍介
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 敏郎
【審査官】
竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−334339(JP,A)
【文献】
特開2005−299244(JP,A)
【文献】
特開2003−247322(JP,A)
【文献】
特開2017−067297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 23/00 −43/02
E04F 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部材を煮沸または減圧による強制吸水率が3.0パーセント未満の磁器製である被固定材に固定する固定方法であって、
引っ張り強さが720N/mm2を超える金属製であり、先端部から3ピッチ以上のねじ山にねじの周回り方向に等間隔で複数の切り込み部が形成されているタッピングねじを、前記固定部材に形成された貫通孔に挿入し、
当該タッピングねじを前記被固定材に形成された下穴にセルフタッピングで締結することを特徴とする固定方法。
【請求項2】
外壁下地材又は内壁下地材の表面に装飾材として前記被固定材を貼り付け、
前記タッピングねじを、前記固定部材に形成された前記貫通孔に挿入し、当該タッピングねじを前記被固定材に形成された前記下穴に締結することで、前記被固定材に前記固定部材を固定し、その後、前記固定部材に所望の物品を固定することを特徴とする請求項1に記載の固定方法。
【請求項3】
前記被固定材が外壁下地材又は内壁下地材の表面に固定される平板状の装飾材であり、
前記被固定材の裏面に前記下穴を形成し、
前記貫通孔が形成された前記固定部材を一部が前記被固定材からはみ出すように当該被固定材の裏面に重ね合わせて配置し、
前記貫通孔に前記タッピングねじを挿入して、当該タッピングねじを前記下穴に締結して、前記固定部材を前記被固定材に固定し、
前記被固定材を前記外壁下地材又は前記内壁下地材の表面に配置して、前記固定部材の前記被固定材からはみ出た部分を前記外壁下地材又は前記内壁下地材にビス固定することを特徴とする請求項1に記載の固定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窯業製品製又は石材製の被固定材に打ち込
むタッピングねじを用いて被固定材に固定部材を固定する固定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、陶磁器などの窯業製品や石材製品にタッピングねじを固定することは困難であり、窯業製品や石材製品などの被固定材に金具などの固定部材を固定する場合には、予め被固定材に内部が広がった下穴を形成しておき、当該下穴にブラインドリベットを挿入し、心棒を引きぬくことで、下穴に挿入された部分を広げてカシメ固定する固定方法が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−325404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のようなブラインドリベットによるカシメ固定は、下穴の内部を広げる必要があるので下穴の形成作業に手間がかかる。また、ブラインドリベットは下穴内に挿入した部分が、心棒の引き抜きによって十分に広がるように変形する必要があるので、例えばステンレスのような硬い金属を用いることが難しく、ブラインドリベットに用いられる材料は限定されるので、使用する箇所によっては必要な耐腐食性や強度を得ることができない。
【0005】
そこで、本発明は、窯業製品製又は石材製の被固定材に打ち込むことができ、これらの被固定材に固定部材を固定することができ
るタッピングねじを用いた固定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の固定方法は、固定部材を
煮沸または減圧による強制吸水率が3.0パーセント未満の磁器製である被固定材に固定する固定方法であって、
引っ張り強さが720N/mm2を超える金属製であり、先端部から3ピッチ以上のねじ山にねじの周回り方向に等間隔で複数の切り込み部が形成されているタッピングねじを、前記固定部材に形成された貫通孔に挿入し、当該タッピングねじを前記被固定材に形成された下穴に
セルフタッピングで締結することを特徴としている。
【0010】
本発明の固定方法は、外壁下地材又は内壁下地材の表面に装飾材として前記被固定材を貼り付け、前記タッピングねじを、前記固定部材に形成された貫通孔に挿入し、当該タッピングねじを前記被固定材に形成された下穴に締結することで、前記被固定材に前記固定部材を固定し、その後、前記固定部材に所望の取付具を固定することを特徴としている。
【0011】
本発明の固定方法は、前記被固定材が外壁下地材又は内壁下地材の表面に固定される平板状の装飾材であり、前記被固定材の裏面に下穴を形成し、貫通孔が形成された固定部材を一部が前記被固定材からはみ出すように当該被固定材の裏面に重ね合わせて配置し、当該貫通孔に前記タッピングねじを挿入して、当該タッピングねじを前記下穴に締結して、前記固定部材を前記被固定材に固定し、前記被固定材を前記外壁下地材又は前記内壁下地材の表面に配置して、前記固定部材の前記被固定材からはみ出た部分を前記外壁下地材又は前記内壁下地材にビス固定することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明のタッピングねじによると、引張強さが720N/mm2を超えており、先端部から所定範囲のねじ山に切り込み部が形成されていることで、窯業製品製又は石材製の被固定材に下穴を開けるだけでセルフタッピングでねじ込むことができる。
【0013】
本発明のタッピングねじによると、切り込み部がねじの周回り方向に等間隔で複数形成され、先端部から3ピッチ以上のねじ山に形成されるので、タッピングねじを被固定材により小さなトルクでねじ込むことができ、被固定材の割れやタッピングねじの潰れを抑制することができる。
【0014】
本発明の固定方法によると、タッピングねじを、固定部材に形成された貫通孔に挿入し、当該タッピングねじを被固定材に形成された下穴に締結するので、固定部材を簡単に被固定材に固定することができる。
【0015】
本発明の固定方法によると、被固定材が、強制吸水率3.0パーセント未満の磁器製であるので、例えば磁器タイルのように硬い被固定材に様々な固定部材を簡単に固定することができる。
【0016】
本発明の固定方法によると、外壁下地材又は内壁下地材の表面に装飾材として被固定材を貼り付けて、タッピングねじを固定部材に形成された貫通孔に挿入し、当該タッピングねじを前記被固定材に形成された下穴に締結することで、被固定材に固定部材を固定し、その後、固定部材に所望の取付具を固定するので、外壁又は内壁の表面装飾材が例えばタイルなどの窯業製品である場合や大理石などの石材製である場合にも、例えばフック金具や受け金具などの固定部材を簡単に固定することができるので、外壁面や内壁面に取り付けたい所望の取付具を簡単に取り付けることができる。
【0017】
本発明の固定方法によると、被固定材が外壁下地材又は内壁下地材の表面に固定される装飾材であり、被固定材の裏面に下穴を形成し、貫通孔が形成された固定部材をその一部が被固定材からはみ出すように被固定材の裏面に重ね合わせて配置し、貫通孔にタッピングねじを挿入して、当該タッピングねじを下穴に締結して、固定部材を被固定材に固定し、被固定材を外壁下地材又は内壁下地材の表面に配置して、固定部材の被固定材からはみ出た部分を外壁下地材又は内壁下地材にビス固定するので、簡単且つ確実に装飾パネルを外壁下地材又は内壁下地材に固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】タッピングねじを先端部側から見た状態を示す図。
【
図4】第1の実施形態の固定方法において、固定部材の貫通孔に挿入したタッピングねじを被固定材の下穴にねじ込む前の状態を示す断面図。
【
図5】第1の実施形態の固定方法において、タッピングねじを下穴にねじ込んで固定部材を被固定材に固定した状態を示す断面図。
【
図6】第2の実施形態の固定方法において、貫通孔が形成された固定部材を一部が被固定材からはみ出すように被固定材の裏面に重ね合わせて配置した状態を示す斜視図。
【
図7】固定部材を被固定材にタッピングねじで固定した状態を示す断面図。
【
図8】固定部材を裏面に固定した被固定材を外壁下地材又は内壁下地材の表面に配置した状態を示す断面図。
【
図9】固定部材の被固定材からはみ出た部分を外壁下地材又は内壁下地材にビス固定した状態を示す断面図。
【
図10】被固定材同士の間の目地にモルタルなどの目地材を充填し、ビス及び固定部材を外側から見えないように隠して、外壁又は内壁の装飾を完了した状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係るタッピングねじ1及び固定方法の最良の実施形態について各図を参照しつつ説明する。タッピングねじ1は、雌ねじが切られていない下穴2にねじ込み可能なねじである。タッピングねじ1は、
図1から
図3に示すように、拡径された頭部3と螺旋状のねじ山5が形成されたねじ部4とを有する。頭部3には、プラス溝6が形成された円盤状である。なお、頭部3の形状はプラス溝6に限定されるものではなく、工具から回転トルクを伝達できる形状であればどのような形状であってもよい。ねじ山5は例えば1mm程度のピッチで、外径が例えば4.8mmに形成されている。タッピングねじ1の先端部7は角が面取りされた平坦に形成されている。
【0020】
タッピングねじ1は、先端部7から4ピッチの範囲のねじ山5に、ねじの周回り方向に等間隔で4箇所ずつ切り込み部8が形成されている。切り込み部8はV字状に形成されており、ねじ山5から谷底に届くように切り込まれている。なお、切り込み部8が形成される範囲は、ねじの先端部7から所定の範囲であればよく、4ピッチに限定されるものではない。また、切り込み部8が形成される数はねじの周回り方向に1周につき4箇所に限られるものではなく3箇所以下又は5箇所以上であってもよい。
【0021】
タッピングねじ1はその材料が常温で720N/mm
2を超える引っ張り強さを有しており、好ましくは750N/mm
2以上である。タッピングねじ1の材料としては、高強度で耐腐食性に優れたステンレス鋼が好ましく、例えば、新日鐵住金ステンレス株式会社のNSSC(登録商標)270Rを用いることができる。
【0022】
以上のようなタッピングねじ1を用いて被固定材9に固定部材10を固定する固定方法の第1の実施形態について説明する。被固定材9は、例えば図示しない外壁下地材又は内壁下地材の表面に貼り付けられる装飾材である。被固定材9は、窯業製品製又は石材製である。窯業製品は、例えば粘土、ケイ砂、石灰岩などの非金属原料を高熱処理して得られる建物やインテリア・エクステリアの装飾材である。窯業製品としては例えば、陶器、磁器、瓦、ガラスなどが含まれる。また、石材も、建物やインテリア・エクステリアの装飾材として用いられる。石材は、例えば花コウ岩、安山岩、凝灰岩、蛇紋石、大理石等が含まれる。本実施形態における被固定材9は特にJIS A 1509-3における煮沸法又は真空法による試験での強制吸水率3.0パーセント以下の磁器製タイルであることが好ましい。
【0023】
また、外壁下地材や内壁下地材は、例えばコンクリート壁や、鋼製又は木製の壁下地材である。これらの壁下地材の表面には装飾材としての被固定材9が貼り付けられている。被固定材9と壁下地材とは例えば接着剤によって固定されてもよく、又は予め型枠に被固定材9を配置してコンクリートを打設することによって一体化してもよい。
【0024】
また、固定部材10は本実施形態においてはフック金具である。このような固定部材10を内外壁の表面の装飾材としての被固定材9に固定することで、内外壁の表面が磁器製であるような場合であっても、例えば、装飾品の額縁などの壁面に吊り下げたい物品を吊り下げることができる。なお固定部材10はフック金具に限られるものではなく、壁面に取り付けたい物品を固定することができる様々な取付金具であっても良い。
【0025】
固定方法は、まず、図示しないが外壁下地材又は内壁下地材の表面に被固定材9を貼り付ける。そして、図示しないドリルで、当該被固定材9に下穴2を形成する。下穴2はタッピングねじ1の外径よりも小さく、且つタッピングねじ1の谷径よりも大きい円形に掘られる。そして、
図4に示すように、固定部材10に設けられた貫通孔12にタッピングねじ1を挿入し、その後、
図5に示すように、タッピングねじ1を被固定材9に形成された下穴2に締結する。タッピングねじ1は、引っ張り強さが720N/mm2を超えており、且つ、先端部7から所定範囲のねじ山5に切り込み部8が形成されているので、窯業製品製又は石材製の装飾材のような硬質な材料製の被固定材9にも固定することができる。
【0026】
なお、被固定材9は上述のような内外壁の装飾材に限定されるものではない。被固定材9は、例えば、窯業製品製又は石材製のテーブルなどの家具の天板であってもよく、本実施形態の固定方法は例えばテーブルの天板に脚を固定する方法であっても良い。また被固定材9が家具や室内装飾品そのものであってもよい。
【0027】
次にタッピングねじ1を用いて被固定材9に固定部材10を固定する固定方法の第2の実施形態について説明する。第1の実施形態と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。被固定材9は、例えば外壁下地材11又は内壁下地材11の表面に貼り付けられる装飾材である。被固定材9は、窯業製品製又は石材製である。本実施形態における被固定材9は特に吸水率3.0パーセント未満の磁器製タイルであることが好ましい。また、外壁下地材11や内壁下地材11は、例えばコンクリート壁や、鋼製又は木製の壁下地材である。
【0028】
固定部材10は装飾パネルである被固定材9を内壁下地材11又は外壁下地材11に固定するための平板な固定プレートである。固定部材10にはタッピングねじ1を挿入する貫通孔12と、内壁下地材11又は外壁下地材11に固定するためのビス孔13とが形成されている。
【0029】
本実施形態の固定方法は、まず、被固定材9の裏面に下穴2を形成する。そして、
図6に示すように、貫通孔12が形成された固定部材10を一部が被固定材9からはみ出すように当該装飾パネルの裏面に重ね合わせて配置する。このとき、被固定材9は、固定部材10の貫通孔12と被固定材9の裏面に形成された下穴2とが重なる位置に配置される。
【0030】
そして、
図7に示すように、固定部材10の貫通孔12にタッピングねじ1を挿入して、当該タッピングねじ1を被固定材9の下穴2に締結することで、固定部材10を被固定材9に固定する。その後、被固定材9の裏面に接着剤15を塗布し、
図8に示すように、被固定材9を外壁下地材11又は前記内壁下地材11の表面に配置して、
図9に示すように、固定部材10の被固定材9からはみ出た部分を外壁・内壁下地材11にビス14で固定する。このようにビス14で固定することで単に接着剤だけで固定する場合に比べて施工不良や劣化による剥離を抑制することができる。そして次に、互いに目地間隔を開けて、上下左右に隣接させて被固定材9を外壁・内壁下地材11に固定する。その後、被固定材9同士の間の目地にモルタルなどの目地材16を充填し、ビス14及び固定部材10を外側から見えないように隠して、外壁又は内壁の装飾を完了する。
【0031】
このように本実施形態の固定方法によると、簡単且つ確実に装飾パネルとしての被固定材9を外壁・内壁下地材11に固定することができる。
【0032】
なお、本発明の実施の形態は上述の形態に限ることなく、本発明の思想の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することができることは云うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明に係るタッピングねじ1及び固定方法は、例えば磁器製タイルなどの窯業製品製や石材製の被固定材9に固定部材10を固定するタッピングねじ1及び固定方法として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0034】
1 タッピングねじ
2 下穴
5 ねじ山
7 先端部
8 切り込み部
9 被固定材
10 固定部材
11 下地材
12 貫通孔
14 ビス