(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明は本発明の一具体例であって、本発明は以下の態様に限定されるものではない。また、本発明は、各図に示す各構成要素の配置や寸法、寸法比などについても、それらに限定されるものではない。
【0012】
<1.実施の形態>
[構成例]
図1は、本発明の一実施の形態に係る画像形成装置(画像形成装置1)の一構成例を表すものである。画像形成装置1は、例えば普通用紙等からなる媒体(印刷媒体、記録媒体、転写材ともいう。)PMに対して画像(例えばカラー画像)を形成する、電子写真方式のプリンタである。
【0013】
画像形成装置1は、媒体トレイ11と、ピックアップローラ12と、分離ローラ13と、レジストローラ14と、搬送ローラ15と、ID(Image Drum)ユニット20、露光ヘッド22および転写ローラ23と、定着部30と、搬送ローラ16と、搬送ローラ17と、排出ローラ18とを備えている。これらの部材は、媒体PMが搬送される搬送路10に沿って上流から下流へ向けて順に配置されている。
【0014】
媒体トレイ11は、媒体PMを収容する容器であり、例えば画像形成装置1の下部に着脱可能に設けられている。ピックアップローラ12は、媒体トレイ11に収納されている媒体PMをその最上部から1枚ずつ取り出し、取り出した媒体PMを搬送路10に送り出す部材である。分離ローラ13は、搬送路10を挟んで配置された一対のローラであり、ピックアップローラ12が取り出した媒体PMを一枚ずつ搬送路10に送り出す部材である。レジストローラ14は、搬送路10を挟んで配置された一対のローラであり、搬送路10を通過する媒体PMの斜行を矯正しつつ、IDユニット20での画像形成のタイミングに合わせて媒体PMを搬送する部材である。搬送ローラ15は、搬送路10を挟んで配置された一対のローラであり、媒体PMを搬送路10に沿って搬送する部材である。
【0015】
IDユニット20は、トナー像を形成するものである。IDユニット20は、感光体21を有している。感光体21は、表面(表層部分)に静電潜像を担持する部材である。露光ヘッド22は、IDユニット20の感光体21を露光する部材であり、例えば複数のLED(Light Emitting Diode)素子を用いて構成される。感光体21には、露光ヘッド22により露光されることにより静電潜像が形成され、その後にトナーが供給されることによりトナー像が形成される。転写ローラ23は、IDユニット20により形成されたトナー像を、媒体PMの被転写面上に静電的に転写するための部材である。
【0016】
定着部30は、媒体PMに対し熱および圧力を付与することにより、媒体PM上に転写されたトナー像を媒体PMに定着させる部材である。定着部30は、交換可能に構成されている。定着部30は、本発明の「定着装置」に対応する一具体例である。
【0017】
図2は、定着部30の一構成例を表すものである。定着部30は、定着ベルト31と、定着ローラ32と、加圧パッド33と、パッド支持部34と、コイルばね35と、温度センサ36と、ヒータ38と、熱伝達部材39と、ヒータ支持部40と、コイルばね41と、加圧ローラ43とを有している。
【0018】
定着ベルト31は、無端の弾性ベルトであり、定着ローラ32、加圧パッド33、ガイド部材37A,37B、および熱伝達部材39により張設(張架)されている。定着ベルト31は、媒体PMの搬送方向と直交する方向(
図1および
図2の紙面と直交する方向)に沿った回転軸を中心として、例えば矢印A(
図2)の方向へ回転可能に設けられた部材であり、管状もしくは円筒状をなすエンドレスベルトである。
図3に、定着ベルト31の断面構成を表す。
図3に示したように、定着ベルト31は、内周面31Aと外周面31Bとを含んでいる。定着ベルト31は、例えば、内周面31Aの側から、基体61と、基体61上に形成された弾性層62と、弾性層62上に形成された離型層63とを有している。基体61は、内周面31Aに露出した絶縁層61Aと、その絶縁層61Aと弾性層62との間に設けられた導電層61Bとの2層構造を有している。内周面31Aは、熱伝達部材39と当接する面である。したがって、絶縁層61Aは、導電層61Bと熱伝達部材39との間に位置する。また、弾性層62は、導電層61Bから見て絶縁層61Aと反対側に位置する。さらに、離型層63は、弾性層62から見て導電層61Bと反対側に位置する
ここで、定着ベルト31が本発明の「ベルト部材」に対応する一具体例であり、絶縁層61A、導電層61Bおよび弾性層62がそれぞれ本発明の「第1の絶縁層」、「導電層」および「第2の絶縁層」に対応する一具体例である。
【0019】
基体61は、耐熱性および強度に優れた材料によって構成されている。絶縁層61Aは、本発明の「基材」としての、例えばポリイミド(PI)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)またはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの耐熱性および強度に優れた樹脂によって構成されている。導電層61Bは、上記の基材としての樹脂に導電性フィラーが一様に分散された材料により構成されている。導電性フィラーとしては、例えばAg,Cu,Al,MgおよびNi等の金属、グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等の炭素化合物が好適である。これらの導電性フィラーが本発明の「導電剤」に対応する一具体例である。
【0020】
絶縁層61Aの厚さは、例えば10μm以上100μm以下であることが好ましく、20μm以上60μm以下であることがより好ましい。絶縁層61Aの厚さが10μm以上であれば、定着ベルト31の回転動作に伴う、定着ベルト31と他の部材との摺動摩擦による摩耗に十分耐えることができる。絶縁層61Aが摩耗すると、絶縁層61Aの絶縁破壊が生じ、導電層61Bが露出する場合がある。この場合、例えば温度センサ36と導電層61Bとの導通が生じ、すなわち、フレームグランド(FG)と1次電位との導通が生じるので好ましくない。一方、絶縁層61Aの厚さが100μm以下であれば、内周面31Aと当接する熱伝達部材39を介してヒータ38から伝達される熱量の伝達時間を短くすることができ、定着部30の起動に要する時間(起動時間)の増加を防ぐことができる。
【0021】
導電層61Bの体積抵抗率は、10
7Ω・cm以上10
13.5Ω・cm以下であることが好ましく、10
8Ω・cm以上10
11Ω・cm以下であることがより好ましい。導電層61Bの体積抵抗率が10
7Ω・cm以上であれば、絶縁層61Aの絶縁破壊、すなわちフレームグランド(FG)と1次電位との短絡を十分に防ぐことができる。また、導電層61Bの体積抵抗率が10
13.5Ω・cm以下であれば、後述するように、熱伝達部材39と定着ベルト31との摩擦帯電および温度センサ36と定着ベルト31との摩擦帯電を十分に緩和できる。ここでの体積抵抗率は、JIS K 6911に準拠した測定法で測定される値であり、例えば三菱ケミカルアナリテック社製ハイレスターUP MCP HT450により、100Vの電圧を10秒間に亘って印加したのちに測定することにより得られる値である。
【0022】
さらに、導電層61Bは下記の条件式(1)を満たしている。
9.11Ω≦logRV1≦13.34Ω ……(1)
但し、RV1は印加電圧100Vのときの導電層61Bの体積抵抗であり、JIS K 6911に準拠した測定法で測定される値である。
【0023】
また、定着ベルト31全体として、下記の条件式(2)を満たしていることが望ましい。
12.61Ω≦logRV2≦13.19Ω ……(2)
但し、RV2は印加電圧1000Vのときのベルト部材の体積抵抗であり、JIS K 6911に準拠した測定法で測定される値である。
【0024】
logRV1が13.34Ω以下であれば、あるいはlogRV2が13.19Ω以下であれば、定着ベルト31への電荷の蓄積が抑制され、帯電したトナーTNや媒体PMの粉などの定着ベルト31への付着を回避できる。また、logRV1が9.11Ω以上であれば、あるいはlogRV2が12.61Ω以上であれば、加圧ローラ43へのトナーTNや媒体PMの粉などの付着を回避できる。
【0025】
弾性層62は、耐熱性および弾性に優れる材料、例えば、シリコーンゴムやフッ素樹脂などの耐熱性エラストマーを用いて構成される。弾性層62は、例えばシリコーンゴムからなる場合、100μm以上300μm以下の厚さを有することが好ましい。
【0026】
離型層63は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)などのフッ素樹脂を用いて構成される。離型層63は、例えば5μm以上50μm以下の厚さを有する。定着ベルト31は、離型層63が外周面31Bに露出するように張架される。
【0027】
定着ローラ32は、定着ベルト31を循環回転させるとともに、加圧ローラ43との間にニップ部N2を形成する部材である。定着ローラ32は、芯金部と、芯金部の周囲を覆う弾性層とを有している。芯金部は、例えば、パイプ形状またはシャフト形状を有し、例えば、アルミニウム、鉄、ステンレスなどを用いて構成される。弾性層は、例えば、スポンジ状シリコーンゴムやフッ素ゴムなど、耐熱性の高いゴム材料を用いて構成される。なお、定着ローラの構成はこれに限定されるものではなく、定着ローラ32は、芯金部および弾性層に加え、弾性層の周囲を覆う離型層をさらに有してもよい。定着ローラ32は、定着モータ44(後述)から伝達された動力により、この例では右回りで回転する。定着ローラ32は、定着ベルト31の内周面31Aに当接するように配置される。これにより、定着ローラ32は、定着ベルト31を、
図2における矢印Aの方向へ循環回転させるようになっている。
【0028】
加圧パッド33は、加圧ローラ43との間にニップ部N1を形成する部材である。加圧パッド33は、例えばゴム材料を用いて構成される。パッド支持部34は、加圧パッド33を支持する部材である。コイルばね35は、支持部材42とパッド支持部34との間に挿設され、加圧パッド33を、支持部材42から遠ざかる方向に付勢する部材である。これにより、加圧パッド33は、定着ベルト31の内周面31Aに接するとともに、定着ベルト31を挟んで、加圧ローラ43に圧接される。このようにして、加圧パッド33は、加圧ローラ43との間にニップ部N1を形成するようになっている。
【0029】
温度センサ36は、定着ベルト31の内周面31Aと当接して摺動しつつ定着ベルト31の温度を検知するセンサであり、例えば、サーミスタを用いて構成される。温度センサ36は本発明の「温度検知部材」に対応する一具体例である。
【0030】
ヒータ38は、定着ベルト31を加熱する熱源であり、例えば、発熱体としての抵抗線を含んで構成されるものである。熱伝達部材39は、ヒータ38において発生した熱を、定着ベルト31に伝達する部材である。定着制御部58(後出)におけるヒータ制御部581(後出)は、温度センサ36により検知される定着ベルト31の温度が所定の温度となるように、ヒータ38を制御するようになっている。ヒータ支持部40は、ヒータ38を支持する部材である。コイルばね41は、支持部材42とヒータ支持部40との間に挿設され、ヒータ38および熱伝達部材39を、支持部材42から遠ざかる方向に付勢する部材である。これにより、熱伝達部材39は、定着ベルト31の内周面31Aと当接するとともに、定着ベルト31を外側に押し出すことにより、定着ベルト31を張架するようになっている。ここで、ヒータ38が本発明の「発熱部材」に対応する一具体例であり、熱伝達部材39が本発明の「熱伝達部材」に対応する一具体例である。
【0031】
加圧ローラ43は、定着ローラ32および加圧パッド33との間にニップ部N2を形成する部材である。加圧ローラ43は、定着ベルト31の外周面31Bと当接可能に設けられた本発明の「加圧部材」として機能する。加圧ローラ43は、例えば、定着ローラ32と同様の構成を有するものである。加圧ローラ43は、定着ベルト31の循環回転に応じて、この例では左回りで従動回転するようになっている。なお、加圧ローラ43は、加圧ローラ43の表面の温度を上昇させ、定着ベルト31の温度上昇を加速させるためのハロゲンヒータ45を内蔵していてもよい。
【0032】
この構成により、トナー像が形成された媒体PMがニップ部N1,N2に供給されると、媒体PM上のトナーTN(
図2)が、加熱され、融解し、加圧される。その結果、トナー像が媒体PM上に定着するようになっている。
【0033】
搬送ローラ16(
図1)は、搬送路10を挟んで配置された一対のローラであり、定着部30から供給された媒体PMを搬送路10に沿って搬送する部材である。搬送ローラ17は、搬送路10を挟んで配置された一対のローラであり、媒体PMを搬送路10に沿って搬送する部材である。排出ローラ18は、搬送路10を挟んで配置された一対のローラであり、媒体PMを排出トレイ19に排出する部材である。
【0034】
定着部30におけるニップ部N2の下流には、互いに離間されて対向配置された分離部材46およびガイド部材47がさらに設けられている。分離部材46は、ニップ部N1,N2を通過した媒体PMが定着ベルト31に巻き付かないように、定着ベルト31と媒体PMとの分離を行うものである。また、ガイド部材47は、ニップ部N1,N2を通過した媒体PMを搬送ローラ16へ向けて円滑に案内するように機能する。
【0035】
図4は、画像形成装置1における制御機構の一例を表すものである。画像形成装置1は、通信部51と、操作部52と、表示部53と、記憶部54と、露光制御部55と、電圧制御部56と、モータ制御部57と、定着制御部58と、画像形成制御部59とを備えている。
【0036】
通信部51は、例えばUSB(Universal Serial Bus)やLAN(Local Area Network)を用いて通信を行うものであり、例えば、ホストコンピュータから送信された印刷データDPを受信するものである。操作部52は、ユーザの操作を受け付けるものであり、例えば各種ボタンなどを用いて構成される。表示部53は、画像形成装置1の動作状態などを表示するものであり、例えば、液晶ディスプレイや各種インジケータを用いて構成される。
【0037】
記憶部54は、例えば、印刷データDPや、画像形成装置1の各種設定情報などを記憶するものである。また、記憶部54は、履歴データ541を記憶している。履歴データ541は、画像形成装置1の動作履歴が記録されたものである。具体的には、履歴データ541は、例えば、画像形成装置1が印刷した累積印刷枚数や、現在の定着部30を用いて印刷した印刷枚数についての情報を含んでいる。印刷枚数は、定着部30が交換されるとリセットされるようになっている。
【0038】
露光制御部55は、画像形成制御部59からの指示に基づいて、露光ヘッド22の動作を制御するものである。
【0039】
電圧制御部56は、画像形成制御部59からの指示に基づいて、画像形成装置1において用いられる様々な電圧を生成するものである。具体的には、電圧制御部56は、IDユニット20において用いられる帯電電圧および現像電圧や、転写ローラ23に印加される転写電圧などを生成するようになっている。
【0040】
モータ制御部57は、画像形成制御部59からの指示に基づいて、画像形成装置1において用いられるメインモータなどの動作を制御するものである。
【0041】
定着部30は、定着モータ44を有している。定着モータ44は、定着ローラ32に動力を供給するものである。定着モータ44は、回転むら検出部441を有している。回転むら検出部441は、定着モータ44において回転むらが生じた場合に、エラー信号を生成するものである。
【0042】
定着制御部58は、画像形成制御部59からの指示、および定着部30の温度センサ36における検出結果に基づいて、定着部30の動作を制御するものである。定着制御部58は、ヒータ制御部581と、定着モータ制御部582とを有している。ヒータ制御部581は、定着部30のヒータ38の動作を制御するものである。定着モータ制御部582は、定着モータ44の動作を制御するものである。また、定着制御部58は、定着モータ44の回転むら検出部441からエラー信号を受け取った場合には、そのエラー信号を画像形成制御部59に供給する機能をも有している。
【0043】
画像形成制御部59は、これらの各ブロックの動作を制御することにより、画像形成装置1の動作を制御するものである。具体的には、例えば、画像形成装置1の通信部51が印刷データDPを受信した場合には、画像形成制御部59は、その印刷データDPに基づいて、露光制御部55、電圧制御部56、モータ制御部57、および定着制御部58に対して、画像形成動作を行うように指示する。また、画像形成制御部59は、定着制御部58からエラー信号を受け取った場合には、実行している処理を中止し、表示部53にエラー表示を行わせる機能をも有している。画像形成制御部59の機能は、例えば、ハードウェアにより実現してもよいし、ソフトウェアにより実現してもよい。
【0044】
画像形成装置1は、画像形成動作を行う際、まず、ベルト温度が所定の目標温度(例えば170[℃])に到達するように、ウォームアップ動作を行い、その後で、画像形成動作を行う。
【0045】
[動作および作用]
続いて、本実施の形態の画像形成装置1の動作および作用について説明する。
【0046】
(全体動作概要)
まず、
図1および
図4を参照して、画像形成装置1の全体動作概要を説明する。画像形成装置1の通信部51が印刷データDPを受信すると、画像形成制御部59は、この印刷データDPに基づいて処理を行う。そして、画像形成制御部59は、その処理結果に基づいて、露光制御部55、電圧制御部56、モータ制御部57、および定着制御部58の動作を制御する。ウォームアップ動作において、定着制御部58は、ベルト温度が所定の目標温度に到達するように、定着部30の動作を制御する。画像形成動作において、露光制御部55は、露光ヘッド22の発光動作を制御し、電圧制御部56は、帯電電圧、現像電圧、転写電圧などの各種電圧を生成し、モータ制御部57は、画像形成装置1において用いられるメインモータなどの動作を制御し、定着制御部58は、定着部30の動作を制御する。これにより、媒体トレイ11から供給された媒体PMは、搬送路10に沿って搬送され、IDユニット20により生成されたトナー像がその媒体PMに転写され、定着部30において、トナー像が媒体PM上に定着する。そして、トナー像が定着された媒体PMが排出トレイ19に排出される。
【0047】
(静電オフセット)
ところで、一般的な定着部では、例えば定着ベルトの表面にトナーTNが静電的に付着する静電オフセットという現象が生じることがある。この静電オフセット現象は、媒体PM上に担持された定着処理前のトナーTNの一部が定着ベルトの表面に静電的に引き付けられる現象であり、例えば媒体PM自体の帯電や、定着ベルトと他の部材との摩擦による定着ベルトの帯電に起因する現象である。具体的には、例えば、トナーTNはマイナスに帯電しており、媒体PMはトナーTNとは逆極性のプラスに帯電させるようになっている。媒体PMが定着部におけるニップ部を通過する際に、媒体PMのプラス電荷によって定着ベルトがプラスに帯電してしまうことがある。あるいは、定着ベルトと温度センサとの摩擦により、定着ベルトがプラスに帯電してしまうことがある。そうした場合、定着部のニップ部の入口近傍において、媒体PM上のマイナスに帯電したトナーTNの一部が定着ベルト上のプラス電荷によって静電的に定着ベルトの表面へ飛翔してしまい、結果として、印刷画像にすじ状のむらなどが生じるおそれがある。
【0048】
(作用・効果)
そこで、本実施の形態では、定着ベルト31が、導電層61Bと、その導電層61Bと熱伝達部材39との間に位置する絶縁層61Aと、導電層61Bから見て絶縁層61Aと反対側に位置する弾性層62とを有するようにした。導電層61Bは、例えば10
7Ω・cm以上10
13.5Ω・cm以下の体積抵抗率を有すると共に条件式(1)を満たす体積抵抗を有するようにした。さらに定着ベルト31は、条件式(2)を満たす体積抵抗を有するようにした。定着ベルト31がこのような構成を有することにより、熱伝達部材39と定着ベルト31の絶縁層61Aとの摩擦、あるいは温度センサ36と絶縁層61Aとの摩擦などにより生じる定着ベルト31の帯電が緩和される。その結果、媒体PM上のマイナスに帯電したトナーTNが定着ベルト31へ飛翔する静電オフセットの発生を抑制することができ、より高品質の画像を媒体PM上に定着させることができる。なお、ポリイミドにカーボンブラックを添加すると機械耐久性が低下することがある。しかしながら、本実施の形態では、定着ローラ32などに接する絶縁層61Aにはカーボンブラックが添加されていないポリイミドを用いているので、絶縁層61Aにおける機械耐久性は十分に確保されている。したがって、従来と同様に、定着ベルト31は定着ローラ32などと密接して良好な回転動作が可能となっている。
【0049】
<2.実験例>
実験例として、上記実施の形態に係る画像形成装置1の評価を行った。
【0050】
(実験例1−1〜1−11)
基体61における絶縁層61Aの厚さ(μm)と絶縁層61Aの絶縁破壊の有無および立ち上がり時間の遅延の有無との関係の評価を実施した。立ち上がり時間とは、ヒータ38による加熱により、定着ベルト31の外周面31Bが所定の温度に到達するまでの所要時間である。その結果を表1に示す。ここでは、絶縁層61Aは、ポリイミドにより構成され、5μm以上115μm以下の厚さを有するものを用いた。また、基体61における導電層61Bとして、ポリイミドに導電性フィラーとしてカーボンブラックを分散したものであって1.0×10
9Ω・cmの体積抵抗率を有するものを用いた。さらに、弾性層62をシリコーンゴムにより構成し、200μmの厚さとした。離型層63はPFAにより構成した。
【0052】
表1に示したように、絶縁層61Aの厚さが5μmである実験例1−1では絶縁層61Aの絶縁破壊が生じた。また、絶縁層61Aの厚さが115μmである実験例1−11では、立ち上がり時間の遅延が認められた。実験例1−1〜1−11の結果から、絶縁層61Aは、10μm以上100μm以下の厚さを有することが望ましいことが確認された。
【0053】
(実験例2−1〜2−11)
次に、基体61における導電層61Bの体積抵抗率(Ω・cm)と絶縁層61Aの絶縁破壊の有無および静電オフセット現象の発生の有無との関係の評価を実施した。その結果を表2に示す。ここでは、絶縁層61Aをポリイミドにより構成し、絶縁層61Aの厚さを30μmとした。また、導電層61Bは、ポリイミドに導電性フィラーとしてカーボンブラックを分散したものであって1.0×10
5Ω・cm以上1.0×10
14Ω・cm以下の体積抵抗率を有するものを用いた。その他の条件は実験例1−1〜1−11と実質的に同じである。
【0055】
表2に示したように、導電層61Bの体積抵抗率が1.0×10
5Ω・cmである実験例2−1および導電層61Bの体積抵抗率が1.0×10
6Ω・cmである実験例2−2の場合に絶縁層61Aの絶縁破壊が生じた。また、導電層61Bの体積抵抗率が1.0×10
14Ω・cmである実験例2−11では、静電オフセット現象の発生が認められた。実験例2−1〜2−11の結果から、導電層61Bの体積抵抗率は、10
7Ω・cm以上10
13.5Ω・cm以下であることが望ましいことが確認された。
【0056】
(実験例3−1〜3−23)
次に、導電層61Bの体積抵抗logRV1(Ω)および定着ベルト31全体の体積抵抗logRV2(Ω)との関係を調査した。その結果を表3および
図6に示す。logRV1(Ω)およびlogRV2(Ω)の測定はJIS K 6911に準拠した測定法で実施した。具体的には、三菱ケミカルアナリテック社製ハイレスターUP MCP HT450によりURSプローブを各サンプルに当てて測定した。但し、logRV1(Ω)の測定時には導電層61Bに対し100Vの電圧を10秒間に亘って印加したのちに測定し、logRV2(Ω)の測定時には定着ベルト31に対し1000Vの電圧を10秒間に亘って印加したのちに測定した。
【0058】
表3および
図6に示したように、logRV1については9.11Ω以上13.34Ω以下であれば、logRV2については12.61Ω以上13.19Ω以下であれば、静電オフセット現象の発生が生じないことがわかった(実験例3−3〜3−20)。一方、
図6において破線で取り囲んだプロットに相当するサンプル、すなわちlogRV1が9.11Ω以上13.34Ω以下の範囲を外れた場合、およびlogRV2が12.61Ω以上13.19Ω以下の範囲を外れた場合には静電オフセット現象の発生が認められた(実験例3−1,3−2,3−21〜3−23)。特に、実験例3−1,3−2では、加圧ローラ43へのトナーTNや媒体PMの粉などの付着が発生した。また、実験例3−21〜3−23では、定着ベルト31への電荷の蓄積が生じ、帯電したトナーTNや媒体PMの粉などの定着ベルト31への付着が認められた。
【0059】
<3.変形例>
以上、実施の形態および実験例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態等に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、上記実施の形態では、1次転写方式(直接転写方式)の画像形成装置について説明したが、本発明は2次転写方式にも適用されうる。
【0060】
また、上記実施の形態等では、モノクロ画像を形成するIDユニット20を例示して説明したが、本発明の画像形成装置はカラー画像を形成するIDユニットを有するようにしてもよい。
【0061】
また、上記実施の形態では、定着部30における熱源として、抵抗線などの発熱体を含む板状のヒータ38を用いるようにしたが、本発明では、ヒータ38の代わりに、例えばハロゲンランプを熱源として用いてもよい。また、ニップ部を形成するにあたり、定着ベルト31の内周面31Aを付勢する加圧パッドなどの他の部材をさらに備えるようにしてもよい。
【0062】
また、上記実施の形態では、露光ヘッド22として発光ダイオードを光源とするLEDヘッドを用いるようにしたが、例えばレーザ素子等を光源とした露光ヘッドを用いてもよい。
【0063】
また、上記実施の形態の定着ベルト31は弾性層62を含むようにしたが、本発明のベルト部材はこれに限定されない。本発明のベルト部材は、例えば
図5に示した変形例としての定着ベルト71のように、基体61の上に弾性層62を設けることなく、第2の絶縁層としての離型層63を設けるようにしたものであってもよい。
【0064】
さらに、上記実施の形態等では、本発明における「画像形成装置」の一具体例として、印刷機能を有する画像形成装置について説明したが、これには限られない。すなわち、そのような印刷機能に加え、例えば、スキャン機能やファックス機能を有する複合機として機能する画像形成装置においても、本発明を適用することが可能である。