(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、及びテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル系共重合体から選ばれる少なくとも1つのフッ素樹脂であって、−CF3の末端基を1つ以上含み、フッ素樹脂における非フッ素化基末端と−CF2H基末端とを合計した数が炭素1×106当たり70個以下であるフッ素樹脂により、哺乳動物細胞と接触する表面が形成されていることを特徴とする哺乳動物細胞の投与用、保存用、又は培養用容器。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の投与用、保存用、又は培養用容器(以下、単に「本発明の容器」ということがある)としては、哺乳動物細胞の投与、保存、又は培養に用いるための、−CF
3の末端基を1つ以上含むフッ素樹脂や、フッ素樹脂における非フッ素化基末端と−CF
2H基末端とを合計した数が炭素1×10
6当たり70個以下であるフッ素樹脂(以下、これらフッ素樹脂を総称して「本件フッ素樹脂」ということがある)により哺乳動物細胞(哺乳動物細胞含有液)と接触する表面が形成されている容器であれば特に制限されず、容器全体が本件フッ素樹脂により形成されていてもよい。本発明の容器は、哺乳動物細胞と接触する容器表面が本件フッ素樹脂で形成されている点に特徴がある。かかる特徴を有する容器を用いて哺乳動物細胞含有液を投与又は保存したり、哺乳動物細胞を培養したりすると、細胞接着や細胞生存率低下が効果的に抑制されるため、本発明の容器は、浮遊性細胞含有液の投与及び/又は保存や、浮遊性細胞の培養の他、接着性細胞含有液の投与及び/又は保存や、接着性細胞の浮遊培養に好適に用いることができる。細胞含有液の投与及び/又は保存や、細胞の浮遊培養に用いる場合、上記容器は、マトリゲル、エンタクチン、フィブロネクチン、温度応答性ポリマー(PIPAAm等)、ポリカチオン(ポリリジン等)、ゼラチン、レクチン、多糖類(ヒアルロン酸等)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ε−アミノカプロラクトン、I型コラーゲン、IV型コラーゲン、キトサン、ラミニンなどの細胞接着性物質でその容器内表面がコーティング(又は配置)されていないものが好ましい。なお、本発明において、「保存」には、移送中の保存も含まれる。
【0011】
上記浮遊性細胞としては、赤血球、(末梢血由来の)白血球(好中球、単核球[単球、リンパ球]、マクロファージ等)などの浮遊性細胞を挙げることができる。
【0012】
上記接着性細胞としては、胚性幹細胞(embryonic stem cells:ES細胞)、胚性生殖細胞(embryonic germ cells:EG細胞)、生殖細胞系列幹細胞(germline stem cells:GS細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞;induced pluripotent stem cell)等の多能性幹細胞、間葉系幹細胞、造血系幹細胞、神経系幹細胞等の複能性幹細胞、心筋前駆細胞、血管内皮前駆細胞、神経前駆細胞、脂肪前駆細胞、皮膚線維芽細胞、骨格筋筋芽細胞、骨芽細胞、象牙芽細胞等の単能性幹細胞(前駆細胞)などの幹細胞や、心筋細胞、血管内皮細胞、神経細胞、脂肪細胞、皮膚線維細胞、骨格筋細胞、骨細胞、ヘパトサイト(肝)細胞、臍帯静脈内皮細胞、皮膚微小リンパ管内皮細胞、表皮角化細胞、気管支上皮細胞、メラノサイト細胞、平滑筋細胞、象牙細胞等の成熟細胞を挙げることができ、間葉系幹細胞が好ましい。
【0013】
本件フッ素樹脂は−CF
2H基末端を含まないものが好ましいが、フッ素樹脂における非フッ素化基末端(例えば、−COF、−COOH、及び水と会合した−COOH、−CH
2OH、−CONH
2、−COOCH
3等の官能基)と−CF
2H基末端との合計が、炭素1×10
6当たり70個以下であることが好ましく、炭素1×10
6当たり35個以下がより好ましい。さらに、炭素1×10
6当たり20個以下がより好ましく、炭素1×10
6当たり10個以下が特に好ましい。
すなわち、本発明として、フッ素樹脂における非フッ素化基末端と−CF
2H基末端とを合計した数が炭素1×10
6当たり70個以下であるフッ素樹脂により、哺乳動物細胞と接触する表面が形成されていることを特徴とする哺乳動物細胞の投与用、保存用、又は培養用容器を挙げることができる。
【0014】
なお、上記の−COF、−COOH、及び水と会合した−COOH、−CH
2OH、−CONH
2、−COOCH
3、−CF
2Hの、炭素1×10
6当たりの数は、FT−IRより算出することができる。
【0015】
また、本件フッ素樹脂としては、−CF
3の末端基を1つ以上含み、より安定化された末端構造を有するフッ素樹脂であればよく、本件フッ素樹脂には、非フッ素化基末端の一部がフッ素化され、−CF
3を有するフッ素樹脂も含まれる。
【0016】
上記の−CF
3末端基は、高温
19F NMR測定により分析することができる。
【0017】
本発明において、「非フッ素化基末端」とは、反応性を有し、一般に不安定末端といわれる末端を意味し、非フッ素化基末端としては、具体的に−COF、−COOH、水と会合した−COOH、−CH
2OH、−CONH
2、−COOCH
3等の官能基を挙げることができる。
【0018】
本件フッ素樹脂における非フッ素化基末端(例えば、−COF、−COOH、及び水と会合した−COOH、−CH
2OH、−CONH
2、−COOCH
3等の官能基)の合計は、炭素1×10
6当たり70個以下が好ましく、炭素1×10
6当たり50個以下がより好ましい。さらに、炭素1×10
6当たり35個以下がより好ましく、炭素1×10
6当たり15個以下がさらに好ましく、炭素1×10
6当たり10個以下がさらにより好ましく、炭素1×10
6当たり5個以下が特に好ましく、炭素1×10
6当たり2個以下が特により好ましい。
すなわち、本発明の一態様として、−CF
3の末端基を1つ以上含むフッ素樹脂における非フッ素化基末端が炭素1×10
6当たり70個以下であるフッ素樹脂により哺乳動物細胞と接触する表面が形成されていることを特徴とする哺乳動物細胞の投与用、保存用、又は培養用容器を挙げることができる。
【0019】
本件フッ素樹脂としては、具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン(TFE)−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)系共重合体(FEP)、TFE−パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)系共重合体(PFA)を挙げることができ、これらの中でも、FEP、PFAが好ましく、FEPを好適に例示することができる。
【0020】
上記「TFE−HFP系共重合体」とは、少なくともTFEとHFPとを含む共重合体を意味する。すなわち、「TFE−HFP系共重合体」には、TFEとHFPとの2元共重合体(TFE/HFP共重合体;FEP)の他、TFEとHFPとビニルフルオライド(VF)との共重合体(TFE/HFP/VF共重合体)、TFEとHFPとビニリデンフルオライド(VDF)との共重合体(TFE/HFP/VDF共重合体)、TFEとHFPとパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)との共重合体(TFE/HFP/PAVE共重合体)等の3元共重合体や、TFEとHFPとVFとVDFとの共重合体(TFE/HFP/VF/VDF共重合体)、TFEとHFPとVFとPAVEとの共重合体(TFE/HFP/VF/PAVE共重合体)、TFEとHFPとVDFとPAVEとの共重合体(TFE/HFP/VDF/PAVE共重合体)等の4元共重合体や、TFEとHFPとVFとVDFとPAVEとの共重合体(TFE/HFP/VF/VDF/PAVE共重合体)等の5元共重合体も含まれる。
【0021】
上記TFE−HFP系共重合体としては、TFE/HFP共重合体やTFE/HFP/PAVE共重合体が好ましい。かかるTFE/HFP共重合体におけるTFEとHFPとの質量比は、80〜97/3〜20が好ましく、84〜92/8〜16がより好ましい。また、上記TFE/HFP/PAVE共重合体におけるTFEとHFPとPAVEとの質量比は、70〜97/3〜20/0.1〜10が好ましく、81〜92/5〜16/0.3〜5がより好ましい。
【0022】
上記「TFE−PAVE系共重合体」とは、少なくともTFEとPAVEとを含む共重合体を意味する。すなわち、「TFE−PAVE系共重合体」には、TFEとPAVEとの2元共重合体(TFE/PAVE共重合体;PFA)の他、TFEとPAVEとヘキサフルオロプロピレン(HFP)との共重合体(TFE/PAVE/HFP共重合体)、TFEとPAVEとビニリデンフルオライド(VDF)との共重合体(TFE/PAVE/VDF共重合体)、TFEとPAVEとクロロトリフルオロエチレン(CTFE)との共重合体(TFE/PAVE/CTFE共重合体)等の3元共重合体や、TFEとPAVEとHFPとVDFとの共重合体(TFE/PAVE/HFP/VDF共重合体)、TFEとPAVEとHFPとCTFEとの共重合体(TFE/PAVE/HFP/CTFE共重合体)、TFEとPAVEとVDFとCTFEとの共重合体(TFE/PAVE/VDF/CTFE共重合体)等の4元共重合体や、TFEとPAVEとHFPとVDFとCTFEとの共重合体(TFE/PAVE/HFP/VDF/CTFE共重合体)等の5元共重合体も含まれる。
【0023】
上記PAVE単位を構成するPAVEとしては、特に限定されず、例えば、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔PMVE〕、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)〔PEVE〕、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)、パーフルオロ(ペンチルビニルエーテル)、パーフルオロ(ヘキシルビニルエーテル)、パーフルオロ(ヘプチルビニルエーテル)等を挙げることができる。
【0024】
上記TFE−PAVE系共重合体におけるTFEとPAVEの質量比は、90〜98/2〜10が好ましく、92〜97/3〜8がより好ましい。
【0025】
本件フッ素樹脂は、懸濁重合や乳化重合等の定法にしたがって合成したフッ素樹脂の末端基を、フッ素樹脂を溶融押出する前にフッ素樹脂とフッ素含有化合物(例えば、フッ素ラジカル源)とを接触させて安定化処理を行う方法や、フッ素樹脂を溶融押出した後に得られたフッ素樹脂のペレットとフッ素含有化合物とを接触させてフッ素化処理を行う方法等の公知の方法によってフッ素化処理することにより作製することができる。また、フッ素樹脂製造時(重合反応時)、フッ素モノマーと共に末端基を制御できる連鎖移動剤や重合触媒を使用して得ることもできる。そしてまた、本件フッ素樹脂として市販品を用いることもできる。さらに、フッ素樹脂を溶融して成形したフィルムや、該フィルムから成形した容器や、フッ素樹脂から成形した容器等のように、フッ素樹脂より成形した成形物に対してフッ素含有化合物を接触させてフッ素化処理を行うこともできる。また、これらの処理方法を組み合わせることもできる。
すなわち、前記非フッ素化基末端の合計や、非フッ素化基末端と−CF
2H基末端との合計は、原料となるフッ素樹脂、ペレット、フィルムの各段階において炭素1×10
6当たり70個以下である必要はなく、最終的な容器の細胞と接触する表面において炭素1×10
6当たり70個以下であればよい。また、−CF
3の末端基を1つ以上含むフッ素樹脂の場合、原料となるフッ素樹脂、ペレット、フィルムの各段階において−CF
3の末端基が1つ以上である必要はなく、最終的な容器の細胞と接触する表面においてフッ素樹脂が−CF
3の末端基を1つ以上含んでいればよい。
【0026】
上記フッ素ラジカル源としては、特に限定されないがIF
5、ClF
3等のフッ化ハロゲン、F
2ガス、CoF
3、AgF
2、UF
6、OF
2、N
2F
2、CF
3OFなどを挙げることができる。かかるF
2ガスは、100%濃度のものであってもよいが、安全性の面から不活性ガスと混合し5〜50質量%、好ましくは15〜30質量%に希釈して使用する。かかる不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等を挙げることができ、費用対効果の観点から窒素ガスが好ましい。
【0027】
上記フッ素化処理は、20〜220℃が好ましく、より好ましくは100〜200℃の温度下で行う。上記フッ素化処理は、5〜30時間が好ましく、より好ましくは10〜20時間行う。
【0028】
本発明により得られた容器は、表面粗度の算術平均粗さ(Ra)、表面粗度の二乗平均粗さ(RMS)、及び表面自由エネルギーを調整したものであってもよい。例えば、表面粗度のRaが3.5〜6.5nmであり、表面粗度のRMSが4.5〜8.0nmであり、かつ表面自由エネルギーが16.5〜18.5(mJ/m
2)の容器内面を備えたもの等が挙げられる。
【0029】
本発明の容器の形態としては、例えば、ディッシュ、ウェルプレート、バッグ、ボトル、遠心チューブ、バイアル、シリンジ、チューブ等を挙げることができ、本発明の容器が細胞投与用容器の場合、シリンジ、(点滴用)バッグ、(点滴用)ボトル、チューブが好ましく、本発明の容器が細胞保存用容器の場合、ディッシュ、ウェルプレート、バッグ、ボトル、遠心チューブ、バイアルが好ましく、本発明の容器が細胞培養用容器の場合、ディッシュ、ウェルプレート、バッグ、ボトルが好ましい。特に、バッグ形状の本発明の容器は、細胞の投与用、保存用、及び培養用の全ての用途に適用できるため、好適に例示することができる。
【0030】
上記ディッシュ、ウェルプレート、バッグ、ボトル、遠心チューブ、バイアル、シリンジ、チューブ等は、圧縮成形、押出成形、トランスファー成形、インフレーション成形、ブロー成形、射出成形、回転成形、ライニング成形、発泡体押出成形、フィルム成形等の成形方法と、必要に応じてヒートシール、高周波融着、超音波融着等のシール手段を組み合わせて製造することができる。
【0031】
上記バッグは、具体的には、本件フッ素樹脂素材のフィルム(シート)を重ね合わせた上で、縁部を、インパルスシーラーを用いてヒートシールすることにより製造することができる。
【0032】
上記バッグの成形に用いるフィルムは、単層フィルムでも、二層以上の多層からなる積層フィルムでもよく、多層からなる積層フィルムである場合は、少なくとも哺乳動物細胞と接触する内表面が、本件フッ素樹脂素材の層フィルムとなるようにバッグを成形すればよく、他の層フィルムは、本件フッ素樹脂と異なる素材(例えば、ポリオレフィン系樹脂素材)の層フィルムであってもよい。フィルムの積層は、熱ラミネート法、熱圧縮法、高周波加熱法、溶剤キャスティング法及び押出ラミネーション法等の方法を用いて行う。
【0033】
また、ガラス、金属、樹脂等から製造されたディッシュ、ウェルプレート、バッグ、ボトル、遠心チューブ、バイアル、シリンジ、チューブ等といった基材に、本件フッ素樹脂からなるコーティング剤で被覆処理を行うことにより本発明の容器を得ることもできる。基材の形態に応じて任意の方法が採用できる。かかる被覆処理としては、スピンコート、スプレーコート、バーコート、ロールコート、浸漬、刷毛塗り、ロトライニング、静電塗装等の方法を挙げることができる。上記フッ素樹脂コーティング剤を基材に被覆した後、乾燥処理及び高温加熱処理によりコーティング層が形成される。また、本件フッ素樹脂を含むコーティング剤をさらに重ね塗りすることにより、任意の膜厚まで厚くしてもよい。
【0034】
本発明の容器は、例えば、哺乳動物細胞含有液を凍結保存する場合、哺乳動物細胞含有液を凍結しない温度(通常0〜37℃、好ましくは0〜25℃[室温]の範囲内)で保存(少なくとも6時間)する場合、浮遊培養法により浮遊性又は接着性の哺乳動物細胞を大量生産する場合、前記凍結しない温度で保存後の哺乳動物細胞含有液を別の容器に移すことなく、そのまま投与(移植)する場合等に用いることができる。
【0035】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
1.細胞バッグの製造
16cm×15cmサイズで厚さ100μmの3種類のフィルムを、インパルスシーラーを用いてシール時間50秒、シール圧力0.2MPa、シール幅5mmの条件でヒートシールすることにより、12種類の細胞バッグ(細胞バッグA〜C[比較例サンプル1〜3]、細胞バッグD〜G[実施例サンプル1〜4]、細胞バッグH[比較例サンプル4]、細胞バッグI〜K[実施例サンプル5〜7]、及び細胞バッグL[比較例サンプル5])を製造した(表2参照)。なお、細胞バッグM(比較例サンプル6)として、ポリ塩化ビニル製の細胞バッグ(川澄化学工業株式会社製のカワスミ クォドラップ バッグACP-AMPを加工)を用いた(表2参照)。
【0037】
1−1 非フッ素化基末端数及び−CF
2H基末端数の測定
厚み250〜300μm程度の当該樹脂のサンプルを作製し、FT−IR Spectrometer 1760X(Perkin-Elmer社製)を用いて分析を行った。
厚み250〜300μm程度の当該樹脂のサンプルを作製するにあたっては、ペレットを油圧プレスにて圧延して作製した。また、細胞バックを構成するフィルム(ペレットから溶融成形により作製)はそのまま、厚みが足りない場合は、フィルムを重ね合わせて測定した。
【0038】
標準サンプル(もはやスペクトルに実質的に差異がみられなくなるまで充分にフッ素化したサンプル)との差スペクトルを取得し、各ピークの吸光度を読み取り、次式に従って炭素数1×10
6個あたりの非フッ素化基末端数及び−CF
2H基末端数を算出した。細胞バッグA〜Mそれぞれの、非フッ素化基末端数及び−CF
2H基末端数を表2に示す。
【0039】
非フッ素化基末端及び−CF
2H基末端の個数(炭素1×10
6個あたり)=l・k/t
l:吸光度
k:補正係数(表1参照)
t:サンプル厚み(mm)
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
1−2 −CF
3末端基の有無の測定
当該樹脂フィルムを370℃で溶融させてストランドを作製し、核磁気共鳴分光計AVANCE300WB(Bruker社製)を用いて、高温
19F NMRによるスペクトルの測定を行った。
【0043】
当該樹脂と同じ組成比の−CF
3末端基が存在しない樹脂を溶融させて作製したストランドのスペクトルとの差スペクトルを取得し、δ=−82ppmにピークが見られれば−CF
3末端基が有り、δ=−82ppmにピークが見られなければ−CF
3末端基が無いと判断した。細胞バッグA〜Mそれぞれの、−CF
3末端基の有無を表3に示す。
【0044】
【表3】
【実施例2】
【0045】
2.細胞バッグを用いたヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hMSC;Human Mesenchymal Stem Cells)の保存
上記実施例1の細胞バッグを用いて細胞を保存した場合に、細胞接着が抑制され、浮遊状態で保存できるかどうかについて解析した。
【0046】
2−1 方法
2−1−1 細胞保存液の調製
6.0(w/v)%トレハロース含有ラクテック(登録商標)注(大塚製薬工場社製)と、低分子デキストランL注(10[w/v]%デキストラン含有ラクテック注)(大塚製薬工場社製)とを1:1で混合し、細胞保存液を調製した。
【0047】
2−1−2 哺乳動物細胞の調製
〔1〕4×10
5個のhMSC(Lonza社製、PT-2501)を、75cm
2フラスコを用いてMSC培養液(Lonza社製、PT-3001)存在下で37℃、5%CO
2インキュベーターにて培養し、約90%コンフルエントで定法にしたがって継代した。
〔2〕継代したhMSC(継代回数3回の細胞、ほぼ100%コンフルエント)の培養液をアスピレーターで除き、フラスコ当たり8mLのPBS(Invitrogen社製)でhMSCをリンスした。
〔3〕PBSをアスピレーターで除き、フラスコ当たり3.75mLのトリプシン−EDTA(Lonza社製、CC-3232)を加え、室温で5分間静置した。
〔4〕hMSCが90%程度剥離するまで顕微鏡下で観察しながら、ゆっくりと揺らした。
〔5〕フラスコ当たり3.75mLのMSC培養液を加え、トリプシン反応を停止させ、ピペッティングによりhMSCを回収し、50mL遠心チューブに移した。
〔6〕600×g、5分間、25℃で遠心分離を行った。
〔7〕上清をアスピレーターで除き、1フラスコ当たり3mLの上記細胞保存液を加え、hMSCペレット(沈殿物)を懸濁した。
〔8〕10μLのhMSC-BM懸濁液を採取し、細胞計数盤で細胞数を計測し、5×10
5個/mLとなるように上記細胞保存液を添加し、氷冷した。
【0048】
2−1−3 哺乳動物細胞の保存
〔1〕5×10
5個/mLのhMSC含有細胞保存液を、13種類の細胞バッグA〜M内に3mLずつ播種した。
〔2〕インキュベーター(25℃、5%CO
2)(アズワン社製、PIC100)内に6時間静置・保存した後、細胞懸濁液の一部(20μL)を回収し、20μLの0.4%トリパンブルー(Gibco社製)と混合し、細胞計数盤を用いて顕微鏡(ECLIPSE TS100、ニコン社製)下で細胞懸濁液の細胞濃度及び生細胞数を計測し、それぞれ細胞回収率(表4、7及び10参照)及び細胞生存率(表5、8及び11参照)を算出した。また、バッグの一部をハサミでカットし、6ウェルプレート上において、バッグに接着した細胞を顕微鏡(IX-70、オリンパス社製)下で観察した。なお、表4〜表6、表7〜表9、及び表10〜表12の結果は、それぞれ独立した(hMSCの調製時期が異なる)実験により得られたものである。
【0049】
【表4】
【0050】
【表5】
【0051】
【表6】
【0052】
2−2 結果
保存後のhMSCの回収率は、表4に示すとおり、細胞バッグA、B、C、H、L、及びM(比較例サンプル1、2、3、4、5、及び6)を用いた場合は、それぞれ39%、43%、34%、40%、38%、及び36%であったのに対して、細胞バッグD、F、G、J、及びK(実施例サンプル1、3、4、6、及び7)を用いた場合は、それぞれ50%、69%、99%、70%、及び80%と高かった。
【0053】
また、保存後のhMSCの生存率は、表5に示すとおり、細胞バッグD、F、G、J、及びK(実施例サンプル1、3、4、6、及び7)を用いた場合、それぞれ93%、96%、93%、95%、及び96%であり、いずれもが90%以上と高かった。
【0054】
その結果、保存後の生存したhMSCの回収率(細胞生存率×細胞回収率)は、表6に示すとおり、細胞バッグA、B、C、H、L、及びM(比較例サンプル1、2、3、4、5、及び6)内に保存した場合(それぞれ34%、37%、31%、37%、31%、及び32%)と比べ、細胞バッグD、F、G、J、及びK(実施例サンプル1、3、4、6、及び7)内に保存した場合(それぞれ46%、66%、92%、66%、及び77%)の方が高かった。
【0055】
【表7】
【0056】
【表8】
【0057】
【表9】
【0058】
2−3 結果
保存後のhMSCの回収率は、表7に示すとおり、細胞バッグB及びL(比較例サンプル2及び5)を用いた場合は、それぞれ30%及び25%であったのに対して、細胞バッグG(実施例サンプル4)を用いた場合は、80%と高かった。
【0059】
また、保存後のhMSCの生存率は、表8に示すとおり、細胞バッグG(実施例サンプル4)を用いた場合95%と高かった。
【0060】
その結果、保存後の生存したhMSCの回収率(細胞生存率×細胞回収率)は、表9に示すとおり、細胞バッグB及びL(比較例サンプル2及び5)内に保存した場合(それぞれ27%、及び22%)と比べ、細胞バッグG(実施例サンプル4)内に保存した場合(76%)の方が高かった。
【0061】
【表10】
【0062】
【表11】
【0063】
【表12】
【0064】
2−4 結果
保存後のhMSCの回収率は、表10に示すとおり、細胞バッグB(比較例サンプル2)を用いた場合は49%であったのに対して、細胞バッグE、F、I、及びK(実施例サンプル2、3、5、及び7)を用いた場合は、それぞれ83%、75%、84%、及び67%と高かった。
【0065】
また、保存後のhMSCの生存率は、表11に示すとおり、細胞バッグE、F、I、及びK(実施例サンプル2、3、5、及び7)を用いた場合、それぞれ93%、93%、91%、及び92%であり、いずれもが90%以上と高かった。
【0066】
その結果、保存後の生存したhMSCの回収率(細胞生存率×細胞回収率)は、表12に示すとおり、細胞バッグB(比較例サンプル2)内に保存した場合(45%)と比べ、細胞バッグE、F、I、及びK(実施例サンプル2、3、5、及び7)内に保存した場合(それぞれ77%、69%、76%、及び61%)の方が高かった。
【0067】
さらに、保存後のhMSCは、細胞バッグA〜C、H、L、及びM(比較例サンプル1〜3、4、5、及び6)の内面に接着していたのに対して、細胞バッグD〜G、及びI〜K(実施例サンプル1〜4、及び5〜7)の内面への接着性は抑制され、特に、細胞バッグE〜G、及びI〜K(実施例サンプル2〜4、及び5〜7)の内面にはhMSCはほとんど接着していなかった。
これらの結果は、細胞バッグD〜G、及びI〜K(実施例サンプル1〜4、及び5〜7)内で細胞を保存すると、細胞バッグA〜C、H、L、及びM(比較例サンプル1〜3、4、5、及び6)内で細胞を保存するよりも、生細胞の接着性を有意に抑制できることを示している。
【実施例3】
【0068】
3.細胞バッグを用いたマウス間葉系幹細胞由来10T1/2細胞の培養
上記実施例1で製造した細胞バッグを用いて細胞を培養した場合に、細胞接着が抑制され、浮遊状態で培養できるかどうかについて解析した。
【0069】
3−1 方法
〔1〕マウス間葉系幹細胞由来10T1/2細胞を、10%FBS(life technologies社製、gibco standard)を含むDMEM(nacalai tesque社製、08458-45)培養液中に、1.0×10
5個/mLとなるように懸濁させ、2種類の細胞バッグB(比較例サンプル2)及びG(実施例サンプル4)内に3mLずつ播種した。
〔2〕インキュベーター(37℃、5%CO
2)内で培養し、4時間、1、2、3、及び6日後、細胞懸濁液の一部(10μL)を回収し、10μLの0.4%トリパンブルー(Gibco社製)と混合し、細胞計数盤で生細胞数を計測し、細胞生存率を算出した。また、細胞バッグに接着した細胞を光学顕微鏡(Nikon社製)下で観察した。
【0070】
3−2 結果
培養後の10T1/2細胞の生存率は、細胞バッグG(実施例サンプル4)及び細胞バッグB(比較例サンプル2)を用いた場合はともに、70%以上と高かった。一方、培養後にバッグ内面に接着した10T1/2細胞の割合は、細胞バッグBを用いた場合よりも細胞バッグGを用いた方が少なかった。
この結果は、細胞バッグG(実施例サンプル4)内で細胞を培養すると、細胞バッグB(比較例サンプル2)内で細胞を培養するよりも、生細胞の接着性を有意に抑制できることを示している。
【0071】
上記実施例1〜3の結果は、細胞バッグD〜G及びI〜K(実施例サンプル1〜7)を用いて細胞を投与、保存、又は培養すると、容器内表面への細胞接着や細胞生存率低下を効果的に抑制できるため、高濃度でかつ生細胞の割合が高い細胞含有液を投与、保存、又は調製できることを示している。