特許第6872493号(P6872493)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6872493アルカリ電池用セパレータ及びアルカリ電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6872493
(24)【登録日】2021年4月21日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】アルカリ電池用セパレータ及びアルカリ電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/409 20210101AFI20210510BHJP
【FI】
   H01M2/16 N
   H01M2/16 L
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-556429(P2017-556429)
(86)(22)【出願日】2016年11月15日
(86)【国際出願番号】JP2016083862
(87)【国際公開番号】WO2017104336
(87)【国際公開日】20170622
【審査請求日】2019年9月24日
(31)【優先権主張番号】特願2015-243490(P2015-243490)
(32)【優先日】2015年12月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390032230
【氏名又は名称】ニッポン高度紙工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】特許業務法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒岩 正寛
(72)【発明者】
【氏名】小川 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】和田 典弘
(72)【発明者】
【氏名】井河 篤
【審査官】 冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−274525(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/114949(WO,A1)
【文献】 特開2010−202987(JP,A)
【文献】 特開2012−054228(JP,A)
【文献】 特開昭57−118364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/409
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質と負極活物質とを隔離し、電解液を保持するためのアルカリ電池用セパレータであって、
耐アルカリ性繊維のみからなる基材層と、耐アルカリ性樹脂を0.1〜25g/m含有する耐アルカリ性樹脂層とからなり、
前記基材層の前記耐アルカリ性繊維は、耐アルカリ性セルロース繊維を10〜100質量%含有し、
前記耐アルカリ性樹脂層の前記耐アルカリ性樹脂は、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリプロピレンから選択される一種以上の樹脂を含む
ことを特徴とするアルカリ電池用セパレータ。
【請求項2】
前記基材層の前記耐アルカリ性繊維が、さらに、耐アルカリ性合成繊維を含有することを特徴とする請求項1に記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項3】
前記耐アルカリ性樹脂層が、さらに、ポリカルボン酸を2〜90質量%含有することを特徴とする請求項1または2に記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項4】
前記基材層が、密度0.25〜0.85g/cm3の層を有する、厚さ15〜130μmの不織布であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項5】
正極活物質と負極活物質とがセパレータにより隔離されたアルカリ電池であって、
前記セパレータとして、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のアルカリ電池用セパレータが用いられていることを特徴とするアルカリ電池。
【請求項6】
アルカリマンガン電池、ニッケル亜鉛電池、酸化銀電池、空気亜鉛電池のいずれかであることを特徴とする、請求項5に記載のアルカリ電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリマンガン電池、ニッケル亜鉛電池、酸化銀電池、空気亜鉛電池等の亜鉛を負極活物質とするアルカリ電池に用いられる、アルカリ電池用セパレータに関するものである。また、本発明は、このアルカリ電池用セパレータを用いたアルカリ電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、アルカリ電池における正極活物質と負極活物質とを隔離するためのセパレータに要求されている特性として、正極活物質と負極活物質の接触や負極の放電によって生成した亜鉛酸化物の針状結晶(デンドライト)によるショート不良を防止する遮蔽性と、水酸化カリウム等の電解液を保持し且つ、電解液に対して収縮及び変質を起こさない耐久性とを有するとともに、イオン伝導を妨げないことが挙げられている。また、アルカリ電池の輸送時や落下時の衝撃によっても、電池内部のセパレータが破損して内部短絡が発生する可能性があるため、セパレータは十分な機械強度を保持することが求められる。
【0003】
こういったアルカリ電池用セパレータとしては、耐アルカリ性合成繊維であるビニロン繊維やナイロン繊維を主体とし、これらに耐アルカリ性に優れたセルロース繊維であるレーヨン繊維や溶解パルプ、コットンリンターパルプ、マーセル化木材パルプ、ポリノジック繊維、リヨセル繊維等を配合し、更にバインダとして60℃〜90℃の熱水に溶解する易溶解性のポリビニルアルコール繊維を添加した、合成繊維とセルロース繊維の混抄紙が使用されている。
これら従来のセパレータの製造にあたって、上述したセルロース繊維は、必要に応じて叩解処理が施され、繊維本体から微細なフィブリルを生じさせることによって、セパレータの緻密性を向上させ、セパレータの遮蔽性能を高めることが行われている。
【0004】
ビデオカメラやポータブル映像機器、デジタルカメラ、ゲーム機、リモコン等へのアルカリ電池の利用や機器の高性能化に伴い、アルカリ電池の大電流化が要求されており、重負荷放電特性が重要視されている。近年は更に、実際の使用に近い間欠放電特性も重要視される傾向にある。アルカリ電池のこれらの放電特性を向上させるためには、電池の内部抵抗値を小さくすることが重要である。内部抵抗値が大きいと、この抵抗により電池の電圧降下が起こり、電池の電気容量も低下する。このため、電池の放電特性の向上を目的として、セパレータにも低抵抗化の要求が高まっている。
【0005】
セパレータの低抵抗化のためには、セパレータを薄くすることが効果的である。しかし、セパレータを薄くすると、セパレータの強度低下や遮蔽性の低下も同時に起こる。このため、薄いセパレータを使用すると、製造時や輸送時などにアルカリ電池のショート不良が増加する。
【0006】
アルカリ電池のショート不良を低減するためには、セパレータの遮蔽性を高める事が効果的である。
セパレータの遮蔽性を高めるためには、セルロース繊維を構成材料として配合する場合には、セルロース繊維の叩解の程度を高くすることが効果的であり、合成繊維を構成材料として配合する場合には、繊維径の細い合成繊維を配合することが効果的である。
【0007】
以上述べたように、アルカリ電池用セパレータとして、遮蔽性が高く、抵抗値の低いセパレータが求められている。しかし、セパレータの遮蔽性と抵抗値、強度と抵抗値とは相反の関係にあり、これら全ての特性を同時に向上させることは困難であった。
【0008】
また、従来から、アルカリ電池用セパレータにおいて、特性の向上を図る目的で種々の構成が提案されている(例えば、特許文献1〜特許文献4を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平2−119049号公報
【特許文献2】特開2012−54228号公報
【特許文献3】特開2006−4844号公報
【特許文献4】特開平11−260337号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に提案されているセパレータは、60℃〜90℃の熱水に溶解する易溶解性のポリビニルアルコール繊維が10質量%〜20質量%添加されている。この易溶解性ポリビニルアルコール繊維は、他の原料繊維と混合し、湿紙形成される。易溶解性ポリビニルアルコール繊維は、湿紙の乾燥工程における加熱により、湿紙中の水(熱水)に溶解したポリビニルアルコール樹脂となり、湿紙を構成するセルロース繊維と合成繊維との間に溶け広がっていく。次いで、乾燥の進行に伴い水分が湿紙から蒸発し、繊維間に広がったポリビニルアルコール樹脂が繊維と繊維との交点を結着させる。これにより、シートの強度が高められる。また、ポリビニルアルコール樹脂は、アルカリ電解液中に溶解しにくいため、電解液中での強度も高く保たれる。
しかしながら、乾燥工程で溶解したポリビニルアルコール樹脂は、繊維間に膜状に広がっていき、フィルム状に結着することでセパレータの空孔を塞ぐこととなる。このため、セパレータのイオンの透過が阻害され抵抗値が増大してしまう。また、セパレータの空隙が少なくなるため、セパレータの吸液性や保液性も低下する。
ここで、セパレータの抵抗値を低下させるために、セルロース繊維の叩解の程度を低くすると、セパレータの遮蔽性も低下し、ショート不良が増加してしまう。
【0011】
特許文献2において、セルロース繊維を含むスラリー液にポリアミンエピクロロヒドリン樹脂を添加することにより、セルロース繊維間を架橋結合し、電解液中での強度を増加させたセパレータが提案されている。
このセパレータは、アルカリ性の電解液中での強度に優れ、電池に落下等の衝撃が加わった場合であってもセパレータの破損がない。
しかし、近年、このセパレータは、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂が添加されていないセパレータと比べると、水素ガスの発生量が多く、電池内部の圧力上昇が起こり易いため、液漏れが発生しやすくなる場合があることがわかってきた。
更に、製紙業では一般的にシートの再利用が行われているが、繊維間をポリアミンエピクロロヒドリン樹脂が架橋結合しているため構成繊維の再分散が困難であり、シートの再利用が行いにくいという課題があった。
【0012】
特許文献3において、高度に叩解された、セルロースIとセルロースIIとの結晶構造からなるセルロースセパレータが提案されている。セルロース繊維が高度に叩解されているため、緻密なシートが形成され、遮蔽性の高いセパレータが実現できる。
しかし、このセパレータは、セルロース繊維のみからなるため、アルカリ性の電解液中での強度が充分でなく、電池を作製した後に落下等の衝撃が加わった際、電池内部でセパレータが破損してショート不良に至る場合があった。
高度に叩解されたセルロース繊維は、非常に保水性が良く、抄紙時の保水量も多くなる。このため、仮に、電解液中での強度を高めるため、ポリビニルアルコール繊維といったバインダ成分を添加すると、乾燥工程で溶解したポリビニルアルコール樹脂が、セルロース繊維間でフィルム状に結着し、セパレータの抵抗値を小さくし難い。従って、近年の更なる低抵抗化への要望に十分に対応できない。
【0013】
特許文献4において、セロハンをセパレータとして用いる例が提案されている。セロハンは、パルプ等の天然セルロースを、溶剤に溶解した後に析出させることにより、フィルム状にシート形成したものである。
このため、遮蔽性に優れるセパレータとなるが、電解液の保持がしにくく、特許文献4に記載されているように、不織布からなるセパレータと貼り合せて使用されるのが一般的である。
このため、貼り合わせのための工程が必要となり非効率であり、一般的なセパレータと比べると高価なセパレータとなっている。
【0014】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、電解液中での強度と遮蔽性に優れた低抵抗なアルカリ電池用セパレータを提供することを目的としたものである。また、このセパレータを用いることにより、アルカリ電池の大電流化を可能とすることを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために、遮蔽性に優れる不織布に、耐アルカリ性を付与するという着想に至った。
即ち、本発明のアルカリ電池用セパレータは、耐アルカリ性セルロース繊維を含有した耐アルカリ性繊維のみからなる基材層(即ち、不織布等)と、ポリビニルアルコールやポリエチレン、ポリプロピレンといった耐アルカリ性樹脂を含有した耐アルカリ性樹脂層とからなるセパレータである。
【0016】
耐アルカリ性樹脂層中の耐アルカリ性樹脂の含有量は、0.1〜25.0g/mが好ましい。そして、基材層は、耐アルカリ性繊維の100質量%中に耐アルカリ性セルロース繊維を10質量%以上含有していることが好ましい。
【0017】
基材層は、厚さ15〜130μm、密度0.25〜0.85g/cmの不織布であることがより好ましい。
また、耐アルカリ性樹脂層では、耐アルカリ性樹脂に、ポリカルボン酸といったような、アルカリ性電解液に膨潤する化合物が添加されていることが好ましい。
この添加剤の含有率は、耐アルカリ性樹脂層の2〜90質量%の範囲が好ましい。
【0018】
また、本発明のアルカリ電池は、正極活物質と負極活物質とがセパレータにより隔離されたアルカリ電池であって、セパレータとして上述した本発明のアルカリ電池用セパレータが用いられている構成である。
本発明のアルカリ電池としては、アルカリマンガン電池、ニッケル亜鉛電池、酸化銀電池、空気亜鉛電池が好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、耐アルカリ性樹脂層の耐アルカリ性樹脂によって、アルカリ電池のアルカリ性電解液中でのセパレータの強度が保たれる。そして、基材層によって、セパレータに遮蔽性を持たせることができる。
【0020】
また、本発明においては、基材層とは別に、耐アルカリ性樹脂を含有する耐アルカリ性樹脂層を設けている。これにより、繊維中に耐アルカリ性樹脂が浸透している構成と比較して、抵抗値を小さくすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明にかかる実施の形態例を詳細に説明する。
【0022】
本発明のアルカリ電池用セパレータは、不織布等の基材層と、耐アルカリ性樹脂層とを有する。そして、耐アルカリ性樹脂層は、耐アルカリ性樹脂を含有する。
耐アルカリ性樹脂層を有することで、電解液中でのセパレータの強度が高く保たれる。更に、抵抗値の増大も抑制できる。これは以下の理由による。
【0023】
従来のセパレータは、抄紙原料中に耐アルカリ性樹脂を繊維の状態で混合し、乾燥工程で溶解・固化することで繊維間を結着し、アルカリ性電解液中での強度を向上させていた。しかし、繊維状の耐アルカリ性樹脂が湿紙中に広く分散しており、この繊維状の耐アルカリ性樹脂が溶解・固化することで、セパレータ全体の空隙を閉塞してしまう。また、耐アルカリ性樹脂がセパレータ全体に広く均質に浸透するため、実用に耐えうる電解液中での強度を維持させるためには、耐アルカリ性樹脂の含有量を少なくし難かった。このため、セパレータの抵抗値が増大してしまっていた。
【0024】
一方、本発明のセパレータは、基材層と耐アルカリ性樹脂層を有する。
そして、基材層は、耐アルカリ性繊維のみからなり、耐アルカリ性繊維100質量%中に耐アルカリ性セルロース繊維を10〜100質量%含有する。
耐アルカリ性樹脂層は、耐アルカリ性樹脂を含有する。
【0025】
耐アルカリ性樹脂層中の耐アルカリ性樹脂の含有量は、0.1〜25.0g/mであることが好ましい。含有量が0.1g/m未満では、電解液中での強度が不足する。また、含有量が25.0g/mを超過すると、抵抗値の増大抑制が困難となる。含有量が25.0g/mを超過すると、更に、セパレータの吸液性、保液性の低下により、電解液の保持力が低下し、電池の寿命が短くなる場合もある。
【0026】
本発明のセパレータは、例えば、基材層となるシートを形成した後に、耐アルカリ性樹脂を含有する塗布液をシートに塗布して耐アルカリ性樹脂層を形成することによって、製造することができる。
シートへの塗布により耐アルカリ性樹脂層を形成した場合、耐アルカリ性樹脂がシート内部の繊維一本一本の間隙にまで浸透せず、比較的表層で層をなすように繊維間を結着する。そして、耐アルカリ性樹脂の割合が多い部分は、アルカリ性電解液中での強度が大幅に向上する。このため、セパレータ中の耐アルカリ性樹脂の含有量を従来よりも減らしても、充分にアルカリ性電解液中での強度を向上できる。
その結果、原料中に耐アルカリ性樹脂の繊維を混合することによってシート内部で耐アルカリ性樹脂が結着した構成のセパレータと比較して、抵抗値の増大が大幅に抑えられる。
【0027】
また、耐アルカリ性樹脂を含有する塗布液を塗布する方法としては、従来から用いられている方法を特に制限なく用いることができる。
具体的には、ロールコータ、ダイコータ、ブレードコータ、バーコータ、含浸コータ、スプレーコータ、カーテンコータ等の設備が使用できる。
そして、耐アルカリ性樹脂を含有する塗布液の塗布は、基材層の片面に施してもよいし、両面に施してもよい。
本発明のアルカリ電池用セパレータを製造する際の塗布の要点は、耐アルカリ性樹脂を基材に均質に塗布することである。このため、均質に塗布できさえすれば、上記の方法に限らず、いずれの方法であっても採用できる。
【0028】
本発明に用いる耐アルカリ性樹脂としては、ポリビニルアルコール樹脂やポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等の樹脂が好ましく、これらをカルボン酸等で変性したものであってもよい。また、これらの樹脂を複数組み合わせて用いてもよい。
なかでも、電解液との親和性の観点から、ポリビニルアルコール樹脂が好ましく、カルボン酸等で変性したアニオン変性ポリビニルアルコール樹脂が更に好ましい。
カチオン変性耐アルカリ性樹脂は、電池を組んだ際のガス発生量が増加するため適さない。
なお、本発明において、これら耐アルカリ性樹脂の重合度に特に制限はない。
また、耐アルカリ性樹脂がポリビニルアルコール系樹脂である場合において、ケン化度も特に制限なく使用できる。
【0029】
耐アルカリ性樹脂を含有する塗布液は、任意の性状に調製できる。つまり、塗布液は水溶液としてもよいし、乳化分散させたエマルションであってもよい。
【0030】
また、耐アルカリ性樹脂には、添加剤として、アルカリ性電解液を保持・膨潤するものを含有することが好ましい。
これらの添加剤を含有した耐アルカリ性樹脂を塗布すると、セパレータの抵抗値の増大が抑制できる。
上述した添加剤としては、電解液を保持・膨潤するものが特に制限なく使用できる。
具体的には、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸、スチレンマレイン酸無水物共重合体といったポリカルボン酸及びこれらの塩が挙げられる。
【0031】
ここで、従来公知の耐アルカリ性樹脂を含有したセパレータは、耐アルカリ性樹脂を含有しないセパレータと比較して、抵抗値が増大する。これは、耐アルカリ性樹脂がフィルム状に結着し、更に、電解液の保持性が低いためであると考えられる。
本発明においても、耐アルカリ性樹脂を含有することにより、従来よりも抵抗値の増大は小さいものの、同様の傾向がある。
【0032】
一方、上述した添加剤は、親水性が高く、電解液をよく保持し、膨潤する。このため、上述した添加剤を含有した耐アルカリ性樹脂も、電解液の保持性が高まる。その結果、耐アルカリ性樹脂を塗布しても、耐アルカリ性樹脂によるイオン透過性の低下が起こり難く、セパレータとしての抵抗値の増大が抑えられる。また、添加剤により、セパレータの保液性が高まるため、電解液の蒸散を抑えられ、電池とした時の寿命も長くできる。
【0033】
以上の理由から、添加剤と耐アルカリ性樹脂は均質に混合されている必要がある。このため、添加剤は塗布前に塗布液と混合し、この混合された塗布液を基材に塗布することが好ましい。
【0034】
添加剤は、耐アルカリ性樹脂層中に、2.0〜90.0質量%の範囲で含有することが好ましい。
耐アルカリ性樹脂層中の添加剤含有率が2.0質量%未満では、添加剤を含有した耐アルカリ性樹脂であっても、セパレータ抵抗値の増大を抑制し難い。また、耐アルカリ性樹脂層中の添加剤含有率が90.0質量%を超過しても、これ以上抵抗値の低減ができない。
【0035】
そして、耐アルカリ性樹脂層に添加剤を使用する場合、添加剤含有率のみでなく、耐アルカリ性樹脂と添加剤とのそれぞれの含有量も重要である。
耐アルカリ性樹脂の含有量は0.1〜5g/mが好ましく、添加剤の含有量は20g/m以下が好ましい。更に、耐アルカリ性樹脂の含有量が0.1〜2.0g/mかつ添加剤の含有量が10/m以下がより好ましい。
つまり、耐アルカリ性樹脂層が、0.1〜25.0g/mかつ添加剤含有率が2〜90%であり、更に、耐アルカリ性樹脂の含有量と添加剤の含有量がそれぞれ上記範囲にある事が好ましい。
また、上記の添加剤以外にも、電解液との親和性を向上させるために、非イオン系界面活性剤やアニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤のような界面活性剤を添加してもよい。なお、非イオン系界面活性剤やアニオン系界面活性剤であれば、電池に組み込んだ後も、ガス発生量の増加の懸念がなく用いることができる。
【0036】
本発明のアルカリ電池用セパレータにおいて、基材層としては、叩解された耐アルカリ性セルロース繊維を10〜100質量%含有した耐アルカリ性繊維からなる不織布が好ましい。
基材層に使用する耐アルカリ性繊維を、叩解された耐アルカリ性セルロース繊維とした場合には、非常に緻密なシートが形成されるため、セパレータの遮蔽性が向上し、電池としたときのショート不良を低減できる。
このように、叩解された耐アルカリ性セルロース繊維を10〜100質量%含有したセパレータは、電解液中での寸法安定性と化学的安定性、遮蔽性を同時に改善でき好ましい。
【0037】
本発明のセパレータの基材層を構成する耐アルカリ性繊維としては、耐アルカリ性セルロース繊維や、耐アルカリ性合成繊維、耐アルカリ性化学繊維、などが使用できる。
そして、耐アルカリ性セルロース繊維としては、溶解パルプやマーセル化パルプ、再生セルロース繊維が好ましい。耐アルカリ性合成繊維や耐アルカリ性化学繊維としては、ナイロンやポリエチレン、ポリプロピレン、アセタール化ポリビニルアルコール繊維などが使用できる。
これらの耐アルカリ性繊維は、アルカリ性である電解液に浸漬されても、収縮や分解がない。このため、アルカリ電池用セパレータとして用いたとき、寸法安定性や化学的安定性に優れた、良好なセパレータとなる。
【0038】
セパレータの基材層が耐アルカリ性繊維からなる不織布ではない場合、セパレータの寸法安定性や化学的安定性を向上できない。
寸法安定性が悪い場合、電解液中でセパレータが収縮する。電池製造工程においては、負極活物質を充填する前に電解液が注入される。その際に、アルカリ性の電解液によりセパレータが収縮してしまい、規定量の負極活物質を充填しようとした際に、セパレータの上部からこぼれてしまう場合や、セパレータによる封口が不十分となる場合がある。そしてその結果、電池の放電容量が低下したり、活物質がこぼれてショート不良が発生したりする。
また、化学的安定性が低いと、電解液によりセパレータが分解し、ショート不良が発生する場合や、分解によって生じたガスにより電池の内圧が高まり、液漏れに至る場合がある。
【0039】
上述した通り、叩解された耐アルカリ性セルロース繊維の役割は、セパレータの遮蔽性と、電解液中での寸法安定性、化学的安定性の向上である。
そして、耐アルカリ性セルロース繊維として、溶解パルプやマーセル化パルプ、再生セルロース繊維などが使用できる。
【0040】
パルプは、パルプ原料となる木材チップ等に、アルカリ性の薬剤を加え、高温高圧で処理(蒸解)することにより、リグニンやヘミセルロースなどの接着物質を除くことで得られる。こうして得られたパルプを、17質量%前後の高濃度の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬処理することで、マーセル化パルプが得られる。
一方、溶解パルプは、木材等のチップにアルカリ性の薬液を加えて蒸解した一般的な製紙用パルプとは製造方法、製造工程が異なる。溶解パルプは、蒸解の前にpH2〜3程度の酸性下で木材又は非木材のチップを高温で蒸煮処理し、チップに含まれた接着物質を加水分解する。そして、蒸煮処理後に、蒸解してパルプ化する。さらに、蒸解後のパルプを、2〜10質量%程度の水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液で処理し、接着物質を抽出、除去する。
蒸解の際に、木材等のチップを酸性下で処理することによって、セルロース鎖の間に入り組んで存在する接着物質が加水分解されて低分子になる。このため、パルプ化後のアルカリ水溶液による接着物質の抽出除去が容易になる。
なお、これらのパルプの蒸解法にはサルファイト法、サルフェート法、ソーダ法、クラフト法等、一般に知られたものが特に制限なく利用できる。
そして、再生セルロース繊維は、溶解パルプをN−メチルモルホリンオキサイド等の溶剤に溶解し、繊維状に析出させることで得られる。
【0041】
これらの耐アルカリ性セルロース繊維は、一般的な製紙用パルプと比べて、セルロースの純度が高い。そして、一般的な製紙用パルプはセルロースIの結晶構造からなるのに対し、これらの耐アルカリ性セルロース繊維はセルロースIIの結晶構造を含む。
こうしたセルロースIIを含む高純度のセルロース繊維は、電解液中での寸法安定性、化学的安定性に優れる。
これは、繊維製造過程においてアルカリ処理が施されるため、この繊維を再度アルカリに浸漬しても収縮等の寸法変化が起こり難いためと考えられる。また、このアルカリ処理により、アルカリに溶出する成分も事前に抽出されているため、電解液中での化学的安定性に優れた原料となったと考えられる。
【0042】
以上の理由から、セパレータの寸法安定性、化学的安定性を向上させるため、前述した耐アルカリ性セルロース繊維が優れるといえる。
【0043】
そして、セパレータの遮蔽性の向上のためには、耐アルカリ性セルロース繊維の叩解の程度が重要である。
繊維は、水中に分散させ、せん断力を加えることにより叩解され、微細化する。叩解された耐アルカリ性セルロース繊維を含有する原料を抄紙することで、非常に緻密な、遮蔽性に優れたセパレータが実現できる。
叩解された耐アルカリ性セルロース繊維の叩解の程度は、JIS P8121によるカナダ標準ろ水度(CSF)が、500ml〜0mlの範囲にあることが好ましい。
CSF値が500mlを超過する場合、フィブリルの発生が不十分であるため、緻密性が不足して遮蔽性を確保できなくなる。
セルロース繊維を叩解すると、CSF値は徐々に小さくなり、やがて0mlを示す。ここで更に叩解すると、ふるい板の孔を通過する微細な繊維が増加してCSF値が増え始める。なお、CSF値が増えて500mlを超えた耐アルカリ性セルロース繊維については、叩解された耐アルカリ性繊維として本発明に問題なく使用することができる。ただし、CSF値が増えて700mlを超えた場合は、繊維が微細になりすぎるため、抄紙用原料としては適さない。
叩解された耐アルカリ性セルロース繊維のCSF値が上記範囲にあるとき、セパレータの遮蔽性が向上し、アルカリ電池のショート不良を低減できる。
なお、繊維の叩解に用いる設備は、通常抄紙原料の調製に使用されるものであれば、いずれでも良い。一般的にはビーター、コニカルリファイナー、ディスクリファイナー、高圧ホモジナイザーなどが挙げられる。
【0044】
耐アルカリ性樹脂を塗布する基材層となる不織布の形成方法は、長網抄紙、短網抄紙、円網抄紙、及びこれらの組み合わせなど、任意のものが使用できる。
【0045】
そして、基材層の不織布は、密度0.25〜0.85g/cmの層を少なくとも一層有することが好ましい。
密度が0.25g/cm未満では、セパレータの遮蔽性が十分でなく、電池を組んだときのショート不良率が大きくなる。また、耐アルカリ性樹脂を塗布する際に、塗布液がセパレータ内部にまで広く浸透して固化することで、セパレータの抵抗値も増大してしまう場合がある。
そして、密度が0.85g/cmを超過すると、シートが緻密になりすぎ、セパレータの抵抗値が増大してしまう場合がある。
以上のように、セパレータの抵抗値の点で、上記密度範囲が好ましい。
【0046】
更に、基材層の不織布の厚さは、15〜130μmが好ましい。
厚さが15μm未満の場合、緻密性の高い本発明のセパレータであっても、電池を組んだ際のショート不良を低減できない。厚さが130μmを超過する場合、抵抗値の低い本発明のセパレータであっても、電池を組んだ際の内部抵抗値が増大してしまう。
【0047】
また、基材層の不織布は、上述した厚さと密度とを満足する範囲において、キャレンダ加工やエンボス加工等により厚さの調整がなされたものであってもよい。
また、このキャレンダ加工やエンボス加工、親液加工等は、耐アルカリ性樹脂層を形成した後に施してもよい。
なお、親液加工には、非イオン系界面活性剤やアニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤のような界面活性剤を用いることができる。
上記の界面活性剤の中でも、非イオン系界面活性剤やアニオン系界面活性剤であれば、電池に組み込んだ後も、ガス発生量の増加の懸念がなく用いることができる。
【0048】
以上の構成とすることで、アルカリ電池用セパレータの遮蔽性、電解液中での強度を改善し、抵抗値の増大も無い、保液性に優れた良好なセパレータが得られる。
そしてこのセパレータを用いたアルカリ電池の、性能が向上する。
【0049】
本発明のアルカリ電池は、本発明のアルカリ電池用セパレータを用いて、正極活物質と負極活物質とをセパレータで隔離した構成とする。
本発明のアルカリ電池は、アルカリマンガン電池や、ニッケル亜鉛電池、酸化銀電池、空気亜鉛電池といった、アルカリ性電解液を用いる各種電池に、問題なく使用できる。
また、本発明のアルカリ電池は、本発明のセパレータを用いていればよく、製造方法やサイズは特に限定されない。
【0050】
なお、本発明のアルカリ電池セパレータのうち、基材層の片面のみにアルカリ樹脂層を形成した構成をアルカリ電池に使用する場合、セパレータのアルカリ樹脂層を正極側に配置しても、セパレータのアルカリ樹脂層を負極側に配置しても、どちらでも問題なくアルカリ電池を構成することができる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明にかかるアルカリ電池用セパレータの具体的な各種実施例、比較例、従来例について、詳細に説明する。
なお、以下に説明する本発明の各実施例のアルカリ電池用セパレータは、長網抄紙機あるいは長網円網抄紙機、短網抄紙機等を用い抄紙法にて不織布を得た。即ち、湿式不織布でセパレータを構成した。
【0052】
〔セパレータの評価方法〕
実施例、比較例、従来例のそれぞれのアルカリ電池用セパレータの特性の具体的な測定は、以下の条件及び方法で行った。
【0053】
〔CSF値〕
「JIS P8121−2『パルプ−ろ水度試験方法−第2部:カナダ標準ろ水度法』」に規定された方法で、セパレータのCSF値を測定した。
【0054】
〔厚さ〕
「JIS C 2300−2 『電気用セルロース紙-第2部:試験方法』 5.1 厚さ」に規定された、「5.1.1 測定器及び測定方法 a外側マイクロメータを用いる場合」のマイクロメータを用いて、「5.1.3 紙を折り重ねて厚さを測る場合」の10枚に折り重ねる方法で、セパレータの厚さを測定した。
【0055】
〔密度〕
「JIS C 2300−2 『電気用セルロース紙-第2部:試験方法』 7.0A 密度」のB法に規定された方法で、絶乾状態のセパレータの密度を測定した。
【0056】
〔塗布量〕
耐アルカリ性樹脂の塗布量、若しくは、耐アルカリ性樹脂と添加剤との混合物の塗布量は、以下のように求めた。
塗布量(g/m)=(W2−W1)/S
塗布量は、本実施の形態例のセパレータを定寸(250mm×250mm)に切り取り、この試験片を用いて測定した。
具体的には、W1として基材の質量(g)を用い、W2として塗布後のシートの質量(g)を用い、Sとして測定面積(0.0625m)用いて、塗布量を計算した。
なお、ここでのシート質量は全て、105℃で1時間乾燥後に測定した、乾燥質量である。
【0057】
〔添加剤含有率〕
耐アルカリ性樹脂に添加する添加剤の含有率は、以下のように求めた。
添加剤含有率(質量%)=Z2/Z1×100
添加剤含有率は、Z1として上述したように測定した塗布量(g)を用い、Z2として添加剤の質量(g)を用いて、計算した。
Z2は、塗布液として、耐アルカリ性樹脂と添加剤とを混合する際に測定した。
なお、これらの質量は全て乾燥質量であり、塗布液の濃度に関わらず、セパレータに塗布乾燥した後の固形分の比率を表す。
【0058】
〔寸法変化率〕
セパレータの寸法変化率は、以下の方法で測定した。
本実施の形態例のセパレータを定寸(100mm×100mm)に切り取り、面積を測定した。次に70℃の40質量%水酸化カリウム(KOH)水溶液中に8時間浸漬して、浸漬後の試験片の面積をKOH水溶液に濡れた状態で測定し、下記式により面積収縮率を算出して、これを寸法変化率とした。
面積収縮率(%)={(A1−A2)/A1}×100
A1として、40質量%KOH水溶液浸漬前の面積を用い、A2として、40質量%KOH水溶液浸漬後の面積を用いて、面積収縮率を計算した。
【0059】
〔湿潤強度〕
セパレータから幅15mmの試験片を縦方向に取って、試験片を40%KOH水溶液に3分間浸漬した後、試験片に付着した過剰の40%KOH水溶液をろ紙で吸い取った。この40%KOH水溶液で濡れた試験片の引張強さを「JIS P 8113『紙及び板紙−引張特性の試験方法−第2部:定速伸張法』」に規定の方法に準じて測定して、セパレータの湿潤強度とした。
【0060】
〔保液率〕
セパレータを50mm×50mmの正方形に切り取り、乾燥後の質量を測定した後、40%KOH 水溶液に10分間浸漬した。この試験片を45度の角度に傾斜させたガラス板に貼り付けて3分間固定し、過剰の40%KOH水溶液を流下させて取り除き、試験片の質量を測定し、次式により保液率を求めた。
保液率(%)=(X2−X1)/X1×100
X1として浸漬前の質量(乾燥後の質量)を用い、X2として浸漬後の質量を用いて、保液率を算出した。
【0061】
〔電気抵抗〕
40%KOH水溶液に浸漬された、約2mmの間隔で平行する白金電極(白金黒付けした直径20mmの円板形状の電極)の間にセパレータを挿入し、この挿入に伴う電極間の電気抵抗(mΩ)の増加をセパレータの電気抵抗とした。なお、電極間の電気抵抗は1000Hzの周波数でLCRメータを用いて測定した。
本測定方法は電気抵抗の呼称としたが、電解液(40%KOH水溶液)中でのセパレータのイオン抵抗を測定する方法である。
【0062】
〔遮蔽性〕
電池系内に金属イオンが存在すると、電極材(主には負極の亜鉛)とのイオン化傾向の差により針状の結晶(デンドライド)が析出する。セパレータの遮蔽性が低いと、このデンドライドにより、ショートに至る場合がある。
ここでは、セパレータの遮蔽性を判断する指標として、耐デンドライド性を測定した。具体的には、以下の方法で測定した。
セパレータから、100×100mmの試験片を切り取り、アルカリ電池用亜鉛の上に載せた。次にセパレータ上に銅粉を10個載せ、セパレータを電解液(40%KOH水溶液)で濡らし、20℃環境下で120時間静置した。
その後、セパレータを取り出し、銅粉を置いた面の反対面までデンドライドが貫通している箇所の個数を計数した。
【0063】
〔液滴消失時間〕
セパレータ表層に耐アルカリ樹脂層が形成された場合、セパレータの表裏で電解液の浸透性が異なる。ここでは、耐アルカリ性樹脂の塗布によって表層に耐アルカリ性樹脂層が形成されていることを確認する手法として、液滴消失時間(秒)を測定した。
具体的には、以下の方法で測定した。
セパレータに、電解液(40%KOH水溶液)を50μl滴下し、滴下された液滴がセパレータに染み込み、消失するまでの時間を測定した。この測定を表面及び裏面でそれぞれ行い、これらの面を「A面」、「B面」と表記した。
【0064】
〔実施例1〕
マーセル化針葉樹クラフトパルプを叩解したCSF値450mlの原料10質量%、ポリプロピレン繊維50質量%、ナイロン繊維40質量%を混合して短網抄紙し、基材を得た。この基材に、ポリビニルアルコールを溶解した塗工液を塗布し、乾燥させることで、厚さ15μm、密度0.25g/cm、塗布量0.1g/m、寸法変化率2.5%、湿潤強度6.5N、保液率500%、電気抵抗9.0mΩ、遮蔽性1個、液滴消失時間A面60秒、B面20秒のセパレータを得た。
【0065】
〔実施例2〕
実施例1と同じ原料を用いて短網抄紙した基材に、ポリビニルアルコールとポリアクリル酸とを溶解した塗工液を塗布し、乾燥させることで、厚さ15μm、密度0.25g/cm、塗布量1.0g/m、寸法変化率2.5%、湿潤強度6.4N、保液率500%、電気抵抗8.2mΩ、遮蔽性1個、液滴消失時間A面65秒、B面20秒のセパレータを得た。なお、この塗工層の添加剤含有率は90.0%であった。
【0066】
〔実施例3〕
実施例1と同じ原料を用いて短網抄紙した基材に、ポリビニルアルコールとポリアクリル酸とを溶解した塗工液を塗布し、乾燥させることで、厚さ15μm、密度0.25g/cm、塗布量1.1g/m、寸法変化率2.5%、湿潤強度6.4N、保液率500%、電気抵抗8.2mΩ、遮蔽性1個、液滴消失時間A面65秒、B面20秒のセパレータを得た。なお、この塗工層の添加剤含有率は90.9%であった。
【0067】
〔実施例4〕
針葉樹サルファイト溶解パルプ70質量%と、再生セルロース繊維であるリヨセル繊維を30質量%混合して叩解した、CSF値0mlの原料を用いて長網抄紙し、基材を得た。この基材に、ポリエチレンエマルションとポリアクリル酸溶液とを混合した塗工液を塗布し、乾燥させることで、厚さ60μm、密度0.65g/cm、塗布量4.0g/m、寸法変化率1.1%、湿潤強度15.0N、保液率480%、電気抵抗17.0mΩ、遮蔽性0個、液滴消失時間A面400秒、B面200秒のセパレータを得た。なお、この塗工層の添加剤含有率は50.0%であった。
【0068】
〔実施例5〕
マーセル化針葉樹クラフトパルプを叩解したCSF値300mlの原料を80質量%と、ナイロン繊維20質量%を混合した原料を用いて円網抄紙し、基材を得た。この基材に、ポリプロピレンエマルションとポリアクリル酸溶液とを混合した塗工液を塗布し、乾燥させることで、厚さ100μm、密度0.35g/cm、塗布量5.0g/m、寸法変化率1.5%、湿潤強度9.0N、保液率500%、電気抵抗14.0mΩ、遮蔽性1個、液滴消失時間A面70秒、B面18秒のセパレータを得た。なお、この塗工層の添加剤含有率は90.0%であった。
【0069】
〔実施例6〕
マーセル化針葉樹クラフトパルプを、CSF値0mlを示した後も更に叩解した、CSF値300mlの原料を用いて長網抄紙し、基材を得た。この基材に、ポリビニルアルコールとポリメタクリル酸とを混合した塗工液を塗布し、乾燥、キャレンダ処理することで、厚さ50μm、密度0.70g/cm、塗布量3.0g/m、寸法変化率1.4%、湿潤強度13.0N、保液率400%、電気抵抗16.0mΩ、遮蔽性0個、液滴消失時間A面350秒、B面220秒のセパレータを得た。なお、この塗工層の添加剤含有率は66.7%であった。
【0070】
〔実施例7〕
マーセル化針葉樹クラフトパルプを叩解したCSF値100mlの原料を80質量%と、アセタール化ポリビニルアルコール繊維20質量%を混合した原料を用いて長網抄紙し、基材を得た。この基材に、ポリビニルアルコールとポリアクリル酸ナトリウムとを混合した塗工液を塗布し、乾燥させることで、厚さ30μm、密度0.55g/cm、塗布量10.0g/m、寸法変化率1.0%、湿潤強度12.0N、保液率430%、電気抵抗14.0mΩ、遮蔽性0個、液滴消失時間A面280秒、B面110秒のセパレータを得た。なお、この塗工層の添加剤含有率は90.0%であった。
【0071】
〔実施例8〕
マーセル化針葉樹クラフトパルプを、CSF値0mlを示した後も更に叩解した、CSF値100mlの原料を用いて長網抄紙し、基材を得た。この基材に、カルボン酸変性ポリビニルアルコールとポリアクリル酸とを混合した塗工液を塗布し、乾燥することで、厚さ40μm、密度0.60g/cm、塗布量5.0g/m、寸法変化率2.0%、湿潤強度17.0N、保液率420%、電気抵抗19.5mΩ、遮蔽性0個、液滴消失時間A面550秒、B面190秒のセパレータを得た。なお、この塗工層の添加剤含有率は2.0%であった。
【0072】
〔実施例9〕
マーセル化針葉樹クラフトパルプ50質量%とマーセル化広葉樹サルファイトパルプ50質量%とを混合して、CSF値0mlを示した後も更に叩解した、CSF値100mlの原料を用いて長網抄紙し、基材を得た。この基材に、ポリビニルアルコールとポリアクリル酸とを混合した塗工液を塗布し、乾燥することで、厚さ40μm、密度0.60g/cm、塗布量5.0g/m、寸法変化率2.0%、湿潤強度17.0N、保液率430%、電気抵抗20.3mΩ、遮蔽性0個、液滴消失時間A面570秒、B面220秒のセパレータを得た。なお、この塗工層の添加剤含有率は2.0%であった。
【0073】
〔実施例10〕
マーセル化針葉樹クラフトパルプをCSF値が0mlを示した後も更に叩解し、上昇に転じたCSF値700mlの原料を用いて長網抄紙した層と、同原料を350mlに叩解した原料を用いて円網抄紙した層を抄き合わせ、セパレータ基材を得た。この基材に、ポリビニルアルコールとポリアクリル酸とを混合した塗工液を塗布し、乾燥することで、厚さ80μm、密度0.53g/cm、塗布量14.0g/m、寸法変化率1.5%、湿潤強度16.0N、保液率450%、電気抵抗19.0mΩ、遮蔽性0個、液滴消失時間A面430秒、B面30秒のセパレータを得た。なお、この塗工層の添加剤含有率は71.4%であった。
【0074】
〔実施例11〕
マーセル化針葉樹クラフトパルプを、CSF値0mlを示した後も更に叩解した、CSF値650mlの原料を用いて長網抄紙し、基材を得た。この基材に、ポリビニルアルコールとポリアクリル酸とを混合した塗工液を塗布し、乾燥することで、厚さ140μm、密度0.90g/cm、塗布量25.0g/m、寸法変化率0.8%、湿潤強度18.0N、保液率330%、電気抵抗20.4mΩ、遮蔽性0個、液滴消失時間A面560秒、B面280秒のセパレータを得た。なお、この塗工層の添加剤含有率は80.0%であった。
【0075】
〔実施例12〕
実施例11と同じ原料を用いて長網抄紙し、基材を得た。この基材に、ポリビニルアルコールとポリアクリル酸とを混合した塗工液を塗布し、乾燥することで、厚さ130μm、密度0.85g/cm、塗布量5.5g/m、寸法変化率0.9%、湿潤強度20.0N、保液率350%、電気抵抗24.0mΩ、遮蔽性0個、液滴消失時間A面520秒、B面265秒のセパレータを得た。なお、この塗工層の添加剤含有率は9.1%であった。
【0076】
〔比較例1〕
マーセル化針葉樹クラフトパルプ90質量%とコットンリンターパルプ10質量%とを混合し、CSF値0mlを示した後も更に叩解した、CSF値300mlの原料を用いて長網抄紙し、基材を得た。この基材に、ポリビニルアルコールとポリアクリル酸とを混合した塗工液を塗布し、乾燥することで、厚さ60μm、密度0.50g/cm、塗布量4.0g/m、寸法変化率4.0%、湿潤強度15.0N、保液率380%、電気抵抗16.0mΩ、遮蔽性0個、液滴消失時間A面420秒、B面240秒のセパレータを得た。なお、この塗工層の添加剤含有率は50.0%であった。
【0077】
〔比較例2〕
マーセル化針葉樹クラフトパルプを叩解し、CSF値450mlの原料を用いて長網抄紙し、基材を得た。この基材に、ポリビニルアルコールとポリアクリル酸とを混合した塗工液を塗布し、乾燥することで、厚さ40μm、密度0.40g/cm、塗布量30.0g/m、寸法変化率1.6%、湿潤強度22.0N、保液率420%、電気抵抗31.0mΩ、遮蔽性0個、液滴消失時間A面620秒、B面90秒のセパレータを得た。なお、この塗工層の添加剤含有率は80.0%であった。
【0078】
〔比較例3〕
マーセル化針葉樹クラフトパルプを、CSF値0mlを示した後も更に叩解した、CSF値100mlの原料を用いて長網抄紙し、厚さ40μm、密度0.60g/cm、塗布量0.0g/m、寸法変化率2.0%、湿潤強度3.0N、保液率410%、電気抵抗12.0mΩ、遮蔽性0個、液滴消失時間A面190秒、B面190秒のセパレータを得た。
【0079】
〔比較例4〕
マーセル化針葉樹クラフトパルプを、CSF値0mlを示した後も更に叩解した、CSF値750mlの原料を用いて長網抄紙し、基材を得た。この基材に、ポリビニルアルコールとポリアクリル酸とを混合した塗工液を塗布し、乾燥することで、厚さ130μm、密度0.85g/cm、塗布量5.5g/m、寸法変化率1.1%、湿潤強度18.0N、保液率350%、電気抵抗23.0mΩ、遮蔽性4個、液滴消失時間A面500秒、B面250秒のセパレータを得た。なお、この塗工層の添加剤含有率は9.1%であった。
【0080】
〔比較例5〕
マーセル化針葉樹クラフトパルプを叩解した、CSF値550mlの原料を用いて長網抄紙し、基材を得た。この基材に、ポリビニルアルコールとポリアクリル酸とを混合した塗工液を塗布し、乾燥することで、厚さ60μm、密度0.40g/cm、塗布量4.0g/m、寸法変化率2.5%、湿潤強度8.0N、保液率480%、電気抵抗16.0mΩ、遮蔽性4個、液滴消失時間A面360秒、B面150秒のセパレータを得た。なお、この塗工層の添加剤含有率は50.0%であった。
【0081】
〔比較例6〕
マーセル化針葉樹クラフトパルプを、CSF値0mlを示した後も更に叩解した、CSF値100mlの原料5質量%、ポリプロピレン繊維50質量%、アセタール化ポリビニルアルコール繊維45質量%を混合して長網抄紙し、基材を得た。この基材に、ポリビニルアルコールとポリアクリル酸とを混合した塗工液を塗布し、乾燥させることで、厚さ50μm、密度0.40g/cm、塗布量3.0g/m、寸法変化率1.1%、湿潤強度11.0N、保液率490%、電気抵抗15.0mΩ、遮蔽性4個、液滴消失時間A面300秒、B面90秒のセパレータを得た。なお、この塗工層の添加剤含有率は66.7%であった。
【0082】
〔従来例1〕
マーセル化針葉樹クラフトパルプ45質量%を、CSF値0mlを示した後も更に叩解したCSF値50mlまで叩解した原料と、ナイロン繊維45質量%、ポリビニルアルコールバインダ繊維10質量%とを混合して円網抄紙し、厚さ100μm、密度0.60g/cm、寸法変化率3.0%、湿潤強度4.0N、保液率400%、電気抵抗30.8mΩ、遮蔽性2個、液滴消失時間A面580秒、B面580秒のセパレータを得た。
【0083】
〔従来例2〕
厚さ30μmのセロハンと、従来例1のセパレータを貼りあわせ、従来例2のセパレータを得た。厚さ130μm、密度0.81g/cm、寸法変化率3.0%、湿潤強度10.0N、保液率250%、電気抵抗32.6mΩ、遮蔽性0個、液滴消失時間A面1200秒、B面580秒のセパレータを得た。
【0084】
以上記載の実施例1乃至実施例12、比較例1乃至比較例6、従来例1及び従来例2の各例のアルカリ電池用セパレータの評価結果を、表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
各実施例は、従来例1及び従来例2と比べ、電気抵抗が小さく、従来例1よりも遮蔽性、湿潤強度に優れ、従来例2よりも保液性の高い、良好なセパレータである。
また、各実施例は、繊維全体に対する耐アルカリ性セルロース繊維の含有割合が10%以上であり、アルカリ電解液中での安定性に優れるため、いずれの例でも寸法安定性に問題なく、電池を組む際、組んだ後の、セパレータの寸法変化に由来する不具合は生じないと推測できる。
従来例と各実施例との比較から、本実施例のセパレータは、アルカリ電池用セパレータとして要求される特性を満足すると推測できる。
【0087】
比較例1は、耐アルカリ性の低い、コットンパルプを含有した基材を使用している。
このため、アルカリ電解液中での収縮が大きく、電池を組んだ際に電解質がこぼれる等の不具合が予想される。
【0088】
比較例2は、耐アルカリ性樹脂層の含有量が30.0g/mである。
このため、電気抵抗値が増大し、従来例と同等の値となった。
各実施例と比較例2との比較から、耐アルカリ性樹脂層の含有量は0.1〜25.0g/mが好ましいとわかる。
【0089】
比較例3は、耐アルカリ性樹脂層を有していない。このため、従来例と比べて湿潤強度が低い。
【0090】
比較例4のセパレータは、各実施例と比べて遮蔽性が低い。耐アルカリ性セルロース繊維をCSF値が0mlを示した後も叩解し、CSF値が750mlとなったため、耐アルカリ性セルロース繊維の微細な繊維が抄紙ワイヤー(抄紙網)から抜け落ちてしまい、遮蔽性が低下した。
また、比較例5は、CSF値が550mlである。このため、繊維の微細化が不足し、遮蔽性が低下したと考えられる。
以上から、耐アルカリ性セルロース繊維のCSF値は、500〜0ml、0mlを示した後も更に叩解を進めたCSF値700mlまでの範囲が好ましいとわかる。
【0091】
比較例6のセパレータは、耐アルカリ性セルロース繊維の含有割合が5質量%であり、遮蔽性が低い。
このことから、耐アルカリ性セルロース繊維の含有割合は、10質量%以上が好ましいとわかる。
【0092】
実施例1乃至実施例3は、類似の基材層を持つ、耐アルカリ性樹脂層の添加剤の含有率が異なるセパレータである。
実施例2及び実施例3は、実施例1よりも電気抵抗値が小さい。
このことから、添加剤を使用することにより、耐アルカリ性樹脂層の電気抵抗値の低減が可能とわかる。
また、実施例2と実施例3とを比べると、実施例3の方が添加剤の含有率は高いが、電気抵抗値は同じである。このことから、添加剤の含有率が90.0質量%を超過しても、更なる抵抗値の低減はできないとわかる。
そして、実施例1乃至実施例3は、厚さ15μm、密度0.25g/cm3のセパレータである。これらの基材よりも更に厚さを薄く、或いは密度を低くすると、遮蔽性が低下し、従来例1と同等の遮蔽性になると推測される。
【0093】
実施例4及び実施例5等から、ポリビニルアルコールのみでなく、ポリエチレン及びポリプロピレンも、本発明の耐アルカリ性樹脂層に適するとわかる。
実施例6及び実施例7から、添加剤としてポリアクリル酸のみでなく、ポリメタクリル酸や、ポリアクリル酸塩も問題なく使用できるとわかる。
【0094】
実施例8と実施例9とは、耐アルカリ性樹脂種のみ異なる例である。カルボン酸変性ポリビニルアルコールを含有する実施例8のセパレータの方が、より電気抵抗値が低いとわかる。
【0095】
実施例11と実施例12との基材層は、厚さと密度が異なる。両者の耐アルカリ性樹脂層は、添加剤の含有量から、実施例11の電気抵抗値が小さい事が推測できる。
しかし、セパレータの電気抵抗値は、実施例11の方が大きい。これは、基材の厚さと密度との影響と考えられる。仮に、実施例11よりも厚い、或いは、密度の高い基材では、従来例と比べて電気抵抗値の低減が困難と推測できる。
【0096】
各実施例の保液量、液滴消失時間は、従来例と比べ目立って劣るものではなく、これらの特性も電池セパレータとしての要求を満足すると考えられる。
【0097】
以上、本実施の形態例によれば、電解液中での強度、寸法安定性、化学的安定性に優れ、遮蔽性も高い、良好なアルカリ電池用セパレータが提供できる。
また、このセパレータを用いたアルカリ電池の、抵抗値及びショート不良率を低減できる。