(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基材上に設けられた接点部の表面にNiめっき層を有し、接点部の表面のNiめっき層の表面の算術平均粗さSaが20nm以上であることを特徴とするバスバー用導電部材であって、基材がアルミニウム又はアルミニウム合金からなるバスバー用導電部材。
基材上に設けられた接点部においてZn層を有し、さらにその表面にNiめっき層を有し、接点部の表面のNiめっき層の表面の算術平均粗さSaが20nm以上であることを特徴とするバスバー用導電部材であって、基材がアルミニウム又はアルミニウム合金からなるバスバー用導電部材。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
[導電部材]
本発明に係る導電部材10は、
図1,2に示すように、基材1に設けられた接点部2の表面にNiめっき層3を有している。
【0017】
(基材1)
基材1は、特に限定されないが、例えば、銅又は銅合金、アルミニウム又はアルミニウム合金等を用いることができる。中でも、コストを抑える観点からは、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材が好ましい。基材1の厚さは、特に限定されず、0.1mm以上、好ましくは1mm以上とすることができ、50mm以下、好ましくは20mm以下とすることができる。
【0018】
基材1上には、被導電部材と導通するための接点部2が設けられている。接点部2は、導電部材10をバスバーとして用いる場合は、導電部材10をボルト等で被導電部材に接合するための貫通穴4を1個又は複数個有していてもよい。
【0019】
基材1は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる場合は、後述するNiめっき層3が設けられる前にジンケート処理されZn層6が設けられていることが多い。この場合、
図2に示すように、導電部材10は、基材1、Zn層6、Niめっき層3がこの順で積層されている。Zn層6の厚さは、特に限定されず、例えば、0.01μm以上、1μm以下とすることができる。
【0020】
(Niめっき層3)
接点部2の表面に、Niめっき層3が設けられている。Niの融点は約1450℃であり、Snの融点(232℃)よりもはるかに高温であるので、めっき処理後の導電部材10の表面に絶縁皮膜として樹脂層5が設けられる場合でも、溶融した樹脂の熱によってNiめっき層3が欠損してしまうことがない。Niめっき層の厚さは、基材の表面を十分に被覆するため、0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがさらに好ましい。また、めっき後のプレス成形時にNiめっきが厚膜であると基材の変形に追随せずめっきが割れやすいので、成形性の観点から、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがさらに好ましい。
【0021】
(表面の算術平均粗さSa)
Niめっき層3は、表面の算術平均粗さSa(以下、単に「平均粗さSa」ということがある。)が、20nm以上であり、好ましくは、40nm以上であり、さらに好ましくは、150nm以上である。なお、面の算術平均粗さSaは、線の算術平均粗さRaを面に拡張したパラメーターであり、光干渉顕微鏡を使用して、
図10に示すように、平均面に対する各点の高さH,H’の差の絶対値から算出した平均値を表す。測定は、ISO25178に準拠して行うことができる。
【0022】
Niめっき層3は、平均粗さSaが20nm以上であるので、表面が粗い。従来、Niめっき層は、最表面層として用いられる場合は、外観を良くする目的や汚れ防止の目的で、平滑で均一に形成されることが好ましいとされていた。しかしながら、本発明者が鋭意研究を行ったところ、高温高湿潤環境下で使用される場合は、逆に、めっき面の表面粗さが粗いほど、接触抵抗の経時的な増加が少ないことがわかった。後述する実施例で実証されているように、Niめっき層3の表面の算術平均粗さSaが20nm以上の場合に、導電部材の高温高湿潤環境下での接触抵抗の経時的な増大が抑制された。Niめっき層3は、導電部材の最表面層とすることができるので、従来のようにNiめっき層上にさらにSnめっき層を設ける必要がなく、コストを抑制することもできる。
【0023】
Niめっき層3の表面の算術平均粗さSaは、大きければ大きい程よく上限値は限定されないが、めっき膜厚よりも粗さが大きいと凹部が基材にまで達してしまい、被覆層の欠陥となるので、被覆性を十分に確保する観点からは、上限値をめっき膜厚と同等以下、好ましくはめっき膜厚の半分以下とすることができる。
【0024】
(X線回折ピークの半値幅)
Niめっき層3の表面粗さに寄与する要因の一つとして、Niめっき層3の結晶粒径がある。すなわち、
図4に示すように、Niめっき層3を構成する結晶粒径が大きいほど、表面粗さは大きく(粗く)なりやすい。ここで、結晶粒径の大きさは、以下の式(1)に示すScherrer式で決定される。つまり、結晶粒径の大きさは、X線回折におけるピークの半値幅の逆数に比例するので、X線回折によってピークの半値幅を測定することで、めっきの結晶性を定量化することができる。
【0025】
【数1】
(但し、D:結晶子の大きさ(nm)、β:半値幅(°)、θ:回折X線のBragg角、λ:測定X線の波長(nm)、K:定数0.94を表す。)
【0026】
そこで、本発明では、Niめっき層3が、
図11に示すように、X線回折図でNi(200)面の位置にピークを有し、該ピークの半値幅が0.6°以下となるように、めっき層の結晶粒径の大きさを規定することが好ましい。なお、Ni(200)面は、CuKα線を使用したX線回折において、ミラー指数表示における(200)面での回折ピークである。Ni(200)面は、測定機器や測定条件により異なるが、例えば、X線回折により得られるチャートにおいて、2θが51.8±1°に現れる回折ピークを用いることができる。ピークの半値幅は、より好ましくは、0.5°以下、さらに好ましくは0.4°以下である。ピーク半値幅を0.6°以下とすることで、結晶粒径が大きくなり表面粗さSaが大きくなる。その結果、特に高温高湿潤環境下での接触抵抗の経時的な増大をより抑えることができる。ピーク半値幅の下限値は、特に限定されず、0.1°以上とすることができる。なお、
図11において、「h」は、Ni(200)面の位置のピークの高さ(強度)を示す。
【0027】
なお、X線回折は、X線源としてCuKα線を用い、管電圧を50kV、管電流を200mAとし、走査速度1°/minとし、回折角2θが10°から80°までを測定する。
【0028】
(押し込み硬さH
IT)
Niめっき層3は、押し込み硬さH
ITが、5000N/mm
2以下であることが好ましい。押し込み硬さH
ITを5000N/mm
2以下とすることで、導電部材10を被導電部材に締結するときに凸部(Niの新生面)が押しつぶされて変形し、導電部材10の接合部2と被導電部材の接合部との接触面積が増大する。その結果、接触抵抗を小さくすることができる。具体的には、固体同士が表面で真に接触している面積(真実接触面積)Arは、以下の式(2)で表される。
【0029】
Ar=P/pm (2)
(但し、P:荷重、pm:柔らかい方の材料の降伏応力を表す。)
上記式(2)からも明らかなように、めっきの硬さが小さい(柔らかい方の材料の降伏応力Pmが小さい)ほど、真実接触面積Arが大きくなり電気的接触を確立しやすいといえる。
【0030】
押し込み硬さH
ITの下限値は、特に限定されず、100N/mm
2以上とすることができる。なお、一般に、硬さの定量評価にはビッカース試験等が用いられるが、Niめっき層3の厚さは数μm程度と薄いため、マイクロビッカース試験では圧痕の深さが基材1にまで達し、測定結果が基材1の硬さに影響を受けてしまう場合がある。そのため、ここでは、押し込み硬さH
ITは、ナノインデンターを用いて測定した押し込み硬さである。
【0031】
(Niめっき層3の形成方法)
Niめっき層3の形成方法は、特に限定されず、電解めっき又は無電解めっきによって形成することができるが、表面が粗いめっき層を形成しやすい点で、電解めっきが好ましい。Niめっき層3を形成する前に、必要に応じて、脱脂、酸洗、水洗等の前処理を行ってもよい。Niめっき処理液は、ワット浴やスルファミン酸浴など工業的に用いられているめっき処理液を用いることができる。中でも、基材1上にZn層が設けられている場合にZn層が溶解するのを防ぎ、さらに内部応力が小さく、めっき後の成形性が優れる点から、pHが3.5〜4.8のスルファミン酸浴が好ましい。
【0032】
一般的に、Niめっき処理液には、得られるNiめっき層に光沢を持たせるために、光沢剤を添加することがある。光沢剤としては、サッカリン等の硫黄が含まれるものが用いられることが多い。硫黄を含む光沢剤は、めっき層を構成する結晶粒径を微細化する作用を呈する。例えば、
図3に、硫黄を含む光沢剤を含むめっき処理液で形成されたNiめっき層の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。このNiめっき層の表面は、結晶粒が微細でSEM写真では結晶粒が確認できない。その結果、このNiめっき層の表面は、平滑になっている。一方、
図4に、光沢剤を含まないめっき処理液(無光沢めっき)で形成されたNiめっき層の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。このNiめっき層の表面は、数100nmオーダーの粗大なNiの結晶粒を確認することができる。その結果、このNiめっき層の表面は、粗くなっている。
【0033】
よって、結晶粒径が大きく表面粗さが粗いNiめっき層3を得るために、めっき処理液中に、硫黄を含有する光沢剤を含まないことが好ましい。例えば、めっき処理液中に、光沢剤を含有しないか、又は、硫黄を含まない光沢剤を含有することで、Niめっき層3の結晶粒径を大きくすることができる。その結果、Niめっき層3の表面粗さを粗くして、高温高湿潤環境下でも酸化物や水和物の形成を抑制し、経時的に接触抵抗が増大することを抑制することができる。
【0034】
この場合、形成されたNiめっき層3は、実質的に硫黄を含有しない。Niめっき層中の硫黄の含有量は、例えば、0.1質量%未満、好ましくは0.05質量%未満である。
【0035】
結晶粒径の大きいNiめっき層3とするための他の方法としては、めっき処理時の電流密度を、2A/dm
2〜10A/dm
2、好ましくは2A/dm
2〜5A/dm
2に低く抑えたり、めっき浴中のNiイオン濃度高めるため、例えばスルファミン酸Niめっき浴であれば、処理液中のスルファミン酸ニッケルの濃度を400g/L〜500g/L、好ましくは450g/L〜500g/Lに高めたりすること等によって形成することもできる。
【0036】
一方、Niめっき層3を形成後に、サンドブラストやヤスリ等によって機械的に表面粗さSaを20nm以上とすることもできる。この場合は、結晶粒径の大きさに関係なくNiめっき層3を形成し、その後、機械的に表面を粗くすればよい。
【0037】
(樹脂層5)
導電部材10は、接点部2以外の表面に絶縁皮膜としての樹脂層5が形成されていてもよい。樹脂層5を設けることで、接点部以外での通電を防ぐことができる。樹脂層5を形成する樹脂は、基材1上にコーティング可能な樹脂であれば特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、汎用プラスチック、汎用エンプラ(エンジニアリング・プラスチック)、スーパーエンプラ等から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。汎用プラスチックとしては、ポリプロピレン、ABS樹脂等を挙げることができる。汎用エンプラとしては、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート等を挙げることができる。スーパーエンプラとしては、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミドイミド等を挙げることができる。樹脂層の厚さは、特に限定されず、10μm以上5000μm以下とすることができる。
【0038】
樹脂層5の形成方法は、特に限定されない。例えば、基材上にめっき層3を形成した後、射出成形、溶融押出成形、圧縮成形、又はトランスファー成形等によって基材1と一体的に成形することができる。基材1上の接点部2の表面に設けられているNiめっき層3は、融点が高いので、溶融した樹脂の熱によって溶融してめっきが欠損することがない。その結果、導電部材10に樹脂層5が設けられ絶縁被覆されている場合でも、接触抵抗の増大を抑制する効果を十分に得ることができる。
【0039】
[導電部材10の製造方法]
導電部材10の製造方法は、基材1を準備する工程(以下、「基材準備工程」という。)と、基材1上に設けられた接点部をNiめっき処理液に接触させるめっき処理工程(以下、「めっき処理工程」という。)と、を有し、Niめっき処理液が、硫黄を含有する光沢剤を含まないことを特徴とする。Niめっき処理液が、硫黄を含有する光沢剤を含まないので、Niめっき層3の表面が粗くなり、接触抵抗が経時的に増大することを抑制できる導電部材10を得ることができる。また、導電部材10は、従来の導電部材のように、Niめっき層及びSnめっき層の多層のめっき層を有していないので、めっき処理工程が少なく済む。そのため、コイル状に巻かれた基材を解いてめっき処理した後、再びコイル状に巻き上げる、いわゆるコイルトゥコイルでNiめっき層3を形成し、切削加工及び成形加工して製造することができる。
【0040】
(基材準備工程)
基材準備工程は、導電部材の基材を準備する工程であって、その方法は特に限定されない。上記したコイルトゥコイルでめっき処理する場合、基材準備工程は、コイル状に巻かれた基材1を、解いて引き出す工程とすることができる。引き出し速度は、Niめっき処理工程でめっき処理する時間や速度に合わせて適宜調整することができる。基材1は、コストを抑える点でアルミニウム又はアルミニウム合金からなることが好ましい。基材1がアルミニウム又はアルミニウム合金からなる場合は、基材準備工程は、基材1をジンケート処理して基材1上にZn層6を形成する工程を有していてもよい。
【0041】
(Niめっき処理工程)
Niめっき処理工程は、基材1をNiめっき処理液に接触させて、基材1上にNiめっき層3を形成する工程である。Niめっき処理方法、及びめっき処理液については、上述のとおりである。めっき処理工程は、必要に応じて、脱脂、酸洗、水洗等の前処理工程を有していてもよい。形成される結晶粒径を大きくしてNiめっき層3の表面粗さSaを20nm以上とする目的で、Niめっき処理液が、硫黄を含有する光沢剤を含まないことが好ましい。硫黄を含有する光沢剤としては、サッカリン、1,3,6−トリナフタレンスルフォン酸ナトリウム、ナフタレン−1,3,6−トリスルホン酸ナトリウム等を挙げることができる。めっき処理液は、好ましくは、光沢剤を含有しないか、又は、硫黄を含まない光沢剤を含有する。硫黄を含有しない光沢剤としては、2次光沢剤に分類される光沢剤等を挙げることができる。2次光沢剤に分類される光沢剤としては、例えば、クマリン、2−ブチン−1,4−ジオール、エチレンシアンヒドリン、プロパルギルアルコール、ホルムアルデヒド、キノリン又はピリジン等を挙げることができる。
【0042】
めっき処理工程において、pHが3.5〜4.8のスルファミン酸浴またはpH4.0〜5.5のワット浴を用いて電解めっき処理を行うことが好ましいが、前述のとおりめっき後の成形性に優れることからスルファミン酸浴がさらに好ましい。電解めっき処理でNiめっき層を形成する際の電流密度は、2A/dm
2以上10A/dm
2以下で行うことが好ましい。さらに好ましい電流密度は、2A/dm
2以上5A/dm
2以下である。さらに、Niめっき処理液中のNiイオン濃度を高めるため、例えばスルファミン酸Niめっき浴であれば、処理液中のスルファミン酸ニッケルの濃度を400g/L以上500g/L以下、又は450g/L以上500g/L以下とすることも好ましい。
【0043】
また、めっき処理工程をコイルトゥコイルで行う場合、めっき処理工程の後に、基材1をコイル状に巻き上げる工程(以下、単に「巻き上げ工程」という。)と、切削加工及び成形加工する工程(以下、単に「加工工程」という。)と、を有することができる。さらに、接点部以外を絶縁被覆する場合、接点部以外の表面に樹脂層を形成する工程(以下、「樹脂層形成工程」という。)を有してもよい。
【0044】
なお、加工工程後にNiめっき処理するよりも、加工工程前にNiめっき処理を行った方が、製造コストをより低くすることができる。よって、基材準備工程、Niめっき処理工程、巻き上げ工程、加工工程をこの順で有することが好ましい。樹脂層形成工程は、加工工程の後に有することが好ましい。また、Snめっき層を形成する工程が不要なので、コストを抑えるために、基材準備工程、Niめっき処理工程、巻き上げ工程、加工工程、及び樹脂層形成工程からなる最小限の工程で製造することもできる。
【0045】
(巻き上げ工程)
巻き上げ工程は、Niめっき処理された基材を、再びコイル状に巻きあげる工程である。巻き上げ速度は、Niめっき処理工程でめっき処理する時間や速度に合わせて適宜調整することができる。従来の導電部材のように、Niめっき層及びSnめっき層の多層のめっき層を形成する必要がなく、めっき処理工程が少なく済むので、このように、コイル状の基材をめっき処理後に再びコイル状に巻きあげる、いわゆるコイルトゥコイルでNiめっき層3を形成することができる。
【0046】
(加工工程)
切削加工及び成形加工する工程は、Niめっき層3が形成された基材1を所望の大きさに切削し、所望の形状に成形加工して導電部材10を得る工程である。この工程では、切削加工と成形加工とを別の工程としてもよいし、プレス加工のように切削加工と成形加工とを同時に行ってもよい。
【0047】
(樹脂層形成工程)
樹脂層形成工程は、接点部2以外の表面に樹脂層5を設けて絶縁被覆する工程である。導電部材10は、接点部2の表面にNiめっき層3を有するので、樹脂層を形成する際に溶融した樹脂の熱によって接点部2が高温になったとしても、めっきの欠損が発生せず、接触抵抗の増大を抑制する効果を十分に得ることができる。用いる樹脂及び形成方法については、上述のとおりである。
【実施例】
【0048】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の解釈が限定されるものではない。
【0049】
[実施例1]
アルミニウム合金6101−T6材の圧延品(100mm×200mm×厚み3mm)を基材1とした。基材1の両面に、前処理として、以下に示す(1)アルカリエッチング及びデスマット並びに(2)二段ジンケート処理を行った後、(3)電解Niめっきを行ってNiめっき層3を形成し、実施例1の導電部材10を得た。
【0050】
(1)アルカリエッチング及びデスマットは、以下のように行った。すなわち、基材1を、50℃、50g/LのNaOH水溶液中に30秒間浸漬してアルカリエッチングし、室温の水道水で30秒間水洗した。その後、基材1を、60質量%の硝酸を500ml/Lの濃度にイオン交換水で希釈し室温に保持したデスマット液に30秒間浸漬し、さらに室温の水道水で30秒間水洗した。
【0051】
(2)二段ジンケート処理は、以下のように行った。すなわち、奥野製薬工業株式会社製のジンケート液「サブスターZN-111」をイオン交換水で500ml/Lの濃度に希釈し、室温に保持したジンケート処理液に、デスマット後の基材1を60秒間浸漬した。室温の水道水で30秒間水洗した後、基材1を、60質量%の硝酸を100ml/Lの濃度にイオン交換水で希釈し室温に保持した亜鉛剥離液に30秒間浸漬して亜鉛層を剥離した。さらに水洗した後、上述のジンケート処理液に30秒間浸漬して、基材上にち密な亜鉛置換層を形成した。これを水洗し、前処理材とした。
【0052】
(3)電解Niめっきは、ワット浴を用いて以下のように行った。すなわち、硫酸ニッケル6水和物を240g/L、ほう酸を35g/L含むめっき浴(ワット浴)を浴温45℃に保持し、前処理材を浸漬してカソードとし、4A/dm
2のカソード電流密度でめっきし、Niめっき層3を形成した。めっき時間は、Niめっき層3の厚みが約3μmとなるよう、任意の時間とした。
【0053】
[実施例2]
スルファミン酸浴を用いて以下のようにNiめっき層3を形成した以外は、実施例1と同様にして、実施例2の導電部材10を得た。Niめっき層3は、スルファミン酸Ni4水和物を450g/L、塩化ニッケル6水和物を10g/L、ほう酸を35g/L含むめっき浴(スルファミン酸浴)中で、5A/dm
2のカソード電流密度でめっきし形成した。
【0054】
[実施例3]
スルファミン酸浴に、硫黄を含まない光沢剤として株式会社ムラタ製のSN−20を4ml/Lの濃度で添加した以外は、実施例2と同様にして、実施例3の導電部材10を得た。
【0055】
[比較例1]
ワット浴に、光沢剤として3g/Lの濃度でサッカリンを添加した以外は、実施例1と同様にして、比較例1の導電部材を得た。
【0056】
[比較例2]
スルファミン酸浴に、光沢剤として3g/Lの濃度でサッカリンを添加した以外は、実施例2と同様にして、比較例2の導電部材を得た。
なお、上記実施例及び比較例におけるめっき浴のpHは、いずれも、4.0とした。
【0057】
[算術平均粗さSa]
Niめっき層を形成した後の試料を20mm角に切断し、ブルカー・エイエックスエス株式会社製の光干渉顕微鏡(GT−1)を使用して、115倍の対物レンズで試料の表面からおよそ20μm×40μmの視野を選出した。その測定視野内の面の算術平均粗さSaをISO25178に準拠して算出し、Niめっき層の表面の算術平均粗さSaとした。結果を表1に示す。
【0058】
[X線回折図におけるピークの半値幅]
Niめっき層を形成した後の試料について、株式会社リガク製X線回折装置RAD−rRを用いて、以下の条件でNiめっき層のX線回折を3回測定し、Ni(200)面に位置するピークの半値幅の平均値を算出した。この際の回折角2θは51.8°であった。その結果を表1に示す。
管球:Cu
線源:CuKα線
管電圧:50kV
管電流:200mA
モノクロメータを使用(モノクロメータの受光スリット:0.8mm)
ゴニオメーター半径:185mm
サンプリング幅:0.01°
走査速度:1°/min
発散スリット:1°
散乱スリット:1°
受光スリット:0.3mm
アタッチメント:ASC−43(横型)
回転速度:80rpm
【0059】
[押し込み硬さH
IT]
Niめっき層を形成した後の試料を20mm角に切断し、株式会社エリオニクス製ナノインデンター ENT−1100aを用い、バーコビッチ型のダイヤモンド圧子 記号6170を20mNの荷重で押し込んで、ISO 14577で定められる押し込み硬さH
ITを算出した。結果を表1に示す。
【0060】
[接触抵抗測定]
Niめっき層を形成した後の試料を、室温のイオン交換水中で30秒間水洗し、ドライヤーを用いて熱風乾燥した後、試料の接触抵抗を測定した。その後、試料について温湿度サイクル試験を行い、再度、試料の接触抵抗を測定した。
【0061】
接触抵抗は、
図5に示すように、AuめっきしたAl板20で試料を挟み、1MPaの面圧をかけながら1Aの電流を流し、Auめっき板間の電圧降下Vを測定し、R=(V/I)×Sから算出した。但し、R:接触抵抗(mΩcm
2)、I:電流(A)、S:接触面積2×2(cm
2)である。
【0062】
温湿度サイクル試験は、エスペック株式会社製恒温恒湿試験機PR−4Jを用いて、JIS C60068−2−38(試験記号:Z/AD)に準じて、湿度93%で、
図6に示す温湿度サイクル試験のサイクル模式図に沿って10サイクル行った。すなわち、2時間かけて25℃から65℃まで昇温し、3.5時間65℃を維持した後、2時間かけて65℃から25℃まで降温した。さらに0.5時間25℃に保持し、これを2サイクル行った。その後0.5時間かけて25℃から−10℃まで降温し、3時間−10℃を維持した後、1.5時間かけて−10℃から25℃まで昇温し、試験開始から24時間経過時まで25℃を維持した。結果を表1に示す。
【0063】
温湿度サイクル試験後の接触抵抗値が3mΩ・cm
2を下回っていると、接触抵抗値の増大が抑制されていることを示している。一方、接触抵抗値が3mΩ・cm
2を上回っていると、接触抵抗が増大してしまっていることを示している。表1から明らかなように、実施例1〜3の導電部材は、いずれも、接触抵抗が3mΩ・cm
2を下回っており、接触抵抗値の増大が抑制されている。
【0064】
[S含有量測定]
Niめっき層を形成した後の試料について、Niめっき層中の硫黄の含有量(S分率)を、電子線マイクロアナライザ(EPMA:株式会社島津製作所社製、型番EPMA―1610 分析下限値0.1質量%)を用いて測定した。結果を、表1中に示す。実施例1〜3の導電部材のNiめっき層からは硫黄は検出されなかった。
【0065】
【表1】
【0066】
図7〜9に、表1の数値に基づいて、接触抵抗と、算術平均粗さSa(
図7)、X線回折図におけるピークの半値幅(
図8)、又は押し込み硬さHIT(
図9)との関係を示した。
図7〜9において、四角は温湿度サイクル前の値を示し、黒丸は温湿度サイクル試験後の値を示す。温湿度サイクル試験後(黒丸で示す)の接触抵抗値が3mΩ・cm
2以下の場合に、高温高湿潤環境下でも接触抵抗の増大が抑制できるといえる。
図7〜9から明らかなように、Niめっき層の算術平均粗さSaが20nm以上である実施例1〜3の導電部材は、温湿度サイクル試験後の接触抵抗が3mΩ・cm
2以下となり、接触抵抗の増大を抑制することができた。