【実施例】
【0046】
以下にバインダー用共重合体(P)(バインダー)、負極用スラリー、電極、電池についての実施例および比較例を示して本発明をさらに詳細に説明する。各実施例及び比較例のバインダーの成分、スラリーの配合比及び各サンプルの評価結果は表1の通りである。
なお、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0047】
<実施例1>
(バインダー用共重合体(P)(バインダー)の作製)
一般式(1)で表す単量体(A)としてN-ビニルアセトアミド(NVA)(昭和電工(株)製)を、(メタ)アクリル酸塩単量体(B)として、アクリル酸ナトリウム(AaNa)(28.5質量%水溶液として調製したもの)を用いた。また、重合触媒としてV−50(2,2’−アゾビス(2− メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩、和光純薬工業社製)を、重合開始剤として過硫酸アンモニウム(和光純薬工業社製)を用いた。
【0048】
冷却管、温度計、攪拌機、滴下ロートが組みつけられたセパラブルフラスコに、NVAを10質量部、28.5質量%AaNa水溶液を315.8質量部(AaNaとして90質量部)、V−50を0.2質量部、過硫酸アンモニウムを0.05質量部、水を9.0質量部を30℃で仕込んだ。これを、80℃に昇温し、4時間重合を行った。その後、室温まで冷却し、乾燥し、粉砕して粉末状のバインダー用共重合体P1(バインダーP1)を得た。
得られたバインダー用共重合体P1の重量平均分子量(プルラン換算値)を測定した。測定された重量平均分子量は550万であった。
【0049】
(重量平均分子量の測定)
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で測定した。
GPC装置: GPC‐101(昭和電工(株)製))
溶媒:0.1M NaNO
3水溶液
サンプルカラム:Shodex Column Ohpak SB−806 HQ(8.0mmI.D. x 300mm) ×2
リファレンスカラム:Shodex Column Ohpak SB−800 RL(8.0mmI.D. x 300mm) ×2
カラム温度:40℃
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI−71S(株式会社島津製作所製)
ポンプ:DU−H2000(株式会社島津製作所製)
圧力:1.3MPa
流量:1ml/min
分子量スタンダード:プルラン(P‐5、P−10、P‐20、P−50、P‐100、P−200、P−400、P−800、P−1300、P−2500(昭和電工(株)製))
【0050】
(負極用スラリーの作製)
次に、負極活物質として難黒鉛化性炭素を96.5部、バインダー用共重合体P1を3.5部、水を69部加えて、攪拌式混合装置(自転公転撹拌ミキサー)を用いて2000回転/分で4分間固練りを行った。さらに水を16部加え、さらに2000回転/分で4分間混ぜ、負極用スラリーを作製した。
【0051】
(負極の作製)
この負極用スラリーを集電体となる厚さ10μmの銅箔の片面に乾燥後の塗布量が4mg/cm
2となるようにドクターブレードを用いて塗布し、60℃で2分加熱乾燥後、さらに100℃で10分乾燥して活物質層を形成した。この活物質層と集電体からなる材料を金型プレスを用いてプレス圧1t/cm
2でプレスして負極活物質含有層を形成した。
得られた負極活物質含有層を22mm×22mmに切り出しに導電タブをつけて負極を作製した。
【0052】
(正極の作製)
また、正極は以下のように作製した。まず、LiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2を90質量部、導電助剤としてアセチレンブラックを5質量部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン5質量部とを混合したものに、N−メチルピロリドンを100質量部添加して、さらに混合して正極用スラリーを作製した。
作製した正極用スラリーを、ドクターブレード法により集電体である厚さ20μmのアルミニウム箔上にロールプレス処理後の厚さが100μmになるように塗布し、120℃で5分乾燥、プレス工程を経て正極活物質含有層を形成した。得られた正極活物質含有層を20mm×20mmに切り出し、導電タブをつけて正極を作製した。
【0053】
(電池の作製)
上記の正極と負極を用いて以下のようにしてリチウムイオン二次電池を作製した。
また、リチウムイオン二次電池に用いる電解液を、エチレンカーボネート(EC)とチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比40:60で混合した混合溶媒に、LiPF
6を1.0mol/Lの濃度になるように溶解して調整した。
導電タブがつけられた正極と負極との間にポリオレフィン系の多孔性フィルムからなるセパレータを介在させて、正極と負極との活物質が互いに対向するようにアルミラミネート外装体(電池パック)の中に収納した。この外装体中に電解液を注入し、真空ヒートシーラーでパッキングし、ラミネート型電池を得た。
【0054】
【表1】
【0055】
<実施例2〜9>
実施例2〜9の各サンプル(バインダー用共重合体、負極用スラリー、電極、電池)の作製条件について、実施例1に対して異なる部分のみ説明する。
【0056】
実施例2では、単量体混合物(M)中のAaNaの含有量を75質量%にして、さらにエチレン性不飽和単量体(C)としてアクリル酸(Aa)15質量%を加えてバインダー用共重合体P2を合成した(バインダーP2)。共重合体の重量平均分子量は370万であった。
【0057】
実施例3では、単量体混合物(M)中のNVAを5質量%、AaNaの含有量を95質量%にした(バインダー用共重合体P3(バインダーP3))。共重合体の重量平均分子量は850万であった。実施例4では、単量体混合物(M)中のNVAを2質量%、AaNaの含有量を98質量%にした(バインダー用共重合体P4(バインダーP4))。バインダー用共重合体P4の重量平均分子量は900万であった。実施例5では、単量体混合物(M)中のNVAを1質量%、AaNaの含有量を99質量%にした(バインダー用共重合体P5(バインダーP5))。バインダー用共重合体P5の重量平均分子量は770万であった。
【0058】
実施例6では、負極用スラリー中の負極活物質の配合量を97.0質量部、バインダー用共重合体P1の配合量を3.0質量部とした。実施例7では、負極用スラリー中の負極活物質の配合量を97.5質量部、バインダー用共重合体P1の配合量を2.5質量部とした。実施例8では、負極用スラリー中の負極活物質の配合量を98.0質量部、バインダー用共重合体P1の配合量を2.0質量部とした。実施例9では、負極用スラリー中の負極活物質の配合量を98.5質量部、バインダー用共重合体P1の配合量を1.5質量部とした。
【0059】
<比較例1〜4>
比較例1〜4の各サンプル(バインダー、負極用スラリー、電極、電池)の作製条件については、実施例1に対して異なる部分のみ説明する。
比較例1では、単量体としてNVAのみを用いた(バインダーP6)。比較例2では、単量体としてAaNaのみを用いた(バインダーP7)。比較例3では、単量体混合物(M)中のNVAの含有量を80質量%、AaNaの含有量を20質量%にした(バインダーP8)。比較例4では、単量体混合物(M)中のNVAの含有量を60質量%、AaNaの含有量を40質量%にした(バインダーP9)。
【0060】
<比較例5>
比較例5において、バインダーP10は、水分散状態のスチレンブタジエンラテックス(SBR)とカルボキシセルロスソーダ(CMC)からなる。
難黒鉛化性炭素を96.5質量部、カルボキシメチルセルロース(日本製紙ケミカル(株)製商品名メトローズMAC350HC)を1.0質量部、水を49質量部加えて、攪拌式混合装置(自転公転撹拌ミキサー)を用いて2000回転/分で4分間固練りを行った。
その後、SBR40質量%の水分散液を6.25質量部(SBR2.5質量部、水3.75質量部)、水を32質量部加え、さらに2000回転/分で4分間混ぜ、負極用スラリーを作製した。
この負極用スラリーを用いて、実施例1と同様に負極を作製した。さらに、この負極と、実施例1と同様の方法で作製した正極とを用いて、実施例1と同様に電池を作製した。
【0061】
<比較例6>
比較例6では、バインダーP11としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いた。
次に、負極活物質として難黒鉛化性炭素を95質量部、非水系電池電極用バインダー用共重合体P11を5.0質量部、水を69質量部加えて、攪拌式混合装置(自転公転撹拌ミキサー)を用いて2000回転/分で4分間固練りを行った。さらに水を16質量部加え、さらに2000回転/分で4分間混ぜ、負極用スラリーを作製した。
この負極用スラリーを用いて、実施例1と同様に負極を作製した。さらに、この負極と、実施例1と同様の方法で作製した正極とを用いて、実施例1と同様に電池を作製した。
【0062】
<実施例及び比較例の評価方法>
各実施例及び比較例の負極用スラリー外観、電極性能、電池性能を評価した。評価方法は以下の通りで、評価結果は表1に示した通りである。
【0063】
(スラリー外観)
スラリーを目視して外観を確認し、凝集物及び塊のサイズをマイクロメーターで測定した。スラリー中に凝集物(1mm
3〜27mm
3)や塊(27mm
3以上)がある場合を×、それ以外の場合を○と判断した。
【0064】
(負極外観)
電極を目視して外観を確認し、凝集物及び塊のサイズをマイクロメーターで測定した。
凝集物(1mm
3〜27mm
3)や塊(27mm
3以上)が確認された場合、また、電極に筋が入った場合を×、それ以外を○と判断した。
【0065】
(負極活物質層の剥離強度)
負極の集電体上に形成された活物質層とSUS板とを両面テープ(NITTOTAPE
No5)を用いて貼り合わせ、剥離幅25mm、剥離速度100mm/minで180°剥離して得られた値を剥離強度とした。
【0066】
(電池性能)
作製された電池の内部抵抗(DCR(Ω))を以下のように測定した。
レストポテンシャルから3.6Vまで0.2Cの定電流充電し、充電状態(SOC)を50%にした。その後、0.2C、0.5C、1Cおよび2Cの各電流値で60秒間放電を行った。4種の電流値(1秒間での値)と電圧の関係からSOC50%でのDCR(Ω)を決定した。
【0067】
<実施例及び比較例の評価結果>
表1からわかるように、実施例1〜9においては、電極(負極)の外観が良好で、負極活物質層の剥離強度(mN/mm)も十分な値を示している。また、電池としたときの内部抵抗(Ω)も十分に低い値である。
【0068】
一方、NVAの単独重合体をバインダーに用いた比較例1、及びAaNaの単独重合体をバインダーに用いた比較例2では、スラリーの外観は塊があった。また、作製した電極の外観は筋が入り、電極表面に電極活物質層を形成できず、電池としての性能評価は不可能であった。
【0069】
単量体混合物(M)に過剰のNVAを含む比較例3及び4では、スラリーの外観は凝集物があった。また、作製した電極の外観は凝集物があり、電池としての内部抵抗が十分に低減できていなかった。
【0070】
バインダーとしてSBR/CMCを用いた比較例5では、電池としての内部抵抗が十分に低減できていなかった。また、バインダーとしてPVDFを用いた比較例6では、電極活物質層としての剥離強度が不十分であり、電極としたときの内部抵抗も十分に低減できなかった。
【0071】
以上の評価結果から、実施例のバインダーと負極活物質とを含むスラリーを集電体に塗布、乾燥して得られる負極活物質層は、外観上問題なく、剥離強度も十分であり、電池としたときの内部抵抗も十分に低減できている。
したがって、本実施例にかかるバインダー用共重合体を非水系電池負極用のバインダーとして用いることにより、非水系電池負極における負極活物質同士、及び負極活物質と集電体との間で十分な結着性を確保しつつ、電池としての内部抵抗が低減できることがわかった。
【0072】
また、これらバインダーは正極活物質のため(非水系電池正極用の)のバインダーとしても用いることができ、正極活物質同士、及び正極活物質と集電体との間で十分な結着性を確保しつつ、電池としての内部抵抗が低減できる。