(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6872529
(24)【登録日】2021年4月21日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】音響デバイスを保護するための多層テキスタイル構造を作るための方法、多層テキスタイル構造によって音響デバイスを保護するためのコンポーネントを作るための方法、及び得られる音響デバイス保護コンポーネント
(51)【国際特許分類】
H04R 1/00 20060101AFI20210510BHJP
H04R 1/08 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
H04R1/00 311
H04R1/08
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-508205(P2018-508205)
(86)(22)【出願日】2016年10月4日
(65)【公表番号】特表2018-537008(P2018-537008A)
(43)【公表日】2018年12月13日
(86)【国際出願番号】IB2016001434
(87)【国際公開番号】WO2017060765
(87)【国際公開日】20170413
【審査請求日】2019年4月10日
(31)【優先権主張番号】UB2015A004103
(32)【優先日】2015年10月5日
(33)【優先権主張国】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】512200310
【氏名又は名称】サーティ エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】ルチニャーノ,カーマイン
(72)【発明者】
【氏名】カノミコ,パオロ
【審査官】
大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−139134(JP,A)
【文献】
特開2016−21502(JP,A)
【文献】
国際公開第2016/136233(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/00
H04R 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音、音声、または音楽を放出し受信するための少なくともオーディオ機能を有する、一般に、電子デバイスのラウドスピーカ及びマイクロフォンに特に貼付けられるため、および、前記電子デバイスを水及び固体粒子侵入から保護し、前記電子デバイスのために設計される音放出及び受信特性を維持するための2つのテキスタイル構造層を含むテキスタイル構造を設けるため、それぞれが複数の合成単糸を織ることによって形成される第1及び第2の精密織物層を積層または結合するための方法であって、前記第2の精密織物層は、前記第1の精密織物層のメッシュ開口より大きいメッシュ開口を有し、
前記第1及び第2の精密織物層の少なくとも一方の前記合成単糸上に接着剤をスプレーするステップ、及び前記合成単糸上に前記接着剤の液滴を均等にスプレーし霧状化させるステップを含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記第1の精密織物層と前記第2の精密織物層の両方の前記合成単糸上に前記接着剤をスプレーするステップを含み、前記接着剤は水性ポリウレタン材料であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
a)前記第1及び第2の合成単糸精密織物層のロールを設けるステップと、
b)水性接着剤をスプレーし霧化するため、対応する複数のスプレー用及び霧化用ノズルを含む複数のスプレー用ステーションを設けるステップと、
c)乾燥用トンネルオーブン手段を設けるステップと、
d)前記スプレー用ステーションの上流に巻出しシステムを、また、前記乾燥用トンネルオーブン手段の下流に巻取りシステムをそれぞれ設けるステップと、
e)前記第1及び第2の織物層を搬送するための搬送手段を設けるステップと、
f)前記第1及び第2の織物層を、前記第1及び第2の織物層の前記ロールから巻出すステップと、
g)前記第1及び第2の織物層を前記スプレー用ステーションの下に搬送し、前記合成単糸上に前記水性接着剤の液滴を均等にスプレーし霧状化させるステップと、
h)前記第1及び第2の織物層を、前記乾燥用トンネルオーブン手段を通して更に搬送するステップであって、それにより、前記水性接着剤に含まれる水を蒸発させ、前記第1及び第2の織物層を乾燥させる、更に搬送するステップとを含み、方法は、前記水性接着剤が、前記スプレーするステップg)において前記水性接着剤の架橋をロックまたは停止するように適合されるロック用触媒を含むことを更に特徴とし、前記乾燥させるステップh)後に、方法は、
i)残留付着特性のない前記第1及び第2の乾燥済み織物層をロールに巻取る更なるステップを含むことを特徴とする、請求項1及び2に記載の方法。
【請求項4】
前記ロールから前記第1及び第2の織物層を巻出し、加熱式カレンダーにおいて前記第1及び第2の織物層を加熱し押圧する更なるステップであって、それにより、前記第1及び第2の織物層を拡散して互いに接着するため前記接着剤を再活性化し重合させる、加熱し押圧する更なるステップを含むことを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1及び第2の織物層は合成単糸精密織物層であり、前記合成単糸は、PET、PA、PP、PEEK、PPSの群から選択され、19〜500μmの糸径、260〜4の糸/センチメートル密度、35μmと1mmとの間の厚さ、5μmと1mmとの間のメッシュ開口を有することを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1及び第2の織物層は、疎水性、帯電防止、親水性、汚れ放出性、及び抗菌性である表面特性を前記第1及び第2の織物層に提供するコーティングプロセスによってコーティングされ、前記コーティングプロセスは、ディップコーティング、プラズマコーティング、スプレーコーティング、フォームコーティング、ナイフコーティング、ゾルゲル、インクジェットコーティング、物理的または化学的堆積から選択され、前記物理的または化学的堆積は、銀、銅、アルミニウム、鋼、チタン、窒化チタン、クロム、及び炭化クロムのうちの1つまたは複数からなる物理的または化学的堆積であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
音響デバイス、ラウドスピーカ、マイクロフォン、及び、少なくとも、オーディオ機能、音(音声または音楽)放出または受信機能を含む任意の電子デバイスを保護するための保護コンポーネントを作るための方法であって、前記保護コンポーネントは活性エリアを有し、方法は、
a1)請求項1から6のいずれか1項による方法によってテキスタイル構造を設けるステップと、
b1)10〜50mmの幅を有するウェブになるよう前記テキスタイル構造を切断するステップと、
c1)それぞれの第1の支持要素によって支持される第1の付着ストリップの第1のロールを設けるステップと、
d1)それぞれの第2の支持要素によって支持される第2の付着ストリップの第2のロールを設けるステップと、
e1)前記第1の付着ストリップを前記第1のロールから巻出し、前記第1の付着ストリップを前記テキスタイル構造の前記ウェブの第1の表面に貼付けるステップと、
f1)前記保護コンポーネントの前記活性エリアに応じて前記第1の付着ストリップ及び前記第1の付着ストリップ用の前記第1の支持要素を穿孔するステップと、
g1)前記第2の付着ストリップを前記第2のロールから巻出し、前記第2の付着ストリップを前記ウェブの第2の対向表面に貼付けるステップと、
h1)前記第2の付着ストリップ及び前記第2の付着ストリップ用の前記第2の支持要素を穿孔するステップと、
l1)前記第1及び第2の支持要素の一方を取除くステップと、
m1)コーティングフィルムによって、ステップa1)からl1)から達成される組立体を積層するステップとを含むことを特徴とする、方法。
【請求項8】
170μmの厚さ、約10g/m2の前記接着剤を有する114g/m2の重量、200Paの圧力降下において測定された1330l/m2sの通気量、140レイリーの音響インピーダンス、及び約3.4m/5cmの均一剥離抵抗を有する2層織物構造を設けることを更に含むことを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ステップa1)の前記テキスタイル構造は、170μmの厚さ、約10g/m2の前記接着剤を有する114g/m2の重量、200Paの圧力降下において測定された1330l/m2sの通気量、140レイリーの音響インピーダンス、及び約3.4m/5cmの均一剥離抵抗を有することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
オーディオゲート、ラウドスピーカ、マイクロフォン、または少なくともオーディオ機能を含む任意の電子デバイス用の保護コンポーネントであって、互いに結合される第1及び第2の精密織物層を有するテキスタイル構造を備え、前記第2の精密織物層は、前記第1の精密織物層のメッシュ開口より大きいメッシュ開口を有し、前記第1及び第2の精密織物層のそれぞれは複数の合成単糸を織ることによって形成され、前記テキスタイル構造は、前記第1及び第2の精密織物層の少なくとも一方の前記合成単糸上に液滴の接着剤がスプレーされて霧状化されたスプレー済み接着剤を備え、前記スプレー済み接着剤は、前記第1及び第2の層を拡散して結合し、前記テキスタイル構造は10〜50mmの幅を有し、保護コンポーネントは、前記テキスタイル構造の第1の表面に貼付けられる穿孔済みの第1の付着ストリップ及び前記テキスタイル構造の第2の対向表面に貼付けられる穿孔済みの第2の付着ストリップならびに積層済みのコーティングフィルムを更に備える、保護コンポーネント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明の第1の態様による、多層テキスタイル構造を作るための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
用語「多層(multilayer)」によって、2層からなるテキスタイル構造が、以降で設計されることになり、テキスタイル構造は、異なるサイズのデバイスに組込まれるマイクロフォン、ラウドスピーカ等のような電子音響コンポーネントを保護するために特に設計されており、また、互いに接着された2つのオーバラップする合成単糸精密織物層からなり、それにより、2層の拡散接合、接着剤分布の最適均一性、及び、2層の最適付着を提供する。
【0003】
更に、言葉「合成単糸精密織物(synthetic monofilament precision fabric)」によって、知られている任意の織り方法によって作られる織物が設計されることになり、織物の織りパラメータは、精密に制御されて、例えば、合成単糸で作られるメッシュ配置構成の非常に均一なメッシュ開口を提供し、織物のサイズパラメータ及び物理的特性は、正確に制御されて、織物であって、音響波の放出及び受信について、織物の全てのエリア部分を通して、前記音響波を減衰させないようなインピーダンスを有する、織物を提供し、織物は、電気音響コンポーネントの適切な動作のために必要とされる、汚染粒子の考えられる貫入からの保護を提供しながら、前記音響波について織物を「透過性(transparent)」にする。
【0004】
本発明は、同様に、本発明の第2の態様において、先に述べた「多層」織物から始めて、オーディオゲート、ラウドスピーカ、マイクロフォン、または同様なデバイス等の電子デバイスにおいて使用されるための、適切に予め寸法決めされ組立てられる保護ピースまたはコンポーネントを作るための方法に関する。
【0005】
換言すれば、本発明の適用分野は、ラウドスピーカまたは同様なデバイス等の音(音声または音楽)放出、または、一般にマイクロフォン等の音受信である少なくともオーディオ機能を含む、小さなまたは大きなシリーズで作られる全ての電子デバイスのマクロエリアである。
【0006】
デバイスの先に述べた幅広い群には、幾つかのコンポーネントファミリ及びサブファミリ、例えば、以下が関連する。以下とは:
電話分野:
・セルラー電話
・固定回線電話用の製品(例えば、電話、ハンドフリー組立体、及び関連取付け具)
・スカイプ/SAT電話
通信分野:
・ウォーキートーキー
・ヘルメットに組込まれるオーディデバイス及び同様なもの
・例えば、軍事用途、安全用途、市民保護用途、室外作業用途、及び同様なもの用のラジオ
娯楽:
・可搬型HiFiデバイス(MP3プレーヤ、イヤフォン、ヘッドセット、可搬型スピーカ)
・専門家オーディオデバイス(マイクロフォン、ヘッドセット、ラウドスピーカコンポーネント)
・TV(LCD、モニタ、可搬型DVDプレーヤ)
・音声信号送信特性を含む衛星ナビゲータシステム
・自動車用途(カーHiFi、ハンズフリー、音声警告用途)
・室内通信デバイス(列車、飛行機、船)
他の用途:
・コンピュータ(モニタースピーカ、外部スピーカ、追加マイクロフォン、ウェブカム)
・屋内適用デバイス(インターフォン、室内オーディオ通信デバイス)
・聴覚障害者用の音響装置及び他のヘルスケア装置
である。
【0007】
特に、好ましい本発明の適用分野は、ラウドスピーカ及びマイクロフォン等の室内音響コンポーネントの分野である。これらのコンポーネントは、非常に精巧であり、述べるように、設計済みの音放出及び受信特性に保護システムが悪い影響を及ぼすことを防止しながら、水及び固体粒子(埃、廃棄物、危険な破片)の侵入から保護されなければならない。
【0008】
上記は、良好な音伝達特性(デバイス外側シェルを通る大きな開口を使用することによって達成される)をコンポーネント自体の効率的な保護(逆に、音響コンポーネントを外部環境からできる限り隔離することを必要とする)と組合せなければならない、述べた音響コンポーネントについての機能要件の非常に複雑なパターンを伴う。
【0009】
標準的な条件において先に述べた問題を解決するための主要な解決策は、外側開口上に多孔性保護手段を貼付けるという解決策であり、外側開口は、例えばセルラー電話において、通常3つであり、主ラウドスピーカ(または「イヤピース(earpiece)」)に、マイクロフォンに、そしてハンズフリー/音ラウドスピーカ(または「ラウドスピーカ(loudspeaker)」プロパー)に配置される。
【0010】
音響コンポーネントを保護するため、従来技術は、所望の適用要件、保証される保護のタイプ及び程度、ならびに、磁界のスクリーニングが必要とされるか否かに応じて幾つかの解決策を提供する。
【0011】
上記の一般的な解決策は、達成される保護レベルに基づいて昇順に従って適切に合成され配置される特定の導出アプローチ、すなわち:
2.1. 保護なし、すなわち、音響コンポーネントは外部環境にさらされる(一般的でない解決策である)
2.2. 耐衝撃機能だけを有するプラスチック成形式保護バーまたはグリッド
2.3. 金属材料で作られる(例えば、マイクロフォン用の球状保護デバイス)かまたはプラスチック材料から成形され、小物品(ペンシル等のような)に対する侵入防止機能を有する幅広メッシュ開口保護ネット
2.4. 保護される音響コンポーネントの前に配置される、オプションの疎水性処理を施された不織材料スクリーン
2.5. 任意選択で疎水的に処理される合成単糸技術織物スクリーン
2.6. 疎水性膜
を調査または設計するための基礎を構成してもよい。
【0012】
上記の最初の3つの解決策は、液体に対する保護を提供するのではなく、中サイズから大サイズの物品に対して制限された効率を提供するだけである(上記2.2.及び2.3.)。
【0013】
逆に、2.4.から2.6.からの解決策は、液体及び粉末の音響コンポーネント内への考えられる侵入に対してさえも良好な保護を提供する。
【0014】
もちろん、幾つかの保護/スクリーニング材料層のオーバラップまたは積重ねは、オーバラップ層が通常の空気流に対する更なる障害物を示すため、コンポーネントの音響性能を悪化させる傾向があることになる。
【0015】
最適なアプローチは、低い音響インピーダンスを有する保護/スクリーニング媒体を設ける、または、可能である場合、要求される保護レベルと音響性能との間のトレードオフを見出すアプローチであることになる。
【0016】
セルラー電話等の最も一般的な場合、処理スクリーンは、合成発泡材料ガスケット及び両面付着テープテンプレートになるよう組立てられて、装置外側本体に対するスクリーンの完全な付着を提供する。音響コンポーネントを保護/スクリーニングするために設計される複数の層の場合、スクリーン(ガスケット/付着テープ等)を組立てるために必要とされる取付け具ならびに組立てるステップ及び総合厚さは、使用される保護/スクリーニング層の数に応じて大幅に増加することになることが明らかになるはずである。
【0017】
述べたように、音響の観点から、オプションの保護スクリーンは、コンポーネントを設計するときに設けられる保護スクリーンと比較して入力音及び出力音に悪い影響を及ぼすべきではない。
【0018】
通常、大衆消費音響製品のほとんどの場合、音圧レベルの減衰を最小にすることが必要である。したがって、保護スクリーンは、音響コンポーネントの入力または出力音波に出来る限り少なく干渉しながら、その保護機能を提供するため「音響透過性(acoustically transparent)」でなければならない。
【0019】
上記は、セルラー電話について非常に一般的であり、セルラー電話において、保護スクリーンは、スピーカ音またはマイクロフォン感度を過度に減衰させてはならず、それにより、小型で、軽量で、経済的な音響組立体を使用することを可能にする。
【0020】
他の場合、特に、アベレージ/ハイレンジ音響製品において、保護スクリーンが、適切な音響機能を提供して、考えられる放出ピークまたは歪音を平準化し、それにより、音響コンポーネント周波数応答を適切に平衡させることが逆に所望される。
【0021】
全ての上記場合において、テキスタイル材料コンポーネント、すなわち、織布、不織布、または膜は、最大「音響透過性(acoustic transparence)」フィーチャから、設定される音レベル減衰効果までの要件に応じて変動する、設計プロジェクトの正確な音響特性を有するべきである。
【0022】
先に述べた音響特性を適切に定量化するため、異なる定量化方法を使用することが可能である。異なる定量化方法とは:
・テキスタイル製品を通過する定常時空気流の場合、負荷を損失レートに関連付ける「固有空気流抵抗(specific airflow resistance)」(ASTM C522−87)。結果はレイリーMSK(Rayls MKS)として与えられ、このパラメータの低い値に「音響透過性の(acoustic transparent)」材料が対応する。
・上記の場合と同じパラメータに基づくが、音響用途の現実の状態により強く付着する条件下にある交互空気流レジメンについて測定される「音響インピーダンス(acoustic impedance)」値。
・最後に、その最終構成(市販品のそれと同一の形状及びサイズ)で音響スクリーンを直接試験することが可能でない場合、テキスタイルスクリーンを音源と測定マイクロフォンとの間に配置した状態でまたは配置しない状態での音圧の直接測定が実施されるべきである。この試験の結果は、異なる標準化法(ISO/FDIS 7235:2003または同様なもの)に基づいてデシベル、dB(SPL)として通常表現される。
【0023】
国際標準IEC60529は、電子コンポーネントシェルまたはケーシングが固体物質−物品または水の浸入を受ける多少厳しい幾つかの試験条件を参照して、いわゆる「侵入への保護(Ingress Protection)」指標を規定する。
・IP指標の第1のディジットは、固体材料の侵入に対する抵抗に関連する。IP1X〜IP4Xのレベルは、音響コンポーネントの場合、通常、関心が低く、音響コンポーネントは、逆に、粉末侵入に対する部分的保護を仮定すると、IP5Xレベルをほぼ常に必要とする。完全シール式コンポーネントを提供するIP6Xの要件は、それ自体一般的でない。
・IP指標の第2のディジットは水抵抗に関連する。IPX3、IPX4、及びIPX5レベルは、幾つかの強度の水スプレーに対する抵抗を示す。通常、セルラー電話等の最も一般的な製品の場合、IPX3で十分である。逆に、「ヘビーデューティ(heavy duty)」音響製品は、最大24時間までの間で最大10メートルの深さまでの水浸漬抵抗に対応する、IPX8までの保護レベルを必要とする場合がある。これらは、特定の用途について、明らかに非常に厳しい。
【0024】
先に述べたように、現在、幾つかの技術的解決策が、最新の音響製品(同じ出願人に対する特許第MI2010A000685号において教授される多層合成材料を含む)によって課される音響及び保護性能を提供する異なるテキスタイル製品(不織布、合成単糸技術的織布、疎水性膜)に基づいて使用される。
【0025】
IPX4等級の>7μmの粒子に対する保護範囲及び疎水性能力における、音響特性、機械的強度、処理能力、及び幾何学的一貫性を参照して、本出願人は、以降でより詳細に開示されることになる合成単糸技術的織物が、先に述べた保護及び最小音響減衰問題に対して最適な解決策を示すことを意外にも見出した。
【0026】
更に、単に美的理由で、音響コンポーネントを適切に保護するため、非常に大きなメッシュ開口織物材料を使用することがしばしば要求される。更に、機械的理由で、時として、良好な硬質保護層を提供するように適合され、また同様に、侵入に対する良好な抵抗を提供するように適合される織物が好ましい。
【0027】
しかし、一方で、こうした織物が、保護されるコンポーネントの音響性能に最小の程度だけ悪い影響を及ぼす場合、他方で、液体または粒子侵入に対する保護レベルが過度に低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【特許文献1】特許第MI2010A000685号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
したがって、上記から、上記音響コンポーネントの、先に述べた用途において音響波の所望の最小減衰を維持しながら、液体及び粒子侵入に対する保護レベルを最適に増加させる必要性(それを満たすことが本発明の主要な目的を構成する)が自明である。
【課題を解決するための手段】
【0030】
本出願人は、更なる層、または、非常に小さなメッシュ開口を特徴とし、かつ、より大きなメッシュ開口配置構成に適切に結合または積層される単糸精密織物層を使用することによって上記目標を達成した。
【0031】
これに関連して、保護される音響コンポーネントの前でのこうした織物層の使用が、2つの関係する層のそれぞれと、コンポーネントと、外側ケーシングとの間で、適した付着及びガスケット材料を塗布することが必要であるため、適切なオーバラップまたは積重ね組立てを達成することを非常に難しくすることになることが指摘されるべきである;したがって、こうした組立てをできる限り簡略化することが必要である。
【0032】
本発明によれば、この更なる目的は、本発明の核心を構成する新規な方法によって先に述べた2つの合成単糸精密織物層を結合または積層し、それにより、2つの積層済みまたは結合済み層を、そのハウジングまたはケーシングに容易にかつ迅速に組立てられる一体化モノリシックユニットに変換することによって達成された。
【0033】
先の新規でかつ発明性のある結合方法は、織物を適切に後処理し、それをターゲット電子デバイス内で組立てて、ターゲット電子デバイスの全ての所望の音響及び保護特性要件を満たすために更に非常に有利である。
【0034】
換言すれば、発明性のある織物材料を結合するための新規でかつ発明性のある積層または結合方法は、特に、
・2つの織物層の拡散接合を提供するため、
・液体侵入に対する所望の保護を増大させるよう、低い表面エネルギーコーティングが織物上に堆積される場合でも、前記層の間に良好な付着レベルを保証するため、
・付着強度及び空気流抵抗の絶対的均一性を保証するため
に特に設計された。
【0035】
本発明による積層方法は、従来の積層方法、例えば、異なるタイプの反応性ポリウレタンまたは熱可塑性ポリマー材料を使用するホットメルト法、または、層のうちの1つの層上に拡散させ、連続的にカレンダー積層することによって接着剤を堆積させるためのコーティングシステムを使用する他の方法の大きな欠点を克服し、従来の積層方法において、コーティングされる接着剤による織物メッシュ開口の完全なまたはほぼ完全な閉鎖を防止するため、適切な接着剤量の計量が、異なる彫刻パターンで彫刻された接着剤散布シリンダによって達成され、それは、以下の欠点を示唆する。以下の欠点とは、
・巨視的レベルにおいてだけの拡散接合。特に、意図される用途について、2つの接着剤スポット間のピッチに匹敵するサイズを有する複数の小ピースを作ることが必要である場合、そのピースは、部分的にまたは完全に剥離することになる。
・測定負荷の大きな変動が、織物上の位置の変動に対応することになるため、2つの層間の付着レベルは一貫性がない。
・上記に対して、保護ピースの典型的なサイズが、一般に、コーティング用接着剤スポットパターンのサイズに匹敵する数百ミクロンのオーダであるため、同じ保護織物ロールから作られ、接触した関係で接着される異なるピース間の作動特性が、一貫性がないことになるという更なる欠点が付加されるべきである。その理由は、接着剤スポット/ラインにおいて、大きな空気流抵抗が、その結果の比較的大きな音響インピーダンス増加によって起こり、またその逆も同様であり、2つの接着剤スポット間のエリアにおいて、空気流抵抗が低いことになるからである。
【0036】
逆に、本発明による積層方法は、接触なしで真にスプレーする方法であり、それにより、積層方法は、積層シリンダ上に彫刻される接着剤スポット/ラインのパターン及び深さに無関係に、作動的にずっと柔軟性がある。
【0037】
実際には、本発明による方法は、積層される2つの織物層が、複数のスプレー用ノズルの下で、設定速度で通過させられ、それにより、織物送り速度及び接着剤の霧状化または霧化(開口及びその圧力)を調整することによって、堆積される接着剤量は、精密に決定され得る。
【0038】
接着剤霧状化または霧化が非常に微細な霧状化または霧化である場合、織物糸を通して分配される非常に小さな接着剤液滴を、ほぼ連続的な分布で堆積させることが可能であり、それにより、ごくわずかな程度にだけ、空気流抵抗に悪い影響を及ぼす。
【0039】
本発明による方法の好ましい実施形態において、積層される両方の層上にスプレーされる水性ポリウレタン接着剤が使用される。
【0040】
スプレーするステップ後に、本発明によれば、織物は、設定速度でトンネルオーブンを通過させられて、接着剤内に存在する水を蒸発させる。
【0041】
有利には、先に述べたように、方法は、ロールから始めて実施され、それにより、スプレー用ステーションの上流にまたトンネル乾燥オーブンの下流に、巻出し及び巻取りシステムが、それぞれ配置されることになる。
【0042】
本発明の好ましい実施形態において、使用される接着剤は、例えばポリウレタンタイプのロック用触媒を含んで、スプレーされる接着剤の架橋を、本発明に従ってロックする。
【0043】
そのため、乾燥した後、織物ロールは、織物が、残留付着がないことになるため、容易に格納されてもよい。
【0044】
接着剤を再活性化するため、架橋プロセスを適切に始めるために設定期間の間、設定温度を適用することで十分である。
【0045】
適切に、2つの織物層を加熱し、接着結合を達成するために必要とされる圧力を印加するため、2つの織物層を加熱し、接着剤を再活性化する加熱式カレンダーを使用し、カレンダーが印加する圧力によって2つの層を接続することが好ましい。
【0046】
スプレーコーティングし積層することによる、先に開示された本発明の方法は、先に開示した音響用途に特に適する2層織物構造を提供し、織物構造は、
・拡散結合
・液体侵入に対する保護を増大させるための、2つの織物層が低い表面エネルギーコーティングをその上に堆積されているときであってもの、2つの織物層の間の良好な付着レベル
・非常に均一なまたは一貫性のある付着レベル
・スプレーされる接着剤の真に均一な分布による非常に均一なまたは一貫性のある空気流抵抗
を有する。
【0047】
本発明による方法の先のステップは、本開示の一体化部分を構成する添付概略的な図面において示され再開され、ここでは、セルラー電話の使用に関連するが、セルラー電話は、しかし、先に示したタイプの、アナログ音響機能を有する任意の他の電子デバイスにおいて使用されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】先に開示した本発明の方法による2層織物構造で作られる複数の実質的に円形のダイカット部分の略図である。
【
図2】2つの織物層であって、異なる径の糸を有し、接着剤層が織物下部層糸上にだけスプレーされる、2つの織物層の更なる略図である。
【
図3】本発明による方法の更なる略図であり、接着剤は、より小さい径を有する上部層の糸の上にある織物層とより大きな径を有する下部層の糸の上にある織物層の両方の上にスプレーされ、これに関連して、
図2及び3において2つの層の糸が異なる径の糸として示されても、それは、同様に同じ径を有する可能性があることが指摘されるべきである。
【
図4】本発明の積層された2重層織物で作られ、また、本発明の方法によって作られたダイカット部分の更なる略図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
先の開示から、第1の態様において、特に設計されたまたはターゲットの幾何学的、美的、機械的、及び音響的特性を有し、接着剤スプレー方法及び更なる積層方法によって結合または積層された2つのオーバラップ層を含む合成単糸2層テキスタイル織物構造であって、異なるサイズのデバイスに組込まれる電気音響コンポーネントを保護するための保護要素として電子消費者製品において使用されるための、合成単糸2層テキスタイル織物構造を提供することが明らかになるはずである。
【0050】
上記テキスタイル2層構造は、設計済み音響減衰レベルに厳密に対応する音響減衰レベルを提供しながら、粒子及び流体の侵入に対する所望の保護レベルを提供する。
【0051】
前記構造は、同様にこれらの用途で使用されるピースの典型的なサイズに関連して、非常に均一な機械的、幾何学的、及び機能的特性を有する。前記構造は、更に、非常に良好なその付着特性のせいで、最終または完成済みピースを作るため、また、デバイス内で容易に組立てるため、標準的な処理方法に従って更に処理されてもよい。
【0052】
上記2層または多層テキスタイル構造は、接着剤をスプレーし、次に、合成単糸精密織物を積層することによって堆積させる方法によって作られ、合成単糸精密織物は、19〜500μmの糸径、260〜4の糸/センチメートル密度、35μm〜1mmの糸厚を有するPET、PA、PP、PEEK、PPSで作られてもよい。
【0053】
更に、織物は、5μm〜1mmのメッシュ開口を有してもよく、所望される場合、ディップコーティング、プラズマコーティング、スプレーコーティング、フォームコーティング、ナイフコーティング、ゾルゲル、インクジェットコーティング等のコーティングプロセスによって更にコーティングされ、疎水性の、帯電防止の、親水性の、汚れ放出性の、及び抗菌性の特性を有する織物を提供してもよい。
【0054】
本発明の織物は、同様に、例えば、銀、銅、アルミニウム、鋼、チタン、窒化チタン、クロム、炭化クロム等の薄い材料層による物理的または化学的堆積プロセスによってコーティングされてもよい。
【0055】
好ましくは、本発明の好ましい実施形態において、本発明のテキスタイル2重層構造は、170μmの厚さ、114g/m2の重量、したがって、約10g/m2の接着剤、200Paの圧力降下の下で測定された1330l/m2sの通気量、140レイリー(Rayls)の音響インピーダンス、及び約3.4m/5cmの織物ピース全体に沿う非常に均一な剥離抵抗を有する。
【0056】
更なる態様において、本発明は、同様に、所望の電気/音響コンポーネントを保護するため、最終電子デバイス内に更に一体化または組込まれるよう、テキスタイル構造であって、本発明の方法によって作られ、適した付着材料が両面にある状態で組立てられパッケージされる、テキスタイル構造から始めて保護コンポーネントまたはピースを作るための方法に関する。
【0057】
こうした用途の場合、最終「積重ね(stacking−up)」において、2層織物は、コンポーネントとその外側ケーシングとの間に配置され、必要である場合、ガスケット要素が、幾何学的公差を適切に制御するために適用される。
【0058】
積重ね配置構成内に織物を適切に一体化するため、前記織物は、適した付着材料によって両面で積層され、適した付着材料は、他の作動表面(ガスケット及び/またはコンポーネント及び/またはハウジング)との適切な付着及び音響コンポーネントの前に配置される織物の活性部分を通る空気流を保証する。
【0059】
例えば、円形織物ピースがマイクロフォンの前に配置されるために、付着または接着材料は、円形クラウン形状を有することになり、内径は活性部分の径より大きく、外径は織物部分の外径に等しい。そのため、付着材料円形クラウンによって、織物は、その活性部分において特徴または特性を的確に維持しながら、他の表面に接着されてもよい。
【0060】
最終コンポーネントを作るため、本発明による織物は、その後、後続の処理作業に適する10〜50mmの幅を好ましくは有するリボンになるよう切断される。
【0061】
本発明の好ましい実施形態によれば、適したキャリアまたは支持要素によって支持される、使用される付着テープまたはストリップ(リール形態の)は、巻出され機械に送られ、機械において、平坦または円筒モールドによって、付着及びキャリアロールは、コンポーネント、したがって、織物の活性エリアに応じて予め穿孔される。同様に、更なる付着及びキャリアロールが調製されることになり、織物/多層リボンは、その後、予め調製済み付着ストリップのうちの1つのストリップと積層され、作業ステップであって、完全に整列した状態で2つの付着材料の予め穿孔済みの部分を提供するのに適する、作業ステップによる、適切に調製される他の付着または接着層を用いた他の織物表面の更なる積層を伴う。
【0062】
その後、付着または接着材料の2つのキャリアのうちの1つのキャリアは取除かれ、組立体は、ライナー(通常、マイラーフィルム)によって積層される。
【0063】
その後、こうして形成された積重体は、所望の寸法(特に、付着又は接着円形クラウン及びライナーの所望の構成の外径)に従って切り開かれる。
【0064】
上記開示から、本発明が以下の態様を提供したことが明らかとなるはずである。
1.本発明の第1の態様によれば、多層テキスタイル製品において、多層テキスタイル製品の2層の少なくとも一方の層は、前記層の片面または両面上への接着剤のスプレー堆積及び後続の積層によって処理されている、多層テキスタイル製品であって、異なるサイズのデバイスに組込まれるマイクロフォン、ラウドスピーカ等の電子音響コンポーネントを保護するため、一般に音響または電子製品におけるサブコンポーネントとして使用するためのものであり、本発明による方法によって達成される2つの合成単糸精密織物の積層を備え、前記方法は、スプレー及び積層による堆積またはコーティングであり、それにより、2層の拡散接合、材料分布の最適均一性、及び、層間の最適付着を提供し、使用される単糸織物の開始特性及び前記使用される単糸織物用の特定の結合方法は、コンポーネントの適切な作動について、必要とされる保護及び音響特性を保証するようなものである、多層テキスタイル製品。
【0065】
2.前記態様1による用途のため、ガスケット要素、保護される音響コンポーネント、及び、セルラー電話、タブレット、コンピュータ等の電子デバイスの外側ケーシングとの付着/組立てを可能にしながら、2つのポリマー両面付着テープであって、2つのポリマー両面付着テープの活性部分において織物の発汗を保持するように適切に輪郭付けされる、2つのポリマー両面付着テープを積層される、態様1に記載の多層テキスタイル製品。
【0066】
3.態様1〜2によるコンポーネントを含む完全なまたは完成した機能性副組立体であって、任意選択で、ラウドスピーカまたはマイクロフォン等の音響部材自体を含む、従来よりプラスチック材料から成形されるまたは任意の他の適した方法で作られる、支持体、音響チャネル、または音響チャンバ等の更なるオプションのサブコンポーネントに接合される、完全なまたは完成した機能性副組立体。
【0067】
4.可変の糸数/cm、糸径、織り、仕上げを有する異なる構造のPET、PA6、PA6.6、PP、PEN、PBT、PE、PEEK、PPS、PIの合成単糸技術的織物材料を含むことができる、態様1及び2に記載の製品。
【0068】
5.態様4は、任意の所望の織り及び幾何形状のテキスタイル構造に拡張されることを受け易い。
【0069】
6.態様4は、任意選択で完成した開始織物であって、例えば、装飾的対象物のために着色され、疎水性の、親水性の、帯電防止の、及び抗菌性のコーティングによってコーティングされる、開始織物に拡張されることを更に受け易い。
【0070】
7.態様4は、開始織物であって、アルミニウム、鋼、銅、クロム、チタン、及びその混合物等の、金属、酸化物、炭化物、窒化物の薄層を用いて、物理的または化学的堆積システムによって任意選択でコーティングされる、開始織物に拡張されることを更に受け易い。
【0071】
8.多層構造を作るために使用される接着剤は、水系ポリウレタンであり、前記水系ポリウレタンの架橋は、前記堆積ステップ中にロックまたはシャットオフされる、態様1〜2に記載のテキスタイル製品。
【0072】
9.前記接着剤は、微細な霧状化または霧化を有するスプレー方法によってスプレーされて、織物糸上に接着剤液滴の超微細分散を提供し、それにより、前記開始織物の音響特性を実質的に不変に保持する、態様1〜2に記載のテキスタイル製品。
【0073】
10.態様8/9に従って適切に作られた前記2つの織物層の積層は、加熱式カレンダーを使用することによって達成される、態様1〜2に記載のテキスタイル製品。
【0074】
11.前記織物及び前記織物の活性部分の幾つかの寸法及び幾何形状を有する、態様2に記載のテキスタイル製品。
【0075】
12.異なるテープ寸法、厚さ、パターン、及び化学的特質を有する、態様2に記載のテキスタイル製品。
【0076】
本発明は、本発明の現在のところ好ましい実施形態を参照して開示されたが、開示される実施形態が、全てが本発明の範囲内に入る幾つかの修正及び変形を受け易いことが明らかになるはずである。