(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6872542
(24)【登録日】2021年4月21日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】可変包絡線信号の増幅段の製作方法
(51)【国際特許分類】
H03F 1/02 20060101AFI20210510BHJP
H03F 1/04 20060101ALI20210510BHJP
H03F 3/68 20060101ALI20210510BHJP
H03F 3/58 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
H03F1/02
H03F1/04
H03F3/68 220
H03F3/58
【請求項の数】15
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-522515(P2018-522515)
(86)(22)【出願日】2016年11月3日
(65)【公表番号】特表2018-536349(P2018-536349A)
(43)【公表日】2018年12月6日
(86)【国際出願番号】EP2016076552
(87)【国際公開番号】WO2017076969
(87)【国際公開日】20170511
【審査請求日】2019年7月12日
(31)【優先権主張番号】1560585
(32)【優先日】2015年11月4日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】511174786
【氏名又は名称】セントレ ナショナル デテュッド スパティアレ
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL D‘ETUDES SPATIALES
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スベルカズ−プン, ジョフロワ
(72)【発明者】
【氏名】ラピエール, リュック
【審査官】
渡井 高広
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−094350(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0105150(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0236729(US,A1)
【文献】
特開2011−30265(JP,A)
【文献】
特表2015−511802(JP,A)
【文献】
特開2000−196372(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F 1/02
H03F 1/04
H03F 3/58
H03F 3/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既定の瞬時パワーの統計的分布を有する可変包絡線入力信号のパワー増幅段であって、少なくとも1つの増幅器(32)と、増幅段の平均パワーPOUT(PIN)、位相PM(PIN)および電力消費量PDC(PIN)の伝達関数に影響する値を持つ調整パラメータを決定する整合回路(33、34、35)とを備える増幅段の製作方法において、
前記整合回路は、当該増幅段の前記平均パワーPINを受け、前記増幅器の入力に接続された前記前記上流線形化回路(33)と、前記増幅器の出力に接続され、当該増幅段の前記平均パワーPOUTを出力する出力負荷インピーダンス(34)と、前記増幅器にバイアス電圧を供給するバイアス装置(35)とを備え、
− 増幅器(32)の各々の調整パラメータ、及び平均入力パワーを計算するために、各々の調整パラメータについて、平均入力パワーに応じた増幅器の平均出力パワー及び電力消費量の変化特性を測定して、記録するステップと、
− それぞれの増幅器(32)について、前記平均パワーがすべての点で微分可能な平均パワーの理想変化POUTL(PIN)となるように、前記整合回路(33、34、35)を選択するステップと、
− それぞれの増幅器(32)について、前記入力信号の瞬時パワーの統計的分布と平均パワーの前記理想変化POUTL(PIN)とを用いて計算される前記平均パワーの数学的期待値に基づいて、当該増幅器の最適化基準の値として、各々の調整パラメータの各々の値および平均入力パワーの各々のPIN値を計算するステップと、
− それぞれの増幅器(32)について、前記最適化基準の各々の値から、所定条件を満たす各々の調整パラメータの各々の値を選択し、前記増幅器の対応する平均出力パワーの値を決定するステップと、
− 前記増幅段の平均出力パワーの値が所望する値となるように台数が決定された台数Nの増幅器(32)と、前記調整パラメータの前記最適値をもたらす増幅器(32)ごとの整合回路(33、34、35)とを用いて前記増幅段を製作するステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記最適化基準が、前記増幅器(32)の前記平均出力パワーPOUTk、前記増幅器(32)の前記電力消費量PDCk、前記増幅器(32)による散逸パワー、前記平均出力パワーPOUTkと前記電力消費量PDCkとの比によって決まる前記増幅器(32)の効率のいずれか、またはそれらの組合せの中から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記数学的期待値に基づいて、前記増幅器の最適化基準の値として、前記増幅器(32)の平均出力パワーPOUTkおよび前記増幅器(32)の電力消費量PDCkの中から少なくとも1つの最適化パラメータが計算されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1つの最適化パラメータが前記増幅器(32)の電力消費量PDCkであり、前記方法が、さらに、
− 各々の調整パラメータの各々の値について、平均入力パワーPINに応じた平均パワーPOUTcw(PIN)および電力消費量PDCcw(PIN)の特性変動を測定し、記録するテストベンチを用いて、テストベンチの入力に加えられた定包絡線信号をもとにそれぞれの増幅器(32)の特性評価(11)を行うステップと、
− それぞれの増幅器(32)について、平均入力パワーPINに応じた電力消費量の理想変化PDCL(PIN)を、平均パワーPOUTL(PIN)の前記理想変化および前記特徴的変化から各々の調整パラメータの各々の値について計算するステップと
を含むこと、
および、前記最適化基準の各々の値が、前記入力信号の統計的分布を用いて、平均入力パワーPINに応じて電力消費量の前記理想変化PDCL(PIN)から得られる電力消費量の数学的期待値PDCL(PIN)に応じて決定されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
各々の調整パラメータの各々の値について、前記平均入力パワーPINに応じた前記増幅器(32)の位相ずれPMcw(PIN)の特性変動を測定し、記録するテストベンチを用いて、前記定包絡線入力信号をもとにそれぞれの増幅器(32)の特性評価を行うステップをさらに含むこと、および前記整合回路(33、34、35)が、既定の値、特にゼロである位相ずれが得られるように選択されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
平均パワーPOUTL(PIN)の前記理想変化の形状は、飽和開始の高い値まで、アフィン変換となるように変化する形状であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記入力信号が既定の変調方式による変調を含むことを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記可変包絡線入力信号が通信信号の変調の方式に応じて決まる前記入力信号の瞬時パワーの確率密度を有することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
平均パワーPOUTL(PIN)の前記理想変化の形状が、信号対雑音比および混変調率の中から選択される前記増幅段の性能基準に応じて選択されることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記入力信号がマイクロ波信号であることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1つの増幅器(32)がトランジスタであるとき、前記調整パラメータが少なくとも1つのバイアス電圧および少なくとも1つの負荷インピーダンス特性からなるグループの中から選択されることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1つの増幅器(32)が進行波管であるとき、前記調整パラメータが、ビーム電流、ヘリックス電圧およびコレクタ電圧からなるグループの中から選択されることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記増幅段が既定の平均出力パワーPOUTを発生するとき、それぞれの増幅器(32)について、前記増幅器(32)の平均出力パワーPOUTkの値がそれぞれの調整パラメータの最適値に対して決定されること、および前記増幅段の並列の増幅器の台数Nが次式、
を満たすようにして選択されることを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記増幅段が同一の複数の増幅器(32)を用いて製作されることを特徴とする、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
既定の瞬時パワーの統計的分布を有する可変包絡線入力信号のパワー増幅段であって、少なくとも1つの増幅器(32)と、前記増幅段の平均パワーPOUT(PIN)、位相PM(PIN)および電力消費量PDC(PIN)の伝達関数に影響する値を持つ調整パラメータを決定する整合回路(33、34、35)とを備える増幅段において、
− 前記整合回路は、当該増幅段の前記平均パワーPINを受け、前記増幅器の入力に接続された前記前記上流線形化回路(33)と、前記増幅器の出力に接続され、当該増幅段の前記平均パワーPOUTを出力する出力負荷インピーダンス(34)と、前記増幅器にバイアス電圧を供給するバイアス装置(35)とを備え、
− 増幅器(32)の各々の調整パラメータ、及び平均入力パワーを計算するために、各々の調整パラメータについて、平均入力パワーに応じた増幅器の平均出力パワー及び電力消費量の変化特性を測定して、記録し、
− 前記増幅段が、前記増幅器(32)の前記調整パラメータの最適値をもたらす整合回路(33、34、35)を増幅器(32)ごとに備え、
− 前記入力信号の統計的分布と前記増幅器(32)の平均パワーの少なくとも1つの理想変化POUTL(PIN)を用いて計算される数学的期待値に基づいて、当該増幅器の最適化基準の値を計算し、
− 前記最適化基準の値から、所定条件を満たす各々の調整パラメータの各々の値を決定し、
− 前記増幅段の平均出力パワーの値が所望する値となるように台数が決定された台数Nの増幅器を含む
ことを特徴とする増幅段。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既定の瞬時パワーの統計的分布を有する可変包絡線入力信号のパワー増幅段であって、既定の平均パワーPOUTを発生し、少なくとも1つの増幅器と、増幅段の平均パワーPOUT(PIN)、位相PM(PIN)および電力消費量PDC(PIN)のそれぞれの伝達関数に影響する値を持つ調整パラメータ(たとえば、固体素子回路にあっては
バイアス電圧、負荷インピーダンスの複素数値などから選ばれるもの、または進行波管にあっては、ビーム電流、へリックス電圧、コレクタ電圧などから選ばれるもの)を決定する整合回路とを備える増幅段の製作方法に関する。本発明の範囲はそれによって製造された増幅段に及ぶ。
【背景技術】
【0002】
パワー増幅器の線形性の不良はすでに久しい以前(数十年前)から問題とされており、特にマイクロ波(300MHz〜300GHz)の分野では、電気通信および/または中継放送(衛星もしくは地上)および/または地球の周りの軌道を回る人工衛星との機上/地上間通信などで問題となっている。実際、これらの用途では、またそれ以外でも、パワー収支およびスペクトル効率の最適化のため、ハイパワー増幅器(HPA)がその動作域全体にわたって、すなわち飽和ゾーンに至るまで利用されることになる。
【0003】
この問題に対処するものとして、事後歪み法と称する方法、不完全な増幅段の後にモデル化された回路が続く等化法と称する方法、事前歪み法など、以下のいずれかによる幾つかの線形化の方法がこれまでに知られている。
− 反転可能な解析モデル(たとえばメモリ付きまたはメモリなしの多項式モデル、Volterra級数など)、またはデジタルモデル(伝達関数をモデル化する係数表、ニューロンネットワークなど)、または特定のモデル(Hammerstein、Wienner、Hammerstein−Wienner、平行Wiennerなど)などによって不完全回路をモデル化し、その反転モデルに適合した応答を発生する事前歪み回路を不完全回路の入力に導入する。
− 入力信号の変化に応じた出力信号の変化を観察して逐次反復を行うことによって経験的に調節が行われる(平均パワーや位相などの)伝達特性を有するパラメータ調整可能な事前歪み回路を直列に追加する。
【0004】
第1の線形化の方法群は、非線形回路に適用できるモデルの反転機能がない場合など、常に利用可能なものとは言えない。さらに、増幅器の場合、HPAのパワー特性のモデル化の反転機能は、その勾配が無限に向かうことから飽和の近傍に特異点を持つ。また、第1の方法群は、多くの場合、きわめて複雑で実施が困難であり、かつ/または特定の種類の非線形回路もしくはきわめて特殊な用途専用であり、かつ/または性格的に精度の低い(すなわちモデル化によって得られる近似を考えると十分な質の結果をもたらすことができない)ものとなる。これらの方法に必要とされるリソースは情報工学的にもエネルギー的にもきわめて重く、必ずしも利用可能なもの(たとえば宇宙空間システムに搭載されるものとして)ではない。また、モデルによっては、進行波管式増幅器のみに適用可能であり、固体素子回路には適用できないものもある。
【0005】
第2の線形化の方法群は、最適化のための膨大なコストを生じる上に、非線形回路の出力における適切な応答の経験的取得を実際に可能にするパラメータ調整可能な事前歪み回路の各種特性の調整を逐次反復によって得ることができるか事前に確定することができず、やはり不完全なものでもある。
【0006】
一方、これらの線形化の方法のうちの幾つかについては、フィードバックループを利用することなどによって事前歪みの特性をリアルタイムで動的に適合化または最適化できるようにすることなど、最適化のための数々の提案がなされている。しかし、その場合でも、その最適化は、きわめて特殊な回路および/または用途という背景のもとでのみ利用可能なものであり、その実施は実際には複雑である。
【0007】
そうしたものの1つ、特許文献1には、入力信号の包絡線電圧から引き出された信号に応じて
バイアス電圧および電源電圧が瞬時に変調される増幅システムの制御方法が記載されている。この回路には包絡線検出器と、増幅段に加えられる電源電圧および
バイアス電圧を発生する電圧選択段とが必要である。非線形マッピング要素は、たとえば3次多項式展開に基づいて、かつ/または装置の特性評価によって作成された数値表によるなどして、入力信号の包絡線に応じて電源電圧および
バイアス電圧の値を規定することができる。
【0008】
特許文献2も、入力信号の包絡線の検出によって増幅段をリアルタイムで動的に最適化することができる方法および装置について説明している。この場合も、回路は包絡線の検出システムを内蔵したものである必要がある(「包絡線トラッキング」(ET))。
【0009】
そのため、既知の線形化の方法は重く、高価で、汎用性がない上に、特定の回路または用途に限定され、原理的に常に不完全なものであり、精度も不十分であることが多い。そのため、この線形性の問題は久しい以前から存在しているにもかかわらず、単純で経済的、かつ汎用性があって、着想からして完璧に効果的な解決策として満足できるものは今に至るまでもたらされていない。
【0010】
線形化の方法とは別に、マイクロ波通信信号のような可変包絡線信号のパワー増幅段の製作に関して生じる問題は、整合回路の調整を最適化して、できる限り線形の応答が得られるように、それと同時に平均出力パワーおよび/または効率および/または電力消費量および/または散逸パワーのような最適化基準の最適値が得られるようにすることにある。これらの制約は実際問題として相反関係にある。すなわち、高い線形性は、飽和手前で踏み止まるための低めの出力パワーと引き換えでしか保証されるものではなく、飽和に至るまで回路を最適に利用することは増幅後の信号の線形性を損なうことになるためである。その結果、十分な出力パワーを得るために、設備の重量および/または外形寸法および/またはコストの増大という代価を払いながらも必要とされる構成要素を増やしていかざるを得ない。
【0011】
たとえば、トランジスタ(固体素子電子回路)によって構成される増幅器の場合、この最適化は各トランジスタの負荷インピーダンスと
バイアス特性を特定することにあるが、この2つのパラメータはそれぞれ一般に2つの変数を有する(電界効果トランジスタ(FET)の場合はグリッド電圧およびドレイン電圧、負荷インピーダンスの実数部と虚数部)。これに関して、非特許文献1では、パワー増幅器の最適化のために理論的に有利に利用することが可能な様々な基準について言及されている。
【0012】
整合回路の調整を決めるためのものとして、多少なりとも複雑な各種の解決法が以前から開発されてきた。トランジスタの場合、伝統的な手法は、
バイアスの値を選び、テストベンチ(英語で「ロードプル」と呼ばれるもの)によって、所望の周波数の定包絡線正弦波信号を用いて平均パワー、位相および電力消費量の特性を引き出しながらスミスチャートのインピーダンス全体を調べて飽和パワーにおける最大電気効率を得るというものである。次いで、用途に応じた(すなわち波形に応じた)混変調に対する有効信号の所与の比について、パワーおよび効率に関して到達しうる性能を包絡線可変の入力実信号の特性から導き出す。すると、振幅、位相および電力消費量に関する線形性の不良が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許出願公開第2012/0105150号
【特許文献2】米国特許出願公開第2015/0236729号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】公刊物「パワー増幅器の最適化基準(Optimization criteria for power amplifiers)」、J. Sombrin、International Journal of Microwave and Wireless Technologies、Vol.3、Issue 1、35〜45ページ、2011
【非特許文献2】公刊物「シリコン技術によるナノ回路のミリ波周波数のパワーの特性評価」、M.de Matos、E. Kerherve、H.Lapuyade、J−B.Begueret、Y.Deval、第10回CNFM教育デイズ(CNFM2008)、2008年11月、サン=マロ(フランス)、111〜116ページ
【非特許文献3】C.W.Park他「An Independently Controllable AM/AM and AM/PM Predistortion Linearizer for CDMA 2000 Multi−Carrier Applications」、IEEE2001
【非特許文献4】O.Hammi、S.Boumaiza、F.M.Ghannouchi、「On the Robustness of Digital Predistortion Function Synthesis and Average Power Tracking for Highly Nonlinear Power Amplifiers」、IEEE transactions on microwave theory and techniques、vol.55、No.6、2007年6月;Nagata Y.、「linear amplification technique for digital mobile communications」、39th IEEE vehicular technology conference、1989年5月、159〜164ページ;Faulkner M.、Mattson T.、Yates W.、「adaptive linearization using predistortion」、40th of the IEEE vehicular technology conference、1990年5月、35〜40ページ
【発明の概要】
【0015】
本発明は、増幅段の調整パラメータのよりよい最適化を、より迅速に、より単純に、より系統的に行うことができる方法であって、多様な増幅器技術および多様な入力信号、とりわけ通信信号とともに、より具体的にはマイクロ(300MHz〜300GHz)の分野で、適用可能な方法を提案することによってそれらの不都合に対処することを目的とする。
【0016】
本発明はまた、従来からの設備および装置とともに簡単に実施することができ、作業習慣を変更することのないそうした方法を提案することも目的とする。
【0017】
本明細書全体において、「可変包絡線信号」とは、信号の最小周波数に当たる既定の周波数で時間とともに変化する振幅を有するすべての信号をいう。
【0018】
そのため、本発明は、既定の瞬時パワーの統計的分布を有する可変包絡線入力信号のパワー増幅段であって、少なくとも1つの増幅器と、増幅段の平均パワーPOUT(PIN)、位相PM(PIN)および電力消費量PDC(PIN)の伝達関数に影響する値を持つ調整パラメータを決定する整合回路とを備える増幅段の製作方法において、
− それぞれの増幅器について、すべての点で微分可能な平均パワーの理想変化POUT
L(PIN)の形状であって、整合回路を適切に選ぶことによって得られる変化の形状を選択するステップと、
− それぞれの増幅器について、最適化基準の値を、入力信号の統計的分布を用いて、少なくとも1つの最適化パラメータの数学的期待値に応じて少なくとも平均パワーの前記理想変化POUT
L(PIN)から、各々の調整パラメータの各々の値および平均入力パワーの各々のPIN値について計算するステップと、
− それぞれの増幅器について、最適化基準の各々の値から増幅器の最適化基準の最適化をなす各々の調整パラメータの最適値を選択し、増幅器の対応する平均出力パワーの値を決定するステップと、
− 増幅段によって与えられるべき平均出力パワーの値に応じて決定される台数Nの並列の増幅器と、調整パラメータの前記最適値をもたらす増幅器ごとの整合回路とを用いて増幅段を製作するステップと
を含むことを特徴とする方法に関する。
【0019】
このように、本発明による方法における可変包絡線入力信号の瞬時パワーの統計的分布を利用することで、最適化基準の値を計算し、その最適化基準の最適化をなす調整パラメータを選ぶことが可能となり、その一方で、平均パワーの理想変化の形状の選択の自由度を維持し、その選択は、たとえば信号対雑音比および/または混変調率の所定の値など、増幅段の少なくとも1つの性能基準に応じた形などで行うことができる。
【0020】
そのため、本発明は、現行技術のアプローチとは全く異なり、可変包絡線入力信号の既定の瞬時パワーの統計的分布を利用してその分布に対して直接最適化した整合回路を製作するというアプローチに基づく。整合回路は調整パラメータの前記最適値がもたらされるように製作されるため、本発明によってそうして製作される増幅段は入力信号の包絡線検出器も、電源電圧または
バイアス電圧の動的なリアルタイム調節を可能にする回路も必要としない。
【0021】
とりわけ、本発明に基づく特定の実施形態では、最適化基準は、増幅器の平均出力パワーPOUTk(ここでkは本明細書全体を通して必要な場合に増幅段の各増幅器kと関連づける添字である)、増幅器の電力消費量PDCk、増幅器による散逸パワーDISSk、平均出力パワーPOUTkと電力消費量PDCkとの比によって決まる増幅器の効率のいずれか、またはそれらの組合せの中から選択される。それぞれの調整パラメータの最適値は、平均出力パワーPOUTkが最大化されるように、または電力消費量PDCkが最小化されるように、または散逸パワーDISSkが最小化されるように、または効率が最大化されるように選択される。
【0022】
また、本発明による幾つかの有利な実施形態では、増幅器の平均出力パワーPOUTkおよび増幅器の電力消費量PDCkの中から少なくとも1つの最適化パラメータが選択され、最適化基準の各々の値は、入力信号の統計的分布を用いて、その最適化パラメータの数学的期待値に応じて少なくとも平均パワーの前記理想変化POUT
L(PIN)から計算される。最適化基準として平均出力パワーPOUTkを選択する場合は、最適化パラメータとしてその平均出力パワーのみを利用し、平均パワーの理想変化POUT
L(PIN)による平均出力パワーの数学的期待値のみを入力信号の統計的分布を用いて計算することができる。最適化基準として電力消費量PDCkを選択する場合は、最適化パラメータとして電力消費量のみを利用し、平均パワーの理想変化POUT
L(PIN)からその理想変化PDC
L(PIN)を決定することができる電力消費量PDCkの数学的期待値のみを計算することができる。最適化基準として散逸パワーを選択する場合は、最適化パラメータとして平均出力パワーPOUTkと電力消費量PDCkを同時に利用し、その数学的期待値の差を計算する。最適化基準として効率を選択する場合は、最適化パラメータとして平均出力パワーPOUTkと電力消費量PDCkを同時に利用し、その数学的期待値の比を計算する。
【0023】
とりわけ、幾つかの実施形態では、本発明による方法は、少なくとも1つの最適化パラメータが増幅器の電力消費量PDCkであること、さらに、
− 各々の調整パラメータの各々の値について、平均入力パワーPINに応じた平均パワーPOUTcw(PIN)および電力消費量PDCcw(PIN)の特徴的変化を測定し、記録するテストベンチを用いて、テストベンチの入力に加えられた定包絡線信号をもとにそれぞれの増幅器の特性評価を行うステップと、
− それぞれの増幅器について、平均入力パワーPINに応じた電力消費量の理想変化PDC
L(PIN)を、平均パワーの前記理想変化POUT
L(PIN)および前記特徴的変化から各々の調整パラメータの各々の値について計算するステップと
を含むこと、
および、最適化基準の各々の値が、入力信号の統計的分布を用いて、平均入力パワーPINに応じて電力消費量の前記理想変化PDC
L(PIN)から得られる電力消費量の数学的期待値PDC
L(PIN)に応じて決定されることを特徴とする。
【0024】
さらには、幾つかの実施形態では、本発明は、各々の調整パラメータの各々の値について、平均入力パワーPINに応じた増幅器の位相ずれPMcw(PIN)の特徴的変化を測定し、記録するテストベンチを用いて、定包絡線入力信号をもとにそれぞれの増幅器の特性評価を行うステップを含み、整合回路は既定の値、特にゼロである位相ずれが得られるように選択される。
【0025】
また、本発明による幾つかの実施形態では、平均パワーの前記理想変化POUT
L(PIN)の形状は飽和開始の高い値までのアフィン − 特に線形の − 変化である。とりわけ、飽和点において、15dB前後というような既定の信号対雑音比や、既定の混変調率など、既定の性能を示す線形の変化を選ぶことが有利である。この既定の性能は、どのような調整パラメータの値であっても常に同じであることに留意する必要がある。また、飽和点を含め、すべての点において微分可能となるような曲率を飽和開始部に持つ線形の変化を選ぶことが有利である。
【0026】
平均出力パワーの理想変化についてはそれ以外の形状を選ぶことも可能である。とりわけ、その理想変化の形状が飽和開始直前のパワーのアフィン変化以上の増大を示すことを想定することが可能である。それには、その理想変化の形状がすべての点で微分可能であり、適当な電子回路によって得られるものであれば十分である。平均出力パワーおよび/または位相ずれについてその理想変化を得ることを可能にする整合回路の選択および構成は、フランス国特許出願公開第1453773号などで別途知られるあらゆる方法に基づいて行うことができる。
【0027】
一方、本発明は、既定の瞬時パワーの統計的分布を有するあらゆる可変包絡線入力信号に適用されるものではあるが、より詳細には、有利には、既定の変調方式による変調を伴った入力信号 − 特に通信信号 − であって、1つ(または複数)の搬送波が含まれる入力信号に適用される。この用途では、有利には、かつ本発明によれば、可変包絡線入力信号は、通信信号の変調方式に応じて決まる入力信号の瞬時パワーの確率密度を有する。実際、すべての変調信号はその変調方式に特徴的な瞬時パワーの確率密度を持つことがわかる。それでも、本発明は、より一般的に可変包絡線入力信号であって、瞬時パワーの確率密度を決定することができ、その信号について平均パワーの数学的期待値を計算することができる瞬時パワーの統計的分布を有するあらゆる可変包絡線入力信号に適用される。これに関して、発明者は、増幅後の出力信号の平均パワーの理想変化POUT
L(PIN)から最適化パラメータの数学的期待値を計算するために入力信号の統計的分布を利用できること、さらに図らずも、その数学的期待値は実際のところ、増幅器の最適化基準を簡易でありながら非常に精度よく評価するためのものとしてきわめて適切であることを立証した。
【0028】
また、本発明による幾つかの有利な実施形態では、平均パワーの前記理想変化POUT
L(PIN)の形状は、信号対雑音比および混変調率の中から選択される増幅段の性能基準に応じて選択される。変形形態ではそれ以外の性能基準を用いることができる。
【0029】
本発明は、より詳細には(ただし排他的ではなく)、有利には、マイクロ波入力信号、とりわけマイクロ波の領域(300MHz〜300GHz)で、またはその領域の外で選択することができる周波数帯の搬送波周波数を持つ1つ(または複数)の搬送波を備える変調入力信号にも適用される。
【0030】
一方、本発明による幾つかの有利な実施形態では、少なくとも1つの増幅器がトランジスタであるとき、前記調整パラメータが少なくとも1つの
バイアス電圧および少なくとも1つの負荷インピーダンス特性からなるグループの中から選択される。電界効果トランジスタによって構成される増幅器の場合、調整パラメータはグリッド電圧、ドレイン電圧、負荷インピーダンスの実数部および負荷インピーダンスの虚数部(または力率φ)である。
【0031】
変形形態または組合せ形態では、有利には、本発明によれば、少なくとも1つの増幅器が進行波管であるとき、前記調整パラメータは、ビーム電流、ヘリックス電圧およびコレクタ電圧からなるグループの中から選択される。
【0032】
また、それぞれの増幅器の調整パラメータが最適化基準に従って決定された後は、増幅段は1つ(または複数の)増幅器を並列につないで製作することができる。複数の増幅器を並列に接続する場合は、複数の同じ増幅器を使用するのが有利である。ただし、それとは逆に、必要に応じて異なる増幅器を使用することを妨げるものではない。
【0033】
有利には、本発明による幾つかの実施形態では、増幅段が既定の平均出力パワーPOUTを発生するとき、それぞれの増幅器について、増幅器の平均出力パワーPOUTの値はそれぞれの調整パラメータの最適値に対して決定され、並列に接続された増幅段の増幅器の台数Nは次式、
を満たすようにして選択される。
【0034】
それぞれの増幅器の平均出力パワーPOUTkは、有利には、前述のようにして計算されるそれぞれの増幅器の平均出力パワーの数学的期待値から計算される。
【0035】
本発明は、本発明による製作方法によって得られる増幅段に及ぶ。そのため、本発明は、既定の瞬時パワーの統計的分布を有する可変包絡線入力信号のパワー増幅段であって、少なくとも1つの増幅器と、増幅段の平均パワーPOUT(PIN)、位相PM(PIN)および電力消費量PDC(PIN)の伝達関数に影響する値を持つ調整パラメータを決定する整合回路とを備える増幅段において、
− 増幅段が増幅器の調整パラメータの最適値をもたらす整合回路を増幅器ごとに備え、
− その最適値が、各々の調整パラメータの各々の値について、増幅器の最適化基準の最適化をなすものとなるように計算された最適化基準の値から決定され、
− 最適化基準の値が、入力信号の統計的分布を用いて、少なくとも1つの最適化パラメータの数学的期待値に応じて増幅器の平均パワーの少なくとも1つの理想変化POUT
L(PIN)から計算され、
− 増幅段が、増幅段によって与えられるべき平均出力パワーの値に応じて決定される台数Nの並列接続の増幅器を含むことを特徴とする増幅段にも関する。
【0036】
本発明による増幅段はとりわけ、入力信号の包絡線検出器や、増幅器の
バイアス電圧および電源電圧の動的調節を可能にするあらゆる回路をなしですませることができる。
【0037】
本発明は、可変包絡線入力信号のパワー増幅段の製作方法、および前述または後述の特徴の全体または一部を組み合わせたものを特徴とするそのような増幅段にも関する。
【0038】
本発明のその他の目的、特徴および利点は、本発明による方法の非限定的な実施例について添付の図面を参照しながら行う以下の説明を読むことによって明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本発明の1つの実施形態による方法の主なステップの論理図である。
【
図2】増幅器の平均入力パワーPINに応じた平均出力パワーPOUTの変化を示した概略図である。
【
図3】本発明による方法を実施するための増幅器に付随する線形化整合回路を示した図である。
【
図4a-4c】それぞれ7APSK、16APSK、16QAMである3つの変調方式による信号の静的分布の例(振幅値発生数のヒストグラム)を示した図である。
【
図5】本発明による方法によって製作された本発明による増幅段を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1に示した増幅段の製作方法は、増幅段の各増幅器12の特性評価の第1のステップ11を含む。このステップ11では、たとえば非特許文献2に記されているもののような、英語で「ロードプル」と呼ばれるタイプのテストベンチ(図示せず)に電界効果トランジスタからなる増幅器32を据え付ける。ドレイン
バイアス電圧Vdおよびグリッド
バイアス電圧Vgならびに負荷インピーダンスZの実数部およびその力率φの値を変化させる。このテストベンチを用いて、それら各々の調整パラメータVd、Vg、Z、φの各々の値について、定包絡線入力信号Scwの平均パワーPINに応じた増幅器の平均出力パワーPOUTcw(PIN)および電力消費量PDCcw(PIN)の変化特性を測定し、記録する。
【0041】
定包絡線入力信号に対する増幅器の平均パワーPOUTcw(PIN)の変化の一例を
図2に破線の曲線によって示す。実際には、この変化は、平均入力パワーPINの値の欄と、平均出力パワーPOUTcwの測定値の欄と、電力消費量PDCcwの測定値の欄とを含む表の形で記録することができる。
【0042】
また、この特性評価のステップ11では、各々の調整パラメータの各々の値について、定包絡線入力信号をもとに増幅器の位相ずれPMcw(PIN)の平均入力パワーPINに応じた
特性変動をテストベンチで測定し、その同じ表に同様に記録する。
【0043】
しかし、増幅器が可変包絡線入力信号で使用されるものであるときに、定包絡線入力信号で行った測定をもとに増幅器の調整を最適化することはできない。
【0044】
続くステップ12では、増幅器32の上流側に配置された線形化回路33であって、すべての点で微分可能な平均出力パワーの理想変化POUT
L(PIN)の形状をもたらすことができる線形化回路33を選択する。
図2の例では、この理想変化POUT
Lは、増幅器の平均出力パワーの飽和最大値POUTmaxまでの第1の線形(実際にはアフィン)部分と、線形部分と飽和部分の間のすべての点で微分可能な曲線遷移部とを含む変化である。これ以外の例も可能であり、増幅器の平均出力パワーの理想変化の様々な形状を得ることが可能な幾つもの整合回路が存在する。
【0045】
とりわけ、最大飽和パワーでの信号対雑音比や混変調率の値など、増幅器に対して当てはめようとする性能基準であって、前記理想変化で満たされることがわかっている性能基準に応じて平均出力パワーの理想変化を得ることができるこの線形化回路33が選択される。そのため、
図2に示した例では、線形化回路33を適切に選択することによって、たとえば15dBである飽和パワーでの信号対雑音比の値を得られることなどがわかる。そこで、この線形化回路33を採用することにより、その性能基準に適合した出力信号が増幅器32によって与えられるようにする。また、線形化回路33は、増幅後の出力信号に、好ましくはゼロである所定の値の位相ずれが得られるように選択される。
【0046】
そのような線形化回路33を選択するための方法はフランス国特許出願公開第1453773号に記載されている。これに関しては、線形化のための既知のそれ以外の幾多の変形を利用することができる。マイクロ波信号の場合、選択した変化形状を得ることができる電子回路の特性は、特に非特許文献3に記載されているものなどによって決定することができる。それよりも低い周波数では、その特性は、等価換算表のような数値システムによって決定することができる(非特許文献4)。
【0047】
変形として、入力信号について予想される周波数域および平均パワーに対応できるLintech社(米国)のWAFLシリーズのリニアライザのようなパラメータ調整可能なリニアライザ回路であって、それによって作り出される平均パワーおよび位相ずれの伝達関数の変化(すなわち「波形」)がそのパラメータ調整可能なリニアライザ回路の調整可能なパラメータのそれぞれの値についてあらかじめ定まり、既知であるパラメータ調整可能なリニアライザ回路を使用することもできる。リニアライザ回路のパラメータセットは、そのリニアライザ回路によって作り出される平均パワーおよび位相ずれの伝達関数が所望の理想変化にできるだけ正確に相当するものとなるように選択される。そのため、リニアライザ回路の調整可能なパラメータセットの選択は、すべての点で微分可能な平均パワーの理想変化POUT
L(PIN)の選択を可能にするものである。実際には、平均出力パワーのこの理想変化POUT
L(PIN)は、前述の表におけるその理想変化による平均出力パワーの値POUT
Lの追加の欄によって表される。
【0048】
平均パワーの理想変化POUT
L(PIN)が選択されれば、最適化パラメータとして電力消費量を選んだ場合、各々の調整パラメータVg、Vd、Z、φの各々の値について、平均入力パワーPINに応じた電力消費量の理想変化PDC
L(PIN)を、平均パワーの前記理想変化POUT
L(PIN)ならびに前記測定された変化POUTcw(PIN)およびPDCcw(PIN)から再計算することができる。実際、上述の表では、定包絡線信号について測定された電力消費量の値PDCcwが、定包絡線信号について測定された出力パワーの値POUTcwと関連づけられる。
たとえば、上述の表は以下のとおりである。
【0049】
i行のPDC
L(i)を計算するには、たとえば次の線形補間式を用いる。
PDC
L(i)=POUT
L(i)×[POUTcw(j)−POUTcw(j−1)]/[PDCcw(i)−PDCcw(j−1)]
ここで、jは、
POUTcw(j)≧POUT
L(i)≧POUTcw(j−1)
を満たすものとして選ばれる行である。
【0050】
これ以外の補間形態を選ぶこともできる。
【0051】
測定された値および理想変化を表す値が十分な数あれば、
図2に示すように次式、
POUTcw(PIN(j))=POUT
L(PIN(i))
が成り立つ値jが存在し、
PDC
L(PIN(i))=PDCcw(PIN(j))
とすることができる。
【0052】
次いで(
図1のステップ13)、特に変調方式によるなどして既定の増幅対象の可変包絡線入力信号の瞬時パワーの統計的分布を使って、ステップ14における最適化基準を計算する。
【0053】
実際、通信信号のように1つ(または複数)の搬送波で変調された信号は、変調方式にのみ依存した瞬時パワーの統計的分布を有することがわかる。
図4aは7APSK(7シンボル振幅位相偏移変調)による変調信号の振幅値の発生数のヒストグラムの形状を示したものである。
図4bは16APSK(16シンボル振幅位相偏移変調)による変調信号の振幅値の発生数のヒストグラムの形状を示したものである。
図4cは16QAM(16シンボル直交振幅変調)による変調信号の振幅値の発生数のヒストグラムの形状を示したものである。変調方式がわかれば、またはより一般的に信号の瞬時パワーの統計的分布がわかれば、信号Seの瞬時パワーPiの各々の値に応じた信号Seの平均パワーの確率密度D
Se(Pi)がわかる。実際には、この統計的分布は、そこから数値計算を行う離散的数値の表の形、または解析関数の形、または確率密度の多項式近似など、解析近似の形をなすものであることができる。そこで、そのような信号Seの平均パワーの数学的期待値を(離散的な値に対する数値計算か、または解析関数で)計算することができる。
【0054】
本発明によれば、増幅対象の可変包絡線入力信号Seの瞬時パワーPiの各々の値に応じたその増幅対象の可変包絡線信号Seの平均パワーの確率密度D
Se(Pi)を用いて、ステップ14で、平均パワーの前記少なくとも1つの理想変化POUT
L(PIN)をもとに、増幅後の出力信号の平均パワーと関連づけられた少なくとも1つの最適化パラメータの数学的期待値を計算する。有利には、少なくとも1つのこうした最適化パラメータは増幅器の平均出力パワーPOUTkと増幅器の電力消費量PDCkの中から選択される。
【0055】
それぞれの最適化パラメータの選択は採用しようとする増幅器の最適化基準に依存し、その最適化基準自体は製作する増幅段の用途に依存する。
【0056】
たとえば、特に宇宙用途の場合、好ましくは平均出力パワーPOUTkと電力消費量PDCkとの比によって決まる電気的効率が最適化基準として使用される。その場合、増幅器の平均出力パワーPOUTkと電力消費量PDCkが最適化パラメータとして使用される。ステップ14では、各々の調整パラメータVd、Vg、Z、φの各々の値について、それら最適化パラメータの数学的期待値が以下の各式に基づいて計算される。
【0058】
実際には、これらの式は、D
Se(Pi)および
を与える値の表にスプレッドシートを使って統計式を適用することによって実行される。変形として、少なくとも解析部については確率密度D
Se(Pi)の解析関数(または解析近似)および
の多項式近似などの解析近似から計算を行うことができる。
【0059】
変形として、効率以外の最適化基準を用いることができる。たとえば、最適化基準として平均出力パワーPOUTkの値のみを用いることができ、その場合には、ステップ14では平均出力パワーの数学的期待値、
のみを計算する。最適化基準として電力消費量PDCkのみを用いる場合は、ステップ14では電力消費量の数学的期待値、
のみを計算する。最適化基準として散逸パワーDISSkのみを用いる場合は、ステップ14では散逸パワーの数学的期待値、
のみを計算する。
【0060】
それぞれの数学的期待値は対応する最適化パラメータの理想変化から、すなわち、少なくとも平均パワーPOUTL(PIN)の理想変化から計算されることに留意する必要がある。このように整合回路33、34および35によって補正される増幅器32を用いることにより、実際にそうした理想変化を使用して最適化基準の計算に使用するための各々の数学的期待値を計算することができ、しかも、増幅器がその理想変化について以前に行われた選択に関連した既定の性能基準を満たすことが保証されるようにすることができる。たとえば、上に示したような線形化された理想変化を用いることにより、増幅器がその平均出力パワーのすべての値で既定の信号対雑音比または混変調率をもたらすことが保証される。
【0061】
ステップ14の後、各々の調整パラメータVd、Vg、Z、φの各々の値について行われた最適化基準のそれぞれの計算結果が表に記録される。
【0062】
続くステップ15では、調整パラメータVd、Vg、Z、φの値の最適な組合せが最適化基準の算出値の表から決定され、増幅器のその最適化基準が最適化される。そのため、たとえば、効率ηについて最大の数値η
maxをもたらすか、または平均出力パワーPOUTkについて最大の数値Max[POUTk]をもたらすか、または電力消費量PDCkについて最小の数値Min[PDCk]をもたらす最適な組合せを表で決定する。
【0063】
増幅器の各種調整パラメータおよび性能基準を考慮に入れながら、その最適化基準がどのようなものであるか、または増幅器の技術およびそれに対応する調整パラメータがどのようなものであるかにかかわらず、増幅器の調整の正確かつ完全な最適化を簡易に得ることができる。
【0064】
このように、調整パラメータは典型的には電圧VA
0、ヘリックス電圧Vhおよびコレクタ電圧Vc1、2、3、4によって決定づけられるビーム電流Ikであることから、増幅器の調整パラメータの値のこうした最適な組合せは、電界効果トランジスタ(固体素子回路)からなる増幅器ばかりでなく、進行波管であっても、本発明による方法に従って決定することができる。実際、ステップ11から15はこれらの調整パラメータで実施することができる。
【0065】
同様に、要求される性能基準に応じて、
図2に示したもの以外のあらゆる理想変化の形状を選ぶことを妨げるものは何もない。たとえば、理想変化の線形化された区間の頂点部分に、飽和近傍でその線形化された変化よりも大きくなるように平均出力パワーを増大させる超過パワー帯を設けることが可能である。その上で、電子整合回路によって実現できる理想変化であると同時に、物理的な現実に対応した変化、すなわち不連続がなく、すべての点において微分可能である変化を選ぶようにすべきである。
【0066】
各増幅器kの調整パラメータの最適な組合せが決まれば、その最適な組合せに対応する増幅器の平均出力パワーの値
がわかり、ステップ16で、
図5に示すように必要に応じて複数の増幅器A1、A2、...Ak、...、ANを並列に接続することで増幅段の平均出力パワーPOUTが得られるようにするために増幅段で使用すべき増幅器A1、A2、...Ak、...、ANの台数Nが決まる。
【0067】
並列に接続される増幅器A1、A2、...Ak、...、ANの台数Nは次式のように決定される。
【0068】
増幅段を製作するために並列に接続した複数の増幅器が使用される場合は、そのすべての増幅器が同一であることが好ましい。しかし、相異なる増幅器を使用することが妨げられるものではなく、ただし、その場合には、それぞれの増幅器について調整パラメータの最適化ステップを繰り返す必要がある。
【0069】
このように、本発明による方法では、平均出力パワーPOUT、少なくとも1つの性能基準(信号対雑音比および/または混変調率など)ならびに瞬時パワーの統計的分布が与えられることで、それぞれの増幅器kの調整パラメータの最適な組合せ、それぞれの増幅器に対応する平均出力パワーの値
および増幅段の平均出力パワーPOUTを得るために用いるべき増幅器の台数Nが決定される。ただし、これに関しては、入力信号の平均パワーは与件としての制約ではなく、それぞれの増幅器の調整パラメータの最適な組合せおよび対応する平均出力パワーPOUTkに対応するものとして決定されるものであることに留意する必要がある。
【0070】
図3に示すように、増幅器として電界効果トランジスタを使用するときは、増幅段は、それぞれの増幅器32について、(増幅器の平均出力パワーの理想変化を得ることを特に可能にする)上流側線形化回路33と、出力負荷インピーダンス34と、トランジスタ32の
バイアス電圧Vg、Vdを供給する
バイアス装置35とを備える。線形化回路33、出力負荷インピーダンス34および分極装置35は増幅段の整合回路である。これらの整合回路33、34、35は、調整パラメータの最適値に対応する特性であって、特に入力信号の特性に動的に依存することのない固定的な特性を有する。増幅段がそうした同一の増幅器32を複数台備える場合には、当然のことながら、各増幅器32に共通の単一にして同じ線形化回路33を、すべての増幅器32について負荷インピーダンス34を構成する単一にして同じ出力回路を、そして並列の各トランジスタに各
バイアス電圧を供給する単一にして同じ
バイアス回路35を使用することができる。
【0071】
本発明による方法では、それぞれの増幅器の調整パラメータの最適化の方が、場合によって並列で使用される増幅器の台数よりも、さらには平均出力パワーの値または平均入力パワーの値よりも優先される。実際のところ、発明者は、これに関して広く認められている原則で、搭載するパワー増幅器の数は最小限に抑えるのが良いとされる原則とは逆に、こうした最適化は、複数の並列の増幅器を使用することによって場合によって生じる費用増および/または重量増を大方埋め合わせる形での性能の利得を実際上可能にするものであり、そこにはシステムが搭載される用途、とりわけ宇宙システムが含まれることが明らかであることを実証することができた。
【0072】
本発明は、可変包絡線信号、とりわけ通信信号、特に変調信号のパワー増幅段の最適な調整パラメータを決定する方法であって、特にシンプルかつロバストで、信頼性の高い汎用性のある方法を提供する。本発明は、上に説明し、図示したもの以外の多数の変形および応用の対象となりうるものであることは言うまでもない。