特許第6872559号(P6872559)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6872559配列可変の水素化脱金属保護床、配列可変反応器における固定床水素化処理工程および水素化分解工程を含む転化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6872559
(24)【登録日】2021年4月21日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】配列可変の水素化脱金属保護床、配列可変反応器における固定床水素化処理工程および水素化分解工程を含む転化方法
(51)【国際特許分類】
   C10G 69/02 20060101AFI20210510BHJP
   C10G 45/02 20060101ALI20210510BHJP
   C10G 47/00 20060101ALI20210510BHJP
   C10G 47/12 20060101ALI20210510BHJP
   C10G 45/06 20060101ALI20210510BHJP
   C10G 45/08 20060101ALI20210510BHJP
   B01J 38/00 20060101ALN20210510BHJP
【FI】
   C10G69/02
   C10G45/02
   C10G47/00
   C10G47/12
   C10G45/06 Z
   C10G45/08 Z
   !B01J38/00 Z
【請求項の数】15
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2018-555461(P2018-555461)
(86)(22)【出願日】2017年4月11日
(65)【公表番号】特表2019-518818(P2019-518818A)
(43)【公表日】2019年7月4日
(86)【国際出願番号】EP2017058686
(87)【国際公開番号】WO2017186484
(87)【国際公開日】20171102
【審査請求日】2020年4月6日
(31)【優先権主張番号】1653751
(32)【優先日】2016年4月27日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】591007826
【氏名又は名称】イエフペ エネルジ ヌヴェル
【氏名又は名称原語表記】IFP ENERGIES NOUVELLES
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100060874
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(72)【発明者】
【氏名】ヴェイス ウィルフリード
(72)【発明者】
【氏名】テリエ エロディ
(72)【発明者】
【氏名】シャトロン−ミショー パスカル
【審査官】 森 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2015−500368(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0299515(US,A1)
【文献】 特開2011−057987(JP,A)
【文献】 特表2014−524483(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄含有率が最低0.1重量%であり、初期沸騰温度が最低340℃であり、最終沸騰温度が最低440℃である少なくとも1種の炭化水素含有フラクションを含有する炭化水素含有供給原料を処理するための連続的方法であって、該方法は、以下の段階:
a) 水素化脱金属段階であって、少なくとも2基の配列可変の反応器が、300℃〜500℃の温度で、5MPa〜35MPaの絶対圧力下に、炭化水素含有供給原料および水素、および水素化脱金属触媒の存在下に利用され;「配列可変の反応器」とは、一式の少なくとも2基の反応器であって、そのうちの一つの反応器は、一般には触媒の再生または置換のためまたはメンテナンスのために停止させられ得る一方で、他の(1基または複数基)の反応器は操作中である、ものを意味する、段階
b) 固定床水素化処理段階であって、少なくとも1基の反応器を含み、該反応器において、段階a)を起源とする流出物が、少なくとも1種の水素化処理触媒と、300℃〜500℃の温度で、5MPa〜35MPaの絶対圧力下に接触させられる、段階、
c) 固定床水素化分解段階であって、少なくとも2基の配列可変の反応器が、340℃〜480℃の温度で、5MPa〜35MPaの絶対圧力下に、段階b)を起源とする流出物、および水素化分解触媒の存在下に実施される、段階、
d) 段階c)を起源とする流出物を分離して、少なくとも1種のガスフラクションと、少なくとも1種の重質液体フラクションとを得る段階、
e) 段階d)を起源とする重質液体フラクション中に含有されるセジメントの沈殿の段階であって、不安定化(e1)、酸化(e2)、または酸化・不安定化(e3)と呼ばれる3つの考えられる変形例により行われ得て、該不安定化は、分離段階d)を起源とする重質液体フラクションを、3〜40個の炭素原子を含む蒸留液留分、より正確には、その最低20重量%が、150℃以上の沸騰温度を有する蒸留液留分と接触させることによって行われ、該蒸留液留分は、分離段階d)または別の精製方法あるいは別の化学的方法または回収の段階g)を起源とするものであり、この3つの変形例に共通する操作条件は、以下:
− 滞留時間:60分未満、
− 温度:80〜250℃、
− 圧力:1.5MPa未満
の通りである、段階、
f) 沈殿の段階e)を起源とする重質液体フラクションのセジメントを物理的に分離して、セジメントを含有するフラクションと、低減したセジメント含有率を有する液体炭化水素含有フラクションとを得る段階、
g) 液体炭化水素含有フラクションであって、経時後セジメント含有率が0.1重量%以下であるものを回収する段階であって、段階f)を起源とする該低減したセジメント含有率を有する液体炭化水素含有フラクションを、段階e)の間に導入された蒸留液留分から分離することからなり、該分離は、分離器ドラムおよび/または蒸留塔タイプの設備アイテムによって実施され、該蒸留液留分は、前記段階e)に再循環させられる、段階
を含む、方法。
【請求項2】
硫黄含有率が最低0.1重量%であり、初期沸騰温度が最低340℃であり、最終沸騰温度が最低440℃である少なくとも1種の炭化水素含有フラクションを含有する炭化水素含有供給原料を処理するための連続的方法であって、該方法は、以下の段階:
b) 固定床水素化処理段階であって、少なくとも1基の反応器を含み、該反応器において、炭化水素含有供給原料が、少なくとも1種の水素化処理触媒と、300℃〜500℃の温度で、5MPa〜35MPaの絶対圧力下に接触させられる、段階、
c) 固定床水素化分解段階であって、少なくとも2基の配列可変の反応器が、340℃〜480℃の温度で、5MPa〜35MPaの絶対圧力下に、段階b)を起源とする流出物、および水素化分解触媒の存在下に実施される、段階、
d) 段階c)を起源とする流出物を分離して、少なくとも1種のガスフラクションと、少なくとも1種の重質液体フラクションとを得る段階、
e) 段階d)を起源とする重質液体フラクション中に含有されるセジメントの沈殿の段階であって、不安定化(e1)、酸化(e2)、または酸化・不安定化(e3)と呼ばれる3つの考えられる変形例により行われ得て、該不安定化は、分離段階d)を起源とする重質液体フラクションを、3〜40個の炭素原子を含む蒸留液留分、より正確には、その最低20重量%が、150℃以上の沸騰温度を有する蒸留液留分と接触させることによって行われ、該蒸留液留分は、分離段階d)または別の精製方法あるいは別の化学的方法または回収の段階g)を起源とするものであり、この3つの変形例に共通する操作条件は、以下:
− 滞留時間:60分未満、
− 温度:80〜250℃、
− 圧力:1.5MPa未満
の通りである、段階、
f) 沈殿の段階e)を起源とする重質液体フラクションのセジメントを物理的に分離して、セジメントを含有するフラクションと、低減したセジメント含有率を有する液体炭化水素含有フラクションとを得る段階、
g) 液体炭化水素含有フラクションであって、経時後セジメント含有率が0.1重量%以下であるものを回収する段階であって、段階f)を起源とする該低減したセジメント含有率を有する液体炭化水素含有フラクションを、段階e)の間に導入された蒸留液留分から分離することからなり、該分離は、分離器ドラムおよび/または蒸留塔タイプの設備アイテムによって実施され、該蒸留液留分は、前記段階e)に再循環させられる、段階
を含む、方法。
【請求項3】
水素化脱金属段階a)は、以下の操作条件:
− 温度:好ましくは350℃〜430℃、
− 絶対圧力:好ましくは11MPa〜26MPa、一層より好ましくは14MPa〜20MPa、
− HSV(供給原料の容積流量を、触媒の全容積で除算したものであるとして定義される):0.1h−1〜5h−1、優先的には0.15h−1〜3h−1、より優先的には0.2h−1〜2h−1
の下に行われる、請求項1に記載の炭化水素含有供給原料の処理のための方法。
【請求項4】
水素化脱金属段階a)には、水素化脱金属触媒が用いられ、該水素化脱金属触媒は、0.5〜10重量%のニッケル、好ましくは1〜5重量%のニッケル(酸化ニッケルNiOとして表される)と、1〜30重量%のモリブデン、好ましくは3〜20重量%のモリブデン(酸化モリブデンMoOとして表される)とを鉱物担体上に含む、請求項1に記載の炭化水素含有供給原料の処理のための方法。
【請求項5】
水素化処理段階b)は、350℃〜430℃の温度で、14MPa〜20MPaの絶対圧力下に行われる、請求項1または2に記載の炭化水素含有供給原料の処理のための方法。
【請求項6】
水素化処理段階b)には、0.5〜10重量%のニッケル、好ましくは1〜5重量%のニッケル(酸化ニッケルNiOとして表される)と、1〜30重量%のモリブデン、好ましくは5〜20重量%のモリブデン(酸化モリブデンMoOとして表される)とを、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、酸化マグネシウム、粘土およびこれらの鉱物の少なくとも2種の混合物によって構成される群から選択される鉱物担体上に含む触媒が用いられる、請求項1または2に記載の炭化水素含有供給原料の処理のための方法。
【請求項7】
水素化分解段階c)は、350℃〜430℃の温度で、14MPa〜20MPaの絶対圧力下に行われる、請求項1または2に記載の炭化水素含有供給原料の処理のための方法。
【請求項8】
水素化分解段階c)には、0.5〜10重量%のニッケル、好ましくは1〜5重量%のニッケル(酸化ニッケルNiOとして表される)と、1〜30重量%のモリブデン、好ましくは5〜20重量%のモリブデン(酸化モリブデンMoOとして表される)とを、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、酸化マグネシウム、粘土およびこれらの鉱物の少なくとも2種の混合物によって構成される群から選択される鉱物担体上に含む触媒が用いられる、請求項1または2に記載の炭化水素含有供給原料の処理のための方法。
【請求項9】
分離段階d)は、少なくとも1つの常圧蒸留液フラクションと、少なくとも1つの常圧残渣フラクションとを得ることを可能にする少なくとも1回の常圧蒸留を含む、請求項1または2に記載の炭化水素含有供給原料の処理のための方法。
【請求項10】
分離段階d)は、少なくとも1つの真空蒸留液フラクションと、少なくとも1つの真空残渣フラクションとを得ることを可能にする少なくとも1回の真空蒸留を含む、請求項1または2に記載の炭化水素含有供給原料の処理のための方法。
【請求項11】
段階d)を起源とする重質液体フラクションと接触させるために用いられる蒸留液留分は、単独または混合物で用いられる以下の留分:プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ナフサまたはケロセンのタイプの留分、常圧ガスオイルまたは真空ガスオイルから選択される、請求項1または2に記載の炭化水素含有供給原料の処理のための方法。
【請求項12】
セジメントの沈殿の段階e)は、「酸化による」として知られる変形例により、すなわち、分離段階d)を起源とする重質液体フラクションを、ガス、液体または固体の酸化性化合物、例えば、過酸化物、例えば含酸素水、あるいは、鉱物酸化性溶液、例えば、過マンガン酸カリウムの溶液または鉱物酸、例えば、硫酸と接触させることにより行われる、請求項1または2に記載の炭化水素含有供給原料の処理のための方法。
【請求項13】
セジメントの沈殿の段階e)は、酸化・不安定化として知られる変形例により、すなわち、分離段階d)を起源とする重質液体フラクションを、請求項1において規定されたような蒸留液留分および請求項12において規定されたような気体、液体または固体の酸化性化合物と接触させることにより行われる、請求項1または2に記載の炭化水素含有供給原料の処理のための方法。
【請求項14】
セジメントの物理的分離の段階f)には、フィルタ、分離膜、有機または無機のタイプの固体のろ過床、電気集塵、静電フィルタ、遠心分離システム、遠心力デカンタ、ウォームねじによる抜き出しから選択される物理的分離手段が用いられる、請求項1または2に記載の炭化水素含有供給原料の処理のための方法。
【請求項15】
液体炭化水素含有フラクションであって、経時後セジメント含有率が0.1重量%以下であるものの回収の段階g)は、段階f)を起源とする低減したセジメント含有率を有する液体炭化水素含有フラクションを、段階e)の間に導入された蒸留液留分から分離することからなり、該蒸留液留分は、段階e)に再循環させられる、請求項1または2に記載の炭化水素含有供給原料の処理のための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
本発明は、重質の炭化水素フラクション、とりわけ、硫黄含有不純物を含有するものの精製および転化に関する。本発明は、より詳細には、常圧残渣および/または真空残渣のタイプの重質の石油供給原料を転化させて、燃料油ベース、特にバンカー油ベースとして用いられ得、低いセジメント含有率を有する重質フラクションを製造する方法に関する。本発明による方法により、常圧蒸留液(ナフサ、ケロセンおよびディーゼル)、真空蒸留液および軽質ガス(C1〜C4)を製造することも可能となる。
【背景技術】
【0002】
船用燃料の品質要求は、規格ISO 8217に記載されている。今後、硫黄に関する仕様は、SOxの放出に関連することとなり(国際海事機関(International Maritime Organisation)からのMARPOL協定の添付書類VI)、2020−2025の時間枠について硫黄排出規制海域(Sulphur Emission Control Areas:SECA)または排出規制海域(Emission Control Areas:ECA)外で0.5重量%以下、SECA内で0.1重量%以下の硫黄含有率についての勧告として説明される。別の非常に制限的な勧告は、ISO 10307-2(IP390としても知られている)に従う経時後(after aging)のセジメント含有率であり、これは、0.1%以下でなければならない。
【0003】
ISO 10307-1(IP375としても知られている)に従うセジメント含有率は、ISO 10307-2(IP390としても知られている)に従う経時後セジメント含有率とは異なっている。ISO 10307-2に従う経時後セジメント含有率は、はるかにより制限的な仕様であり、バンカー油に適用する仕様に対応する。
【0004】
MARPOL協定の添付書類VIによると、船が、硫黄酸化物の放出を低減させることを可能にする煙霧処理システムを装備しているならば、その船は硫黄含有燃料油を使用することができることになる。
【0005】
海上運送において用いられる燃料油は、一般的に、常圧蒸留液、真空蒸留液、常圧残渣および真空残渣を含み、これらは、直接蒸留を起源とするかまたは精製方法、特に、水素化処理および転化の方法を起源とするものであり、これらの留分は、単独または混合物で用いられ得る。これらの方法は、不純物を多量に帯びた重質供給原料に適切であるとして知られているが、それらは、それにもかかわらず、バンカー油等の製品品質を満たすために除去されなければならない触媒微粒子および/またはセジメントを含み得る炭化水素含有フラクションを生じさせる。
【0006】
セジメントは、沈殿したアスファルテンであり得る。供給原料において、最初に、転化条件、特に、温度は、アスファルテンが、その沈殿に至る結果となる反応(脱アルキル、重縮合等)を経る原因となる。方法の終わりにおける重質留分中の既存のセジメント(IP375としても知られているISO 10307-1により測定される)に加えて、転化条件に応じて、潜在的セジメントとして分類されるセジメントも存在し、これは、物理的、化学的および/または熱的な処理の後にのみ出現する。潜在的セジメントを含むセジメントの全ては、IP390としても知られているISO 10307-1により測定される。これらの現象は、一般的に、過酷な条件が実施された時に伴われ、結果として、供給原料の性質に応じて、高い転化レベル、例えば、40または50%を超える、またはさらに上の転化レベルをもたらす。
【0007】
転化率は、反応セクションの入口における供給原料中の520℃超の沸点を有する有機化合物の質量割合−反応セクションの出口における流出物中の520℃超の沸点を有する有機化合物の質量割合の全体を、反応セクションの入口における520℃超の沸点を有する供給原料中の有機化合物の質量割合で除算したものであるとして定義される。残渣を処理するための方法において、転化生成物、特に、蒸留液は、一般的には、供給原料または未転化フラクションよりも品質向上させるのにより適しているという事実に起因して、転化を最大にすることに経済的な利点がある。
【0008】
固定床水素化処理方法において、温度は、一般的には、沸騰床またはスラリー床の水素化分解方法におけるよりも低い。固定床における転化率は、それ故に、沸騰床またはスラリー床におけるよりも一般的により低いが、実施は、より簡単である。それ故に、固定床水素化処理方法の転化率は、中程度であるかまたは低くさえあり、サイクルの終わりにおいて一般的には45%未満、多くの場合35%未満であり、サイクルの始めにおいて25%未満である。転化率は、一般的には、触媒の失活を補うための温度上昇に起因してサイクルの間で変動する。
【0009】
実際に、セジメントの生成は、一般的には、固定床水素化処理方法において、沸騰床またはスラリー床の水素化分解の方法におけるよりも低い。しかしながら、固定床の残渣の水素化処理方法についてのサイクルの中盤からサイクルの終わりまでに達する温度により、結果として、燃料油、特に、水素化処理残渣のための固定床方法を起源とする重質フラクションによって大部分構成されるバンカー油の品質を劣化させるのに十分なセジメントの形成がもたらされる。当業者は、固定床とスラリー床との間の相違に精通している。スラリー床は、触媒が小さい粒子の形態で十分に分散しており、この粒子が液相中に懸濁している床である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の簡単な説明)
上記の背景において、本出願人は、残渣の水素化処理のための従来の方法に対して向上した転化を可能にする、配列可変の反応器において水素化分解する段階を組み入れる新しい方法を開発した。
【0011】
「配列可変の反応器(permutable reactors)」とは、一式の少なくとも2基の反応器であって、そのうちの一方の反応器が、一般的には触媒の再生または置換のためまたはメンテナンスために停止させられ得る一方で、他方(1基または複数基)は操作中である、反応器を意味する。
【0012】
驚くべきことに、低い硫黄含有率を有する炭化水素含有フラクションの分画の後に、このような方法は、増大した量の蒸留液を得ることを可能にし、少なくとも1種の液体炭化水素含有フラクションが、有利には、全体的または部分的に、燃料油または燃料油ベースとして用いられ得ることが見出された。新しい方法は、配列可変の反応器において水素化分解段階の下流にセジメントの沈殿および分離の段階を組み入れることも可能にし、これにより、分画の後に、IMOの将来の勧告に対応する低い硫黄含有率を有する少なくとも1種の重質フラクションが得られるが、特に、低いセジメント含有率、すなわち、0.1重量%以下の経時後セジメント含有率を有する。
【0013】
配列可変の反応器において、水素化分解段階の下流にセジメントの沈殿および分離の段階を組み入れる新しい方法の別の利点は、全体のサイクルにわたって固定床水素化処理セクションの反応器の温度より高い平均温度でこれらの配列可変の水素化分解反応器を操作することが可能になり、それ故に、結果として、より高い温度によって一般的には増加し、生成物の品質についての問題を提供するセジメントの形成なしでより高い転化がもたらされることにある。同様に、コーキングは、水素化分解セクションにおいて問題にならない。配列可変の反応器により、ユニットの停止なしで触媒を置き換えることが可能になるからである。
【0014】
沿岸適用、例えば、電気の生産またはユーティリティの生産のための熱発電所のために、燃料油の硫黄含有率についての要求があるが、安定性およびセジメント含有率についての要求の厳重性は、エンジンにおける燃焼を目的とするバンカー油についてよりも少ない。
【0015】
所定の適用のために、本発明による方法は、それ故に、高価値転化蒸留液、および燃料油または燃料油ベースとして用いられ得る低い硫黄含有率を有する重質炭化水素含有フラクションを得るために段階e)、f)およびg)の非存在下に実施され得る。
【0016】
より正確には、本発明は、最低0.1重量%の硫黄含有率、最低340℃の初期沸騰温度および最低440℃の最終沸騰温度を有する少なくとも1種の炭化水素含有フラクションを含有する炭化水素含有供給原料を処理する方法であって、転化生成物と、低い硫黄含有率を有する重質炭化水素含有フラクションとを得ることを可能にする、方法に関する。この重質の炭化水素含有フラクションは、その経時後セジメント含有率が0.1重量%以下であるように生じさせられ得る。前記方法は、少なくとも以下の段階:
a) 配列可変の反応器における水素化脱金属段階であって、該反応器において、炭化水素含有供給原料および水素を水素化脱金属触媒上で接触させる、段階、
b) 段階a)を起源とする流出物の固定床水素化処理の段階、
c) 配列可変の反応器において段階b)を起源とする流出物を水素化分解する段階、
d) 段階c)を起源とする流出物の分離の段階であって、少なくとも1種のガスフラクションと重質液体フラクションとを得る、段階、
e) セジメントの沈殿の段階であって、分離段階d)を起源とする重質液体フラクションを、最低20重量%が100℃以上の沸騰温度を有する蒸留液留分と、500分未満の継続期間にわたって、25〜350℃の温度、20MPa未満の圧力で接触させる、段階、
f) 段階d)を起源とする重質液体フラクション中に含有されるセジメントの物理的分離の段階、
g) 経時後セジメント含有率が0.1重量%未満である液体炭化水素含有フラクションの回収の段階であって、沈殿段階e)の間に導入された蒸留物留分から段階f)を起源とする液体炭化水素含有フラクションを分離することからなる、段階
を含む。
【0017】
本発明の目的の一つは、低い硫黄含有率を有する燃料油および燃料油ベースの製造のために重質石油供給原料の転化および脱硫を結び付ける方法を提案することにある。
【0018】
本方法の別の目的は、低い経時後セジメント含有率:0.1重量%以下を有するバンカー油またはバンカー油ベースの製造にあり、これが可能になるのは、段階e)、f)およびg)が実施される場合である。
【0019】
本発明の別の目的は、同じ方法によって、常圧蒸留液(ナフサ、ケロセンおよびディーゼル)、真空蒸留液および/または軽質ガス(C1〜C4)を一緒に製造することにある。ナフサ−およびディーゼル−タイプのベースは、自動車・航空機燃料、例えばアンチノック燃料、ジェット燃料およびガソリンの製造のための精製所において品質向上させられ得る。
【0020】
図1の説明)
図1には、本発明の実施を示すフローチャートが示されるが、本発明の範囲を限定するものではない。炭化水素含有供給原料(1)および水素(2)が、水素化脱金属段階a)において、配列可変の反応器中で接触させられ、この反応器中に、水素(2)は、段階a)の第1の触媒床の入口および2つの床の間に導入され得る。
【0021】
配列可変の保護反応器における水素化脱金属段階a)を起源とする流出物(3)は、固定床水素化処理段階b)に送られ、この段階において、追加の水素(4)が、段階b)の第1の触媒床の入口および2つの床の間に導入され得る。
【0022】
段階a)を欠く場合、炭化水素含有供給原料(1)および水素(2)は、水素化処理段階b)に直接的に導入される。固定床水素化処理段階b)を起源とする流出物(5)は、配列可変の保護反応器における水素化分解の段階c)に送られ、この反応器中には、追加の水素(6)が、段階c)の第1の触媒床の入口および2つの床の間に導入され得る。水素化分解段階c)を起源とする流出物(7)は、分離段階d)に送られ、この分離段階d)により、少なくとも1種の軽質炭化水素含有フラクション(8)および最低350℃で沸騰する化合物を含有する重質フラクション(9)を得ることが可能となる。この重質フラクション(9)は、沈殿段階e)の間に蒸留液留分(10)と接触させられる。
【0023】
流出物(11)は、重質フラクションおよびセジメントによって構成され、このものは、物理的分離段階f)において処理される。この物理的分離段階f)により、セジメントを含むフラクション(13)を除去することおよび低減したセジメント含有率を有する液体炭化水素含有フラクション(12)を回収することが可能となる。液体炭化水素含有フラクション(12)は、次いで、段階g)において処理される。段階g)において、一方では、経時後セジメント含有率が0.1重量%以下である液体炭化水素含有フラクション(15)が、他方では、段階e)の間に導入された蒸留液留分の少なくとも一部を含有するフラクション(14)が回収される。
【0024】
液体炭化水素含有フラクション(14)は、全体的または部分的に、セジメントの沈殿の段階e)に再循環させられ得る。
【0025】
段階e)、f)、g)は、一緒に、または、互いに別々にかのいずれかで実施される。これは、例えば、段階e)のみまたは段階e)および段階f)を含むが、段階g)を含まない方法が、本発明の範囲内に残ることを意味する。
【0026】
図2の説明)
図2には、本発明の一連の反応器の利用を示す単純化フローチャートが示されるが、本発明の範囲を限定するものではない。単純化の興味において、反応器のみが示されるが、操作に必要な全ての設備(ドラム、ポンプ、交換器、オーブン、塔等)が存在することが理解される。炭化水素を含有する主要な流れのみが示されるが、水素リッチなガスの流れ(補充または再循環)が、各触媒床の入口または2つの床の間に注入され得ることが理解される。
【0027】
供給原料(1)は、配列可変の保護反応器における水素化脱金属段階に入る。この配列可変の保護反応器は、反応器(Ra)および(Rb)によって構成される。配列可変の保護反応器における水素化脱金属段階からの流出物(2)は、固定床水素化処理段階に送られる。この固定床水素化処理段階は、反応器(R1)、(R2)および(R3)によって構成される。固定床水素化処理反応器は、例えば、水素化脱金属、移行および水素化脱硫の触媒をそれぞれ装填され得る。供給原料(1)は、固定床水素化処理セクションに直接的に入り得る。固定床水素化処理段階からの流出物(3)は、配列可変の反応器における水素化分解段階に送られる。この配列可変の反応器は、反応器(Rc)および(Rd)によって構成される。
【0028】
この構成において、反応器は、一対で配列可変である。すなわち、(Ra)は、(Rb)と関連し、(Rc)は、(Rd)と関連する。各反応器(Ra)、(Rb)、(Rc)、(Rd)は、ユニットの残りを停止させることなく触媒を変更するためにオフラインにされ得る。この触媒の変更処理(リンス処理、取り出し処理、再装填処理、硫化)は、一般的には、コンディショニングセクション(示されない)によって可能にされる。以下の表は、図2に従って行われ得る配列の例を与える。
【0029】
【表1A】
【0030】
配列9が配列1と同一であることにより、提案された操作の周期性特性が明示される。
【0031】
同様に、配列可変の反応器を有する水素化脱金属セクション中または配列可変の反応器を有する水素化分解セクション中に2基超の配列可変の反応器があってよい。同様に、3基超または3基未満の固定床水素化処理反応器があってよく、(R1)、(R2)および(R3)による表記は、例証の目的のために純粋に与えられる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(発明の詳細な説明)
本明細書は、以降において、本発明による方法の供給原料および種々の段階についての情報を提供する。
【0033】
(供給原料)
本発明による方法において処理される供給原料は、有利には、最低340℃の初期沸騰温度および最低440℃の最終沸騰温度を有する炭化水素含有供給原料である。好ましくは、それの初期沸騰温度は、最低350℃、優先的には最低375℃であり、それの最終沸騰温度は、最低450℃、優先的には最低460℃、より優先的には最低500℃、一層より優先的には最低600℃である。
【0034】
本発明による炭化水素含有供給原料は、常圧残渣、直接蒸留を起源とする真空残渣、原油(crude oil)、抜頭原油、脱アスファルト処理樹脂、アスファルトまたは脱アスファルト処理ピッチ、転化方法を起源とする残渣、潤滑ベース製造鎖(lubricant base production chains)を起源とする芳香族化合物抽出物、瀝青砂またはその誘導体、オイルシェールまたはその誘導体、原岩油(source rock oil)またはその誘導体から選択され得、単独または混合物で用いられる。
【0035】
本発明において、処理される供給原料は、好ましくは、常圧残渣または真空残渣、または、これらの残渣の混合物である。
【0036】
本方法において処理される炭化水素含有供給原料は、とりわけ、硫黄含有不純物を含有し得る。硫黄含有率は、最低0.1重量%、好ましくは最低0.5重量%、優先的には最低1重量%、より優先的には最低4重量%、一層より優先的には最低5重量%であり得る。
【0037】
本方法において処理される炭化水素含有供給原料は、とりわけ、金属不純物、特にニッケルおよびバナジウムを含有し得る。ニッケルおよびバナジウムの含有率の合計は、一般的には最低10ppm、好ましくは最低50ppm、優先的には最低100ppm、より優先的には最低150ppmである。
【0038】
これらの供給原料は、有利には、そのままで用いられ得る。あるいは、それらは、共供給原料(co-feedstock)により希釈され得る。この共供給原料は、1種のより軽質な炭化水素含有フラクションまたはより軽質な炭化水素含有フラクションの混合物であり得、これは、好ましくは、流動接触分解(fluid catalytic cracking:FCC)方法を起源とする生成物、軽質カットオイル(またはライトサイクルオイル(light cycle oil:LCO))、重質カットオイル(またはヘビーサイクルオイル(heavy cycle oil:HCO))、デカント油(decanted oil:DO)、FCC残渣、ガスオイルフラクション、特に、常圧または真空の蒸留によって得られたフラクション、例えば、真空ガスオイル、さらには、別の精製方法、例えば、コーキングまたはビスブレーキングを起源とし得るものから選択され得る。
【0039】
共供給原料はまた、有利には、石炭またはバイオマスの液化のための方法を起源とする1種または複数種の留分、芳香族化合物抽出物、または任意の他の炭化水素含有留分または非石油供給原料、例えば、熱分解油であり得る。本発明による重質炭化水素含有供給原料は、本発明による方法によって処理される全炭化水素含有供給原料の重量で最低50%、優先的には最低70%、より優先的には最低80%、一層より優先的には最低90%を示し得る。
【0040】
所定の場合、共供給原料は、第1の床またはその後の床の下流に、例えば、固定床水素化処理セクションの入口、あるいは配列可変の反応器を有する固定床水素化分解セクションの入口に導入され得る。
【0041】
本発明による方法により、転化生成物、特に、蒸留液および重質の炭化水素含有フラクションであって、低い硫黄含有率を有するものを得ることが可能となる。この重質の炭化水素含有フラクションは、それの経時後セジメント含有率が0.1重量%以下であるように生じさせられ得、これは、セジメントの沈殿および分離の段階の実施によって可能にされる。
【0042】
(配列可変の保護反応器における水素化脱金属の段階a))
水素化脱金属段階a)の間に、供給原料および水素は、少なくとも2基の配列可変の反応器に装填された水素化脱金属触媒上で、水素化脱金属条件下に接触させられる。この段階a)が優先的に実施されるのは、50ppm超、さらには100ppm超の金属を供給原料が含有する時および/または触媒床の時期尚早の詰まりを引き起こし得る不純物、例えば、鉄またはカルシウムの誘導体を供給原料が含む時である。目的は、不純物含有率を低減させること、それ故に、下流の水素化処理段階を失活および詰まりから保護することにあり、それ故に、保護反応器の概念である。これらの水素化脱金属保護反応器は、特許FR2681871において記載された配列可変の反応器(PRS、またはPermutable Reactor System技術)として利用される。
【0043】
これらの配列可変の反応器は、一般的に、固定床水素化処理セクションの上流に位置する固定床であり、この固定床は、互いに並べ変えられ得るようにラインおよびバルブを備えたものである。すなわち、2基の配列可変の反応器(Ra)および(Rb)を有するシステムについて、(Ra)は、(Rb)の前であり得るが、逆でもあり得る。各反応器(Ra)、(Rb)は、ユニットの残りを停止させることなく触媒変更のためにオフラインとされ得る。この触媒の変更処理(リンス処理、取り出し処理、再装填処理、硫化)は、一般的には、条件調整(conditioning)セクション(主要な高圧ループの外側の一式の設備)によって可能とされる。触媒を変更するための並べ替えが行われるのは、触媒が十分には活性でない時(金属の被毒およびコーキング)、および/または、閉塞があまりに大きな圧力降下をもたらす時である。
【0044】
変形例によると、配列可変の反応器を有する水素化脱金属セクション中に2基超の配列可変の反応器があってよい。
【0045】
水素化脱金属段階a)の間に、水素化脱金属反応(HDMとして一般に知られている)が行われるが、水素化脱硫反応(HDSとして一般に知られている)、水素化脱窒反応(HDNとして一般に知られている)も、水素化、水素化脱酸素、水素化脱芳香族、水素化異性化、水素化脱アルキル、水素化分解、水素化脱アスファルト反応およびコンラドソン炭素(Conradson carbon)の低減に伴われて行われる。段階a)は、供給原料からの金属の大部分を除くという事実に起因して水素化脱金属と呼ばれる。
【0046】
本発明による配列可変の反応器における水素化脱金属の段階a)は、有利には300℃〜500℃、好ましくは350℃〜430℃の温度で、5MPa〜35MPa、好ましくは11MPa〜26MPa、好ましくは14MPa〜20MPaの絶対圧力下に実施され得る。温度は、通常、水素化脱金属の所望のレベルおよび処理の意図された継続期間に応じて調節される。炭化水素含有供給原料の毎時空間速度は、一般的にはHSVと呼ばれかつ供給原料の容積流量を触媒の全容積で除算したものであるとして定義されるものであり、このものは、最も頻繁には0.1h−1〜5h−1、優先的には0.15h−1〜3h−1、より優先的には0.2h−1〜2h−1の範囲内であり得る。
【0047】
供給原料と混合される水素の量は、100〜5000標準立方メートル(Nm)/液体供給原料の立方メートル(m)、優先的には200Nm/m〜2000Nm/m、より優先的には300Nm/m〜1000Nm/mであり得る。配列可変の反応器における水素化脱金属の段階a)は、少なくとも2基の固定床反応器において工業的に行われ得、優先的には液体下降流である。
【0048】
用いられる水素化脱金属触媒は、好ましくは、既知の触媒である。これらは、担体上に、水素化脱水素機能を有する少なくとも1種の金属または金属化合物を含む粒状触媒であってよい。これらの触媒は、有利には、少なくとも1種の第VIII族金属、および/または少なくとも1種の第VIB族金属を含む触媒であり得る。第VIII族金属は、一般的には、ニッケルおよびコバルトによって構成される群から選択され、第VIB族金属は、好ましくは、モリブデンおよび/またはタングステンである。例えば、0.5〜10重量%のニッケル、好ましくは1〜5重量%のニッケル(酸化ニッケルNiOとして表される)と、1〜30重量%のモリブデン、好ましくは3〜20重量%のモリブデン(酸化モリブデンMoOとして表される)とを、鉱物担体上に含む触媒が用いられ得る。この担体は、例えば、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、酸化マグネシウム、粘土およびこれらの鉱物の少なくとも2種の混合物によって構成される群から選択され得る。有利には、この担体は、他のドーピング化合物、特に、酸化ホウ素、ジルコニア、セライト、酸化チタン、無水リン酸およびこれらの酸化物の混合物によって構成される群から選択される酸化物を含有し得る。アルミナ担体が最も頻繁に用いられ、リンおよび場合によるホウ素をドーピングされたアルミナ担体が非常に頻繁に用いられる。無水リン酸Pが存在する場合、それの濃度は、10重量%未満である。三酸化ホウ素Bが存在する場合、それの濃度は、10重量%未満である。用いられるアルミナは、γ(ガンマ)またはη(エータ)のアルミナであり得る。この触媒は、最も頻繁には、押出物の形態にある。第VIB族および第VIII族の金属の全酸化物含有率は、5重量%〜40重量%、優先的には5重量%〜30重量%であり得、金属酸化物として表される、第VIB族金属(1種または複数種)と第VIII族金属(1種または複数種)との間の重量比は、一般的には20〜1、最も頻繁には10〜2である。
【0049】
配列可変の反応器における水素化脱金属の段階a)において用いられ得る触媒は、例えば、特許文献EP0113297、EP0113284、US 5,221,656、US 5,827,421、US 7,119,045、US 5,622,616およびUS 5,089,463において指し示される。
【0050】
(固定床水素化処理段階b))
水素化脱金属段階a)を起源とする流出物は、場合によっては水素と共に、固定床水素化処理段階b)に導入され、少なくとも1種の水素化処理触媒上で接触させられる。配列可変の保護反応器における水素化脱金属段階a)を欠く場合、供給原料および水素は、固定床水素摩処理段階b)に直接的に導入され、少なくとも1種の水素化処理触媒上で接触させられる。このまたはこれらの水素化処理触媒は、少なくとも1基の固体床反応器において、優先的には液体下降流で利用される。
【0051】
HDTとして一般に知られている水素化処理とは、水素の供給による触媒処理であって、炭化水素含有供給原料を精製すること、すなわち、それらの金属、硫黄および他の不純物の含有率を大幅に低減させる一方で、供給原料の水素対炭素の比を改善することおよび供給原料を多かれ少なかれ部分的により軽質な留分に転化することを可能にする処理を意味する。水素化処理は、特に、水素化脱硫反応(HDSとして一般に知られている)、水素化脱窒反応(HDNとして一般に知られている)、および水素化脱金属反応(HDMとして一般に知られている)を含み、水素化、水素化脱酸素、水素化脱芳香族、水素化異性化、水素化脱アルキル、水素化分解、水素化脱アスファルトの反応およびコンラドソン炭素の低減が伴われる。
【0052】
好ましい変形例によると、水素化処理段階b)は、第1の水素化脱金属(HDM)段階b1)と、続く第2の水素化脱硫(HDS)段階b2)とを含み、第1の水素化脱金属段階b1)は、1箇所または複数箇所の固定床水素化脱金属帯域において行われ、第2の水素化脱硫段階b2)は、1箇所または複数箇所の固定床水素化脱硫帯域において行われる。前記第1段階の水素化脱金属b1)の間に、段階a)からの流出物、または、段階a)が存在しない場合の供給原料および水素は、水素化脱金属条件下に水素化脱金属触媒上で接触させられ、次いで、前記第2の水素化脱硫工程b2)の間に、第1の水素化脱金属段階b1)からの流出物は、水素化脱硫条件下に、水素化脱硫触媒と接触させられる。この方法は、HYVAHL−F(登録商標)として知られているものであり、例えば、特許US 5,417,846に記載されている。
【0053】
当業者は、水素化脱金属段階b1)において水素化脱金属反応が行われるが、並行して、他の水素化処理反応の部分、特に、水素化脱硫および水素化分解の反応も行われることを容易に理解するだろう。同様に、水素化脱硫段階b2)において水素化脱硫反応が行われるが、並行して、他の水素化処理反応の部分、特に、水素化脱金属および水素化分解も行われる。
【0054】
当業者は、全てのタイプの水素化処理反応が行われる移行帯域(transition zone)を画定することもある。別の変形例によると、水素化処理段階b)は、第1の水素化脱金属(HDM)段階b1)と、続く第2の移行段階b2)と、続く第3の水素化脱硫(HDS)段階b)とを含み、第1の水素化脱金属段階b1)は、1箇所または複数箇所の固定床水素化脱金属帯域において行われ、第2の移行段階b2)は、1箇所または複数箇所の固定床移行帯域において行われ、第3の水素化脱硫段階b3)は、1箇所または複数箇所の固定床水素化脱硫帯域において行われる。前記第1の水素化脱金属段階b1)の間に、段階a)からの流出物、または、段階a)を行わない場合の供給原料および水素は、水素化脱金属条件下に水素化脱金属触媒上で接触させられ、次いで、前記第2の移行段階b2)の間に、第1の水素化脱金属段階b1)からの流出物は、移行条件下に移行触媒と接触させられ、次いで、前記第3の水素化脱硫段階b3)の間に、第2の移行段階b2)からの流出物は、水素化脱硫条件下に、水素化脱硫触媒と接触させられる。
【0055】
上記変形例による水素化脱金属段階b1)が特に必要であるのは、不純物を処理しかつ下流の触媒を保護するための配列可変の保護反応器における水素化脱金属段階a)を行わない場合である。配列可変の保護反応器における水素化脱金属段階a)に加えて上記変形例による水素化脱金属段階b1)を行う必要性が正当化されるのは、段階a)の間に行われる水素化脱金属が段階b)の触媒、特に水素化脱硫触媒を保護するのに十分でない時である。
【0056】
本発明による水素化処理段階b)は、水素化処理条件下に実施される。それは、有利には300℃〜500℃、好ましくは350℃〜430℃の温度で、5MPa〜35MPa、好ましくは11MPa〜26MPa、好ましくは14MPa〜20MPaの絶対圧力下に実施され得る。温度は、通常、水素化処理の所望のレベルおよび処理の意図される継続期間に応じて調節される。炭化水素含有供給原料の毎時空間速度は、HSVと一般に呼ばれかつ供給原料の容積流量を触媒の全容積で除算したものであるとして定義されるものであり、このものは、最も頻繁には0.1h−1〜5h−1、優先的には0.1h−1〜2h−1、より優先的には0.1h−1〜1h−1の範囲内であり得る。供給原料と混合される水素の量は、液体供給原料の立方メートル(m)当たり100〜5000標準立方メートル(Nm)、優先的には200Nm/m〜2000Nm/m、より優先的には300Nm/m〜1500Nm/mであり得る。水素化処理段階b)は、1基または複数基の反応器において液体下降流で工業的に行われ得る。
【0057】
用いられる水素化処理触媒は、好ましくは既知の触媒である。これらは、担体上に、水素化脱水機能を有する少なくとも1種の金属または金属化合物を含む、粒状触媒であってよい。これらの触媒は、有利には、少なくとも1種の第VIII族金属、および/または少なくとも1種の第VIB族金属を含む触媒であり得る。第VIII族金属は、一般的にはニッケルおよびコバルトによって構成される群から選択され、第VIB族金属は、好ましくはモリブデンおよび/またはタングステンである。例えば、0.5〜10重量%のニッケル、好ましくは1〜5重量%のニッケル(酸化ニッケルNiOとして表される)と、1〜30重量%のモリブデン、好ましくは3〜20重量%のモリブデン(酸化モリブデンMoOとして表される)とを、鉱物担体上に含む触媒が用いられ得る。この担体は、例えば、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、酸化マグネシウム、粘土およびこれらの鉱物の少なくとも2種の混合物によって構成される群から選択され得る。
【0058】
有利には、この担体は、他のドーピング化合物を含有することができ、特に、酸化ホウ素、ジルコニア、セリア、酸化チタン、無水リン酸およびこれらの酸化物の混合物によって構成される群から選択される酸化物である。アルミナ担体が最も頻繁に用いられ、リンおよび場合によるホウ素をドーピングされたアルミナの担体が非常に頻繁に用いられる。無水リン酸Pが存在する場合、それの濃度は、10重量%未満である。三酸化ホウ素Bが存在する場合、それの濃度は、10重量%未満である。用いられるアルミナは、γ(ガンマ)またはη(エータ)のアルミナであり得る。この触媒は、最も頻繁には、押出物の形態にある。第VIB族および第VIII族の金属の全酸化物含有率は、3〜40重量%、優先的には5〜30重量%であり得、金属酸化物として表される、第VIB族の金属(1種または複数種)と、第VIII族の金属(1種または複数種)との間の重量比は、一般的には20〜1、最も頻繁には10〜2である。
【0059】
水素化処理段階が水素化脱金属(HDM)の段階b1)と、その後の、水素化脱硫(HDS)の段階b2)とを含む場合、各段階に適合した特定の触媒が好ましくは用いられる。水素化脱金属段階b1)において用いられ得る触媒は、例えば、特許文献EP0113297、EP0113284、US5,221,656、US5,827,421、US7,119,045、US5,622,616およびUS5,089,463に指し示されている。水素化脱硫段階b2)に用いられ得る触媒は、例えば、特許文献EP0113297、EP0113284、US6,589,908、US4,818,743、またはUS6,332,976に指し示されている。移行触媒(transition catalyst)とも呼ばれる混合型触媒は、水素化脱金属および水素化脱硫において活性であるものであり、このものは、特許文献FR2940143に記載されているように、水素化脱金属セクションb1)および水素化脱硫セクションb2)の両方にも用いられ得る。
【0060】
水素化処理段階が水素化脱金属(HDM)段階b1)と、その後の移行段階b2)と、その後の水素化脱硫(HDS)段階b3)とを含む場合、各段階に適合した特定の触媒が好ましくは用いられる。水素化脱金属段階b1)において用いられ得る触媒は、例えば、特許文献EP0113297、EP0113284、US5,221,656、US5,827,421、US7,119,045、US5,622,616およびUS5,089,463に指し示されている。移行段階b2)において用いられ得る触媒は、水素化脱金属および水素化脱硫において活性であるものであり、このものは、例えば、特許文献FR2940143に記載されている。水素化脱硫段階b3)において用いられ得る触媒は、例えば、特許文献EP0113297、EP0113284、US6,589,908、US4,818,743、またはUS6,332,976に指し示されている。特許文献FR2940143に記載された移行触媒も、セクションb1)、b2)およびb3)のために用いられ得る。
【0061】
(配列可変の反応器における水素化分解の段階c))
水素化処理段階b)を起源とする流出物は、配列可変の反応器における水素化分解の段階c)に導入される。水素も、配列可変の水素化分解反応器を構成する異なる触媒床の上流に注入され得る。この段階における所望の熱分解および水素化分解の反応と並行して、全てのタイプの水素化処理反応(HDM、HDS、HDN等)も起こる。特定の条件、特に、温度、および/または1種または複数種の特定の触媒の使用により、所望の分解または水素化分解の反応を促進することが可能となる。
【0062】
水素化分解段階c)の反応器は、特許FR2681871に記載されるように配列可変の反応器として実施される(PRS;Permutable Reactor System技術)。これらの配列可変の反応器は、ラインおよびバルブを備えており、したがって、それらは、互いに並べ替えられ得る。すなわち、2基の配列可変の反応器(Rc)および(Rd)を有するシステムについて、(Rc)は、(Rd)の前であり、逆でもあり得る。各反応器(Rc)、(Rd)は、ユニットの残りを停止させることなく触媒を変更するためにオフラインとされ得る。触媒のこの変更処理(リンス処理、取り出し処理、再装填処理、硫化)は、一般的に、コンディショニングセクション(主要高圧ループの外側の設備のセット)によって可能とされる。触媒を変更するための並べ替えが行われるのは、触媒が十分には活性ではない(主にコーキング)時および/または閉塞があまりに大きな圧力降下をもたらす時である。
【0063】
変形例によると、配列可変の反応器を有する水素化分解セクション中に2基超の配列可変の反応器があってよい。
【0064】
本発明による水素化分解段階c)は、水素化分解条件下に実施される。それは、有利には340℃〜480℃、好ましくは350℃〜430℃の温度で、5MPa〜35MPa、好ましく11MPa〜26MPa、好ましくは14MPa〜20MPaの絶対圧力下に実施され得る。温度は、通常、水素化分解の所望のレベルおよび想定される処理の継続期間に応じて調節される。好ましくは、配列可変の反応器における水素化分解の段階c)のサイクルの開始時の平均温度は、常時、最低5℃、好ましくは最低10℃、より好ましくは最低15℃だけ、水素化処理段階b)のサイクルの開始時の平均温度より大きい。この相違は、触媒の失活を補填するための水素化処理段階b)の温度における上昇に起因してサイクルの間に減らしてよい。全体的に、配列可変の反応器における水素化分解の段階c)のサイクルの全体にわたる平均温度は、常時、最低5℃だけ、水素化処理段階b)のサイクルの全体にわたる平均温度より大きい。
【0065】
炭化水素含有供給原料の毎時空間速度は、一般にHSVと呼ばれかつ供給原料の容積流量を触媒の全容積で除算したものであるとして定義されるものであり、このものは、最も頻繁には0.1h−1〜5h−1、優先的には0.2h−1〜2h−1、より優先的には0.25h−1〜1h−1の範囲内であり得る。供給原料と混合される水素の量は、液体供給原料の立方メートル(m)当たり100〜5000標準立方メートル(Nm)、優先的には200Nm/m〜2000Nm/m、より優先的には300Nm/m〜1500Nm/mであり得る。水素化分解段階c)は、少なくとも2基の固定床反応器において、優先的には液体下降流で工業的に行われ得る。
【0066】
用いられる水素化分解触媒は、水素化分解または水素化処理の触媒であり得る。これらは、押出物またはビーズの形態にある粒状触媒であってよく、担体上に、水素化脱水素機能を有する少なくとも1種の金属または金属化合物を含む。これらの触媒は、有利には、少なくとも1種の第VIII族金属、および/または少なくとも1種の第VIB族金属を含む触媒であり得る。第VIII族金属は、一般的には、ニッケルおよびコバルトによって構成される群から選択され、第VIB族金属は、好ましくはモリブデンおよび/またはタングステンである。例えば、0.5〜10重量%のニッケル、好ましくは1〜5重量%のニッケル(酸化ニッケルNiOとして表される)と、1〜30重量%のモリブデン、好ましくは5〜20重量%のモリブデン(酸化モリブデンMoOとして表される)とを鉱物担体上に含む触媒が用いられ得る。この担体は、例えば、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、酸化マグネシウム、粘土およびこれら鉱物の少なくとも2種の混合物によって構成される群から選択され得る。
【0067】
有利には、この担体は、他のドーピング化合物を含有することができ、特に、酸化ホウ素、ジルコニア、セライト、酸化チタン、無水リン酸およびこれらの酸化物の混合物によって構成される群から選択される酸化物である。アルミナ担体が最も頻繁に用いられ、リンおよび場合によるホウ素がドーピングされたアルミナの担体が非常に頻繁に用いられる。無水リン酸Pが存在する場合、それの濃度は、10重量%未満である。三酸化ホウ素Bが存在する場合、それの濃度は、10重量%未満である。用いられるアルミナは、γ(ガンマ)またはη(エータ)のアルミナであり得る。この触媒は、最も頻繁には、押出物の形態にある。第VIB族および第VIII族の金属の酸化物の全含有率は、5〜40重量%、優先的には7〜30重量%であり得、金属酸化物として表される、第VIB族金属(1種または複数種)と第VIII族金属(1種または複数種)との間の重量比は、一般的には20〜1、最も頻繁には10〜2である。
【0068】
あるいは、水素化分解段階は、特に有利には、芳香族化合物を水素化することができかつ飽和化合物と対応するオレフィンとの間のバランスを提供する水素化相と、水素化異性化および水素化分解の反応を促進することを可能にする酸相とを有する、二機能性触媒を用いることができる。酸機能は、有利には、表面酸度を有する大きな表面積(一般的には100〜800m・g−1)を有する担体、例えば、ハロゲン化アルミナ(特に塩素化またはフッ素化)、ホウ素およびアルミニウムとの酸化物の組み合わせ、無定形シリカ−アルミナおよびゼオライトによって供給される。水素化機能は、有利には、周期律表の第VIII族からの1種または複数種の金属、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムおよび白金、または、周期律表の第VIB族からの少なくとも1種の金属、例えばモリブデンおよびタングステンと、第VIII族からの少なくとも1種の非貴金属(例えばニッケルおよびコバルト)の組み合わせのいずれかによって供給される。触媒は、有利には、重質供給原料の使用に起因する不純物およびアスファルテンに対して高い抵抗性も有するべきである。好ましくは、用いられる二機能性触媒は、第VIII族および第VIIB族の金属によって形成される群から選択される、単独または混合物で用いられる少なくとも1種の金属と、鉄を含有する10〜90重量%のゼオライトおよび90〜10重量%の無機酸化物を含む担体とを含む。用いられる第VIB族金属は、好ましくは、タングステンおよびモリブデンから選択され、第VIII族金属は、好ましくは、ニッケルおよびコバルトから選択される。二機能性触媒は、好ましくは、日本特許出願2289419号(IKC)またはEP0384186に記載された調製方法に従って調製される。このタイプの触媒の例は、特許JP2966985、JP2908959、JP01049399およびJP61028717、US4,446,008、US4,622,127、US6,342,152、EP0,537,500およびEP0622118に記載されている。
【0069】
別の好ましい変形例によると、アルミナ、無定形またはゼオライト性のシリカ−アルミナタイプの単機能性触媒および二機能性触媒が、混合物でまたは連続層で用いられ得る。
【0070】
沸騰床水素化分解触媒または二機能性触媒に類似する触媒の水素化分解セクションにおける使用は特に有利である。
【0071】
変形例によると、水素化分解の配列可変の反応器の触媒は、高多孔性、一般的には0.7mL/g超である全多孔性、および、0.1/g超の細孔容積を構成するミクロ多孔性(すなわち、サイズ50nm超の細孔の容積)によって特徴付けられる。
【0072】
供給原料の注入に先行して、本発明による方法において用いられる触媒は、好ましくは、現場内(in-situ)または現場外(ex-situ)の硫化処理に付される。
【0073】
(水素化分解流出物を分離する段階d))
本発明による方法は、少なくとも1種のガスフラクションと、少なくとも1種の重質液体フラクションとを得ることを可能にする分離段階d)を含むこともできる。
【0074】
水素化分解段階c)の終わりに得られた流出物は、液体フラクションと、ガス、特に、H、HS、NH、およびC1−C4炭化水素を含有するガスフラクションとを含む。このガスフラクションは、当業者に周知の分離デバイスを用いて、特に、異なる圧力および温度で操作することができる1基または複数基の分離器ドラムを用いて、場合によっては、蒸気または水素のストリッピング手段および1基または複数基の蒸留塔と組み合わされて流出物から分離され得る。水素化分解段階c)の終わりに得られた流出物は、有利には、少なくとも1基の分離器ドラムにおいて少なくとも1種のガスフラクションと、少なくとも1種の重質液体フラクションとに分離される。これらの分離器は、例えば、高圧高温(high pressure high temperature:HPHT)分離器および/または高圧低温(high pressure low temperature:HPLT)分離器であり得る。
【0075】
場合による冷却処理の後、このガスフラクションは、好ましくは、水素精製手段において処理されて、水素化処理および水素化分解の反応の間に消費されなかった水素が回収される。水素精製手段は、アミン洗浄、膜、PSAタイプのシステム、または、直列に配置されたこれらの手段の複数であり得る。精製された水素は、次いで、有利には、場合による再圧縮の後に、本発明による方法に再循環させられ得る。水素は、水素化脱金属段階a)の入口および/または水素化処理段階b)の間の異なるポイントおよび/または水素化分解段階c)の入口、および/または水素化分解段階c)の間の異なるポイントに、さらには、沈殿段階中に導入され得る。
【0076】
分離段階d)は、常圧蒸留および/または真空蒸留を含むこともできる。有利には、分離段階d)は、少なくとも1回の常圧蒸留も含み、この蒸留中に、分離の後に得られた液体炭化水素含有フラクション(1種または複数種)は、常圧蒸留によって少なくとも1種の常圧蒸留液と、少なくとも1種の常圧残渣フラクションとに分画される。常圧蒸留液フラクションは、燃料ベース(ナフサ、ケロセンおよび/またはディーゼル)を含有することができ、これは、例えば、自動車および航空機の燃料の製造のための製油所において商業的に品質向上させられ得る。
【0077】
さらに、本発明による方法の分離段階d)は、有利には、少なくとも1回の真空蒸留も含むことができ、この蒸留において、分離の後に得られた液体炭化水素含有フラクション(1種または複数種)および/または常圧蒸留の後に得られた常圧残渣フラクションは、真空蒸留によって、少なくとも1種の真空蒸留液フラクションと、少なくとも1種の真空残渣フラクションとに分画される。好ましくは、分離段階d)は、最初の常圧蒸留と、その後の真空蒸留とを含み、最初の常圧蒸留において、分離の後に得られた液体炭化水素含有フラクション(1種または複数種)は、常圧蒸留によって、少なくとも1種の常圧蒸留液フラクションと、少なくとも1種の常圧残渣フラクションとに分画され、真空蒸留において、常圧蒸留の後に得られた常圧残渣フラクションは、真空蒸留によって、少なくとも1種の真空蒸留液フラクションと、少なくとも1種の真空残渣フラクションとに分画される。真空蒸留液フラクションは、典型的には、真空ガスオイルタイプのフラクションを含有する。
【0078】
常圧残渣フラクションの少なくとも一部または真空残渣フラクションの少なくとも一部は、水素化分解段階c)に再循環させられ得る。常圧残渣フラクションおよび/または真空残渣フラクションは、接触分解方法に送られ得る。常圧残渣フラクションおよび/または真空残渣フラクションは、低い硫黄含有率を有する燃料油または燃料油ベースとして用いられ得る。
【0079】
真空残渣フラクションの一部および/または真空蒸留液フラクションの一部は、接触分解または沸騰床水素化分解の段階に送られ得る。
【0080】
分離段階d)を起源とする重質液体フラクションの一部は、セジメントの沈殿の段階e)において用いられる本発明による蒸留液留分を形成するために用いられ得る。
【0081】
(段階e):セジメントの沈殿)
分離段階d)の終わりに得られた重質液体フラクションは、水素化処理および水素化分解の条件に由来する有機セジメントを含有する。セジメントの一部は、水素化処理および水素化分解の条件下に沈殿させられたアスファルテンによって構成され、それらは、既存セジメント(IP375)として分析される。IP375方法の測定の不確定性は、3種未満の内容物について±0.1であり、3種以上の内容物について±0.2である。
【0082】
水素化分解条件に応じて、重質液体フラクション中のセジメント含有率は変動する。分析的な観点から、既存セジメント(IP375)と、潜在的セジメントを含む経時後セジメント(IP390)との間で区別がなされる。ここで、過酷な水素化分解条件、すなわち、転化率が例えば30%超、さらには40%超または50%超である時は、既存セジメントおよび潜在的セジメントの形成が起こる。これらの既存セジメントまたは潜在的セジメントが現れる転化の閾値はない。それらは、操作条件(温度、圧力、滞留時間、触媒のタイプ、触媒齢等)に、さらには、供給原料のタイプ(起源、沸騰範囲、供給原料の混合等)に由来するからである。
【0083】
経時後セジメント含有率(IP390)の勧告:0.1%以下に対応する燃料油または燃料油ベースを得るために、本発明による方法は、セジメントの分離の効率を改善すること、それ故に、安定した燃料油または燃料油ベース、すなわち、経時後セジメント含有率:0.1重量%以下を得ることを可能にする沈殿段階を含む。経時後セジメント含有率は、IP390法によって測定され、測定不確定性は±0.1である。
【0084】
本発明による沈殿段階は、種々の変形例e1)、e2)、e3)に従って実施され得る:
− 不安定化による沈殿e1):これは、分離段階d)を起源とする重質液体フラクションを、蒸留液留分と接触させることからなる、
− 酸化による沈殿e2):これは、分離段階d)を起源とする重質液体フラクションを、酸化剤と接触させることからなる、
− 酸化・不安定化による沈殿e3):これは、分離段階d)を起源とする重質液体フラクションを、蒸留液留分および酸化剤と接触させることからなる。
【0085】
(不安定化による沈殿の変形例e1))
本発明の方法による不安定化による沈殿の段階e1)は、分離段階d)を起源とする重質液体フラクションを、蒸留液留分と接触させることを含む。この蒸留液留分は、一般的には原油の蒸留によって得られた、または、精製方法を起源とする炭化水素を含むものである。これらの炭化水素は、有利には、パラフィン、好ましくは最低20%のパラフィンを含む。これらの炭化水素は、典型的には、大気圧条件下の沸騰温度:−42℃〜400℃を有する。これらの炭化水素は、典型的には3個超の炭素原子、一般的には3〜40個の炭素原子からなる。これらは、例えば、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ナフサ、ケロセン、常圧ガスオイルまたは真空ガスオイルのタイプの留分であってよく、これらは、単独または混合物で用いられる。好ましくは、蒸留液留分の最低20重量%は、100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは150℃以上の沸騰温度を有する。
【0086】
本発明による変形例において、蒸留液留分は、100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは150℃以上の沸騰温度を有する最低25重量%を含む点で特徴付けられる。
【0087】
有利には、本発明による蒸留液留分の最低5重量%、さらには、10重量%は、最低252℃の沸騰温度を有する。
【0088】
より有利には、本発明による蒸留液留分の最低5重量%、さらには、最低10重量%は、最低255℃の沸騰温度を有する。
【0089】
前記蒸留液留分は、部分的に、さらには全体的に、本発明の分離段階d)または別の精製方法あるいは別の化学的方法を起源とすることができる。
【0090】
本発明による蒸留液留分の使用は、高付加価値留分、例えば、ナフサタイプの石油化学留分の大部分の使用をなしで済ますという利点も有する。
【0091】
さらに、本発明による蒸留液留分の使用により、セジメントから分離される重質液体フラクションの収率を改善することが可能になる。実際に、本発明による蒸留液留分の使用により、セジメントから分離されるべき重質液体フラクション中の品質向上させられ得る化合物の可溶化を維持することが可能になる。これは、品質向上させられ得るこれらの化合物がセジメントと共に沈殿させられるより低い沸点を有する留分を使用するのとは異なっている。
【0092】
蒸留液留分は、ナフサタイプの留分および/または真空ガスオイルおよび/または真空残渣のタイプの留分との混合物で用いられ得る。前記蒸留液留分は、段階d)の終わりに得られた軽質フラクション、段階d)を起源とする重質フラクションとの混合物で用いられ得、これらのフラクションは、単独または混合物で用いられ得る。本発明による蒸留液留分が、別の留分である、上記に指し示されたような軽質フラクションおよび/または重質フラクションと混合される場合、その比率は、生じる混合物が、本発明による蒸留液留分の特徴に一致するように選択される。
【0093】
本発明による蒸留液留分と分離段階d)の終わりに得られた重質フラクションとの間の重量比は、0.01〜100、好ましくは0.05〜10、より好ましくは0.1〜5、一層より好ましくは0.1〜2である。本発明による蒸留液留分が本方法から抜き出される時、所望の比に達するように始動期間の間にこの留分を蓄積することが可能である。
【0094】
本発明による蒸留液留分は、部分的に、液体炭化水素含有フラクションの回収の段階g)を起源とすることもできる。
【0095】
有利には、変形例e1)は、不活性ガス、例えば、二原子窒素および/または水素を豊富に含むガス、好ましくは、本発明の方法、特に分離段階d)を起源とするものの存在下に行われる。
【0096】
(酸化による沈殿の変形例e2))
本発明の方法による酸化による沈殿の段階e2)は、分離段階d)を起源とする重質液体フラクションを、気体、液体または固体の酸化性化合物と接触させることを含む。酸化性化合物の使用は、沈殿方法をスピードアップするという利点を有する。「酸化性ガス(oxidizing gas)」とは、単独または混合物で用いられる、二原子酸素、オゾンまたは酸化窒素を含有することができ、場合によっては、不活性ガスが補われたものとしてのガスを意味する。この酸化性ガスは、空気または窒素減損空気であり得る。拡張によって、酸化性ガスは、例えば水の存在下に酸素の形成を容易にもたらすハロゲン化ガス(例えばジクロリド)であり得る。「酸化性液(oxidizing liquid)」とは、含酸素化合物、例えば、水、過酸化物、例えば、含酸素水、過酸、あるいは、鉱物酸化性溶液、例えば、硝酸塩(例えば硝酸アンモニウム)または過マンガン酸塩(例えば過マンガン酸カリウム)または塩素酸塩または次亜塩素酸塩または過硫酸の溶液または鉱物酸、例えば、硫酸を意味する。この変形例によると、少なくとも1種の気体、液体または固体の酸化性化合物は、次いで、分離段階d)を起源とする重質液体フラクションおよび本発明による蒸留液留分と、セジメントの沈殿の段階e)の実施の間に混合される。
【0097】
(酸化・不安定化による沈殿の変形例e3))
本発明の方法による酸化・不安定化による沈殿の段階e3)は、分離段階d)を起源とする重質液体フラクションを、不安定化による沈殿の変形例e1)において規定されたような蒸留液留分および酸化による沈殿の変形例e2)において規定されたような気体、液体または固体の酸化性化合物と接触させることを含む。変形例e3)の間に、分離段階d)を起源とする重質液体フラクションを少なくとも1種の蒸留液留分および少なくとも1種の酸化性化合物と接触させる異なる過程の組み合わせがあり得る。接触させるこれらの過程は、沈殿を最適にするために連続的または同時であり得る。
【0098】
変形例e1)、e2)またはe3)に従って実施される、本発明による沈殿段階e)により、(潜在的セジメントを既存セジメントに転化させることにより)既存セジメントおよび潜在的セジメントの全てを得て、それらをより効率的に分離し、それ故に、経時後セジメント含有率(IP390):最大0.1重量%を達成することが可能となる。
【0099】
変形例e1)、e2)またはe3)に従って実施される本発明による沈殿段階e)は、有利には、滞留時間:500分未満、好ましくは300分未満、より好ましくは60分未満にわたって、温度:25〜350℃、好ましくは50〜350℃、好ましくは65〜300℃、より好ましくは80〜250℃で実施される。沈殿段階の圧力は、有利には20MPa未満、好ましくは10MPa未満、より優先的には3MPa未満、一層より優先的には1.5MPa未満である。
【0100】
本発明による沈殿段階e)は、複数種の設備アイテムを用いて行われ得る。静的ミキサ、オートクレーブまたは撹拌タンクが、場合によっては、分離段階d)の終わりに得られた重質液体フラクションと本発明による蒸留液留分および/または本発明による酸化性化合物との間の効果的な接触を促進するために用いられ得る。1基または複数基の交換器が、段階d)の終わりに得られた重質液体フラクションと、本発明による蒸留液留分および/または本発明による酸化性化合物とを混合する前またはその後に、所望の温度を達成するために用いられ得る。1個または複数個の容器、例えば、水平または垂直のドラムが、直列でまたは並列で用いられ得、これらは、場合によっては、本発明による蒸留液留分の一部および/または本発明による酸化性化合物の一部または全部、さらには、最も重質の固体の一部を除去するためのデカンテーション機能を有している。場合によっては、温度レギュレーションを可能にするダブルジャケットを備えた、撹拌式タンクも用いられ得る。このタンクは、最重質固体の一部を除去するために底部において抜き出しデバイスを備えることができる。
【0101】
段階e)の終わりに、既存セジメントを豊富に含む炭化水素含有フラクションが得られる。このフラクションは、少なくとも部分的に、変形例e1)または酸化・不安定化によるe3)による実施の間に、本発明による蒸留液留分を含むことができる。豊富な含有率のセジメントを有する炭化水素含有フラクションは、セジメントの物理的分離の段階f)に送られる。
【0102】
(段階f):セジメントの分離)
本発明による方法は、セジメントを物理的に分離して液体炭化水素含有フラクションを得る段階f)も含む。
【0103】
沈殿段階e)の終わりに得られた重質液体フラクションは、沈殿アスファルテンタイプの有機セジメントを含有し、これは、本発明による水素化分解条件および沈殿条件に由来する。
【0104】
それ故に、沈殿段階e)を起源とする重質液体フラクションの少なくとも一部は、セジメントの分離に付され、これは、固−液タイプの分離であり、この分離は、フィルタ、分離膜、有機または無機のタイプの固体のろ過床、電気集塵、静電フィルタ、遠心分離システム、デカンテーション、遠心力デカンタ、ウォームねじによる抜き出しから選択される物理的分離手段を用いることができる。直列および/または並列にあり、連続的に操作することができる、同一タイプまたは異なるタイプの複数種の分離手段の組み合わせがこのセジメント分離段階f)の間に用いられ得る。これらの固−液分離技術の一つは、軽質リンス処理フラクションの定期的使用を要求することができ、この軽質リンス処理フラクションは、本方法を起源とするかまたは起源としないものであり、例えばフィルタを洗浄することおよびセジメントを除去することを可能とする。
【0105】
セジメント分離段階f)の終わりに、液体炭化水素含有フラクションが得られる(経時後セジメント含有率は0.1重量%以下である)。低減したセジメント含有率を有するこのフラクションは、少なくとも部分的に、段階e)の間に導入された本発明による蒸留液留分を含むことができる。本発明による蒸留液留分の非存在下に、低減したセジメント含有率を有する液体炭化水素含有フラクションは、有利には、燃料油ベースまたは燃料油、特に、バンカー油ベースまたはバンカー油であって、経時後セジメント含有率が0.1重量%未満であるものとしての機能を果たすことができる。
【0106】
(段階g):液体炭化水素含有フラクションの回収)
本発明によると、段階f)を起源とする混合物は、有利には、液体炭化水素含有フラクションであって、経時後セジメント含有率が0.1重量%以下であるものの回収の段階g)に導入され、この段階g)は、段階e)の間に導入された蒸留液留分から段階f)を起源とする液体炭化水素含有フラクションを分離することからなる。段階g)は、分離段階d)に類似する分離段階である。段階g)は、分離器ドラムおよび/または蒸留塔タイプの設備アイテムによって実施され得、一方では、段階e)の間に導入された蒸留液留分の少なくとも一部が、他方では、液体炭化水素含有フラクションであって、経時後セジメント含有率が0.1重量%以下であるものが分離される。
【0107】
有利には、段階g)からの分離された蒸留液留分の一部は、沈殿段階e)に再循環させられる。
【0108】
前記液体炭化水素含有フラクションは、有利には、燃料油ベースまたは燃料油、特に、バンカー油ベースまたはバンカー油であって、経時後セジメント含有率が0.1重量%以下であるものとして機能を果たし得る。有利には、前記液体炭化水素含有フラクションは、接触分解方法からのライトサイクルオイル、接触分解方法からのヘビーサイクルオイル、接触分解方法からの残渣、ケロセン、ガスオイル、真空蒸留液および/またはデカント油によって構成される群から選択される1種または複数種の流動化ベース(fluxing base)と混合される。
【0109】
特定の実施形態によると、本発明による蒸留液留分の一部は、低減したセジメント含有率を有する液体炭化水素含有フラクション中に静置され得、その結果、混合物の粘度は、直接的に、燃料油の所望グレードの粘度、例えば、50℃で180または380cStになる。
【0110】
(流動化)
本発明による液体炭化水素含有フラクションは、少なくとも部分的に、有利には、燃料油ベースまたは燃料油、特に、バンカー油ベースまたはバンカー油であって、経時後セジメント含有率が0.1重量%以下であるものとして用いられ得る。
【0111】
「燃料油(fuel oil)」とは、本発明において、炭化水素含有フラクションであって、燃料として用いられ得るものを意味する。「燃料油ベース(fuel-oil base)」とは、本発明において、炭化水素含有フラクションであって、他のベースと混合された時に、燃料油を構成するものを意味する。
【0112】
燃料油を得るために、段階d)またはg)を起源とする液体炭化水素含有フラクションは、接触分解からのライトサイクルオイル、接触分解からのヘビーサイクルオイル、接触分解からの残渣、ケロセン、ガスオイル、真空蒸留液および/またはデカント油によって構成される群から選択される1種または複数種の流動化ベースと混合され得る。好ましくは、ケロセン、ガスオイルおよび/または本発明の方法において生じた真空蒸留液が用いられることになる。
【0113】
流動化物(fluxant)の一部は、本発明による蒸留液留分の一部または全部であるとして導入され得る。
【0114】
(実施例)
(実施例1(本発明に合致しない))
供給原料は、中東起源の常圧残渣(atmospheric residues:AR)の混合物である。この混合物は、大量の金属(100重量ppm)および硫黄(4.0重量%)、並びに7%の[370−]によって特徴付けられる。
【0115】
水素化処理方法は、固定床水素化処理セクションの上流の水素化脱金属(HDM)の第1段階において2基の配列可変の反応器(Ra)および(Rb)の使用を含む。
【0116】
第1のいわゆる水素化脱金属段階の間に、供給原料である炭化水素と水素がHDM触媒上をHDM条件下に通され、次いで、その後の第2の段階の間に、第1の段階からの流出物がHDT触媒上にHDT条件下に通される。HDM段階は、配列可変の床((Ra)、(Rb))を有するHDM帯域を含む。HDT水素化処理段階は、3基の固定床反応器((R1)、(R2)、(R3))を含む。
【0117】
水素化処理段階の終わりに得られた流出物は、フラッシュにより分離されて、液体フラクションと、ガス、特に、H、HS、NHおよびC1−C4炭化水素を含有するガスフラクションとが得られる。液体フラクションは、次いで、塔内でストリッピングされ、次いで、常圧塔、次いで、真空塔において、複数の留分に分画される(IBP−350℃、350−520℃および520℃+(表5参照))。
【0118】
2基の水素化脱金属配列可変反応器(Ra)および(Rb)は、水素化脱金属触媒を装填される。3基の水素化処理反応器(R1)、(R2)および(R3)は、水素化処理触媒を装填される。
【0119】
本方法は、15MPaの水素分圧下に、サイクルのスタート時の反応器の入口における温度:360℃およびサイクルの終わりにおける温度:420℃で行われる。
【0120】
下記の表2には、異なるセクションについてのサイクルにわたる滞留時間および平均温度が示される。サイクルの間、各配列可変の反応器(Ra)および(Rb)は、水素化脱金属触媒を新しくするために3週にわたってオフラインとされる。これらの条件は、最先端に従って、11月の操作の継続期間にわたり、90%超のHDM率に設定された。
【0121】
下記の表1には、各触媒反応器についての毎時空間速度(HSV)、および記載された操作様式に従うサイクルの全体にわたって得られた対応する平均温度(WABT)が示される。
【0122】
【表1B】
【0123】
WABTは、床の高さを通した平均温度(場合によっては、特定の床の部分に異なる重量を与える荷重を伴う)であり、また、1サイクルの期間の間の時間にわたって平均される。
【0124】
本発明に合致しない例により得られた収率が、本発明に合致する例において示される収率との比較のために表4に提示される。
【0125】
(実施例2(本発明に合致する))
本発明による方法が、この実施例において、水素化脱金属段階の反応器および水素化処理(HDT)の段階b)の反応器(R1)および(R2)について、同一の供給原料、同一の触媒により、同一の操作条件下により操作される。
【0126】
本発明による方法は、従来技術の水素化処理(HDT)セクションにおいて現れる反応器(R3)の部分を置き換えた、(Rc)および(Rd)で表記される2基の新しい水素化分解配列可変反応器の使用を含む。水素化分解段階c)は、固定床水素化処理段階b)の下流において高温で行われ、2基の反応器(R1)および(R2)のみを含む。
【0127】
下記の表2には、4基の配列可変の反応器(Ra)、(Rb)、(Rc)および(Rd)の周りの操作の例が与えられる。
【0128】
【表2】
【0129】
段階c)の終わりに得られた流出物は、精製に関して実施例1のものに類似しているが、より多く転化させられている。
【0130】
水素化分解段階c)の2基の反応器(Rc)および(Rd)は、水素化分解触媒を装填される。
【0131】
本方法は、15MPaの水素分圧下に行われ、サイクルのスタート時の反応器の入口における温度は360℃であり、サイクルの終わりにおいて420℃である。
【0132】
サイクルの間、各配列可変の反応器(Rc)および(Rd)は、水素化分解触媒を新たにするために3週にわたってオフラインとされる。下記の表3には、各触媒反応器についての毎時空間速度(HSV)、および記載された操作様式によるサイクルの全体にわたって得られた対応する平均温度(WABT)が示される。
【0133】
【表3】
【0134】
下記の表4には、本発明に合致しない例および本発明に合致する例により得られた収率および水素消費の比較が提示される。
【0135】
【表4】
【0136】
したがって、表2、3および4によると、配列可変の反応器による水素化分解セクション(段階c)を組み入れる本発明による方法により、サイクルの平均WABTにおける上昇(+4℃)並びにHSVにおける増加がなされることは明らかである。WABTは、1サイクルの間の床の平均温度である。
【0137】
HSVは、供給原料の容積流量対反応器内に含有される触媒の容積の比である。
【0138】
表4によると、WABTに関して得られた利得(+4℃)は、最も品質向上可能である留分の収率における増加に反映されている:[IBP−350℃]留分に関して+0.9ポイントおよび[350℃−520℃]留分に関して+1.9ポイント。
【0139】
本発明に従って記載されたサイクルの間に、配列可変の床の平均温度(WABT)は、配列可変の反応器の更新にもかかわらず、触媒の全ての失活を補うように上昇する。
【0140】
温度上昇の結果として、重質留分(例えばバンカー油)の使用に応じて、弊害をもたらし得るセジメントの形成があるかもしれない。
【0141】
本発明に合致する例において、常圧残渣(350℃+)中の経時後セジメント含有率(IP390)は、水素化分解の配列可変の反応器のWABTが402℃超であるサイクルの部分において0.1重量%超である。
【0142】
この場合、常圧残渣(350−520℃留分および520℃+留分によって構成される)は、以下の2つの変形例に従うセジメントの沈殿および分離の段階に付される。
【0143】
(− 不安定化による沈殿)
常圧残渣は、方法を起源とするガスオイル留分(150−350℃)である蒸留液留分と、50/50 vol/volの割合で、5分にわたって80℃で混合される。この混合物は、次いで、ろ過されて、沈殿セジメントが除去され、次いで、低減したセジメント含有率を有する液体フラクション(IP390、0.1重量%未満)が蒸留されて、一方では蒸留液留分(150−350)が、他方では低減したセジメント含有率を有する常圧残渣(350+)(IP390、0.1重量%未満)が回収される。
【0144】
(− 酸化による沈殿)
常圧残渣は、オートクレーブにおいて2バールの酸素圧力下の空気と、撹拌下に6時間にわたって200℃で接触させられる。減圧の後、常圧残渣は、次いで、ろ過されて、沈殿セジメントが除去され、低減したセジメント含有率を有する液体フラクション(IP390、0.1重量%未満)が得られる。不安定化による沈殿および酸化による沈殿の後に回収された常圧残渣(350−520℃留分および520℃+留分によって構成される)は、50℃において280cStの粘度を有する。それらは、経時後セジメント含有率:0.1重量%未満および硫黄含有率:0.5重量%S未満も有する。規格ISO8217によると、これらの常圧残渣は、RMG 380グレードの残渣タイプ船用燃料として販売され得る。硫黄含有率:0.5重量%未満に起因して、これらの船用燃料は、2020−25年の後に船が排ガススクラバデバイスを備えなくてもSECAゾーン外で用いられ得ることになる。
【図面の簡単な説明】
【0145】
図1】本発明の実施を示すフローチャートを示す。
図2】本発明の一連の反応器の利用を示す単純化フローチャートを示す。
図1
図2