(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
TPP1を非齧歯類哺乳動物の中枢神経系に送達するための組成物であって、AAVキャプシドタンパク質および一対のAAV逆方向末端反復の間に挿入されるTPP1をコードする核酸を含むベクターを含むrAAV粒子を含み、該組成物は、該非齧歯類哺乳動物の脳脊髄液(CSF)と接触する上衣細胞を感染させ、そして、該細胞が該非齧歯類哺乳動物において該TPP1を発現するために有効な様式で該非齧歯類哺乳動物の大槽、くも膜下腔および/または髄膜下腔に投与されることを特徴とし、該組成物は、免疫抑制剤と組み合わせて投与され、該免疫抑制剤は抗炎症剤であることを特徴とし、ここで、該rAAV粒子は、rAAV2粒子である、組成物。
非齧歯類哺乳動物において疾患を処置するための組成物であって、AAVキャプシドタンパク質および一対のAAV逆方向末端反復の間に挿入されるTPP1をコードする核酸を含むベクターを含むrAAV粒子を含み、該組成物は、該非齧歯類哺乳動物の脳脊髄液(CSF)と接触する上衣細胞を感染させるために有効な様式で該哺乳動物の大槽、くも膜下腔および/または髄膜下腔に投与され、ここで該細胞は、該疾患を処置するように該TPP1を発現することを特徴とし、該組成物は、免疫抑制剤と組み合わせて投与され、該免疫抑制剤は抗炎症剤であり、該疾患は、後発型小児性セロイドリポフスチン蓄積症(LINCL)であることを特徴とし、ここで、該rAAV粒子は、rAAV2粒子である、組成物。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(詳細な説明)
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、パルボウイルス科の小さな非病原性ウイルスである。AAVは、複製するためにヘルパーウイルスに依存することで、この科の他のメンバーとは異なる。ヘルパーウイルスの非存在下では、AAVは、第19染色体のqアームへと位置特異的な様式で組み込まれ得る。AAVの約5kbのゲノムは、プラス極性もしくはマイナス極性いずれかの1本鎖DNAの1つのセグメントからなる。上記ゲノムの末端は、ヘアピン構造へと折りたたまれ得、ウイルスDNA複製起点として働き得る短い逆方向末端反復である。物理的には、パルボウイルスビリオンは、エンベロープに包まれておらず、その正二十面体キャプシドは、直径約20nmである。
【0020】
今日まで、多くの血清学的に異なるAAVが同定されており、ヒトもしくは霊長類から12種より多くが単離された。AAV2のゲノムは、長さ4680ヌクレオチドであり、2つのオープンリーディングフレーム(ORF)を含む。左のORFは、非構造Repタンパク質、Rep 40、Rep 52、Rep 68およびRep 78をコードし、これらは、1本鎖の子孫ゲノムの生成に加えて、複製および転写の調節に関与する。さらに、上記Repタンパク質のうちの2つは、ヒト第19染色体のqアームの領域へとAAVゲノムを優先的に組み込むことに関連した。Rep68/78はまた、NTP結合活性、ならびにDNAおよびRNAヘリカーゼ活性を有することが示された。上記Repタンパク質は、核局在シグナルおよびいくつかの潜在的リン酸化部位を有する。これらキナーゼ部位のうちの1つの変異は、複製活性の喪失を生じた。
【0021】
ゲノムの末端は、ウイルスDNA複製起点として働くT字形のヘアピン構造へと折りたたまれる可能性を有する短い逆方向末端反復(ITR)である。上記ITR領域内では、上記ITRの機能に中心的である2つのエレメント、GAGC反復モチーフおよび末端分離部位(terminal resolution site)(trs)が説明されてきた。上記反復モチーフは、上記ITRが直線状コンホメーションもしくはヘアピンコンホメーションのいずれかにある場合に、Repを結合することが示された。この結合は、部位特異的および鎖特異的様式において起こる上記trsでの切断のためにRep68/78を適切な位置に置くように働く。複製におけるそれらの役割に加えて、これら2つのエレメントは、ウイルス組み込みに重要であるようである。第19染色体組み込み部位内に含まれるのは、Rep結合部位と隣接するtrsである。これらエレメントは、位置特異的組み込みに対して機能的かつ必須であることが示された。
【0022】
AAVビリオンは、エンベロープに包まれていない、VP1、VP2およびVP3といわれる3種の関連タンパク質からなる、約25nm直径の正二十面体粒子である。右のORFは、キャプシドタンパク質VP1、VP2、およびVP3をコードする。これらタンパク質は、それぞれ、1:1:10の比で見出され、全て右側のORFに由来する。上記キャプシドタンパク質は、選択的スプライシングおよび通常出ない開始コドンの使用によって互いに異なる。欠失分析は、選択的スプライシングされたメッセージから翻訳されるVP1の除去もしくは変化が、感染性粒子の低下した収量を生じることを示した。上記VP3コード領域内の変異は、いかなる1本鎖子孫DNAも感染性粒子も生成できないことを生じる。AAV粒子は、AAVキャプシドタンパク質を含むウイルス粒子である。AAVキャプシドポリペプチドは、VP1、VP2およびVP3ポリペプチド全体をコードし得る。上記粒子は、AAV2および他のAAVキャプシドタンパク質(すなわち、AAV4およびAAV2のようなキメラタンパク質)を含む粒子であり得る。AAV2キャプシドタンパク質のアミノ酸配列におけるバリエーションは、上記AAV2キャプシドを含む得られるウイルス粒子が、標準的方法によって慣用的に決定される場合にAAV4とは抗原的にもしくは免疫学的に異なったままである限りにおいて本明細書で企図される。具体的には、例えば、ELISAおよびウェスタンブロットは、ウイルス粒子がAAV4とは抗原的にもしくは免疫学的に異なるか否かを決定するために使用され得る。さらに、上記AAV2ウイルス粒子は、好ましくは、AAV4とは異なる組織向性を保持する。
【0023】
AAV2粒子は、AAV2キャプシドタンパク質を含むウイルス粒子である。VP1、VP2、およびVP3ポリペプチド全体をコードするAAV2キャプシドポリペプチドは、全体的にみて、配列番号1に示されるヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を有するポリペプチド(AAV2キャプシドタンパク質)と少なくとも約63%相同性(もしくは同一性)を有し得る。上記キャプシドタンパク質は、配列番号1に示されるタンパク質と約70%相同性、約75%相同性、80%相同性、85%相同性、90%相同性、95%相同性、98%相同性、99%相同性、もしくはさらに100%相同性を有し得る。上記キャプシドタンパク質は、配列番号1に示されるタンパク質と約70%同一性、約75%同一性、80%同一性、85%同一性、90%同一性、95%同一性、98%同一性、99%同一性、もしくはさらに100%同一性を有し得る。上記粒子は、別のAAVおよびAAV2キャプシドタンパク質、すなわち、キメラタンパク質を含む粒子であり得る。上記AAV2キャプシドタンパク質のアミノ酸配列におけるバリエーションは、上記AAV2キャプシドを含む得られるウイルス粒子が標準的方法によって慣用的に決定され得る場合にAAV4とは抗原的にもしくは免疫学的に異なったままである限りにおいて、本明細書で企図される。具体的には、例えば、ELISAおよびウェスタンブロットは、ウイルス粒子がAAV4とは抗原的にもしくは免疫学的に異なるか否かを決定するために使用され得る。さらに、上記AAV2ウイルス粒子は、好ましくは、本明細書中の実施例において例証されるもののようなAAV4とは異なる組織向性を保持するが、少なくとも1つのAAV2コートタンパク質を含むAAV2キメラ粒子は、AAV2コートタンパク質のみからなるAAV2粒子のものとは異なる組織向性を有し得る。
【0024】
図1Aおよび
図1Bで示されるように、AAV2キャプシド配列およびAAV4キャプシド配列は、約60%相同性である。ある種の実施形態において、上記AAV2キャプシドは、配列番号1に示されるアミノ酸配列と少なくとも65%相同である配列を含む(もしくはからなる)。
【0025】
ある種の実施形態において、本発明は、一対のAAV2逆方向末端反復を含むベクターを含む、すなわち、キャプシド化するAAV2粒子をさらに提供する。AAV2 ITRのヌクレオチド配列は、当該分野で公知である。さらに、上記粒子は、AAV4およびAAV2両方のキャプシドタンパク質、すなわち、キメラタンパク質を含む粒子であり得る。さらに、上記粒子は、他のAAV(例えば、AAV1〜AAV9およびAAVrh10)に由来する一対のAAV逆方向末端反復を含むベクターをキャプシド化する粒子であり得る。上記粒子の中にキャプシド化されたベクターは、上記逆方向末端反復の間に挿入される外因性核酸をさらに含み得る。
【0026】
AAVの以下の特徴は、AAVを遺伝子移入にとって魅力的なベクターにしている。AAVベクターは、細胞ゲノムの中にインビトロで安定して組み込まれる;広い宿主範囲を有する;分裂している細胞および分裂していない細胞の両方にインビトロおよびインビボで形質導入され、その形質導入された遺伝子の高レベルの発現を維持することが示された。ウイルス粒子は、熱安定性であり、溶媒、界面活性剤、pH、温度の変化に耐性であり、CsCl勾配でもしくは他の手段によって濃縮され得る。本発明は、AAV粒子、組換えAAVベクター、および組換えAAVビリオンを投与するための方法を提供する。例えば、AAV2粒子は、AAV2キャプシドタンパク質を含むウイルス粒子であるか、またはAAV4粒子は、AAV4キャプシドタンパク質を含むウイルス粒子である。組換えAAV2ベクターは、AAV2のうちの少なくとも1つの特有の核酸を含む核酸構築物である。組換えAAV2ビリオンは、組換えAAV2ベクターを含む粒子である。用語「AAV2 ITR」内と考えられるには、上記ヌクレオチド配列は、上記AAV2 ITRを上記AAV4 ITRから区別する、本明細書で記載される一方の特徴もしくは両方の特徴を保持しなければならない:(1)3個の(AAV4におけるようにむしろ4個の)「GAGC」反復および(2)上記AAV2 ITR Rep結合部位において、最初の2個の「GAGC」反復の中の4番目のヌクレオチドが、TではなくCである。
【0027】
上記タンパク質もしくは送達される予定の別の薬剤をコードする配列の発現を駆動するプロモーターは、公知の考慮事項(例えば、上記プロモーターに機能的に連結される核酸の発現のレベルおよび上記ベクターが使用される予定の細胞タイプ)によって選択される、任意の所望のプロモーターであり得る。プロモーターは、外因性プロモーターであっても内因性プロモーターであってもよい。プロモーターは、例えば、公知の強力なプロモーター(例えば、SV40もしくは誘導性メタロチオネインプロモーター)、またはAAVプロモーター(例えば、AAV p5プロモーター)を含み得る。プロモーターのさらなる例としては、アクチン遺伝子、免疫グロブリン遺伝子、サイトメガロウイルス(CMV)、アデノウイルス、ウシパピローマウイルスに由来するプロモーター、アデノウイルスプロモーター(例えば、アデノウイルス主要後期プロモーター)、誘導性熱ショックプロモーター、呼吸器抱合体ウイルス、ラウス肉腫ウイルス(RSV)などが挙げられる。
【0028】
上記AAVベクターは、上記プロモーターに機能的に連結された外因性(異種)核酸をさらに含み得る。「異種核酸」とは、任意の異種もしくは外因性の核酸が、細胞、組織もしくは生物の中に移入するためのベクターの中に挿入され得ることを意味する。上記核酸は、例えば、ポリペプチドもしくはタンパク質、またはアンチセンスRNAをコードし得る。「機能的に連結される」とは、上記プロモーターが、当該分野で公知であるとおり、上記異種核酸の発現を促進し得ることになること(例えば、上記異種核酸に対する上記プロモーターの適切な配向)を意味する。さらに、上記異種核酸は、好ましくは、当該分野で公知であるとおり、機能的にコードする、すなわち、上記核酸が発現されることを可能にするために、上記核酸の発現に適切な配列を全て有する。上記核酸は、例えば、発現制御配列(例えば、エンハンサー)、および必須の情報プロセシング部位(例えば、リボソーム結合部位、RNAスプライス部位、ポリアデニル化部位、および転写終結配列)を含み得る。上記核酸は、パッケージされ得る核酸の大きさによってのみ限定される1種より多くの遺伝子産物をコードし得る。
【0029】
上記異種核酸は、上記ベクターが移入される被験体によって必要とされる、失われているもしくは欠損しているタンパク質に置き換わる有益なタンパク質をコードし得るか、または例えば、癌細胞もしくは死滅が被験体にとって有益である他の細胞に指向され得る細胞傷害性ポリペプチドをコードし得る。上記異種核酸はまた、有害なタンパク質をコードする被験体によって作られたmRNAに結合し得、それによって不活性化し得るアンチセンスRNAをコードし得る。一実施形態において、アンチセンスポリヌクレオチドは、AAVウイルス構築物の中の異種発現カセットから生成され得、ここで上記発現カセットは、細胞タイプ特異的発現を促進する配列を含む。
【0030】
本発明のAAVベクターの一部として細胞もしくは被験体に投与され得る異種核酸の例としては、以下が挙げられ得るが、これらに限定されない:治療剤(例えば、リソソーム加水分解酵素;腫瘍壊死因子(TNF)(例えば、TNF−α);インターフェロン(例えば、インターフェロン−α、インターフェロン−β、およびインターフェロン−γ);インターロイキン(例えば、IL−1、IL−1β、およびIL−2〜IL−14);GM−CSF;アデノシンデアミナーゼ;分泌される因子(例えば、増殖因子);イオンチャネル;化学療法剤;リソソームタンパク質;抗アポトーシス遺伝子産物;神経生存を促進するタンパク質(例えば、グルタメートレセプターおよび増殖因子);細胞増殖因子(例えば、リンホカイン);可溶性CD4;第VIII因子;第IX因子;T細胞レセプター;LDLレセプター;ApoE;ApoC;α−1アンチトリプシン;オルニチントランスカルバミラーゼ(OTC);嚢胞性線維症膜貫通タンパク質(CFTR);インスリン;抗体(例えば、免疫グロブリン)の抗原結合ドメインのFcレセプター;ならびにウイルス複製を阻害するアンチセンス配列(例えば、B型関連ウイルスもしくは非A非B型肝炎ウイルスの複製を阻害するアンチセンス配列)をコードする核酸。さらに、上記核酸は、パッケージされ得る核酸の大きさによってのみ制限される、1種より多くの遺伝子産物をコードし得る。
【0031】
AAV2粒子は、AAV2キャプシドタンパク質を含むウイルス粒子である。上記AAV2キャプシドタンパク質のアミノ酸配列におけるバリエーションは、上記AAV2キャプシドを含む得られるウイルス粒子が標準的方法によって慣用的に決定され得るとおりにAAV4とは抗原的にもしくは免疫学的に異なる限りにおいて、本明細書で企図される。具体的には、例えば、ELISAおよびウェスタンブロットは、ウイルス粒子が他のAAV血清タイプとは抗原的にもしくは免疫学的に異なるか否かを決定するために使用され得る。
【0032】
用語「ポリペプチド」とは、本明細書で使用される場合、アミノ酸のポリマーをいい、全長タンパク質およびそのフラグメントを含む。従って、「タンパク質」および「ポリペプチド」はしばしば、本明細書で交換可能に使用される。置換は、中立的であることが公知のパラメーターによって選択され得る。当業者によって認識されるように、本発明はまた、アミノ酸配列におけるわずかなバリエーションもしくは他の特性を有するそれらポリペプチドを含む。このようなバリエーションは、対立遺伝子バリエーションとして(例えば、遺伝的多型に起因して)天然に生じ得るか、またはヒトの介入によって(例えば、誘導される点、欠失、挿入および置換変異体のような、クローニングされたDNA配列の変異誘発によって)生成され得る。アミノ酸配列における小さな変化が一般に好ましい(例えば、保存的アミノ酸置換、小さな内部欠失もしくは挿入、および分子の末端での付加もしくは欠失)。これら改変は、アミノ酸配列における変化を生じ得るか、サイレント変異を提供し得るか、制限部位を改変し得るか、または他の特定の変異を提供し得る。
【0033】
本発明の方法は、核酸を細胞に送達するための方法を提供し、上記方法は、上記細胞に、一対のAAV逆方向末端反復の間に挿入される核酸を含むベクターを含むAAV粒子を投与し、それによって、上記核酸を上記細胞に送達する工程を包含する。上記細胞への投与は、任意の手段(単に上記粒子を上記細胞と接触させる、必要に応じて、望ましい液体(例えば、組織培養培地、もしくは緩衝化生理食塩水溶液)中に上記細胞と共に含められることを含む)によって達成され得る。上記粒子は、任意の望ましい時間の長さにわたって上記細胞と接触した状態のままにさせられ得、代表的には、上記粒子は、投与され、無期限に保持させられ得る。このようなインビトロの方法に関しては、上記ウイルスは、当該分野で公知でありかつ本明細書で例証されるように、標準的なウイルス形質導入法によって上記細胞に投与され得る。投与するウイルスの力価は、具体的には細胞タイプに依存して変動し得るが、一般に、AAV形質導入に使用されるものに代表される。さらに、本発明の例で特定の細胞を形質導入するために使用される力価が利用され得る。上記細胞は、ヒト、ならびに他の大きな(非齧歯類)哺乳動物、例えば、霊長類、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、およびイヌの任意の所望の細胞を含み得る。
【0034】
より具体的には、本発明は、循環するCSFに接触している細胞(例えば、上衣細胞、軟膜細胞、髄膜細胞、脳の内皮細胞)に核酸を送達するための方法を提供し、上記方法は、上記細胞に、一対のAAV逆方向末端反復の間に挿入される核酸を含むベクターを含むAAV粒子を投与し、それによって、上記核酸を上記細胞に送達する工程を包含する。
【0035】
本発明はさらに、被験体において核酸を細胞に送達するための方法を提供し、上記方法は、上記被験体に、一対のAAV逆方向末端反復の間に挿入される核酸を含むAAV粒子を投与し、それによって、上記被験体において上記核酸を細胞に送達する工程を包含する。
【0036】
被験体において上衣細胞、軟膜細胞もしくは他の髄膜細胞に核酸を送達するための方法もまた提供され、上記方法は、上記被験体に、一対のAAV逆方向末端反復の間に挿入される核酸を含むAAV粒子を投与し、それによって、上記被験体において上衣細胞、軟膜細胞もしくは他の髄膜細胞に上記核酸を送達する工程を包含する。
【0037】
ある種の実施形態において、脳血管内皮を標的とするアミノ酸配列は、疾患(例えば、リソソーム蓄積症)を有する被験体において脳血管内皮を標的とする。
【0038】
ある種の実施形態において、上記脳血管内比を標的とするアミノ酸配列は、リソソーム蓄積症を有しない被験体において脳血管内皮を標的とする。
【0039】
ある種の実施形態において、上記ウイルスベクターは、治療剤をコードする核酸配列を含む。ある種の実施形態において、上記治療剤は、TPP1である。
【0040】
本開示のある種の実施形態は、本明細書で記載されるとおりのウイルスベクターを含む細胞を提供する。
【0041】
本開示のある種の実施形態は、本明細書で記載されるとおりのウイルスベクターもしくは上記細胞を哺乳動物に投与する工程を包含する、上記哺乳動物において疾患を処置するための方法を提供する。
【0042】
ある種の実施形態において、上記哺乳動物は、ヒトである。
【0043】
ある種の実施形態において、上記疾患は、リソソーム蓄積症(LSD)である。ある種の実施形態において、上記LSDは、小児性セロイドリポフスチン蓄積症もしくは後発型小児性セロイドリポフスチン蓄積症(LINCL)、ゴーシェ病、若年性バッテン病、ファブリー病、MLD、サンフィリッポ症候群A型、後発型小児性バッテン病、ハンター症候群、クラッベ病、モルキオ症候群、ポンペ病、ニーマン・ピック病C型、テイ・サックス病、ハーラー症候群(MPS−I H)、サンフィリッポ症候群B型、マロトー・ラミー症候群、ニーマン・ピック病A型、シスチン症、ハーラー・シャイエ症候群(MPS−I H/S)、スライ症候群(MPS VII)、シャイエ症候群(MPS−I S)、小児性バッテン病、GM1ガングリオシドーシス、ムコリピドーシスII/III型、もしくはサンドホフ病である。
【0044】
ある種の実施形態において、上記疾患は、神経変性疾患である。ある種の実施形態において、上記神経変性疾患は、アルツハイマー病、ハンチントン病、ALS、遺伝性痙性片麻痺、原発性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症、ケネディー病、ポリグルタミンリピート病、もしくはパーキンソン病である。
【0045】
本開示のある種の実施形態は、被験体の中枢神経系に薬剤を送達するための方法を提供し、上記方法は、上記CSFに本明細書で記載されるウイルスベクターを投与し、その結果、形質導入された上衣細胞、軟膜細胞、内皮細胞および/もしくは他の髄膜細胞が上記治療剤を発現し、上記薬剤を上記被験体の中枢神経系に送達する工程を包含する。ある種の実施形態において、上記ウイルスベクターは、上衣細胞、軟膜細胞、内皮細胞および/もしくは他の髄膜細胞を形質導入する。
【0046】
本開示のある種の実施形態は、医療処置において使用するための本明細書で記載されるとおりのウイルスベクターもしくは細胞を提供する。
【0047】
本開示のある種の実施形態は、哺乳動物において、疾患、例えば、リソソーム蓄積症を処置するために有用な医薬を調製するための、本明細書で記載されるとおりのウイルスベクターもしくは細胞の使用を提供する。
【0048】
上記ベクターは、リソソーム酵素(例えば、リソソーム加水分解酵素)、分泌されるタンパク質、核タンパク質、もしくは細胞質タンパク質をさらに含み得る。本明細書で使用される場合、用語「分泌されるタンパク質」とは、天然に分泌されるか、それが分泌され得るようにシグナル配列を含むように改変されているかに関わらず、任意の分泌されるタンパク質を含む。
【0049】
本開示のある種の実施形態は、哺乳動物において、疾患、例えば、アルツハイマー病を処置するために有用な医薬を調製するための、本明細書で記載されるとおりのウイルスベクターもしくは細胞の使用を提供する。
【0050】
上記ベクターは、保護性のApoEアイソフォームタンパク質をさらに含み得る。本明細書で使用される場合、用語「分泌されるタンパク質」とは、天然に分泌されるか、それが分泌され得るようにシグナル配列を含むように改変されているかに関わらず、任意の分泌されるタンパク質を含む。核酸は、これが別の核酸配列と機能的関係に置かれる場合、「作動可能に連結」される。一般に、「作動可能に連結される」とは、連結されるDNA配列が連続していることを意味する。しかし、エンハンサーは、連続していなくてもよい。連結は、便利な制限部位でのライゲーションによって達成される。このような部位が存在しない場合には、合成オリゴヌクレオチドアダプターもしくはリンカーが、従来の実務に従って使用される。さらに、酵素をコードする核酸の複数のコピーが、発現ベクターの中に一緒に連結され得る。このような複数の核酸は、リンカーによって分離され得る。
【0051】
本開示はまた、本明細書で記載されるベクターを含む哺乳動物細胞を提供する。上記細胞は、ヒトであり得、脳由来であり得る。その細胞タイプは、幹細胞もしくは前駆細胞集団であり得る。
【0052】
本開示は、本明細書で記載されるポリヌクレオチド、ポリペプチド、発現ベクター、もしくは細胞を投与することによって、哺乳動物において遺伝的疾患もしくは癌のような疾患を処置するための方法を提供する。上記遺伝的疾患もしくは癌は、リソソーム蓄積症(LSD)、例えば、小児性セロイドリポフスチン蓄積症もしくは後発型小児性セロイドリポフスチン蓄積症、ゴーシェ病、若年性バッテン病、ファブリー病、MLD、サンフィリッポ症候群A型、後発型小児性バッテン病、ハンター症候群、クラッベ病、モルキオ症候群、ポンペ病、ニーマン・ピック病C型、テイ・サックス病、ハーラー症候群(MPS−I H)、サンフィリッポ症候群B型、マロトー・ラミー症候群、ニーマン・ピック病A型、シスチン症、ハーラー・シャイエ症候群(MPS−I H/S)、スライ症候群(MPS VII)、シャイエ症候群(MPS−I S)、小児性バッテン病、GM1ガングリオシドーシス、ムコリピドーシスII/III型、もしくはサンドホフ病であり得る。
【0053】
上記遺伝的疾患は、神経変性疾患、例えば、ハンチントン病、ALS、遺伝性痙性片麻痺、原発性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症、ケネディー病、アルツハイマー病、ポリグルタミンリピート病、もしくは病巣曝露(focal exposure)、例えば、パーキンソン病であり得る。
【0054】
本開示のある種の局面は、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、ベクター、および遺伝子操作された細胞(インビボで改変)、およびこれらの使用に関する。特に、本開示は、遺伝子もしくはタンパク質治療のための方法であって、治療剤の治療上有効な用量の両方の全身送達を可能にするものに関する。
【0055】
一局面によれば、治療剤を哺乳動物レシピエントにおいて発現するための細胞発現系が提供される。上記発現系(本明細書で「遺伝的に改変された細胞」ともいわれる)は、上記治療剤を発現するための細胞および発現ベクターを含む。発現ベクターとしては、ウイルス、プラスミド、および異種遺伝物質を細胞に送達するための他のビヒクルが挙げられるが、これらに限定されない。よって、用語「発現ベクター」とは、本明細書で使用される場合、異種遺伝物質を細胞に送達するためのビヒクルをいう。特に、上記発現ベクターは、組換えアデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、またはレンチウイルスもしくはレトロウイルスベクターである。
【0056】
上記発現ベクターは、上記異種遺伝子の転写を制御するためのプロモーターをさらに含む。上記プロモーターは、誘導性プロモーター(以下で記載される)であり得る。上記発現系は、上記哺乳動物レシピエントへの投与に適している。上記発現系は、複数の不死化されていない遺伝的に改変された細胞(各細胞は、少なくとも1種の治療剤をコードする少なくとも1種の組換え遺伝子を含む)を含み得る。
【0057】
上記細胞発現系は、インビボで形成される。さらに別の局面によれば、哺乳動物レシピエントをインビボで処置するための方法が提供される。上記方法は、異種遺伝子産物を発現するための発現ベクターをインサイチュで、例えば、静脈内投与を介して上記患者の細胞へと導入する工程を包含する。上記発現系をインビボで形成するために、上記治療剤を発現するための発現ベクターは、哺乳動物レシピエントへとインビボで(i.v.で)導入され、ここで上記ベクターは、血管系を介して脳へと移動する。
【0058】
さらに別の局面によれば、哺乳動物レシピエントをインビボで処置するための方法が提供される。上記方法は、その標的タンパク質を上記患者にインビボで導入する工程を包含する。
【0059】
上記異種遺伝子を発現するための発現ベクターは、上記異種遺伝子産物の転写を制御するための誘導性プロモーターを含み得る。よって、上記治療剤のインサイチュでの送達は、上記細胞をインサイチュで上記異種遺伝子の転写を誘発する条件へと曝すことによって制御される。
【0060】
上記哺乳動物レシピエントは、遺伝子置換療法に反応しやすい条件を有し得る。本明細書で使用される場合、「遺伝子置換療法」とは、上記レシピエントへの治療剤をコードする外因性遺伝物質の投与、およびその投与された遺伝物質のインサイチュでのその後の発現をいう。従って、語句「遺伝子置換療法に反応しやすい条件」は、遺伝的疾患(すなわち、1種以上の遺伝子欠損に帰し得る疾患条件)、後天性の病状(すなわち、先天性の欠損に帰することができない病的条件)、癌および予防プロセス(すなわち、疾患もしくは望ましくない医学的条件の防止)のような条件を包含する。よって、本明細書で使用される場合、用語「治療剤」とは、上記哺乳動物レシピエントに対して有益な効果を有する任意の薬剤もしくは物質をいう。従って、「治療剤」は、核酸もしくはタンパク質成分を有する治療的および予防的両方の分子を包含する。
【0061】
一実施形態によれば、上記哺乳動物レシピエントは、遺伝的疾患を有し、上記外因性遺伝物質は、上記疾患を処置するための治療剤をコードする異種遺伝子を含む。さらに別の実施形態において、上記哺乳動物レシピエントは、後天性の病状を有し、上記外因性遺伝物質は、上記病状を処置するための治療剤をコードする異種遺伝子を含む。別の実施形態によれば、上記患者は、癌を有し、上記外因性遺伝物質は、抗新生物薬剤をコードする異種遺伝子を含む。さらに別の実施形態において、上記患者は、望ましくない医学的条件を有し、上記外因性遺伝物質は、上記条件を処置するための治療剤をコードする異種遺伝子を含む。
【0062】
本明細書で使用される場合、用語「保護性のApoEアイソフォーム」、「リソソーム酵素」、「分泌されるタンパク質」、「核タンパク質」もしくは「細胞質タンパク質」は、これらポリペプチドの改変体、または生物学的に活性もしくは不活性なフラグメントを含む。上記ポリペプチドのうちの1つの「改変体」は、天然タンパク質に完全には同一でないポリペプチドである。このような改変タンパク質は、1もしくはそれより多くのアミノ酸の挿入、欠失もしくは置換によりアミノ酸配列を変化させることによって得られ得る。上記タンパク質のアミノ酸配列は、天然のポリペプチドと比較して、実質的に同じかもしくは改善された品質を有するポリペプチドを作り出すために、例えば、置換によって改変される。上記置換は、保存された置換であり得る。「保存された置換」は、あるアミノ酸の、類似の側鎖を有する別のアミノ酸での置換である。保存された置換は、アミノ酸の電荷もしくはアミノ酸の側鎖の大きさにおいて(あるいは、側鎖内の化学基の大きさ、電荷もしくは種類において)考えられる最小の変化を作製し、その結果、ペプチド全体がその空間的コンホメーションを保持するが、変化した生物学的活性を有するアミノ酸での置換である。例えば、一般的な保存された変化は、Asp→Glu、AsnもしくはGln;His→Lys、ArgもしくはPhe;Asn→Gln、Asp、もしくはGlu、およびSer→Cys、ThrもしくはGlyであり得る。アラニンは、他のアミノ酸の代わりにするために一般に使用される。20個の必須アミノ酸は、以下のようにグループ分けされ得る:非極性側鎖を有するアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファンおよびメチオニン;荷電されていない極性側鎖を有するグリシン、セリン、スレオニン、シスチン、チロシン、アスパラギンおよびグルタミン;酸性側鎖を有するアスパラギン酸およびグルタミン酸;ならびに塩基性側鎖を有するリジン、アルギニンおよびヒスチジン。
【0063】
上記アミノ酸変化は、その相当する核酸配列のコドンを変化させることによって達成される。このようなポリペプチドが、生物学的活性を改変もしくは改善するために、上記ポリペプチド構造の中である種のアミノ酸の代わりに他のアミノ酸で置換することに基づいて得られ得ることは、公知である。例えば、代わりのアミノ酸の置換によって、小さなコンホメーション変化から、増大した活性を生じるポリペプチドが付与され得る。あるいは、ある種のポリペプチドにおけるアミノ酸置換は、他の分子へと連結されて、上記出発ポリペプチドの特性を他の目的に有用であるように十分保持するペプチド−分子結合体を提供し得る残基を提供するために使用され得る。
【0064】
ポリペプチドに相互作用的な生物学的機能を付与するにあたって、アミノ酸の疎水性親水性指標が使用され得る。ここである種のアミノ酸は、類似の疽膵壊死親水性指標を有する他のアミノ酸で置換され得、類似の生物学的活性をなお保持し得ることが見出される。あるいは、類似のアミノ酸の置換は、特に、生成される予定のポリペプチドにおいて望ましい生物学的機能が、免疫学的実施形態における使用が意図されている場合に、親水性に基づいて行われ得る。その隣接するアミノ酸の親水性によって左右される場合、「タンパク質」の最大の局所的平均親水性は、その免疫原性と相関する。よって、置換は、各アミノ酸に割り当てられた親水性に基づいて行われ得ることに注意する。
【0065】
親水性指標もしくは疎水性親水性指標(これは、各アミノ酸に値を割り当てる)のいずれかを使用するにあたって、これら値が±2であるアミノ酸の置換を行うことが好ましく、±1は特に好ましく、±0.5以内にあるものが最も好ましい置換である。
【0066】
上記改変タンパク質は、相当する天然のタンパク質のアミノ酸配列と、少なくとも50%、少なくとも約80%、もしくはさらに少なくとも約90%、しかし100%未満の連続するアミノ酸配列相同性もしくは同一性を有する。
【0067】
上記改変ポリペプチドのアミノ酸配列は、その天然のポリペプチドのアミノ酸配列に本質的は相当する。本明細書で使用される場合、「〜に本質的に相当する」とは、上記天然のタンパク質によって生成される応答と実質的に同じ生物学的応答を誘発するポリペプチド配列をいう。このような応答は、上記天然のタンパク質によって生成されるレベルのうちの少なくとも60%であり得、さらには、天然のタンパク質によって生成されるレベルのうちの少なくとも80%であり得る。
【0068】
改変体は、その相当する天然のタンパク質に存在しないアミノ酸残基もしくはその相当する天然のタンパク質に対する欠失を含み得る。改変体はまた、その相当する天然のタンパク質と比較して、短縮された「フラグメント」、すなわち、全長タンパク質のうちの一部分のみであり得る。タンパク質改変体はまた、少なくとも1個のD−アミノ酸を有するペプチドを含む。
【0069】
上記改変タンパク質は、上記改変タンパク質をコードする単離されたDNA配列から発現され得る。「組換え」とは、遺伝子操作の目的で生成されるペプチドもしくは核酸として定義される。遺伝コードの縮重に起因して、個々のヌクレオチドは、コドンの中で容易に交換され得、同一のアミノ酸配列をなお生じ得ることは、当該分野で周知であることに注意すべきである。
【0070】
本開示は、発現ベクターを細胞もしくは患者に投与することによって、哺乳動物において疾患を処置するための方法を提供する。上記遺伝子治療法に関して、分子生物学および遺伝子治療の当業者は、過度の実験なく、本開示の新規方法で使用される発現ベクターの適切な投与量および投与経路を決定し得る。
【0071】
一実施形態によれば、上記細胞は、形質転換されるか、さもなければインビボで遺伝子改変される。上記哺乳動物レシピエント由来の細胞は、治療剤をコードする異種(例えば、組換え)遺伝子を発現するために外因性遺伝物質を含むベクターで、インビボで形質転換され(すなわち、形質導入もしくはトランスフェクトされ)、上記治療剤がインサイチュで送達される。
【0072】
本明細書で使用される場合、「外因性遺伝物質」とは、核酸もしくはオリゴヌクレオチド(天然もしくは合成、すなわち上記細胞には天然では見出されないか;またはそれが上記細胞において天然に見出される場合、上記細胞によって生物学的に有意なレベルで転写もしくは発現されないもののいずれも)をいう。従って、「外因性遺伝物質」は、例えば、アンチセンスRNAへと転写され得る天然に存在しない核酸、ならびに「異種遺伝子」(すなわち、同じタイプの天然に存在する細胞中で発現されないかもしくは生物学的に僅かなレベルで発現されるタンパク質をコードする遺伝子)を含む。
【0073】
そのある種の実施形態において、上記哺乳動物レシピエントは、遺伝子置換療法に反応しやすい条件を有する。本明細書で使用される場合、「遺伝子置換療法」とは、上記レシピエントへの治療剤をコードする外因性遺伝物質の投与、およびその投与された遺伝物質のインサイチュでのその後の発現をいう。従って、語句「遺伝子置換療法に反応しやすい条件」は、遺伝的疾患(すなわち、1種以上の遺伝子欠損に帰することができる疾患条件)、後天性の病状(すなわち、先天性の欠損に帰することができない病的条件)、癌および予防的プロセス(すなわち、疾患もしくは望ましくない医学的条件の防止)のような条件を包含する。よって、本明細書で使用される場合、用語「治療剤」とは、上記哺乳動物レシピエントに対して有益な効果を有する任意の薬剤もしくは物質をいう。従って、「治療剤」は、核酸(例えば、アンチセンスRNA)および/もしくはタンパク質成分を有する治療的分子および予防的分子の両方を含む。
【0074】
あるいは、遺伝子置換療法に反応しやすい条件は、予防的プロセス、すなわち、疾患もしくは望ましくない医学的条件を防止するためのプロセスである。従って、本開示は、上記哺乳動物レシピエントに対して予防的機能を有する治療剤(すなわち、予防的薬剤)を送達するための細胞発現系を包含する。
【0075】
まとめると、用語「治療剤」としては、上記に挙げた条件と関連する薬剤、ならびにそれらの機能的等価物が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書で使用される場合、用語「機能的等価物」とは、上記哺乳動物レシピエントに対して治療剤と同じもしくは改善された有益な効果を有する分子(例えば、ペプチドもしくはタンパク質)(これが機能的等価物と考えられる)をいう。
【0076】
上記で開示される治療剤および遺伝子置換療法に反応しやすい条件は、例証に過ぎず、本開示の範囲を限定するとは解釈されない。公知の条件を処置するための適切な治療剤の選択は、過度の実験なく、当業者の範囲内であるとみなされる。
(AAVベクター)
【0077】
一実施形態において、本開示のウイルスベクターは、AAVベクターである。「AAV」ベクターとは、アデノ随伴ウイルスをいい、天然に存在する野生型ウイルス自体もしくはその派生物をいうために使用され得る。この用語は、別段必要とされる場合を除いて、全てのサブタイプ、血清タイプおよび偽型(天然に存在する形態および組換え形態の両方)を網羅する。本明細書で使用される場合、用語「血清タイプ」とは、規定された抗血清とのキャプシドタンパク質反応性に基づいて同定され、他のAAVから区別され得るAAVをいい、例えば、霊長類AAVには8つの公知の血清タイプ、AAV−1〜AAV−9およびAAVrh10がある。例えば、血清タイプAAV2は、AAV2のキャップ遺伝子からコードされるキャプシドタンパク質ならびに同じAAV2血清タイプに由来する5’ITR配列および3’ITR配列を含むゲノムを含むAAVをいうために使用される。本明細書で使用される場合、例えば、rAAV1は、同じ血清タイプに由来するキャプシドタンパク質および5’−3’ ITRの両方を有するAAVをいうために使用され得るか、またはそれは、1つの血清タイプに由来するキャプシドタンパク質および異なるAAV血清タイプに由来する5’−3’ ITR(例えば、AAV血清タイプ2由来のキャプシドおよびAAV血清タイプ5由来のITR)を有するAAVをいい得る。本明細書で例証される各例に関して、ベクター設計および生成の説明は、キャプシドおよび5’−3’
ITR配列の血清タイプを記載する。略語「rAAV」とは、組換えアデノ随伴ウイルス(組換えAAVベクター(もしくは「rAAVベクター」)ともいわれる)をいう。
【0078】
「AAVウイルス」もしくは「AAVウイルス粒子」とは、少なくとも1種のAAVキャプシドタンパク質(好ましくは、野生型AAVのキャプシドタンパク質のうちの全てによる)およびキャプシド化されたポリヌクレオチドから構成されるウイルス粒子をいう。上記粒子が異種ポリヌクレオチド(すなわち、野生型AAVゲノム以外のポリヌクレオチド(例えば、哺乳動物細胞に送達される予定の導入遺伝子))を含む場合、それは、代表的には、「rAAV」といわれる。
【0079】
一実施形態において、上記AAV発現ベクターは、転写の指示において作動可能に連結される構成要素として、転写開始領域を含む制御エレメント、目的のDNAおよび転写終結領域を少なくとも提供するために公知の技術を使用して構築される。上記制御エレメントは、哺乳動物細胞において機能するように選択される。上記作動可能に連結される構成要素を含む得られた構築物は、機能的AAV ITR配列と(5’側および3’側で)隣接している。
【0080】
「アデノ随伴ウイルス逆方向末端反復」もしくは「AAV ITR」とは、DNA複製起点としておよびウイルスのパッケージングシグナルとして、シスで一緒に機能するAAVゲノムの各末端で見出される当該分野で認識されている領域を意味する。AAV ITRは、AAV repコード領域と一緒になって、2つの隣り合うITRの間に挿入されるヌクレオチド配列からの効率的切り出しおよびレスキュー、ならびに哺乳動物細胞ゲノムへの組み込みを提供する。
【0081】
AAV ITR領域のヌクレオチド配列は公知である。本明細書で使用される場合、「AAV ITR」は、示される野生型ヌクレオチド配列を有する必要はないが、例えば、ヌクレオチドの挿入、欠失もしくは置換によって変化していてもよい。さらに、上記AAV ITRは、いくつかのAAV血清タイプ(AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV7などが挙げられるが、これらに限定されない)のうちのいずれかに由来し得る。さらに、AAVベクターの中の選択されたヌクレオチド配列に隣接する5’および3’ ITRは、それらが、意図されたとおりに、すなわち、宿主細胞ゲノムもしくはベクターからの目的の配列の切り出しおよびレスキューを可能にするように、ならびにAAV Rep遺伝子産物が上記細胞に存在する場合には上記異種配列をレシピエント細胞ゲノムの中に組み込まれるのを可能にするように機能する限りにおいて、同じAAV血清タイプもしくは単離物と必ずしも同一である必要もないし、これらに由来する必要もない。
【0082】
一実施形態において、AAV ITRは、いくつかのAAV血清タイプ(AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV7などが挙げられるが、これらに限定されない)のうちのいずれかに由来し得る。さらに、AAV発現ベクターの中で選択されたヌクレオチド配列に隣接する5’および3’ ITRは、それらが、意図されたとおりに、すなわち、宿主細胞ゲノムもしくはベクターからの目的の配列の切り出しおよびレスキューを可能にするように、ならびにAAV Rep遺伝子産物が上記細胞に存在する場合には上記DNA分子をレシピエント細胞ゲノムの中に組み込まれるのを可能にするように機能する限りにおいて、同じAAV血清タイプもしくは単離物と必ずしも同一である必要もないし、これらに由来する必要もない。
【0083】
一実施形態において、AAVキャプシドは、AAV2に由来し得る。AAVベクターで使用するための適切なDNA分子は、大きさ約5キロベース(kb)未満、約4.5kb未満、約4kb未満、約3.5kb未満、約3kb未満、約2.5kb未満であり、当該分野で公知である。
【0084】
一実施形態において、上記選択されたヌクレオチド配列は、上記被験体においてその転写もしくは発現をインビボで統御する制御エレメントに作動可能に連結される。このような制御エレメントは、上記選択された遺伝子と通常会合している制御配列を含み得る。あるいは、異種制御配列が使用され得る。有用な異種制御配列は、一般に、哺乳動物遺伝子もしくはウイルス遺伝子をコードする配列に由来するものを含む。例としては、SV40初期プロモーター、マウス乳腺腫瘍ウイルスLTRプロモーター;アデノウイルス主要後期プロモーター(Ad MLP);単純ヘルペスウイルス(HSV)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(例えば、CMV最初期プロモーター領域(CMVIE))、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、pol IIプロモーター、pol IIIプロモーター、合成プロモーター、ハイブリッドプロモーターなどが挙げられるが、これらに限定されない。さらに、非ウイルス遺伝子(例えば、マウスメタロチオネイン遺伝子)由来の配列はまた、本明細書での使用が見出される。このようなプロモーター配列は、例えば、Stratagene(San Diego, Calif.)から市販されている。
【0085】
一実施形態において、異種プロモーターおよび他の制御エレメント(例えば、CNS特異的および誘導性プロモーター、エンハンサーなど)は両方とも、特に有用である。異種プロモーターの例としては、CMVプロモーターが挙げられる。CNS特異的プロモーターの例としては、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)、およびニューロン特異的エノラーゼ(NSE)に由来する遺伝子から単離されるものが挙げられる。誘導性プロモーターの例としては、エクジソン、テトラサイクリン、低酸素およびaufinに関するDNA応答性エレメントが挙げられる。
【0086】
一実施形態において、AAV ITRによって境界が示された目的のDNA分子を有するAAV発現ベクターは、上記選択された配列を、AAVゲノムから切り出された主要なAAVオープンリーディングフレーム(「ORF」)を有するAAVゲノムの中に直接挿入することによって構築され得る。上記AAVゲノムの他の部分はまた、上記ITRの十分な部分が保持されて、複製およびパッケージング機能を可能にする限りにおいて、欠失され得る。このような構築物は、当該分野で周知の技術を使用して設計され得る。
【0087】
あるいは、AAV ITRは、上記ウイルスゲノムから、または同じものを含むAAVベクターから切り出され得、標準的なライゲーション技術を使用して別のベクターに存在する選択された核酸構築物の5’側および3’側に融合され得る。例えば、ライゲーションは、20mM Tris−Cl pH7.5、10mM MgCl
2、10mM DTT、33μg/ml BSA、10mM〜50mM NaCl、および0℃(「粘着末端」ライゲーションに関して)で40μM ATP、0.01〜0.02(Weiss)ユニット T4 DNAリガーゼ、もしくは14℃(「平滑末端」ライゲーションに関して)で1mM ATP、0.3〜0.6(Weiss)ユニット T4 DNAリガーゼのいずれかの中で達成され得る。分子間「粘着末端」ライゲーションは、通常、ITRを含む30〜100μg/ml 総DNA濃度(5〜100nM 総最終濃度).AAVベクターで行われる。
【0088】
さらに、キメラ遺伝子は、1種以上の選択された核酸配列の5’側および3’側に配置されたAAV ITR配列を含むように合成で生成され得る。哺乳動物CNS細胞においてキメラ遺伝子配列を発現するために好ましいコドンが使用され得る。完全なキメラ配列は、標準的方法によって調製されたオリゴヌクレオチドを重ね合わせることからアセンブリされる。
【0089】
rAAVビリオンを生成するために、AAV発現ベクターは、公知の技術を使用して(例えば、トランスフェクションによって)、適切な宿主細胞へと導入される。多くのトランスフェクション技術が一般に、当該分野で公知である。例えば、Sambrook et al. (1989) Molecular Cloning, a laboratory manual, Cold Spring Harbor Laboratories, New Yorkを参照のこと。特に適切なトランスフェクション法としては、リン酸カルシウム共沈、培養細胞への直接マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、リポソーム媒介性遺伝子移入、脂質媒介性形質導入、および高速マイクロインジェクションを使用する核酸送達が挙げられる。
【0090】
一実施形態において、rAAVビリオンを生成するために適した宿主細胞としては、異種DNA分子のレシピエントとして使用され得るか、もしくはレシピエントとして使用されてきた、微生物、酵母細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞が挙げられる。上記用語は、トランスフェクトされた元の細胞の子孫を含む。従って、「宿主細胞」は、本明細書で使用される場合、一般に、外因性DNA配列でトランスフェクトされる細胞に言及する。安定なヒト細胞株に由来する細胞、293(例えば、アクセッション番号ATCC CRL1573の下でアメリカンタイプカルチャーコレクションから容易に入手可能)は、本開示の実施において使用され得る。特に、ヒト細胞株293は、アデノウイルス5型DNAフラグメントで形質転換され、アデノウイルスE1aおよびE1b遺伝子を発現するヒト胚性腎臓細胞株である。上記293細胞株は、容易にトランスフェクトされ、rAAVビリオンを生成するために特に便利なプラットフォームを提供する。
【0091】
「AAV repコード領域」とは、複製タンパク質Rep 78、Rep 68、Rep 52およびRep 40をコードするAAVゲノムの当該分野で認識されている領域を意味する。これらRep発現産物は、AAVのDNA複製起点の認識、結合およびニック生成、DNAヘリカーゼ活性およびAAV(もしくは他の異種)プロモーターからの転写の調節を含め、多くの機能を有することが示された。上記Rep発現産物は、上記AAVゲノムを複製するためにまとめて必要とされる。上記AAV repコード領域の適切なホモログとしては、AAV−2 DNA複製を媒介することも公知であるヒトヘルペスウイルス6(HHV−6)rep遺伝子が挙げられる。
【0092】
「AAV capコード領域」とは、キャプシドタンパク質VP1、VP2、およびVP3をコードするAAVゲノムの当該分野で認識されている領域、もしくはその機能的ホモログを意味する。これらCap発現産物は、上記ウイルスゲノムをパッケージングするためにまとめて必要とされるパッケージング機能を供給する。
【0093】
一実施形態において、AAVヘルパー機能は、上記宿主細胞をAAVヘルパー構築物で、上記AAV発現ベクターのトランスフェクションの前もしくはこれと同時のいずれかに、トランスフェクトすることによって、宿主細胞へと導入される。AAVヘルパー構築物は、このようにして、AAV repおよび/もしくはcap遺伝子の少なくとも一過性の発現を提供して、生産的なAAV感染に必要な、失われているAAV機能を補完するために使用される。AAVヘルパー構築物は、AAV ITRを欠いており、複製も、それら自体をパッケージすることもできない。これら構築物は、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド、ウイルス、もしくはビリオンの形態にあり得る。多くのAAVヘルパー構築物が使用されてきた(例えば、RepおよびCap両方の発現産物をコードする、一般に使用されるプラスミドpAAV/AdおよびpIM29+45)。Repおよび/もしくはCap発現産物をコードする多くの他のベクターも記載されてきた。
【0094】
ウイルスベクターの送達法は、上記AAV2をCSFへと注射する工程を包含する。一般に、rAAVビリオンは、インビボもしくはインビトロいずれかの形質導入技術を使用して、CNSの細胞へと導入され得る。インビトロで導入される場合、所望のレシピエント細胞は、被験体から取り出され、rAAVビリオンで形質導入され、上記被験体へと再導入される。あるいは、共通遺伝子の細胞もしくは異種発生性の細胞は、それら細胞が上記被験体において不適切な免疫応答を生じない場合に使用され得る。
【0095】
形質導入した細胞を被験体へ送達および導入するための適切な方法が、記載されてきた。例えば、細胞は、組換えAAVビリオンと、CNS細胞とを、例えば、適切な培地中で合わせることによってインビトロで形質導入され得、その目的のDNAを有するそれら細胞のスクリーニングは、サザンブロットおよび/もしくはPCRのような従来技術を使用して、または選択マーカーを使用することによって、スクリーニングされ得る。形質導入された細胞は、次いで、以下により十分に記載される薬学的組成物へと製剤化され得、上記組成物は、種々の技術によって、例えば、移植、筋肉内注射、静脈内注射、皮下注射および腹腔内注射によって、上記被験体に導入され得る。
【0096】
一実施形態において、薬学的組成物は、目的の核酸の治療上有効な量、すなわち、問題の疾患状態の症状を低減もしくは改善するために十分な量もしくは所望の利益を付与するために十分な量を生じるために、十分な遺伝物質を含む。上記薬学的組成物はまた、薬学的に受容可能な賦形剤を含む。このような賦形剤は、これ自体が上記組成物を受容する個体にとって有害な抗体の生成を誘発せず、過度な毒性なしに投与され得る任意の薬剤を含む。薬学的に受容可能な賦形剤としては、ソルビトール、Tween80、および液体(例えば、水、生理食塩水、グリセロールおよびエタノール)が挙げられるが、これらに限定されない。薬学的に受容可能な塩は、そこに含まれ得る(例えば、無機酸塩(例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩など);および有機酸の塩(例えば、酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩など))。さらに、補助物質(例えば、湿潤剤もしくは乳化剤、pH緩衝化物質など)は、このようなビヒクル中に存在し得る。薬学的に受容可能な賦形剤の詳細な考察は、Remington’s Pharmaceutical Sciences (Mack Pub. Co., N.J. 1991)で入手可能である。
【0097】
1種より多くの導入遺伝子が上記送達されるウイルスベクターによって発現され得ることは、理解されるべきである。あるいは、別個のベクター(各々、1種以上の異なる導入遺伝子を発現する)がまた、本明細書で記載されるように、CNSに送達され得る。さらに、本開示の方法によって送達されるウイルスベクターが、他の適切な組成物および治療と併用され得ることもまた、意図される。
【0098】
本明細書の教示に鑑みれば当業者に明らかであるように、添加されなければならないウイルスベクターの有効量は、経験的に決定され得る。投与は、処置過程の間中ずっと、連続してもしくは周期的に、1用量で行われ得る。最も有効な手段および投与量を決定するための方法は、当業者に周知であり、ウイルスベクター、上記治療の組成物、標的細胞、および処置されている被験体に伴って変動する。1回もしくは複数回の投与は、処置している医師によって選択される投与レベルおよびパターンで行われ得る。
【0099】
ある種の実施形態において、上記rAAVは、1×10
5〜1×10
16vg/mlの約1〜5mlの用量で投与される。ある種の実施形態において、上記rAAVは、約1×10
7〜1×10
14vg/mlの1〜3mlの用量で投与される。ある種の実施形態において、上記rAAVは、1×10
8〜1×10
13vg/mlの約1〜2mlの用量で投与される。
【0100】
上記rAAV粒子を含む製剤は、ビヒクル中に上記rAAV粒子の有効量を含み、上記有効量は、当業者によって容易に決定される。上記rAAV粒子は、代表的には、上記組成物のうちの約1%〜約95%(w/w)の範囲に及び得るか、または適切であれば、さらにより高くてもよいしより低くてもよい。投与される予定の量は、処置が考慮されている動物もしくはヒト被験体の年齢、体重および物理的状態のような要因に依存する。有効な投与量は、用量応答曲線を確立する慣用的な試験を通じて、当業者によって確立され得る。上記被験体は、1以上の用量での上記rAAV粒子の投与によって処置される。複数の用量は、適切な酵素活性を維持するために必要とされる場合に、投与され得る。
【0101】
水、水性生理食塩水、人工CSF、もしくは他の公知の物質を含むビヒクルは、本発明とともに使用され得る。製剤を調製するために、精製された組成物が単離され得、凍結乾燥および安定化され得る。上記組成物は、次いで、適切な濃度へと調節され得、必要に応じて、抗炎症剤と合わせられ得、使用のためにパッケージされ得る。
(TPP1タンパク質)
【0102】
ある種の実施形態において、上記投与される核酸は、TPP1、野生型TPP1と実質的な同一性を有するTPP1、および/またはTPP1の改変体、変異体もしくはフラグメントをコードする。上記ヒトTPP1アミノ酸配列は、
図14に提供され、その核酸配列は、
図15に提供される。
図16は、アカゲザルTPP1アミノ酸配列を提供し、
図17は、カニクイザルTPP1アミノ酸配列を提供する。ある種の実施形態において、上記TPP1タンパク質は、
図14、
図16もしくは
図17に示されるタンパク質と、約70%相同性、約75%相同性、80%相同性、85%相同性、90%相同性、95%相同性、98%相同性、99%相同性、もしくはさらに100%相同性を有し得る。上記TPP1タンパク質は、
図14、
図16もしくは
図17に示されるタンパク質と、約70%同一性、約75%同一性、80%同一性、85%同一性、90%同一性、95%同一性、98%同一性、99%同一性、もしくはさらに100%同一性を有し得る。
【0103】
変異タンパク質は、TPP1において変異、例えば、ミスセンスもしくはナンセンス変異を有する遺伝子によってコードされるタンパク質をいう。用語「核酸」とは、1本鎖もしくは2本鎖いずれかの形態にあり、糖、ホスフェートおよび塩基(プリンもしくはピリミジンのいずれかである)を含むモノマー(ヌクレオチド)から構成される、デオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチドおよびこれらのポリマーをいう。特段限定されなければ、上記用語は、参照核酸と類似の結合特性を有し、天然に存在するヌクレオチドに類似の様式で代謝される、天然のヌクレオチドの公知のアナログを含む核酸を含む。別段示されなければ、特定の核酸配列はまた、その保存的に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換)および相補的配列、ならびに明示的に示される配列を包含する。具体的には、縮重コドン置換は、1以上の選択された(もしくは全ての)コドンの三番目の位置が混合塩基および/もしくはデオキシイノシン残基で置換される配列を作製することによって達成され得る。
【0104】
「核酸フラグメント」とは、所定の核酸分子の一部である。生物の大部分におけるデオキシリボ核酸(DNA)は、遺伝物質である一方で、リボ核酸(RNA)は、DNA内に含まれる情報をタンパク質へと移すのに関与する。上記開示されるヌクレオチド配列およびそれらによってコードされるタンパク質もしくは部分長のタンパク質のフラグメントおよび改変体もまた、本発明によって包含される。「フラグメント」もしくは「一部分」とは、ポリペプチドもしくはタンパク質をコードするヌクレオチド配列、または上記ポリペプチドもしくはタンパク質のアミノ酸配列の、全長もしくは全長未満を意味する。ある種の実施形態において、上記フラグメントもしくは一部分は、生物学的に機能的である(すなわち、野生型TPP1の酵素活性のうちの5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%もしくは100%を保持する)。
【0105】
分子の「改変体」とは、上記天然の分子の配列に実質的に類似である配列である。ヌクレオチド配列に関して、改変体は、遺伝コードの縮重が原因で、上記天然のタンパク質の同一なアミノ酸配列をコードするそれら配列を含む。これらのような天然に存在する対立遺伝子改変体は、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)およびハイブリダイゼーション技術のような分子生物学技術を使用して同定され得る。改変ヌクレオチド配列はまた、上記天然のタンパク質をコードする合成由来のヌクレオチド配列(例えば、部位指向性変異誘発を使用することによって生成されるもの)、ならびにアミノ酸置換を有するポリペプチドをコードするものを含む。一般に、本発明のヌクレオチド配列改変体は、上記天然の(内因性の)ヌクレオチド配列と、少なくとも40%、50%、60%、〜70%、例えば、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、〜79%、一般には、少なくとも80%、例えば、81%〜84%、少なくとも85%、例えば、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、〜98%の配列同一性を有する。ある種の実施形態において、上気海変態は、生物学的に機能的である(すなわち、野生型TPP1の酵素活性のうちの5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%もしくは100%を保持する)。
【0106】
特定の核酸配列の「保存的に改変された改変体」とは、同一なもしくは本質的に同一なアミノ酸配列をコードするそれら核酸配列をいう。遺伝コードの縮重が原因で、多数の機能的に同一な核酸が、任意の所定のポリペプチドをコードする。例えば、コドンCGT、CGC、CGA、CGG、AGAおよびAGGは全て、アミノ酸アルギニンをコードする。従って、アルギニンがあるコドンによって特定される全ての位置において、そのコドンは、コードされるタンパク質を変化させることなく、記載された対応するコドンのうちのいずれかに変化させ得る。この核酸バリエーションは、「サイレントバリエーション」であり、これは、「保存的に改変された改変体」のうちの1種である。ポリペプチドをコードする、本明細書で記載されるあらゆる核酸配列はまた、別段注記される場合を除いて、あらゆる考えられるサイレントバリエーションを記載する。当業者は、核酸中の各コドン(通常はメチオニンの唯一のコドンであるATGを除く)が、標準的な技術によって機能的に同一な分子を得るように改変され得ることを認識する。よって、ポリペプチドをコードする核酸の各「サイレントバリエーション」は、各記載される配列に内在する。
【0107】
ポリヌクレオチド配列の用語「実質的同一性」は、あるポリヌクレオチドが、標準的パラメーターを使用して記載されるアラインメントプログラムのうちの1つを使用して、参照配列と比較して、少なくとも70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、もしくは79%、または少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、もしくは89%、または少なくとも90%、91%、92%、93%、もしくは94%、もしくはさらには少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性を有する配列を包含することを意味する。当業者は、コドン縮重、アミノ酸類似性、リーディングフレームの配置などを考慮することによって、2つのヌクレオチド配列によってコードされるタンパク質の相当する同一性を決定するために適切に調節され得ることを認識する。これら目的のためのアミノ酸配列の実質的同一性は、通常、少なくとも70%、少なくとも80%、90%、もしくはさらに少なくとも95%の配列同一性を意味する。
【0108】
ペプチドの状況での用語「実質的同一性」とは、あるペプチドが、特定された比較ウインドウにわたって参照配列と、少なくとも70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、もしくは79%、または80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、もしくは89%、または少なくとも90%、91%、92%、93%、もしくは94%、またはさらには、95%、96%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有する配列を包含することを示す。2つのペプチド配列が実質的に同一であるというしるしは、1つのペプチドがその第2のペプチドに対して惹起された抗体と免疫学的に反応性であるということである。従って、ペプチドは、例えば、上記2つのペプチドが保存的置換によってのみ異なる場合に、第2のペプチドに実質的に同一である。
(アポリポプロテインE(ApoE))
【0109】
いくつかの異なるヒトアポリポプロテインE(ApoE)アイソフォームが存在し、脳中にこれらアイソフォームのうちのいくつかが存在すると、アルツハイマー病(AD)のリスクが増大するのに対して、他のアイソフォームが存在すると、ADのリスクが低下する。ApoE ε4アイソフォームの存在は、晩期発症型の孤発性ADの強力な遺伝的因子である(Casellano et al., Sci Transl Med, 3(89):89ra57 (29 June 2011))。上記ApoE ε4対立遺伝子は、ADリスクを強力に高め、発症年齢を低下させる。他方で、上記ApoE ε2対立遺伝子の存在は、ADリスクを低下させるようである。ヒトApoEアイソフォームが、インビボでアミロイド−β(Αβ)のクリアランスもしくは合成に差次的に影響を及ぼすことが示唆される。
【0110】
ある種の実施形態において、上記投与される核酸は、ApoE、野生型ApoEと実質的同一性を有するApoE、またはApoEの改変体、変異体および/もしくはフラグメントをコードする。ある種の実施形態において、上記核酸は、ApoE ε2、野生型ApoE ε2と実質的同一性を有するApoE ε2、および/またはApoE ε2の改変体、変異体および/もしくはフラグメントをコードする。
(免疫抑制剤)
【0111】
ある種の実施形態において、免疫抑制剤もまた、上記哺乳動物に投与される。ある種の実施形態において、上記免疫抑制剤は、抗炎症剤である。ある種の実施形態において、上記抗炎症剤は、ミコフェノレートである。ある種の実施形態において、上記抗炎症剤は、上記rAAV粒子の投与前に投与される。ある種の実施形態において、上記抗炎症剤は、上記rAAV粒子の投与と同時に投与される。ある種の実施形態において、上記抗炎症剤は、上記rAAV粒子の投与後に投与される。
【0112】
ある種の実施形態において、上記抗炎症剤は、非経口的に、例えば、適切なビヒクル中で筋肉内注射もしくは皮下注射によって投与される。しかし、経口送達、鼻内送達もしくは皮内送達のような他の投与様式も、許容される。ある種の実施形態において、上記rAAV粒子および上記抗炎症剤を含む組成物が調製され、上記抗炎症剤およびrAAV粒子は、上記哺乳動物の大槽に、ならびに/または上記哺乳動物の脳室、くも膜下腔および/もしくは髄膜下腔に、同時に投与される。
(遺伝物質を細胞に導入するための方法)
【0113】
上記外因性遺伝物質(例えば、1種以上の治療用タンパク質をコードするcDNA)は、遺伝的に改変された細胞を提供するために、遺伝子移入法(例えば、トランスフェクションもしくは形質導入)によってインビボで細胞へと導入される。種々の発現ベクター(すなわち、標的細胞への外因性遺伝物質の送達を促進するためのビヒクル)は、当業者に公知である。
【0114】
本明細書で使用される場合、「細胞のトランスフェクション」とは、添加されたDNAの組み込みによって、新たな遺伝物質を細胞が獲得することをいう。従って、トランスフェクションとは、物理的もしくは化学的な方法によって、細胞へと核酸を挿入することをいう。いくつかのトランスフェクション技術は、当業者に公知であり、以下が挙げられる:リン酸カルシウムDNA共沈;DEAE−デキストラン;エレクトロポレーション;カチオン性リポソーム媒介性トランスフェクション;およびタングステン粒子促進微粒子ボンバードメント。リン酸ストロンチウムDNA共沈は、別の考えられるトランスフェクション法である。
【0115】
対照的に、「細胞の形質導入」とは、DNAウイルスもしくはRNAウイルスを使用して、細胞に核酸を移入するプロセスをいう。核酸を細胞に移入するためのRNAウイルス(すなわち、レトロウイルス)は、本明細書では導入キメラレトロウイルス(transducing chimeric retrovirus)といわれる。上記レトロウイルス内に含まれる外因性遺伝物質は、上記形質導入された細胞のゲノムへと組み込まれる。キメラDNAウイルス(例えば、治療剤をコードするcDNAを有するアデノウイルス)で形質導入された細胞は、そのゲノムの中には上記外因性遺伝物質が組み込まれていないが、上記細胞内で染色体外に保持されている上記外因性遺伝物質を発現し得る。
【0116】
代表的には、上記外因性遺伝物質は、異種遺伝子(通常は、上記治療用タンパク質をコードするエキソンを含むcDNAの形態にある)と一緒に、上記新たな遺伝子の転写を制御するためのプロモーターを含む。上記プロモーターは、特徴としては、転写を開始するために必要な特定のヌクレオチド配列を有する。必要に応じて、上記外因性遺伝物質は、所望の遺伝子転写活性を得るために必要とされるさらなる配列(すなわち、エンハンサー)をさらに含む。この考察目的で、「エンハンサー」は、単純に、コード配列と(シスで)連続して働いて、上記プロモーターによって必然的に決められる基本的な転写レベルを変化させる、任意の翻訳されないDNA配列である。上記外因性遺伝物質は、上記プロモーターから直ぐ下流に細胞ゲノムへと導入され得、その結果、上記プロモーターおよびコード配列は、上記コード配列の転写を可能にするように作動可能に連結される。レトロウイルス発現ベクターは、上記挿入される外因性遺伝子の転写を制御するために、外因性プロモーターエレメントを含み得る。このような外因性プロモーターとしては、構成性および誘導性両方のプロモーターが挙げられる。
【0117】
天然に存在する構成性プロモーターは、必須の細胞機能の発現を制御する。結果として、構成性プロモーターの制御下にある遺伝子は、細胞増殖の全ての条件下で発現される。例示的な構成性プロモーターとしては、ある種の構成的もしくは「ハウスキーピング」機能をコードする以下の遺伝子:ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、アデノシンデアミナーゼ、ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)、ピルビン酸キナーゼ、ホスホグリセロールムターゼ、アクチンプロモーターのためのプロモーター、ならびに当業者に公知の他の構成性プロモーターが挙げられる。さらに、多くのウイルスプロモーターが、真核生物細胞において構成的に機能する。これらとしては、中でもとりわけ以下が挙げられる:SV40の初期および後期プロモーター;モロニー白血病ウイルスおよび他のレトロウイルスの長末端反復(LTR);ならびに単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼプロモーター。よって、上記で言及した構成性プロモーターのいずれも、異種遺伝子挿入物の転写を制御するために使用され得る。
【0118】
誘導性プロモーターの制御下にある遺伝子は、誘導因子の存在下でのみ、もしくは誘導因子の存在下でより大きな程度へと発現される(例えば、メタロチオネインプロモーターの制御下にある転写は、ある種の金属イオンの存在下で大きく増大される)。誘導性プロモーターは、それらの誘導因子が結合される場合に転写を刺激する応答性エレメント(RE)を含む。例えば、血清因子、ステロイドホルモン、レチノイン酸およびサイクリックAMPに対するREが存在する。特定のREを含むプロモーターは、誘導性応答を得るために選択され得、いくらかの場合には、上記RE自体が、異なるプロモーターに結合され得、それによって、組換え遺伝子への誘導性を付与する。従って、適切なプロモーター(構成性 対 誘導性;強い 対 弱い)を選択することによって、上記遺伝的に改変された細胞における治療剤の存在および発現レベルの両方を制御することが可能である。上記治療剤をコードする遺伝子が誘導性プロモーターの制御下にある場合、上記治療剤のインサイチュでの送達は、上記遺伝的に改変された細胞をインサイチュで上記治療剤の転写を可能にするための条件に曝すことによって、例えば、上記薬剤の転写を制御する誘導性プロモーターの特異的誘導因子の腹腔内注射によって、誘発される。例えば、上記メタロチオネインプロモーターの制御下にある遺伝子によってコードされる治療剤の遺伝的に改変された細胞によるインサイチュ発現は、上記遺伝的に改変された細胞と、適切な(すなわち、誘導する)金属イオンを含む溶液とをインサイチュで接触させることによって増強される。
【0119】
よって、インサイチュで送達される治療剤の量は、以下のような要因を制御することによって調節される:(1)挿入される遺伝子の転写を統御するために使用されるプロモーターの性質(すなわち、上記プロモーターが構成性であるか誘導性であるか、強いのか弱いのか);(2)上記細胞に挿入される外因性遺伝子のコピー数;(3)患者へと投与される(例えば、移植される)形質導入された/トランスフェクトされた細胞の数;(4)移植物(例えば、グラフトもしくは被包された発現系)の大きさ;(5)移植物の数;(6)上記形質導入された/トランスフェクトされた細胞もしくは移植物が適所に置かれる時間の長さ;および(7)上記遺伝的に改変された細胞による上記治療剤の生成速度。特定の治療剤の治療上有効な用量の送達のためのこれら因子の選択および最適化は、上記で開示される要因および上記患者の臨床プロフィールを考慮に入れれば、過度な実験なく、当業者の範囲内であると考えられる。
【0120】
少なくとも1つのプロモーターおよび上記治療剤をコードする少なくとも1つの異種核酸に加えて、上記発現ベクターは、上記発現ベクターでトランスフェクトもしくは形質導入される細胞の選択を促進するために、選択遺伝子、例えば、ネオマイシン耐性遺伝子を含み得る。あるいは、上記細胞は、2以上の発現ベクター(少なくとも1つのベクターは、上記治療剤をコードする遺伝子を含み、他方のベクターは、選択遺伝子を含む)でトランスフェクトされる。適切なプロモーター、エンハンサー、選択遺伝子および/もしくはシグナル配列(以下で記載)の選択は、過度な実験なく、当業者の範囲内であると考えられる。
【0121】
上記治療剤は、細胞外、細胞内もしくは膜の位置への送達のために標的化され得る。上記遺伝子産物が上記細胞から分泌されることが望ましい場合、上記発現ベクターは、上記治療用遺伝子産物を上記細胞から細胞外環境へと分泌するための適切な分泌「シグナル」配列を含むように設計される。上記遺伝子産物が上記細胞内に保持されることが望ましい場合、この分泌シグナル配列は省かれる。類似の様式で、上記発現ベクターは、上記治療剤を上記細胞質膜内にアンカーするために「保持」シグナル配列を含むように構築され得る。例えば、全ての膜タンパク質は、疎水性の膜貫通領域を有し、これは、膜におけるタンパク質の移動を止めさせ、上記タンパク質が分泌されないようにする。遺伝子産物を特定の位置に標的化するためのシグナル配列を含む発現ベクターの構築は、過度の実験の必要なく、当業者の範囲内であると考えられる。
【実施例】
【0122】
(実施例1:大型哺乳動物における遺伝子移入の方法)
リソソーム蓄積障害(Lysosomal storage disorder)(LSD)は、遺伝性の代謝障害の大きなクラスを構成する。大部分のLSDは、器官の損傷およびしばしば中枢神経系(CNS)の変性をもたらすリソソーム酵素欠損によって引き起こされる。後発型小児性神経セロイドリポフスチン蓄積症(LINCL)は、リソソームプロテアーゼトリペプチジルペプチダーゼ1(TPP1)をコードする、ceroid−lipofuscinosis (CLN), neuronal 2遺伝子、CLN2における変異によって引き起こされる常染色体劣性神経変性疾患である。LINCLは、通常分娩および初期発生、18〜24ヶ月までに発作が始まること、進行性の運動低下および認知低下、ならびに早期死亡によって臨床的に特徴付けられる。上記疾患は、可溶性で、M−6−P修飾リソソーム酵素であるTPP1の欠損に起因する。
【0123】
酵素置換療法(ERT)は、末梢組織に影響を及ぼしているリソソーム蓄積症に現在利用可能であるが、中枢神経系(CNS)に困難を有する患者では使用されてこなかった。近年の研究によって、脳脊髄液を通じての酵素送達が、LINCLにとってのCNSへの潜在的代替経路であるか否かが調査された(Chang et al., Molecular Therapy 16:649−656, 2008)。処置したマウスは、ビヒクル処置マウスと比較して減弱した神経病理および低減した安静時振戦を示した
【0124】
現在の研究では、脳における注射によって脳脊髄液(CSF)中の酵素の定常状態レベルを達成するために効率的に行われ得るか否かが調査された。LINCLのイヌモデルにおいて研究を行った。上記LINCLイヌは、出生時は正常であるが、約7ヶ月あたりで神経症状を、約5〜6ヶ月で検査できる程度の認知障害を、10〜11ヶ月で発作を、および進行性の視力喪失を発生させる。上記LINCLイヌにおけるCLN2遺伝子変異は、TPP1タンパク質を非機能的にし、TPP1タンパク質は、検出不能である。疾患が進行すると、脳組織は萎縮し、脳における脳室空間の拡大がもたらされる。神経学的徴候としては、平衡および運動機能の低下、視力の喪失、振戦が挙げられる。
【0125】
罹患したLINCLの仔イヌには、3ヶ月齢で遺伝子治療を与えた。遺伝子治療のために、AAV2−CLN2を生成し(WO 2012/135857を参照のこと)、脳の1箇所(側脳室)もしくは2箇所(側脳室+大槽)に注射した。針を、脳室の中へと、もしくは脳室および大槽の中へと入れ、数分間にわたってゆっくりとベクターを注入した。TPP1の大部分が細胞内でその細胞の中に留まらせられている一方で、一部分は分泌され、隣接する細胞によって取り込まれた。分泌および取り込みのこの特性は、「クロスコレクション」といわれる(
図2)。クロスコレクションは、上記CLN2遺伝子が、LINCLの脳の中で戦略的に位置を定めた細胞に移入されれば、このことが、多くの周りの細胞のクロスコレクションを可能にし得るという点で、遺伝子治療の状況で価値がある。
【0126】
現在の研究では、上記治療剤を全体的に送達するという問題は、脳室を裏打ちする細胞および髄膜を構成する細胞を標的とすることによって、脳におけるCSFの流れを利用した。AAV2−CLN2を、脳の1箇所(側脳室)もしくは2箇所(側脳室+大槽)に注射した。TPP1発現を、AAV送達後にCln2
−/−イヌで観察した(
図3)。脳室容積に関して有意に正の影響を観察した。自己蛍光に対するAAV.TPP1の効果もまた、評価した(
図4A)。
図4Bは、未処置のおよび処置したイヌのT1−MRI画像を示す。
図4Cは、LINCLイヌにおけるAAV.TPP1の効果を示す。
図4Dは、AAV2/2−huCLN2投与後のhuTPP1分布を示す。
【0127】
未処置の罹患したイヌにおいて、脳室空間は、正常なイヌの大きさの10倍へと拡大するのに対して、AAV2−CLN2遺伝子治療は、この効果を有意に低下させた。さらに、臨床的利益(寿命および臨床検査)であるとおりの酵素の広い分布が観察された。処置なしでは、罹患したイヌは、30週齢までに全22の試験において疾患の徴候を示す。彼らは、最終ステージの疾患に達し、45〜48週齢の間には安楽死させねばならなかった。AAV2−CLN2遺伝子治療を受けたイヌでは、これら徴候のうちのあらゆるものの開始が、遅れたかもしくは防止された。
【0128】
TPP1活性の増大が、大槽および脳室送達を合わせた後に、CSF中で観察された。
【0129】
従って、上記LINCLイヌにおいて、AAV2−CLN2遺伝子移入は、脳の多くの領域へのTPP1タンパク質補充を生じ、その結果、AAV2−CLN2遺伝子移入が、有意な治療効果を提供し、症状を低減もしくは遅らせ、LINCLイヌのクオリティー・オブ・ライフを改善することが示された。
【0130】
CSF中のhuTPP1活性は、注射の直後に低下した(
図5)。酵素の広い分布が観察されたが、そのレベルは、遺伝子治療の6〜8ヶ月後の屠殺時には低かった。活性の低下は、上記イヌにおけるヒト酵素への免疫応答の結果であると推測された。活性の低下を阻害するために、抗炎症剤(ミコフェノレート)を導入した。上記結果は、上記抗炎症剤が、huTPP1の酵素活性を阻害せず、上記酵素活性が存在する時間の長さを伸ばすことにおいて有効であることを示し(
図6)、持続した酵素活性レベルが観察された。
【0131】
CSF中での高いcaTPP1活性は、AAV2caCLN2脳室内注射および早期のミコフェノレート処置後の時間とともに観察された(
図7)。
【0132】
TPP1酵素活性の増大は、投与の2ヶ月後に多くの組織で観察された(
図8、
図9Aおよび
図9B)。
【0133】
図10は、LINCLイヌにおいて臨床徴候の開始を示す。caTPP1活性は、髄膜および末梢組織(例えば、肝臓)で観察された(
図11)。
【0134】
従って、本発明者らは、AAV2/2による上衣細胞の形質転換、イヌTPP1酵素が生成されCSFとともに流れ、caCLN2注射前のミコフェノレート処置がイヌにおける免疫応答を防止できたことを示す。
(実施例2:非ヒト霊長類での研究)
【0135】
上記で記載されるものに類似の技術を使用して、本発明者らは、AAVeGFPが非ヒト霊長類の脳の上衣を形質導入することを観察した。アカゲザルの脳におけるAAV2/2.TPP1送達のインビボ評価を、AAV.TPP1を脳室もしくは大槽に注射し、4〜12週間後にその組織を採取し、CSFもしくは組織溶解物中のTPP1活性を評価することによって行った(
図12)。活性を、非ヒト霊長類の前庭領域(脳幹)において観察した(
図13)。従って、脳室裏打ち細胞は、広いCNS分布のための組換え酵素供給源を提供した。
【0136】
全ての刊行物、特許および特許出願は、本明細書に参考として援用される。前述の詳細において、本発明は、そのある種の好ましい実施形態に関連して記載され、多くの詳細が例証目的で示されてきた一方で、本発明がさらなる実施形態を許容し、ある種の本明細書で記載される詳細は、本発明の基本的な原理から逸脱することなくかなり変動し得ることは、当業者に明らかである。
【0137】
本発明を記載する状況において用語「a(ある、1つの)」および「an(ある、1つの)」および「the(上記、その、この)」および類似の指示物は、本明細書で別段示されなければ、もしくは状況が明らかに矛盾していなければ、単数形および複数形両方を網羅すると解釈されるべきである。用語「comprising(含む、包含する)」、「having(有する)」、「including(含む、包含する)」、および「containing(含む)」は、別段示されなければ、開放系の用語(すなわち、「including, but not limited to(〜が挙げられるが、これらに限定されない)」を意味する)として解釈されるべきである。本明細書中の値の範囲の記載は、本明細書で別段示されなければ、上記範囲内に入る各別個の値に対して個々に言及するための略記法として働くことが意図されるに過ぎず、各別個の値は、これらが個々に本明細書で記載されているかのように、本明細書に援用される。本明細書で記載される全ての方法は、本明細書で別段示されなければ、もしくは状況が別段明示的に矛盾しなければ、任意の適切な順序で行われ得る。任意のおよび全ての例、または本明細書で提供される例示的表現(例えば、「such as(〜のような、例えば)」)の使用は、本発明をよりよく例証することが意図されているに過ぎず、別段特許請求されなければ、本発明の範囲に対する限定を与えない。本明細書中の表現は、どの特許請求されない要素をも本発明の実施に不可欠なものとして示すとは解釈されないものとする。
【0138】
本発明の実施形態が、本発明を実施するために本発明者らに公知の最良の態様を含め、本明細書で記載される。それら実施形態のバリエーションは、前述の説明を読めば、当業者に明らかになり得る。本発明者らは、当業者が適切な場合にこのようなバリエーションを使用することを予測し、本発明者らは、本発明に対して本明細書で具体的に記載されるとおり以外の別のものを実施する予定である。
【0139】
よって、本発明は、適用可能な法律によって許容されるとおり、本明細書に添付された特許請求の範囲に記載される主題の全ての改変および均等物を包含する。さらに、その全ての考えられるバリエーションにおいて上記で記載される要素の任意の組み合わせは、本明細書で別段示されなければ、さもなければ状況が明らかに矛盾しなければ、本発明によって包含される。
例えば、本発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
治療剤を哺乳動物の中枢神経系に送達するための方法であって、該方法は、該哺乳動物の大槽に、該哺乳動物の脳脊髄液(CSF)と接触している細胞を該細胞が該哺乳動物において該治療剤を発現するように感染させるために有効な様式で、AAVキャプシドタンパク質および一対のAAV逆方向末端反復の間に挿入される治療剤をコードする核酸を含むベクターを含むrAAV粒子を投与する工程を包含する、方法。
(項目2)
哺乳動物において疾患を処置するための方法であって、該方法は、該哺乳動物の大槽に、AAVキャプシドタンパク質および一対のAAV逆方向末端反復の間に挿入される治療剤をコードする核酸を含むベクターを含むrAAV粒子を、該哺乳動物の脳脊髄液(CSF)と接触している細胞を感染させるために有効な様式で投与する工程であって、ここで該細胞は、該疾患を処置するように、該治療剤を発現する、工程を包含する、方法。
(項目3)
治療剤を哺乳動物の中枢神経系に送達するための方法であって、該方法は、該哺乳動物の脳室、くも膜下腔および/もしくは髄膜下腔に、該哺乳動物の脳脊髄液(CSF)と接触した細胞を該細胞が該哺乳動物において該治療剤を発現するように感染させるために有効な様式で、AAVキャプシドタンパク質および一対のAAV逆方向末端反復の間に挿入される治療剤をコードする核酸を含むベクターを含むrAAV粒子を投与する工程を包含する、方法。
(項目4)
哺乳動物において疾患を処置するための方法であって、該方法は、該哺乳動物の脳室、くも膜下腔および/もしくは髄膜下腔に、AAVキャプシドタンパク質および一対のAAV逆方向末端反復の間に挿入される治療剤をコードする核酸を含むベクターを含むrAAV粒子を、該哺乳動物の脳脊髄液(CSF)と接触する細胞を感染させるために有効な様式で投与する工程であって、ここで該細胞は、該疾患を処置するように該治療剤を発現する、工程を包含する、方法。
(項目5)
前記細胞は、前記治療剤を発現し、該治療剤をCSFへと分泌する、項目1〜4のいずれか1項に記載の方法。
(項目6)
前記細胞は、上衣細胞、軟膜細胞、内皮細胞、脳室細胞、および/もしくは髄膜細胞である、項目1〜4のいずれか1項に記載の方法。
(項目7)
前記rAAVを、前記哺乳動物の脳室、くも膜下腔および/もしくは髄膜下腔にさらに投与する工程をさらに包含する、項目1〜2および5〜6のいずれか1項に記載の方法。
(項目8)
前記哺乳動物は、非齧歯類哺乳動物である、項目1〜7のいずれか1項に記載の方法。
(項目9)
前記非齧歯類哺乳動物は、霊長類、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、もしくはイヌである、項目8に記載の方法。
(項目10)
前記哺乳動物は、イヌである、項目9に記載の方法。
(項目11)
前記非齧歯類哺乳動物は、霊長類である、項目9に記載の方法。
(項目12)
前記霊長類は、ヒトである、項目11に記載の方法。
(項目13)
前記治療剤は、治療用核酸である、項目1〜12のいずれか1項に記載の方法。
(項目14)
前記治療剤は、タンパク質である、項目1〜12のいずれか1項に記載の方法。
(項目15)
前記核酸は、リソソーム加水分解酵素をコードする、項目14に記載の方法。
(項目16)
前記タンパク質は、TPP1である、項目15に記載の方法。
(項目17)
前記疾患は、リソソーム蓄積症(LSD)である、項目1〜16のいずれか1項に記載の方法。
(項目18)
前記LSDは、小児性セロイドリポフスチン蓄積症もしくは後発型小児性セロイドリポフスチン蓄積症(LINCL)、神経型ゴーシェ病、若年性バッテン病、ファブリー病、MLD、サンフィリッポ症候群A型、ハンター症候群、クラッベ病、モルキオ症候群、ポンペ病、ニーマン・ピック病C型、テイ・サックス病、ハーラー症候群(MPS−I H)、サンフィリッポ症候群B型、マロトー・ラミー症候群、ニーマン・ピック病A型、シスチン症、ハーラー・シャイエ症候群(MPS−I H/S)、スライ症候群(MPS VII)、シャイエ症候群(MPS−I S)、小児性バッテン病、GM1ガングリオシドーシス、ムコリピドーシスII/III型、もしくはサンドホフ病である、項目17に記載の方法。
(項目19)
前記疾患は、LINCLである、項目18に記載の方法。
(項目20)
前記疾患は、神経変性疾患である、項目1〜16のいずれか1項に記載の方法。
(項目21)
前記神経変性疾患は、アルツハイマー病、ハンチントン病、ALS、遺伝性痙性片麻痺、原発性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症、ケネディー病、ポリグルタミンリピート病、もしくはパーキンソン病である、項目20に記載の方法。
(項目22)
前記神経変性疾患は、アルツハイマー病である、項目21に記載の方法。
(項目23)
前記タンパク質は、保護性のApoEアイソフォームタンパク質である、項目22に記載の方法。
(項目24)
前記保護性のApoEアイソフォームは、ApoE ε2と80%相同性を有する、項目23に記載の方法。
(項目25)
前記保護性のApoEアイソフォームは、ApoE ε2と100%相同性を有する、項目23に記載の方法。
(項目26)
前記rAAV粒子は、脳中の1〜5箇所に注射される、項目1〜25のいずれか1項に記載の方法。
(項目27)
前記rAAV粒子は、脳中の1箇所に注射される、項目26に記載の方法。
(項目28)
前記rAAV粒子は、rAAV2、rAAV4、rAAV5および/もしくはrAAV9の粒子である、項目1〜27のいずれか1項に記載の方法。
(項目29)
前記rAAV粒子は、rAAV2粒子である、項目28に記載の方法。
(項目30)
前記rAAV粒子は、rAAV9粒子である、項目28に記載の方法。
(項目31)
前記治療剤は、前記哺乳動物の大槽へと単一用量で投与される、項目1〜30のいずれか1項に記載の方法。
(項目32)
免疫抑制剤を投与する工程をさらに包含する、項目1〜31のいずれか1項に記載の方法。
(項目33)
前記免疫抑制剤は、抗炎症剤である、項目32に記載の方法。
(項目34)
前記抗炎症剤は、ミコフェノレートである、項目33に記載の方法。
(項目35)
前記rAAVは、1×10
5〜1×10
16vg/mlを約1〜5mlの用量で投与される、項目1〜34のいずれか1項に記載の方法。
(項目36)
前記rAAVは、1×10
7〜1×10
14vg/mlを約1〜3mlの用量で投与される、項目1〜34のいずれか1項に記載の方法。
(項目37)
前記rAAVは、1×10
8〜1×10
13vg/mlを約1〜2mlの用量で投与される、項目1〜34のいずれか1項に記載の方法。