【氏名又は名称原語表記】THE SECOND AFFILIATED HOSPITAL OF GUANGZHOU UNIVERSITY OF CHINESE MEDICINE
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、新規な低毒性のライコウトウ配糖体を提供することである。
本発明の別の目的は、上記新規ライコウトウ配糖体の製造方法を提供することである。
本発明のさらなる目的は、上記新規ライコウトウ配糖体の医薬製造における使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、本発明は低毒性の新規ライコウトウ配糖体を提供する。該低毒性の新規ライコウトウ配糖体は、以下のステップ(1)及びステップ(2)を含む方法により製造される。
ステップ(1)において、リン酸二水素ナトリウムとリン酸とで調製したpH3.0〜5.0の緩衝溶液中で、ライコウトウ配糖体(トリプトリドの含有量を測定するためにサンプルを保存する)を90〜120℃の油浴に入れ、加熱還流により加水分解反応を18〜96h(好ましくは30h)行う。
【0007】
反応終了後、溶媒を減圧除去し(又は、抽出により除去し)、無水エタノールを加えて再溶解させ、遠心分離して不溶物を取り除き、さらに溶液に無水エタノールを加えて定容した後、サンプリングしてトリプトリドの量を測定し、トリプトリドの減少量を得る。
【0008】
ステップ(2)において、ステップ(1)の反応生成物にトリプトリオリド−無水エタノール溶液を加え、混合した後、溶媒を蒸発させて除去し、低毒性の新規ライコウトウ配糖体を得る。ここでトリプトリオリドの添加量はトリプトリドの減少量のモル(mol)数の0〜20倍である。
【0009】
ステップ(1)及び(2)における無水エタノールの代わりに、他の毒性のない有機溶媒、例えば、イソプロパノールを用いてもよい。
【0010】
上記ライコウトウ配糖体は、以下の方法により作製される。
ライコウトウの乾燥根茎を原料として用いて、質量百分率95%のエタノール(エタノールとライコウトウの乾燥根茎との体積質量比は4〜16:1である)による還流抽出を3〜12h行った後、抽出液を減圧濃縮し、粗エキスを得る。粗エキスを中性アルミナで吸着し、エタノールを蒸発させて除去した後、トリクロロメタンで抽出し、減圧濃縮することでライコウトウ配糖体を得る。
【0011】
本発明の他の態様によれば、本発明は、上記低毒性の新規ライコウトウ配糖体の製造方法を提供する。該製造方法は、以下のステップa)〜c)を含むことを特徴とする。
【0012】
ステップa)において、ライコウトウの乾燥根茎を原料として用いて、質量百分率95%のエタノール(エタノールとライコウトウの乾燥根茎との体積質量比は4〜16:1である)による還流抽出を3〜12h行なった後、抽出液を減圧濃縮し、粗エキスを得る。粗エキスを中性アルミナで吸着し、エタノールを蒸発させて除去した後、トリクロロメタンで抽出し、減圧濃縮することでライコウトウ配糖体を得る。
【0013】
ステップb)において、リン酸二水素ナトリウムとリン酸とで調製したpH3.0〜5.0の緩衝溶液中で、ライコウトウ配糖体(トリプトリドの含有量を測定するためにサンプルを保存する)を90〜120℃の油浴に入れ、加熱還流により加水分解反応を18〜96h(好ましくは30h)行う。
【0014】
反応終了後、溶媒を減圧下で除去し(又は、抽出により除去し)、無水エタノールを加えて再溶解させ、遠心分離して不溶物を取り除き、さらに溶液に無水エタノールを加えて定容した後、サンプリングしてトリプトリドの量を算出し、トリプトリドの減少量を得る。
【0015】
ステップc)において、ステップb)の反応生成物にトリプトリオリド−無水エタノール溶液を加えて混合した後、溶媒を蒸発させて除去し、低毒性の新規ライコウトウ配糖体を得る。ここで、トリプトリオリドの添加量はトリプトリドの減少量のモル(mol)数の0〜20倍である。
【0016】
ステップ(1)及び(2)における無水エタノールの代わりに、他の毒性のない有機溶媒、例えば、イソプロパノールを用いてもよい。
【0017】
本発明の他の態様によれば、本発明は、ネフローゼ症候群、原発性糸球体腎症、紫斑病性腎炎及びループス腎炎、関節リウマチ、エリテマトーデス、亜急性及び慢性重症肝炎、慢性活動性肝炎、アレルギー性皮膚血管炎、皮炎、湿疹、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎を治療する薬物の治療における上記低毒性の新規ライコウトウ配糖体の使用を提供する。
【0018】
トリプトリド及びトリプトリオリドは共にライコウトウのジテルペノイド成分であり、両者の化学構造は類似しており、特定の条件下で互いに変換することができる。本発明において、リン酸二水素ナトリウムとリン酸とで調製したpH3.0〜5.0の緩衝溶液中で還流反応させることにより、トリプトリドをトリプトリオリドに変換した上で、ライコウトウ配糖体を全体として上記と同じ条件下で化学的炮製を行うことによりライコウトウ配糖体におけるトリプトリドの含有量を低減させることにより、製剤の毒性を低減させる。しかし、毒性が低減されるのに伴い、製剤の薬効も低下することがある。このため、本発明では、一定量の低毒性で有効な(治療域が広い)トリプトリオリドを追加することにより製剤の薬効を増大させる。本発明は、初めてトリプトリドの含有量を低減させ、その分、トリプトリオリドの含有量を増加させることにより、かなりの抗炎症活性が保証されると共に、免疫抑制による毒性が低減されることにより、他の薬物製剤における使用及び臨床疾患の治療のために物質的基礎を提供する。
【0019】
本発明の低毒性の新規ライコウトウ配糖体は、以下の利点を有する。
1、新規ライコウトウ配糖体は、市販されているライコウトウ製剤に比べて毒性が大幅に低減される(p<0.05)。
2、新規ライコウトウ配糖体は、ネフローゼ症候群による腎臓の病理学的損傷及びタンパク尿の発生を有効に緩和し、生体の炎症レベルを改善することができると共に、ネフローゼ症候群に対して顕著な治療効果を有し、持続的な効果を有する。
3、免疫関連疾患のメカニズムが類似しているため、本発明が提供する新規ライコウトウ配糖体は、他の免疫関連疾患、特に、炎症誘発性の免疫関連疾患に対しても治療作用及び毒性低減効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。
【0022】
以下の製造例で用いられる試薬は全て市販試薬であり、用いられる機器は以下の通りである。
超高速液体クロマトグラフィー(Waters Acquity,米国のWaters社)、
1万分の1天秤(AL104−IC,スイスのMETTLER TOLEDO社)、
10万分の1天秤(AB135−S,スイスのMETTLER TOLEDO社)、酸度計(PHS−3C,上海精科儀器有限公司)、
マグネチックスターラー(HS7,ドイツのIKA社)、
回転式薄膜蒸発器(RV 10 basic V,ドイツのIKA社)、
卓上型マイクロ遠心分離機(Microfuge16,米国のBACKMAN社)、
全波長マイクロプレートリーダー(1510,サーモフィッシャーサイエンティフィック(中国)有限公司)、
ThermoScientificピペット(1−10μL、10−100μL、100−1000μL;Thermo Fisher Scientfic.inc)、
タンパク質垂直型電気泳動フィルム転写システム(Bio−Rad)、
自動イムノアッセイ分析装置(Abbott)、
ライカスライサー(Leica)。
【0023】
1. 新規ライコウトウ配糖体の製造
ライコウトウの乾燥根茎1500gを原料として用いて、12L質量百分率95%のエタノールで10h還流抽出した後、抽出液を減圧濃縮して粗エキスを得た。粗エキスを中性アルミナで吸着し、エタノールを蒸発させて除去し、さらにトリクロロメタン5Lで抽出し、減圧濃縮することでライコウトウ配糖体を得た。
【0024】
得られたライコウトウ配糖体からサンプリングしてトリプトリドの含有量を測定し、その指紋スペクトル及び特徴的成分に基づいて市販されているライコウトウ配糖体と比較した結果、得られたライコウトウ配糖体は、市場の主流製品(上海復旦復華薬業有限公司、湖南千金協力薬業有限公司、華潤三九薬業有限公司のライコウトウ製剤、湖南協力薬業有限公司製のライコウトウ配糖体錠剤)の指紋スペクトルに相当する。
【0025】
リン酸二水素ナトリウムを取り、水を加えて溶解し、室温で体積百分率1%のリン酸溶液を加えてpH4.0に調整することでpH4.0のリン酸二水素ナトリウム/リン酸緩衝溶液を得た。
【0026】
pH4.0のリン酸二水素ナトリウム/リン酸緩衝溶液中で、得られたライコウトウ配糖体の一部を取り、90〜120℃の油浴に入れ、加熱還流により加水分解反応を30h行った後、溶媒を減圧下で除去し、無水エタノールを加えて再溶解させ、遠心分離して不溶物を取り除き、無水エタノールを加えて1Lに定容した。10mLサンプリングし、トリプトリドの減少量を算出した。さらに300mL取り、そのまま溶媒を蒸発させて除去し、新規ライコウトウ配糖体Iを得た。別途に300mL取り、トリプトリド減少量の10倍(mol倍数)のトリプトリオリド−エタノール溶液を加え、溶媒を蒸発させて除去し、新規ライコウトウ配糖体IIを得た。別途に300mL取り、トリプトリド減少量の20倍(mol倍数)のトリプトリオリド−エタノール溶液を加え、溶媒を蒸発させて除去し、新規ライコウトウ配糖体IIIを得た。得られた新規ライコウトウ配糖体I、II、IIIを−20℃の冷蔵庫に保存した。以上の方法により、新規ライコウトウ配糖体I、II、IIIを得た。
【0029】
2. 新規ライコウトウ配糖体I、II、IIIにおけるトリプトリド及びトリプトリオリドの含有量測定
HPLC検出条件は、以下の通りである。
カラム:BEH Shield RP18(2.1×100mm,1.7μm)
移動相:アセトニトリル−水系
勾配溶出:溶出手順を表1に示す。
流速:0.3mL/min
検出波長:220nm
カラム温度:35℃
注入体積:3μL
結果を
図1、
図2に示す。
【0031】
図2には、対照品はトリプトリドとトリプトリオリドとの混合物である。
図1及び
図2から分かるように、新規ライコウトウ配糖体I、II、IIIにおけるトリプトリドは、いずれもライコウトウ配糖体よりも少ない。新規ライコウトウ配糖体I、ライコウトウ配糖体におけるトリプトリオリドの含有量は極めて少ない一方、新規ライコウトウ配糖体II、IIIにおけるトリプトリオリドの含有量は比較的多い。
【0032】
トリプトリド及びトリプトリオリドモノマーを標準品として、HPLCにより定量分析することにより、ライコウトウ配糖体及び新規ライコウトウ配糖体I、II、IIIにおけるトリプトリド及びトリプトリオリドの含有量が得られた。結果を表2に示す。
【0033】
表2 ライコウトウ配糖体及び新規ライコウトウ配糖体におけるトリプトリド及びトリプトリオリドの含有量(n=3)
【表2】
【0034】
3. 細胞実験
3.1 HK−2、HL−7702、GC1、GC2、TM4細胞培養及び毒性測定
HK−2、HL−7702、GC1、GC2、TM4は、いずれもATCC(American Type Culture Collection)から購入された。HK−2は、37℃高グルコースDMEM+10%FBS+1%ペニシリン−ストレプトマイシン溶液である。HL−7702、GC1、GC2、TM4は、いずれも37℃DMEM+10%FBS+1%ペニシリン−ストレプトマイシン溶液である。HK−2、HL−7702、GC1、GC2、TM4を5%CO
2インキュベーターに入れて培養した。細胞が80%まで培養容器に接着して増殖したときに、対数増殖期にある細胞を取り、0.25%トリプシンで消化した後、適宜な細胞密度を調整して96ウェルプレートに接種し、細胞が単層で容器に接着した後、同期化培地に交換して培養し、12h同期した。細胞が静止期に入った後、それぞれライコウトウ配糖体(LGT 0、1、5、10、20、30、50、100μg/mL)、新規ライコウトウ配糖体II(LGT−2,0、1、5、10、20、30、50、100μg/mL)、新規ライコウトウ配糖体III(LGT−4,0、5、10、20、30、50、75、100μg/mL)、LGT−5(0、0.1、2.5、5、10、15、25、50μg/mL)、トリプトリド(0、1、5、15、25、40、80、150ng/mL)、トリプトリオリド(0、50、100、200、250、300、400、500μg/mL)、ミックス(トリプトリド:トリプトリオリド=1:10,0、22、88、110、330、660、990、2200ng/mL)を200μL/回で投与して処理した。投与後、引き続き24h培養した後、MTT法により細胞活性を評価し、投与の24h後のIC
50値を算出し、結果を
図3に示す。
【0035】
図3には、左側はIC
50値の0−200での拡大図であり、右側はIC
50値の0−1での拡大図である(活性差が大きいため、縦軸に2つの倍率を使用する)。
図3から分かるように、新規ライコウトウ配糖体群では、各細胞系における毒性は顕著に低下し、各配合比は平均してトリプトリドの毒性よりも約1000倍低かった。トリプトリオリド:トリプトリドが10:1(新規ライコウトウ配糖体IIの割合に近い)である場合に、混合モノマー毒性は、約100倍顕著に低下した。
【0036】
3.2 免疫抑制活性の測定
マウスを頸椎脱臼により安楽死させた後、75%のエタノールに浸し、クリーンベンチ内でマウスの脾臓を取り出し、脾臓をDPBS(ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水,Dulbecco’s Phosphate Buffered Saline)中で3回洗浄して十分に湿潤させた。200メッシュのガーゼを35mmの皿に置き、10mL注射器のピストンを用いて一方向に沿って均一に研磨しながら、DPBSで湿潤させ、収集されたリンパ球懸濁液1500rpmを3min遠心分離し、次いで、各脾臓に7mL赤血球溶解液を加え、室温で30min作用した後、1500rpmで3min遠心分離し、上清を捨て、さらにDPBSで3回洗浄することで過剰な血清を除去し、4mLの70%Percollを15mL遠心チューブの底層、4mLの40%Percollを15mL遠心チューブの上層に加え、横型遠心分離機で800g、室温で20min遠心分離した後、40%percollと70%percollとの間の細胞を吸い取り、4mLのDPBSで3回洗浄し、96ウェル培養プレートに接種し、ブランク対照群(培地のみ)、濃度の異なるトリプトリオリド(50、100、150、200ug/mL)、Tリンパ球特異的増殖誘導剤Con A(10ug/mL;正常抑制群に対応)及びBリンパ球特異的増殖誘導剤LPS(10ug/mL;正常抑制群に対応)に従ってそれぞれ200μL加えて処理し、37℃の5%CO
2インキュベーターで24h培養した後、MTT法により細胞活性及び抑制率を測定した。結果を
図4に示す。
【0037】
特異的抑制実験のリンパ球前処理は上記と同様に行なった。リンパ球接を96ウェル培養プレートに接種した後、ブランク対照群(培地のみ)、Tリンパ球特異的増殖誘導剤Con Aモデル群(5ug/mL;モデル群に対応)、及びBリンパ球特異的増殖誘導剤LPSモデル群(5ug/mL;モデル群に対応)に従ってそれぞれ200μL加えた。ここで、複数のCon A投与群には、まずそれぞれTリンパ球特異的増殖誘導剤Con A(10ug/mL;モデル群に対応)を100μL加え、さらにそれぞれ濃度の異なるトリプトリオリド(100、200、300、400ug/mL)を100μL加え;複数のLPS投与群には、まずそれぞれBリンパ球特異的増殖誘導剤LPS(10ug/mL;モデル群に対応)を100μL加え、さらにそれぞれ濃度の異なるトリプトリオリド(100、200、300、400ug/mL)を100μL加えた。各群を37℃の5%CO
2インキュベーターで24h培養した後、MTT法により細胞活性及び抑制率を測定した。結果を
図4及び
図5に示す。
【0038】
図4から分かるように、トリプトリオリドは、正常T、Bリンパ球の体外増殖に対して抑制作用を有し、且つその抑制作用は用量依存性を示す。各投与群の細胞活性は、対照群及びモデル群よりも顕著に低い(p<0.05)。50ug/mLトリプトリオリドと200ug/mLトリプトリオリドとの、細胞活性に対する抑制程度には有意差がある(p<0.05)。
【0039】
T細胞特異的誘導剤ConA及びB細胞特異的誘導剤Lpsをそれぞれ加えた後、さらに、濃度の異なるトリプトリオリドで処理した結果を
図5に示す。
図5から分かるように、投与群の細胞活性は、いずれもブランク対照群よりも高いが、モデル群よりも低い。これは、トリプトリオリドが確かに比較的低い免疫抑制作用を有し、且つTリンパ球に対する抑制作用は、B細胞に対する抑制作用よりも顕著に高い(p<0.05)ことを示している。単独の細胞抑制は用量依存性を示していない。
【0040】
3.3 抗炎症活性の測定結果
Raw264.7 37℃、5%CO
2RPMI−1640+10%FBS+1%ペニシリン−ストレプトマイシン溶液。最終にはインキュベーターに入れて培養した。細胞が80%まで培養容器に接着して増殖したときに、対数増殖期にある細胞を取り、0.25%トリプシンで消化した後、適宜な細胞密度を調整して6ウェルプレートに接種し、細胞が単層で容器に接着した後、同期化培地に交換して培養し、12h同期した。細胞が静止期に入った後、ブランク対照群以外の各群に対しては、LPS(1ug/mL)1mLをモデル構築剤として誘導して細胞炎症モデルを構築し、モデル群に1mL培地、投与群(トリプトリオリド50、100、150、200μg/mL用量群)にそれぞれ1mL対応する濃度の薬液、ブランク対照群にそのまま2mL培地を加えて処理した。それぞれWestern blot、qPCR、ELISA等の方法により異なる処理ぐんの炎症関連タンパク質、遺伝子、サイトカインの発現レベル;NF−κB転写関連因子の発現;及びIL−6、IL−10、TNF−α等の炎症サイトカインの発現を検出した。
【0041】
図6に示すように、体内と体外の研究より、TNF−αは、主に炎症性糸球体でのメサンギウム細胞、上皮細胞、又は単核マクロファージから分泌され、メサンギウム細胞の分裂増殖を刺激するだけではなく、メサンギウム細胞が複数種の炎症性サイトカインを分泌するように刺激することができることで、メサンギウム細胞の増殖が促進されるため、サイトカインTNF−αは重要な炎症誘発作用を有することが証明されている。本課題の研究結果から分かるように、トリプトリオリドは、LPS誘発マウスマクロファージ炎症性損傷モデルにおけるサイトカインの分泌を改善する作用を有する。
【0042】
図7、8に示すように、NF−κB P65は、TNF−α、IL−6、IL−10等の炎症性サイトカイン遺伝子の発現を調整することにより生体の炎症反応に影響を与え、T、B細胞の増殖、成長及び分化し、体液性免疫及び細胞性免疫において重要な役割を果たす。図から分かるように、トリプトリオリドは、炎症性サイトカインTNF−α及びIL−10を有効に減少させる作用を有する。高濃度の場合、抗炎症性サイトカインIL−10の発現を向上させることができる。これは、本発明の薬物は、炎症性サイトカインの転写を有効に低減できると共に、一定の免疫調節活性を有することを示している。
【0043】
4. トリプトリオリドによる足細胞アポトーシスの阻害実験
マウスの不死化足細胞系MPC5は、中国広東省中医院腎臓病科からの贈物であった。MCP5を以下のように処理した。それぞれWestern blot、IFC、qPCR、ELISA等の方法により異なる処理群の炎症関連タンパク質、遺伝子、サイトカインの発現レベルを検出した。MCP5は、温度感受性細胞である。33℃RPMI−1640+10%FBS+1%ペニシリン−ストレプトマイシン溶液+10U/mLγ−IFNの条件下で増殖させ、37℃RPMI−1640+10%FBS+1%ペニシリン−ストレプトマイシン溶液の培地で10−14日分化させて保存した。MCP5を以下のように処理した。ブランク対照群以外の各群に対して、ADM(0.8μg/mL)1mLをモデル構築剤として誘導して細胞アポトーシスモデルを構築し、モデル群に1mL培地、投与群(トリプトリオリド50、100、150、200μg/mL用量群)にそれぞれ1mL対応する濃度の薬液、ブランク対照群にそのまま2mL培地を加えて処理した。それぞれWestern blot、IFC、qPCR、ELISA等の方法により異なる処理群の炎症関連タンパク質、遺伝子、サイトカインの発現レベルを検出した。スリット膜タンパク質Podocin及びアポトーシス関連遺伝子Baxの発現については、FITCが標識されたAnnexin V及びPropidium iodide(PI)により細胞を二重染色し、フローサイトメーターによる検出を行うことにより、初期アポトーシス細胞、後期アポトーシス細胞及びアポトーシス細胞を区別した。結果を
図9、
図10、
図11に示す。
【0044】
図9−11に示すように、足細胞が損傷した後、アポトーシス、オートファジー、壊死が発生することで、その数が減少され、最終的にタンパク尿が引き起こされ、腎臓機能に影響を与えることになる。その結果から分かるように、完全に分化した足細胞を0.8μg/mLのADMで処理してアポトーシス細胞モデルを構築した後、トリプトリオリドで処理した結果、細胞のアポトーシス状況が改善された。これは、トリプトリオリドは、足細胞を損傷から保護する作用を有し、臨床足細胞疾患の治療に適用できることを示している。実験結果から分かるように、トリプトリオリドは、足細胞をアポトーシスから保護する作用を有するが、高濃度の場合に上昇傾向がある。
【0045】
5. 動物実験
5.1 アドリアマイシン(ADR)によりラットネフローゼ症候群を誘発することによる疾患動物モデルの構築
雄性で健康なSDラット100匹を7日飼育した後、ブランク対照群として8匹をランダムに選択し、残りのラットに非麻酔条件下で尾静脈より5.0mg/(kg・匹)でアドリアマイシンを1回注射してアドリアマイシンネフローゼ症候群動物モデルを構築した。
【0046】
グループ化:アドリアマイシン注射3週間後、100匹のラットに対して24時間尿タンパク質排泄量を測定した。ブランク群(等量の生理食塩水を注射)との比較によりモデル構築が成功したラットを確定した。24時間尿タンパク質排泄量が70−180mgのラットを選択し、尿タンパク質排泄量に応じてモデル群、ライコウトウ配糖体群、新規ライコウトウ配糖体I群、新規ライコウトウ配糖体II群、及び新規ライコウトウ配糖体III群にランダムに平均的に分けた。含有量の配合結果は表2と同様であった。
【0047】
表2 ライコウトウ配糖体及び新規ライコウトウ配糖体におけるトリプトリド及びトリプトリオリドの含有量(n=3)
【表3】
【0048】
5.2 投与量の選択
薬物の製造:ライコウトウ配糖体を0.4g取り、まず5mL無水エタノールを加えて薬物を溶解し、さらに時計回りによく揺動しながら無水エタノール溶液をカルボキシメチルセルロースナトリウム溶液にゆっくりと滴下して423mLに定容し、超音波処理により均一に混合した。新規ライコウトウ配糖体I、II、IIIの調製方法はライコウトウ配糖体と同様であり、濃度はいずれも0.95g/Lであった。
【0049】
モデル構築成功後の翌日から、各群に対して毎日胃内投与した。具体的には、ブランク群及びモデル群に生理食塩水、ライコウトウ配糖体群にライコウトウ配糖体(0.95g/L)、新規ライコウトウ配糖体I、II、III(0.95g/L)群にそれぞれ新規ライコウトウ配糖体I、II、IIIを、8週間連続的に投与した。各ラットの胃内投与量はいずれも1mL/100gであった。
【0050】
5.3 観察指標の測定
動物状況:各群のラットに対して週2回で体重を測り、ラットの精神状態、体毛、浮腫、動き状況等を観察した。
【0051】
尿タンパク質含有量の測定:各群のラットを、それぞれモデル構築前、モデル構築後の3週目、及び投与後の2、4、6、8週目に代謝ケージに個別に収容し、24時間尿液を収集し、尿量を記録し、クマシーブリリアントブルー法により尿タンパク質の濃度を測定し、24時間尿タンパク質排泄量を算出した。結果を表3、表4、
図12に示す。
【0052】
【表4】
ブランク群と比較した結果、*P<0.05、**P<0.01であった。
【0053】
【表5】
ブランク群と比較した結果、*P<0.05,**P<0.01であった。
モデル群と比較した結果、#P<0.05,##P<0.01であった。
【0054】
実験結果(表3、表4、
図12)から分かるように、実験過程において、ブランク群のラットは、精神状態が良好で、体毛が光沢を有し、動き、飲食が正常で、尿量が正常であった。モデル構築の2週間後、モデルラットのいずれにも、飲水減少、尿量減少が発生し、一部のラットには尾の潰爛(かいらん)が発生した。投与後、モデル群のラットは依然として焦燥性興奮であり、体毛が乱れ、尿量が減少し、痩せていたのに対して、投与群では上記状況が改善された。
【0055】
実験結果から分かるように、SPSS 20.0統計ソフトウェアにより分析したところ、各時点でのデータは正規分布している。モデル構築前に、各群のラットの尿タンパク質排泄量には有意差がなかった。モデル構築後の3週目に、各モデル構築群のラットはブランク群に比べて、尿タンパク質排泄量に有意差があり(P<0.01)、モデル構築が成功したことを示している。治療過程において、各治療群のラットの尿タンパク質排泄量は、いずれもある程度の減少した。投与後に、モデル群に比べて、ライコウトウ配糖体群及び新規ライコウトウ配糖体II群の尿タンパク質排泄量は顕著に減少した(P<0.05)。ライコウトウ配糖体群と新規ライコウトウ配糖体II群との尿タンパク質排泄量には有意差がなかった。
【0056】
血液生化学指標の検査:実験の8週目が終わったときに、腹部大動脈採血によりラット血清を取り、自動生化学分析装置により血清における総タンパク質、アルブミン、尿素窒素、クレアチニン、総コレステロール、トリグリセリド等の血液生化学指標を測定した。結果を表5、
図13、
図14に示す。
【0057】
【表6】
ブランク群と比較した結果、*P<0.05,**P<0.01であった。
モデル群と比較した結果、#P<0.05,##P<0.01であった。
【0058】
実験結果から分かるように、SPSS 20.0統計ソフトウェアにより分析したところ、各データは正規分布になっている。実験結果より、以下のことが明らかになった。
1)各群のラットの総タンパク質レベルには有意差がなかった。モデル群のラットのアルブミンレベルは顕著に低下し、ブランク群に比べて有意差があり(P<0.01)、モデル群に比べて新規ライコウトウ配糖体II群のアルブミン含有量は顕著に向上し、有意差があった(P<0.01)。
2)各群のラットの血清における尿素窒素、クレアチニンレベルには有意差がなかった。
3)総コレステロールレベルについて、モデル群のラットの総コレステロールレベルは顕著に向上し、ブランク群に比べて有意差があり(P<0.01)、モデル群に比べて新規ライコウトウ配糖体II群の総コレステロールレベルは顕著に低下し、有意差があった(P<0.05)。
4)トリグリセリドレベルについて、ブランク群に比べて、モデル群のラットのトリグリセリドレベルは顕著に向上し(P<0.01)、モデル群に比べて、ライコウトウ配糖体群、新規ライコウトウ配糖体II、III群の総コレステロールレベルは、いずれも顕著に低下した(P<0.05又はP<0.01)。
【0059】
組織病理学的検査:腹部大動脈採血後に、ラットの腎臓を摘出し、10%のホルマリン溶液で固定し、パラフィンに包埋してスライスし、HE染色した後、病理学的検査を行なった。結果を
図15に示す。結果から分かるように、光学顕微鏡下で、ブランク群の糸球体、尿細管及び腎間質に明らかな異常は観察されなかった。モデル群は、メサンギウム細胞及び間質過形成、腎間質線維化が観察され、一部の尿細管上皮細胞に粒子変性が観察され、一部の糸球体が萎縮した。各治療群の腎臓の病理学的状況は、モデル群に比べて改善された。
【0060】
以上まとめると、NSラットは、糸球体のバリア機能の損傷により、大量のアルブミンが尿液に漏出して大量のタンパク尿が形成される。従って、NS疾患の治療においては、NSラットの尿タンパク質排泄量の低減は重要な指標の一つである。糸球体の損傷がひどくなり糸球体硬化が発生するときに、尿タンパク質の排泄量は顕著に減少するため、偽陽性の結果が生じることがある。従って、薬物のNS疾患に対する治療効果を判断するときに、尿タンパク質の排泄量を観察することに加えて、血清クレアチニン、尿素窒素のレベル及び腎臓の病理学的検査結果を考慮して総合的に評価する必要がある。本実験結果から分かるように、新規ライコウトウ配糖体IIはNSラットの24h尿タンパク質排泄量を顕著に減少させることができ、且つ、クレアチニン、尿素窒素レベルに異常がなく、新規ライコウトウ配糖体II群のラットの腎臓病理切片にも顕著な糸球体硬化等の病理学的変化が観察されなかった。新規ライコウトウ配糖体IIはNSラットに対して顕著な治療作用を有することを示している。薬力学的結果から明らかであるように、ラットに尾静脈より5mg/kgのアドリアマイシンを1回注射することによりNS動物モデルを成功に構築することができた。薬物の介入から分かるように、ライコウトウ配糖体及び新規ライコウトウ配糖体IIは、NSラットに対して顕著な治療作用を有し、両者の効果が類似しているが、新規ライコウトウ配糖体IIの方は効果が速く効いた。本実験で得られた新規ライコウトウ配糖体IIは、毒性低減・効果持続プロセス研究における効果持続の目的を達成した。従って、ネフローゼ症候群、原発性糸球体腎症、紫斑病性腎炎及びループス腎炎、関節リウマチ、エリテマトーデス、亜急性及び慢性重症肝炎、慢性活動性肝炎、アレルギー性皮膚血管炎、皮炎、湿疹、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎の治療薬の製造における本発明の新規ライコウトウ配糖体の使用に基盤を提供し、実現可能性を確認した。
【0061】
以上の説明は本発明の一部の実施形態に過ぎない。本発明の創作趣旨から逸脱しない限り、当業者であれば、様々な変形及び改良を行うことができ、これらは本発明の保護範囲に含まれる。