(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6872627
(24)【登録日】2021年4月21日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】連続式工程を利用した多重壁カーボンナノチューブの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/162 20170101AFI20210510BHJP
C01B 32/164 20170101ALI20210510BHJP
B01J 23/881 20060101ALI20210510BHJP
B01J 23/882 20060101ALI20210510BHJP
B01J 23/888 20060101ALI20210510BHJP
B01J 23/847 20060101ALI20210510BHJP
B01J 35/08 20060101ALI20210510BHJP
B01J 37/00 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
C01B32/162
C01B32/164
B01J23/881 M
B01J23/882 M
B01J23/888 M
B01J23/847 Z
B01J35/08 A
B01J37/00 F
【請求項の数】16
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-548043(P2019-548043)
(86)(22)【出願日】2018年3月2日
(65)【公表番号】特表2020-508959(P2020-508959A)
(43)【公表日】2020年3月26日
(86)【国際出願番号】KR2018002548
(87)【国際公開番号】WO2018160041
(87)【国際公開日】20180907
【審査請求日】2019年10月3日
(31)【優先権主張番号】10-2017-0027872
(32)【優先日】2017年3月3日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2018-0024472
(32)【優先日】2018年2月28日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】516298504
【氏名又は名称】コリア クンホ ペトロケミカル カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Korea Kumho Petrochemical Co.,Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】リュ,サン ヒョ
(72)【発明者】
【氏名】スン,ヒュン キュン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,チュン ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ドン ファン
【審査官】
中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2012/0040186(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0274277(US,A1)
【文献】
特開2009−161426(JP,A)
【文献】
韓国登録特許第10−1349674(KR,B1)
【文献】
特表2009−528238(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00−32/991
B01J 21/00−38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)金属前駆体を溶媒中に溶解させて、前駆体溶液を製造する段階;
(b)前記前駆体溶液を反応器の内部に噴霧しながら、熱分解させて、触媒粉末を形成する段階;および
(c)前記触媒粉末を600〜900℃に加熱した流動層反応器の内部に投入し、炭素系ガスと運搬ガスを噴射して、前記触媒粉末から多重壁カーボンナノチューブを合成する段階;を含み、
前記段階(a)〜(c)が連続式で行われ、
前記触媒粉末は、下記式1による金属成分を含
み、
下記式2による転換率が80%以上である、多重壁カーボンナノチューブの製造方法:
【数1】
上記式中、
Maは、Fe、Ni、Co、Mn、Cr、Mo、V、W、SnおよびCuの中から選ばれた2種以上の金属であり、
Mbは、Mg、Al、SiおよびZrの中から選ばれた1種以上の金属であり、
xおよびyは、それぞれMaおよびMbのモル分率を示し、
x+y=10、2.0≦x≦7.5、2.5≦y≦8.0である。
【数2】
【請求項2】
前記触媒粉末は、厚さが0.5〜10μmである中空構造を有する、請求項1に記載の多重壁カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項3】
前記触媒粉末の見かけ密度が0.05〜0.70g/mLである、請求項1または2に記載の多重壁カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項4】
前記中空構造の中空比率が50体積%以上である、請求項2に記載の多重壁カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項5】
前記炭素系ガスが、炭素数1〜4の飽和または不飽和炭化水素、一酸化炭素、ベンゼン、およびこれらのうち2以上の混合物よりなる群から選ばれた一つである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の多重壁カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項6】
前記運搬ガスが、ヘリウム、窒素、アルゴン、およびこれらのうち2以上の混合物よりなる群から選ばれた一つである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の多重壁カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項7】
前記金属前駆体が、金属の硝酸塩、硫酸塩、アルコキシド、クロライド、アセテート、カーボネート、およびこれらのうち2以上の混合物よりなる群から選ばれた一つである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の多重壁カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項8】
前記段階(b)が、
(i)2〜5気圧の空気を運搬ガスとして供給し、外部空気を流入させて、前駆体溶液を反応器の内部に噴霧する段階;および
(ii)噴霧された前記前駆体溶液を600〜1,200℃で熱分解して、触媒粉末を形成する段階;
を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の多重壁カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項9】
前記段階(c)が、
(i)流動層反応器を600〜900℃に加熱する段階;
(ii)反応器の上部で触媒粉末を供給し、反応器内で流動化させる段階;
(iii)炭素系ガスと運搬ガスを反応器の下部で回転翼を通じて供給する段階;および
(iv)前記回転翼による上昇気流により流動化した前記触媒粉末上に炭素を熱気相蒸着させる段階;
を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の多重壁カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項10】
前記段階(c)以後に、
(d)前記多重壁カーボンナノチューブを前記流動層反応器から回収する段階;をさらに含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の多重壁カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項11】
前記(d)段階が、
(i)前記多重壁カーボンナノチューブを、窒素ガスを利用してサイクロンに移送する段階;および
(ii)前記サイクロンで前記多重壁カーボンナノチューブのうち不純物を除去して、多重壁カーボンナノチューブを選別する段階;
を含む、請求項10に記載の多重壁カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項12】
前記多重壁カーボンナノチューブが凝集して束型カーボンナノチューブとして存在する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の多重壁カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項13】
前記束型カーボンナノチューブの平均束直径(bundle diameter)が0.5〜20μmであり、平均束長さ(bundle length)が10〜200μmである、請求項12に記載の多重壁カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項14】
前記多重壁カーボンナノチューブのラマン分光強度比IG/IDが0.7〜1.5である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の多重壁カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項15】
前記多重壁カーボンナノチューブの平均直径が5〜50nmである、請求項1〜14のいずれか1項に記載の多重壁カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項16】
前記多重壁カーボンナノチューブの見かけ密度が0.01〜0.07g/mLである、請求項1〜15のいずれか1項に記載の多重壁カーボンナノチューブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続式工程を利用した多重壁カーボンナノチューブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(carbon nanotube)は、1個の炭素原子が3個の他の炭素原子と結合した六角形のハニカム形状のチューブ型構造を有する素材であって、その電気的、熱的、機械的特性が他の素材に比べて優れていて、多様な産業分野に応用されている。
【0003】
このようなカーボンナノチューブは、一般的に電気放電法(arc−discharge)、熱分解法(pyrolysis)、レーザー蒸着法(laser vaporization)、化学気相蒸着法(chemical vapor deposition)、プラズマ化学気相蒸着法(plasma chemical vapor deposition)、熱化学気相蒸着法(thermal chemical vapor deposition)、気相合成法(chemical vapor condensation)などの多様な方法により製造される。
【0004】
今まで多様な金属成分の組合せおよび物理的特性を有するカーボンナノチューブ製造用触媒が開発されたが、大部分が生産性および合成されたカーボンナノチューブの均一性が低い固定層化学気相蒸着反応器をベースに開発されて、大量生産および均一なカーボンナノチューブの製造に有利な流動層化学気相蒸着反応器には適していないという問題がある。
【0005】
また、触媒の製造方法が、噴霧乾燥法(spray dry)であって、200〜350℃の低温で行われ、触媒の内部にホールを形成するためには、必須的に水溶性高分子を造孔剤として使用しなければならず、触媒を合成に適合した形態に作るために、350〜1,100℃で別途の焼成過程を経なければならないという問題があり、このような噴霧乾燥法で製造された触媒粉末は、高い見かけ密度により流動層反応器には適していないという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前述した従来技術の問題点を解決するためのものであって、本発明の目的は、流動層反応器に最適化された触媒粉末を利用して炭素系原料ガスの転換率および多重壁カーボンナノチューブの収率を向上させることによって、多重壁カーボンナノチューブを大量で製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、(a)金属前駆体を溶媒中に溶解させて、前駆体溶液を製造する段階;(b)前記前駆体溶液を反応器の内部に噴霧しながら、熱分解させて、触媒粉末を形成する段階;および(c)前記触媒粉末を600〜900℃に加熱した流動層反応器の内部に投入し、炭素系ガスと運搬ガスを噴射して、前記触媒粉末から多重壁カーボンナノチューブを合成する段階;を含み、前記段階(a)〜(c)が連続式で行われ、前記触媒粉末は、下記式1による金属成分を含む多重壁カーボンナノチューブの製造方法を提供する。
【0008】
【数1】
【0009】
上記式中、Maは、Fe、Ni、Co、Mn、Cr、Mo、V、W、SnおよびCuの中から選ばれた2種以上の金属であり、Mbは、Mg、Al、SiおよびZrの中から選ばれた1種以上の金属であり、xおよびyは、それぞれMaおよびMbのモル分率を示し、x+y=10、2.0≦x≦7.5、2.5≦y≦8.0である。
【0010】
一実施例において、前記触媒粉末は、厚さが0.5〜10μmである中空構造を有することができる。
【0011】
一実施例において、前記触媒粉末の見かけ密度が0.05〜0.70g/mLであり得る。
【0012】
一実施例において、前記中空構造の中空比率が50体積%以上であり得る。
【0013】
一実施例において、下記式2による転換率が80%以上であり得る。
【0014】
【数2】
【0015】
一実施例において、前記炭素系ガスが、炭素数1〜4の飽和または不飽和炭化水素、一酸化炭素、ベンゼン、およびこれらのうち2以上の混合物よりなる群から選ばれた一つであり得る。
【0016】
一実施例において、前記運搬ガスが、ヘリウム、窒素、アルゴン、およびこれらのうち2以上の混合物よりなる群から選ばれた一つであり得る。
【0017】
一実施例において、前記金属前駆体が、金属の硝酸塩、硫酸塩、アルコキシド、クロライド、アセテート、カーボネート、およびこれらのうち2以上の混合物よりなる群から選ばれた一つであり得る。
【0018】
一実施例において、前記段階(b)が、(i)2〜5気圧の空気を運搬ガスとして供給し、外部空気を流入させて、前駆体溶液を反応器の内部に噴霧する段階;および(ii)噴霧された前記前駆体溶液を600〜1,200℃で熱分解して、触媒粉末を形成する段階;を含むことができる。
【0019】
一実施例において、前記段階(c)が、(i)流動層反応器を600〜900℃に加熱する段階;(ii)反応器の上部で触媒粉末を供給し、反応器内で流動化させる段階;(iii)炭素系ガスと運搬ガスを反応器の下部で回転翼を通じて供給する段階;および(iv)前記回転翼による上昇気流により流動化した前記触媒粉末上に炭素を熱気相蒸着させる段階;を含むことができる。
【0020】
一実施例において、前記段階(c)以後に、(d)前記多重壁カーボンナノチューブを前記流動層反応器から回収する段階;をさらに含むことができる。
【0021】
一実施例において、前記段階(d)が、(i)前記多重壁カーボンナノチューブを、窒素ガスを利用してサイクロンに移送する段階;および(ii)前記サイクロンで前記多重壁カーボンナノチューブのうち不純物を除去して、多重壁カーボンナノチューブを選別する段階;を含むことができる。
【0022】
一実施例において、前記多重壁カーボンナノチューブが凝集して束型カーボンナノチューブとして存在することができる。
【0023】
一実施例において、前記束型カーボンナノチューブの平均束直径(bundle diameter)が0.5〜20μmであり、平均束長さ(bundle length)が10〜200μmであり得る。
【0024】
一実施例において、前記多重壁カーボンナノチューブのラマン分光強度比I
G/I
Dが0.7〜1.5であり得る。
【0025】
一実施例において、前記多重壁カーボンナノチューブの平均直径が5〜50nmであり得る。
【0026】
一実施例において、前記多重壁カーボンナノチューブの見かけ密度が0.01〜0.07g/mLであり得る。
【発明の効果】
【0027】
本発明の一態様によれば、噴霧熱分解方法で流動層反応器に最適化した触媒粉末を製造し、これを利用して流動層反応器で多重壁カーボンナノチューブを連続的に製造することによって、80%以上の転換率を得ることができるので、非常に経済的に多重壁カーボンナノチューブを大量で生産することができる。
【0028】
本発明の効果は、上記した効果に限定されるものではなく、本発明の詳細な説明または請求範囲に記載された発明の構成から推論可能なすべての効果を含むものと理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、本発明の一実施例による多重壁カーボンナノチューブ製造用触媒のSEM写真である。
【
図2】
図2は、本発明の比較例による多重壁カーボンナノチューブ製造用触媒のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下では、添付の図面を参照して本発明を説明することとする。しかしながら、本発明は、様々な異なる形態で具現され得、したがって、ここで説明する実施例に限定されるものではない。そして、図面において本発明を明確に説明するために説明と関係ない部分は省略し、明細書全般において類似した部分に対しては、類似した参照符号を付けた。
【0031】
明細書全般において、任意の部分が他の部分と「連結」されているというとき、これは、「直接的に連結」されている場合だけでなく、その中間に他の部材を挟んで「間接的に連結」されている場合をも含む。また、任意の部分が或る構成要素を「含む」というとき、これは、特に反対される記載がない限り、他の構成要素を除くものではなく、他の構成要素をさらに具備できることを意味する。
【0032】
本発明の一態様は、(a)金属前駆体を溶媒中に溶解させて、前駆体溶液を製造する段階;(b)前記前駆体溶液を反応器の内部に噴霧しながら、熱分解させて、触媒粉末を形成する段階;および(c)前記触媒粉末を600〜900℃に加熱した流動層反応器の内部に投入し、炭素系ガスと運搬ガスを噴射して、前記触媒粉末から多重壁カーボンナノチューブを合成する段階;を含み、前記段階(a)〜(c)が連続式で行われ、前記触媒粉末は、下記式1による金属成分を含む多重壁カーボンナノチューブの製造方法を提供する。
【0034】
上記式中、Maは、Fe、Ni、Co、Mn、Cr、Mo、V、W、SnおよびCuの中から選ばれた2種以上の金属であり、Mbは、Mg、Al、SiおよびZrの中から選ばれた1種以上の金属であり、xおよびyは、それぞれMaおよびMbのモル分率を示し、x+y=10、2.0≦x≦7.5、2.5≦y≦8.0である。
【0035】
前記段階(a)で前記触媒粉末を成すそれぞれの金属元素の前駆体溶液を製造することができる。前記金属前駆体は、金属の硝酸塩、硫酸塩、アルコキシド、クロライド、アセテート、カーボネート、およびこれらのうち2以上の混合物よりなる群から選ばれた一つであり得るが、これに限定されるものではない。
【0036】
前記段階(a)で前記溶媒は、極性溶媒であってもよく、前記極性溶媒として、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、またはこれらのうち2以上の混合溶媒が使用でき、好ましくは水、さらに好ましくは脱イオン水が使用できる。
【0037】
前記前駆体溶液の製造のために各前駆体を溶解させるとき、脱イオン水を溶媒として使用すると、前駆体溶液内の不純物を最小化することができ、これにより、最終的に製造される触媒粉末の純度を向上させることができる。前記触媒粉末の純度向上は、結果的にカーボンナノチューブの純度向上を意味する。
【0038】
前記段階(b)で前記前駆体溶液を反応器の内部に噴霧しながら、熱分解させて、触媒粉末を形成することができる。前記段階(b)は、(i)2〜5気圧の空気を運搬ガスとして供給し、外部空気を流入させて、前駆体溶液を反応器の内部に噴霧する段階;および(ii)噴霧された前記前駆体溶液を600〜1,200℃で熱分解して、触媒粉末を形成する段階;を含むことができる。
【0039】
前記段階(i)では、触媒粉末の粒径、見かけ密度などを制御するために、前記前駆体溶液を反応器の内部に噴霧して、さらに微細な液滴(droplet)に変換させることができる。
【0040】
前記前駆体溶液の噴霧時、その圧力は、2〜5気圧の範囲内に調節することができる。前記噴霧圧力が2気圧未満であると、触媒粉末の粒径、見かけ密度などが一定の範囲内に調節されないため、これを通じて合成されるカーボンナノチューブの純度が低下することがある。一方、前記噴霧圧力が5気圧超であると、液滴の粒度が過度に小さくなって、収得された触媒が相互凝集し得る。
【0041】
前記前駆体溶液の表面張力を克服し、慣性力(inertia force)を効率的に溶液に伝達するほど液滴のサイズをより細かく制御することができ、これを通じて触媒粉末の粒径、見かけ密度などを精密に制御することができる。
【0042】
これにより、前記前駆体溶液の噴霧と同時にガスを噴射して液滴を形成させることができ、前記前駆体溶液の噴霧以後にガスを噴射して液滴を形成させることもできる。
【0043】
ただし、前駆体溶液とガスの噴霧を順次に行う場合、液滴のサイズをより細かく制御することができるので、前記触媒粉末の製造方法が前記段階(ii)以前に前記反応器の内部にガスを噴霧する段階をさらに含むことができる。
【0044】
この際、前記ガスとしては、空気、窒素、アルゴンまたはこれらのうち2以上の混合ガスが使用でき、好ましくは空気が使用できる。また、前記液滴形成の効率を向上させるために、前記ガス噴霧に加えて、さらに静電気的引力を加えることもできる。
【0045】
前記前駆体溶液を噴霧した後、ガスをさらに噴霧する場合において、同時に噴霧する場合と同様に、噴霧ガスの圧力を2〜5気圧の範囲内に調節することができ、前記範囲を外れた場合の影響に関しては、前述したものと同じである。
【0046】
前記段階(ii)では、前記液滴を加熱して溶媒を蒸発させ、前駆体を分解することによって、最終的に触媒粉末を製造することができる。この際、前記反応器の温度が600〜1,200℃、好ましくは700〜900℃であり得る。
【0047】
前記反応器の温度が600℃未満であると、触媒粉末の乾燥状態が不良であるので、更なる工程が必要であり、経済性の側面において不利であり、これを通じて製造されるカーボンナノチューブの純度や物性が低下することがある。また、前記反応器の温度が1,200℃超であると、機器または設備の構築に余分なコストがかかり、経済的損失を招くと共に、固溶体形成や結晶構造の変形により触媒性能が低下することがある。
【0048】
前記段階(c)で前記触媒粉末を600〜900℃に加熱した流動層反応器の内部に投入し、炭素系ガスと運搬ガスを噴射して、前記触媒粉末から多重壁カーボンナノチューブを合成することができる。
【0049】
具体的に、前記段階(c)は、(i)流動層反応器を600〜900℃に加熱する段階;(ii)反応器の上部で触媒粉末を供給し、反応器内で流動化させる段階;(iii)炭素系ガスと運搬ガスを反応器の下部で回転翼を通じて供給する段階;および(iv)前記回転翼による上昇気流により流動化した前記触媒粉末上に炭素を熱気相蒸着させる段階;を含むことができる。
【0050】
前記段階(a)〜(c)は、連続式で行うことができて、特に、前記段階(a)〜(b)で噴霧熱分解法により製造された触媒粉末がカーボンナノチューブを製造するための流動層反応器に連続的に投入されて、大量のカーボンナノチューブを効果的に製造することができる。
【0051】
前記触媒粉末は、カーボンナノチューブを合成するための気相合成法に使用されることができ、前記MaがFe、Ni、Co、Mn、Cr、Mo、V、W、SnおよびCuの中から選ばれた2種以上の金属であり、前記MbがMg、Al、SiおよびZrの中から選ばれた1種以上の金属であるので、少なくとも3種以上の金属、好ましくは3種〜5種の金属成分を含むことができる。
【0052】
特に、前記Maは、前記触媒粉末において触媒成分および活性成分であり、前記触媒成分および活性成分として単一の金属成分を使用する場合に比べて、2種以上の金属成分を混合して使用することによって、カーボンナノチューブ合成過程中に不純物の生成を抑制して純度を向上させることができる。
【0053】
本明細書において使用された用語「触媒成分」は、物質の化学反応エネルギーを根本的に下げる物質、すなわち主触媒を意味し、「活性成分」は、前記触媒成分の作用を補助する物質、すなわち助触媒を意味する。前記触媒成分と活性成分が一定の範囲内で均一な分布を成している場合、カーボンナノチューブの合成収率が向上することができる。
【0054】
前記MaおよびMbのモル分率x、yは、それぞれ2.0≦x≦7.5、2.5≦y≦8.0である関係を満たすことができる。前記xが2.0未満であると、触媒の活性とそれによるカーボンナノチューブの合成収率が低下することがあり、7.5超であると、支持体成分であるMbの含量が相対的に少なくて、触媒粉末の耐久性が低下するにつれて、カーボンナノチューブの大量生産のための連続式流動層化学気相蒸着方式に適用しにくい問題がある。
【0055】
前記触媒粉末は、厚さが0.5〜10μm、好ましくは1〜8μmである中空構造を有することができ、前記中空比率が50体積%以上であり得る。また、前記触媒粉末の見かけ密度は、0.05〜0.70g/mLであり得る。
【0056】
本明細書に使用された用語「中空構造」は、内部が空いている立体構造、例えば、内部が空いている球形または多面体型構造を意味し、前記中空構造は、中空が全部密閉されたクローズ構造(closed structrure)、中空のうち一部が開放されたオープン構造(open structure)、またはこれらの組合せを含むものと解することができる。
【0057】
従来使用された内部が満杯になった球形の触媒粉末の場合、見かけ密度が約0.7g/mL超と高くて、カーボンナノチューブの大量生産のための連続式流動層化学気相蒸着方式に適用しにくく、触媒粉末の外表面にのみカーボンナノチューブが成長して収率を一定の水準以上に改善しにくい問題がある。
【0058】
これに対して、前記触媒粉末は、中空構造を有するので、従来の触媒粉末に比べて見かけ密度が低くて、連続式流動層化学気相蒸着方式に適用されることができ、カーボンナノチューブが前記中空構造の外表面から外側方向に成長することができると共に、前記中空構造の内表面から内側方向にも成長することができるので、カーボンナノチューブの合成収率を顕著に改善することができる。
【0059】
具体的に、下記式2による炭素系ガスの転換率が80%以上であり得る。
【0061】
前記炭素系ガスは、例えば、炭素数1〜4の飽和または不飽和炭化水素、一酸化炭素、ベンゼン、およびこれらのうち2以上の混合物よりなる群から選ばれた一つであり得、好ましくはエチレンガスであってもよいが、これに限定されるものではない。また、前記運搬ガスは、例えば、ヘリウム、窒素、アルゴン、およびこれらのうち2以上の混合物よりなる群から選ばれた一つであってもよく、好ましくは窒素であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0062】
前記段階(c)以後に、(d)前記多重壁カーボンナノチューブを前記流動層反応器から回収する段階;をさらに含むことができる。前記段階(d)が、(i)前記多重壁カーボンナノチューブを窒素ガスを利用してサイクロンに移送する段階;および(ii)前記サイクロンで前記多重壁カーボンナノチューブのうち不純物を除去して、多重壁カーボンナノチューブを選別する段階;を含むことができる。
【0063】
本明細書において使用された用語「サイクロン」は、一定の混合物内に含有された不純物を分離させる装置を意味するものであって、不純物が含まれた混合物を円錘形装置の上段円周の接線方向に流入させると、高速の旋回流が発生し、前記混合物のうち不純物が壁に衝突して運動エネルギーが減少しつつ、装置の下段部に排出および除去され、不純物が除去された混合物は、上段部に排出される原理を利用する。すなわち不純物の一種である凝集したカーボンナノチューブは、前記サイクロンの下段部に排出および除去され、精製された多重壁カーボンナノチューブは、前記サイクロンの上段部を通じて排出されることによって、その後段に位置する包装装置を経て高純度の均一な製品が生産され得る。
【0064】
前記多重壁カーボンナノチューブは、凝集して束型カーボンナノチューブとして存在することができる。前記束型カーボンナノチューブは、基本的に複数のカーボンナノチューブ、好ましくは複数の多重壁カーボンナノチューブが相互凝集した形態で存在することができる。それぞれのカーボンナノチューブおよびその集合体は、直線型、曲線型、またはこれらが混合された形態であり得る。
【0065】
前記束型カーボンナノチューブの平均束直径(bundle diameter)が0.5〜20μmであり、平均束長さ(bundle length)が10〜200μmであり得る。また、前記多重壁カーボンナノチューブのラマン分光強度比I
G/I
Dが0.7〜1.5であり得、平均直径は5〜50nmであり得、見かけ密度は0.01〜0.07g/mLであり得る。
【実施例】
【0066】
以下、本発明の実施例を詳細に説明することとする。
【0067】
実施例
Fe(NO
3)
3・9H
2O、Co(NO
3)
3・6H
2O、(NH
4)
6Mo
7O
24・4H
2O、NH
4VO
3、(NH
4)
10H
2(W
2O
7)
6・9H
2O、Al(NO
3)
3・9H
2O、Mg(NO
3)
2・6H
2OおよびZrO(NO
3)
2・2H
2Oのうち下記表1の触媒組成に必要なそれぞれの前駆体を脱イオン水に溶解させて、前駆体溶液を製造した。前記前駆体溶液を時間当たり3Lずつ空気とともに反応器の内部に噴霧して熱分解することによって、触媒粉末を収得した。この際、熱分解条件は、空気の圧力は、3気圧、反応器の内部温度は、750℃であり、120分間連続的に運転した。
【0068】
【表1】
【0069】
比較例5の触媒は、実施例5の触媒と成分および組成は同一であるが、触媒を噴霧乾燥法で製造したものであって、実施例5と触媒の製造方法が異なっている。具体的に、比較例5の場合、実施例5の噴霧熱分解法に比べて相対的に非常に低い温度200℃の反応器の内部に前駆体溶液を噴霧して触媒粉末を製造した後、700℃、空気雰囲気の熱処理炉で1時間の間熱処理して、内部が満杯になった球形の触媒粉末を製造した。比較例6、7の触媒は、それぞれ共沈法と燃焼法で製造されたものであって、これらは、それぞれ
図2のような板状を有する。比較例8の触媒は、触媒成分のうちAlの前駆体として水に全く溶けないアルミナ(Al
2O
3)粉末を使用して製造した触媒である。
【0070】
前記触媒粉末を利用してカーボンナノチューブの合成を進めた。具体的に、それぞれの触媒粉末を直径350mmの流動層化学気相蒸着反応器に投入し、窒素雰囲気で700〜800℃まで昇温して維持させた。以後、窒素およびエチレンが混合されたガスを分当たり150Lの速度で供給しつつ、40分間反応させて、それぞれの触媒粉末に成長したカーボンナノチューブを合成した。
【0071】
実験例
前記触媒粉末の見かけ密度は、マスシリンダーに触媒粉末を充填して重さを測定した後、測定された重さをマスシリンダーの体積で割って算出し、これと同じ方法でカーボンナノチューブの見かけ密度を測定した。また、カーボンナノチューブの合成収率は、「合成されたカーボンナノチューブの重さ(g)]/[投入された触媒粉末の重さ(g)]*100」の式によって計算し、エチレンの転換率は、「{(多重壁カーボンナノチューブの重量(g))−(触媒粉末の重量(g))}/{(炭素系ガス供給量(L))*(炭素系ガス1モルのうち炭素の重量(g/mol))/(22.4(L/mol))}*100」の式によって計算した。測定結果は、下記表2の通りである。
【0072】
【表2】
【0073】
前記表2を参照すると、実施例1〜10の触媒を使用して流動層化学気相蒸着反応器でカーボンナノチューブを合成する場合、1,200%以上の高い合成収率を得ることができるので、カーボンナノチューブの大量生産に適していることを確認することができる。しかしながら、比較例の触媒を使用した場合には、カーボンナノチューブの合成収率が1,000%未満と大量生産には適しておらず、このような結果から、比較例の触媒は、流動層化学気相蒸着反応器に適合した形態の触媒でないことを確認することができる.特に、比較例4、5、6、8の触媒は、触媒粉末の見かけ密度が0.70g/mL以上であって、触媒粉末を反応ガスで浮遊させながら、カーボンナノチューブを合成する流動層化学気相蒸着方式では、触媒を浮遊させにくいという問題がある。
【0074】
また、低い合成収率と触媒粉末の流動化問題によって比較例の触媒を使用した場合には、カーボンナノチューブの合成に使用したエチレンガスの転換率がいずれも80%未満であって、大量生産に使用する場合、同じ量のカーボンナノチューブを製造するために、さらに多くの量のエチレンガスを投入しなければならないので、生産費用の側面においても非常に不利であることが分かる。
【0075】
前述した本発明の説明は、例示のためのものであり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態に容易に変形が可能であることが理解できる。したがって、以上で記述した実施例は、すべての面において例示的なものであり、限定的なものと理解すべきである。例えば、単一型と説明されている各構成要素は、分散して実施されてもよく、同様に、分散したものと説明されている構成要素も、結合された形態で実施されてもよい。
【0076】
本発明の範囲は、後述する請求範囲により示され、請求範囲の意味および範囲そしてその均等概念から導き出されるすべての変更または変形された形態が本発明の範囲に含まれるものと解すべきである。