(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
<全体構成>
以下、本発明の一実施形態に係る車両用灯具システムについて、図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
図1は、本実施形態に係る車両用灯具システム1の概略図である。車両用灯具システム1は、車両2の周囲に光学像を形成して、運転者(ユーザ)の視認性を高めたり、ユーザの利便性を高めるように用いられる。
図1に示したように、車両用灯具システム1は、車両前部の左側に設けられた左側灯具LLと、車両前部の右側に設けられた右側灯具RLと、これら灯具LL,RLを制御するECU(electronic control unit)3とを備えている。
【0015】
左側灯具LLは、その灯室の内部に、左側画像形成装置10L(一方の二次元画像形成装置の一例)、左側ロービーム照射用ランプ20L、左側ハイビーム照射用ランプ30Lを備えている。
右側灯具RLは、その灯室の内部に、右側画像形成装置10R(他方の二次元画像形成装置の一例)、右側ロービーム照射用ランプ20R、右側ハイビーム照射用ランプ30Rを備えている。
【0016】
図2は、左側灯具LLの側断面図である。
図2を用いて、左側灯具LLの構造を説明する。なお、右側灯具RLの構造は左側灯具LLと同様であるため、その説明を省略する。
図2に示すように、左側灯具LLは、前方に開口するハウジング41と、ハウジング41の開口を覆うアウタレンズ42とを備えている。アウタレンズ42は、素通し状の透明部材であり、ハウジング41との間に灯室Sを形成する。
灯室Sの内部には、左側画像形成装置10L、左側ロービーム照射用ランプ20L、左側ハイビーム照射用ランプ30Lが設けられている。
【0017】
(ロービーム照射用ランプ)
左側ロービーム照射用ランプ20Lは、夜間における車両のすれ違い時に点灯させて、自車両の近傍の領域を照らす、いわゆるロービーム配光パターンを照射可能なランプである。
左側ロービーム照射用ランプ20Lには、公知の灯具ユニットを用いることができる。具体的には、左側ロービーム照射用ランプ20Lは、光源21と、リフレクタ22と、シェード23と、投影レンズ24を備える。
リフレクタ22は、光源21から出射した光を前方に反射させて投影レンズ24に入射させ、投影レンズ24はこの光を車両2の前方に投影する。シェード23は、投影レンズ24に入射する光の一部を遮ることによりカットオフラインを形成する。これにより、左側ロービーム照射用ランプ20Lは、カットオフラインより上方側に光が照射されない、すれ違い時に適したロービーム配光パターンを形成する。
【0018】
(ハイビーム照射用ランプ)
左側ハイビーム照射用ランプ30Lは、夜間における車両の通常走行時に点灯させて、自車両の遠方の領域を照らす、いわゆるハイビーム配光パターンを照射可能なランプである。
左側ハイビーム照射用ランプ30Lには、公知の灯具ユニットを用いることができる。具体的には、左側ハイビーム照射用ランプ30Lは、光源31と、リフレクタ32と、投影レンズ33を備える。リフレクタ32は、光源31から照射された光を前方に反射させ、投影レンズ33に入射させる。投影レンズ33は、この光を灯具前方の上方側に向けて照射する。これにより、左側ハイビーム照射用ランプ30Lは、夜間の通常走行時に適した視認性の高いハイビーム配光パターンを形成する。
【0019】
(画像形成装置)
左側画像形成装置10Lは、光源11と、光源11の後方側に設けられたリフレクタ12と、リフレクタ12よりも前方に設けられた画像形成部13と、画像形成部13よりも前方に設けられた投影レンズ14と、を備えている。左側画像形成装置10Lは、画像形成部13で形成される任意の画像を投影レンズ14によって車両前方に投影する。
【0020】
リフレクタ12は、光源11から出射した光を画像形成部13に向けて反射させる。投影レンズ14は、画像形成部13を透過した光を車両の前方に向けて照射する。
【0021】
投影レンズ14は、前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸非球面レンズである。投影レンズ14は、その後方焦点を含む後方焦点面上に形成される像を、反転像として灯具前方に投影する。
【0022】
図3は画像形成部13を示す図であり、(a)は側断面図、(b)は正面図である。
図3の(a)に示すように、画像形成部13は、一対のガラス板51を備えている。このガラス板51は、その法線が投影レンズ14の光軸と一致するように設けられている。一対のガラス板51の間には、複数の液晶素子52が封入されている。ガラス板51の外周側は、フレーム53により支持されている。
【0023】
図3の(b)に示すように、複数の液晶素子52はマトリクス状に配列されており、複数の液晶素子52によって画像形成面54が形成されている。個々の液晶素子52は独立に制御可能とされており、液晶素子52はそれぞれ後方から前方に光を通す状態(ON状態)と光を通さない状態(OFF状態)をとることができる。特定の液晶素子52のみをON状態とすることにより、画像形成面54に任意の画像を形成することができる。
投影レンズ14の後方側焦点はこれらの液晶素子52がなす画像形成面54近傍に位置されている。画像形成面54に形成された画像が、投影レンズ14によって反転され、灯具の前方に光源像として投影される。
【0024】
<車両が形成する配光パターン>
図4は、上述のように構成される車両用灯具システム1が形成する配光パターンの模式図である。
図4は、車両前方に形成された配光パターンを運転者から見た図である。
【0025】
本実施形態に係る車両用灯具システム1は、
図4に示すように、ロービーム配光パターンLo、ハイビーム配光パターンHi、歩行者を照らす歩行者照射パターンL1、路面に走行レーンを描くレーン形成パターンL2が灯具の前方に照射される。
【0026】
ロービーム配光パターンLoは、水平方向に延びるカットオフラインを備えている。ロービーム配光パターンLoは、左側ロービーム照射用ランプ20Lが形成する光学像と、右側ロービーム照射用ランプ20Rが形成する光学像を、灯具前方で重ね合わせることにより形成される。
【0027】
ハイビーム配光パターンHiは、ロービーム配光パターンLoの上方に形成される。ハイビーム配光パターンHiは、左側ハイビーム照射用ランプ30Lが形成する光学像と、右側ハイビーム照射用ランプ30Rが形成する光学像を、灯具前方で重ね合わせることにより形成される。
【0028】
(歩行者照射パターン)
次に、歩行者照射パターンL1について、
図5を用いて説明する。
図5の(a)は、
図4から歩行者照射パターンL1のみを抜き出した図である。
【0029】
歩行者照射パターンL1は、歩行者に向けて照射される配光パターンである。この歩行者照射パターンL1は、左側画像形成装置10Lにより形成される。例えば、歩行者検出センサからの情報をECU3が受け取ったときに、ECU3は、当該歩行者の位置に向けて光が照射されるように、左側画像形成装置10Lに指令を送信する。
【0030】
図5の(b)は、
図5の(a)に示した歩行者照射パターンL1を照射するときの、左側画像形成装置10Lの画像形成面54を示す正面図である。
左側画像形成装置10Lは、左側画像形成装置10Lの照射可能領域ALを複数の要素eに分解し、特定の液晶素子52をON状態とすることにより照射可能領域ALをなす特定の要素eを照射可能としている。
図5の(a)には、仮想的に照射領域ALおよび個々の要素eを示している。なお、照射可能領域ALは、実際には図示した例よりも多数の要素eに分解される。
【0031】
左側画像形成装置10Lの画像形成部13の液晶素子52を透過した光はそれぞれ、個々の要素eを照射する。個々の液晶素子52のON状態/OFF状態を切り替えることにより、個々の要素eの状態を変更することができる。これにより、任意の形状の歩行者照射パターンL1(光学像)を、照射可能領域AL内の任意の場所に形成することができる。
【0032】
図5の(b)において、ハッチングをしていない領域Aに属する液晶素子52をOFF状態とし、ハッチングした領域Bに属する液晶素子をON状態とすることにより、
図5の(a)に示した歩行者照射パターンL1を形成することができる。なお、左側画像形成装置10Lの全ての液晶素子52をON状態とすれば、左側画像形成装置10Lの照射可能領域ALの全域に光を照射することができる。
【0033】
(レーン形成パターン)
次に、レーン形成パターンL2について、
図6を用いて説明する。
図6の(a)は、
図4からレーン形成パターンL2のみを抜き出した図である。
【0034】
レーン形成パターンL2は、運転者の走行を支援するために、路面に自車の走行レーンを描く。このレーン形成パターンL2は、右側画像形成装置10Rにより形成される。
【0035】
ECU3は、路面の状態に応じて、あるいは、ナビゲーションシステムから取得した車両の進行方向が直線路であるか曲路であるかに応じて、状況に応じた走行レーンを描くように、右側画像形成装置10Rに指令を送信する。
【0036】
図6の(b)は、
図6の(a)に示したレーン形成パターンL2を照射するときの、右側画像形成装置10Rの画像形成面54を示す正面図である。
【0037】
右側画像形成装置10Rも、左側画像形成装置10Lと同様に、右側画像形成装置10Rの照射可能領域ARを複数の要素eに分解し、特定の液晶素子52をON状態とすることにより照射可能領域ARをなす特定の要素eを照射可能としている。
図6の(a)には、仮想的に照射領域ARおよび個々の要素eを示している。なお、照射可能領域ARは、実際には図示した例よりも多数の要素eに分解される。
【0038】
右側画像形成装置10Rの画像形成部13の液晶素子52を透過した光はそれぞれ、個々の要素eを照射する。個々の液晶素子52のON状態/OFF状態を切り替えることにより、個々の要素eの状態を変更することができる。これにより、任意の形状のレーン形成パターンL2(光学像)を、照射可能領域AR内の任意の場所に形成することができる。
【0039】
図6の(b)において、ハッチングをしていない領域Cに属する液晶素子52をOFF状態とし、ハッチングした領域Bに属する液晶素子をON状態とすることにより、
図6の(a)に示したレーン形成パターンL2を形成することができる。なお、右側画像形成装置10Rの全ての液晶素子52をON状態とすれば、右側画像形成装置10Rの照射可能領域ARの全域に光を照射することができる。
【0040】
図7は、左側画像形成装置10Lの照射可能領域AL、および、右側画像形成装置10Rの照射可能領域ARが灯具前方側に向かって拡がる様子を、車両2の側方から見た模式図である。
【0041】
歩行者照射パターンL1は、運転者が視認しやすいように、運転者の視線に近い上方側に形成する(
図4参照)。このため、左側画像形成装置10Lの投影レンズ14の光軸A1は、灯具前方側が水平線よりも上方に位置するように設定されている。これにより、左側画像形成装置10Lの照射可能領域ALは上方側に位置し、歩行者照射パターンL1が上方側に形成される。
【0042】
一方で、レーン形成パターンL2は、走行レーンを路面に描く(
図4参照)。このため、右側画像形成装置10Rの投影レンズ14の光軸A2は、灯具前方側が水平線よりも下方に位置するように設定されている。これにより、右側画像形成装置10Rの照射可能領域ARは、左側画像形成装置10Lの照射可能領域ALよりも下方に位置し、右側画像形成装置10Rは車両に近い位置の路面に光を照射する。
【0043】
<効果>
本実施形態に係る車両用灯具システム1によれば、左側画像形成装置10Lの照射可能領域ALと右側画像形成装置10Rの照射可能領域ARが互いに異なっている。
【0044】
本実施形態とは異なり、左側画像形成装置が形成する光学像と右側画像形成装置が形成する光学像の両方を重ね合わせて、歩行者照射パターンを形成する場合を考える。この場合、車両が旋回する場合における、左側画像形成装置と歩行者との相対位置の変化と、右側画像形成装置と歩行者との相対位置の変化は、互いに異なる。このため、ECUは専用の演算処理をして、左側画像形成装置が形成する光学像と、右側画像形成装置が形成する光学像とをそれぞれ独自に変化させて、両方の光学像を灯具前方で一致させることが求められる。このため、ECUには高い負荷が作用する。また、左側画像形成装置と右側画像形成装置の互いの光軸を厳密に位置合わせしておくことが求められる。
【0045】
特に、上述した実施形態のように、複数の要素のうちの任意の要素を変更することによって任意の光学像を形成可能な画像形成装置を用いた場合には、灯具前方に複雑な形状の配光パターンを形成することができる。しかし、複雑な形状の配光パターンを、左右の画像形成装置の光学像を重ね合わせて形成しようとする場合には、左右のそれぞれの画像形成装置が形成する光学像を一致させることが難しい。
【0046】
これに対して本実施形態に係る車両用灯具システム1によれば、車両が旋回する場合であっても、ECU3は左側画像形成装置10Lで形成する歩行者照射パターンL1のみを制御すればよく、ECU3に過大な負荷が作用しない。つまり、左右の画像形成装置10L,10Rで形成する光学像(歩行者照射パターンL1およびレーン形成パターンL2)を重ね合わせる必要がないので、簡単かつ正確に光学像L1,L2を形成することができる。
【0047】
また、左側画像形成装置10Lが形成する歩行者照射パターンL1と右側画像形成装置10Rが形成するレーン形成パターンL2は、それぞれのパターンを形成するための用途が異なっている。つまり、左側画像形成装置10Lは、運転者が歩行者を見つけやすくするという用途のために歩行者照射パターンL1を形成する。一方で、右側画像形成装置10Rは、運転者の走行を支援するために、走行レーンを描画するレーン形成パターンL2を形成する。そのため、それぞれの画像形成装置10L,10Rは、互いに形成する光学像L1,L2が一致するように重ね合わせる必要がない。
【0048】
<変形例>
なお、本発明の車両用灯具システムは、前述した実施形態に限定されるものでなく、適宜な変形,改良等が可能である。
【0049】
例えば、上述の実施形態では、左側画像形成装置10Lが歩行者照射パターンL1を形成し、右側画像形成装置10Rがレーン形成パターンL2を形成する例を説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、左側画像形成装置10Lがレーン形成パターンを形成し、右側画像形成装置10Rが歩行者照射パターンを形成してもよい。
【0050】
また、画像形成装置が形成する配光パターンは上述した歩行者用の歩行者照射パターンや走行レーンを描画するレーン形成パターンに限られない。
図8は、変形例に係る車両用灯具システムの
図4に対応する図である。例えば、
図8に示したように、車両用灯具システム1が、ADB配光パターンADBと、方向表示配光パターンTLとを形成するように構成してもよい。左側画像形成装置10LがADB配光パターンADBを形成し、右側画像形成装置10Rが方向表示配光パターンTLを形成する。
【0051】
ADB(Adaptive Driving Beam)配光パターンADBとは、ハイビーム配光パターンのうち前走車や対向車の領域にのみ光を投影しない配光パターンであり、前走車および対向車の有無や位置によって、遮光する領域を変化させることが求められる配光パターンである。ADB配光パターンADBは、前走車や対向車グレアを与えずに運転者の視認性を高めることができる。
【0052】
方向表示配光パターンTLは、路面に矢印などを描くことにより、車両の進行方向を表示する配光パターンである。方向表示配光パターンTLを方向指示器と併用することにより、車両の周囲に明確に自車両の進行方向を示すことができる。
【0053】
これらの例の他にも、画像形成装置によって、ナビゲーションシステムの地図を路面に表示させたり、速度計などのメータパネルの表示を路面に表示させたり、路面の上方に位置する標識(Over Head Sign)を照らすOHS配光パターンを形成したり、映画などを表示させたりしてもよい。このほかに、画像形成装置によって、赤外線を照射する赤外線センサの一部として機能させてもよい。
【0054】
ところで、地平線より上方の空間は、運転者の視認性を高めるために、上述した歩行者照射パターンL1や、ADB配光パターンADBやOHS配光パターンなどのように広い範囲を照射したい場合が多い。これに対して地平線より下方の空間は、上述した走行レーンを描画するレーン形成パターンL2や、地図や速度計の描画など、特定の領域に複雑な図形を描画したい場合が多い。
【0055】
このように、上下方向に関して異なる位置に形成する配光パターンには、異なる特性が要求されることが多い。このため、本実施形態に係る車両用灯具システム1のように、左側画像形成装置10Lの照射可能領域ALが、右側画像形成装置10Rの照射可能領域ARの上方に位置していることが好ましい。また、上方に位置する照射可能領域ALが下方に位置する照射可能領域ARよりも広くされていることが好ましい。
【0056】
車両用灯具システムが2つの画像形成装置を備えた例を説明したが、車両用灯具システムが3つ以上の画像形成装置を備えていてもよい。
【0057】
上述した実施形態では、画像形成装置として液晶素子を用いた装置を例に説明したが、本発明はこれに限られない。画像形成装置として、DMD(Digital Mirror Device)や、ガルバノミラーを用いた走査型画像形成装置を用いてもよい。
【0058】
DMDは、それぞれ独立して向きを変更可能な複数の反射面を備えた装置である。このDMDを、上記実施形態の画像形成部13の代わりに用いることができる。反射面が特定の方向を向き、反射面からの光が灯具前方に出射される状態をON状態、反射面がそれ以外の方向を向き、反射面からの光が灯具前方に出射されない状態をOFF状態とし、個々の反射面のON状態とOFF状態とを制御することにより、任意の光学像を形成することができる。つまり、DMDの個々の反射面が投影する像が、画像形成装置の照射可能な領域をなす個々の要素に該当する。
【0059】
ガルバノミラーを用いた走査型画像形成装置は、指向性の高い光源からの光を、回転可能なガルバノミラーで反射させるものである。ガルバノミラーを回転させながら光を反射させることにより、反射光を特定の方向に走査させる。走査線を順次ずらして灯具前方に照射することにより、灯具前方に任意の形状の配光パターンを形成することができる。特定方向に延びる走査線のそれぞれが、画像形成装置の照射可能領域をなす要素に該当する。
【0060】
なお、上記実施形態およびその変形例において諸元として示した数値は一例にすぎず、これらを適宜異なる値に設定してもよいことはもちろんである。
【0061】
また、本願発明は、上記実施形態およびその変形例に記載された構成に限定されるものではなく、これ以外の種々の変更を加えた構成が採用可能である。
【0062】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2013年9月3日出願の日本特許出願(特願2013-182444)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。