(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
<対象装置>
図1は本発明の実施の形態に係る油圧ショベルの概略構成図である。
図1において,油圧ショベルは,クローラ式の走行体401と,走行体401の上部に旋回可能に取り付けられた旋回体402を備えている。走行体401は,走行油圧モータ33によって駆動される。旋回体402は,旋回油圧モータ28の発生するトルクによって駆動され,左右方向に旋回する。
【0012】
本稿では,走行体401と旋回体402を合わせて車体1Aと称することがある。走行体401は、履帯を備えたものに限定されることなく、走行輪や脚を備えたものであってもよい。
【0013】
旋回体402上には運転席403が設置され,旋回体402の前方には目標面の形成作業を行うことの可能な多関節型のフロント作業装置(作業装置)400が取り付けられている。
【0014】
フロント作業装置400は,ブームシリンダ(第1油圧アクチュエータ)32aによって駆動されるブーム405と,アームシリンダ(第2油圧アクチュエータ)32bによって駆動されるアーム406と,バケットシリンダ32cによって駆動されるバケット407とを備える。ブームシリンダ32a,アームシリンダ32b,バケットシリンダ32cはそれぞれ油圧ポンプ23から吐出される作動油によって駆動され,作業装置400を動作させる。本稿では,ブーム405,アーム406,バケット407をそれぞれフロント部材と称することがある。
【0015】
またフロント作業装置400は,バケット407とバケットシリンダ32cの先端部を連結する第1リンク407Bと、アーム406とバケットシリンダ32cの先端部を連結する第2リンク407Cとを備えている。バケットシリンダ(油圧シリンダ)32cは、第2リンク407Cとアーム406に連結されている。
【0016】
なお、バケット407は、グラップル、ブレーカ、リッパ、マグネット等の図示しない作業具に任意に交換可能である。
【0017】
ブーム405とアーム406には、それぞれ、所定の面(例えば水平面)に対するブーム405とアーム406の姿勢(傾斜角)を検出するためのブームIMU(IMU:Inertial Measurement Unit(慣性計測装置))36とアームIMU37が取り付けられている。第2リンク407Cには、同じく所定の面(例えば水平面)に対するバケット407の姿勢(傾斜角)を検出するためのバケットIMU38が備えられている。これらIMU36,37,38は、それぞれ角速度センサと加速度センサから構成されており,傾斜角の演算も可能である。
【0018】
運転席403には,オペレータの操作に応じてフロント作業装置400,旋回体402及び走行体401の動作を指示する操作レバー(操作装置)26と,エンジン21(
図2参照)の目標回転数を指令するエンジンコントロールダイヤル51(
図2参照)が設置されている。操作レバー26は,ブームシリンダ32a,アームシリンダ32b,バケットシリンダ32c,走行油圧モータ33及び旋回油圧モータ28に対する制御信号(ギヤポンプ24(
図2参照)から出力されるパイロット圧(以下では「Pi圧」とも称する))を操作方向及び操作量に応じて発生し,その制御信号によりブーム405,アーム406,バケット407,旋回体402及び走行体401を動作させる。
【0019】
操作レバー26の出力するPi圧は圧力センサ44によって検出されており,圧力センサ44はその検出値をコントローラ20に出力している。圧力センサ44の検出値はコントローラ20において操作レバー26の操作量,操作方向,操作対象の検出に利用されている。すなわち圧力センサ44は操作レバー26への操作入力量を検出する操作量センサとして機能している。圧力センサ44は,コントロールバルブの2倍の数が存在している。なお,操作レバー26は電気式によるものでもよい。この場合の操作レバー26による操作量,操作方向,操作対象の検出は,操作レバー26の傾倒量(操作量)を検出する操作量センサにより構成する。操作量センサは、オペレータが操作レバー26を倒す量を検出することで、オペレータが作業装置400に要求する動作速度をそれぞれ電気信号に変換することができる。
【0020】
図2は
図1の油圧ショベルのシステム構成図である。本実施形態の油圧ショベルは,エンジン21と,エンジン21を制御するためのコントローラ(制御装置)であるエンジンコントロールユニット(ECU)22と,エンジン21の出力軸に機械的に連結されエンジン21によって駆動される油圧ポンプ23及びギヤポンプ(パイロットポンプ)24と,ギヤポンプ24から吐出される圧油を操作量に応じて減圧したものを,各油圧アクチュエータ28,33,32a,32b,32cの制御信号として比例電磁弁27を介してコントロールバルブ25に出力する操作レバー26と,油圧ポンプ23から各油圧アクチュエータ28,33,32a,32b,32cに導入される作動油の流量及び方向を,操作レバー26又は比例電磁弁27から出力される制御信号(パイロット圧(以下ではPi圧と称することがある))に基づいて制御する複数のコントロールバルブ25と,各コントロールバルブ25に作用するPi圧の圧力値を検出する複数の圧力センサ41と,フロント作業装置400の位置・姿勢及びその他の車体情報に基づいて補正Pi圧を算出し,その補正Pi圧が発生可能な指令電圧を比例電磁弁27に出力するコントローラ(制御装置)20と,フロント作業装置400の作業対象の目標形状である目標面の情報をコントローラ20に入力するための目標面設定装置50を備えている。
【0021】
油圧ポンプ23は,各油圧アクチュエータ28,33,32a,32b,32cの目標出力(後述)の通りに車体が動作するよう,機械的にトルク・流量が制御されている。
【0022】
コントロールバルブ25は,制御対象の油圧アクチュエータ28,33,32a,32b,32cと同数存在するが,
図2ではそれらをまとめて1つで示している。各コントロールバルブには,その内部のスプールを軸方向の一方又は他方に移動させる2つのPi圧が作用している。例えば,ブームシリンダ32a用のコントロールバルブ25には,ブーム上げのPi圧と,ブーム下げのPi圧が作用する。
【0023】
圧力センサ41は,各コントロールバルブ25に作用するPi圧を検出するもので,コントロールバルブの2倍の数が存在している。圧力センサ41は,コントロールバルブ25の直下に設けられており,実際にコントロールバルブ25に作用するPi圧を検出している。
【0024】
比例電磁弁27は複数存在するが,
図2中ではまとめて1つのブロックで示している。比例電磁弁27は2種類ある。1つは,操作レバー26から入力されるPi圧をそのまま出力又は指令電圧で指定される所望の補正Pi圧まで減圧して出力する減圧弁で,もう1つは,操作レバー26の出力するPi圧より大きなPi圧が必要な場合にギヤポンプ24から入力されるPi圧を指令電圧で指定される所望の補正Pi圧まで減圧して出力する増圧弁である。或るコントロールバルブ25に対するPi圧に関して,操作レバー26から出力されているPi圧より大きなPi圧が必要な場合には増圧弁を介してPi圧を生成し,操作レバー26から出力されているPi圧より小さなPi圧が必要な場合には減圧弁を介してPi圧を生成し,操作レバー26からPi圧が出力されていない場合には増圧弁を介してPi圧を生成する。つまり,減圧弁と増圧弁により,操作レバー26から入力されるPi圧(オペレータ操作に基づくPi圧)と異なる圧力値のPi圧をコントロールバルブ25に作用させることができ,そのコントロールバルブ25の制御対象の油圧アクチュエータに所望の動作をさせることができる。
【0025】
1つのコントロールバルブ25につき,減圧弁と増圧弁はそれぞれ最大で2つ存在し得る。本実施形態では,ブームシリンダ32aのコントロールバルブ25用に2つの減圧弁と2つの増圧弁が設けられており,アームシリンダ32bのコントロールバルブ25用に1つの減圧弁が設けられている。具体的には,ブーム上げのPi圧を操作レバー26からコントロールバルブ25に導く第1管路に設けられた第1減圧弁と,ブーム上げのPi圧をギヤポンプ24から操作レバー26を迂回してコントロールバルブ25に導く第2管路に設けられた第1増圧弁と,ブーム下げのPi圧を操作レバー26からコントロールバルブ25に導く第3管路に設けられた第2減圧弁と,ブーム下げのPi圧をギヤポンプ24から操作レバー26を迂回してコントロールバルブ25に導く第4管路に設けられた第2増圧弁と,アームクラウドのPi圧を操作レバー26からコントロールバルブ25に導く第5管路に設けられた第3減圧弁とを油圧ショベルは備えている。
【0026】
本実施形態の比例電磁弁27は,ブームシリンダ32aとアームシリンダ32bのコントロールバルブ25用に設けられているのみであり,他のアクチュエータ28,33,32cのコントロールバルブ25用の比例電磁弁27は存在しない。したがって,バケットシリンダ32c,旋回油圧モータ28及び走行油圧モータ33は,操作レバー26から出力されるPi圧に基づいて駆動される。
【0027】
なお,本稿では,ブームシリンダ32aとアームシリンダ32bのコントロールバルブ25に入力されるPi圧(ブーム及びアームに対する制御信号)は全て「補正Pi圧」(又は補正制御信号)と称し,比例電磁弁27によるPi圧の補正の有無は問わないものとする。
【0028】
また,本稿では,操作レバー26の操作中にフロント作業装置400を予め定められた条件に従って動作させるために,比例電磁弁27によって補正されたPi圧に基づいてブームシリンダ32aやアームシリンダ32bを制御することをマシンコントロール(Machine Control:MC)と称することがある。例えば本実施形態ではMCとして,任意に設定された目標面60(
図5参照)上又はその上方の領域にフロント作業装置400(本実施形態ではバケット407)が位置するように,複数の油圧シリンダ32a,32b,32cのうち少なくとも1つの油圧シリンダを制御する領域制限制御が可能である。また,本稿ではMCを,操作レバー26の非操作時にフロント作業装置400の動作をコントローラ20により制御する「自動制御」に対して,操作レバー26の操作時にのみフロント作業装置400の動作をコントローラ20により制御する「半自動制御」と称することがある。
【0029】
コントローラ(制御装置)20は,入力部と,プロセッサである中央処理装置(CPU)と,記憶装置であるリードオンリーメモリ(ROM)及びランダムアクセスメモリ(RAM)と,出力部とを有している。入力部は,コントローラ20に入力される各種情報を,CPUが演算可能なように変換する。ROMは,後述する演算処理を実行する制御プログラムと,当該演算処理の実行に必要な各種情報等が記憶された記録媒体であり,CPUは,ROMに記憶された制御プログラムに従って入力部及びROM,RAMから取り入れた信号に対して所定の演算処理を行う。出力部からは,エンジン21を目標回転数で駆動するための指令や,比例電磁弁27に指令電圧を作用させるために必要な指令等が出力される。なお,記憶装置は上記のROM及びRAMという半導体メモリに限られず,例えばハードディスクドライブ等の磁気記憶装置に代替可能である。
【0030】
コントローラ20には,ECU22と,複数の圧力センサ41と,2本のGNSSアンテナ40と,バケットIMU38と,アームIMU37と,ブームIMU36と,車体IMU39と,各油圧アクチュエータ28,33,32a,32b,32cの圧力を検出するための複数の圧力センサ42と,各油圧アクチュエータ28,33,32a,32b,32cの動作速度を検出するための複数の速度センサ43と,目標面設定装置50が接続されている。
【0031】
コントローラ20は,2本のGNSSアンテナ40から入力信号に基づいてグローバル座標系(地理座標系)における旋回体402及びフロント作業装置400の位置及び向き(方位)目標面60を算出し,バケットIMU38,アームIMU37,ブームIMU36および車体IMU39からの入力信号に基づいてフロント作業装置400の姿勢を算出する。つまり,本実施形態では,GNSSアンテナ40は位置センサとして機能し,バケットIMU38,アームIMU37,ブームIMU36および車体IMU39は姿勢センサとして機能している。
【0032】
本実施形態では,油圧シリンダ32a,32b,32cの速度センサ43として,ストロークセンサを利用している。また,油圧シリンダ32a,32b,32cの圧力センサ42として,各油圧シリンダ32a,32b,32cにボトム圧検出センサとロッド圧検出センサを備えている。ここでは,ブームシリンダ32aのボトム圧を検出する圧力センサ42をブームボトム圧センサ42BBPと,ブームシリンダ32aのロッド圧を検出する圧力センサ42をブームロッド圧センサ42BRPと称することがある。
【0033】
なお,本稿で説明する車体位置,フロント作業装置400の姿勢,各アクチュエータの圧力,各アクチュエータの速度の算出に際して利用する手段・方法は一例に過ぎず,公知の算出手段・方法が利用可能である。
【0034】
目標面設定装置50は,目標面60(
図3,5参照)に関する情報(各目標面の位置情報や傾斜角度情報を含む)を入力可能なインターフェースである。目標面設定装置50は,グローバル座標系(地理座標系)上に規定された目標面の3次元データを格納した外部端末(図示せず)と接続され,その外部端末から入力される目標面の情報が目標面設定装置50を介してコントローラ20内の記憶装置に格納される。なお,目標面設定装置50を介した目標面の入力は,オペレータが手動で行っても良い。
【0035】
<ジャッキアップ>
図3に示すように、車体1Aのジャッキアップ(ジャッキアップ状態)とは,走行体401の後端(作業装置400から遠い方の端部)とバケット407がそれぞれ地面に接地し、走行体401の前端(作業装置400に近い方の端部)が空中に浮きがっている状態を示す。このとき、地面に対する走行体401(車体1A)の傾斜角度をジャッキアップ角度φと言う。ジャッキアップ角度φが零の場合は、走行体401の底面が全域にわたって接地している状態である。
【0036】
なお,旋回体402は走行体401に対して旋回可能であるため、作業姿勢によっては旋回体402と走行体401の向きが図示と逆方向や横方向になることがある。この場合も地面に対する走行体401の傾斜角度をジャッキアップ角度φと定義する。本実施形態では演算を簡易にするため、走行体401のフロントアイドラとスプロケットの距離、および左右の履帯の距離は同一距離であるとして仮定して演算を行った。
【0037】
<コントローラ>
図4はコントローラ20によって実行されるプログラムの内容をブロックで示した図(機能ブロック図)である。この図に示すように、コントローラ20は、位置演算部740と、目標面距離演算部700と、目標動作速度演算部710と、動作指令値生成部720と、駆動指令部730と、シリンダ圧検出部810と、車体ピッチ角度検出部820と、フロント姿勢検出部830と、ジャッキアップ判定部910と、ジャッキアップ角度演算部920と、目標ジャッキアップ角度決定部930と、指令値補正量演算部940として機能する。
【0038】
位置演算部740は,コントローラ20は、2本のGNSSアンテナ40が受信した信号(航法信号)からグローバル座標系における旋回体402及び作業装置400の位置と方位を演算する。
【0039】
車体ピッチ角度検出部820は、旋回体402に取り付けられた車体IMU39から得られる加速度信号と角速度信号に基づいて旋回体402のピッチ角度(傾斜角)を検出・演算する。
【0040】
フロント姿勢検出部830は、ブームIMU36、アームIMU37及びバケットIMU38から得られる加速度信号と角速度信号に基づいて、ブーム405、アーム406、バケット407の姿勢をそれぞれ推定する。
【0041】
目標面距離演算部700は、位置演算部740で演算された旋回体402及び作業装置400の位置及び方位と、車体ピッチ角度検出部820で演算された旋回体402のピッチ角度と、フロント姿勢検出部830で演算された各フロント部材405,406,407の姿勢と、目標面設定装置50から入力される目標面60の3次元形状とを入力する。目標面距離演算部700は、これらの入力情報から旋回体402の旋回軸に平行でバケット407の重心を通る平面で3次元形状の目標面60を切断したときに得られる目標面の断面図(2次元形状)を作成し,この断面においてバケット407の爪先位置と目標面60の距離(目標面距離)Dを算出する。距離Dは,バケット407の爪先から目標面60に下ろした垂線とこの断面の交点とバケット407の爪先(先端)との距離とする。
【0042】
目標動作速度演算部710は、目標面60に沿ってバケット407の爪先407aが移動するように作業装置400を動作させるために必要な(すなわち領域制限制御を実行するために必要な)、複数の油圧シリンダ32a,32b,32cのうちの少なくとも1つの油圧シリンダの速度の目標値(目標動作速度)Vtを演算する。本実施形態では説明を簡単にするために,作業装置400の掘削作業に際してオペレータは操作レバー26でアーム406を操作するのみとし(すなわち、オペレータはブーム405とバケット407の操作は行わないものとし)、そのアーム操作によりバケット爪先407aに生じる速度ベクトルV1をMCによるブームシリンダ32aの動作のみで補正することでバケット爪先407aを目標面60に沿って移動させる場合を例に挙げて説明する。
【0043】
まず、目標動作速度演算部710は、目標面距離演算部700で演算した距離Dと
図6のテーブルを基にバケット爪先407aの速度ベクトルの目標面60に垂直な成分(以下,「垂直成分」と略する)の制限値(制限速度垂直成分)V1’yを算出する。ここにおける制限値とは下限値の意味であり,制限値より小さい値は制限値に設定される。制限速度垂直成分V1’yは,距離Dが0のとき0であり,距離Dの増加に応じて単調に減少するように設定されており,距離Dが所定の値d1を越えると−∞に設定されて実質的に制限が掛からなくなる(すなわち任意の垂直成分の速度ベクトルを出力できる)。制限速度垂直成分V1’yの決め方は
図6のテーブルに限らず,少なくとも距離Dが0から所定の正の値に至るまでの範囲で,制限速度垂直成分V1’yが単調減少するものであれば,代替可能である。
【0044】
次に目標動作速度演算部710は、圧力センサ44から入力される操作信号(操作量)に基づいて各油圧シリンダ32a,32b,33cの速度(オペレータ操作に基づく各油圧シリンダ32a,32b,33cの速度)を演算する。この演算は例えば操作レバー26の操作量をシリンダ速度に変換する相関テーブルを使うこと可能である。そして,この速度に,フロント姿勢検出部830から入力される作業装置400の姿勢情報と、車体ピッチ角度検出部820から入力される車体1Aのピッチ角度情報とを考慮して,各油圧シリンダ32a,32b,33cの速度がバケット爪先に発生させる速度ベクトルV1を演算する。本実施形態では、操作レバー26によってアームシリンダ32bだけが操作されているので、そのアームシリンダ32bの動作だけでバケット爪先407aに速度ベクトルV1が生じている。
【0045】
図5に示すように,本実施形態では,バケット爪先407aにMCで速度ベクトルV2を発生させ、そのV2をバケット爪先407aの速度ベクトルV1に加えることで,バケット407の爪先の速度ベクトルの垂直成分が目標速度垂直成分V1’yに保持されるようにバケット407の爪先の速度ベクトルを補正してV1’とする。本実施形態の目標動作速度演算部710は,この速度ベクトルV2をブームシリンダ32aの動作(ブーム上げ動作)だけで発生させる。そして、目標動作速度演算部710は、補正後の各シリンダ32a,32b,32cの目標速度を目標動作速度Vtとして算出する。本実施形態では,補正前の各シリンダ32a,32b,32cの速度(Voa,Vob,Voc)を(0,Vb1,0)とし、補正後のブームシリンダ32aの速度(目標動作速度Vta)をVa1とすると、各シリンダ32a,32b,32cの目標動作速度(Vta,Vtb,Vtc)は(Va1,Vb1,0)となる。
【0046】
図5の場合において,ベクトルV1は,圧力センサ44から入力される操作信号(操作量)から演算される各油圧シリンダ32a,32b,33cのシリンダ速度情報と,フロント姿勢検出部830から入力される姿勢情報と、車体ピッチ角度検出部820から入力される車体ピッチ角度情報とから算出される補正前のバケット爪先の速度ベクトルである。このベクトルV1の垂直成分は目標速度垂直成分V1’yと方向が同じで,その大きさが制限値V1’yの大きさを超えているので,ブーム上げで発生する速度ベクトルV2を加えて,補正後のバケット爪先速度ベクトルの垂直成分がV1’yとなるようにベクトルV1を補正しなければならない。ベクトルV2の方向は,ブーム405の回動中心からバケット爪先407aまでの距離を半径とする円の接線方向であり,そのときのフロント作業装置400の姿勢から算出できる。そして,この算出した方向を有するベクトルであって,補正前のベクトルV1に加えることで補正後のベクトルV1’の垂直成分がV1’yになるような大きさを有するベクトルをV2として決定する。なお,V2の大きさは,V1とV1’の大きさと,V1とV1’のなす角θを用いて余弦定理を適用することにより求めても良い。
【0047】
図6のテーブルのように爪先速度ベクトルの目標速度垂直成分V1’yを決定すると,バケット爪先407aが目標面60に近づくにつれて,爪先速度ベクトルの垂直成分が徐々に0に近づくので,目標面60の下方に爪先407aが侵入することを防止できる。
【0048】
動作指令値生成部720は、各シリンダ32a,32b,32cを目標動作速度演算部710で演算した目標動作速度(Vta,Vtb,Vtc)で動作させるために、各シリンダ32a,32b,32cに対応するコントロールバルブ25に出力すべき補正Pi圧(動作指令値Pi)を演算する。ただし、指令値補正量演算部940が指令する補正量(補正動作速度)Vcがある場合にはこれを目標動作速度Vtに加算して補正Pi圧を算出する(後述の式(3)参照)。本実施形態ではブームシリンダ32aの目標動作速度Vtaに対してのみ補正量Vcが演算されることがあるが、残りのアームシリンダ32b,バケットシリンダ32cの目標動作速度Vtb,Vtcは補正されることはない。
【0049】
駆動指令部730は、動作指令値生成部720が生成した補正Pi圧に基づき、比例電磁弁27の駆動に必要な制御電流を生成し、その制御電流を比例電磁弁27に出力する。これによりコントロールバルブ25に補正Pi圧が作用して各シリンダ32a,32b,32cが目標動作速度Vt(Vta,Vtb,Vtc)で動作して、補正量Vcが零の場合(ジャッキアップ角度φが目標値φt以下の場合)にはバケット爪先407aが目標面60に沿って動作し,ブームシリンダ32aの目標動作速度Vtaに補正量Vcが存在する場合(ジャッキアップ角度φが目標値φtより大きい場合)には補正量Vcが零の場合よりもバケット爪先407aが上方で軌跡を描くように動作する。そのためブームシリンダ32aの目標動作速度Vtaに補正量Vcが存在する場合にはジャッキアップ角度φが小さくなって目標値φtに近づくような動作となる。
【0050】
シリンダ圧検出部810は、ブームシリンダ32aのボトム側の油圧室とロッド側の油圧室にそれぞれ取り付けられたボトム圧センサ42BBPとロッド圧センサ42BRPの圧力信号を入力して,ブームシリンダ32aのボトム圧Pbbとロッド圧Pbrを検出する。
【0051】
<ジャッキアップの判定方法>
ジャッキアップ判定部910は、目標動作速度演算部710から得られる目標動作速度Vtと、シリンダ圧検出部810から得られるシリンダ圧情報(ブームシリンダ32aのロッド圧Pbrとボトム圧Pbb)と、車体ピッチ角度検出部820から得られる車体ピッチ角度情報とに基づいて、油圧ショベル1がジャッキアップ状態にあるか否かを判定する。次にこの判定方法の詳細について説明する。
【0052】
油圧ショベル1がジャッキアップ状態であるか否かの判定は、目標動作速度Vtと、ブームシリンダのロッド圧Pbrとボトム圧Pbb、車体ピッチ角度情報を用いて行う。車体1Aがジャッキアップしていないとき、作業装置400の自重はブームシリンダ32aにより支えられている。そのため、ブームシリンダ32aの圧力はボトム圧Pbbの方がロッド圧Pbrよりも高くなっている(すなわち、Pbb>Pbr)。ただし、厳密にはボトム側油圧室とロッド側油圧室の受圧面積に比例してシリンダ全体の推力が決定するが、ここではボトム側油圧室とロッド側油圧室の受圧面積は同じであると仮定して説明する。
【0053】
一方で車体1Aがジャッキアップしているときは、旋回体402と走行体401の自重の一部を作業装置400が支えるため、ブームシリンダ32aの圧力はボトム圧Pbbの方がロッド圧Pbrよりも低くなる(すなわち、Pbb<Pbr)。そこで、ブームシリンダ32aにおけるボトム側とロッド側の差圧が所定のしきい値(圧力閾値)P1より小さければ(すなわち、Pbb−Pbr<P1)、車体1Aはジャッキアップ状態であると判断することができる。
【0054】
このときの差圧のしきい値P1は、油圧ショベル1を構成する各部分の質量を支える支持力と、ブームシリンダ32aのボトム圧Pbbとロッド圧Pbrから計算されるブームシリンダ32aの推力により求めることもできるし、実際に車体1Aをジャッキアップさせたときのブームシリンダ32aのボトム圧Pbbとロッド圧Pbrを測定し、その差圧から求めても構わない。また、ジャッキアップするときのボトム圧を実験により予め計測しておき、その計測値よりもボトム圧が低下したことをもってジャッキアップと判定してもよい。なお,しきい値P1は零に設定することも可能である。
【0055】
ところで、上記方法は、静的状態であれば車体1Aがジャッキアップしていることを正しく判定することができる。しかし、ブーム405を空中で静止させた状態から下方に急動作させると、油圧システムの構造上、ブームシリンダ32aのボトム圧Pbbのみがわずかな時間、急激に低下することがある。その結果、ブームシリンダ32aのボトム圧がロッド圧よりも小さくなり、車体1Aがジャッキアップ状態であると誤判定することがある。
【0056】
そこで、本実施形態の実機への適用に際しては、誤判定を回避する観点から以下の2つの判断を追加することが好ましい。
【0057】
ひとつめの判断は、操作レバー26にブーム下げ操作が入力されてブーム405の下げ動作が開始してから所定の時間T1が経過するまでの間はブームシリンダ32aのボトム側とロッド側の差圧がしきい値P1より小さくても車体1Aがジャッキアップしていないと判断することである。時間T1は、ブーム下げ動作によりボトム圧Pbbが急減に低下して誤判定の可能性がある時間を予め計測しておき、その計測した時間を基に定めることができる。
【0058】
もうひとつの判断は、バケット407が地面に接地すると油圧ショベル1のピッチ角度が僅かに変化することを利用する。すなわち、ブーム405の下げ動作が開始してから所定の時間T1が経過するまでの間に、車体ピッチ角度の変化量が所定量(変化量しきい値)θ1以上あったか否かを判定し,所定量θ1以上の変化があった場合には、車体1Aがジャッキアップしていると判断することである。
【0059】
以上の2つの判断を追加することにより、車体1Aがジャッキアップ状態にあるか否かを正確に判断することができる。
【0060】
ジャッキアップ角度演算部920は、ジャッキアップ判定部910から得られる油圧ショベル1のジャッキアップ状態情報と、車体ピッチ角度検出部820から得られる車体ピッチ角度情報に基づき、油圧ショベル1のジャッキアップ角度φを演算する。ジャッキアップ角度φの演算方法としては,例えば,ジャッキアップ判定部910における判定がジャッキアップ状態でないという判定からジャッキアップ状態であるという判定に変わった時刻の直前における車体IMU(傾斜角センサ)39の検出値に基づいて演算された車体ピッチ角を地面の傾斜角とみなし,その傾斜角と現在の傾斜角との偏差をジャッキアップ角度φとする方法がある。また,ステレオカメラやレーザースキャナなどで地面の形状が計測でき地面の傾斜角を取得可能な場合には,その傾斜角と車体ピッチ角度の偏差をジャッキアップ角度φとすることができる。目標面設定装置50に最新の地面の形状の3次元データが格納されている場合も同様にジャッキアップ角度φを演算できる。
【0061】
<操作分析による目標ジャッキアップ角度の検討>
目標ジャッキアップ角度決定部930では、目標動作速度演算部710から得られる目標動作速度Vtと、フロント姿勢検出部830から得られる姿勢情報に基づいて油圧ショベル1の目標ジャッキアップ角度φtを決定する。本実施形態では、アーム406の角度(姿勢)に応じて目標ジャッキアップ角度φtを変化させる構成とした。
【0062】
図7は熟練オペレータが硬い土壌を掘削しているときの車体ピッチ角の変化を示す。この図に示すように、硬い土壌を掘削するときの熟練オペレータの掘削動作では、掘り始めのジャッキアップ角度φが大きく、掘り終わるときのジャッキアップ角度φが小さいことが分かっている。この理由として、掘り始めはジャッキアップを大きくさせてオペレータが土壌の状態を把握し、掘削力を感じられることが操作性に影響するためである。一方で掘り終わりでは、掘削動作に後続するブーム上げ操作による運搬動作に速やかに移行可能にして作業効率を良くするため、ジャッキアップしていない。これに倣い本実施形態の目標ジャッキアップ角度φtは、掘削開始時に最大6度とし、掘削終了時は0度(ジャッキアップしていない状態)とした。
【0063】
また、掘削動作はアーム引きとアーム押しの2つの操作によって行われる。そこで、本実施形態では、アーム引き操作により掘削が行われる場合と、アーム押し操作により掘削が行われる場合の2つの場合に分けて、アーム角度と目標ジャッキアップ角度φtの相関関係を規定した相関テーブルを記憶している。
図9は本実施形態におけるアーム角度と目標ジャッキアップ角度φtの相関関係を規定した相関テーブルを示す図である。図中左のテーブル1はアーム引き操作の場合の相関テーブルで、同右のテーブル2はアーム押し操作の場合の相関テーブルである。各テーブルの横軸が示す「アーム角度」とは、アーム406の先端をブーム405に最も近づけて折り畳んだとき(アームシリンダ32bの長さが最大まで伸長したとき)のアーム406の角度を最小とし、アーム406の先端をブーム405から最も離して伸ばしたとき(アームシリンダ32bの長さが最小まで短縮したとき)のアーム406の角度を最大としている。つまり、
図9の左のテーブルは、操作レバー26にアームの引き操作が入力されている場合の目標ジャッキアップ角度を規定するものであり、アーム406の姿勢がアーム406の先端部が車体1Aに近い姿勢であるほど(すなわち、アームシリンダ32bの長さが伸びるほど)、目標ジャッキアップ角度φtが小さくなるように設定されている。一方、
図9の右のテーブルは、操作レバー26にアームの押し操作が入力されている場合の目標ジャッキアップ角度を規定するものであり、アーム406の姿勢がアーム406の先端部が車体1Aに近い姿勢であるほど(すなわち、アームシリンダ32bの長さが伸びるほど)、目標ジャッキアップ角度φtが大きくなるように設定されている。なお、アーム角度はアームIMU37の検出値から演算可能であり、アームシリンダ長さはストロークセンサ(速度センサ43)の検出値から演算可能である。
図9の2つのテーブルは、いずれも、アーム角度とアームシリンダ長さのいずれか一方を利用することで目標ジャッキアップ角度を演算できる。
【0064】
ところで、掘削の開始と終了の判定は、アーム操作量(圧力センサ44の検出値)、ストロークセンサ(速度センサ43)の検出値から得られるアームシリンダ32bのストローク情報、ジャッキアップ判定部910によるジャッキアップ状態判定結果を用いることで判定できる。掘削動作の場合、アームシリンダ32bが短縮した(作業装置400を伸ばした)状態から掘削を開始し、アーム引き動作によってアームシリンダ32bが伸長した(作業装置400を畳んだ)状態で掘削を終了する。そこで、アーム引き操作があり、かつアームシリンダ32bが短縮した状態でジャッキアップと判定された場合には、掘削開始状態(掘り始め)であると判定できる。また、アーム引き操作が継続し、アームシリンダ32bが伸長すると掘削終了状態(掘り終わり)と判定できる。なお、
図9における掘削開始と終了の中間領域では、アームシリンダ32bのストロークに応じて掘削開始状態と掘削終了状態の目標角度(すなわち、6度と0度)を線形補間して目標ジャッキアップ角度φtとした。
【0065】
<補正量Vcの求め方>
指令値補正量演算部940では、ジャッキアップ角度決定部930から得られる目標ジャッキアップ角度情報と、ジャッキアップ角度演算部920から得られるジャッキアップ角度情報を比較し、目標ジャッキアップ角度φtより油圧ショベル1の実際のジャッキアップ角度(実ジャッキアップ角度)φが大きい場合には、ジャッキアップ角度φが目標ジャッキアップ角度φtに近づくように目標動作速度Vt(ブームシリンダ32aの目標動作速度Vta)に応じた補正量Vcを演算して動作指令値生成部720に出力する。反対に実際のジャッキアップ角度φが目標ジャッキアップ角度φt以下の場合には補正量Vcを0としてPi圧の補正は行わない。次に補正量Vcの具体的な求め方について説明する。
【0066】
目標ジャッキアップ角度φtより実際のジャッキアップ角度φが大きい場合、目標動作速度Vtを補正する。このときの補正量Vcの求め方を、オペレータ操作に基づくアーム引きとMCによるブーム上げの複合動作により行われる掘削動作を例にして説明する。
【0067】
掘削中のジャッキアップ角度φを小さくすることで目標ジャッキアップ角度φtに近づけるためには、目標動作速度演算部710で演算されたブームシリンダ32aの目標動作速度Vta(ブーム上げ方向のブームシリンダ速度)よりも速度を大きくしてバケット407を地面からより早く離すように動作させれば良い。そこで、目標ジャッキアップ角度φtより実際のジャッキアップ角度φが大きい場合には、式(1)に示すようにブームシリンダ32aの目標動作速度Vt(Vta)をK(Vt)によって定数倍することで補正量Vcを演算する。これにより、車体1Aがジャッキアップし過ぎた場合はブーム上げ速度が速くなるため、ジャッキアップ角度φが小さくなる。
【0068】
一方、目標ジャッキアップ角度φtがジャッキアップ角度φ以下の場合には、目標動作速度Vt(Vta)を補正しないため、式(2)に示すようにVc=0とする。
【0069】
ブーム上げ速度を大きくするための定数値K(Vt)は、予め実験的に求めても良いし、アーム操作量や目標面との距離、目標動作速度Vtなどに応じて可変的な値として決めても良い。本実施形態では、油圧システムの特性上、目標動作速度Vtによる補正が必要だったため、目標動作速度Vtに応じた関数K(Vt)を用いた。
【0070】
動作指令値生成部720において、式(3)に示すように、補正量Vcは、目標動作速度演算部710で演算された目標動作速度Vtに加算され、関数F(Vt)により補正Pi圧へ変換される。関数F(Vt)は目標動作速度Vtによる関数である。
Vc= Vt × K(Vt) [ジャッキアップ角度>目標ジャッキアップ角度]
・・・式(1)
Vc= 0 [ジャッキアップ角度≦目標ジャッキアップ角度]
・・・式(2)
Pi =(Vt+Vc) × F(Vt)
・・・式(3)
<制御手順>
上記のように構成されるコントローラ20によって実行される処理フローについて
図8を用いて説明する。
【0071】
コントローラ20は、アーム406の押し若しくは引きの操作信号またはブーム下げの操作信号が操作レバー26を介して出力されたことが圧力センサ44で確認された場合に
図8の処理を開始してステップS10に進む。
【0072】
ステップS10では、ジャッキアップ判定部910は、時間tを零にリセットするとともに、時間tの計測を開始してステップS110に進む。
【0073】
ステップS110では、ジャッキアップ判定部910は、時間t内において車体ピッチ角度の変化量が所定量θ1以上か否かを判定する。所定量θ1以上の車体ピッチ角度変化があった場合には、車体1Aはブーム下げ操作によりジャッキアップ状態になった可能性があると判定してステップS130に進む。時間t内で所定量θ1より小さい車体ピッチ角度変化しかなかった場合にはステップS120へ進む。
【0074】
ステップS120では、ジャッキアップ判定部910は、ステップS10で時間tの計測を開始してから所定の時間T1が経過したか否かを判定する。ここで時間T1が経過したと判定された場合(t>T1)にはステップS130へ進む。一方、時間T1はまだ経過していないと判定された場合にはステップS110へ戻る。
【0075】
ステップS130では、ジャッキアップ判定部910は、ブームシリンダ32aのボトム圧Pbbとロッド圧Pbrの差(差圧)が所定のしきい値P1より小さいか否か(すなわち、Pbb−Pbr<P1が成立するか否か)について判定する。この差圧がしきい値P1より差圧が小さい場合には、ステップS150へ進む。反対にこの差圧がしきい値P1以上の場合には、ジャッキアップは発生していないと判断してステップS320へ進む。
【0076】
なお、ステップS120を経由してきた場合におけるステップS130の判定は掘削動作の開始から終了まで行うことが好ましい。すなわち、ステップS120でYESと判定され、その後にステップS130でNOと判定された場合には、ジャッキアップ判定部910が圧力センサ44の検出値に基づいてアーム操作の有無を判定し,アーム操作が継続している場合にはステップS130に戻り、アーム操作が終了している場合にはステップS320に進むように構成することが好ましい。
【0077】
ステップS150では、ジャッキアップ判定部910は、車体1Aがジャッキアップ中であると判定し、ステップS160へ進む。
【0078】
ステップS160では、ジャッキアップ角度演算部920は、ステップS150でジャッキアップ中と判定される直前の車体ピッチ角度を記憶し、その記憶した車体ピッチ角度とその時点での車体ピッチ角度との差分から車体1Aのジャッキアップ角度φを演算する。
【0079】
ステップS210では、目標ジャッキアップ角度決定部930は、圧力センサ44が検出する操作信号に基づいてアーム操作が引き操作であるか否かを判定する。アーム操作が引き操作の場合にはステップS220へ進む。アーム操作が押し操作の場合には、ステップS230へ進む。なお、ブーム下げでジャッキアップが生じた場合(すなわちステップS110でYESと判定された後に、ステップS130でもYESと判定された場合)にも、ブーム下げの後にアーム引きまたはアーム押しの操作が入力されることが通常であるため特に支障は無い。
【0080】
ステップS220では、目標ジャッキアップ角度決定部930は、
図9のテーブル1を参照し、そのときのアーム角度に応じて目標ジャッキアップ角度φtを決定する。
【0081】
ステップS230では、目標ジャッキアップ角度決定部930は、
図9のテーブル2を参照し、そのときのアーム角度に応じて目標ジャッキアップ角度φtを決定する。
【0082】
ステップS240では、指令値補正量演算部940は、ステップS160で演算したジャッキアップ角度φが、ステップS220またはステップS230で決定した目標ジャッキアップ角度φtより大きいか否かを判定する。目標ジャッキアップ角度φtより大きい場合にはステップS310へ進む。一方、目標ジャッキアップ角度φt以下の場合にはステップS320へ進む。
【0083】
ステップS310では、指令値補正量演算部940は、式(1)に基づいてブームシリンダ32aの速度に関する補正量Vcを演算し、その補正量Vcと目標動作速度Vtと式(3)を利用してブームシリンダ32aの補正Pi圧を演算し、ステップS330に進む。なお、アームシリンダ32b,バケットシリンダ32cの速度は目標動作速度Vtから補正Pi圧を演算する。
【0084】
ステップS320では、指令値補正量演算部940は、式(2)に基づいてブームシリンダ32aの速度に関する補正量Vcを零とし、目標動作速度Vtと式(3)を利用してブームシリンダ32aの補正Pi圧を演算し、ステップS330に進む。この場合、補正Pi圧は補正されない。なお、アームシリンダ32b,バケットシリンダ32cの速度は目標動作速度Vtから補正Pi圧を演算する。
【0085】
ステップS330では、駆動指令部730は、ステップS310またはS320で演算された補正Pi圧を比例電磁弁27で出力するための制御電流を演算し、その制御電流を対応する比例電磁弁27に出力することで対応する油圧シリンダ32a,32b,32cを駆動する。
【0086】
なお、上記ではアーム操作かブーム下げ操作があったときに
図8のフローを開始したが、ブーム下げ操作のみをトリガーにしてフローを開始しても良い。通常、掘削動作は、まずブーム下げによりバケットを掘削開始位置に移動させる動作が行われ、その後間もなくアームの引き操作または押し操作によって掘削動作が開始するため、ステップS210でアーム操作の判定処理が実行されるまでにはアーム操作が入力され、ステップS210の判定に支障は生じないと考えられるからである。
【0087】
<動作・効果>
以上のように構成した本実施形態の油圧ショベルにおいて、アーム405を引き操作して掘削動作を開始した場合に、土壌が硬く車体1Aにジャッキアップが生じた場合には、そのジャッキアップ角度φが目標値(目標ジャッキアップ角度)φtを超えるまではジャッキアップ角度を小さくするMCは実行されない。そのため、ジャッキアップ角度が目標値を超えるまでの間は、オペレータはジャッキアップ角度の大小から掘削力の状態(土壌の硬さの状態)を直感的に把握することができるとともに、自身の操作によって掘削力を調整することができる。そして、ジャッキアップ角度の目標値は、熟練オペレータが硬い土壌を掘削する場合のジャッキアップ角度の傾向に合わせてアームの角度が小さくなるほど(すなわち、掘削動作が終了に近づくほど)小さくなるように設定されており、掘削動作の進捗に合わせて実際のジャッキアップ角度がMCによって半自動的に目標値に近づくように構成されている。これにより掘削の開始時には掘削力を可能な範囲で最大化できるので、硬い土壌を効率良く掘削できる。また、オペレータの技量に関わらず熟練オペレータと同等のジャッキアップ角度で掘削できるようになるので、未熟なオペレータでも硬い土壌を効果的に掘削できるようになることが期待できる。また、熟練オペレータについては実際のジャッキアップ角度が目標値以下の範囲では自身の操作によって掘削力を調整できるので操作性が低下することもない。したがって、本実施形態によれば、領域制限制御(MC)が実行される油圧ショベルにおいてジャッキアップ状態時のオペレータの操作性を良好に保持できる。
【0088】
また、上記の油圧ショベルでは、掘削の開始時は目標ジャッキアップ角度を相対的に大きく、掘削の終了時には目標ジャッキアップ角度が零に近づくように設定されているので、掘削動作の終了後に行われる運搬動作を速やかに開始できるため、作業効率の低下を防止できる。
【0089】
また、ジャッキアップの発生の有無をブームシリンダ32aのボトム側油圧室とロッド側油圧室の差圧に基づいて判定する方法では、作業装置400を静止させた状態から急にブーム下げを行った場合に、実際にはジャッキアップが未発生でもジャッキアップが発生したときと同じような差圧値をとるため、ジャッキアップを誤判定するおそれがあった。しかし、本実施形態では、ブーム下げ操作から所定時間T1が経過するまでの間に車体ピッチ角が所定量以上変化した場合にジャッキアップ角度が発生したと判定するように構成したので、そのような誤判定の発生を防止できる。
【0090】
<変形例>
ところで、目標ジャッキアップ角度φtは、
図10に示すように目標面距離Dが小さくなるほど小さく設定することが好ましい。車体1Aがジャッキアップし過ぎると土壌が急激に柔らかくなったときに目標面60より掘り過ぎるおそれや、掘削が終了するときに運搬動作へすぐに移行できず、作業効率が低下するおそれがあるが、このように目標ジャッキアップ角度φtを設定すると、目標面距離Dが小さく目標面60とバケット爪先407aの距離が近い場合には、目標ジャッキアップ角度φtが小さく設定されて実施のジャッキアップ角度が抑えられるので、目標面60を掘り過ぎてしまうという事態の発生を防止できる。また、目標面距離Dが大きく目標面60とバケット爪先407aの距離が離れている場合には、ジャッキアップにより掘削力を増大でき、作業効率の向上が見込める。
【0091】
<その他>
上記ではコントローラ20が実行する領域制限制御の説明を簡単にするために掘削作業時にアーム操作のみをすることを前提とした箇所があるが、コントローラ20が実行する処理やプログラム(
図4のコントローラ20内の各部)はブーム操作やバケット操作があっても領域制限制御が正常に機能するように構成されていることはいうまでもない。
【0092】
また上記では、ブームシリンダ32a(ブーム405)のみがMCされたが、アームシリンダ32bやバケットシリンダ32cもMCされるように構成してもよい。この場合、指令値補正量演算部940ではMCされたシリンダの目標動作速度Vtに対して補正量Vcが演算されることになる。
【0093】
また、上記の
図8のステップS10,S110,S120の処理は省略可能である。
【0094】
なお,本発明は,上記の各実施の形態に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲内の様々な変形例が含まれる。例えば,本発明は,上記の実施の形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず,その構成の一部を削除したものも含まれる。また,ある実施の形態に係る構成の一部を,他の実施の形態に係る構成に追加又は置換することが可能である。
【0095】
また,上記の制御装置(コントローラ20)に係る各構成や当該各構成の機能及び実行処理等は,それらの一部又は全部をハードウェア(例えば各機能を実行するロジックを集積回路で設計する等)で実現しても良い。また,上記の制御装置に係る構成は,演算処理装置(例えばCPU)によって読み出し・実行されることで当該制御装置の構成に係る各機能が実現されるプログラム(ソフトウェア)としてもよい。当該プログラムに係る情報は,例えば,半導体メモリ(フラッシュメモリ,SSD等),磁気記憶装置(ハードディスクドライブ等)及び記録媒体(磁気ディスク,光ディスク等)等に記憶することができる。
【0096】
また,上記の各実施の形態の説明では,制御線や情報線は,当該実施の形態の説明に必要であると解されるものを示したが,必ずしも製品に係る全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えて良い。