特許第6872680号(P6872680)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6872680
(24)【登録日】2021年4月22日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】カルシウム吸収促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/752 20060101AFI20210510BHJP
   A61P 19/10 20060101ALI20210510BHJP
   A61K 31/715 20060101ALI20210510BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20210510BHJP
【FI】
   A61K36/752
   A61P19/10
   A61K31/715
   A23L33/105
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-57637(P2016-57637)
(22)【出願日】2016年3月22日
(65)【公開番号】特開2017-171594(P2017-171594A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2019年3月19日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年〜27年度、農林水産省、農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業「医食農連携による日向夏搾汁残渣を用いた骨代謝改善素材、飲料の実用化開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(73)【特許権者】
【識別番号】594158150
【氏名又は名称】学校法人君が淵学園
(73)【特許権者】
【識別番号】000119472
【氏名又は名称】一丸ファルコス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】300079623
【氏名又は名称】宮崎県農協果汁株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100130443
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 真治
(74)【代理人】
【識別番号】100196966
【弁理士】
【氏名又は名称】植田 渉
(72)【発明者】
【氏名】山口 昌俊
(72)【発明者】
【氏名】林 幸男
(72)【発明者】
【氏名】宮武 宗利
(72)【発明者】
【氏名】マドゥエスタ ハリーシャクマール
(72)【発明者】
【氏名】西園 祥子
(72)【発明者】
【氏名】坪井 誠
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】松原 順子
(72)【発明者】
【氏名】薗田 良一
(72)【発明者】
【氏名】坂谷 洋一郎
(72)【発明者】
【氏名】永友 龍太
(72)【発明者】
【氏名】長友 俊介
(72)【発明者】
【氏名】西原 健
【審査官】 山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2015−500333(JP,A)
【文献】 特開2017−171747(JP,A)
【文献】 特許第4665152(JP,B2)
【文献】 J. Agric. Food Chem. ,2012年,60,p.8590−8599
【文献】 日本栄養・食糧学会大会講演要旨集,2008年,Vol.62nd,p.210 2I-13a
【文献】 Biosci. Biotechnol. Biochem.,2012年,76(2),p.364-367
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/752
A23L 33/105
A61K 31/715
A61P 19/10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量50,000〜100,000のアラビノガラクタンを含む日向夏みかんの処理物を含む、カルシウム吸収促進剤。
【請求項2】
日向夏みかんの処理物が、日向夏みかんの抽出物である、請求項1に記載のカルシウム吸収促進剤。
【請求項3】
アラビノガラクタンが、
β1,3結合したガラクトースを主鎖とし、主鎖のガラクトースの6位から分岐した側鎖を有し、側鎖が1,6結合したβガラクトース、及び1,5結合したαアラビノースを含む、
請求項1又は2に記載のカルシウム吸収促進剤。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか一項に記載のカルシウム吸収促進剤を含む、カルシウム吸収促進用食品組成物又は医薬品。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか一項に記載のカルシウム吸収促進剤を添加することを含む、カルシウム吸収促進用食品組成物又は医薬品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、日向夏みかんの処理物を含むカルシウム吸収促進剤、及び該カルシウム吸収促進剤を含むカルシウム吸収促進用食品又は医薬品等に関する。
【背景技術】
【0002】
骨粗鬆症とは、骨塩量の減少によって骨微細構造の破綻を来たし骨強度が低下し骨折に対するリスクが高まる全身性疾患である。今後高齢社会を迎えるに当たり、この疾患に対する予防、治療の重要性がますます高くなるものと考えられる。
【0003】
骨粗鬆症の治療薬は、主に骨吸収系を抑制する薬剤、骨形成系を刺激する薬剤、及び腸管からのカルシウム吸収を促進する薬剤の3つに大別される。本発明者らはこれまでに、日向夏みかんの抽出物が骨吸収系を抑制し、かつ骨形成系を刺激することによって骨粗鬆症の有効な治療薬になり得ることを報告している(特許文献1)。これに加えて、カルシウム吸収を促進する薬剤を見出すことができれば、異なる作用機構に基づいてより効果的に骨粗鬆症を治療することが可能になると期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-008625
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、新規なカルシウム吸収促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、日向夏みかんの処理物がカルシウム吸収促進効果を有することを見出し、本願発明を完成させた。
【0007】
したがって、本発明は以下の態様を包含する。
(1)日向夏みかんの処理物を含む、カルシウム吸収促進剤。
(2)日向夏みかんの処理物が、日向夏みかんの抽出物である、(1)に記載のカルシウム吸収促進剤。
(3)日向夏みかんの抽出物が、分子量50,000〜100,000のアラビノガラクタンを含む、(2)に記載のカルシウム吸収促進剤。
(4)アラビノガラクタンが、
β1,3結合したガラクトースを主鎖とし、主鎖のガラクトースの6位から分岐した側鎖を有し、側鎖が1,6結合したβガラクトース、及び1,5結合したαアラビノースを含む、
(3)に記載のカルシウム吸収促進剤。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載のカルシウム吸収促進剤を含む、カルシウム吸収促進用食品組成物又は医薬品。
(6)(1)〜(4)のいずれかに記載のカルシウム吸収促進剤を添加することを含む、カルシウム吸収促進用食品組成物又は医薬品の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、カルシウム吸収促進効果を有する新たな剤、食品、及び医薬品等が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例で調製した日向夏処理物3をHPLCに供した際のクロマトグラムを示す。
図2図2は、実施例で調製した活性画分1をHPLCに供した際のクロマトグラムを示す。
図3図3は、ラット反転小腸における、実施例で調製した日向夏処理物2(図中「処理物」)又は活性画分1(図中「活性画分」)の、Ca吸収促進効果を示す。Ca濃度の値は、反転小腸内液の平均値(n=5, 6)を示し、箱髭は標準誤差を示す。*は、コントロールに対し、P<0.05で有意差があることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.カルシウム吸収促進剤
一態様において、本発明は、日向夏みかんの処理物を含む、カルシウム吸収促進剤に関する。日向夏みかん(本明細書では「日向夏」とも記載する)は宮崎県特産の柑橘類で、果肉の部分だけではなく果皮の一部分と果肉を共に食する極めてユニークな果物である。
【0011】
本明細書において、日向夏みかんの「処理物」には、根、茎、葉、花、及び果実等の日向夏みかんの植物体の何れかの部分に由来する全てのものが包含されるが、好ましくは果実の部分に由来するものである。果実は主に果皮と果肉とに分けられるがどちらも好適に使用され、例えば日向夏みかんを搾汁した後の搾汁残渣が好ましく使用される。これらの植物体の各部は生のまま使用することもできる。生の状態のものもまた本発明における「処理物」に包含される。また、上記の植物体の各部分を更に半乾燥又は乾燥させて使用することもできる。半乾燥又は乾燥は通常の方法で行うことができ、例えば天日により乾燥させる方法や乾燥機により乾燥させる方法により行うことができる。また、植物体の各部又はその半乾燥物若しくは乾燥物は、そのままの形態で使用されても良いが、好適には適当な大きさに粉砕された状態で使用される。
【0012】
本発明の処理物としては、日向夏みかんの抽出物もまた好適に使用される。抽出物としては、上記処理物を抽出溶媒により抽出した抽出液、抽出液を希釈したもの、抽出液を濃縮したもの、抽出液を乾燥させたもの、又はこれらを粗精製したものが包含される。
【0013】
抽出に用いる溶媒は、水、親水性有機溶媒、疎水性有機溶媒、又はこれらの2種以上からなる混合物のいずれであってもよく、好ましくは水である。水の種類は特に限定されず、純水及び水道水等であってよい。また水は精製、殺菌、滅菌、ろ過、浸透圧調整、及び緩衝化等の通常の処理が施されていてよく、例えば、生理的食塩水、リン酸緩衝液等の緩衝液も抽出溶媒として使用可能である。親水性有機溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、ブチルアルコール、グリセリン、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等のアルコール、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、1,4-ジオキサン、ピリジン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、及び酢酸等の公知の親水性有機溶媒が挙げられる。疎水性有機溶媒としては、ヘキサン、シクロヘキサン、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、ベンゼン、トルエン、n-ヘキサン、及びイソオクタン等の公知の疎水性有機溶媒が挙げられる。また、超臨界流体を用いた抽出も可能である。
【0014】
抽出操作は特に限定せず、常法に従って行えばよい。抽出効率を向上させるため、加熱、攪拌、及び振とう等を併用することもできる。また、抽出効率を向上させる目的で、抽出前に予め日向夏みかん試料に適当な処理を施すこともできる。このような処理としては、例えば粉砕や脱脂が挙げられる。抽出中、又は抽出後に、抽出物をペクチナーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、アミラーゼ等の酵素により処理して、目的物質以外の成分を除去することもできる。
【0015】
一実施形態において、本発明の日向夏みかんの処理物は、アラビノガラクタンを含む。アラビノガラクタンは、本発明の日向夏みかんの処理物における有効成分であってよい。本明細書において、「アラビノガラクタン」とはアラビノース及びガラクトースをその主成分とする多糖を指す。本発明のアラビノガラクタンは、β1,3結合したガラクトースを主鎖とし、主鎖のガラクトースの6位から分岐した側鎖を有する。本明細書において、「主鎖」とは糖鎖分子中で相対的に最も長い鎖を指し、「側鎖」とは主鎖から枝分かれしている相対的に短い鎖を指す。
【0016】
本発明のアラビノガラクタンは、好ましくは側鎖として1,6結合したβガラクトース、及び1,5結合したαアラビノースを含み得る。さらに好ましくは、側鎖の上記1,6結合はβ1,6結合であり、上記1,5結合はα1,5結合である。
【0017】
本明細書において、側鎖が1,6結合したβガラクトースを含むとは、側鎖が6)-βGal-(1→の構造を含むことを意図し、側鎖中にこの構造が単糖単位で存在してもよいし、二糖単位以上で存在してもよい。側鎖の6)-βGal-(1→は、β1,6結合により直接主鎖のガラクトースの6位に結合していてもよいし、アラビノース等の他の糖を介して主鎖に結合してもよい。また、ガラクトースは、側鎖中の他の糖と結合していてもよい。例えば、6)-βGal-(1→は、側鎖において、ガラクトースとβ1→6結合を介して(βGal-(1→6)-Gal)、又はアラビノースとβ1→5結合を介して(βGal-(1→5)-Ara)若しくはα1→6結合を介して(αAra-(1→6)-Gal)結合していてもよい。好ましくは、6)-βGal-(1→は、β1→6結合を介して側鎖中の他のガラクトースと結合している。
【0018】
同様に、本明細書において、側鎖が1,5結合したαアラビノースを含むとは、側鎖が→5)-αAra-(1→の構造を含むことを意図し、側鎖中にこの構造が単糖単位で存在してもよいし、二糖単位以上で存在してもよい。→5)-αAra-(1→は、α1,6結合により直接主鎖のガラクトースの6位に結合していてもよいし、ガラクトース等の他の糖を介して主鎖に結合してもよい。また、アラビノースは、側鎖中の他の糖と結合していてもよい。例えば、→5)-αAra-(1→は、側鎖において、ガラクトースとβ1→5結合を介して(βGal-(1→5)-Ara)若しくはα1→6結合を介して(αAra-(1→6)-Gal)、又はアラビノースとα1→5結合を介して(αAra-(1→5)-Ara)結合していてもよい。好ましくは、5)-αAra-(1→は、α1→5結合を介して側鎖中の他のアラビノースと結合する。
【0019】
また、本発明のアラビノガラクタンは、好ましくはその側鎖の末端にβGal (1→及び/又はαAra(1→を有し得る。
【0020】
本発明のアラビノガラクタンは、好ましくは側鎖中に1,3結合したガラクトース、すなわち3)-Gal-(1→を含まない。また、本発明のアラビノガラクタンは、好ましくは側鎖中に1,3結合したアラビノース、すなわち3)-Ara-(1→を含まない。
【0021】
本発明のアラビノガラクタンにおいて、個々の側鎖に含まれる糖単位の数は限定されず、単糖単位であっても二糖単位以上であってもよい。また、個々の側鎖は、ガラクトース単位又はアラビノース単位のいずれか一方からなってもよく、あるいは一つの側鎖中にこれらの糖単位が混在していてもよい。好ましくは、側鎖中のガラクトースはいずれもβガラクトースであり、アラビノースはいずれもαアラビノースである。
【0022】
本発明のアラビノガラクタンにおけるガラクトースとアラビノースの比は特に限定しないが、例えば、ガラクトースのモルを1とした場合のアラビノースのモル比は、0.1以上、0.2以上、0.3以上、0.4以上、0.45以上、又は0.5以上、また1.0以下、0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下、又は0.55以下であってよい。
【0023】
本発明のアラビノガラクタンの側鎖は、グルコース、ラムノース、フコース、及びグルクロン酸等の、ガラクトース及びアラビノース以外の糖を、例えば側鎖に少量有してもよい。この場合、ガラクトースのモルを1とした場合のガラクトース及びアラビノース以外の糖のモル比は0.5以下、0.4以下、0.3以下、0.2以下、好ましくは0.15以下、0.1以下、0.05以下、又は0.01以下であってよい。
【0024】
本発明のアラビノガラクタンの分子量は、例えば20,000以上、30,000以上、40,000以上、50,000以上、60,000以上、好ましくは65,000以上、66,000以上、67,000以上、又は68,000以上であってよく、また120,000以下、110,000以下、100,000以下、90,000以下、80,000以下、好ましくは75,000以下、74,000以下、73,000以下、又は72,000以下であってよい。
【0025】
アラビノガラクタン等の多糖の構造の分析は、当業者に公知の方法、例えばメチル化分析及び/又はNMR等により行うことができる。同様に、多糖の構成成分、及び分子量の分析も、当業者に公知の方法、例えばそれぞれHPLC及びサイズ排除クロマトグラフィー等によって行うことができる。
【0026】
本発明の処理物又はカルシウム吸収促進剤は、腸管から体内へのカルシウムの吸収を促すという作用を有する。本発明者は、日向夏みかんの処理物が骨代謝改善効果を有することを以前に見出している。しかし、日向夏みかんの処理物が骨代謝改善効果に加えてカルシウム吸収促進作用を有することは一切示唆されていない。本発明の日向夏みかんの処理物のカルシウム吸収促進作用を利用することで、骨代謝改善作用とは異なる作用機構に基づいて骨粗鬆症を予防及び/又は治療することが可能となる。また、カルシウム吸収促進作用は、骨粗鬆症の予防及び/又は治療に加えて、例えばカルシウム含有食品の栄養価を向上させるためにも利用することができる。ある物質がカルシウム吸収の促進作用を有するか否かは、当業者に知られる方法、例えば反転小腸を作成し、カルシウムを含む外液に物質を添加して、外液から反転小腸内部へのカルシウムの取り込みが増加するか否かを確認することによって、簡単に確認できる。
【0027】
本発明のカルシウム吸収促進剤は、本発明の日向夏みかんの処理物からなってもよいし、本発明の日向夏みかんの処理物以外に他の成分、例えば賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、及び香料等を含んでもよい。
【0028】
本発明のカルシウム吸収促進剤は常法により製剤化され得る。投与形態は特に制限されず、必要に応じ適宜選択されるが、一般には錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤、及びエリキシル剤等の経口剤、又は注射剤、点滴剤、坐剤、吸入剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、貼付剤、及び軟膏剤等の非経口剤として投与され得る。
【0029】
経口剤は、例えばデンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、及び無機塩類等の賦形剤を用いて常法に従って製造される。
【0030】
この種の製剤には、適宜前記賦形剤の他に、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、及び香料等を使用することができる。
【0031】
結合剤の具体例としては、結晶セルロース、結晶セルロース・カルメロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルメロースナトリウム、エチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、デキストリン、アルファー化デンプン、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、プルラン、ポリビニルピロリドン、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマー、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルアルコール、アラビアゴム、アラビアゴム末、寒天、ゼラチン、白色セラック、トラガント、精製白糖、及びマクロゴールが挙げられる。
【0032】
崩壊剤の具体例としては、結晶セルロース、メチルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、及びトラガントが挙げられる。
【0033】
界面活性剤の具体例としては、大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸ポリオキシル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、セスキオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノラウリン酸ソルビタン、ポリソルベート、モノステアリン酸グリセリン、ラウリル硫酸ナトリウム、及びラウロマクロゴールが挙げられる。
【0034】
滑沢剤の具体例としては、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、乾燥水酸化アルミニウムゲル、タルク、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、リン酸水素カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル、ロウ類、水素添加植物油、及びポリエチレングリコールが挙げられる。
【0035】
流動性促進剤の具体例としては、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、及びケイ酸マグネシウムが挙げられる。
【0036】
また、本発明のカルシウム吸収促進剤は、液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤、又はエリキシル剤として投与する場合には、矯味矯臭剤及び/又は着色剤を含有してもよい。
【0037】
また、一態様において本発明は、本発明のカルシウム吸収促進剤を被験体に投与することを含む、被験体における骨粗鬆症の予防及び/又は治療方法に関する。
【0038】
また、一態様において本発明は、骨粗鬆症の予防及び/又は治療における、本発明のカルシウム吸収促進剤の使用に関する。
【0039】
2.カルシウム吸収促進用食品組成物又は医薬品
一態様において、本発明は、本発明のカルシウム吸収促進剤を含む、カルシウム吸収促進用食品組成物又は医薬品に関する。別の態様において、本発明は、本発明のカルシウム吸収促進剤を含む、カルシウム吸収促進用食品組成物又は医薬品に関する。
【0040】
本発明の食品組成物(単に、「食品」とも記載する)は、常法により調製され得る。例えば、かかる食品の形態としては、通常の「食品」だけでなく、例えば、飴、トローチ等を含む錠剤(タブレット)や糖衣錠の形態、顆粒の形態、粉末飲料、粉末スープ等の粉末の形態、ビスケット等のブロック菓子類の形態、カプセル、ゼリー等の形態、ジャムのようなペーストの形態、チューイングガムのようなガムの形態、茶を含む清涼飲料水、アルコール飲料等の飲料の形態のようにいかなる形態の食品であってもよく、特定保健用食品(例えば、骨粗鬆症予防食品)にもなり得る。本発明のカルシウム吸収促進剤を含む食品には、本発明の所望の効果が損なわれない範囲で、通常、食品原料として用いられる種々の他の成分を配合することができる。他の成分としては例えば水、アルコール類、甘味料、酸味料、着色料、保存剤、香料、賦形剤、安定化剤、pH調整剤、糖類、各種ビタミン類、ミネラル類、抗酸化剤、可溶化剤、結合剤、滑沢剤、懸濁剤、湿潤剤、皮膜形成物質、矯味剤、矯臭剤、界面活性剤、流動性促進剤等が挙げられる。これらの成分は単独で、または組み合わされて使用され得る。同様に、本発明の医薬品は、常法により、例えば上記1でカルシウム吸収促進剤について記載した方法に従って調製され得る。
【0041】
本発明の食品及び医薬品中におけるカルシウム吸収促進剤の含有量は、所望の作用が奏される含有量である限りとくに限定されず、当業者であれば被験体の性別、年齢、体重、身長、及び症状の程度等を考慮して適宜定めることができる。
【0042】
3.食品組成物又は医薬品の製造方法
一態様において、本発明は、本発明のカルシウム吸収促進剤を添加することを含む、食品組成物又は医薬品の製造方法に関する。食品組成物又は医薬品は、カルシウム吸収促進用のものであってよい。
【0043】
本発明の食品又は医薬品の製造方法は、本発明のカルシウム吸収促進剤を添加すること以外は、当業者に公知の方法で行うことができる。本発明のカルシウム吸収促進剤の添加は、得られる食品又は医薬品が所望の効果を奏する限り、食品又は医薬品の製造過程中の任意の時点で行うことができる。例えば、本発明のカルシウム吸収促進剤を、製造の初期又は中期段階において他の原料と共に混合してもよいし、製造の最終段階において半製品に添加してもよい。
【0044】
また、一態様において本発明は、本発明のカルシウム吸収促進剤の食品組成物又は医薬品の製造における使用に関する。
【0045】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0046】
<実施例1:日向夏処理物の調製>
1)日向夏処理物1及び日向夏処理物2の調製
日向夏搾汁残渣から、日向夏処理物1及び日向夏処理物2を以下の通り調製した。
【0047】
日向夏をインライン搾汁機(ジョンビーン・テクノロジー社)で搾汁し、搾汁残渣を段ボール箱に回収し、冷凍保管した。続いて、冷凍保管しておいた日向夏搾汁残渣を解凍し、解凍した日向夏搾汁残渣に対して2倍量の60℃温水を加え、15分間撹拌しながら浸漬を行うことで水抽出を行った。続いて、水抽出した日向夏搾汁残渣をチョッパーパルパーにて破砕した後、5mm、1mm、及び0.5mmでの篩別並びにマグネットラップによって異物を除去した。次に、異物を除去した日向夏搾汁残渣破砕物をデカンター搾汁機(三菱化工機)で搾汁(回転数3,900rpm、3,000g)し、遠心分離(流量4〜5m3/h、排出1回/15分)した後に、約8〜9秒間95±1℃で殺菌し、45〜50℃まで冷却を行った。次に、加熱殺菌した溶液に、Aspergillus niger由来のペクチナーゼ(ヤクルト薬品工業)を0.05%w/w添加し、45〜50℃で1時間酵素処理を行い、珪藻土を用いて一次ろ過した後、95±1.5℃に約8〜9秒加温して酵素を失活させ、30℃以下に冷却した。続いて、珪藻土を用いて二次ろ過した後、3μフィルターを用いて異物を除去した。続いて、減圧濃縮後、25℃以下に冷却し、加水によりBxを35.1〜35.5に調整し、80メッシュで異物を除去した。続いて、120±1.5℃で約15秒間殺菌し、30℃以下まで冷却した。続いて、80メッシュ及びマグネットトラップで異物を除去し、フルオープン18L缶に充填して冷凍保管した。
【0048】
続いて、得られた日向夏処理物1を乾燥し、得られた粉末の吸湿性を低下させるために等量のデキストリン(松谷化学工業株式会社、兵庫県)と混合して、エキスパウダー(pomace:PO)(日向夏処理物2)を調製した。
【0049】
2)活性画分1の調製
上記1)で得られた日向夏処理物1を以下の通り活性炭処理した。
まず、上記日向夏処理物1を解凍し、Bx6.8〜7.2程度まで希釈した後、活性炭(大阪ガスケミカル)を1.0%w/w添加し、1時間処理した。続いて、珪藻土を用いて一次ろ過した後、95±1.5℃に約8〜9秒加温した後、25℃以下に冷却した。続いて、珪藻土を用いて二次ろ過した後、3μフィルターを用いて異物を除去した。続いて、減圧濃縮後、25℃以下に冷却し、加水によりBxを35.1〜35.5に調整し、80メッシュで異物を除去した。続いて、80メッシュ及びマグネットトラップで異物を除去し、フルオープン18L缶に充填して冷凍保管した。なお、活性炭処理の前後で、日向夏処理物1中のピークに差がないことを確認している(データ示さず)。
【0050】
続いて活性炭処理した日向夏処理物1(以下、「日向夏処理物3」)を以下の通り限外濾過し、HPLC上で単一のピークである分画物(活性画分1)(pomace extract:PE)を調製した。
【0051】
まず、日向夏処理物3を、以下の表1に記載の条件でHPLCに供したところ、図1のクロマトグラムが得られた。
【0052】
【表1】
【0053】
クロマトグラム中に見られるRT約16分のピークを、得るために、まず初めに、トーセルカートリッジフィルター(ADVANTEC)よって前濾過することで、1μm以上の粒径を有する粒子を除いた。次に、Pellicon 2 Cassette Biomax 100 kDa(Millipore)を用いて限外濾過を行い、透過した溶液を回収した。続いて、回収した溶液を、Pellicon 2 Cassette Biomax 30 kDa(Millipore)を用いて限外濾過を行った。タンク内の溶液が半分以下になったら、保持溶液に対して、元の溶液と同程度の量になるまで加水し、Pellicon 2 Cassette Biomax 30 kDa(Millipore)を用いて限外濾過した。また、100 kDaの膜に保持された溶液については、公称孔径0.2μmのmicroza MF ラボモジュール(旭化成ケミカルズ)を用いて精製を行った。上記と同様に、ビーカー内の溶液が半分以下になったら、保持溶液に対して、元の溶液と同程度の量になるまで加水し、繰り返し精製を行った。得られた透過液は100 kDaの膜を透過した溶液に合わせ、30 kDaの膜を用いて限外濾過を行った。上記条件に従うHPLCによって保持液を分析し、単一のピークが得られるまで、加水と限外濾過を繰り返し、最後に保持液を回収することで、活性画分1を調製した。活性画分1を上記条件でHPLCに供した際の結果を図2に示す。
【0054】
また、HPLCの保持時間について、プルラン(Shodex)又はデキストランを標準試料として分子量を測定したところ、活性画分1の分子量は約68,000〜72,000であることが示された(データ示さず)。
【0055】
<実施例2:日向夏処理物の反転小腸におけるCa吸収促進>
8週齢雄のSprague Dawleyラット(九動株式会社より購入)をネンブタールで麻酔し、小腸を摘出した。小腸上部、中部および下部から12cmの長さで小腸片を切り取り、反転させ、両端から約1cmのところを糸で結索して、反転小腸を作成した。反転小腸内に、内液として0.9% NaCl 1mLを加えた。
【0056】
続いて、16.9 mM CaCl2、5.8 mM KH2PO4、0.9% NaClからなる外液(pH 6.6)、又は該外液に実施例1で調製したPO又はPEを0.02%添加した溶液に反転小腸を浸し、40分インキュベートした後に反転小腸の内液を回収し、冷凍保存した。内液を使用前に解凍し、10μLをアクアオートカイノス Ca試薬(株式会社カイノス、日本)のR-1溶液180μLと混合し、製造業者の説明書に従って660nmの吸光度に基づいてCa濃度を測定した。
【0057】
結果を図3に示す。図3は、日向夏処理物1、及びその有効成分と考えられるピークを含む活性画分1が、ラット反転小腸においてカルシウムの吸収を促進することを示している。
【0058】
<実施例3:活性画分に含まれる成分の特定>
1)活性画分2の調製
実施例1で得た日向夏処理物1について、活性炭処理を行わずに、以下の通り活性画分2を調製して、以下の分析に供した。
【0059】
まず、実施例1で得られた日向夏処理物1を、NITROCELLULOSE MEMBRANE 0.22μm(Millipore)によって前濾過することで、粒径の大きい粒子を除いた。続いて、前濾過を行った溶液をUltrafiltration Discs Ultracel 30 kDa(Millipore)を用いて限外ろ過し、保持する画分(以下、「活性画分2」とする)を調製した。
【0060】
活性画分2は、HPLC分析において活性画分1と同様のピークを示した(データ示さず)。また、HPLCの保持時間について、プルラン(Shodex)又はデキストランを標準試料として分子量を測定したところ、活性画分2に含まれる成分の分子量は約68,000〜72,000であることが示された(データ示さず)。
【0061】
2)活性画分2の酸加水分解物のHPLCによる分析
上記の方法で調製した活性画分2について、1N硫酸で105℃、3時間加熱することにより酸加水分解を行った。この酸加水分解物を以下の表2に記載の条件でHPLCで分析した結果、ガラクトース及びアラビノースを構成糖として含むことを確認した(データ示さず)。また、ガラクトースとアラビノースのモル比は、約1:0.53であった(データ示さず)。
【0062】
【表2】
【0063】
続いて、メチル化分析を行った。具体的には、活性画分2を凍結乾燥して得た多糖試料にNaOH/DMSO溶液2 mlおよびヨウ化メチル0.3 mlを加え、30℃、20分間処理した。20分後、さらにヨウ化メチルを0.7 ml加え、30℃、40分間処理した。メチル化反応液に0.88% KCl 2 mlを加えた後、クロロホルムを2 ml加えて液液分配を行った。上層(水層)を取り除いた後、新たに0.88%KCl 3 mlを加えて液液分配を行い、同様に上層を除去した。その後、クロロホルム層にトルエンを0.5 ml加え、減圧乾固した。メチル化多糖を2 M トリフルオロ酢酸(TFA) 2 mlに溶解し、110℃で4時間加水分解した。その後、トルエンを0.5 ml加え次に3 mlの無水メタノールを加えて減圧乾固した。水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)40 mgを精製水2 mlに溶解し、1 M アンモニア水0.4 mlを加えて調製したNaBH4溶液1.2 mlをサンプルに加えて3分間反応させた後、残りのNaBH4溶液を加え、25℃で12時間放置した。酢酸(0.6 ml)で中和し、トルエンを0.5 ml加えて減圧乾固した後、無水メタノール4 mlを加えて再度減圧乾固した。無水酢酸とピリジンをそれぞれ0.5 mlずつ加え、100℃で1時間アセチル化した。その後、トルエン3 mlを加えて減圧乾固した。次に、蒸留水2 mlとクロロホルム1.5 mlを加えて液液分配を行い、水層を取り除いた後、新たに蒸留水2 mlを加えて同様に上層を除去した。その後、クロロホルム層にトルエンを0.5 ml加えて減圧乾固した。次に、クロロホルム0.5 mlを加えて反応生成物を抽出し、以下の条件でGC/MS分析を行った。
質量分析装置:Shimadzu GCMS-QP2010SE、
キャピラリーカラム:InertCap RTX 5MS、
キャリアーガス:ヘリウム、
分析温度:180℃ 5 min、180-250℃ 2℃/min、250℃ 5min、
インターフェイス温度:250℃。
【0064】
メチル化分析の結果、試料に含まれる多糖は →3)-Gal-(1→ が主鎖で(ピーク4及び6)、→6)-Gal-(1→ と →5)-Ara-(1→ を含む側鎖(ピーク2及び5)が6位で分岐しているアラビノガラクタンであることを明らかにした(表3)。また、このアラビノガラクタンが、末端Gal及び末端Araを有することも明らかとなった(表3、ピーク1及び3)。
【0065】
【表3】
【0066】
続いて、二次元NMR(HSQC)分析を行った。具体的には、活性画分2を凍結乾燥して得た多糖試料を重水に溶解し、試料管(178 x 4 mmφ)に入れて、1H-NMRと13C-NMRを測定し、HSQC (Hetero-nuclear Single Quantum Coherence)測定を行った。標準物質として1,4-ジオキサンを用いた。核磁気共鳴装置は、BRUKER AV400Mを用いた。
【0067】
その結果、ガラクトースとアラビノースの結合様式がそれぞれβ結合とα結合であることが明らかとなった。
【0068】
これらの結果から、日向夏みかん由来の活性成分が、β1,3結合したガラクトースを主鎖とし、主鎖のガラクトースの6位から分岐した側鎖を有し、側鎖が1,6結合したβガラクトース、及び1,5結合したαアラビノースを含むアラビノガラクタンであることが示唆された。
図1
図2
図3