(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記腫瘍細胞が、前立腺がん、子宮頸がん、乳がん、胆のうがん、膵臓がん、結腸がん、直腸がん、腎臓がん、肺がん、食道がん、喉頭がん、胃がん、メラノーマ(悪性黒色腫)、中皮腫、肉腫を構成する腫瘍細胞のうちのいずれかである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
前記放射線治療に用いる放射線が、X線若しくはX線より波長の短い電磁波、陽子線、またはヘリウム以上の質量のイオンを用いた重粒子線のうちのいずれかである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、有効な放射線治療を実現するためには、腫瘍細胞の放射線感受性が正常細胞よりも高いことが前提である。即ち、いわゆる治療可能比(therapeutic ratio, TR)として示される放射線治療におけるパラメーター(治療可能比=正常組織耐容線量/腫瘍組織制御線量)が大きいことが、有効な放射線治療を行う前提である。このため、腫瘍の発生部位、種類、病期等によっては、放射線治療による治療効果が十分に得られない場合がある。
例えば、腫瘍を構成する腫瘍細胞の分化度、細胞分裂の周期、細胞内の酸素濃度等によって、当該腫瘍細胞の放射線感受性が異なる場合がある。具体的には、分化度の低い腫瘍細胞、細胞分裂期の腫瘍細胞、および、細胞内の酸素濃度が高い腫瘍細胞であるほど、当該腫瘍細胞の放射線感受性が高いとされている。
また、組織によって放射線感受性が異なることが知られている。例えば、骨髄や腸上皮等の細胞分裂頻度が高い組織は放射線感受性が高い傾向にあり、一方で、神経組織や筋肉組織等の細胞分裂の頻度が低い組織であるほど放射線感受性が低い傾向にある。
このため、例えば、腫瘍細胞の放射線感受性と該腫瘍細胞の周囲に存在する正常細胞の放射線感受性との差が小さい、即ち、上記治療可能比が小さい場合には、対象の腫瘍細胞の細胞増殖を制御するのに十分な線量の放射線を照射することが困難となりがちである。
【0008】
そこで、近年、腫瘍細胞の放射線感受性を増大する薬剤(放射線感受性増感剤)の開発が進められている。かかる放射線感受性増感剤を放射線治療と併用することにより、放射線治療の治療効果を向上し得ると期待されている。例えば、より低い線量での治療が可能となり、正常細胞へのダメージを軽減し得る、また、従来は放射線治療の適用対象外であった腫瘍に対して放射線治療を行い得るとして、期待されている。
かかる放射線感受性増感剤の例として、例えば2−ニトロイミダゾール誘導体(特許文献1)、1,2,4−ベンゾトリアジンオキシド(特許文献2)、カンプトテシン誘導体(特許文献3)等の化学物質(低分子化合物)が腫瘍細胞の放射線感受性を増大し得ることが報告されている。しかし、これらの放射線感受性増感剤の多くは、副作用等の課題により、実用化に至っていない。
【0009】
上記腫瘍細胞の放射線感受性を増大する薬剤(放射線感受性増感剤)として、アミノ酸残基数が比較的短い低分子量の生理活性ペプチドから成る薬剤の開発が期待されている。生理活性ペプチドから成る薬剤は、従来の化学物質から成る放射線感受性増感剤と比較して副作用の低減が期待される。
【0010】
そこで本発明は、腫瘍細胞の放射線感受性を増大させ得る組成物(典型的には医薬組成物)の提供を課題として創出されたものである。具体的には、腫瘍細胞の放射線感受性を増大させ得るペプチドならびに該ペプチドを成分とする少なくとも一種の腫瘍細胞の放射線感受性を増大するための組成物(典型的には医薬組成物)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、対象の腫瘍細胞の放射線感受性を増大させる目的に資するべく、人為的に合成可能な比較的短い鎖長のペプチドに関する研究を鋭意推進した。そして、驚くべきことに、ここで開示する放射線感受性増感ペプチド配列のうちのいずれかを含むように合成したペプチドを腫瘍細胞に供給することで、当該腫瘍細胞の放射線感受性を増大し得ることを新たに見出し、本発明を完成するに至った。ここで開示する放射線感受性増感ペプチド配列はいずれも、細胞の放射線感受性と関係することが全く知られていなかったアミノ酸配列であり、当該アミノ酸配列が腫瘍細胞の放射線感受性を増大し得ることは本発明者らが新しく発見した知見である。
【0012】
上記の目的を実現すべく、本発明によると、以下の構成の組成物が提供される。即ち、ここで開示される組成物の一態様は、腫瘍の放射線治療において、腫瘍細胞の放射線に対する感受性を増大させるために用いられる医薬組成物であって、
以下のアミノ酸配列:
CX
2X
3KX
5X
6X
7X
8C
(ここで、X
2はKまたはR、X
3はSまたはA、X
5はSまたはA、X
6はRまたはG、X
7はRまたはD、X
8はSまたはPである);
若しくは、該アミノ酸配列において、1個、2個、又は3個のアミノ酸残基が置換、欠失及び/又は付加された改変アミノ酸配列のいずれかから成る放射線感受性増感ペプチド配列を有する合成ペプチドを含む。
典型的には、ここで開示される医薬組成物は、薬学上許容され得る少なくとも1種の担体(例えば上記ペプチドの安定性向上に資する少なくとも1種の基材、或いは生理食塩水や各種の緩衝液等の液状媒体)を含む。
以下、放射線感受性増感ペプチド配列を有する合成ペプチド(即ち放射線感受性増感活性を有する合成ペプチド)を「放射線感受性増感合成ペプチド」とも呼ぶこととする。
【0013】
上記の医薬組成物は、腫瘍細胞の放射線に対する感受性を増大させ得る放射線感受性増感ペプチド配列を有する合成ペプチド、即ち放射線感受性増感合成ペプチドを含む。このため、かかる医薬組成物は、腫瘍の放射線治療において腫瘍細胞の放射線感受性を増大するために用いられる組成物(医薬組成物)として好適に使用し得る。即ち、典型的には、上記医薬組成物は、腫瘍の放射線治療における補助剤(いわゆる放射線感受性増感剤)として使用し得る。
上記の構成の医薬組成物を用いて腫瘍の放射線治療を行うことで、腫瘍の治療効果の向上を期待することが出来る。例えば、腫瘍細胞の放射線感受性を向上することで、従来よりも低線量な放射線の照射で腫瘍の放射線治療を行い得る。1回当たりに照射する放射線の線量を低減できれば、腫瘍に対して放射線を照射し得る回数を増やすことができる。また、従来は放射線感受性が低いために十分な放射線治療を行うことが困難であった腫瘍(典型的には悪性腫瘍、がん)についても、当該腫瘍を構成する腫瘍細胞の放射線感受性を向上することで、放射線治療の実施を実現し得る。
また、腫瘍に照射される放射線の総線量或いは1回当たりの照射線量を低減し得るため、腫瘍の周囲に存在する正常細胞に対する放射線照射のダメージを軽減することができる。即ち、放射線治療における副作用を軽減し得る。
また、上記放射線感受性増感合成ペプチドは、比較的短い鎖長の合成ペプチドであるため、容易に人為的に製造し得る。例えば、化学合成(若しくは生合成)による製造によって容易に製造し得る。また、上記放射線感受性増感合成ペプチドは、比較的単純な構造(典型的には直鎖状のペプチド鎖)の合成ペプチドで取扱いが容易である。このため、腫瘍細胞の放射線に対する感受性を増大させるために用いられる組成物の有効成分(即ち、腫瘍細胞の放射線感受性を増大させることに関与する物質)として好適である。
【0014】
ここで開示される医薬組成物の好ましい一態様では、上記放射線感受性増感ペプチド配列が、以下のアミノ酸配列:
CKSKSRRSC(配列番号1);
若しくは、該アミノ酸配列において、1個、2個、又は3個のアミノ酸残基が置換、欠失及び/又は付加された改変アミノ酸配列のいずれかである。
配列番号1としてここで開示されるアミノ酸配列は、本発明者がヒト由来のセントリン2のsiRNAを構成するRNA配列を独自に翻訳して得たアミノ酸配列であり、腫瘍細胞の放射線感受性を増大する能力が高いアミノ酸配列である。このため、ここで開示される医薬組成物に含まれる放射線感受性増感合成ペプチドを構成する放射線感受性ペプチド配列として好ましい。
【0015】
ここで開示される医薬組成物の好ましい一態様では、上記合成ペプチドは、上記放射線感受性増感ペプチド配列のN末端側若しくはC末端側に膜透過性ペプチド配列を有する。
このような膜透過性ペプチド配列を有する上記放射線感受性増感合成ペプチドは、当該膜透過性ペプチド配列の機能によって、対象の腫瘍細胞の外部(細胞膜の外側)から当該腫瘍細胞の内部へ高効率に移送され得る。このため、腫瘍細胞の放射線感受性を効果的に増大し得るため好ましい。
【0016】
また、本発明の好適な一態様では、上記合成ペプチドは、上記膜透過性ペプチド配列として以下のアミノ酸配列:
KKRTLRKNDRKKR(配列番号2)
を有する。
配列番号2としてここで開示されるアミノ酸配列は、膜透過性ペプチドを構成するアミノ酸配列の典型例であり、本発明の実施に好適に採用することができる。
【0017】
また、ここで開示される医薬組成物の好ましい一態様では、上記合成ペプチドを構成する全アミノ酸残基数が30以下である。
このような短いペプチド鎖からなるペプチドは、構造安定性(例えばプロテアーゼ耐性)が高く、取扱い性や保存性に優れる。さらに、このような短いペプチド鎖のペプチドは化学合成が容易であり、比較的安価な製造コストで製造(入手)可能である。このため、かかる合成ペプチドは、ここで開示される医薬組成物(腫瘍細胞の放射線に対する感受性を増大させるために用いられる組成物)の有効成分として好適である。
【0018】
また、ここで開示される医薬組成物の好ましい一態様では、上記腫瘍細胞が、前立腺がん、子宮頸がん、乳がん、胆のうがん、膵臓がん、結腸がん、直腸がん、腎臓がん、肺がん、食道がん、喉頭がん、胃がん、メラノーマ(悪性黒色腫)、中皮腫、肉腫を構成する腫瘍細胞のうちのいずれかである。
これらの腫瘍細胞は、一般的に、放射線に対する感受性が低い(放射線治療に対する抵抗性が高い)細胞である。このため、これらの腫瘍細胞にここで開示される医薬組成物(腫瘍細胞の放射線に対する感受性を増大させるために用いられる組成物)を使用することで、当該腫瘍細胞の放射線感受性を増大し得る。即ち、上記腫瘍の放射線治療において、ここで開示される医薬組成物を使用することで、放射線治療の治療効果を向上し得る。
【0019】
また、ここで開示される医薬組成物の好ましい一態様では、上記放射線治療に用いる放射線が、X線若しくはX線より波長の短い電磁波、陽子線、またはヘリウム以上の質量のイオンを用いた重粒子線のうちのいずれかである。
これらの放射線は、腫瘍の放射線治療において使用される放射線の典型例である。ここで開示される医薬組成物(腫瘍細胞の放射線に対する感受性を増大させるために用いられる組成物)は、少なくとも1種の腫瘍細胞について、これらの放射線に対する感受性を向上し得る。
【0020】
また、ここで開示される医薬組成物の好ましい一態様では、上記放射線治療に用いる放射線がX線である。X線は、腫瘍の放射線治療において、現在最も一般的に用いられている放射線である。このため、X線を照射するための装置は比較的広く普及しており、新たな治療設備に多額の費用を投資することなく、既存の設備を利用した治療が可能である。
また、一般的に、X線を患者の生体外から照射した場合、生体の外表面付近において線量が最も高く、生体内を透過するにつれて減弱することが知られている。このため、生体の深部に存在する腫瘍を治療する場合には、X線が照射される生体の外表面から腫瘍患部までの間に存在する正常細胞に対しても高線量のX線が照射されがちである。また、生体に照射されたX線は生体を透過する能力に優れているため、腫瘍の患部よりもさらに深部まで透過する。このため、腫瘍の周辺の正常細胞が障害(細胞増殖抑制、細胞死)を受けやすい傾向にある。これに対して、ここで開示する医薬組成物を用いて腫瘍細胞の放射線感受性を特異的に増大させることで、低線量のX線照射による高い治療効果を期待することができる。これにより、腫瘍細胞の周囲に存在する正常細胞へのダメージを低減し得る。また、1回当たりのX線の照射線量を低減することで、同一部位に存在する腫瘍に対してX線を照射可能な回数を増やし得ることからも、治療効果を向上し得る。
【0021】
また、本発明は、他の側面として、インビトロあるいはインビボにおいて、少なくとも一種の腫瘍細胞の増殖を抑制する方法であって、対象の腫瘍細胞の放射線感受性を増大させる合成ペプチドを対象の細胞に供給すること、および、上記ペプチドを供給した後の細胞に対して放射線を照射すること、を包含する腫瘍細胞の増殖抑制方法を提供する。ここで、上記合成ペプチドは、以下のアミノ酸配列:
CX
2X
3KX
5X
6X
7X
8C
(ここで、X
2はKまたはR、X
3はSまたはA、X
5はSまたはA、X
6はRまたはG、X
7はRまたはD、X
8はSまたはPである);
若しくは、該アミノ酸配列において、1個、2個、又は3個のアミノ酸残基が置換、欠失及び/又は付加された改変アミノ酸配列のいずれかからなる放射線感受性増感ペプチド配列を有するペプチド(即ち、上記放射線感受性増感合成ペプチド)である。また、上記放射線が、X線若しくはX線より波長の短い電磁波、陽子線、またはヘリウム以上の質量のイオンを用いた重粒子線のうちのいずれかである。
【0022】
かかる腫瘍細胞の増殖抑制方法によると、対象の腫瘍細胞に対してここで開示される放射線感受性増感合成ペプチドを供給する(例えば当該腫瘍細胞を培養する培地中に供給する)ことで、当該腫瘍細胞の放射線感受性を増大させることができる。これにより、上記腫瘍細胞の増殖抑制方法によると、上記放射線感受性増感合成ペプチドを供給することなく腫瘍細胞に放射線を照射する場合と比較して、格段に効率よく腫瘍細胞の細胞増殖を抑制し得る。即ち、上述の腫瘍細胞の増殖抑制方法によると、対象の腫瘍細胞に対してここで開示される放射線感受性増感合成ペプチドを供給し、その後当該腫瘍細胞に放射線を照射するという簡易な手法によって、腫瘍細胞の細胞増殖を効率よく抑制することができる。
【0023】
また、ここで開示される腫瘍細胞の増殖抑制方法の好適な一態様では、前記放射線感受性増感ペプチド配列が、以下のアミノ酸配列:
CKSKSRRSC(配列番号1);
若しくは、該アミノ酸配列において、1個、2個、又は3個のアミノ酸残基が置換、欠失及び/又は付加された改変アミノ酸配列のいずれかである。
かかる放射線感受性増感ペプチド配列を有する放射線感受性増感合成ペプチドは、腫瘍細胞の放射線感受性を増大する能力が高い。このため、ここで開示する腫瘍細胞の増殖抑制方法に好適に使用することができる。
【0024】
また、ここで開示される腫瘍細胞の増殖抑制方法の好適な一態様では、上記放射線がX線である。
ここで開示の腫瘍細胞の増殖抑制方法によると、対象の腫瘍細胞にX線を照射することにより、当該腫瘍細胞の増殖を効率よく抑制し得る。
【0025】
また、本発明は、他の側面として、腫瘍の治療方法であって、腫瘍細胞の放射線感受性を増大させる合成ペプチドを患者に投与すること、および、腫瘍の患部に放射線を照射すること、を包含する腫瘍の治療方法を提供する。ここで、上記合成ペプチドは、以下のアミノ酸配列:
CX
2X
3KX
5X
6X
7X
8C
(ここで、X
2はKまたはR、X
3はSまたはA、X
5はSまたはA、X
6はRまたはG、X
7はRまたはD、X
8はSまたはPである);
若しくは、前記アミノ酸配列において、1個、2個、又は3個のアミノ酸残基が置換、欠失及び/又は付加された改変アミノ酸配列のいずれかからなる放射線感受性増感ペプチド配列を有するペプチドである。また、上記放射線は、X線若しくはX線より波長の短い電磁波、陽子線、またはヘリウム以上の質量のイオンを用いた重粒子線のうちのいずれかである。
【0026】
かかる腫瘍の治療方法によると、ここで開示される放射線感受性増感合成ペプチドを患者に投与する(例えば、注射や経口投与等により投与する)ことで、腫瘍を構成する腫瘍細胞の放射線感受性を増大させることができる。このため、その後の放射線照射により、腫瘍細胞を効率よく殺す、或いは、腫瘍細胞の細胞増殖を抑制することができる。即ち、上記腫瘍の治療方法によると、効果的な腫瘍の治療を実現することができる。また、上記の腫瘍の治療方法によると、例えば、低線量の放射線照射での腫瘍の治療が可能となる。これにより、放射線を照射する期間を延長する、或いは放射線の照射回数を増やすことが可能となり、腫瘍の治療効果を向上し得る。また、患部(即ち生体)に照射される放射線の総線量或いは1回当たりに照射される線量を低減することで、正常細胞への放射線照射によるダメージを軽減することができる。これにより、放射線治療の副作用(いわゆる放射線障害、例えば、粘膜障害、皮膚炎、骨髄抑制等)を抑制し得る。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。本明細書において特に言及している事項(例えばここで開示される合成ペプチドの一次構造や鎖長)以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えばペプチドの化学合成法、細胞培養技法、ペプチドを成分とする薬学的組成物の調製、放射線の照射方法に関するような一般的事項)は、細胞工学、生理学、医学、薬学、有機化学、生化学、遺伝子工学、タンパク質工学、分子生物学、遺伝学等の分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、以下の説明では、場合に応じてアミノ酸をIUPAC-IUBガイドラインで示されたアミノ酸に関する命名法に準拠した1文字表記(但し配列表では3文字表記)で表す。
また、本明細書中で引用されている全ての文献の全ての内容は本明細書中に参照として組み入れられている。
【0029】
また、本明細書において「合成ペプチド」とは、そのペプチド鎖がそれのみで独立して自然界に安定的に存在するものではなく、人為的な化学合成或いは生合成(即ち遺伝子工学に基づく生産)によって製造され、所定の組成物(例えば腫瘍細胞の放射線感受性を増大させるために用いられる組成物、即ち、放射線感受性増感組成物)中で安定して存在し得るペプチド断片をいう。
また、本明細書において「ペプチド」とは、複数のペプチド結合を有するアミノ酸ポリマーを指す用語であり、ペプチド鎖に含まれるアミノ酸残基の数によって限定されないが、典型的には全アミノ酸残基数が概ね100以下(好ましくは60以下、例えば50以下)のような比較的分子量の小さいものをいう。
また、本明細書において「アミノ酸残基」とは、特に言及する場合を除いて、ペプチド鎖のN末端アミノ酸及びC末端アミノ酸を包含する用語である。
なお、本明細書中に記載されるアミノ酸配列は、常に左側がN末端側であり右側がC末端側である。
【0030】
本明細書において所定のアミノ酸配列に対して「改変アミノ酸配列」とは、当該所定のアミノ酸配列が有する機能(例えば上記放射線感受性増感合成ペプチドが有する放射線感受性増感活性、後述する膜透過性ペプチド配列が有する膜透過性能)を損なうことなく、1個から数個のアミノ酸残基、例えば、1個、2個、または3個のアミノ酸残基が置換、欠失及び/又は付加(挿入)されて形成されたアミノ酸配列をいう。例えば、1個、2個、または3個のアミノ酸残基が保守的に置換したいわゆる同類置換(conservative amino acid replacement)によって生じた配列(例えば塩基性アミノ酸残基が別の塩基性アミノ酸残基に置換した配列:例えばリジン残基とアルギニン残基との相互置換)、或いは、所定のアミノ酸配列について1個、2個、または3個のアミノ酸残基が付加(挿入)した若しくは欠失した配列等は、本明細書でいうところの改変アミノ酸配列に包含される典型例である。従って、ここで開示される放射線感受性増感合成ペプチドには、各配列番号のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列で構成される合成ペプチドに加え、各配列番号のアミノ酸配列において1個、2個、または3個のアミノ酸残基が置換(例えば上記同類置換)、欠失及び/又は付加したアミノ酸配列であって、同様に放射線感受性増感活性を示すアミノ酸配列からなる合成ペプチドを包含する。
【0031】
本明細書において「腫瘍」とは、広義に解釈される用語であり、良性腫瘍および悪性腫瘍のいずれも含む腫瘍一般(典型的には悪性腫瘍)をいう。即ち、上記腫瘍は、癌腫及び肉腫或いは血液や造血組織の病変(白血病、リンパ腫等)を含む。なお、「がん」は上記腫瘍の中でも「悪性腫瘍」をいい、「癌」は悪性腫瘍の中でも上皮性の悪性腫瘍をいうものとする。また、「腫瘍細胞」とは、上記の腫瘍を形成する細胞をいう。典型的には周辺の正常組織とは独立して異常に増殖を行うに至った細胞(所謂がん化した細胞)をいう。従って、特別に規定しない限り、正常細胞ではなく腫瘍細胞(典型的にはがん細胞)に区分される細胞であれば、該細胞の起源や性状に関わりなく腫瘍細胞と呼称される。上皮性腫瘍(扁平上皮癌、腺癌等)、非上皮性腫瘍(各種の肉腫、骨肉腫等)、各種の細胞腫(神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫等)、リンパ腫、メラノーマ、等を構成する細胞は、ここでいう腫瘍細胞に包含され得る。
【0032】
また、本明細書において、「放射線の感受性」とは、放射線の影響の受けやすさをいう。即ち、細胞の放射線の感受性を増大させるとは、当該対象の細胞が放射線の影響を受けやすい状態にすることをいう。ここで、上記放射線の影響とは、放射線が細胞、組織、または生体に与える影響の全てを意味し、例えば、DNAの損傷、細胞の増殖抑制、細胞死、組織の傷害等が挙げられる。細胞レベルでの放射線の影響としては、細胞の増殖抑制、細胞死等が典型的である。従って、対象の細胞の放射線の感受性は、例えば、放射線照射による対象細胞の細胞増殖率(細胞生存率)の低減の程度によって把握することができる。また、特定の臓器や組織等で細胞の塊として増殖する固形腫瘍であれば、例えば、放射線照射による当該腫瘍の縮小の程度によっても当該腫瘍の放射線の感受性を把握し得る。
【0033】
ここで開示される放射線感受性増感合成ペプチドは、所定の腫瘍細胞(典型的には、ヒトもしくはヒト以外の哺乳類、鳥類、あるいはその他の動物由来の細胞)に供給された際(例えば患者の生体内に投与される)に該腫瘍細胞の放射線感受性を特異的に増大し得る能力(以下、かかる能力を「放射線感受性増感活性」ともいう。)を有することが、本発明者らによって初めて見出された合成ペプチドである。このため、上記放射線感受性増感合成ペプチドの供給により放射線感受性が増大した腫瘍細胞は、放射線照射により細胞増殖が抑制されやすくなる。したがって、上記放射線感受性増感合成ペプチドが供給された腫瘍細胞に対して放射線を照射することにより、当該腫瘍細胞の正常な細胞増殖を抑制し、結果として当該腫瘍細胞を増殖させることなく死に至らしめることができる。即ち、ここで開示される放射線感受性増感合成ペプチドは、所定の腫瘍細胞に供給された際に、放射線照射による当該腫瘍細胞に対する細胞増殖抑制効果を増大し得ることが本発明者らによって見出された合成ペプチドである。
【0034】
また、本発明によると、少なくとも1種の腫瘍細胞の放射線感受性を増大させるために用いられる組成物(典型的には薬学的組成物、例えば医薬組成物)であって、ここで開示される放射線感受性増感合成ペプチドのうちの少なくとも1種を有効成分(即ち、対象の腫瘍細胞の放射線感受性を増大することに関与する物質)として含むことにより特徴づけられる組成物(以下、「放射線感受性増感組成物」ともいう)が提供される。なお、かかる放射線感受性増感組成物は、腫瘍の放射線治療において、腫瘍細胞の放射線感受性を増大させるために用いられる医薬組成物(いわゆる放射線感受性増感剤)として好適に使用し得る。
【0035】
ここで開示される放射線感受性増感合成ペプチド(および該ペプチドを含む放射線感受性増感組成物)によると、当該放射線感受性増感合成ペプチド(および該ペプチドを含む放射線感受性増感組成物)が供給された腫瘍細胞の放射線感受性を特異的に増大し得る。これにより、腫瘍を構成する腫瘍細胞の放射線感受性と、当該腫瘍細胞の周囲に存在する正常細胞の放射線感受性との差を大きくすることができる。即ち、いわゆる治療可能比(therapeutic ratio, TR)として示される放射線治療におけるパラメーター(治療可能比=正常組織耐容線量/腫瘍組織制御線量)を大きくすることができる。かかる治療可能比の増大効果により、治療効果の向上および副作用の軽減を実現し得る。
【0036】
上述のとおり、ここで開示される放射線感受性増感合成ペプチドは、対象の腫瘍細胞の放射線の感受性を増大し得る(即ち、放射線感受性増感活性)を有することが本発明者らによって新たに見出された放射線感受性増感ペプチド配列を有する合成ペプチドである。具体的には、上記放射線感受性増感合成ペプチドは、放射線感受性増感ペプチド配列として、以下のアミノ酸配列:
CX
2X
3KX
5X
6X
7X
8C
(ここで、X
2はKまたはR、X
3はSまたはA、X
5はSまたはA、X
6はRまたはG、X
7はRまたはD、X
8はSまたはPである);
若しくはその改変アミノ酸配列を有する。
例えば、上記放射線感受性増感ペプチド配列の好適例として、以下のアミノ酸配列:
CKSKSRRSC(配列番号1);
若しくはその改変アミノ酸配列が挙げられる。或いはまた、以下のアミノ酸配列:
CRAKAGDPC(配列番号8);
若しくはその改変アミノ酸配列も、ここで開示する放射線感受性増感ペプチド配列として好適である。
配列番号1または配列番号8に示される具体的なアミノ酸配列は、本発明者がヒト由来のセントリン2のsiRNAを構成するRNA配列を独自に翻訳して得た、合計9アミノ酸残基の人為的なアミノ酸配列である。
ここで、セントリンとは、真核細胞の中心体に存在し、中心子の構成タンパク質の一つとして中心子の複製や微小管の切断に関与する中心体関連タンパク質であり、セントリン2とは、セントリンファミリー(典型的には、セントリン1、セントリン2、セントリン3等)に属するタンパク質のうちの一つである(非特許文献1参照)。
【0037】
或いはまた、ここで開示される放射線感受性増感合成ペプチドは、上述した放射線感受性増感ペプチド配列のみから成るペプチドであってもよいが、当該放射線感受性増感ペプチド配列のN末端側もしくはC末端側に膜透過性ペプチド配列を有する合成ペプチドであり得る。膜透過性ペプチド配列を有する合成ペプチドであれば、目的の細胞に供給した際に、該合成ペプチドが細胞内に速やかに導入され得る。これにより、放射線感受性増感活性を向上させることができる。
当該膜透過性ペプチド配列は、細胞膜及び/又は核膜を通過し得る膜透過性ペプチドを構成するアミノ酸配列であれば特に限定なく使用することができる。多くの好適な膜透過性ペプチド配列が知られているが、特にNoLS(核小体局在シグナル、Nucleolar localization signal)に関連するアミノ酸配列(改変アミノ酸配列を含む)が放射線感受性増感合成ペプチドの膜透過性ペプチド配列のアミノ酸配列として好ましい。配列番号2〜6に、上記NoLSに関連する膜透過性ペプチド配列および他の膜透過性ペプチド配列(改変アミノ酸配列を含む)の好適例を挙げる。具体的には以下のとおりである。
【0038】
即ち、配列番号2のアミノ酸配列は、細胞内情報伝達に関与するプロテインキナーゼの1種であるヒト内皮細胞に存在するLIMキナーゼ2(LIM Kinase 2)の第491番目のアミノ酸残基から第503番目のアミノ酸残基までの合計13アミノ酸残基から成るNoLSに対応する。
配列番号3のアミノ酸配列は、IBV(トリ伝染性気管支炎ウイルス:avian infectious bronchitis virus)のNタンパク質(nucleocapsid protein)に含まれる合計8アミノ酸残基から成るNoLSに対応する。
配列番号4のアミノ酸配列は、HIV(ヒト免疫不全ウイルス:Human Immunodeficiency Virus)のTATに含まれるタンパク質導入ドメイン由来の合計11アミノ酸残基から成る膜透過性ペプチド配列に対応する。
配列番号5のアミノ酸配列は、上記TATを改変したタンパク質導入ドメイン(PTD4)の合計11アミノ酸残基から成る膜透過性ペプチド配列に対応する。
配列番号6のアミノ酸配列は、ショウジョウバエ(Drosophila)の変異体であるAntennapediaのANT由来の合計16アミノ酸配列から成る膜透過性ペプチド配列に対応する。
なお、配列表に示した上述の膜透過性ペプチド配列はあくまでも例示であり、使用可能なペプチド配列はこれに限定されない。本発明の実施に使用可能な様々な膜透過性ペプチド配列が本願出願当時に出版されている数々の文献に記載されている。それら膜透過性ペプチド配列のアミノ酸配列は一般的な検索手段によって容易に知ることができる。
【0039】
特に、特許文献4にも記載されている配列番号2に示すアミノ酸配列(改変アミノ酸配列を含む)が膜透過性ペプチド配列として好ましい。かかる配列番号2に示すアミノ酸配列と上述の放射線感受性増感ペプチド配列(例えば、配列番号1又は配列番号8として示すアミノ酸配列)とを組み合わせることにより、高い放射線感受性増感活性を示す合成ペプチドを得ることができる。
【0040】
ここで開示される放射線感受性増感合成ペプチドの好適な一態様は、以下のアミノ酸配列:
CKSKSRRSCGKKRTLRKNDRKKR(配列番号7)
を含む。配列番号7に示すアミノ酸配列は、配列番号1に示すアミノ酸配列と、上記の配列番号2に示すLIMキナーゼ2由来のアミノ酸配列とをリンカーとしての1個のグリシン残基(G)を介して組み合わせることにより構築された合計23アミノ酸残基からなるアミノ酸配列である。
【0041】
ここで開示される放射線感受性増感合成ペプチドのペプチド鎖(アミノ酸配列)のうちの幾つかは、上述したような放射線感受性増感ペプチド配列と、膜透過性ペプチド配列とを適宜組み合わせることにより構築することができる。放射線感受性増感ペプチド配列と膜透過性ペプチド配列の何れが相対的にC末端側(N末端側)に配置されてもよい。また、放射線感受性増感ペプチド配列と膜透過性ペプチド配列とは隣接して配置されるのが好ましい。即ち、放射線感受性増感ペプチド配列と膜透過性ペプチド配列との間には、両配列部分に包含されないアミノ酸残基が存在しないか或いは存在していても該残基数が1〜3個程度が好ましい。例えば、放射線感受性増感ペプチド配列と膜透過性ペプチド配列との間にリンカーとして機能する1個又は数個(典型的には2個又は3個)のアミノ酸残基(例えば1個又は数個のグリシン(G)残基)を含むものであり得る。
ここで開示される放射線感受性増感合成ペプチドは、少なくとも一つのアミノ酸残基がアミド化されているものが好ましい。アミノ酸残基(典型的にはペプチド鎖のC末端アミノ酸残基)のカルボキシル基のアミド化により、合成ペプチドの構造安定性(例えばプロテアーゼ耐性)を向上させることができる。
【0042】
上記放射線感受性増感合成ペプチドは、放射線感受性増感活性を失わない限りにおいて、放射線感受性増感ペプチド配列と膜透過性ペプチド配列を構成するアミノ酸配列以外の配列(アミノ酸残基)部分を含み得る。特に限定するものではないが、かかるアミノ酸配列としては放射線感受性増感ペプチド配列と膜透過性ペプチド配列部分の3次元形状(典型的には直鎖形状)を維持し得る配列が好ましい。該放射線感受性増感合成ペプチドは、ペプチド鎖を構成する全アミノ酸残基数が100以下が適当であり、60以下が望ましく、50以下が好ましい。例えば全アミノ酸残基数が30以下の合成ペプチドが特に好ましい。
このような鎖長の短いペプチドは、化学合成が容易であり、容易に放射線感受性増感合成ペプチドを作製することができる。なお、ペプチドのコンホメーション(立体構造)については、使用する環境下(生体外、典型的には対象細胞を培養する培地中)で腫瘍細胞の放射線感受性を増大する放射線感受性増感活性を発揮する限りにおいて、特に限定されるものではないが、免疫原(抗原)になり難いという観点から直鎖状又はヘリックス状のものが好ましい。このような形状のペプチドはエピトープを構成し難い。かかる観点から、腫瘍細胞の放射線感受性を増大する為に用いられる放射線感受性増感合成ペプチドとしては、直鎖状のものが好ましく、また、比較的低分子量(典型的には60以下(特に30以下)のアミノ酸残基数)のものが好適である。
【0043】
全体のアミノ酸配列に対して放射線感受性増感ペプチド配列と膜透過性ペプチド配列とが占める割合(即ち、ペプチド鎖を構成する全アミノ酸残基数に占める放射線感受性増感ペプチド配列と膜透過性ペプチド配列とを構成するアミノ酸残基数の個数%)は、対象の腫瘍細胞の放射線感受性を増大させる放射線感受性増感活性を失わない限り特に限定されないが、当該割合は概ね60%以上が望ましく、80%以上が好ましい。90%以上が特に好ましい。放射線感受性増感ペプチド配列と膜透過性ペプチド配列とから成る(即ち、これらの配列が全アミノ酸配列の100%を占める)ペプチドは好適な一形態である。
なお、本発明の放射線感受性増感合成ペプチドとしては、全てのアミノ酸残基がL型アミノ酸であるものが好ましいが、腫瘍細胞の放射線感受性を増大させる放射線感受性増感活性を失わない限りにおいて、アミノ酸残基の一部又は全部がD型アミノ酸に置換されているものであってもよい。
【0044】
ここで開示される放射線感受性増感合成ペプチドは、一般的な化学合成法に準じて容易に製造することができる。例えば、従来公知の固相合成法又は液相合成法のいずれを採用してもよい。アミノ基の保護基としてBoc(t-butyloxycarbonyl)或いはFmoc(9-fluorenylmethyloxycarbonyl)を適用した固相合成法が好適である。
ここで開示される放射線感受性増感合成ペプチドは、市販のペプチド合成機(例えば、Intavis AG社、Protein Technologies社等から入手可能である。)を用いた固相合成法により、所望するアミノ酸配列、修飾(C末端アミド化等)部分を有するペプチド鎖を合成することができる。
【0045】
或いは、遺伝子工学的手法に基づいて放射線感受性増感合成ペプチドを生合成してもよい。すなわち、所望する放射線感受性増感合成ペプチドのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(ATG開始コドンを含む。)のポリヌクレオチド(典型的にはDNA)を合成する。そして、合成したポリヌクレオチド(DNA)と該アミノ酸配列を宿主細胞内で発現させるための種々の調節エレメント(プロモーター、リボゾーム結合部位、ターミネーター、エンハンサー、発現レベルを制御する種々のシスエレメントを包含する。)とから成る発現用遺伝子構築物を有する組換えベクターを、宿主細胞に応じて構築する。
一般的な技法によって、この組換えベクターを所定の宿主細胞(例えばイースト、昆虫細胞、植物細胞)に導入し、所定の条件で当該宿主細胞又は該細胞を含む組織や個体を培養する。このことにより、目的とするペプチドを細胞内で発現、生産させることができる。そして、宿主細胞(分泌された場合は培地中)からペプチドを単離し、必要に応じてリフォールディング、精製等を行うことによって、目的の放射線感受性増感合成ペプチドを得ることができる。
なお、組換えベクターの構築方法及び構築した組換えベクターの宿主細胞への導入方法等は、当該分野で従来から行われている方法をそのまま採用すればよく、かかる方法自体は特に本発明を特徴付けるものではないため、詳細な説明は省略する。
【0046】
例えば、宿主細胞内で効率よく大量に生産させるために融合タンパク質発現システムを利用することができる。すなわち、目的の放射線感受性増感合成ペプチドのアミノ酸配列をコードする遺伝子(DNA)を化学合成し、該合成遺伝子を適当な融合タンパク質発現用ベクター(例えばノバジェン社から提供されているpETシリーズ及びアマシャムバイオサイエンス社から提供されているpGEXシリーズのようなGST(Glutathione S-transferase)融合タンパク質発現用ベクター)の好適なサイトに導入する。そして該ベクターにより宿主細胞(典型的には大腸菌)を形質転換する。得られた形質転換体を培養して目的の融合タンパク質を調製する。次いで、該タンパク質を抽出し、精製する。次いで、得られた精製融合タンパク質を所定の酵素(プロテアーゼ)で切断し、遊離した目的のペプチド断片(設計した放射線感受性増感合成ペプチド)をアフィニティクロマトグラフィー等の方法によって回収する。また、必要に応じて適当な方法によってリフォールディングする。このような従来公知の融合タンパク質発現システム(例えばアマシャムバイオサイエンス社により提供されるGST/Hisシステムを利用し得る。)を用いることによって、ここで開示される放射線感受性増感合成ペプチドを製造することができる。
或いは、無細胞タンパク質合成システム用の鋳型DNA(即ち放射線感受性増感合成ペプチドのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む合成遺伝子断片)を構築し、ペプチド合成に必要な種々の化合物(ATP、RNAポリメラーゼ、アミノ酸類等)を使用し、いわゆる無細胞タンパク質合成システムを採用して目的のポリペプチドをインビトロ合成することができる。無細胞タンパク質合成システムについては、例えばShimizuらの論文(Shimizu et al., Nature Biotechnology, 19, 751-755(2001))、Madinらの論文(Madin et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97(2), 559-564(2000))が参考になる。これら論文に記載された技術に基づいて、本願出願時点において既に多くの企業がポリペプチドの受託生産を行っており、また、無細胞タンパク質合成用キット(例えば、日本の(株)セルフリーサイエンスから入手可能なPROTEIOS(商標)Wheat germ cell-free protein synthesis kit)が市販されている。
【0047】
ここで開示される放射線感受性増感合成ペプチドをコードするヌクレオチド配列及び/又は該配列と相補的なヌクレオチド配列を含む一本鎖又は二本鎖のポリヌクレオチドは、従来公知の方法によって容易に製造(合成)することができる。すなわち、設計したアミノ酸配列を構成する各アミノ酸残基に対応するコドンを選択することによって、放射線感受性増感合成ペプチドのアミノ酸配列に対応するヌクレオチド配列が容易に決定され、提供される。そして、ひとたびヌクレオチド配列が決定されれば、DNA合成機等を利用して、所望するヌクレオチド配列に対応するポリヌクレオチド(一本鎖)を容易に得ることができる。さらに得られた一本鎖DNAを鋳型として用い、種々の酵素的合成手段(典型的にはPCR)を採用して目的の二本鎖DNAを得ることができる。また、ポリヌクレオチドは、DNAの形態であってもよく、RNA(mRNA等)の形態であってもよい。DNAは、二本鎖又は一本鎖で提供され得る。一本鎖で提供される場合は、コード鎖(センス鎖)であってもよく、それと相補的な配列の非コード鎖(アンチセンス鎖)であってもよい。
こうして得られるポリヌクレオチドは、上述のように、種々の宿主細胞中で又は無細胞タンパク質合成システムにて、放射線感受性増感合成ペプチド生産のための組換え遺伝子(発現カセット)を構築するための材料として使用することができる。
【0048】
ここで開示される放射線感受性増感合成ペプチドは、少なくとも1種の腫瘍細胞に作用して、当該腫瘍細胞おける放射線に対する感受性を増大させることができる。このため、腫瘍細胞の放射線感受性を増大させるために用いられる組成物(放射線感受性増感組成物)の有効成分として好適に使用し得る。なお、ここで開示される放射線感受性増感合成ペプチドは、上記放射線感受性増感活性を損なわない限りにおいて塩の形態であってもよい。例えば、常法に従って通常使用されている無機酸又は有機酸を付加反応させることにより得られ得る該ペプチドの酸付加塩を使用することができる。或いは、上記放射線感受性増感活性を有する限り、他の塩(例えば金属塩)であってもよい。従って、本明細書及び特許請求の範囲に記載の「ペプチド」は、かかる塩形態のものを包含する。
【0049】
本発明によって提供される放射線感受性増感組成物は、少なくとも1種の腫瘍細胞の放射線感受性を増大させるために用いられる組成物(典型的には薬学的組成物、例えば医薬組成物)であり、ここで開示される放射線感受性増感合成ペプチドのうちの少なくとも1種を有効成分(即ち、対象の腫瘍細胞の放射線感受性を増大することに関与する物質)として含むことにより特徴づけられる組成物である。かかる放射線感受性増感組成物は、腫瘍の放射線治療において、腫瘍細胞の放射線感受性を増大させるために用いられる医薬組成物(所謂放射線感受性増感剤)、即ち、腫瘍の放射線治療における補助剤として好適に使用し得る。
なお、上記放射線感受性増感組成物に含まれ得る上記放射線感受性増感合成ペプチド以外の含有成分や薬剤としての調製法、保存法、使用法、等は特に限定されず、例えば従来のペプチド製剤(ペプチドを有効成分として含む薬学上の組成物)と同様であればよい。
【0050】
ここで開示される放射線感受性増感組成物は、有効成分である放射線感受性増感合成ペプチドをその放射線感受性増感活性が失われない状態で保持し得る限りにおいて、使用形態に応じて薬学(医薬)上許容され得る種々の担体を含み得る。希釈剤、賦形剤等としてペプチド医薬において一般的に使用される担体が好ましい。放射線感受性増感組成物の用途や形態に応じて適宜異なり得るが、典型的には、水、生理学的緩衝液、種々の有機溶媒が挙げられる。適当な濃度のアルコール(エタノール等)水溶液、グリセロール、オリーブ油のような不乾性油であり得る。或いはリポソームであってもよい。また、放射線感受性増感組成物に含有させ得る副次的成分としては、種々の充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、表面活性剤、色素、香料等が挙げられる。
放射線感受性増感組成物の形態に関して特に限定はない。例えば、典型的な形態として、液剤、懸濁剤、乳剤、エアロゾル、泡沫剤、顆粒剤、粉末剤、錠剤、カプセル、軟膏、水性ジェル剤等が挙げられる。また、使用直前に生理食塩水又は適当な緩衝液(例えばPBS)等に溶解して薬液を調製するための凍結乾燥物、造粒物とすることもできる。
なお、放射線感受性増感合成ペプチド(主成分)及び種々の担体(副成分)を材料にして種々の形態の薬剤(組成物)を調製するプロセス自体は従来公知の方法に準じればよく、かかる製剤方法自体は本発明を特徴付けるものでもないため詳細な説明は省略する。処方に関する詳細な情報源として、例えばComprehensive Medicinal Chemistry, Corwin Hansch監修,Pergamon Press刊(1990)が挙げられる。この書籍の全内容は本明細書中に参照として援用されている。
【0051】
ここで開示される放射線感受性増感組成物(或いは該組成物に含まれる放射線感受性増感合成ペプチド)の適用対象細胞は特に制限されず、種々の腫瘍細胞の放射線感受性を増大することが可能である。特に、ヒト又はヒト以外の動物(典型的には脊椎動物、特に哺乳動物)の細胞が適用対象として好ましい。医学上の利用価値の観点から、特に、ヒトの細胞が好ましく、また、悪性腫瘍を構成する腫瘍細胞(所謂がん細胞)が適用対象として好ましい。ここで開示する放射線感受性増感組成物(或いは該組成物に含まれる放射線感受性増感合成ペプチド)の適用対象とされる悪性腫瘍(即ち適用対象細胞)としては、例えば、前立腺がん、子宮頸がん、乳がん、胆のうがん、膵臓がん、結腸がん、直腸がん、腎臓がん、肺がん、食道がん、喉頭がん、咽頭がん、甲状腺がん、胸腺がん、卵巣がん、唾液腺がん、胃がん、基底細胞がん、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、髄芽細胞腫、網膜芽細胞腫、神経芽細胞腫、神経膠腫、メラノーマ(悪性黒色腫)、中皮腫、肉腫、等が挙げられる。例えば、上皮性腫瘍由来の腫瘍細胞、典型的には扁平上皮癌を構成する腫瘍細胞や腺癌を構成する腫瘍細胞が対象細胞として好適である。一般的に腺癌の方が扁平上皮癌よりも放射線感受性が低い傾向にあるため、ここで開示される放射線感受性増感組成物(或いは該組成物に含まれる放射線感受性増感合成ペプチド)を適用し、上記腺癌を構成する腫瘍細胞の放射線感受性を増大させることによる恩恵が大きい。
なお、腫瘍(典型的には悪性腫瘍、即ち、がん)の種類によって、放射線感受性が異なる。通常放射線治療が行われ得る腫瘍(がん)、即ち、放射線感受性が比較的高い腫瘍(即ち、該腫瘍を構成する腫瘍細胞)に対して、特に制限なくここで開示する放射線感受性増感組成物(或いは該組成物に含まれる放射線感受性増感合成ペプチド)を適用し得る。一方で、放射線の感受性が低い腫瘍(がん)であっても、ここで開示される放射線感受性増感組成物(放射線感受性増感合成ペプチド)を適用し、該腫瘍を構成する腫瘍細胞の放射線感受性を増大することにより、これら放射線の感受性が低い腫瘍(がん)に対する放射線治療の治療効果の向上を期待することができる。このような放射線に対する感受性が比較的低い腫瘍(がん)として、例えば、前立腺がん、子宮頸がん、乳がん、胆のうがん、膵臓がん、結腸がん、直腸がん、腎臓がん、肺がん、食道がん、喉頭がん、胃がん、メラノーマ(悪性黒色腫)、中皮腫、肉腫等が挙げられる。
また、細胞内の酸素濃度が低い腫瘍細胞(以下、酸素欠乏性腫瘍細胞ともいう。)は、細胞内の酸素濃度が高い腫瘍細胞と比較して、放射線感受性が低い傾向にある。したがって、ここで開示される放射線感受性増感組成物(放射線感受性増感合成ペプチド)は、酸素欠乏性腫瘍細胞に対して効果的に適用し得る。なお、典型的に、固形腫瘍において、当該腫瘍の辺縁部分に存在する腫瘍細胞は細胞内の酸素濃度が十分に高い傾向にあり、上記腫瘍の中心部分の腫瘍細胞は細胞内の酸素濃度が低い傾向にある。このため、換言すると、固形腫瘍の中心部分に存在する腫瘍細胞に対して、ここで開示される放射線感受性増感組成物(或いは該組成物に含まれる放射線感受性増感合成ペプチド)を好適に適用し得る。
なお、固形腫瘍は、特定の臓器や組織、腺において細胞の塊として増殖する腫瘍であり、放射線の照射範囲を限定しやすいことから、放射線治療による治療効果が期待できる代表的な腫瘍である。このため、上記固形腫瘍(即ち、当該固形腫瘍由来の腫瘍細胞)に対して、ここで開示される放射線感受性増感組成物(或いは該組成物に含まれる放射線感受性増感合成ペプチド)を好適に適用し得る。
【0052】
ここで開示される放射線感受性増感組成物(放射線感受性増感合成ペプチド)は、その形態及び目的に応じた方法や用量で使用することができる。
例えば、生体内(インビボ)で対象細胞(即ち、治療対象の腫瘍を構成する腫瘍細胞)の放射線感受性を増大させる場合においては、ここで開示される放射線感受性増感組成物(即ち該組成物の有効成分である放射線感受性増感合成ペプチド)の適当量を液剤として、静脈内、筋肉内、皮下、皮内、鼻腔若しくは腹腔等への注射によって患者(即ち生体内)に所望する量だけ投与することができる。或いは、錠剤等の固体形態のものや軟膏等のゲル状若しくは水性ジェリー状のものを、直接、目的の組織(例えば腫瘍細胞を含む組織や器官等の患部)あるいは該組織の近傍に投与することができる。或いは経口投与若しくは座薬、浣腸、吸引の形態で投与してもよい。経口投与の場合は、消化管内での消化酵素分解を抑制すべくカプセル化や保護(コーティング)材の適用が好ましい。なお、ここで開示される放射線感受性増感組成物の患者への投与量や投与頻度或いは投与の態様は、対象とする患者の状態(症状)、年齢、体重、性別、投与先(腫瘍)の種類、形態、存在部位および病期、ならびに使用する放射線感受性増感組成物の形状、当該放射線感受性増感組成物中に含まれる放射線感受性増感合成ペプチドの濃度、当該合成ペプチド以外の副成分の有無やその濃度、等によって適宜異なり得る設計事項である。当業者は事情に応じて周知技術であるペプチド製剤に関するエンジニアリングの知見に加えて薬学上、臨床医学上、生理学上或いは衛生学上の知見に基づいて、適切な形態の放射線感受性増感組成物を調製あるいは処方し得る。例えば、注射投与する場合には、1日当たりの容量として、当該放射線感受性増感組成物中に含まれるペプチド換算で、約1μg/kg〜100mg/kg(好ましくは10μg/kg〜10mg/kg)程度とすることができる。
【0053】
或いはまた、生体外(インビトロ)で培養(継代)している腫瘍細胞(生体から摘出された細胞塊又は組織または器官である場合を包含する。)の放射線感受性を増大する場合は、ここで開示される放射線感受性増感組成物(放射線感受性増感合成ペプチド)の適当量を、対象の培養細胞(細胞培養物)に対し、培養過程のいずれかの段階(好ましくは所定期間の培養(増殖)や継代を行った後)で培地に少なくとも1回供給するとよい。上記培養細胞の例としては、樹立細胞株および初代培養細胞、あるいは生体から一時的に又は永久的に摘出した細胞材料(細胞、あるいは生組織や細胞塊等)等が挙げられる。
放射線感受性増感組成物(放射線感受性増感合成ペプチド)の1回当たりの供給量及び供給回数は、培養細胞の種類、細胞密度(培養開始時の細胞密度)、継代数、培養条件、培地の種類、等の条件によって異なり得るため特に限定されない。例えば、ヒト又はヒト以外の動物(典型的には脊椎動物、特に哺乳動物)由来の細胞を培養する場合、培地中のペプチド濃度が概ね0.1μM〜100μMの範囲内、好ましくは0.5μM〜80μM(例えば1μM〜50μM)の範囲内となるように、培養細胞(細胞培養物)に対して1〜複数回供給する(例えば培養開始時ならびに細胞の継代時や培地交換時に合わせて追加供給する)ことが好ましい。
【0054】
また、ここで開示される放射線感受性増感組成物(或いは、該組成物に含まれる放射線感受性増感合成ペプチド)は、対象細胞の種類や目的等に応じて、抗腫瘍効果を発揮する他の物質を併用することができる。かかる抗腫瘍効果を発揮する他の物質として、例えば、アルキル化剤、代謝拮抗剤、微小管作用薬、白金製剤、抗がん性抗生物質、ホルモン剤、分子標的治療薬等の抗がん剤や、放射線照射によって正常細胞の細胞増殖が抑制されることを防ぐために用いられる(正常細胞の放射線感受性を低下させるために用いられる)放射線防護剤等が挙げられる。
【0055】
ここで開示される放射線感受性増感合成ペプチド(或いは、当該ペプチドを含む放射線感受性増感組成物)は、後述する実施例からも明らかなように、当該合成ペプチド(或いは、上記組成物)を腫瘍細胞に供給した後で放射線を照射することにより、該腫瘍細胞の細胞増殖を効果的に抑制することができる。
従って、本発明によると、インビボ或いはインビトロにおいて、ここで開示される放射線感受性増感合成ペプチド(即ち、該ペプチドを含む放射線感受性増感組成物)のうちの少なくとも1種を対象の腫瘍細胞に供給し(例えば該腫瘍細胞を培養する培養液中に添加し)、その後、該腫瘍細胞に放射線を照射することを特徴とする、腫瘍細胞の増殖抑制方法を提供することができる。
また、本発明によると、ここで開示される放射線感受性増感合成ペプチド(即ち、該ペプチドを含む医薬組成物)のうちの少なくとも1種を患者に投与し、その後、患部(即ち患者)に放射線を照射することを特徴とする、腫瘍の治療方法を提供することができる。
【0056】
ここで開示される腫瘍細胞の増殖抑制方法、およびここで開示される腫瘍の治療方法では、腫瘍の放射線治療において一般的に用いられている放射線を特に制限なく使用することができる。例えば、X線若しくはX線より波長の短い電磁波、陽子線、またはヘリウム以上の質量のイオンを用いた重粒子線(例えば炭素線)のうちのいずれかであり得る。上記X線としては、例えば4MV(メガボルト)〜20MV(典型的には、4MV、6MV、10MV等)の高エネルギーX線であり得る。また、上記X線よりも波長の短い電磁波としては、例えば、コバルト60(
60Co)、ヨウ素125(
125I)、イリジウム192(
192Ir)、セシウム137(
137Cs)、金198(
198Au)等の放射性物質から放出されるγ線、および、ヨウ素131(
131I)、ストロンチウム89(
89Sr)、イットリウム90(
90Y)等の放射性物質から放出されるβ線等が挙げられる。放射線照射装置の普及率の観点からは、X線を使用することが好ましい。一方で、重粒子線は、腫瘍(腫瘍の患部)に局所的に高い線量の放射線を照射することが可能であり、正常細胞の放射線照射によるダメージを軽減しつつ、効果的な治療を実現し得る。かかる観点から、重粒子線(典型的には炭素線)を好適に使用し得る。
【0057】
ここで開示する腫瘍細胞の増殖抑制方法では、放射線の照射方法は、当該放射線の種類及び対象の腫瘍細胞に応じて適宜設定することができる。
例えば、生体外(インビトロ)で培養(継代)している腫瘍細胞(生体から摘出された細胞塊又は組織または器官である場合を包含する。)の増殖を抑制する場合においては、培養容器中の腫瘍細胞に対して適当な線量の放射線を、適当な回数照射すればよい。例えば、腫瘍細胞に対してX線を照射する場合であれば、総線量が5グレー(5Gy)以下、例えば3グレー(3Gy)以下となるように、対象の腫瘍細胞に対して1〜複数回放射線を照射することが好ましい。
【0058】
或いはまた、生体内に存在する腫瘍細胞の細胞増殖を抑制する場合においては、例えば、生体外から、対象の腫瘍細胞に対して適当な線量の放射線を適当な回数照射すればよい。かかる生体外からの放射線照射は、典型的に、腫瘍細胞の存在する部分(即ち、腫瘍の存在する箇所)に局所的に照射される。或いはまた、放射線を放出する(典型的には放射性同位元素を含む)医療材料を生体内に導入する(例えば、腫瘍組織内に挿入或いは密着する、管腔内に留置する)、或いは、腫瘍細胞に対して親和性のある放射性物質を生体内に投与する(例えば注射するあるいは経口投与する)ことで、対象の腫瘍細胞に生体内から放射線を照射(所謂内照射)してもよい。
なお、ここで開示される細胞増殖抑制方法において、対象の腫瘍細胞に対して照射される放射線の線量および照射の頻度等は、対象とする患者の状態(症状)、年齢、体重、性別、投与先(腫瘍)の種類、形態、存在部位および病期、ならびに使用する放射線の種類、照射方法、放射線の照射に用いる設備、等によって適宜異なり得る設計事項である。当業者は事情に応じて周知技術である腫瘍の放射線治療に関する知見に加えて薬学上、臨床医学上、生理学上或いは衛生学上の知見に基づいて、腫瘍細胞に照射する放射線の適切な線量および照射の頻度を設定し得る。例えば、X線を照射する場合には、総線量が100Gy以下(好ましくは80Gy以下、より好ましくは50Gy以下、さらに好ましくは30Gy以下)となるように、X線を照射し得る。例えば、1〜2日おきに20〜50回(好ましくは25〜40回)の頻度でX線を照射すればよい。
【0059】
ここで開示する腫瘍細胞の増殖抑制方法において、腫瘍細胞に対して複数回の放射線の照射を行う場合は、上記放射線感受性増感合成ペプチド(即ち、該ペプチドを含む放射線感受性増感組成物)の腫瘍細胞への供給についても、当該放射線の照射に先んじて複数回行うことが好ましい。
また、上記放射線感受性増感合成ペプチド(即ち、該ペプチドを含む放射線感受性増感組成物)を対象の腫瘍細胞に供給し(典型的には該腫瘍細胞を培養している培地中に添加し、或いは患者に投与し)、その後、対象の腫瘍細胞に放射線を照射するまでの期間は、特に限定されない。例えば、対象の腫瘍細胞の放射線感受性を増大するのに十分な期間を設けることが好ましい。典型的には、上記放射線感受性増感合成ペプチド(即ち、該ペプチドを含む放射線感受性増感組成物)を対象の腫瘍細胞に供給してから数時間後(典型的には6時間以上、例えば12時間以上)であって数日間以内(典型的には3日以内、例えば2日以内)に放射線を照射することが好ましい。
【0060】
また、ここで開示する腫瘍の治療方法において、放射線の照射方法は特に限定されない。例えば、患者の生体外から、腫瘍(典型的には悪性腫瘍、がん)が存在する部分(即ち、腫瘍の患部)に対して、局所的に、適当な線量の放射線を照射すればよい。ここで開示される腫瘍の治療方法において、上記放射線の照射は、典型的に、毎日〜数日毎に複数回の照射が連続して行われ得る。このとき、上記放射線感受性増感合成ペプチド(即ち、該ペプチドを含む医薬組成物)の患者への投与についても、上記放射線の照射に先立って連続して行うことが好ましい。
或いはまた、上記腫瘍細胞の細胞増殖方法の場合と同様に、放射線を放出する(典型的には放射性同位元素を含む)医療材料を生体内に導入する(例えば、腫瘍組織内に挿入或いは密着する、管腔内に留置する)、或いは、腫瘍細胞に対して親和性のある放射性物質を生体内に投与する(例えば注射するあるいは経口投与する)ことで、目的の腫瘍に生体内から放射線を照射(所謂内照射)してもよい。
なお、ここで開示される腫瘍の治療方法において、照射される放射線の線量および照射の頻度等は、対象とする患者の状態(症状)、年齢、体重、性別、投与先(悪性腫瘍)の種類、形態、存在部位および病期、ならびに使用する放射線の種類、照射方法、放射線の照射に用いる設備、等によって適宜異なり得る設計事項である。当業者は事情に応じて周知技術である腫瘍の放射線治療に関する知見に加えて薬学上、臨床医学上、生理学上或いは衛生学上の知見に基づいて、放射線の適切な線量および照射の頻度を設定し得る。例えば、X線を照射する場合には、総線量が100Gy以下(好ましくは80Gy以下、より好ましくは50Gy以下、さらに好ましくは30Gy以下)となるように、腫瘍の患部(即ち患者)にX線を照射し得る。例えば、1〜2日おきに20〜50回(好ましくは25〜40回)の頻度でX線を照射すればよい。
【0061】
なお、ここで開示する腫瘍の治療方法において、上記放射線感受性増感合成ペプチド(即ち、該ペプチドを含む医薬組成物)を患者に投与し、その後、腫瘍(典型的には悪性腫瘍、がん)が存在する部分(即ち、腫瘍の患部)に放射線を照射するまでの期間は、特に限定されない。例えば、腫瘍を構成する腫瘍細胞の放射線感受性を増大するのに十分な期間を設けることが好ましい。典型的には、上記放射線感受性増感合成ペプチド(即ち、該ペプチドを含む医薬組成物)を患者に投与してから数時間後(典型的には6時間以上、例えば12時間以上)であって数日間以内(典型的には3日以内、例えば2日以内)に放射線の照射を行うことが好ましい。
【0062】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0063】
<実施例1:ペプチド合成>
放射線感受性増感合成ペプチドとして、CKSKSRRSC(配列番号1)の放射線感受性増感ペプチド配列からなるペプチドを市販のペプチド合成機(Intavis AG社製品)を用いてマニュアルどおりに固相合成法(Fmoc法)を実施して合成した。以下、かかる合計9アミノ酸残基からなる直鎖状の合成ペプチドを「サンプル1」と呼称する。なお、ペプチド合成機の使用態様自体は本発明を特徴づけるものではないため、詳細な説明は省略する。合成したサンプル1は、PBS(−)に溶かし、ペプチドストック液を調製した。
【0064】
<実施例2:合成ペプチドの放射線感受性増感活性の評価試験>
上記実施例1で得られた放射線感受性増感合成ペプチド(サンプル1)の放射線感受性増感活性を、当該放射線感受性増感合成ペプチドを供給した供試細胞に放射線(ここではX線)を照射して培養した際の細胞生存率を測定して評価した。
供試細胞としては、ヒトの腫瘍由来の細胞(HeLaS3細胞)と、ヒトの正常組織由来の細胞(CCD−1079Sk細胞)とを用いた。そして、表1に示すように、各供試細胞について培地中のペプチド濃度および照射する放射線の線量を変えて培養し、細胞生存率を測定した。なお、本評価試験における細胞培養のタイムチャートを
図1に示す。評価試験の詳細は以下のとおりである。
【0066】
まず、ヒトの腫瘍由来の供試細胞として、ヒトの子宮頸癌由来の培養細胞株であるHeLaS3細胞(ATCC(登録商標)、CCL2.2)を準備した。また、ヒトの正常組織由来の供試細胞として、ヒトの皮膚組織由来の線維芽細胞の培養細胞株である、CCD−1079Sk細胞(ATCC(登録商標) CRL-2097)を準備した。
そして、各供試細胞を所定の細胞数となるように48穴(ウェル)プレートに播種し、5%CO
2、37℃の条件下のインキュベータで細胞が培養容器底面へ接着するまでおよそ3時間の前培養を行った。なお、いずれの供試細胞についても、1ウェルあたりの培地量は200μLとした。
HeLaS3細胞は、1ウェルあたりの細胞数が凡そ1×10
4個となるように48穴(ウェル)プレートの各ウェルに播種した。培地は一般的なDMEM(Dulbecco’s modified Eagle’s medium)培地、即ち、ここではDMEM(和光純薬社製、Cat No. 043-30085)に10%のFBS、50ユニット/mLのペニシリン及び50μg/mLのストレプトマイシンを含有したものを用いた。
CCD−1079Sk細胞は、1ウェルあたりの細胞数が凡そ1×10
4個となるように48穴(ウェル)プレートの各ウェルに播種した。培地は一般的なDMEM(Dulbecco’s modified Eagle’s medium)培地、即ち、ここではDMEM(和光純薬社製、Cat No. 043-30085)に10%のFBS、50ユニット/mLのペニシリン及び50μg/mLのストレプトマイシンを含有したものを用いた。
【0067】
上記所定時間の前培養後、培養容器中の培地を、10%のFBSを含有するDMEM培地(ペニシリンおよびストレプトマイシンは含まない)に更にペプチド濃度50μMとなる量のサンプル1を含有させた培地に交換した(試験区1、3、5および7)。なお、比較として、ペプチド添加区に添加したペプチドストック液と同容量のPBS(−)のみを添加したペプチド無添加区を設けた(試験区2、4、6および8)。
そして、上記のようにしてサンプルペプチド(或いはPBS(−))を添加した後、当該48穴(ウェル)プレートを、CO
2インキュベータ内に配置し、37℃、5%CO
2条件下で24時間培養した。
【0068】
次いで、上記ペプチド存在下で所定時間(24時間)培養した後、培養容器中の各供試細胞に対してX線を照射した(試験区3、4、7および8)。ここでは、0.24グレー毎秒(0.24Gy/秒)の線量率で各供試細胞にX線を照射した。なお、各供試細胞に照射するX線の線量は、HeLa S3細胞に対しては2グレー(2Gy)、CCD−1079Sk細胞に対しては3グレー(3Gy)とした。また、比較として、X線を照射しない試験区(即ち、線量は0Gy)を設けた(試験区1、2、5および6)。
そして、上記のようにしてX線を照射した後、当該48穴(ウェル)プレートを、CO
2インキュベータ内に配置し、37℃、5%CO
2条件下で48時間培養した。
【0069】
次いで、上記X線照射後48時間が経過した時点において、供試細胞の生存状態(生細胞数)を市販の発色測定キット(Cell counting kit-8、同仁化学研究所社製)を使用して測定した。即ち、生細胞の酵素活性により試薬中のテトラゾリウム塩が還元されて水溶性ホルマザンが生成されることを利用し、培地中の水溶性ホルマザン量を吸光光度法(測定波長:450nm、参照波長:650nm)により測定して定量する比色定量法により生細胞数を測定した。なお、以下に詳述する操作以外は上記測定キットに添付のマニュアルどおりに行った。
具体的には、上記所定の培養時間が経過した細胞培養ウェル中に、発色基材として「水溶性テトラゾリウム塩(WST−8)」含む試薬を1ウェルあたり20μL添加し、5%CO
2、37℃の条件下で1時間インキュベートした。また、かかる比色定量法のブランクとして、各供試細胞の培養に用いた培地(上記DMEM培地)200μLに上記発色基材(WST−8)を20μL添加して5%CO
2、37℃の条件下で1時間インキュベートした。その後、該発色試薬を添加した各ウェルの細胞培養液を100μLずつ96ウェルプレートの各ウェルにそれぞれ分取した。次いで、上記96ウェルプレートに分取した細胞培養液について、波長450nmの吸光度(A
450)および波長650nmの吸光度(A
650)を分光光度計(マイクロプレートリーダ)を用いて測定した。かかる測定結果から、各試験区のA
450を参考波長の吸光度(A
650)およびブランク値で補正した値A
450-650を、以下の式:A
450-650=(各試験区のA
450−A
650)−(ブランクのA
450−A
650);により算出した。
【0070】
そして、各供試細胞ごとに、ペプチド無添加区であり且つX線非照射区である試験区(コントロール区)における細胞生存率を100%としたときの各試験区の細胞生存率(%)を、以下の式:細胞生存率(%)=(各試験区のA
450-650)÷(コントロール区のA
450-650)×100;により算出した。
即ち、供試細胞としてHeLa S3細胞を用いた試験区1〜4については、試験区2における細胞生存率を100%としたときの各試験区の細胞生存率(%)を求めた。結果を
図2に示す。
また、供試細胞としてCCD−1079Sk細胞を用いた試験区5〜8については、試験区6における細胞生存率を100%としたときの各試験区の細胞生存率(%)を求めた。結果を
図3に示す。
【0071】
図2に示すとおり、ヒトの腫瘍由来の細胞であるHeLa S3細胞について、該細胞の培養液中にサンプル1に係るペプチドを添加し、その後X線を照射して培養した試験区3は、ペプチド無添加区であり且つX線照射区である試験区4と比較して、細胞生存率が顕著に低かった。即ち、試験区3の腫瘍細胞の細胞増殖が顕著に抑制されていた。
これに対して、試験区4の細胞生存率は試験区2の細胞生存率とほぼ同じであった。即ち、HeLa S3細胞に対して2GyのX線を照射したのみでは、細胞生存率はほとんど変化しなかった。
なお、試験区1は試験区2と比較して細胞生存率が若干低下していた。これは、サンプル1に係るペプチドによる細胞傷害(細胞増殖阻害)の影響と考える。ただし、試験区4に対する試験区3の細胞生存率の低下の程度は、試験区2に対する試験区1の細胞生存率の低下の程度と比べて顕著であった。
これらの結果は、サンプル1に係るペプチドが、HeLa S3細胞におけるX線の感受性を増大したことを示している。換言すると、サンプル1に係るペプチドを対象の腫瘍細胞(ここではHeLa S3細胞)に供給し、その後、当該細胞にX線を照射することで、対象の腫瘍細胞の細胞増殖を顕著に抑制し得ることを確認した。
【0072】
一方で、
図3に示すとおり、ヒトの正常組織由来の細胞であるCCD−1079Sk細胞では、該細胞の培養液中にサンプル1に係るペプチドを添加し、その後X線を照射して培養した試験区7の細胞生存率は、ペプチドを添加しなかった試験区8と比較して、細胞生存率がほぼ同じであった。また、試験区5に対する試験区7の細胞生存率の低下の程度は、試験区6に対する試験区8の細胞生存率の低下の程度とほぼ同じであった。即ち、CCD−1079Sk細胞においては、サンプル1に係るペプチドを添加してもX線感受性が変化しなかった。
【0073】
なお、試験区6に対する試験区8の細胞生存率の低下の程度は、試験区2に対する試験区4の細胞生存率の低下の程度よりも若干大きかった。これは、CCD−1079Sk細胞に照射したX線の線量が、HeLa S3細胞に対して照射したX線の線量よりも高いためと考える。
【0074】
以上の結果は、サンプルとして合成したペプチドが、腫瘍細胞に供給されることにより当該腫瘍細胞の放射線の感受性を増大し得る能力を有する放射線感受性増感合成ペプチドであることを示しており、当該合成ペプチドが有する放射線感受性を増大させる活性は、腫瘍細胞に特異的に発揮されることを示すものである。即ち、上記の結果は、サンプルとして合成したペプチドが、腫瘍細胞の放射線感受性を特異的に増大させるための組成物(即ち放射線感受性増感組成物)の有効成分として有用であることを示している。また、上記の結果は、サンプルとして合成したペプチドを対象の腫瘍細胞に供給し、その後X線を照射することで、対象の腫瘍細胞の細胞増殖を抑制し得ることも示している。
即ち、上記の結果は、ここで開示される放射線感受性増感合成ペプチド(即ち、該ペプチドを含む放射線感受性増感組成物)が腫瘍細胞の放射線感受性を特異的に増大させる活性を有することを示しており、また、上記放射線感受性増感合成ペプチド(即ち、該ペプチドを含む放射線感受性増感組成物)を使用することで腫瘍細胞の細胞増殖を効果的に抑制し得ることを示している。
【0075】
<実施例3:腫瘍組織に対する合成ペプチドの放射線感受性増感活性の評価試験>
なお、詳細な試験手順および結果はここに示していないが、上記実施例1で得られた放射線感受性増感合成ペプチド(サンプル1)の放射線感受性増感活性について、生体から取り出した腫瘍組織を対象にして評価した。その結果、当該ペプチドを供給し、その後X線を照射して所定期間培養した腫瘍組織は、ペプチド無添加或いは放射線非照射の腫瘍組織と比較して、顕著に腫瘍組織の体積が小さくなった。即ち、ここで開示される放射線感受性増感合成ペプチド(即ち、該ペプチドを含む医薬組成物)を患者に投与し、その後当該腫瘍組織にX線を照射することで、効果的な腫瘍の治療を実現し得ることを確認した。
【0076】
<実施例4:顆粒剤の調製>
上記サンプル1に係る合成ペプチド(放射線感受性増感合成ペプチド)50mgと結晶化セルロース50mg及び乳糖400mgとを混合した後、エタノールと水の混合液1mLを加え混練した。この混練物を常法に従って造粒し、ここで開示される放射線感受性増感合成ペプチドを主成分とする顆粒剤(顆粒状組成物)を得た。