【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明が実施例に限定されないことはいうまでもない。
【0022】
なお、実施例では以下の試薬及び略号を用いた。
・Spe:スペルミン
・CH:コレステリル基又はコレステロール
・CHGD(コレステリル基で修飾されたGD:コレステリル基は、ヘキサンジイソシアネートを用いてGDのOH基とコレステロールのOH基が2つのウレタン結合(−OCONH(CH
2)
6NHCOO−)で結合したもの。)
・CHP(コレステリル基で修飾されたプルラン:コレステリル基は、ヘキサンジイソシアネートを用いてプルランのOH基とコレステロールのOH基が2つのウレタン結合(−OCONH(CH
2)
6NHCOO−)で結合したものである。)
・C12GD(ドデシル基で修飾されたGD;ドデシル基は、ドデシルイソシアネートを用いてウレタン結合でGDのOH基と結合したものである。)
【0023】
製造例1
1. DEAE 置換GD の合成
1-1. 試薬
・GD15 (分子量Mw22万 サイズ15nm )
・CHP1.2 (コレステリル基 : 1.2 個/100 単糖)
・CHGD15 (コレステリル基: 1.9 個/100 単糖)
・C12GD15 (ドデシル基 : 3.2 個/100 単糖)
・1,1’-carbonyl diimidazole (CDI) (SIGMA)
・N,N-diethylethylenediamine (DEAE) (Aldrich)
・DMSO (超脱水) (WAKO)
以下において、CHGD15を「CHGD」と略すことがあり、C12GD15を「C12GD」と略すことがあり、CHGD15-DEAEを「CHGD-DEAE」と略すことがあり、C12GD15-DEAEを「C12GD-DEAE」と略すことがあり、CHGD15-speを「CHGD-spe」と略すことがあり、C12GD15-speを「C12GD-spe」と略すことがある。
【0024】
1-2. 方法
GD15、CHP、CHGD15、C12GD15 を表 1 の重量比で脱水DMSO にN
2 下で溶解し、CDI を32/100単糖の割合で添加した。室温で3 時間反応後、DEAEをCDI の10 倍量添加しさらに24 時間反応した。反応後純水で透析(MWCO : 3,500)、精製し、凍結乾燥により合成物を得た。合成物は
1H NMR でDEAE の置換率を算出した(10 mg/mL in D
2O)。
【0025】
【表1】
【0026】
1-3. 結果および考察
上記方法によって、GD15-DEAE は1043 mg、CHP-DEAE は1203 mg、CHGD-DEAE は183 mg、C12GD-DEAE は217 mg回収できた。各誘導体のDEAE置換率を表2 に示し、DEAE置換GDの構造式を
図3に示した。
【0027】
【表2】
【0028】
2. スペルミン置換GD の合成
2-1. 試薬
・GD15 (分子量Mw22万 サイズ15nm)
・CHP1.2 (コレステリル基 : 1.2 個/100 単糖)
・CHGD15 (コレステリル基: 1.9 個/100 単糖)
・C12GD15 (ドデシル基 : 3.2 個/100 単糖)
・1,1’-carbonyl diimidazole (CDI) (SIGMA)
・spermine (Aldrich)
・DMSO (超脱水) (WAKO)
【0029】
2-2. 方法
GD15、CHP、CHGD15、C12GD15 を表3 の重量比で脱水DMSO にN
2 下で溶解し、CDI を32/100単糖で添加した。室温でCHP は3 時間、GD は5 時間反応後、スペルミンをCDI の10 倍量添加しさらに24 時間反応した 。反応後純水で透析(MWCO : 3,500)、精製し、凍結乾燥により合成物を得た。合成物は
1H NMR でスペルミンの置換率を算出した(10 mg/mL in D
2O)。
【0030】
【表3】
【0031】
2-3. 結果および考察
上記方法によって、GD15-spe は1043 mg、CHP-spe は1203 mg、CHGD-spe は183 mg、C12GD-spe は217 mgを得た。各誘導体のスペルミン置換率を表4に示し、スペルミン置換GDの構造式を
図3に示す。
【0032】
【表4】
【0033】
試験例1
1. 合成物の物性評価
合成したDEAE 置換GD とスペルミン置換GD の粒径(動的光散乱法DLS)とζ ポテンシャルを測定した。
1-1. 測定サンプルと試薬
・GD15-DEAE
・CHP-DEAE
・CHGD-DEAE
・C12GD-DEAE
・GD15-spe
・CHP-spe
・CHGD-spe
・C12GD-spe
・PBS (gibco)
【0034】
1-2. 測定方法
DEAE 誘導体およびスペルミン誘導体をそれぞれ2 mg/mL でPBS に溶解し、超音波、遠心(20,000G)、フィルター(0.22 μm, PVDF)処理を行い、粒径とζ ポテンシャルを測定した。
【0035】
1-3. 結果および考察
DEAE置換GDおよびスペルミン置換GDのサイズおよびζ ポテンシャルを表5、 表6 に示す。アミノ基を3 つ持つスペルミン置換GDのほうが正電荷が強く、いずれも比較的単分散な粒子であることがわかった。
【0036】
【表5】
【0037】
【表6】
【0038】
試験例2
・カチオン性GDによるsiRNA複合化
DEAE置換GDおよびスペルミン置換GDを用いてsiRNAとの複合化を行い、電気泳動による複合化の確認を行った。
【0039】
1-1. 試薬
・GD15-DEAE
・CHP-DEAE
・CHGD-DEAE
・C12GD-DEAE
・GD15-spe (spe : 25個/100単糖)
・CHP-spe (コレステリル基 : 1.2個/100単糖, spe : 23個/100単糖)
・CHGD-spe (コレステリル基: 1.9個/100単糖, spe : 33個/100単糖)
・C12GD-spe (ドデシル基 : 3.2個/100単糖, spe : 22個/100単糖)
・siRNA
・PBS(gibco)
・SYBR Green I Nucleic Acid Gel Stain (TAKARA)
【0040】
1-2. 方法
GD15-DEAE、CHP-DEAE、CHGD-DEAE、C12GD-DEAEを20 mg/mLでPBSに溶解し、超音波、遠心(20,000G)、フィルター(0.22 μm, PVDF)処理を行った。DEAE1分子をC、siRNAの1塩基をPとしてC/P比を0.5から32になるように室温で30 min混合した (siRNA = 0.3 μg)。複合体にloading bufferを添加して2% アガロースゲルにアプライし、100Vで15 min電気泳動した。ゲルをSYBR Greenで10 min染色しLASで測定した。
【0041】
1-3. 結果および考察
ゲル電気泳動の結果を
図4、
図5に示す。いずれもC/P比が1以下ではフリーのsiRNAがみられたが、C/P比が高くなるとDEAE置換GDおよびスペルミン置換GDとsiRNAとの複合化が観察された。
【0042】
2. 核酸複合体のサイズ測定
2-1. 測定方法
DEAE置換GDとスペルミン置換GDそれぞれ4 種類を20 mg/mL 溶液として用いた。陰性対照としてsiRNA とナノゲル(CHP-DEAE、CHP-spe)を混合し、DLS測定を行った(ナノゲル終濃度 = 1 mg/mL)。
【0043】
2-2. 結果および考察
C/P 比を変化させたときの複合体サイズを
図6,
図7に示す。カチオン性ナノゲル(CHP-DEAE)とアニオン性のsiRNA を混合すると中性付近で凝集体を形成し、CHP-DEAEの複合体 サイズが大きくなった。一方、DEAE置換GDおよびスペルミン置換GD ではほとんど複合体サイズの変化が見られなかったことから、siRNAとの複合体はいずれも安定な微粒子を形成していると考えられる。
【0044】
3. カチオン性GDによるsiRNAデリバリー
3-1. siRNAデリバリーによるRNA干渉評価
カチオン性GDを用いた、細胞内へのsiRNAデリバリー実験において、siRNAの標的となるmRNAのノックダウン効率を評価した。
【0045】
3-1-1. 試薬
・GD15-DEAE (DEAE : 13個/100単糖)
・CHP-DEAE (コレステリル基 : 1.2個/100単糖, DEAE : 29個/100単糖)
・CHGD-DEAE (コレステリル基: 1.9個/100単糖, DEAE : 8個/100単糖)
・C12GD-DEAE (ドデシル基 : 3.2個/100単糖, DEAE : 11個/100単糖)
・GD15-spe (spe : 25個/100単糖)
・CHP-spe (コレステリル基 : 1.2個/100単糖, spe : 23個/100単糖)
・CHGD-spe (コレステリル基: 1.9個/100単糖, spe : 33個/100単糖)
・C12GD-spe (ドデシル基 : 3.2個/100単糖, spe : 22個/100単糖)
・ReverTraAce (東洋紡)
・VEGF siRNA(VEGFをコードするmRNAを標的とする siRNA (Invitrogen))
・Alexa488-siRNA(蛍光標識したsiRNA)
・Universal Probe Library #12 (Roche)
・18S rRNA Probe (FAM-atccattggagggcaagtctggtgc-BHQ)
・VEGFA Fw (gcagcttgagttaaacgaacg)
・VEGFA Rv (ggttcccgaaaccctgag)
・18S rRNA Fw (atgagtccactttaaatcctttaacga)
・18S rRNA Rv (ctttaatatacgctattggagctggaa)
・Light Cycler 480 Probes Master (Roche)
・AllStars Neg. siRNA AF488 (QIAGEN)
・Maxwell RSC simply RNA Cells
【0046】
3-1-2. 方法
DEAE誘導体4種類およびスペルミン誘導体4種類の20 mg/mL溶液を用いた。マウスVEGF siRNAをRNase freeの水に溶解し、DEAE誘導体ではC/P = 4, 8, 16、スペルミン誘導体ではC/P = 2, 4, 8で複合化を行った(siRNA = 50 pmol)。室温で30分間複合化を行い、RPMI培地990 μLと混合し培地を交換した。37℃で24時間トランスフェクションした。
【0047】
トランスフェクション後に培地を除き、Maxwell RSC simply RNA Cellsキットを用いて全RNAを抽出した。NanoDropでRNAの濃度を測定し、水で100 ng/μLに希釈した。このRNA水溶液と逆転写試薬キットReverTraAceとを混合し、37℃15min、95℃1min、4℃でPCRを行いcDNAを合成した。マウスRNAのうちノックダウンを行うVEGF mRNAとハウスキーピング遺伝子である18S rRNAの配列を用い、これを96wellプレートに添加しTaqManプローブ法でRealTime-PCRを行った。ノックダウンの効率は18S rRNAの量に対するVEGF RNAの産生量を相対的に評価した。
【0048】
3-1-3. 結果および考察
DEAE誘導体におけるノックダウン効率を
図8に、スペルミン誘導体におけるノックダウン効率を
図9に示す。DEAE誘導体では細胞内への送達効率が低いためノックダウンはほとんど見られなかった。一方、スペルミン誘導体はいずれも顕著なノックダウンが見られ、特に疎水性基を導入したスペルミン誘導体(CHGD-spe、C12GD-spe)は効率よくRNA干渉を示し、VEGF mRNAに対する高いノックダウン効率が見られた。
【0049】
3.2. siRNA複合体の細胞取り込み挙動(フローサイトメトリー)
蛍光標識したsiRNA(Alexa488-siRNA)を用いて、DEAE誘導体とスペルミン誘導体による細胞内への取り込み量をフローサイトメーターにより評価した。
【0050】
3-2-1. 方法
DEAE誘導体4種類とスペルミン誘導体4種類のそれぞれ20 mg/mL溶液を用いた。Alexa488-siRNAをRNase freeの水に溶解し、ナノゲルとC/P = 4で複合化を行った(siRNA = 50 pmol)。複合体を上と同じ条件で細胞に添加し、t=24 hにおいてフローサイトメトリーで測定した。
【0051】
3-2-2. 結果および考察
スペルミン誘導体およびDEAE誘導体により細胞内に取り込まれた蛍光標識したsiRNAの平均蛍光強度を
図10に示す。スペルミン誘導体(GD-spe、CHGD-spe、C12GD-spe)はいずれも効率よくsiRNAを細胞に導入した。DEAE誘導体では取り込み効率が低いことがわかった。
【0052】
スペルミン誘導体およびDEAE誘導体のノックダウン効率の結果(
図9)および取込み効率の結果(
図10)より、siRNAの細胞内導入量とノックダウン効率とは良い相関があることがわかった。
【0053】
3.3. siRNA/GD複合体のエンドサイトーシス経路の特定
細胞導入におけるエンドサイトーシス経路を調べるために阻害実験を行った。
【0054】
3-3-1. 試薬
・C12GD-spe (ドデシル基 : 3.2個/100単糖, spe : 22個/100単糖)
・AllStars Neg. siRNA AF488 (QIAGEN)
・Renca cell
・RPMI1640 (Gibco)
・Chlorquine (WAKO)
・Methyl-β-cyclodextrin (WAKO)
・Cytochalasin D (WAKO)
・Chlorpromazine (WAKO)
・EIPA (sigma)
・PBS (Gibco)
・Stain buffer
【0055】
3-3-2. 実験
C12GD-speをPBSに溶解し、蛍光標識siRNA(Alexa488-siRNA)とC/P=4で複合化した (siRNA = 25 pmol, total 50 μL)。Renca細胞を4×10
4 cells/wellになるようにガラスベースディッシュに播種し、37°C, 5% CO
2下で約20 h前培養を行った。エンドサイトーシス阻害剤として、chlorquine、methyl-β-cyclodextrin、cytochalasin D、chlorpromazine、EIPAをPBSに溶解した。前培養した細胞に、[chlorquine] = 50 μM、[methyl-β-cyclodextrin] = 5 mM、[cytochalasin D] = 5 μM、[chlorpromazine] = 50 μM、[EIPA] = 50 μMとなるように添加し、30分間インキュベートした。RPMI 1 mLで2回洗浄後、RPMI 950 μLとsiRNA複合体50 μLを混合し細胞に加え4時間複合化し、フローサイトメトリーで測定した。
【0056】
3-3-3. 結果と考察
阻害剤を加えた細胞のポジティブコントロールに対する蛍光強度の低下を
図11に示す。GDの原料と同じくsiRNA複合体でもmethyl-β-CDで取り込み阻害が起こったことから、細胞内取り込みのエンドサイトーシス経路はカベオラエンドサイトーシスであることが示唆された。これはsiRNAとの複合化でも粒径が小さいことに起因すると考えられる。
【0057】
試験例3
1. カチオン性GDによるプラスミドDNA複合化
スペルミン置換GDを用いてプラスミドDNA(pGL3)の複合化実験を行った。
【0058】
1-1. 電気泳動による複合化確認
1-1-1. スペルミン置換GDと試薬
・GD15分子量Mw22万 サイズ15nm
・GD15-spe (spe : 25個/100単糖)
・CHP-spe (コレステリル基 : 1.2個/100単糖, spe : 23個/100単糖)
・CHGD-spe (コレステリル基: 1.9個/100単糖, spe : 33個/100単糖)
・C12GD-spe (ドデシル基 : 3.2個/100単糖, spe : 22個/100単糖)
・PBS(gibco)
・pGL3-Control Vector (Promega)
【0059】
1-2. 複合体検出方法
GD15-spe、CHP-spe、CHGD-spe、C12GD-speをPBSに溶解し、超音波、遠心(20,000G)、フィルター(0.22μm, PVDF)処理を行った。スペルミン1分子をC、プラスミド(pGL3)の1塩基をPとして、混合比(C/P比)が0.125から8になるようにプラスミド(pGL3 = 0.2 μg)とスペルミン置換GDを室温で30 min混合した。複合体にloading bufferを添加して2% アガロースゲルにアプライし、100Vで30 min電気泳動した。ゲルをSYBR Goldで40 min染色しLASで測定した。
【0060】
1-3. 結果および考察
電気泳動の画像を
図12、
図13に示す。スペルミン置換GDはいずれもC/P=1以上で複合体を形成していることが分かった。
【0061】
2. カチオン性GDとプラスミドDNA複合体のサイズ
2-1. 測定方法
GD15-speを水に溶解し、プラスミド(pGL3)とC/P=0.5〜32で複合化した(GD-spe = 1 mg/ mL)。室温30分間静置後動的光散乱法DLSで粒径を測定した。
【0062】
2-2. 結果および考察
pGL3とGD15-speの複合体のDLS結果を
図14に示す。従来のカチオン性CHPと同様にC/P=1付近の複合体で凝集体を形成することが分かった。これはプラスミドDNAがsiRNAに比べて大きいため、GD-speの粒子を介して凝集してしまっていると考えられる。C/P=4以上では比較的サイズの小さい安定な複合体が形成された。
【0063】
3. カチオン性GDによるプラスミドDNAデリバリー
スペルミン置換GDを用いて遺伝子のトランスフェクション実験を行った。ルシフェラーゼの遺伝子を含むプラスミドを用い、ルシフェラーゼタンパク質の発現をその酵素活性としてルシフェラーゼ発光量を測定して評価した。
【0064】
3-1. スペルミン置換GDと試薬
・GD15-spe (spe : 25個/100単糖)
・CHP-spe (コレステリル基 : 1.2個/100単糖, spe : 23個/100単糖)
・CHGD-spe (コレステリル基: 1.9個/100単糖, spe : 33個/100単糖)
・C12GD-spe (ドデシル基 : 3.2個/100単糖, spe : 22個/100単糖)
・pGL3 (大腸菌合成)
・Lipofectamine 2000
・COS7 cell
・DMEM (10% FBS, Gibco)
・PBS (Gibco)
・Glo-lysis
・Bright-glo
・BCA Protein assay kit
【0065】
3-2. 測定方法
COS7細胞を4×10
4 cells/wellになるように12wellプレートに播種し、37℃, 5% CO
2下で約20 h前培養を行った。スペルミン誘導体をPBSに溶解し、pGL3とC/P=4, 8で複合化した (pGL3 = 1 μg, total 50 μL)。前培養した細胞の培地を除きOptiMEM 950 μLとプラスミド複合体50 μLを添加し、2時間インキュベートした。RPMIで2回洗浄後、RPMI 1 mLを細胞に加え22時間培養した。培地を取り除きGlo-lysis 200 μLで細胞を溶解し、BCAアッセイでタンパク質濃度を、Bright-Gloでルシフェラーゼ発現量を測定した。
【0066】
3-3. 結果および考察
スペルミン置換GDによる、細胞へのプラスミド導入後のルシフェラーゼ発光量を
図15に示す。GD15-speとC12GD-speにおいて、PEI系よりも高いルシフェラーゼの発現がみられ、スペルミン置換GDとプラスミドとの複合体形成により、プラスミドが効率的に細胞に送達されたことが明らかになった。
【0067】
試験例4
1. カチオン性GD によるsiRNAデリバリーに基づく担癌マウスの治療実験
siRNAのデリバリーキャリアとしてカチオン性GDを用い、担癌マウスの治療実験を行った。カチオン性GDはドデシル基を有するスペルミン置換GDであるC12GD-speおよびドデシル基を有さないGD15-speを選択し、siRNAはVEGFをコードするmRNAを標的とするsiRNA(siVEGF)およびネガティブコントロールとしてのsiNegaを選択した。2種類のスペルミン置換GDと2種類のsiRNAの組合せからなる4種類のsiRNA/カチオン性GD複合体を担癌マウスに投与することにより、治療実験を行った。
【0068】
1-1. 担癌マウスの作製
1-1-1. 試薬
・BALB/C :19匹 (メス、7-9週齢)
・Renca細胞 (マウス腎ガン細胞)
・RPMI 1640 (10% FBS, 100 μg/mL streptomycin, 100 U/mL penicillin)
【0069】
1-1-2. 担癌マウスの作製実験
BALB/Cマウス19匹の背部を剃毛し、Renca細胞1.0×10
6 cellsを皮下移植した。腫瘍形成を観察しながら、腫瘍が平均で50 mm
3となるまで成長させた。腫瘍サイズの測定はノギスを用いて、長径をA (mm)、短径をB (mm)とし(A
2×B)/2の計算式を用いて測定した。
【0070】
1-2. カチオン性GDによるVEGF mRNA標的siRNA (siVEGF)の局所投与
1-2-1. 試薬
・担癌マウス : 19匹
・VEGF mRNA標的siRNA (siVEGF, macrogen)
・Negative control siRNA (siNega, invitrogen)
・C12GD-spe
・GD15-spe
【0071】
1-2-2. siRNA投与実験
C12GD-speおよび GD15-speを水に溶解し、siVEGFおよびsiNegaとそれぞれC/P=8で混合し、それぞれsiRNA/カチオン性GD複合体(siVEGF/ C12GD-spe、siNega/ C12GD-spe、siVEGF/ GD15-spe、siNega/ GD15-spe、)とした。マウス一匹あたりsiRNA 20 μg(50 μL)を、t = 0, 4, 8, 12, 16dayで腫瘍に5回局所投与した。投与群(A〜F)を表7に示す。体重および腫瘍サイズをt = 0, 2, 4, 6, 8, 10, 12, 14, 16, 18, 20dayで測定した。20日後に安楽死させ、血液採取・腫瘍摘出・脾臓摘出を行った。摘出した腫瘍は重量を測定し凍結保存を行った。
【0072】
【表7】
【0073】
1-2-3. 結果と考察担癌マウスにsiRNA/カチオン性GD複合体を投与したときの体重変化を
図16に、腫瘍サイズの変化を
図17に、担癌マウスの写真を
図18に、投与20日後に摘出した腫瘍の重量を
図19に示した。
【0074】
図16から、siRNAとカチオン性GD複合体を投与しても体重は減少せず、毒性は観察されなかった。
【0075】
図17、
図18から、VEGFをコードするmRNAを標的とするsiRNA (siVEGF)と2種類のカチオン性GD複合体(siVEGF/C12GD-spe、siVEGF/GD15-spe)を投与した群では腫瘍サイズの増加が抑制されており、抗腫瘍効果が見られた。ネガティブコントロールとしてのsiRNA(siNega)とカチオン性GD複合体を投与した群では腫瘍サイズの抑制はなく、経時的に増加した。
【0076】
また、
図19から、siVEGFとカチオン性GD複合体(siVEGF/C12GD-spe、siVEGF/GD15-spe)を投与した群とネガティブコントロールとしてのカチオン性GD複合体(siNega/C12GD-spe、siNega/GD-spe)を投与した群の摘出した腫瘍重量の比較から、siVEGFとカチオン性GD複合体で抗腫瘍効果が見られた。
【0077】
スペルミン置換カチオン性GD(C12GD-spe、GD15-spe)はVEGFをコードするmRNAを標的とするsiRNA(siVEGF)と複合体を形成し、siVEGFを腫瘍細胞にデリバリーする機能によって、抗腫瘍作用を示すことが明らかになった。