(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6872786
(24)【登録日】2021年4月22日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】異方性が小さく経年変化の少ない低熱膨張鋳鋼及び鍛鋼品
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20210510BHJP
C22C 38/10 20060101ALI20210510BHJP
C21D 6/00 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
C22C38/00 302R
C22C38/10
C21D6/00 101A
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-74650(P2017-74650)
(22)【出願日】2017年4月4日
(65)【公開番号】特開2018-178151(P2018-178151A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2020年1月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】591274299
【氏名又は名称】新報国製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100113918
【弁理士】
【氏名又は名称】亀松 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100140121
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 朝幸
(72)【発明者】
【氏名】坂口 直輝
(72)【発明者】
【氏名】大野 晴康
(72)【発明者】
【氏名】小奈 浩太郎
【審査官】
伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】
特開2016−027188(JP,A)
【文献】
特開2016−027187(JP,A)
【文献】
特開2003−253398(JP,A)
【文献】
特開2006−206949(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 6/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C :0.020%以下、
Si:0.30%以下、
Mn:0.50%以下、
P :0.02%以下、
S :0.02%以下、
Ni:30〜36%、
Co:2〜7%、
N :0.020%以下、及び
B :0.0005〜0.002%
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であり、
C、B、Nの含有量(質量%)[C]、[B]、[N]が
7.4[C]+15.6[B]+[N]≦0.15
を満たすことを特徴とする異方性が小さく経年変化の少ない低熱膨張鋳鋼及び鍛鋼品。
【請求項2】
請求項1に記載の組成を有する鋳造あるいは鍛造素材を600〜1000℃に加熱して溶体化処理を施すことを特徴とする異方性が小さく経年変化の少ない低熱膨張鋳鋼及び鍛鋼品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低熱膨張合金鋳鋼及び鍛鋼品に関し、特に、経年変化の小さい低熱膨張鋳鋼及び鍛鋼品に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロニクスや半導体関連機器、レーザ加工機、超精密加工機器の部品材料として、熱的に安定なインバー合金が広く使用されている。
【0003】
一方、精密機器の構成部品に使用される低熱膨張合金においても、長期間にわたる経時寸法変化の問題が指摘されている。
【0004】
特許文献1では、高Ni含有の低熱膨張鋳鉄合金は、一般の鋳鉄に比較して熱伝導率が小さいために、鋳鉄材を水やオイルの中に焼き入れるなどにより急速冷却した場合、鋳鉄材内部は表層部と比較して十分な冷却速度を確保することが困難であり、その結果、鋳鉄材の表層部と内部との冷却速度の違いによって弾塑性変形能の時間的なずれが発生し、大きな残留応力が発生し、さらに、この残留応力は機械加工や時間の経過とともに解放されるため、長期間にわたり使用する鋳造製品の経時寸法変化の原因となることが指摘されている。
【0005】
特許文献2には、炭化物を形成していない炭素量を0.010重量%以下とし、低熱膨張率を維持しつつ、経時変形を限りなく抑えられる合金が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−269613号公報
【特許文献2】特開2009−287117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献に開示されている経年変化は、近年の要求に対しては、まだ十分とはいえない。
【0008】
本発明は、経年変化がさらに小さい低熱膨張鋳鋼及び鍛鋼品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、経年変化の小さい低熱膨張合金を得る方法を鋭意検討した。その結果、γ膨張の原因と考えられるCに加えて、B、Nの含有量を適切な範囲に設定することにより、経年変化が±0.5ppm/年以内の低熱膨張鋳鋼及び鍛鋼品が得られることを知見した。
【0010】
本発明は上記の知見に基づきなされたものであって、その要旨は以下のとおりである。
【0011】
質量%で、C:0.020%以下、Si:0.30%以下、Mn:0.50%以下、P:0.02%以下、S:0.02%以下、Ni:30〜36%、Co:2〜7%、N:0.020%以下、及びB:0〜0.002%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であり、C、B、Nの含有量(質量%)[C]、[B]、[N]が7.4[C]+15.6[B]+[N]≦0.15を満たすことを特徴とする経年変化の少ない低熱膨張鋳鋼及び鍛鋼品。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、経年変化の小さい低熱膨張鋳鋼及び鍛鋼品を得られるので、長期間にわたるわずかな寸法変化が問題となるような精密機器の構成部品等に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】B添加の有無による経年変化の測定結果を示す図であり、(a)はBを添加した合金、(b)はBを添加しない合金である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。以下、成分組成に関する「%」は特に断りのない限り「質量%」を表すものとする。はじめに、本発明の鋳鋼及び鍛鋼品の成分組成について説明する。
【0015】
Cは、オーステナイトに固溶し強度の上昇に寄与する。Cの含有量が多くなると、熱膨張係数が大きくなる。さらに、延性が低下して、鋳造割れが生じやすくなるので、含有量は0.020%以下、好ましくは0.010%以下とする。本発明の低熱膨張鋳鋼及び鍛鋼品においては、Cは必須の元素ではなく、含有量は0でもよい。
【0016】
Siは、脱酸材として添加される。Si量が0.30%を超えると熱膨張係数が増加するので、Si量は0.30%以下、好ましくは0.10%以下とする。溶湯の流動性を向上させるためには、Siは0.05%以上含有させることが好ましい。Siは必須の元素ではなく、含有量は0でもよい。
【0017】
Mnは、脱酸材として添加される。また、固溶強化による強度向上にも寄与する。この効果を得るためには、Mn量を0.1%以上が好ましい。Mnの含有量が0.50%を超えても効果が飽和し、コスト高となるので、Mn量は0.50%以下、好ましくは0.30%以下とする。Mnは必須の元素ではなく、含有量は0でもよい。
【0018】
Pは不純物として含有される。Pが多量に含有されると、熱間加工性が劣化し、さらに鋳造割れが生じやすくなるので、Pの含有量は0.02%以下に制限する必要がある。
【0019】
Sは不純物として含有される。Sが多量に含有されると、熱間加工性が劣化し、さらに鋳造割れが生じやすくなるので、Sの含有量は0.02%以下に制限する必要がある。
【0020】
Niは、熱膨張係数を低下させる、必須の元素である。Ni量は多すぎても少なすぎても熱膨張係数が十分に小さくならない。熱膨張係数を十分に小さくするために、Ni量は30〜36%、好ましくは30〜34%の範囲とする。
【0021】
Coは、Niとの組み合わせにより熱膨張係数の低下に寄与する。所望の熱膨張係数を得るため、Coの範囲は2〜7%、好ましくは4〜6%とする。
【0022】
Nは不純物として含有される。Nが多量に含有されると、内部欠陥を引き起こす原因となるので、Nの含有量は0.020%以下に制限する必要がある。
【0023】
Bは、固溶Bとして粒界に偏析させることにより、熱間加工性を向上させ、さらに鋳造割れを防ぐ効果がある。ただし、Bは、低熱膨張鋳鋼及び鍛鋼品の微小な経年変化を大きくする。
【0024】
図1に、Bの添加の有無による経年変化を測定した結果を示す。(a)、(b)は、それぞれ、表1に示す化学成分を有する低熱膨張鋳鋼及び鍛鋼品の経年変化を示している。Bを添加した合金(a)では24か月で250nm/m以上の経年変化があるが、Bを添加しない合金(b)では−3nm/m程度と、Bを添加した合金に比べ、経年変化が小さくなった。本発明の低熱膨張鋳鋼及び鍛鋼品では、B添加の利点とのバランスを考慮し、Bの添加量は0〜0.002%とする。
【0026】
成分組成の残部は、Fe及び不可避的不純物である。不可避的不純物とは、本発明で規定する成分組成を有する鋼を工業的に製造する際に、原料や製造環境等から不可避的に混入するものをいう。
【0027】
本発明の低熱膨張鋳鋼及び鍛鋼品は、さらに、C、B、Nの含有量(質量%)[C]、[B]、[N]が、7.4[C]+15.6[B]+[N]≦0.15を満たすことが必要である。
【0028】
7.4[C]+15.6[B]+[N]はN当量であり、経年変化に影響を与え、N当量が大きくなると、経年変化が大きくなる。2年間の経年変化を±0.5ppm/年以内とするためには、N当量を0.15以下とする必要がある。
【0029】
以上の化学成分を有する鋳鋼及び鍛鋼品を製造することにより、経年変化の小さい低熱膨張鋳鋼品及び鍛鋼品を得ることができる。本発明の低熱膨張鋳鋼品の製造に用いる鋳型や、鋳型への溶鋼の注入装置、注入方法は特に限定されるものではなく、公知の装置、方法を用いればよい。製造された鋳造合金を直接切削加工等で加工し、あるいは鍛造後加工し、鋳造及び鍛鋼鋼部品を得ることができる。
【0030】
さらに、熱膨張係数をより低くして、経年変化を小さくするためには、溶体化処理を施すことが好ましい。溶体化処理は鋳造、あるいは鍛造後に施す。溶体化処理は、合金を好ましくは600〜1000℃に、より好ましくは650〜850℃に加熱して0.5〜5hr保持した後急冷する。冷却速度は10℃/min以上が好ましく、100℃/min以上がより好ましい。溶体化処理により、組織は十分に再結晶し、また、鋳造時に析出した析出物が固溶して、延性、靭性が向上する。さらに、残留応力と組織の異方性が小さくなり、経年変化量が小さくなる。溶体化温度が600℃より低いと鍛造品は残留応力と組織の異方性が残り、経年変化量に影響する。
【0031】
溶体化処理の後に、必要に応じて、300〜350℃で1〜5hr保持し、その後空冷する応力除去焼きなまし等の公知の熱処理を施してもよい。
【実施例】
【0032】
表2に示す成分組成となるように調整した溶湯を鋳型に注湯し鋳鋼及び鍛鋼品を製造したまた、鍛鋼品は鋳塊に鍛錬比4の鍛造を施した。得られた鋳鋼及び鍛鋼品には800℃で4hr保持した後水冷する溶体化処理及び320℃で4hr保持の応力除去焼きなまし処理を行った。表2中の「N当量」は、7.4[C]+15.6[B]+[N]の値を示す。[C]、[B]、[N]は、それぞれ、C、B、Nの含有量(質量%)である。
【0033】
また、表2の熱膨張係数(ppm/℃)はφ6×25Lの試験片を加工して、熱膨張測定装置により、0℃から60℃の平均値を求めた。
【0034】
【表2】
【0035】
得られた各鋼について、9mm×35mm×200mmの直方体の試料を作製し、9×35端面間の長さを測定することで24か月の経年変化を調査した。試料の長さ方向の平行度は0.01、9×200面と200×35面の直角度は0.1であった。測定面平面度交差はJIS B7506のK級とした。
【0036】
試料は室温の恒温槽で保管し、測定時には、試料をレーザ干渉計に取り付け、温度をならし、24時間後に測定を行った。測定時期は試験開始から、0、2、4、6、12、18、24か月とした。24か月後の結果を表3に示す。
【0037】
【表3】
【0038】
本発明の低熱膨張鋳鋼及び鍛鋼品は、経年変化が小さく、24か月の経年変化が±0.5ppm/年以内であった。これに対して比較例では、24か月の経年変化が±0.5ppm/年以内の範囲に収まらず、大きくなった。