(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6872794
(24)【登録日】2021年4月22日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】地震動計測装置、それを用いた地震動計測システム、及び地震計の傾斜補正方法
(51)【国際特許分類】
G01V 1/28 20060101AFI20210510BHJP
G01V 1/00 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
G01V1/28
G01V1/00 D
【請求項の数】29
【全頁数】47
(21)【出願番号】特願2017-184765(P2017-184765)
(22)【出願日】2017年9月26日
(65)【公開番号】特開2019-60687(P2019-60687A)
(43)【公開日】2019年4月18日
【審査請求日】2020年3月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】501138231
【氏名又は名称】国立研究開発法人防災科学技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100139114
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 貞嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100139103
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 卓志
(74)【代理人】
【識別番号】100088041
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 龍吉
(72)【発明者】
【氏名】▲功▼刀 卓
【審査官】
佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−329486(JP,A)
【文献】
特開2013−181844(JP,A)
【文献】
特開2014−181915(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0145620(US,A1)
【文献】
特開2008−107334(JP,A)
【文献】
特開平8−285952(JP,A)
【文献】
特開2007−198812(JP,A)
【文献】
特開2011−47657(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0195438(US,A1)
【文献】
(独)海洋研究開発機構地震津波・防災研究プロジェクト,室戸岬沖、釧路・十勝沖システム中継器型海底地震計の3 成分(上下、南北、東西)値の算出方法について,研究成果報告書[online],日本,2013年,p.1-6,インターネット,[検索日:2021/3/11], <URL:http://www.jamstec.go.jp/scdc/docs/info/3comp_201308a.pdf>でダウンロード可能
【文献】
TSUSHIMA, Hiroaki, et al.,Near‐field tsunami forecasting from cabled ocean bottom pressure data [online],JOURNAL OF GEOPHYSICAL RESEARCH,2009年,Vol. 114,p. 1-20,インターネット[検索日:2021/3/11], <DOI:https://doi.org/10.1029/2008JB005988>, <URL:https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1029/2008JB005988>からダウンロード可能
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H1/00−17/00
G01V1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直交3成分の地動加速度時系列を取得する地動加速度時系列取得手段と、
前記地動加速度時系列取得手段から送られた前記地動加速度時系列を平滑化処理し、平滑化時系列を得る平滑化手段と、
前記平滑化手段から送られた前記平滑化時系列から重力加速度と傾斜角を決定し、重力加速度時系列と傾斜角時系列を得る傾斜角決定手段と、
前記傾斜角決定手段から送られた前記重力加速度時系列と前記傾斜角時系列について、妥当性の判定を行う傾斜角判定手段と、
前記傾斜角決定手段から送られた前記傾斜角時系列を用いて、前記地動加速度時系列取得手段から送られた前記地動加速度時系列の傾斜補正を行い、傾斜補正済み加速度時系列を得る傾斜補正手段と、を備えることを特徴とする地震動計測装置。
【請求項2】
前記平滑化手段における平滑化処理は、多段のローパスフィルタ処理であることを特徴とする請求項1に記載の地震動計測装置。
【請求項3】
多段のローパスフィルタ処理をM次の無限インパルス応答フィルタをN段縦列接続した多段フィルタを用いて、式(7)で行うことを特徴とする請求項2に記載の地震動計測装置。
【数7】
ここで、
kは時間ステップ数、
X
i[k]はi段目のフィルタ処理への入力時系列、
X
i+1[k]はi段目のフィルタ処理からの出力時系列、
Mはフィルタの次数、
Nはフィルタの段数、
a
ijはフィルタ係数、
b
ijはフィルタ係数、
1≦i≦N、
である。
【請求項4】
多段のローパスフィルタ処理をM次の無限インパルス応答フィルタをN段縦列接続した多段フィルタを用いて、式(34)で行うことを特徴とする請求項2に記載の地震動計測装置。
【数34】
ここで、
kは時間ステップ数、
X
i[k]はi段目のフィルタ処理への入力時系列、
X
i+1[k]はi段目のフィルタ処理からの出力時系列、
Mはフィルタの次数、
Nはフィルタの段数、
a
ijはフィルタ係数、
b
ijはフィルタ係数、
1≦i≦N、
である。
【請求項5】
1次の無限インパルス応答フィルタをN段縦列接続した多段フィルタの演算として、式(
28)、式(29)を用いることを特徴とする請求項3に記載の地震動計測装置。
k=0の場合
【数28】
k>0の場合
【数29】
ここで、
kは時間ステップ数、
X
i[k]はi段目のフィルタ処理への入力時系列、
X
i+1[k]はi段目のフィルタ処理からの出力時系列、
Nはフィルタの段数、
a
ijはフィルタ係数、
b
ijはフィルタ係数、
1≦i≦N、
である。
【請求項6】
2次の無限インパルス応答フィルタをN段縦列接続した多段フィルタの演算として、式(
31)、式(32)、式(33)を用いることを特徴とする請求項3に記載の地震動計測装置。
k=0の場合
【数31】
k=1の場合
【数32】
k>1の場合
【数33】
ここで、
kは時間ステップ数、
X
i[k]はi段目のフィルタ処理への入力時系列、
X
i+1[k]はi段目のフィルタ処理からの出力時系列、
Nはフィルタの段数、
a
ijはフィルタ係数、
b
ijはフィルタ係数、
1≦i≦N、
である。
【請求項7】
1次の無限インパルス応答フィルタをN段縦列接続した多段フィルタの係数として、式(
10)を用いることを特徴とする請求項3乃至請求項5のいずれか1項に記載の地震動計測装置。
【数10】
【請求項8】
2次の無限インパルス応答フィルタをN段縦列接続した多段フィルタの係数として、式(
11)を用いることを特徴とする請求項3又は請求項4又は請求項6に記載の地震動計測装置。
【数11】
ここで、
ω
i=2πf
i、
f
iはi段目のフィルタのカットオフ周波数、
h
iはi段目のフィルタのダンピング
である。
【請求項9】
2次の無限インパルス応答フィルタをN段縦列接続した多段フィルタの係数として、式(
12)を用いることを特徴とする請求項3又は請求項4又は請求項6に記載の地震動計測装置。
【数12】
ここで、
ω
i=2πf
i、
f
iはi段目のフィルタのカットオフ周波数、
h
iはi段目のフィルタのダンピング
である。
【請求項10】
フィルタの段数としてN=4を用い、i段目のフィルタのカットオフ周波数としてfi=0.01Hz
を用いることを特徴とする請求項7に記載の地震動計測装置。
【請求項11】
前記傾斜角決定手段における重力加速度と傾斜角の決定は、式(40)、式(41)、式(42)、式(43)で行うことを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の地震動計測装置。
【数40】
【数41】
【数42】
【数43】
ここで、
kは時間ステップ数、
S
X[k]、S
Y[k]、S
Z[k]は平滑化時系列、
S[k]は重力加速度時系列、
β[k]、γ[k]は傾斜角時系列、
である。
【請求項12】
前記傾斜角判定手段における重力加速度と傾斜角の妥当性の判定では、式(1)、式(2)、式(3)、式(4)、式(5)、式(6)のいずれかを満たす場合に異常と判定することを特徴とする請求項1乃至請求項11のいずれか1項に記載の地震動計測装置。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
ここで、
kは時間ステップ数、
S
0、β
0、γ
0、S
th、β
th、γ
th、ΔS
th、Δβ
th、Δγ
thは判定に用いる閾値、
ΔTは時系列のサンプリング間隔、
である。
【請求項13】
前記傾斜補正手段における傾斜補正は、式(44)、式(45)、式(46)で行うことを特徴とする請求項1乃至請求項12のいずれか1項に記載の地震動計測装置。
【数44】
【数45】
【数46】
ここで、
kは時間ステップ数、
A
X[k]、A
Y[k]、A
Z[k]は地動加速度時系列、
A
H1[k]、A
H2[k]、A
UD[k]は傾斜補正済み加速度時系列、
β[k]、γ[k]は傾斜角時系列、
である。
【請求項14】
前記傾斜補正手段における傾斜補正は、式(40)、式(41)、式(47)、式(52)、式(53)、式(54)で行うことを特徴とする請求項1乃至請求項12のいずれか1項に記載の地震動計測装置。
【数40】
【数41】
【数47】
【数52】
【数53】
【数54】
ここで、
kは時間ステップ数、
A
X[k]、A
Y[k]、A
Z[k]は地動加速度時系列、
A
H1[k]、A
H2[k]、A
UD[k]は傾斜補正済み加速度時系列、
S
X[k]、S
Y[k]、S
Z[k]は平滑化時系列、
である。
【請求項15】
請求項1乃至請求項14のいずれか1項に記載の前記地震動計測装置を用いた地震動計測システムであって、
通信ネットワークに通信可能に接続され、地震動を計測する複数の地震計と、
前記複数の地震計で計測された地動加速度を、前記通信ネットワークを介して前記地震動計測装置で取得し、前記地震動計測装置の前記傾斜補正手段で取得された地動加速度の傾斜補正を行うことを特徴とする地震動計測システム。
【請求項16】
直交3成分の地動加速度時系列を取得する地動加速度時系列取得ステップと、
前記地動加速度時系列を平滑化処理し、平滑化時系列を得る平滑化ステップと、
前記平滑化時系列から重力加速度と傾斜角を決定し、重力加速度時系列と傾斜角時系列を得る傾斜角決定ステップと、
前記重力加速度時系列と前記傾斜角時系列について、妥当性の判定を行う傾斜角判定ステップと、
前記傾斜角時系列を用いて、前記地動加速度時系列の傾斜補正を行い、傾斜補正済み加速度時系列を得る傾斜補正ステップと、
を備えることを特徴とする地震計の傾斜補正方法。
【請求項17】
前記平滑化ステップにおける平滑化処理は、多段のローパスフィルタ処理であることを特徴とする請求項16に記載の地震計の傾斜補正方法。
【請求項18】
多段のローパスフィルタ処理をM次の無限インパルス応答フィルタをN段縦列接続した多段フィルタを用いて、式(7)で行うことを特徴とする請求項17に記載の地震計の傾斜補正方法。
【数7】
ここで、
kは時間ステップ数、
X
i[k]はi段目のフィルタ処理への入力時系列、
X
i+1[k]はi段目のフィルタ処理からの出力時系列、
Mはフィルタの次数、
Nはフィルタの段数、
a
ijはフィルタ係数、
b
ijはフィルタ係数、
1≦i≦N、
である。
【請求項19】
多段のローパスフィルタ処理をM次の無限インパルス応答フィルタをN段縦列接続した多段フィルタを用いて、式(34)で行うことを特徴とする請求項17に記載の地震計の傾斜補正方法。
【数34】
ここで、
kは時間ステップ数、
X
i[k]はi段目のフィルタ処理への入力時系列、
X
i+1[k]はi段目のフィルタ処理からの出力時系列、
Mはフィルタの次数、
Nはフィルタの段数、
a
ijはフィルタ係数、
b
ijはフィルタ係数、
1≦i≦N、
である。
【請求項20】
1次の無限インパルス応答フィルタをN段縦列接続した多段フィルタの演算として、式(
28)、式(29)を用いることを特徴とする請求項18に記載の地震計の傾斜補正方法。
k=0の場合
【数28】
k>0の場合
【数29】
ここで、
kは時間ステップ数、
X
i[k]はi段目のフィルタ処理への入力時系列、
X
i+1[k]はi段目のフィルタ処理からの出力時系列、
Nはフィルタの段数、
a
ijはフィルタ係数、
b
ijはフィルタ係数、
1≦i≦N、
である。
【請求項21】
2次の無限インパルス応答フィルタをN段縦列接続した多段フィルタの演算として、式(
31)、式(32)、式(33)を用いることを特徴とする請求項18に記載の地震計の傾斜補正方法。
k=0の場合
【数31】
k=1の場合
【数32】
k>1の場合
【数33】
ここで、
kは時間ステップ数、
X
i[k]はi段目のフィルタ処理への入力時系列、
X
i+1[k]はi段目のフィルタ処理からの出力時系列、
Nはフィルタの段数、
a
ijはフィルタ係数、
b
ijはフィルタ係数、
1≦i≦N、
である。
【請求項22】
1次の無限インパルス応答フィルタをN段縦列接続した多段フィルタの係数として、式(
10)を用いることを特徴とする請求項18乃至請求項20のいずれか1項に記載の地震計の傾斜補正方法。
【数10】
【請求項23】
2次の無限インパルス応答フィルタをN段縦列接続した多段フィルタの係数として、式(
11)を用いることを特徴とする請求項18又は請求項19又は請求項21に記載の地震計の傾斜補正方法。
【数11】
ここで、
ω
i=2πf
i、
f
iはi段目のフィルタのカットオフ周波数、
h
iはi段目のフィルタのダンピング
である。
【請求項24】
2次の無限インパルス応答フィルタをN段縦列接続した多段フィルタの係数として、式(
12)を用いることを特徴とする請求項18又は請求項19又は請求項21に記載の地震計の傾斜補正方法。
【数12】
ここで、
ω
i=2πf
i、
f
iはi段目のフィルタのカットオフ周波数、
h
iはi段目のフィルタのダンピング
である。
【請求項25】
フィルタの段数としてN=4を用い、i段目のフィルタのカットオフ周波数としてfi=0.01Hz
を用いることを特徴とする請求項22に記載の地震計の傾斜補正方法。
【請求項26】
前記傾斜角決定ステップにおける重力加速度と傾斜角の決定は、式(40)、式(41)、式(42)、式(43)で行うことを特徴とする請求項16乃至請求項25のいずれか1項に記載の地震計の傾斜補正方法。
【数40】
【数41】
【数42】
【数43】
ここで、
kは時間ステップ数、
S
X[k]、S
Y[k]、S
Z[k]は平滑化時系列、
S[k]は重力加速度時系列、
β[k]、γ[k]は傾斜角時系列、
である。
【請求項27】
前記傾斜角判定ステップにおける重力加速度と傾斜角の妥当性の判定では、式(1)、式(2)、式(3)、式(4)、式(5)、式(6)のいずれかを満たす場合に異常と判定することを特徴とする請求項16乃至請求項26のいずれか1項に記載の地震計の傾斜補正方法。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
ここで、
kは時間ステップ数、
S
0、β
0、γ
0、S
th、β
th、γ
th、ΔS
th、Δβ
th、Δγ
thは判定に用いる閾値、
ΔTは時系列のサンプリング間隔、
である。
【請求項28】
前記傾斜補正ステップにおける傾斜補正は、式(44)、式(45)、式(46)で行うことを特徴とする請求項16乃至請求項27のいずれか1項に記載の地震計の傾斜補正方法。
【数44】
【数45】
【数46】
ここで、
kは時間ステップ数、
A
X[k]、A
Y[k]、A
Z[k]は地動加速度時系列、
A
H1[k]、A
H2[k]、A
UD[k]は傾斜補正済み加速度時系列、
β[k]、γ[k]は傾斜角時系列、
である。
【請求項29】
前記傾斜補正ステップにおける傾斜補正は、式(40)、式(41)、式(47)、式(52)、式(53)、式(54)で行うことを特徴とする請求項16乃至請求項27のいずれか1項に記載の地震計の傾斜補正方法。
【数40】
【数41】
【数47】
【数52】
【数53】
【数54】
ここで、
kは時間ステップ数、
A
X[k]、A
Y[k]、A
Z[k]は地動加速度時系列、
A
H1[k]、A
H2[k]、A
UD[k]は傾斜補正済み加速度時系列、
S
X[k]、S
Y[k]、S
Z[k]は平滑化時系列、
である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に海底で発生した地震による揺れを計測する地震動計測装置、それを用いた地震動計測システム及び地震計の傾斜補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地震の発生を予知することは極めて困難なため、地震発生直後に、予め設けておいた多数の地震観測点で地震の初期微動(P波)を観測し、この観測情報を基に、未到達地域に、地震の主振動(S波)の到達時刻や地震動強度を報知する地震警報システムなどが提案されている。
【0003】
近年、上記のような多数の地震観測点を海底に設けておく試みがなされている。このような試みでは、海域で発生した地震による地震動を沖合に敷設された海底地震計で計測し、その計測値に基づき、陸域に地震動が襲来する可能性を早期に判定する(非特許文献1、非特許文献2)。
【0004】
図10は、複数の海底地震計(地震計筐体20)を有する地震動計測装置10の概要の構成を説明する図である。地震動計測装置10は海底に設置され、内蔵する加速度計で地震動を計測する地震計筐体20を複数有している。
【0005】
複数の地震計筐体20は、ケーブル40で連結されている。ケーブル40には、光信号を送受する光ファイバ、電気信号を送受するデータ信号線、地震計筐体20内の電気・電子回路に電源を供給する電源線などが内蔵されている。
図10に示す例では、複数の円筒型の地震計筐体20を連結しているケーブル40の最両端部は、陸域のデータセンター50に設置されるデータ処理装置(不図示)とデータ通信可能に接続されており、各地震計筐体20で取得される計測データは、当該データ処理装置でデータ処理されるようになっている。
【0006】
図11は地震動計測装置10に用いられる地震計筐体20の構成を説明する図である。地震計筐体20内には、X軸成分加速度計25、Y軸成分加速度計26、Z軸成分加速度計27が内蔵されている。地震計筐体20内の各加速度計で取得された加速度データは不図示の信号変換部などで信号変換され、ケーブル40を介してデータセンター50に設置されるデータ処理装置に送信されるようになっている。
【0007】
上記のような地震動計測装置10において、地震動のP波(初期微動)およびS波(主要動)はそれぞれ鉛直成分(上下動)、水平成分に卓越するため、海底地震計(地震計筐体20)では地震動を鉛直成分と二つの水平成分に変換することが必要となる。しかしながら、海底地震計(地震計筐体20)では設置状態における傾斜角等が明らかでないことが多いため、傾斜補正には特別な方法が必要となる。
【0008】
地震動計測装置10のセンサとして3軸の加速度計が使用されている場合は、加速度計で重力加速度が計測されることを利用して、3軸の加速度計の計測値を鉛直成分と二つの水平成分に変換することができる。この変換を行うには、例えば、非特許文献3に示された方法に従えばよい。
【非特許文献1】「海底地震観測システム」、藤原法之・菱木賢治・片山武http://jpn.nec.com/techrep/journal/g09/n04/pdf/090413.pdf#search=%27%E6%B5%B7%E5%BA%95%E5%9C%B0%E9%9C%87%E8%A6%B3%E6%B8%AC%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A0+%E8%97%A4%E5%8E%9F%27
【非特許文献2】「鉄道の早期地震警報への海底地震計情報活用に向けたデータ処理」宮腰寛之他、鉄道総研報告(RTRI REPORT)Vol.29,No.1,Jan.2015
【非特許文献3】「室戸岬沖、釧路・十勝沖システム中継器型海底地震計の3成分(上下、南北、東西)値の算出方法について」、(独)海洋研究開発機構 地震津波・防災研究プロジェクトhttp://www.jamstec.go.jp/scdc/docs/info/3comp#201308a.pdf#search=%27%E5%AE%A4%E6%88%B8%E5%B2%AC%E6%B2%96+%E9%87%A7%E8%B7%AF+%E5%8D%81%E5%8B%9D%E6%B2%96%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A0%E4%B8%AD%E7%B6%99%E5%99%A8%E5%9E%8B%E6%B5%B7%E5%BA%95%E5%9C%B0%E9%9C%87%E8%A8%88%27
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述したように地震動のP波(初期微動)は鉛直成分(上下動)に卓越し、S波(主要動)は水平成分に卓越するため、これらの検出に当たっては、地震動計測装置10において水平方向と鉛直方向とを正確に把握することが肝要となる。一方、地震動計測装置10の地震計筐体20は円筒型であるために、海底において姿勢が変化し、地震計筐体20に内蔵される各加速時計についても、これに伴い姿勢が変化する。そこで、各加速度計で検出される重力加速度方向によって、振動の加速度データの方向成分の補正を行うようにしている。
【0010】
しかしながら従来方法では、加速度計の各軸で計測される重力加速度成分を求める際に、加速度計の各軸の計測値に対し一定の時間の平均値をとることが必要となり、補正を間歇的にしか行うことができない。これにより、平均値の切り替わり区間において、設置傾斜補正後の加速度値に不連続を生じ得るため、常時連続的に行う警報処理には不向きである、という問題があった。また、従来方法を移動平均や移動中央値等の手法を用いて連続的に行うことも考えられるが、警報処理を0.01秒間隔で行うような場合には、平均値計算のために必要となる処理や記憶容量が過大になる、という問題もあった。
【0011】
本発明は、このような課題を解決するために、常時連続的に傾斜補正を行うことのできる地震動計測装置、それを用いた地震動計測システム、及び地震計の傾斜補正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、上記のような課題を解決するものであり、本発明に係る地震動計測装置は、直交3成分の地動加速度時系列を取得する地動加速度時系列取得手段と、前記地動加速度時系列取得手段から送られた前記地動加速度時系列を平滑化処理し、平滑化時系列を得る平滑化手段と、前記平滑化手段から送られた前記平滑化時系列から重力加速度と傾斜角を決定し、重力加速度時系列と傾斜角時系列を得る傾斜角決定手段と、前記傾斜角決定手段から送られた前記重力加速度時系列と前記傾斜角時系列について、妥当性の判定を行う傾斜角判定手段と、前記傾斜角決定手段から送られた前記傾斜角時系列を用いて、前記地動加速度時系列取得手段から送られた前記地動加速度時系列の傾斜補正を行い、傾斜補正済み加速度時系列を得る傾斜補正手段と、を備えることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る地震動計測装置は、前記平滑化手段における平滑化処理は、多段のローパスフィルタ処理であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る地震動計測装置は、多段のローパスフィルタ処理をM次の無限イン
パルス応答フィルタをN段縦列接続した多段フィルタを用いて、式(7)で行うことを特
徴とする。
【0015】
【数7】
【0016】
ここで、
kは時間ステップ数、
X
i[k]はi段目のフィルタ処理への入力時系列、
X
i+1[k]はi段目のフィルタ処理からの出力時系列、
Mはフィルタの次数、
Nはフィルタの段数、
a
ijはフィルタ係数、
b
ijはフィルタ係数、
1≦i≦N、
である。
【0017】
また、本発明に係る地震動計測装置は、多段のローパスフィルタ処理をM次の無限イン
パルス応答フィルタをN段縦列接続した多段フィルタを用いて、式(34)で行うことを
特徴とする。
【0018】
【数34】
【0019】
ここで、
kは時間ステップ数、
X
i[k]はi段目のフィルタ処理への入力時系列、
X
i+1[k]はi段目のフィルタ処理からの出力時系列、
Mはフィルタの次数、
Nはフィルタの段数、
a
ijはフィルタ係数、
b
ijはフィルタ係数、
1≦i≦N、
である。
【0020】
また、本発明に係る地震動計測装置は、1次の無限インパルス応答フィルタをN段縦列
接続した多段フィルタの演算として、式(28)、式(29)を用いることを特徴とする。
k=0の場合
【0021】
【数28】
k>0の場合
【0022】
【数29】
ここで、
kは時間ステップ数、
X
i[k]はi段目のフィルタ処理への入力時系列、
X
i+1[k]はi段目のフィルタ処理からの出力時系列、
Nはフィルタの段数、
a
ijはフィルタ係数、
b
ijはフィルタ係数、
1≦i≦N、
である。
【0023】
また、本発明に係る地震動計測装置は、2次の無限インパルス応答フィルタをN段縦列
接続した多段フィルタの演算として、式(31)、式(32)、式(33)を用いることを特徴とする。
k=0の場合
【0024】
【数31】
k=1の場合
【0025】
【数32】
k>1の場合
【0026】
【数33】
ここで、
kは時間ステップ数、
X
i[k]はi段目のフィルタ処理への入力時系列、
X
i+1[k]はi段目のフィルタ処理からの出力時系列、
Nはフィルタの段数、
a
ijはフィルタ係数、
b
ijはフィルタ係数、
1≦i≦N、
である。
【0027】
また、本発明に係る地震動計測装置は、1次の無限インパルス応答フィルタをN段縦列
接続した多段フィルタの係数として、式(10)を用いることを特徴とする。
【0028】
【数10】
また、本発明に係る地震動計測装置は、2次の無限インパルス応答フィルタをN段縦列
接続した多段フィルタの係数として、式(11)を用いることを特徴とする。
【0029】
【数11】
ここで、
ω
i=2πf
i、
f
iはi段目のフィルタのカットオフ周波数、
h
iはi段目のフィルタのダンピング
である。
【0030】
また、本発明に係る地震動計測装置は、2次の無限インパルス応答フィルタをN段縦列
接続した多段フィルタの係数として、式(12)を用いることを特徴とする。
【0031】
【数12】
ここで、
ω
i=2πf
i、
f
iはi段目のフィルタのカットオフ周波数、
h
iはi段目のフィルタのダンピング
である。
【0032】
また、本発明に係る地震動計測装置は、フィルタの段数としてN=4を用い、i段目のフィルタのカットオフ周波数としてf
i=0.01Hzを用いることを特徴とする。
【0033】
また、本発明に係る地震動計測装置は、前記傾斜角決定手段における重力加速度と傾斜角の決定は、式(40)、式(41)、式(42)、式(43)で行うことを特徴とする。
【0034】
【数40】
【0035】
【数41】
【0036】
【数42】
【0037】
【数43】
【0038】
ここで、
kは時間ステップ数、
S
X[k]、S
Y[k]、S
Z[k]は平滑化時系列、
S[k]は重力加速度時系列、
β[k]、γ[k]は傾斜角時系列、
である。
【0039】
また、本発明に係る地震動計測装置は、前記傾斜角判定手段における重力加速度と傾斜角の妥当性の判定では、式(1)、式(2)、式(3)、式(4)、式(5)、式(6)のいずれかを満たす場合に異常と判定することを特徴とする。
【0040】
【数1】
【0041】
【数2】
【0042】
【数3】
【0043】
【数4】
【0044】
【数5】
【0045】
【数6】
ここで、
kは時間ステップ数、
S
0、β
0、γ
0、S
th、β
th、γ
th、ΔS
th、Δβ
th、Δγ
thは判定に用いる閾値、
ΔTは時系列のサンプリング間隔、
である。
【0046】
また、本発明に係る地震動計測装置は、前記傾斜補正手段における傾斜補正は、式(44)、式(45)、式(46)で行うことを特徴とする。
【0047】
【数44】
【0048】
【数45】
【0049】
【数46】
【0050】
ここで、
kは時間ステップ数、
A
X[k]、A
Y[k]、A
Z[k]は地動加速度時系列、
A
H1[k]、A
H2[k]、A
UD[k]は傾斜補正済み加速度時系列、
β[k]、γ[k]は傾斜角時系列、
である。
【0051】
また、本発明に係る地震動計測装置は、前記傾斜補正手段における傾斜補正は、式(40)、式(41)、式(47)、式(52)、式(53)、式(54)で行うことを特徴とする。
【0052】
【数40】
【0053】
【数41】
【0054】
【数47】
【0055】
【数52】
【0056】
【数53】
【0057】
【数54】
【0058】
ここで、
kは時間ステップ数、
A
X[k]、A
Y[k]、A
Z[k]は地動加速度時系列、
A
H1[k]、A
H2[k]、A
UD[k]は傾斜補正済み加速度時系列、
S
X[k]、S
Y[k]、S
Z[k]は平滑化時系列、
である。
【0059】
また、本発明に係る地震動計測システムは、前記地震動計測装置を用いた地震動計測システムであって、通信ネットワークに通信可能に接続され、地震動を計測する複数の地震計と、前記複数の地震計で計測された地動加速度を、前記通信ネットワークを介して前記地震動計測装置で取得し、前記地震動計測装置の前記傾斜補正手段で取得された地動加速度の傾斜補正を行うことを特徴とする。
【0060】
また、本発明に係る地震計の傾斜補正方法は、直交3成分の地動加速度時系列を取得する地動加速度時系列取得ステップと、前記地動加速度時系列を平滑化処理し、平滑化時系列を得る平滑化ステップと、前記平滑化時系列から重力加速度と傾斜角を決定し、重力加速度時系列と傾斜角時系列を得る傾斜角決定ステップと、前記重力加速度時系列と前記傾斜角時系列について、妥当性の判定を行う傾斜角判定ステップと、前記傾斜角時系列を用いて、前記地動加速度時系列の傾斜補正を行い、傾斜補正済み加速度時系列を得る傾斜補正ステップと、を備えることを特徴とする。
【0061】
また、本発明に係る地震計の傾斜補正方法は、前記平滑化ステップにおける平滑化処理は、多段のローパスフィルタ処理であることを特徴とする。
【0062】
また、本発明に係る地震計の傾斜補正方法は、多段のローパスフィルタ処理をM次の無
限インパルス応答フィルタをN段縦列接続した多段フィルタを用いて、式(7)で行うこ
とを特徴とする。
【0063】
【数7】
【0064】
ここで、
kは時間ステップ数、
X
i[k]はi段目のフィルタ処理への入力時系列、
X
i+1[k]はi段目のフィルタ処理からの出力時系列、
Mはフィルタの次数、
Nはフィルタの段数、
a
ijはフィルタ係数、
b
ijはフィルタ係数、
1≦i≦N、
である。
【0065】
また、本発明に係る地震計の傾斜補正方法は、多段のローパスフィルタ処理をM次の無
限インパルス応答フィルタをN段縦列接続した多段フィルタを用いて、式(34)で行う
ことを特徴とする。
【0066】
【数34】
【0067】
ここで、
kは時間ステップ数、
X
i[k]はi段目のフィルタ処理への入力時系列、
X
i+1[k]はi段目のフィルタ処理からの出力時系列、
Mはフィルタの次数、
Nはフィルタの段数、
a
ijはフィルタ係数、
b
ijはフィルタ係数、
1≦i≦N、
である。
【0068】
また、本発明に係る地震計の傾斜補正方法は、1次の無限インパルス応答フィルタをN
段縦列接続した多段フィルタの演算として、式(28)、式(29)を用いることを特徴とする。
k=0の場合
【0069】
【数28】
k>0の場合
【0070】
【数29】
ここで、
kは時間ステップ数、
X
i[k]はi段目のフィルタ処理への入力時系列、
X
i+1[k]はi段目のフィルタ処理からの出力時系列、
Nはフィルタの段数、
a
ijはフィルタ係数、
b
ijはフィルタ係数、
1≦i≦N、
である。
【0071】
また、本発明に係る地震計の傾斜補正方法は、2次の無限インパルス応答フィルタをN
段縦列接続した多段フィルタの演算として、式(31)、式(32)、式(33)を用いることを特徴とする。
k=0の場合
【0072】
【数31】
k=1の場合
【0073】
【数32】
【0074】
【数33】
ここで、
kは時間ステップ数、
X
i[k]はi段目のフィルタ処理への入力時系列、
X
i+1[k]はi段目のフィルタ処理からの出力時系列、
Nはフィルタの段数、
a
ijはフィルタ係数、
b
ijはフィルタ係数、
1≦i≦N、
である。
【0075】
また、本発明に係る地震計の傾斜補正方法は、1次の無限インパルス応答フィルタをN
段縦列接続した多段フィルタの係数として、式(10)を用いることを特徴とする。
【0076】
【数10】
また、本発明に係る地震計の傾斜補正方法は、2次の無限インパルス応答フィルタをN
段縦列接続した多段フィルタの係数として、式(11)を用いることを特徴とする。
【0077】
【数11】
ここで、
ω
i=2πf
i、
f
iはi段目のフィルタのカットオフ周波数、
h
iはi段目のフィルタのダンピング
である。
【0078】
また、本発明に係る地震計の傾斜補正方法は、2次の無限インパルス応答フィルタをN
段縦列接続した多段フィルタの係数として、式(12)を用いることを特徴とする。
【0079】
【数12】
ここで、
ω
i=2πf
i、
f
iはi段目のフィルタのカットオフ周波数、
h
iはi段目のフィルタのダンピング
である。
【0080】
また、本発明に係る地震計の傾斜補正方法は、フィルタの段数としてN=4を用い、i段目のフィルタのカットオフ周波数としてf
i=0.01Hzを用いることを特徴とする。
【0081】
また、本発明に係る地震計の傾斜補正方法は、前記傾斜角決定ステップにおける重力加速度と傾斜角の決定は、式(40)、式(41)、式(42)、式(43)で行うことを特徴とする。
【0082】
【数40】
【0083】
【数41】
【0084】
【数42】
【0085】
【数43】
【0086】
ここで、
kは時間ステップ数、
S
X[k]、S
Y[k]、S
Z[k]は平滑化時系列、
S[k]は重力加速度時系列、
β[k]、γ[k]は傾斜角時系列、
である。
【0087】
また、本発明に係る地震計の傾斜補正方法は、前記傾斜角判定ステップにおける重力加速度と傾斜角の妥当性の判定では、式(1)、式(2)、式(3)、式(4)、式(5)、式(6)のいずれかを満たす場合に異常と判定することを特徴とする。
【0088】
【数1】
【0089】
【数2】
【0090】
【数3】
【0091】
【数4】
【0092】
【数5】
【0093】
【数6】
ここで、
kは時間ステップ数、
S
0、β
0、γ
0、S
th、β
th、γ
th、ΔS
th、Δβ
th、Δγ
thは判定に用いる閾値、
ΔTは時系列のサンプリング間隔、
である。
【0094】
また、本発明に係る地震計の傾斜補正方法は、前記傾斜補正ステップにおける傾斜補正は、式(44)、式(45)、式(46)で行うことを特徴とする。
【0095】
【数44】
【0096】
【数45】
【0097】
【数46】
【0098】
ここで、
kは時間ステップ数、
A
X[k]、A
Y[k]、A
Z[k]は地動加速度時系列、
A
H1[k]、A
H2[k]、A
UD[k]は傾斜補正済み加速度時系列、
β[k]、γ[k]は傾斜角時系列、
である。
【0099】
また、本発明に係る地震計の傾斜補正方法は、前記傾斜補正ステップにおける傾斜補正は、式(40)、式(41)、式(47)、式(52)、式(53)、式(54)で行う
ことを特徴とする。
【0100】
【数40】
【0101】
【数41】
【0102】
【数47】
【0103】
【数52】
【0104】
【数53】
【0105】
【数54】
【0106】
ここで、
kは時間ステップ数、
A
X[k]、A
Y[k]、A
Z[k]は地動加速度時系列、
A
H1[k]、A
H2[k]、A
UD[k]は傾斜補正済み加速度時系列、
S
X[k]、S
Y[k]、S
Z[k]は平滑化時系列、
である。
【発明の効果】
【0107】
本発明に係る地震動計測装置、地震動計測システム及び地震計の傾斜補正方法は、傾斜角決定手段(ステップ)から送られた前記傾斜角時系列を用いて、地動加速度時系列取得手段(ステップ)から送られた地動加速度時系列の傾斜補正を行い、傾斜補正済み加速度時系列を得る傾斜補正手段(ステップ)を備えており、このような本発明に係る地震動計測装置、地震動計測システム及び地震計の傾斜補正方法によれば、傾斜補正手段(ステップ)によって、地動加速度時系列の傾斜補正を、サンプリング周波数の時間間隔で行うことが可能となり、迅速的確な警報処理に資することができる。また、本発明によれば、移動平均や移動中央値等の手法を用いて連続的に行う必要がなく、計算のために必要となる
処理や記憶容量が過大になることがない。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【
図1】本発明の実施形態に係る地震動計測装置10のブロック図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る地震動計測装置10の傾斜補正部120の主要構成を示す図である。
【
図3】本実施形態の傾斜補正部120での傾斜補正演算方法のアルゴリズムを示すフローチャートである。
【
図4】本実施形態の地震計筐体20搭載の各地震計の計測軸を示す図である。
【
図5】本実施形態の平滑化手段122でのA
X[k]からS
X[k]を得る多段フィルタの処理を示すフローチャートである。
【
図6】本実施形態の地震計筐体20の傾斜補正前と傾斜補正後の計測軸を説明する図である。
【
図7】本実施形態と従来方法との傾斜補正の相違を示す図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る地震動計測システム1の概要の構成を示す図である。
【
図9】初期化時における本実施形態と従来方法との比較を示す図である。
【
図10】地震動計測装置10の概要の構成を説明する図である。
【
図11】地震動計測装置10に用いられる地震計筐体20の構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0109】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0110】
図1は、本発明の実施形態に係る地震動計測装置10の主要構成を示す図である。図中、10は地震動計測装置、100は処理部、110は制御・演算部、115は計測部、120は傾斜補正部、130は警報処理部、150は電源装置、20は地震計筐体、25はX軸成分加速度計、26はY軸成分加速度計、27はZ軸成分加速度計である。
【0111】
地震動計測装置10は、地震計筐体20のX軸成分加速度計25、Y軸成分加速度計26、Z軸成分加速度計27で計測した加速度を、各成分AD変換器(35、36、37)を介して、処理部100の制御・演算部110に入力することで、地震動を計測する。また、地震動計測装置10は、遠隔地にある地震計200で計測された地震動を、通信ネットワークNを介して入力とすることもできる。(
図8に示す例参照。)
本実施形態では地震計筐体20は海底面に設置されケーブル40で計測部115と接続される例に基づき説明を行うが、本発明に係る地震動計測装置10においては、地震計筐体20が陸上に設置されているような形態も扱い得るものである。
【0112】
計測部115には、例えばサンプリング間隔ΔT=0.01秒(サンプリング周波数100Hz)で地震計筐体20の各加速度計で計測された地動加速度時系列が入力される。また、計測部115は、地動加速度時系列を傾斜補正部120に送信する。
【0113】
処理部100は、電源装置150により駆動される制御・演算部110を有する。本実施形態の制御・演算部110は、地動加速度時系列の入出力をおこなう計測部115、地動加速度時系列の傾斜補正を行う傾斜補正部120、及び計測された地動加速度時系列を用いて警報を処理する警報処理部130を有する。
【0114】
制御・演算部110は、時刻校正部147を介して、時刻を正確に知るためにGNSS(Global Navigation Satellite System)信号を入力している。また、算出した各算出値等を、通信部141を通じて送受信することが可能である。さらに、警報出力部145を介し
て、地震の発生を知らせる表示または警報を出力することも可能である。
【0115】
図2は、本発明の実施形態に係る地震動計測装置10の傾斜補正部120の主要構成を示す図である。図中、121は地動加速度時系列取得手段、122は平滑化手段、125は傾斜角決定手段、126は傾斜角判定手段、128は傾斜補正手段をそれぞれ示している。
【0116】
傾斜補正部120において、地動加速度時系列取得手段121は、直交3成分の地動加速度時系列を取得し、地動加速度時系列を平滑化手段122と傾斜補正手段128に送る。
【0117】
また、平滑化手段122は、地動加速度時系列取得手段121から送られた地動加速度時系列を平滑化処理し、平滑化時系列を得て、傾斜角決定手段125に送る。
【0118】
また、傾斜角決定手段125は、平滑化手段122から送られた平滑化時系列から重力加速度と傾斜角を決定し、重力加速度時系列と傾斜角時系列を得て、傾斜角判定手段126と傾斜補正手段128に送る。
【0119】
また、傾斜角判定手段126は、傾斜角決定手段125から送られた重力加速度時系列と傾斜角時系列の値について、妥当性の判定を行う。
【0120】
また、傾斜補正手段128は、傾斜角決定手段125から送られた傾斜角時系列を用いて、地動加速度時系列取得手段121から送られた地動加速度時系列の傾斜補正を行い、傾斜補正済み加速度時系列を得て、出力する。
【0121】
次に、このような地震動計測装置10の傾斜補正部120で行われる傾斜補正の演算方法について説明する。
【0122】
図3は、本実施形態の傾斜補正部120での傾斜補正演算方法のアルゴリズムを示すフローチャートである。傾斜補正部120は、上記の演算を
図3に示すフローチャートに示す各ステップで実現する。
【0123】
まず、ステップ1で、X軸成分加速度計25、Y軸成分加速度計26、Z軸成分加速度計27から直交する3成分の地動加速度時系列A
X[k]、A
Y[k]、A
Z[k]を取得する(ST1)。ここでkは時間ステップとする。時系列のサンプリング間隔ΔTは本実施形態では0.01秒(サンプリング周波数100Hz)である。
【0124】
図4は、本実施形態の地震計筐体20搭載の各地震計の計測軸を示す図である。本実施形態のケーブル式の海底地震計は
図4に示すように、筒型の耐圧容器(地震計筐体20)にX軸、Y軸、 Z軸の3方向に感度軸を持つ3成分の加速度計が搭載されている。
【0125】
X軸は地震計筐体20の長軸方向(ケーブル軸)に一致しており、X軸、Y軸、Z軸は互いに直交して右手系を構成している。A
X[k]、A
Y[k]、A
Z[k]は、それぞれ、X軸、Y軸、Z軸方向の地動加速度時系列である。
【0126】
なお、3成分の加速度計が左手系を構成している場合は、Z軸成分の極性を反転させ右手系に変換することが可能である。これは、左手系で計測された地動加速度時系列をB
X[k]
、B
Y[k]、B
Z[k]として、A
X[k]=B
X[k]、A
Y[k]=B
Y[k]、A
Z[k]=−B
Z[k]とすればよい。
【0127】
続いて、ステップ2で、後述する演算Aで定めるフィルタ処理を行い、地動加速度時系
列A
X[k]、A
Y[k]、A
Z[k]から、平滑化時系列S
X[k]、S
Y[k]、S
Z[k]を得る(ST2)。
【0128】
続いて、ステップ3で、後述する演算Bに従い、平滑化時系列S
X[k]、S
Y[k]、S
Z[k]から傾斜角時系列β[k]、γ[k]を得る(ST3)。
【0129】
続いて、ステップ4で、重力加速度時系列S[k]と、傾斜角時系列β[k]、γ[k]の妥当性を判定する(ST4)。S[k]は、その場所での重力加速度であり、標準重力加速度と大きく
相違することは起こりにくい。そこで、本実施形態では、求められた重力加速度が、標準重力加速度と大きな相違があると判定される場合には妥当性を欠くものと判定している。
【0130】
β[k]は、地震計筐体のpitch角であり海底面の傾斜角にほぼ沿うため大きな角度となることは起こりにくい。そこで、本実施形態では、このpitch角が大きな角度となった場合
に、妥当性を欠くものと判定している。
【0131】
また、γ[k]は地震計筐体のroll角であり設置初期のroll角から大きく回転することは
起こりにくい。そこで、求められるγ[k]が、設置初期のroll角から大きく相違している
場合、妥当性を欠くものと判定している。
【0132】
また、S[k]、β[k]、γ[k]ともに時間的に急激に変化することは起こりにくい。
【0133】
上記のような各観点から、本実施形態では、下記の式のいずれかを満たす場合に異常と判定して警告を発する。
【0139】
【数6】
ただし、β[k]、β[k−1]、β
th、β
0、Δβ
thΔTのとりうる値の範囲は−π/2からπ/2、γ[k]、γ[k−1]、γ
th、γ
0、Δγ
thΔTのとり得る値の範囲は−πからπ、とする。
【0140】
ここで、S
th、β
th、γ
th、ΔS
th、Δβ
th、Δγ
thは判定に用いる閾値である。実施例では、S
0は標準重力加速度(980.665gal)、β
0、γ
0は、従来方法で求めた設置初期の角度とし、S
thは10gal、β
th、γ
thは、45度、ΔS
thは1gal毎秒、Δβ
th、Δγ
thは、1度毎秒とした。このように本実施形態では、重力加速度時系列と傾斜角時系列の妥当性を判定することが可能なので、傾斜補正が正しく行われたかを検証することが可能となる。
【0141】
続いて、ステップ5で、後述する演算Cに従い、地動加速度時系列A
X[k]、A
Y[k]、A
Z[k]と傾斜角時系列β[k]、γ[k]から、傾斜補正済み加速度時系列A
H1[k]、A
H2[k]、A
UD[k]を得る(ST5)。
【0142】
ここで、A
H1[k]、A
H2[k]は水平面内にあるH1軸、H2軸方向の傾斜補正済み加速度時系列であり、A
UD[k]は鉛直軸(UD軸)方向の傾斜補正済み加速度時系列である。このようにして、地震計筐体20が仮想的に水平に設置された状態にある場合の地動加速度時系列を得て、傾斜補正演算が完了する。
【0143】
次に演算Aについて説明する。平滑化処理は、地動加速度時系列A
X[k]、A
Y[k]、A
Z[k]を入力として、平滑化時系列S
X[k]、S
Y[k]、S
Z[k]を出力とするローパスフィルタ処理とし
て行う。
【0144】
本実施形態では、平滑化時系列を得るためのローパスフィルタとして、M次の無限イン
パルス応答フィルタをN段縦列接続した多段フィルタを用いる。このフィルタのi段目の処理は、X
i[k]をi段目のフィルタ処理への入力時系列、X
i+1[k]をi段目のフィルタ処理からの出力時系列として、下記の数式に従い実現することができる。
【0145】
【数7】
式(7)はi段目の処理であるため、これを、iについて1を初期値として1ずつ増加させながらNまで行う。なお、
【0147】
【数9】
はフィルタ係数である。また、フィルタ全体の入出力は、
入力がX
1[k]= A
X[k]のとき、出力はS
X[k]=X
N+1[k] 、
入力がX
1[k]=A
Y[k]のとき、出力はS
Y[k]=X
N+1[k] 、
入力がX
1[k]=A
Z[k]のとき、出力はS
Z[k]=X
N+1[k] 、
となる。
【0148】
ここで、式(8)と式(9)のフィルタ係数としては、1次フィルタ(M=1)の場合は
、f
iをi段目のフィルタのカットオフ周波数とすれば、
【0149】
【数10】
2次フィルタ(M=2)の場合は、f
iをi段目のフィルタのカットオフ周波数、h
iをダンピ
ングとすれば、
【0151】
【数12】
本実施形態では、N=4、M=1、を用いた。なお、i段目のフィルタごとにフィルタの次数Mを可変とする構成も可能である。
【0152】
図5は、本実施形態の平滑化手段122でのA
X[k]からS
X[k]を得る多段フィルタの処理を示すフローチャートである。平滑化手段122は、上記の計算を
図5に示すフローチャートに示す各ステップで実現する。
【0153】
図5のフローチャートにおいて、まず、ステップ11で、多段フィルタへの入力処理として
【0155】
次に、ステップ12で、1段目のフィルタ処理として、
【0157】
次に、ステップ13で、2段目のフィルタ処理として、
【0159】
次に、ステップ14で、3段目のフィルタ処理として、
【0161】
次に、ステップ15で、4段目のフィルタ処理として、
【0163】
最後に、ステップ16で、多段フィルタからの出力処理として
【0165】
なお、X
1[k−1]、X
2[k−1]、X
3[k−1]、X
4[k−1]、X
5[k−1]、は時間ステップk−1の処理において既知となっている。
【0169】
以上の処理を時間ステップ毎に行う。このようにすると地動加速度時系列A
X[k]から平
滑化時系列S
X[k]を得ることができる。A
Y[k]、A
Z[k]からS
Y[k]、S
Z[k]を得る場合につい
ても同様である。本実施形態では、多段フィルタの入力X
1[k]から出力X
5[k]を得るためには、X
1[k−1]、X
2[k−1]、X
3[k−1]、X
4[k−1]、X
5[k−1]、の5個の値を記憶しておくだ
けでよいので、ハードウエアにおける必要な記憶容量の削減が可能である。
【0170】
ここで、地震動計測装置10の地震計筐体20を初期に起動した際における処理について説明する。
【0171】
1次フィルタ(M=1)の場合、装置の起動時、すなわち時間ステップk=0において必要と
なる値のうち、X
i[-1],X
i+1[-1]は未知である。また、2次フィルタ(M=2)の場合、時間ステップk=0において必要となる値のうち、X
i[-1],X
i[-2],X
i+1[-1],X
i+1[-2]が未知である。
【0172】
このような場合、従来は、斎藤(1978)「漸化式ディジタル・フィルターの自動設計」のP115. サブルーチン(recfil)で行っているように、未知の値を全て0と置くことが行われてきた。(非特許文献4:斎藤「漸化式ディジタル・フィルターの自動設計」、物理探鉱、32, 240--263. 参照。)
これは、
M=1のときは、フィルタ演算を
k=0の場合
【0174】
【数22】
と式を切り替えて実行することに相当する。
また、
M=2のときは、フィルタ演算を
k=0の場合
【0177】
【数25】
と式を切り替えて実行することに相当する。
【0179】
【数26】
として実行することに相当する。
【0180】
しかしながら、本実施形態で行うような、時定数の長い平滑化処理の場合は未知の値を0とおくとフィルタの初期応答が静定するまでの時間が長くかかる。これは警報処理を即
時に開始するためには好ましくない。そのため、本実施形態では、値が未知のX
i[-1]、X
i[-2]をX
i[0]に等しいと仮定する。また、X
i+1[-1]、X
i+1[-2]がX
i+1[0]に等しいことを仮定する。
【0181】
これは、
M=1のときは、フィルタ演算を
【0182】
【数27】
とすること、よって、
k=0の場合
【0184】
【数29】
と式を切り替えることに相当する。
【0185】
また、
M=2のときは、フィルタ演算を
【0186】
【数30】
とすること、よって、
k=0の場合
【0189】
【数33】
と式を切り替えることに相当する。
【0193】
図9は、未知の値を0に初期化する従来方法での平滑化と本実施形態の初期化による平
滑化の結果を比較した図である。これによれば、本実施形態の方法ではフィルタの初期応答が静定するまでの時間が短縮されているのがわかる。
【0195】
ケーブル式の海底地震計は
図4に示すように、筒型の耐圧容器(地震計筐体20)にX
軸、Y軸、Z軸の3方向に感度軸を持つ3成分の加速度計が搭載されている。X軸は地震計
筐体20の長軸方向(ケーブル軸)に一致しており、X軸、Y軸、Z軸は互いに直交して右
手系を構成している。
【0196】
図6は、本実施形態の地震計筐体20の傾斜補正前と傾斜補正後の計測軸を説明する図である。ここで、傾斜補正済みの状態(状態A)として、3成分の加速度計の各計測軸を
、
図6の(1)のように配置する。すなわち、X軸は水平面内にある基準軸H1軸に一致さ
せ、Z軸は上向きを正として鉛直方向(UD軸)に一致させる。このときY軸は水平面内にあるH2軸と一致する。なお、ここでX, Y, Zの各軸は、座標系ではなく地震計筐体20に固
定されているものとする。
【0197】
次に、状態AからY軸回りにβ[k]回転させた状態として
図6の(2)に示した状態Bを考える。ここで、Y軸回りの回転角であるβ[k]は時間ステップkでの地震計筐体20の水平面からの傾斜角(pitch角)である。さらに、状態BからX軸回りにγ[k]回転させた状態として
図6の(3)に示した状態Cを考える。ここで、X軸回りの回転角であるγ[k]
は時間ステップkでの地震計筐体20の長軸回りの回転角(roll角)である。なお、Z軸回
りの回転角は常に0とする。状態Cが傾斜補正を行っていない状態に相当する。
【0198】
状態Aから状態Cへは、はじめにY軸回りにβ[k]回転、つぎにX軸回りにγ[k]回転する
ことで遷移する。したがって、A
X[k]、A
Y[k]、A
Z[k]をX, Y, Z軸方向の加速度時系列、A
H1[k]、A
H2[k]、A
UD[k]をH1, H2, UD軸方向の加速度時系列とすれば、回転行列を用いて、
【0203】
により変換がなされる。また、状態Cから状態Aへは、はじめにX軸回りに−γ[k]回転、
次にY軸回りに−β[k]回転することで遷移する。したがって、
【0206】
海底地震計(地震計筐体20)のセンサとして3軸の加速度計が使用されている場合は
、加速度計で重力加速度が計測されることを利用して設置傾斜角を求めることが可能である。
【0207】
地動加速度時系列A
X[k]、A
Y[k]、A
Z[k]を平滑化した平滑化時系列S
X[k]、S
Y[k]、S
Z[k]からは振動成分が除去されるため、重力加速度の影響のみが残る。この時は式(38)と(A
H1[k]=0、A
H2[k]=0、A
UD[k]=A
G)から下記が成り立つ。
【0209】
ここで、A
Gはその場所での重力加速度であり、
【0213】
とすれば、式(36)、式(37)、式(39)、式(40)、式(41)により、
【0217】
なお、式(43)は4象限逆正接関数(atan2)を用いればγ[k]=atan2(G
Y,G
Z)として求められる。β[k]は−π/2からπ/2、γ[k]は−πからπまでの値をとるものとする。
【0218】
このようにして、を式(40)、式(41)、式(42)、式(43)を用いてS[k]、β[k]、γ[k]が、S
X[k]、S
Y[k]、S
Z[k]から計算される。
【0219】
次に演算Cについて説明する。
連続的にβ[k]とγ[k]を求めることができれば、式(38)により連続的に傾斜補正を行うことができる。
【0220】
式(36)、式(37)、式(38)から、
【0232】
から、式(44)、数式(45)、式(46)を、
【0236】
と、β[k]とγ[k]を用いずに表現することもできる。
【0237】
このようにして、式(44)、式(45)、式(46)を用いれば、地動加速度時系列A
X[k]、A
Y[k]、A
Z[k]と傾斜角時系列β[k]、γ[k]から、傾斜補正済み加速度時系列A
H1[k]、A
H2[k]、A
UD[k]を得ることができる。
【0238】
また、式(52)、式(53)、式(54)を用いれば、地動加速度時系列A
X[k]、A
Y[k]、A
Z[k]と平滑化時系列S
X[k]、S
Y[k]、S
Z[k]から、傾斜補正済み加速度時系列A
H1[k]、A
H2[k]、A
UD[k]を得ることができる。
【0239】
図7は、本実施形態の方法により傾斜補正した地震動の水平成分(H2軸成分)と、60秒間の平均値処理に基づく従来方法により傾斜補正した地震動の水平成分(H2軸成分)を示す図である。従来方法に比べると本実施形態の傾斜補正は連続的な補正がなされていることがわかる。
【0240】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。
【0241】
図8は、本実施形態の地震動計測装置10をシステムとして構築した場合を示す図である。図中、10は地震動計測システム、200は地震計、Nは通信ネットワーをそれぞれ示している。
【0242】
この地震動計測システム1では、複数の地震計200で観測された地震動を、通信ネットワークNを通じ他の機器やデータセンターに転送し、観測点とは離れた場所で傾斜補正部120を有する地震動計測装置10による傾斜補正を行うものである。
【0243】
ここで、傾斜補正処理を行う地震動計測装置10は通信ネットワークN上に複数存在してもよい。このような地震動計測システム1においても、常時連続的に傾斜補正が実行できるという本方法の利点が活かされる。
【0244】
以上、本発明に係る地震動計測装置10、地震動計測システム1及び地震計の傾斜補正方法は、傾斜角決定手段(ステップ)から送られた前記傾斜角時系列を用いて、地動加速度時系列取得手段(ステップ)から送られた地動加速度時系列の傾斜補正を行い、傾斜補正済み加速度時系列を得る傾斜補正手段(ステップ)を備えており、このような本発明に係る地震動計測装置10、地震動計測システム1及び地震計の傾斜補正方法によれば、傾
斜補正手段(ステップ)によって、地動加速度時系列の傾斜補正を、サンプリング周波数の時間間隔で行うことが可能となり、迅速的確な警報処理に資することができる。また、本発明によれば、移動平均や移動中央値等の手法を用いて連続的に行う必要がなく、計算のために必要となる処理や記憶容量が過大になることがない。
【符号の説明】
【0245】
1・・・地震動計測システム
10・・・地震動計測装置
20・・・地震計筐体
25・・・X軸成分加速度計
26・・・Y軸成分加速度計
27・・・Z軸成分加速度計
35・・・AD変換器
36・・・AD変換器
37・・・AD変換器
40・・・ケーブル
50・・・データセンター
100・・・処理部
110・・・制御・演算部
115・・・計測部
120・・・傾斜補正部
121・・・地動加速度時系列取得手段
122・・・平滑化手段
125・・・傾斜角決定手段
126・・・傾斜角判定手段
128・・・傾斜補正手段
130・・・警報処理部
141・・・通信部
142・・・表示部
145・・・警報出力部
147・・・時刻校正部
149・・・電源部
150・・・電源装置
153・・・蓄電池
200・・・地震計
N・・・通信ネットワーク