特許第6872801号(P6872801)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6872801
(24)【登録日】2021年4月22日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】高防湿性接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 127/08 20060101AFI20210510BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20210510BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   C09J127/08
   C09J11/06
   C09J11/08
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2018-51913(P2018-51913)
(22)【出願日】2018年3月20日
(65)【公開番号】特開2019-163384(P2019-163384A)
(43)【公開日】2019年9月26日
【審査請求日】2021年1月22日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000205742
【氏名又は名称】株式会社オーシカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水崎 泰友
(72)【発明者】
【氏名】兼城 健司
【審査官】 河島 拓未
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−328672(JP,A)
【文献】 特開2015−159090(JP,A)
【文献】 特開昭63−270710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニリデン樹脂を含むエマルジョンと、塩化ビニリデン樹脂の結晶化を阻害する結晶化阻害剤とを含む高防湿性接着剤組成物であって、前記塩化ビニリデン樹脂を含むエマルジョン100質量部に対し、前記結晶化阻害剤を1〜10質量部の範囲で含むことを特徴とする高防湿性接着剤組成物。
【請求項2】
請求項1記載の高防湿性接着剤組成物において、前記結晶化阻害剤は、安息香酸エステル系可塑剤、アクリル系可塑剤、アジピン酸エーテル系可塑剤、コハク酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、ジブチルジグリコール、ブチルカルビトールアセテートからなる群から選択される1種の化合物であることを特徴とする高防湿性接着剤組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の高防湿性接着剤組成物において、前記塩化ビニリデン樹脂を含むエマルジョン100質量部に対し、粘性調整剤を0.1〜10質量部の範囲で含むことを特徴とする高防湿性接着剤組成物。
【請求項4】
請求項3記載の高防湿性接着剤組成物において、前記粘性調整剤は、アクリル系粘性調整剤、ウレタン系粘性調整剤、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、キサンタンガム、ダイユータンガム、グアーガム、ポリアクリル酸ナトリウム、二酸化ケイ素からなる群から選択される1種の化合物であることを特徴とする高防湿性接着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高防湿性接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、住宅のドア等の内装部材として、木質材料からなる枠体の両面に面材を接着したサンドイッチ構造を有するフラッシュパネルが用いられている。前記フラッシュパネルでは、高い防湿性能が必要とされる場合には、前記ドアの内部となる前記面材の裏面に防湿フィルムを接着することが行われている。ところが、このようにする場合には、前記面材の裏面に防湿フィルムを接着した後、該防湿フィルムに前記枠材を接着するという2つの製造工程が必要になる。
【0003】
一方、住宅等の内装部材に塗布して防湿性を付与する塗料として、塩化ビニリデン樹脂を含む防湿塗料組成物が知られている(例えば、特許文献1参照)。前記ビニリデン樹脂は結晶性が高いので、前記防湿塗料組成物の被膜によれば前記内装部材に優れた防湿性を付与することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−269425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記フラッシュパネルにおいて、製造工程を簡略化するために、前記防湿フィルムに代えて前記塩化ビニリデン樹脂を含む建材用防湿塗料組成物を塗布して被膜を形成し、該被膜を接着剤として前記枠体を接着できれば好都合である。
【0006】
しかしながら、前記塩化ビニリデン樹脂は接着剤として用いた場合、十分な接着性能を得ることができないという不都合がある。
【0007】
本発明は、かかる不都合を解消して、その被膜により塗布対象物に優れた防湿性を付与することができる一方、優れた接着性能を備える高防湿性接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、塩化ビニリデン樹脂を含む防湿性塗料組成物を接着剤としたときに、十分な接着性能を得ることができない理由について、鋭意検討した。その結果、塩化ビニリデン樹脂の優れた結晶性が接着性能を阻害しており、結晶性を調整することにより優れた接着性能が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
そこで、本発明の高防湿性接着剤組成物は、前記目的を達成するために、塩化ビニリデン樹脂を含むエマルジョンと、塩化ビニリデン樹脂の結晶化を阻害する結晶化阻害剤とを含む高防湿性接着剤組成物であって、前記塩化ビニリデン樹脂を含むエマルジョン100質量部に対し、前記結晶化阻害剤を1〜10質量部の範囲で含むことを特徴とする。
【0010】
高防湿性接着剤組成物は、塩化ビニリデン樹脂を含むので、塗布対象物に塗布されたときにその乾燥被膜により優れた防湿性を付与することができる一方、前記結晶化阻害剤により塩化ビニリデン樹脂の結晶化を調整して優れた接着性能を得ることができる。
【0011】
発明の高防湿性接着剤組成物は、前記塩化ビニリデン樹脂を含むエマルジョン100質量部に対し、前記結晶化阻害剤の含有量が1質量部未満であるときには、該塩化ビニリデン樹脂の結晶性が過大になり、十分な接着性能を得ることができない。また、本発明の高防湿性接着剤組成物は、前記塩化ビニリデン樹脂を含むエマルジョン100質量部に対し、前記結晶化阻害剤の含有量が10質量部を超えるときには、該塩化ビニリデン樹脂の結晶性が過小になり、塗布対象物に十分な防湿性を付与できない。
【0012】
本発明の高防湿性接着剤組成物において、前記結晶化阻害剤としては、例えば、安息香酸エステル系可塑剤、アクリル系可塑剤、アジピン酸エーテル系可塑剤、コハク酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、ジブチルジグリコール、ブチルカルビトールアセテートからなる群から選択される1種の化合物を用いることができる。
【0013】
本発明の高防湿性接着剤組成物は、さらに、前記塩化ビニリデン樹脂を含むエマルジョン100質量部に対し、粘性調整剤を0.1〜10質量部の範囲で含むことが好ましい。本発明の高防湿性接着剤組成物は、前記粘性調整剤を含むことにより、作業時の塗工性を上げるという効果を得ることができる。本発明の高防湿性接着剤組成物は、前記塩化ビニリデン樹脂を含むエマルジョン100質量部に対し、前記粘性調整剤の含有量が0.1質量部未満であるときには、塩化ビニリデン樹脂を含むエマルジョンの粘度が上がらず、塗工性を改善することができないことがある。また、本発明の高防湿性接着剤組成物は、前記塩化ビニリデン樹脂を含むエマルジョン100質量部に対し、前記粘性調整剤の含有量が10質量部を超えるときには、エマルジョンのショックが発生し、うまく混合することができないことがある。
【0014】
本発明の高防湿性接着剤組成物において、前記粘性調整剤としては、例えば、アクリル系粘性調整剤、ウレタン系粘性調整剤、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、キサンタンガム、ダイユータンガム、グアーガム、ポリアクリル酸ナトリウム、二酸化ケイ素からなる群から選択される1種の化合物を用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0016】
本実施形態の高防湿性接着剤組成物は、塩化ビニリデン樹脂を含むエマルジョンと、塩化ビニリデン樹脂の結晶化を阻害する結晶化阻害剤とを含み、前記塩化ビニリデン樹脂を含むエマルジョン100質量部に対し、前記結晶化阻害剤を1〜10質量部の範囲で含む。
【0017】
前記塩化ビニリデン樹脂を含むエマルジョンは、塩化ビニリデン単量体の単独重合物を含むエマルジョンであってもよく、塩化ビニリデン単量体と、これと共重合可能な1種以上の他の単量体との共重合体のエマルジョンであってもよい。塩化ビニリデン共重合体ラテックスとしては、例えば、旭化成株式会社製、サランラテックス(登録商標)の各グレード品を用いることができる。
【0018】
また、前記結晶化阻害剤としては、例えば、安息香酸エステル系可塑剤、アクリル系可塑剤、アジピン酸エーテル系可塑剤、コハク酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、ジブチルジグリコール、ブチルカルビトールアセテートからなる群から選択される1種の化合物を用いることができる。前記結晶化阻害剤は、TVOCを発生させる可能性があることから、沸点200℃以上の化合物であることがさらに好ましい。
【0019】
また、本実施形態の高防湿性接着剤組成物は、さらに、前記塩化ビニリデン樹脂を含むエマルジョン100質量部に対し、粘性調整剤を0.1〜10質量部の範囲で含むことが好ましい。前記粘性調整剤としては、例えば、アクリル系粘性調整剤、ウレタン系粘性調整剤、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、キサンタンガム、ダイユータンガム、グアーガム、ポリアクリル酸ナトリウム、二酸化ケイ素からなる群から選択される1種の化合物を用いることができる。
【0020】
本実施形態の高防湿性接着剤組成物は、住宅のドア、壁等の高い防湿性を必要とする内装材料等を塗布対象物として、該塗布対象物に優れた防湿性を付与する一方、その優れた接着性能により、該塗布対象物を他の被着材に接着する用途等に好適に用いることができる。このような用途として、例えば、フラッシュパネルの一方の面材を塗布対象物とし、該面材に枠体を接着する用途等を挙げることができる。
【0021】
次に、本発明の実施例及び比較例を示す。
【実施例】
【0022】
〔実施例1〕
本実施例では、まず、ガラス製フラスコに塩化ビニリデン共重合ラテックス(旭化成株式会社製、商品名:サランラテックス L502、固形分50質量%)を93質量部取り、ステンレス製の撹拌羽で撹拌しながら、粘性調整剤(株式会社ADEKA製、商品名:アデカノール UH−420、固形分30質量%)2質量部と、結晶化阻害剤としてのジブチルジグリコール(日本乳化剤株式会社製)5質量部とを添加して、高防湿性接着剤組成物を得た。
【0023】
次に、本実施例で得られた高防湿性接着剤組成物について、最低造膜温度、透湿抵抗、接着強さ、材料破断率をそれぞれ次のようにして測定した。結果を表1に示す。
【0024】
〔最低造膜温度〕
本実施例で得られた高防湿性接着剤組成物を、各温度環境下で平滑なアルミニウム箔上にフィルムアプリケーターを用いて100μmの厚さに塗布し、透明な膜を形成する温度と膜を形成しない温度との境界を測定し、透明な膜を形成する温度を最低造膜温度とする。
【0025】
〔透湿抵抗〕
JIS A 1324「建築材料の透湿性測定方法」5.2カップ法に基づいて測定する。
【0026】
まず、本実施例で得られた高防湿性接着剤組成物を、ボード紙に接着剤を200g/mの量で塗布し、2日間養生したものを試料とする。次に、前記試料の表面に予め透湿させる範囲がわかるように印を付け、吸湿剤として所定量の塩化カルシウムを収容した透湿カップに前記試料を取り付ける。
【0027】
前記透湿カップは、250mm角、深さ30mmの内寸を備える下部に、300mm角、深さ30mmの内寸を備える上部が連設され、下部と上部との間に段差部が形成されている。前記吸湿剤は前記透湿カップの下部に収容されており、前記試料は前記段差部に取り付けられる。
【0028】
次に、前記透湿カップに取り付けられた前記試料の周囲をアルミニウムテープでシールする一方、該試料の透湿させる範囲以外の部分をパラフィンワックスでシールし、透湿させる範囲以外からの透湿が生じないようにする。
【0029】
次に、前記透湿カップを、23℃、相対湿度50%の環境の恒温恒湿槽内に静置し、所定の時間間隔毎に質量を測定し、その質量変化から次式に従って透湿抵抗(msPa/ng)を求める。
【0030】
透湿抵抗(msPa/ng)=(P−P)×A/G
:恒温恒湿槽内の空気の水蒸気圧(1405.5Pa、23℃、相対湿度50%の環境の水蒸気圧)
:透湿カップ内の空気の水蒸気圧(0Pa)
A:透湿面積(透湿させる範囲の面積、m
G:測定時間毎の質量の増加量(ng/s)
〔接着強さ、材料破断率〕
本実施例で得られた高防湿性接着剤組成物を、ラワン合板と合板裏打ちしたMDF(中密度繊維板)との接着面に200g/mの塗布量(乾燥前の塗布量)で塗布し、20℃の環境下、圧締圧力0.01MPa、圧締時間1時間の条件で接着し、試験面積40mm×40mm、試験速度3.0mmの条件で平面引張り試験を行い、接着強さと材料破断率とを求めた。
【0031】
〔実施例2〕
本実施例では、塩化ビニリデン共重合ラテックス(旭化成株式会社製、商品名:サランラテックス L502、固形分50質量%)を90質量部、粘性調整剤(株式会社ADEKA製、商品名:アデカノール UH−420、固形分30質量%)を5質量部、結晶化阻害剤としてのジブチルジグリコール(日本乳化剤株式会社製)を5質量部とした以外は、実施例1と全く同一にして高防湿性接着剤組成物を得た。
【0032】
次に、本実施例で得られた高防湿性接着剤組成物について、最低造膜温度、透湿抵抗、接着強さ、材料破断率を、実施例1と全く同一にして測定した。結果を表1に示す。
【0033】
〔比較例1〕
本比較例では、塩化ビニリデン共重合ラテックス(旭化成株式会社製、商品名:サランラテックス L502、固形分50質量%)のみを接着剤組成物とした。
【0034】
次に、本比較例の接着剤組成物について、最低造膜温度、透湿抵抗、接着強さ、材料破断率を、実施例1と全く同一にして測定した。結果を表1に示す。
【0035】
〔比較例2〕
本比較例では、塩化ビニリデン共重合ラテックス(旭化成株式会社製、商品名:サランラテックス L502、固形分50質量%)を95質量部、粘性調整剤(株式会社ADEKA製、商品名:アデカノール UH−420、固形分30質量%)を5質量部とし、結晶化阻害剤を全く用いなかった以外は、実施例1と全く同一にして接着剤組成物を得た。
【0036】
次に、本比較例で得られた接着剤組成物について、最低造膜温度、透湿抵抗、接着強さ、材料破断率を、実施例1と全く同一にして測定した。結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
表1から、塩化ビニリデン樹脂を含むエマルジョン(塩化ビニリデン共重合ラテックス)と、塩化ビニリデン樹脂の結晶化を阻害する結晶化阻害剤としてのジブチルジグリコールとを含む実施例1、2の高防湿性接着剤組成物によれば、最低造膜温度が5℃と低く、接着強さ及び材料破断率が大きく優れた接着性能を備える上、透湿抵抗も高く、塗布対象物に優れた防湿性を付与することができることが明らかである。
【0039】
一方、塩化ビニリデン樹脂を含むエマルジョン(塩化ビニリデン共重合ラテックス)のみからなるか、塩化ビニリデン樹脂を含むエマルジョン(塩化ビニリデン共重合ラテックス)と粘性調整剤とを含み、前記結晶化阻害剤を含まない比較例1、2の接着剤組成物によれば、透湿抵抗は実施例1、2よりも高いものの、最低造膜温度が23℃と高く、接着強さ及び材料破断率が小さく実質的に接着性能を備えていないことが明らかである。