特許第6872803号(P6872803)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6872803変速比を連続的に変えることができる、とりわけ自転車用のチェーントランスミッション
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6872803
(24)【登録日】2021年4月22日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】変速比を連続的に変えることができる、とりわけ自転車用のチェーントランスミッション
(51)【国際特許分類】
   B62M 9/04 20060101AFI20210510BHJP
   B62M 9/06 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   B62M9/04 A
   B62M9/06
【請求項の数】12
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-517327(P2018-517327)
(86)(22)【出願日】2016年10月3日
(65)【公表番号】特表2018-529577(P2018-529577A)
(43)【公表日】2018年10月11日
(86)【国際出願番号】IB2016055905
(87)【国際公開番号】WO2017056076
(87)【国際公開日】20170406
【審査請求日】2019年9月20日
(31)【優先権主張番号】102015000057739
(32)【優先日】2015年10月2日
(33)【優先権主張国】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】518109158
【氏名又は名称】イヴ・ジョゼフ・アルフレッド・モラン
【氏名又は名称原語表記】Yves Joseph Alfred MORIN
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】イヴ・ジョゼフ・アルフレッド・モラン
【審査官】 畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2004/0198542(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62M 9/04
B62M 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸(x)に対して回転可能なチェーンリング(12)と、
少なくとも1つのスプロケット(13)と、
前記回転軸(x)に対する前記チェーンリング(12)の回転運動を前記少なくとも1つのスプロケット(13)に伝達するためのチェーン(14)と、
を有する、自転車用の機械式トランスミッションであって、
前記チェーンリング(12)はディスク(16)と複数の噛合装置(22:122)とを有し、
複数の前記噛合装置(22:122)は、径方向に移動可能なように前記ディスク(16)に設けられており、前記チェーン(14)によって前記チェーンリング(12)から前記少なくとも1つのスプロケット(13)へ運動を伝達するために前記ディスク(16)を前記チェーン(14)に係合させるように配置されており、
前記トランスミッションは、前記チェーンリング(12)が前記少なくとも1つのスプロケット(13)に運動を伝達する変速比を変えるために、前記噛合装置(22:122)の径方向の位置を変えるためのシフト手段(18;60)を有しており、
各前記噛合装置(22;122)は、支持本体(24;124)と傾斜フォーク(28;128)とを有しており、
前記傾斜フォーク(28;128)は、前記チェーンリングの前記回転軸(x)と平行な第1の傾斜軸(x’)に対して傾斜可能な形態で前記各支持本体(24;124)に支持され、かつ、前記チェーン(14)のリンク(14a)を係合するために少なくとも1つの歯(28a;128a)を有しており、
前記シフト手段(18、60)は、複数のスライダ(60)とシフト部品(18)とを有し、前記複数のスライダ(60)はそれぞれ、各前記噛合装置(22)に駆動可能なように接続され、前記ディスク(16)に備えられた各径方向ガイド(20)に沿って動くことができ、前記シフト部品(18)は、前記ディスク(16)と軸方向に並置され、かつ、径方向に移動可能であり、
各スライダ(60)は、ロッキングレバー(64)を有しており、前記ロッキングレバー(64)の一方のアームには、前記ディスク(16)と噛み合い、前記スライダ(60)が予め決められた径方向の位置にあるとき、径方向に前記スライダ(60)を係合するように配置された連結装置(66)が備えられており、
前記シフト部品(18)は、前記ディスク(16)に面した少なくとも1つの湾曲ガイド(62)を有しており、前記スライダ(60)は、前記湾曲ガイド(62)を通って、前記ディスク(16)の中心に向かって又は離れて径方向に動くようにスライドでき、
各前記噛合装置(22:122)は、前記各傾斜フォーク(28;128)が前記第1の傾斜軸(x’)に対して傾斜することを妨げるためのブレーキ手段(32、38、40;132、138、140、178)を有することを特徴とする機械式トランスミッション。
【請求項2】
各前記噛合装置(22)に対して前記ブレーキ手段(32、38、40;132、138、140、178)は、
前記第1の傾斜軸(x’)に平行な第2の傾斜軸(x”)に対して傾斜できる方法で傾斜フォーク(28)に支持された傾斜部品(32)と、
前記第1の傾斜軸(x’)と前記第2の傾斜軸(x”)とに垂直な第3の軸(A)に対して、第1の位置と第2の位置との間で傾斜するように前記支持本体(24)に支持されたブレーキ部品(38)であって、前記第1の位置では、前記傾斜部品(32)と係合しておらず、前記第2の位置では、前記傾斜部品(32)が傾くことを防ぐように前記傾斜部品(32)と係合する前記ブレーキ部品(38)と、
前記ブレーキ部品(38)に作動可能なように接続されており、前記第1の位置と前記第2の位置の間の前記ブレーキ部品(38)の動きを制御する制御部品(40)とを有する、請求項1に記載のトランスミッション。
【請求項3】
前記傾斜部品(32)は、前記傾斜フォーク(28)によって偏心して支持されているディスク形状の部品(30、36)であり、前記第2の傾斜軸(x”)に対して傾斜する請求項2に記載のトランスミッション。
【請求項4】
各前記噛合装置(22)の前記ブレーキ部品(38)は、前記傾斜部品(32)に面した面(44)を有し、前記面(44)には、前記傾斜部品(32)に対して押されるように配置され、前記傾斜部品(32)が傾くことを妨げるロッキング部品(46)が配置されている請求項3に記載のトランスミッション。
【請求項5】
各前記噛合装置(22)の前記ブレーキ部品(38)、前記傾斜部品(32)及び前記支持本体(24)には、外側マグネット(48)、中間マグネット(34)及び1以上の内側マグネット(50)が配置され、前記中間マグネット(34)は、前記外側マグネット(48)に引きつけられかつ前記内側マグネット(50)に反発するように配置される前記請求項3又は4に記載のトランスミッション。
【請求項6】
各前記噛合装置(22)の前記制御部品(40)は、前記チェーン(14)が前記傾斜フォーク(28)の前記少なくとも1つの歯(28a)と完全に噛合すると、前記チェーン(14)と協働して、前記ブレーキ部品(38)を前記第1の位置から前記第2の位置へ動かすように配置された弾性スペーサ(42)を有する請求項5に記載のトランスミッション。
【請求項7】
各前記噛合装置(122)に対して前記ブレーキ手段(32、38、40;132、138、140、178)は、
前記傾斜フォーク(128)に支持され、前記第1の傾斜軸(x’)に対して傾斜可能に前記傾斜フォークに駆動連結された第1プレート群(132)と、前記支持本体(124)に設けられた第2プレート群(178)と、
第1の位置と第2の位置との間で、前記第1の傾斜軸(x’)に垂直な第3の傾斜軸(A)に対して傾くために前記支持本体(124)に支持されているブレーキ部品(138)と、
前記ブレーキ部品(138)に動作可能に接続され、前記第1の位置と前記第2の位置との間で前記ブレーキ部品(138)の動きを制御する制御部品(140)とを有しており、
前記第1プレート群(132)と前記第2プレート群(178)との少なくとも1つのプレートは摩擦裏張りが設けられており、
前記第1の位置で、前記ブレーキ部品(138)は、前記第1プレート群(132)のプレートと前記第2プレート群(178)のプレートとを互いに押しつけ合わず押さず、前記第2の位置で、前記ブレーキ部品(138)は、前記第1プレート群(132)と前記傾斜フォーク(128)とによって形成された組み立て部品が傾斜すること防ぐために前記第1プレート群(132)のプレートと前記第2プレート群(178)のプレートとを互いに押しつける、請求項1に記載のトランスミッション。
【請求項8】
マグネット(148)が各前記噛合装置(122)の前記ブレーキ部品(138)に設けられており、
前記マグネット(148)は前記ブレーキ部品(138)をチェーンリンク(14a)に引きつけ、
前記マグネット(148)は、前記ブレーキ部品(138)を前記第1の位置から前記第2の位置まで動かす請求項7に記載のトランスミッション。
【請求項9】
各前記噛合装置(122)の前記制御部品(140)は、前記チェーン(14)とともに作動するように配置された弾性のあるスペーサ(142)を備え、前記チェーン(14)が前記傾斜フォーク(128)の前記少なくとも1つの歯(128a)と完全に噛み合って、前記ブレーキ部品(138)を前記第1の位置から前記第2の位置へ動かす請求項8に記載のトランスミッション。
【請求項10】
取り外しローラ(68)は、前記取り外しローラ(68)が前記ディスク(16)に対して押されると、前記連結装置(66)が前記ディスク(16)から外されて、前記スライダ(60)が前記ディスク(16)に対して径方向へ自由にスライドできるような方法で、前記ロッキングレバー(64)のアームのうち、前記連結装置(66)を運ぶアームと反対のアームに回転可能なように取り付けられる、請求項1〜9のいずれか1つに記載のトランスミッション。
【請求項11】
前記取り外しローラ(68)が前記シフト部品(18)のより厚い部分上を回転すると、前記取り外しローラ(68)が前記ディスク(16)から前記スライダ(60)を外す下向きのスラストを受けるように、前記シフト部品(18)が可変的な厚さを有する、請求項10に記載のトランスミッション。
【請求項12】
前記スライダ(60)は、前記湾曲ガイド(62)の側壁に沿ってスライドするように配置された円柱状のハウジング(70)を有する、請求項10又は11に記載のトランスミッション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、機械式トランスミッションの分野に関する。より具体的に言うと、本発明は、変速比を連続的に変更できるトランスミッションであって、とりわけ自転車用のチェーントランスミッションに関する。
【背景技術】
【0002】
複数のチェーンリングに頼る必要を避けるため、1つのチェーンリングを通過するときチェーンの半径を変更する解決策を取り入れるシステムであって、特にチェーン機械式トランスミッションにおける変速比を変えるシステムの使用が知られている。
【0003】
自転車のチェーントランスミッションに適用されたこの種のシステムの実施例は、独国特許文献3932342号から分かる。その文献には、らせん状に配置された複数のスロット(溝)を有する溝付きディスクが開示されており、チェーンと係合するフォークはその溝にスライド自在に受け入れられる。このようにして、フォークは径方向に動き、チェーンの半径を変えることができる。しかしながらこの既知のシステムは、ディスクの中心からフォークが到達できる最大距離を変更することができないため、柔軟性がほとんどない。実際、フォークは、変更できない固定寸法であるディスクの溝のパスを通らざるを得ず、それゆえ、ディスクに対するフォークの動きは変更されることがなく、また、チェーンリングとリアスプロケットの間の変速比を変えることなく常に同じパスを通る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
添付の独立請求項1の前文で明らかにされている特徴を有するチェーントランスミッションは、米国特許文献2004/198542号に示されている。この既知の解決策によると、フォークは、各フォークがホイールの回転軸と平行な各傾斜軸に対して傾くことができるように駆動輪によって支持される。駆動輪に対するフォークの傾斜は、スプリングによって妨げられる。これは、エネルギーの一部がスプリングの圧力によって消費されてしまうため、トランスミッションの効率を低下させる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の目的は上記の問題を解決することであり、先行技術より高い効率を有する連続的可変変速比を備えるチェーントランスミッションを提供することである。
【0006】
本発明に係るこの目的と別の目的は、独立請求項1で明示される特徴を有するトランスミッションの効果によって、完全に達成される。
【0007】
本発明の有利な実施形態は、従属請求項の主題であり、その内容は以下の明細書の不可欠な部分を形成するものとして理解されるべきである。
【0008】
つまり、本発明は、トランスミッションを設けるという発想に基づいており、そのトランスミッションにおいて、各傾斜フォークは傾斜軸に対して傾くことを妨げ得る各ブレーキ手段に接続されている。傾斜フォークは固定されているので、力を無駄にすることなく、総合伝達効率を最大にする。
【0009】
本発明のさらなる態様によると、トランスミッションは、シフタによって傾斜フォークのチェーンリングに対する径方向の動きを変化させ、チェーンリングとスプロケットの間の変速比を変化させるシステムを有する。そこでは、傾斜フォークが動く経路を区切る湾曲したトラックが形成されている。湾曲したトラックによって定められた経路に従って、傾斜フォークが所望の径方向位置に配置され、チェーンに選択した半径が与えられるまで、傾斜フォークはチェーンリングの中心に対して動く。つまり、チェーンリングの中心に向かって又は離れるように動く。傾斜フォークに接続されたスライダをチェーンリングの中心に向かって又は中心から離れて動かす動力を変化させるために、シフタもまたチェーンリングに対して径方向に動かされる。この解決策により、傾斜フォークの位置を連続的に変え、その結果変速比を連続的に変化させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本発明に係る連続的可変比を有する機械式チェーントランスミッションの好ましい実施形態の構造的かつ機能的な特徴を以下の添付図を参照して説明する。
図1図1は、本発明の実施形態に係るチェーントランスミッションを用いる自転車の両方向からの概略側面図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係るチェーントランスミッションを用いる自転車の両方向からの概略側面図である。
図3図3は、図1図2のトランスミッションのチェーンリングの両方向からの概略側面図である。
図4図4は、図1図2のトランスミッションのチェーンリングの両方向からの概略側面図である。
図5図5は、本発明に係るチェーントランスミッションの噛合装置を概略的に示した分解立体図である。
図6図6は、本発明に係るチェーントランスミッションの噛合装置を概略的に示した分解立体図である。
図7A図7Aは、図5図6に係る噛合装置の一連の動作段階の概略図である。
図7B図7Bは、図5図6に係る噛合装置の一連の動作段階の概略図である。
図8A図8Aは、図5図6に係る噛合装置の一連の動作段階の概略図である。
図8B図8Bは、図5図6に係る噛合装置の一連の動作段階の概略図である。
図9A図9Aは、図5図6に係る噛合装置の一連の動作段階の概略図である。
図9B図9Bは、図5図6に係る噛合装置の一連の動作段階の概略図である。
図10A図10Aは、図5図6に係る噛合装置の一連の動作段階の概略図である。
図10B図10Bは、図5図6に係る噛合装置の一連の動作段階の概略図である。
図11図11は、本発明に係るチェーントランスミッションの噛合装置のさらなる実施形態を概略的に示した分解図である。
図12図12は、本発明に係るチェーントランスミッションの噛合装置のさらなる実施形態を概略的に示した分解図である。
図13A図13Aは、図11図12に係る噛合装置の一連の動作段階の概略図である。
図13B図13Bは、図11図12に係る噛合装置の一連の動作段階の概略図である。
図14A図14Aは、図11図12に係る噛合装置の一連の動作段階の概略図である。
図14B図14Bは、図11図12に係る噛合装置の一連の動作段階の概略図である。
図15A図15Aは、図11図12に係る噛合装置の一連の動作段階の概略図である。
図15B図15Bは、図11図12に係る噛合装置の一連の動作段階の概略図である。
図16図16は、本発明に係るチェーントランスミッションの噛合装置のさらなる2つの実施形態を概略的に示した分解図である。
図17図17は、本発明に係るチェーントランスミッションの噛合装置のさらなる2つの実施形態を概略的に示した分解図である。
図18図18は、本発明の実施形態に係るトランスミッションのチェーンリングにおいてスライダの径方向の位置を変えるためのシステムを概略射視図で示している。
図19図19は、図18のシステムのスライダを概略的に示す分解図である。
図20図20は、図18のシステムのシフタの概略射視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る多数の実施形態の詳細を説明する前に、本発明の適用は構造的な詳細と、以下の明細書に開示された又は図面に示された構成部品の構造に限定されるものではないことを明らかにしなければならない。本発明は、本明細書で開示される実施形態とは別の実施形態に従って実施されてもよい。本明細書で使用される用語や表現は、単に説明のためのものであって、本発明の保護範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0012】
添付図面の図1は、自転車に適用される機械式チェーントランスミッションの全体を示している。トランスミッション10は基本的に駆動輪又はチェーンリング12と1つ以上のスプロケット13とチェーンリング12をスプロケット13に接続するチェーン14とを有する。
【0013】
チェーンリング12は、回転軸x周りで回転可能なディスク16を有する。詳細は後述するが、ディスク16は、チェーン14によってチェーンリング12からスプロケット13へトルクを伝達するためにチェーンリング12とチェーン14との間で係合し、径方向に動くことができる噛合装置22を多数有する。
【0014】
図5図6に示されるように、各噛合装置22は、支持ケース24を有しており、傾斜フォーク28は傾斜軸x’に対して傾斜できるように支持ケース24のピン26によって支持されている。(ピン26の軸と一致する)傾斜フォーク28の傾斜軸x’は、チェーンリング12のディスク16の回転軸xと平行な方向を向いており、トランスミッションを自転車に用いる場合、ボトムブラケットの軸、つまり、ペダルクランクの回転軸と一致する。傾斜フォーク28は、チェーン14のリンク14aを係合するための歯28a(本明細書で示される実施形態では、1対の歯28aである)を少なくとも1つ備えている。各噛合装置22はさらに、例えば、ディスク形状の傾斜部品32を有しており、傾斜部品32は、支持ケース24と傾斜フォーク28との間に差し挟まれている。ピン30は、傾斜部品32を傾斜軸x”対して傾いた状態で傾斜フォーク28に設ける。(ピン30の軸と一致する)傾斜部品32の傾斜軸x”は、傾斜フォーク28は傾斜フォーク28の傾斜軸x’と平行な方向を向いている。より具体的に説明すると、ピン30は、傾斜部品32の偏心孔36に差し込まれている。
【0015】
引き続き図5図6を参照すると、各噛合装置22はさらに、傾斜フォーク28が傾斜軸x’に対して傾かないようにするためのブレーキ手段を有する。より正確に説明すると、この方法で、噛合装置22によってチェーンリング12からチェーン14へトルクを伝達できるようにするために、ブレーキ手段は傾斜部品32と連結し、傾斜部品32と傾斜フォーク28が傾くことを防ぐ。ブレーキ手段は、支持ケース本体24によって支えられており、傾斜フォーク28と傾斜部品32の間に差し込まれるブレーキ部品38を有する。ブレーキ部品38は、傾斜フォーク28の傾斜軸x’と傾斜部品32の傾斜軸x”に対して垂直に伸びる傾斜軸Aに対して、第1の位置(又は休止位置)と第2の位置(又は作動位置)の間で傾くことができる。第1の位置で、ブレーキ部品38は傾斜部品32と接しておらず、第2の位置で、ブレーキ部品は傾斜部品32がそれぞれの傾斜軸x”に対して傾斜することを防ぐために傾斜部品32と接している。ブレーキ部品38は、制御部品40によって前述の第1の位置と第2の位置の間で動かされる。さらに具体的に説明すると、ブレーキ部品38は、傾斜部品32の方を向く面44を有しており、面44には、傾斜部品32と係合するための係合部品46があり、傾斜部品32がそれぞれの傾斜軸x”に対して傾くことを防ぐ。本発明のある実施形態によると、係合部品46は、ゴム性の材料又は別の摩擦のある材料により作られる突出部によって形成され、ブレーキ部品38が第2の位置にあるとき傾斜部品32に対して付勢される。
【0016】
引き続き本発明の実施形態に係る図5図6を参照すると、ブレーキ部品38、傾斜部品32及び支持本体24にはそれぞれ、外側マグネット48、中間マグネット34及び一対の内側マグネット50(又は、代わりとして1つのみの内側マグネット50)が設けられている。マグネット48、34及び50は、中間マグネット34がブレーキ部品38に設けられた外側マグネット48に引きつけられ、支持本体24に設けられた内側マグネット50によってはね返されるように配置される。傾斜フォーク28をチェーンリンク14aに対して適切な方向に向けるように、マグネット48、34及び50は互いに作用して、傾斜部品32を傾けて配置する。内側マグネット50は、傾斜部品32の外側にあり、支持本体24の側面のタブ24a内の左右対称な位置に収容される。内側マグネット50は、中間マグネット34の極性に対して反対の極性を有するため、傾斜フォーク28がチェーンリンク14aと係合しないときにとる角度位置に、傾斜部品32を戻そうとする反発力を働かせる。さらに、好都合なことに、側面タブ24aは、支持本体24と駆動連結されたブレーキ部品38を回転可能に支持し得る。実施形態によると、傾斜部品32を受け入れるシートを形成するために、スタビライザ33が支持本体24の側面タブ24aの間に収容される。
【0017】
制御部品40は、ブレーキ部品38の面44から離されるように突出する弾性のあるスペーサ42を有する。図5図6に示された実施形態において、制御部品40は略T型形状であり、ブレーキ部品38に接続され、好ましくは平らで柔軟性があるブランチであって、ブレーキ部品38と傾斜フォーク28との間の溝に差し込まれた垂直なブランチと弾性のあるスペーサ42を形成する水平なブランチを有する。弾性のあるスペーサ42は、チェーン14が完全に傾斜フォーク28の歯28aと係合するとき、チェーン14を覆うように傾斜フォーク28の歯28aから上向きに突出する。
【0018】
図7Aから図10Bは、(図5図6に示された実施例に沿って作られた)噛合装置22がチェーンリンク14aと係合する一連の作動段階を示している。
【0019】
図7A図7Bに示された最初の段階で、チェーン14は傾斜フォーク28の歯28aにまだ接近していないので、傾斜フォーク28は休止位置にある。この状態で、ブレーキ部品38は第1の位置にあり、支持本体24の突出部24bに接する。さらに、この状態で、ブレーキ部品38に取り付けられた外側マグネット48は、傾斜部品32と連結した中間マグネット34をマグネット48自体に(つまり、図7Bを見ている人の視点からすると上向きに)引きつける。それゆえ、この最初の段階で、傾斜部品32は、傾斜部品32に連結した傾斜フォーク28が径方向(つまり、図7Aを見ている人の視点からすると垂直方向)を向き続けるような位置にある。
【0020】
図8A図8Bに示されるように、チェーンが傾斜フォーク28の歯28aに近づくと、歯はチェーンリンク14aに噛合し始める。結果的に、傾斜フォーク28は傾き、傾斜部品32を回転させ、中間マグネット34は2つの内側マグネット50の片方に接近し始める。この状態で、ブレーキ部品38に取り付けた外側のマグネット48はチェーン14によって引きつけられるが、弾性スペーサ42はチェーン14に当たり、それゆえ、ブレーキ部品38が第1の位置から第2の位置まで動くことを防ぐ。ブレーキ部品38は、第1の位置において傾斜部品32を傾斜軸x”に対して第2の位置まで自由に傾かせ、第2の位置で傾斜部品32が傾斜軸x”対して傾くことを防ぐ。
【0021】
図9A図9Bから分かるように、チェーン14が歯28aと完全に噛み合うと、弾性スペーサ42はチェーン14上を通り過ぎる。その結果、ブレーキ部品38が傾斜軸Aの周りで横軸回転し、この状態で、外側マグネット48はチェーン14に向かってブレーキ部品38を引きつけ、係合部品46を傾斜部品32に接触させる。このようにして、傾斜部品32が傾斜軸x”に対してさらに回転することは妨げられ、結果的に傾斜フォーク28は所定の位置に固定され続ける。チェーン14がブレーキ部品38によって支持本体24と駆動連結され続けられ、その間、傾斜フォーク28はトラクション力をチェーン14に伝達することができる。
【0022】
図10A図10Bは、傾斜フォーク28からチェーン14が外れ始めた状態を示している。特に、弾性スペーサ42はチェーン14と一緒に滑るように変形し始める。このようにして、ブレーキ部品38は傾斜部材32から離れ始め、チェーン14が十分に離れると、ブレーキ部品38が突出部24bに当たり、弾性スペーサ42を押し戻す。この状態で、外側マグネット48は中間マグネット34を引きつけ、傾斜フォーク28を中央の開始位置に戻す。
【実施例2】
【0023】
図11図12は、噛合装置22の変形形態を示しており、その変形形態によると、マグネット48、34及び50の代わりに機械的な部品が設けられている。
【0024】
この変形形態によると、制御部品40は、ブレーキ部品38の反対側に端部52を有するレバーである。この端部52は、傾斜フォーク28の本体のスロット53を介し、傾斜フォーク28から中心に突出する又は図視されていないが代替解決策によると、傾斜フォーク28から側方に突出する。一方、制御部品40の反対の端部54(つまり、ブレーキ側の端部)は、例えば、制御部品40のスロット54aにブレーキ部品38の湾曲リブ56を噛み合わせることによってブレーキ部品38と接続される。このようにして、傾斜フォーク28を傾けるために駆動連結された制御部品40は、ブレーキ部品38を引っ張って回転させることはないが、端部52がチェーンリンク14aによって押されると、ブレーキ部品38を傾斜フォーク28に向けて引っ張り、ブレーキを作動させる。言い換えると、チェーンリンク14aは傾斜フォーク28から突出した制御部品40の端部52を下げ、それゆえ、ブレーキ部品38をチェーン14に向けて引っ張る。結果的に、ブレーキ部品38は、傾斜部品32と噛み合うように長軸の傾斜軸Aの周りを回転する。傾斜部品32の傾きに対抗するために、上述の実施形態で見られるように、マグネットの代わりに、例えばスプリングのような弾性のある部品が備えられる。
【0025】
図13Aから図15Bは、図11図12に係る噛合装置22がチェーン14と係合し、ブレーキ部品38が休止状態から作動状態へ動く一連の動作段階を示す。
【0026】
図13A図13Bは、チェーン14が傾斜フォーク28からある任意の距離にあり、ブレーキ部品38が支持本体24の突出部24aに当たり、それゆえ、傾斜部品32から外れている状態を示す。
【0027】
図14A図14Bに示されるように、チェーン14が接近するにつれて、傾斜フォーク28は異なる角度に再配置される。制御部品40は、フォーク28の傾斜に続き、ブレーキ部品38を回転させることなく湾曲リブ56の上を滑る。
【0028】
図15Aと15Bに示されるように、チェーン14が完全に傾斜フォーク28の歯28aに噛合すると、傾斜フォーク28から突出した制御部品40の端部52は下向きに押され、もう一方の端部54によってブレーキ部品38を引きつけて作動させる。作動結果は図5図6に係る噛合装置22の実施形態と同じであるが、ブレーキ部品38の傾きの違いが固定部品46を傾斜部品32と接触させ、それゆえ、傾斜部品32と傾斜フォーク28の回転を防止し、傾斜フォーク28からチェーン14へトルクを伝達する。
【実施例3】
【0029】
本発明に係る噛合装置のさらなる2つの実施形態は、添付図面の図16図17に示されており、図5図6図11及び図12の部分や部品と一致する部分や部品は、図5図6図11及び図12の引用数字に100を加えた引用数字を付している。
【0030】
これら2つのさらなる実施形態は、傾斜フォークが傾くことを防ぐ点において、図5図6及び図11図12を参照して既に記載された実施形態のどちらとも異なる。実際、この場合、摩擦ライニング(裏張り)を備えた第1プレート群132が、ブレーキ部品138によって、摩擦ライニングを備えた第2プレート群178に押しつけられることにより、傾斜フォークが固定される(符号128で示す)。第1プレート群132は、傾斜フォーク128に支持され、傾斜軸x’に対して傾斜するように該傾斜フォーク128に駆動連結されている。第2プレート群178は、支持本体124に設けられ、該支持本体124に駆動連結されている。第1プレート群132のプレートは、第2プレート群178のプレートの間に挟まれる。図示された実施例では、第1プレート群132は3枚のプレートを有しており、第2プレート群178は4枚のプレートを有しており、第1プレート群132の各プレートは、第2プレート群178の一対の隣接するプレートの間に挟まれる。しかしながら、2つのプレート群132、178は、本明細書で開示されるものより多くのプレートを当然に有する。この場合も、ブレーキ部品138は支持本体124によって、具体的には傾斜フォーク128と第2プレート群178の第1プレートの間に支持され、第1の位置(又は休止位置)と第2の位置(又は作動位置)との間で傾斜フォーク128の傾斜軸x’に垂直な傾斜軸Aを中心に傾斜可能である。第1の位置では、ブレーキ部品138は第1プレート群132と第2プレート群178のプレートを互いに押し付け合わず、それ故傾斜フォーク128は傾斜軸x’に対して傾くことができる。第2の位置では、ブレーキ部品138は第1プレート群132と第2プレート群178のプレートを互いに押し付け合い、それ故傾斜フォーク128が傾斜軸x’を中心に傾くことを防ぐ。制御部品140によって、ブレーキ部品138は、第1の位置と第2の位置との間で動く。
【0031】
図16の実施形態に係るブレーキ部品138と制御部品140は、図5図6の実施形態のそれらの部品と同様の構造を有し、同様に作動する。それゆえ、この場合もまた、ブレーキ部品138に設けたマグネット148はブレーキ部品138をチェーンリンク14aに向けて引っ張り、それ故、ブレーキ部品138を第1の位置から第2の位置まで動かす。第1の位置から第2の位置へのブレーキ部品138の動きは、制御部品140によって、特に制御部品の弾性のあるスペ−サ42による抵抗を受ける。
【実施例4】
【0032】
一方、図17の実施形態に係るブレーキ部品138と制御部品140は、図11図12との実施形態におけるそれらの部品(ブレーキ部品と制御部品)と同様の構造を有し、同様に作動する。それゆえ、図11図12の実施形態を参照して既に説明したように、レバーの形をした制御部品140がブレーキ部品138の湾曲リブ156と相互作用することによって、ブレーキ部品138は傾斜フォーク128を固定するために第1の位置から第2の位置まで動かされる。
【0033】
最後に図3図4図18図19及び図20を参照すると、チェーンリング12のディスク16は、(図5と6、図11図12若しくは図16又は図17に示されるものと同様に作られた)噛合装置22と連結したスライダ60を備えており、噛合装置22を径方向に動かす。スライダ60は、チェーンリング12のディスク16に形成される各径方向ガイド20にスライドできるように配置され、シフタ18によりこれらのガイドに沿ってシフトさせられる。実施例において、シフタ18は半月形状で示されている。シフタ18は、チェーン14とは反対側にあるディスク16に面して配置される。シフタ18を自転車のフレームと一体になって各レール18aに沿って動かすことで(図4)、ディスク16に対するスライダ60の径方向の位置を修正することができる。レール18aに沿ってシフタ18を配置することは、例えば、使用者が変速レバーを作動させることによって不連続に調整されるか又は、予め決められたロジックに従って変速比を変化させる制御システムによって連続的に調整され得る(従って、実際は連続した可変トランスミッションを備える)。シフタ18は少なくとも1つの湾曲ガイド62を有し、ディスク16に面し、スライダ60はスライド可能なように配置される。スライダ60は、湾曲ガイド62を通ってディスク16の径方向に近づく又は中央から離れる。
【0034】
各スライダ60は、ロッキングレバー64を有しており、ロッキングレバー64は、チェーンリング12と係合する連結装置であって、スライダ60を径方向の所望の位置、つまり、予め選択された変速比を保証する径方向位置に固定する連結装置を一方のアームに有する。連結装置は、ディスク16に設けられたウェッジであって、径方向ガイド20と平行な方向へある任意の距離離された歯66aと噛み合うウェッジ66によって形成されることが望ましい。それ故、各歯66aは、スライダ60が停止する所定の径方向位置に対応する。便宜的に、マグネットボタン67は、ウェッジ66に関連づけられており、ロッキングレバー64が揺れることでウェッジ66が持ち上げられると、(図19に示すように)より強い固定力を保証する、及び/又は、ウェッジ66をディスク16に向けて引っ張る。
【0035】
取り外しローラ68は、ロッキングレバー64のアームであって、ウェッジ66を運ぶアームと反対のアームに回転駆動可能なように取り付けられることが好ましく、そのような方法で、取り外しローラ68がディスク16に向けて押されると、ウェッジ66は持ち上げられ、ディスク16から外れ、それゆえ、スライダ60はディスク16に対して径方向に自由にスライドする。ロッキングレバー64は実際、ピン65の中間位置で旋回させられ、それゆえ、取り外しローラ68を運ぶアームが下がるとウェッジ66が持ち上げられて歯66aから外され、それにより、各スライダ60を径方向に解放する。便宜的に、取り外しローラ68は、シフタ18に可変的な厚み(図20に示されるように、より厚い領域は符号18bで示される)を設けることで下ろされ、そのような状態で、取り外しローラ68がより厚い領域上を転がると、取り外しローラ68はディスク16からスライダ60を取り外す下向きのスラスト(推力)を受ける。
【0036】
実施形態によると、各スライダ60はそれぞれ、湾曲ガイド62の側壁にそってスライドするように配置された円柱状のハウジング70を有する。例えば、湾曲ガイド62に沿った滑りをよくするために、円柱状のハウジング70はテフロン(登録商標)で作ってもよい。チェーンリング12をスライダ60の径方向に滑り易くするために、第2ローラ74は回転駆動可能なように、例えば、ピン65の中間に回転自在に設けられてもよい。任意ではあるが、中間ピン65が通る径方向の穴を有しており、第2ローラ74が円柱状のスリーブ72の内側にあるために、円柱状のスリーブ72はロッキングレバー64を収容してもよい。図18と19に示されるように、組み立て部品全体は円柱状のハウジング70に収容してもよい。
【0037】
シリンダ60から突出した杭76はディスクを介して、スライダ60を、例えば、傾斜フォーク28に設けられた各噛合装置22に接続する。
【0038】
上記の説明から明らかなように、本発明は確実性があり、非常に効率的なトルク伝達システムであり、所望の変速比を連続設定ことが非常に容易であり、トルク伝達を妨げることなく変速比を変化させることを可能にする。さらに、本発明に係るトランスミッションはチェーンリングの回転方向とは無関係に使用可能である。
【0039】
連続的に変化可能な変速比を有する機械式トランスミッションの様々な態様と実施形態を説明した。各実施形態は本明細書に記載された別の実施形態と組み合わせることができると理解されるべきである。さらに、本発明は、本発明に記載された実施形態に制限されないが、従属請求項によって示された範囲で変形してもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図11
図12
図13A
図13B
図14A
図14B
図15A
図15B
図16
図17
図18
図19
図20