特許第6872841号(P6872841)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アサマ化成株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人お茶の水女子大学の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6872841
(24)【登録日】2021年4月22日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】脂肪低減組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20210510BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20210510BHJP
   A23L 33/17 20160101ALI20210510BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20210510BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20210510BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   A61K39/395 D
   A61K39/395 N
   A61K39/395 R
   A23L2/00 F
   A23L33/17
   A61K45/00
   A61P3/04
   A61P43/00 121
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-93119(P2014-93119)
(22)【出願日】2014年4月28日
(65)【公開番号】特開2015-209413(P2015-209413A)
(43)【公開日】2015年11月24日
【審査請求日】2017年4月7日
【審判番号】不服2019-15526(P2019-15526/J1)
【審判請求日】2019年11月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000101215
【氏名又は名称】アサマ化成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】305013910
【氏名又は名称】国立大学法人お茶の水女子大学
(74)【代理人】
【識別番号】100122574
【弁理士】
【氏名又は名称】吉永 貴大
(72)【発明者】
【氏名】塩野谷 博
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 豪
(72)【発明者】
【氏名】北村 香織
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 恵美子
(72)【発明者】
【氏名】伊坂 亜友美
【合議体】
【審判長】 佐々木 秀次
【審判官】 西村 亜希子
【審判官】 齋藤 恵
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/013904(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/081834(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/08337(WO,A1)
【文献】 特表2001−525314(JP,A)
【文献】 特開2007−330193(JP,A)
【文献】 特開2013−226134(JP,A)
【文献】 特開2011−231035(JP,A)
【文献】 特表2008−535619(JP,A)
【文献】 特表2011−509249(JP,A)
【文献】 日本食品科学工学会誌,2009年,Vol.56, No.9,p.475−482
【文献】 標準微生物学,1997年,第6版第2刷,p.111,112,126,127
【文献】 日本食品科学工学会誌,2011年,Vol.58, No.6,p.236−244
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
A61P 1/00-43/00
BIOSIS/MEDLINE/EMBASE/CA(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗ヒト病原細菌抗体及び抗エンドトキシン抗体を有効成分として含有し、消化管エンドトキシンレベルを下げ、エンドトキシンの体内移行を低減させることによって、脂肪の蓄積を低減させるために使用される、脂肪低減組成物であって、
抗ヒト病原細菌抗体が、下記a)に記載された各ヒト病原細菌に対する抗体を全て含むものであり、
前記抗エンドトキシン抗体が、下記b)に記載された各エンドトキシンに対する抗体を全て含むものである、脂肪低減組成物。
a)大腸菌O−111、腸管出血性大腸菌O−157、サルモネラ菌、志賀赤痢菌、セレウス菌、エルシニア菌、セラチア菌、ネズミチフス菌、サルモネラ・ミネソタR595菌、カンピロバクター、バクテロイデス、アエロゲネス菌、アルカリゲネス、エンテロバクター・クロアカ、緑膿菌、プロテウス菌、ピロリ菌、肺炎桿菌及びインフルエンザ菌
b)病原性大腸菌O−26株、O−55株及びO−111株由来のエンドトキシン、サルモネラ・ミネソタ菌由来のリピッドA。
【請求項2】
前記抗体が、自然免疫抗体である、請求項1に記載の脂肪低減組成物。
【請求項3】
前記脂肪が、内臓脂肪である、請求項1又は2に記載の脂肪低減組成物。
【請求項4】
前記抗体が、牛、ヤギ、ヒツジ、馬、鶏からなる群から選択された少なくとも1種により産生された抗体に由来するものであり、かつ、これら動物のミルク、初乳、血液、鶏卵からなる群から選択された少なくとも1種を原料として生産されたものである、請求項1から3のいずれか1項に記載の脂肪低減組成物。
【請求項5】
前記抗体の含有量が0.001%以上である、請求項1から4のいずれか1項に記載の脂肪低減組成物。
【請求項6】
前記抗体が、エンドトキシンに対する抗体価により選別されたものである、請求項1から5のいずれか1項に記載の脂肪低減組成物。
【請求項7】
さらに、プレバイオティクス、プロバイオティクス、グリアヂン被覆スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)からなる群から選択された少なくとも1種を含む、請求項1から6のいずれか1項に記載の脂肪低減組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト病原細菌と細菌毒素に対する抗体を有効成分として含有することを特徴とする、体脂肪蓄積抑制、内臓脂肪蓄積抑制組成物及び脂肪蓄積抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活における脂肪摂取量の増加、日常生活における運動量の減少などの変化により肥満者が増加している。 肥満は体脂肪が蓄積した状態である。体脂肪が腹腔にある脂肪を内臓脂肪と称し、糖尿病、動脈硬化、高血圧、脳梗塞、脂質異常症などの生活習慣病の原因となる。
【0003】
内臓脂肪型肥満とともに、高血糖、高血圧、脂質異常症内蔵型のうちいずれか2つ以上を併発した状態がメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)である。 メタボリックシンドロームは、エネルギー摂取量と運動不足による正のエネルギーバランスにより過剰エネルギーが脂肪となって蓄積した結果であるが、その原因として不規則な生活習慣があり、生活習慣の改善によって、予防・改善できると考えられている。
【0004】
一方、最近の研究から、腸内細菌叢が内臓脂肪の蓄積に関与する要因であることが、最初は無菌マウスを用いる2004年Gordon JIらの研究、更に2006年以降からヒト研究においても報告されるに至った。
【0005】
腸内細菌と動物とヒトにおける研究は、以下のA)、B)の2つに要約することができる。
A)ヒト腸内細菌叢には、食物繊維など、ヒトがエネルギー源として利用できない食品成分を分解して、ヒトが利用可能なエネルギー源とする複数の細菌種が常在する。これらの細菌種と生息数は、遺伝的要因と食事成分などの影響を受け、ヒトのエネルギーバランスに影響を与える。
【0006】
B)腸内細菌叢は、ビフィズス菌、乳酸菌桿菌などのヒトと共生関係にある通称善玉菌、ウェルシュ菌、ブドウ球菌などの有害作用をもたらす病原細菌である通称悪玉菌、そして日和見菌に分類される。日和見菌は腸内細菌叢が善玉菌主体の場合は有害作用をしないが、悪玉菌が主体となる状況では悪玉菌として有害作用をする菌種で、非病原性大腸菌、ユウバクテリウム、連鎖球菌(Peptococcus)などがある。善玉菌、日和見菌、悪玉菌の比率は壮年を境にビフィズス菌の減少とウェルシュ菌、大腸菌などの悪玉菌の増加により悪玉菌化(Dysbiosis)が進行する。悪玉菌化の進行に伴い50歳代以降には、悪玉菌化の指標となるエンドトキシンの体内移行が進行し、慢性炎症の状態に移行する。
【0007】
全ての腸内細菌は、菌体の構成成分により、グラム陽性細菌とグラム陰性細菌に分けられる。エンドトキシンはグラム陰性菌の細胞壁構成成分であり、化学的にはリポ蛋白多糖体、リポポリサッカライドで、LPSの略称で記載されることもある。グラム陰性細菌を、ヒトに対する病原性との関係でみると、病原性細菌から、日和見菌、非病原性細菌の広範わたり分布する。細菌グラム陰性細菌の増殖に伴い、消化管内のエンドトキシン濃度は上昇する。
【0008】
消化管は食物や細菌などの異物の体内移行を避けるバリヤーであり、消化管内エンドトキシンの体内移行は、バリヤー機能によりブロックされている。バリヤー機能は腸内細菌叢の悪玉菌化により障害をうけ、エンドトキシンの体内移行が増大する。エンドトキシンは消化管に常在する最も活性の高い炎症物質であり、腸内細菌叢の悪玉菌化した状態では、エンドトキシンの慢性的な体内移行により、慢性炎症の状態となる。
【0009】
慢性炎症は血管内皮細胞由来のリパーゼ活性を高め、脂肪細胞における脂質合成を促進し、中高年以降の肥満者の増加の原因となる。
【0010】
腸内細菌叢の悪玉菌化を解消し、善玉菌化することによる肥満、脂肪蓄積の抑制する手段として、すでに、生きた乳酸菌であるプロバイオティクス(非特許文献1)、および、乳酸菌の栄養となり、乳酸菌の増殖に作用する難消化性多糖類であるプレバイオティクス(非特許文献2)を用いる試みが知られている。
【0011】
腸内細菌叢を改善する他の手段として、抗体を用いることも知られている。例えば、特開2007−330193号公報には、発酵乳原料母液に乳清タンパクを添加し、前記母液中の抗ウェルシュ菌抗体が70質量%以上残存する方法で除菌あるいは殺菌した後に、発酵微生物スターターを接種して発酵させた発酵乳製品が、腸内細菌叢改善効果を有する旨が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−330193号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Kadooka et al.,(2010):Regulation of abdominal adiposity by probiotics(Lactobaciltus gasseri,SBT2055)in adults with obese ten−dencies in a randomized controlled trial,Eur J Clin Nut.64,636−43.
【非特許文献2】Cani et al.,(2007):Selective increases of bifidobacteria in gut microflora irnprove high−fat−diet−induced diabetes in mice through a mechanism associated with endotoxaemia, Diabetologia,501,2374−2383.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、抗体、特にヒト病原細菌と細菌毒素(菌体内毒素(エンドトキシン:endotoxin)と菌体外毒素(エキソトキシン:exotoxin))に対する抗体を主成分とする組成物を摂取することにより、体脂肪、内臓脂肪を低減する組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは上記課題を解決するために、ヒト病原細菌及びエンドトキシン産生菌に対する抗体および細菌毒素であるエンドトキシン並びにエキソトキシンに対する抗体を摂取することにより、ヒト病原細菌及びエンドトキシン産生菌を排除し、消化管エンドトキシンレベルを下げ、エンドトキシンの体内移行を低減させることによって、体脂肪、内臓脂肪が低減させることが可能であるという仮説のもとに研究を行った。そして、抗体の摂取により体脂肪が低減するとの知見を得るに至り、本発明を完成させた。
【0016】
本発明における「悪玉菌」、「ヒト病原細菌」、「エンドトキシン産生菌」を以下に定義する。
【0017】
「エンドトキシン産生菌」は細菌菌体の構造成分として、細胞壁にエンドトキシンを有する細菌である。細菌のグラム色素染色による分類ではグラム陰性菌に分類される細菌の全てを含む。例えば、毒素産生性病原性大腸菌O−157や非病原性細菌大腸菌、緑膿菌など、グラム陰性の病原性細菌、日和見菌がこれに含まれる。
【0018】
「ヒト病原細菌」は通常は健常者に生息しない病原性の強い病原細菌から、日和見菌を含み、ヒトと共生関係にある善玉菌以外の細菌である。例として、コレラ菌や志賀赤痢菌、肺炎球菌、ブドウ球菌など、グラム陰性と陽性の細菌が含まれる。
【0019】
「悪玉菌」は、ヒトに常在する善玉菌以外の細菌で、病原細菌と日和見菌もこれに含まれる。なお、通常は健常者に常在しない病原性の強い病原細菌、例えば、志賀赤痢菌、コレラ菌などは含まれない。
【0020】
本発明は、抗体を有効成分とし、脂肪の蓄積を低減させるために使用される、脂肪低減組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、抗体が腸内細菌叢を整え、エンドトキシンの体内への移行を抑制することにより、体脂肪や内臓脂肪の蓄積を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係る脂肪低減組成物について説明する。本実施形態に係る脂肪低減組成物は、 抗体を有効成分とし、脂肪の蓄積を低減させるために使用されるものである。
【0023】
本実施形態において使用される抗体は、生体にとって異物である病原菌やその構成成分に結合して、異物を体外に排除し、無害化する作用を有する免疫システムの産物で、化学的には免疫グロブリンである。
【0024】
抗体の選択は、ウシ、水牛、ウマ、ブタ、ヤギ、ウサギ、ウサギなどの家畜の血漿、初乳、生乳、ニワトリなどの卵が抗体組成物作成の出発原料となる。抗体の濃度を高めるために、各種ヒト病原細菌をワクチンとして接種することもできる。出発原料は、さらに、血漿の場合は脱繊維素処理後凍結乾燥、噴霧乾燥が、初乳、生乳の場合は乳脂肪、乳糖、カゼインを除去後、限外濾過による水分除去と濃縮、無菌濾過、さらに凍結乾燥、噴霧乾燥により粉末化する。これらの技術はすでに確立され、実施されている。
【0025】
抗体は液体状態では加熱により急速に活性が失われるので、加熱による殺菌に当たっては殺菌と抗体熱変性防止の両面を満足する管理が必要である。組成物の実用形態は水溶液または乾燥粉末である。
【0026】
品質の評価は抗体の定量によりなされる。総抗体量の測定はテキストに従って、例えば二重抗体酵素免疫測定法、免疫拡散法、プロテインAまたはプロテインGカラム法などが推奨される。また、特定の細菌や細菌毒素に対する抗体の測定には酵素免疫測定法により測定する。
【0027】
血液と糞便中のエンドトキシンの低下機能を有する組成物の機能を確保するためには、抗体の抗原特異性のチェックが重要である。即ち、エンドトキシン産生細菌に対する抗体とヒト由来病原細菌、エンドトキシンに対する抗体、エキソトキシンに対する抗体を含むことが必須の要件となる。
【0028】
エンドトキシン産生菌に対する抗体は、エンドトキシン産生細菌を腸管から排泄させることにより除去を促進し、エンドトキシンに対する抗体は、エンドトキシンに結合して、体内移行の阻止に働く。
【0029】
一方、エンドトキシンを産生しないグラム陽性ヒト病原菌(ウェルシュ菌、ブドウ球菌など)は、エキソトキシンを産生して消化管のバリヤーを破壊し、エンドトキシンの体内移行を高めるため、これをエキソトキシンに対する抗体がエキソトキシンに結合して、エンドトキシンの体内移行を阻止する。
【0030】
エンドトキシン産生細菌としては以下に示す属に該当する細菌である。例えば、フソバクテリム(Fusobacterium)、ベイヨネラ(Veillonella)、メガスフェラ(Megasphaera)、ナイセリア(Neisseria)、モラクセラ(Moraxella)、ブランハメラ(Branhamella)、アシネトバクター(Acinetobacter)、シトロバクター(Citrobacter)、エンテロバクター(Enterobacter)、大腸菌(Escherichia)、ハフニア(Hafnia)、クレブシエラ(Klebsiella)、モルガネラ(Morganella)、プロテウス(Proteus)、プロビデンシア(Providencia)、サルモネラ(Salmonella)、セラチア(Serratia)、シゲラ(Shigella)、エルシニア(Yersinia)、ビブリオ(Vibrio)、エロモナス(Aeromonas)、プレジオモナス(Plesiomonas)、ヘモフィルス(Haemophillus)、パスツレラ(Pasteurella)、緑膿菌(Pseudomonas)、レジオネラ(Legionella)などを挙げることができる。
【0031】
エンドトキシン産生細菌のホルマリン処理ないし加熱死菌を抗体検出定量用の抗原として、必要に応じて選択する。フィンブリエ、鞭毛に対する抗体の検出定量に当たってはホルマリン処理が必要である。エンドトキシンとしては、上記の各細菌菌体をそのまま、またはこれら菌体より、成書に従ってトリクロロ酢酸法やフェノール法によりエンドトキシン(LPS)を抽出して用いることができる。
【0032】
抗エンドトキシン抗体の活性は、各細菌体より抽出したエンドトキシン、または、加熱ないしホルマリン処理菌体を抗原として、ELISA法による抗体量の測定による評価の他、エンドトキシン活性をリムラス法により、市販のキットを用いて、測定することができる。
【0033】
抗エンドトキシン抗体の活性は、抗エンドトキシン抗体がエンドトキシンを中和し、エンドトキシンの活性を失わせるので、一定量の抗エンドトキシン抗体に、抗体量よりも過剰のエンドトキシンを添加し、残存したエンドトキシンをリムラス法により測定することにより、様々な抗原特異性の異なる抗体混合物のエンドトキシン中和(=無毒化)活性の総体を定量的に測定することができる。
【0034】
本実施形態においては、抗体の素材として、生乳由来の自然免疫抗体抗体を含有する乳清蛋白(WPC)を用いることが好ましい。「自然免疫抗体」とは、ある動物の免疫系の外来抗原への暴露が自然に行われた結果、獲得された抗体をいう。WPCは、チーズ製造の副生物である乳清に含まれる蛋白を集めたもので、熱履歴の少ない製造方法を用いることにより自然免疫抗体はこのWPCに濃縮される。自然免疫抗体を含有するWPCとしては既に市販されているものを用いることができる。市販のWPCとしては、例えば、「アサマ乳清たんぱく」(アサマ化成株式会社製)を用いることができる。
【0035】
「アサマ乳清たんぱく」は、自然免疫抗体の中でも特に、a)ヒト病原細菌の内から選択した33株の病原細菌由来のエンドトキシン、b)病原性大腸菌O−26株、O−55株、O−111株由来のエンドトキシンと、サルモネラ・ミネソタ菌由来のリピッドAの4種類のエンドトキシン、c)黄色ブドウ球菌由来のエンテロトキシンB、ウェルシュ菌由来のエンテロトキシンの2種類のエキソトキシンを指標として選択された抗体を含む製品である(木島佳子他,日本食品化学工学会誌,2009,56:475−482)。従って「アサマ乳清たんぱく」は、ヒト病原細菌と細菌毒素に対する自然免疫抗体を多く含有する。これは、ELISA法に勝る高感度、高精度測定方法であるELMBA法を新規に開発したことにより、ヒト病原細菌に対する抗体を含む乳清蛋白製品の選別が可能になり、その結果として得られたものである。
【0036】
「アサマ乳清たんぱく」中のヒト病原細菌に対する33種の自然免疫抗体とは、大腸菌O−111(Escherichia coli O−111)、腸管出血性大腸菌O−157(Escherichia coli O−157)、サルモネラ菌(Salmonella)、志賀赤痢菌(Shigella)、セレウス菌(Bacillus cereus)、リステリア菌(Listeria)、エルシニア菌(Yersinia)、セラチア菌(Serratia marcescens)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、サルモネラ・ミネソタR595菌(Salmonella minnesota R595)、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)、カンピロバクター(Campylobacter)、バクテロイデス(Bacteroides)、カンジダ菌(Candida)、プロピオン酸菌(Propionibacterium)、サングイス連鎖球菌(Streptococcus sanguis)、唾液連鎖球菌(Streptococcus salivarius)、ミュータンス菌(Streptococcus mutans)、アエロゲネス菌(Enterobacter aerogenes)、アルカリゲネス(Alcaligenes)、エンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、プロテウス菌(Proteus)、ピロリ菌(Helicobacter pylori)、A群化膿レンサ球菌1型(Group A Streptococci type−1)、A群化膿レンサ球菌12型(Group A Streptococci type−12)、A群化膿レンサ球菌22型(Group A Streptococci type−22)、緑色レンサ球菌(Streptococcus viridans)、肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)及びインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)に対する抗体であり、自然免疫抗体はこれ以外の抗ヒト病原細菌抗体を含むことがある。
【0037】
「アサマ乳清たんぱく」中の細菌毒素に対する自然免疫抗体とは、病原性大腸菌O−26株、O−55株及びO−111株由来のエンドトキシン、サルモネラ・ミネソタ菌由来のリピッドA、黄色ブドウ球菌由来のエンテロトキシンB、ウェルシュ菌由来のエンテロトキシンに対する抗体であり、自然免疫抗体はこれ以外の抗細菌毒素抗体を含むことがある。
【0038】
自然免疫抗体の選別は、上記a)については抗体価がホエイタンパク質1g中に8μg以上である点、上記b)及びc)については抗体価がホエイタンパク質1g中に1μg以上である点を指標とした。
【0039】
本実施形態に係る脂肪低減組成物において、体脂肪を低減させるために必要とする抗体含有量は0.001%以上であることが好ましく、より好ましくは0.01%以上であることが好ましい。抗体の摂取量は、成人一日当たり10mg以上であることが好ましく、より好ましくは100mg以上である。
【0040】
本実施形態に係る脂肪低減組成物を用いて腸内病原菌と細菌毒素の有害作用の除去を、更に一層有効にするために、抗体以外の有効成分を配合することができる。抗体以外の有効物質としては、例えば、抗酸化食品素材のグリアジン処理SOD、プレバイオティクス、プロバイオティクスなどがある。プレバイオティクスは、腸管内に生息しているビフィズス菌などの限定した菌を特異的に増殖させることにより、ヒトの健康に有益な作用を示す難消化性の食品成分であり、ラクチュロースやラフィノースなどのオリゴ糖を例示することができる。プロバイオティクスは、腸内微生物のバランスを改善することによって宿主に有益に働く生菌添加物又は死菌添加物であり、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属などの乳酸菌で、代謝産物として乳酸を産生する細菌を含む)や酪酸菌等を例示することができる。
【0041】
抗体の摂取形態は特に限定されることはなく、例えば、粉末、錠剤、カプセル、顆粒、クッキー、アイスクリーム、飲料などを挙げることができる。但し、有効成分の抗体が失活しない条件で摂取することが前提となる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
1.抗体摂取が糞便エンドトキシン、腸内細菌叢及び脂肪増加抑制に及ぼす影響
抗体の経口投与による糞便エンドトキシンの低減、腸内細菌叢の改善、腹部内内臓脂肪及び皮下脂肪の増加抑制作用を検討するため、以下の要領で試験を実施した。
【0044】
(1)飼料
マウスに摂取させる飼料として、脂肪分60%カロリー比の高脂肪餌(オリエンタル酵母株式会社社製のHFD−60)と、この高脂肪餌に自然免疫抗体(アサマ化成株式会社製のアサマ乳清たんぱく)を5重量%混合した混餌飼料(高脂肪餌+自然免疫抗体)を調製した。また、プラセボとして、脂肪分60%カロリー比の高脂肪餌(オリエンタル酵母株式会社社製のHFD−60)に、アサマ乳清たんぱく(アサマ化成株式会社製)に含まれる自然免疫抗体を蛋白分解酵素で100%失活させたものを5%混合した混餌飼料(高脂肪餌+プラセボ)を調製した。
【0045】
(2)実験方法
マウスは、三協ラボ株式会社より購入したC57BL/6Jマウス♀12週齢を用いた。このマウスを1群7〜9匹になるように3群に分けた。そのうち、第一群は肥満を呈するよう高脂肪餌を摂取させたグループ(高脂肪餌群)、第二群は高脂肪餌にアサマ乳清たんぱくを5重量%混合した混餌飼料を摂取させたグループ(高脂肪餌+自然免疫抗体群)、第三群は高脂肪餌に失活した抗体を5重量%混合した混餌飼料を摂取させたグループ(高脂肪餌+プラセボ群)とした。
【0046】
これらのマウスに肥満を呈するように飼料を1〜4週間摂取させ、糞便エンドトキシン(LPS)量、腸内細菌数、腹部の内臓脂肪および皮下脂肪をそれぞれ測定した。
【0047】
(3)糞便エンドトキシン(LPS)量
各飼料摂取4週後において朝8時に回収した糞便をサンプルとして糞便中エンドトキシン(LPS)量をリムラス法により定量した。各飼料給餌前と給餌開始後4週に至る期間における糞便中エンドトキシン(LPS)量を表1に示す。給餌開始後2週間は群間LPS量に差は認められなかったが、3週、4週に至り、自然免疫抗体投与群において有意なLPSレベルの低下が認められた。
【0048】
【表1】
【0049】
(4)腸内細菌数
抗体投与の腸内細菌叢に及ぼす影響を検討するため、糞便全菌数、乳酸桿菌、大腸菌、ビフィズス菌、ウェルシュ菌を、FISH法により測定した。すなわち、細菌の16sリボゾームRNAに対する蛍光標識DNAプローブにより菌体を染色し、顕鏡により測定した。その結果、ビフィズス菌が高脂肪餌群は5.52±0.28cfu/g、プラセボ群が5.87±0.35cfu/gであるのに対し、自然免疫抗体群では6.44±0.28cfu/gと有意な増加が認められた。結果を表2に示す。その他の測定菌種には有意な差が見られなかったことから、腸内細菌バランスの改善があったと判断された。
【0050】
【表2】
【0051】
(5)内臓脂肪及び皮下脂肪
各飼料を摂取させる前と摂取5週後において、CTスキャンで腹部の内臓脂肪および皮下脂肪を測定した。CTスキャンを行う16時間からマウスは絶食させ、生理食塩水で希釈したソムノペンチル(6.48μg/ml〜6.5μg/ml)を腹腔内投与(10μg/gBW)し麻酔を行った。Explore Locus CT system(GE Healthcare社製)により腹部CTスキャンを行った。X線CT画像から、横隔膜最下部から鼠径部最上部までの各断面スライス画像を得た。各断面スライス画像において、腹囲内のCT値ヒストグラムから脂肪領域(lower:10489、upper:13989)を選択し、得られた面積を全体脂肪面積とした。
【0052】
同様に、各断面スライス画像において、腹腔内のCT値ヒストグラムから脂肪領域(lower:10489、upper:13989)を選択し、得られた面積を内臓脂肪面積とした。また、全体脂肪と内臓脂肪の面積の差を皮下脂肪面積とした。各面積は横隔膜最下部から鼠径部最上部までを累積し各体積とした。
【0053】
各飼料給餌前後における内臓脂肪量および皮下脂肪量の変化を表3に示す。各飼料給餌前と比較して、高脂肪餌のみを摂取させた「高脂肪餌群」では、内臓脂肪が130.2±14.9%の有意な増加に対し、高脂肪餌に抗体失活させたプラセボを添加摂取させた「高脂肪餌+プラセボ群」では、121.3±28.9%、さらに、高脂肪餌に自然免疫抗体を添加摂取させた「高脂肪餌+自然免疫抗体群」では、105.7±14.0%の順に、内臓脂肪の増加抑制がみられた。
【0054】
皮下脂肪においては、各飼料給餌前と比較して、「高脂肪群」では99.9±32.5%と変化がみられなかったが、「高脂肪餌+プラセボ群」では132.8±20.4%に増加した。これに対して、「高脂肪餌+自然免疫抗体群」では、80.6±11.4%へと、有意に減少した。
【0055】
これより、自然免疫抗体を摂取することにより、糞便中エンドトキシンの減少を介して、内臓脂肪および皮下脂肪の増加を抑制することが期待できる。
【0056】
【表3】
【0057】
2.抗体の経口投与による卵巣周囲脂肪量の低減作用
動物は、三協ラボ株式会社より購入し、C57BL/6Jマウス♀12週齢を用いた。これらのマウスにおいて、抗体の有無による卵巣周囲脂肪量を比較し、内臓脂肪の蓄積に及ぼす効果を評価した。
【0058】
(1)飼料
一般飼料(コントロール)として、オリエンタル酵母株式会社製のAIN−93Mを用いた。また、自然免疫抗体として、アサマ乳清たんぱくを用いた。
【0059】
(2)実験方法
マウスを1群6〜7匹になるように2群に分け、1群を一般飼料を摂取させた「コントロール群」、もう1群を一般飼料にアサマ乳清たんぱくを5重量%混合した混餌飼料を摂取させた「自然免疫抗体群」とした。
【0060】
各飼料を摂給餌させる前と給餌6週後において、一日絶食させた後、解剖を行った。ソムノペンチル(ペントバルビタールナトリウム64.8mg/mL)を腹腔内投与して麻酔を行った。開腹後、下大動脈から留置針を用いて滅菌処理した0.9%生理食塩水にて灌流し、卵巣周囲脂肪を摘出した。
【0061】
(3)結果
各飼料給餌6週後における卵巣周囲脂肪量を表4に示す。一般飼料を摂取したコントロール群では、卵巣周囲脂肪量が0.304±0.114gであった。それに対して、一般飼料に自然免疫抗体を添加摂取させた自然免疫抗体群では0.169±0.046gと有意に減少した。
【0062】
【表4】
【0063】
以上説明したように、自然免疫抗体投与により糞便細菌バランスの改善がビフィズス菌の増加によって示されるとともに、LPSレベルの減少があった。LPSの減少はマウスの脂肪代謝に影響し、体脂肪の減少、特に卵巣脂肪の蓄積低下による内臓脂肪の低減があった。さらに、各群マウスの動態観察において、高脂肪群マウスにおける毛並みの乱れが顕著であったが、自然免疫抗体投与群では正常な毛並みであったことも抗体による体脂肪の低減作用を象徴する結果であった。