(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6872843
(24)【登録日】2021年4月22日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】筆記具
(51)【国際特許分類】
B43K 3/00 20060101AFI20210510BHJP
B43K 7/12 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
B43K3/00 H
B43K7/12
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-39382(P2015-39382)
(22)【出願日】2015年2月27日
(65)【公開番号】特開2016-159491(P2016-159491A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2018年1月9日
【審判番号】不服2019-16251(P2019-16251/J1)
【審判請求日】2019年12月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 祐介
(72)【発明者】
【氏名】大塚 裕史
【合議体】
【審判長】
吉村 尚
【審判官】
藤本 義仁
【審判官】
藤田 年彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開平9−99691(JP,A)
【文献】
特開平7−251595(JP,A)
【文献】
特開2008−44303(JP,A)
【文献】
実開昭60−132376(JP,U)
【文献】
実開平6−86983(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 1/00 - 8/24, 21/00 - 21/26, 24/00 - 24/18, 27/00 - 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に突起部が形成された第1筒状部材と、係止部が形成された第2筒状部材とを具備し、前記第1筒状部材又は前記第2筒状部材の一方を他方に挿入させて前記突起部と前記係止部とを係止させるノック式のボールペンにおいて、
前記第1筒状部材の前記突起部近傍の外周面に、独立して貫通する少なくとも2つの溝が形成され、前記突起部が、前記溝によって画成された両持ち梁部に形成されており、
前記第1筒状部材がノック式のボールペンの内筒であり、前記第2筒状部材が前記内筒の前方に配置される軸筒であり、
組み立て時に把持する、外部に露出する前記内筒の外面に、表面粗さRz=12.5μm以上の梨地処理が施されていることを特徴とするボールペン。
【請求項2】
前記溝が、当該ボールペンの軸線方向に沿って延在すると共に、前記溝が、周方向において前記突起部の両側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のボールペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
筆記具の2つの筒状部材において、一方の端部に他方の端部を挿入して組み立てを行う場合に、互いの周方向の位置を正確に合わせる必要がある(例えば、特許文献1)。特許文献1に記載のような筆記具は、一般的に、クリップの設けられた内筒と軸筒との組み立てにおいて、内筒の外周面に設けられた突起を、軸筒の外周面に設けられた貫通孔に嵌合させることで、組み立てが完了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09−175083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の筆記具では、内筒に設けられた突起は、内筒の外周面において片持ち梁状の部分(
図4及び
図5参照)に形成されているため、筆記具の使用者が内筒を強く引っ張ると、本来望ましくないが、軸筒から外れてしまう可能性がある。すなわち、突起を支持する片持ち梁状の部分が、ベンディングし、時にはクリープ変形によって、突起が軸筒の貫通孔から外れてしまう可能性がある。他方、仮に、片持ち梁状の部分でなく、内筒の外周面に直接的に突起を形成すると、突起及びその近傍はほとんど変形しないことから、内筒を軸筒に挿入する際に大きな力が必要となり、特に軸筒と内筒との位置合わせがずれた場合に、内筒の取り付け不良が発生する可能性があった。また、周方向の位置がずれた場合に、それを直すための大きな力を必要とすることがあった。
【0005】
本発明は、筆記具の2つの筒状部材において、一方の端部に他方の端部を挿入して組み立てを行う場合に、取り付け不良を防止しつつ、容易に外れないような適切な保持力を有する筆記具を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、外周面に突起部が形成された第1筒状部材と、係止部が形成された第2筒状部材とを具備し、前記第1筒状部材又は前記第2筒状部材の一方を他方に挿入させて前記突起部と前記係止部とを係止させる筆記具において、前記第1筒状部材の前記突起部近傍の外周面に、独立して貫通する少なくとも2つの溝が形成され、前記突起部が、前記溝によって画成された両持ち梁部に形成されていることを特徴とする筆記具が提供される。
【0007】
また、別の態様によれば、前記溝が、当該筆記具の軸線方向に沿って延在することを特徴とする筆記具が提供される。
【0008】
また、別の態様によれば、前記溝が、周方向において前記突起部の両側に配置されていることを特徴とする筆記具が提供される。
【0009】
前記第1筒状部材が内筒であり、前記第2筒状部材が前記内筒の前方に配置される軸筒であることを特徴とする筆記具が提供される。
【0010】
前記内筒の外面に、梨地処理が施されていることを特徴とする筆記具が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の態様によれば、筆記具の2つの筒状部材において、一方の端部に他方の端部を挿入して組み立てを行う場合に、取り付け不良を防止しつつ、容易に外れないような適切な保持力を有する筆記具を提供するという共通の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態による筆記具の側面図である。
【
図2】軸筒と内筒との取り付けを示す斜視図である。
【
図4】
図3の線X−Xにおける内筒の断面図である。
【
図5】
図3の線Y−Yにおける内筒の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。全図面に渡り、対応する構成要素には共通の参照符号を付す。
【0014】
図1は、本発明の実施形態による筆記具1の側面図である。筆記具1は、いわゆるノック式筆記具であるボールペンである。筆記具1は、前軸2及び後軸3を備えた軸筒4と、軸筒4の後端に取り付けられた内筒5と、内筒5内を前後動するノック部6と、軸筒4の内部に収容されたレフィル(図示せず)とを有する。内筒5は、クリップ7を有する。前軸2及び後軸3、ひいては軸筒4と、内筒5とは、筒状に形成された筒状部材である。なお、本明細書中では、筆記具1の軸線方向において、インクが吐出されるレフィルの先端部の筆記部側を「前」側と規定し、筆記部とは反対側を「後」側と規定する。
【0015】
レフィルは、インクを収容したインク収容管の先端部に筆記部としてボールペンチップを装着して構成される。ノック部6を指でノック操作することによって、前軸2の前端部からレフィルの筆記部を出没させる。クリップ7は、筆記具1の転がりを防止し且つ紙や衣服等を軸筒4とクリップ7との間に狭持する役割を有する。
【0016】
図2乃至
図5を参照しながら、内筒5の構造及び軸筒4と内筒5との取り付けについて説明する。
図2は、軸筒4と内筒5との取り付けを示す斜視図であり、
図3は、内筒5の側面図であり、
図4は、
図3の線X−Xにおける内筒5の断面図であり、
図5は、
図3の線Y−Yにおける内筒5の断面図である。なお、軸筒4及び内筒5は、ポリプロピレン又はポリカーボネート等の硬質の樹脂材料によって形成されている。
【0017】
内筒5は、内筒本体51及び後端部52を備える。内筒本体51は、軸筒4、すなわち後軸3に対する取り付け時に、後軸3の後端部内に挿入され、後端部52は外部に露出している。内筒5は、接続部53を介してクリップ7と一体的に形成されている。なお、クリップ7はクリップ本体71及び玉部72を有している。
【0018】
内筒本体51の外周面には、クリップ7と対向して突起部54が形成されている。また、突起部54近傍の内筒本体51の外周面には、筆記具1の軸線方向に沿って延在する2つの溝55が形成されている。2つの溝55は、内筒本体51を貫通している。また、2つの溝55は、互いに連通することなく独立して形成されている。さらに、2つの溝55は、周方向において突起部54の両側に配置されている。言い換えると、突起部54は、2つの溝55によって画成され且つ両端が支持された両持ち梁部56に形成されている。突起部54は、両持ち梁部56において、その軸線方向長さの中央に配置されている。ただし、突起部54の後端は、両持ち梁部56において、その軸線方向長さの中心(
図3における線Y−Y)よりも後方に配置されることが好ましい。突起部54の内筒本体51の外周面には、嵌合突起57が形成されている。
【0019】
組み立て時に外部に露出する内筒5の後端部52の外周面には、梨地処理が施されている。ここで挙げる梨地処理とは、JIS B0601によって定義される表面粗さRz=12.5μm以上(仕上記号で▽▽以下)が好ましい。ここでの表面粗さ測定は、レーザ顕微鏡(株式会社キーエンス製 VK−8500)を用いて、平滑化条件設定(フィルタサイズ3×3、フィルタタイプ単純平均、実行回数1回)、レンズ倍率10倍、カラー超深度モード、その他の設定は標準仕様に準ずるによる表面粗さ測定により行い、軸体1表面の測定レンズの頂部付近1ヶ所の0.05mm四方をピッチ0.0005mm間隔で測定した。
【0020】
内筒本体51は、クリップ7及び軸筒4、すなわち後軸3が互いに組み立てられるとき、後軸3内に挿入されて後軸3と係合する。
図2に示されるように、後軸3の後端部には、切り欠き31が形成されている。また、内筒本体51を後軸3に挿入した際の突起部54に対応する後軸3の位置に、突起部54と係止する係止部として、貫通孔32が形成されている。すなわち、内筒本体51を後軸3内に挿入すると、後軸3の切り欠き31と内筒5の嵌合突起57とが嵌合すると共に、内筒5の突起部54が、後軸3貫通孔32内に嵌合し、組み立てが完了する。後軸3の切り欠き31と内筒5の嵌合突起57とが嵌合することで、後軸3と内筒5との回転方向への動きが阻害されるため、より外れにくくすることができる。
【0021】
内筒5の突起部54近傍に2つの溝55が形成されていることから、すなわち、突起部54が両持ち梁部56に形成されていることから、内筒5の内筒本体51を後軸3に挿入する際、突起部54が後軸3の後端部開口内縁に当接し、両持ち梁部56が、径方向内側に弾性変形する。それによって、内筒5の後軸3への挿入が容易になる。言い換えると、2つの溝55の長さや形状を調整し、両持ち梁部56の周方向長さ、すなわち幅や軸線方向長さを調整することで、両持ち梁部56の弾性を調整することができる。また、特許文献1に記載の筆記具と異なり、突起部54が、片持ち梁ではなく両持ち梁部55に形成されていることから、過度のベンディングやクリープ変形が生じることがない。
【0022】
その結果、内筒5が後軸3から容易に外れないような適切な保持力を確保することが可能となる。また、組み立て時に、内筒5の取り付け具合の調整が容易に可能となることから、取り付け不良の防止が可能となる。さらに、内筒5の後端部52に梨地処理が施されていることから、組み立て中に内筒5を周方向に回転させて位置合わせをする場合に後端部52を把持した状態で滑ることがない。
【0023】
溝55の各々は、軸線方向においては、突起の長さの少なくとも2〜5倍であることが好ましい。また、
図5において内筒本体51の中心軸線から引かれた3つの直線、すなわち、突起部54を等分する線をL0とし、溝55の線L0に近い方の縁と接する線をL1とし、溝55の線L0に遠い方の縁と接する線をL2として、線L0と線L1とが成す角をAとし、線L0と線L2とが成す角をBとした場合において、溝55の各々は、周方向においては、15°<A<B<40°の関係式を満たすように形成されていることが好ましい。この実施例において、N=2000による組立試験を行ったところ、溝55が形成されていない比較例では20個の組間違えの不良が発生したが、本実施例では組間違えの不良は0個であった。なお、溝の長さや幅は、内筒本体51の材質や周壁の厚み等に応じて、適宜調整することが好ましい。
【0024】
上述した実施形態では、軸線方向に沿って延在する2つの溝55であったが、溝55の数を3つ以上としてもよい。また、軸線方向でなく、突起部近傍で周方向に延在するように溝を形成してもよい。この場合は、軸線方向において突起部の両側に配置されるように溝を形成することが好ましい。
【0025】
本発明の実施形態について、ノック式筆記具の内筒を第1筒状部材とし、軸筒を第2筒状部材として、これらの取り付けについて説明したが、筆記具における他の2つの筒状部材の取り付けにおいて適用可能である。例えば、前軸と後軸との組み立て等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0026】
1 筆記具
2 前軸
3 後軸
4 軸筒
5 内筒
6 ノック部
7 クリップ
31 切り欠き
32 貫通孔
51 内筒本体
52 後端部
53 接続部
54 突起部
55 溝
56 両持ち梁部