(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上記したような膝関節伸展不全に対する従来のリハビリでは、これまで理学療法士等が介在し、直接的に膝関節の伸展動作を補助することが行われていた。このため、理学療法士等が全面的に関与せずに、このようなリハビリが可能で且つ上記駆動源を有する装置等の活用が望まれる。
【0006】
なお、人工膝関節置換術後の患者のリハビリ用のアシストロボットは存在するが、その前提としては、基本的に膝関節の屈曲及び伸展が可能で、ある程度歩行が可能な患者用に限られており、上記膝関節伸展不全の患者について考慮されたアシストロボットは存在しない。また上記特許文献1にも、膝関節伸展不全の患者のリハビリについては、開示も示唆も見当たらない。
【0007】
そこで本発明は、上記の要請及び各問題点等に鑑みて為されたもので、その課題の一例は、上述したような膝関節伸展不全の患者の回復のためのリハビリにおける補助を効率的に行うことが可能な動作補助装置及び動作補助
装置の作動方法並びに当該動作補助装置において用いられる動作補助制御用プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、座位の被補助者の膝関節の動作を補助する動作補助装置において、前記膝関節の伸展動作を補助する補助手段と、前記膝関節の屈曲角度を検出する膝関節角度検出手段と、前記検出された屈曲角度が予め設定された第1閾値角度となった以降、前記補助手段により前記伸展動作を補助させる第1駆動制御手段と、前記伸展動作の補助中に前記検出された屈曲角度が、前記第1閾値角度からみて前記膝関節の伸展方向に進んだ第2閾値角度であって予め一意に設定された第2閾値角度となった場合に、当該屈曲角度が当該第2閾値角度である伸展状態を維持するように前記補助手段により補助させる第2駆動制御手段と、
前記検出された屈曲角度が前記第2閾値角度である前記伸展状態が維持された後、前記補助手段による補助を停止し、前記膝関節を開放する第3駆動制御手段と、を備える。
【0009】
上記の課題を解決するために、請求項
6に記載の発明は、座位の被補助者の膝関節の動作を補助する動作補助装置であって、前記膝関節の伸展動作を補助する補助手段と、膝関節角度検出手段と、第1駆動制御手段と、第2駆動制御手段と、
第3駆動制御手段と、を備える動作補助装置において実行される動作補助装置の作動方法において、前記膝関節角度検出手段が、前記膝関節の屈曲角度を検出する膝関節角度検出工程と、前記第1駆動制御手段及び前記補助手段が、前記検出された屈曲角度が予め設定された第1閾値角度となった以降、前記伸展動作を補助させる第1駆動制御工程と、前記第2駆動制御手段が、前記伸展動作の補助中に前記検出された屈曲角度が、前記第1閾値角度からみて前記膝関節の伸展方向に進んだ第2閾値角度であって予め一意に設定された第2閾値角度となった場合に、当該屈曲角度が当該第2閾値角度である伸展状態を維持するように前記補助手段により補助させる第2駆動制御工程と、
第3駆動制御手段が、前記検出された屈曲角度が前記第2閾値角度である前記伸展状態が維持された後、前記補助手段による補助を停止し、前記膝関節を開放する第3駆動制御工程と、を含む。
【0010】
上記の課題を解決するために、請求項
7に記載の発明は、請求項1から請求項
5のいずれか一項に記載の動作補助装置に前記第1駆動制御手段及び前記第2駆動制御手段
並びに前記第3駆動制御手段として備えられたコンピュータを、当該第1駆動制御手段及び当該第2駆動制御手段
並びに当該第3駆動制御手段としてそれぞれ機能させる。
【0011】
請求項1、請求項
6又は請求項
7のいずれか一項に記載の発明によれば、膝関節の屈曲角度が第1閾値角度となった以降の当該伸展動作を補助させ、更に屈曲角度が伸展方向に進んだ第2閾値角度であって予め一意に設定された第2閾値角度となったとき当該第2閾値角度の伸展状態を維持するように補助させる。よって、膝関節伸展不全の患者の回復のためのリハビリにおける補助を効率的に行うことができる。
また、膝関節の屈曲角度が第2閾値角度である伸展状態が維持された後、補助手段による補助を停止して膝関節を開放するので、当該伸展不全の自力による回復を促進することができる。なお本発明において膝関節の「開放」とは、本発明に係る動作補助装置の駆動手段による膝関節に対する補助(アシスト)を停止して、被補助者(例えば下記実施形態における患者)による膝関節の自動動作を妨げない状態とすることをいう。
【0012】
上記の課題を解決するために、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の動作補助装置において、前記第2駆動制御手段は、前記検出される屈曲角度が前記第2閾値角度
である前記膝関節の伸展状態を予め設定された閾値時間だけ維持するように前記補助手段に補助させるように構成される。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の作用に加えて、膝関節の屈曲角度が第2閾値角度
である膝関節の伸展状態を既定の閾値時間だけ維持するように補助させるので、より効果的に伸展不全の回復を図ることができる。
【0014】
上記の課題を解決するために、請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の動作補助装置において、前記第2閾値角度が
、水平に対応する角度
として予め一意に設定された角度であるように構成される。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は請求項2に記載の発明の作用に加えて、第2閾値角度が
、水平に対応する角度
として予め一意に設定された角度であるので、より効果的に伸展不全の回復を図ることができる。
【0018】
上記の課題を解決するために、請求項
4に記載の発明は、請求項1から請求項
3のいずれか一項に記載の動作補助装置において、前記第1閾値角度、前記第2閾値角度又は前記閾値時間の全部又は一部を変更するための操作を受け付ける変更操作手段を更に備える。
【0019】
請求項
4に記載の発明によれば、請求項1から請求項
3のいずれか一項に記載の発明の作用に加えて、第1閾値角度、第2閾値角度又は閾値時間の全部又は一部を変更するための操作が受け付けられるので、被補助者又は監督者等の任意で第1閾値角度等を設定することで、より効果的に伸展不全の回復を図ることができる。
【0020】
上記の課題を解決するために、請求項
5に記載の発明は、請求項1から請求項
4のいずれか一項に記載の動作補助装置において、前記補助手段による補助中に当該補助を停止して前記膝関節を開放する停止手段を更に備える。
【0021】
請求項
5に記載の発明によれば、請求項1から請求項
4のいずれか一項に記載の発明の作用に加えて、補助中にそれを停止して膝関節を開放することが任意に可能となるので、緊急時であっても膝関節を保護することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、膝関節の伸展動作を自力で開始した後に膝関節の屈曲角度が第1閾値角度となった以降の当該伸展動作を補助させ、更に屈曲角度が伸展方向に進んだ第2閾値角度
であって予め一意に設定された第2閾値角度となったとき当該第2閾値角度
の伸展状態を維持するように補助させる。
【0023】
従って、膝関節伸展不全の患者の回復のためのリハビリにおける補助を効率的に行うことができる。
また、膝関節の屈曲角度が第2閾値角度である伸展状態が維持された後、補助手段による補助を停止して膝関節を開放するので、当該伸展不全の自力による回復を促進することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明を実施するための形態について、
図1乃至
図6を用いて説明する。なお、以下に説明する実施形態は、上記膝関節伸展不全の患者のリハビリを補助するアシスト装置に対して本発明を適用した場合の実施形態である。このとき、上記患者が本発明に係る「被補助者」の一例に相当する。
【0026】
また、
図1は実施形態に係るアシスト装置を患者に装着した際の状態図であり、
図2は当該アシスト装置の構成を示すブロック図であり、
図3は当該アシスト装置における補助動作時の患者の状態を例示する側視概念図である。更に、
図4は当該アシスト装置における補助動作例を示すフローチャートであり、
図5は当該アシスト装置における補助動作時の各信号等の状態を例示するタイミングチャートであり、
図6は当該アシスト装置における補助動作の効果を例示する図である。
【0027】
図1に示すように、実施形態に係るアシスト装置Sは、当該アシスト装置Sによる補助動作の対象となる患者の片方の下肢部(即ち、膝関節伸展不全にとなっている膝関節を含む下肢部)に対して着脱自在のテープ状固定具やバンド等の固定具6によってそれぞれ取り付けられる駆動ユニット10を備えている。そして
図1に示すように駆動ユニット10には、患者の膝部5の関節部分に取り付けられ、膝関節を屈曲及び伸展させるリンク機構部3と、患者の股部9の関節部分に取り付けられ、股関節を屈曲及び伸展させるリンク機構部8と、が取り付けられている。なお、実施形態に係るアシスト装置Sを用いて膝関節伸展不全のリハビリを行う場合、基本的には足裏が床面に付かない状態で患者が椅子Cに座った座位の状態(
図1参照)で行うため、上記リンク機構部8は、実施形態に係るリハビリ(及びそのための補助動作)には不要である。
【0028】
このうちリンク機構部3は、
図1に示すように、例えば患者の大腿部に巻きつけられる上部脚当て4の側面に取り付けられる第一リンク3aと、患者の下腿部に巻きつけられる下部脚当て7の側面に取り付けられる第二リンク3bと、駆動ユニット10から動力を得て第一リンク3aに対して第二リンク3bを歩行の前後方向に揺動させる第三リンク3cと、を含んで構成される。第一リンク3aは、患者の腰部側から膝部5側に延びるように取り付けられ、第二リンク3bは患者の膝部5側から脚の先端(地面)側に延びるように取り付けられている。そして第一リンク3aと第二リンク3bとは、患者の膝部5近傍で回動可能に連結されている。
【0029】
この連結部には、第一リンク3aと第二リンク3bとの成す角度を示す膝関節角度データを出力する膝関節角度センサが内蔵されている。この膝関節角度センサは、例えばいわゆるポテンショメータ等により実現される。また、第三リンク3cの端部が、第二リンク3bの中央近傍に連結されている。上部脚当て4及び下部脚当て7は、それぞれが図示しない一対の脚当て部材を含んで構成されており、当該脚当て部材は患者の大腿部及び下腿部の周囲を覆うように配置され、固定具6によって着脱可能に取り付けられる。また、上部脚当て4及び下部脚当て7は、例えばポリプロピレン樹脂等を成形して形成されており、ユーザの大腿部と接する部分には、伸縮自在の図示しないスポンジ部材等が取り付けられている。
【0030】
ここで、実施形態に係るアシスト装置Sは、上述したように椅子Cに患者が座った状態で、膝関節伸展不全のリハビリのための補助動作を行う。そして、当該リハビリにおいては、座った状態のまま、膝関節の屈曲と伸展を繰り返す。このとき、当該膝関節の例えば屈曲時には、下腿部の腓骨の回転中心が、大腿骨において屈曲に対応して後方(膝裏方向)且つ下方に連続的に移動していく、いわゆるロールバックが発生することが知られている。そこで上記連結部では、当該回転中心の移動の形状に対応した弓形形状の仮想回転中心運動生成溝カム及びロールバック運動生成溝カムを有する非円形歯車を用いることにより、上記ロールバックと同様の回転中心の移動を含む膝関節の屈曲及び伸展を実現している。なおこのような連結部の構造によれば、特に膝関節が90°に曲げられるときスムーズな屈曲が実現できることが、本願の発明者等により確認されている。
【0031】
これに対してリンク機構部8は、
図1に示すように、上記した上部脚当て4の側面に取り付けられる第一リンク8aと、患者の腰部に巻きつけられるベルト23の側部に取り付けられる第二リンク8bと、を含んで構成される。第一リンク8aは、患者の臀部側から膝部5側に延びるように取り付けられ、第二リンク8bは患者の腰部側から臀部側に延びるように取り付けられている。そして第一リンク8aと第二リンク8bとは、患者の股部9近傍で回動可能に連結されている。この連結部にも、第一リンク8aと第二リンク8bとの成す角度を示す股関節角度データを出力する股関節角度センサが内蔵されている。この股関節角度センサも、例えばいわゆるポテンショメータ等により実現される。なお上述したようにリンク機構部8は、実施形態に係るリハビリには不要となる。
【0032】
次に駆動ユニット10内には、実施形態に係るアシスト装置Sによる補助動作を統括制御する制御用基板、及び上記第一リンク3a乃至第三リンク3cを駆動する後述のDC(Direct Current)モータのための電池等が収容されている。このとき上記制御用基板には、実施形態に係るアシスト装置Sによる補助動作を制御する後述のCPU等が装着されている。なお以下の説明において、実施形態に係るアシスト装置による補助動作を、単に「実施形態に係るアシスト動作」と称する。
【0033】
次に、実施形態に係るアシスト装置Sの構成について、より具体的に
図2を用いて説明する。
【0034】
実施形態に係るアシスト装置Sは
図2に示すように、上記制御用基板に備えられたCPU(Central Processing Unit)42と、患者又は理学療法士等が操作可能な位置に備えられ且つCPU42に対する指令操作を行うための操作ボタン等を備える操作部41と、CPU42に接続され且つ患者又は理学療法士等が視認可能な位置に備えられた液晶ディスプレイ等からなる表示部40と、を備えており、これらは上述したように駆動ユニット10内に組み込まれている。なおCPU42は、オペレーティングシステムやアシスト装置Sを制御する制御プログラムや、検出したデータや等を記憶する記憶部(図示せず)を有している。この記憶部は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、ハードディスク又はシリコンディスク等により構成されている。
【0035】
そしてアシスト装置Sの駆動系全体としては、上記駆動ユニット10と、上記固定具6並びに上部脚当て4及び下部脚当て7と、膝関節角度センサ16を含むリンク機構部3と、図示しない股関節角度センサを含むリンク機構部8と、が含まれている。更に駆動ユニット10には、DCモータ50と、各リンクに接続されているギア部52と、ギア部52を介してDCモータ50からの駆動力を各リンクに伝達するクラッチ部51と、が含まれている。
【0036】
以上の構成において、DCモータ50の回転方向及び回転速度の制御及びクラッチ部51における開放/接続の制御は、それぞれCPU42により行われる。更に膝関節角度センサ16は上記膝関節角度データを生成してCPU42に出力する。
【0037】
このとき、上記DCモータ50が本発明に係る「補助手段」の一例に相当し、上記膝関節角度センサ16が本発明に係る「膝関節角度検出手段」の一例に相当し、上記CPU42が本発明に係る「第1駆動制御手段」の一例、本発明に係る「第2駆動制御手段」の一例及び本発明に係る「第3駆動制御手段」の一例及び本発明に係る「停止手段」の一例にそれぞれ相当する。また、上記操作部41及びCPU42が本発明に係る「変更操作手段」の一例に相当する。
【0038】
次に、実施形態に係るアシスト動作について、
図3乃至
図6を用いて説明する。
【0039】
先ず実施形態に係るアシスト動作の概要を説明する。当該アシスト動作では、上記膝関節伸展不全のリハビリを効果的に実施すべく、先ず
図3(a)に示すようにアシスト装置Sを装着した患者P(即ち、膝関節伸展不全の患者P)を椅子Cに座らせ、足裏が床に付かない状態で下腿を自由に動かせる初期姿勢状態から当該アシスト動作を開始する。なお
図3では、説明の簡略化のため実施形態に係るアシスト装置S自体の図示は省略している。その後、
図3(b)に示すように患者Pに自力での膝関節の伸展を開始させ、更に下腿の中心軸と水平との間の角αが予め設定された第1閾値角度となったタイミングからアシスト装置Sによる補助を開始し、
図3(c)に示すように自力と当該補助により膝関節を予め設定された伸展目標角度(例えば水平、又は水平に対応して予め設定された伸展目標角度)まで伸展させる。なおこの伸展目標角度が、本発明に係る「第2閾値角度」の一例に相当する。そして下腿が上記伸展目標角度になるまで膝関節が伸展されたら、次に
図3(d)に示すように上記伸展目標角度の状態を閾値時間だけ維持させ、その後
図3(e)に示すようにアシスト装置Sによる補助を終了して膝関節を開放する。その後患者Pは、
図3(f)に示すように自力で元の初期姿勢状態に戻ることになる。以上の一連のアシスト動作により、初期姿勢状態→自力による膝関節の伸展→これにアシスト装置Sによる補助を加えた伸展目標角度までの伸展→自力及びアシスト装置Sによる補助による伸展目標角度の状態の維持→アシスト装置Sによる補助の終了と膝関節の開放→初期姿勢状態への自力による復帰、という、一回の実施形態に係るアシスト動作が完結する。
【0040】
次に、上記アシスト動作に供されるために上記記憶部に予め記憶されている、実施形態に係る閾値角度データ及び閾値時間データについてそれぞれ説明する。
【0041】
実施形態に係る閾値角度データとしては、第1に、実施形態に係るアシスト装置Sを装着した患者Pが上記初期姿勢状態であることを、上記膝関節角度データを用いてCPU42が認識するための初期姿勢閾値角度データが、記憶部に不揮発性に記憶されている。ここで上記初期姿勢状態では
図3(a)に示すように、DCモータ50からの駆動力をリンク機構部3に伝達しないようにすることで、アシスト装置Sを
図1に示す状態で装着した上記患者Pは、椅子Cに座って下腿を開放した状態となる。即ち初期姿勢状態において患者Pは、膝関節を自力で自由に動かすことができる。そして、
図3(a)に示す状態で患者Pが下腿に力を入れない場合、上記角αは通常は直角に近い角度となる。よって、当該角αの角度としての初期姿勢角度閾値は90°とされ、それを示す初期姿勢閾値角度データが上記記憶部に予め記憶されている。そしてCPU42は、膝関節角度センサ16からの上記膝関節角度データにより角αが90°又はその近辺の角度であることを検出することで、患者P自身が上記初期姿勢状態であることを認識する。なおこの初期姿勢閾値角度データは、リハビリの進捗等に合わせて、例えば表示部40に値を表示させつつ操作部41において操作することで、例えば患者P又は当該リハビリを補助する理学療法士等(以下、単に「患者P等」と称する)により任意に変更できる。
【0042】
次に上記閾値角度データとして第2に、
図3(a)に示す初期姿勢状態から、患者Pが膝関節を自力で伸展させ始めた後、実施形態に係るアシスト動作を開始すべき角α(
図3(b)参照)の角度となったか否かをCPU42が認識するための上記膝関節角度データである第1閾値角度データが、記憶部に不揮発性に記憶されている。この第1閾値角度データも、上記初期姿勢閾値角度データと同様に患者P等により任意に変更できるが、具体的な値としては、例えば10°乃至30°が好適である。
【0043】
次に上記閾値角度データとして第3に、実施形態に係るアシスト動作の開始後、
図3(c)及び
図3(d)に示す伸展目標角度(具体例としては水平に対応する角度)まで膝関節が伸展されたか否かをCPU42が認識するための上記膝関節角度データである伸展目標角度データ(換言すれば、角αが伸展目標角度となったか否かを示す閾値角度データ)が、記憶部に不揮発性に記憶されている。なお上記伸展目標角度が水平である場合、上記伸展目標角度データは0°である。また、この伸展目標角度データとしての閾値角度データも、上記初期姿勢閾値角度データ等と同様に患者P等により任意に変更できるが、具体的な値としては上記したように0°が好適である。
【0044】
最後に上記閾値時間データとして、患者Pの膝関節が
図3(d)に示す伸展状態となった後、その状態を維持するための上記閾値時間が経過したか否かをCPU42が認識するための閾値時間データが、記憶部に不揮発性に記憶されている。この閾値時間データも、上記初期姿勢閾値角度データ等と同様に患者P等により任意に変更できるが、具体的な値としては、例えば0秒(即ち伸展維持なし)乃至0.5秒程度が好適である。
【0045】
次に、CPU42を中心として実行される、実施形態に係るアシスト動作について具体的に説明する。
【0046】
当該アシスト動作においてCPU42は、アシスト装置Sの初期化処理として、それまで実行されていた他のモード(例えば、上記リンク機構部8をも用いた歩行補助モード等)を停止すると共に、実施形態に係るアシスト動作を行うモードに駆動ユニット10を切り換える(ステップS1)。その後、アシスト装置Sによる補助を受けるために当該アシスト装置Sを
図1に例示する態様で装着した患者を椅子Cに座らせたとき、CPU42は駆動ユニット10を停止状態に移行させる(ステップS2)。次にCPU42は駆動ユニット10を起動し(ステップS3)、更に、
図3(a)に示す初期姿勢状態に駆動ユニット10を移行させる(ステップS4)。
【0047】
このとき当該初期姿勢状態では、CPU42は、DCモータ50からの駆動力をリンク機構部3に伝達しないように制御することで、患者Pによる下腿を含む膝関節の自動動作を妨げない状態とする。これにより、足が付かない状態で椅子Cに患者Pが座っていることから、患者Pの下腿が自由に動かすことが可能な開放された状態となる。そして、上記初期姿勢角度閾値データが90°とされていることから、CPU42は、膝関節角度センサ16からの膝関節角度データにより角αが90°であることを検出することで患者Pが初期姿勢状態であることを認識する。
【0048】
その後CPU42は、
図3(b)に示すように患者Pが自力で膝関節の伸展を開始することにより、
図3(c)に示すように角αが上記第1閾値角度データにより示される角度となったか否か(換言すれば、実施形態に係るアシスト動作を開始するタイミングとなったか否か)を監視する(ステップS5)。ステップS5の監視において、未だ実施形態に係るアシスト動作を開始するタイミングとなっていない場合(ステップS5;NO)、CPU42は当該タイミングが到来するまで、下腿を開放したまま待機する。一方ステップS5の監視において実施形態に係るアシスト動作を開始するタイミングが到来した場合(ステップS5;YES)、CPU42は駆動ユニット10を介してDCモータ50を駆動させ、徐々に実施形態に係るアシスト動作を行い(ステップS6)、更に膝関節が定速(換言すれば、定角速度)で伸展することを補助する(ステップS7)。
【0049】
このステップS6及びステップS7において、例えばDCモータ50がPWM(Pulse width Modulation)方式である場合にCPU42は、ステップS6の段階で徐々にPWM値を増加させ、ステップS7でPWM値を例えば100%とするようにDCモータ50を制御する。より具体的なPWM値としては、本願の発明者等による調査では、60歳以上の高齢者の男女においては、座位からの膝関節の伸展のトルクが、5.1Nm乃至11.5Nmとされており、この伸展トルクの1/3乃至1/2をアシスト装置Sにより補助するようにDCモータ50のPWM値を設定することが好ましい。
【0050】
ステップS7により膝関節が定速で伸展するようになったら、次にCPU42は、記憶部に記憶されている上記伸展目標角度データを用いて、
図3(d)に示すように膝関節が伸展目標角度まで伸展されたか否か、即ち膝関節角度データにより角αが伸展目標角度(例えば0°)となったか否かを監視する(ステップS8)。ステップS8の監視において膝関節が未だ伸展目標角度まで伸展されていない場合(ステップS8;NO)、CPU42は引き続き膝関節の伸展を補助するようにDCモータ50を制御する。一方ステップS8の監視において膝関節が伸展目標角度まで伸展されたら(ステップS8;YES)、次にCPU42は、当該伸展目標角度の伸展状態を維持するようにDCモータ50を制御しつつ(ステップS9。
図3(d)参照。)、膝関節が伸展目標角度まで伸展されてから上記閾値時間データにより示される時間が経過したか否か(換言すれば、実施形態に係るアシスト動作を終了するか否か)の監視を行う(ステップS10)。ステップS10の監視において、上記閾値時間データにより示される時間が経過していない場合(ステップS10;NO)、CPU42は、上記伸展目標角度の伸展状態を維持するためのDCモータ50の制御を継続する。一方ステップS10の監視において、上記閾値時間データにより示される時間が経過した場合(ステップS10;YES)、CPU42は、徐々に実施形態に係るアシスト動作を停止させ(ステップS11)、最終的にDCモータ50からの駆動力をリンク機構部3に伝達しないようにして患者Pの下腿及び膝関節を開放し、膝関節が自力で屈曲されるのを待機する(ステップS12。
図3(e)及び
図3(f)参照。)。
【0051】
その後CPU42は、例えば操作部41における患者P等による操作により、実施形態に係るアシスト動作を終了させることが指示されたか否かを判定し(ステップS13)、当該終了指示がされていない場合は(ステップS13;NO)上記ステップS4に戻って上記した一連のアシスト動作を繰り返す。一方ステップS13の判定において当該終了指示がされた場合(ステップS13;YES)、CPU42は実施形態に係るアシスト動作を終了する。このときCPU42は、例えばアシスト装置S自体の患者Pからの取り外しに備えて、駆動ユニット10の動作を全て停止させて膝関節を開放する。
【0052】
なお、上述してきた一連の実施形態に係るアシスト動作においてDCモータ50を駆動させているとき、例えば操作部41において緊急停止の操作が行われた場合にCPU42は、直ちにDCモータ50からの駆動力をリンク機構部3に伝達しないよう制御し、膝関節を開放する。
【0053】
次に、実施形態に係るアシスト動作における、膝関節角度データに基づいたCPU42による制御について、
図5のタイミングチャートを用いて纏めて説明する。
【0054】
先ず、実施形態に係る一回のアシスト動作期間中に上記膝関節角度データは、患者Pによる一連の膝関節の伸展及び屈曲(
図3参照)により、90°(初期姿勢状態)から伸展目標角度(下腿を伸展目標角度(例えば0°)まで伸ばし切った状態)の範囲で、
図5最上段に示すように変化する。そしてこの変化に対応して、初期姿勢閾値角度データに基づく判定(
図4ステップS4、ステップS5;NO参照)はCPU42により
図5上から二段目に例示するように行われ、更に伸展目標角度データに基づく判定(
図4ステップS8乃至ステップS10参照)はCPU42により
図5上から三段目に例示するように行われる。このとき、
図5に示す閾値時間に膝関節の伸展目標角度の伸展状態での維持が行われる(
図4ステップS9参照)。
【0055】
一方、第1閾値角度データを用いた実施形態に係るアシスト動作の実行の有無に関する判定(
図4ステップS5及びステップS10参照)は、上記閾値時間を挟むタイミングで、CPU42により
図5下から二段目に例示するように行われる。このとき、当該ステップS5及びステップS10の判定に対応して、DCモータ50におけるPWM値は、
図5最下段に例示するように、膝関節の伸展の加速→定速→減速の変化(
図4ステップS5乃至ステップS11)に対応して変化する。また、
図5最下段に例示されるPWM値の変化において、加速時間及び減速時間は共に約0.1秒とされており、更に加速の開始から上記閾値時間の開始までの時間が、膝関節の回動を実施形態に係るアシスト動作により補助している時間である。
【0056】
最後に、実施形態に係るアシスト動作により患者Pにかかる負荷がどの程度軽減されるかについて、
図6を用いて説明する。なお
図6は、
図6に示す各アシスト区間において実施形態に係るアシスト動作が二回行われた場合における、膝関節角度の変化(実曲線グラフ)、DCモータ50における上記PWM値の変化(実線パルス形グラフ)及び筋電位(より具体的には、大腿直筋及び内側広筋における積分筋電位)の変化をそれぞれ示す図である。このとき
図6において、実施形態に係るアシスト動作が行われた場合の筋電位の変化は△の連続により示されており、実施形態に係るアシスト動作が行われない場合の筋電位の変化は●の連続により示されている。
図6から明らかなように、実施形態に係るアシスト動作が行われた場合の方が、それが行われない場合に比して筋活動が約25%乃至45%減少していることが判り、よって患者Pにかかる負荷も同程度に減少していると判断することができる。
【0057】
以上説明したように、実施形態に係るアシスト動作によれば、膝関節の伸展動作を自力で開始した後に膝関節角度が第1閾値角度データに対応した角度となった以降の当該伸展動作を補助し、更に膝関節角度が水平となったときそれを維持するように補助する。よって、膝関節伸展不全の患者の回復のためのリハビリにおける補助を効率的に行うことができる。また、実施形態に係るアシスト動作を開始後は、例えば理学療法士等が患者Pに付き添う必要がないことから、当該理学療法士等の負荷を軽減することもできる。
【0058】
更に、膝関節角度が伸展目標角度(具体的には水平)である伸展状態を既定の閾値時間だけ維持するように補助するので、より効果的に伸展不全の回復を図ることができる。
【0059】
更にまた、膝関節角度が伸展目標角度である伸展状態が閾値時間だけ維持された後、実施形態に係るアシスト動作を停止して膝関節を開放するので、当該伸展不全の自力による回復を促進することができる。
【0060】
また、上記第1閾値角度データ等の全部又は一部が患者P等により変更可能とされているので、患者P等の任意でこれらの値を設定することで、より効果的に伸展不全の回復を図ることができる。なおリハビリを効果的に行う観点からは、上記第1閾値角度データ等の設定を自動化するのではなく、任意に設定するように構成しておく方が望ましい。
【0061】
更に、実施形態に係るアシスト動作中にそれを停止して膝関節を開放することが任意に可能であるので、緊急時であっても膝関節を保護することができる。
【0062】
更にまた、実施形態に係るアシスト動作は基本的には片脚ずつ独立して実行されるべきものであるが、両膝関節に膝関節伸展不全を抱える患者の場合、リハビリの進捗によっては両脚について並行して実施形態に係るアシスト動作を行うことも可能である。この場合には、実施形態に係るアシスト装置Sが片脚ずつそれぞれに装着されることになる。
【0063】
また、
図4に示すフローチャートに対応するプログラムを光ディスク等の記録媒体に記録しておき、又はインターネット等のネットワークを介して取得して記憶しておき、それらを汎用のマイクロコンピュータで読み出して実行することにより、当該マイクロコンピュータを実施形態に係るCPU42として動作させることも可能である。