(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、求められる製品外観が多様化しており、様々な製品外観への応用が可能な加飾方法が望まれている。
【0006】
また、艶消し加工等のランダムな構造を製品表面に形成する加飾方法では、加工条件のわずかな差異によって形成される表面形状が変化し、均一な製品外観が得られない場合がある。
【0007】
また、加飾済みの製品表面の一部を補修する際には、補修部の外観が非補修部の外観と一致せずに外観が損なわれる場合や、補修部と非補修部との境目に均一な加工を施すことができず補修箇所が目立ってしまう場合がある。
【0008】
本発明の目的の一つは、多様な製品外観への応用が可能であり、均一な製品外観を有する加飾物品を容易に製造することが可能な、加飾物品の製造方法を提供することにある。また、本発明の目的の一つは、補修部に非補修部と近似した外観を与えることができ、補修部と非補修部との境目が目立つことを防いて良好な製品外観を得ることが可能な、加飾物品の補修方法を提供することにある。さらに、本発明の目的の一つは、上記製造方法及び補修方法に用いられる、転写部材及び加飾キットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面は、加飾物品の製造方法に関し、当該製造方法は、所定の表面形状が転写された転写面を有する転写部材を準備する準備工程と、対象物の被加飾部上又は転写面上に、硬化性樹脂材料を塗布する塗布工程と、転写面を接触させた状態で硬化性樹脂材料を硬化させて、被加飾部上に、転写面の表面形状が転写された加飾樹脂面を有する加飾樹脂層を形成する硬化工程と、を備える。
【0010】
この製造方法によれば、転写面への転写及び加飾樹脂面への転写により、所望の表面形状を加飾樹脂層の表面に形成できるため、当該表面形状に基づく均一な製品外観を有する加飾物品を容易に製造することができる。また、上記製造方法では、転写面に転写させる表面形状を適宜変更することで、多様な製品外観を有する加飾物品を製造できる。さらに、上記製造方法では、加飾樹脂層を形成した箇所のみが加飾されるため、製品の一部にのみ加飾することも容易である。
【0011】
一態様に係る製造方法では、硬化工程において、減圧下で硬化性樹脂材料を硬化させてよい。
【0012】
一態様において、硬化性樹脂材料は熱硬化性樹脂を含有していてよい。
【0013】
一態様において、転写面は、艶消し面を転写した面であってよい。
【0014】
一態様において、転写面は、シリコーン樹脂を含有する可塑性樹脂層で構成されていてよい。
【0015】
一態様に係る製造方法では、塗布工程において、スプレー塗布により硬化性樹脂材料を塗布してよい。
【0016】
本発明の他の一側面は、所定の表面形状を有する加飾面を備える加飾物品において、加飾面に生じた欠損を補修する補修方法に関し、当該補修方法は、加飾面の表面形状が転写された転写面を有する転写部材を準備する準備工程と、欠損を有する欠損部に、硬化性樹脂材料を塗布する塗布工程と、転写面を接触させた状態で硬化性樹脂材料を硬化させて、欠損部上に、転写面の表面形状が転写された加飾樹脂面を有する加飾樹脂層を形成する硬化工程と、を備える。
【0017】
この補修方法によれば、加飾面の表面形状が転写された転写面を用いることで、欠損部上に、加飾面と近似した外観を与えることができる。このため、上記補修方法によれば、補修部と非補修部との境目が目立つことを防いで良好な製品外観が得ることができる。また、上記補修方法では、補修箇所に塗布された硬化性樹脂材料を硬化することで補修が行われるため、硬化工程において、必ずしも補修箇所以外の箇所を保護材等で被覆する必要がない。このため、上記補修方法は、作業効率に優れる補修方法ということができる。
【0018】
一態様において、欠損は、研磨加工により生じた欠損であってよい。
【0019】
一態様に係る補修方法は、加飾面に存在する欠陥部を研磨加工により除去して、欠損部を形成させる研磨工程を更に備えていてよい。
【0020】
一態様に係る補修方法では、塗布工程において、スプレー塗布により硬化性樹脂材料を塗布してよい。
【0021】
本発明の更に他の一側面は、上記製造方法又は上記補修方法に用いるための、転写部材に関し、当該転写部材は、所定の表面形状が転写された転写面を有する可撓性樹脂層を備える。
【0022】
本発明の更に他の一側面は、所定の表面形状が転写された転写面を有する可撓性樹脂層を備える転写部材と、転写部材を含む所定の空間を減圧するバキューム装置と、を備える、加飾キットに関する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、多様な製品外観への応用が可能であり、均一な製品外観を有する加飾物品を容易に製造することが可能な、加飾物品の製造方法が提供される。また、本発明によれば、補修部に非補修部と近似した外観を与えることができ、補修部と非補修部との境目が目立つことを防いて良好な製品外観を得ることが可能な、加飾物品の補修方法が提供される。さらに、本発明によれば、上記製造方法及び補修方法に用いられる、転写部材及び加飾キットが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面は理解を容易にするため一部を誇張して描いており、寸法比率等は図面に記載のものに限定されるものではない。
【0026】
[加飾物品の製造方法]
本実施形態に係る加飾物品の製造方法は、所定の表面形状が転写された転写面を有する転写部材を準備する準備工程と、対象物の被加飾部上又は転写面上に、硬化性樹脂材料を塗布する塗布工程と、転写面を接触させた状態で硬化性樹脂材料を硬化させて、被加飾部上に、転写面の表面形状が転写された加飾樹脂面を有する加飾樹脂層を形成する硬化工程と、を備える。
【0027】
本実施形態に係る製造方法によれば、転写面への転写及び加飾樹脂面への転写により、所望の表面形状を加飾樹脂層の表面に形成できるため、当該表面形状に基づく均一な製品外観を有する加飾物品を容易に製造することができる。また、本実施形態に係る製造方法では、転写面に転写させる表面形状を適宜変更することで、多様な製品外観を有する加飾物品を製造できる。さらに、本実施形態に係る製造方法では、加飾樹脂層を形成した箇所のみが加飾されるため、製品の一部にのみ加飾することも容易である。
【0028】
以下、本実施形態に係る製造方法の各工程について詳述する。
【0029】
(準備工程)
準備工程では、所定の表面形状が転写された転写面を有する転写部材を準備する。準備工程は、転写部材を作製する工程であってよく、作製済みの転写部材を用意する工程であってもよい。
【0030】
本実施形態において、所定の表面形状(以下、「表面形状A」ともいう。)は、所定の外観(以下、「外観A」ともいう。)を成す表面形状である。この表面形状Aを転写面に転写することで、後述の加飾樹脂面に表面形状Aに近似した形状(以下、「表面形状A’」ともいう。)を形成できる。これにより、加飾樹脂面は、外観Aに近似した外観(以下、「外観A’」ともいう。)を有するものとなる。
【0031】
表面形状Aの態様は特に限定されず、例えば、凹凸状であっても波状であってもよい。表面形状Aの具体例としては、艶消し外観を成す表面形状、ゆず肌状の外観を成す表面形状、布状(例えば織布状、不織布状)の外観を成す表面形状、皮革状の外観を成す表面形状、紙状(例えば和紙状)の外観を成す表面形状等が挙げられる。
【0032】
転写部材は転写面を有しており、当該転写面は表面形状Aを転写した形状(以下、「表面形状B」ともいう。)を有している。
【0033】
好適な一態様において、転写部材は、少なくとも一方面側に転写面を有する転写樹脂層を備えていてよい。転写樹脂層の他方面側は、特に限定されず、例えば、表面形状Aとは異なる表面形状が転写された第二の転写面を有していてもよい。また、転写樹脂層の他方面側は、後述するフィルム基材との接着面であってもよい。
【0034】
転写樹脂層は、可撓性を有することが好ましい。転写樹脂層が可撓性樹脂層であると、被加飾部に対する追従性に優れ、硬化性樹脂材料との密着性がより良好になる。
【0035】
転写樹脂層を構成する樹脂材料は、可撓性を有する樹脂層を形成可能な樹脂材料であることが好ましい。転写樹脂層を構成する樹脂材料のショアA硬度は、例えば、90以下であってよく、好ましくは80以下、より好ましくは70以下である。樹脂材料のショアA硬度が低いと、転写樹脂層が可撓性に優れたものになり、被加飾部に対する追従性が一層向上する傾向がある。また、転写樹脂層を構成する樹脂材料のショアA硬度は、例えば30以上であってよく、好ましくは35以上、より好ましくは40以上である。樹脂材料のショアA硬度が高いと、過度な加圧等によって転写面が形状変化することが避けられ、均一な製品外観をより確実に得ることができる。なお、ショアA硬度はJIS K6253:2012(ISO7619−1)に準拠して測定される値を示す。
【0036】
転写樹脂層の転写面は、硬化工程において硬化性樹脂材料を硬化させた後の離型性に優れていることが好ましい。硬化工程では、硬化性樹脂材料を硬化した後、形成された加飾樹脂層上から転写部材を剥離する必要がある。このとき、転写面が離型性に優れていると、剥離時の加飾樹脂面の損傷を防ぎ易くなる。転写面の離型性は、例えば、転写樹脂層を構成する樹脂材料を離型性に優れたものとする、転写面を離型剤で表面処理する、等の方法により確保することができる。
【0037】
転写樹脂層を構成する樹脂材料は、可撓性及び離型性に優れる観点からは、シリコーン樹脂を含むことが好ましい。シリコーン樹脂は、例えば、液状シリコーンゴムの硬化物であってよい。樹脂材料は、シリコーン樹脂を主成分(例えば、樹脂材料全量に対して50質量%以上)とすることが好ましい。転写樹脂層を構成する樹脂材料は、溶剤、潤滑剤、分散剤、充填材等を更に含んでいてもよい。
【0038】
転写樹脂層の厚さは特に限定されず、フィルム基材の有無、樹脂材料の硬度、所望される取扱性等応じて適宜変更してよい。転写樹脂層の厚さは、例えば3mm以下であってよく、1mm以下であることが好ましく、100μm以上であってよく、200μm以上であることが好ましい。
【0039】
転写部材は、フィルム基材を更に備えていてよい。フィルム基材上に転写樹脂層を形成することで、転写部材の強度及び取扱性が向上し、作業効率が一層向上する。
【0040】
フィルム基材は、例えば、可撓性を有するフィルム基材であってよい。これにより転写部材の被加飾部への追従性が向上し、硬化性樹脂材料との密着性がより向上する。フィルム基材の厚さは特に限定されず、例えば350μm以下であってよく、150μm以下であることが好ましく、15μm以上であってよく、50μm以上であることが好ましい。
【0041】
フィルム基材の材質は特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート等の樹脂であってよい。また、フィルム基材は、アルミニウム箔等の金属箔であってもよい。
【0042】
転写樹脂層とフィルム基材とは直接接合していてよく、接着剤層等を介して接合していてもよい。
【0043】
転写部材の製造方法は特に限定されない。転写部材の製造方法の好適な一態様としては、所定の表面形状を有する加飾面上に樹脂成分を塗布する第一の工程と、樹脂成分を硬化させて、加飾面の表面形状が転写された転写面を有する転写樹脂層を形成する第二の工程と、を含む製造方法が挙げられる。
【0044】
上記態様に係る転写部材の製造方法では、樹脂成分の硬化により、樹脂成分の硬化物から構成された転写樹脂層が形成される。このとき、樹脂成分は、加飾面上でその表面形状(表面形状A)に接した状態で硬化されるため、転写樹脂層の加飾面側の面には、表面形状Aが転写された転写面が形成される。
【0045】
樹脂成分は、例えば、硬化性樹脂及びその硬化剤を含有するものであってよい。樹脂成分は、熱硬化性樹脂及び熱硬化剤を含有していてよく、光硬化性樹脂及び光硬化剤を含有していてよく、二液硬化型樹脂のA液及びB液を含有していてもよい。
【0046】
樹脂成分は希釈せずに加飾面上に塗布してよく、溶剤で希釈して加飾面上に塗布してもよい。溶剤は特に限定されず、樹脂成分を溶解又は分散させることができ、塗布後に乾燥等で容易に除去できるものであればよい。
【0047】
樹脂成分の硬化方法は特に限定されず、樹脂成分に含まれる硬化性樹脂及び硬化剤の種類に応じて適宜選択してよい。例えば、樹脂成分は、光照射又は加熱により硬化されてよい。
【0048】
上記態様に係る転写部材の製造方法では、硬化前の樹脂成分上又は硬化後の転写樹脂層上に、フィルム基材を配置して、転写樹脂層及びフィルム基材を備える転写部材を製造してもよい。
【0049】
図1は、転写部材の製造方法の好適な一態様を説明するための図である。
図1に示す転写部材10は、フィルム基材12と、フィルム基材12上に設けられた転写樹脂層11とを備えている。転写樹脂層11のフィルム基材12と反対側の面には、所定の表面形状を転写した表面形状Bが形成されている。
【0050】
準備工程では、転写部材に加えて、後述する減圧下での硬化を実施するためのバキューム装置を更に準備してもよい。バキューム装置は、転写部材を含む所定の空間を減圧できるものであればよく、当該空間内で硬化を行うことで後述する減圧下での硬化が実施できる。
【0051】
図2は、バキューム装置の好適な一態様を説明するための図である。
図2に示すバキューム装置20は、転写部材を含む所定の空間を減圧するための真空パッド21と、減圧条件をコントロールする制御ボックス23と、真空パッド21と制御ボックス23とを連結するチューブ22とを備えている。
【0052】
真空パッド21は、円盤状のプレート31と、プレート31の外周を覆う筒状のシリコンパッド32とを備えている。硬化工程の一態様では、対象物の被加飾部上に硬化性樹脂材料を介して転写部材を配置した後に、転写部材上から、転写部材及び被加飾部を覆うように真空パッド21を配置する。このとき、シリコンパッド32の端部は、対象物の被加飾部の周縁部と接するように位置される。これにより、真空パッド21と対象物とで囲まれた空間内に、被加飾部、硬化性樹脂材料及び転写部材が位置され、減圧下で硬化性樹脂材料を硬化することができる。また、プレート31は加熱手段を有していてよく、プレート31を介して転写部材を加熱することで、硬化性樹脂を硬化してよい。
【0053】
制御ボックス23には、真空ポンプ24が設置されており、真空ポンプ24はチューブ22を介して真空パッド21に接続されている。また、制御ボックス23は、真空ポンプ24による減圧圧力を表示する圧力表示部25と、減圧圧力を表示するレギュレータ26と、プレート31の温度を調整する温度調整部27と、各種情報を表示するパネル28と、を有している。
【0054】
なお、本実施形態に係る転写部材及びバキューム装置は、上記転写部材10及びバキューム装置20に限定されるものではない。
【0055】
(塗布工程)
塗布工程では、対象物の被加飾部上又は転写面上に、硬化性樹脂材料を塗布する。被加飾部上に塗布された場合、塗布された硬化性樹脂材料上に転写部材の転写面を載せ置いて、硬化工程が実施される。転写面上に塗布された場合、硬化性樹脂材料が塗布された転写面と対象物の被加飾部とが対向するように、対象物上に転写部材を載せ置いて、硬化工程が実施される。なお、塗布工程では、対象物の被加飾部上及び転写面上の両方に硬化性樹脂材料を塗布してもよい。
【0056】
硬化性樹脂材料は、硬化性樹脂を含有し、硬化により加飾樹脂層を形成する樹脂材料である。硬化性樹脂材料は、加飾物品の所望の形態に応じて適宜選択してよく、その組成等は特に限定されない。
【0057】
硬化性樹脂は、熱硬化性樹脂であっても光硬化性樹脂であってもよく、熱硬化性樹脂であることが好ましい。硬化性樹脂は特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂等であってよい。
【0058】
硬化性樹脂材料は、硬化性樹脂以外の成分を更に含んでいてよい。例えば、硬化性樹脂材料は、着色剤、無機系粒子、有機系粒子、金属粒子等を更に含んでいてよい。
【0059】
硬化性樹脂材料は希釈せずに被加飾部上又は転写面上に塗布してよく、溶剤で希釈して被加飾部上又は転写面上に塗布してもよい。溶剤は特に限定されず、硬化性樹脂材料を溶解又は分散させることができ、塗布後に乾燥等で容易に除去できるものであればよい。
【0060】
塗布方法は特に限定されず、対象物の被加飾部の形状、硬化性樹脂材料の粘度等に応じて適宜選択してよい。好適な一態様として、硬化性樹脂材料は、溶剤で希釈された状態でスプレー塗布により、被加飾部上又は転写面上に塗布されてよい。スプレー塗布の条件は特に限定されず、例えば、スプレー圧0.2〜0.5MPa、スプレー距離(ノズル先端から塗布対象までの距離)5〜30cmであってよい。
【0061】
塗布工程では、加飾樹脂面を形成する領域に硬化性樹脂材料を塗布することが望ましい。このため、塗布工程では、例えば、対象物の被加飾部以外の領域、又は、加飾面の被加飾部と相対する部分以外の領域に、マスキング処理を施し、これらの領域に硬化性樹脂材料が塗布されることを防いでもよい。
【0062】
(硬化工程)
硬化工程では、転写面を接触させた状態で硬化性材料を硬化させて、被加飾部上に加飾樹脂層を形成する。加飾樹脂層の転写面との接触面(加飾樹脂面)には、転写面の表面形状(表面形状B)が転写され、表面形状Aに近似した外観を有する表面形状A’が形成される。
【0063】
硬化工程における硬化方法は特に限定されず、硬化性樹脂材料の組成等に応じて適宜選択してよい。例えば、硬化性樹脂材料が熱硬化性樹脂を含む場合、硬化工程は加熱により硬化性樹脂材料を硬化する工程であってよく、硬化性樹脂材料が光硬化性樹脂材料を含む場合、硬化工程は光照射により硬化性樹脂材料を硬化する工程であってよい。
【0064】
本実施形態では、転写部材及び対象物を転写面と被加飾部とが対向するように配置し、転写部材及び対象物の間に介在する硬化性樹脂材料を硬化することによって、加飾樹脂層を形成してよい。このとき、転写部材は対象物に対して押圧されていてよい。押圧によって、転写部材及び対象物の間に介在する硬化性樹脂材料が、転写面の凹凸に入り込みやすくなり、均一な製品外観がより得られやすくなる。
【0065】
硬化工程では、減圧下で硬化性樹脂材料を硬化させてよい。転写面が微細な凹凸を有する場合、凹部に空気が残り、硬化性樹脂材料の凹部への充填が十分になされない場合がある。硬化を減圧下で行うことで、転写面が微細な凹凸を有する場合でも、凹部への空気の残存が避けられ、硬化性樹脂材料を転写面に十分に密着させることができる。減圧条件は特に限定されず、例えば0.04−0.1MPaであってよく、好ましくは0.05−0.08MPaである。
【0066】
硬化時の減圧は、例えば、被加飾部と転写面とこれらの間に配置された硬化性樹脂材料とを含む空間を密閉し、真空ポンプ等で当該空間を減圧することで実施してよい。硬化時の減圧は、例えば、上述したバキューム装置によって実施してもよい。
【0067】
本実施形態で加飾される対象物は特に限定されず、上述した各工程を実施可能な被加飾部を有するものであればよい。本実施形態で製造される加飾物品は特に限定されない。加飾物品は、例えば、自動車、家庭用電化製品、携帯電話、ゲーム機、建築用部材、化粧用ツール等の製品又はその一部材であってよい。
【0068】
[加飾物品の補修方法]
本実施形態に係る補修方法は、所定の表面形状(表面形状A)を有する加飾面を備える加飾物品において、加飾面に生じた欠損を補修する補修方法である。本実施形態に係る補修方法では、加飾物品の欠損部に、元の外観に近似した外観を有する加飾樹脂層を形成することで、加飾物品を補修する。
【0069】
本実施形態に係る補修方法は、加飾面の表面形状が転写された転写面を有する転写部材を準備する準備工程と、欠損を有する欠損部に硬化性樹脂材料を塗布する塗布工程と、転写面を接触させた状態で硬化性樹脂材料を硬化させて、欠損部上に、転写面の表面形状が転写された加飾樹脂面を有する加飾樹脂層を形成する硬化工程と、を備える。
【0070】
本実施形態に係る補修方法によれば、加飾面の表面形状(表面形状A)が転写された転写面を用いることで、欠損部上に、加飾面と近似した外観を与えることができる。このため、本実施形態に係る補修方法によれば、補修部と非補修部との境目が目立つことを防いで良好な製品外観が得ることができる。また、本実施形態に係る補修方法では、補修箇所に塗布された硬化性樹脂材料を硬化することで補修が行われるため、硬化工程において、必ずしも補修箇所以外の箇所を保護材等で被覆する必要がない。このため、本実施形態に係る補修方法は、作業効率に優れる補修方法ということができる。
【0071】
本実施形態において、欠損部は、加飾面上に生じた傷、欠け、凹み等であってよい。また、欠損部は、加飾面に存在する欠陥部(例えば、塗装不良によるブツ、小穴等)を研磨加工により除去して形成されたものであってもよい。すなわち、本実施形態に係る補修方法は、加飾面に存在する欠陥部を研磨加工により除去して、欠損部を形成させる研磨工程を更に備えていてよい。
【0072】
研磨工程では、例えば、欠陥部が研磨加工により除去され、平坦化された欠損部が形成される。研磨加工の方法は、加飾面の形態、欠陥部の形態等に応じて適宜選択してよい。例えば、研磨加工は、サンドペーパーによる研磨、フィルム研磨材による研磨、コンパウンディング、シングル又はオービタルサンダー工具による研磨、等であってよい。
【0073】
準備工程は、加飾物品の製造方法における準備工程と同様の工程であってよい。本実施形態で準備でされる転写部材は、加飾面の表面形状(表面形状A)が転写された転写面を有しており、これにより表面形状Aの外観に近似した外観を有する表面形状A’を欠損部上に形成できる。
【0074】
準備工程で準備される転写部材は、補修対象となる加飾物品自体の加飾面(例えば、欠損部以外の加飾面、又は、欠損部が生じる以前の加飾面)から、転写面を形成したものであってよい。また、転写部材は、補修対象となる加飾物品の加飾面と同等の外観を有する原型を用いて、転写面を形成したものであってよい。また、転写部材は、加飾物品に補修の必要が生じてから作製されたものであってよく、加飾物品に補修の必要が生じるより前に作製されたものであってもよい。
【0075】
塗布工程では、欠損部を含む領域に硬化性樹脂材料を塗布してよい。塗布工程では、欠損部に直接、硬化性樹脂材料を塗布することで実施してよく、転写部材の転写面に硬化性樹脂材料を塗布してから、転写部材を欠損部上に載せ置くことで実施してもよい。塗布工程における硬化性樹脂材料及び塗布方法は、加飾物品の製造方法における塗布工程と同様であってよい。
【0076】
加飾物品の加飾面が樹脂層により構成されたものである場合、塗布工程で塗布する硬化性樹脂材料は、当該樹脂層と同じ又は類似した組成の樹脂層を形成可能な樹脂材料であることが好ましい。例えば、加飾面が塗料による塗装面である場合、硬化性樹脂材料としては当該塗料と同じ組成の塗料を用いることが好ましい。
【0077】
硬化工程では、転写面を接触させた状態で硬化性樹脂材料を硬化させて、欠損部上に加飾樹脂層を形成する。加飾樹脂層の転写面との接触面(加飾樹脂面)には、転写面の表面形状(表面形状B)が転写され、表面形状Aに近似した外観を有する表面形状A’が形成される。硬化工程における硬化条件等は、加飾物品の製造方法における硬化工程と同様であってよい。
【0078】
本実施形態で補修される加飾物品は特に限定されず、加飾樹脂層により補修可能な外装を有するものであればよい。加飾物品は、例えば、自動車、家庭用電化製品、携帯電話、ゲーム機、建築用部材、化粧用ツール等の製品又はその一部材であってよい。
【0079】
<確認試験1>
(1)転写部材の作製
所定の表面形状を有する原型として、艶消し塗装板を準備した。液状シリコーンゴムに硬化剤を加えて混練し、艶消し塗装板上に塗布した。真空チャンバーに入れて真空脱泡した後、PETフィルムをラミネートし、常温にて静置することにより樹脂成分を硬化した。これにより、PETフィルム上にシリコーン樹脂層が形成された転写部材を得た。得られたシリコーン樹脂層のショアA硬度は60度だった。シリコーン樹脂層のPETフィルムと反対側の面には、艶消し塗装版の凹凸形状が転写された。
【0080】
(2)転写部材による加飾
艶消し塗装板の一部を研磨して、平坦な被加飾部(欠損部)を形成した。艶消し塗料(BASFジャパン社製、「シリカトップ」)100質量部に硬化剤(BASFジャパン製、「H9000」)27質量部を加えて撹拌し、真空チャンバー内で真空脱泡することで溶剤を揮発させて、塗料(硬化性樹脂材料)を得た。
【0081】
得られた塗料を被加飾部に滴下し、転写部材を塗料の上から載せ置き、減圧下(0.06MPa)で150℃、5分間加熱し、塗料を硬化させた。減圧及び加熱は、上述の好適な一態様に係るバキューム装置を用いて行った。なお、バキューム装置の押圧プレートは直径11センチ、高さ5センチの円盤状とした。塗料の硬化後、常圧環境下にて転写部材を剥離することにより、被加飾部上に、艶消し外観を有する加飾樹脂面を形成した。
【0082】
この確認試験の結果から、転写部材による加飾によって、転写部材の作製に用いた艶消し面と同様の外観を呈する加飾樹脂面を容易に形成できることが確認された。また、加飾樹脂面とその周囲(非加飾面)との境目は目立たず、研磨前と同様の均一な製品外観が得られた。
図3(a)は、確認試験1で得られた加飾樹脂面の顕微鏡写真を示す図であり、
図3(b)は、確認試験1で用いた艶消し塗装板の艶消し面の顕微鏡写真を示す図である。これらの顕微鏡写真からも、加飾樹脂面において、艶消し塗装板の艶消し面の凹凸形状が再現されていることが確認された。
【0083】
<確認試験2>
塗料の硬化を常圧下で行ったこと以外は、確認試験1と同様の方法で加飾樹脂面を形成した。その結果、転写部材による加飾によって、転写部材の作製に用いた艶消し面と同様の外観を呈する加飾樹脂面を容易に形成できることが確認された。また、加飾樹脂面とその周囲との境目は、確認試験1と比較すると目立つものの、その視認性は十分に低かった。
図4(a)は、確認試験1の加飾樹脂面と非加飾面との境目の顕微鏡写真を示す図であり、
図4(b)は、確認試験2の加飾樹脂面と非加飾面との境目の顕微鏡写真を示す図である。