(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6872891
(24)【登録日】2021年4月22日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】柱梁接合部の補強構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/24 20060101AFI20210510BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20210510BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
E04B1/24 L
E04B1/58 508R
E04G23/02 F
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-236555(P2016-236555)
(22)【出願日】2016年12月6日
(65)【公開番号】特開2018-91081(P2018-91081A)
(43)【公開日】2018年6月14日
【審査請求日】2019年9月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100070024
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 宣行
(72)【発明者】
【氏名】仲宗根 淳
【審査官】
須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】
特開2016−023417(JP,A)
【文献】
特開2000−309980(JP,A)
【文献】
特開2001−241102(JP,A)
【文献】
特開2002−188208(JP,A)
【文献】
特開2000−319988(JP,A)
【文献】
実開昭52−017513(JP,U)
【文献】
米国特許第09334642(US,B1)
【文献】
中国特許出願公開第107386437(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/24
E04B 1/58
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4つの側面を有する角形の接合部鋼管及び該接合部鋼管に接合された上ダイヤフラム及び下ダイヤフラムと、H形の横断面形状を有する鉄骨からなる梁との接合部である通しダイヤフラム形式の柱梁接合部の補強構造であって、
前記接合部鋼管の側面の1つを接合面とする一の梁に関連して前記接合部鋼管の周囲に上下の両ダイヤフラムと平行に配置された一の鋼製の板部材を含み、
前記一の板部材は、前記接合面をなす前記接合部鋼管の第1の側面及びこれに隣接する第2の側面と、前記一の梁のウエブの互いに相対する両面の一方とに溶接されている、柱梁接合部の補強構造。
【請求項2】
前記一の板部材は、さらに、前記接合部鋼管の第2の側面を接合面とする他の梁のウエブの互いに相対する両面の一方に溶接されている、請求項1に記載の柱梁接合部の補強構造。
【請求項3】
前記接合部鋼管の4つの側面を接合面とする4つの梁に関連してそれぞれ配置された4つの板部材を含む、請求項1又は2に記載の柱梁接合部の補強構造。
【請求項4】
前記一の板部材は、さらに、前記接合部鋼管の第1の側面に相対する第3の側面に溶接され、
また、さらに、前記接合部鋼管の周りに前記一の板部材に相対して配置された他の板部材であって前記接合部鋼管の第1の側面、前記第3の側面及び該第3の側面に隣接する第4の側面と、前記一の梁のウエブの他方の面とに溶接された他の板部材を含み、
前記一の板部材と前記他の板部材とが互いに溶接されている、請求項1に記載の柱梁接合部の補強構造。
【請求項5】
前記一の板部材は、さらに、前記接合部鋼管の第1の側面に相対する第3の側面と、前記第3の側面を接合面とする他の梁のウエブの互いに相対する両面の一方とに溶接されている、請求項1に記載の柱梁接合部の補強構造。
【請求項6】
さらに、前記接合部鋼管の周りに前記一の板部材に隣接して配置された他の板部材を含み、
前記他の板部材は前記一の梁のウエブの他方の面に溶接されている、請求項1、2及び5のいずれか1項に記載の柱梁接合部の補強構造。
【請求項7】
前記一の板部材は、前記接合部鋼管の下半部に位置する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の柱梁接合部の補強構造。
【請求項8】
前記一の板部材は、前記一の梁が曲げの力を受けるときに前記接合部鋼管の下半部において前記一の梁のウエブの断面に生じる引張歪み又は圧縮歪みの値が最大となる、前記一の梁のウエブと下フランジとの境界の高さ位置と、前記引張歪み又は圧縮歪みがその最大値の半分の値となる高さ位置との間にある、請求項7に記載の柱梁接合部の補強構造。
【請求項9】
さらに、前記一の板部材と平行に配置され前記接合部鋼管の上半部に位置する他の板部材を含む、請求項8に記載の柱梁接合部の補強構造。
【請求項10】
前記他の板部材は、前記一の梁が曲げの力を受けるときに前記接合部鋼管の上半部において前記一の梁のウエブの断面に生じる圧縮歪み又は引張歪みの値が最大となる、前記一の梁のウエブと上フランジとの境界の高さ位置と、前記圧縮歪み又は引張歪みがその最大値の半分の値となる高さ位置との間にある、請求項9に記載の柱梁接合部の補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物における柱梁接合部の補強構造、より詳細には矩形の横断面形状を有する鋼管(角形鋼管)からなる柱とH形の横断面形状を有する鉄骨からなる梁との接合部の一つである通しダイヤフラム形式の柱梁接合部の補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
通しダイヤフラム形式の柱梁接合部においては、上端面及び下端面を有する角形の鋼管(接合部鋼管)と該接合部鋼管の上下両端面にそれぞれ接合された上ダイヤフラム及び下ダイヤフラムとに、それぞれ、梁がそのウエブ及び上下の両フランジにおいて接合される。上下の両ダイヤフラムにはそれぞれ接合部鋼管と共に建物の柱を構成することとなる上下2つの角形鋼管が接合される。
【0003】
この通しダイヤフラム形式の柱梁接合部にあっては、建物に地震力が作用しこれに伴って梁に曲げモーメントが生じるとき、曲げモーメントに起因する梁の軸方向力がその両フランジから上下の両ダイヤフラムを通して接合部鋼管に伝達され、接合部鋼管に局部変形を生じさせることがある。接合部鋼管の局部変形は、接合部鋼管に接合される梁のウエブに耐力の低下をもたらすため、その耐力低下を補うべく、比較的大きい断面を有する梁が用いられる。しかし、大断面の梁の使用は建物の重量増大、建築費の増大等を招来するという問題がある。
【0004】
従来、この問題を解決し、比較的小断面の梁の使用を可能とするため、柱梁接合部の補強構造が提案されている。補強は、接合部鋼管の内部に複数の鋼製の板部材を互いに間隔をおいて水平に配置しかつこれらの板部材の周縁において接合部鋼管の内壁面に溶接し(後記特許文献1参照)、あるいは、複数の鋼製の板部材を十字状に垂直に配置しかつこれらの板部材の側縁において接合部鋼管の内壁面に溶接する(後記特許文献2参照)ことにより行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−52247号公報
【特許文献2】特開平7−310369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記従来の柱梁接合部の補強においては、接合部鋼管の内部への板部材の設置を必要とする。このため、前記従来の補強構造は新設の建物については適用可能であるが、既設の建物については適用することができないという問題がある。本発明の目的は、建物の新設及び既設を問わず、柱梁接合部の補強を可能とする補強構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、4つの側面を有する角形の接合部鋼管及び該接合部鋼管に接合された上ダイヤフラム及び下ダイヤフラムと、H形の横断面形状を有する鉄骨からなる梁との接合部である通しダイヤフラム形式の柱梁接合部の補強構造に係る。補強構造は、前記接合部鋼管の側面の1つを接合面とする一の梁に関連して前記接合部鋼管の周囲に上下の両ダイヤフラムと平行に配置された一の鋼製の板部材を含む。前記一の板部材は、前記接合面をなす前記接合部鋼管の第1の側面及びこれに隣接する第2の側面と、前記一の梁のウエブの互いに相対する両面の一方とに溶接されている。
【0008】
本発明にあっては、前記接合部鋼管に接合された一の梁に関連して配置された一の板部材が、前記一の梁の接合面をなす前記接合部鋼管の第1の側面及びこれに隣接する第2の側面と前記梁のウエブの一方の面とに溶接されこれらと一体をなし、前記接合部鋼管と前記梁との接合領域である柱梁接合部を機械的に補強する。これによれば、建物が地震力を受けて前記梁に曲げモーメントが生じたとき、前記曲げモーメントに起因する前記梁の両フランジを通しての軸方向力の伝達を受ける前記接合部鋼管の局部変形(面外変形)と、これに伴う前記梁のウエブの耐力の低下とが抑制される。また、前記梁のウエブはその耐力低下の抑制により前記曲げモーメント(引張応力又は圧縮応力)の一部を負担することが可能となり、これが梁断面の縮小化に寄与する。さらに、前記梁のウエブによる相応の応力負担によって、前記梁に生じる応力が緩和され、これにより、前記梁の前記接合部鋼管に対する接合を溶接により行った場合の溶接個所の破断までの変形性能をより向上させることができる。ここにおいて、本発明においては、前記板部材が前記接合部鋼管の周囲、すなわち前記接合部鋼管の内部ではなくその外部に配置されることから、本発明に係る補強構造は、既設の建物の柱梁接合部に適用可能であり、また、既設の建物に限らず、新設の建物にも適用可能である。
【0009】
前記一の板部材は、前記接合部鋼管の第1の側面及び第2の側面と前記一の梁のウエブの一方の面とに加えて、さらに、前記接合部鋼管の第2の側面を接合面とする他の梁のウエブの互いに相対する両面の一方に溶接されているものとすることができる。これによれば、前記一の板部材を介しての前記一の梁のウエブ及び前記他の梁のウエブ相互間における力の伝達を可能とし、これにより、前記柱梁接合部の補強のより一層の増大を図ることができる。
【0010】
前記補強構造は、さらに、前記接合部鋼管の周りに前記一の板部材に隣接して配置された他の板部材を含むものとすることができる。ここにおいて、前記他の板部材は前記一の梁のウエブの他方の面に溶接されている。これによれば、互いに隣接する2つの板部材により、より強固な補強を実現することができる。また、前記補強構造は、例えば、前記接合部鋼管の4つの側面を接合面とする4つの梁に関連してそれぞれ配置された4つの板部材を含むものとすることができる。
【0011】
前記一の板部材が、さらに、前記接合部鋼管の第1の側面に相対する第3の側面に溶接され、また、前記補強構造が、さらに、前記接合部鋼管の周りに前記一の板部材に相対して配置された他の板部材であって前記接合部鋼管の第1の側面、前記第3の側面及び該第3の側面に隣接する第4の側面と、前記一の梁の
ウエブの他方の面とに溶接された他の板部材を含み、前記一の板部材と前記他の板部材とが互いに溶接されているものとすることができる。これによれば、一体をなす前記一の板部材及び前記他の板部材により、前記柱梁接合部の補強をより強固にすることができる。
【0012】
前記一の板部材は、前記接合部鋼管の第1の側面及び第2の側面と前記一の梁のウエブの一方の面とに加えて、さらに、前記接合部鋼管の第1の側面に相対する第3の側面と、前記第3の側面を接合面とする他の梁のウエブの互いに相対する両面の一方とに溶接されているものとすることができる。これによれば、前記一の板部材が前記接合部鋼管に対してより多くの範囲にわたって溶接されていることから、前記柱梁接合部の補強をより強固にすることができる。この例にあっては、前記一の板部材は、前記他の梁のウエブと該他の梁の接合面(第3の側面)とこれに隣接する側面である前記第2の側面とに溶接されており、2つの梁のそれぞれに関連して配置された共通の板部材をなす。この例においては、前記柱梁接合部の補強構造が、さらに、前記接合部鋼管の周りに前記一の板部材に隣接して配置された他の板部材を含むものとすることができる。前記他の板部材は、前記一の梁のウエブの他方の面、好ましくはさらに前記他の梁のウエブの他方の面に溶接されている。これによれば、互いに隣接する2つの板部材により、より強固な補強を実現することができる。
【0013】
前記一の板部材は接合部鋼管の下半部の高さ位置に配置することができる。これによれば、前記一の板部材は、建物が地震力を受け、前記一の梁が曲げの力を受けたときに該梁に生じる曲げモーメントに起因する大きさの異なる軸方向力のうち、一般的に前記梁の下フランジに沿った比較的大きい軸方向力の伝達を受ける前記接合部鋼管の下端及びその近傍に補強効果を及ぼし、前記接合部鋼管の局部変形の抑制に寄与する。前記一の板部材は、好ましくは、前記一の梁が曲げの力を受けたときに前記一の梁のウエブの断面に生じる引張歪み又は圧縮歪みの値が最大となる、前記梁のウエブと下フランジとの境界の高さ位置と、前記引張歪み又は圧縮歪みがその最大値の半分の値となる高さ位置との間に配置する。
【0014】
また、前記一の板部材と平行に配置され前記接合部鋼管の上半部に位置する追加の板部材を含むものとすることができる。これによれば、前記追加の板部材は、地震時に前記一の梁に生じる曲げモーメントに起因する大きさの異なる軸方向力のうち前記一の梁の上フランジに沿った比較的小さい軸方向力の伝達を受ける前記接合部鋼管の上端及びその近傍に補強効果を及ぼし、前記接合部鋼管の局部変形の抑制に寄与する。前記追加の板部材は、好ましくは、前記一の梁が曲げの力を受けるときに前記一の梁のウエブの断面に生じる圧縮歪み又は引張歪みの値が最大となる、前記一の梁のウエブと上フランジとの境界の高さ位置と、前記圧縮歪み又は引張歪みがその最大値の半分の値となる高さ位置との間に配置する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】4つの梁が配置された建物の柱梁接合部及びその補強構造を示す斜視図である。
【
図3】接合部鋼管の周りに3つの梁が配置された柱梁接合部の横断面図である。
【
図4】接合部鋼管の周りに互いに隣接する2つの梁が配置された柱梁接合部の横断面図である。
【
図5】接合部鋼管の周りに1つの梁が配置された柱梁接合部の横断面図である。
【
図6】接合部鋼管の周りに互いに相対する2つの梁が配置された、他の例の補強構造を含む柱梁接合部の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1及び
図2を参照すると、建物における通しダイヤフラム形式の柱梁接合部10に適用された補強構造が全体に符号12で示されている。
【0017】
この形式の柱梁接合部10は、上下方向へ伸びる角形の接合部鋼管14並びに該接合部鋼管に接合された上ダイヤフラム16及び下ダイヤフラム18(但し、第2図には下ダイヤフラム18のみを示す。)を備える。上下の両ダイヤフラム16、18は、接合部鋼管14に、その上端面及び下端面においてそれぞれ接合されている。接合部鋼管14は正方形の横断面形状を有し、該横断面形状を規定する4つの側面14a、14b、14c、14dを有する。上下の両ダイヤフラム16、18はそれぞれ正方形の平面形状を有し、前記正方形の四辺に沿って伸びる周側面16a、18aを有する。上下の両ダイヤフラム16、18には、それぞれ、接合部鋼管14と共に前記建物の柱を構成する上下の両柱用鋼管20、22が溶接により接合されている。
【0018】
図1及び
図2に示す例においては、前記建物を構成する4つの梁24(便宜的に符号24A、24B、24C及び24Dを付す。)が、接合部鋼管14及び上下の両ダイヤフラム16、18の周囲に90度の角度的間隔をおいて配置され、4つの梁24はそれぞれ接合部鋼管14の4つの側面14a、14b、14c、14dに相対し、接合部鋼管14の周りに互いに隣接している。
【0019】
各梁24はH形の横断面形状を有する鉄骨からなり、上下の両フランジ24a、24bとこれらの両フランジに連なるウエブ24cとを有する。4つの梁24A、24B、24C、24Dは、それぞれ、これらの端面において、より詳細にはウエブ24cの端面において、接合部鋼管14の4つの側面14a、14b、14c、14dにこれらの側面を接合面として溶接により接合されている。各梁24は、また、その上下の両フランジ24a、24bの端面において、上下の両ダイヤフラム16、18の周側面16a、18aにそれぞれ溶接され、これにより両ダイヤフラム16、18に接合されている。
【0020】
柱梁接合部10の補強構造12は、接合部鋼管14の各側面14a、14b、14c、14dを接合面とする一の梁24A、24B、24C、24Dに関連して配置された一の鋼製の板部材26(便宜的に、符号26A、26B、26C及び26Dを付す。)、したがって全部で4つの板部材26を含む。すなわち、側面14aを接合面とする一の梁24Aとの関連において配置された一の板部材26Aと、側面14bを接合面とする一の梁24Bとの関連において配置された一の板部材26Bと、側面14cを接合面とする一の梁24Cとの関連において配置された一の板部材26Cと、側面14dを接合面とする一の梁24Dとの関連において配置された一の板部材26Dとを含む。図示の補強構造12は、さらに、接合部鋼管14の各側面14a、14b、14c、14dを接合面とする一の梁24A、24B、24C、24Dに関連して、一の板部材26と対をなして配置された他の鋼製の板部材28(便宜的に、符号28A、28B、28C、28Dを付す。)を含む。但し、板部材28についてはその配置を省略することが可能である。
【0021】
各対の板部材26、28は、接合部鋼管14の周囲に上下の両ダイヤフラム16、18と平行に配置されている。各対の板部材26、28のうちの一方の板部材26は他方の板部材28の下方位置にあって板部材28と平行である。また、各対の板部材
26、28は互いに隣接する2つの梁24間に位置する。すなわち、一対の板部材26A、28Aは2つの梁24A、24B間に位置し、一対の板部材26B、28Bは2つの梁24B、24C間に位置し、一対の板部材26C、28Cは2つの梁24C、24D間に位置し、また、一対の板部材26D、28Dは2つの梁24D、24A間に位置する。また、接合部鋼管14の周りの4つの板部材26及び4つの板部材28はそれぞれ同一の高さ位置にある。
【0022】
各対の板部材26、28は、関連する一の梁24の接合面をなす接合部鋼管14の一の側面を第1の側面としてまた該第1の側面に隣接する他の側面を第2の側面として、前記第1の側面及び前記第2の側面に溶接され、また、関連する一の梁24のウエブ24cの一方の面24c1(
図2参照)に溶接されている。より詳細には、一対の板部材26A、28Aは、関連する一の梁24Aが接合された接合部鋼管14の側面14a及びこれに隣接する側面14bと、梁24Aのウエブ24cの一方の面24c1とに溶接されている。一対の板部材26B、28Bは、関連する一の梁24Bが接合された接合部鋼管14の側面14b及びこれに隣接する側面14cと、梁24Bのウエブ24cの一方の面24c1とに溶接されている。一対の板部材26C、28Cは、関連する一の梁24Cが接合された接合部鋼管14の側面14c及びこれに隣接する側面14dと、梁24Cのウエブ24cの一方の面24c1とに溶接されている。また、一対の板部材26D、28Dは関連する一の梁24Dが接合された接合部鋼管14の側面14d及びこれに隣接する側面14aと、梁24Dのウエブ24cの一方の面24c1とに溶接されている。
【0023】
補強構造12によれば、各対の板部材26及び28が接合部鋼管14及び各梁24と一体をなし、柱梁接合部10、接合部鋼管14及び各梁24を機械的に補強する。各対の板部材26、28は、接合部鋼管14の周囲、すなわち接合部鋼管14
の外部に配置されることから、柱梁接合部10の補強について、既設の建物に適用することができる。また、既設の建物に限らず、新設の建物にも適用することができる。
【0024】
図示の例にあっては、さらに、一の梁24に関連する各対の板部材26、28が、前記第2の側面を接合面とする他の梁24のウエブ24cに溶接されている。すなわち、一対の板部材26A、28Aは、一の梁24Aに隣接する他の梁24Bのウエブの他方の面24c2に溶接され、一対の板部材26B、28Bは、一の梁24Bに隣接する他の梁24Cのウエブの他方の面24c2に溶接され、一対の板部材26C、28Cは、一の梁24Cに隣接する他の梁24Dのウエブの他方の面24c2に溶接され、また、一対の板部材26D、28Dは、一の梁24Dに隣接する他の梁24Aのウエブの他方の面24c2に溶接されている。これによれば、各対の板部材26、28を介して、両隣の2つの梁24のウエブ24c間での力の伝達が可能とされる。但し、各対の板部材26、28が他の梁24のウエブの他方の面24c2に溶接されないものとすることができる。
【0025】
また、一の梁24に関連して配置された各対の板部材26、28が一の梁24のウエブ24c及びこれに隣接する他の梁24のウエブ24cの双方に溶接されるとき、各対の板部材26、28は他の梁24に関連して配置された他の板部材をなす。これを、互いに隣接する梁24A及び梁24B間に配置された一対の板部材26A、28Aについて見ると、他の梁24Bのウエブ24cに溶接された一対の板部材26A、28Aは、梁24Bが接合された接合部鋼管14の側面14bとこれに隣接する側面14aに溶接されており、これらの側面14b、14aはそれぞれ前記第1の側面及び第2の側面に相当する。このことから、一対の板部材26A、28Aは、一の梁24Aに関連して配置されたものであると同時に、他の梁24Bに関連して配置された他の板部材に相当するものであるということができる。これによれば、柱梁接合部10が一の梁24に関連する二対の板部材26、28により、より強固に補強される。
【0026】
各対の板部材26、28は、好ましくは同一の平面形状を有する。図示の板部材26、28は全体に扇形を呈する平面形状を有する。各対の板部材26、28は、それぞれ、前記扇形の輪郭に沿って伸びる周側面30、32を有する。周側面30、32は、円弧状の外周部30a、32aと、該外周部に相対する内周部30b、32bと、内外両周部30a及び32a、30b及び32bにそれぞれ連なる2つの直線的に伸びる周端部30c、32c及び30d、32dとからなる。各板部材26、28は、例えば、接合部鋼管14の厚さ寸法とほぼ同じ大きさの厚さ寸法を有する。なお、外周部30a、32aの形状については、これを円弧状とする図示の例に代えて、例えば長円形の一部からなるもの、多角形の一部からなるもの、直線状のもの等とすることができる。
【0027】
前記扇形を呈する各対の板部材26、28は、その周側面30、32の一部である内周部30b、32bにおいて接合部鋼管14の互いに隣接する前記第1の側面及び前記第2の側面(より詳細にはこれらの側面の一部)にそれぞれ溶接され、また、他の一部である一方の周端部30c、32c及び他方の周端部30d、32dにおいてそれぞれ梁24のウエブ24cの一方の面24c1及び他方の面24c2に溶接されている。
図1及び
図2に示す例において、各対の板部材26、28の外周部30a、32aはそれぞれ約1/4円の周長を有する。また、各対の板部材26、28の内周部30b、32bは、それぞれ、接合部鋼管14の互いに隣接する前記第1の側面の一部及び前記第2の側面の一部に沿って角形に伸びる輪郭を有し、前記第1の側面の一部及び前記第2の側面の一部に接している。さらに、各対の板部材26、28の両周端部30c、32c及び30d、32dはそれぞれ梁24のウエブの一方の面24c1及び他方の面24c2に接している。
【0028】
次に、
図3、
図4及び
図5を参照すると、接合部鋼管14及び上下の両ダイヤフラム16、18に接合された梁24の数が3つである場合、2つである場合及び1つである場合の補強構造12の例が示されている。
【0029】
図3に示す補強構造12は、
図1及び
図2に示す補強構造12から一対の板部材26B、28Bを欠如してなるものに相当する。但し、
図3に示す補強構造12においては、
図1及び
図2に示す例における梁24Cが存在しないため、一対の板部材26C及び28Cの周端部30c、32cが非溶接の自由端とされている。なお、一対の板部材26B、28Bを欠如してなるものとしないで、これらを存置してなるものとすることが可能である。存置する場合においては、板部材26B、28Bの周端部30d、32dは非溶接の自由端とされる。
【0030】
また、
図4に示す補強構造12は、
図1及び
図2に示す補強構造12から一対の板部材26B、28B及び一対の板部材26C、28Cを欠如してなるものに相当する。但し、
図4に示す補強構造12においては、
図1及び
図2に示す例における2つの梁24C、24Dが存在しないため、一対の板部材26D及び28Dの周端部30c、32cが非溶接の自由端とされている。
【0031】
さらに、
図5に示す補強構造12は、
図1及び
図2に示す補強構造12から三対の板部材26A及び28A、26C及び28C、26D及び28Dを欠如してなるものに相当する。但し、
図5に示す補強構造12においては、
図1及び
図2に示す例における3つの梁24A、24C、24Dが存在しないため、一対の板部材26B及び28Bの周端部30d、32dが非溶接の自由端とされている。
【0032】
次に、
図6を参照すると、接合部鋼管14及び上下の両ダイヤフラム16、18に対して、互いに相対する一の梁24B及び他の梁24Dが接合された柱梁接合部10に適用された補強構造12の例が示されている。
【0033】
図6に示す補強構造12は、実質的に、
図1及び
図2に示す各対の板部材26A〜26D、28A〜28Dと同等の働きをなす一対の板部材26、28を含む。
【0034】
一対の板部材26、28は、接合部鋼管14の側面14bを接合面とする一の梁24Bに関連して配置され、接合部鋼管14の側面14b及びこれに隣接する側面14aにこれらの側面をそれぞれ第1の側面及び第2の側面として溶接され、また、一の梁24Bのウエブ24cにその一方の面において溶接されている。一対の板部材26、28は、さらに、接合部鋼管14の前記第1の側面に相対する側面14dに該側面を第3の側面として溶接され、また、他の梁24Dのウエブ24cにその一方の面において溶接されている。ここにおいて、一対の板部材26、28は、接合部鋼管14の側面14dを接合面とする梁24Dに関連して配置され、接合部鋼管14の前記第3の側面である側面14d及びこれに隣接する側面14aに、これらの側面14d、14aをそれぞれ第1の側面及び第2の側面として溶接されている。このことから、一対の板部材26、28は、
図1及び
図2に示す各対の板部材26A〜26D、28A〜28Dと同様、一の梁24B及び他の梁24Dのそれぞれに関連して配置された共通の
板部材である。
【0035】
図6に示す一対の板部材26、28は、全体に扇形の平面形状を呈し、周長が約1/2円である外周部30aを有する周側面30を備える。各板部材26、28は、その周側面30、32の一部である内周部30b、32bにおいて、接合部鋼管14の互いに隣接する側面14b(第1の側面)、側面14a(第2の側面)及び側面14d(第3の側面)にそれぞれ溶接され、また、他の一部である一方の周端部30c、32c及び他方の周端部30d、32dにおいてそれぞれ梁24Bのウエブ24c及び梁24Dのウエブ24cに溶接されている。各板部材26、28の各内周部30b、32bは、接合部鋼管14の互いに隣接する前記第1の側面の一部、前記第2の側面の全部及び前記第3の側面の一部に沿って角形に伸びる輪郭を有し、前記第1の側面の一部、前記第2の側面の全部及び前記第3の側面の一部に接している。両周端部30c、32c及び30d、32dはそれぞれ梁24Bのウエブの一方の面及び梁24Dの一方の面に接している。
【0036】
補強構造12は、約1/2円の周長を有する一対の板部材26、28に加えて、さらに、該板部材と同様の他の一対の板部材(図示せず)を有するものとすることができる。前記他の一対の板部材は、接合部鋼管14の周りに一対の板部材26、28に隣接して配置され、一対の板部材26、28に相対している。前記他の一対の板部材は、接合部鋼管14の前記第1の側面である側面14b、前記第3の側面である側面14d、及び前記第2の側面である側面14aに相対する側面14c(第4の側面)と、一の梁24Bのウエブ24cの他方の面及び他の梁24Dのウエブ24cの他方の面とに溶接されている。
【0037】
ここで、再び
図3を参照すると、一対の板部材26C
、28Cをこれに代えて
図6に示す約1/2円の周長を有する一対の板部材(26、28)とすることができる(図示せず)。一対の板部材(26、28)は、
図6に示すと同様に配置されかつ接合部鋼管14の側面14b、14c、14dに溶接され、また、梁24Bのウエブの一方の面24c1及び梁24Dのウエブの他方の面24c2(
図2参照)に溶接される。
【0038】
また、再び
図4を参照すると、補強構造12が、さらに、
図6に示す約1/2円の周長を有する一対の板部材(26、28)を含むものとすることができる(図示せず)。前記一対の板部材(26、28)は、
図6に示すと同様に配置されかつ接合部鋼管14の側面14b、14c、14dに溶接され、また、梁24Bのウエブの一方の面24c1(
図2参照)に溶接される。
図4に示す例にあっては、
図1及び
図2に示す梁24Dが存在しないため、前記一対の板部材(26、28)を一対の板部材26D、28Dに溶接することができる。
【0039】
さらに、再び
図5を参照すると、補強構造12が、一対の板部材26B
、28Bをこれに代えて
図6に示す約1/2円の周長を有する一対の板部材(26、28)とされ、また、さらにもう一対の板部材(26、28)を有するものとすることができる(図示せず)。
【0040】
一対の板部材(26、28)は、接合部鋼管14の第1の側面である側面14b及び第2の側面である側面14cに加えて、さらに、側面14bに相対する側面14d(第3の側面)に溶接され、梁24Bのウエブの一方の面24c1(
図2参照)に溶接される。また、前記もう一対の板部材(26、28)は、接合部鋼管14の周りに一対の板部材(26、28)に相対して配置され、接合部鋼管14の側面14b(第1の側面)、側面14d(第3の側面)、及び、該第3の側面に隣接する側面14a(第4の側面)に溶接され、また、梁24Bのウエブの他方の面24c2(
図2参照)に溶接される。
【0041】
前記建物が地震力を受けて梁24に曲げの力が作用し、梁24に曲げモーメントが生じるとき、接合部鋼管14は梁24から前記曲げモーメントに起因する軸方向力を受ける。各対の板部材26、28は、それぞれ、梁24から伝達される前記軸方向力によって接合部鋼管14に局部変形が生じることを抑制する働きをなす。接合部鋼管14の局部変形を抑制することにより、梁24のウエブ24cの耐力の低下、すなわち前記曲げモーメントに対する負担能力の低下を最小限にとどめることができる。その結果、ウエブ24cの耐力低下を見込んで行う大断面の梁24の採用を不要とし、これにより、より小さい断面のしたがってより軽量の梁24の採用とこれに伴う前記建物の重量軽減及び建築費の削減とを可能にする。また、ウエブ24cによる相応の応力負担により、両フランジ24a、24bの応力負担が軽減され、これにより、梁24の溶接端の破断又は梁24のウエブ24c及び両フランジ24a、24bの座屈に至るまでの梁24の変形性能の向上が図られる。
【0042】
接合部鋼管14への前記軸方向力の伝達は、主として梁24の上下両フランジ24a、24bを介してなされる。梁24の上フランジ24a上には、通常、前記建物を構成する床スラブ(図示せず)が存在することから、上フランジ24aに沿って伝達される軸方向力はその一部が前記床スラブによって負担される。このため、上フランジ24aに沿って伝達される軸方向力の大きさは下フランジ24bに沿って伝達される軸方向力の大きさより小さい。
【0043】
前記した事情のもと、比較的大きい軸方向力を受けて比較的大きい局部変形を引き起こす可能性のある接合部鋼管14の前記下半部を補強すべく、板部材26は接合部鋼管14の前記下半部の高さ位置に配置される。板部材26は、接合部鋼管14の前記下半部の高さ内における任意の高さ位置に配置することが可能であるが、好ましくは、次に述べるところを考慮してその配置位置を定める。
【0044】
梁24が曲げの力、すなわち梁24の下フランジ24bに引張応力が生じる曲げの力(正の曲げの力)又は梁24の下フランジ24bに圧縮応力が生じる曲げの力(負の曲げの力)を受けるとき、梁24のウエブ24cの断面(平面保持を仮定した断面)に歪みが生じる。
【0045】
前記正の曲げにおいて梁24のウエブ24cの断面に生じる歪みは、その分布上、ウエブ24cと上フランジ24aとの境界の高さ位置からウエブ24cと下フランジ24bとの境界の高さ位置までの間において圧縮歪みから引張歪みへと直線的に変化する。このとき、前記圧縮歪みはウエブ24cと上フランジ24aとの境界の高さ位置で最大となり、かつ、前記引張歪みはウエブ24cと下フランジ24bとの境界の高さ位置で最大となる。
【0046】
また、前記負の曲げにおいて、梁24のウエブ24cの断面に生じる歪みは、その分布上、ウエブ24cと上フランジ24aとの境界の高さ位置からウエブ24cと下フランジ24bとの境界の高さ位置までの間において引張歪みから圧縮歪みへと直線的に変化する。このとき、前記引張歪みはウエブ24cと上フランジ24aとの境界の高さ位置で最大となり、かつ、前記圧縮歪みはウエブ24cと下フランジ24bとの境界の高さ位置で最大となる。
【0047】
なお、前記したように、上フランジ24aにおける前記軸方向力の大きさは、下フランジ24bにおける前記軸方向力の大きさより小さい。このことから、前記正の曲げにおいて圧縮歪みの絶対値は引張歪みの絶対値より小さく、また、前記負の曲げにおいて前記引張歪みの絶対値は前記圧縮歪みの絶対値より小さい。
【0048】
前記したところを考慮して、接合部鋼管14の下半部の前記高さ位置に配置される板部材26は、その補強効果の発揮上、前記正の曲げ時における引張歪み又は前記負の曲げ時における圧縮歪みが比較的大きい箇所にあることが望ましい。このため、板部材26は、前記引張歪みの値又は圧縮歪みの値が最大となる、梁24のウエブ24cと下フランジ24bとの境界の高さ位置と、前記引張歪み及び圧縮歪みがその最大値の半分の値となる高さ位置(図上、前記境界より上方の位置)との間に配置されることが望ましい。
【0049】
前記したと同様の理由から、板部材28は接合部鋼管14の前記上半部の高さ位置に配置され、板部材28も、また、その補強効果の発揮上、前記正の曲げ時における圧縮歪み又は前記負の曲げ時における引張歪みが比較的大きい箇所にあることが望ましい。このため、板部材28は、前記圧縮歪みの値又は引張歪みの値が最大となる、梁24のウエブ24cと上フランジ24aとの境界の高さ位置と、前記引張歪み又は前記圧縮歪みがその最大値の半分の値となる高さ位置(前記境界より下方の位置)との間に配置されることが望ましい。
【0050】
梁24の下フランジ24bを通して前記軸方向力が接合部鋼管14の前記下半部に伝達されるとき、主として、板部材26が前記下半部に補強作用を及ぼし該下半部への局部変形の発生を抑制する。また、梁24の上フランジ24aを通して前記軸方向力が接合部鋼管14の前記上半部に伝達されるとき、同様に、主として板部材28が前記上半部に補強作用を及ぼし該上半部への局部変形の発生を抑制する。
【符号の説明】
【0051】
10 柱梁接合部
12 補強構造
14 接合部鋼管
16、18 上ダイヤフラム及び下ダイヤフラム
24、24A、24B、24C、24D 梁
24a、24b、24c 梁の上フランジ、下フランジ及びウエブ
26、28 板部材
30、32 板部材の周側面
30a、30b、32a、32b:周側面の外周部、内周部
30c、30d、32c、32d:周側面の周端部