特許第6872900号(P6872900)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6872900運動案内装置の寿命診断装置、方法、プログラムおよびシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6872900
(24)【登録日】2021年4月22日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】運動案内装置の寿命診断装置、方法、プログラムおよびシステム
(51)【国際特許分類】
   G01M 13/04 20190101AFI20210510BHJP
   F16C 29/06 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   G01M13/04
   F16C29/06
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-256586(P2016-256586)
(22)【出願日】2016年12月28日
(65)【公開番号】特開2018-109538(P2018-109538A)
(43)【公開日】2018年7月12日
【審査請求日】2019年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100085006
【弁理士】
【氏名又は名称】世良 和信
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100096873
【弁理士】
【氏名又は名称】金井 廣泰
(74)【代理人】
【識別番号】100131532
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 浩一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123098
【弁理士】
【氏名又は名称】今堀 克彦
(72)【発明者】
【氏名】海野 旭弘
(72)【発明者】
【氏名】林 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 由紀
(72)【発明者】
【氏名】大橋 智史
(72)【発明者】
【氏名】浅野 祐介
(72)【発明者】
【氏名】木暮 克徳
【審査官】 福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−218888(JP,A)
【文献】 特開2015−224728(JP,A)
【文献】 特開2009−074853(JP,A)
【文献】 特開2011−085532(JP,A)
【文献】 米国特許第05952587(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00〜13/045
F16C 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道部材に複数の転動体を介して移動部材を相対移動可能に組み付けた運動案内装置の寿命診断装置であって、
前記軌道部材が形成する軌道に対する前記移動部材の変位量及び前記軌道における前記移動部材の位置を基に、前記移動部材が前記軌道沿いに移動する際のウェービングの頂点を検出する頂点検出手段と、
前記頂点検出手段が前記ウェービングの頂点を検出するタイミング及び前記軌道に対する前記移動部材の変位量を基に、前記移動部材の転動面を前記軌道の方向沿いに少なくとも2つ以上に区分けした仮想の区間毎に、前記移動部材が移動している際に各区間に発生する応力である移動時応力を算出する応力算出手段と、
前記移動部材が前記軌道沿いに移動する際のウェービングに伴い繰り返し発生する前記移動時応力の発生回数を、前記変位量を基に前記区間毎にカウントするカウント手段と、
前記移動時応力の大きさと前記移動時応力の発生回数とに基づく寿命到達率の算出を前記区間毎に行い、算出した前記各区間の寿命到達率を基に前記運動案内装置の寿命診断を行う診断手段と、を備える、
運動案内装置の寿命診断装置。
【請求項2】
前記診断手段は、線形累積損傷則に従って前記寿命到達率の算出を行い、算出した前記各区間の寿命到達率を基に前記運動案内装置の寿命診断を行う、
請求項1に記載の運動案内装置の寿命診断装置。
【請求項3】
前記診断手段は、前記移動時応力の大きさ毎の発生回数を前記区間毎に集計したテーブルのデータを基に、前記寿命到達率の算出を前記区間毎に行う、
請求項1または2に記載の運動案内装置の寿命診断装置。
【請求項4】
前記移動部材は、前記軌道に対し直交する方向沿いに前記軌道部材の表面に対する距離を測定するセンサを有し、
前記変位量は、前記センサの出力に基づいて取得される、
請求項1から3の何れか一項に記載の運動案内装置の寿命診断装置。
【請求項5】
軌道部材に複数の転動体を介して移動部材を相対移動可能に組み付けた運動案内装置の寿命診断方法であって、
前記軌道部材が形成する軌道に対する前記移動部材の変位量及び前記軌道に対する前記移動部材の位置を基に、前記移動部材が前記軌道沿いに移動する際のウェービングの頂点を検出し、
前記ウェービングの頂点が検出されるタイミング及び前記軌道に対する前記移動部材の変位量を基に、前記移動部材の転動面を前記軌道の方向沿いに少なくとも2つ以上に区分けした仮想の区間毎に、前記移動部材が移動している際に各区間に発生する応力である移動時応力を算出し、
前記移動部材が前記軌道沿いに移動する際のウェービングに伴い繰り返し発生する前記移動時応力の発生回数を、前記変位量を基に前記区間毎にカウントし、
前記移動時応力の大きさと前記移動時応力の発生回数とに基づく寿命到達率の算出を前記区間毎に行い、算出した前記各区間の寿命到達率を基に前記運動案内装置の寿命診断を行う、
運動案内装置の寿命診断方法。
【請求項6】
軌道部材に複数の転動体を介して移動部材を相対移動可能に組み付けた運動案内装置の寿命診断プログラムであって、
コンピュータに、
前記軌道部材が形成する軌道に対する前記移動部材の変位量及び前記軌道に対する前記移動部材の位置を基に、前記移動部材が前記軌道沿いに移動する際のウェービングの頂点を検出させ、
前記ウェービングの頂点が検出されるタイミング及び前記軌道に対する前記移動部材の変位量を基に、前記移動部材の転動面を前記軌道の方向沿いに少なくとも2つ以上に区分けした仮想の区間毎に、前記移動部材が移動している際に各区間に発生する応力である移動時応力を算出させ、
前記移動部材が前記軌道沿いに移動する際のウェービングに伴い繰り返し発生する前記移動時応力の発生回数を、前記変位量を基に前記区間毎にカウントさせ、
前記移動時応力の大きさと前記移動時応力の発生回数とに基づく寿命到達率の算出を前記区間毎に行い、算出した前記各区間の寿命到達率を基に前記運動案内装置の寿命診断を行わせる、
運動案内装置の寿命診断プログラム。
【請求項7】
軌道部材に複数の転動体を介して移動部材を相対移動可能に組み付けた運動案内装置と、
前記軌道部材が形成する軌道に対する前記移動部材の変位量及び前記軌道に対する前記移動部材の位置を基に、前記移動部材が前記軌道沿いに移動する際のウェービングの頂点を検出する頂点検出手段と、
前記頂点検出手段が前記ウェービングの頂点を検出するタイミング及び前記軌道に対する前記移動部材の変位量を基に、前記移動部材の転動面を前記軌道の方向沿いに少なくとも2つ以上に区分けした仮想の区間毎に、前記移動部材が移動している際に各区間に発生する応力である移動時応力を算出する応力算出手段と、
前記移動部材が前記軌道沿いに移動する際のウェービングに伴い繰り返し発生する前記移動時応力の発生回数を、前記変位量を基に前記区間毎にカウントするカウント手段と、
前記移動時応力の大きさと前記移動時応力の発生回数とに基づく寿命到達率の算出を前記区間毎に行い、算出した前記各区間の寿命到達率を基に前記運動案内装置の寿命診断を行う診断手段と、を備える、
運動案内装置の寿命診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、運動案内装置の寿命診断装置、方法、プログラムおよびシステムを開示する。
【背景技術】
【0002】
ロボットや工作機械、半導体・液晶製造装置等の各種装置類には、可動部の進路を案内するための部品が用いられる。例えば、可動部が直進する箇所にはリニアガイドが用いられる。このような部品の選定に際しては、通常、安全係数を乗じた荷重に対して余裕のある定格荷重を持つものが選定されるが、近年では、例えば、部品に歪ゲージを取り付け、部品に加わる実荷重を算出して部品をより適格に管理する試みも行われている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−263286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
可動部の進路を案内する運動案内装置は、転動体が接する転動面を形成する材料に疲労が蓄積すると、案内精度が低下する可能性がある。そこで、転動面を形成する材料の疲労を把握するべく、転動面に加わる荷重を測定し、寿命診断を行うことが考えられるが、例えば、上述の歪ゲージを用いた実荷重の測定方式を用いる場合、歪ゲージでは転動面の疲労を部位毎に捉えることが難しいため、転動面の局部的な疲労による寿命を予測することが難しい。
【0005】
そこで、本願は、寿命を高精度に診断可能な運動案内装置の寿命診断装置、方法、プログラムおよびシステムを開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明では、運動案内装置の軌道部材が形成する軌道に対する移動部材の変位量を基に、転動面を区分けした仮想の区間毎に各区間の発生応力を算出し、応力の発生回数を区間毎にカウントし、応力の大きさと発生回数とに基づいて算出される各区間の寿命到達率から運動案内装置の寿命診断を行うことにした。
【0007】
詳細には、本発明は、軌道部材に複数の転動体を介して移動部材を相対移動可能に組み付けた運動案内装置の寿命診断装置であって、軌道部材が形成する軌道に対する移動部材の変位量を基に、移動部材の転動面を軌道の方向沿いに区分けした仮想の区間毎に、移動部材が移動している際に各区間に発生する応力である移動時応力を算出する応力算出手段と、移動部材が軌道沿いに移動する際のウェービングに伴い繰り返し発生する移動時応力の発生回数を、変位量を基に区間毎にカウントするカウント手段と、移動時応力の大きさと移動時応力の発生回数とに基づく寿命到達率の算出を区間毎に行い、算出した各区間の寿命到達率を基に運動案内装置の寿命診断を行う診断手段と、を備える。
【0008】
ここで、ウェービングとは、転動体の転動面に対する周期的な相対位置のずれに起因する移動部材の姿勢変化や振動(脈動)のことである。ウェービングは、移動部材の移動に伴って周期的に発生する微小な変位となって現れるため、上記の寿命診断装置では、転動体が転動面に応力を繰り返し与えて材料を疲労させることに起因する運動案内装置の寿命診断において、ウェービングに伴って繰り返される応力の発生回数をカウントし、運動診
断装置の寿命診断に用いることにしている。
【0009】
そして、ウェービングは、例えば、軌道部材が形成する軌道に直交する方向をラジアル方向として規定した場合に、軌道部材に対する移動部材のラジアル方向沿いの相対的な変位に振動成分となって現れるため、上記の寿命診断装置では、軌道部材が形成する軌道に対する移動部材の変位量を基に、移動部材が軌道沿いに移動する際のウェービングの振動数をカウントすることにしている。上記の寿命診断装置では、転動面に発生する応力を、軌道部材に対する移動部材の相対的な変位量を基に算出しているため、ウェービングに伴う繰り返し発生する応力の発生回数についても当該相対的な変位量を基にカウントすることで、軌道に対する移動部材の変位量のデータを有効に利用している。
【0010】
ところで、上記の寿命診断装置が診断を行う運動案内装置では、軌道部材に複数の転動体を介して移動部材が相対移動可能に組み付けられているため、転動面には複数の転動体が接触している。運動案内装置は、転動面が局部的に疲労しても移動部材の進路の案内に支障を来す可能性がある。そこで、上記の寿命診断装置では、移動部材の転動面を軌道の方向沿いに区分けした仮想の区間毎に応力を算出することで、転動面全体の応力を基にした寿命診断よりも診断精度の向上を図っている。仮想の区間数は、少なくとも2以上であれば、転動面全体の応力を基にした寿命診断よりも部分的な疲労を捉えて診断精度の向上が図られることになるが、例えば、転動面に接触している転動体の個数分の区間数であれば、転動体の各区間に発生する応力と各転動体にかかる荷重との対応関係が把握しやすいため、上記移動時応力の算出が容易である。
【0011】
なお、本発明は、方法、コンピュータプログラムあるいはシステムの側面から捉えることもできる。例えば、本発明は、軌道部材に複数の転動体を介して移動部材を相対移動可能に組み付けた運動案内装置の寿命診断方法であって、軌道部材が形成する軌道に対する移動部材の変位量を基に、移動部材の転動面を軌道の方向沿いに区分けした仮想の区間毎に、移動部材が移動している際に各区間に発生する応力である移動時応力を算出し、移動部材が軌道沿いに移動する際のウェービングに伴い繰り返し発生する移動時応力の発生回数を、変位量を基に区間毎にカウントし、移動時応力の大きさと移動時応力の発生回数とに基づく寿命到達率の算出を区間毎に行い、算出した各区間の寿命到達率を基に運動案内装置の寿命診断を行う、運動案内装置の寿命診断方法であってもよい。
【発明の効果】
【0012】
上記の寿命診断装置、方法、プログラムおよびシステムは、運動案内装置の寿命を高精度に診断可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態の運動案内装置の寿命診断システムの全体図である。
図2】本実施形態の運動案内装置の外観斜視図である。
図3】本実施形態の運動案内装置の内部構造の概要を示した図である。
図4図4(a)はレールの長手方向から見た運動案内装置の正面図であり、図4(b)はB部拡大図である。
図5A図5Aは、コンピュータが実行する寿命診断の第1の処理フローを示した図である。
図5B図5Bは、コンピュータが実行する寿命診断の第2の処理フローを示した図である。
図6】キャリッジに外力が働くときの、センサの出力の変化を示す図である。
図7】キャリッジ内の玉が接触している部分を示した図である。
図8】変位5成分が生じる前の内部荷重の状態を示す図である。
図9】変位5成分が生じた後の内部荷重の状態を示す図である。
図10図10は、キャリッジがレールを移動する際の玉の動きを示した図である。
図11図11は、リニアエンコーダによって検出されるキャリッジの位置を横軸とし、センサによって検出される変位を縦軸としたグラフである。
図12図12は、転動面を区分けする仮想の区間の一例を示した図である。
図13図13は、キャリッジが移動している時に転動面で繰り返し発生する最大せん断応力のカウント値の一例を示した図である。
図14図14は、材料のS−N曲線の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態は、本発明の実施形態の一例であり、本発明の技術的範囲を以下の態様に限定するものではない。
【0015】
図1は、本実施形態の運動案内装置の寿命診断システムの全体図を示す。符号1が運動案内装置、符号2a〜2d,3a〜3dがセンサ、符号4がリニアエンコーダ、符号5がデータロガー、符号6がコンピュータ(本願でいう「寿命診断装置」の一例である)である。
【0016】
まず、運動案内装置1の構成を説明する。運動案内装置1は、レール11(本願でいう「軌道部材」の一例である)と、レール11の長手方向沿いに相対移動可能に組み付けられるキャリッジ12(本願でいう「移動部材」の一例である)と、を備える。この実施形態では、レール11が実機のベース7に取り付けられ、キャリッジ12に実機のテーブル8(図9参照)が取り付けられる。実機は、例えば、ロボット、工作機械、半導体又は液晶製造装置等である。テーブル8を含む可動部の運動方向は、運動案内装置1によって案内される。なお、運動案内装置1を上下反転し、キャリッジ12をベース7に取り付け、レール11をテーブル8に取り付けることもできる。また、運動案内装置1は、レール11の長手方向が水平でなく、水平面に対して傾斜し或いは直交する状態で用いられてもよい。
【0017】
図2は、運動案内装置1の外観斜視図を示す。説明の便宜上、レール11を水平面に配置し、レール11の長手方向から見たときの方向、すなわち図2に示すx軸を前後方向、y軸を上下方向、z軸を左右方向として運動案内装置1の構成を説明する。もちろん、運動案内装置1の配置は、このような配置に限られることはない。
【0018】
レール11の左右の両側それぞれには、上下二条の転動面11aが設けられる。転動面11aの断面は円弧状である。レール11の上面には、レール11をベース7に締結するための締結部材が通される通し孔11bが長手方向沿いに適当なピッチで設けられる。
【0019】
キャリッジ12は、レール11の上面に対向する水平部12−1と、レール11の側面に対向する一対の袖部12−2と、を有し、断面コの字状である。キャリッジ12は、移動方向の中央のキャリッジ本体13と、キャリッジ本体13の移動方向の両端に配置される一対の蓋部材14a,14bと、一対の蓋部材14a,14bの移動方向の両端に配置される一対のセンサ取付け部材15a,15b(図1参照)と、を備える。蓋部材14a,14bは、レール11の上面に対向する水平部14−1と、レール11の側面に対向する一対の袖部14−2と、を有し、断面コの字状である。センサ取付け部材15a,15bも、レール11の上面に対向する水平部15−1と、レール11の側面に対向する一対の袖部15−2と、を有し、断面コの字状である(図4(a)参照)。蓋部材14a,14bは、ボルト等の締結部材によってキャリッジ本体13に締結される。センサ取付け部材15a,15bは、ボルト等の締結部材によってキャリッジ本体13及び蓋部材14a,14bに締結される。なお、図2図3では、センサ取付け部材15a,15bが省略
されている。
【0020】
図3は、運動案内装置1の内部構造の概要を示した図である。図3に示すように、キャリッジ本体13には、レール11の四条の転動面11aに対向する四条の転動面13aが設けられる。キャリッジ本体13には、各転動面13aと平行に戻し路13bが設けられる。蓋部材14a,14bには、各転動面13aと各戻し路13bとを繋げるU字状の方向転換路14cが設けられる。方向転換路14cの内周側は、キャリッジ本体13と一体の断面半円状の内周部13cによって構成される。レール11の転動面11aとキャリッジ本体13の転動面13aとの間の負荷転走路、一対の方向転換路14c、戻し路13bによってトラック状の循環路が構成される。循環路には、複数の玉16(本願でいう「転動体」の一例である)が収容される。レール11に対してキャリッジ12が相対的に移動すると、これらの間に介在する玉16が負荷転走路を転がる。負荷転走路の一端まで転がった玉16は、一方の方向転換路14cに導入され、戻し路13b、他方の方向転換路14cを経由して、負荷転走路の他端に戻る。
【0021】
<センサの構成>
図1に示すように、センサ2a〜2d,3a〜3dは、例えば静電容量式の変位計であり、レール11に対するキャリッジ12の変位を非接触で検出する(図4(b)の拡大図参照)。上記のように、キャリッジ12の移動方向の両端部には、一対のセンサ取付け部材15a,15bが取り付けられる。一方のセンサ取付け部材15aには、4つのセンサ2a〜2dが取り付けられる。4つのセンサ2a〜2dは、レール11の長手方向において同一の位置に配置される。他方のセンサ取付け部材15bにも、4つのセンサ3a〜3dが取り付けられる。4つのセンサ3a〜3dは、レール11の長手方向において同一の位置に配置される。レール11の長手方向におけるセンサ2a〜2dとセンサ3a〜3dとの間の距離はLである(図1を参照)。なお、各センサ2a〜2d,3a〜3dをキャリッジ12の移動方向沿いに互いにずらして配置することも可能である。
【0022】
図4は、レール11の長手方向から見たセンサ取付け部材15aを示す。上記のように、センサ取付け部材15aは、レール11の上面11cに対向する水平部15−1と、レール11の左右側面に対向する一対の袖部15−2と、を有する。水平部15−1には、ラジアル方向の変位を検出する2つのセンサ2a,2bが配置される。センサ2a,2bは、レール11の上面11cに隙間をあけて向かい合っており、レール11の上面11cまでの隙間を検出する。2つのセンサ2a,2b間の左右方向における距離はLである。
【0023】
一対の袖部15−2には、水平方向の変位を検出する2つのセンサ2c,2dが配置される。センサ2c,2dは、レール11の側面11dに隙間をあけて向かい合っており、側面11dまでの隙間を検出する。
【0024】
レール11を水平面に配置したと仮定した状態において、センサ2a,2b及びセンサ2c,2dは、キャリッジ12の上面(取付け面)よりも下方に配置される。キャリッジ12の上面(取付け面)の上にテーブル8を取り付けるためである。センサ2a〜2dのケーブル2a〜2dは、センサ取付け部材15aの袖部15−2から左右方向に引き出される。なお、ケーブル2a〜2dをセンサ取付け部材15aの前面から前方に(紙面に垂直方向に)引き出すこともできる。また、センサ取付け部材15aの上面の高さをキャリッジ12の上面(取付け面)よりも低くし、センサ取付け部材15aの上面とテーブル8との隙間をケーブル2a,2bを引き出す隙間として利用することもできる。
【0025】
図1に示すセンサ取付け部材15bも、センサ取付け部材15aと同様に、水平部15
−1と一対の袖部15−2とを有し、センサ3a〜3dがセンサ2a〜2dにそれぞれ対応する位置に配置される。
【0026】
<リニアエンコーダの構成>
リニアエンコーダ4は、キャリッジ12のx軸方向の位置を検出する。例えば、リニアエンコーダ4は、実機のベース7又はレール11に取り付けられるスケールと、実機のテーブル8又はキャリッジ12に取り付けられ、スケールを読み取るヘッドと、を備える。なお、レール11上のキャリッジ12の位置を検出する位置検出手段は、リニアエンコーダに限定されるものではない。例えば、実機のテーブルがボールねじ駆動の場合、位置検出手段として、ボールねじを駆動するモータの角度を検出するロータリーエンコーダを用いることもできる。
【0027】
<データロガー、コンピュータの構成>
センサ2a〜2d,3a〜3dが検出したキャリッジ12の変位情報は、所定のサンプリング周期毎に記録計であるデータロガー5に記録される。リニアエンコーダ4が検出したキャリッジ12の位置情報も、所定のサンプリング周期毎にデータロガー5に記録される。データロガー5は、記録した変位情報及び位置情報を有線又は無線通信手段を介してコンピュータ6に送信する。データロガー5は、実機の近傍に配置される。コンピュータ6は、実機の近傍又は遠隔地に配置される。
【0028】
センサ2a〜2d,3a〜3dは、レール11に対するキャリッジ12の変位量を検出する。レール11に対するキャリッジ12の変位量は、キャリッジ12に荷重が加わっていない無負荷状態におけるセンサ2a〜2d,3a〜3dの検出値からの差分である。そこで、センサ2a〜2d,3a〜3dから変位情報が送られるデータロガー5では、センサ2a〜2d,3a〜3dから送られる変位情報の値から、予め記憶された無負荷状態におけるセンサ2a〜2d,3a〜3dの検出値を差し引いた値が、レール11に対するキャリッジ12の変位量として記録される。
【0029】
コンピュータ6は、データロガー5に記録された情報を使い、運動案内装置1の寿命診断を行う。図5Aは、コンピュータ6が実行する寿命診断の第1の処理フローを示した図である。また、図5Bは、コンピュータ6が実行する寿命診断の第2の処理フローを示した図である。コンピュータ6は、運動案内装置1が用いられている実機が稼働中、図5Aに示す第1の処理フローを繰り返し実行することにより、キャリッジ12がレール11の軌道沿いに移動している時のウェービングに伴う繰返し荷重に関するデータを取得する。そして、コンピュータ6は、図5Bに示す第2の処理フローを、例えば、第1の処理フローが100回繰り返される毎、実機が稼働している間に数分から数時間毎といった定期的なタイミング、或いは、実機のメンテナンス時といった不定期のタイミングで実行することにより、第1の処理フローで生成したデータを基にした寿命診断を行う。
【0030】
<寿命診断の概要>
まず、図5Aに示す第1の処理フローの概要について説明する。
【0031】
運動案内装置1が用いられている実機の稼働中、コンピュータ6は、各センサ2a〜2d,3a〜3dからキャリッジ12の変位量を取得する(S101)。取得されたキャリッジ12の変位量は、データロガー5に記録される。そして、コンピュータ6は、ステップS101で取得したキャリッジ12の変位量のデータを基に、キャリッジ12に作用する荷重の計算を行う(S102)。
【0032】
算出された荷重は、キャリッジ本体13の転動面13aの各部に発生する応力の計算に用いられる。転動面13aの各部に発生する応力を計算するにあたり、コンピュータ6は
、まず、リニアエンコーダ4が検出するキャリッジ12の位置情報を基に、キャリッジ12が移動中であるか否かの判定を行う(S103)。
【0033】
運動案内装置1の寿命を示す現象の一例として、転動面13aに発生するうろこ状の剥離(以下、「フレーキング」という)が挙げられる。フレーキングは、転動面13aよりやや深い位置に、玉16の荷重を受ける転動面13aからのせん断応力が繰り返し加わり、転動面13aを形成する材料が疲労することにより発生する。ここで、キャリッジ12の移動の際のウェービングに伴う繰返し荷重は、転動面13aよりやや深い位置にせん断応力を繰り返し発生させる主たる原因であるため、コンピュータ6は、ステップS103で肯定判定が行われた場合、キャリッジ12の変位量及び位置情報を基に、ウェービングの頂点の検出を行う(S104)。なお、S103で否定判定されると、本算出処理を終了する。そして、ステップS104でウェービングの頂点が検出されると、コンピュータ6は、ステップS102で算出した荷重を基に、キャリッジ12が移動している時に転動面13aの各部に発生するせん断応力を計算し、応力の大きさと転動面13aの部位毎に応力の発生回数をカウントするカウンタに対してカウント値の加算処理を行う(S105)。なお、S104でウェービングの頂点の検出が行われないと、本算出処理を終了する。
【0034】
ステップS101からステップS105までの一連の処理を擁する上記第1の処理フローが繰り返し実行されることにより、キャリッジ12が移動している際の荷重振幅によってキャリッジ12の転動面13aの各部に繰り返し加わるせん断応力の発生回数が、応力の大きさと転動面13aの部位毎に集計される。集計されたデータは、次に概要を説明する第2の処理フローにおいて、繰返し荷重で進行する転動面13aの部位毎の疲労の把握に用いられることになる。
【0035】
次に、図5Bに示す第2の処理フローの概要について説明する。コンピュータ6は、第1の処理フローが繰り返し実行されることで集計された転動面13の部位毎の応力の発生回数のデータを使い、線形累積損傷則(「マイナー則」と呼ばれる場合もある)を用いた寿命到達率の計算を行う(S201)。そして、コンピュータ6は、キャリッジ12の残りの使用可能距離(期間)の計算を行う(S202)。
【0036】
以下、各ステップの詳細について説明する。
【0037】
<S101>
運動案内装置1が用いられている実機の稼働中、コンピュータ6は、各センサ2a〜2d,3a〜3dからキャリッジ12の変位量を取得する。各センサ2a〜2d,3a〜3dの計測値はセンサから転動面までの距離であるため、コンピュータ6は、キャリッジ12に荷重が加わっていない無負荷時のセンサから転動面までの距離を基準とし、この距離からの差分をキャリッジ12の変位量としてデータロガー5に格納する。
【0038】
<S102>
次に、ステップS102の詳細について説明する。コンピュータ6は、キャリッジ12の変位に基づいて、キャリッジ12に働く荷重を算出する。コンピュータ6は、荷重を算出するにあたって、まず、各センサ2a〜2d,3a〜3dから取得したキャリッジ12の変位量に基づいて、キャリッジ12の変位5成分を算出する。次に、コンピュータ6は、変位5成分に基づいて、複数の玉16それぞれに働く荷重及び接触角を算出する。次に、コンピュータ6は、各玉16の荷重及び接触角に基づいて、キャリッジ12に働く荷重(外力5成分)を算出する。上記の3工程を詳細に以下に説明する。
【0039】
<キャリッジの変位5成分の算出>
図2に示すように、運動案内装置1にx−y−z座標軸を設定すると、x−y−z座標軸の座標原点に働く荷重は、ラジアル荷重と逆ラジアル荷重の合計であるFと、水平荷重のFである。キャリッジ12をレール11に押し付ける方向で、図2のy軸の正方向ヘ働く荷重がラジアル荷重である。その逆の方向、すなわちキャリッジ12をレール11から引き離す方向が逆ラジアル荷重である。キャリッジ12をレール11に対し横へずらす方向で、図2のz軸正負方向へ働く荷重が水平荷重である。
【0040】
また、x−y−z座標軸まわりのモーメントは、ピッチングモーメントの合計であるMと、ヨーイングモーメントの合計であるMと、ローリングモーメントの合計であるMである。キャリッジ12には、外力として、ラジアル荷重F、ピッチングモーメントM、ローリングモーメントM、水平荷重F、ヨーイングモーメントMが働く。キャリッジ12にこれらの外力5成分が作用すると、キャリッジ12にはそれぞれに対応する変位5成分、すなわちラジアル変位α(mm)、ピッチング角α(rad)、ローリング角α(rad)、水平変位α(mm)、ヨーイング角α(rad)が生ずる。
【0041】
図6は、キャリッジ12に外力が働くときの、センサ2a〜2dの出力の変化を示す。図6において斜線のハッチング付きの矢印は、出力が変化するセンサであり、図6において白抜きの矢印は、出力が変化しないセンサである。キャリッジ12にラジアル荷重Fが働くとき、キャリッジ12とレール11との間の上下方向の隙間が小さくなる。一方、キャリッジ12に逆ラジアル荷重−Fが働くとき、キャリッジ12とレール11との間の上下方向の隙間が大きくなる。センサ2a,2bは、この上下方向の隙間の変化(変位)を検出する。なお、センサ取付け部材15b(図1参照)に取り付けられるセンサ3a,3bも、この上下方向の変位を検出する。
【0042】
キャリッジ12にラジアル荷重F又は逆ラジアル荷重−Fが働くとき、キャリッジ12のラジアル変位αは、センサ2a,2bが検出した変位をA,A、センサ3a,3bが検出した変位をA,Aとすると、例えば以下の式で与えられる。
(数1)
α=(A+A+A+A)/4
【0043】
キャリッジ12に水平荷重Fが働くとき、キャリッジ12がレール11に対し横へずれ、キャリッジ12の一方の袖部12−2とレール11との間の水平方向の隙間が小さくなり、キャリッジ12の他方の袖部12−2とレール11との間の水平方向の隙間が大きくなる。センサ2c,2dは、この水平方向の隙間の変化(変位)を検出する。なお、センサ取付け部材15b(図1参照)に取り付けられるセンサ3c,3dも、この水平方向の変位を検出する。キャリッジ12の水平変位αは、センサ2c,2dが検出した変位をB,B、センサ3c,3dが検出した変位をB,Bとすると、例えば以下の式で与えられる。
(数2)
α=(B−B+B−B)/4
【0044】
キャリッジ12にピッチングモーメントMが働くとき、センサ2a,2bとレール11の間の隙間が大きくなり、センサ3a,3bとレール11との間の隙間が小さくなる。ピッチング角αが十分に小さいとすると、ピッチング角α(rad)は、例えば以下の式で与えられる。
(数3)
α=((A+A)/2−(A+A)/2)/L
【0045】
キャリッジ12にローリングモーメントMが働くとき、センサ2a,3aとレール1
1との間の隙間が小さくなり、センサ2b,3bとレール11との間の隙間が大きくなる。ローリング角αが十分に小さいとすると、ローリング角α(rad)は、例えば以下の式で与えられる。
(数4)
α=((A+A)/2−(A+A)/2)/L
【0046】
キャリッジ12にヨーイングモーメントMが働くとき、センサ2c,3dとレール11の間の隙間が小さくなり、センサ2d,3cとレール11との間の隙間が大きくなる。ヨーイング角αが十分に小さいとすると、ヨーイング角α(rad)は、例えば以下の式で与えられる。
(数5)
α=((A+A)/2−(A+A)/2)/L
【0047】
以上により、センサ2a〜2d,3a〜3dが検出する変位に基づいて、キャリッジ12の変位5成分を算出できる。
【0048】
<各玉に働く荷重及び接触角の算出>
キャリッジ12内の玉16が接触している部分をx軸方向に断面にした状態を図7に示す。図7により、各玉ピッチは、1より少し大きい値をとるκを用いてκDaとし、各玉のx座標が決定され、それをXとする。キャリッジ12内の玉16が転動する部分の長さを2Uとする。2U内に並ぶ玉数を有効玉数といいIとする。キャリッジ12の両端部分には、半径Rで深さがλεとなるようなクラウニング加工と呼ばれるR形状の大きな曲面加工が施されている。
【0049】
キャリッジ12に外力5成分、すなわちラジアル荷重F、ピッチングモーメントM、ローリングモーメントM、水平荷重F、及びヨーイングモーメントMが働いたときに、キャリッジ12に変位5成分、すなわちラジアル変位α、ピッチング角α、ローリング角α、水平変位α、ヨーイング角αが生ずるとして理論式をたてる。
【0050】
キャリッジ12の玉番号iにおけるキャリッジ12内断面の、変位5成分が生じる前の内部荷重の状態を図8に、変位5成分が生じた後の内部荷重の状態を図9にそれぞれ示す。ここでは、キャリッジ12の玉列番号をj、玉列内の玉番号をiとする。玉径はD、レール11側、キャリッジ12側ともに転動面と玉16との適合度をf、すなわち転動面曲率半径はfDとする。また、レール側転動面曲率中心位置をA、キャリッジ側転動面曲率中心位置をAとし、それらを結んだ線とz軸とのなす角である接触角の初期状態をγとする。さらに、レール11の上側にある2つの転動面を各々転がる玉16同士の玉中心間距離を2Uz12、レール11の下側にある2つの転動面を各々転がる玉16同士の玉中心間距離を2Uz34、レール11の上側の転動面および下側の転動面を各々転がる玉16同士の玉中心間距離を2Uとする。
【0051】
玉16には予圧が作用している。まず、予圧の原理について説明する。レール11、キャリッジ12の対向する転動面間に挟まれた部分の寸法は、レール11、キャリッジ12の設計時の寸法及び転動面の幾何形状によって決まる。そこに入るべき玉径が設計時の玉径であるが、そこに設計時の玉径よりも僅かに大きな寸法Da+λの玉16を組み込むと、玉16と転動面の接触部はHertzの接触論により、弾性変形をし、接触面を形成し、接触応力を発生させる。そうして発生した荷重が内部荷重であり、予圧荷重である。
【0052】
図8では、その荷重をPで表しており、接触部の弾性変形によるレール11、キャリッジ12間の相互接近量をδで表している。実際は玉位置が図8の一点鎖線で描いた、レール11、キャリッジ12の転動面間の中心位置に存在するが、両転動面の玉16との
適合度fは等しいので、玉16の2箇所の接触部に発生するHertzの接触論に基づく諸特性値が同じである。このため、玉16をレール側転動面位置にずらして描くことにより、レール11、キャリッジ12の転動面間の相互接近量δをわかりやすくしている。
【0053】
通常、予圧荷重は、キャリッジ1個あたり上側の2列分(又は下側2列分)のラジアル方向荷重として定義しているので、予圧荷重Ppreは次式で表される。
(数6)
【0054】
次に、この状態から運動案内装置1に外力5成分が作用して、変位5成分が生じた状態を説明する。図9に示すように、座標原点とした運動案内装置1の中心が変位5成分であるラジアル変位α、ピッチング角α、ローリング角α、水平変位α、ヨーイング角αによってi番目の玉位置でのレール11とキャリッジ12の相対変位が起きている。
【0055】
このとき、レール側転動面曲率中心は動かないが、キャリッジ12が移動するので、キャリッジ側転動面曲率中心は各玉位置で幾何学的に移動する。その様子はキャリッジ側転動面曲率中心であるAがA′ヘ移動するものとして表している。このAがA′ヘ移動した量をy方向とz方向に分けて考え、y方向に移動した量をδとし、z方向へ移動した量をδとすると、以降添え字はi番目の玉、j番目の玉列を表すものとして、
(数7)
δyij=α+α+αcij
δzij=α+α−αcij
と表すことができる。ここで、z、yは、点Aの座標である。
【0056】
次に、レール11側とキャリッジ12側の転動面曲率中心を結んだ線が、玉荷重の法線方向である接触角となるので、初期接触角であったγはβijへと変化し、さらに、この両転動面曲率中心間距離は、当初のA、A間の距離からAr、A´間の距離へと変化する。この両転動面曲率中心間距離の変化が、玉16の両接触部での弾性変形となり、図8で説明したときと同様に、玉16をレール側転動面位置にずらして描くことにより、玉16の弾性変形量δijが求まる。
【0057】
このAr,Ac´間の距離もy方向とz方向とに分けて考え、y方向の距離をVとし、z方向の距離をVとすると、前述のδyij、δzijを用いて、
(数8)
yij=(2f−1)Dsinγ+δyij
zij=(2f−1)Dcosγ+δzij
と表せる。これによりAr、Ac´間の距離は、
(数9)

となり、接触角βijは、
(数10)
となる。以上より玉16の弾性変形量δijは、
(数11)

となる。
【0058】
ここで、図7で示したキャリッジ12内の玉16が接触している部分をx軸方向に断面にした状態において、クラウニング、加工部分に入っている玉16の弾性変形量δijは、キャリッジ12側の転動面曲率中心のAc´がレール側転動面曲率中心Aから離れる形となっており、その分だけ少なくなる。それはちょうど玉径をそれに見合う形で小さくしたものと同等とみなせるため、その量をλxiとして上式中で差し引いている。
【0059】
Hertzの接触論により導かれた転動体が玉の場合の弾性接近量を示す式を用いると、弾性変形量δijから転動体荷重Pijが下記の式によって求められる。
(数12)

ここで、Cは非線形のばね定数(N/mm3/2)であり、下記の式で与えられる。(数13)

ここで、Eは縦弾性係数、1/mはポアソン比、2K/πμはHertz係数、Σρは主曲率和である。
【0060】
以上により、キャリッジ12の変位5成分α〜αを用いて、キャリッジ12内のすべての玉16について、接触角βij、弾性変形量δij、転動体荷重Pijを式で表すことができたことになる。
【0061】
なお、上記においては、わかり易くするために、キャリッジ12を剛体として考えた剛体モデル負荷分布理論を使用している。この剛体モデル負荷分布理論を拡張し、キャリッジ12の袖部12−2の変形を加味すべく梁理論を適用したキャリッジ梁モデル負荷分布理論を使用することもできる。さらに、キャリッジ12やレール11をFEMモデルとしたキャリッジ・レールFEMモデル負荷分布理論を使用することもできる。
【0062】
<荷重(外力5成分)の算出>
あとは、上記の式を使って外力としての5成分、すなわちラジアル荷重F、ピッチン
グモーメントM、ローリングモーメントM、水平荷重F、ヨーイングモーメントMに関するつり合い条件式をたてればよい。
(数14)
ラジアル荷重Fに関して、

(数15)
ピッチングモーメントMに関して、

(数16)
ローリングモーメントMに関して、

ここで、ωijは、モーメントの腕の長さを表し、次式で与えられる。z、yは、点Aの座標である。

(数17)
水平荷重Fに関して、

(数18)
ヨーイングモーメントMに関して、
以上の式からキャリッジ12に働く荷重(外力5成分)を算出することができる。
【0063】
<S103>
次に、ステップS103の詳細について説明する。コンピュータ6は、キャリッジ12が移動中であるか否かの判定を行う。キャリッジ12が移動中であるか否かは、リニアエンコーダ4が検出するキャリッジ12の位置情報を基に判定することができる。コンピュータ6は、例えば、リニアエンコーダ4が検出するキャリッジ12の位置情報が時系列で変化していればキャリッジ12が移動中と判定し、位置情報が時系列で変化していなければキャリッジ12が停止中と判定する。
【0064】
<S104>
次に、ステップS104の詳細について説明する。コンピュータ6は、データロガー5に記録されているキャリッジ12の変位量及び位置情報を基に、ウェービングの頂点の検出を行う。
【0065】
ウェービングは、レール11の転動面11a及びキャリッジ本体13の転動面13aと玉16との間に生ずる周期的な相対位置のずれに起因するキャリッジ12の姿勢変化や振動(脈動)である。図10は、キャリッジ12がレール11を移動する際の玉16の動きを示した図である。キャリッジ12には複数の玉16が備わるが、これら複数の玉16のうちキャリッジ12を支持する玉16は、レール11の転動面11aとキャリッジ本体13の転動面13aとの間に挟まっている玉16(図10において斜線のハッチングが付されている玉16)である。そして、図10(A)と図10(B)とを見比べると判るように、レール11の転動面11aとキャリッジ本体13の転動面13aとの間に挟まっている玉16の数は、レール11に対するキャリッジ12の相対移動に伴って増減を繰り返す。この繰り返しの周期は、キャリッジ12がレール11に対し隣接する玉16同士のピッチと同じ量だけ移動する周期に一致する。よって、ウェービングの頂点は、センサ2a〜2d,3a〜3dによって検出された変位の波形のうち、キャリッジ12がレール11を移動する際に転がる玉16と転動面11a,13aとの間の相対位置のずれの周期に一致する波の頂点ということになる。
【0066】
そこで、コンピュータ6は、ウェービングの頂点の検出にあたって、まず、変位5成分のそれぞれについて、リニアエンコーダ4から得られるキャリッジ12のレール11上の位置と、各センサ2a〜2d,3a〜3dから得られる変位量との関係を表したデータを解析する。そして、コンピュータ6は、キャリッジ12の位置と変位量との関係を表したデータの中から、ウェービングを表すデータの有無を判定する。ウェービングを表すデータの有無は、例えば、横軸をキャリッジ12のレール11上の位置とし、縦軸をキャリッジ12の変位量としたグラフの波形をイメージした場合に、玉16のピッチと略同一周期で現れるピークがあればウェービングが有ると判定され、玉16のピッチと略同一周期で現れるピークが存在しなければウェービングが無いと判定される。
【0067】
図11は、リニアエンコーダ4によって検出されるキャリッジ12のレール11上の位置を横軸とし、センサ2a〜2d,3a〜3dによって検出される変位を縦軸としたグラフである。キャリッジ12には8つのセンサ2a〜2d,3a〜3dが備わっており、また、キャリッジ12はレール11を往復するため、キャリッジ12の位置と変位との関係を示す線は、本来、複数存在する。しかし、理解を容易にするため、図11のグラフでは、キャリッジ12の位置と変位との関係を1本の折れ線で示している。図11のグラフを見ると判るように、キャリッジ12の変位には、比較的緩慢な変位と比較的細かな変位の2種類の振動成分があることが判る。このうち、前者の比較的緩慢な変位は、例えばレール11の転動面11aの精度等に起因するウェービング以外の振動成分と考えられる。一方、後者の比較的細かな変位は、ウェービングに起因する振動成分であり、キャリッジ12がレール11を移動している際に発生する変位である。図11のグラフに示される比較的細かな変位の各頂点の横軸の間隔は、概ねボール16のピッチに一致する。
【0068】
コンピュータ6は、図11のグラフに表されるような、キャリッジ12のレール11上の位置と変位量との関係を表したデータを基に、玉16のピッチと略同一周期で現れる細かなウェービングの振動成分を検出し、当該振動成分の波形の頂点の検出を行う。なお、コンピュータ6は、複数あるセンサ2a〜2d,3a〜3dのうち何れか1つ以上のセンサによって検出される変位のデータからウェービングが検出されれば、当該ウェービングの波形の頂点を検出する。
【0069】
<S105>
コンピュータ6は、ステップS104でウェービングの波形の頂点を検出すると、ステップS102で算出された荷重を基に、キャリッジ12の転動面13aに発生する最大せん断応力(本願でいう「移動時応力」の一例である)を計算する。本実施形態では転動面13aの局部的な疲労による寿命を把握するため、コンピュータ6は、転動面13aに発生する最大せん断応力の計算を、転動面13aを軌道の方向沿いに区分けした仮想の区間毎に行う。
【0070】
図12は、転動面13aを区分けする仮想の区間の一例を示した図である。本実施形態では理解を容易にするため、転動面13aを有効玉数で分割した仮想の区間毎に最大せん断応力を計算する場合について説明する。このように区分けされた転動面13aの各区間に発生するせん断応力は、Hertzの弾性接触論に従い、ステップS102の説明で示した転動体荷重Pij、及び、球体と平面との接触部分に生ずる歪の解析モデルを用いて予め作成した式に従って算出することができる。
【0071】
次に、コンピュータ6は、算出した各区間の最大せん断応力を基に、最大せん断応力の発生回数を応力の大きさ毎にカウントする。図13は、キャリッジ12が移動している時に転動面13aで繰り返し発生する最大せん断応力のカウント値の一例を示した図である。コンピュータ6は、例えば、図13に示すように、応力の大きさを50MPa毎に段階的に区分し、算出した最大せん断応力に該当する区分のカウンタ値を1ウェービング毎に、換言すると、図11に示したウェービングの波形において頂点が発生するタイミング毎に、1ずつ加算する。よって、カウンタ値は、キャリッジ12の積算移動距離に比例して増加する。転動面13aを疲労させる応力の発生回数が、応力の大きさ毎および区間毎に集計されることにより、例えば、転動面13aの特定の区間において局部的に繰り返される応力が発生している場合であっても、転動面13aの局部的な疲労を運動案内装置1の寿命診断に反映できる診断用の基礎データが得られる。
【0072】
<S201>
コンピュータ6は、第1の処理フローが繰り返し実行されることで集計された集計結果を使い、寿命到達率を計算する。寿命到達率は、転動面13aの区間毎に算出される。そして、算出された全区間の寿命到達率の中から最も寿命到達率の高い値が運動案内装置1の寿命診断に採用される。寿命到達率は、例えば、線形累積損傷則を用いて算出される。図14は、材料のS−N曲線の一例を示した図である。線形累積損傷則は、材料の疲労において、物体が応力を繰り返し受ける場合に、疲労により損傷へ至るまでの寿命を予測するものであるため、キャリッジ12の移動中に発生する荷重振幅により繰り返される応力による材料の疲労の把握に有効である。線形累積損傷則に従えば、対象となる材料のS−N曲線における特定の繰返し応力に対する破断繰り返し数をL、材料への実際の繰返し数をnとすると、寿命到達率Dは以下の式で与えられる。
(数19)
【0073】
<S202>
コンピュータ6は、ステップS201の処理を終えると、転動面13aの区間毎に算出された全区間の寿命到達率の中から最も寿命到達率の高い値を使い、キャリッジ12の残りの使用可能距離(期間)を計算する。使用可能距離(期間)は、例えば、線形累積損傷則に従えば、寿命到達率Dが1になった場合である。よって、使用可能距離DLifeは、リニアエンコーダ4の位置情報から得られるキャリッジ12の積算移動距離をDintとすると、以下の式で表すことができる。
(数20)
Life=(1−D)/D*Dint
また、使用可能期間TLifeは、リニアエンコーダ4の使用開始時から寿命到達率D算出時までの経過時間をTintとすると、以下の式で表すことができる。
(数21)
Life=(1−D)/D*Tint
【0074】
コンピュータ6が実行する上記ステップS101からS202までの各処理の詳細は以上の通りである。上記のコンピュータ6は、玉16がキャリッジ12の転動面13aに応力を繰り返し与えるウェービングの振動数を寿命診断に用いているため、ウェービングの振動数を用いずに行われる寿命診断よりも高精度な診断結果が得られる。また、上記のコンピュータ6は、ウェービングの振動数を、キャリッジ12の転動面13aに発生する応力の算出にも用いているセンサ2a,2b,3a,3bの変位情報でカウントするため、ウェービングの振動数をカウントするためのセンサ類を別途設ける場合よりも装置構成が複雑でない。また、上記のコンピュータ6は、キャリッジ12の転動面13aを軌道の方向沿いに区分けした仮想の区間毎に応力を算出しているため、転動面13a全体の応力を基にした寿命診断よりも高い診断結果を得ることができる。
【符号の説明】
【0075】
1…運動案内装置、2a,2b,2c,2d,3a,3b,3c,3d…センサ、4…リニアエンコーダ、5…データロガー、6…コンピュータ、11…レール、12…キャリッジ、15a,15b…センサ取付け部材、15−1…水平部、15−2…袖部、16…玉
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14