(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照して、本願の開示するレーダ装置および物標検知方法の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。まず、
図1を参照して実施形態に係る物標検知方法について説明する。
図1は、実施形態に係る物標検知方法の説明図である。
【0009】
ここでは、実施形態に係るレーダ装置1が自車両C1のフロントグリルの中央に設けられ、自車両C1の前方または側方に存在する物標を検知する場合について説明する。なお、レーダ装置1は、自車両C1の後部に設けられる場合、自車両C1の後方に存在する物標を検知することもできる。
【0010】
自車両C1の前方または側方に存在する物標としては、例えば、先行車や対向車、自転車、標識等の路側物、および自車両C1に衝突する可能性がある歩行者(以下、単に「歩行者P」と記載する)がある。
【0011】
また、ここでは、
図1に示すように、地表面に定義したX−Y直交座標系内に、レーダ装置1を備える自車両C1と、自車両C1が走行する道路の対向車線を走行する対向車Cと、自車両C1へ右前方から接近する歩行者Pとが存在する場合について説明する。
【0012】
レーダ装置1は、周辺に存在する物標を検知する検知処理を所定周期で行う。以下では、便宜上、今回の検知処理を今回処理と称し、次回の検知処理を次回処理と称し、前回の検知処理を前回処理と称することがある。
【0013】
かかるレーダ装置1は、今回処理で物標を検知した場合に、検知した物標と同一の物標が次回処理で検知される予測領域を設定し、次回処理で予測領域を探索して今回処理で検知した物標と同一の物標を検知することにより継続的に物標を追跡する。
【0014】
ここで、一般的なレーダ装置は、新規に物標を検知した場合に、検知した物標の位置を中心とする所定範囲を予測領域として設定し、以降、予測領域内で検知した物標の位置に基づき予測した次回の物標の予測位置を中心とする予測領域を順次設定する。
【0015】
このとき、一般的なレーダ装置は、毎回、同じ広さの予測領域を設定する。このため、一般的なレーダ装置は、予測領域内に前回処理で検知した物標と同一の物標だけでなく他の物標が含まれる場合に、他の物標の方を前回処理で検知した物標と同一の物標と誤判定し、物標の追跡に失敗することがある。
【0016】
そこで、実施形態に係るレーダ装置1は、以下に
図1を参照して説明するように、今回処理で検知した物標の速度を導出し、予測領域の形状を物標の速度に応じて変化させて設定することにより、物標の追跡失敗確率を低減する。
【0017】
具体的には、
図1に示すように、レーダ装置1は、例えば、対向車C等の高速で移動する物標に比べて移動速度(以下、単に「速度」と記載する)が低い物標(ここでは、歩行者Pとする)を新規に検知した場合、まず、歩行者Pの速度V1を導出する。
【0018】
そして、レーダ装置1は、導出した速度V1が所定の閾値(例えば、8[km/h])未満である場合に、歩行者Pを低速移動物標と判定し、新規に検知した歩行者Pの位置を中心とする円形状の予測領域A1を設定する。
【0019】
このとき、レーダ装置1は、今回処理で新規に検知した歩行者Pの位置を中心とし、今回処理から次回処理までの期間(検知処理の1周期の間)に、歩行者Pが中心から徒歩または小走りで移動可能な距離を半径とする円形状の予測領域A1を設定する。
【0020】
そして、レーダ装置1は、次回処理によって予測領域A1内で検知する歩行者TG1を今回処理で検知した歩行者Pと時間的な連続性を有する同一の物標(以下、単に「同一物標」と記載することがある)と判定する。
【0021】
これにより、レーダ装置1は、歩行者Pが新規に検知された位置から次回処理が行われるまでの間に、徒歩や小走りでは到達するはずのない位置、つまり予測領域A1よりも外側に存在する物標を歩行者Pと誤って判定することを防止することができる。したがって、レーダ装置1は、低速移動物標を検知した場合に、物標の追跡失敗確率を低減することができる。
【0022】
しかも、レーダ装置1は、検知した物標が歩行者Pである場合、検知位置を中心とする円形状の予測領域A1を設定するので、歩行者Pが急に移動方向を変えるような予測困難な動きをしても、予測領域A1内で次回処理により歩行者Pを検知することができる。
【0023】
また、レーダ装置1は、例えば、歩行者P等の低速移動物標に比べて速度が高い物標(ここでは、対向車Cとする)を新規に検知した場合、対向車Cの速度V2を導出する。続いて、レーダ装置1は、導出した速度V2が所定の閾値以上である場合に、対向車Cを高速移動物標と判定する。
【0024】
ここで、対向車Cは、歩行者Pよりも高速で移動するため、次回処理が行われる場合、新規に検知された位置から比較的近い範囲に存在している可能性が低い。また、対向車Cは、歩行者Pのように急に移動方向を変えるような予測困難な動きをする可能性が低い。
【0025】
そこで、レーダ装置1は、新規に対向車Cを検知した位置を中心とする円形状の領域を予測領域から除外し、除外した円形状の領域を環状に囲む領域のうち、対向車Cの速度方向側に位置する半ドーナツ形状の予測領域A2を設定する。そして、レーダ装置1は、次回処理によって予測領域A2内で検知する対向車TG2を今回処理で検知した対向車Cと同一物標と判定する。
【0026】
これにより、レーダ装置1は、対向車Cを新規に検知した位置から近過ぎて、次回処理で高速移動物標であれば検知されるはずのない位置に存在する別の物標を誤って対向車Cと判定することを防止することができる。
【0027】
また、レーダ装置1は、対向車Cが突然後退するような有り得ない状況が発生しないかぎり、次回処理で検知されるはずのない対向車Cの後方領域に存在する物標を誤って対向車Cと判定することを防止することができる。
【0028】
したがって、レーダ装置1によれば、高速移動物標を検知した場合にも、物標の追跡失敗確率を低減することができる。なお、レーダ装置1が2回以上連続した場合の予測領域の設定手順については
図5Bや
図6Cを参照して後述する。
【0029】
次に、
図2を参照し、実施形態に係るレーダ装置1の構成について説明する。
図2は、実施形態に係るレーダ装置1を示すブロック図である。なお、
図2では、本実施形態の特徴を説明するために必要な構成要素のみを機能ブロックで表しており、一般的な構成要素についての記載を省略している。
【0030】
換言すれば、
図2に図示される各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。例えば、各機能ブロックの分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することが可能である。
【0031】
図2に示すように、レーダ装置1は、送信系を構成する構成要素として、送信部2と、送信アンテナ4とを備える。送信部2は、信号生成部21と、発振器22とを備える。
【0032】
また、レーダ装置1は、受信系を構成する構成要素として、受信アンテナ5−1〜5−nと、受信部6−1〜6−nとを備える。受信部6−1〜6−nはそれぞれ、ミキサ61と、A/D変換部62とを備える。また、レーダ装置1は、信号処理系を構成する構成要素として、信号処理装置7を備える。
【0033】
なお、以下では、説明の簡略化のため、単に「受信アンテナ5」と記載した場合には、受信アンテナ5−1〜5−nを総称するものとする。かかる点は、「受信部6」についても同様とする。
【0034】
送信部2は、送信信号を生成する処理を行う。信号生成部21は、後述する信号処理装置7が備える送受信制御部71の制御により、三角波で周波数変調されたミリ波を送信するための変調信号を生成する。発振器22は、かかる信号生成部21によって生成された変調信号に基づいて送信信号を生成する。
【0035】
送信アンテナ4は、発振器22によって生成された送信信号を、自車両C1の前方へ送信波として送出する。なお、
図2に示すように、発振器22によって生成された送信信号は、後述するミキサ61に対しても分配される。
【0036】
受信アンテナ5は、送信アンテナ4から送出された送信波が物標において反射することで、かかる物標から到来する反射波を受信信号として受信する。受信部6のそれぞれは、受信した各受信信号を信号処理装置7へ渡すまでの前段処理を行う。
【0037】
具体的には、ミキサ61のそれぞれは、上述のように分配された送信信号と、受信アンテナ5のそれぞれにおいて受信された受信信号とを混合してビート信号を生成する。なお、受信アンテナ5とミキサ61との間にはそれぞれ対応する増幅器を配してもよい。
【0038】
A/D変換部62は、ミキサ61において生成されたビート信号をデジタル変換し、信号処理装置7に対して出力する。信号処理装置7は、送受信制御部71と、FFT(Fast Fourier Transform)部72と、データ処理部73と、記憶部74とを備える。
【0039】
データ処理部73は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入出力ポートなどを有するマイクロコンピュータや各種の回路を含む。
【0040】
データ処理部73は、CPUがROMに記憶された物標検知プログラムを、RAMを作業領域として使用して実行することにより機能する複数の処理部を備える。具体的には、データ処理部73は、検知部70、連続性判定部73d、フィルタ処理部73e、物標分類部73f、および次回位置予測部73gを備える。検知部70は、ピーク抽出部73a、方位演算部73b、およびペアリング部73cを備える。
【0041】
データ処理部73が備える各処理部は、それぞれ一部または全部がASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアで構成されてもよい。
【0042】
記憶部74は、ハードディスクドライブや不揮発性メモリ、レジスタといった記憶デバイスであって、識別情報74a、追跡候補リスト74b、および物標履歴情報74cを記憶する。識別情報74aは、検知部70によって検知された各物標と各物標の種別とが対応付けられた情報である。ここでの物標の種別には、車両、自転車、歩行者、および路側物等がある。
【0043】
追跡候補リスト74bは、今回処理で検知された複数の物標のうち前回処理で検知された物標と同一物標の可能性がある物標に関する情報が登録されるリストである。追跡候補リスト74bには、一旦、今回処理で検知された全ての物標に関する情報が登録される。
【0044】
その後、連続性判定部73dが行う後述の連続性判定処理により、前回処理で検知された物標と同一物標でないと判定された物標に関する情報が追跡候補リスト74bから順次削除される。物標履歴情報74cは、同一の各物標について時系列に順次検知される物標の位置等の履歴を示す情報である。
【0045】
送受信制御部71は、上述の信号生成部21を含む送信部2を制御する。また、図示していないが、受信部6それぞれの制御もあわせて行う。FFT部72は、各A/D変換部62から入力したビート信号に対して高速フーリエ変換を施して、データ処理部73のピーク抽出部73aへ出力する。
【0046】
検知部70は、FFT部72から入力される高速フーリエ変換結果に基づいて物標を検知する検知処理を所定周期(例えば、50ms周期)で行い、検知した物標に関する情報を連続性判定部73dへ出力する処理部である。
【0047】
かかる検知部70は、前述したように、ピーク抽出部73a、方位演算部73b、およびペアリング部73cを備える。ピーク抽出部73aは、FFT部72による高速フーリエ変換結果においてピークとなるピーク周波数を抽出するピーク抽出処理を行い、ピーク抽出処理結果を方位演算部73bへ出力する処理部である。
【0048】
かかるピーク抽出部73aは、高速フーリエ変換結果に基づいて、ビート信号のUP区間およびDOWN(以下、「DN」と記載する)区間のそれぞれについてピーク周波数を抽出する。このとき、ピーク抽出部73aは、静止物ピーク抽出処理と、履歴ピーク抽出処理とを行う。
【0049】
静止物ピーク抽出処理は、UP区間およびDN区間のピーク周波数の差が自車両C1の速度に対応する各区間のピーク信号を静止物に対応するピーク周波数として抽出する処理である。また、履歴ピーク抽出処理は、抽出したピーク周波数の中から、過去の検知処理で検知された物標と時間的な連続性を有するUP区間およびDN区間のピーク周波数を抽出する処理のことである。
【0050】
ピーク抽出部73aは、次回位置予測部73gが予測による物標の位置や相対速度に基づき導出したピーク周波数(以下、「予測ピーク周波数」という場合がある。)を含む情報を取得する。ピーク抽出部73aは、予測ピーク周波数近傍のピーク周波数を抽出することによって履歴ピーク抽出処理を行う。
【0051】
そして、ピーク抽出部73aは、静止物ピーク抽出処理結果および履歴ピーク抽出処理結果を方位演算部73bへ出力する。このとき、ピーク抽出部73aは、履歴ピーク抽出処理結果として、予測ピーク周波数近傍のUP区間およびDN区間のピーク周波数を方位演算部73bへ出力する。
【0052】
方位演算部73bは、ピーク抽出部73aにおいて抽出されたピーク周波数のそれぞれに対応する反射波の到来角度とその信号強度(受信レベル)を算出する。方位演算部73bは、例えば、ESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)などの所定の到来方向推定手法を用いて、反射波の到来角度の方位演算を行う。
【0053】
なお、この時点で、到来角度は、物標が存在すると推定される角度であることから、以下、「推定角度」と記載する。また、方位演算部73bは、算出した推定角度と受信レベルとを、ペアリング部73cへ出力する。
【0054】
ペアリング部73cは、方位演算部73bの算出結果に基づいてUP区間およびDN区間のそれぞれについてピーク周波数の正しい組み合わせを判定してペアリングし、ペアリング結果から各物標の距離および相対速度を算出する。
【0055】
このとき、ペアリング部73cは、ピーク抽出部73aにより予測ピーク周波数に基づき抽出されたUP区間およびDN区間のピーク周波数についてもペアリングする履歴ペアリングを行い、物標の距離および相対速度を算出する。
【0056】
そして、ペアリング部73cは、各物標の推定角度、距離および相対速度を含む各物標に関する情報(以下、「物標情報」と記載することがある)を物標の検知結果として連続性判定部73dへ出力する。
【0057】
また、ペアリング部73cは、検知した物標の種別を識別し、識別した種別と物標とを対応付けた識別情報74aを生成して記憶部74に記憶させる。このとき、ペアリング部73cは、ペアリングするピーク信号のピーク周波数およびパワー等の特徴量に基づき、例えば、SVM(Support Vector Machine)や深層学習(Deep Learning)等を使用して各物標の種別を識別する。
【0058】
連続性判定部73dは、今回処理で検知された物標が前回処理で検知された物標と時間的な連続性を有する同一物標か否かを判定する連続性判定処理を行う処理部である。かかる連続性判定部73dは、ペアリング部73cから入力される今回処理で検知された全物標の物標情報を一旦、追跡候補リスト74bに登録する。
【0059】
また、連続性判定部73dは、物標履歴情報74cおよび後述の車両制御装置10から取得する情報に基づいて、検知処理毎に、今回処理で検知された物標が次回処理で検知される予測領域(例えば、
図1に示した予測領域A1、A2等)を設定する。
【0060】
そして、連続性判定部73dは、前回処理で設定した予測領域と、記憶部74に記憶された各物標の識別情報74aとに基づいて、連続性判定処理を行う。このとき、連続性判定部73dは、追跡候補リスト74bに物標情報を登録した各物標について、前回処理で設定した予測領域内の物標か否か、および前回処理で検知された物標と同一種別か否かを判定することによって連続性判定処理を行う。
【0061】
連続性判定部73dは、連続性判定処理の結果、前回処理で検知された物標と時間的な連続性を有する同一物標でないと判定した物標の物標情報を追跡候補リスト74bから順次削除する。その結果、連続性判定部73dは、最終的に追跡候補リスト74bに物標情報が残った物標を、前回処理で検知された物標と時間的な連続性を有する同一物標と判定する。
【0062】
そして、連続性判定部73dは、同一物標と判定した物標の物標情報に対して所定の平滑処理を行い、平滑処理後の物標情報を連続性判定処理結果としてフィルタ処理部73eへ出力する。かかる連続性判定部73dの構成および動作の一例については、
図3〜
図6Cを参照して詳述する。
【0063】
フィルタ処理部73eは、各物標について、時系列に処理される複数回分の瞬時値を平均化するフィルタ処理によって瞬時値のばらつきを抑制し、今回の検知処理で検知した物標の位置等を決定する処理部である。
【0064】
フィルタ処理部73eは、フィルタ処理の対象となる物標が例えば歩行者等の低速移動物標の場合には、処理負荷が比較的低いカルマンフィルタを使用したフィルタ処理を行う。また、フィルタ処理部73eは、フィルタ処理の対象となる物標が例えば対向車Cのような高速移動物標の場合には、速度に対する追従性が高いパーティクルフィルタを使用したフィルタ処理を行う。このようにフィルタ処理部73eは、物標の種別に応じてフィルタ処理の方式を変更できる。
【0065】
そして、フィルタ処理部73eは、フィルタ処理後の物標に関する情報を物標履歴情報74cとして記憶部74に記憶させると共に、フィルタ処理後の物標に関する情報を物標分類部73fへ出力する。ここでの物標に関する情報は、例えば、フィルタ処理後の各物標の位置、推定角度、距離および相対速度等を含む。
【0066】
物標分類部73fは、フィルタ処理部73eのフィルタ処理結果および物標履歴情報74cに基づき、各物標を移動物(たとえば先行車、対向車、自転車、歩行者等)および静止物に分類する。そして、物標分類部73fは、移動物に分類した物標の物標情報と、その物標に関する物標履歴情報74cとを次回位置予測部73gへ出力する。
【0067】
次回位置予測部73gは、物標分類部73fから入力される物標情報および物標履歴情報74cに基づいて、今回処理で検知された物標が次回処理で検知される予測位置を予測し、予測位置を含む情報をピーク抽出部73aへ出力する。
【0068】
次回位置予測部73gは、例えば、前回処理で検知された物標の位置や相対速度と、今回処理で検知された物標の位置や相対速度とに基づいて、前回処理から今回処理までの間に物標が移動した距離、方向、および、相対速度を導出する。続いて、次回位置予測部73gは、導出した物標の移動距離、移動方向、および相対速度から、その物標が次回処理で検知される位置および相対速度を予測する。
【0069】
そして、次回位置予測部73gは、予測した位置および相対速度に基づくUP区間およびDN区間のピーク周波数(予測ピーク周波数)を導出してピーク抽出部73aへ出力する。
【0070】
また、物標分類部73fは、分類した分類結果と共に各物標に関する物標情報(実在角度や距離、相対速度等を含む)を外部装置へ出力する。ここで、外部装置は、たとえば車両制御装置10である。
【0071】
車両制御装置10は、自車両C1の各装置を制御するECU(Electronic Control Unit)である。車両制御装置10は、たとえば、車速センサ11と、舵角センサ12と、スロットル13と、ブレーキ14と、電気的に接続されている。また、車両制御装置10は、GPS(Global Positioning System)装置15にも接続される。
【0072】
車両制御装置10は、レーダ装置1から取得した物標情報に基づき、たとえばACC(Adaptive Cruise Control)やPCS(Pre-Crash Safety System)等の車両制御を行う。
【0073】
たとえば、車両制御装置10は、ACCを行う場合、レーダ装置1から取得した物標情報を使用し、先行車との車間距離を一定距離に保ちつつ、自車両C1が先行車に追従するように、スロットル13やブレーキ14を制御する。また、車両制御装置10は、随時変化する自車両C1の走行状況、すなわち車速や舵角等を、車速センサ11や舵角センサ12等から都度取得し、レーダ装置1へフィードバックする。
【0074】
また、たとえば、車両制御装置10は、PCSを行う場合、レーダ装置1から取得した物標情報を使用し、自車両C1の進行方向に衝突の危険性がある先行車や静止物等が存在することが検知される場合には、ブレーキ14を制御して自車両C1を減速させる。また、たとえば、自車両C1の搭乗者に対して図示略の警報器を用いて警告したり、車室内のシートベルトを引き込んで搭乗者を座席に固定したりする。
【0075】
次に、
図3を参照して、実施形態に係る連続性判定部73dの構成の一例について説明する。
図3は、実施形態に係る連続性判定部73dの構成の一例を示す説明図である。判定部75cは、今回処理で検知された物標が前回処理で検知された物標と時間的な連続性を有する同一物標か否かを判定する処理部である。
図3に示すように、連続性判定部73dは、速度導出部75aと、領域設定部75bと、判定部75cとを備える。
【0076】
速度導出部75aは、ペアリング部73cから物標情報が入力される物標の速度を導出し、導出した速度を示す情報と、その物標の物標情報とを領域設定部75bへ出力する処理部である。
【0077】
速度導出部75aは、車両制御装置10を介して車速センサ11から取得する自車両C1の速度およびGPS装置15から取得する自車両C1の現在位置と、記憶部74から取得する物標履歴情報74cとに基づいて各物標の速度を導出する。
【0078】
ここで、
図4A、
図4B、および
図4Cを参照して、速度導出部75aによる速度導出手順について説明する。
図4A、
図4B、および
図4Cは、実施形態に係る速度導出部75aによる速度導出手順の説明図である。
【0079】
速度導出部75aは、新規に検知された物標の物標情報がペアリング部73cから入力される場合、物標情報から自車両C1に対する物標の相対速度を取得可能だが、新規に検知される物標には物標履歴情報74cがないため、物標の速度を導出することができない。
【0080】
そこで、速度導出部75aは、車両制御装置10を介して車速センサ11から取得する自車両C1の速度と、物標情報に含まれる物標の相対速度に基づいて、物標の速度を導出する。
【0081】
例えば、
図4Aに示すように、速度導出部75aは、自車両速度がVx[km/h]、新規に検知された対向車Cの自車両C1に対する相対速度がVy[km/h]の場合、相対速度Vyから自車両速度Vxを差し引いたVy−Vx[km/h]を対向車Cの速度として導出する。
【0082】
これにより、速度導出部75aは、新規に検知された物標の速度を導出することができる。そして、速度導出部75aは、導出した物標の速度を示す情報と、その物標の物標情報とを領域設定部75bへ出力する。
【0083】
また、速度導出部75aは、2回以上連続して検知された物標の物標情報がペアリング部73cから入力される場合、今回入力された物標情報と、物標情報が今回入力された物標の物標履歴情報74cとに基づいて、物標の速度を導出する。
【0084】
ここで、速度導出部75aは、検知処理が行われる周期が一定周期(例えば、50ms)であるため、前回処理から今回処理までの期間に物標が移動した移動量を導出し、導出した移動量を検知処理の周期で除することにより、物標の速度を導出することができる。
【0085】
ただし、速度導出部75aは、前回処理時および今回処理時の物標情報をそのまま使用しても前回処理から今回処理までの期間に物標が移動した移動量を導出することはできない。
【0086】
具体的には、速度導出部75aは、物標情報に自車両C1に対する物標の角度と、自車両C1から物標までの距離とが含まれているため、自車両C1に対する物標の相対的な移動量を導出することはできるが、物標の移動量は導出することができない。
【0087】
なお、例えば、測地座標系における自車両C1に対する物標の位置を地球中心座標系へ変換することで、前回処理時および今回処理時の物標の絶対位置を算出して物標の移動量を算出することは可能である。ただし、かかる変換処理では、座標変換パスが多く処理負荷が増大する。
【0088】
そこで、速度導出部75aは、今回処理によって2回以上連続して検知された物標については、検知処理の1周期間における自車両C1に対する物標の相対的な移動量から自車両C1の絶対的な移動量を差し引いて物標の絶対的な移動量を導出する。
【0089】
例えば、
図4Bに示すように、前回処理で自車両C1の位置を原点(0n、0n)とした場合に、自転車Bが座標(5n、5n)の位置で新規に検知されたとする。なお、nは定数である。
【0090】
このとき、自車両C1がY軸の正方向へ検知処理の1周期間に1n進む速度で移動し、自転車Bが自車両C1へ向かって右斜め45°の角度から検知処理の1周期間に1n√2進む速度で移動していたとする。
【0091】
このような場合、今回処理時の自車両C1の位置を原点(0n、0n)にすると、自転車Bの自車両C1に対する相対位置の座標は、
図4Cに示すように、(4n、3n)になる。このように、自転車Bは、前回処理から今回処理までの間に、自車両C1に対する相対位置が―Y方向へ2n、−X方向へ1nだけ変化する。だたし、かかる自転車Bの移動量は、自車両C1の移動量が含まれており、自転車Bの絶対移動量ではない。
【0092】
そこで、速度導出部75aは、
図4Bに示すように、前回処理で新規に検出された自転車Bの自車両C1に対する相対位置を示す座標(5n、5n)を、自転車Bの位置を原点とする絶対座標系の座標(0n、0n)に変換する。
【0093】
そして、速度導出部75aは、今回処理における自転車Bの自車両C1に対する相対的な位置を示す座標(4n、3n)から、検知処理の一周期間に自車両C1が移動した移動量分を差し引く。
【0094】
これにより、速度導出部75aは、
図4Cに示すように、今回処理における自転車Bの自車両C1に対する相対的な位置を示す座標(4n、3n)を、前回処理時の自転車Bの位置を原点とする絶対座標系の座標(−1n、−1n)に変換することができる。
【0095】
このように、速度導出部75aは、今回処理における自転車Bの自車両C1に対する相対的な位置を示す座標から、検知処理の一周期間に自車両C1が移動した移動量分を差し引くという簡易な処理によって自転車Bの絶対位置を導出することができる。続いて、速度導出部75aは、前回処理時の自転車Bの絶対位置から今回処理時の自転車Bの絶対位置までの距離を検知処理の周期で除することにより、自転車Bの速度を導出する。
【0096】
また、速度導出部75aは、今回処理で2回以上連続して検知された物標が次回処理で検知される場合には、今回処理で検知された物標の自車両C1に対する相対的な位置を物標の新たな基準位置(原点)として、次回処理時の物標の速度を導出する。そして、速度導出部75aは、導出した物標の速度を示す情報と、その物標の物標情報とを領域設定部75bへ出力する。
【0097】
図3へ戻り、領域設定部75bは、今回処理で検知された物標と時間的な連続性を有する同一の物標が次回処理で検知される予測領域の形状を速度導出部75aから入力される物標の速度を示す情報に応じて変化させて設定する処理部である。
【0098】
領域設定部75bは、物標の速度に応じた形状の予測領域を示す情報を判定部75cへ出力することによって、予測領域の設定を行う。また、領域設定部75bは、速度導出部75aから入力される物標情報を判定部75cに出力する処理も行う。領域設定部75bにより設定される予測領域の具体的な一例については、
図5A〜
図6Cを参照して後述する。
【0099】
判定部75cは、今回処理で検知された物標が前回処理で検知された物標と時間的な連続性を有する同一物標か否かを判定する連続性判定処理を行う処理部である。判定部75cは、今回処理で新規に検知された物標の物標情報が入力される場合に、物標情報をフィルタ処理部73eへ出力する。
【0100】
また、判定部75cは、今回処理で2回以上連続して検知された複数の物標に関する物標情報が入力される場合、全ての物標情報を一旦、追跡候補リスト74bに登録する。続いて、判定部75cは、追跡候補リスト74bに物標情報を登録した全ての物標について、前回処理で設定された予測領域内に存在する物標か否かを判定する。
【0101】
そして、判定部75cは、予測領域内に存在する物標でないと判定した場合、その物標の物標情報を追跡候補リスト74bから削除する。また、判定部75cは、予測領域内に存在する物標であると判定した場合、その物標の種別が前回処理で検知された物標の種別と同一か否かを識別情報74aに基づいて判定する。
【0102】
判定部75cは、前回処理で検知された物標の種別と同一でないと判定した場合、その物標の物標情報を追跡候補リスト74bから削除する。そして、判定部75cは、最終的に追跡候補リスト74bに物標情報が残った物標を、前回処理で検知された物標と時間的な連続性を有する同一物標と判定する。
【0103】
判定部75cは、かかる一連の連続性判定処理を前回処理で検知された全ての物標について行う。そして、判定部75cは、前回処理で検知された物標と時間的な連続性を有する同一物標と判定した物標の物標情報をフィルタ処理部73eへ出力する。
【0104】
次に、領域設定部75bが予測領域を設定する手順と、判定部75cが連続性判定処理を行う手順の具体的な一例について、
図5A〜
図6Cを参照して説明する。
図5A〜
図6Cは、実施形態に係る予測領域設定手順と連続性判定手順の説明図である。
【0105】
図5Aに示すように、領域設定部75bは、今回処理で新規に検知された物標が低速移動物標である歩行者Pであった場合、次回処理用に歩行者Pを中心とする円形状の予測領域A1を設定する。このとき、領域設定部75bは、歩行者Pが中心から徒歩または小走りで移動可能な距離を半径Rとする円形状の予測領域A1を設定する。
【0106】
そして、判定部75cは、次回処理で追跡候補リスト74bに物標情報が登録された複数の物標から予測領域A1に存在する物標を探索する。このとき、判定部75cは、例えば、予測領域A1内に歩行者TG1と自転車Bが存在する場合、前回処理で検知された歩行者Pと同一種別の歩行者TG1を前回処理で検知された歩行者Pと同一物標であると判定する。
【0107】
これにより、判定部75cは、歩行者Pが新規に検知された位置から次回処理が行われるまでの間に、徒歩や小走りでは到達するはずのない位置、つまり予測領域A1よりも外側に存在する物標TG100を歩行者Pと誤って判定することを防止することができる。
【0108】
また、判定部75cは、予測領域A2内で複数の物標が検知される場合にも、今回処理で検知した物標と同一物標を次回処理で検知することができる。したがって、レーダ装置1は、低速移動物標を検知した場合に、物標の追跡失敗確率を低減することができる。
【0109】
また、領域設定部75bは、次回処理で歩行者TG1が検知された場合、
図5Bに示すように、次の検知処理で歩行者TG1が検知される予測位置TG11を中心とする半径Rの円形状の予測領域A11を設定する。
【0110】
そして、判定部75cは、歩行者TG1が検知された検知処理(1回目の検知処理)の次の検知処理(2回目の検知処理)で予測領域A11内に存在する歩行者TG12を探索し、歩行者TG12の位置と予測位置TG11の位置とを平滑化処理した位置TG13の位置を歩行者Pの3回目の検知位置とする。
【0111】
つまり、判定部75cは、追跡候補リスト74bに登録されている歩行者TG12の物標情報と、予測位置TG11の物標情報とを平滑化処理し、平滑処理後の位置TG13を示す物標情報にする。そして、判定部75cは、平滑化処理後の位置TG13を示す物標情報をフィルタ処理部73eへ出力する。
【0112】
その後、領域設定部75bは、次の検知処理で歩行者TG1が検知される予測位置TG14を中心とする半径Rの円形状の予測領域A12を設定する。そして、判定部75cは、予測領域A12内に存在する歩行者TG15を探索し、歩行者TG15の位置と予測位置TG14の位置とを平滑化処理した位置TG16の位置を歩行者Pの4回目の検知位置とする。以後、領域設定部75bおよび判定部75cは、同様の処理を繰り返すことによって、新規に検知された歩行者P(
図5A参照)を継続して検知して追跡する。
【0113】
このように、領域設定部75bは、検知した物標が歩行者Pである場合、検知位置を中心とする円形状の予測領域A1を設定する。レーダ装置1は、歩行者Pが急に移動方向を変えるような予測困難な動きをしても、予測領域A1、A11、A12内で次回処理により歩行者Pを検知することができる。
【0114】
また、
図6Aに示すように、領域設定部75bは、今回処理で新規に検知された物標が高速移動物標である対向車Cであった場合、対向車Cを検知した位置を中心とする半径R1の円形状の領域A21の外側に予測領域A2を設定する。
【0115】
このとき、領域設定部75bは、対向車Cの速度×検知処理の周期×重みづけ係数Wという計算式に基づいて、円形状の領域A21の半径R1を算出する。重みづけ係数Wは、固定値設定としてもよく、可変値設定としてもよい。
【0116】
このように、領域設定部75bは、円形状の領域A21の外側に予測領域A2を設定する。これにより、レーダ装置1は、対向車Cを新規に検知した位置から近過ぎて、次回処理で高速移動物標であれば検知されるはずのない位置に存在する物標TG101を誤って対向車Cと判定することを防止することができる。
【0117】
また、領域設定部75bは、円形状の領域A21の外側に予測領域A2を設定する場合、円形状の領域A21を環状に囲む領域に幅がDのドーナツ形状の領域A22に、予測領域A2を設定する。これにより、レーダ装置1は、対向車Cを新規に検知した位置から遠すぎて、次回処理で高速移動物標であっても検知されるはずのない位置に存在する物標TG102を誤って対向車Cと判定することを防止することができる。
【0118】
また、領域設定部75bは、ドーナツ形状の領域に予測領域A2を設定する場合、ドーナツ形状の領域A22のうち、対向車Cの速度V2の方向(対向車Cの進行方向)側に位置する半ドーナツ形状の予測領域A2を設定する。
【0119】
なお、ドーナツ形状の領域A22のうち、対向車Cの速度V2の方向とは逆方向(対向車Cの進行方向とは逆方向)側に位置する半ドーナツ形状の領域と、上述の対向車Cの速度V2の方向側に位置する半ドーナツ形状との境界の位置は、対向車Cの車幅方向に延伸し、当該対向車Cの車体の略中心位置を通る車幅線CLと重なる位置となる。車体の略中心位置は、対向車Cの進行方向の車体の長さの略中間の位置と、対向車Cの車幅方向の車体の長さの略中間の位置とが重なる位置である。
【0120】
これにより、レーダ装置1は、対向車Cが突然後退するような有り得ない状況が発生しないかぎり、次回処理で検知されるはずのない対向車Cの後方領域に存在する物標TG103を誤って対向車Cと判定することを防止することができる。
【0121】
そして、判定部75cは、今回処理で設定した半ドーナツ形状の予測領域A2内で次回処理により検知される対向車TG2を今回処理で検知した対向車Cと時間的な連続性を有する同一物標と判定する。これにより、判定部75cは、高速移動物標を検知した場合にも、物標の追跡失敗確率を低減することができる。
【0122】
なお、領域設定部75bは、
図6Bに示すように、半ドーナツ形状の予測領域A2内で対向車TG21と歩行者TG22とが検知された場合、識別情報74aに基づいて、対向車Cと同一種別の対向車TG21を今回処理で検知した対向車Cと同一物標と判定する。したがって、レーダ装置1によれば、予測領域A2内で複数の物標が検知される場合にも、物標の追跡失敗確率を低減することができる。
【0123】
また、領域設定部75bは、次回処理で対向車TG21が検知された場合、
図6Cに示すように、次に対向車TG21と同一の物標が検知される予測位置TG23が扇の要となり、対向車TG21の速度方向を中心として広がる扇形状の予測領域A23を設定する。そして、判定部75cは、予測領域A23内で次回処理により検知される対向車TG24を今回処理で検知した対向車TG21と時間的な連続性を有する同一物標と判定する。
【0124】
このように、領域設定部75bは、2回以上連続して検知される高速移動物標については、半ドーナツ形状の予測領域A2よりも範囲をさらに狭めた扇形状の予測領域A23を設定する。
【0125】
これにより、判定部75cは、今回処理で検知した対向車TG21と同一でない他の物標を誤って同一物標と判定する確率が低減される。したがって、レーダ装置1は、物標の追跡失敗確率を低減することができる。
【0126】
また、領域設定部75bは、物標の速度に基づいて、低速移動物標よりも速度が高い物標が高速移動物標か中速移動物標かを判別することもできる。ここでの高速移動物標は、例えば、対向車C等であり、中速移動物標は、例えば、走行中の自転車等である。
【0127】
そして、領域設定部75bは、
図6Cに示すように、検知された物標が中速移動物標である自転車TG31の場合、自転車TG31の次回の予測位置TG32が扇の要となり、広がり角度が対向車TG21のときよりも大きな扇形状の予測領域A24を設定する。そして、判定部75cは、予測領域A24内で次回処理により検知される自転車TG33を今回処理で検知した自転車TG31と時間的な連続性を有する同一物標と判定する。
【0128】
このように、領域設定部75bは、今回処理で検知された物標の速度が低いほど、速度方向を中心として広がる扇形状の広がり角度を大きくし、物標の速度が高いほど、速度方向を中心として広がる扇形状の広がり角度を小さくした予測領域を設定する。
【0129】
これにより、レーダ装置1は、対向車TG21のように進行方向の変動が自転車TG31等の中速移動物標に比べて小さい高速移動物標については、予測領域A23の範囲を比較的狭くすることで、物標の追跡失敗確率を低減することができる。
【0130】
また、レーダ装置1は、自転車TG31のように進行方向の変動が対向車TG21等の高速移動物標に比べて大きい中速移動物標については、予測領域A23の範囲を比較的広くすることで、物標の追跡失敗確率を低減することができる。
【0131】
なお、ここでは、低速移動物標よりも速度が高い物標を高速移動物標と中速移動物標との2種類に分類したが、領域設定部75bは、物標の速度に応じて扇形状の予測領域の広がり角度を調整する構成であってもよい。
【0132】
次に、本実施形態に係るレーダ装置1のデータ処理部73が実行する処理手順について、
図7〜
図9を参照して説明する。
図7は、実施形態に係るレーダ装置1のデータ処理部73が実行するメイン処理を示すフローチャートである。
図8は、実施形態に係るメイン処理中の連続性判定処理を示すフローチャートである。
図9は、実施形態に係る連続性判定処理中の物標追跡処理を示すフローチャートである。
【0133】
データ処理部73は、電源が投入されている期間に、
図7に示すメイン処理を所定時間(例えば、50[ms])おきに繰り返し実行する。具体的には、データ処理部73では、
図7に示すように、まずピーク抽出部73aが、FFT部72から入力される高速フーリエ変換処理後のビート信号に基づき、ピーク抽出処理を行う(ステップS101)。続いて、方位演算部73bが、ピーク抽出処理の処理結果に基づき、方位演算処理を行う(ステップS102)。
【0134】
その後、ペアリング部73cが、方位演算処理の処理結果に基づき、ペアリング処理を行う(ステップS103)。続いて、連続性判定部73dがペアリング処理の処理結果に基づき、連続性判定処理を行う(ステップS104)。連続性判定処理の詳細については、
図8を参照して後述する。その後、フィルタ処理部73eが、連続性判定処理の処理結果に基づき、フィルタ処理を行う(ステップS105)。
【0135】
続いて、物標分類部73fが、フィルタ処理の処理結果に基づき、物標分類処理を行い(ステップS106)、物標分類処理後の物標の物標情報を外部装置へ出力する。その後、次回位置予測部73gが、物標分類処理の処理結果に基づき、物標の次回位置予測処理を行い(ステップS107)、処理を終了する。
【0136】
次に、
図8を参照し、連続性判定処理について説明する。
図8に示すように、連続性判定部73dは、連続性判定処理を開始すると、まず、今回処理で検知された物標が新規に検知された新規物標か否かを判定する(ステップS201)。
【0137】
そして、連続性判定部73dは、新規物標でないと判定した場合(ステップS201,No)、物標追跡処理を実行し(ステップS207)、処理を終了する。物標追跡処理の詳細については、
図9を参照して後述する。
【0138】
また、連続性判定部73dは、今回処理で検知された物標が新規物標であると判定した場合(ステップS201,Yes)、物標の相対速度から自車両速度を減算して物標の速度を導出する(ステップS202)。
【0139】
続いて、連続性判定部73dは、導出した速度が閾値以上か否かを判定する(ステップS203)。そして、連続性判定部73dは、速度が閾値以上であると判定した場合に(ステップS203,Yes)、次回処理用に半ドーナツ形状の予測領域を設定し(ステップS204)、処理をステップS206へ移す。
【0140】
また、連続性判定部73dは、速度が閾値以上でないと判定した場合(ステップS203,No)、次回処理用に円形状の予測領域を設定し(ステップS205)、処理をステップS206へ移す。ステップS206において、連続性判定部73dは、新規物標の物標情報をフィルタ処理部73eへ出力して処理を終了する。
【0141】
次に、
図9を参照し、物標追跡処理について説明する。
図9に示すように、連続性判定部73dは、物標追跡処理を開始すると、まず、新規物標以外に今回処理で検知された複数の物標情報を全て追跡候補リスト74bに登録する(ステップS301)。
【0142】
続いて、連続性判定部73dは、追跡候補リスト74bに物標情報を登録した物標が予測領域内で検知された物標か否かを判定する(ステップS302)。そして、連続性判定部73dは、予測領域内で検知された物標でないと判定した場合(ステップS302,No)、処理をステップS304へ移す。
【0143】
また、連続性判定部73dは、予測領域内で検知された物標であると判定した場合(ステップS302,Yes)、前回処理で検知された物標と同一種別の物標か否かを判定する(ステップS303)。そして、連続性判定部73dは、同一種別の物標でないと判定した場合(ステップS303,No)、処理をステップS304へ移す。
【0144】
ステップS304において、連続性判定部73dは、予測領域内で検知された物標でない物標、および前回処理で検知された物標と同一種別でない物標の物標情報を追跡候補リスト74bから削除し、処理をステップS305へ移す。
【0145】
また、連続性判定部73dは、前回処理で検知された物標と同一種別であると判定した場合(ステップS303,Yes)、追跡候補リスト74b内の未処理の物標情報数が0か否かを判定する(ステップS305)。そして、連続性判定部73dは、未処理の物標情報数が0でないと判定した場合(ステップS305,No)、処理をステップS302へ移す。
【0146】
また、連続性判定部73dは、未処理の物標情報数が0であると判定した場合(ステップS305,Yes)、追跡候補リスト74bに物標情報があるか否かを判定する(ステップS306)。そして、連続性判定部73dは、物標情報がないと判定した場合(ステップS306,No)、処理を終了する。
【0147】
また、連続性判定部73dは、追跡候補リスト74bに物標情報があると判定した場合(ステップS306,Yes)、追跡候補リスト74bに複数の物標情報があるか否かを判定する(ステップS307)。
【0148】
そして、連続性判定部73dは、追跡候補リスト74bに複数の物標情報がないと判定した場合(ステップS307,No)、処理をステップS310へ移す。また、連続性判定部73dは、追跡候補リスト74bに複数の物標情報があると判定した場合(ステップS307,Yes)、処理をステップS308へ移す。
【0149】
ステップS308において、連続性判定部73dは、追跡候補リスト74bにある複数の各物標情報について、マハラノビス距離およびカイ2乗分布に基づいて、前回処理で検知された物標と同一物標である確からしさを示す尤度を算出する。
【0150】
続いて、連続性判定部73dは、尤度が最高の物標以外の物標情報を追跡候補リスト74bから削除し(ステップS309)、フィルタ処理後の物標の自車両C1に対する相対位置を取得する(ステップS310)。
【0151】
その後、連続性判定部73dは、物標の相対位置を絶対位置に変換し、前回処理時の物標の絶対位置と、今回処理時の物標の絶対位置とに基づいて、物標の速度を導出する(ステップS311)。続いて、連続性判定部73dは、ステップS311で導出した速度が閾値以上であるか否かを判定する(ステップS312)。
【0152】
そして、連続性判定部73dは、閾値以上であると判定した場合(ステップS312,Yes)、次回処理用に扇形状の予測領域を設定し(ステップS313)、処理をステップS315へ移す。
【0153】
また、連続性判定部73dは、閾値以上でないと判定した場合(ステップS312,No)、次回処理用に円形状の予測領域を設定し(ステップS314)、処理をステップS315へ移す。ステップS315において、連続性判定部73dは、追跡候補リスト74b内に残った物標情報をフィルタ処理部73eへ出力し、処理を終了する。
【0154】
上述したように、実施形態に係るレーダ装置は、検知部と、速度導出部と、領域設定部と、判定部とを備える。検知部は、物標を検知する検知処理を所定周期で行う。速度導出部は、今回の検知処理で検知された物標の速度を導出する。
【0155】
領域設定部は、今回の検知処理で検知された物標と時間的な連続性を有する同一の物標が次回の検知処理で検知される予測領域の形状を速度導出部によって導出される速度に応じて変化させて設定する。
【0156】
判定部は、領域設定部によって設定された予測領域内で今回の検知処理によって検知された物標を前回の検知処理で検知された物標と時間的な連続性のある同一の物標と判定する。
【0157】
これにより、レーダ装置は、今回処理で検知した物標を次回処理で検知する場合に、物標の速度に応じて適応的に形状を変化させた予測領域の中から物標を検知することによって、物標の追跡失敗確率を低減することができる。
【0158】
なお、上記した実施形態では、レーダ装置は、低速移動物標を検知した場合に設定する円形状の予測領域の半径を固定としたが、物標の速度が高いほど予測領域の半径を大きくし、物標の速度が低いほど予測領域の半径を小さくすることもできる。これにより、レーダ装置は、今回処理で検知した物標と同一の物標を次回処理でより高精度に検知することができる。
【0159】
また、上記した実施形態では、レーダ装置は、物標の検知位置を中心とする所定領域を環状に囲む領域に予測領域を設定する場合、物標の速度方向を中心とする予測領域の広がり角度を物標の速度が高いほど小さく、物標の速度が低いほど大きくしてもよい。
【0160】
また、上記した実施形態では、レーダ装置が扇形状の予測領域を設定する場合、扇の要となる位置から円弧状の端縁までの距離を固定としたが、扇の要となる位置から円弧状の端縁までの距離を物標の速度が高いほど大きく、物標の速度が低いほど小さくしてもよい。
【0161】
このように、レーダ装置は、物標の速度に応じた予測領域の形状に多様性をもたせることによって、今回処理で検知した物標と同一の物標を次回処理で検知する精度を向上させることができ、その結果、物標の追跡失敗確率をさらに低減することができる。
【0162】
また、上記した実施形態では、レーダ装置が車両に搭載される場合を例に挙げたが、実施形態に係るレーダ装置は、例えば、航空機や船舶等、他の移動体に搭載されてもよい。また、実施形態に係るレーダ装置は、例えば、街頭に設置されるインフラレーダに適用することもできる。
【0163】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。