特許第6872924号(P6872924)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6872924
(24)【登録日】2021年4月22日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】防音材
(51)【国際特許分類】
   B60R 13/08 20060101AFI20210510BHJP
   B60J 5/00 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   B60R13/08
   B60J5/00 Z
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-24839(P2017-24839)
(22)【出願日】2017年2月14日
(65)【公開番号】特開2018-131013(P2018-131013A)
(43)【公開日】2018年8月23日
【審査請求日】2020年1月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000196107
【氏名又は名称】西川ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 隆史
【審査官】 菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−022477(JP,A)
【文献】 特開2005−227747(JP,A)
【文献】 特開2012−192751(JP,A)
【文献】 特開2014−081638(JP,A)
【文献】 特開2001−151041(JP,A)
【文献】 特開2004−323002(JP,A)
【文献】 特開2009−262788(JP,A)
【文献】 特開2004−106598(JP,A)
【文献】 米国特許第06412852(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 13/08
B60J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気を含む吸音材からなるシート状の防音材であって、
上記防音材の側面には多数の溝が当該側面に沿う方向に並ぶように形成され、当該側面における隣合う上記溝の間の部分の幅は、上記溝の底部の幅よりも広く設定され、
上記防音材には、厚み方向に圧縮変形して該防音材の他の部分よりも面密度が高められた遮音性向上部が設けられていることを特徴とする防音材。
【請求項2】
請求項1に記載の防音材において、
上記防音材は多数の気泡を有する発泡構造とされ、
上記遮音性向上部は、上記防音材の他の部分よりも気泡率が小さくなるように圧縮変形していることを特徴とする防音材。
【請求項3】
請求項2に記載の防音材において、
上記防音材は、多数の気泡を有するコア層と、該コア層の厚み方向両側に設けられるスキン層とを有し、
上記遮音性向上部の上記コア層が圧縮変形していることを特徴とする防音材。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の防音材において、
記遮音性向上部に形成されている上記溝の深さは、他の部分に形成されている上記溝の深さよりも浅いことを特徴とする防音材。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載の防音材において、
上記防音材は、自動車のドアに形成されたドアホールを閉塞するように形成されて該ドアに取り付けられ、
上記遮音性向上部は、上記ドアのベルトライン部側に配置されるように設けられることを特徴とする防音材。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載の防音材において、
上記防音材の側面には多数の孔が形成されていることを特徴とする防音材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両用ドア等に設けられる防音材に関し、特に部位によって吸音性能や遮音性能を変えることが可能な構造の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来から、防音材は様々な分野で使用されているが、例えば自動車の分野では、特許文献1、2に開示されているように、ドアのインナーパネルに形成されたドアホールをシールするシール材として使用されている。すなわち、ドアのインナーパネルにはサービスホール等のドアホールが形成されており、このドアホールを介して車室外の騒音が車室に入るのを抑制するためにドアホールのシール材に防音性能を持たせ、これにより、車室の静粛化を図っている。
【0003】
特許文献1のドアホールのシール材の周縁部には、インナーパネルに接着される接着部が設けられている。この接着部は、シール材の他の部分から膨出した段状に形成されており、シール材の他の部分よりも薄肉に形成されている。
【0004】
特許文献2のシール材は、弾性材からなるコア層と、コア層の厚み方向両側に設けられた非弾性スキン層とからなる多層構造となっている。このシール材における内装トリムの突起部に対応する部分には、この突起部を避けるように膨出した膨出部が形成されている。膨出部はスキン層を塑性変形させることによって形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−47377号公報
【特許文献2】特開2007−290668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では接着部がシール材の他の部分から膨出した段状にかつ薄肉に形成、つまり延伸されており、このことは面密度が低下して当該部位では必然的に遮音性能が低下してしまう。また、特許文献2でも同様に、膨出部を形成するためにスキン層を塑性変形させているので、スキン層が延伸されて薄肉化し、このことで面密度が低下して遮音性能が低下してしまう。つまり、特許文献1、2ともに接着部や膨出部の形成された部分の遮音性能が他の部分に比べて低くなる。
【0007】
ところで、例えば自動車のドアの防音を考えた場合、車室外からの騒音は低周波域から高周波域まで様々な周波数帯の音を含んでおり、しかも、ドアの部位によって低周波成分の多い騒音が入りやすいところやそうでないところがある。特許文献1、2のようなドアホールのシール材の場合、一般に、シール材に吸音させることによって車室に入る騒音を低減する吸音性能と、シール材によって遮音して車室に入る音を低減する遮音性能とを利用して防音性能を得ることができるが、低周波成分の多い騒音はドアホールシール材のような薄い物では吸音するのが困難であることから、主に遮音性能を利用することになる。
【0008】
ところが、特許文献1では接着部が必ず遮音性能の低い部分になり、特許文献2では膨出部が必ず遮音性能の低い部分になるので、これらの部分が、低周波成分の多い騒音の入りやすい部分である場合には、防音性能が低下してしまう。
【0009】
このことに対して、比重の大きな遮音部材を別途配設する等して部分的に遮音性能を向上させることが考えられるが、重量が増加するとともに、部品点数が増加しかつ組み付け工数が増加することからコストアップの要因になり、好ましくない。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、吸音材による吸音性能を得ながら、簡単な構造で必要な部分のみ遮音性能を高めて全体として高い防音性能を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明では、空気を含む吸音材の一部を圧縮変形させることによって相対的に面密度の高い部分を設けて遮音性能を部分的に高めるようにした。
【0012】
第1の発明は、空気を含む吸音材からなるシート状の防音材であって、上記防音材の側面には多数の溝が当該側面に沿う方向に並ぶように形成され、当該側面における隣合う上記溝の間の部分の幅は、上記溝の底部の幅よりも広く設定され、上記防音材には、厚み方向に圧縮変形して該防音材の他の部分よりも面密度が高められた遮音性向上部が設けられていることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、防音材が空気を含む吸音材からなるものなので、高い吸音性能が得られる。これにより、騒音を吸音することによって例えば室内等に入るのが抑制される。また、騒音に、例えば低周波成分の多い騒音が含まれていて、その低周波成分の多い騒音が防音材の一部に入射する場合がある。この場合には、低周波成分の多い騒音が入射する部分に遮音性向上部を配置することで、当該遮音性向上部の面密度が高まっているため、低周波成分の多い騒音が遮音される。また、低周波成分の多い騒音も防音材によって一部が吸音される。したがって、吸音性能と遮音性能とによって防音性能が高まる。
【0014】
また、遮音性向上部は防音材の一部を圧縮変形させることによって得られるので、高比重の別部品等を設ける必要はなく、簡単な構造で実現可能である。
【0015】
第2の発明は、第1の発明において、上記防音材は多数の気泡を有する発泡構造とされ、上記遮音性向上部は、上記防音材の他の部分よりも気泡率が小さくなるように圧縮変形していることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、防音材を発泡構造とすることで軽量でありながら高い吸音性能が得られる。また、遮音性向上部の気泡率が小さいので、面密度が向上して遮音性能が高まる。尚、気泡率は、例えば、比重の測定や、単位体積当たりに占める気泡の合計体積の割合や、断面における単位面積当たりに開口する気泡の合計開口面積の割合等で算出することが可能であるが、これらに限られるものではなく、各種気泡率の算出方法によって算出することができる。
【0017】
第3の発明は、第2の発明において、上記防音材は、多数の気泡を有するコア層と、該コア層の厚み方向両側に設けられるスキン層とを有し、上記遮音性向上部の上記コア層が圧縮変形していることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、スキン層によってコア層が保護されるので、コア層の気泡に水等が浸入し難くなり、吸音性能の低下が長期間に亘って抑制される。また、コア層を圧縮変形することで面密度の高い遮音性向上部が得られる。
【0019】
第4の発明は、第1から3のいずれか1つの発明において、上記遮音性向上部に形成されている上記溝の深さは、他の部分に形成されている上記溝の深さよりも浅いことを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、防音材の側面に多数の溝を形成することで吸音効果がより一層高まる。また、遮音性向上部においては、吸音効果よりも遮音効果を高めればよく、このため、溝の深さを相対的に浅くして面密度を確実に向上させることが可能になる。
【0021】
第5の発明は、第1から4のいずれか1つの発明において、上記防音材は、自動車のドアに形成されたドアホールを閉塞するように形成されて該ドアに取り付けられ、上記遮音性向上部は、上記ドアのベルトライン部側に配置されるように設けられることを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、防音材を自動車のドアに形成されているドアホールのシール材として使用することが可能になる。このとき、低周波成分の多い騒音がドアのベルトライン部近傍から車室に入り易い傾向の場合があるが、この場合に、遮音性向上部をドアのベルトライン部側に配置することで、低周波成分の多い騒音が効果的に遮音される。
【発明の効果】
【0023】
第1の発明によれば、空気を含む防音材の一部に圧縮変形して面密度を高めた遮音性向上部を設けたので、防音材による吸音性能を得ながら、簡単な構造で必要な部分のみ遮音性能を高めて全体として高い防音性能を得ることができる。
【0024】
第2の発明によれば、防音材を発泡構造とし、気泡率が小さくなるように遮音性向上部を圧縮変形させているので、軽量化を図りながら高い防音性能を得ることができる。
【0025】
第3の発明によれば、防音材がコア層とスキン層とを有しているので耐久性を高めることができる。また、遮音性向上部のコア層を圧縮変形させて面密度の高い遮音性向上部を得ることができる。
【0026】
第4の発明によれば、多数の溝を形成することで吸音性能を高めることができる。また、遮音性向上部に形成されている溝の深さを相対的に浅くすることで面密度を確実に高めて高い遮音性向上部を得ることができる。
【0027】
第5の発明によれば、防音材によって自動車のドアに形成されたドアホールを閉塞する場合にドアのベルトライン部近傍から入る低周波成分の多い騒音を効果的に遮音することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】実施形態に係る防音材を備えた自動車の側面図である。
図2図1におけるII−II線断面図である。
図3】防音材の側面図である。
図4図3におけるIV−IV線断面図である。
図5】圧縮変形前の図4相当図である。
図6】本発明の防音材と比較例の防音材の透過損失を示すグラフである。
図7】本発明の防音材と比較例の防音材の騒音試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0030】
図1は、本発明の実施形態に係る防音材10、20が取り付けられた自動車100の側面図である。この自動車100の側部には、フロントドア110とリヤドア120とが設けられている。フロントドア110は、ドア本体部111と、ドア本体部111に対して昇降動作可能に設けられているドアガラス112とを備えている。図2にも示すように、フロントドア110のドア本体部111は、車室外側を構成するアウターパネル113と、車室内側を構成するインナーパネル114とで構成されている。アウターパネル113とインナーパネル114との間に、下降状態のドアガラス112が収容されるようになっている。アウターパネル113とインナーパネル114との間には、ドアガラス112を昇降時に上下方向に案内するためのレール115と、ドアガラス112を昇降させるウインドレギュレータ116とが配設されている。
【0031】
フロントドア110のインナーパネル114には、ドアホール114aが形成されている。ドアホール114aは、フロントドア110の組み立て時に例えばウインドレギュレータ116等をドア本体部111の内部に挿入するためのものであり、インナーパネル114に大きく開口している。防音材10は、ドアホール114aを閉塞するように形成された吸音材からなるシート状の部材であり、インナーパネル114に直接または他の部材を介して間的的に取り付けることができるようになっている。防音材10は、例えば両面テープや接着剤、クリップ等を使用してインナーパネル114に取り付けることができる。
【0032】
フロントドア110のベルトライン部110aは、ドア本体部111の上部であり、車両前後方向に延びる部分である。このベルトライン部110aは、前席乗員の肩付近から上腕付近と同程度の高さに位置しており、ドア本体部111の中では前席乗員の耳に最も近い部分となる。
【0033】
また、図1に示すように、リヤドア120は、フロントドア110と基本的な構造は同じであり、ドア本体部121とドアガラス122とを備えている。リヤドア120のドア本体部121は、アウターパネル123とインナーパネル(図示せず)とで構成されている。そして、インナーパネルにはドアホール124aが形成されており、このドアホール124aがフロントドア110と同様に防音材20により閉塞されている。また、リヤドア120のベルトライン部120aは、ドア本体部121の上部であり、車両前後方向に延びる部分である。
【0034】
フロントドア110に取り付けられる防音材10と、リヤドア120に取り付けられる防音材20とは形状が異なるだけであり、通常は同じ部材で構成されているものなので、以下、フロントドア110に取り付けられる防音材10について詳細に説明する。尚、防音材10は、例えば、スライドドアやハッチバックドアに取り付けて使用することもできる。
【0035】
(防音材10の構成)
防音材10は、例えばゴムや熱可塑性エラストマー、或いは熱可塑性樹脂等の原料を所定の厚さのシート状をなすように押出成形してなるものであり、空気を含む吸音材である。ゴムとしては、例えばエチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)等の合成ゴムを挙げることができる。熱可塑性エラストマーとしては、例えばオレフィン系(TPO)やスチレン系(TPS)等を挙げることができる。熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)またはエチレン酢酸ビニルコポリマー(EVA)等を挙げることができる。
【0036】
図1に示すように、防音材10の外形は、インナーパネル114のドアホール114aよりも大きく設定されている。これにより、防音材10によってインナーパネル114のドアホール114aの全体が覆われることになる。防音材10によってインナーパネル114のドアホール114aの全体を覆うのが好ましいが、防音材10は、ドアホール114aの一部を覆わない形状であってもよい。また、防音材10の厚みは、例えば8mmに設定することができるが、これに限られるものではなく、例えば4mm以上15mm以下に設定することができる。また、防音材10の厚みは、ベルトライン側の部分とそれ以外の部分とで変えている。これについては後述する。
【0037】
図4に示すように、防音材10は3層構造である。すなわち、表側及び裏側に気泡の無いソリッド層からなる表側及び裏側スキン層11、12がそれぞれ形成され、該表側及び裏側スキン層11、12の間に、該表側スキン層11から該裏側スキン層12に亘る発泡層(コア層)13が形成されている。表側及び裏側スキン層11、12の厚みは、発泡層13の厚みよりも薄く設定されている。例えば、表側スキン層11の厚みを発泡層13の厚みの1/5以下にするのが好ましく、これにより、防音材10に占める発泡層13の厚みが十分に確保されて吸音性能が向上する。表側及び裏側スキン層11、12に気泡が無いので、表側及び裏側スキン層11、12は水等を通さない止水性を有している。また、表側及び裏側スキン層11、12は遮音性も有している。表側及び裏側スキン層11、12の厚みは例えば0.5mm以上1mmとすることができ、発泡層13の厚みは例えば2mm〜14mm程度、より具体的には6mm以上7mm程度とすることができる。
【0038】
発泡層13は、大小多数の気泡13a、13a、…を有する発泡構造とされている。気泡13aの形成形態としては、例えば気泡13a同士が連続した連続気泡(連泡)構造であってもよいし、一部の気泡13a同士が連続し、他の気泡13aが連続していない半連続気泡(半連泡)構造であってもよいし、気泡13a同士が連続していない独立気泡構造であってもよい。発泡層13の比重は、例えば0.05以上0.15以下とするのが好ましいが、この範囲に限られるものではない。防音材10を発泡構造とすることで軽量でありながら高い吸音性能が得られる。
【0039】
防音材10の側面である表側スキン層11側の面には、多数の溝14、14、…が形成されている。溝14を形成することで吸音性能を高めることができる。溝14は省略してもよい。また、溝14の代わりに多数の孔(図示せず)を形成してもよい。また、溝14と孔の両方を形成してもよい。溝14は、裏側スキン層12側の面に形成してもよい。
【0040】
防音材10には、厚み方向に圧縮変形して該防音材10の他の部分よりも面密度が高められた遮音性向上部15が設けられている。遮音性向上部15は、フロントドア110のベルトライン部110a側に配置されるように、即ち、防音材10の上側に配置されるように設けられている。図3において斜線で示す範囲は、フロントドア110のベルトライン部110a側の部分であり、この斜線で示す範囲に遮音性向上部15が設けられている。また、図4においては、仮想線L1よりも上側に遮音性向上部15が設けられている。
【0041】
遮音性向上部15は、防音材10の一部のみを厚み方向に圧縮変形させることによってできているので、防音材10の他の部分に比べて肉厚が薄くなる。防音材10を厚み方向に圧縮変形させると、主に発泡層13が圧縮変形することになり、これにより、遮音性向上部15は、防音材10の他の部分よりも気泡13aが小さくなるので気泡率が小さくなる。また、発泡層13を圧縮変形させると、気泡13aが変形前に比べて小さくなるものや、消失するものもある。遮音性向上部15の気泡率が小さくなることで、遮音性向上部15の面密度が防音材10の他の部分に比べて向上して遮音性能が高まる。尚、気泡率は、例えば、比重の測定や、単位体積当たりに占める気泡の合計体積の割合や、断面における単位面積当たりに開口する気泡の合計開口面積の割合等で算出することが可能であるが、これらに限られるものではなく、各種気泡率の算出方法によって算出することができる。
【0042】
また、遮音性向上部15は厚み方向に圧縮変形しているので、図4に示すように、遮音性向上部15に形成されている溝14の深さは、防音材10の他の部分に形成されている溝の深さよりも浅くなる。
【0043】
図4に示すように、遮音性向上部15の最大厚み(溝14の形成されていない部分の厚み)T1は、防音材10の他の部分の最大厚み(溝14の形成されていない部分の厚み)T2の60%以上80%以下の範囲に設定するのが好ましいが、T1をT2の70%程度にするのが最も好ましい。80%を超えると遮音性向上の効果が得られにくい。また60%よりも小さいと遮音性向上の効果は高まるが、構成する原料と気泡の組合せによっては後述する加熱圧縮を行なっても60%よりも小さくするのが困難で、60%よりも小さくするために無理に加熱圧縮を続けると材料の劣化を引き起こし、かえって遮音性能の低下を招く恐れがある。
【0044】
(防音材10の製造方法)
次に、上記のように構成された防音材10の製造方法について説明する。まず、図5に示すように、多数の溝44を有するシート状の吸音材40を形成する。この吸音材40は発泡層43、表側スキン層41及び裏側スキン層42を有しており、それぞれ、防音材10の発泡層13、表側スキン層11及び裏側スキン層12に対応している。
【0045】
その後、吸音材40における仮想線L1(図5に示す)よりも上側の部分を、軟化又は溶融するまで加熱するとともに圧縮する。この圧縮によって吸音材40における仮想線L1よりも上側の部分の面密度が高まる。その後、冷却することで、図4に示すように仮想線L1よりも上側の部分の面密度が高まったままで形状が保持され、この部分が遮音性向上部15となり、防音材10が得られる。
【0046】
遮音性向上部15を成形する際に熱を利用することで、圧縮力を除いた後であっても圧縮変形時の形状を保持することができる。これにより、例えば、フロントドア110のインナーパネル114に防音材10を取り付けた状態で、遮音性向上部15を薄肉な状態で保持できるので、他の部材と防音材10との干渉を抑制することができる。
【0047】
(実施形態の作用効果)
次に、本実施形態の作用効果について説明すると、防音材10が空気を含む吸音材からなるものなので、高い吸音性能が得られる。これにより、騒音を吸音することによって例えば室内等に入るのが抑制される。また、騒音に、例えば低周波成分の多い騒音が含まれていて、その低周波成分の多い騒音が防音材10の一部に入射する場合がある。この場合には、低周波成分の多い騒音が入射する部分に遮音性向上部15を配置することで、当該遮音性向上部15の面密度が高まっているため、低周波成分の多い騒音が遮音される。また、低周波成分の多い騒音も防音材10によって一部が吸音される。したがって、吸音性能と遮音性能とによって防音性能が高まる。
【0048】
また、遮音性向上部15は防音材10の一部を圧縮変形させることによって得られるので、高比重の別部品等を設ける必要はなく、簡単な構造で実現可能である。
【0049】
図6では、本実施形態と比較例との音の透過損失について比較した結果を示している。図6に示すグラフの縦軸は音の透過損失(dB)であり、横軸が周波数(Hz)である。図6における「本実施形態」とは遮音性向上部15を備えた防音材10であり、「比較例」とは遮音性向上部15を備えていない吸音材(図5に示すような形状)である。本実施形態の試験片は、遮音性向上部15をくり抜いて得た直径29mmの円形部材であり、比較例の試験片は、図5に示す吸音材をくり抜いて得た直径29mmの円形部材である。図6から分かるように、本実施形態では比較例に比べて1000Hz〜4000Hzの低周波数帯域において音の透過損失が高まっており、最大で2dB程度の差が生じている。
【0050】
この試験片を用いた試験方法は、JIS 1405−2に準拠した垂直入射測定法であり、測定装置は、B&K社製4206の測定システムを用いている。
【0051】
また、図7では、本実施形態と比較例との騒音試験結果について比較した結果を示している。図7に示すグラフの縦軸は音圧レベル(dB)であり、横軸が周波数(Hz)である。図7における「本実施形態」とは、遮音性向上部15を備えた防音材10を実際のフロントドア110に取り付けて実車で走行し、そのときに運転席乗員の耳位置近傍で騒音を測定した結果である。「比較例」とは、遮音性向上部15を備えていない吸音材(図5に示すような形状)を実際のフロントドア110に取り付けて実車で走行し、そのときに運転席乗員の耳位置近傍で騒音を測定した結果である。
【0052】
測定方法は次の通りである。まず、車外の運転席側方に、運転席側のドアガラスから横方向に2m離れたところで高さ1.4mのところに、全方位スピーカーを設置して250Hz〜8kHzの音を80〜90dBの音圧レベルとなるように出力する。集音用のマイクは、車室内の運転席乗員の耳位置近傍に配置しておく。
【0053】
「本実施形態」及び「比較例」ともにドアホール114aを塞ぐように取り付けた。図7から分かるように、特に800Hz〜1000Hzの低周波数帯域において音圧レベルが低下しており、最大で2dB程度の差が生じている。尚、事前の測定結果によれば、フロントドア110のベルトライン部110a近傍で、1000Hz近傍の低周波数成分の音圧レベルが高い傾向にあったので、遮音性向上部15がベルトライン部110a側に配置されるように防音材10を設けた。
【0054】
(その他の実施形態)
上記実施形態では、防音材10が発泡構造の吸音材で構成されている場合について説明したが、これに限らず、繊維からなる吸音材で構成されていてもよい。この場合、空気を含むように多数の繊維を組み合わせて吸音材を構成しておき、この吸音材の一部を厚み方向に圧縮変形して該防音材の他の部分よりも面密度が高い遮音性向上部を設ければよい。
【0055】
また、上記実施形態では、遮音性向上部15がベルトライン部110a側に配置されるように防音材10を設けているが、これに限らず、1000Hz近傍の低周波数成分の音圧レベルが高い部分に遮音性向上部15が配置されるように防音材10を設ければよく、ドアの構造等に応じて変更することができる。
【0056】
また、上記実施形態では、自動車のドア110、120に防音材10を設ける場合について説明したが、これに限らず、例えば電車等の各種車両、飛行機や船舶等、住宅等に設けることもできる。
【0057】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上説明したように、本発明に係る防音材は、例えば車両等に設けることができる。
【符号の説明】
【0059】
10 防音材
11 表側スキン層
12 裏側スキン層
13 発泡層(コア層)
14 溝
15 遮音性向上部
110 フロントドア
110a ベルトライン部
114a ドアホール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7