特許第6872929号(P6872929)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6872929
(24)【登録日】2021年4月22日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】ウォータージェットピーニング方法
(51)【国際特許分類】
   B23P 17/00 20060101AFI20210510BHJP
   B08B 3/08 20060101ALN20210510BHJP
【FI】
   B23P17/00 A
   !B08B3/08 Z
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-32349(P2017-32349)
(22)【出願日】2017年2月23日
(65)【公開番号】特開2018-134720(P2018-134720A)
(43)【公開日】2018年8月30日
【審査請求日】2019年3月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000132161
【氏名又は名称】株式会社スギノマシン
(74)【代理人】
【識別番号】100101432
【弁理士】
【氏名又は名称】花村 太
(72)【発明者】
【氏名】杉田 浩二
(72)【発明者】
【氏名】尾谷 俊二
【審査官】 中里 翔平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−090443(JP,A)
【文献】 特開2011−153619(JP,A)
【文献】 特開平07−328855(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0056399(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第103014277(CN,A)
【文献】 米国特許第06655208(US,B1)
【文献】 特開2015−104775(JP,A)
【文献】 特開2012−000710(JP,A)
【文献】 特開2003−145357(JP,A)
【文献】 特開2016−221650(JP,A)
【文献】 特開2004−238442(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2009−0019163(KR,A)
【文献】 特開2009−069505(JP,A)
【文献】 米国特許第03020140(US,A)
【文献】 特開平07−328859(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0074561(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23P 17/00
B24C 5/02
B24C 1/10
B08B 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄槽に貯留された水系洗浄液の中に機械部品を浸漬し、前記洗浄槽内の水系洗浄液中でノズルから下向きに前記機械部品へ向けて前記水系洗浄液を噴射して前記機械部品の表面に圧縮残留応力を付与するウォータージェットピーニングを行う際に、
前記洗浄槽の水系洗浄液の液面から前記機械部品の処理対象面までの距離を150mm以上、300mm未満、
前記ノズルからの洗浄液の噴射圧力を15MPa以上35MPa以下、
前記ノズルから前記水系洗浄液を噴射する際の前記洗浄槽の水系洗浄液の液面から前記ノズルの先端までの距離を50mm以上250mm以下、に設定すると供に、
前記水系洗浄液が界面活性剤を含まず、アミン化合物を含む洗浄液であるウォータージェットピーニング方法。
【請求項2】
請求項1のウォータージェットピーニング方法であって、
前記機械部品がアルミニウム合金製であるウォータージェットピーニング方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項のウォータージェットピーニング方法であって、
前記洗浄槽に貯留された洗浄液の循環を阻害して液面変動を抑制する循環阻害体を、前記洗浄槽内に配置するウォータージェットピーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォータージェットのキャビテーション効果を利用したピーニング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属加工物の表面硬化のために、加工物表面に小鋼球(ショット)を衝突させて圧縮残留応力を付与するショットピーニングが行われていた。一方、キャビテーション噴流によるキャビテーションの衝撃力を利用した液中でのピーニング、所謂ウォータージェットピーニングも行われている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
ウォータージェットピーニングでは、流体の速度増大により圧力が低下することで多数発生する気泡が成長した後、圧力回復に伴って収縮して消滅する際に発生する衝撃力を利用するものである。従って、液体以外の処理材料は必要無いため、処理後にショットを分離回収したり洗浄したりする工程を必要とせず後工程が簡単に済む。
【0004】
また、ショットでは衝突処理が困難であった狭い部分を有するような複雑な表面形状のものでもピーニング処理を行えるという利点があるだけでなく、小球衝突ではピーニング痕である凹み部分は小球の外形状に応じて大きく、全体的に荒い処理面となるのに対して、ウォータージェットピーニングでは凹み部分の径が小さく周囲との境界も連続的で曖昧なため、その処理面は全体的に滑らかであるなど、多くのメリットがある。このようなウォータージェットピーニングは、原子炉圧力容器構造物の残留応力改善にも用いられている(例えば、特許文献3、4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2991545号公報
【特許文献2】特許第3162104号公報
【特許文献3】特開平7−328860号公報
【特許文献4】特許第2840027号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本材料学会誌「材料」Vol .45, No.7, pp.740-745, July 1996 論文「SUS304鋼の耐食性および疲労強度に及ぼすウォータージェットピーニングの影響」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の一般的なウォータージェットピーニングにおいては、液中に60〜70MPaという高圧水をノズルから下方へ噴射して強力なキャビテーション噴流を形成させているが、処理対象物が設置される水深は、常識的に液面から対象物の処理面まで600mm程度あるいは1.5m(非特許文献1参照)と充分な水深が確保されることが多く、これより浅い場合でも特許文献1,2に開示されているような300mmであった。これは、高圧の噴流に液面から吸い込まれる空気によってキャビテーションの発生が抑制されるのを防ぐためである。
【0008】
したがって、ウォータージェットピーニングを行うための水槽自体は、上記処理部位までの水深より深いものが必要である。これによってピーニング施工のための装置構成は大型化が避けられなかった。
【0009】
一方、金属製の切削加工物等は、加工工程の後、洗浄液の噴射により切削屑等が洗い流される。このような洗浄においては、洗浄槽内に設置された加工物へ向けて、上方に位置決めされた噴射ノズルによって、タンクから供給される高圧洗浄液を噴射する水中洗浄機が用いられている。
【0010】
このような洗浄後の加工物に対して、ウォータージェットピーニングによる圧縮残留応力の付与が行われるが、そこで、加工物を移動させることなく、水中洗浄機において洗浄工程に続いて連続してピーニング工程を行うことができれば、作業効率が大幅に向上する。しかしながら、従来のウォータージェットピーニングの方法をそのまま採用するのでは、既存の水中洗浄機では小さすぎて実施できなかった。
【0011】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、従来より小型の装置構成でより簡便にウォータージェットピーニングを行うことができ、既存の水中洗浄機の利用を可能とするウォータージェットピーニング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明のウォータージェットピーニング方法は、洗浄槽に貯留された水系洗浄液の中に機械部品を浸漬し、前記洗浄槽内の水系洗浄液中でノズルから下向きに前記機械部品へ向けて前記水系洗浄液を噴射して前記機械部品の表面に圧縮残留応力を付与するウォータージェットピーニングの際に、前記洗浄槽の水系洗浄液の液面から前記機械部品の処理対象面までの距離を150mm以上、300mm未満に設定するものである。
【0013】
上記の本発明による方法は、本発明者らが種々検討した結果、後述する実施例に示すように、従来のウォータージェットピーニング方法で必要とされていた液面から対象物表面までの水深より大幅に浅い設定でもウォータージェットピーニングが可能であることを見出したものである。
【0014】
この水深設定によれば、ウォータージェットピーニング専用の大型水槽は必要なく、加工後の機械部品の洗浄を行っていた水中洗浄機を用いて、しかもその加工工程の流れでピーニング処理を行うことができるため、装置構成と手間が簡便に済み、作業効率が大きく向上する。
【0015】
上記の浅い水深では、ノズルから噴射された噴流が液面から空気を巻き込み、キャビテーションの発生が抑制され、ピーニング効果も抑制される。そこで、本発明者らは、従来より低い噴射圧力をウォータージェットピーニングに適用することを検討した。すると、充分なピーニング効果が得られることが実験によって確認された。その噴射圧力は、15MPa以上35MPa以下であり、これは従来技術にて常識的に設定されていた噴射圧力とは異なる低い領域である。
【0016】
従来より低い噴射圧力による下向きの噴射と液面からノズルの先端までの距離としてある程度の水深を確保することで、良好なピーニング効果が得られることが分かった。この液面からノズル先端までの距離は50mm以上250mm以下である。
【0017】
また、さらに液面変動を抑制する手段として、洗浄槽内で洗浄液が循環するのを阻害する循環阻害体を設けることも有効である。
【0018】
一方、処理対象となる機械部品が、アルミニウム合金や鉄合金の金属製であると、機械部品を純水または水道水中に浸漬すると腐食が生じる。このような水中でウォータージェットピーニングを行うと、時間の経過と共にその部品素材が液中に溶出し、腐食による機械部品自体の損傷も進む。
【0019】
そこで、このような機械部品に対して水中洗浄機で本来行われる洗浄に用いられるような防食剤を含有する水系洗浄液で、上記の本発明において新たに見いだされた条件設定によるウォータージェットピーニングを行えることが望まれる。
【0020】
そして、後述の実施例に示す通り、その含有成分によって防食剤含有洗浄液を適宜選択することによって、充分なピーニング効果が得られることが確認できた。したがって、処理対象となる機械部品がアルミ合金製であっても、洗浄が行われる同一の水中洗浄機で且つ同じ洗浄液で良好なウォータージェットピーニングを行うことが可能となり、作業効率のさらなる向上が期待できる。
【0021】
具体的に望ましい水系洗浄液は、界面活性剤を含まない洗浄液であり、そしてより望ましくは、アミン化合物を含むものである。
【発明の効果】
【0022】
以上に説明した通り、本発明のウォータージェットピーニング方法によれば、従来の液面から処理対象面までの距離よりも浅い水深設定でウォータージェットピーニングを行うことができる。これによって機械部品の洗浄を行う水中洗浄機を用いたウォータージェットピーニングが可能となり、装置構成と手間が簡便に済んで作業効率の大幅な向上が実現できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態としてウォータージェットピーニングを行う水中洗浄機の例を示す概略構成図である。
図2図1の水中洗浄機に装着される整流器付きのホーン型噴射ノズルの模式図であり(a)は噴射ノズルの概略断面図、(b)はノズル本体の上流側に配置された整流器の下流側からみた斜視図である。
図3図2とは異なる急拡大型の噴射ノズルを示す概略断面図である。
図4図1の洗浄槽内に配置される載置台の概略構成図であり、循環阻害体となる邪魔板が設けられている状態を示す斜視図である。
図5】ウォータージェットピーニングテストにおける評価基準を処理表面の状態別に示す写真代用図面であり、評価A、B、Cを順に示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のウォータージェットピーニング方法の実施を行った水中洗浄機を図1に示す。図1は、水中洗浄機の全体構成の概略を示す側断面図である。なお図2および図3は、図1の水中洗浄機に装着される噴射ノズルの構成を示す模式図である。図2(a)はホーン型ノズルの概略断面図、図2(b)はノズル本体の上流側に配置された整流器の下流側からみた斜視図であり、図3は、急拡大型ノズルの概略断面図である。また図4に、図1の洗浄槽内で対象物Wを載置固定する載置台として洗浄液の循環を抑制する邪魔板が装着されたものの斜視図を示す。
【0025】
水中洗浄機1は、機械部品等の処理される対象物Wが中に載置され、洗浄液Cが貯留される洗浄槽2と、洗浄液Cの供給源となる洗浄液タンク4と、使用済みの洗浄液Cが流入される回収用タンク30とを備え、洗浄液タンク4から洗浄槽用洗浄液供給流路40を介して洗浄液Cが洗浄槽2へ供給される。
【0026】
洗浄槽2の上方には、噴射ノズル10が昇降可能に設置され、ノズル下端の噴射口14が任意の高さ位置に設定される。この噴射ノズル10には、ピストンポンプ6によって、洗浄液供給流路5から洗浄液供給用バルブ7を経て高圧洗浄液が供給される。洗浄液供給路5には、圧力変換器8が配置されており、測定された圧力に基づいて制御部(不図示)は圧力調整を行う。
【0027】
洗浄供給流路5にはドレン流路50が分岐されており、ドレン用バルブ51を介して洗浄液タンク4から直接回収用タンク30へ洗浄液を流すことができる。回収用タンク30内に回収された使用後の洗浄液Cは、渦巻きポンプ31によってくみ上げられ、回収流路33によってフィルタ32を通って不純物が濾過されてから洗浄液タンク4に戻される。
【0028】
洗浄液供給用バルブ7は常時閉の単動電磁弁から構成され、またドレン用バルブ51は常時開の単動電磁弁で構成されており、これら電磁弁は制御部からの指令に応じて弁開閉が駆動制御され、各ポンプとの連動制御で洗浄液の供給噴射が制御される。
【0029】
また、対象物Wは、載置台3上に載置固定され、載置台3の駆動によって洗浄槽2に対する出し入れが成されると共に、ピーニング工程において噴射ノズル10から噴射されるウォータージェットに対して対象物Wを相対移動させる。載置台3の相対移動のための駆動も、制御部による制御によって噴射ノズル10の洗浄液噴射と連動される。
【0030】
噴射ノズル10は、図2(a)に示すように、上流側から縮径した流路の下流で一定の口径で延びるチョーク12と、チョーク12の下流端からテーパー状に拡径する噴口13とが形成されたノズル本体11を備えている。噴口13の拡がりは、中心軸から15度以上30度以下に設計できる。噴射ノズル10は、噴口13を備えているため、水中噴射時に噴流の流線がテーパー状に拡大して噴流の周囲で乱れが生じ、噴流内のキャビテーションを発達させる。
【0031】
噴射ノズル10に替えて、図3に示すような噴口形状の異なる噴射ノズル20を利用できる。噴射ノズル20のノズル本体21は、チョーク22の下流端から口径が急激に拡大した後に噴射口24まで一定に延びる円筒状の噴口23を備えている。好ましくは、噴口23の直径は、チョーク22の直径の3倍以上5倍以下である。噴口23の長さはチョーク22の長さの1倍以上3倍以下に設計できる。噴射ノズル20は、噴口23を備えているため、水中噴射時に噴流の流線が急激に拡大して噴流の周囲で乱れが生じ、噴流内のキャビテーションを発達させる。噴射ノズル20は、特開平5−212317号公報に開示されている。
【0032】
さらに、ノズル本体(11,21)の上流側に配置される整流器15を備えてもよい。整流器15は、円筒枠状のボディ15cの内側に断面が略V字状の突起15aを備えている。好ましくは、ボディ15cは内径が外径の80%以上100%未満である。突起15aはボディ15cの上流側に設けられている。突起15aの高さはボディ15cの内径の30%以上45%以下が好ましい。ボディ15cの中心軸方向での突起15aの長さは、ボディ15cの長さの30%以上60%以下が好ましい。ボディ15cの下流側には突起のない円筒状の整流室15bが設けられている。整流器15としては、例えば特開2016−56834号公報、特開2006−122834号公報に開示されている整流器が利用できる。
【0033】
また、図4に示すように、対象物Wの周囲に、洗浄槽2内における洗浄液Cの循環を阻害する循環阻害体9を設ける。この循環阻害体9としては、載置台3上または洗浄槽2の内壁に設けても良い。載置台3に大きな切り抜き穴Nが設けられている場合には、噴射ノズル10の噴射方向から見て切り抜き穴Nの開口投影面内に配置された板材からなる邪魔板9Bが循環阻害体9として利用できる。また、板材であって、載置台3の対象物Wの載置面に垂直に設けられた邪魔板9Aを利用できる。邪魔板9Aには、補強リブ9ARを設けても良い。
【0034】
洗浄槽2に貯留された洗浄液C内に浸漬した噴射ノズル10が洗浄液Cを噴射すると、洗浄槽2に貯留された洗浄液Cは、洗浄槽2内で循環し、撹拌される。噴射圧力が大きくなると、この循環、撹拌も大きくなり、洗浄槽2に貯留された洗浄液Cの液面が大きく揺れる。洗浄液Cの液面が大きく変動すると、キャビテーションの発生が阻害される。洗浄液Cの液面から対象物Wまでの水深が浅いほど、洗浄液が循環して波打ち、噴射ノズル10が生成した噴流とその周囲に空気を巻き込むためと推察される。
【0035】
そこで、洗浄槽2の内部に循環阻害体9を設けた場合には、洗浄槽2に貯留された洗浄液C中で噴射ノズル10から洗浄液Cを噴射した際の液面の波うちが抑制された。そして、ウォータージェットピーニング効果も高まった。噴射ノズル10から噴射されるウォータージェット内でのキャビテーションの発生が促進したものと推察される。
【0036】
なお、循環阻害体9は、ノズル本体11を取り付ける図示しないノズルブロック又はノズル取り付け配管に固定しても良い。この場合、循環阻害体9は、ノズル本体11から洗浄液Cを噴射するときに洗浄槽2内の洗浄液C中に浸漬するように設ける。
【実施例】
【0037】
本発明の実施例として、図1の構成を備えた水中洗浄機を用いてウォータージェットピーニングを行った場合を以下に示す。その前にまず、真水を用いて、深い水槽により液面から処理対象面までの水深を従来の条件設定である500mmと、従来より浅い200mmとに関して、従来より低い噴射圧力、15,27,35MPaの3つの場合で対象物Wとして各種アルミ材(A5052)と鉄材(S50C)の平板に対し、図2の整流器の無いホーン型の噴射ノズル10で下向き噴射によるウォータージェットピーニングテストを行った。その結果を、処理対象面に発生したピーニング痕の状況による評価として表1に示す。
【0038】
なお、ピーニング評価は、図5の模式図で示すように、処理対象面全体にピーニング痕が高密度で満遍なく見られた場合を優れたピーニング効果として評価Aとし、この評価Aよりピーニング痕の密度が小さいものを評価Bとし、さらにピーニング痕がまばらで浅いものを評価Cとした。そして、ピーニング痕自体がさらに微小で数少ないものから目視による確認が困難であるものを評価D(不図示)とした。
【0039】
【表1】
【0040】
表1の結果からわかるように、対象物Wがアルミ材であれば(テストNo.1〜4)、従来より低い範囲の噴射圧力15〜35MPaであっても評価Aの優れたピーニング処理結果が見られた。特に液面から処理対象面までの水深Dが200mm(テストNo.4)という従来より大幅に浅い条件であっても良好にピーニングが行えることが判った。評価Aの場合、いずれも水面からノズル下端までの水深dは100mmである。鉄材の場合は、ノズル下端までの水深dを50mmとしても評価Dは変わらなかった。
【0041】
次に、図1に示す水中洗浄機にて、市販の防食剤含有洗浄液を用いて20〜40℃の範囲内でアルミ材(A5052)に対してウォータージェットピーニングテストを行った。結果を表2に示す。まず、図2に示す噴射ノズル10の整流器15無しとしたホーンノズルを用いて、液面から処理対象面までの水深Dを200mmと固定して、噴射圧力を7〜35MPa、液面からノズル下端までの水深d=50〜150mmの範囲での噴射(テストNo.7〜15)と、噴射圧力を7〜40MPaの範囲で変更しつつ、液面から処理対象面までの水深D=80〜300mm、ノズル下端までの水深d=30〜100mmとした場合での噴射(テストNo.16〜19)によるウォータージェットピーニングテストを行った。次いで、液面から処理対象面までの水深Dを300mmに固定して噴射ノズル10で整流器15有り(表2中の*1印付き)としたホーンノズルからの噴射(テストNo.20〜22)によるウォータージェットピーニングテストを行った。
【0042】
また、図4に示す循環阻害体9としての邪魔板(9A,9B)を載置台3に装着した(表2中の*2印付き)場合のホーン型の噴射ノズル10による噴射(テストNo.23〜27)についても処理面までの水深D=50〜250mm、ノズル下端までの水深d=50〜250の範囲でウォータージェットピーニングテストを行った。さらに、図3に示した急拡大型の噴射ノズル20を用いた場合の噴射(テストNo.28,29)によるウォータージェットピーニングテストも行った。
【0043】
第1洗浄液としてデタージェントL-120A(商品名、株式会社ネオス製、原液成分;ジエタノールアミン(3%未満)・トリエタノールアミン合計10〜20%、可溶化材1%未満、有機酸アミン塩類10〜20%、界面活性剤1%未満、防腐剤1%未満、防食材3%未満、水65〜75%)の3%希釈液と、第2洗浄液としてVP−W(商品名、株式会社ネオス製、原液成分;トリエタノールアミン3〜10%、有機酸アミン塩類5〜15%、無機塩類10〜20%、防食剤10〜20%、水45〜55%)の3%希釈液とを用いた。ノズル噴射口径は1.4mm〜2.1mmの範囲で、噴射圧力、流量に応じて適宜選択された。
【0044】
【表2】
【0045】
まず、図1の水中洗浄機において、真水で噴射圧力15MPaの低圧条件でのウォータージェットピーニングテスト(No.9)で表1の場合と同様に評価Aのピーニング痕が確認できたのに対して、第1洗浄液でこれより少し高圧の噴射圧力35MPaでウォータージェットピーニングテストを行うと、ノズル下端までの水深dを100mmとした場合も50mmとした場合も(No.7,8)、殆どピーニング痕が生じなかった。これに対し、第2洗浄液を用いた場合では、第1洗浄液の場合と同じ噴射圧力35MPaでも評価Bの良好なピーニング効果が見られ(No.15)、さらに噴射圧力15MPaでノズル下端までの水深d=100mmと真水(No.9)と同じ条件とした場合(No.12)で真水と同等の評価Aであった。ノズル下端までの水深dを150mm(No.10)、または50mmとした(No.11)場合も、各々評価Bと評価Cでそれなりにピーニング痕は生じていた。
【0046】
これら洗浄液の違いは、界面活性剤の含有の有無によると考えられる。これは、界面活性剤を含む洗浄液は空気の溶解を促進し、そして空気の溶解はキャビテーションの発生を抑圧するためである。界面活性剤を含まない第2洗浄液においては、液面から処理対象面までの水深Dが200mmと従来より浅い条件としても、真水と同等のウォータージェットピーニングが可能であることが確認できた。
【0047】
さらに第2洗浄液について、噴射圧力の違いに対応してウォータージェットピーニングの結果を比較すると、噴射圧力7MPaと低すぎると(No.13,19)ピーニング痕が僅かにしか発生せず、噴射圧力40MPaと高い場合(No.16)でも評価Dであったが、15〜30MPaの噴射圧力の範囲(No.12,14,20,21,23,24,26〜29)で最も優れた結果が得られている。
【0048】
良好な結果が得られた第2洗浄液について、液面から処理対象面までの水深Dを250mm以上と比較的距離を大きくとり、また噴射圧力が25MPa以下の比較的低い設定においては、図2(b)に示すようなキャビテーション安定器としての整流器15をノズル本体の上流に備えておくことで、ホーン型、急拡大型のいずれの噴射ノズルの場合(No.20〜23,28)も評価AおよびBという良好な結果が得られた。特に噴射圧力が25MPaあれば、整流器15の利用によって評価Aという優れたピーニング効果が得られている(No.20,23)。また、30MPaと比較的高い噴射圧力で邪魔板(9A,9B)を設置することによって液面変動を抑制した場合(No.24,26,27)では、ノズル下端までの水深dが50mmと浅い場合(No.25の評価B)以外はいずれも評価Aと優れた結果が得られた。
【0049】
以上の結果から、水系洗浄液を用いても液面から処理対象面までの水深Dが100mm以上300mm以下で充分なウォータージェットピーニングを行うことができ、150mm以上250mm以下で最も優れたウォータージェットピーニングが可能である。よって、従来のウォータージェットピーニングが行われていた水槽より浅い洗浄槽で300mmより浅い水深Dとなった場合、即ち水深Dが150mm以上、300mm未満、例えば250mmまでとした場合で良好なウォータージェットピーニングが可能である。このとき好適な噴射圧力は15MPa以上35MPa以下であり、より望ましくは15MPa以上25MPa以下であることが確認された。さらに、以上の結果において、評価Cまでを含む良好な結果が得られた条件として、液面からノズル下端までの水深dは、50mm以上250mm以下であった。
【0050】
また、水系洗浄液として、界面活性剤を含まなければ、防食剤含有洗浄液を使用できることも確認された。これにより、水中洗浄機で洗浄が行われた機械部品に対して、同じ水中洗浄機で且つ同種の洗浄液を用いてピーニング処理を行うことが可能であることが確認された。
【0051】
なお、洗浄液の含有成分として、ピーニング処理に、即ち良好なキャビテーション噴流の発生に寄与するものを特定できれば、実際のウォータージェットピーニングを行う際に洗浄液としてその成分が必ず含まれるものを選択することができ、さらにはその成分の添加調整によってより大きなピーニング効果を期待することも可能と思われる。
【0052】
そこで、以上の実施例で確認された第2洗浄液において、キャビテーション噴流の発生に寄与する成分としてまずトリエタノールアミンが考えられる。アミン化合物は防食剤として広く利用されている。この防食性は、アミン化合物の窒素を含む極性部分が金属表面に吸着すると同時にそれ以外の非極性鎖が外側向きに配列された構造となる吸着層で金属表面を覆う成膜作用による。そこで、市販品でアミン化合物のみを含みその他の成分を含まないものの水溶液を用いて図1の水中洗浄機でウォータージェットピーニングテストを行った。
【0053】
具体的には、第3洗浄液として、pHコウジョウザイ(商品名、株式会社ネオス製、原液成分;モノ-n-プロパノールアミン40〜45%およびジイソプロパノールアミン10%未満でアミン類合計45〜55%、水45〜55%)の2.5%希釈液と、第4洗浄液として、QUAKERCLEAN(商標)680VDA(商品名、Quaker Chemical Corporation製、原液成分;モノエタノールアミン10〜15%、水95〜90%)の3%希釈液とについて、アルミ材(A5052)に対し、噴射圧力15MPaおよび20MPaにおいて、液面から処理対象面までの水深Dが200mm前後、液面からノズル下端までの水深dが70〜155mmという前述の望ましい条件範囲内でウォータージェットピーニングテストを行った(テストNo.30〜33)。その結果を表3に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
表3の結果から、第3洗浄液および第4洗浄液のように、アミン化合物のみを含有する洗浄液であっても、ある程度以上のピーニング効果が得られることが判った。また同じ第3洗浄液でも、評価Bであった条件(No.30)から噴射圧力と処理対象面までの水深D、ノズル下端までの水深dを若干変更し、邪魔板を設けた場合(No.31)に評価Aという優れたピーニング効果が得られることが判った。本テストでは、アミンのみを含む洗浄液が二種類でしかもそれぞれ一種の濃度だけでの検討であったが、その他のアミン化合物やまた濃度等の条件設定によっては、より優れたピーニング効果が得られるものを特定する可能性が期待できる。
【符号の説明】
【0056】
1:水中洗浄機
2:洗浄槽
3:載置台
C:洗浄液
W:対象物(機械部品)
4:洗浄液タンク
5:洗浄液供給流路
6:ピストンポンプ
7:洗浄液供給用バルブ
8:圧力変換器
9,9A,9B:邪魔板(循環阻害体)
9AR:補強リブ
N:切り抜き穴
10:噴射ノズル(ホーン型)
11:ノズル本体
12:チョーク
13:噴口
14:噴射口
15:整流器
20:噴射ノズル(急拡大型)
21:ノズル本体
22:チョーク
23:噴口
24:噴射口
30:回収用タンク
31:渦巻きポンプ
32:フィルタ
33:回収流路
40:洗浄槽用洗浄液供給流路
50:ドレン流路
51:ドレン用バルブ
図1
図2
図3
図4
図5