特許第6872950号(P6872950)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6872950Li−P−O−N系無機固体電解質材料、Li−P−O−N系無機固体電解質材料の使用方法、固体電解質、固体電解質膜、リチウムイオン電池およびLi−P−O−N系無機固体電解質材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6872950
(24)【登録日】2021年4月22日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】Li−P−O−N系無機固体電解質材料、Li−P−O−N系無機固体電解質材料の使用方法、固体電解質、固体電解質膜、リチウムイオン電池およびLi−P−O−N系無機固体電解質材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20210510BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20210510BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20210510BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20210510BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   H01M10/0562
   H01M10/052
   H01M4/62 Z
   H01B1/06 A
   H01B13/00 Z
【請求項の数】18
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2017-67150(P2017-67150)
(22)【出願日】2017年3月30日
(65)【公開番号】特開2018-170184(P2018-170184A)
(43)【公開日】2018年11月1日
【審査請求日】2020年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000165974
【氏名又は名称】古河機械金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】田村 素志
(72)【発明者】
【氏名】山本 一富
【審査官】 川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−171248(JP,A)
【文献】 特開2006−032129(JP,A)
【文献】 特開2010−111565(JP,A)
【文献】 特開2011−001221(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2014−0096332(KR,A)
【文献】 国際公開第2017/006591(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0311562(US,A1)
【文献】 Fan Xu et al,Properties of lithium phosphorus oxynitride (Lipon) for 3D solid-state lithium batteries,Journal ot Materials Research,2010年 8月,Vol.25,No.8,P.1507-1515
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/00−10/0587
H01M 4/00− 4/62
H01B 1/06
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン伝導性を有し、かつ、構成元素としてLi、P、OおよびNを含む粒子状のLi−P−O−N系無機固体電解質材料であって、
当該Li−P−O−N系無機固体電解質材料中の前記Pの含有量に対する前記Liの含有量のモル比(Li/P)が3.5以上100.0以下であり、前記Pの含有量に対する前記Oの含有量のモル比(O/P)が2.0以上6.0以下であり、前記Pの含有量に対する前記Nの含有量のモル比(N/P)が0.1以上31.0以下であるLi−P−O−N系無機固体電解質材料。
【請求項2】
請求項1に記載のLi−P−O−N系無機固体電解質材料において、
線源としてCuKα線を用いたX線回折により得られるスペクトルにおいて回折角2θ=15.0±0.1°の位置における最大回折強度をバックグラウンド強度Iとし、回折角2θ=33.0±0.5°の位置に存在する回折ピークの回折強度をIとしたとき、I/Iの値が50以下であるLi−P−O−N系無機固体電解質材料。
【請求項3】
請求項1または2に記載のLi−P−O−N系無機固体電解質材料において、
線源としてCuKα線を用いたX線回折により得られるスペクトルにおいて回折角2θ=32.0±0.4°の位置に回折ピークを有するLi−P−O−N系無機固体電解質材料。
【請求項4】
請求項3に記載のLi−P−O−N系無機固体電解質材料において、
線源としてCuKα線を用いたX線回折により得られるスペクトルにおいて回折角2θ=15.0±0.1°の位置における最大回折強度をバックグラウンド強度Iとし、回折角2θ=32.0±0.4°の位置に存在する前記回折ピークの回折強度をIとしたとき、I/Iの値が2.0以上であるLi−P−O−N系無機固体電解質材料。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のLi−P−O−N系無機固体電解質材料において、
構成元素としてSを含まないLi−P−O−N系無機固体電解質材料。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のLi−P−O−N系無機固体電解質材料において、
温度25℃、掃引電圧範囲0〜5V、電圧掃引速度5mV/秒の条件で測定される、前記Li−P−O−N系無機固体電解質材料の酸化分解電流の最大値が0.50μA以下であるLi−P−O−N系無機固体電解質材料。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載のLi−P−O−N系無機固体電解質材料において、
レーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における、前記Li−P−O−N系無機固体電解質材料の平均粒子径d50が1μm以上50μm以下であるLi−P−O−N系無機固体電解質材料。
【請求項8】
請求項1乃至のいずれか一項に記載のLi−P−O−N系無機固体電解質材料において、
27.0℃、印加電圧10mV、測定周波数域0.1Hz〜7MHzの測定条件における交流インピーダンス法による前記Li−P−O−N系無機固体電解質材料のリチウムイオン伝導度が1.5×10−10S・cm−1以上であるLi−P−O−N系無機固体電解質材料。
【請求項9】
請求項1乃至のいずれか一項に記載のLi−P−O−N系無機固体電解質材料において、
粒子状の前記Li−P−O−N系無機固体電解質材150mgを270MPaの圧力で直径9.5mmのペレットに加圧成形したとき、
前記Li−P−O−N系無機固体電解質材料からなる前記ペレットの密度が1.00g/cm超過1.70g/cm以下であるLi−P−O−N系無機固体電解質材料。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載のLi−P−O−N系無機固体電解質材料をリチウムイオン電池に用いる、Li−P−O−N系無機固体電解質材料の使用方法
【請求項11】
請求項1乃至のいずれか一項に記載のLi−P−O−N系無機固体電解質材料を含む固体電解質。
【請求項12】
請求項11に記載の固体電解質を主成分として含む固体電解質膜。
【請求項13】
請求項12に記載の固体電解質膜において、
粒子状の前記固体電解質の加圧成形体である固体電解質膜。
【請求項14】
請求項12または13に記載の固体電解質膜において、
当該固体電解質膜中のバインダー樹脂の含有量が、前記固体電解質膜の全体を100質量%としたとき、0.5質量%未満である固体電解質膜。
【請求項15】
請求項12乃至14のいずれか一項に記載の固体電解質膜において、
当該固体電解質膜中の前記Li−P−O−N系無機固体電解質材料の含有量が、前記固体電解質膜の全体を100質量%としたとき、50質量%以上である固体電解質膜。
【請求項16】
正極活物質層を含む正極と、電解質層と、負極活物質層を含む負極とを備えたリチウムイオン電池であって、
前記正極活物質層、前記電解質層および前記負極活物質層のうち少なくとも一つが、請求項1乃至のいずれか一項に記載のLi−P−O−N系無機固体電解質材料を含むリチウムイオン電池。
【請求項17】
請求項1乃至のいずれか一項に記載のLi−P−O−N系無機固体電解質材料を製造するための製造方法であって、
リン酸リチウムおよび窒化リチウムを含む混合物Aをガラス化する工程を含むLi−P−O−N系無機固体電解質材料の製造方法。
【請求項18】
請求項17に記載のLi−P−O−N系無機固体電解質材料の製造方法において、
前記混合物Aをガラス化する前記工程では、
前記混合物Aをメカニカルミリング処理することによりガラス化するLi−P−O−N系無機固体電解質材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Li−P−O−N系無機固体電解質材料、固体電解質、固体電解質膜、リチウムイオン電池およびLi−P−O−N系無機固体電解質材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、一般的に、携帯電話やノートパソコン等の小型携帯機器の電源として使用されている。また、最近では小型携帯機器以外に、電気自動車や電力貯蔵等の電源としてもリチウムイオン電池は使用され始めている。
【0003】
現在市販されているリチウムイオン電池には、可燃性の有機溶媒を含む電解液が使用されている。一方、電解液を固体電解質に変えて、電池を全固体化したリチウムイオン電池(以下、全固体型リチウムイオン電池とも呼ぶ。)は、電池内に可燃性の有機溶媒を用いないので、安全装置の簡素化が図れ、製造コストや生産性に優れると考えられている。
【0004】
このような固体電解質に用いられる固体電解質材料としては、例えば、硫化物系無機固体電解質材料および酸化物系無機固体電解質材料が知られている。
【0005】
特許文献1(特開2016−27545号公報)には、CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=29.86°±1.00°の位置にピークを有し、Li2y+3PS(0.1≦y≦0.175)の組成を有することを特徴とする硫化物系固体電解質材料が記載されている。
【0006】
特許文献2(特開2011−171248号公報)には、含有するリン原子に対する含有するリチウム原子の原子比(Li/P)が3.0以上6.0以下である窒化リン酸リチウムからなる酸化物系無機固体電解質材料が記載されている。
【0007】
特許文献3(特開2011−171247号公報)には、含有するリン原子に対する含有するリチウム原子の原子比(Li/P)が1.0以上2.3以下である窒化リン酸リチウムからなる酸化物系無機固体電解質材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2016−27545号公報
【特許文献2】特開2011−171248号公報
【特許文献3】特開2011−171247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
酸化物系無機固体電解質材料は、原料が安価で、かつ、硫化物系無機固体電解質材料よりも取り扱いが簡便であるという利点を有している。しかし、酸化物系無機固体電解質材料は、硫化物系無機固体電解質材料よりも固く粒子同士の密着性が低い。そのため粒界抵抗が高く、硫化物系無機固体電解質材料よりもリチウムイオン伝導性に劣るという欠点を有している。
以上から、リチウムイオン電池に利用される酸化物系無機固体電解質材料は電気化学安定性を有しつつ、リチウムイオン伝導性のさらなる向上が求められている。
ここで、特許文献2および3に記載の窒化リン酸リチウムからなる酸化物系無機固体電解質材料はリチウムイオン伝導性に優れているものの、窒素雰囲気下で高周波スパッタリング法を用いて作製される緻密な薄膜状の固体電解質のため、生産性や汎用性、取扱性に劣り実用的ではなかった。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、電気化学的安定性およびリチウムイオン伝導性のバランスに優れる粒子状の酸化物系無機固体電解質材料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、電気化学的安定性およびリチウムイオン伝導性のバランスに優れる粒子状の酸化物系無機固体電解質材料を提供するため、固体電解質材料の製造に用いる原料の種類、それらの配合割合等について鋭意検討した。その結果、構成元素として、Li、P、OおよびNを特定の割合で含む粒子状のLi−P−O−N系無機固体電解質材料が電気化学的安定性およびリチウムイオン伝導性のバランスに優れることを見出し、本発明に至った。
【0012】
すなわち、本発明によれば、
リチウムイオン伝導性を有し、かつ、構成元素としてLi、P、OおよびNを含む粒子状のLi−P−O−N系無機固体電解質材料であって、
当該Li−P−O−N系無機固体電解質材料中の上記Pの含有量に対する上記Liの含有量のモル比(Li/P)が3.5以上100.0以下であり、上記Pの含有量に対する上記Oの含有量のモル比(O/P)が2.0以上6.0以下であり、上記Pの含有量に対する上記Nの含有量のモル比(N/P)が0.1以上31.0以下であるLi−P−O−N系無機固体電解質材料が提供される。
【0013】
さらに、本発明によれば、
上記Li−P−O−N系無機固体電解質材料を含む固体電解質が提供される。
【0014】
さらに、本発明によれば、
上記固体電解質を主成分として含む固体電解質膜が提供される。
【0015】
さらに、本発明によれば、
正極活物質層を含む正極と、電解質層と、負極活物質層を含む負極とを備えたリチウムイオン電池であって、
上記正極活物質層、上記電解質層および上記負極活物質層のうち少なくとも一つが、上記Li−P−O−N系無機固体電解質材料を含むリチウムイオン電池が提供される。
【0016】
さらに、本発明によれば、
上記Li−P−O−N系無機固体電解質材料を製造するための製造方法であって、
リン酸リチウムおよび窒化リチウムを含む混合物Aをガラス化する工程を含むLi−P−O−N系無機固体電解質材料の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電気化学的安定性およびリチウムイオン伝導性のバランスに優れる粒子状の酸化物系無機固体電解質材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る実施形態のリチウムイオン電池の構造の一例を示す断面図である。
図2】実施例1〜12および比較例1で得られた酸化物系無機固体電解質材料のX線回折スペクトルを示す図である。
図3】比較例2で得られた酸化物系無機固体電解質材料のX線回折スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には共通の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。数値範囲の「A〜B」は特に断りがなければ、A以上B以下を表す。
【0020】
[Li−P−O−N系無機固体電解質材料]
はじめに、本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料について説明する。
本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料は、リチウムイオン伝導性を有し、かつ、構成元素としてLi、P、OおよびNを含む。そして、本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料は、当該Li−P−O−N系無機固体電解質材料中の上記Pの含有量に対する上記Liの含有量のモル比(Li/P)が3.5以上100.0以下であり、上記Pの含有量に対する上記Oの含有量のモル比(O/P)が2.0以上6.0以下であり、上記Pの含有量に対する上記Nの含有量のモル比(N/P)が0.1以上31.0以下である。
ここで、本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料中のLi、P、OおよびNの含有量は、例えば、ICP発光分光分析やX線分析により求めることができる。
【0021】
本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料は、酸化物系無機固体電解質材料の利点すなわち原料コストや取扱い性を良好にするために、原料として硫化物を使用しないことが好ましい。すなわち、本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料は構成元素としてSを含まないことが好ましい。
【0022】
Li/Pのモル比、O/Pのモル比およびN/Pのモル比を上記範囲内とすることにより、優れたリチウムイオン伝導性を得ることができる。この理由については必ずしも明らかではないが、以下の理由が推察される。
まず、固体電解質材料のイオン伝導度を向上させるためには、化合物の安定性を維持しながら固体電解質材料を柔らかくし、粒子状の固体電解質材料同士の密着性を向上させることが重要である。粒子同士の密着性が向上すると粒界抵抗が低下し、リチウムイオン伝導性を向上できると考えられる。
例えば、安定な化合物のLiPOに対しLi組成およびN組成を増加させることにより平均分子量を増加させるとともにイオン充填率を小さくする。これにより固体電解質材料のヤング率が低減して柔らかくなり、粒子同士の密着性を向上させることができると考えられる。
すなわち、Li/Pのモル比、O/Pのモル比およびN/Pのモル比が上記範囲内である本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料は、安定な化合物のLiPOに比べてLi組成およびN組成が増加しているとともに、LiPOよりもヤング率が低く柔らかくなっていると考えられる。
そのため、Li/Pのモル比、O/Pのモル比およびN/Pのモル比が上記範囲内であると、化合物の安定性とLi組成と粒子同士の密着性が高度にバランスされ、その結果、高いイオン伝導度の発現につながったと考えられる。
【0023】
ここで、本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料において、上記Li/Pは3.5以上であるが、リチウムイオン伝導性をより向上させる観点から、4.0以上が好ましく、4.5以上が好ましく、5.5以上がより好ましく、6.0以上がさらに好ましく、7.5以上がさらにより好ましく、9.0以上がさらにより好ましく、10.0以上がさらにより好ましく、12.0以上が特に好ましい。
また、本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料において、上記Li/Pは100.0以下であるが、電気化学的安定性をより向上させる観点から、好ましくは90.0以下であり、より好ましくは80.0以下であり、さらに好ましくは70.0以下であり、特に好ましくは65.0以下である。
【0024】
また、本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料において、上記O/Pは2.0以上6.0以下であるが、好ましくは3.0以上5.0以下であり、より好ましくは3.5以上4.5以下であり、さらに好ましくは3.6以上4.4以下であり、さらにより好ましくは3.8以上4.2以下であり、特に好ましくは4.0である。
【0025】
また、本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料において、上記N/Pは0.1以上であるが、リチウムイオン伝導性をより向上させる観点から、0.3以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、0.8以上がさらに好ましく、1.0以上がさらにより好ましく、1.5以上がさらにより好ましく、2.0以上がさらにより好ましく、3.0以上が特に好ましい。
また、本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料において、上記N/Pは31.0以下であるが、電気化学的安定性をより向上させる観点から、好ましくは28.0以下であり、より好ましくは25.0以下であり、さらに好ましくは22.0以下であり、特に好ましくは20.0以下である。
【0026】
本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料において、線源としてCuKα線を用いたX線回折により得られるスペクトルにおいて回折角2θ=15.0±0.1°の位置における最大回折強度をバックグラウンド強度Iとし、回折角2θ=33.0±0.5°の位置に存在する回折ピークの回折強度をIとしたとき、I/Iの値が好ましくは50以下、より好ましくは30以下、さらに好ましくは20以下であり、特に好ましくは15以下である。
/Iを上記上限値以下とすることにより、Li−P−O−N系無機固体電解質材料のリチウムイオン伝導性をより向上させることができる。さらに、このようなLi−P−O−N系無機固体電解質材料を用いると、入出力特性により一層優れたリチウムイオン電池を得ることができる。
【0027】
ここで、回折角2θ=15.0±0.1°の位置における最大回折強度Iは、基準の回折強度であり、回折角2θ=33.0±0.5°の位置に存在する回折ピークはリン酸リチウム由来の回折ピークである。
したがって、I/Iは、Li−P−O−N系無機固体電解質材料中のリン酸リチウムの含有量の指標を表している。I/Iが小さいほど、ガラス化が進み、原料であるリン酸リチウムの量が少ないことを意味する。
リン酸リチウムはリチウムイオン伝導性が低いため、リン酸リチウムの含有量が少ないほどLi−P−O−N系無機固体電解質材料のリチウムイオン伝導性は向上するものと考えられる。
また、I/Iは小さければ小さいほど好ましいため下限値は特に限定されないが、例えば0.01以上である。
【0028】
本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料において、線源としてCuKα線を用いたX線回折により得られるスペクトルにおいて回折角2θ=32.0±0.4°の位置に回折ピークを有することが好ましい。
このような回折ピークを有するLi−P−O−N系無機固体電解質材料はリチウムイオン伝導性により一層優れており、入出力特性により一層優れたリチウムイオン電池を得ることができる。
また、本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料において、線源としてCuKα線を用いたX線回折により得られるスペクトルにおいて回折角2θ=15.0±0.1°の位置における最大回折強度をバックグラウンド強度Iとし、回折角2θ=32.0±0.4°の位置に存在する回折ピークの回折強度をIとしたとき、I/Iの値が好ましくは2.0以上、より好ましくは3.0以上、さらに好ましくは5.0以上、特に好ましくは6.0以上である。
/Iの値が上記下限値以上とすることにより、Li−P−O−N系無機固体電解質材料のリチウムイオン伝導性をより一層向上させることができる。さらに、このようなLi−P−O−N系無機固体電解質材料を用いると、入出力特性により一層優れたリチウムイオン電池を得ることができる。
ここで、回折角2θ=32.0±0.4°の位置に回折ピークを有すること、あるいはI/Iの値を上記下限値以上とすることにより、Li−P−O−N系無機固体電解質材料のリチウムイオン伝導性をより一層向上させることができる理由は明らかではないが、以下の理由が考えられる。
まず、本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料の原料の一種として用いられるLiNは、通常はα型LiNとβ型LiNの混合物である。回折角2θ=32.0±0.4°の位置に存在する回折ピークはβ型LiN由来の回折ピークだと考えられる。このβ型LiNはLiN層の積層からなるハニカム構造であり、このハニカム構造がリチウムイオン伝導性の向上に影響を与えていると考えられる。
すなわち、回折角2θ=32.0±0.4°の位置に回折ピークを有する、あるいはI/Iの値が上記下限値以上であるLi−P−O−N系無機固体電解質材料はβ型LiN由来のハニカム構造が存在することを意味していると考えられ、こうしたハニカム構造によって、より一層高いリチウムイオン伝導性が発現していると考えられる。
ここで、上記I/Iの値は、例えば、Li−P−O−N系無機固体電解質材料のLi/Pのモル比およびN/Pのモル比を増加させることにより増大させることが可能である。
【0029】
本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料において、27.0℃、印加電圧10mV、測定周波数域0.1Hz〜7MHzの測定条件における交流インピーダンス法によるLi−P−O−N系無機固体電解質材料のリチウムイオン伝導度が、好ましくは1.5×10−10S・cm−1以上、より好ましくは1.0×10−9S・cm−1以上、さらに好ましくは1.0×10−8S・cm−1以上、さらにより好ましくは1.0×10−7S・cm−1以上、さらにより好ましくは1.0×10−6S・cm−1以上、さらにより好ましくは2.0×10−6S・cm−1以上、特に好ましくは1.0×10−5S・cm−1以上である。
本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料のリチウムイオン伝導度が上記下限値以上であると、電池特性により一層優れたリチウムイオン電池を得ることができる。
【0030】
本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料の形状は粒子状である。
本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料は特に限定されないが、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における平均粒子径d50が、好ましくは1μm以上50μm以下であり、より好ましくは2μm以上40μm以下、さらに好ましくは3μm以上35μm以下である。
Li−P−O−N系無機固体電解質材料の平均粒子径d50を上記範囲内とすることにより、良好なハンドリング性を維持すると共に、得られる固体電解質膜のリチウムイオン伝導性をより一層向上させることができる。
【0031】
本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料は電気化学的安定性に優れていることが好ましい。より具体的には、本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料において、温度25℃、掃引電圧範囲0〜5V、電圧掃引速度5mV/秒の条件で測定されるLi−P−O−N系無機固体電解質材料の酸化分解電流の最大値が0.50μA以下であることが好ましく、0.20μA以下であることがより好ましく、0.10μA以下であることがさらに好ましく、0.05μA以下であることが特に好ましい。
Li−P−O−N系無機固体電解質材料の酸化分解電流の最大値が上記上限値以下であると、リチウムイオン電池内でのLi−P−O−N系無機固体電解質材料の酸化分解を抑制することができるため好ましい。
Li−P−O−N系無機固体電解質材料の酸化分解電流の最大値の下限値は特に限定されないが、例えば、0.0001μA以上である。
【0032】
本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料において、粒子状のLi−P−O−N系無機固体電解質材150mgを270MPaの圧力で直径9.5mmのペレットに加圧成形したとき、本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料からなるペレットの密度が1.00g/cm超過1.70g/cm以下であることが好ましく、1.01g/cm以上1.55g/cm以下であることがより好ましく、1.02g/cm以上1.45g/cm以下であることがさらに好ましい。
密度が上記範囲内であると、Li−P−O−N系無機固体電解質材料同士の密着性が良好になりリチウムイオン伝導度が向上するため好ましい。
本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料からなるペレットの密度は、例えば、Li/Pのモル比、O/Pのモル比およびN/Pのモル比等をそれぞれ適切に制御することにより、上記範囲内に制御することができる。
ここで、上記密度はペレットの質量(g)を、ペレットの外形寸法から求められる体積(cm)で割ることにより算出することができる。
【0033】
本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料は、リチウムイオン伝導性を必要とする任意の用途に用いることができる。中でも、本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料は、リチウムイオン電池に用いられることが好ましい。より具体的には、リチウムイオン電池における正極活物質層、負極活物質層、電解質層等に使用される。さらに、本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料は、全固体型リチウムイオン電池を構成する正極活物質層、負極活物質層、固体電解質層等に好適に用いられ、全固体型リチウムイオン電池を構成する固体電解質層に特に好適に用いられる。
本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料を適用した全固体型リチウムイオン電池の例としては、正極と、固体電解質層と、負極とがこの順番に積層されたものが挙げられる。
【0034】
[Li−P−O−N系無機固体電解質材料の製造方法]
つづいて、本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料の製造方法について説明する。
本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料は、例えば、原料であるリン酸リチウムおよび窒化リチウムを含む混合物Aをガラス化することにより得ることができる。また、原料としては酸化リチウム、酸化リンおよび窒化リチウムの組み合わせを使用することもできる。
本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料の製造方法は、スパッタリング法や原料の溶融・鋳込み等の工程を行う必要がないため、製造コストや生産性に優れ、実用的であるため好ましい。
【0035】
はじめに、リン酸リチウム、窒化リチウム等の原料を特定の割合で含む混合物Aを調製する。ここで、混合物A中の各原料の混合比は、得られるLi−P−O−N系無機固体電解質材料が所望の組成比になるように調整する。
各原料を混合する方法としては各原料を均一に混合できる混合方法であれば特に限定されないが、例えば、ボールミル、ビーズミル、振動ミル、打撃粉砕装置、ミキサー(パグミキサー、リボンミキサー、タンブラーミキサー、ドラムミキサー、V型混合器等)、ニーダー、2軸ニーダー、気流粉砕機等を用いて混合することができる。
各原料を混合するときの攪拌速度や処理時間、温度、反応圧力、混合物に加えられる重力加速度等の混合条件は、混合物の処理量によって適宜決定することができる。
【0036】
つぎに、混合物Aをガラス化する。
混合物Aをガラス化する方法としては、混合物Aをガラス化できる方法であれば特に限定されないが、例えば、メカノケミカル処理および溶融急冷法等によりおこなうことができる。
これらの中でも、メカノケミカル処理によりおこなうことが好ましい。常温での処理が可能であり、製造工程の簡略化を図ることができるからである。また、メカノケミカル処理は、乾式メカノケミカル処理であっても、湿式メカノケミカル処理であってもよい。
メカノケミカル処理を用いると、各原料を微粒子状に粉砕しながら混合することができるため、各原料の接触面積を大きくすることができる。それにより、各原料の反応を促進することができるため、本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料をより一層効率良く得ることができる。
【0037】
ここで、メカノケミカル処理とは、混合対象に、せん断力、衝突力または遠心力のような機械的エネルギーを加えつつガラス化する方法である。メカノケミカル処理によるガラス化をおこなう装置としては、ボールミル、ビーズミル、振動ミル、ターボミル、メカノフュージョン、ディスクミル、ロールミル等の粉砕・分散機;削岩機や振動ドリル、インパクトドライバ等で代表される回転(せん断応力)および打撃(圧縮応力)を組み合わせた機構からなる回転・打撃粉砕装置;高圧型グライディングロール;等が挙げられる。これらの中でも、非常に高い衝撃エネルギーを効率良く発生させることができる観点から、ボールミルおよびビーズミルが好ましく、ボールミルが特に好ましい。また、連続生産性に優れている観点から、ロールミル;削岩機や振動ドリル、インパクトドライバ等で代表される回転(せん断応力)および打撃(圧縮応力)を組み合わせた機構からなる回転・打撃粉砕装置;高圧型グライディングロール;等が好ましい。
【0038】
また、混合物Aをガラス化するときに、ヘキサン、トルエン、またはキシレン等の非プロトン性有機溶媒を添加して、溶媒に各原料を分散させた状態でガラス化してもよい。
【0039】
また、メカノケミカル処理は非活性雰囲気下でおこなうことが好ましい。これにより、混合物Aと、水蒸気や酸素等との反応を抑制することができる。
また、上記非活性雰囲気下とは、真空雰囲気下または不活性ガス雰囲気下のことである。上記非活性雰囲気下では、水分の接触を避けるために露点が−50℃以下であることが好ましく、−60℃以下であることがより好ましい。上記不活性ガス雰囲気下とは、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等の不活性ガスの雰囲気下のことである。これらの不活性ガスは、製品への不純物の混入を防止するために、高純度である程好ましい。混合系への不活性ガスの導入方法としては、混合系内が不活性ガス雰囲気で満たされる方法であれば特に限定されないが、不活性ガスをパージする方法、不活性ガスを一定量導入し続ける方法等が挙げられる。
【0040】
混合物Aをガラス化するときの回転速度や処理時間、温度、反応圧力、混合物Aに加えられる重力加速度等の混合条件は、混合物Aの種類や処理量によって適宜決定することができる。一般的には、回転速度が速いほど、ガラスの生成速度は速くなり、処理時間が長いほどガラスヘの転化率は高くなる。
通常は、線源としてCuKα線を用いたX線回折分析をしたとき、混合物A中の原料由来の回折ピークが消失または低下していたら、上記混合物Aはガラス化され、所望のLi−P−O−N系無機固体電解質材料が得られていると判断することができる。
【0041】
ここで、混合物Aをガラス化する工程では、線源としてCuKα線を用いたX線回折により得られるスペクトルにおいて回折角2θ=15.0±0.1°の位置における最大回折強度をバックグラウンド強度Iとし、回折角2θ=33.0±0.5°の位置に存在する回折ピークの回折強度をIとしたとき、I/Iの値が好ましくは50以下、より好ましくは30以下、さらに好ましくは20以下、特に好ましくは15以下となるまでガラス化処理をおこなうことが好ましい。
/Iを上記上限値以下とすることにより、Li−P−O−N系無機固体電解質材料のリチウムイオン伝導性をより向上させることができる。さらに、このようなLi−P−O−N系無機固体電解質材料を用いると、入出力特性により一層優れたリチウムイオン電池を得ることができる。
ここで、回折角2θ=15.0±0.1°の位置における最大回折強度Iは、基準の回折強度であり、回折角2θ=33.0±0.5°の位置に存在する回折ピークはリン酸リチウム由来の回折ピークである。
したがって、I/Iは、Li−P−O−N系無機固体電解質材料中のリン酸リチウムの含有量の指標を表している。I/Iが小さいほど、ガラス化が進み、原料であるリン酸リチウムの量が少ないことを意味する。
リン酸リチウムはリチウムイオン伝導性が低いため、リン酸リチウムの含有量が少ないほどLi−P−O−N系無機固体電解質材料のリチウムイオン伝導性は向上するものと考えられる。
また、I/Iは小さければ小さいほど好ましいため下限値は特に限定されないが、例えば0.01以上である。
【0042】
また、混合物Aをガラス化する工程では、27.0℃、印加電圧10mV、測定周波数域0.1Hz〜7MHzの測定条件における交流インピーダンス法によるLi−P−O−N系無機固体電解質材料のリチウムイオン伝導度が、好ましくは1.5×10−10S・cm−1以上、より好ましくは1.0×10−9S・cm−1以上、さらに好ましくは1.0×10−8S・cm−1以上、さらにより好ましくは1.0×10−7S・cm−1以上、さらにより好ましくは1.0×10−6S・cm−1以上、さらにより好ましくは2.0×10−6S・cm−1以上、特に好ましくは1.0×10−5S・cm−1以上となるまでガラス化処理をおこなうことが好ましい。これにより、リチウムイオン伝導性により一層優れたLi−P−O−N系無機固体電解質材料を得ることができる。
【0043】
また、本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料の製造方法において、混合物Aをガラス化する工程の前、上記混合物Aを加熱することにより混合物Aを結晶化する工程をさらにおこなうことが好ましい。
すなわち、結晶化した混合物Aに対し、上記ガラス化工程をおこなうことが好ましい。
混合物Aのガラス化工程の前に混合物Aの結晶化工程をおこなうことにより、混合物Aのガラス化工程を大幅に短縮することができ、その結果、Li−P−O−N系無機固体電解質材料の製造時間をより一層短縮することが可能である。
【0044】
上記混合物Aを加熱する際の温度としては特に限定されず、生成させるLi−P−O−N系無機固体電解質材料に応じて適宜設定することができる。
例えば、加熱温度は200℃以上400℃以下の範囲内であることが好ましく、220℃以上300℃以下の範囲内であることがより好ましい。
【0045】
上記混合物Aを加熱する時間は、上記混合物Aを結晶化できる時間であれば特に限定されるものではないが、例えば、1分間以上24時間以下の範囲内であり、好ましくは0.1時間以上10時間以下である。加熱の方法は特に限定されるものではないが、例えば、焼成炉を用いる方法を挙げることができる。なお、このような加熱する際の温度、時間等の条件は、本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料の特性を最適なものにするため適宜調整することができる。
【0046】
また、上記混合物Aが結晶化したかどうかは、例えば、線源としてCuKα線を用いたX線回折により得られるスペクトルにおいて、新たな結晶ピークが生成したか否かで判断することができる。
【0047】
また、得られたガラス状態Li−P−O−N系無機固体電解質材料を加熱することにより、上記Li−P−O−N系無機固体電解質材料の少なくとも一部を結晶化して、ガラスセラミックス状態のLi−P−O−N系無機固体電解質材料としてもよい。
ガラス状態のLi−P−O−N系無機固体電解質材料を加熱する際の温度としては、200℃以上500℃以下の範囲内であることが好ましく、220℃以上350℃以下の範囲内であることがより好ましい。
ガラス状態のLi−P−O−N系無機固体電解質材料を加熱する時間は、所望のLi−P−O−N系無機固体電解質材料が得られる時間であれば特に限定されるものではないが、例えば、1分間以上24時間以下の範囲内であり、好ましくは0.5時間以上3時間以下である。加熱の方法は特に限定されるものではないが、例えば、焼成炉を用いる方法を挙げることができる。なお、このような加熱する際の温度、時間等の条件は、本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料の特性を最適なものにするため適宜調整することができる。
【0048】
また、ガラス状態のLi−P−O−N系無機固体電解質材料の加熱は、例えば、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。これにより、Li−P−O−N系無機固体電解質材料の劣化を防止することができる。
ガラス状態のLi−P−O−N系無機固体電解質材料を加熱するときの不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等が挙げられる。これらの不活性ガスは、製品への不純物の混入を防止するために、高純度である程好ましく、また、水分の接触を避けるために、露点が−50℃以下であることが好ましく、−60℃以下であることが特に好ましい。混合系への不活性ガスの導入方法としては、混合系内が不活性ガス雰囲気で満たされる方法であれば特に限定されないが、不活性ガスをパージする方法、不活性ガスを一定量導入し続ける方法等が挙げられる。
【0049】
本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料の製造方法では、必要に応じて、得られたLi−P−O−N系無機固体電解質材料を粉砕、分級、または造粒する工程をさらにおこなってもよい。例えば、粉砕により微粒子化し、その後、分級操作や造粒操作によって粒子径を調整することにより、所望の粒子径を有するLi−P−O−N系無機固体電解質材料を得ることができる。上記粉砕方法としては特に限定されず、ミキサー、気流粉砕、乳鉢、回転ミル、コーヒーミル等公知の粉砕方法を用いることができる。また、上記分級方法としては特に限定されず、篩等公知の方法を用いることができる。
これらの粉砕または分級は、空気中の水分との接触を防ぐことができる点から、不活性ガス雰囲気下または真空雰囲気下で行うことが好ましい。
【0050】
本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料を得るためには、上記の各工程を適切に調整することが重要である。ただし、本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料の製造方法は、上記のような方法には限定されず、種々の条件を適切に調整することにより、本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料を得ることができる。
【0051】
[固体電解質]
つぎに、本実施形態に係る固体電解質について説明する。本実施形態に係る固体電解質は、本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料を含む。
そして、本実施形態に係る固体電解質は特に限定されないが、本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料以外の成分として、例えば、本発明の目的を損なわない範囲内で、上述した本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料とは異なる種類の固体電解質材料を含んでもよい。
【0052】
本実施形態に係る固体電解質は上述した本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料とは異なる種類の固体電解質材料を含んでいてもよい。本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料とは異なる種類の固体電解質材料としては、イオン伝導性および絶縁性を有するものであれば特に限定されないが、一般的にリチウムイオン電池に用いられるものを用いることができる。例えば、硫化物系無機固体電解質材料、酸化物系無機固体電解質材料、その他のリチウム系無機固体電解質材料等の無機固体電解質材料;ポリマー電解質等の有機固体電解質材料を挙げることができる。
【0053】
硫化物系無機固体電解質材料としては、例えば、LiS−P材料、LiS−SiS材料、LiS−GeS材料、LiS−Al材料、LiS−SiS−LiPO材料、LiS−P−GeS材料、LiS−LiO−P−SiS材料、LiS−GeS−P−SiS材料、LiS−SnS−P−SiS材料、LiS−P−LiN材料、Li2+X−P材料、LiS−P−P材料等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
これらの中でも、リチウムイオン伝導性に優れ、かつ広い電圧範囲で分解等を起こさない安定性を有する点から、LiS−P材料が好ましい。ここで、例えば、LiS−P材料とは、少なくともLiS(硫化リチウム)とPとを含む無機組成物を機械的処理により互いに化学反応させることにより得られる無機材料を意味する。
ここで、本実施形態において、硫化リチウムには多硫化リチウムも含まれる。
【0054】
上記酸化物系無機固体電解質材料としては、例えば、LiTi(PO、LiZr(PO、LiGe(PO等のNASICON型、(La0.5+xLi0.5−3x)TiO等のペロブスカイト型、LiO−P材料、LiO−P−LiN材料等が挙げられる。
その他のリチウム系無機固体電解質材料としては、例えば、LiPON、LiNbO、LiTaO、LiPO、LiPO4−x(xは0<x≦1)、LiN、LiI、LISICON等が挙げられる。
さらに、これらの無機固体電解質の結晶を析出させて得られるガラスセラミックスも無機固体電解質材料として用いることができる。
【0055】
上記有機固体電解質材料としては、例えば、ドライポリマー電解質、ゲル電解質等のポリマー電解質を用いることができる。
ポリマー電解質としては、一般的にリチウムイオン電池に用いられるものを用いることができる。
【0056】
[固体電解質膜]
次に、本実施形態に係る固体電解質膜について説明する。
本実施形態に係る固体電解質膜は、前述した本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料を含む固体電解質を主成分として含む。
【0057】
本実施形態に係る固体電解質膜は、例えば、全固体型リチウムイオン電池を構成する固体電解質層に用いられる。
本実施形態に係る固体電解質膜を適用した全固体型リチウムイオン電池の例としては、正極と、固体電解質層と、負極とがこの順番に積層されたものが挙げられる。この場合、固体電解質層が固体電解質膜により構成されたものである。
【0058】
本実施形態に係る固体電解質膜の平均厚みは、好ましくは5μm以上500μm以下であり、より好ましくは10μm以上200μm以下であり、さらに好ましくは20μm以上100μm以下である。上記固体電解質膜の平均厚みが上記下限値以上であると、固体電解質の欠落や、固体電解質膜表面のクラックの発生をより一層抑制できる。また、上記固体電解質膜の平均厚みが上記上限値以下であると、固体電解質膜のインピーダンスをより一層低下させることができる。その結果、得られる全固体型リチウムイオン電池の電池特性をより一層向上できる。
【0059】
本実施形態に係る固体電解質膜は、前述した本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料を含む粒子状の固体電解質の加圧成形体であることが好ましい。すなわち、粒子状の固体電解質を加圧し、固体電解質材料同士のアンカー効果で一定の強度を有する固体電解質膜とすることが好ましい。
加圧成形体とすることにより、固体電解質同士の結合が起こり、得られる固体電解質膜の強度はより一層高くなる。その結果、固体電解質の欠落や、固体電解質膜表面のクラックの発生をより一層抑制できる。
【0060】
本実施形態に係る固体電解質膜中の上記した本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料の含有量は、固体電解質膜の全体を100質量%としたとき、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、さらにより好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。これにより、固体電解質間の接触性が改善され、固体電解質膜の界面接触抵抗を低下させることができる。その結果、固体電解質膜のリチウムイオン伝導性をより一層向上させることができる。そして、このようなリチウムイオン伝導性に優れた固体電解質膜を用いることにより、得られる全固体型リチウムイオン電池の電池特性をより一層向上できる。
本実施形態に係る固体電解質膜中の上記した本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料の含有量の上限は特に限定されないが、例えば、100質量%以下である。
【0061】
固体電解質膜の平面形状は、特に限定されず、電極や集電体の形状に合わせて適宜選択することが可能であるが、例えば、矩形とすることができる。
【0062】
また、本実施形態に係る固体電解質膜にはバインダー樹脂が含まれてもよいが、バインダー樹脂の含有量は、固体電解質膜の全体を100質量%としたとき、好ましくは0.5質量%未満、より好ましくは0.1質量%以下、さらに好ましくは0.05質量%以下、さらにより好ましくは0.01質量%以下である。また、本実施形態に係る固体電解質膜は、バインダー樹脂を実質的に含まないことがさらにより好ましく、バインダー樹脂を含まないことが最も好ましい。
これにより、固体電解質間の接触性が改善され、固体電解質膜の界面接触抵抗を低下させることができる。その結果、固体電解質膜のリチウムイオン伝導性をより一層向上させることができる。そして、このようなリチウムイオン伝導性に優れた固体電解質膜を用いることにより、得られる全固体型リチウムイオン電池の電池特性を向上できる。
なお、「バインダー樹脂を実質的に含まない」とは、本実施形態の効果が損なわれない程度には含有してもよいことを意味する。また、固体電解質層と正極または負極との間に粘着性樹脂層を設ける場合、固体電解質層と粘着性樹脂層との界面近傍に存在する粘着性樹脂層由来の粘着性樹脂は、「固体電解質膜中のバインダー樹脂」から除かれる。
【0063】
上記バインダー樹脂とは無機固体電解質材料間を結着させるために、リチウムイオン電池に一般的に使用される結着剤のことをいい、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、スチレン・ブタジエン系ゴム、ポリイミド等が挙げられる。
【0064】
本実施形態に係る固体電解質膜は、例えば、粒子状の固体電解質を金型のキャビティ表面上または基材表面上に膜状に堆積させ、次いで、膜状に堆積した固体電解質を加圧することにより得ることができる。
上記固体電解質を加圧する方法は特に限定されず、例えば、金型のキャビティ表面上に粒子状の固体電解質を堆積させた場合は金型と押し型によるプレス、粒子状の固体電解質を基材表面上に堆積させた場合は金型と押し型によるプレスやロールプレス、平板プレス等を用いることができる。
固体電解質を加圧する圧力は、例えば、10MPa以上500MPa以下である。
【0065】
また、必要に応じて、膜状に堆積した無機固体電解質を加圧するとともに加熱してもよい。加熱加圧を行えば固体電解質同士の融着・結合が起こり、得られる固体電解質膜の強度はより一層高くなる。その結果、固体電解質の欠落や、固体電解質膜表面のクラックの発生をより一層抑制できる。
固体電解質を加熱する温度は、例えば、40℃以上500℃以下である。
【0066】
[リチウムイオン電池]
図1は、本発明に係る実施形態のリチウムイオン電池100の構造の一例を示す断面図である。
本実施形態に係るリチウムイオン電池100は、例えば、正極活物質層101を含む正極110と、電解質層120と、負極活物質層103を含む負極130とを備えている。そして、正極活物質層101、負極活物質層103および電解質層120の少なくとも一つが、本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料を含有する。また、正極活物質層101、負極活物質層103および電解質層120のすべてが、本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料を含有していることが好ましい。なお、本実施形態では特に断りがなければ、正極活物質を含む層を正極活物質層101と呼び、集電体105上に正極活物質層101を形成させたものを正極110と呼ぶ。また、負極活物質を含む層を負極活物質層103と呼び、集電体105上に負極活物質層103を形成させたものを負極130と呼ぶ。なお、正極110および負極130は、必要に応じて集電体105を含んでもよいし、集電体105を含まなくてもよい。
本実施形態に係るリチウムイオン電池100の形状は特に限定されず、円筒型、コイン型、角型、フィルム型その他任意の形状が挙げられる。
【0067】
本実施形態に係るリチウムイオン電池100は、一般的に公知の方法に準じて製造される。例えば、正極110、電解質層120および負極130を重ねたものを、円筒型、コイン型、角型、フィルム型その他任意の形状に形成し、必要に応じて、非水電解液を封入することにより作製される。
【0068】
(正極)
正極110は特に限定されず、リチウムイオン電池に一般的に用いられているものを使用することができる。正極110は特に限定されないが、一般的に公知の方法に準じて製造することができる。例えば、正極活物質を含む正極活物質層101をアルミ箔等の集電体105の表面に形成することにより得ることができる。
正極活物質層101の厚みや密度は、電池の使用用途等に応じて適宜決定されるため特に限定されず、一般的に公知の情報に準じて設定することができる。
【0069】
正極活物質層101は正極活物質を含む。
正極活物質としては特に限定されず一般的に公知のものを使用することができる。例えば、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)、リチウムニッケル酸化物(LiNiO)、リチウムマンガン酸化物(LiMn)、固溶体酸化物(LiMnO−LiMO(M=Co、Ni等))、リチウム−マンガン−ニッケル酸化物(LiNi1/3Mn1/3Co1/3)、オリビン型リチウムリン酸化物(LiFePO)等の複合酸化物;ポリアニリン、ポリピロール等の導電性高分子;LiS、CuS、Li−Cu−S化合物、TiS、FeS、MoS、Li−Mo−S化合物、Li−Ti−S化合物、Li−V−S化合物、Li−Fe−S化合物等の硫化物系正極活物質;硫黄を含浸したアセチレンブラック、硫黄を含浸した多孔質炭素、硫黄と炭素の混合粉等の硫黄を活物質とした材料;等を用いることができる。これらの正極活物質は1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
これらの中でも、より高い放電容量密度を有し、かつ、サイクル特性により優れる観点から、硫化物系正極活物質が好ましく、Li−Mo−S化合物、Li−Ti−S化合物、Li−V−S化合物から選択される一種または二種以上がより好ましい。
【0070】
ここで、Li−Mo−S化合物は構成元素としてLi、Mo、およびSを含んでいるものであり、通常は原料であるモリブデン硫化物および硫化リチウムを含む無機組成物を機械的処理により互いに化学反応させることにより得ることができる。
また、Li−Ti−S化合物は構成元素としてLi、Ti、およびSを含んでいるものであり、通常は原料であるチタン硫化物および硫化リチウムを含む無機組成物を機械的処理により互いに化学反応させることにより得ることができる。
Li−V−S化合物は構成元素としてLi、V、およびSを含んでいるものであり、通常は原料であるバナジウム硫化物および硫化リチウムを含む無機組成物を機械的処理により互いに化学反応させることにより得ることができる。
【0071】
正極活物質層101は特に限定されないが、上記正極活物質以外の成分として、例えば、バインダー樹脂、増粘剤、導電助剤、固体電解質材料等から選択される1種以上の材料を含んでもよい。以下、各材料について説明する。
【0072】
正極活物質層101は、正極活物質同士および正極活物質と集電体105とを結着させる役割をもつバインダー樹脂を含んでもよい。
本実施形態のバインダー樹脂はリチウムイオン電池に使用可能な通常のバインダー樹脂であれば特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、スチレン・ブタジエン系ゴム、ポリイミド等が挙げられる。これらのバインダーは一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
正極活物質層101は、塗布に適したスラリーの流動性を確保する点から、増粘剤を含んでもよい。増粘剤としてはリチウムイオン電池に使用可能な通常の増粘剤であれば特に限定されないが、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系ポリマーおよびこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩、ポリカルボン酸、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコール等の水溶性ポリマー等が挙げられる。これらの増粘剤は一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
正極活物質層101は、正極110の導電性を向上させる観点から、導電助剤を含んでもよい。導電助剤としてはリチウムイオン電池に使用可能な通常の導電助剤であれば特に限定されないが、例えば、アセチレンブラック、ケチェンブラック等のカーボンブラック、気相法炭素繊維等の炭素材料が挙げられる。
【0075】
本実施形態に係る正極は上述した本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料を含む固体電解質を含んでいてもよいし、本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料とは異なる種類の固体電解質材料を含む固体電解質を含んでいてもよい。本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料とは異なる種類の固体電解質材料としては、イオン伝導性および絶縁性を有するものであれば特に限定されないが、一般的にリチウムイオン電池に用いられるものを用いることができる。例えば、硫化物系無機固体電解質材料、酸化物系無機固体電解質材料、その他のリチウム系無機固体電解質材料等の無機固体電解質材料;ポリマー電解質等の有機固体電解質材料を挙げることができる。より具体的には、本実施形態に係る固体電解質の説明で挙げた無機固体電解質材料を用いることができる。
【0076】
正極活物質層101中の各種材料の配合割合は、電池の使用用途等に応じて、適宜決定されるため特に限定されず、一般的に公知の情報に準じて設定することができる。
【0077】
(負極)
負極130は特に限定されず、リチウムイオン電池に一般的に用いられているものを使用することができる。負極130は特に限定されないが、一般的に公知の方法に準じて製造することができる。例えば、負極活物質を含む負極活物質層103を銅等の集電体105の表面に形成することにより得ることができる。
負極活物質層103の厚みや密度は、電池の使用用途等に応じて適宜決定されるため特に限定されず、一般的に公知の情報に準じて設定することができる。
【0078】
負極活物質層103は負極活物質を含む。
上記負極活物質としては、リチウムイオン電池の負極に使用可能な通常の負極活物質であれば特に限定されないが、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、樹脂炭、炭素繊維、活性炭、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素質材料;リチウム、リチウム合金、スズ、スズ合金、シリコン、シリコン合金、ガリウム、ガリウム合金、インジウム、インジウム合金、アルミニウム、アルミニウム合金等を主体とした金属系材料;ポリアセン、ポリアセチレン、ポリピロール等の導電性ポリマー;リチウムチタン複合酸化物(例えばLiTi12)等が挙げられる。これらの負極活物質は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0079】
負極活物質層103は特に限定されないが、上記負極活物質以外の成分として、例えば、バインダー樹脂、増粘剤、導電助剤、固体電解質材料等から選択される1種以上の材料を含んでもよい。これらの材料としては、特に限定はされないが、例えば、上述した正極110に用いる材料と同様のものを挙げることができる。
負極活物質層103中の各種材料の配合割合は、電池の使用用途等に応じて、適宜決定されるため特に限定されず、一般的に公知の情報に準じて設定することができる。
【0080】
(電解質層)
次に、電解質層120について説明する。電解質層120は、正極活物質層101および負極活物質層103の間に形成される層である。
電解質層120とは、セパレーターに非水電解液を含浸させたものや、固体電解質を含む固体電解質層が挙げられる。
【0081】
本実施形態のセパレーターとしては正極110と負極130を電気的に絶縁させ、リチウムイオンを透過する機能を有するものであれば特に限定されないが、例えば、多孔性膜を用いることができる。
【0082】
多孔性膜としては微多孔性高分子フィルムが好適に使用され、材質としてポリオレフィン、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステル等が挙げられる。特に、多孔性ポリオレフィンフィルムが好ましく、具体的には多孔性ポリエチレンフィルム、多孔性ポリプロピレンフィルム等が挙げられる。
【0083】
上記非水電解液とは、電解質を溶媒に溶解させたものである。
上記電解質としては、公知のリチウム塩がいずれも使用でき、活物質の種類に応じて選択すればよい。例えば、LiClO、LiBF、LiPF、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiB10Cl10、LiAlCl、LiCl、LiBr、LiB(C、CFSOLi、CH SOLi、LiCFSO、LiCSO、Li(CFSON、低級脂肪酸カルボン酸リチウム等が挙げられる。
【0084】
上記電解質を溶解する溶媒としては、電解質を溶解させる液体として通常用いられるものであれば特に限定されず、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ビニレンカーボネート(VC)等のカーボネート類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等のラクトン類;トリメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2−エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等のエーテル類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン等のオキソラン類;アセトニトリル、ニトロメタン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド等の含窒素類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等の有機酸エステル類;リン酸トリエステルやジグライム類;トリグライム類;スルホラン、メチルスルホラン等のスルホラン類;3−メチル−2−オキサゾリジノン等のオキサゾリジノン類;1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、ナフタスルトン等のスルトン類;等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0085】
本実施形態に係る固体電解質層は、正極活物質層101および負極活物質層103の間に形成される層であり、固体電解質材料を含む固体電解質により形成される層である。固体電解質層に含まれる固体電解質は、リチウムイオン伝導性を有するものであれば特に限定されるものではないが、本実施形態においては、本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料を含む固体電解質であることが好ましい。
本実施形態の固体電解質層における固体電解質の含有量は、所望の絶縁性が得られる割合であれば特に限定されるものではないが、例えば、10体積%以上100体積%以下の範囲内、中でも、50体積%以上100体積%以下の範囲内であることが好ましい。特に、本実施形態においては、固体電解質層が本実施形態に係るLi−P−O−N系無機固体電解質材料を含む固体電解質のみから構成されていることが好ましい。
【0086】
また、本実施形態の固体電解質層は、バインダー樹脂を含有していてもよい。バインダー樹脂を含有することにより、可撓性を有する固体電解質層を得ることができる。バインダー樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素含有結着材を挙げることができる。固体電解質層の厚さは、例えば、0.1μm以上1000μm以下の範囲内、中でも、0.1μm以上300μm以下の範囲内であることが好ましい。
【0087】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
以下、参考形態を付記する。
[1]
リチウムイオン伝導性を有し、かつ、構成元素としてLi、P、OおよびNを含む粒子状のLi−P−O−N系無機固体電解質材料であって、
当該Li−P−O−N系無機固体電解質材料中の上記Pの含有量に対する上記Liの含有量のモル比(Li/P)が3.5以上100.0以下であり、上記Pの含有量に対する上記Oの含有量のモル比(O/P)が2.0以上6.0以下であり、上記Pの含有量に対する上記Nの含有量のモル比(N/P)が0.1以上31.0以下であるLi−P−O−N系無機固体電解質材料。
[2]
上記[1]に記載のLi−P−O−N系無機固体電解質材料において、
線源としてCuKα線を用いたX線回折により得られるスペクトルにおいて回折角2θ=15.0±0.1°の位置における最大回折強度をバックグラウンド強度Iとし、回折角2θ=33.0±0.5°の位置に存在する回折ピークの回折強度をIとしたとき、I/Iの値が50以下であるLi−P−O−N系無機固体電解質材料。
[3]
上記[1]または[2]に記載のLi−P−O−N系無機固体電解質材料において、
線源としてCuKα線を用いたX線回折により得られるスペクトルにおいて回折角2θ=32.0±0.4°の位置に回折ピークを有するLi−P−O−N系無機固体電解質材料。
[4]
上記[3]に記載のLi−P−O−N系無機固体電解質材料において、
線源としてCuKα線を用いたX線回折により得られるスペクトルにおいて回折角2θ=15.0±0.1°の位置における最大回折強度をバックグラウンド強度Iとし、回折角2θ=32.0±0.4°の位置に存在する上記回折ピークの回折強度をIとしたとき、I/Iの値が2.0以上であるLi−P−O−N系無機固体電解質材料。
[5]
上記[1]乃至[4]のいずれか一つに記載のLi−P−O−N系無機固体電解質材料において、
構成元素としてSを含まないLi−P−O−N系無機固体電解質材料。
[6]
上記[1]乃至5のいずれか一つに記載のLi−P−O−N系無機固体電解質材料において、
温度25℃、掃引電圧範囲0〜5V、電圧掃引速度5mV/秒の条件で測定される、上記Li−P−O−N系無機固体電解質材料の酸化分解電流の最大値が0.50μA以下であるLi−P−O−N系無機固体電解質材料。
[7]
上記[1]乃至[6]のいずれか一つに記載のLi−P−O−N系無機固体電解質材料において、
レーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における、上記Li−P−O−N系無機固体電解質材料の平均粒子径d50が1μm以上50μm以下であるLi−P−O−N系無機固体電解質材料。
[8]
上記[1]乃至[7]のいずれか一つに記載のLi−P−O−N系無機固体電解質材料において、
リチウムイオン電池に用いられるLi−P−O−N系無機固体電解質材料。
[9]
上記[1]乃至[8]のいずれか一つに記載のLi−P−O−N系無機固体電解質材料において、
27.0℃、印加電圧10mV、測定周波数域0.1Hz〜7MHzの測定条件における交流インピーダンス法による上記Li−P−O−N系無機固体電解質材料のリチウムイオン伝導度が1.5×10−10S・cm−1以上であるLi−P−O−N系無機固体電解質材料。
[10]
上記[1]乃至[9]のいずれか一つに記載のLi−P−O−N系無機固体電解質材料において、
粒子状の上記Li−P−O−N系無機固体電解質材150mgを270MPaの圧力で直径9.5mmのペレットに加圧成形したとき、
上記Li−P−O−N系無機固体電解質材料からなる上記ペレットの密度が1.00g/cm超過1.70g/cm以下であるLi−P−O−N系無機固体電解質材料。
[11]
上記[1]乃至[10]のいずれか一つに記載のLi−P−O−N系無機固体電解質材料を含む固体電解質。
[12]
上記[11]に記載の固体電解質を主成分として含む固体電解質膜。
[13]
上記[12]に記載の固体電解質膜において、
粒子状の上記固体電解質の加圧成形体である固体電解質膜。
[14]
上記[12]または[13]に記載の固体電解質膜において、
当該固体電解質膜中のバインダー樹脂の含有量が、上記固体電解質膜の全体を100質量%としたとき、0.5質量%未満である固体電解質膜。
[15]
上記[12]乃至[14]のいずれか一つに記載の固体電解質膜において、
当該固体電解質膜中の上記Li−P−O−N系無機固体電解質材料の含有量が、上記固体電解質膜の全体を100質量%としたとき、50質量%以上である固体電解質膜。
[16]
正極活物質層を含む正極と、電解質層と、負極活物質層を含む負極とを備えたリチウムイオン電池であって、
上記正極活物質層、上記電解質層および上記負極活物質層のうち少なくとも一つが、上記[1]乃至[10]のいずれか一つに記載のLi−P−O−N系無機固体電解質材料を含むリチウムイオン電池。
[17]
上記[1]乃至[10]のいずれか一つに記載のLi−P−O−N系無機固体電解質材料を製造するための製造方法であって、
リン酸リチウムおよび窒化リチウムを含む混合物Aをガラス化する工程を含むLi−P−O−N系無機固体電解質材料の製造方法。
[18]
上記[17]に記載のLi−P−O−N系無機固体電解質材料の製造方法において、
上記混合物Aをガラス化する上記工程では、
上記混合物Aをメカニカルミリング処理することによりガラス化するLi−P−O−N系無機固体電解質材料の製造方法。
【実施例】
【0088】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0089】
[1]測定方法
はじめに、以下の実施例、比較例における測定方法を説明する。
【0090】
(1)粒度分布
レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(マルバーン社製、マスターサイザー3000)を用いて、レーザー回折法により、実施例および比較例で使用した無機固体電解質材料の粒度分布を測定した。測定結果から、無機固体電解質材料について、重量基準の累積分布における50%累積時の粒径(D50、平均粒子径)を求めた。
【0091】
(2)組成比率の測定
ICP発光分光分析装置(セイコーインスツルメント社製、SPS3000)を用いて、ICP発光分光分析法により測定し、実施例および比較例で得られた無機固体電解質材料中のLi、PおよびOの質量%をそれぞれ求め、それに基づいて、各元素のモル比をそれぞれ計算した。また、Nは、エネルギー分散型X線分析(EDX)を用いた半定量分析から、仕込みのNのほぼ全量が材料中に残留していることが確認されたため、仕込みの量を用いた。
【0092】
(3)X線回折分析
X線回折装置(リガク社製、RINT2000)を用いて、X線回折分析法により、実施例および比較例で得られた無機固体電解質材料の回折スペクトルをそれぞれ求めた。なお、線源としてCuKα線を用いた。ここで、回折角2θ=15.0±0.1°の位置における最大回折強度をバックグラウンド強度Iとし、回折角2θ=33.0±0.5°の位置に存在する回折ピークの回折強度をIとし、回折角2θ=32.0±0.4°の位置に存在する回折ピークの回折強度をIとし、I/IおよびI/Iをそれぞれ求めた。
【0093】
(4)リチウムイオン伝導度の測定
実施例および比較例で得られた無機固体電解質材料に対して、交流インピーダンス法によるリチウムイオン伝導度の測定をおこなった。
リチウムイオン伝導度の測定はバイオロジック社製、ポテンショスタット/ガルバノスタットSP−300を用いた。試料の大きさは直径9.5mm、厚さ1.2〜2.0mm、測定条件は、印加電圧10mV、測定温度27.0℃、測定周波数域0.1Hz〜7MHz、電極はLi箔とした。
ここで、リチウムイオン伝導度測定用の試料としては、プレス装置を用いて、実施例および比較例で得られた粉末状の無機固体電解質材料150mgを270MPa、10分間プレスして得られる直径9.5mm、厚さ1.2〜2.0mmの板状の無機固体電解質材料を用いた。
【0094】
(5)酸化分解電流の最大値の測定
プレス装置を用いて、実施例および比較例で得られた粉末状の無機固体電解質材料120〜150mgを270MPa、10分間プレスして直径9.5mm、厚さ1.3mmの板状の無機固体電解質材料(ペレット)を得た。次いで、得られたペレットの一方の面に参照極・対極としてLi箔を、18MPa、10分間の条件でプレス圧着し、もう一方の面に作用極としてSUS314箔を密着した。
次いで、バイオロジック社製、ポテンショスタット/ガルバノスタットSP−300を用いて、温度25℃、掃引電圧範囲0〜5V、電圧掃引速度5mV/秒の条件で、無機固体電解質材料の酸化分解電流の最大値を求めた。
【0095】
(6)密度の測定
プレス装置を用いて、実施例および比較例で得られた粉末状の無機固体電解質材料150mgを270MPa、10分間プレスして直径9.5mm、厚さ1.2〜2.0mmの板状の無機固体電解質材料(ペレット)を得た。次いで、得られたペレットの質量(g)を、ペレットの外形寸法から求められる体積(cm)で割ることにより密度を算出した。
【0096】
[2]無機固体電解質材料の製造
<実施例1>
Li−P−O−N系無機固体電解質材料を以下の手順で作製した。
原料には、LiPO(和光純薬社製)およびLiNを使用した。LiN(α型およびβ型の混合物)は、以下の手順で作製した。
まず、窒素雰囲気のグローブボックス中で、Li箔(本城金属社製、純度99.8%、厚さ0.5mm)にステンレス製の剣山を使用しφ1mm以下の穴を多数開けた。Li箔は穴の部分から黒紫色に変化し始め、そのまま、常温で24時間放置することでLi箔すべてが黒紫色のLiNに変化した。LiNは、メノウ乳鉢で粉砕後、ステンレス製篩で篩い分けし、75μm以下の粉末を回収し固体電解質材料の原料とした。
つづいて、アルゴングローブボックス中でLi/P、O/PおよびN/Pが表1に示す値になるように各原料(LiPOおよびLiN)を精秤し、これら粉末を10分間メノウ乳鉢で混合した。次いで、混合粉末2gを秤量し、φ10mmのジルコニア製ボール18個とともに、アルミナ製ポット(内容積45mL)に入れ、遊星ボールミル(自転800rpm、公転400rpm)で15時間粉砕混合した。次いで、ポット内壁やボールについた粉砕混合後の粉末を掻き取りした後、再度同じポットに粉末をボールと共に入れ遊星ボールミル(自転800rpm、公転400rpm)で15時間粉砕混合し、Li−P−O−N系無機固体電解質材料を得た。
得られたLi−P−O−N系無機固体電解質材料について各評価をおこなった。得られた結果を表1に示す。
【0097】
<実施例2〜12>
Li/P、O/PおよびN/Pが表1に示す値になるように各原料(LiPOおよびLiN)の比率を変更した以外は実施例1と同様にしてLi−P−O−N系無機固体電解質材料をそれぞれ作製し、各評価をそれぞれおこなった。得られた結果を表1にそれぞれ示す。
【0098】
<比較例1>
原料としてLiNを使用しない以外は実施例1と同様にして無機固体電解質材料を作製し、各評価をおこなった。得られた結果を表1に示す。
【0099】
<比較例2>
原料としてLiPOを使用しない以外は実施例1と同様にして無機固体電解質材料を作製し、各評価をおこなった。得られた結果を表1に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
実施例1〜12のLi−P−O−N系無機固体電解質材料はリチウムイオン伝導性および電気化学的安定性に優れていた。また、実施例1〜12のLi−P−O−N系無機固体電解質材料は、X線回折スペクトル(図2)に示すように原料であるLiPOおよびLiN由来の回折ピークが減少または消失していることから、ガラス化が進行していることが確認できた。
ここで、図2および図3において、参考データとしてLiN(α型およびβ型)およびLiPOのガラス化処理前の状態のX線回折スペクトル(International Centre for Diffraction Dataデーターベースから抜粋)と、Li2.88PO3.730.14のスパッタリング膜のX線回折スペクトル(International Centre for Diffraction Dataデーターベースから抜粋)とをそれぞれ示す。
これに対し、比較例1の無機固体電解質材料はリチウムイオン伝導性に劣っていた。また、比較例2の無機固体電解質材料はリチウムイオン伝導性に優れていたものの酸化分解電流の最大値が高く、また分解開始温度が0.75Vと低く電気化学的安定性に劣り、実用的ではなかった。
【符号の説明】
【0102】
100 リチウムイオン電池
101 正極活物質層
103 負極活物質層
105 集電体
110 正極
120 電解質層
130 負極
図1
図2
図3