【文献】
Applied Microbiology and Biotechnology,2007年,Vol.74,p.981-986
【文献】
Journal of Bioscience and Bioengineering,2012年,Vol.113, No.4,p.456-460
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の製造方法を説明する。尚、以下に好適な実施例を記すが、これら実施例はそれぞれ、本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0016】
〔3HB製造方法〕
ハロモナス属に属する好塩菌を培養して、3HB又はその塩を生産する場合に、ハロモナス属に属する好塩菌用の培地に含有させる有機炭素源として二糖類を用いる。
【0017】
具体的には以下の工程に従って、培養を行う。
(1)ハロモナス属に属する好塩菌を、有機炭素源及び無機塩を含有する培地中で好気培養する工程1、
(2)培地のpH7以上に調整及び維持し、培地中に3HB又はその塩を産生させる工程2、及び
(3)工程2で得られる培地から、3HB又はその塩を回収する工程3。
【0018】
本発明に係る製造方法によって製造される3HB又はその塩とは、生体内にて通常の光学活性を持った化合物であり、D体である。
【0019】
また、3HBの塩とは、製造時に使用するハロモナス属に属する好塩菌の培地中に含まれる成分に由来する陽イオン及び/又は菌体内に存在する陽イオンによって形成される塩であり、特に限定はされないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、コバルト塩、亜鉛塩、鉄塩、銅塩、モリブデン塩、アンモニウム塩、リチウム塩、銀塩、水銀塩、ストロンチウム塩、バリウム塩、カドミウム塩、ニッケル塩、スズ塩、鉛塩、マンガン塩、アルミニウム塩等が挙げられる。
【0020】
工程1について
本発明に係る製造方法における工程1は、ハロモナス属に属する好塩菌を、有機炭素源及び無機塩を含有する培地中で好気培養する工程である。
【0021】
<A:好塩菌>
本発明の製造方法の工程1にて用いる好塩菌は、下記の(i)又は(ii)のいずれかによって示されるハロモナス属に属する好塩菌を用いればよい。
(i)無機塩と単一若しくは複数の有機炭素源を含む培地にて好気的に増殖し、3HB又はその塩を菌体外の培地中に生産させることを特徴とする好塩菌。
(ii)無機塩と単一若しくは複数の有機炭素源を含む培地にて好気的に増殖し、PHBを自らの菌体内にて蓄積した後、pHを調整することで、3HB又はその塩を菌体外の培地に分泌産生することを特徴とする好塩菌。
【0022】
「無機塩」及び「有機炭素源」については、<培地>の欄にて後述する通りにすることができる。
【0023】
上述のハロモナス属に属する好塩菌は、0.1〜1.0Mの塩濃度を適とする好塩性を有し、時には塩を含まない培地においても生育する細菌である。そして、上述のハロモナス属に属する好塩菌は、通常はpH5〜12程度の培地にて生育する。
【0024】
上述のハロモナス属に属する好塩菌として、例えば、ハロモナス・エスピー(Halomonas sp.)KM−1株が挙げられる。ハロモナス・エスピーKM−1株は、平成19年7月10日付で、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305−8566茨城県つくば市東1−1−1中央第6)に受託番号FERM P−21316として寄託されている。また、この菌株は、現在国際寄託に移管されており、その受託番号はFERM BP−10995である。当該ハロモナス・エスピーKM−1株の16S rRNA遺伝子は、DDBJにAccession Number AB477015として登録されている。
【0025】
また、上述したようなハロモナス属に属する好塩菌の生育特性等に鑑みて、本発明に係る製造方法において用いる好塩菌として、ハロモナス・エスピーKM−1株以外に、ハロモナス・パンテラリエンシス(Halomonas pantelleriensis:ATCC 700273)、ハロモナス・カンピサリス(Halomonas campisalis:ATCC 700597)等も挙げることができる。
【0026】
さらに、16SリボゾームRNA配列による分析から、上述のハロモナス属に属する好塩菌に限らず、ハロモナス・ニトリトフィルス、ハロモナス・アリメンタリア等も、本発明に係る製造方法にて用いるハロモナス属に属する好塩菌として使用してもよい。
【0027】
なお、上述したハロモナス属に属する好塩菌には、遺伝子が導入されていてもよい。導入される遺伝子は、本発明に係る製造方法において、3HB又はその塩の生産効率等を向上させる機能を発現させるものであれば特に限定されない。例えば、PHBの発現量を増大させる遺伝子、PHBの該菌体内への蓄積を上昇させる機能を発現させる遺伝子;3HB又はその塩を培地にて生産する機能を増大させる遺伝子;3HB又はその塩の産生量を増大させる遺伝子;PHBを分解する遺伝子等が挙げられる。組換えDNAの当該菌体への導入方法及びこれによる形質転換方法としては、一般的な各種方法を採用できる。
【0028】
<B:培地>
工程1にて用いる培地は、無機塩と及び有機炭素源を含有する。培地のpHは特に限定されないが、上述した好塩菌の生育条件を満たすpHであることが好ましく、具体的にはpH5〜12程度にすればよい。より好ましくはpH8.8〜12の培地である。アルカリ性の培地を用いれば、他の菌のコンタミネーションをより効果的に防止することができ、また分泌された3HBがクロトン酸へ変化するのを抑制するので好ましい。
【0029】
工程1にて用いる培地に配合する無機塩は、特に限定されることは無く、例えばリン酸塩、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、マンガン、鉄、亜鉛、銅、コバルト等の金属塩が挙げられる。
【0030】
例えば、ナトリウムを無機塩として用いる場合は、NaCl、NaNO
3、NaHCO
3、Na
2CO
3等を用いればよい。
【0031】
これらの無機塩は、上述の好塩菌にとって窒素源やリン源となるような化合物を用いることが好ましい。
【0032】
窒素源は、硝酸塩、亜硝酸塩、尿素、アンモニウム塩等を用いればよく、特に限定はされないが、例えばNaNO
3、NaNO
2、NH
4Cl等の化合物を用いればよい。
【0033】
窒素源の使用量は、菌体の生育に影響を及ぼすことなく、本発明の3HB又はその塩の生産目的が達成される範囲において適宜設定すればよく、具体的には、培養初期の培地100ml当たり通常であれば硝酸塩として500mg程度以上とすればよく、より好ましくは1000mg程度以上、更に好ましくは1250mg程度以上である。
【0034】
リン源は、リン酸塩、リン酸一水素塩、リン酸二水素塩等を用いればよく、特に限定はされないが、例えばK
2HPO
4、KH
2PO
4等の化合物を用いればよい。
【0035】
リン源の使用量も、上記の窒素源の使用量と同様の観点から適宜設定すればよく、具体的には、リン酸二水素塩として培地100ml当たり通常は50〜400mg程度とすればよく、より好ましくは100〜200mg程度である。
【0036】
これらの無機塩は単一で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
その他の化合物等も含めた無機塩は、総量で通常は0.1〜2.5M程度となる濃度で用いればよく、好ましくは0.2〜1.0M程度、より好ましくは0.2〜0.5M程度である。
【0038】
工程1にて用いる培地に配合する有機炭素源として二糖類を用いる。二糖類は、特に限定はされないが、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、ツラノース、セロビオース等が挙げられる。これらの糖類濃度は、3HB又はその塩の生産量を確保するために、20g/L以上、を維持することが好ましく、低い浸透圧を維持するために0.88mol/L以下、さらに好ましくは、0.58mol/L以下であることが好ましい。
【0039】
本発明に係る製造方法では、塩濃度が比較的高い条件の培地で、ハロモナス属に属する好塩菌を培養するので、他の菌体の混入、増殖の恐れ等がほとんどない。従って、上述の培地に対して滅菌処理等を行っても行わなくともよく、且つ、簡便な設備で培養することも可能である。
【0040】
<C:培養方法>
工程1における上述のハロモナス属に属する好塩菌の培養は、好気培養を採用する。工程1における好気培養は、当該菌体が増殖し、且つ、該菌体内にPHBが著量蓄積するような条件となる好気培養である限り、特に限定はされない。
【0041】
具体的には、5ml程度の培地に当該好塩菌を植菌し、通常30〜37℃程度、攪拌速度は120〜180rpm程度で1晩振盪しながら前培養を行う。続いて前培養して得られた菌体を、三角フラスコ、発酵槽、ジャーファーメンター等に入った培地中に100倍程度に希釈し本培養する。
【0042】
本培養は通常20〜45℃程度で可能であるが、30〜37℃程度で行うことが好ましい。この際の攪拌速度は通常は150〜250rpm程度とすればよい。なお、培養環境は培地が空気に触れる環境とすればよく、培地表面に積極的に酸素を含む気体を吹き付ける方法や培地中に係る気体を吹き込む方法を採用してもよい。
【0043】
工程1では、このような培養条件でハロモナス属に属する好塩菌を好気培養すればよい。具体的に好気培養時の培地中の溶存酸素濃度は、特に限定はされないが、通常は2mg/L以上とすればよく、5mg/L以上が好ましい。
【0044】
工程1での培養方法は、回分培養、半回分培養、連続培養等の培養方法が挙げられ、特に限定はされないが、3HB又はその塩を効率よく製造するには、本発明に係る方法によって用いる好塩菌が他の菌が混入する可能性が極めて低いことを考慮して長期の連続培養も可能である。そして、培養環境も特に限定はされず、非滅菌環境下であっても滅菌環境下であってもよい。
【0045】
工程2について
本発明に係る製造方法における工程2は、培地のpH7.0以上に調整及び維持し、培地中に3−ヒロドキシ酪酸又はその塩を産生させる工程である。
【0046】
培養を継続した場合、有機酸の精製により、培地のpHは下がる傾向がある。この様な培地のpHは適宜公知のpH測定用装置又はこれが付随したジャーファーメンター等によって確認することができる。
【0047】
用語「調整及び維持」とは、上述のようなpHの確認を行いながら、pH調整剤を添加してpH7.0以上の状態を保つことを意味する。
【0048】
工程2にて調整及び維持するpHは好ましくは7.5以上、より好ましくは8.0以上、さらに好ましくは8.5以上である。
【0049】
ハロモナス属に属する好塩菌は、通常は中程度の高塩濃度且つアルカリ条件下で培養することが可能であるため、夾雑菌の混入・繁殖(コンタミネーション)が少ない。しかしながら、一部乳酸菌には、中程度の高塩濃度且つpH8.4以下の環境下において増殖可能な菌も存在し、このような菌が本発明の培養系にコンタミネーションすると、ハロモナス属に属する好塩菌が分泌した3ーヒドロキシ酪酸又はその塩を乳酸発酵の基質として消費してしまい、更には培地のpHの一段の低下を生じさせる恐れがある。
【0050】
このため、本発明において培地を滅菌せず及び/又は非滅菌環境下でハロモナス属に属する好塩菌を培養して、3HB又はその塩を製造するためには、工程2における培地のpHの調整及び維持をpH8.5程度以上とすることが好ましい。
【0051】
pH調整剤としては、特に限定はされないが、例えば水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩等が挙げられる。より具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素マグネシウム、アンモニア水等が挙げられ、中でも弱アルカリ性を示すものが好ましく、炭酸水素ナトリウム、アンモニア水が最も好ましい。
【0052】
工程2において、「培地中に3HBを生産させる」とは、工程1〜2にて培養して得られたハロモナス属に属する好塩菌体内から、その培地中に3HBを分泌させることを意味する。
【0053】
そして、「培地中に3HBの塩を生産する」とは、工程1及び2にて培養して得られたハロモナス属に属する好塩菌体内から、その培地中に3HBの塩を分泌させることのみならず、工程1及び2にて培養して得られたハロモナス属に属する好塩菌体内から培地中に分泌された3HBが、培地中に存在する陽イオン成分と反応して、3HBの塩を形成することも意味する。
【0054】
陽イオン成分とは、培地中に含まれているものであれば、特に限定はされないが、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、コバルトイオン、亜鉛イオン、鉄イオン、銅イオン、モリブデンイオン、アンモニウムイオン、マンガンイオン等が挙げられる。
【0055】
pHの調製時期は、菌体内でのPHBの蓄積量がほぼ一定となる時期であれば特に限定されないが、例えば、工程1によって得られるハロモナス属に属する好塩菌体中のPHBの蓄積量が乾燥菌体100重量部当たり15重量部程度以上となる時期等が挙げられる。
【0056】
また、工程1によって得られるハロモナス属に属する好塩菌体の乾燥菌体重量が培地1L当たり30重量部程度以上となる時期であってもよい。
【0057】
具体的なハロモナス属に属する好塩菌体中のPHBの蓄積量は、下記の実施例に示す方法を採用して測定する。
【0058】
工程3について
本発明に係る製造方法における工程3は、上記工程2で得られた培地中から、3HB又はその塩を回収する工程である。ここで、回収とは培地中に3HB又はその塩が存在している時に上述の工程2の培養を停止し、3HB又はその塩を含む培地と、上記好塩菌体を分離すればよい。
【0059】
具体的な分離の手法は、遠心操作、濾過等の公知の固液分離の操作を採用すればよい。また、培養の停止方法も特に限定はされず、例えば、上記工程2によって得られるハロモナス属に属する好塩菌を加熱、酸処理等の方法によって殺菌する方法、遠心操作、濾過等の公知の固液分離手段を用いて培地と前記好塩菌体を分離する方法等が挙げられる。
【0060】
培地中に3HB又はその塩が含まれたまま培養をし続けて、特に培養条件が好気的になればなるほど、ハロモナス属に属する好塩菌体から培地中に分泌された3HB又はその塩が、当該好塩菌体内に再度取り込まれて利用される傾向となり、培地中の3HB又はその塩が減少し、最終的には培地からこれらが消失してしまう。
【0061】
培地中の3HB又はその塩の存在を確認する方法は、菌種、培地成分、培養条件等により変わり得るものであるので、これらの要素を考慮して適宜決定する。例えば、継時的に培地を採取し、これをキャピラリー電気泳動等の分析方法を供して、培養を停止する時間を決定することもできる。
【0062】
なお、回収される3HBの塩は、培地中に含まれる無機塩に基づくナトリウム、カルシウム等のアルカリ金属;アルカリ土類金属陽イオン等と反応したアルカリ金属塩として回収される。従って、3HBを製造するには、回収した培地を塩析等の常法に供すればよい。
【0063】
また、回収した培地を適切なカラムを用いたカラムクロマトグラフィーによって精製工程に供してもよい。これら以外の他の方法として、回収した培地のpHを適宜変更して、所望の3HB又はその塩のいずれかを精製工程に供してもよい。また、回収した培地に低級アルコール類を添加し、エステル化反応を経て、3HBエステルとして蒸留等で精製することも可能である。
【0064】
本発明に係る製造方法には、上記工程1の後であって及び工程2の前に、培地中に、窒素源、金属塩、及びホウ酸塩からなる群より選択される少なくとも1つを添加する工程を含んでいてもよい。
【0065】
すなわち、本発明に係る製造方法には、以下に示す工程(A)〜(D)を含む方法も包含される。
(A)ハロモナス属に属する好塩菌を、有機炭素源及び無機塩を含有する培地中で好気培養する工程A、
(B)窒素源、金属塩、及びホウ酸塩からなる群より選択される少なくとも1つを添加する工程B、
(C)培地のpH7以上に調整及び維持し、培地中に3−ヒロドキシ酪酸又はその塩を産生させる工程C、及び
(D)工程Cで得られる培地中から、3HB又はその塩を回収する工程D。
【0066】
工程Aは上記工程1と、工程Cは上記工程2と、そして工程Dは上記工程3と同様とすることができる。
【0067】
工程Bは、窒素源、金属塩、及びホウ酸塩からなる群より選択される少なくとも1つを添加する工程である。
【0068】
すなわち、上記工程Bでは、窒素源のみを添加してもよいし、更に金属塩及び/又はホウ酸塩を添加してもよい。窒素源並びに金属塩及び/又はホウ酸塩の添加時期は、同一であっても異なっていてもよく、特に限定はされないが、異なる場合は窒素源の添加の後に金属塩及び/又はホウ酸塩を添加することが好ましい。
【0069】
なお、金属塩及びホウ酸塩を添加する際の添加時期は、同一であっても、異なっていてもよく、特に限定はされない。
【0070】
窒素源は、上記工程1(工程A)において詳述した通りとすればよい。
【0071】
金属塩は、特に限定はされないが、例えば亜鉛塩、モリブデン塩、マンガン塩、銅塩、コバルト塩等が挙げられる。これらの金属塩は適宜組み合わせて添加すればよく、特に限定はされないが、少なくともモリブデン塩を含む組み合わせとすることが好ましい。
【0072】
具体的にはモリブデン塩、亜鉛塩、マンガン塩、銅塩、及びコバルト塩を含む金属塩;モリブデン塩、銅塩を含む金属塩;モリブデン塩、亜鉛塩を含む金属塩;モリブデン塩、マンガン塩を含む金属塩;モリブデン塩、コバルト塩を含む金属塩等の組み合わせが挙げられる。
【0073】
ホウ酸塩は、特に限定はされないが例えばホウ酸(H
3BO
3)、メタホウ酸(HBO
2)n、過ホウ酸(HBO
3)、次ホウ酸(H
4B
2O
4)、ボロン酸(H
3BO
2)、ボリン酸(H
3BO)等が挙げられる。
【0074】
工程3における、窒素源、金属塩、及びホウ酸塩からなる群より選択される少なくとも1つを添加する時期は、特に限定はされないが、例えば培地のOD600の値が50以上となる時期にすればよい。OD600の測定方法は、市販の分光光度計を用いて測定する。
【0075】
窒素源、金属塩、及びホウ酸塩からなる群より選択される少なくとも1つを添加する時期は特に限定はされないが、工程Aによって得られるハロモナス属に属する好塩菌体中のPHBの蓄積量が乾燥菌体100重量部当たり5重量部以上となる時期等が挙げられる。
【0076】
また、工程Aによって得られるハロモナス属に属する好塩菌体の乾燥菌体重量が培地1L当たり15重量部以上となる時期であってもよい。
【0077】
工程Bにおける窒素源の添加量は、特に限定はされないが、通常は100重量部の培地に対して、硝酸ナトリウムとして0.1〜0.5重量部程度、尿素として0.07〜0.35重量部程度とすればよい。また、工程Bにおける金属塩の添加量は、特に限定はされないが、通常は100重量部の培地に対して0.02〜0.250重量部程度とすればよい。そして、工程Bにおけるホウ酸塩の添加量も、特に限定はされないが、通常は100重量部の培地に対して0.143〜0.286重量部程度とすればよい。なお、金属塩及びホウ酸塩の添加量の合計は、100重量部の培地に対して通常は0.02〜0.286重量部程度とすればよい。
【0078】
窒素源、金属塩、及びホウ酸塩からなる群より選択される、少なくとも1つを添加する回数は、特に限定はされないが、通常は1〜5回程度とすればよい。複数回添加する場合、上述の培養条件下であれば、3〜24時間の間隔を空ければよい。
【0079】
なお、上述した窒素源、金属塩、及びホウ酸塩からなる群より選択される少なくとも1つを添加した後、引き続いて行う工程Cまでの所定の時間は、上記工程1(工程A)に示す培養条件と同様の培養条件にて培養を行えばよい。
【0080】
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明する。なお、本発明が実施例に限定されないことは言うまでも無い。
【実施例】
【0081】
本実施例では、ハロモナス属に属する好塩菌を用いた3HB又はその塩を製造する方法について具体的に詳述する。
【0082】
表1に示すSOT改5(Spirulina platensis Medium改5)を基本にした培地を用いた。この培地は、Spirulina platensis Medium(国立環境研究所のHP)であり、NaHCO
3及びNa
2CO
3の量を調整し、窒素源のNaNO
3を5倍に、リン源のK
2HPO
4を4倍に増加させて調整した。上記の培地を調整した後のpHは9.4±0.1であり、オートクレーブ等の滅菌操作は行わずにそのまま用いた。
【0083】
培養の際には、上述の培地に対して各種有機炭素源を適宜追加して用いた。具体的な有機炭素源として、それぞれ培地中での終濃度が20%もしくは25%となるスクロースを使用した。
【0084】
【表1】
【0085】
<3HB又はその塩の測定>
本実施例における培地にて生産される3HB又はその塩の測定は、〔Monteil−Rivera Fら.2007 Jun 22;1154(1−2):34−41 J.Chromatogr.A〕に記載されたポリヒドロキシアルカノエート(PHAs)分析の手法を応用した以下の方法にて行った。
【0086】
培地を遠心分離して上清のみ採取し、50μLを乾燥させた。この上清乾燥物に、3vol%のH
2SO
4を含むメタノール0.50mlを加え105℃で1時間加熱し、3HBまたはその塩をすべて3HBメチルに変換した。
【0087】
その後、室温まで冷却し、次いでクロロホルム0.50ml及び蒸留水0.25mlを加えて激しく攪拌した後、1分間遠心分離工程に供して1μlのクロロホルム層サンプルとして分取した。そして、ガスクロマトグラフ装置を用いて、サンプル中の3HBの量を測定した。
【0088】
一方で、3HBの標品を上清乾燥物と同様の処理等を行い、これを基準として培地1L当たりの3HB蓄積率(3HB(g)/上清液(L))を求めた。また、「F−キット D−3HB」(株式会社J.K.インターナショナル)のキットでは、D体のみが検出される。このキットでの測定値と、ガスクロマトグラフ装置での測定値が一致したことから、分泌された3HBはほぼD体であることが確認された。
【0089】
<PHB蓄積率測定>
本実施例における菌体内に蓄積されたPHBの蓄積量の測定は、〔Bioresource Technology Volume 102,Issue 12,June 2011,Pages 6766−6768 Charles U.Ugwu,Yutaka Tokiwa and Toshio Ichiba〕に記載の手法を適宜採用した以下に示す方法で行った。
【0090】
上記培養した培地を遠心分離して菌体のみ採取し、蒸留水で数回洗浄したのち乾燥させた。この乾燥菌体1〜3mgに、3vol%のH
2SO
4を含むメタノール0.50mlを加え105℃で3時間加熱した。その後、室温まで冷却した後、0.50mlのクロロホルム及び0.25mlの蒸留水を加えて激しく攪拌した。
【0091】
その後、1分間遠心分離工程に供して1μlのクロロホルム層サンプルとして分取したそして、ガスクロマトグラフ装置を用いて、サンプル中のPHBの量を測定した。
【0092】
一方で、PHBの標品を乾燥菌体と同様の処理等を行い、これを基準として乾燥菌体当たりのPHB蓄積率(PHB(g)/乾燥菌体重量(g))を求めた。
【0093】
<ハロモナス属に属する好塩菌のプレ培養>
ハロモナス属に属する好塩菌(ハロモナス・エスピーKM−1株を、プレート培養より、16.5mm径の試験管に5mlの上記SOT5改培地に炭素源として上述のグルコースではなく、1w/v%グルコースを加えて、37℃で1晩振盪培養した。
【0094】
<ハロモナス属に属する好塩菌の培養、サンプルの回収等>
製造例1
プレ培養した各種ハロモナス属に属する好塩菌体0.2mlを、100ml容の三角フラスコに入れた上記SOT改5培地1500mlに混合して植菌し、シリコセンをした。これを、33℃で撹拌速度を200rpmとなる条件にて振盪培養し、24時間後から、およそ12時間おきに培地を0.5mlずつ回収して、上清中の3HB又はその塩の量を測定した。
【0095】
有機炭素源は20重量%のグルコース(比較例)、スクロース(実施例1)となるように培地に添加した。なお、グルコースを用いた場合の培地の糖類mol濃度は、1.11mol/Lであり、培地の浸透圧は、1.11OSmolであり、スクロースを用いた場合は、糖類mol濃度は、0.58mol/Lであり、培地の浸透圧は、0.58OSmolであった。
【0096】
培養当初は、撹拌速度を200rpmと好気的な条件で培養した。培地は、サンプリング後、再度シリコセンをし、33℃で振盪培養を継続し、回分培養した。
【0097】
図1に示す結果から、有機炭素源としてスクロースを用いた実施例1では、グルコースを用いた比較例に比べて、急速なPHBを含有する菌体の増加が見られた。また、
図1において、各糖類の消費速度もスクロースを用いたものの方が早いことが分かった。
【0098】
最適浸透圧下で培養を行うとより早くPHBを蓄積することがわかった。蓄積したPHBは全量3HBへと分解されることより、3HB生産速度が向上することが期待される。
また、菌体増殖及び、PHB蓄積が好適となる浸透圧0.88OSmol以下を保ちながら、糖類濃度を20g/L以上とすることで、好適な培養によるPHB生産が実現できることも分かり、このような場合、二糖類としてスクロースが好適に用いられることが明らかになった。